(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】加工肉様食品の製造方法、加工肉様食品のジューシー感の向上方法、乳化ゲルの破断抑制方法、および凍結乳化ゲル
(51)【国際特許分類】
A23J 3/00 20060101AFI20230926BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20230926BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20230926BHJP
A23J 3/18 20060101ALI20230926BHJP
A23J 3/24 20060101ALI20230926BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20230926BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20230926BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20230926BHJP
【FI】
A23J3/00 502
A23J3/00 505
A23J3/14
A23J3/16
A23J3/18 501
A23J3/24
A23L13/00 Z
A23L13/60 Z
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2023541636
(86)(22)【出願日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2023013502
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022067606
(32)【優先日】2022-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】横田 展大
(72)【発明者】
【氏名】重本 絢音
(72)【発明者】
【氏名】堀内 悠
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/009043(WO,A1)
【文献】特表2014-520554(JP,A)
【文献】特表2016-508716(JP,A)
【文献】特開平6-245710(JP,A)
【文献】特開平1-231853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織状植物性タンパク質と、
植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、
を混合して混合物を得る工程(D)を有する、加工肉様食品の製造方法。
【請求項2】
前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量に対する前記植物性タンパク質の含有量が、0.1~20質量%である、請求項1に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項3】
前記乳化ゲル中における前記水の含有量が、10~80質量%である、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項4】
前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量が、20~85質量%である、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項5】
前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質を含む、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項6】
前記油脂が、ヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項7】
前記乳化ゲルが、多糖類をさらに含む、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項8】
前記乳化ゲル中における前記多糖類の含有量が、前記植物性タンパク質、前記水、および前記油脂の含有量の合計100質量部に対して、0.01~1質量部である、請求項7に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項9】
工程(D)において、前記混合物中の前記乳化ゲルの含有量が、1~50質量%となるようにする、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項10】
前記混合物を冷凍する工程(E)をさらに有する、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項11】
低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、
前記未ゲル化乳濁液を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、
を有する、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法。
【請求項12】
低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、
前記未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る工程(B)と、
前記乳化ゲルおよび/または前記乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、
を有する、請求項1または2に記載の加工肉様食品の製造方法
。
【請求項13】
組織状植物性タンパク質と、
植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、
を混合して混合物を得る工程(D)を有する、加工肉様食品のジューシー感の向上方法
。
【請求項14】
組織状植物性タンパク質と、
植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、
を混合して混合物を得る工程(D)を有する、混合時における乳化ゲルの破断抑制方法
。
【請求項15】
植物性タンパク質、水、および油脂を含み、
前記油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が、0.1~6質量%である、
凍結乳化ゲル
。
【請求項16】
組織状植物性タンパク質と、
植物性タンパク質、水、および油脂を含み、前記油脂の含有量に対する前記植物性タンパク質の含有量が、0.1~6質量%である凍結乳化ゲルと、
を含む、加工肉様食品。
【請求項17】
前記組織状植物性タンパク質が、大豆、エンドウ豆および小麦グルテンからなる群より選択される少なくとも1種に由来する組織状植物性タンパク質を含む、請求項
16に記載の加工肉様食品。
【請求項18】
前記凍結乳化ゲル中における前記水の含有量が、10~80質量%である、請求項
16または
17に記載の加工肉様食品。
【請求項19】
前記凍結乳化ゲル中における前記油脂の含有量が、20~85質量%である、請求項
16または
17に記載の加工肉様食品。
【請求項20】
前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質を含む、請求項
16または
17に記載の加工肉様食品。
【請求項21】
前記油脂が、ヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項
16または
17に記載の加工肉様食品。
【請求項22】
前記凍結乳化ゲルが、多糖類をさらに含む、請求項
16または
17に記載の加工肉様食品。
【請求項23】
前記凍結乳化ゲル中における前記多糖類の含有量が、前記植物性タンパク質、前記水、および前記油脂の含有量の合計100質量部に対して、0.01~1質量部である、請求項
22に記載の加工肉様食品。
【請求項24】
前記凍結乳化ゲルの含有量が、1~50質量%である、請求項
16または
17に記載の加工肉様食品。
【請求項25】
破断脱液率が、3~10質量%である、請求項
16または
17に記載の加工肉様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工肉様食品の製造方法、加工肉様食品のジューシー感の向上方法、乳化ゲルの破断抑制方法、および凍結乳化ゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりおよび環境負荷削減の観点から、加工肉食品における畜肉の少なくとも一部を植物性タンパク質で代替した加工肉様食品(以下、単に「加工肉様食品」とも称する)の需要が拡大している。加工肉様食品の食感は、畜肉を主原料とする加工肉食品と比較すると、過度に均一であり、また、ジューシー感に欠ける傾向がある。
