(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】荷電粒子銃、荷電粒子ビームシステム、およびロックナット
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20230926BHJP
H01J 37/04 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J37/04 B
(21)【出願番号】P 2022513729
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015619
(87)【国際公開番号】W WO2021205526
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 照晃
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-113255(JP,U)
【文献】特開平09-329120(JP,A)
【文献】特開2004-327410(JP,A)
【文献】特開2008-251371(JP,A)
【文献】特表2015-509262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/06
H01J 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源が取り付けられたボルトと、
第1面および前記第1面の反対側の第2面を有し、前記荷電粒子源が取り付けられた前記ボルトに螺合することにより前記荷電粒子源を保持するナットと、
前記ナットの前記第2面と接するナット座面と、
を有し、
前記ナットは、
前記第1面、前記第2面、外側面、および内側面と、
前記内側面の一部分に設けられ、前記ボルトと螺合する複数のネジ山が形成された螺合部と、
前記ナットに保持された状態の前記荷電粒子源の前記ナット座面に対する傾斜角度を調整可能な傾斜調整部と、
前記ナットと前記ボルトとの螺合状態が緩むことを抑制するロック部と、
を含み、
前記ナットの前記内側面は、
前記螺合部と、
前記螺合部よりも内径が大きい非螺合部と、
を有し、
前記傾斜調整部は、
前記外側面の一部分から前記非螺合部の一部分までを貫通するように形成された第1スリットと、
傾斜調整ネジと、
前記第1スリットと前記第2面との間に位置する第1部分と、
前記第1スリットと前記第1面との間に位置する第2部分と、
前記傾斜調整ネジが螺合され、前記第2部分において、前記第1面から前記第1スリットまでを貫通するように形成された第1ネジ穴と、
を有し、
前記傾斜調整ネジの先端部が、前記第1スリットを押し広げ、前記第1部分を介して前記ナット座面を押圧することにより、前記ナット座面に対する前記荷電粒子源の傾斜角度が変化する、荷電粒子銃。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロック部は、
前記外側面の一部分から前記螺合部の一部分までを貫通するように形成された第2スリットと、
前記第2スリットと前記第1面との間に位置する第3部分と、
前記第2スリットと前記第2面との間に位置する第4部分と、
ロックネジと、
前記ロックネジが挿入され、前記第3部分において、前記第1面側から前記第2スリットまでを貫通するように形成された第1貫通孔と、
前記ロックネジが螺合され、前記第4部分において、前記第2スリット側から前記第2面に向かって形成された第2ネジ穴と、
を有し、
前記ロックネジを絞め込み、前記第2スリットの間隔を小さくすることにより、前記第3部分および前記第4部分のそれぞれのめねじネジ山の傾斜面が、前記ボルトのおねじネジ山の傾斜面を押圧する、荷電粒子銃。
【請求項3】
請求項2において、
平面視において、前記ロック部と前記傾斜調整部とは、互いに重ならない、荷電粒子銃。
【請求項4】
請求項3において、
前記傾斜調整部の前記第2部分の厚さは、前記第1部分の厚さより厚い、荷電粒子銃。
【請求項5】
請求項4において、前記ロック部の前記第4部分の厚さは、前記第3部分の厚さより厚い、荷電粒子銃。
【請求項6】
請求項3において、
前記第2スリットは、前記第1スリットよりも前記第1面側に配置される、荷電粒子銃。
【請求項7】
請求項1において、
前記傾斜調整部の前記第1部分には、ネジ穴が形成されていない、荷電粒子銃。
【請求項8】
請求項2において、
前記ナットは、互いに離間する複数の前記傾斜調整部を有し、
前記ロック部の前記第2スリットと、複数の前記傾斜調整部のうちの一部の前記第1スリットとは、前記ナットの厚さ方向において部分的に重なる、荷電粒子銃。
【請求項9】
請求項8において、
前記ロック部の前記第2ネジ穴と、複数の前記傾斜調整部のそれぞれの前記第1スリットとは、前記ナットの厚さ方向において重ならない、荷電粒子銃。
【請求項10】
請求項2において、
前記ナットは、
互いに離間する複数の前記傾斜調整部と、
互いに離間する複数の前記ロック部と、
を有する、荷電粒子銃。
【請求項11】
請求項10において、
平面視において、前記傾斜調整部と前記ロック部とは、前記ボルトを螺合するナット穴を介して互いに対向する位置に配置される、荷電粒子銃。
【請求項12】
請求項10において、
複数の前記傾斜調整部のそれぞれの前記第1スリットは、複数の前記ロック部のうちの一部の前記第2スリットと、前記ナットの厚さ方向において部分的に重なる、荷電粒子銃。
【請求項13】
請求項12において、
複数の前記傾斜調整部のそれぞれの前記第1ネジ穴は、複数の前記ロック部のそれぞれの前記第2スリットと、前記ナットの厚さ方向において重ならない、荷電粒子銃。
【請求項14】
荷電粒子銃と、
前記荷電粒子銃から照射された荷電粒子ビームを光学的に処理する光学処理部と、
前記荷電粒子ビームを照射する試料を保持する試料保持部と、
前記光学処理部を制御するコンピュータシステムと、
を有し、
前記荷電粒子銃は、
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源が取り付けられたボルトと、
第1面および前記第1面の反対側の第2面を有し、前記荷電粒子源が取り付けられた前記ボルトに螺合することにより前記荷電粒子源を保持するナットと、
前記ナットの前記第2面と接するナット座面と、
を有し、
前記ナットは、
前記第1面、前記第2面、外側面、および内側面と、
前記内側面の一部分に設けられ、前記ボルトと螺合する複数のネジ山が形成された螺合部と、
前記ナットに保持された状態の前記荷電粒子源の前記ナット座面に対する傾斜角度を調整可能な傾斜調整部と、
前記ナットと前記ボルトとの螺合状態が緩むことを抑制するロック部と、
を含み、
前記ナットの前記内側面は、
前記螺合部と、
前記螺合部よりも内径が大きい非螺合部と、
を有し、
前記傾斜調整部は、
前記外側面の一部分から前記非螺合部の一部分までを貫通するように形成された第1スリットと、
傾斜調整ネジと、
