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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20230926BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230926BHJP
   C08K 5/5419 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/013
C08K5/5419
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021003759
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108648
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】辻 謙一
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】秋場 翔太
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093052(WO,A1)
【文献】特開2011-088953(JP,A)
【文献】特開2012-052137(JP,A)
【文献】特開2008-222776(JP,A)
【文献】特開2010-280806(JP,A)
【文献】特開2014-105283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/013
C08K 5/5419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)
【化1】
(Rは独立に非置換または置換の一価炭化水素基であり、Rは独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基であり、aは5~100の整数であり、bは1~3の整数である。)
で表される25℃における動粘度が10~10,000mm/sのオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)前記(A)成分以外の下記一般式(2)
SiO(4-c)/2 (2)
(Rは炭素数1~18の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、cは1.8≦c≦2.2の正数)
で表される25℃における動粘度が1,000~10,000mm/sのオルガノポリシロキサン:40~250質量部、
(C)下記一般式(3)
Si(OR4-d-e (3)
(式中、Rは独立に炭素原子数9~15のアルキル基であり、Rは独立に非置換または置換の炭素原子数1~8の一価炭化水素基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、dは1~3の整数であり、eは0~2の整数であり、ただし、d+eは1~3の整数である。)
で表されるオルガノシラン:前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して1~50質量部、
(D)10W/m・℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材:前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の合計100質量部に対して500~3,000質量部
を含むことを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
25℃における絶対粘度が100~800Pa・sであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
4.0W/m・℃以上の熱伝導率を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の高発熱化・高密度実装化によって部材冷却の必要性がますます高まっている。部材冷却の方法としては、発熱部材から冷却部材への伝熱が一般的である。このような構造においては、熱伝導性部材が発熱部位と冷却部位の間の密着を高めて、熱伝導を効率化するために使用されている。熱伝導部材としては成形物であるシート状、成形物ではないグリース状の物などがあげられる(特許文献1、2)。
【0003】
自動実装化の観点からは、グリース状の材料が使用されるケースが多い。しかしながら、グリース状の物は液状であるため素子が発熱⇔冷却を繰り返すことによって材料が流れ出してしまう場合がある。このような現象が発生すると発熱部位と冷却部位の接触が悪くなってしまい、伝熱性能が悪化し、素子の性能が低下してしまう。このような場合、塗布時は液状で、塗布後に硬化するグリースなども用いられている(特許文献3、4)。
【0004】
しかし、これらは反応性が高いため、反応を抑制するために冷凍や冷蔵保存が必要であったり、湿気を遮断するために密閉して保存する必要がある。これらの保存は使用前の材料保管を制限してしまうため、取扱い性の観点からは常温下、かつ通常の条件で保存できる材料が求められている。
【0005】
特許文献5には特定の構造をもつオルガノポリシロキサンとアルコキシシランを併用することで組成物の流動性と高温高湿条件下における耐久性・信頼性に優れるとの記載がある。しかし、特許文献5には耐ズレ性に関する記載はなく、また、この文献記載の組成物を室温で保管すると保管中にグリースが増粘してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-233104号公報
【文献】特開2018-188559号公報
【文献】特開2016-017159号公報
【文献】特許5733087号公報
【文献】特許4933094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、保存中の増粘現象が起こらず、耐ズレ性に優れる熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は常温での保管を可能にし、耐ズレ性を高めるために、特定の粘度を有するオルガノポリシロキサンを配合した熱伝導性シリコーン組成物を提供する。その手段を以下に詳述する。
【0009】
本発明は即ち、(A)下記一般式(1)
【化1】
(Rは独立に非置換または置換の一価炭化水素基であり、Rは独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基であり、aは5~100の整数であり、bは1~3の整数である。)
で表される25℃における動粘度が10~10,000mm/sのオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)前記(A)成分以外の下記一般式(2)
SiO(4-c)/2 (2)