【0003】
加工肉様食品のジューシー感を向上させるため、加工肉様食品に対して乳化ゲル(エマルションゲル)を添加することで水分および油分を局在化させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、大豆タンパク質、水および油脂を含有し、最高温度30~55℃で均質化されたエマルションカードを、畜肉様加工食品生地に添加する工程を有する冷凍畜肉様加工食品の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳化ゲルおよびその他の原材料を混合して加工肉様食品を調製する際、せん断応力等により乳化ゲルが破断し、混合物中に練りこまれてしまうことがある。その場合、喫食時に至るまで保持される乳化ゲルの量が減少し、乳化ゲルの加工肉様食品へのジューシー感の付与効果が限定的となる。本開示は、混合時における乳化ゲルの破断を抑制し、加工肉様食品のジューシー感を向上することのできる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の要旨構成は以下の通りである。
[1]組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、を混合して混合物を得る工程(D)を有する、加工肉様食品の製造方法。
[2]前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量に対する前記植物性タンパク質の含有量が、0.1~20質量%である、[1]の加工肉様食品の製造方法。
[3]前記乳化ゲル中における前記水の含有量が、10~80質量%である、[1]または[2]の加工肉様食品の製造方法。
[4]前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量が、20~85質量%である、[1]から[3]のいずれかの加工肉様食品の製造方法。
[5]前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質を含む、[1]から[4]のいずれかの加工肉様食品の製造方法。
[6]前記油脂が、ヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]から[5]のいずれかの加工肉様食品の製造方法。
[7]前記乳化ゲルが、多糖類をさらに含む、[1]から[6]のいずれか加工肉様食品の製造方法。
[8]前記乳化ゲル中における前記多糖類の含有量が、前記植物性タンパク質、前記水、および前記油脂の含有量の合計100質量部に対して、0.01~1質量部である、[7]の加工肉様食品の製造方法。
[9]工程(D)において、前記混合物中の前記乳化ゲルの含有量が、1~50質量%となるようにする、[1]から[8]のいずれかの加工肉様食品の製造方法。
[10]前記混合物を冷凍する工程(E)をさらに有する、[1]から[9]のいずれかの加工肉様食品の製造方法。
[11]低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、前記未ゲル化乳濁液を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有する、[1]から[10]のいずれかの加工肉様食品の製造方法。
[12]低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、前記未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る工程(B)と、前記乳化ゲルおよび/または前記乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有する、[1]から[11]のいずれかの加工肉様食品の製造方法。
[13][1]から[12]のいずれかの加工肉様食品の製造方法によって製造された、加工肉様食品。
[14]破断脱液率が、3~10質量%である、[13]の加工肉様食品。
[15]組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、を混合して混合物を得る工程(D)を有する、加工肉様食品のジューシー感の向上方法。
[16]前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量に対する前記植物性タンパク質の含有量が、0.1~20質量%である、[15]の方法。
[17]前記乳化ゲル中における前記水の含有量が、10~80質量%である、[15]または[16]の方法。
[18]前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量が、20~85質量%である、[15]から[17]のいずれかの方法。
[19]前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質を含む、[15]から[18]のいずれかの方法。
[20]前記油脂が、ヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[15]から[19]のいずれかの方法。
[21]前記乳化ゲルが、多糖類をさらに含む、[15]から[20]のいずれかの方法。
[22]前記乳化ゲル中における前記多糖類の含有量が、前記植物性タンパク質、前記水、および前記油脂の含有量の合計100質量部に対して、0.01~1質量部である、[21]の方法。
[23]工程(D)において、前記混合物中の前記乳化ゲルの含有量が、1~50質量%となるようにする、[15]から[22]のいずれかの方法。
[24]低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、前記未ゲル化乳濁液を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有する、[15]から[23]のいずれかの方法。
[25]低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、前記未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る工程(B)と、前記乳化ゲルおよび/または前記乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有する、[15]から[24]のいずれかの方法。
[26]組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、を混合して混合物を得る工程(D)を有する、混合時における乳化ゲルの破断抑制方法。
[27]前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量に対する前記植物性タンパク質の含有量が、0.1~20質量%である、[26]の方法。
[28]前記乳化ゲル中における前記水の含有量が、10~80質量%である、[26]または[27」の方法。
[29]前記乳化ゲル中における前記油脂の含有量が、20~85質量%である、[26]から[28]のいずれかの方法。
[30]前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質を含む、[26]から[29]のいずれかの方法。
[31]前記油脂が、ヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[26]から[30]のいずれかの方法。
[32]前記乳化ゲルが、多糖類をさらに含む、[26]から[31]のいずれかの方法。
[33]前記乳化ゲル中における前記多糖類の含有量が、前記植物性タンパク質、前記水、および前記油脂の含有量の合計100質量部に対して、0.01~1質量部である、[32]の方法。
[34]工程(D)において、前記混合物中の前記乳化ゲルの含有量が、1~50質量%となるようにする、[26]から[33]のいずれかの方法。
[35]低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、前記未ゲル化乳濁液を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有する、[26]から[34]のいずれかの方法。
[36]低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、前記未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る工程(B)と、前記乳化ゲルおよび/または前記乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有する、[26]から[35]のいずれかの方法。
