(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】窒化反応炉
(51)【国際特許分類】
F27B 5/16 20060101AFI20230927BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20230927BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20230927BHJP
C01B 21/06 20060101ALI20230927BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20230927BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F27B5/16
F27D3/12 S
F27D7/02 Z
C01B21/06 Z
C01B21/064 G
C01B21/072 G
(21)【出願番号】P 2019161893
(22)【出願日】2019-09-05
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】藤波 恭一
(72)【発明者】
【氏名】廣實 佑樹
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-217187(JP,A)
【文献】実開平05-042998(JP,U)
【文献】特開2018-013256(JP,A)
【文献】特開2005-069668(JP,A)
【文献】特開2017-014064(JP,A)
【文献】特開平03-025288(JP,A)
【文献】特開平10-219346(JP,A)
【文献】特開平09-255438(JP,A)
【文献】国際公開第2010/016421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/00 -21/14
F27D 1/00 -99/00
C01B 21/06
C01B 21/064
C01B 21/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化反応を行うための窒化反応炉において、
前記窒化反応炉は、断熱性ケーシングを有しており、
前記断熱性ケーシング内には、排気口を備えた底板に保持されているシールド壁に囲まれている反応室と、該反応室の外側に配置されたヒーターが設けられており、
前記反応室内には、前記底板上に、中心部に開口を有しており且つ窒化反応に供される反応原料が収容され且つ側壁に切欠きが形成されているトレイが多段に積載されていると共に、該トレイの開口を通って貫通して延びている窒素ガス供給管が設けられており、
前記窒素ガス供給管から供給された窒素ガスを前記トレイに収容されている反応原料に接触させることにより窒化反応が行われ、未反応窒素ガス及び副生ガスは、前記トレイの側壁に形成されている切欠きを通って、該トレイの周縁部と前記シールド壁との間に形成されている空隙を通り、前記底板の排気口から排出される構造を有していることを特徴とする窒化反応炉。
【請求項2】
前記反応室の上部には予熱室が設けられており、該予熱室で加熱された窒素ガスが、前記窒素ガス供給管を通して前記反応室内に配置されたトレイ内に供給される請求項1に記載の窒化反応炉。
【請求項3】
前記反応原料として、含酸素アルミニウム粉末とカーボン粉末とを含む混合粉末が使用される請求項1または2に記載の窒化反応炉。
【請求項4】
前記反応原料として、酸化ホウ素粉末、カーボン粉末及び助剤を含む混合粉末が使用される請求項1または2に記載の窒化反応炉。
【請求項5】
前記トレイの内部には、窒化物の板状成型体または粉末からなる離型層が敷設されており、該離型層上に前記反応原料が層状に配置されている請求項3または4に記載の窒化反応炉。
【請求項6】
前記反応室内
の温度が、1200~2200℃の範囲となるように、前記ヒーターによる加熱が行われる請求項
1~5
の何れかに記載の窒化反応炉。
【請求項7】
