IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日亜化学工業株式会社の特許一覧

特許7356003極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法
<>
  • 特許-極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法 図1
  • 特許-極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法 図2
  • 特許-極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法 図3
  • 特許-極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/02 20060101AFI20230927BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230927BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230927BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20230927BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20230927BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B22F3/02 R
B22F1/00 Y
B22F3/00 C
H01F1/059 160
H01F1/08 130
H01F41/02 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019162122
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2020079443
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2018182075
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】阿部 将裕
(72)【発明者】
【氏名】井原 公平
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148041(JP,A)
【文献】特開平09-330841(JP,A)
【文献】特開平05-275258(JP,A)
【文献】特開昭62-217607(JP,A)
【文献】特開平02-139907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00- 3/26
H01F 1/00-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)磁場に垂直方向の成形品の収縮率α1、平行方向の収縮率α2、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の肉厚Tから、下記式:
Tc=T×(α1/100-α2/100)
により成形体の収縮長Tcを求める工程、
(2)収縮率α2と、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の半径Dから、下記式:
Dm=D/(1-α2/100)
により金型キャビティの磁極部半径Dmを求める工程、および、
(3)Tc、Dmおよび作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の磁極数Pから金型キャビティの外周形状を規定する工程
を含む極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法。
【請求項2】
工程(3)において、金型キャビティ中心部を原点として、下記式:
r=(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)
(ただし、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0である。)
で表されるキャビティ外周部の極座標(r,θ)により金型キャビティの外周形状を規定する請求項1に記載の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法。
【請求項3】
工程(3)において、金型キャビティ中心部を原点として、下記式:
x={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×cosθ
y={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×sinθ
(ただし、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0で、0≦θ≦2πである。)
で表されるキャビティ外周部の直交座標(x、y)により金型キャビティの外周形状を規定する請求項1に記載の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法。
【請求項4】
キャビティ外周部の極座標(r,θ)が、金型キャビティ中心部を原点として、下記式:
r=(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)
