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特許7355724量子ドットの表面処理方法及び表面処理装置
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  • 特許-量子ドットの表面処理方法及び表面処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】量子ドットの表面処理方法及び表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20230926BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230926BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230926BHJP
   F21V 9/30 20180101ALI20230926BHJP
   F21V 11/00 20150101ALI20230926BHJP
【FI】
G02B5/20
B82Y40/00
C08F290/06
F21V9/30
F21V11/00 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020202853
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090446
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】野島 義弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸司
(72)【発明者】
【氏名】鳶島 一也
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-514299(JP,A)
【文献】特表2017-538244(JP,A)
【文献】特表2019-501407(JP,A)
【文献】特表2020-530133(JP,A)
【文献】特表2017-537351(JP,A)
【文献】特表2020-532049(JP,A)
【文献】特開2016-111292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0221722(US,A1)
【文献】国際公開第2016/124814(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0322926(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0162764(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
B82Y 40/00
C08F 290/06
F21V 9/30
F21V 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットの表面処理方法であって、
配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドが前記配位性置換基により表面に配位した量子ドットと、シリコーン化合物とを含む溶液を、光を透過する材料からなる反応流路に連続的に供給しながら前記反応流路に光を照射して、前記シリコーン化合物と前記反応性置換基とを光重合反応させて、前記量子ドットの表面を前記シリコーン化合物で被覆することを特徴とする量子ドットの表面処理方法。
【請求項2】
前記配位性置換基が、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、ホスフィノ基、第4級アンモニウム塩のいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の量子ドットの表面処理方法。
【請求項3】
前記反応性置換基が、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、チオール基、エポキシ基、オキシセタニル基のいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の量子ドットの表面処理方法。
【請求項4】
前記反応流路を管状のものとし、
前記反応流路を透過する前記光の透過率が少なくとも0.1%以上となるように、前記溶液の濃度及び/又は前記反応流路の径を調整することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の量子ドットの表面処理方法。
【請求項5】
量子ドットと該量子ドットの表面と反応する反応性化合物とを含む溶液の供給流量を調整可能な溶液供給ユニットと、
前記量子ドットと前記反応性化合物とを光反応させるための光を照射する光源と、
内部で前記溶液供給ユニットにより供給された前記溶液中の前記量子ドットと前記反応性化合物とを光反応させる反応流路であって、前記光源から照射された光が透過可能な材料から形成された反応流路とを備えることを特徴とする量子ドットの表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットの表面処理方法及び表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径がナノサイズである半導体結晶粒子は量子ドットと呼ばれ、光吸収により生じた励起子がナノサイズの領域に閉じ込められることにより半導体結晶粒子のエネルギー準位は離散的となり、またそのバンドギャップは粒子径により変化する。これらの効果により、量子ドットの蛍光発光は一般的な蛍光体と比較して高輝度かつ高効率、さらにその発光はシャープである。
【0003】
またその粒子径によりバンドギャップが変化するという特性から、発光波長を制御できるという特徴を有しており、固体照明やディスプレイの波長変換材料としての応用が期待されている。例えば、ディスプレイに量子ドットを波長変換材料として用いることで、従来の蛍光体材料よりも広色域化、低消費電力が実現できる。
【0004】
