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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】吸着剤および造粒物
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/14 20060101AFI20230927BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230927BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20230927BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230927BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20230927BHJP
   B01J 2/28 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B01J20/14
B01J20/28 Z
B01J20/32 Z
A61L9/01 B
A61L9/014
B01J2/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022547539
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2021032310
(87)【国際公開番号】W WO2022054690
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2020153950
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター、「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206405
【弁理士】
【氏名又は名称】岸 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 麻有
(72)【発明者】
【氏名】松岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】坂田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】古月 文志
(72)【発明者】
【氏名】植木 貴之
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-200648(JP,A)
【文献】特開2008-080328(JP,A)
【文献】特開2000-246040(JP,A)
【文献】特開昭55-024502(JP,A)
【文献】国際公開第2017/078084(WO,A1)
【文献】特開2019-081257(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152645(WO,A1)
【文献】Carbohydrate Polymers ,2020年02月27日,236,116079
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 2/00-2/30
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
A61L 9/00-9/22
B01D 53/00-53/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が二酸化ケイ素であり、複数の細孔を有し、比表面積が1m2/g以上10m2/g以下である多孔質体と、
前記多孔質体の前記細孔の内部に含浸され、対象となる気体と中和反応をすることで塩を生成する酸または塩基と、
前記多孔質体に保持される親水性の繊維と
を含む吸着剤。
【請求項2】
前記多孔質体は、珪藻土であることを特徴とする請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
前記親水性の繊維の繊維径は、1μm未満であることを特徴とする請求項2に記載の吸着剤。
【請求項4】
前記親水性の繊維は、セルロース系繊維を含むことを特徴とする請求項2に記載の吸着剤。
【請求項5】
前記セルロース系繊維は、セルロースナノファイバーを含むことを特徴とする請求項4に記載の吸着剤。
【請求項6】
前記酸として、ポリリン酸を含むことを特徴とする請求項5に記載の吸着剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の吸着剤からなる造粒物。
【請求項8】
バインダとしてカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とする請求項7に記載の造粒物。
【請求項9】
前記カルボキシメチルセルロースの含有量が、0.5wt%以上1.5wt%以下の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の造粒物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸着剤および造粒物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、珪藻土を主成分とし、酸類が添加された吸着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-125668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
珪藻土等の多孔質体と、吸着対象気体と中和反応する酸または塩基とを有する吸着剤および造粒物では、低湿度環境において、吸着対象気体の吸着効率が低下する場合がある。
本開示は、低湿度環境における吸着性能の低下が抑制された吸着剤および造粒物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の吸着剤は、主成分が二酸化ケイ素であり、複数の細孔を有し、比表面積が1m2/g以上10m2/g以下である多孔質体と、前記多孔質体の前記細孔の内部に含浸され、対象となる気体と中和反応をすることで塩を生成する酸または塩基と、前記多孔質体に保持される親水性の繊維とを含む。
【0006】
ここで、前記多孔質体は、珪藻土であることを特徴とする。
また、前記親水性の繊維の繊維径は、1μm未満であることを特徴とする。
また、前記親水性の繊維は、セルロース系繊維を含むことを特徴とする。
また、前記セルロース系繊維は、セルロースナノファイバーを含むことを特徴とする。
また、前記酸として、ポリリン酸を含むことを特徴とする。
【0007】
また、他の観点から捉えると、本開示の造粒物は、前記吸着剤からなる。
【0008】
ここで、バインダとしてカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とする。
また、前記カルボキシメチルセルロースの含有量が、0.5wt%以上1.5wt%以下の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、低湿度環境における吸着性能の低下が抑制された吸着剤および造粒物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1および比較例1の造粒物について、湿度とアンモニア吸着量との関係を示したグラフである。
図2】実施例2、3の吸着剤によるアンモニアの吸着効率と経過時間との関係を示したグラフである。
図3】実施例4の造粒物について、造粒物におけるカルボキシメチルセルロースの含有量とアンモニア吸着量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について詳細に説明する。
<吸着剤>
本実施の形態の吸着剤は、多孔質体と、酸または塩基と、親水性の繊維とを含んでいる。また、吸着剤は、多孔質体、酸または塩基および親水性の繊維の他に、必要に応じて他の添加物等を含んでいてもよい。
吸着剤では、酸または塩基が、多孔質体に形成された複数の孔の内部に含浸されている。また、吸着剤では、親水性の繊維が、多孔質体に保持されている。
【0012】
本実施の形態の吸着剤は、気体を吸着する。詳細については後述するが、吸着剤では、酸または塩基が、吸着剤による吸着の対象となる気体と中和反応して塩を生成する。この結果、吸着剤による吸着の対象となる気体が分解される。また、吸着剤による吸着の対象となる気体が臭気を有する気体である場合、この気体が分解されることで、臭気が除去される。
【0013】
続いて、本実施の形態の吸着剤を構成する各成分について順に説明する。
(多孔質体)
本実施の形態の吸着剤では、二酸化ケイ素を主成分とし、複数の細孔を有し、比表面積が1m2/g以上10m2/g以下である多孔質体を用いることができる。なお、多孔質体の比表面積は、例えば、窒素ガスを用いたガス吸着法により測定することができる。
このような多孔質体としては、例えば、珪藻土、シリカゲル、メソポーラスシリカ等が挙げられ、珪藻土を用いることが好ましい。
【0014】
(珪藻土)
珪藻土は、主に珪藻の殻が堆積してできた土壌からなり、二酸化ケイ素を主成分とする。珪藻土には、海成種および淡水種が存在するが、このいずれを用いてもよい。
珪藻土は、互いに連通する複数の孔を有する、多孔質構造を有している。珪藻土に形成された複数の孔の一部は、珪藻土の外部に通じている。また、珪藻土の種類や産地等によっても異なるが、珪藻土に形成された複数の孔の孔径は、約0.1μm~数十μmの範囲である。
