IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧 ▶ 学校法人 中央大学の特許一覧

<>
  • 特許-水処理方法 図1
  • 特許-水処理方法 図2
  • 特許-水処理方法 図3
  • 特許-水処理方法 図4
  • 特許-水処理方法 図5
  • 特許-水処理方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20230927BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20230927BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C02F1/44 C
C02F1/52 Z
B01D61/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020002264
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021109141
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187908
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 康平
(72)【発明者】
【氏名】西川 健幸
(72)【発明者】
【氏名】薮野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢作
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】丁 青
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181618(WO,A1)
【文献】特開平08-197100(JP,A)
【文献】特開2019-055362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C02F 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含む原水を膜濾過により処理する水処理方法であって、
前記不純物を凝集させる凝集剤を、前記原水に添加することと、
前記不純物が凝集することにより形成された凝集体のフラクタル次元を得ることと、
前記フラクタル次元に基づいて前記原水への前記凝集剤の添加条件を調節することと、
前記凝集剤が添加された前記原水を膜濾過によって処理することにより、前記原水から前記不純物を除去して濾過水を得ることと、を含み、
前記フラクタル次元が1.6以上2.4以下の範囲内であるか否かを判定し、前記フラクタル次元が前記範囲内に収まって膜ファウリングが抑制されるように前記原水への前記凝集剤の添加条件を調節する、水処理方法。
【請求項2】
前記凝集剤が添加された前記原水を100s-1以上1000s-1以下の撹拌強度で撹拌することにより、前記原水中で前記不純物を凝集させる、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
レーザ回折散乱法により得られる測定パラメータに基づいて、前記フラクタル次元を算出する、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第二鉄及びポリシリカ鉄からなる群より選択される少なくとも一つが用いられる、請求項1~のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記凝集剤が添加された前記原水のpHが6以上8以下となるようにpH調整剤を前記原水に添加する、請求項1~のいずれか1項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールを用いた膜濾過システムは、原水中の不純物等を高精度に分離可能であること、装置のフットプリントが小さいこと及び運転の自動化が容易であること等の特長を有しており、浄水処理から純水回収、排水処理まで幅広く用いられている。この膜濾過システムを安定的に運転するためには、膜表面に供給される不純物の量と定期的な洗浄による不純物の除去効果とが適切なバランスを保っていることが必要である。また中空糸膜の細孔径よりも微細な粒子が原水中に多数含まれている場合には、当該粒子により細孔が閉塞する膜ファウリングが進行する。これにより、濾過流量が低下し、膜濾過システムの運転の継続が困難になる。このようなトラブルを防止するためには、膜濾過される前の原水に対して何らかの前処理を行うことが有効である。
【0003】
このような前処理の代表的なものとしては、凝集剤と呼ばれる薬剤を原水に添加することにより、原水中の微粒子を粗大化させて膜ファウリングを抑制する凝集操作がある。この操作では、適切な凝集条件を選定することにより、原水中の微粒子による膜ファウリングの発生を抑制することができる。しかし、適切な凝集条件の選定が困難である場合には、細孔の閉塞を抑制することが困難であるだけでなく、逆に濾過運転が不安定になる場合もある。例えば、原水に対する凝集剤の添加量が不足している場合には、微粒子の凝集反応の進行が不十分となり、膜ファウリングが進行する。逆に、原水に対する凝集剤の添加量が過剰である場合には、粗大な粒子が多量形成されるため、濾過運転中に膜表面が閉塞され、濾過運転中における通水抵抗が上昇する。
