(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム粒子、窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム粉末の製造方法、樹脂用フィラーおよび樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 21/072 20060101AFI20230926BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230926BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20230926BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C01B21/072 G
C08L101/00
C08K3/28
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2021508978
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010224
(87)【国際公開番号】W WO2020195776
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2019055062
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 晃匡
(72)【発明者】
【氏名】金近 幸博
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/123247(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199322(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131239(WO,A1)
【文献】特開2013-124202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C08L 101/00
C08K 3/28
C08K 7/00
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
倍率500倍の走査型電子顕微鏡写真による観察において、
第1の六角錐台と、第2の六角錐台とを少なくとも含む窒化アルミニウム粒子であって、
上記第1の六角錐台の下底面と、上記第2の六角錐台の下底面とを対向させた形状を成し、
上記第1の六角錐台および上記第2の六角錐台のそれぞれについて、上底面の面積S1は60μm
2以上4800μm
2以下であるとともに、下底面の面積S2に対する上記S1の割合(S1/S2)は0.6以上0.8未満であり、
上記第1の六角錐台の高さh1および上記第2の六角錐台の高さh2はそれぞれ、5μm以上20μm以下であり、
上記第1の六角錐台および上記第2の六角錐台は、それぞれ上記窒化アルミニウム粒子の一端部および他端部を構成し、
上記h1と上記h2との合計が、上記窒化アルミニウム粒子の高さの95%以上を占めることを特徴とする窒化アルミニウム粒子。
【請求項2】
上記第1の六角錐台の下底面と、上記第2の六角錐台の下底面とが接合した形状を成すことを特徴とする、請求項1に記載の窒化アルミニウム粒子。
【請求項3】
請求項1または
2に記載の窒化アルミニウム粒子を30体積%以上含む窒化アルミニウム粉末。
【請求項4】
アルミナ粉末、カーボン粉末、および硫黄成分を含む原料混合物を還元窒化する、窒化アルミニウム粉末の製造方法であって、
上記原料混合物に含まれるNa
2Oの濃度を0.1質量%以下に調整し、少なくとも窒化率が3%以上50%以下の範囲において、ガス組成を窒素ガス30体積%以上85体積%以下および希釈ガス15体積%以上70体積%以下として、上記原料混合物を還元窒化する還元窒化工程と、
上記還元窒化工程で生成した上記窒化アルミニウム粉末が酸化されない雰囲気下において、上記還元窒化工程の加熱温度から±30℃以内の温度を維持したまま、1時間以上保持する保持工程と、を含むことを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項
3に記載の窒化アルミニウム粉末よりなる樹脂用フィラー。
【請求項6】
請求項
5に記載の樹脂用フィラーと樹脂とを含む樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム粒子に関する。詳しくは、大粒径で、放熱用フィラーとして樹脂に充填した際に、粒子間の接触の機会が多く得られる樹脂組成物において、高い熱伝導率を実現できると共に、低粘度化が可能な窒化アルミニウム粒子を提供する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、高い熱伝導性と優れた電気絶縁性とを有することから、放熱部材に充填される絶縁放熱用フィラー等として利用されている。