[37]植物性タンパク質、水、および油脂を含み、前記油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が、0.1~6質量%である、凍結乳化ゲル。
[38]前記水の含有量が、10~80質量%である、[37]の凍結乳化ゲル。
[39]前記油脂の含有量が、20~85質量%である、[37]または[38]の凍結乳化ゲル。
[40]前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質を含む、[37]から[39]のいずれかの凍結乳化ゲル。
[41]前記油脂が、ヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[37]から[40]のいずれかの凍結乳化ゲル。
[42]多糖類をさらに含む、[37]から[41]のいずれかの凍結乳化ゲル。
[43]前記多糖類の含有量が、前記植物性タンパク質、前記水、および前記油脂の含有量の合計100質量部に対して、0.01~1質量部である、[42]の凍結乳化ゲル。
[44]前記植物性タンパク質が、低変性植物性タンパク質または凍結変性植物性タンパク質である、[37]から[43]のいずれかの凍結乳化ゲル。
[45]組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含み、前記油脂の含有量に対する前記植物性タンパク質の含有量が、0.1~6質量%である凍結乳化ゲルと、を含む、加工肉様食品。
[46]前記組織状植物性タンパク質が、大豆、エンドウ豆および小麦グルテンからなる群より選択される少なくとも1種に由来する組織状植物性タンパク質を含む、[45]の加工肉様食品。
[47]前記凍結乳化ゲル中における前記水の含有量が、10~80質量%である、[45]または[46」の加工肉様食品。
[48]前記凍結乳化ゲル中における前記油脂の含有量が、20~85質量%である、[45]から[47]のいずれかの加工肉様食品。
[49]前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質を含む、[45]から[48]のいずれかの加工肉様食品。
[50]前記油脂が、ヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[45]から[49]のいずれかの加工肉様食品。
[51]前記凍結乳化ゲルが、多糖類をさらに含む、[45]から[50]のいずれかの加工肉様食品。
[52]前記凍結乳化ゲル中における前記多糖類の含有量が、前記植物性タンパク質、前記水、および前記油脂の含有量の合計100質量部に対して、0.01~1質量部である、[51]の加工肉様食品。
[53]前記凍結乳化ゲルの含有量が、1~50質量%である、[45]から[52]のいずれかの加工肉様食品。
[54]破断脱液率が、3~10質量%である、[45]から[53]のいずれかの加工肉様食品。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[加工肉様食品の製造方法]
本開示の加工肉様食品の製造方法は、組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、を混合して混合物を得る工程(D)を有する。ここで、「乳化ゲル」とは、「エマルションゲル」とも呼ばれるものである。
【0008】
(工程(D))
工程(D)においては、例えば組織状植物性タンパク質と、乳化ゲルの凍結物と、必要に応じてその他の原料と、を混合することにより、混合物(パテ混合物)を得る。
【0009】
組織状植物性タンパク質としては、粒状植物性タンパク質または繊維状植物性タンパク質を用いることができる。なお、本開示において「粒状植物性タンパク質」および「繊維状植物性タンパク質」との用語は、農林水産省による日本農林規格に準じた定義を用いる。すなわち、本開示において「粒状植物性タンパク質」とは、植物性タンパク質のうち、粒状又はフレーク状に成形したものであって、かつ、肉様の組織を有するものをいう。また、本開示において「繊維状植物性タンパク質」とは、植物性タンパク質のうち、繊維状に成形したものであって、かつ、肉様の組織を有するものをいう。典型的には、粒状植物性タンパク質は、以下の条件で測定される「かたさ」が500,000Pa以上である。また、典型的には、繊維状植物性タンパク質は、以下の条件で測定される「弾力」が0.65以下である。
【0010】
(かたさ)
粒状植物性タンパク質に対して5倍量の水を加えて30分間静置し、水戻しした後、テンシプレッサー(有限会社タケトモ電機製 TTP-50BX II)を使用し、TPA解析プログラムにより解析する。負荷を与えた際の最大応力(n=10の平均値)をかたさとする。
【0011】
(弾力)
繊維状植物性タンパク質に対して5倍量の水を加えて30分間静置し、水戻しした後、テンシプレッサー(有限会社タケトモ電機製 TTP-50BX II)を使用し、TPA解析プログラムにより解析する。負荷を2回連続で与えた際の負荷面積の比を弾力とする。
【0012】
組織状植物性タンパク質としては、例えば穀物または豆類由来のタンパク質を組織状に加工したものを用いることができる。穀物としては、例えばイネ科の植物の果実(種子)を用いることができる。豆類としては、例えばマメ科の植物の果実(種子)を用いることができる。イネ科の植物としては、例えば小麦、大麦、燕麦、ライ麦、ハト麦、米およびトウモロコシ等が挙げられる。マメ科の植物としては、例えば大豆、ソラマメ、エンドウ、インゲンマメ、ヒヨコマメ、シカクマメ、レンズマメ、ラッカセイ(南京豆)、小豆、ヤエナリ(リョクトウ)等が挙げられる。特に、組織状植物性タンパク質としては、例えば大豆、エンドウ豆および小麦グルテンからなる群より選択される少なくとも1種に由来する組織状植物性タンパク質を用いることができる。これらの組織状植物性タンパク質は、安全性が示されており使いやすい。典型的には、大豆由来の組織状植物性タンパク質は組織を形成しやすいという利点がある。組織状植物性タンパク質としては、エクストルーダー処理済みの植物性タンパク質や、ノズル噴射処理済みの植物性タンパク質を用いることができる。
【0013】
乳化ゲルが含む植物性タンパク質としては、例えば穀物または豆類由来のタンパク質を用いることができる。穀物としては、例えばイネ科の植物の果実(種子)を用いることができる。豆類としては、例えばマメ科の植物の果実(種子)を用いることができる。イネ科の植物としては、例えば小麦、大麦、燕麦、ライ麦、ハト麦、米およびトウモロコシ等が挙げられる。マメ科の植物としては、例えば大豆、ソラマメ、エンドウ、インゲンマメ、ヒヨコマメ、シカクマメ、レンズマメ、ラッカセイ(南京豆)、小豆、ヤエナリ(リョクトウ)等が挙げられる。特に、乳化ゲルが含む植物性タンパク質としては、例えば大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質および小麦タンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を用いることができる。これらの植物性タンパク質は、安全性が示されており使いやすい。典型的には、植物性タンパク質が、大豆タンパク質であること、または大豆タンパク質を含むことにより、ゲル化が進行しやすくなる。また、原料となる上記のタンパク質は、分離タンパク質または粉末タンパク質を用いることができる。分離タンパク質としては、例えば酸またはアルコール処理済みの分離タンパク質を用いることができる。分離タンパク質は不純物が少なく、より均一であり、ゲル化の進行に有利となりやすい。また、粉末タンパク質としては、例えば乾燥粉末タンパク質を用いることができる。乾燥粉末タンパク質は速やかに周囲の水と油脂を取り込みやすく、より均一であり、ゲル化の進行に有利となりやすい。
【0014】
特に、大豆タンパク質としては、例えば市販の分離大豆タンパク質を用いることができる。本開示において、「分離大豆タンパク質」とは、大豆に由来する素材から、水溶性のタンパク質を抽出し、酸により沈殿させ、沈殿物を回収後、中和し、粉末化したものを指す。
【0015】
乳化ゲルが含む植物性タンパク質は、低変性植物性タンパク質であっても、熱変性植物性タンパク質であってもよい。本開示において、「低変性植物性タンパク質」とは、抽出精製、保管等の製造上のプロセスによる不可避的な変性を除き、意図的に加熱等により変性させていない植物性タンパク質を指し、未変性の植物性タンパク質も含む。変性の程度は、熱測定等で評価可能である。また、抽出精製等のプロセスの制御により、変性の程度を抑制することもできる。また、本開示において、「熱変性植物性タンパク質」とは、意図的な加熱により一部または全部が変性した植物性タンパク質を指す。乳化ゲルが熱変性植物性タンパク質を含むことにより、油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が少ない場合であっても、製造時におけるゲル化が進行しやすくなる。