【0015】
珪藻土は、多孔質構造を有することで、孔の内部に水を吸着することができる。これにより、高湿度環境では、孔の内部に水を吸着することで、吸着剤の周囲に存在する水によって酸または塩基が珪藻土から遊離することが抑制される。
また、珪藻土は、多孔質構造を有することで、表面積が大きくなっている。これにより、珪藻土は、複数の孔の内部により多くの酸または塩基を保持することができる。そして、吸着剤による吸着の対象となる気体と酸または塩基との中和反応を促すことができる。
【0016】
(酸または塩基)
酸または塩基は、上述したように、多孔質体に形成された複数の孔の内部に含浸されている。なお、酸または塩基は、多孔質体に形成された複数の孔の内部の他、孔の外部にも存在してもよい。そして、酸または塩基は、吸着剤による吸着の対象となる気体と中和反応することで塩を形成する。
酸または塩基は、吸着剤による吸着の対象となる気体に応じて選択される。例えば、吸着剤による吸着の対象となる気体が塩基性の気体である場合には、酸が用いられる。また、吸着剤による吸着の対象となる気体が酸性の気体である場合には、塩基が用いられる。なお、以下の説明において、吸着剤による吸着の対象となる気体を、吸着対象気体と表記する場合がある。
【0017】
酸としては、塩基性の吸着対象気体と中和反応することで塩を生成するものであれば特に限定されるものではない。このような酸としては、例えば、ポリリン酸、リン酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの酸の中でも、多孔質体への含浸のしやすさや吸着剤における安定性、コスト等の観点から、ポリリン酸およびリン酸を用いることが好ましく、ポリリン酸を用いることがより好ましい。
【0018】
また、塩基性の吸着対象気体としては、例えば、アンモニア、トリメチルアミン等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0019】
塩基としては、酸性の吸着対象気体と中和反応することで塩を生成するものであれば特に限定されるものではない。このような塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。これらの中でも、多孔質体への含浸のしやすさや吸着剤における安定性、コスト等の観点から、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0020】
また、酸性の吸着対象気体としては、例えば、硫化水素、メチルメルカプタン、二酸化硫黄等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0021】
(親水性の繊維)
親水性の繊維は、上述したように、多孔質体に保持されている。より具体的には、親水性の繊維は、多孔質体に形成された複数の孔の外部に保持されている。なお、親水性の繊維は、その一部が、多孔質体に形成された複数の孔の内部に存在していてもよい。
そして、親水性の繊維は、吸着剤の周囲に存在する水や、吸着対象気体と酸または塩基との中和反応により生成された水等を吸着する。
【0022】
ここで、本実施の形態において、「親水性の繊維」とは、表面に水をひきつけやすい極性基を有する繊維を意味する。また、水をひきつけやすい極性基としては、例えば、ヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、カルボキシ基(-COOH)、エーテル結合(-O-)、アミド結合(-CONH-)等が挙げられる。これらの極性基は、水と水素結合することで、繊維の表面に水をひきつける。
【0023】
親水性の繊維の繊維径は、1μm未満であることが好ましい。親水性の繊維の繊維径が1μm未満であることにより、親水性の繊維の繊維径が1μm以上である場合と比べて、親水性の繊維の表面積が大きくなる。これにより、親水性の繊維が、吸着剤の周囲に存在する水分や吸着対象気体と酸または塩基との中和反応により生成された水を吸着しやすくなる。この結果、低湿度環境での吸着剤による吸着性能の低下がより抑制される。
なお、親水性の繊維の繊維径は、例えば、以下の方法により得ることができる。まず、電子顕微鏡を用いて吸着剤のSEM画像を取得する。この際、電子顕微鏡の倍率として、親水性の繊維の繊維径が認識できる倍率を選択する。続いて、取得したSEM画像に表れる複数の親水性の繊維の中から予め定めた数(例えば100個)の親水性の繊維を無作為に選択し、それぞれの繊維径を測定する。そして、測定した全ての繊維径の和を、測定した繊維の個数で除することで、吸着剤における親水性の繊維の繊維径(平均繊維径)が得られる。
【0024】