(Rは炭素数1~18の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、cは1.8≦c≦2.2の正数)
で表される25℃における動粘度が1,000~100,000mm/sのオルガノポリシロキサン:40~250質量部、
(C)下記一般式(3)
Si(OR4-d-e (3)
(式中、Rは独立に炭素原子数9~15のアルキル基であり、Rは独立に非置換または置換の炭素原子数1~8の一価炭化水素基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、dは1~3の整数であり、eは0~2の整数であり、ただし、d+eは1~3の整数である。)
で表されるオルガノシラン:前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して1~50質量部、
(D)10W/m・℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材:前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の合計100質量部に対して500~3,000質量部
を含むことを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0010】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、保存中の増粘現象が起こらず、耐ズレ性に優れたものとなる。
【0011】
また、本発明では、25℃における絶対粘度が100~800Pa・sであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物であることが好ましい。
【0012】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、室温での保存中に固化してしまうことがないものとなる。
【0013】
また、本発明では、4.0W/m・℃以上の熱伝導率を有することを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物であることが好ましい。
【0014】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、熱伝導率に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の熱伝導性シリコーン組成物であれば、従来技術と比較して高い熱伝導性と耐ズレ性を維持したまま、室温で保存中の固化を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、保存中の増粘現象が起こらず、耐ズレ性に優れた熱伝導性シリコーン組成物の開発が求められていた。
【0017】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、オルガノシランの配合量を特定の範囲とし、さらに特定の粘度を持つオルガノポリシロキサンの配合量を特定の範囲とすることで、従来技術と比較して高い熱伝導性と耐ズレ性を維持したまま、冷凍や冷蔵保存しなくとも、室温で保存中の固化を防ぐことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
即ち、本発明は、(A)下記一般式(1)
【化2】
(Rは独立に非置換または置換の一価炭化水素基であり、Rは独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基であり、aは5~100の整数であり、bは1~3の整数である。)
で表される25℃における動粘度が10~10,000mm/sのオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)前記(A)成分以外の下記一般式(2)
SiO(4-c)/2 (2)
(Rは炭素数1~18の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、cは1.8≦c≦2.2の正数)
で表される25℃における動粘度が1,000~100,000mm/sのオルガノポリシロキサン:40~250質量部、
(C)下記一般式(3)
Si(OR4-d-e (3)
(式中、Rは独立に炭素原子数9~15のアルキル基であり、Rは独立に非置換または置換の炭素原子数1~8の一価炭化水素基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、dは1~3の整数であり、eは0~2の整数であり、ただし、d+eは1~3の整数である。)
で表されるオルガノシラン:前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して1~50質量部、
(D)10W/m・℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材:前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の合計100質量部に対して500~3,000質量部
を含むことを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物である。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
(A)成分
(A)成分におけるオルガノポリシロキサンは、一般式(1)
【化3】
(Rは独立に非置換または置換の一価炭化水素基であり、Rは独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基であり、aは5~100の整数であり、bは1~3の整数である。)
で表される25℃における動粘度が10~10 ,000mm/sのオルガノポリシロキサンである。
【0021】
(A)成分は一種単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
【0022】
上記Rは独立に非置換または置換の一価の炭化水素基であり、その例としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2 - フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基が挙げられる。Rは好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0023】
上記Rは独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、またはアシル基である。アルキル基としては、例えば、Rについて例示したのと同様の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。アシル基としては、例えば、アセチル基、オクタノイル基が挙げられる。Rはアルキル基であることが好ましく、特にはメチル基、エチル基であることが好ましい。aは5~100の整数である。bは1~3の整数であり、好ましくは3である。