量子ドットを波長変換材料として用いられる実装方法として、量子ドットを樹脂材料中に分散させ、透明フィルムで量子ドットを含有した樹脂材料をラミネートすることで、波長変換フィルムとしてバックライトユニットに組み込む方法が提案されている(特許文献1)。また、カラーフィルタ材料として量子ドットを用いることで、バックライトユニットから青色単色光を量子ドットが吸収し赤色又は緑色に発光することで、カラーフィルタ及び波長変換材料として機能させることによる高効率化と色再現性の優れた画像素子への適用も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-544018号公報
【文献】特開2017-21322号公報
【文献】特許5356318号公報
【文献】特許6592540号公報
【文献】特許5900720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、量子ドットは粒子径がナノメートルサイズと小さいため、比表面積が大きい。そのため、表面エネルギーが高く表面活性であることから不安定化しやすい。量子ドット表面のダングリングボンドや酸化反応などにより表面欠陥が生じ易く、これが蛍光発光特性の劣化の原因となる。これらは特に、カドミウムフリーの量子ドットやペロブスカイト型の量子ドットで問題となっている。現在得られている量子ドットにはこのような安定性に関する問題があり、熱や湿度、光励起などにより発光特性の劣化等を引き起こしデバイスに悪影響を及ぼすことが知られている。また一般的に量子ドットは疎水性であり、極性を有するシリコーンなどの樹脂材料への相溶性が悪く、凝集が発生したりすることも大きな問題となる。
【0007】
量子ドットの発光特性の経時変化や凝集の発生は、ディスプレイにおいて色ムラや発光ムラ、ドット落ちなどの欠陥になるため、量子ドットの安定性を高めることは重要な問題である。
【0008】
このような問題に対し、ポリマーや無機酸化物等で量子ドット表面を被覆する方法(特許文献3、4)や、酸素・湿度透過性の低いガスバリア性フィルムを用いることによる量子ドットの安定性を向上させる方法(特許文献5)が検討されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3、4に記載の発明のような安定性を向上させるための量子ドット表面の被覆を行う工程においては、量子ドットの発光特性を維持できず特性の劣化が起こることが問題となっている。また、特許文献4に記載されるようなバリアフィルムによる安定化についても、フィルム端面からの酸素・水蒸気の拡散による劣化が進行する問題がある。さらに、タブレットやスマートフォンなどのモバイル用途では波長変換材料を薄くすることが求められるが、バリアフィルムを使用しなければならないため波長変換材料の厚さを薄くすることに限界が生じる。さらに、カラーフィルタやμLEDへのアプリケーションにおいては、実装方式からバリアフィルムなどを用いることが困難であり、フィルム以外のアプリケーションへの適用において問題となる。
【0010】
そこで本発明者らは、量子ドットの劣化を起こさない温和な条件による量子ドット表面の被覆により信頼性の高い安定な量子ドットを得る方法として、量子ドット表面を、反応性置換基を有するリガンドにより置換し、この反応性官能基と重合可能な置換基を有するシリコーン化合物を光重合反応により量子ドット表面に固定化し被覆する方法を見出した。しかしながら、この方法を、フラスコなどの容器内に溶液を収容して行う場合(いわゆるバッチ処理)に、処理量を増やすため溶液量を増やして反応を行うと、表面被覆が完全に行われないという問題が発生することが明らかとなった。
【0011】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、大量の溶液を用いて量子ドットの表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行い、安定性に優れた量子ドットを生産性高く得ることができ、量子ドットと樹脂材料との相溶性を改善して特性および信頼性の高い波長変換材料を提供することが可能な量子ドットの表面処理方法、及び、該表面処理方法に用いることが可能な表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、量子ドットの表面処理方法であって、配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドが前記配位性置換基により表面に配位した量子ドットと、シリコーン化合物とを含む溶液を、光を透過する材料からなる反応流路に連続的に供給しながら前記反応流路に光を照射して、前記シリコーン化合物と前記反応性置換基とを光重合反応させて、前記量子ドットの表面を前記シリコーン化合物で被覆する量子ドットの表面処理方法を提供する。
【0013】
このような量子ドットの表面処理方法によれば、大量の溶液を用いて表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行うことができ、信頼性の高い波長変換材料を提供することが可能となる。
【0014】
このとき、前記配位性置換基が、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、ホスフィノ基、第4級アンモニウム塩のいずれか1種類以上である量子ドットの表面処理方法とすることができる。
【0015】
このような配位性置換基は、量子ドット表面への配位性に優れ、量子ドットからのリガンドの脱離を抑制する効果が高く、シリコーン化合物との安定的かつ高い反応を可能とする。
【0016】
このとき、前記反応性置換基が、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、チオール基、エポキシ基、オキシセタニル基のいずれか1種類以上である量子ドットの表面処理方法とすることができる。
【0017】
このような反応性置換基は、シリコーン化合物との安定的かつ高い反応を可能とする。
【0018】
このとき、前記反応流路を管状のものとし、前記反応流路を透過する前記光の透過率が少なくとも0.1%以上となるように、前記溶液の濃度及び/又は前記反応流路の径を調整する量子ドットの表面処理方法とすることができる。
【0019】