前記第1スリットと前記第2面との間に位置する第1部分と、
前記第1スリットと前記第1面との間に位置する第2部分と、
前記傾斜調整ネジが螺合され、前記第2部分において、前記第1面から前記第1スリットまでを貫通するように形成された第1ネジ穴と、
を有し、
前記傾斜調整ネジの先端部が、前記第1スリットを押し広げ、前記第1部分を介して前記ナット座面を押圧することにより、前記ナット座面に対する前記荷電粒子源の傾斜角度が変化する、荷電粒子ビームシステム。
【請求項15】
請求項14において、
前記ロック部は、
前記外側面の一部分から前記螺合部の一部分までを貫通するように形成された第2スリットと、
前記第2スリットと前記第1面との間に位置する第3部分と、
前記第2スリットと前記第2面との間に位置する第4部分と、
ロックネジと、
前記ロックネジが挿入され、前記第3部分において、前記第1面側から前記第2スリットまでを貫通するように形成された第1貫通孔と、
前記ロックネジが螺合され、前記第4部分において、前記第2スリット側から前記第2面に向かって形成された第2ネジ穴と、
を有し、
前記ロックネジを絞め込み、前記第2スリットの間隔を小さくすることにより、前記第3部分および前記第4部分のそれぞれのめねじネジ山の傾斜面が、前記ボルトのおねじネジ山の傾斜面を押圧する、荷電粒子ビームシステム。
【請求項16】
荷電粒子銃用に用いられるロックナットであって、
第1面と、
前記第1面の反対側の第2面と、
前記第1面および第2面のうち一方から他方に貫通するナット穴と、
前記ナット穴の外縁である内側面と、
前記内側面の反対側の外側面と、
前記内側面の一部分に設けられ、複数のネジ山が形成された螺合部と、
前記第2面が対向するナット座面に対する前記ナット穴の傾斜角度を調整可能な傾斜調整部と、
前記ナット穴に螺合されたボルトの螺合状態が緩むことを抑制するロック部と、
を含み、
前記内側面は、
前記螺合部と、
前記螺合部よりも内径が大きい非螺合部と、
を有し、
前記傾斜調整部は、
前記外側面の一部分から前記非螺合部の一部分までを貫通するように形成された第1スリットと、
傾斜調整ネジと、
前記第1スリットと前記第2面との間に位置する第1部分と、
前記第1スリットと前記第1面との間に位置する第2部分と、
前記傾斜調整ネジが螺合され、前記第2部分において、前記第1面から前記第1スリットまでを貫通するように形成された第1ネジ穴と、
を有し、
前記傾斜調整ネジの先端部が、前記第1部分を介して前記ナット座面を押圧することにより、前記ナット座面に対するナット軸の傾斜角度が変化する、ロックナット。
【請求項17】
請求項16において、
前記ロック部は、
前記外側面の一部分から前記螺合部の一部分までを貫通するように形成された第2スリットと、
前記第2スリットと前記第1面との間に位置する第3部分と、
前記第2スリットと前記第2面との間に位置する第4部分と、
ロックネジと、
前記ロックネジが挿入され、前記第3部分において、前記第1面側から前記第2スリットまでを貫通するように形成された第1貫通孔と、
前記ロックネジが螺合され、前記第4部分において、前記第2スリット側から前記第2面に向かって形成された第2ネジ穴と、
を有し、
前記ロックネジを絞め込み、前記第2スリットの間隔を狭くすることにより、前記第3部分および前記第4部分のそれぞれのめねじネジ山の傾斜面が、前記ボルトのおねじネジ山の傾斜面を押圧する、ロックナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームシステムに関し、荷電粒子源を保持するナットに適用して特に有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2017-228488号公報)には、電子ビームエミッタ装置において、電子ビームの放出方向を調整する方法が記載されている。特許文献2(特開2009-281426号公報)には、工作機械の回転する主軸の回転バランスを調整するロックナットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-228488号公報
【文献】特開2009-281426号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)などの荷電粒子ビームシステムは、試料に対する電子ビーム等の荷電粒子ビームの走査によって得られる荷電粒子(二次電子等)を検出し、画像を形成する。このため、荷電粒子ビームの照射軸の試料に対する傾斜角度は、荷電粒子ビームシステムの性能に大きな影響を及ぼす。
【0005】
また、荷電粒子源をナットにより保持する構造の場合、例えば、装置の振動などの外力に起因して、ナット穴の螺合部に緩みが生じると、荷電粒子源の試料に対する傾斜角度が変化してしまう。
【0006】
本発明の目的は、荷電粒子ビームの照射軸の試料に対する傾斜角度を最適化する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である荷電粒子銃は、荷電粒子源と、前記荷電粒子源が取り付けられたボルトと、第1面および前記第1面の反対側の第2面を有し、前記荷電粒子源が取り付けられた前記ボルトに螺合することにより前記荷電粒子源を保持するナットと、前記ナットの前記第2面と接するナット座面と、を有する。前記ナットは、前記第1面、前記第2面、外側面、および内側面と、前記内側面の一部分に設けられ、前記ボルトと螺合する複数のネジ山が形成された螺合部と、前記ナットに保持された状態の前記荷電粒子源の前記ナット座面に対する傾斜角度を調整可能な傾斜調整部と、前記ナットと前記ボルトとの螺合状態が緩むことを抑制するロック部と、を含む。前記ナットの前記内側面は、前記螺合部と、前記螺合部よりも内径が大きい非螺合部と、を有する。前記傾斜調整部は、前記外側面の一部分から前記非螺合部の一部分までを貫通するように形成された第1スリットと、傾斜調整ネジと、前記第1スリットと前記第2面との間に位置する第1部分と、前記第1スリットと前記第1面との間に位置する第2部分と、前記傾斜調整ネジが螺合され、前記第2部分において、前記第1面から前記第1スリットまでを貫通するように形成された第1ネジ穴と、を有する。前記傾斜調整ネジの先端部が、前記第1部分を介して前記ナット座面を押圧することにより、前記ナット座面に対する前記荷電粒子源の傾斜角度が変化する。
【0008】