【0004】
さらに、凝集剤の添加量だけではなく、原水と凝集剤とを混合する際の撹拌強度や原水のpH等の条件によっても凝集反応の効率は変化するため、様々な種類の原水に対して適切な凝集条件を選定することは容易ではない。しかも、河川水や地下水等の環境水が原水として用いられる場合には、天候等の影響により水質が変動するため、変動する水質に応じて凝集条件を都度調節することも求められる。これに対し、特許文献1には、原水の濁度を計測し、当該計測された濁度に基づいて調整された量の無機凝集剤を添加する水処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/115455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された水処理方法は、種々の水質のうち濁度のみに着目し、濁度の計測結果に基づいて原水への凝集剤の添加量を調整する方法である。しかし、適切な凝集剤の添加条件は濁度以外の水質によっても変化するため、濁度のみに着目しても常に適切な凝集剤の添加条件を選定可能であるとは限らない。したがって、従来の水処理方法では、原水の水質変動への対応が万全ではなく、原水中の不純物の適切な凝集条件を選定することができないため、膜ファウリングを抑制するのが困難という課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、膜ファウリングを抑制しつつ原水を膜濾過することが可能な水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係る水処理方法は、不純物を含む原水を膜濾過により処理する方法である。この水処理方法は、前記不純物を凝集させる凝集剤を、前記原水に添加することと、前記不純物が凝集することにより形成された凝集体のフラクタル次元を得ることと、前記フラクタル次元に基づいて前記原水への前記凝集剤の添加条件を調節することと、前記凝集剤が添加された前記原水を膜濾過によって処理することにより、前記原水から前記不純物を除去して濾過水を得ることと、を含み、前記フラクタル次元が1.6以上2.4以下の範囲内であるか否かを判定し、前記フラクタル次元が前記範囲内に収まって膜ファウリングが抑制されるように前記原水への前記凝集剤の添加条件を調節する
【0009】
本発明者は、原水を膜濾過により処理する水処理方法において、膜ファウリングをより確実に抑制するための方策について鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、凝集剤を原水に添加することにより形成された凝集体のフラクタル構造に着目し、その凝集体のフラクタル次元と膜ファウリングの程度との間に相関関係があることを新たに見出した。
【0010】
本発明は、上述のような観点に基づいてなされたものである。本発明の水処理方法では、原水に凝集剤を添加することにより当該原水に含まれる不純物の凝集体を形成し、当該凝集体のフラクタル次元を得た後、当該フラクタル次元に基づいて原水への凝集剤の添加条件を調節する。このため、従来のように原水の濁度のみに基づいて原水への凝集剤の添加条件を調節する方法とは異なり、凝集体のフラクタル次元を指標とすることにより、膜ファウリングを抑制するための適切な凝集剤の添加条件を簡単に選定することができる。したがって、本発明の水処理方法によれば、適切な条件で凝集剤が添加された原水を膜濾過することにより、膜ファウリングを抑制しつつ濾過水を得ることが可能になる。
【0012】
さらに、凝集体のフラクタル次元が1.6以上2.4以下の範囲内になるように調節されるため、フラクタル次元が当該範囲外である場合に比べて膜ファウリングが大幅に抑制される。したがって、凝集体のフラクタル次元が当該範囲内に収まるように原水への凝集剤の添加条件を調節することにより、膜ファウリングをより確実に抑制しつつ原水を膜濾過することが可能である。
【0013】
上記水処理方法において、前記凝集剤が添加された前記原水を100s-1以上1000s-1以下の撹拌強度で撹拌することにより、前記原水中で前記不純物を凝集させてもよい。これにより、原水に含まれる不純物と原水に添加された凝集剤とをより確実に混合し、凝集体の形成を促進することが可能になる。
【0014】
上記水処理方法において、レーザ回折散乱法により得られる測定パラメータに基づいて、前記フラクタル次元を算出してもよい。この方法によれば、凝集体のフラクタル次元を簡単に得ることが可能である。
【0015】
上記水処理方法において、前記凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第二鉄及びポリシリカ鉄からなる群より選択される少なくとも一つが用いられてもよい。これらの材料を凝集剤として用いることにより、原水中の不純物をより確実に凝集させることが可能である。
【0016】
上記水処理方法において、前記凝集剤が添加された前記原水のpHが6.0以上8.0以下となるようにpH調整剤を前記原水に添加してもよい。
【0017】