【0016】
乳化ゲル中における植物性タンパク質の含有量は、例えば0.1質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよく、0.3質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、0.7質量%以上であってもよく、0.8質量%以上であってもよい。典型的には、乳化ゲル中における植物性タンパク質の含有量が多いほど、乳化およびゲル化が進行しやすくなる。
【0017】
乳化ゲル中における植物性タンパク質の含有量は、例えば10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、4質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよく、2質量%以下であってもよく、1.5質量%以下であってもよい。典型的には、乳化ゲル中における植物性タンパク質の含有量が少ないほど、加工肉様食品の喫食時のジューシー感が向上しやすい。
【0018】
乳化ゲル中における植物性タンパク質の含有量の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、乳化ゲル中における植物性タンパク質の含有量は、例えば0.1~10質量%であってもよく、0.2~5質量%であってもよく、0.3~4質量%であってもよく、0.5~3質量%であってもよく、0.7~2質量%であってもよく、0.8~1.5質量%であってもよい。乳化ゲル中における植物性タンパク質の含有量が適切な範囲内であることにより、乳化およびゲル化の進行しやすさと、喫食時のジューシー感とのバランスが向上しやすい。
【0019】
乳化ゲル中における水の含有量は、例えば10質量%以上であってもよく、15質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、25質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。乳化ゲル中における水の含有量が多いほど、加工肉様食品に対してサラサラとしたソフトな食感を与えやすい。乳化ゲル中における水の含有量は、例えば80質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、45質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよい。乳化ゲル中における水の含有量が少ないほど、加工肉様食品に対してまろやかでどっしりとした食感を与えやすい。なお、本開示において、「水の含有量」には、氷の含有量も含まれることに留意すべきである。
【0020】
乳化ゲル中における水の含有量の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、乳化ゲル中における水の含有量は、例えば10~80質量%であってもよく、15~60質量%であってもよく、20~50質量%であってもよく、25~45質量%であってもよく、30~40質量%であってもよい。
【0021】
油脂としては、食品添加用途に通常用いられるあらゆる油脂を用いることができる。油脂としては、例えば、飽和度が50以上のもの、融点が20℃以上のもの、炭素数18以上の脂肪酸が20質量%以下のもの、油脂中のグリセリドが80質量%以上のもの等を用いることができる。油脂は、例えばヤシ油、パーム油、キャノーラ油、大豆油、米油、コーン油、ごま油およびオリーブ油からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。油脂は、動物性の油脂であってもよい。典型的には、ヤシ油、パーム油等の常温で固体の油脂を用いることにより、取り扱い性が向上しやすい。
【0022】
乳化ゲル中における油脂の含有量は、例えば20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、45質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、55質量%以上であってもよい。乳化ゲル中における油脂の含有量が多いほど、加工肉様食品に対して噛んだ際における濃厚なジューシー感を与えやすい。乳化ゲル中における油脂の含有量は、例えば85質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、75質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよく、65質量%以下であってもよい。乳化ゲル中における油脂の含有量が少ないほど、加工肉様食品に対してさっぱりとした軽やかな食感を与えやすい。
【0023】
乳化ゲル中における油脂の含有量の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、乳化ゲル中における油脂の含有量は、例えば20~85質量%であってもよく、30~80質量%であってもよく、45~75質量%であってもよく、50~70質量%であってもよく、55~65質量%であってもよい。
【0024】
乳化ゲル中における油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量は、0.1質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、0.7質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよく、1.3質量%以上であってもよく、1.5質量%以上であってもよい。典型的には、乳化ゲル中における油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が多いほど、乳化およびゲル化が進行しやすくなる。
【0025】
乳化ゲル中における油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量は、20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよく、6質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、4質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよく、2質量%以下であってもよい。典型的には、乳化ゲル中における油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が少ないほど、加工肉様食品の喫食時のジューシー感が向上しやすい。
【0026】
乳化ゲル中における油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、乳化ゲル中における油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量は、例えば0.1~20質量%であってもよく、0.2~10質量%であってもよく、0.5~6質量%であってもよく、0.7~5質量%であってもよく、1~4質量%であってもよく、1.3~3質量%であってもよく、1.5~2質量%であってもよい。乳化ゲル中における油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が適切な範囲内であることにより、乳化およびゲル化の進行しやすさと、加工肉様食品の喫食時のジューシー感とのバランスが向上しやすい。
【0027】
乳化ゲルは、上記の他に増粘多糖類または結着剤等の多糖類を含んでいてもよい。多糖類は、細菌由来のものでもよく、植物由来のものでもよい。植物由来の多糖類は、藻類由来のものでもよく、陸上植物由来のものでもよい。多糖類としては、例えば単体でゲル化能を持つものを用いることができる。また、多糖類としては、例えば耐熱性ゲルを形成できるものを用いることができる。多糖類は、例えばカードラン、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、グルコマンナン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、カラギナン、キサンタンガム、寒天、グァーガム、アラビアガム、およびアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0028】
典型的には、乳化ゲルが、多糖類としてカードラン、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、およびグルコマンナンからなる群より選択される少なくとも1つを含むことにより、ゲル化が進行しやすくなる。また、典型的には、乳化ゲルが、多糖類としてカードランおよび/またはネイティブ型ジェランガムを含むことにより、加工肉様食品の調製の際に乳化ゲルが破断して練りこまれることをより抑制できる。また、焼成時の油脂のロス抑制効果と加工肉様食品の喫食時のジューシー感付与効果とのバランスが向上しやすい。