(式中、磁場に垂直方向の成形品の収縮率をα1、平行方向の収縮率をα2、作製する極異方性環状ボンド磁石の肉厚をT、磁極数をP、極異方性環状ボンド磁石成形体の半径をDとし、得られる成形体の収縮長TcはT×(α1/100-α2/100)であり、金型キャビティの磁極部半径DmはD/(1-α2/100)で求められ、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0である。)
により規定される極異方性環状ボンド磁石成形体用金型。
【請求項5】
キャビティ外周部の直交座標(x、y)が、金型キャビティ中心部を原点として、下記式:
x={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×cosθ
y={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×sinθ
(式中、磁場に垂直方向の成形品の収縮率をα1、平行方向の収縮率をα2、作製する極異方性環状ボンド磁石の肉厚をT、磁極数をP、極異方性環状ボンド磁石成形体の半径をDとし、得られる成形体の収縮長TcはT×(α1/100-α2/100)であり、金型キャビティの磁極部半径DmはD/(1-α2/100)で求められ、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0で、0≦θ≦2πである。)
により規定される極異方性環状ボンド磁石成形体用金型。
【請求項6】
請求項4または5に記載の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型を使用して、ボンド磁石用組成物を射出成形する工程を含む極異方性環状ボンド磁石成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石用組成物を射出成形して極異方性環状ボンド磁石成形体を作製する場合、溶融させたボンド磁石用組成物を金型内に射出し、金型内で固化する際に体積が収縮する。その収縮度合は、該組成物中の温度に対する収縮率が大きい熱可塑性樹脂の含有量により変化する。加えて、ボンド磁石用組成物が磁性粉末を含有するため、磁場により収縮に異方性が生じて成形体が歪み、金型の形状がそのまま転写された成形体を得ることができない。そのため、真円の成形体を得るために、成形したボンド磁石成形体がどの程度歪んでいるのかを測定した後に、熟練者が金型を修正することが行われていた。
【0003】
一方、特許文献1には、等間隔に設定した磁石コンパウンドの押し込み深さとなるように、金型内に充填された磁石コンパウンドにそれぞれ外力を加えて磁石コンパウンドの充填密度を増加させる、磁場中で圧縮成形する長尺磁石成形体の製造方法が開示されている。しかしながら、長尺磁石成形体を対象とするものであり、極異方性環状ボンド磁石成形体用金型に適用することはできない。
【0004】
また、特許文献2には、樹脂の流動解析より作製した樹脂成形用の試験金型を用いて試験樹脂成形品を作製し、寸法の実測値をもとにして金型を作製する方法が開示されている。しかしながら、該方法では、試験用金型を予め作製する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-11312号公報
【文献】特開2006-142678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金型修正や試験金型を作製することなく、歪が小さく真円度の高いボンド磁石成形体を作製することができる極異方性環状ボンド磁石成形体用金型と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、極異方性環状ボンド磁石成形体用金型について種々検討したところ、成形体の収縮長、磁極部半径、成形体の磁極数から、金型キャビティの外周形状を規定すれば、金型の修正や、試験用金型を予め作製することなく、真円度の高い成形体を作製できるボンド磁石成形体用金型を見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)磁場に垂直方向の成形品の収縮率α1、平行方向の収縮率α2、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の肉厚Tから、下記式:
Tc=T×(α1/100-α2/100)
により成形体の収縮長Tcを求める工程、
(2)収縮率α2と、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の半径Dから、下記式:
Dm=D/(1-α2/100)
により金型キャビティの磁極部半径Dmを求める工程、および、
(3)Tc、Dmおよび作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の磁極数Pから金型キャビティの外周形状を規定する工程
を含む極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、金型の修正や試験用金型の作製が必要なく、真円度の高いボンド磁石成形体が得られる極異方性環状ボンド磁石成形体用金型を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】磁場存在下におけるボンド磁石成形体の収縮方向を表す概念図である。
図2】極異方性環状ボンド磁石成形体の磁極部と磁極間部を表す模式図である。
図3】ボンド磁石用樹脂組成物の充填方向から見た極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の模式図である。