前記トレイの平面形状が円形である請求項1~6の何れかに記載の窒化反応炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温での窒化反応に適用される窒化反応炉に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性に優れ、さらには熱伝導性、電気絶縁性等の特性に優れた各種窒化物、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)は、各種金属あるいは金属化合物等の原料粉末に窒素を高温で接触させて反応させることにより製造される。また、硬度等の機械的特性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)や、半導体特性を有する窒化ガリウム(GaN)や窒化インジウム(InN)なども、同様に高温での窒化反応により製造される。
【0003】
上記のような高温での窒化反応に適用し得る高温反応炉としては、断熱材で囲まれた炉内に、原料が収容された箱型の容器(以下、セッターともいう)が多段に積載されており、この反応容器の周囲にヒーターが配置されているバッチ式炉が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
このようなバッチ式の高温反応炉は、原料が収容された箱型の容器を多段に積載されているため、一度に多量の原料を窒化反応に供することができるという利点がある。また、バッチ式の高温反応炉は連続式に比べ、製造バッチ毎に運転条件を調整することが出来、多品種の製品を作り分ける点で連続式の高温反応炉に対して大きなアドバンテージを有する。
【0004】
ところで、上記のような構造のバッチ式高温反応炉では、原料と反応させるガスや雰囲気ガスを箱型容器の周辺部から供給したり、或いは箱型容器の中心部にガス供給管を通し、該容器の中心部からガスを供給するなどの手段が採用されているが、反応を完結するまでに長時間を要したり、或いは反応が均一に行われ難いなどの問題がある。また、炉内に配置されているヒーターや周囲の断熱材が反応に際して副生するガスなどにより短期間で劣化してしまうなどの問題もある。特に、カーボン粉末などの還元剤を用いて金属酸化物を原料とする還元窒化反応を行う場合には、金属酸化物の揮発物や二酸化炭素等の酸化性ガスが副生するため、カーボン製のヒーターや断熱材等の劣化が顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-282790号公報
【文献】特開昭61-282785号公報
【文献】特開平4-273988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、短時間で且つ均一に窒化反応を完結させることができ、しかも、副生ガスによるヒーターや断熱材の劣化が有効に抑制されたバッチ式窒化反応炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、窒化反応を行うための窒化反応炉において、
前記窒化反応炉は、断熱性ケーシングを有しており、
前記断熱性ケーシング内には、排気口を備えた底板に保持されているシールド壁に囲まれている反応室と、該反応室の外側に配置されたヒーターが設けられており、
前記反応室内には、前記底板上に、中心部に開口を有しており且つ窒化反応に供される反応原料が収容され且つ側壁に切欠きが形成されているトレイが多段に積載されていると共に、該トレイの開口を通って貫通して延びている窒素ガス供給管が設けられており、
前記窒素ガス供給管から供給された窒素ガスを前記トレイに収容されている反応原料に接触させることにより窒化反応が行われ、未反応窒素ガス及び副生ガスは、前記トレイの側壁に形成されている切欠きを通って、該トレイの周縁部と前記シールド壁との間に形成されている空隙を通り、前記底板の排気口から排出される構造を有していることを特徴とする窒化反応炉が提供される。
【0008】
本発明の窒化反応炉においては、次の態様が好適に適用される。
(1)前記反応室の上部には予熱室が設けられており、該予熱室で加熱された窒素ガスが、前記窒素ガス供給管を通して前記反応室内に配置されたトレイ内に供給されること。
(2)前記反応原料として、含酸素アルミニウム粉末とカーボン粉末とを含む混合粉末が使用されること。
(3)前記反応原料として、酸化ホウ素粉末、カーボン粉末及び助剤を含む混合粉末が使用されること。
(4)前記トレイの内部には、窒化物の板状成型体または粉末からなる離型層が敷設されており、該離型層上に前記反応原料が層状に配置されていること。
(5)前記反応室内の温度が、1200~2200℃の範囲となるように、前記ヒーターによる加熱が行われること。
(6)前記トレイの平面形状が円形であること。