【0003】
ところで、放熱部材の熱伝導性を向上させるためには、上記放熱部材中で高熱伝導性を有するフィラーが相互に接触することで、良好な熱伝導パスを形成することが重要である。良好な熱伝導パスを形成させる方法として、大粒径粒子のフィラーにより熱伝導パスの距離を稼ぎ、大粒径粒子のフィラー間を、サブフィラーである小粒径粒子のフィラーで埋める手段が採用されている。
【0004】
大粒径を有する窒化アルミニウム粒子を得る方法は、例えば、窒化アルミニウム粉末に焼結助剤、有機結合剤および溶媒を添加混合した後、スプレードライ等の手段により乾燥造粒して得られる球状造粒粉を焼成する方法が知られている(特許文献1参照)。この方法により得られる窒化アルミニウム粒子は、一般に「焼結顆粒」と呼ばれており、球状かつ大粒径の窒化アルミニウム粒子を製造することが可能である。
【0005】
しかしながら、窒化アルミニウムの焼結顆粒は、焼成により窒化アルミニウム粒子同士が焼結した構造となっており、窒化アルミニウム粒子の表面には粒子間に形成される溝に起因した細かな凹凸が多数存在する。そのため、窒化アルミニウム粒子を樹脂に充填した際、窒化アルミニウム粒子と樹脂との樹脂組成物の粘度上昇が問題となっていた。また、窒化アルミニウム粒子は球状粒子であり、粒子同士の接点は点接触となるため、接触面積が少なく、樹脂に充填した際の熱伝導性に改良の余地があった。
【0006】
一方、接触面積を増やし、熱伝導パスを増やすことが可能な多面体構造を有する大粒径窒化アルミニウム粒子として、対向する2面が六角形状の平面を有している板状の粒子が知られている(特許文献2参照)。
【0007】
また、多面体構造を有する六角柱の両端に突出部を有する形状の窒化アルミニウム粒子も提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
特許文献2および特許文献3に記載の窒化アルミニウム粒子は、樹脂に充填した際、多面体構造により面同士の接触の機会が増加し、熱伝導性の向上が期待される。しかし、側面が垂直に切り立った胴部を多く含む形状は、面同士の接触に制限があり、多面体構造をより活かした形状の粒子の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国公開特許公報「特開平3-295863号」
【文献】日本国公開特許公報「特許第6261050号」
【文献】国際公開第2017/131239号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のような従来技術では、窒化アルミニウム粒子を樹脂に充填した際に、高い熱伝導性を備え、かつ低粘度な樹脂組成物を実現する観点から改善の余地があった。したがって、本発明の目的は、窒化アルミニウム粒子を樹脂に充填した際に、高い熱伝導性を備え、かつ低粘度の樹脂組成物を実現し得る窒化アルミニウム粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、特定の形状の窒化アルミニウム粒子を用いることにより、高い熱伝導性を備え、かつ低粘度の樹脂組成物を作製できることを見出した。即ち、本発明は以下の構成を含む。
【0012】
倍率500倍の走査型電子顕微鏡写真による観察において、第1の六角錐台と、第2の六角錐台とを少なくとも含む窒化アルミニウム粒子であって、上記第1の六角錐台の下底面と、上記第2の六角錐台の下底面とを対向させた形状を成し、上記第1の六角錐台および上記第2の六角錐台のそれぞれについて、上底面の面積S1は60μm2以上4800μm2以下であるとともに、下底面の面積S2に対する上記S1の割合(S1/S2)は0.5以上1未満であり、上記第1の六角錐台の高さh1および上記第2の六角錐台の高さh2はそれぞれ、5μm以上20μm以下であることを特徴とする窒化アルミニウム粒子。
【0013】
アルミナ粉末、カーボン粉末、および硫黄成分を含む原料混合物を還元窒化する、窒化アルミニウム粉末の製造方法であって、上記原料混合物に含まれるNa2Oの濃度を0.1質量%以下に調整し、少なくとも窒化率が3%以上50%以下の範囲において、ガス組成を窒素ガス30体積%以上85体積%以下および希釈ガス15体積%以上70体積%以下として、上記原料混合物を還元窒化する還元窒化工程と、上記還元窒化工程で生成した上記窒化アルミニウム粉末が酸化されない雰囲気下において、上記還元窒化工程の加熱温度から±30℃以内の温度を維持したまま、1時間以上保持する保持工程と、を含むことを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、窒化アルミニウム粒子を樹脂に充填した際に、高い熱伝導性を備え、かつ低粘度の樹脂組成物を実現し得る窒化アルミニウム粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の窒化アルミニウム粒子の粒子構造の一態様を示す走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図2】本発明の窒化アルミニウム粒子の一態様を示す概念図である。