これにより、シリコーン化合物による被覆をより安定して行うことができる。
【0020】
本発明は、また、量子ドットと該量子ドットの表面と反応する反応性化合物とを含む溶液の供給流量を調整可能な溶液供給ユニットと、前記量子ドットと前記反応性化合物とを光反応させるための光を照射する光源と、内部で前記溶液供給ユニットにより供給された前記溶液中の前記量子ドットと前記反応性化合物とを光反応させる反応流路であって、前記光源から照射された光が透過可能な材料から形成された反応流路とを備える量子ドットの表面処理装置を提供する。
【0021】
このような量子ドットの表面処理装置によれば、大量の溶液を用いて表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行うことができるものとなる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の量子ドットの表面処理方法によれば、大量の溶液を用いて表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行うことができ、特性及び信頼性の高い波長変換材料を提供することが可能となる。また、本発明の量子ドットの表面処理装置によれば、大量の溶液を用いて量子ドットの表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行うことが可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る量子ドットの表面処理装置の具体例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
上述のように、本発明者らは、量子ドットが分散した溶液と反応性置換基を有するリガンドを含む化合物とを混合し、量子ドットの最表面に反応性置換基を有するリガンドを配位させるリガンド交換工程を行い、その後、反応性置換基が最表面に配位した量子ドットを含む溶液に、反応性置換基と重合可能な置換基を含むシリコーン化合物を加えて混合し、量子ドットとシリコーン化合物を重合させ量子ドット含有重合体を合成する重合工程を行う量子ドット含有重合体の製造方法により、量子効率や発光波長などの発光挙動への影響が少なく、量子ドットの劣化を起こさない温和な条件による量子ドット表面の被覆を行い、信頼性の高い安定な量子ドットを効率よく製造することができる方法を見出した。
【0026】
しかしながら、この方法において処理量を増やすため溶液量を増やして反応を行うと、表面被覆が完全に行われないという新たな問題が発生することが明らかとなった。このように、量子ドットの安定性を向上させ、また樹脂材料との相溶性を改善することにより波長変換材料として特性及び信頼性を向上させること、そして大量生産を可能とし生産性を向上させることが求められていた。
【0027】
このような問題に対し、本発明者らが鋭意調査を行った結果、重合工程において、溶液量が数10mL程度であればフラスコ容器内で問題なく処理することが可能であるが、溶液量が数100mL以上となると光重合反応が溶液全体で不均一に起こるため量子ドット表面へのシリコーン化合物の被覆が均一に進まず、量子ドットの安定性や樹脂への相溶性が低下することが起きてしまうことがわかった。これは量子ドット自体が光反応を行うためのUV光を強く吸収してしまうことに起因する。
【0028】
そこで、光反応に用いる光を透過する材料からなる流路に、配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドが前記配位性置換基により表面に配位した量子ドットと、前記反応性置換基と重合可能なシリコーン化合物を含む溶液を連続的に供給しながら光重合反応を行うことで、大量の溶液の処理を行う場合でも、量子ドット表面への均一なシリコーン化合物の被覆を安定して行うことができ、高い生産性を得ることができることを見出した。
【0029】
すなわち本発明者らは、量子ドットの表面処理方法であって、配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドが前記配位性置換基により表面に配位した量子ドットと、シリコーン化合物とを含む溶液を、光を透過する材料からなる反応流路に連続的に供給しながら前記反応流路に光を照射して、前記シリコーン化合物と前記反応性置換基とを光重合反応させて、前記量子ドットの表面を前記シリコーン化合物で被覆する量子ドットの表面処理方法により、大量の溶液を用いて表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行うことができ、信頼性の高い波長変換材料を提供することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0030】
また本発明者らは、量子ドットと該量子ドットの表面と反応する反応性化合物とを含む溶液の供給流量を調整可能な溶液供給ユニットと、前記量子ドットと前記反応性化合物とを光反応させるための光を照射する光源と、内部で前記溶液供給ユニットにより供給された前記溶液中の前記量子ドットと前記反応性化合物とを光反応させる反応流路であって、前記光源から照射された光が透過可能な材料から形成された反応流路とを備える量子ドットの表面処理装置により、大量の溶液を原料として表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行うことができるものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0031】
なお、本発明に係る量子ドットの表面処理方法、量子ドットの表面処理装置は、特に大量の溶液の処理を行う場合の問題を解決するためになされた発明であるが、少量の溶液の処理においても安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行えることは明らかであり、本発明が処理する溶液の量により限定されないことは言うまでもない。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0033】
まず、本発明に係る量子ドット(以下、「QD」ということもある)の表面処理方法により得られる、表面をシリコーン化合物で被覆した量子ドット(以下、「量子ドット含有重合体」ということもある)について説明する。