本発明の別の一態様である荷電粒子ビームシステムは、荷電粒子銃と、前記荷電粒子銃から照射された荷電粒子ビームを光学的に処理する光学処理部と、前記荷電粒子ビームを照射する試料を保持する試料保持部と、前記光学処理部を制御するコンピュータシステムと、を有する。前記荷電粒子銃は、荷電粒子源と、前記荷電粒子源が取り付けられたボルトと、第1面および前記第1面の反対側の第2面を有し、前記荷電粒子源が取り付けられた前記ボルトに螺合することにより前記荷電粒子源を保持するナットと、前記ナットの前記第2面と接するナット座面と、を有する。前記ナットは、前記第1面、前記第2面、外側面、および内側面と、前記内側面の一部分に設けられ、前記ボルトと螺合する複数のネジ山が形成された螺合部と、前記ナットに保持された状態の前記荷電粒子源の前記ナット座面に対する傾斜角度を調整可能な傾斜調整部と、前記ナットと前記ボルトとの螺合状態が緩むことを抑制するロック部と、を含む。前記ナットの前記内側面は、前記螺合部と、前記螺合部よりも内径が大きい非螺合部と、を有する。前記傾斜調整部は、前記外側面の一部分から前記非螺合部の一部分までを貫通するように形成された第1スリットと、傾斜調整ネジと、前記第1スリットと前記第2面との間に位置する第1部分と、前記第1スリットと前記第1面との間に位置する第2部分と、前記傾斜調整ネジが螺合され、前記第2部分において、前記第1面から前記第1スリットまでを貫通するように形成された第1ネジ穴と、を有する。前記傾斜調整ネジの先端部が、前記第1部分を介して前記ナット座面を押圧することにより、前記ナット座面に対する前記荷電粒子源の傾斜角度が変化する。
【0009】
本発明の別の一態様であるロックナットは、第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第1面および第2面のうち一方から他方に貫通するナット穴と、前記ナット穴の外縁である内側面と、前記内側面の反対側の外側面と、前記内側面の一部分に設けられ、複数のネジ山が形成された螺合部と、前記第2面が接するナット座面に対する前記ナット穴の傾斜角度を調整可能な傾斜調整部と、前記ナット穴に螺合されたボルトの螺合状態が緩むことを抑制するロック部と、を含む。前記内側面は、前記螺合部と、前記螺合部よりも内径が大きい非螺合部と、を有する。前記傾斜調整部は、前記外側面の一部分から前記非螺合部の一部分までを貫通するように形成された第1スリットと、傾斜調整ネジと、前記第1スリットと前記第2面との間に位置する第1部分と、前記第1スリットと前記第1面との間に位置する第2部分と、前記傾斜調整ネジが螺合され、前記第2部分において、前記第1面から前記第1スリットまでを貫通するように形成された第1ネジ穴と、を有する。前記傾斜調整ネジの先端部が、前記第1部分を介して前記ナット座面を押圧することにより、前記ナット座面に対するナット軸の傾斜角度が変化する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、荷電粒子ビームの照射軸の試料に対する傾斜角度を最適化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施の形態である荷電粒子ビームシステムの一例である走査電子顕微鏡の構成例を示す説明図である。
【
図2】
図1に示す荷電粒子銃の調整リング台内に収容されたナットおよび荷電粒子源の位置関係を示す平面図である。
【
図3】
図2のA-A線に沿ったナットの断面図である。
【
図4】
図3に示す傾斜ネジ、ロックネジ、ボルト、および荷電粒子源を取り除いた状態を示す断面図である。
【
図5】
図3に示すロックネジを絞め込んだ状態を示す断面図である。
【
図6】
図5に示す傾斜調整ネジがスリットの下の部分に接した状態を示す断面図である。
【
図7】
図6に示す傾斜調整ネジをさらに締め込み、スリットの下の部分を介してナット座面を押圧した状態を示す断面図である。
【
図8】
図7に示すナットに対する検討例を示す断面図である。
【
図9】
図2に示すナットにおいて、
図3に示すロック部のスリットおよび傾斜調整部のスリットが配置される範囲を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一または関連する符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0013】
また、以下の実施の形態の説明では、荷電粒子ビームシステムとして、電子ビームを使用した走査電子顕微鏡(SEM)に、本開示を適用した例を示す。しかし、この実施の形態は限定的に解釈されるべきではなく、例えば、イオンビーム等の荷電粒子ビームを使用するシステム、また一般的な観察システムに対しても、本開示は適用され得る。
【0014】
また、以下に説明する実施形態では、走査型電子顕微鏡の一例として、試料(半導体ウェハ)上のパターンを計測するパターン計測装置を例にとって説明するが、「走査型電子顕微鏡」とは、電子ビームを用いて試料の画像を撮像する装置を広く含むものとする。走査型電子顕微鏡のその他の例としては、走査型電子顕微鏡を用いた検査装置、レビュー装置、汎用の走査型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡を備えた試料加工装置や試料解析装置等が挙げられ、本開示はこれらの装置にも適用が可能である。また、以下に説明する実施形態において走査型電子顕微鏡とは、上記走査型電子顕微鏡がネットワークで接続されたシステムや上記走査型電子顕微鏡を複数組み合わせた複合装置をも含むものとする。
【0015】
また、以下に説明する実施形態において「試料」とは、パターンが形成された半導体ウエハを一例として説明するが、これに限られるものではなく、表示デバイスや磁気デバイス用の基板、金属、セラミックス、生体試料等であっても良い。
【0016】
(実施の形態1)
<荷電粒子ビームシステムの構成>
まず、
図1を用いて荷電粒子ビームシステムの構成例について説明する。以下では、荷電粒子ビームシステムの代表例として、走査電子顕微鏡を取り上げて説明する。
図1は、本実施の形態の荷電粒子ビームシステムの一例である走査電子顕微鏡の構成例を示す説明図である。
【0017】
図1に示す走査電子顕微鏡100は、荷電粒子ビームを照射する荷電粒子銃110と、荷電粒子銃110から照射された荷電粒子ビーム101を光学的に処理する光学処理部120と、荷電粒子ビームを照射する試料131を保持する試料保持部130と、光学処理部120による光学処理を制御するコンピュータシステム140と、を有する。
【0018】
走査電子顕微鏡100は、試料保持部130に保持された試料131(半導体ウエハ)に対して荷電粒子ビーム101を走査することにより得られる荷電粒子(例えば二次電子102や後方散乱電子)を検出する。また、走査電子顕微鏡100は、例えば、荷電粒子の検出結果に基づいてコンピュータシステム140の画像処理部142で画像信号を生成し、表示装置143に出力する。
【0019】
図1に示すように、荷電粒子銃110は、荷電粒子源111、荷電粒子源111を保持するナット112、およびナット112を支持するナット座113を有する。また、光学処理部120は、集束レンズ121、偏向器122、対物レンズ123、および二次電子検出器(検出部)124を含む。
【0020】