【
図3】本発明の窒化アルミニウム粒子の粒子構造の一態様を示す走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図4】本発明の窒化アルミニウム粒子の他の一態様を示す概念図である。
【
図5】本発明の窒化アルミニウム粉末中の窒化アルミニウム粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
<窒化アルミニウム粒子>
本発明の窒化アルミニウム粒子は、倍率500倍の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)写真による観察において、その特徴を確認することができる。例えば、
図1は後述する実施例1において得られた本発明の代表的な窒化アルミニウム粒子の一態様を倍率500倍で撮影したSEM写真である。
【0018】
図2に本発明の窒化アルミニウム粒子の一態様の概念図を示す。本発明の窒化アルミニウム粒子1は、第1の六角錐台1-aの下底面3と、第2の六角錐台1-bの下底面3とを対向させた形状を成している。
【0019】
第1および第2の六角錐台1-a、1-bは、それぞれ六角形面の上底面2と下底面3とを有している。本実施形態では、第1および第2の六角錐台1-a、1-bは、同一の六角錐台である例を示している。しかし、第1の六角錐台1-aと第2の六角錐台1-bとは、異なる六角錐台であってもよい。
【0020】
第1および第2の六角錐台1-a、1-bの上底面2の面積をS1、下底面3の面積をS2としたとき、S1は60μm2以上4800μm2以下であり、面積S2に対するS1の割合(S1/S2)は0.5以上1未満であり、第1の六角錐台1-aの高さh1および第2の六角錐台1-bの高さh2はそれぞれ、5μm以上20μm以下である。
【0021】
面積S1は60μm2以上4800μm2以下であることが好ましく、100μm2以上4750μm2以下であることがより好ましい。S1/S2は0.5以上1未満であることが好ましく、0.6以上0.9未満であることがより好ましく、0.7以上0.8未満であることがさらに好ましい。さらに、高さh1および高さh2はそれぞれ5μm以上20μm以下であることが好ましく、6μm以上18μm以下であることがより好ましい。また、高さh1および高さh2は、下底面3を構成する最長径以下の高さであることが好ましく、上記最長径に対して70%以下の高さであることがより好ましい。
【0022】
また、本発明の窒化アルミニウム粒子の形状は
図2に示す形状のみに限定されず、以下の形状の窒化アルミニウム粒子も含む。
図3に、後述する実施例1において得られた本発明の代表的な窒化アルミニウム粒子の一態様を倍率500倍で撮影したSEM写真を示す。本発明の窒化アルミニウム粒子は
図3に示すように、第1の六角錐台1-aの下底面3と第2の六角錐台1-bの下底面3とが、柱状部1-cを介して対向していてもよい。かかる粒子は、後述する製造方法において
図2に示す構造の粒子と同時に生成されることがある。
【0023】
図4に本発明の窒化アルミニウム粒子の一態様を表す概念図を示す。本発明の窒化アルミニウム粒子10において、第1の六角錐台1-aおよび第2の六角錐台1-bは、それぞれ窒化アルミニウム粒子10の一端部および他端部を構成しており、高さh1と高さh2との合計が、窒化アルミニウム粒子10の高さの90%以上を占めている。
【0024】
高さh1と高さh2との合計は、窒化アルミニウム粒子10の高さの90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。また、高さh1と高さh2との合計が、本発明の窒化アルミニウム粒子の高さの100%を占めていてもよく、その例として、
図2に示す窒化アルミニウム粒子1が挙げられる。
【0025】
面積S1、S1/S2ならびに高さh1およびh2が上記の範囲であれば、本発明の窒化アルミニウム粒子1および10は大粒径であり、多面体形状を有しているため、粒子同士の接触の機会が増加し、熱伝導性が向上する。さらに、多面体を構成する面が平滑であるため、樹脂組成物の粘度の上昇を抑制できる。なお、本明細書において、面積S1およびS2ならびに高さh1およびh2は、後述の実施例に記載の測定方法によって測定された平均値を表す。
【0026】
なお、
図2および
図4の概念図は、本発明の窒化アルミニウム粒子を模式化した概念図である。そのため、各六角錐台1-aおよび1-bは、完璧な六角錐台となっているが、
図1および
図3に示されるように、六角錐台の傾斜した側面が存在していればよく、六角錐台の稜部は多少変形していてもよい。具体的には、
図1および
図3に示すように、六角錐台の底面の稜部が幅を持った面によって形成されていてもよい。さらに具体的には、
図1および
図3に示される完璧な六角錐台の側面の面積に対して、60%以上、好ましくは、70%以上の割合で平坦な側面が存在していればよい。
【0027】
<窒化アルミニウム粉末>