【0034】
[量子ドット含有重合体]
本発明に係る量子ドットの表面処理方法により得られる量子ドット含有重合体は、量子ドットの表面がシリコーン化合物(ポリシロキサンということもある)によって被覆されたものである。
【0035】
(量子ドット)
量子ドットの組成等は特に制限されず、目的に応じた量子ドットを選択することができる。量子ドットの組成としてII-IV族半導体、III-V族半導体、II-VI族半導体、I-III-VI族半導体、II-IV-V族半導体、IV族半導体、ペロブスカイト型半導体などが例示される。また、量子ドットはコアのみのものであっても、コアシェル構造を有するものであってもよい。量子ドットの粒子径は、目的とする波長範囲に合わせ適宜選択できる。
【0036】
具体的には、コア材料として、CdSe,CdS,CdTe,InP,InAs,InSb,AlP,AlAs,AlSb,ZnSe,ZnS,ZnTe,Zn,GaP,GaAs,GaSb,CuInSe,CuInS,CuInTe,CuGaSe,CuGaS,CuGaTe,CuAlSe,CuAlS,CuAlTe,AgInSe,AgInS,AgInTe,AgGaSe,AgGaS,AgGaTe,PbSe,PbS,PbTe,Si,Ge,グラフェン,CsPbCl,CsPbBr,CsPbI,CHNHPbCl、さらにこれらの混晶やドーパントを添加したものが例示される。
【0037】
コアシェル構造の場合のシェル材料としては、ZnO,ZnS,ZnSe,ZnTe,CdS,CdSe,CdTe,AlN,AlP,AlAs,AlSb,GaN,GaP,GaAs,GaSb,InN,InP,InAs,AlSb,BeS,BeSe,BeTe,MgS,MgSe,MgTe,PbS,PbSe,PbTe,SnS,SnSe,SnTe,CuF,CuCl,CuBr,CuI、さらにこれらの混晶が例示される。
【0038】
さらに量子ドットの形状は特に限定されず、目的に応じて自由に選択できる。量子ドットの形状は、球形であっても良く、また立方体状や棒状でも良い。また、量子ドットの平均粒子径は特に限定されないが、20nm以下であることが望ましい。平均粒子径がこのような範囲であれば、安定した量子サイズ効果が得られ、発光効率が高く、粒子径によるバンドギャップが制御も容易である。なお、量子ドットの粒子径は透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により得られる粒子画像を計測し、粒子20個以上の定方向最大径、即ち、フェレ(Feret)径の平均値から計算することができる。もちろん、平均粒子径の測定方法はこれに限定されず、他の方法で測定を行うことが可能である。
【0039】
本発明に係る量子ドットは、表面に配位性置換基及び反応性官能基を有するリガンドを有する。リガンドの構造は特に制限されないが、直鎖が20以下であるものが好ましい。このようなリガンドであれば、量子ドットの表面に配位するリガンドの量が十分な量となり、その後重合してシリコーン化合物と相互作用できる量も十分な量となる。
【0040】
配位性置換基は、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、ホスフィノ基、第4級アンモニウム塩のいずれか1種類以上であることが好ましい。このような配位性置換基は量子ドット表面への配位性に優れ、量子ドットからのリガンドの脱離を抑制する効果が高く、シリコーン化合物との安定的かつ高い反応を可能とする。
【0041】
反応性置換基は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、チオール基、エポキシ基、オキシセタニル基のいずれか1種類以上であることが好ましい。このような反応性置換基は、シリコーン化合物との安定的かつ高い反応を可能とする。
【0042】
また、量子ドット表面には上記のリガンド以外のリガンドが含まれていてもよい。このようなリガンドの種類は特に限定されず、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリル酸、デカン酸、オクタン酸、オレイルアミン、ステアリル(オクタデシル)アミン、ドデシル(ラウリル)アミン、デシルアミン、オクチルアミン、オクタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、テトラデカンチオール、ドデカンチオール、デカンチオール、オクタンチオール、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシドなどが例示される。
【0043】
(シリコーン化合物)
量子ドットの表面を被覆するシリコーン化合物(ポリシロキサン)としては、前記反応性置換基を有するリガンドと反応させることが可能な重合性の置換基を有しているシリコーン化合物であれば特に制限がない。リガンドが配位した量子ドットと疎水性溶媒に相溶性があり、重合する前は均一な反応を行う観点から、液状又はオイル状のものであることが好ましい。重合性の置換基は分子鎖末端及び側鎖のいずれか又は両方に少なくとも一つ有していればよい。このようなシリコーン化合物としては、ビニル変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル等が好ましい。相溶性の観点で凝集等が起きなければ、変性シリコーンオイルは数種類を混合しても良く、特に限定されない。
【0044】
(量子ドット含有重合体を有する波長変換材料)
本発明に係る波長変換材料は、本発明に係る量子ドット含有重合体を含有させ樹脂中に分散された樹脂組成物である。樹脂材料は特に限定されないが、量子ドット含有重合体が凝集、蛍光発光効率の劣化が起きないものが好ましく、例えば、シリコーン樹脂やアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらの材料は波長変換材料として蛍光発光効率を高めるために、透過率が高いことが好ましく、透過率が70%以上であることが特に好ましい。また、本発明に係る波長変換材料の形態は特に限定されないが、量子ドット含有重合体が樹脂に分散した波長変換フィルムが挙げられる。
【0045】
[表面処理装置]