親水性の繊維としては、例えば、セルロースナノファイバー、マイクロセルロース、レーヨン、リヨセル、綿、麻等のセルロース系繊維、絹等のたんぱく質系繊維、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの親水性の繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの親水性の繊維の中でも、セルロース系繊維を用いることが好ましい。
ここで、セルロース系繊維とは、セルロースおよび/またはセルロースの誘導体を主成分として構成される繊維である。セルロースは、分子鎖の繰り返し単位の中に、強力な水素結合により水をひきつける極性基として、6個のヒドロキシ基と4個のエーテル結合とを有している。このため、セルロース系繊維は、親水性が高く、水をひきつけやすい。
【0025】
さらに、このようなセルロース系繊維の中でも、セルロースナノファイバーを用いることがより好ましい。親水性の繊維としてセルロースナノファイバーを用いることで、他のセルロース系繊維を用いる場合と比べて、吸着剤による吸着の対象となる気体の吸着量を増加させることができる。
ここで、セルロースナノファイバーとは、セルロースから構成される繊維であって、繊維径が1nm~数百nm程度のものを意味する。本実施の形態では、セルロースナノファイバーの繊維径は、1nm以上400nm以下の範囲であることが好ましい。セルロースナノファイバーは、例えば、パルプ繊維を公知の方法で解繊処理することにより形成される。
【0026】
(吸着剤の製造方法)
続いて、本実施の形態の吸着剤の製造方法の一例について説明する。本実施の形態の吸着剤は、例えば、以下のように製造することができる。
まず、予め定められた重量比で、上述した親水性の繊維と酸または塩基とを混合する。続いて、得られた混合物に、予め定められた重量の多孔質体を少しずつ加えながら攪拌する。これにより、多孔質体、酸または塩基および親水性の繊維を有する、粒状の吸着剤が得られる。
なお、本実施の形態の吸着剤は、多孔質体、酸または塩基および親水性の繊維を有するものであれば、その形状は粒状に限られるものではない。
【0027】
(吸着剤による作用)
本実施の形態の吸着剤は、上述したように、酸または塩基と吸着対象気体とが中和反応し、塩を生成する。ここで、吸着剤における酸または塩基と吸着対象気体との中和反応の効率は、酸または塩基の周囲の湿度によって異なる。例えば、酸または塩基の周囲の湿度が過度に低い場合、吸着剤における酸または塩基と吸着対象気体との中和反応の効率が低下しやすい。
これに対し、本実施の形態の吸着剤は、多孔質体、酸または塩基に加えて、親水性の繊維を有することで、低湿度環境においても、親水性の繊維によって水が保持される。これにより、酸または塩基の周囲の湿度が過度に低くなることが抑制される。この結果、低湿度環境においても、酸または塩基と吸着対象気体との中佐反応の効率が低下することが抑制される。
【0028】
<造粒物>
上述した吸着剤は、公知の方法を用いて、造粒物としてもよい。続いて、吸着剤からなる造粒物について説明する。
ここで、多孔質体、および吸着対象気体と中和反応する酸または塩基を有する造粒物では、以下のような課題が生じる場合がある。すなわち、このような造粒物では、吸着対象気体と酸または塩基とが中和反応して塩および水が生成されると、隣接する造粒物同士が付着する場合がある。そして、造粒物同士が付着すると、吸着対象気体が造粒物間を通過することが困難となり、造粒物による吸着性能が低下するおそれがある。
【0029】
これに対し、本実施の形態の造粒物は、多孔質体、酸または塩基に加えて、上述した親水性の繊維を有する吸着剤により構成される。これにより、吸着対象気体と酸または塩基とが中和反応して生成された水の一部が、この親水性の繊維に吸着される。この結果、造粒物同士が付着することが抑制され、吸着性能の低下が抑制される。
【0030】
(バインダ)
ここで、本実施の形態の造粒物は、多孔質体、酸または塩基、および親水性の繊維に加えて、さらにバインダを含んでいてもよい。造粒物がバインダを含むことで、造粒物の強度が向上する。
バインダとしては、特に限定されないが、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂等を用いることができる。これらの中でも、セルロース誘導体からなるバインダを用いることが好ましく、カルボキシメチルセルロースを用いることがより好ましい。これらのバインダは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
バインダとしてカルボキシメチルセルロースを用いる場合、造粒物におけるカルボキシメチルセルロースの含有量は、0.5wt%以上1.5wt%以下の範囲であることが好ましい。造粒物におけるカルボキシメチルセルロースの含有量をこの範囲とすることで、カルボキシメチルセルロースの含有量が1.5wt%を超える場合と比べて、吸着対象気体の吸着量を増加させることができ、造粒物による吸着性能を高めることができる。また、カルボキシメチルセルロースを0.5wt%以上含む場合、粉体が造粒物から外れて飛散することを低減できる。