図4】ボンド磁石用樹脂組成物の充填方向から見た極異方性環状ボンド磁石成形体用金型と、金型内で成形された成形体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本実施形態の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法は、
(1)磁場に垂直方向の成形品の収縮率α1、平行方向の収縮率α2、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の肉厚Tから、下記式:
Tc=T×(α1/100-α2/100)
により成形体の収縮長Tcを求める工程、
(2)収縮率α2と、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の半径Dから、下記式:
Dm=D/(1-α2/100)
により金型キャビティの磁極部半径Dmを求める工程、および、
(3)Tc、Dmおよび作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の磁極数Pから金型キャビティの外周形状を規定する工程
を含むことを特徴とする。
【0013】
図1に、磁場方向に対する収縮の概念図を示す。磁場が存在しない場合には縦横両方向に均等に収縮するが、磁場が存在すると、磁場に垂直方向では磁場による収縮が大きく、磁場に平行方向では、磁場による収縮は小さい。たとえば、図1のような10×10mmの成形体を成形する場合、磁場に平行方向の収縮率が0.3%、磁場に垂直方向の収縮率が0.9%とすると、磁場に平行方向の寸法を10/(1-0.003)=10.03mmとし、また、磁場に垂直方向の寸法を10/(1-0.009)=10.09mmとする金型を作製すれば、該金型で完全な正方形の成形体を成形することができる。
【0014】
ところで、環状ボンド磁石成形体では、正方形の成形体とは異なり、複雑な要因が存在する。図2に、直径2D、内径2I、肉厚T(=D-I)、磁極数Pが8の極異方性環状ボンド磁石成形体の上面図を示す。ここで、図2中の矢印は、磁界方向を表す。このような成形体は、図3に示すような配向用磁石を配した金型を使用して射出成形する。N極やS極という磁極が存在する磁極部では、磁場による収縮が小さく、磁極が存在しない磁極間部では磁場による収縮が大きい。そのため、この例では、収縮が大きい部分が8か所、収縮が小さい部分が8か所形成される。これらの磁場による収縮を考慮して、収縮が大きい磁極間部の径を大きくし、収縮が小さい磁極部の径を小さくすることによって、金型キャビティの外周形状、すなわち、図3における隔壁部4において、成型時にボンド磁石用組成物が接する内面側の形状を規定すれば、真円度が高いボンド磁石成形体を成形できる金型を作製することができる。また、図4は、金型に射出したボンド磁石用組成物が充填された状態を示す。
【0015】
極異方性環状ボンド磁石成形体の形状について、外半径Dは特に限定されないが、ボンド磁石組成物の流動性より射出成形時金型にボンド磁石組成物を充填しやすい点から10mm以上80mm以下が好ましく、20mm以上50mm以下がより好ましい。また、成形体の内半径Iは、外半径Dと肉厚Tにより定められる。
【0016】
成形体の肉厚Tは特に限定されないが、配向性、残留磁束密度、磁束密度の正弦波性を十分に満たすボンド磁石が得やすいことから2mm以上10mm以下が好ましく、4mm以上8mm以下がより好ましい。なお、肉厚Tは、磁極ピッチ(磁極間の距離)長さの1/2以上であることが好ましい。肉厚Tが磁極ピッチ長さの1/2以上の場合、幾何学的な磁力線半円がボンド磁石内に収まるため、磁路が途切れることによる磁力の低下を抑制することができる。
【0017】
成形体の肉厚方向に垂直方向の高さは特に限定されないが、ボンド磁石組成物の流動性より射出成形時金型にボンド磁石組成物を充填しやすい点から5mm以上30mm以下が好ましく、10mm以上20mm以下がより好ましい。
【0018】
[工程(1)]
工程(1)では、磁場に垂直方向の成形品の収縮率α1、平行方向の収縮率α2、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の肉厚T(=D-I)から、下記式:
Tc=T×(α1/100-α2/100)
により成形体の収縮長Tcを求める。収縮長Tcは、磁極部と磁極間部の収縮差を表す。計算に用いる磁場に垂直方向の収縮率α1(%)、平行方向の収縮率α2(%)は、金型内で実際の成形時に印加する磁場を印加しながら、ボンド磁石成形体用組成物を同じような射出成形温度で成形して得られた成形品の寸法と金型寸法から求める。使用する樹脂組成物は、該金型で実際に成形するボンド磁石成形用組成物と実質的に同じ組成物であれば良い。実質的に同じとは、同じマトリックス樹脂と、同じ磁性材料を使用し、該磁性材料を同程度の含有量で含有することを意味する。任意成分等は配合量も少なく、収縮率に大きな影響を与えないため、必ずしも同じ成分を同量含む必要はない。収縮率の測定に使用する成形品の形状は、配向磁場に垂直方向および平行方向の収縮率が測定できれば特に限定されず、例えば角柱、円柱、球状、環状等が挙げられる。印加する磁場強度も、該金型で実際に成形する際に印加する磁場強度と同程度であれば問題ない。
【0019】
[工程(2)]
工程(2)では、収縮率α2と、作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の半径Dから、下記式:
Dm=D/(1-α2/100)
により金型キャビティの磁極部半径Dmを求める。
【0020】
[工程(3)]
工程(3)では、Tc、Dmおよび作製しようとする極異方性環状ボンド磁石成形体の磁極数Pから金型キャビティの外周形状を規定する。ここで、金型キャビティの外周形状とは、図3に示すような金型の場合、隔壁4において、射出成形する際に組成物と接する内面側の周形状をいう。