凝集剤の添加により原水のpHが中性から酸性又はアルカリ性に変化する場合がある一方、原水中の不純物の凝集反応はpHが中性付近であることを要する。これに対し、上記方法によれば、凝集剤の添加により原水のpHが6.0未満又は8.0超えに変化した場合でも、pH調整剤の添加により、原水のpHを不純物の凝集反応が起こるpH領域に調整することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、膜ファウリングを抑制しつつ原水を膜濾過することが可能な水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態における水処理装置の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態における膜モジュールの内部の構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る水処理方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図4】実験例1における濾過時間と膜間圧力差との関係を示すグラフである。
図5】実験例5における濾過時間と膜間圧力差との関係を示すグラフである。
図6】凝集体のフラクタル次元と膜ファウリング値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る水処理方法を詳細に説明する。
【0021】
(水処理装置)
まず、本発明の一実施形態に係る水処理方法の実施に用いられる水処理装置1の構成を、図1及び図2に基づいて説明する。水処理装置1は、原水W1に含まれる不純物を膜濾過により当該原水W1から除去して濾過水を得る装置であり、当該膜濾過の前処理として不純物の凝集処理を実施するように構成されている。図1に示すように、水処理装置1は、原水槽10と、凝集剤添加機構11と、pH調整剤添加機構12と、撹拌機構20と、原水供給配管30と、膜モジュール40と、濾過水取出配管50とを主に備えている。以下、これらの構成要素をそれぞれ説明する。
【0022】
原水槽10は、図略の水源から供給される原水W1(膜濾過の対象となる水)を貯留するものであり、膜モジュール40の前段(上流側)に配置されている。原水W1は、例えば懸濁物質や細菌類等の各種不純物を含んでいる。原水W1としては、例えば河川水、湖沼水、地下水及び工業廃水等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0023】
凝集剤添加機構11は、原水W1中の不純物を凝集させる凝集剤を、原水槽10内へ添加するものである。本実施形態においては、当該凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第二鉄及びポリシリカ鉄からなる群より選択される少なくとも一つが用いられる。なお、図示は省略するが、凝集剤添加機構11は、凝集剤を収容する収容部と、当該収容部から原水槽10への凝集剤の添加量を調節する添加量調節部とを含む。
【0024】
pH調整剤添加機構12は、原水W1のpHを調整するためのpH調整剤を、原水槽10内へ添加するものである。pH調整剤としては、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、クエン酸又はシュウ酸等の酸類や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウム等の塩基類が用いられる。
【0025】
撹拌機構20は、原水槽10内に貯留された原水W1を撹拌するものである。具体的には、図1に示すように、撹拌機構20は、原水槽10の外に配置されたモータ21と、モータ21に接続された基端部から原水槽10内に位置する先端部まで延びる回転軸22と、回転軸22の先端部に設けられた複数の撹拌翼23とを有している。回転軸22は、モータ21の駆動により軸回りに回転可能となっている。したがって、モータ21を駆動させることにより、凝集剤やpH調整剤が添加された原水W1を原水槽10内において撹拌翼23により撹拌し、混合することができる。
【0026】
原水供給配管30は、原水槽10内に貯留された原水W1を膜モジュール40へ供給するための配管である。図1に示すように、原水供給配管30は、上流端が原水槽10の出口10Aに接続されていると共に、下流端が膜モジュール40の原水入口46に接続されている。また原水供給配管30には、原水槽10から流出した原水W1を加圧して膜モジュール40へ向かって送り出す送水ポンプ31と、原水供給配管30内を流れる原水W1の圧力を検知する原水側圧力検知部32とが、原水W1の流れ方向において上流側から順に配置されている。
【0027】
膜モジュール40は、中空糸膜により原水W1を濾過する中空糸膜モジュールであり、原水槽10の後段(下流側)に配置されている。図2は、膜モジュール40の内部の構成を模式的に示している。
【0028】
本実施形態における膜モジュール40は、外圧濾過式の中空糸膜モジュールである。ここでいう「外圧濾過式」とは、中空糸膜の外表面側に原水W1が供給され、当該原水W1が中空糸膜の外表面から内表面に向かって膜壁を透過することにより得られる濾過水を、当該内表面側の中空部から取り出す濾過方式である。
【0029】