コンピュータシステム140は、荷電粒子銃110の動作、光学処理部120の動作、および検出された信号の処理を制御するコンピュータ141を含む。また、コンピュータシステム140は、二次電子検出器124で検出された信号を画像処理し、画像信号として出力する画像処理部142を含む。また、コンピュータシステム140は、画像処理部で生成された画像信号を画像として表示する表示装置143を含む。また、コンピュータシステム140は、コンピュータ141に対してコマンド信号やデータ信号を入力するキーボードやマウスなどの入力部144を含む。
【0021】
走査電子顕微鏡100を用いた試料131の観察方法は、以下である。まず、試料保持部130上に試料131を配置する。試料保持部130は、水平方向に移動可能な移動式ステージであり、試料131をステージ上に保持した状態で、水平移動させることにより、試料131の任意の位置を観察することができる。
【0022】
例えば、試料131として半導体デバイスに形成された集積回路のパターンを観察し、検査する場合、荷電粒子銃110、光学処理部120、およびコンピュータシステム140の動作条件などが記憶された、レシピと呼ばれるプログラムが予め作成される。このレシピは、入力部144を介してコンピュータ141に入力される。
【0023】
試料131の観察処理が開始されると、コンピュータシステム140のコンピュータ141から出力される駆動信号に基づいて荷電粒子銃110の荷電粒子源111において荷電粒子ビーム101が形成され、試料131に向かって照射される。また、光学処理部120は、気密な空間になっており、排気ポンプ150と接続されている。試料131の観察処理を開始する前から排気ポンプ150が稼働し、光学処理部120の内部の空間を減圧状態で維持する。このため、荷電粒子源111で形成された荷電粒子ビーム101が試料131の表面に到達するまでの間、荷電粒子ビーム101と他の粒子とが衝突することを抑制できる。
【0024】
荷電粒子源111から照射された荷電粒子ビーム101は、集束レンズ121で集束される。次に、荷電粒子ビーム101は、偏向器122で走査、偏向される。次に荷電粒子ビーム101は、対物レンズ123により試料131の表面に集束される。試料131からは、二次電子102や図示しない後方散乱線が放出され、これらの荷電粒子は、検出部により検出される。
図1では、試料131から放出された荷電粒子を検出する検出部の一例として、二次電子102を検出する二次電子検出器124を図示している。ただし、検出部により検出される荷電粒子には、種々の変形例がある。例えば、荷電粒子として後方散乱電子を検出する場合には、図示しない後方散乱電子検出器を検出部として含む場合もある。
【0025】
走査電子顕微鏡100は、試料131の表面上において、荷電粒子ビーム101が集束する位置を2次元的に走査する。試料保持部130の水平移動、および偏向器122による偏向を利用して試料131の任意の位置を2次元的に走査することが実現される。このような2次元走査を複数回に亘って実施すると、検出された二次電子102などの荷電粒子のデータを画像データに変換することが可能となる。画像処理部142は、二次電子102などの荷電粒子のデータと、2次元走査のデータとに基づいて画像データを生成する。画像処理部142で生成された画像データはコンピュータ141を介して表示装置143に出力される。作業者は、表示装置143に表示された画像として、試料131の状態を観察することができる。
【0026】
図1に示す走査電子顕微鏡100を含む荷電粒子ビームシステムには、高い拡大倍率と、高い計測再現性が要求される。近年、試料131の検査対象物の微細化、高集積化が進んだことに伴って、荷電粒子ビームシステムに対して、より広範囲に亘って計測可能であり、かつ、各計測点においてより高精度な計測ができる性能が要求される。
【0027】
このように、荷電粒子ビームシステムによる計測精度を向上させる場合、荷電粒子源111から照射される荷電粒子ビーム101の照射軸の試料131に対する傾斜角度は、荷電粒子ビームシステムの計測精度に大きな影響を及ぼす。例えば、荷電粒子銃110内に荷電粒子源111を取り付ける際に、荷電粒子源111の取り付け角度によっては、同じレシピで走査電子顕微鏡100を動作させたとしても計測性能が低下する場合がある。また、荷電粒子銃110内に保持された荷電粒子源111が、振動や衝撃などの外力に起因して動いてしまうと、計測に支障をきたす。
【0028】
そこで、
図1に示す走査電子顕微鏡100を含む荷電粒子ビームシステムは、荷電粒子源111から照射される荷電粒子ビーム101の照射軸の試料131に対する傾斜角度を調整する機能を備えていることが好ましい。また、走査電子顕微鏡100を含む荷電粒子ビームシステムは、傾斜角度が調整された後、この傾斜角度が変化してしまうことを抑制する機能を備えていることが好ましい。以下、走査電子顕微鏡100が備える荷電粒子銃110が備える機能について、詳細に説明する。
【0029】
<荷電粒子銃>
図2は、
図1に示す荷電粒子銃の調整リング台内に収容されたナットおよび荷電粒子源の位置関係を示す平面図である。
図2は平面図であるが、調整リング台114と、ナット112と、荷電粒子源111との位置関係とを示すため、調整リング台114については、水平方向に沿って切断した断面を示し、荷電粒子源111は点線で示している。
図3は、
図2のA-A線に沿ったナットの断面図である。ただし、
図3において、ボルト116、荷電粒子源111、傾斜調整ネジ22、およびロックネジ34のそれぞれは、側面図として示している。
図4は、
図3に示す傾斜ネジ、ロックネジ、ボルト、および荷電粒子源を取り除いた状態を示す断面図である。
【0030】
図2に示すように、本実施の形態の荷電粒子銃110は、荷電粒子源111と、荷電粒子源111が取り付けられたボルト116と、ナット112と、ナット座面113t(
図3参照)と、を有する。ナット112は、上面112tおよび上面112tの反対側の下面112b(
図3参照)を有する。ナット112は、荷電粒子源
111が取り付けられたボルト116に螺合することにより荷電粒子源111を保持する。
図3に示すように、ナット座113は、ナット112の下面112bと対向するナット座面113tを有する。
【0031】
また、ナット112は、上面112t、下面112b、外側面112s1、および内側面112s2と、内側面112s2の一部分に設けられ、ボルト116と螺合する複数のネジ山51(
図4参照)が形成された螺合部50(
図4参照)と、を含む。また、ナット112は、
図3に示すように、ナット112に保持された状態の荷電粒子源111のナット座面113tに対する傾斜角度を調整可能な傾斜調整部20と、ナット112とボルト116との螺合状態が緩むことを抑制するロック部30と、を含む。
【0032】
図4に示すように、ナット112の内側面112s2は、螺合部50と、螺合部50よりも内径が大きい非螺合部40(
図4参照)と、を有する。
図3に示すように、傾斜調整部20は、外側面112s1の一部分から非螺合部40(