まず、上述のような表面をシリコーン化合物で被覆した量子ドット(量子ドット含有重合体)を得るための表面処理方法に使用する、本発明に係る量子ドットの表面処理装置について、図面を参照しながら説明する。
【0046】
図1に本発明に係る量子ドットの表面処理装置の具体例を示す。図1に示す量子ドットの表面処理装置10は、光源1と、反応流路2と、溶液供給ユニット3とを少なくとも備えている。溶液供給ユニット3は、量子ドットと該量子ドットの表面と反応する反応性化合物とを含む溶液の供給流量を調整可能なものである。光源1は、溶液中の量子ドットと反応性化合物とを光反応させるための光を照射するものである。反応流路2は、その内部で、溶液供給ユニット3により供給された溶液中の量子ドットと反応性化合物とを光反応させるものであり、光源1から照射された光が透過可能な材料から形成されたものである。このような表面処理装置を用いると、大量の溶液を用いて表面処理を行う場合でも、安定してシリコーン化合物による量子ドットの表面被覆を行うことが可能となる。
【0047】
なお、図1に示すように、量子ドットと反応性化合物とを含む反応前溶液6Aを収納した容器6Bを、溶液供給チューブ4及び溶液供給ユニット3を介して反応流路2に接続し、反応流路2の下流では、反応後の溶液を排出する溶液排出チューブ5を介して反応後溶液7Aを収納する容器7Bと接続したものとすることができるが、これに限定されない。例えば、反応流路2は1つだけでなく、光源1に対し平行に複数存在していてもよい。反応前溶液6Aとして、予め量子ドットや反応性化合物を混合したものを用いても良いし、量子ドットや反応性化合物をそれぞれ別々に供給し反応流路2に供給するまでに混合しても良く、この場合溶液供給ユニットもそれぞれ別々に複数設ければよい。
【0048】
光源1としては、量子ドットと反応性化合物とを光重合反応させることが可能な光を照射できるものであれば特に限定されない。光重合反応に用いる光の波長、強度や光照射面積は特に制限されず、目的とする反応に必要とされる条件に合わせて適宜変更することができる。例えば、UV光を照射できる光源とすることができる。
【0049】
反応流路2を形成する材料としては、光源1から照射される光重合反応に用いる光を透過することのできる材料であれば特に限定されない。例えば、UV光を照射する光源を使用する場合、UV光に対して高い透過率を有する石英材料が特に好ましい。反応流路2の長さや光透過方向のサイズは、内部の溶液に光が十分に到達可能な範囲で適宜設定できる。反応流路2を透過する光の透過率が少なくとも0.1%以上となるようにすれば、溶液に対し十分な光が照射されることとなり、より安定して均一な反応を行うことができる。但し、後述するように、反応流路2における光の透過率は、反応流路2の材料だけでなく、溶液中の量子ドットや反応性化合物の濃度にも依存するため、例えば、反応流路を管状のものとし、反応流路の径に応じて溶液の濃度を設定したり、逆に、溶液の濃度に応じて反応流路の径を設定したりすることにより、反応流路2に入射する光のうち、少なくとも0.1%以上が透過するように、設定することができる。
【0050】
溶液供給チューブ4、溶液排出チューブ5は、反応を行う溶液に対し化学的に安定であれば特に制限されず、テフロン(登録商標)チューブやシリコーンチューブ、ウレタンチューブなどが例示される。
【0051】
また供給流量を調整可能な溶液供給ユニット3としては、送液量や、溶液供給チューブ4、溶液排出チューブ5の径などに合わせて、チュービングポンプやプランジャーポンプ、あるいは不活性ガスを流量計で調節し圧送する手段などから適宜選択できる。
【0052】
[量子ドット含有重合体の製造方法]
次に、本発明に係る量子ドットの表面処理を含む、量子ドット含有重合体の製造方法について説明する。
【0053】
(量子ドットの準備)
まず、上述のような量子ドットを準備する。量子ドットの製造方法は特に限定されない。
【0054】
(リガンド交換)
次に、準備した量子ドットに対して、配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドを、配位性置換基により量子ドットの表面に配位させる。例えば、疎水性の溶媒に長鎖炭化水素を含むリガンドが配位した量子ドットを分散させ、配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドと混合することでリガンド交換を行う。リガンド交換反応において、リガンドの種類によって添加量、加熱温度、時間、光照射などの条件は適宜変更できる。なお、リガンド交換後に余ったリガンドや外れたリガンドが変性シリコーンオイルなどのシリコーン化合物との光重合の際に影響を及ぼす場合は、一度精製するのが好ましい。
【0055】
(量子ドットの表面処理)
次に、上記のようにしてリガンド交換して得た、配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドが配位性置換基により表面に配位した量子ドットを溶媒に分散させ、光重合可能な置換基を有する変性シリコーンオイルなどのシリコーン化合物を添加して混合し溶液を得る。溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、オクタデセン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0056】
また、上記の溶液には光重合開始剤を添加することも好ましい。光重合開始剤と、重合可能な反応性置換基を有するリガンドが配位した量子ドットと、重合性置換基を有するシリコーン化合物を混合、攪拌して疎水性の溶媒に均一に混ぜ合わせたのちに、紫外線などの光を照射することで素早く光重合体とすることができる。このようにして光照射を行って重合反応することにより、量子ドットの表面をシリコーン化合物で被覆した量子ドット含有重合体を得ることができる。
【0057】