【0024】
(A)成分のオストワルド粘度計により測定される25℃における動粘度は、通常、10~10,000mm/sであり、特に10~5,000mm/sであることが好ましい。前記動粘度が10mm/sより低いと、組成物からオイルブリードが発生しやすくなるし、前記動粘度が10,000mm/s より高いと、組成物の流動性が乏しくなってしまう。
【0025】
(A)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【化4】
【0026】
(B)成分
(B)成分は、前記(A)成分以外の下記一般式(2)
SiO(4―c)/2 (2)
(Rは炭素数1~18の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基の群の中から選択される1種もしくは2種以上の基、cは1.8≦c≦2.2の正数)
で表される25℃における動粘度が1,000~100,000mm2/sのオルガノポリシロキサンである。
【0027】
但し、上記式(2)中のRは、炭素数1~18の飽和又は不飽和の一価の炭化水素基の群の中から選択される少なくとも1種の基である。cは、要求される粘度の観点から1.8~2.2の正数であることが必要であり、特に1.9~2.1の正数であることが好ましい。上記Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。
【0028】
また、上記オルガノポリシロキサンのオストワルド粘度計により測定される25℃における動粘度については、1,000mm/sより低いと組成物にした時に保存中の増粘が起こりやすくなるし、100,000mm/sより高くなると組成物にしたときの伸展性が乏しくなって作業性が悪化するため、1,000~100,000mm/sの範囲であることが必要であり、好ましくは1,000~50,000mm/sの範囲がよい。
【0029】
(B)成分の配合量は40質量部より少ないと、室温での保存中に組成物が固化してしまうし、250質量部より多いと、組成物の伸展性が乏しい物になってしまうため、40~250質量部の範囲であることが必要であり、好ましくは40~230質量部がよい。
【0030】
(C)成分
(C)成分は、下記一般式(3)
Si(OR4-d-e (3)
(式中、Rは独立に炭素原子数9~15のアルキル基であり、Rは独立に非置換または置換の炭素原子数1~8の一価炭化水素基であり、Rは独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、dは1~3の整数であり、eは0~2の整数であり、ただし、d+eは1~3の整数である。)
で表されるオルガノシランである。
【0031】
上記一般式(3)のRの具体例としては、例えばノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。炭素数が9より小さいと充填材との濡れ性が充分でなく、15より大きいとオルガノシランが常温で固化するので、取り扱いが不便な上、得られた組成物の低温特性が低下する。またdは1、2または3であるが特に1であることが好ましい。
【0032】
また、上記式(3)中のRの具体例としては、炭素数1~8の飽和または不飽和の一価の炭化水素基であり、この様な基としてはアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化炭化水素基等を挙げることができる。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3-トリフロロプロピル基、2-(パーフロロブチル)エチル基、2-(パーフロロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられるが、特にメチル基、エチル基が好ましい。また、eは0~2の整数である。ただし、d+eは1~3の整数であり、特に1であることが好ましい。
【0033】
上記式(3)中のRは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの炭素数1~6の1種もしくは2種以上のアルキル基であり、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0034】
前記一般式(3)で表されるオルガノシランの具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【0035】
1021Si(OCH、C1225Si(OCH、C1225Si(OC、C1021Si(CH)(OCH、C1021Si(C)(OCH、C1021Si(CH)(OC、C1021Si(CH=CH)(OCH、C1021Si(CHCHCF)(OCH
【0036】
このオルガノシランは(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して1質量部より少ないと組成物のズレが生じてしまうし、50質量部より多くすると室温保存中に固化してしまうので1~50質量部の範囲であることが必要であり、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~30質量部である。
【0037】
(D)成分
(D)成分の熱伝導率を有する熱伝導性充填材としては、熱伝導率が10W/m・℃以上のものが使用される。充填材のもつ熱伝導率が10W/m・℃より小さいと、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率そのものが小さくなるためである。
【0038】
前記熱伝導性充填材としては、アルミニウム粉末、銅粉末、銀粉末、鉄粉末、ニッケル粉末、金粉末、錫粉末、金属ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化ケイ素粉末、アルミナ粉末、ダイヤモンド粉末、カーボン粉末、インジウム粉末、ガリウム粉末、酸化亜鉛粉末などが挙げられるが、10W/m・℃以上を有する充填材であれば如何なる充填材でもよく、1種類あるいは2種類以上を混ぜ合わせたものでもよい。
【0039】
(D)成分の平均粒径は0.1~150μmの範囲がよい。該平均粒径が0.1μmより大きければ、得られる組成物がグリース状になり伸展性に優れたものになり、150μmより小さければ、放熱グリースの熱抵抗が小さくなり性能が向上するためである。
【0040】
なお、本発明において、平均粒径は日機装(株)製マイクロトラックMT3300EXにより測定でき、体積基準の体積平均径である。(D)成分の形状は、不定形でも球形でも如何なる形状でもよい。
【0041】