【0032】
(造粒物の製造方法)
続いて、本実施の形態の造粒物の製造方法の一例について説明する。本実施の形態の造粒物は、例えば、以下のように製造することができる。
まず、予め定められた重量比で、多孔質体、酸または塩基、親水性の繊維、必要に応じてバインダを混合して混合物を得る。続いて、造粒装置を用いて、混合物をペレット状等に成形する。続いて、乾燥機を用いて、得られたペレット状の物質を予め定められた温度で加熱・乾燥した後、ふるい分けすることで、予め定められた形状および予め定められた大きさを有する造粒物を得る。
【実施例
【0033】
続いて、本実施の形態の吸着剤および造粒物を、実施例を用いてより詳細に説明する。なお、吸着剤および造粒物は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<検討1>
まず、多孔質体の一例である珪藻土、酸およびバインダに加えて親水性の繊維を有する造粒物と、親水性の繊維を有しない造粒物とを作製し、湿度による吸着性能の違いを検討した。
【0035】
1.造粒物の作製
(実施例1)
以下の表1に示す割合で、珪藻土、ポリリン酸、セルロースナノファイバー、および水に溶解させたカルボキシメチルセルロースを混練機に入れ、混合して混合物を作製した。ここで、カルボキシメチルセルロースの配合量(wt%)は、カルボキシメチルセルロースの重量であって、溶解に用いた水の重量は含まない。
続いて、得られた混合物を造粒装置(DALTON社製マルチグラン)に導入し、ペレット状の物質を得た。続いて、得られたペレット状の物質を、100℃の乾燥機で20分乾燥した後、ふるい分けをし、直径約2mm~3mmの造粒物を得た。
【0036】
(比較例1)
親水性の繊維であるセルロースナノファイバーを含まない点、各材料を混合する割合以外は実施例1と同様にして、造粒物を得た。
【0037】
【表1】
【0038】
2.吸着性能試験
続いて、実施例1および比較例1で得られた造粒物について、塩基性の吸着対象気体であるアンモニアに対する吸着性能を試験した。
具体的には、実施例1および比較例1で得られた造粒物に対し、湿度13%RH、アンモニア濃度200ppmに調整した空気を、SV(Space Velocity)値が53,000となるように連続的に流した。そして、造粒物よりも上流側および下流側における空気のアンモニア濃度をそれぞれ測定し、上流側のアンモニア濃度と下流側のアンモニア濃度との差を用いて、造粒物によるアンモニア吸着量を算出した。なお、造粒物によるアンモニア吸着量は、造粒物に含まれるポリリン酸1gに対するアンモニア吸着量(アンモニア吸着量(mg)/ポリリン酸1g)として算出した。
また、アンモニアを含む空気の湿度を25%RH、45%RH、67%RHに変更した以外は同様にして、実施例1および比較例1について、造粒物によるアンモニア吸着量(アンモニア吸着量(mg)/ポリリン酸1g)を算出した。
【0039】
3.試験結果
表2に、実施例1および比較例1の造粒物について、アンモニアを含む空気の湿度を13%RH、25%RH、45%RH、67%RHとした場合のアンモニア吸着量の測定結果を示す。
また、図1は、実施例1および比較例1の造粒物について、湿度とアンモニア吸着量との関係を示したグラフである。
【0040】
【表2】
【0041】
表2および図1に示すように、親水性の繊維としてセルロースナノファイバーを含む実施例1の造粒物では、セルロースナノファイバーを含まない比較例1の造粒物と比較して、低湿度環境でのアンモニア吸着量の低下が抑制された。具体的には、実施例1の造粒物では、比較例1の造粒物と比較して、アンモニアを含む空気の湿度が50%RH以下の低湿度環境において、アンモニア吸着量の低下が抑制された。
【0042】
また、アンモニアを含む空気の湿度が67%RHである場合、比較例1の造粒物のほうが、実施例1の造粒物と比較してアンモニア吸着量が多かった。しかしながら、比較例1の造粒物では、アンモニアを含む空気を連続して流し続けた場合、造粒物同士が付着した。この結果、アンモニアを含む空気が造粒物を通過する際の圧力損失が上昇した。このため、比較例1の造粒物は、例えばエアフィルタとして継続して利用することが難しいことが確認された。
その一方で、実施例1の造粒物では、アンモニアを含む空気を連続して流し続けた場合であっても、造粒物同士の付着は見られなかった。
【0043】
<検討2>
続いて、親水性の繊維の繊維径を異ならせて吸着剤を作製し、吸着剤による吸着性能の違いを検討した。
【0044】
1.吸着剤の作製
(実施例2)
