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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】コウスイハッカ発酵液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20230926BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230926BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q1/00
A61Q5/00
A61Q19/00
C12N1/16 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019068967
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164490
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592042750
【氏名又は名称】株式会社アルビオン
(73)【特許権者】
【識別番号】593061905
【氏名又は名称】株式会社 秋田今野商店
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岩竹 美和
(72)【発明者】
【氏名】桑原 浩誠
(72)【発明者】
【氏名】染谷 高士
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 薫
(72)【発明者】
【氏名】川野辺 弘子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昭仁
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150269(JP,A)
【文献】特開平06-199647(JP,A)
【文献】特開2012-092100(JP,A)
【文献】特開2010-043088(JP,A)
【文献】特開2011-231030(JP,A)
【文献】特開2019-034899(JP,A)
【文献】特開昭54-092632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
C12N 1/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コウスイハッカ100質量部に対して、1×10 個/mL~1×10 個/mLのアスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)を5質量部~100質量部接種し、20℃~40℃にて80時間~210時間静置培養してコウスイハッカ種麹を得る種麹調製工程と、
コウスイハッカ100質量部に対して、500質量部~5,000質量部の水を添加した後、1×10 個/mL~1×10 個/mLの前記コウスイハッカ種麹を接種し、20℃~40℃にて10時間~40時間培養して発酵させてコウスイハッカ発酵液を得る発酵工程と、
を含むことを特徴とするコウスイハッカ発酵液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コウスイハッカ発酵液及びその製造方法、並びに前記コウスイハッカ発酵液を含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
植物等の天然物由来の成分には数多くの成分が含まれており、皮膚に対して、化学的に合成された成分では得られないような有用な機能を発揮することが知られていることから、近年、多くの化粧料の有効成分として配合されている。また、化粧料には、美白効果、保水性、保湿性等の機能性に加え、塗布時の肌なじみのよさ等の使用感のよさも強く求められている。
【0003】
植物由来の化粧料としては、例えば、美白や老化防止などの効果を有することが知られているアスタキサンチン類と、シソ科コウスイハッカ属レモンバーム植物又はその抽出物を含有する化粧料が知られている(特許文献1参照)。この提案の化粧料は、前記シソ科コウスイハッカ属レモンバーム植物又はその抽出物が、前記アスタキサンチン類を安定化させることができ、アスタキサンチン類の前記効果を高めることができるものである。
しかしながら、この提案の化粧料は、肌なじみや保水性の点において、十分に満足できるものではないという問題があった。
【0004】
一方、麹菌は、デンプンをブドウ糖に分解するアミラーゼ、タンパク質をアミノ酸に分解するプロテアーゼ、脂肪を分解するリパーゼなどの酵素が豊富に含まれていることが知られており、古来より、清酒、味噌、醤油、鰹節等の発酵食品の製造に利用されている。このような麹菌を利用して、植物を発酵させた発酵物を、美白作用、皮膚老化防止作用などを有する化粧料とすることが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
しかしながら、これらの提案の化粧料は、肌なじみや保水性の点において、十分に満足できるものではないという問題があった。また、従来の発酵物の製造方法は、製造が困難であり、更に高価な製法であった。