(D)成分の充填量は、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計100質量部当たり500質量部より少ないと組成物の熱伝導率が低くなってしまうし、3,000質量部より多いと組成物の粘度が上昇し、伸展性の乏しいものになるため、500~3,000質量部の範囲であることが必要であり、好ましくは800~2,800質量部、より好ましくは800~2,500質量部の範囲がよい。
【0042】
その他成分
また本発明には上記(A)~(D)成分以外に、必要に応じて、酸化防止剤、耐熱性向上剤、着色剤等を本発明の目的に応じて添加しても良い。
【0043】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、25℃における絶対粘度が100~800Pa・sであることが好ましい。このような粘度範囲であれば、保存中に固化することがなく、組成物の流動性が好適で作業性が良いため好ましい。
【0044】
上記25℃における絶対粘度は、例えば回転式粘度計により測定する。
【0045】
また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、4.0W/m・℃以上の熱伝導率を有することが好ましい。熱伝導率が4.0W/m・℃以上であれば、熱伝導率に優れたものとなるため好ましい。
【0046】
上記熱伝導率は、例えば25℃において迅速熱伝導計により測定する。
【0047】
以上のように、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、配合するオルガノシランの部数を最適化し、特定の粘度を持つオルガノポリシロキサンを特定量配合することにより、保存中の増粘現象が起こらず、耐ズレ性に優れる熱伝導性シリコーン組成物となることができる。
【0048】
<熱伝導性シリコーン組成物の製造方法>
本発明の熱伝導性シリコーン組成物(グリース)を製造するには、例えば(A)~(D)成分をトリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(何れも井上製作所(株)製混合機の登録商標)ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機にて混合すればよい。
【実施例
【0049】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
本発明に関わる効果に関する試験は次のように行った。
【0051】
[粘度測定]
熱伝導性シリコーン組成物を25℃の恒温室に24時間放置後、マルコム粘度計を使用して回転数10rpmでの絶対粘度を測定した。
【0052】
[熱伝導率測定方法]
熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率は迅速熱伝導計QTM-500(京都電子工業(株))により25℃において測定した。
【0053】
[室温での保存性評価]
25℃/50%の恒温漕内にサンプルを保管し、3か月後に絶対粘度を上記測定法で測定した。粘度が800Pa・sを超えてしまったものについては固化したと判断した。
【0054】
[耐ズレ性]
ガラス板とアルミニウム板との間に熱伝導性シリコーン組成物を厚さ100μmで挟みこみ、0℃⇔100℃のヒートサイクル試験機内に縦置きに静置し、500サイクル試験を行った。初期位置からのズレた距離を測定した。
【0055】
熱伝導性シリコーン組成物を形成する以下の各成分を用意した。
(A)成分
A-1:下記式(4)で表される動粘度が30mm/sのオルガノポリシロキサン
【化5】
【0056】
(B)成分
B-1:((CHSiO1/2)単位及び((CHSiO)単位からなる、動粘度が1,000mm/sのオルガノポリシロキサン
B-2:((CHSiO1/2)単位及び((CHSiO)単位からなる、動粘度が2,000mm/sのオルガノポリシロキサン
B-3:((CHSiO1/2)単位及び((CHSiO)単位からなる、動粘度が10,000mm/sのオルガノポリシロキサン
B-4(比較例):((CHSiO1/2)単位及び((CHSiO)単位からなる、動粘度が100mm/sのオルガノポリシロキサン
B-5(比較例):((CHSiO1/2)単位及び((CHSiO)単位からなる、動粘度が200,000mm/sのオルガノポリシロキサン
なお、上記B-1~B-3は一般式(2)の条件を満たす。
【0057】
(C)成分
C-1:C1021Si(OCH
【0058】
(D)成分
D-1:下記のアルミニウム粉末と酸化亜鉛粉末を5リットルプラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)を用いて下記表1の混合比で室温にて15分間混合し、熱伝導性充填材D-1を得た。
○平均粒径7μmのアルミニウム粉末(熱伝導率:236W/m・℃)
○平均粒径0.6μmの酸化亜鉛粉末(熱伝導率:25W/m・℃)
【0059】
【表1】
【0060】
(A)~(D)成分を以下のように混合して実施例1~8および比較例1~8の熱伝導性シリコーン組成物を得た。即ち、5リットルプラネタリーミキサー(井上製作所(株)社製)に(A)成分を取り、表2、3に示す配合量で(B)、(C)、(D)成分を加え70℃で1時間混合した。
評価結果を表2、3に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
表2に示されるように、実施例1~8で作製した熱伝導性シリコーン組成物は、室温保存後粘度が100~800Pa・sで、4.0W/m・℃以上の高い熱伝導率を有する。
【0064】
一方、表3に示されるように、比較例1のように(B)成分の動粘度が低い場合は、固化する。比較例2のように(B)成分の動粘度が高いと、グリース状にならない。比較例3のように(B)成分の含有量が少なすぎると、固化する。比較例4のように(B)成分の含有量が多すぎると、グリース状にならない。比較例5のように(C)成分の含有量が多すぎると、固化する。比較例6のように(D)成分の含有量が多すぎると、グリース状にならない。比較例7のように(D)成分の含有量が少なすぎると、熱伝導率が低くなる。比較例8のように(C)成分の含有量が少なすぎると、耐ズレ性が悪くなる。
【0065】
以上のように、(B)成分の含有量が40質量部よりも少ないと固化し(比較例3)、(B)成分の含有量が250質量部よりも多いとグリース状にならない(比較例4)。このことから、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の(B)成分が、40~250質量部の範囲であることで、室温保存中に増粘することがなく、耐ズレ性も良好な熱伝導シリコーン組成物となる。本発明では、配合するオルガノポリシロキサンの動粘度と配合量、及びオルガノシランと熱伝導性充填材の配合量を巧みに調整することで、このような優れた物性を持つ熱伝導性シリコーン組成物を得ることができる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。