中空糸膜モジュールとしては、膜分離処理の条件や要求される性能に応じて、外圧全量濾過式又は外圧循環濾過式のモジュールを用いることができる。膜寿命の観点からは、濾過処理と共に中空糸膜の表面洗浄を実施可能な外圧循環濾過式のモジュールが好ましい。一方、設備の単純さ、設置コスト及び運転コストの観点からは、外圧全量濾過式のモジュールが好ましい。なお、膜モジュールは、外圧濾過式の中空糸膜モジュールに限定されるものではなく、例えば、原水が中空糸膜の中空部を流れると共に、当該原水が中空糸膜の内表面から外表面に向かって膜壁を透過することにより濾過水が得られる内圧濾過式の中空糸膜モジュールであってもよい。
【0030】
図2に示すように、膜モジュール40は、束状の複数の中空糸膜42を有する中空糸膜束43と、中空糸膜束43を収容するハウジング41とを主に備えている。ハウジング41の内部には、原水W1が流入する原水空間S1と、当該原水空間S1に対して液密に仕切られると共に濾過水が流入する濾過水空間S2とがそれぞれ設けられている。本実施形態における膜モジュール40は、各中空糸膜42の長さ方向が上下方向(鉛直方向)に沿い且つ濾過水空間S2が原水空間S1の上側に位置する縦置き姿勢で設置されている。しかし、膜モジュール40の設置姿勢は特に限定されない。
【0031】
各中空糸膜42は、上端42Bと下端42Aとを含み、上端42Bから下端42Aに向かって延びる中空円筒形状を有している。各中空糸膜42の上端42Bは、開口状態で固定部材53により固定されており、一方で各中空糸膜42の下端42Aは、固定されずに樹脂等により封止されている。つまり、各中空糸膜42の下端42A側の開口部は、樹脂等の封止剤により塞がれている。固定部材53と中空糸膜束43とにより中空糸膜エレメントが構成されており、当該中空糸膜エレメントはハウジング41に対して挿抜可能となっている。
【0032】
上記のように、本実施形態における中空糸膜束43は、片端フリータイプのものである。このような片端フリータイプの中空糸膜束43は、充水された原水空間S1に空気等の気体を供給してバブリング洗浄を行う際に、気泡によって径方向に広がるように膨らむ。なお、中空糸膜束は、本実施形態のような片端フリータイプのものに限定されず、上端42B及び下端42Aの両方が固定された両端固定タイプのものでもよい。
【0033】
固定部材53は、各中空糸膜42の上端42Bを収束固定する。より具体的には、各中空糸膜42の上端42Bは、固定部材53を上下方向に貫通しており、濾過水空間S2に開口している。これにより、原水W1が中空糸膜42の外表面から内表面に向かって膜壁を透過することにより得られた濾過水が、当該中空糸膜42の中空部内を上端42Bに向かって上向きに流れた後、当該上端42B側の開口から濾過水空間S2へ流出可能となっている。
【0034】
固定部材53は、その外周部がハウジング41の内面に密着しており、原水W1と濾過水との混水を防ぐために原水空間S1と濾過水空間S2とを隔離している。固定部材53の構成材料としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を採用することができる。また中空糸膜束43と固定部材53との接着方法としては、例えば遠心接着法や静置接着法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0035】
中空糸膜42の素材としては、種々のものを採用することが可能であり、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF;Poly Vinylidene Difluoride)、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール及びポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種類の素材を含む中空糸膜42を用いることが好ましい。特に、膜強度や耐薬品性の観点から、ポリフッ化ビニリデンが中空糸膜42の素材として好ましい。
【0036】
中空糸膜42は、親水化処理されていることが好ましい。本実施形態における中空糸膜42は、0.1重量%以上10重量%以下の親水性樹脂を含有することにより、親水化処理されている。しかし、中空糸膜は、親水化処理されているものに限定されず、親水化処理されていない中空糸膜が用いられてもよい。
【0037】
中空糸膜束43は、中空糸膜42の本数が多くなるに従って単位モジュール当たりの膜面積が広くなるため、高い濾過流量で水処理装置1を運転することが可能になる。しかし、中空糸膜42の本数が多くなり過ぎると、中空糸膜42の洗浄時における不純物の排出効率が低下する。このため、中空糸膜42の外径をdi(m)、中空糸膜束43における中空糸膜42の本数をn(本)、ハウジング41の断面積をS(m)とした場合において、100πndi/4S、により算出される膜充填率(%)が10%以上60%以下であることが好ましく、20%以上50%以下であることがより好ましい。
【0038】
ハウジング41は、上下方向に長い中空円筒形状の容器であり、上面41Aと、下面41Cと、これらを接続する側面41Bとを含む。図2に示すように、ハウジング41内の原水空間S1に中空糸膜束43が収容されている。
【0039】
ハウジング41の下面41Cには、原水W1を原水空間S1へ導入するための原水入口46が設けられている。またハウジング41の側面41Bのうち下面41Cの真上の部位には、原水空間S1内の水を系外へ排出するためのドレン抜き口47と、中空糸膜42の洗浄用気体(空気等)を原水空間S1へ導入するための原水側気体入口45とがそれぞれ設けられている。