後述の方法によって、本発明の窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末を得ることができる。本発明の窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合は、30体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがさらに好ましい。上記範囲で本発明の窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であれば、本発明の窒化アルミニウム粒子と他の窒化アルミニウム粒子とを選別することなく、これら両方の窒化アルミニウム粒子が含まれる窒化アルミニウム粉末をそのまま使用しても、本発明の窒化アルミニウム粒子の効果を十分発揮することができる。なお、本発明の窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合は、例えばSEM写真のような平面画像から、面積割合を求めて近似的に算出してもよく、実際の体積割合を測定して算出してもよい。
【0028】
<窒化アルミニウム粒子の用途>
本発明の窒化アルミニウム粒子の用途は、特に限定されず、公知の用途に特に制限無く適用可能である。好適に使用される用途を例示するならば、熱伝導性付与等の目的で樹脂に充填する樹脂用フィラーとして使用する用途が挙げられる。本発明の窒化アルミニウム粒子の用途において、このような樹脂用フィラーと樹脂とを含む樹脂組成物は、高い熱伝導性を有する。
【0029】
従って、本発明の窒化アルミニウム粒子は、電子部品の放熱シートまたは放熱ゲルに代表される固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル用のフィラーとして好適に使用することができる。
【0030】
<樹脂>
本発明で使用される樹脂としては、特に制限されず、公知の樹脂を制限なく使用することができる。例えば、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂等の熱硬化性樹脂および合成ゴム等が挙げられる。これら樹脂の1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、本発明の窒化アルミニウム粒子を、上記樹脂の種類に応じて、公知の混合装置により均一に混合し、上記樹脂中に本発明の窒化アルミニウム粒子を分散して存在せしめることによって得られる。上記混合装置としては、例えば、ロール、ニーダ、バンバリーミキサー、自転・公転ミキサー等の通常の混練機が一般に使用される。
【0032】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の窒化アルミニウム粒子の優れた効果を著しく損ねない範囲で、本発明の窒化アルミニウム粉末および樹脂以外の成分が含まれていてもよい。本発明の樹脂組成物に含まれていてもよい成分としては、例えば、本発明の窒化アルミニウム粒子以外の窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ホウ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、炭化ケイ素、グラファイト等のフィラーを一種、あるいは数種類充填してもよく、用途等に応じて、本発明の窒化アルミニウム粉末とそれ以外のフィラーの形状、平均粒径を選択すればよい。
【0033】
<窒化アルミニウム粉末の製造方法>
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法は、一般的な窒化アルミニウム粉末の製造工程に、Na2Oの濃度およびガス組成を所定の範囲に調整する還元窒化工程と、還元窒化工程で生成した窒化アルミニウム粉末を所定の温度で保持する保持工程と、を含んでいる。一般的な窒化アルミニウム粉末の製造工程は、特に制限されないが、例えばアルミナの還元窒化により製造する方法が挙げられる。代表的な製造方法を以下に示す。
【0034】
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、上記原料の一成分であるアルミナ粉末としては、例えばα-アルミナ、γ-アルミナ等の公知のものが使用できる。このうち、α-アルミナが特に好適に使用される。
【0035】
特に、本発明の窒化アルミニウム粒子を高い収率で製造するためには、上記アルミナ中のナトリウム量は、通常使用されているアルミナより低い含量に管理されたアルミナを使用することが好ましく、アルミナ中のNa2O量は0.1%以下が好ましく、0.01~0.05%がより好ましい。また、アルミナ粉末の平均粒径は、0.5~50μmが好ましく、1μm~30μmのものがさらに好適である。
【0036】
また、本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、還元剤として作用するカーボン粉末としては、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等の公知のものが使用できる。その平均粒径は、100nm以下が好適であり、50nm以下のものがより好適である。さらに、カーボン粉末のDBP吸油量は、50~150cm3/100gが好ましく、70~130cm3/100gのものがより好適である。