図4参照)の一部分までを貫通するように形成されたスリット21と、傾斜調整ネジ22と、スリット21と下面112bとの間に位置する部分23と、スリット21と上面112tとの間に位置する部分24と、傾斜調整ネジ22が螺合され、部分24において、上面112tからスリット21までを貫通するように形成されたネジ穴25と、を有する。
【0033】
図4に示す例では、非螺合部40には、複数のネジ山51が形成されていない。また、螺合部50および非螺合部40のそれぞれは、ナット112のナット穴112Hを構成する。以下の説明において、ナット穴112Hの中心線(仮想線)のことをナット軸112cとして説明する。ナット穴112Hのうち、螺合部50のナット軸112cは、
図1に示す荷電粒子ビーム101の照射軸と一致する。このため、
図4に示す螺合部50のナット軸112cの傾斜角度を変化させることにより、
図1に示す荷電粒子ビーム101の照射軸の傾斜角度を変化させることができる。
【0034】
後述する
図6に示すように、本実施の形態のナット112の場合、傾斜調整ネジ22の先端部が、部分23を介してナット座面113tを押圧することにより、ナット座面113tに対する荷電粒子源111の傾斜角度が変化する。このように、ロック部30を有し、かつ、ナット座面113tに対する荷電粒子源111の傾斜角度を調整可能な傾斜調整部を備えていることにより、
図1に示す荷電粒子ビーム101の照射軸の試料131に対する傾斜角度を最適化することが可能である。すなわち、
図1に示すように、荷電粒子銃110を備える走査電子顕微鏡100の場合、ナット112が傾斜調整部20(
図3参照)を備えているので、荷電粒子ビーム101の照射軸の試料131に対する傾斜角度を調整することができる。また、ナット112がロック部30を備えているので、ロック部30により、ナット112とボルト116(
図3参照)との螺合状態が緩むことを抑制することができる。このようにボルト116がナット112にロックされた状態で、
図3に示すナット座面113tに対する荷電粒子源111の傾斜角度を調整することにより、傾斜角度の調整精度を向上させることができる。また、ボルト116がナット112にロックされた状態で、
図3に示すナット座面113tに対する荷電粒子源111の傾斜角度を調整することにより、調整後に傾斜角度が変わってしまうことを抑制できる。
【0035】
また、ロック部30は、ナット112とボルト116(
図3参照)との螺合状態が緩むことを抑制することができれば種々の態様を適用することができる。
図3に示す例では、ロック部30は、外側面112s1の一部分から螺合部50(
図4参照)の一部分までを貫通するように形成されたスリット31と、スリット31と上面112tとの間に位置する部分32と、スリット31と下面112bとの間に位置する部分33と、を有する。また、ロック部30は、ロックネジ34と、ロックネジ34が挿入され、部分32において、上面112t側からスリット31までを貫通するように形成された貫通孔35と、ロックネジ34が螺合され、部分33において、スリット31側から下面112bに向かって形成されたネジ穴36と、を有する。後述する
図5に示すように、本実施の形態のナット112の場合、ロックネジ34を絞め込み、スリット31の間隔を狭くすることにより、部分32および部分33のそれぞれのネジ山51の傾斜面が、ボルト116のネジ山52の傾斜面を押圧する。
【0036】
<ロック部の動作>
次に、
図3に示すロック部30の動作について説明する。
図5は、
図3に示すロックネジを絞め込んだ状態を示す断面図である。
【0037】
図5に示すように、荷電粒子源
111の傾斜角度を調整する場合、まず、ロック部30により、ナット112とボルト116との螺合強度を向上させることが好ましい。ロックネジ34を絞める方向に回転させると、矢印34Dとして示す方向にロックネジ34が挿入される。この時、ロック部30の部分33にはネジ穴36が形成されているが、部分32にはネジ穴が形成されていない。このため、ロックネジ34の頭部とナット112の部分32とが接触した後、さらにロックネジ34を絞め込むと、スリット31の間隔が狭くなる。このように、スリット31の間隔がロックネジ34によって狭められることにより、部分32のネジ山
51の傾斜面が、ボルト116のネジ山
52の傾斜面に近づく。最終的には矢印を付して示すように、部分32および部分33のそれぞれのネジ山
51の傾斜面が、ボルト116のネジ山
52の傾斜面を押圧する押圧力53が作用する。これにより、ボルト116はナット112にロックされる。この場合、仮に、荷電粒子銃110に振動や衝撃などの外力が印加された場合でも、この外力に起因してボルト116とナット112との螺合状態が緩むことを抑制できる。
【0038】
また、
図5に示す方法でボルト116とナット112とをロックする場合、ロックネジ34は、ナット112の厚さ方向、言い換えれば、ナット112の上面112tから下面112bに向かう方向に挿入される。本実施の形態のロック部30の構造は下記の点で好ましい。
【0039】
図2に示すように、調整リング台114には4本のナット位置調整ネジ117が挿入されている。平面視におけるナット112の位置は、ナット位置調整ネジ117により調整される。また、調整リング台114とナット112との間の空間の体積は狭い。この場合、ナット112の外側面112s1側からロックネジ34や工具を挿入することは困難である。一方、
図3に示すように、ナット112の場合、ナット112の上面112t側からロックネジ34を挿入するので、ロック部30による、ボルト116とナット112とのロックの程度を容易に調整できる。
【0040】
<傾斜調整部の動作>
次に、
図5に示す傾斜調整部20の動作について説明する。
図6は、
図5に示す傾斜調整ネジがスリットの下の部分に接した状態を示す断面図である。
図7は、
図6に示す傾斜調整ネジをさらに締め込み、スリットの下の部分を介してナット座面を押圧した状態を示す断面図である。
【0041】
図6に示すように、傾斜調整ネジ22は、頭部がない所謂、棒ネジである。このため、傾斜調整ネジ22を締まる方向に回転させると、矢印22Dとして示すように、傾斜調整ネジ22は、部分24の下方に向かって進み、部分24の下面から先端部が突出し、部分23の上面に接触する。この状態からさらに傾斜調整ネジ22を締まる方向に回転させると、
図7に示すように傾斜調整ネジ22のうち、部分24から突出した部分の長さが長くなる。部分23には、ネジ穴25が形成されていない。このため、傾斜調整ネジ22は、部分23を下方に押圧する。また、部分23の下面(すなわち、ナット112の下面112b)は、ナット座113のナット座面113tに支持されている。このため、傾斜調整ネジ22に押圧されて部分23が弾性変形したとき、部分23の位置は変化し難く、逆に部分24に対しては、
図7に矢印を付して示す力26が作用する。この力26の作用により、部分24は、上方に押し上げられる。この結果、
図7に示すように螺合部50(
図4参照)のナット軸112cは、ナット座113のナット座面113tに対して直交しない角度で傾斜する。
【0042】