【0029】
乳化ゲル中における多糖類の含有量は、植物性タンパク質、水、および油脂の含有量の合計100質量部に対して、例えば0.01質量部以上であってもよく、0.03質量部以上であってもよく、0.08質量部以上であってもよく、0.1質量部以上であってもよく、0.3質量部以上であってもよい。乳化ゲル中における多糖類の含有量が多いほど、乳化ゲルの粘性が強くなりやすい。乳化ゲル中における多糖類の含有量は、植物性タンパク質、水、および油脂の含有量の合計100質量部に対して、例えば1質量部以下であってもよく、0.9質量部以下であってもよく、0.8質量部以下であってもよく、0.7質量部以下であってもよく、0.6質量部以下であってもよい。乳化ゲル中における多糖類の含有量が少ないほど、加工肉用食品に対して旨味を与えやすい。
【0030】
乳化ゲル中における多糖類の含有量の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、乳化ゲル中における多糖類の含有量は、植物性タンパク質、水、および油脂の含有量の合計100質量部に対して、例えば0.01~1質量部であってもよく、0.03~0.9質量部であってもよく、0.08~0.8質量部であってもよく、0.1~0.7質量部であってもよく、0.3~0.6質量部であってもよい。乳化ゲル中における多糖類の含有量が適切な範囲内であることにより、加工肉様食品の調製の際に乳化ゲルが破断して練りこまれることを抑制できる。また、焼成時の油脂のロス抑制効果と加工肉様食品の喫食時のジューシー感付与効果とのバランスが向上しやすい。
【0031】
乳化ゲルは、本開示の効果を阻害しない範囲内で、さらにその他の成分を含んでいてもよい。乳化ゲルは、前記その他の成分として、例えば動物性タンパク質、甘味料、香辛料、塩、風味付与材、酵素、色素、および調味料からなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0032】
乳化ゲルは、凍結物(凍結乳化ゲル)として用いる。本開示において、「凍結物」には、低温処理により少なくとも一部が凍結したものを含む。乳化ゲルの凍結物の温度は、0℃以下であってもよく、-5℃以下であってもよく、-10℃以下であってもよく、-20℃以下であってもよい。乳化ゲルの凍結物の温度は、-35℃以上であってもよく、-30℃以上であってもよく、-25℃以上であってもよい。乳化ゲル凍結物の温度の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。
【0033】
乳化ゲルの凍結物は、粒状物であってもよい、乳化ゲルの凍結物が粒状物である場合、乳化ゲルの凍結物の粒径は、例えば0.1mm以上であってもよく、1mm以上であってもよく、5mm以上であってもよく、8mm以上であってもよく、9mm以上であってもよい。乳化ゲルの粒径が大きいほど、加工肉様食品に対してジューシー感を与えやすい。乳化ゲルの凍結物の粒径は、例えば30mm以下であってもよく、25mm以下であってもよく、20mm以下であってもよく、15mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。乳化ゲルの粒径が小さいほど、加工肉様食品において均一に分散させやすい。
【0034】
乳化ゲルの凍結物が粒状物である場合における乳化ゲルの凍結物の粒径の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、乳化ゲルの凍結物の粒径は、例えば0.1~30mmであってもよく、1~25mmであってもよく、5~20mmであってもよく、8~15mmであってもよく、9~10mmであってもよい。乳化ゲルの凍結物の粒径が適切な範囲内であることにより、加工肉様食品の調製の際に乳化ゲルが破断して練りこまれることを抑制できる。また、焼成時の油脂のロス抑制効果と加工肉様食品の喫食時のジューシー感付与効果とのバランスが向上しやすい。
【0035】
なお、本開示において、乳化ゲルの凍結物の「粒径」とは、乳化ゲルの凍結物の短径を指し、「短径」とは、三次元的な寸法の中で最も短い径を示す。典型的には、乳化ゲルの凍結物が略円柱形状の場合、その軸方向に直交する断面の直径が短径となる場合が多いが、この場合に限られない。例えば乳化ゲルの凍結物を粒状物とする際にチョッパーを用いる場合、目皿の孔径を選択することにより乳化ゲルの凍結物の粒径を調整することができる。
【0036】
本開示の乳化ゲルの凍結物は、例えば、後述する工程(A)~(C)により製造することができる。
【0037】
工程(D)においては、本開示の効果を阻害しない範囲内で、組織状植物性タンパク質および乳化ゲルの凍結物に加え、さらにその他の原料を混合してもよい。前記その他の原料としては、例えば水、果汁、野菜、デンプン、油脂、調味料、香辛料、増粘剤、色素、香料、酵素、結着材、および食感付与剤からなる群より選択される少なくとも1つが挙げられる。例えば、結着剤として、脱脂大豆粉や小麦グルテン等を混合してもよい。また、組織状でない植物性タンパク質をさらに混合してもよい。
【0038】
工程(D)においては、混合後、乳化ゲルの凍結物が融解していてもよい。工程(D)においては、混合物中の乳化ゲルの含有量が、例えば1~50質量%となるように、各成分を混合してもよい。
【0039】
工程(D)においては、混合物中の乳化ゲルの含有量が、例えば1質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、または12質量%以上となるように、各成分を混合してもよい。工程(D)においては、混合物中の乳化ゲルの含有量が、例えば50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、または18質量%以下となるように、各成分を混合してもよい。
【0040】
混合物中の乳化ゲルの含有量の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、混合物中の乳化ゲルの含有量は、例えば1~50質量%であってもよく、5~40質量%であってもよく、8~30質量%であってもよく、10~20質量%であってもよく、12~18質量%であってもよい。混合物中の乳化ゲルの含有量が適切な範囲内であることにより、焼成時の油脂のロス抑制効果と加工肉様食品の喫食時のジューシー感付与効果とのバランスが向上しやすい。
【0041】
工程(D)においては、各成分を同時に混合してもよいし、一部の成分を混合した後に、残る成分を追加的に混合してもよい。混合は手作業で行ってもよいし、ニーダーまたはサイレントカッター等を用いて機械的に行ってもよい。
【0042】
(工程(E))
本開示の加工肉様食品の製造方法は、混合物を冷凍する工程(E)をさらに有していてもよい。冷凍する際の温度は、0℃以下であってもよく、-10℃以下であってもよく、-20℃以下であってもよい。冷凍する際の温度は、-45℃以上であってもよく、-40℃以上であってもよく、-35℃以上であってもよい。冷凍する際の温度の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。また、本開示の加工肉様食品の製造方法は、混合物を加熱または焼成する工程をさらに有していてもよい。
【0043】
本開示の加工肉様食品の製造方法は、工程(D)の前に、低変性植物性タンパク質、水、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る工程(B)と、乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有していてもよい。なお、工程(B)を省略し、未ゲル化乳濁液をそのまま冷凍して乳化ゲルの凍結物を得てもよい。また、工程(B)の代わりに、未ゲル化乳濁液をより低い温度、例えば30~60℃で均質化する工程としてもよい。
【0044】
(工程(A))
工程(A)においては、低変性植物性タンパク質、水(水溶液を含む)、および油脂を混合して均質化し、未ゲル化乳濁液を得る。なお、本開示において、「未ゲル化乳濁液」とは、ゲル化が進行していない、またはほとんど進行していない乳濁液を指す。工程(A)において、低変性植物性タンパク質は、乳化剤として作用する。
【0045】
未ゲル化乳濁液の典型的な調製方法は以下の通りである。まず、低変性植物性タンパク質と水とをミキサー、フードプロセッサー、サイレントカッター等で撹拌混合して混合物を得る。なお、ここで用いる水は、純粋な水であってもよく、後のゲル化に著しい影響を与えない程度の溶質が溶解した水溶液であってもよい。水溶液としては、例えば、各イオンのイオン濃度がそれぞれ1質量%以下の水溶液を用いることができる。ここで、イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオン等が挙げられるが、これらに限定されない。次に、油脂を添加してさらに撹拌混合し、未ゲル化乳濁液を得る。なお、常温で固体の油脂を用いる場合には、融解したものを添加してもよい。ただし、未ゲル化乳濁液の調製方法はこれに限定されない。