【0037】
また、本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、本発明の効果を損なわない範囲で、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂縮合物、ピッチ、タール等の炭化水素化合物、セルロース、ショ糖、でんぷん、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレン等の有機化合物等をカーボン源として用いることができる。
【0038】
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、硫黄成分は、後述する還元窒化反応における雰囲気を調整する操作時に作用して本発明の窒化アルミニウム粒子を生成するために必要な成分である。硫黄成分は原料のアルミナ粉末と共融解可能なものであれば、その化合物種は特に限定されない。例えば、硫黄単体、硫化アルミニウム、硫化窒素、チオ尿酸等の硫黄化合物を挙げることができる。また、上記硫黄成分は、単独で或いは複数のものを混合して使用してもよい。また、硫黄成分は、元々カーボン粉末に含まれる場合があり、かかる硫黄成分も、本発明の硫黄成分の一部として作用する。
【0039】
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、カーボン粉末は、過剰量で用いると、アルミナ粒子同士の接触を抑制して粒成長を妨げるので、得られる窒化アルミニウム粒子の粒径が微小化する傾向となる。そのため、カーボン粉末の量は、アルミナ粉末100重量部に対して、好ましくは36重量部以上200重量部以下、より好ましくは40重量部以上100重量部以下の範囲で用いられる。
【0040】
また、本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、アルミナ粉末およびカーボン粉末を含む原料混合物中に存在する硫黄成分の量は、上記アルミナ粉末100重量部に対して、硫黄元素として0.8重量部以上20重量部以下が好ましく、より好ましくは1.0重量部以上10重量部以下であることが特に好ましい。上記硫黄成分の使用量は、上記カーボン粉末に含まれる硫黄の量、および原料混合物中に添加する硫黄粉末および/または硫黄化合物の量を勘案してそれらの量を適宜調整することにより硫黄成分の上記範囲を満足させることができる。上記カーボン粉末に含まれる硫黄の量を勘案して上記範囲を満足させる場合、上記範囲内になるようにカーボン粉末の使用量を調整してもよいし、硫黄含有量の多いカーボン粉末と硫黄含有量の少ないカーボン粉末とを使用し、上記範囲内になるように混合割合を調整してもよい。
【0041】
上記原料混合物を混合する方法としては、これらを均一に混合することが可能な方法であれば特に限定されない。混合するために、例えば振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動攪拌機、V字混合機等の混合機が使用可能である。
【0042】
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法は、上記アルミナ粉末、カーボン粉末および硫黄成分を含む原料混合物を、反応器内で窒素ガス流通下に、好ましくは、1500℃以上2000℃以下の温度範囲で加熱して、上記アルミナ粉末を還元窒化した後、生成した窒化アルミニウム粉末が酸化されない雰囲気下に、上記加熱温度を維持したまま、1時間以上、好ましくは2時間以上、更に好ましくは5時間以上保持する方法が好適である。
【0043】
その際、窒化率が3%以上50%以下の範囲において、上記窒素ガス雰囲気を、窒素ガス85~30体積%および希釈ガス15体積%以上70体積%以下のガス組成として上記還元窒化を行う。
【0044】
上記希釈ガスは、窒素ガス雰囲気における窒素ガスの存在割合を調整する目的でその雰囲気に存在せしめるためのものであり、例えば、一酸化炭素単独、該一酸化炭素の一部をアルゴン等の不活性ガスに置き換えた混合ガスを挙げることができる。なお、一酸化炭素ガスは、還元窒化において発生するが、供給する窒素ガスにおいて、希釈ガス濃度を調整しておくことにより、かかる濃度以上の希釈ガス濃度は維持される。
【0045】
上記製造方法において、供給される窒素ガスに含まれる希釈ガスの割合が増加するほど、還元窒化反応の時間が長くなるため、生産効率を考慮した場合、その上限は70体積%以下とすることが好ましい。また、還元窒化終了後の加熱保持時間の上限は特に制限されないが、10時間程度である。
【0046】
上記方法において、還元窒化反応は、原料混合物を収納する反応容器中に窒素ガスを流通させて行うことが好ましく、この場合、該原料混合物が存在する窒素ガス雰囲気の希釈ガスの存在割合は、反応器より排出される排ガスのガス組成を測定することにより確認することができる。