【0005】
したがって、保水性等の機能性だけでなく、肌なじみ等の使用感にも優れ、植物自体の有する作用を害することなく、安全性の高い天然物系のものである発酵液、及び前記発酵液を含有する化粧料、並びに、前記発酵液の容易かつ安価な製造方法は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-039666号公報
【文献】特開2018-193336号公報
【文献】特開2010-043088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、肌なじみのよさ及び保水性に優れ、コウスイハッカ自体の有する作用を害することなく、安全性の高い天然物系のものであるコウスイハッカ発酵液、及び前記コウスイハッカ発酵液を含有する化粧料、並びに、前記コウスイハッカ発酵液の容易かつ安価な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> コウスイハッカの麹菌による発酵液であることを特徴とするコウスイハッカ発酵液である。
<2> コウスイハッカを、麹菌を用いて発酵させて発酵液を得ることを含むことを特徴とするコウスイハッカ発酵液の製造方法である。
<3> コウスイハッカに麹菌を接種してコウスイハッカ種麹を得る種麹調製工程と、
コウスイハッカに前記コウスイハッカ種麹を接種してコウスイハッカ発酵液を得る発酵工程と、を含む前記<2>に記載のコウスイハッカ発酵液の製造方法である。
<4> 前記<1>に記載のコウスイハッカ発酵液を含有することを特徴とする化粧料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、肌なじみのよさ及び保水性に優れ、コウスイハッカ自体の有する作用を害することなく、安全性の高い天然物系のものであるコウスイハッカ発酵液、及び前記コウスイハッカ発酵液を含有する化粧料、並びに、前記コウスイハッカ発酵液の容易かつ安価な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、実施例1のコウスイハッカ発酵液1の接触角の測定時の液滴の一例を示す写真である。
図1B図1Bは、実施例2のコウスイハッカ発酵液2の接触角の測定時の液滴の一例を示す写真である。
図1C図1Cは、比較例1のコウスイハッカ抽出液の接触角の測定時の液滴の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(コウスイハッカ発酵液及びコウスイハッカ発酵液の製造方法)
本発明のコウスイハッカ発酵液(以下、「発酵液」と略記することがある)は、コウスイハッカの麹菌による発酵液である。本発明のコウスイハッカ発酵液は、本発明のコウスイハッカ発酵液の製造方法により好適に得ることができる。
本発明のコウスイハッカ発酵液の製造方法は、コウスイハッカを、麹菌を用いて発酵させて発酵液を得ることを少なくとも含む。
以下、本発明のコウスイハッカ発酵液の製造方法について詳細に説明し、併せて、本発明のコウスイハッカ発酵液についても説明する。
【0012】
<コウスイハッカ発酵液の製造方法>
前記コウスイハッカ発酵液の製造方法は、コウスイハッカを、麹菌を用いて発酵させて発酵液を得ることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、発酵工程を少なくとも含み、更に種麹調製工程を含むことが好ましく、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0013】
<<発酵工程>>
前記発酵工程は、コウスイハッカを、麹菌を用いて発酵させて発酵液を得る工程である。
【0014】
-コウスイハッカ-
前記発酵原料として使用するコウスイハッカ(Melissa officinalis Linne)は、シソ科(Labiatae)コウスイハッカ(Melissa)属に属する多年生草本である。ハーブの一種であり、古代より食用や薬用の原料として利用されている。別名として、レモンバーム、セイヨウヤマハッカなどがある。原産地は、南ヨーロッパであるが、日本国内においても自生又は栽培されており、これらの地域から容易に入手可能である。
前記コウスイハッカの入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、自然界から採取してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0015】
前記発酵原料として使用する前記コウスイハッカの使用部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、花、蕾、果実、果皮、種子、種皮、茎、葉、枝、枝葉等の地上部;根、根茎等の地下部などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記コウスイハッカの使用部位としては、地上部が好ましい。
【0016】