光重合開始剤としては、IGM resins社から市販されているイルガキュア(Irgacure(登録商標))シリーズでは、例えば、イルガキュア290、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819、イルガキュア1173等が挙げられる。また、ダロキュア(Darocure(商標登録))シリーズでは、例えばTPO、ダロキュア1173等が挙げられる。その他、公知のラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤の含有量は、添加する変性シリコーンオイル100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、さらに好ましくは0.2~5質量部とすることができる。
【0058】
ここで本発明においては、光重合反応に用いる光を透過する材料からなる反応流路に、表面に配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドが存在する量子ドットと、反応性置換基と重合可能なシリコーン化合物等を含む溶液を連続的に供給し反応を行う。このような表面処理は、図1に例示する表面処理装置を用いて行うことが可能である。これにより、反応系をスケールアップして大量の溶液を処理する場合であっても、光重合反応を溶液全体で均一に行うことができ、量子ドット表面へのシリコーン化合物の被覆を均一に進めることが可能となり、重合工程に用いる溶液量を増加させても、量子ドットの安定性の向上や樹脂への相溶性の低下の抑制による量子ドット表面への均一なシリコーン化合物の被覆と、高い生産性を得ることができる。
【0059】
また、光照射する面から反対の面に反応流路を透過する光の透過率が少なくとも0.1%以上となるように、溶液濃度、流路のサイズを調整することが好ましい。このような条件とすることで、光照射領域において均一に反応が起こることが担保される。反応流路は管状のものとすることが好ましく、溶液の濃度及び/又は反応流路の径を調整することにより、透過率を調整することができる。透過率の決定方法としては、流路上で直接測定する方法と、反応溶液の可視紫外吸収スペクトルの測定から光源の波長における吸光度(透過率)を測定しランベルト・ベールの法則A=αLC,(A:吸光度、α=吸光係数、L:光路長、C:濃度)から濃度と流路径を計算する方法がある。
【0060】
(量子ドット含有重合体を有する波長変換材料の製造)
波長変換材料の製造方法は特に限定されないが、シート状に加工してから硬化させることで、量子ドット含有重合体が樹脂に分散した波長変換フィルムとすることができる。例えば、量子ドット含有重合体をアクリル樹脂に分散させ、樹脂組成物をPETやポリイミドなどの透明フィルムに塗布し硬化させ、ラミネート加工することで波長変換材料を得ることができる。透明フィルムへの塗布は、スプレーやインクジェットなどの噴霧法、スピンコートやバーコーターを利用できる。
【0061】
樹脂組成物を硬化させる方法は特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を塗布したフィルムを60℃で2時間加熱、その後150℃で4時間加熱することで行うことができる。また、光重合反応を用いて樹脂組成物を硬化させても良く、用途に合わせて適宜変更することができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0063】
以下に説明する実施例、比較例では、量子ドット材料としてInP/ZnSe/ZnSのコアシェル型量子ドットを用いた。表面処理を行って得た量子ドット(量子ドット含有重合体)の蛍光発光特性評価は、大塚電子株式会社製:量子効率測定システム(QE-2100)用いて、励起波長450nmにおける量子ドットの発光波長、蛍光発光半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定した。
【0064】
[比較例1]
(量子ドットコア合成工程)
フラスコ内にパルミチン酸を0.23g(0.9mmol)、酢酸インジウムを0.088g(0.3mmol)、1-オクタデセンを10mL加え、減圧下、100℃で加熱攪拌を行い、原料を溶解させながら1時間脱気を行った。その後、窒素をフラスコ内にパージし、トリストリメチルシリルホスフィンをトリオクチルホスフィンと混合して0.2Mに調整した溶液を0.75mL(0.15mmol)加えて300℃に昇温し、溶液が黄色から赤色に着色し、コア粒子が生成しているのを確認した。
【0065】
(量子ドットシェル層合成工程)
次いで、別のフラスコにステアリン酸亜鉛2.85g(4.5mmol)、1-オクタデセン15mLを加え、減圧下、100℃に加熱攪拌を行い、溶解させながら1hr脱気を行ったステアリン酸亜鉛オクタデセン溶液0.3Mを用意し、コア合成後の反応溶液に3.0mL(0.9mmol)添加して200℃まで冷却した。次いで、別のフラスコにセレン0.474g(6mmol)、トリオクチルホスフィン4mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、セレントリオクチルホスフィン溶液1.5Mを調整し、200℃に冷却しておいたコア合成工程後の反応溶液を320℃まで30分かけて昇温しながら、セレントリオクチルホスフィン溶液を0.1mLずつ合計0.6mL(0.9mmol)添加するように加えて320℃で10分保持した後に室温まで冷却した。酢酸亜鉛を0.44g(2.2mmol)加え、減圧下、100℃に加熱攪拌することで溶解させた。再びフラスコ内を窒素でパージして230℃まで昇温し、1-ドデカンチオールを0.98mL(4mmol)添加して1時間保持した。得られた溶液を室温まで冷却し、InP/ZnSe/ZnSからなるコアシェル型量子ドット含有溶液を作製した。
【0066】
(リガンド交換工程)
配位性置換基及び反応性置換基を有するリガンドとして、2-プロペン-1-チオール(東京化成工業株式会社)を使用した。リガンドの交換反応としては室温まで冷却したシェル層合成工程後の溶液を60℃に加熱して、2-プロペン-1-チオールを0.08mL(1.0mmol)添加して1時間攪拌した。反応終了後室温まで冷却し、エタノールを加えて反応溶液を沈殿させ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。同様な精製をもう一度行い、トルエンに分散させて反応性置換基を有するリガンドが最表面に配位した量子ドット溶液を作製した。
【0067】
(表面処理工程/量子ドット含有重合体の合成)