【0046】
(工程(B))
工程(B)においては、工程(A)で得られた未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る。未ゲル化乳濁液を加熱することにより、植物性タンパク質の少なくとも一部が熱変性植物性タンパク質となる。また、未ゲル化乳濁液を加熱することにより、未ゲル化乳濁液がゲル化して乳化ゲルとなるか、ゲル化が一部進行して乳化ゲル前駆体となる。工程(B)においては、ニーダー、ヒーター、オーブン、恒温槽、ウォーターバス、オイルバス等、任意の装置または設備を加熱のために用いることができる。
【0047】
加熱の際の温度は70℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、85℃以上であってもよい。加熱の際の温度は99℃以下であってもよく、97℃以下であってもよく、95℃以下であってもよい。加熱の際の温度の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、加熱の際の温度は、例えば70~99℃であってもよく、80~97℃であってもよく、85~95℃であってもよい。加熱の際の温度が適切な範囲内であることにより、植物性タンパク質の熱変性が進行し、また、ゲル化が進行しやすくなる。
【0048】
工程(B)における加熱時間は、例えば目的の温度(前記加熱温度)に達してから1分以上であってもよく、2分以上であってもよく、5分以上であってもよく、10分以上であってもよく、30分以上であってもよい。工程(B)における加熱時間は、例えば120分以下であってもよく、100分以下であってもよく、80分以下であってもよく、70分以下であってもよい。加熱時間が適切な範囲内であることにより、植物性タンパク質の熱変性が進行し、また、ゲル化が進行しやすくなる。
【0049】
(工程(C))
工程(C)においては、乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る。乳化ゲル前駆体は、冷凍によりさらにゲル化が進行する。また、冷凍により、乳化ゲルの凍結物が得られる。
【0050】
冷凍する際の温度は、0℃以下であってもよく、-5℃以下であってもよく、-10℃以下であってもよく、-15℃以下であってもよい。冷凍する際の温度は、-35℃以上であってもよく、-30℃以上であってもよく、-25℃以上であってもよい。冷凍する際の温度の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。
【0051】
本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造される加工肉様食品は、向上されたジューシー感を有する。このような向上されたジューシー感が実現する要因の一つとして推測されるのは、乳化ゲルが機械的強度の高い凍結物として添加、混合されるため、混合時における乳化ゲルの破断が抑制されることである。しかしながら、乳化ゲルの破断の抑制は、あくまで本開示の加工肉様食品の製造方法により得られる効果の一部である。また、ジューシー感等の食感は人間の優れた触覚、味覚および嗅覚に依拠する指標であり、多数の原料の状態や、原料同士の相互作用の状態、検出限界未満の微量成分等に敏感に影響を受けるものである。したがって、本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造された加工肉様食品を、構造または特性により直接特定することは非常に困難であり、非実際的であると考えられる。
【0052】
本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造される加工肉様食品は、用途に応じて、畜肉をさらに含んでいてもよい。つまり、本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造される加工肉様食品は、加工肉食品における畜肉の全てではなく、一部のみを植物性タンパク質で代替した加工肉様食品であってもよい。本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造される加工肉様食品は、畜肉として、例えば牛肉、豚肉、馬肉、綿羊肉、山羊肉および鶏肉からなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0053】
本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造される加工肉様食品は、あらゆる畜肉を含む加工肉食品(例えば、ハンバーグ、ミートボール、シュウマイ、ミートローフまたはつくね等が挙げられる)の代替用として用いることができる。
【0054】
本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造される加工肉様食品においては、破断脱液率が、3質量%以上であってもよく、3.3質量%以上であってもよく、3.5質量%以上であってもよく、4質量%以上であってもよい。本開示の加工肉様食品の製造方法によって製造される加工肉様食品においては、破断脱液率が、10質量%以下であってもよく、9質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよく、7質量%以下であってもよい。破断脱液率の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。破断脱液率は、例えば実施例に記載の方法等により評価することができる。
【0055】
[加工肉様食品のジューシー感の向上方法]
本開示の加工肉様食品のジューシー感の向上方法は、組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、を混合して混合物を得る工程(D)を有する。本開示の加工肉様食品のジューシー感の向上方法は、混合物を冷凍する工程(E)をさらに有していてもよい。
【0056】
本開示の加工肉様食品のジューシー感の向上方法は、工程(D)の前に、低変性植物性タンパク質、水(水溶液を含む)、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る工程(B)と、乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有していてもよい。なお、工程(B)を省略し、未ゲル化乳濁液をそのまま冷凍して乳化ゲルの凍結物を得てもよい。また、工程(B)の代わりに、未ゲル化乳濁液をより低い温度、例えば30~60℃で均質化する工程としてもよい。
【0057】
工程(A)~(E)の詳細については、加工肉様食品の製造方法として前述した内容をそのまま適用できる。本開示の加工肉様食品のジューシー感の向上方法によれば、加工肉様食品の製造の際、乳化ゲルが機械的強度の高い凍結物として添加、混合されるため、混合時における乳化ゲルの破断が抑制される。これにより、喫食時に至るまで多くの乳化ゲルが維持され、最終的な加工肉様食品のジューシー感が向上する。
【0058】
[乳化ゲルの破断抑制方法]
本開示の乳化ゲルの破断抑制方法は、組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、を混合して混合物を得る工程(D)を有する。本開示の乳化ゲルの破断抑制方法は、混合物を冷凍する工程(E)をさらに有していてもよい。
【0059】
本開示の乳化ゲルの破断抑制方法は、工程(D)の前に、低変性植物性タンパク質、水(水溶液を含む)、および油脂を含む未ゲル化乳濁液を得る工程(A)と、未ゲル化乳濁液を60~100℃の加熱温度で加熱して乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を得る工程(B)と、乳化ゲルおよび/または乳化ゲル前駆体を冷凍して乳化ゲルの凍結物を得る工程(C)と、を有していてもよい。なお、工程(B)を省略し、未ゲル化乳濁液をそのまま冷凍して乳化ゲルの凍結物を得てもよい。また、工程(B)の代わりに、未ゲル化乳濁液をより低い温度、例えば30~60℃で均質化する工程としてもよい。
【0060】
工程(A)~(E)の詳細については、加工肉様食品の製造方法として前述した内容をそのまま適用できる。本開示の乳化ゲルの破断抑制方法においては、加工肉様食品の製造の際、乳化ゲルが機械的強度の高い凍結物として添加、混合される。このため、混合時における乳化ゲルの破断が抑制される。
【0061】
[凍結乳化ゲル]