前記発酵原料として使用する前記コウスイハッカの大きさとしては、前記麹菌の培養が可能な大きさであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、採取したそのままの大きさ、切断した所望の大きさ、微粉(パウダー)化された大きさなどが挙げられる。
【0017】
前記発酵原料として使用する前記コウスイハッカの状態としては、前記麹菌の培養が可能な状態であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、採取したそのままの状態、乾燥した状態、粉砕した状態、搾汁の状態、抽出物の状態などが挙げられる。これらの中でも、前記麹菌が作用しやすい点で、採取したそのままの状態、粉砕した状態、搾汁の状態、抽出物の状態が好ましく、採取したそのままの状態、粉砕した状態がより好ましい。
【0018】
前記コウスイハッカを乾燥した状態にする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天日で乾燥する方法、通常使用される乾燥機を用いて乾燥する方法などが挙げられる。
【0019】
前記コウスイハッカを前記粉砕した状態にする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ミキサー、シュガーミル、パワーミル、ジェットミル、衝撃式粉砕機等により粉砕する方法などが挙げられる。
【0020】
前記コウスイハッカを前記搾汁の状態にする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、圧搾などが挙げられる。
【0021】
前記コウスイハッカを前記抽出物の状態にする方法としては、特に制限はなく、植物の抽出に一般に用いられる方法を、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
-麹菌-
前記麹菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ソーヤ(Aspergillus sojae)等の黄麹菌;アスペルギルス ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)等の黒麹菌;アスペルギルス カワウチ(Aspergillus kawauchii)等の白麹菌;これらの変異株などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記麹菌としては、アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)が、肌なじみのよさ及び保水性に優れる点で好ましい。
前記麹菌の入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、自然界から採取してもよいし、市販品を用いてもよい。また、前記麹菌として、米などを原料とした種麹を使用してもよく、後述する種麹調製工程で得られるコウスイハッカ種麹を使用してもよく、培地(寒天培地、液体培地など)で培養した麹菌を使用してもよい。これらの中でも、より肌なじみに優れる発酵液を効率よく容易に得ることができる点で、前記コウスイハッカ種麹を用いることが好ましい。
【0023】
前記発酵原料として使用する前記コウスイハッカへの、前記麹菌の接種量としては、前記コウスイハッカを発酵することができる量である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記発酵原料が液体の状態である場合には、1×10個/mL~1×10個/mLが好ましく、前記発酵原料が固体の状態である場合には、1×10個/g~1×10個/gが好ましい。
【0024】
前記コウスイハッカに前記麹菌を接種する際、水を添加することが好ましい。前記水の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記コウスイハッカ100質量部に対して、500質量部~5,000質量部添加することが好ましく、1,000質量部~4,000質量部添加することがより好ましく、1,500質量部~3,000質量部添加することが特に好ましい。
【0025】
前記発酵(培養)の温度としては、前記麹菌による発酵ができる温度の範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃~40℃が好ましく、25℃~35℃がより好ましい。前記発酵の温度が、20℃未満であると、前記コウスイハッカを十分に発酵させることができず、肌なじみのよさや保水性が不十分となることがある。なお、50℃を超えると、前記麹菌が増殖できないことがある。
【0026】
前記発酵(培養)の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10時間~40時間が好ましく、20時間~30時間がより好ましい。前記発酵の時間が、10時間未満であると、前記コウスイハッカを十分に発酵させることができず、肌なじみのよさや保水性が不十分となることがある。
【0027】
前記発酵(培養)を停止する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱する方法などが挙げられる。