【0021】
金型キャビティの外周形状を規定する方法は特に限定されないが、たとえば、極座標(r,θ)により規定する方法、直交座標(x、y)により規定する方法などが挙げられる。
【0022】
極座標(r,θ)により規定する場合、金型キャビティ中心部を原点として、外周部までの径rは、下記式:
r=(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)
(ただし、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0である。)
で表される。ここで、Dmは磁極部半径、(Dm+β×Tc/2)が磁極間部半径に該当する。磁極間部半径(Dm+β×Tc/2)に、磁極数Pによって周期的に変動する変動半径(β×Tc/2)sin(Pθ)を加えることにより、外周形状が極座標により規定される。
【0023】
βは0.7以上1.0以下であるが、0.9以上が好ましい。βが1.0の場合は、磁場に対する収縮を完全に考慮した場合に該当する。一般的な成形体の公差は±0.05mmが認められ、より厳しく、その半分を公差とすると、βは0.7以上であれば問題ない。磁極数Pは、2以上の整数であれば特に限定されないが、ボンド磁石の配向性の点より2以上12以下が好ましい。
【0024】
金型キャビティの外周形状を直交座標(x、y)により規定する場合、金型キャビティ中心部を原点として、外周部の直交座標(x、y)は、下記式:
x={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×cosθ
y={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×sinθ
(ただし、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0で、0≦θ≦2πである。)
で表される。βは0.7以上1.0以下であるが、0.9以上が好ましい。βの詳細は前述した通りである。
【0025】
また、本実施形態の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型は、
キャビティ外周部の極座標(r,θ)が、金型キャビティ中心部を原点として、下記式:
r=(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)
(式中、磁場に垂直方向の成形品の収縮率をα1、平行方向の収縮率をα2、作製する極異方性環状ボンド磁石成形体の肉厚をT、磁極数をP、極異方性環状ボンド磁石成形体の半径をDとし、得られる成形体の収縮長TcはT×(α1/100-α2/100)であり、金型キャビティの磁極部半径DmはD/(1-α2/100)で求められ、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0である。)
により規定されることを特徴とする。数式や、変数、定数等は前述した通りである。
【0026】
また、本実施形態の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型は、
キャビティ外周部の直交座標(x、y)が、金型キャビティ中心部を原点として、下記式:
x={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×cosθ
y={(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)}×sinθ
(式中、磁場に垂直方向の成形品の収縮率をα1、平行方向の収縮率をα2、作製する極異方性環状ボンド磁石成形体の肉厚をT、磁極数をP、極異方性環状ボンド磁石成形体の半径をDとし、得られる成形体の収縮長TcはT×(α1/100-α2/100)であり、金型キャビティの磁極部半径DmはD/(1-α2/100)で求められ、βは補正係数であり、0.7≦β≦1.0で、0≦θ≦2πである。)
により規定されることを特徴とする。数式や、変数、定数等は前述した通りである。
【0027】
本実施形態の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型のボンド磁石用樹脂組成物の充填方向から見た模式図を図3に示す。該金型は、磁性鋼材で作製した金属鋼材3で囲まれたキャビティ内に、配向用磁石2と、前述の方法により外周形状を規定した隔壁4を設置した構造を有している。中心部の金属鋼材3と隔壁4で形成されたキャビティ1にボンド磁石用組成物を射出して、形状を賦形する。
【0028】
金属鋼材3は、磁性鋼材から作製することが好ましい。磁性鋼材としては、プリハードン鋼、焼入れ鋼、炭素鋼などが挙げられる。一方、隔壁4は、非磁性鋼材から作製することが好ましい。非磁性鋼材としては、アルミニウム合金、ステンレス鋼、時効処理鋼などが挙げられる。配向用磁石2は、磁性材料から作製することが好ましい。磁性材料としては、NdFeB焼結磁石、SmCo焼結磁石が挙げられ、配向磁場の強さの観点からNdFeB焼結磁石が好ましい。
【0029】
さらに、本実施形態の極異方性環状ボンド磁石成形体の製造方法は、前記極異方性環状ボンド磁石成形体用金型を使用して、ボンド磁石用組成物を射出成形する工程を含むことを特徴とする。
【0030】
使用するボンド磁石用組成物は、熱可塑性樹脂と磁性粉末を含む。
【0031】