【0040】
ハウジング41の上面41Aには、濾過水空間S2から系外へ濾過水を取り出すための濾過水出口52が設けられており、当該濾過水出口52に濾過水取出配管50の上流端が接続されている。図2に示すように、濾過水取出配管50には、濾過水側気体入口48が設けられており、図略のエアーコンプレッサー等の気体供給源から供給される気体(圧縮空気)を、当該濾過水側気体入口48を通じて濾過水空間S2へ導入することができる。当該濾過水側気体入口48は、中空糸膜42の中空部内の濾過水を膜外へ押し出す逆圧洗浄を実施する際に用いられる。
【0041】
また図1に示すように、濾過水取出配管50には、当該濾過水取出配管50内を流れる濾過水の圧力を検知する濾過水側圧力検知部51が設けられている。当該濾過水側圧力検知部51による検知値と原水側圧力検知部32による検知値とに基づいて、膜間圧力差(膜モジュール40の一次側圧力と膜モジュール40の二次側圧力との差)を監視することができる。
【0042】
図2に示すように、ハウジング41の側面41Bのうち固定部材53の直下の部位には、原水空間S1内の気体を系外へ排出するための気体抜き口44が設けられている。気体抜き口44は、原水空間S1を外部へ開放する部分であり、側面41Bのうち上下方向の中央部よりも上側の部位に設けられている。
【0043】
ハウジング41の材質としては、SUS(JIS規格)、変性PPE(Poly Phenylene Ether)、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はABS(Acrylonitrile Butadiene Stylene)樹脂等が挙げられるが、これらの材質に限定されない。
【0044】
また上述の通り、本実施形態における中空糸膜エレメントはハウジング41に対して着脱可能であるが、固定部材53の外周部にO(オー)リングやパッキング等が取り付けられ、固定部材53がハウジング41に対して液密に装着されていてもよい。この場合、固定部材53をハウジング41から取り外して中空糸膜束43を交換することにより、ハウジング41を繰り返し使用することが可能である。しかしこれに限定されず、ハウジング41の内面に固定部材53が接着固定されることにより、いわゆる一体型モジュールが構成されていてもよい。
【0045】
(水処理方法)
次に、上記水処理装置1を用いて実施される本実施形態に係る水処理方法の各手順を、図3に示すフローチャートに従って説明する。本実施形態に係る水処理方法では、以下の手順により、不純物を含む原水W1を膜濾過により処理し、清浄な濾過水を得る。
【0046】
まず、不純物を含む原水W1(例えば河川水等)を図略の水源から原水槽10へ一定量供給し、当該原水W1を原水槽10において貯留する(ステップS10)。次に、凝集剤添加機構11により、原水槽10内に貯留された原水W1に所定量の凝集剤を添加する(ステップS20)。本実施形態では、凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第二鉄及びポリシリカ鉄からなる群より選択される少なくとも一つが、原水W1に添加される。この場合、上記群より選択される一種類の材料のみが凝集剤として添加されてもよいし、上記群より選択される複数種類の材料が凝集剤として添加されてもよい。また上記以外の材料が凝集剤として添加されてもよい。
【0047】
次に、凝集剤が添加された原水W1を、撹拌機構20(図1)により撹拌する(ステップS30)。具体的には、モータ21の駆動により回転軸22を軸回りに回転させ、撹拌翼23により原水W1と凝集剤とを混合する。本実施形態では、凝集剤が添加された原水W1を、100s-1以上1000s-1以下の撹拌強度で撹拌する。しかし、原水W1の撹拌強度はこれに限定されず、100s-1未満の撹拌強度で原水W1が撹拌されてもよいし、1000s-1を超える撹拌強度で原水W1が撹拌されてもよい。
【0048】
次に、凝集剤が添加された原水W1のpHを測定し、当該pHが6以上8以下の範囲外であるか否かを判定する(ステップS40)。この時、原水槽10に備えられた図略のpH計が用いられてもよいし、凝集剤添加後の原水W1の一部を原水槽10から採取してpHを測定してもよい。
【0049】
そして、当該pHが6以上8以下の範囲外である場合には(ステップS40のYES)、当該pHが6以上8以下の範囲内となるように、pH調整剤添加機構12(図1)により所定量のpH調整剤を原水W1に添加する(ステップS50)。具体的には、凝集剤添加後の原水W1のpHが6未満である場合には、塩基類をpH調整剤として原水W1に添加し、一方で凝集剤添加後の原水W1のpHが8を超える場合には、酸類をpH調整剤として原水W1に添加する。
【0050】
そして、pH調整剤添加後の原水W1を撹拌機構20により撹拌した後、当該原水W1のpHを再び測定し、当該pHが6以上8以下の範囲内であるか否かを判定する(ステップS60)。pH調整剤添加後の原水W1のpHが6以上8以下の範囲内である場合には(ステップS60のYES)、ステップS70に進み、当該pHが未だ6以上8以下の範囲外である場合には(ステップS60のNO)、ステップS50に戻って再び原水W1のpH調整を行う。また、凝集剤の添加後の時点で原水W1のpHが6以上8以下の範囲内である場合には(ステップS40のNO)、原水W1へのpH調整剤の添加を行わず、ステップS70に進む。