リガンド交換工程後の量子ドットトルエン溶液20mL(QD濃度7質量%)をあらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。攪拌混合、脱泡を行った後に、攪拌しながらUV-LED照射装置により波長365nm、出力4000mW/cmの光を20秒照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させて、量子ドット含有組成物を得た。この量子ドットの発光波長、蛍光発光半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定したところ、発光波長は533nm,半値幅40nm,内部効率69%であった。
【0068】
(波長変換材料の製造方法)
得られた量子ドット含有組成物を用いて波長変換材料を作製した。量子ドット含有重合体の1.0質量%トルエン溶液1.0gを、シリコーン樹脂(信越化学工業(株)社製LPS-5547)10.0gと混合し、撹拌したまま60℃で加熱しながら減圧下で溶媒除去を行った。その後、真空脱気を行い厚さ50μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上に塗布し、バーコーターにより厚さ100μmの半導体ナノ粒子樹脂層を形成した。さらにこの樹脂層上にPETフィルムを貼り合わせ、ラミネート加工した。このフィルムを60℃で2時間加熱、150℃で4時間加熱し、半導体ナノ粒子樹脂層を硬化させ、波長変換材料を作製した。作製した波長変換材料を光学顕微鏡で観察すると、量子ドットの凝集物は存在せず、量子ドットと樹脂の相溶性が良いことが確認できた。この波長変換材料の発光波長、蛍光発光半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定したところ、発光波長は534nm,半値幅41nm,内部量子効率52%であった。
【0069】
(信頼性試験)
得られた波長変換材料を85℃、85%RH(相対湿度)条件で250時間処理を行い、処理後の波長変換材料の蛍光発光効率を測定することで、その信頼性を評価した。この250時間処理後の波長変換材料の発光波長、蛍光発光半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定したところ、発光波長は534nm,半値幅41nm,内部量子効率49%であった。信頼性試験による量子効率の変化率は約6%であることより、比較例であっても小スケールの処理であれば、波長変換材料中の量子ドットは高い安定性を有していることが確認された。
【0070】
次に説明する実施例1~5、比較例2では、比較例1に対して処理量を増加させるとともに、表面処理工程の条件を変更し、比較例1と同様の評価を行った。実施例1~5では、図1に示すような表面処理装置を用いて、量子ドットの表面処理(シリコーンオイルとの光重合反応)を行った。
【0071】
[実施例1]
表面処理工程(量子ドット含有重合体合成)において、リガンド交換工程後の量子ドットトルエン溶液200mL(QD濃度7質量%)をあらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。また、光重合開始剤として、Irgacure1173(IGM resins B.V.)を、シリコーンオイル100質量部に対して1質量部添加した。これらを攪拌混合、脱泡を行った後に、UV-LED照射装置と、流路径2mm、光照射領域が120mmの石英製流路を有する表面処理装置を用いて、量子ドットの表面処理(シリコーンオイルとの光重合反応)を行った。この時の石英製流路の光透過率は0.4%であった。窒素ガスの圧送により流速5mL/minで溶液を流しながら、UV-LED照射装置により波長365nm、出力500mW/cmの光を照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させて、量子ドット含有重合体を得た。
【0072】
[実施例2]
表面処理工程(量子ドット含有重合体合成)において、リガンド交換工程後の量子ドットトルエン溶液200mL(QD濃度8質量%)をあらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。また、光重合開始剤としてIrgacure1173(IGM resins B.V.)を、シリコーンオイル100質量部に対して1質量部添加した。これらを攪拌混合、脱泡を行った後に、UV-LED照射装置と、流路径2mm、光照射領域が120mmの石英製流路を有する表面処理装置を用いて、量子ドットの表面処理(シリコーンオイルとの光重合反応)を行った。この時の石英製流路の光透過率は0.1%であった。窒素ガスの圧送により流速5mL/minで溶液を流しながら、UV-LED照射装置により波長365nm、出力500mW/cmの光を照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させて、量子ドット含有重合体を得た。
【0073】
[実施例3]
表面処理工程(量子ドット含有重合体合成)において、リガンド交換工程後の量子ドットトルエン溶液200mL(QD濃度7質量%)をあらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、またメタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。また、光重合開始剤としてIrgacure1173(IGM resins B.V.)を、シリコーンオイル100質量部に対して1質量部をあらかじめ窒素でパージしておいた別のフラスコに加え添加した。これらを攪拌混合、脱泡を行った後に、UV-LED照射装置と、流路径2mm、光照射領域が120mmの石英製流路及び溶液を混合するミキサー部を有する表面処理装置を用いて、量子ドットの表面処理(シリコーンオイルとの光重合反応)を行った。この時の石英製流路の光透過率は0.4%であった。窒素ガスの圧送により量子ドット溶液を流速5mL/min、シリコーンオイル溶液を流速0.1mL/min流し、ライン中ミキサーで2つの溶液を混合した後光照射領域へ送液し、UV-LED照射装置により、波長365nm、出力500mW/cmの光を照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させて、量子ドット含有重合体を得た。