以下の表3に示す割合で、珪藻土、ポリリン酸、および平均繊維径50nm以下のセルロースナノファイバーを用意した。まず、ポリリン酸とセルロースナノファイバーとを混合し、スパチュラで空気を含ませながら攪拌した。そこへ珪藻土を少しずつ加えていき、その都度スパチュラで攪拌するとともに容器を振り、粒状の吸着剤を作製した。
【0045】
(実施例3)
親水性の繊維としてセルロースナノファイバーの代わりに平均繊維径1μmのマイクロセルロースを用いた点、各材料の割合以外は実施例2と同様にして、粒状の吸着剤を作製した。
【0046】
【表3】
【0047】
2.吸着性能試験
続いて、実施例2、3で得られた吸着剤について、塩基性の吸着対象気体であるアンモニアに対する吸着性能を試験した。
具体的には、検討1と同様に、実施例2、3で得られた吸着剤に対し、湿度45%RH、アンモニア濃度200ppmに調整した空気を、SV値が53,000となるように連続的に流した。そして、吸着剤よりも上流側および下流側における空気のアンモニア濃度をそれぞれ測定した。アンモニア濃度の測定は、吸着剤に対しアンモニアを含む空気を流し始めてからの経過時間が0分、15分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間のそれぞれで行った。そして、それぞれの経過時間について、以下の式(1)に基づいて、吸着剤によるアンモニアの吸着効率を算出した。
吸着効率(%)
={1-(下流側のアンモニア濃度/上流側のアンモニア濃度)}×100 …(1)
【0048】
3.試験結果
図2は、実施例2、3の吸着剤によるアンモニアの吸着効率と経過時間との関係を示したグラフである。
図2に示すように、親水性の繊維として繊維径が1μm未満のセルロースナノファイバーを有する実施例2の吸着剤では、繊維径が1μm以上のマイクロセルロースを有する実施例3の吸着剤と比べて、吸着効率が低下するのに要する時間が長かった。具体的には、実施例2の吸着剤では、吸着効率が85%まで低下するのに要する時間がおよそ4時間であるのに対し、実施例3の吸着剤では、吸着効率が85%まで低下するのに要する時間がおよそ2時間30分であった。
これにより、親水性の繊維の繊維径が1μm未満であることにより、親水性の繊維の繊維径が1μm以上である場合と比べて、吸着剤による吸着効率の低下が抑制され、吸着剤の寿命が長期化することが確認された。
【0049】
また、実施例2の吸着剤では、吸着効率が85%となったときのポリリン酸1g当たりのアンモニア吸着量が74mgであった。これに対し、実施例3の吸着剤では、吸着効率が85%となったときのポリリン酸1g当たりのアンモニア吸着量が48mgであった。これにより、親水性の繊維の繊維径が1μm未満であることにより、親水性の繊維の繊維径が1μm以上である場合と比べて、吸着剤による吸着対象気体の吸着量が増加することが確認された。
【0050】
<検討3>
続いて、バインダの含有量を異ならせて造粒物を作製し、造粒物による吸着性能の違いを検討した。
【0051】
1.造粒物の作製
(実施例4)
水に溶解させたカルボキシセルロースの含有量を、1.2wt%、3.0wt%、4.2wt%、5.0wt%とし、珪藻土とポリリン酸との比率が1:1となるように、珪藻土およびポリリン酸の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、カルボキシセルロースの含有量が互いに異なる造粒物を作製した。
【0052】
2.吸着性能試験
続いて、実施例4で得られた造粒物について、塩基性の吸着対象気体であるアンモニアに対する吸着性能を試験した。
具体的には、検討1と同様に、実施例4で得られた造粒物に対し、湿度45%RH、アンモニア濃度200ppmに調整した空気を、SV値が53,000となるように連続的に流した。そして、造粒物よりも上流側および下流側における空気のアンモニア濃度をそれぞれ測定し、上流側のアンモニア濃度と下流側のアンモニア濃度との差を用いて、アンモニア吸着量(NH3吸着量(mg)/ポリリン酸1g)を算出した。
【0053】
3.試験結果
図3は、実施例4の造粒物について、造粒物におけるカルボキシメチルセルロースの含有量とアンモニア吸着量との関係を示したグラフである。
【0054】
図3に示すように、実施例4の造粒物では、カルボキシメチルセルロースの含有量が1.5wt%以下である場合に、カルボキシメチルセルロースの含有量が1.5wt%を超える場合と比べて、アンモニア吸着量が高くなった。
これにより、造粒物においてバインダとしてカルボキシメチルセルロースを用いる場合、カルボキシメチルセルロースの含有量は、0.5wt%以上1.5wt%以下の範囲が好ましいことが確認された。
【0055】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
図1
図2
図3