【0051】
このようにして、原水W1に凝集剤を添加し、また必要に応じてpH調整剤をさらに添加することにより、原水W1中の不純物が凝集剤の作用によって凝集し、個々の不純物(微粒子)よりも粗大な凝集体が形成される。この凝集体は、中空糸膜42の細孔径よりも大きい。
【0052】
次に、ステップS70~S90において、原水W1中の不純物が凝集することにより形成された凝集体のフラクタル次元を得る。ここで、当該凝集体は、全体とそれを構成する部分とが相似である構造、すなわち自己相似な構造であるフラクタル構造を有している。そして、「フラクタル次元」とは、フラクタル構造におけるある構造パターンがどの程度の複雑さにおいて構造全体に広がっているかを表す指標である。本実施形態においては、レーザ回折散乱法により得られる測定パラメータに基づいて、以下の通り、凝集体のフラクタル次元を算出する。
【0053】
まず、凝集剤(又は凝集剤及びpH調整剤)が添加された原水W1の一部を、原水槽10から採取する(ステップS70)。次に、当該ステップS70において採取された原水W1に対して、粒子径分布測定装置を用いたレーザ回折散乱測定を実施する(ステップS80)。具体的には、凝集体を含む原水W1に対して波長405nmのレーザ光を入射し、その時の散乱光強度I及び前方小角散乱の散乱ベクトルqをそれぞれ測定する。なお、前方小角散乱の散乱ベクトルqは、q=(2π/λ)sin(θ/2)の式により表される(λは入射光の波長、θは散乱角度)。
【0054】
次に、上記ステップS80における測定結果に基づいて、凝集体のフラクタル次元を算出する(ステップS90)。ここで、散乱光強度Iと前方小角散乱の散乱ベクトルqは、I(q)∝q-D、の式により表される関係を有する。したがって、上記ステップS80における測定により得られた散乱光強度I及び前方小角散乱の散乱ベクトルqを両対数グラフにプロットし、その時得られる傾き(D)をフラクタル次元として算出する。
【0055】
次に、上記ステップS90において算出された凝集体のフラクタル次元に基づいて、以下の通り、原水W1への凝集剤の添加条件を調節する。まず、フラクタル次元の値が目標範囲内であるか否か、具体的にはフラクタル次元の値が1.6以上2.4以下の範囲内であるか否かを判定する(ステップS100)。そして、フラクタル次元の値が1.6以上2.4以下の範囲外である場合には(ステップS100のNO)、フラクタル次元の値が1.6以上2.4以下の範囲内に収まるように原水W1への凝集剤の添加条件を調節する(ステップS110)。より好ましくは、フラクタル次元の値が1.6以上2.0以下の範囲内に収まるように原水W1への凝集剤の添加条件を調節してもよい。
【0056】
具体的には、上記ステップS90において算出されたフラクタル次元の値が1.6未満である場合には、原水W1への凝集剤の添加量を、上記ステップS20における凝集剤の添加量よりも増加させる。一方、上記ステップS90において算出されたフラクタル次元の値が2.4を超える場合には、原水W1への凝集剤の添加量を、上記ステップS20における凝集剤の添加量よりも減少させる。なお、本実施形態では、凝集剤の添加量を増減させることにより添加条件を調節する場合を一例として説明したが、例えば凝集剤の種類を変更することにより添加条件を調節してもよいし、凝集剤の添加量及び種類の両方を変更することにより添加条件を調節してもよい。
【0057】
このようにして、原水W1への凝集剤の添加条件を調節した後、ステップS30へ戻り、原水W1の撹拌(ステップS30)、原水W1のpHの確認(ステップS40)、必要に応じたpH調整剤の添加(ステップS50)、原水槽10からの原水W1のサンプリング(ステップS70)、サンプリングされた原水W1のレーザ回折散乱測定(ステップS80)及び凝集体のフラクタル次元の算出(ステップS90)を再度行う。そして、凝集剤の添加条件調節後におけるフラクタル次元の値が1.6以上2.4以下の範囲内であるか否かを判定する(ステップS100)。すなわち、凝集体のフラクタル次元の値が1.6以上2.4以下の範囲内となる凝集剤の添加条件が確認されるまで、ステップS30~S110の操作を繰り返す。そして、フラクタル次元の値が1.6以上2.4以下の範囲内であることが確認された後(ステップS100のYES)、その時の原水W1への凝集剤の添加条件を最適添加条件として確定する(ステップS120)。
【0058】
次に、上記ステップS120において確定された条件で凝集剤が添加された原水W1を、膜モジュール40において膜濾過によって処理することにより、原水W1から不純物(当該不純物の凝集体)を除去して濾過水を得る(ステップS130)。具体的には、原水槽10の出口10A(図1)を開き、上記最適添加条件で凝集剤が添加された原水W1を、原水供給配管30を通じて膜モジュール40(原水空間S1)へ一定流量で供給する。原水W1は、各中空糸膜42(図2)の外表面から内表面に向かって膜壁を透過し、この時、当該原水W1に含まれる不純物の凝集体が中空糸膜42の外表面に付着する。これにより、不純物が除去された清浄な濾過水が中空糸膜42の中空部内へ流入し、濾過水空間S2を通過してモジュールの外へ取り出される。
【0059】