前記発酵を停止するための加熱温度としては、前記麹菌が生育できない温度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、100℃~130℃が特に好ましい。前記加熱温度が、50℃未満であると、前記発酵を停止できないことがあり、130℃を超えると、前記コウスイハッカ発酵液中のコウスイハッカ自体の有する作用を害することがある。
前記発酵を停止するための加熱時間としては、前記麹菌が生育できない状態にすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5分間以上が好ましく、10分間~20分間がより好ましい。前記加熱時間が、5分間未満であると、前記発酵を停止できないことがあり、20分間を超えると、前記コウスイハッカ発酵液中のコウスイハッカ自体の有する作用を害することがある。
【0028】
なお、前記発酵を停止した後の前記コウスイハッカ発酵液は、冷却されることが好ましい。冷却する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、常温、冷蔵庫などに静置する方法などが挙げられる。
【0029】
前記発酵工程において、前記発酵を行う回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1回であってもよく、複数回であってもよい。
【0030】
前記発酵工程を複数回行う場合、前記麹菌は、初回のみ接種してもよく、数回のみ接種してもよく、全ての回で接種してもよいが、初回のみに接種することが好ましい。
また、前記発酵工程を複数回行う場合、発酵温度及び発酵時間は、それぞれ異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0031】
<<種麹調製工程>>
前記種麹調製工程は、コウスイハッカを種麹原料として使用し、該種麹原料に麹菌を接種してコウスイハッカ種麹を得る工程である。前記コウスイハッカ発酵液の製造方法が、前記種麹調製工程を含むことで、より肌なじみに優れるコウスイハッカ発酵液をより効率よく容易に得ることができる点で有利である。
【0032】
-コウスイハッカ-
前記種麹調製工程において種麹原料として使用する前記コウスイハッカは、前記<<発酵工程>>において記載したものと同様のものを使用することができ、前記コウスイハッカの使用部位、大きさ、状態などの態様についても同様である。
【0033】
-麹菌-
前記種麹調製工程において使用する前記麹菌としては、前記<<発酵工程>>において記載したものと同様のものを使用することができる。
【0034】
前記種麹原料として使用する前記コウスイハッカへの、前記麹菌の接種量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記コウスイハッカ100質量部に対して、滅菌水に懸濁した麹菌(1×10個/mL~1×10個/mL)を5質量部~100質量部接種することが好ましく、10質量部~50質量部接種することがより好ましく、20質量部~30質量部接種することが特に好ましい。前記コウスイハッカ100質量部に対する前記麹菌の接種量が、5質量部未満であると、前記コウスイハッカに十分な量の胞子を着生できないことがあり、100質量部を超えると、水分過多で異常繁殖することがある。
【0035】
前記種麹原料として使用する前記コウスイハッカに前記麹菌を接種する際、水を添加することが好ましい。前記水の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記コウスイハッカ100質量部に対して、10質量部~250質量部添加することが好ましく、20質量部~200質量部添加することがより好ましく、30質量部~150質量部添加することが特に好ましい。前記コウスイハッカ100質量部に対する前記水の添加量が、10質量部未満であると、前記コウスイハッカに十分な量の胞子を着生できないことがある。
【0036】
前記培養の温度としては、前記麹菌が生育できる温度の範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃~40℃が好ましく、25℃~35℃がより好ましい。前記培養の温度が、20℃未満であると、前記コウスイハッカに十分な量の胞子を着生できないことがある。なお、50℃を超えると、前記麹菌が増殖できないことがある。
【0037】
前記培養の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80時間~210時間が好ましく、100時間~190時間がより好ましく、120時間~170時間が特に好ましい。前記培養の時間が、80時間未満であると、前記コウスイハッカに十分な量の胞子を着生できないことがあり、210時間を超えると、胞子の発芽率が落ちることがある。
【0038】
-コウスイハッカ種麹-
上記の方法で得られたコウスイハッカ種麹は、コウスイハッカに麹菌の胞子が十分に着生されたものであり、これを前記発酵工程で使用することで、より肌なじみに優れるコウスイハッカ発酵液をより効率よく容易に得ることができる。
【0039】
<<その他の工程>>