【0074】
[比較例2]
表面処理工程(量子ドット含有重合体合成)において、リガンド交換工程後の量子ドットトルエン溶液200mL(QD濃度7質量%)をあらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。また、光重合開始剤としてIrgacure1173(IGM resins B.V.)を、シリコーンオイル100質量部に対して1質量部添加した。攪拌混合、脱泡を行った後に攪拌しながらUV-LED照射装置により波長365nm、出力4000mW/cmの光を200秒照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させて、量子ドット含有重合体を得た。
【0075】
[実施例4]
表面処理工程(量子ドット含有重合体合成)において、リガンド交換工程後の量子ドットトルエン溶液200mL(QD濃度7質量%)をあらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。また、光重合開始剤としてIrgacure1173(IGM resins B.V.)を、シリコーンオイル100質量部に対して1質量部添加した。これらを攪拌混合、脱泡を行った後に、UV-LED照射装置と、流路径3mm、光照射領域が120mmの石英製流路を有する表面処理装置を用いて、量子ドットの表面処理(シリコーンオイルとの光重合反応)を行った。この時の石英製流路の光透過率は0.02%であった。窒素ガスの圧送により流速5mL/minで溶液を流しながら、UV-LED照射装置により波長365nm、出力500mW/cmの光を照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させて、量子ドット含有重合体を得た。
【0076】
[実施例5]
表面処理工程(量子ドット含有重合体合成)において、リガンド交換工程後の量子ドットトルエン溶液200mL(QD濃度10質量%)をあらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。また、光重合開始剤としてIrgacure1173(IGM resins B.V.)を、シリコーンオイル100質量部に対して1質量部添加した。これらを攪拌混合、脱泡を行った後に、UV-LED照射装置と、流路径2mm、光照射領域が120mmの石英製流路を有する反応装置を用いて、量子ドットの表面処理(シリコーンオイルとの光重合反応)を行った。この時の石英製流路の光透過率は0.04%であった。窒素ガスの圧送により流速5mL/minで溶液を流しながら、UV-LED照射装置により波長365nm、出力500mW/cmの光を照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させて、量子ドット含有重合体を得た。
【0077】
実施例1~5、比較例2で得られた量子ドット含有重合体を用いて、それぞれ波長変換材料を作製した。量子ドット含有重合体の1.0質量%トルエン溶液1.0gをシリコーン樹脂(信越化学工業(株)社製LPS-5547)10.0gと混合し、撹拌したまま60℃で加熱しながら減圧下で溶媒除去を行った。その後、真空脱気を行い厚さ50μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上に塗布し、バーコーターにより厚さ100μmの半導体ナノ粒子樹脂層を形成した。さらにこの樹脂層上にPETフィルムを貼り合わせラミネート加工した。このフィルムを60℃で2時間加熱、150℃で4時加熱し、半導体ナノ粒子樹脂層を硬化させ、波長変換材料を作製した。
【0078】
得られた波長変換材料を、85℃、85%RH(相対湿度)条件で250時間処理を行い、処理後の波長変換材料の蛍光発光効率を測定することで、その信頼性を評価した。
【0079】
表1に、実施例1~5及び比較例1,2の表面処理条件、量子ドット及び波長変換材料作製後の蛍光発光効率、及び信頼性評価後の蛍光発光効率の値を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すとおり、比較例2では波長変換材料作製時に内部量子効率が著しく低下し、かつ発光波長も長波長シフトが大きいことがわかる。顕微鏡を用いて観察してみると、比較例2では10~50μm程度の凝集体が多く観察されており、その結果、内部量子効率が下がったと考えられる。
【0082】
一方で実施例1~3は凝集体が観察されず、内部量子効率の低下が抑えられていると考えられる。実施例4,5ではわずかに凝集体が観察されたが比較例2と比べて少なく、内部量子効率の低下や、発光波長の長波長シフトも抑制されている。このように、実施例1~5では、シリコーン化合物の被覆が安定して行われたことにより、樹脂との相溶性が改善し凝集が効果的に抑えられていることがわかる。
【0083】
また、信頼性試験(85℃、85%RH、250時間処理)結果を比較すると、実施例1~5はいずれも、比較例2よりも安定性が改善していることがわかる。特に、表面処理時の石英製流路の光透過率を0.1%以上とした実施例1~3では、内部量子効率の低下が10%以下に抑制されており、比較例1のような小スケール処理の特性と同等のものが得られていることがわかる。
【0084】
以上のように、量子ドットの表面をシリコーン化合物で被覆処理を行う場合に、実施例1~5のように光を透過する材料からなる反応流路に溶液を流しながら光重合反応させることで、量子ドット溶液の処理量を増やしても、表面処理を行ってシリコーン化合物で被覆した量子ドットが高い安定性を示すこと、そしてこれを用いた波長変換材料は、高温高湿条件において蛍光発光効率の劣化が抑制され、信頼性が高いものであることが確認された。
【0085】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0086】
1…光源、 2…反応流路、 3…溶液供給ユニット、 4…溶液供給チューブ、
5…溶液排出チューブ、 6A…反応前溶液、 6B…容器、 7A…反応後溶液、
7B…容器、 10…量子ドットの表面処理装置。
図1