本開示の凍結乳化ゲルは、植物性タンパク質、水、および油脂を含み、油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が、0.1~6質量%である。本開示の凍結乳化ゲルは、加工肉様食品に添加する前のものである。すなわち、本開示の凍結乳化ゲルは、乳化ゲルを含む加工肉様食品全体を凍結したことにより、結果的に当該加工肉様食品の内部において凍結している状態の乳化ゲルを指すものではない。
【0062】
植物性タンパク質は、低変性植物性タンパク質または凍結変性植物性タンパク質であってもよい。本開示において、「凍結変性植物性タンパク質」とは、凍結により一部または全部が変性した植物性タンパク質を指す。
【0063】
凍結乳化ゲルが含む、または含み得る植物性タンパク質、水、油脂、多糖類およびその他の成分の種類および含有量、ならびに凍結乳化ゲルの凍結の態様および粒状物として用いる場合の条件については、加工肉様食品の製造方法の説明中、乳化ゲルについて前述した内容をそのまま適用できる。ただし、油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量は、0.1~6質量%の範囲で選択される。
【0064】
[加工肉様食品]
本開示の加工肉様食品は、組織状植物性タンパク質と、凍結乳化ゲルと、を含む。凍結乳化ゲルは、植物性タンパク質、水、および油脂を含み、前記油脂の含有量に対する前記植物性タンパク質の含有量が、0.1~6質量%である。
【0065】
組織状植物性タンパク質の種類および性質としては、加工肉様食品の製造方法の説明において前述した内容をそのまま適用できる。凍結乳化ゲルとしては、凍結乳化ゲルの説明において前述した内容をそのまま適用できる。すなわち、凍結乳化ゲルが含む、または含み得る植物性タンパク質、水、油脂、多糖類およびその他の成分について、それらの種類および含有量については、凍結乳化ゲルの説明において前述した内容をそのまま適用できる。
【0066】
加工肉様食品における凍結乳化ゲルの含有量は、例えば1質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよく、8質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよく、12質量%以上であってもよい。加工肉様食品における凍結乳化ゲルの含有量は、例えば50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、18質量%以下であってもよい。
【0067】
加工肉様食品における凍結乳化ゲルの含有量の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、加工肉様食品における凍結乳化ゲルの含有量は、例えば1~50質量%であってもよく、5~40質量%であってもよく、8~30質量%であってもよく、10~20質量%であってもよく、12~18質量%であってもよい。加工肉様食品における凍結乳化ゲルの含有量が適切な範囲内であることにより、焼成時の油脂のロス抑制効果と加工肉様食品の喫食時のジューシー感付与効果とのバランスが向上しやすい。
【0068】
本開示の加工肉様食品においては、破断脱液率が、3質量%以上であってもよく、3.3質量%以上であってもよく、3.5質量%以上であってもよく、4質量%以上であってもよい。本開示の加工肉様食品においては、破断脱液率が、10質量%以下であってもよく、9質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよく、7質量%以下であってもよい。破断脱液率の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。破断脱液率、例えば実施例に記載の方法等により評価することができる。
【0069】
本開示の加工肉様食品は、本開示の効果を阻害しない範囲内で、組織状植物性タンパク質および凍結乳化ゲルに加え、さらにその他の原料を含んでいてもよい。本開示の加工肉様食品は、前記その他の原料として、例えば水、果汁、野菜、デンプン、油脂、調味料、香辛料、増粘剤、色素、香料、酵素、結着材、および食感付与剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。例えば、結着剤として、脱脂大豆粉や小麦グルテン等を用いてもよい。また、本開示の加工肉様食品は、組織状でない植物性タンパク質をさらに含んでいてもよい。
【0070】
本開示の加工肉様食品は、用途に応じて、畜肉をさらに含んでいてもよい。つまり、本開示の加工肉様食品は、加工肉食品における畜肉の全てではなく、一部のみを植物性タンパク質で代替した加工肉様食品であってもよい。本開示の加工肉様食品は、畜肉として、例えば牛肉、豚肉、馬肉、綿羊肉、山羊肉および鶏肉からなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0071】
本開示の加工肉様食品は、あらゆる畜肉を含む加工肉食品(例えば、ハンバーグ、ミートボール、シュウマイ、ミートローフまたはつくね等が挙げられる)の代替用として用いることができる。本開示の加工肉様食品は、例えば、前述した加工肉様食品の製造方法により製造することができる。
【0072】
本開示により得られる加工肉様食品は、1つの塊としての重さを10g以上、20g以上または30g以上としてもよい。1つの塊としての重さが重い方が、すなわち塊としての大きさが大きいほうが、噛んだときにジューシー感を感じやすい。
本開示により得られる加工肉様食品は、1つの塊としての重さを1000g以下、500g以下、300g以下、100g以下、または50g以下としてもよい。1つの塊としての重さが軽い方が、すなわち塊としての大きさが小さいほうが、加熱ムラが生じ難く、喫食に適している。
【0073】
本開示により得られる加工肉様食品は焼成時のクッキングロスが少ない加工肉様食品とすることができる。焼成時のクッキングロスが少ない加工肉様食品は、水分含量が多く、畜肉のような瑞々しい食感を示しやすい。
【0074】
本開示により得られる加工肉様食品は破断脱液率の少ない加工肉様食品とすることができる。破断脱液率の少ない加工肉様食品は、畜肉のように噛み砕いた際にジューシー感のある、優れた食感を示しやすい。
【0075】
本明細書において、本開示の各態様に関する一実施形態中で説明された各特定事項は、任意に組み合わせて新たな実施形態としてもよく、このような新たな実施形態も、本開示の各態様に包含され得るものとして理解されるべきである。
【実施例】
【0076】
以下、本開示を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例等により何ら限定されない。
【0077】
[測定条件]
(クッキングロス)
冷凍した加工肉様食品の質量を測定した後、オーブン(株式会社日立製作所製 MRO-FV200)を用いて230℃で7分間加熱し、加熱後の質量を測定した。以下の計算式により、クッキングロスを算出した(n=3)。
【0078】
クッキングロス(質量%)={(生の状態の質量-加熱後の質量)/生の状態の質量}×100
【0079】
(破断脱液率)
冷凍した加工肉様食品を、オーブン(株式会社日立製作所製 MRO-FV200)を用いて230℃で7分間加熱し、加熱後の質量を測定した。加工肉様食品を2等分し、半分になった一方の加工肉様食品の断面を、折りたたんだキッチンペーパーの上に乗せた。クリープメーター(株式会社山電製 RE2-33005C)を用い、前記断面の反対側の端部から圧して破断した。その際、直径16mmの円柱型プランジャーを用い、速度は1mm/s、歪率は100%とした。その後、液体を吸収したキッチンペーパーの質量を測定した。もう半分の加工肉様食品の断面についても同様に破断し、液体を吸収したキッチンペーパーの質量を測定した。両キッチンペーパーの質量を合計し、以下の計算式により、破断脱液率を算出した(n=3)。
【0080】
破断脱液率(質量%)={(液体吸収後のキッチンペーパーの質量-液体吸収前のキッチンペーパーの質量)/加熱後の加工肉様食品の質量}×100
典型的には、破断脱液率が高いほど、加工肉様食品の喫食時の脱液感(ジューシー感)が高い。
【0081】
[乳化ゲルを凍結物として添加、混合することによる効果の検討]
(乳化ゲルの調製)
表1に示す原材料を用いて乳化ゲルを調製した。なお、低変性植物性タンパク質として用いたニューフジプロSEHは分離大豆タンパク質である。なお、以下の実施例においては、低変性植物性タンパク質も単に「植物性タンパク質」と称する。
【0082】
【0083】
植物性タンパク質と水とをミキサー(株式会社テスコム製 TM856)を用いて撹拌混合した後、融解したヤシ油を1/3量ずつ添加して撹拌混合する操作を3回繰り返し、未ゲル化乳濁液を得た。得られた未ゲル化乳濁液をパウチに投入し、ウォーターバスを用いて90℃に到達したことを確認し、その後、90℃で1時間保持した後、ウォーターバスから取り出し、空冷にて室温(約25℃)まで放冷した。さらに、冷凍庫(設定温度-20℃)で一晩(約12時間)保存した。冷凍した乳化ゲルを、チョッパー(株式会社ボニー製 BK-220)を用いて粉砕し、粒径9.6mmとした。以降、特に言及しない限り、全ての乳化ゲルの調製の方法は上記と同様である。