また、この時、ロック部30のロックネジ34はネジ穴36に絞め込まれた状態にある。このため、
図7に示すように押圧力53は、継続的に作用しており、傾斜角度が変化する際にボルト116とナット112との螺合状態が緩むことを抑制できる。このように、ナット112の場合、ナット軸112cのナット座面113tに対する傾斜角度を調整することにより、
図1に示す荷電粒子ビーム101の照射軸の試料131に対する傾斜角度を調整することができる。
【0043】
ところで、傾斜調整部20の構造に関し、本願発明者は、
図8に示すナット112Nの構造について検討した。
図8は、
図7に示すナットに対する検討例を示す断面図である。
図8に示すナット112Nは、
図7に示すスリット21および部分23を有していない点で
図7に示すナット112と相違する。
【0044】
ナット112Nの場合、
図7に示すスリット21および部分23を有していないので、
図8に示すように、傾斜調整ネジ22の先端が、直接的にナット座面113tを押圧する。この場合でも、ナット112の傾斜調整部20を押し上げる力26は作用する。ただし、ナット112とは別体に形成されたナット座113の一部分を局所的に押圧するため、ナット座113上でナット112を滑らせて荷電粒子源11の水平位置を調整する過程で、ナット座面113tの一部が削られ、表面が荒れる。また、傾斜調整ネジ22の先端面が同一平面上にあるのは傾斜していない時に限られ、傾斜させた場合は傾斜調整ネジ22毎に独立した面を構成する。この場合、ナット座面113tに接する面は均一にならず、受ける荷重も不均一になる。しかし、座面の荒れや傾斜調整ネジ22先端の接触状態によって調整力(座面の摩擦力)が変わるのは好ましくない。
【0045】
一方、
図7に示すナット112の場合、傾斜調整ネジ22の先端が押圧するのは部分24と一体に形成されたナット112の部分23である。このため、力26が作用すると、部分23が弾性変形することによりスリット21の間隔を広げたときでも、ナット座113との接触状態は変化しにくい。また、ナット112の場合、スリット21の近傍が弾性変形することによりナット軸112cが傾斜するので、傾斜調整ネジ22を緩める方向に回転させれば、簡単に
図6に示す元の形状に戻すことができる。また、ナット座113のナット座面113tは、部分23を介して傾斜調整ネジ22に押圧されるが、ナット座面113tには、ナット112の下面112bが接触しており、傾斜調整ネジ22は接触しない。このため、傾斜調整ネジ22を介して伝達される応力が広範囲に分散される。
【0046】
<ナットの詳細構造>
次に、
図1~
図7に示すナット112の好ましい構造について説明する。
図9は、
図2に示すナットにおいて、
図3に示すロック部のスリットおよび傾斜調整部のスリットが配置される範囲を示す平面図である。
図9は平面図であるが、スリット21および31の範囲を明示するため、スリット21および31にハッチングを付している。また、
図9では、
図3に示すロック部30および傾斜調整部20以外のスリット21および31については図示を省略している。
【0047】
図7に示す傾斜調整ネジ22を絞め込むことにより生じる力26により、ナット112が弾性変形範囲内で変形量を大きくする観点からは、
図9に示すように、平面視において、スリット21が、広範囲に形成され、効果的に変形させるにはその中央付近にネジ穴25が形成されることが好ましい。同様に、
図5に示すロックネジ34を絞め込むことにより、ナット112の部分32が弾性変形をしやすいようにする観点からは、
図9に示すように、平面視において、スリット31が、広範囲に形成され、その中央付近に貫通孔35が形成されることが好ましい。この場合、スリット21および31の大きさによっては、平面視において、スリット21とスリット31とが重なる場合もある。
【0048】
本実施の形態のナット112の場合、
図9に示すように、平面視において、ロック部30と傾斜調整部20は、互いに重ならない。ロック部30のロックネジ34と傾斜調整部20の傾斜調整ネジ22とが互いに重ならないように配置することで、ロック部30の動作および傾斜調整部20の動作が互いに干渉することを抑制できる。
【0049】
また、
図6に示すように、傾斜調整部20の部分24の厚さ(上面112tからスリット21までの距離)は、部分23の厚さ(スリット21から下面112bまでの距離)より厚い。言い換えれば、ナット112の厚さ方向において、スリット21は、中央よりも下面112b側に配置される。部分24の曲げ強度は、部分24の厚さに比例して大きくなる。
図7に示す力26に起因して、部分24が意図しない箇所で変形し、ネジ山51のねじ機能を損なうことを防止する観点から、部分24の厚さは厚い方が好ましい。また、部分23の厚さを厚くすると、
図4に示す非螺合部40の厚さが厚くなる。このため、ナット112の厚さを一定とすると、非螺合部40の厚さが厚くなれば螺合部50の厚さは薄くなる。
図6に示すボルト116とナット112との螺合強度を向上させるためには、螺合部50の厚さを厚くすることが好ましい。ただし、図示は省略するが、本実施の形態に対する変形例として、傾斜調整部20の部分24の厚さが、部分23の厚さより薄い場合もある。
【0050】
また、ロック部30の部分32の厚さ(上面112tからスリット31までの距離)は、部分33の厚さ(スリット31から下面112bまでの距離)より薄い。言い換えれば、ナット112の厚さ方向において、スリット31は、中央よりも上面112t側に配置されている。ロックネジ34に螺合されるネジ穴36は、部分33のみに形成され、部分32には形成されない。したがって、ネジ穴36の長さを長くするためには、部分33の厚さが部分32の厚さよりも厚い方が有利である。ロック部30は、ロックネジ34の締め込み具合によって押圧力53の程度を調整する。この場合、ネジ穴36の長さを長くすることにより、押圧力53の調整マージンを大きくとることができる。ただし、図示は省略するが、本実施の形態に対する変形例として、ロック部30の部分33の厚さが、部分32の厚さより薄い場合もある。
【0051】
また、
図6に示すスリット21とスリット31との位置関係は、以下のように表現することができる。すなわち、ナット112の厚さ方向において、スリット31は、スリット21よりも上面112t側に配置される。ただし、図示は省略するが、本実施の形態に対する変形例として、ナット112の厚さ方向において、スリット21が、スリット31よりも上面112t側に配置される場合もある。
【0052】
また、
図6に示すように、部分23には、ネジ穴などの窪みが形成されていない。言い換えると、部分23の上面は、部分24の上面よりも平坦である。
図6に対する変形例として、部分23のうち、傾斜調整ネジ22が接する領域に、図示しないネジ穴などの窪みが形成されていてもよい。部分23にネジ穴などの窪みが形成されていたとしても、窪みが部分23を厚さ方向に貫通していなければ、傾斜調整ネジ22とナット座面113tとの接触を防止することができる。ただし、部分23が傾斜調整ネジ22により押圧される部分の厚さが薄くなると、その薄い部分に応力が集中し易い。したがって、部分23の応力集中による損傷を抑制する観点からは、