このようにして、一定時間連続で原水W1の濾過を行った後(ステップS140のYES)、以下のようにして膜モジュール40の逆圧洗浄を行う(ステップS150)。具体的には、原水槽10から膜モジュール40への原水W1の供給を停止し、図略の気体供給源から濾過水側気体入口48(図2)を通じて濾過水空間S2へ気体(例えば圧縮空気)を供給する。そして、当該圧縮空気により、各中空糸膜42の中空部内の濾過水を膜外へ(すなわち原水空間S1)へ押し出す。これにより、濾過運転中に各中空糸膜42の外表面に付着した凝集体が除去され、その後、当該凝集体を含む水がドレン抜き口47(図2)からモジュール外へ排出される。このようにして膜モジュール40の逆圧洗浄を行った後、原水W1の膜濾過を再開する(ステップS160)。
【0060】
以上の通り、本実施形態に係る水処理方法では、原水W1に凝集剤を添加することにより原水W1中に含まれる不純物の凝集体を形成した後、当該凝集体についてフラクタル次元を取得し、そのフラクタル次元に基づいて原水W1への凝集剤の添加条件を調節する。具体的には、フラクタル次元が1.6以上2.4以下の範囲内に収まるように、原水W1への凝集剤の添加条件を調節する。このように、凝集体のフラクタル次元を指標とすることにより、中空糸膜42における膜ファウリングを抑制するための適切な凝集剤の添加条件を簡単に選定することができる。そして、適切な条件の下で凝集剤が添加された原水W1を膜モジュール40において中空糸膜42によって濾過することにより、膜ファウリングを抑制しつつ清浄な濾過水を得ることが可能になる。
【0061】
また上記水処理方法において、濾過運転中の膜ファウリングを抑制するために、凝集体のフラクタル次元について上限値を定めた意義は以下の通りである。
【0062】
まず、各中空糸膜42を、均一な内径及び長さを有する円管(細孔)を束ねた濾材として仮定すると、円管内の層流の流れを示すハーゲンポアズイユの式に基づき、濾材における流量計算式は下記の式(1)の通りとなる。下記の式(1)において、「J」は単位濾過面積当たりの流量、「N」は単位濾過面積当たりの円管数、「d」は円管の直径、「ΔP」は円管両端での差圧、「μ」は流体の粘度、「L」は円管の長さをそれぞれ示している。
【0063】
J=N・π・d・ΔP/128μL・・・(1)
【0064】
そして、原水W1中の不純物(凝集体)が細孔の開口で除去され、開口を塞ぐように捕捉される濾過モデルを想定した場合、定流量濾過における差圧ΔPと濾液量vとの関係は、下記の式(2)の通りである。「ΔP」は濾材両端での差圧、「Kc」は閉塞係数を示している。
【0065】
ΔP=ΔP・(1+Kc・v)・・・(2)
【0066】
上記の式(2)によれば、閉塞係数Kcにより差圧ΔPの上昇(膜ファウリング)の程度が決定される。そして、当該閉塞係数Kcは、凝集体に固有の値であり、当該凝集体のフラクタル次元に比例して増大すると推定される。フラクタル次元は、凝集体における自己相似性の指標であり、凝集体の密度が高くなるに従って大きくなる。したがって、フラクタル次元が小さい場合は、凝集体の密度が低くなり、凝集体の通水抵抗が小さくなるため、閉塞係数Kcが小さくなる。一方、フラクタル次元が大きい場合は、凝集体の密度が高くなり、凝集体の通水抵抗が大きくなるため、閉塞係数Kcが大きくなる。
【0067】
したがって、フラクタル次元の上限値を定めることの意義は、凝集体の密度が過剰に高くなり、上記閉塞モデルにおける閉塞係数Kcが過剰になるのを抑制するためである。すなわち、上記水処理方法では、原水W1中の不純物が中空糸膜42の細孔よりも大きい凝集体を形成すると共に、当該凝集体が原水W1の通過を許容する密度となるように、原水W1への凝集剤の添加条件が調節される。これにより、中空糸膜42の細孔内が不純物の凝集体により閉塞されるのを抑制可能であると共に、濾過運転中に当該凝集体が中空糸膜42の細孔の開口を塞ぐように外表面側で捕捉されても、原水W1が当該凝集体を通過することができるため、膜ファウリングを抑制することができる。
【0068】
なお、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。したがって、本発明の範囲には、以下の実施形態も含まれる。
【0069】
上記実施形態では、凝集剤の最適添加条件を確定した後に原水W1の膜濾過を開始する場合を一例として説明したが、これに限定されない。すなわち、膜モジュール40において原水W1の膜濾過を行いつつ、フラクタル次元に基づく凝集剤の添加条件の調節を並行して行ってもよい。
【0070】
上記実施形態では、レーザ回折散乱法により凝集体のフラクタル次元を算出する場合を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、凝集体の画像を取得した後、当該画像を2値化処理することにより、凝集体のフラクタル次元(上記実施形態における傾きDに相当する値)を算出してもよい。さらに、凝集体の画像とフラクタル次元との相関関係を予め調査し、凝集体の画像と当該相関関係とに基づいてフラクタル次元を推定し、推定されたフラクタル次元に基づいて凝集剤の添加条件を調節してもよい。
【0071】
上記実施形態では、中空糸膜モジュールを用いた濾過を膜濾過の一例として説明したがこれに限定されず、中空糸膜モジュール以外の膜濾過機構が用いられてもよい。
【0072】
(実験例1)