【発明の効果】
【0009】
本発明の窒化反応炉においては、窒素と反応させるべき反応原料が収容されている各トレイの中心から窒素ガスが供給され、未反応窒素ガスや副生するガスは、トレイに形成されている切欠きを通してトレイの外部(トレイの周縁部と前記シールド壁との間に形成されている空隙)に排出される構造となっている。即ち、窒化反応に伴って副生するガスは、トレイに収容されている反応原料上に滞留することなく、速やかに外部に放出される。このため、副生するガスにより窒化反応が抑制されることがなく、トレイに収容されている反応原料の隅々まで窒素ガスを速やかに接触させることができる。この結果、短時間で十分に窒化反応を進行させ、しかも窒化反応を均一に進行させることができる。
【0010】
また、本発明では、シールド壁によって、反応室がヒーターや断熱性ケーシングと区画されている。即ち、副生するガス等は、ヒーターや断熱性ケーシングとは接触しない構造となっており、このため、ヒーターや断熱性ケーシングの劣化が有効に抑制されており、装置寿命が極めて長い。
特に、本発明の炉構造においては、ガス流れがトレイの中心部から周縁部になっているため、原料層に対して夾雑物の極めて少ない窒素ガスを供給することが出来、窒化反応をよりスムーズに行わせる点において理想的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】
図1の窒化反応炉において、反応原料が収容されるトレイの形態を示す概略斜視図。
【
図4】トレイ内に収容されている反応原料の状態を示す図。
【
図5】
図1の窒化反応炉において、窒素ガスの流路を示す概略図。
【
図6】
図1の窒化反応炉において、予熱室内に配置される予熱板の形態を示す平面図。
【
図7】本発明の窒化反応炉を用いて窒化ホウ素を製造する場合の、トレイ上の反応性原料の収容形態の好適例を示す概略側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び
図2を参照して、本発明の窒化反応炉は、断熱性ケーシング1の内部に、ヒーター3と反応室5とが設けられている基本構造を有している。
【0013】
断熱性ケーシング1は、断熱性の高い材料で円筒形状に形成されるが、通常は、耐熱性にも優れていることから、カーボン製であり、例えばカーボン繊維製のブロックを積み重ねることにより形成される。断熱性ケーシングに用いられるカーボン材料は断熱性能を向上させるために、繊維状カーボンの成型体を採用すること好ましい。また、耐久性を向上させることを目的にC/Cコンポジット材シート等を炉内側表面に貼付けることも好適な態様の例として挙げられる。
前記繊維状カーボンの成型体は、カーボンファイバーを積層させたり樹脂を含浸させたりすることで製造される。樹脂含浸させた炭化しやすい樹脂を炭化・黒鉛化することで成型する。
【0014】
また、ヒーター3は、抵抗加熱により加熱するタイプのものであり、窒化反応では、特に反応室5を高温に加熱することが必要であることから、カーボン製、好ましくはグラファイト製のヒーターが使用される。例えば、
図2に示されているように、反応室5を取り囲むように、ケーシング1内の4か所に対称的に配置されている。
【0015】
尚、
図1に示されているように、このヒーター3は、断熱性ケーシング1を貫通して延びている支持ロッド7の先端部に取り付けられているホルダー9に保持されており、反応室5の高さ方向全体の周囲に存在するような長さを有しているべきである。従って、反応室5の高さが大きい場合には、ヒーター3は、上下2つに分割されていてもよい。即ち、反応室5の上方部分の周囲に配置されているものと、反応室5の下方部分の周囲に存在するものとに分割して配置することもできる。
【0016】
さらに、図示されていないが、断熱性ケーシング内に設けられた熱電対や放射温度計などの温度データをもとに上記のヒーター3の出力が制御され、温度をコントロールし得るように構成されている。
尚、断熱性ケーシング1の内径dは、通常、ヒーター3により、反応室5内温度が窒化反応に適した温度に加熱されるような大きさに設定すればよい。
また、図示されていないが、断熱性ケーシング1の外面には、ケーシング1を安定に保持するために、ステンレススチール等により形成された枠体を設けることができる。
【0017】