図6に示すように部分23にネジ穴を含む窪みが形成されていないことが好ましい。
【0053】
図10は、
図4に示すナットの斜視図である。
図10に示すように、ナット112は、互いに離間する複数の傾斜調整部20を有する。
図10に示す例は、3回軸対
称の例で、複数の傾斜調整部20は、傾斜調整部20A、20Bおよび20Cを含む。傾斜調整部20A、20Bおよび20Cのそれぞれは、
図2~
図7および
図9を用いて説明したスリット21、傾斜調整ネジ22、部分23、24、およびネジ穴25を有している。一つのナット112が複数の傾斜調整部20を有している場合、傾斜調整部20が1個のみの場合と比較して、傾斜方向の調整精度を向上させることができる。また、
図10に示すように3個の傾斜調整部20を有している場合、平面視において、3個の傾斜調整部20をバランスよく配置することにより、傾斜角度を微調整することができる。ただし、図示は省略するが、本実施の形態に対する変形例として、一つのナット112が備える傾斜調整部20の数が1個または2個、あるいは4個以上の場合もある。
【0054】
また、ナット112は、互いに離間する複数のロック部30を含む。
図10に示す例は、3回軸対
称の例で、複数のロック部30は、ロック部30A、30B、および30Cを含む。ロック部30A、30B、および30Cのそれぞれは、
図2~
図7および
図9を用いて説明したスリット31、部分32、33、ロックネジ34、貫通孔35、およびネジ穴36を有している。一つのナット112が複数のロック部30を有している場合、ロック部30が1個のみの場合と比較して、ナット112とボルト116(
図6参照)との螺合強度を向上させることができる。
【0055】
また、
図10に示すように3個のロック部30を有している場合、平面視において、3個のロック部30をバランスよく配置することにより、
図6に示す押圧力53をバランスよく付与することができる。ただし、図示は省略するが、本実施の形態に対する変形例として、一つのナット112が備えるロック部30の数が1個または2個、あるいは4個以上の場合もある。また、
図10に示すように傾斜調整部20の数とロック部30の数とは、同数である。ロック部に干渉することなく傾斜調整ネジ22を配置するには、傾斜調整部20の数とロック部30の数とが同数であることが好ましい。ただし、変形例として、傾斜調整部20の数とロック部30の数とが異なっている場合もある。
【0056】
図10に示すように、ロック部30Aのスリット31と、複数の傾斜調整部20のうちの一部(傾斜調整部20Bおよび20C)のスリット21とは、ナット112の厚さ方向において部分的に重なる。また、ロック部30Bのスリット31と、複数の傾斜調整部20のうちの一部(傾斜調整部20Aおよび20C)のスリット21とは、ナット112の厚さ方向において部分的に重なる。また、ロック部30Cのスリット31と、複数の傾斜調整部20のうちの一部(傾斜調整部20Aおよび20B)のスリット21とは、ナット112の厚さ方向において部分的に重なる。
【0057】
図6、
図7、および
図9を用いて説明したように、傾斜調整部20の部分24(
図7参照)が弾性変形範囲において変形量、すなわち傾斜角を増やすためには、スリット21が配置される範囲は広い方が好ましい。
図10に示すナット112のように複数の傾斜調整部20を含む場合には、ロック部30Aのスリット31が、傾斜調整部20Bおよび20Cのスリット21と重なる程度の大きさになっていることが好ましい。
【0058】
また、
図10に示す例では、ロック部30Aのネジ穴36(
図6参照)と、複数の傾斜調整部20のそれぞれのスリット21とは、ナット112の厚さ方向において重ならない。
図10では、
図6に示すネジ穴36が視認できない位置にあるが、
図6に示すように、ネジ穴36は、貫通孔35の直下にあるので、ナット112の厚さ方向においてロック部30Aのネジ穴36は、複数の傾斜調整部20のそれぞれのスリット21と重ならないことは明らかである。同様に、
図10に示すロック部30Bのネジ穴36(
図6参照)と、複数の傾斜調整部20のそれぞれのスリット21とは、ナット112の厚さ方向において重ならない。また、ロック部30Cのネジ穴36(
図6参照)と、複数の傾斜調整部20のそれぞれのスリット21とは、ナット112の厚さ方向において重ならない。ロック部30と傾斜調整部20との相互の影響を低減する観点から、ロック部30A、30B、および30Cのネジ穴36が、スリット21と重ならないことが好ましい。ただし、図示は省略するが、本実施の形態に対する変形例として、ロック部30A、30B、あるいは30Cのネジ穴36が、スリット21と重なる場合もある。
【0059】
また、
図10に示すように、平面視において、傾斜調整部20Aとロック部30Aとは、ボルト116(
図6参照)を螺合するナット穴112Hを介して互いに対向する位置に配置される。同様に、傾斜調整部20Bとロック部30Bとは、ボルト116を螺合するナット穴112Hを介して互いに対向する位置に配置される。傾斜調整部20Cとロック部30Cとは、ボルト116を螺合するナット穴112Hを介して互いに対向する位置に配置される。このように配置することで、複数の傾斜調整部20および複数のロック部30をバランスよく配置することができるので、複数の傾斜調整部20および複数のロック部30の相互干渉を抑制することができる。ロック機能と傾斜機能を最適化しながら互いの機能干渉を回避できる利点を有する。
【0060】
また、傾斜調整部20Aのスリット21は、複数のロック部30のうち、ロック部30Bおよび30Cのスリット31と、ナット112の厚さ方向において部分的に重なる。傾斜調整部20Bのスリット21は、複数のロック部30のうち、ロック部30Aおよび30Cのスリット31と、ナット112の厚さ方向において部分的に重なる。傾斜調整部20Cのスリット21は、複数のロック部30のうち、ロック部30Aおよび30Bのスリット31と、ナット112の厚さ方向において部分的に重なる。
【0061】
図6、
図7、および
図9を用いて説明したように、傾斜調整部20の部分24(
図7参照)が弾性変形しやすいようにするためには、スリット21が配置される範囲は広い方が好ましい。また、ロック部30は、ロックネジ34を絞め込むことにより、主に部分33を弾性変形させて、部分32と部分33との離間距離(すなわちスリット31の間隔)を小さくすることで、ナット112とボルト116との螺合強度を向上させるものである。したがって、部分32および33を弾性変形しやすくするためには、スリット31が配置される範囲は広い方が好ましい。