【0047】
本発明において、上記供給される窒素ガス中の希釈ガスの割合が15体積%未満となると、還元窒化反応が速くなり、十分な粒成長ができず、大粒径化は元より、上記特徴的形状の窒化アルミニウム粒子を得ることが困難となる。
【0048】
本発明において、反応容器内における窒素ガス雰囲気における希釈ガスの割合の調整方法としては、(1)窒素ガスに別途調製した希釈ガスを所定量混合して、原料混合物を、例えば、上面が開口したカーボン容器、所謂、セッターに収納して配置された反応容器に供給する方法、(2)上記セッターに、比較的厚い層を形成するように原料混合物を収納して、上記セッター内に窒素ガスを供給し、上記層の内部への窒素ガスの拡散量を制御することによって、窒素ガス雰囲気における希釈ガスの割合が高い雰囲気を形成する方法、等が挙げられる。
【0049】
(2)の方法において、セッター内の原料混合物の厚みは、10mm以上、特に15mm以上とすることが、セッター内部の空間部に窒素ガスが浸入して還元窒化が進行した場合における希釈ガスの存在割合を上記範囲に調整するために好ましい。また、上記原料混合物の厚みがあまり厚い場合は、窒素ガスが供給され難くなるため、該厚みの上限は、100mm以下とすることが好ましい。
【0050】
本発明の還元窒化工程は、反応雰囲気制御の可能な公知の装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱またはヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、竪型炉等の連続窒化反応炉等を上記方法に応じて適宜使用することができる。
【0051】
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、還元窒化反応後の窒化アルミニウム粉末は余剰のカーボン粉末を含んでいるため、必要に応じて、酸化処理により余剰カーボン粉末を除去するのが好ましい。酸化処理を行う際の酸化性ガスとしては、空気、酸素、二酸化炭素等、炭素を除去できるガスならば制限なく採用できる。また、処理温度は一般的に500℃以上900℃以下が好ましい。
【0052】
本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を更に詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
〔原料の物性〕
実施例および比較例で使用した各種原料の物性を以下に示す。
【0055】
<アルミナ粉末>
α-アルミナA:D50 2.6μm、Na2O 0.04%
α-アルミナB:D50 4.3μm、Na2O 0.26%
<カーボン粉末>
カーボン粉末:平均粒径 19nm、DBP吸収量 116cm3/100g、含有硫黄量 210ppm
<硫黄成分>
硫黄粉末:純度 98%以上
〔窒化アルミニウム粒子の測定方法〕
実施例および比較例における窒化アルミニウム粒子の各種測定方法を以下に示す。
【0056】
<窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合>
窒化アルミニウム粉末中の窒化アルミニウム粒子について、倍率500倍のSEM写真を撮影し、上記写真より、窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合を画像解析により算出した。
【0057】
<六角錐台の上底面および下底面の面積>
窒化アルミニウム粉末中の窒化アルミニウム粒子について、倍率500倍のSEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、TM3030)写真を撮影し、撮影した写真の中から、本発明の窒化アルミニウム粒子を任意に10粒選択し、六角錐台の上底面の面積S1、下底面の面積S2を測定し、平均値を算出した。また、測定したS1、S2からS1/S2比を求めた。さらに、本発明の窒化アルミニウム粒子を任意に10粒選択し、第1の六角錐台の高さh1、第2の六角錐台の高さh2および柱状部の高さh3を測定し、平均値を算出した。
【0058】
〔窒化アルミニウム粉末の製造方法および測定〕
<実施例1>
アルミナ粉末A100重量部およびカーボン粉末50重量部からなる混合物に、該混合物内の硫黄成分量が上記アルミナ粉末100重量部に対し1重量部となるように硫黄粉末を添加し、これらが均一に混合されるまで振動式攪拌機により混合し、原料混合物を得た。
【0059】
上記原料混合物を、カーボン製のセッターに、20mm厚となるように収納し、窒素を流通可能な反応容器内にセットし、窒素ガスを流通させながら、加熱温度1760℃で還元窒化を行った。
【0060】
反応容器に供給する一酸化炭素ガスの割合が32体積%となるように調整しながら還元窒化反応を行い、還元窒化反応終了後、上記加熱温度を維持したまま、10時間保持して、反応容器より反応生成物を取り出した。
【0061】
その後、上記反応生成物を、大気雰囲気において665℃で、8時間加熱して未反応のカーボン粉末を燃焼除去し、実施例1の窒化アルミニウム粉末を得た。原料組成と窒素ガス中の一酸化炭素ガスの割合を表1に示す。