まず、河川表流水を原水としてサンプリングし、これに凝集剤であるポリ塩化アルミニウム(PAC)を1.0mg(Al)/Lの濃度で添加し、pH調整剤により原水のpHを7.0に調整し、粒子径分布測定装置を用いたレーザ回折散乱測定を行った。この測定結果に基づいて、凝集体のフラクタル次元は2.02と算出された。
【0073】
上記の凝集剤添加条件及びpH調整剤添加条件の下で、図1の水処理装置により原水を濾過し、その時の膜ファウリング値を算出した。中空糸膜としては、ポリフッ化ビニリデンを素材とし、公称孔径が0.02μmのものを用いた。そして、2.4m/dの流束で20時間濾過運転を行い、その間30分毎に逆圧洗浄による中空糸膜の洗浄を実施した。1回の逆圧洗浄とその次の逆圧洗浄との間における膜間圧力差の上昇の平均値を「膜ファウリング値」として算出した。膜ファウリング値は、濾過運転の安定性を示す指標であり、膜ファウリング値が大きい程濾過運転が不安定であり、膜ファウリング値が小さい程濾過運転が安定であることを意味する。
【0074】
図4は、実験例1における濾過時間(h、横軸)と膜間圧力差(TMP、kPa)との関係を示すグラフである。本実験例では、膜ファウリング値は0.75kPaと算出された。
【0075】
(実験例2)
ポリ塩化アルミニウムを2.4mg(Al)/Lの濃度で原水に添加した点以外は、上記実験例1と同様である。本実験例では、凝集体のフラクタル次元が2.29と算出され、膜ファウリング値は0.85kPaと算出された。
【0076】
(実験例3)
原水として上記実験例1と異なる種類の河川表流水をサンプリングし、ポリ塩化アルミニウムを2.4mg(Al)/Lの濃度で原水に添加した点以外は、上記実験例1と同様である。本実験例では、凝集体のフラクタル次元が2.13と算出され、膜ファウリング値は0.49kPaと算出された。
【0077】
(実験例4)
原水として上記実験例1と異なる人工調製原水を使用し、ポリ塩化アルミニウムを1.1mg(Al)/Lの濃度で原水に添加し、pH調整剤により原水のpHを7.1に調整した点以外は、上記実験例1と同様である。本実験例では、凝集体のフラクタル次元が1.65と算出され、膜ファウリング値は0.10kPaと算出された。
【0078】
(実験例5)
ポリ塩化アルミニウムを4.8mg(Al)/Lの濃度で原水に添加した点以外は、上記実験例1と同様である。図5は、実験例5における濾過時間(h、横軸)と膜間圧力差(TMP、kPa)との関係を示すグラフである。本実験例では、凝集体のフラクタル次元が2.45と算出され、膜ファウリング値は1.85kPaと算出された。
【0079】
(実験例6)
ポリ塩化アルミニウムを8.5mg(Al)/Lの濃度で原水に添加し、pH調整剤により原水のpHを8.0に調整した点以外は、上記実験例1と同様である。本実験例では、凝集体のフラクタル次元が2.47と算出され、膜ファウリング値は4.50kPaと算出された。
【0080】
(実験例7)
ポリ塩化アルミニウムを10.0mg(Al)/Lの濃度で原水に添加し、pH調整剤により原水のpHを8.0に調整した点以外は、上記実験例1と同様である。本実験例では、凝集体のフラクタル次元が2.59と算出され、膜ファウリング値は4.80kPaと算出された。
【0081】
(実験例8)
原水として上記実験例1と異なる種類の河川表流水をサンプリングし、ポリ塩化アルミニウムを10.0mg(Al)/Lの濃度で原水に添加し、pH調整剤により原水のpHを8.0に調整した点以外は、上記実験例1と同様である。本実験例では、凝集体のフラクタル次元が2.42と算出され、膜ファウリング値は1.45kPaと算出された。
【0082】
(考察)
上記実験例1~8における各実験条件並びにフラクタル次元及び膜ファウリング値の算出結果を纏めると、下記の表1の通りである。また図6は、上記実験例1~8において得られたフラクタル次元(横軸)及び膜ファウリング値(縦軸、kPa)の値をプロットしたグラフである。
【0083】
【表1】
【0084】
図6のグラフから明らかなように、凝集体のフラクタル次元と膜ファウリング値との間には相関関係が確認され、特に、フラクタル次元が2.4以下である場合にはフラクタル次元が2.4を超える場合に比べて膜ファウリング値が大幅に抑えられることが分かった。
【0085】
なお、上記実験例1~8は、中空糸膜の細孔径が0.02μmで同じであるが、フラクタル次元が2.4以下である場合に膜ファウリングが効果的に抑制されることについては、細孔径に依存せず同じであると推察される。すなわち、フラクタル次元が2.4を超える場合に膜ファウリング値が大幅に上昇するのは、上述の通り凝集体の密度が高まって通水抵抗が上昇することに主に起因すると考えられ、このことは、中空糸膜の細孔径の大きさとは直接関係しないためである。
【符号の説明】
【0086】
1 水処理装置
10 原水槽
10A 出口
11 凝集剤添加機構
12 pH調整剤添加機構
20 撹拌機構
21 モータ
22 回転軸
23 撹拌翼
30 原水供給配管
31 送水ポンプ
32 原水側圧力検知部
40 膜モジュール
41 ハウジング
41A 上面
41B 側面
41C 下面
42 中空糸膜
42A 下端
43 中空糸膜束
44 気体抜き口
45 原水側気体入口
46 原水入口
47 ドレン抜き口
48 濾過水側気体入口
50 濾過水取出配管
51 濾過水側圧力検知部
52 濾過水出口
53 固定部材
S1 原水空間
S2 濾過水空間
W1 原水
図1
図2
図3
図4
図5
図6