図10に示すナット112のように複数のロック部30および複数の傾斜調整部20を含む場合には、複数の傾斜調整部20のそれぞれのスリット21が、複数のロック部30のうちの一部のスリット31と、ナット112の厚さ方向において部分的に重なる程度の大きさになっていることが好ましい。
【0062】
また、
図10に示すナット112の場合、複数の傾斜調整部20のそれぞれのネジ穴25は、複数のロック部30のそれぞれのスリット31と、ナット112の厚さ方向において重ならない。ナット112の変形例としては、ネジ穴25がスリット31と重なる場合もあり得るが、この場合、傾斜調整ネジ22(
図6参照)の長さによっては、傾斜調整ネジ22がスリット31を跨いで部分32(
図6参照)と部分33(
図6参照)とを連結する場合がある。詳しくは、傾斜調整ネジ22の長さが長い場合には、部分32と部分33とを連結する可能性がある。部分32と33とが連結された状態で、
図6に示すロックネジ34を絞め込んだ場合、傾斜調整ネジ22により連結された部分の周辺は、弾性変形し難い状態なっている。
図10に示すナット112の場合、複数の傾斜調整部20のそれぞれのネジ穴25が、複数のロック部30のそれぞれのスリット31と、ナット112の厚さ方向において重ならないように構成することにより、ロック部30の機能が傾斜調整ネジ22により阻害されることを防止できる。
【0063】
また、
図6に示すロック部30および傾斜調整部20のそれぞれは、ネジ穴にネジを絞め込むことによりその機能を果たすものであるが、用途が異なるので、用途に応じて要求される部品サイズが異なる。例えば、ロック部30の場合、ロックネジ34を絞め込むことにより、ロックネジ34の周辺のスリット21の間隔が狭くなればよいので、ネジ穴36の直径(ネジ穴36のネジ山の頂点間の距離)は小さくてもよい。一方、傾斜調整部20の場合、傾斜調整ネジ22の先端面で部分23を押圧するので、傾斜調整ネジ22の太さは太い方がよい。このため、傾斜調整ネジ22が螺合されるネジ穴25の直径(ネジ穴25のネジ山の頂点間の距離)は大きい方が好ましい。これらを考慮すると、
図6に示すように、ネジ穴25の直径は、ネジ穴36の直径よりも大きい方が好ましい。
【0064】
また、
図4に示す例では、ロック部30の部分32の上面(ナット112の上面112t)には、貫通孔35よりも直径が大きい座グリ部37が形成されている。このように座グリ部37を設けることにより、
図6に示すように、ロックネジ34の頭部(直径が大きくなっている部分)を座グリ部37内に収容することができる。
図6に示す例の場合、ロックネジ34の頭部がナット112の上面112tから突出しないように構成されている。
図6に示す構造の場合、例えば、ナット112の上面112tの高さを基準面として計測する場合に、ロックネジ34の頭部が高さ計測を阻害することを防止できる。
【0065】
なお、
図1~
図7、
図9、および
図10を用いて説明したナット112は、荷電粒子ビームシステムに用いられる荷電粒子源を保持する用途に適用して特に公的なロックナットとして利用することもできる。この場合、ロックナットとしてのナット112の構成について、
図6を用いて簡単に説明すると以下の通りである。
【0066】
ナット112は、上面112tと、上面112tの反対側の下面112bと、上面112tおよび下面112bのうち一方から他方に貫通するナット穴112H(
図4参照)と、ナット穴112Hの外縁である内側面112s2と、内側面112s2の反対側の外側面112s1と、内側面112s2の一部分に設けられ、複数のネジ山51が形成された螺合部50(
図4参照)と、下面112bが対向するナット座面113tに対するナット穴112H(
図4参照)の傾斜角度を調整可能な傾斜調整部20と、ナット穴112H(
図4参照)に、螺合されたボルトの螺合状態が緩むことを抑制するロック部30と、を含む。内側面112s2は、螺合部50と、螺合部50よりも内径が大きい非螺合部40(
図4参照)と、を有する。傾斜調整部20は、外側面112s1の一部分から非螺合部40の一部分までを貫通するように形成されたスリット21と、傾斜調整ネジ22と、スリット21と下面112bとの間に位置する部分23と、スリット21と上面112tとの間に位置する部分24と、傾斜調整ネジ22が螺合され、部分24において、上面112tからスリット21までを貫通するように形成されたネジ穴25と、を有する。ロックナットとしてのナット112は、傾斜調整ネジ22の先端部が、部分23を介してナット座面113tを押圧することにより、ナット座面113tに対する荷電粒子源
111の傾斜角度が変化する。
【0067】
また、
図2~
図7、
図9、および
図10に示すナット112は、傾斜調整部20およびロック部30の両方を備えている。ただし、変形例として、傾斜調整部20およびロック部30のいずれか一方を備えるナットがある。例えば、傾斜調整部20を有さず、ロック部30のみを有するナットの場合、
図6に示すナット座113に吸着された状態で、傾斜角度を調整することはできない。ただし、ロック部30を備えていることで、荷電粒子銃110に振動や衝撃が印可された場合でも、ボルト116とナットとの螺合部の緩みを抑制できる。
【0068】
以上、本実施の形態の代表的な変形例について説明したが、本発明は、上記した実施例や代表的な変形例に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変形例が適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、荷電粒子銃、荷電粒子ビームシステム、およびロックナットに利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
20,20A,20B,20C 傾斜調整部
21スリット(傾斜スリット)
22 傾斜調整ネジ
22D,34D 矢印
23,24,32,33 部分
25 ネジ穴(傾斜ネジ穴)
26 力(傾斜力)
30,30A,30B,30C ロック部
31 スリット(ロックスリット)
34 ロックネジ
35 貫通孔
36 ネジ穴(ロックネジ穴)
37 座グリ部
40 非螺合部
50 螺合部
51 ネジ山(おねじネジ山)
52 ネジ山(めねじネジ山)
53 押圧力(ロック力)
100 走査電子顕微鏡(荷電粒子ビームシステム)
101 荷電粒子ビーム
102 二次電子
110 荷電粒子銃
111 荷電粒子源
112,112N ナット
112b 下面(ナット下面)
112c ナット軸
112H ナット穴
112s1 外側面(ナット外側面)
112s2 内側面(ナット外側面)
112t 上面(ナット外側面)
113 ナット座
113t ナット座面
114 調整リング台
116 ボルト
117 ナット位置調整ネジ
120 光学処理部
121 集束レンズ
122 偏向器
123 対物レンズ
124 二次電子検出器(検出部)
130 試料保持部
131 試料
140 コンピュータシステム
141 コンピュータ
142 画像処理部
143 表示装置
144 入力部
150 排気ポンプ