【0062】
前述の方法にて、実施例1の窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合を算出した。さらに、前述の方法にて、実施例1の窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子のS1、S2からS1/S2比を算出し、粒子の高さh1、h2、h3を測定した。
【0063】
<実施例2および3>
実施例1の還元窒化反応を行う際の窒素ガス中の一酸化炭素ガスの割合を変化させ、実施例2および3の窒化アルミニウム粉末とした。それぞれの還元窒化反応を行う際の窒素ガス中の一酸化炭素ガスの割合を表1に示す。前述の方法にて、実施例2および3の窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合を算出した。さらに、窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子のS1、S2からS1/S2比を算出し、粒子の高さh1、h2、h3を測定した。
【0064】
<比較例1>
アルミナ粉末としてアルミナ粉末Bを使用した以外は、実施例1と同様に窒化アルミニウム粉末を作製し、比較例の窒化アルミニウム粉末とした。前述の方法にて、比較例1の窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合を測定した。
【0065】
【表1】
〔結果〕
上記方法により得られた実施例1の窒化アルミニウム粉末に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子のSEM写真を
図1、
図3および
図5に示す。
図5に示すように、本発明の一実施形態に係る範囲の原料を用いて製造された窒化アルミニウム粉末においては、
図1および
図3に示される本発明の窒化アルミニウム粒子が確認された。また、上記方法により、得られた窒化アルミニウム粉末中に含まれる本発明の窒化アルミニウム粒子の割合を算出したところ、40%程度であった。
【0066】
比較例1の窒化アルミニウム粉末のSEM写真を撮影したところ、得られた窒化アルミニウム粉末中には、六角柱の両端に半球状の突出部を有する粒子を含有しているものの、本発明の窒化アルミニウム粒子は含有されていなかった。比較例1の窒化アルミニウム粉末中には、六角柱の両端に半球状の突出部を有する粒子が43%含有していた。
【0067】
一方、実施例1~3の窒化アルミニウム粉末において、上記測定方法に従い、S1、S2、h1、h2およびh3を測定した。比較例1においては、h1、h2およびh3のみを測定した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
〔シリコーン樹脂に充填した際の熱伝導率の対比〕
2液縮合型シリコーン樹脂(信越化学株式会社KE-1013A/B)100重量部に対して、実施例1~3および比較例1で得られた窒化アルミニウム粉末685重量部と、平均粒径1μmの球状窒化アルミニウム(株式会社トクヤマ製)293重量部と、を乳鉢にて混合して樹脂組成物を作製した。このとき、窒化アルミニウム粉末の充填率は75体積%であった。
【0069】
得られた樹脂組成物の一部を金型体に注型し硬化させ、直径1mm、厚さ500μmの試験片を作製し、温度波熱分析装置(株式会社アイフェイズ製ai-Phase Mobile 1u)を用いて熱伝導性を測定した。
【0070】
その結果、熱伝導率は、実施例1は8.3W/mK、実施例2は8.7W/mK、実施例3は、9.2W/mKであった。一方、比較例1の熱伝導率は7.8W/mKであった。
【0071】
また、2液縮合型シリコーン樹脂100重量部に対して、実施例1~3および比較例1で得られた窒化アルミニウム粉末913重量部と、平均粒径1μmの球状窒化アルミニウム391重量部と、を乳鉢にて混合して樹脂組成物を作製した。このとき、窒化アルミニウム粉末の充填率は80体積%であった。
【0072】
得られた樹脂組成物の一部を金型体に注型し硬化させ、直径1mm、厚さ500μmの試験片を作製し、温度波熱分析装置を用いて熱伝導率を測定した。
【0073】
その結果、熱伝導率は、実施例1は9.2W/mK、実施例2は9.5W/mK、実施例3は、10.0W/mKであった。一方、比較例1の熱伝導率は8.9W/mKであった。
【0074】
このように、本発明の窒化アルミニウム粒子を含んだ樹脂組成物の熱伝導率は比較例1に比べ、優れた熱伝導性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、熱伝導性および絶縁耐力に優れた電子部品に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1、10 窒化アルミニウム粒子
1-a 第1の六角錐台
1-b 第2の六角錐台
1-c 柱状部
2 六角錐台の上底面(面積S1)
3 六角錐台の下底面(面積S2)
h1 第1の六角錐台の高さ
h2 第2の六角錐台の高さ