前記コウスイハッカ発酵液の製造方法における前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、滅菌工程、精製工程、希釈工程、濃縮工程、乾燥工程などが挙げられる。
【0040】
-滅菌工程-
前記滅菌工程は、前記発酵工程における前記発酵原料として使用する前記コウスイハッカ、前記種麹調製工程における前記種麹原料として使用する前記コウスイハッカなどを、前記麹菌の接種前に滅菌する工程である。
また、発酵工程を複数回行う場合に、次回の発酵の前に、前回の発酵工程で得られた発酵液を、滅菌することが好ましい。
前記滅菌工程は、前記発酵工程において発酵を停止するのと同時に行ってもよい。
前記コウスイハッカや前記発酵液を滅菌する手段としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0041】
-精製工程-
前記精製工程は、前記発酵工程で得られたコウスイハッカ発酵液を精製する工程である。
前記精製工程では、前記コウスイハッカ発酵液中の固形分(例えば、前記コウスイハッカの植物体、麹菌の菌体、オリなど)の除去を行う。
前記除去の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ろ過などが挙げられる。
前記ろ過の方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
-希釈工程、濃縮工程-
前記希釈工程及び前記濃縮工程は、前記発酵工程、及び前記精製工程のいずれかで得られたコウスイハッカ発酵液を所望の濃度に調製する工程である。
前記希釈の手段としては、特に制限はなく、公知の方法の中から、目的に応じて適宜選択することができる。
前記濃縮の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、減圧濃縮などが挙げられる。
【0043】
-乾燥工程-
前記乾燥工程は、前記発酵工程、前記精製工程、前記希釈工程、及び前記濃縮工程のいずれかで得られたコウスイハッカ発酵液を乾燥する工程である。
前記乾燥の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥などが挙げられる。
【0044】
<コウスイハッカ発酵液>
本発明のコウスイハッカ発酵液は、コウスイハッカの麹菌による発酵液である。
前記コウスイハッカ発酵液は、コウスイハッカの麹菌による発酵液である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、肌なじみに優れる点で、接触角が85°以下であるコウスイハッカ発酵液が好ましく、接触角が79°以下であるコウスイハッカ発酵液がより好ましい。
【0045】
本明細書において、接触角とは、動的接触角・表面張力測定装置(FTA1000 Falcon、First Ten Angstroms社製)を用いて、前記装置のサンプルステージに測定試料を3μL滴下し、温度22℃、相対湿度20%の条件下で、液滴法にて測定を行い、1,000msの接触角θ(°)をθ/2法で求めた値を表す。
前記接触角は、「濡れ」を表す指標として使用されており、「静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で液面と固体面とのなす角(液の内部にある角をとる)をいう」(理化学辞典 第4版、株式会社岩波書店参照)と定義されている。前記接触角は、液体分子間の凝集力と固体壁間の付着力の大小関係によってきまり、液体が固体を濡らす(付着力が大きい)場合には鋭角、濡らさないときには鈍角である。したがって、接触角が小さい程、濡れやすい、即ち、肌なじみがよいことを示すため、前記コウスイハッカ発酵液の接触角の下限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0046】
前記コウスイハッカ発酵液は、前記麹菌の菌体を含有したものであってもよく、前記麹菌の菌体を除去したものであってもよいが、前記麹菌の菌体を除去したものであることが好ましい。
【0047】
前記コウスイハッカ発酵液の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記コウスイハッカ発酵液そのものであってもよく、前記コウスイハッカ発酵液の精製物、前記コウスイハッカ発酵液の濃縮物、前記コウスイハッカ発酵液の希釈物などであってもよい。また、前記コウスイハッカ発酵液は、該コウスイハッカ発酵液の乾燥物を再度、水や親水性溶媒等の溶媒に混合又は溶解させたものであってもよい。
【0048】
<用途>
本発明のコウスイハッカ発酵液は、コウスイハッカを麹菌で発酵させて得られるため、肌なじみのよさ及び保水性に優れ、コウスイハッカ自体の有する作用を害することなく、安全性の高い天然物系のものであることから、化粧料、食品、医薬品など分野を問わず幅広く利用可能である。
また、本発明のコウスイハッカ発酵液の製造方法は、コウスイハッカを麹菌で発酵させることにより、容易かつ安価にコウスイハッカ発酵液を製造することができ、本発明のコウスイハッカ発酵液の製造方法として好適に用いることができる。
【0049】