【0084】
(加工肉様食品の調製)
上記で得られた乳化ゲルを用いて、表2に示す配合で加工肉様食品(ハンバーグ)を調製した(実施例1)。詳細には、まず、メチルセルロース、米粉、小麦グルテン、澱粉、竹ファイバー、食塩、グルタミン酸ナトリウム、砂糖、黒コショウおよびナツメグと、冷水2およびキャノーラ油とをボウルに加えて手動で撹拌した。続いて、予め冷水1にて吸水させた組織状植物性タンパク質をボウルに加え、撹拌した。さらに、冷凍状態の乳化ゲルと、粒状植物性タンパク質とをボウルに加え、撹拌して練り肉状にした。得られたものを35g計量し、直径4cmの円形のハンバーグ状に成形した。オーブン(株式会社日立製作所製 MRO-FV200)を用いて230℃で7分間焼成し、ブラストチラー(-30℃)で冷凍した。なお、いずれの実施例および比較例においても、230℃で7分間焼成した際には、芯温が75℃以上となることが確認された。
【0085】
【0086】
比較例1においては、冷凍処理後の乳化ゲルをカットし、4℃で冷蔵して解凍したものを用いた以外は、実施例1と同様の手順で加工肉様食品を調製した。すなわち、比較例1においては、乳化ゲルを凍結物として添加しなかった。実施例1においては、カットした乳化ゲルをそのまま凍結物として用いた。得られたそれぞれの加工肉様食品について、クッキングロスおよび破断脱液率を測定した。結果を表3に示す。
【0087】
【0088】
以上の結果から、乳化ゲルを凍結物として添加することにより、破断脱液率が著しく向上することがわかる。これは、凍結物として添加することにより、混合時に乳化ゲルが破断して練りこまれることが抑制され、喫食時に至るまで相当量の乳化ゲルが適度に均一に保持されるためであると考えられる。
【0089】
[植物性タンパク質の含有量による影響の検討]
表4に示す原材料を用いて、実施例1に用いたものと同様の方法で乳化ゲルを調製した(実施例2~4)。乳化ゲル得られたそれぞれの乳化ゲルを用いて実施例1と同様に加工肉様食品を調製し、破断脱液率を測定した。結果を表4に示す。
【0090】
【0091】
表4の結果から、植物性タンパク質の含有量が破断脱液率に影響することがわかる。ただし、実施例1および比較例2の結果から示唆されるように、同等の植物性タンパク質含有量で比較した場合は、それぞれの含有量において、乳化ゲルを凍結物として混合したほうが、そうでない場合よりも破断脱液率が高くなると考えられる。目的に応じて乳化ゲルにおける植物性タンパク質の含有量は異なるものであり、それぞれの場合において、乳化ゲルの凍結物の使用により加工肉様食品のジューシー感を高めることができる。すなわち、本開示の加工肉様食品の製造方法の効果は、単純に破断脱液率等の数値そのものの大きさで評価されるべきではなく、他の条件を同一とした場合の、乳化ゲルを凍結物として混合する工程の有無の影響として評価されるべきである。
【0092】
[多糖類の添加による影響の検討]
表5に示す原材料を用いて、実施例1に用いたものと同様の方法で乳化ゲルを調製した(実施例5~9)。なお、脱アシル型ジェランガム、乳酸カルシウム、ネイティブ型ジェランガム、カードラン、およびグルコマンナンについては、乳化ゲルの調製において、油脂の添加および撹拌混合後、かつ加熱前に添加し、撹拌混合した。
【0093】
得られたそれぞれの乳化ゲルを用いて実施例1と同様に加工肉様食品を調製し、各乳化ゲルについて、混合適性(加工肉様食品の他の原材料との混合時の乳化ゲルの破断の抑制度合い)を評価した。また、得られたそれぞれの加工肉様食品について、クッキングロスおよび破断脱液率を測定した。結果を表5に示す。なお、混合適性について、記号a~cは以下を示す。ただし、「非常に良い」「良い」「普通」は乳化ゲルを凍結物として用いた場合における相対評価であり、「普通」であっても、凍結物として用いない場合と比べれば格段に優れている点には留意が必要である。
a:非常に良い(混合後に残存する乳化ゲルの最大径が8mm以上)
b:良い(混合後に残存する乳化ゲルの最大径が5mm以上8mm未満)
c:普通(混合後に残存する乳化ゲルの最大径が2mm以上5mm未満)
【0094】
【0095】
表5の結果から、乳化ゲルが多糖類を含むことにより、低いクッキングロスおよび良好な破断脱液率を維持しつつ、混合適性が向上することがわかる。
【0096】
[乳化ゲルの添加量の影響の検討]
表6に示す配合で、実施例1と同様の手順により加工肉様食品を調製した(実施例10~12)。なお、各原材料の詳細は表2と同一であるため、一部記載を省略している。また、乳化ゲルの原材料およびその量は、表1と同一である。得られたそれぞれの加工肉様食品について、クッキングロスおよび破断脱液率を測定した。結果を表7に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
以上の結果から、乳化ゲルの添加量を増やすことにより、クッキングロスを抑制しつつ、破断脱液率を向上できることがわかる。
【0100】
[乳化ゲルの粒径の影響の検討]
表2と同一の配合で、実施例1と同様の手順により加工肉様食品を調製した(実施例13~15)。用いた乳化ゲルの原材料およびその量は、表1と同一である。乳化ゲルは、粒状の凍結物として添加した。その際、乳化ゲルの凍結物を、チョッパー(株式会社ボニー製 BK-220)を用いて粒状物として添加した。実施例13、14、15においては、チョッパーの目皿の孔径としてそれぞれ8mm、9.6mm、12.5mmを選択した。得られたそれぞれの加工肉様食品について、クッキングロスおよび破断脱液率を測定した。結果を表8に示す。
【0101】
【0102】
以上の結果から、乳化ゲルの粒径を適切に選択することにより、クッキングロスを抑制しつつ、破断脱液率を向上できることがわかる。
【0103】
[植物性タンパク質の熱変性による効果の検討]
表1に示す原材料を用いて乳化ゲルを調製した(参考例1~4)。詳細には、植物性タンパク質と水とをミキサー(株式会社テスコム製 TM856)を用いて撹拌混合した後、融解したヤシ油を1/3量ずつ添加して撹拌混合する操作を3回繰り返し、未ゲル化乳濁液を得た。得られた未ゲル化乳濁液を4等分し、パウチに投入し、ウォーターバスを用いてそれぞれ異なる一定の温度に到達したことを確認し、その後、その温度で1時間保持した後、ウォーターバスから取り出し、空冷にて室温(約25℃)まで放冷し、ゲル化の有無を観察した。さらに、冷凍庫(設定温度-20℃)で一晩(約12時間)保存した後、常温(約25℃)に戻し、ゲル化の様子を観察した。結果を表9に示す。
【0104】
【0105】
なお、表9におけるゲル化の様子の評価において、記号a~dは以下を示す。
a:固形状であり、ゲル化していることが伺える。
b:半固形状であり、ゲル化が比較的進行していることが伺える。
c:粘性液状であり、ゲル化が一部進行していることが伺える。
d:液状であり、ゲル化が進行していないか、ほとんど進行していないことが伺える。
【0106】
表9の結果から、油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が約1.7質量%と非常に少ない場合であっても、植物性タンパク質を熱変性させた場合には、冷凍処理前の段階において、既にゲル化が進行することがわかる。また、上記条件においては、冷凍処理により、冷凍処理前にゲル化が進行していなかった参考例1および2を含め、全ての参考例においてゲル化が確認された。
【0107】
いずれの実施例においても、実施例として得られた加工肉様食品は、比較例として得られた加工肉様食品より畜肉らしい優れたジューシー感を示すことが、5名のパネリストの全員一致の回答により、確認された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示の加工肉様食品の製造方法、加工肉様食品のジューシー感の向上方法、乳化ゲルの破断抑制方法、および凍結乳化ゲルは、加工肉食品における畜肉の少なくとも一部を植物性タンパク質で代替する食品の産業分野において好適に利用可能である。
【要約】
製造時におけるゲル化の進行に有利な乳化ゲル、該乳化ゲルの製造方法、該乳化ゲルを含む加工肉様食品、および該乳化ゲルを含む加工肉様食品の製造方法の提供。
組織状植物性タンパク質と、植物性タンパク質、水、および油脂を含む乳化ゲルの凍結物と、を混合して混合物を得る工程を有する、加工肉様食品の製造方法、加工肉様食品のジューシー感の向上方法、または混合時における乳化ゲルの破断抑制方法;植物性タンパク質、水、および油脂を含み、前記油脂の含有量に対する植物性タンパク質の含有量が、0.1~6質量%である、凍結乳化ゲル;組織状植物性タンパク質と、前記凍結乳化ゲルと、を含む、加工肉様食品。