本実施形態で用いる磁性粉末は、特に限定されないが、SmFeN系、NdFeB系、SmCo系の希土類磁性粉末が使用可能である。希土類磁性粉末は、NdFeB系と比べて耐熱性の点で、またSmCo系と比べて希少金属を使用しない点でSmFeN系磁性粉末とすることがより好ましい。SmFeN系磁性粉末としては、ThZn17型の結晶構造をもち、一般式がSmFe100-x-yで表される希土類金属Smと鉄Feと窒素Nからなる窒化物である。ここで、希土類金属Smの原子%のx値は、8.1~10%の範囲に、Nの原子%のyは、13.5~13.9(原子%)の範囲に、残部が主としてFeとされる。また、磁性粉末としてSmFeN系とともに、NdFeB系、SmCo系の希土類磁性粉末や、フェライト系磁性粉末を併用することができる。
【0032】
SmFeN磁性粉末は、例えば特許第3698538号で開示された方法で製造できる。これにより、SmFeN磁性粉末の平均粒径が2μm~5μmであり、標準偏差が1.5μm以内のものを好適に使用できる。
【0033】
一方で、NdFeB系磁性粉末については、例えば、特許第3565513号に記載されたHDDR法により製造できる。このNdFeB系磁性粉末は、平均粒径が40~200μm、最大エネルギー積が34~42MGOe(270~335kJ/m)のものを好適に使用できる。さらにSm-Co磁性粉末については、例えば、特許第3505261号により製造でき、上述した磁性粉末は、平均粒径10~30μmのものが使用できる。
【0034】
熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂などが挙げられる。その中でもポリアミド、特にポリアミド12が好ましい。ポリアミド12は、比較的低融点で、吸水率が低く、結晶性樹脂であるため成形性が良い。また、これらを適宜混合して使用することも可能である。
【0035】
熱可塑性樹脂の配合量は特に限定されないが、磁性粉末100質量部に対して3質量部以上20質量部以下が好ましく、5質量部以上15質量部以下がより好ましい。20質量部を超えると、磁力が低くなり、3質量部未満では、射出成形時の流動性が不十分になる傾向がある。
【0036】
ボンド磁石用組成物には、熱可塑性エラストマーや酸化防止剤を配合することもできる。
【0037】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系などが挙げられる。熱可塑性エラストマーを含むことにより、流動性を損なうことなく初期強度を向上させることができる。また、これらを適宜混合して使用してもよい。これらの中でも、耐薬品性に優れているポリアミド系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0038】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤などが挙げられる。リン系酸化防止剤を含むことにより、複合部材が高温にさらされた場合にも強度の経時変化を小さくすることができる。リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0039】
射出成形条件等は、特に限定されず、通常のボンド磁石用組成物を射出成形する際の条件をそのまま適用することができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例について説明する。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0041】
製造例
ボンド磁石用組成物の製造
サマリウム鉄窒素磁性粉末(平均粒径3μm)91.96質量%に対して12ナイロン樹脂粉末7.74質量%、フェノール系酸化防止剤粉末0.3質量%をミキサーで混合した後、混合粉を二軸混練機に投入し、210℃にて混練して混練物を得た。得られた混練物を冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得た。
【0042】
実施例
Φ10mm×7mmの成形品を作製する金型において、716kA/mの磁場を印加しながら、250℃で射出成形し、該組成物の収縮率を測定した。磁場に平行方向の収縮率α2は0.3%、磁場に垂直方向の収縮率α1は1.0%であった。
【0043】
直径2Dが50mm、内径2Iが40mm、肉厚Tが5mm、肉厚方向に垂直な高さが10mm、磁極数Pが8の極異方性環状ボンド磁石成形体を作製するために、収縮率α1とα2を使用して、極座標(r,θ)により、金型キャビティ中心部を原点として、外周部までの径rを、下記式:
r=(Dm+β×Tc/2)+(β×Tc/2)sin(Pθ)
(ただし、βは1.0とした。)
で求められる内面側の外周形状を有する隔壁を作製した。Tcは0.035mm、Dmは25.075mmであった。
【0044】
作製した隔壁と、配向用磁石8個を金型内に設置して、極異方性環状ボンド磁石成形体用金型を作製した。製造例で作製したボンド磁石用組成物を使用して、成形温度250℃、金型温度90℃で射出成形し、成形体を10個作製した。得られた成形体10個について、測定顕微鏡(株式会社ミツトヨ製、型番MF-A1010)にて真円度を測定した。真円度は、10μmとなり、真円度の高い極異方性環状ボンド磁石成形体を作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の極異方性環状ボンド磁石成形体用金型の製造方法によれば、真円度の高いボンド磁石成形体を作製することができる極異方性環状ボンド磁石成形体用金型を作製できるため、金型修正や試験金型の作製が必要なく、産業上の利用価値が非常に高い。
【符号の説明】
【0046】
1:キャビティ
2:配向用磁石
3:金属鋼材(磁性鋼材)
4:隔壁(非磁性鋼材)
5:ボンド磁石成形体
図1
図2
図3
図4