本発明のコウスイハッカ発酵液は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0050】
(化粧料)
本発明の化粧料は、本発明の前記コウスイハッカ発酵液を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0051】
<コウスイハッカ発酵液>
前記化粧料における前記コウスイハッカ発酵液の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記化粧料の全体量に対して、5体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。前記コウスイハッカ発酵液の含有量が、5体積%未満であると、肌なじみのよさや保水性が不十分となることがある。なお、前記コウスイハッカ発酵液の含有量は多いほど好ましく、その上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記化粧料は、前記コウスイハッカ発酵液そのものであってもよい。
【0052】
<その他の成分>
前記化粧料は、更に必要に応じて本発明の目的及び作用効果を損なわない範囲で、化粧料の製造に通常使用される各種主剤、助剤、その他の成分を添加することができる。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、収斂剤、殺菌剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、細胞賦活剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの成分は、前記コウスイハッカ発酵液と併用した場合、相乗的に作用して、通常期待される以上の優れた作用効果をもたらすことがある。
前記化粧料における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
<用途>
前記化粧料の用途としては、特に制限はなく、一般的な化粧料の中から適宜選択することができ、例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、美容液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、ファンデーション、入浴剤、石鹸、ボディシャンプー等の皮膚化粧料;アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、ポマード、シャンプー、リンス等の頭皮頭髪化粧料などが挙げられる。
【0054】
前記化粧料は、前記コウスイハッカ発酵液を、その活性を妨げないように任意の化粧料に配合したものであってもよいし、前記コウスイハッカ発酵液を主成分とした化粧料であってもよい。また、前記化粧料は、前記コウスイハッカ発酵液そのものであってもよい。
【0055】
本発明の化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0056】
本発明の化粧料は、前記コウスイハッカ発酵液を含有するため、皮膚に使用した場合、優れた保水作用及びコウスイハッカ自体の有する作用を発揮する点で有用である。また、本発明の化粧料は、肌なじみのよさに優れる前記コウスイハッカ発酵液を有効成分としており、商品価値が高い。更に、本発明の化粧料は、天然物系のものである、前記コウスイハッカ発酵液を有効成分としたものであり、安全性が高い点でも有用である。
【実施例
【0057】
以下に調製例、製造例、実施例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの調製例、製造例、実施例、及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(調製例1:コウスイハッカ種麹の調製)
麹菌(Aspergillus oryzae、菌株名:AOK1714、株式会社秋田今野商店製)を白金耳で取り、滅菌水50mLに懸濁して麹菌溶液を作製した。前記麹菌溶液の菌数を、トーマ血球計算盤(EKDS製)を用いて算定したところ、1.0×10個/mLであった。
次いで、0.5cm~5cmに切断したコウスイハッカ(株式会社アルビオン製)10gを三角フラスコに入れ、加圧滅菌し、ここに前記麹菌溶液を2mL接種し、30℃で168時間静置培養した。培養終了後、45℃で24時間乾燥し、「コウスイハッカ種麹」を得た。
【0059】
(製造例1:コウスイハッカ発酵液1の製造)
粉砕機(シュガーミル)を用いてコウスイハッカ(株式会社アルビオン製)を粉砕し、2mmのメッシュスクリーンを通過させ、コウスイハッカ粉砕物を得た。このコウスイハッカ粉砕物50gに水を1,000mL添加し、混合した後、前記調製例1で得たコウスイハッカ種麹(菌数:約1.0×10個/mL)を20mL接種した。次いで、25℃にて22時間前培養した。得られた発酵液を、珪藻土を用いてろ過し、「コウスイハッカ発酵液1」を得た。
【0060】
(製造例2:コウスイハッカ発酵液2の製造)
前記製造例1において、調製例1で得たコウスイハッカ種麹を、米を原料とした種麹(Aspergillus oryzae、白麹しらかみ、株式会社秋田今野商店製)(以下、「米種麹」と称することがある)に変更したこと以外は、前記製造例1と同様の方法で「コウスイハッカ発酵液2」を得た。
【0061】
(比較製造例1:コウスイハッカ抽出液の製造)
粉砕機(シュガーミル)を用いてコウスイハッカ(株式会社アルビオン製)を粉砕し、2mmのメッシュスクリーンを通過させ、コウスイハッカ粉砕物を得た。このコウスイハッカ粉砕物50gに水を1,000mL添加し、混合した後、25℃にて22時間撹拌した。次いで、得られた撹拌物を、珪藻土を用いてろ過し、「コウスイハッカ抽出液」を得た。
【0062】
(試験例1:肌なじみ試験)
製造例1で得られたコウスイハッカ発酵液1、製造例2で得られたコウスイハッカ発酵液2、及び比較製造例1で得られたコウスイハッカ抽出液を試験試料として、以下の方法で接触角を測定することにより「肌なじみ試験」を行った。
具体的には、動的接触角・表面張力測定装置(FTA1000 Falcon、First Ten Angstroms社製)を用いて、前記装置のサンプルステージ(アルミ製)に各試験試料をそれぞれ3μL滴下し、温度22℃、相対湿度20%の条件下で、液滴法にて測定を行った。1,000msの接触角θ(°)をθ/2法で求めた。接触角の測定は3回行い、その平均値を求めた。結果を下記表1に示す。また、各試験試料の接触角の測定時の液滴の一例を図1A図1Cに示す。
【0063】
【表1】
【0064】
製造例1で得られたコウスイハッカ発酵液1及びコウスイハッカ発酵液2は、接触角が85°以下であり、肌なじみのよさに優れるものであった。また、コウスイハッカ発酵液1は、接触角が79°以下であり、更に肌なじみのよさに優れるものであった。
【0065】
以下の試験例において、製造例1で得られた「コウスイハッカ発酵液1」を実施例1の試料、製造例2で得られた「コウスイハッカ発酵液2」を実施例2の試料、比較製造例1で得られた「コウスイハッカ抽出液」を比較例1の試料とした。
【0066】
(試験例2:保水力試験)
実施例1のコウスイハッカ発酵液1、実施例2のコウスイハッカ発酵液2、及び比較例1のコウスイハッカ抽出液を試験試料として、以下の方法で「保水力試験」を行った。
具体的には、3名の被験者(被験者1:20代半ばの女性、被験者2:30代前半の女性、及び被験者3:30代後半の女性)の前腕内側部を被験部位として洗浄した後、恒温恒湿室(温度20℃、相対湿度50%)に入室後、約20分間馴化した。前記試験試料の塗布前の前記被験部位の角層の水分量(以下、「初期角質水分量」と称することがある)[単位:μS]を、皮表角層水分量測定装置(SKICON-200EX、株式会社ヤヨイ製)を用いて測定した。次いで、前記試験試料20μLを、前記被験部位(縦1.5cm、横1.5cmの領域)に塗布し、15分間後の前記被験部位の角質の水分量(以下、「塗布後角質水分量」と称することがある)[単位:μS]を測定した。これらの角質水分量の測定値から、下記式(1)により角質水分変化量を算出した。結果を下記表2~4に示す。
角質水分変化量[μS]=塗布後角質水分量[μS]-初期角質水分量[μS] ・・・ 式(1)
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
試験例2の結果より、接触角が85°以下であった実施例1のコウスイハッカ発酵液1及び実施例2のコウスイハッカ発酵液2は、いずれも肌なじみのよさに優れるだけでなく、高い保水力も有していた。
更に、接触角が79°以下であった実施例1のコウスイハッカ発酵液1におけるこれらの効果は、発酵を行わなかった比較例1のコウスイハッカ抽出液と比較して優れていただけでなく、予想外にも市販品の米種麹を使用して発酵させた実施例2のコウスイハッカ発酵液と比較して、より優れていた。
【0071】
以上の試験例の結果より、接触角が85°以下のコウスイハッカ発酵液を化粧料とした場合は、肌なじみのよさに優れ、かつ、保水性に優れること、また、接触角が79°以下のコウスイハッカ発酵液を化粧料とした場合は、肌なじみのよさが更に優れ、かつ、保水性も更に優れることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のコウスイハッカ発酵液は、本発明のコウスイハッカ発酵液の製造方法により容易かつ安価に製造可能であり、コウスイハッカを麹菌で発酵させて得られるため、肌なじみのよさ及び保水性に優れ、コウスイハッカ自体の有する作用を害することなく、安全性の高い天然物系のものであることから、化粧料、食品、医薬品など分野を問わず幅広く利用可能である。
本発明の化粧料は、本発明のコウスイハッカ発酵液を含有することから、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、美容液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、ファンデーション、入浴剤、石鹸、ボディシャンプー等の皮膚化粧料;アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、ポマード、シャンプー、リンス等の頭皮頭髪化粧料などに好適に利用可能である。
図1A
図1B
図1C