本発明において、反応室5は、底板11と、底板11を覆うように設けられている筒状形態のシールド壁13とから形成されている。即ち、底板11及びシールド壁13によって囲まれている内部空間が反応室5となっており、前述したヒーター3は反応室5の外部に配置された構造となっており、また、断熱性ケーシング1の内面は、反応室5とは完全に区画されている。
【0018】
底板11は、断熱性ケーシング1の底部に設けられている受け台15上に載置されている。この底板11には、中心部に排気口17が形成されており、受け台15に形成されている孔15aに連通している排気管19を通しての真空引き等により、排気口17から反応室5内からの排気が行われる構造となっている。
また、シールド壁13は、底板11が完全にシールド壁13により覆われるように、受け台15に取り付けられている。これにより、受け台15とシールド壁13との間からのガスの漏洩を防止することができる。
このような底板11及びシールド壁13は、耐熱性の高い材料、例えばカーボン、好ましくはグラファイトなどにより形成されている。
【0019】
本発明において、上記の底板11及びシールド壁13により囲まれている反応室5内には、窒化反応に供される反応原料が収容されたトレイ19が多段に積み重ねられている。多段に積み重ねられているトレイ19の外側面とシールド壁13の内面との間には、ガス流路となる空隙Sが形成されている。
【0020】
図3(a)を参照して、このトレイ19は、底壁19aと、底壁19aの周縁から立ち上がっている側壁19bとからなっており、側壁19bの上端には、周方向に間隔を置いて、複数(図では4つ)の切欠き19cが点対称的に形成されている。また、底壁19aの中心には、中空筒19dが直立して形成されている。即ち、多段に積載されているトレイ19には、中空筒19dを通して窒素ガス供給管21が貫通して最下段のトレイ19xまで延びている。この窒素ガス供給管21は下端が閉じられており、且つ、その管壁には、多数の小孔21a(
図1では省略されている)が、積み重ねられているトレイ19のそれぞれの内部に面するように形成されており(
図4参照)、窒素ガスが各トレイ15の内部に供給されるようになっている。かかるトレイ19は、筒状形態のシールド壁13の内径よりも小さな外径を有しており、これにより、トレイ19の外側面とシールド壁13の内面との間に、適度な大きさの空隙Sが形成される。
【0021】
尚、積み重ねられているトレイ19の内、最下段に位置しているトレイ19xには、
図3(b)に示されているように、複数本の足19eが形成されており、上記の空隙Sが、このトレイ19xの下面と底板11との間に形成される空間Yと連通するような形態となっている。
尚、上記のような足19eをトレイ19の下面に形成する代わりに、底板11の周縁部に、適当な台を設け、この台上にトレイ19xを載置することにより、空隙Sと連通する空間Yを形成することも可能である。
【0022】
上記のトレイ19の底壁19a上には、
図4に示されているように、反応原料の粉末が敷設されている。この反応原料の厚みtは、当然、切欠き19cや中央部の中空筒19dから反応原料が零れ落ちない程度の大きさに設定される。
【0023】
図5を参照して、上記のような構造とすることにより、窒素ガス供給管21に導入された窒素ガスのガス流Zは、該供給管21に形成されている小孔21aから放出され、各トレイ19の中心部からトレイ19内を通り、前述した切欠き19cを介して、トレイ19の外側面とシールド壁13の内面との間の空隙Sに流れ込み、空隙Sに流れ込んだガス流Zは、最下方のトレイ19xの下面と底板11との間の空間Yに流れ込み、底板11に形成されている排気口17から外部に排出されることとなる。
【0024】
このような窒素ガスのガス流Zから理解されるように、窒素ガスは、各トレイ19の中心部分から各トレイ19の周縁部とシールド壁13とによって形成される空隙Sに流れ、この際に、各トレイ19内に収容されている反応原料と接触して窒化反応が行われるわけであるが、この反応により副生したガスが、未反応の窒素ガスと共に、速やかにトレイ19の外部に存在する空隙Sに排出され、さらに空間Yを通って排気口17から排出される。即ち、窒化反応により副生したガスは、トレイ19内に滞留することなく、直ちに排出されるため、反応原料と窒素との反応が副生ガスによって阻害されることなく進行するため、反応原料からの窒化物の生成時間を大幅に短縮することができる。しかも、トレイ19内を通るガスがよどむことなく速やかに排出されるため、トレイ内19に収容されている反応原料について、均一に窒化させることができる。例えば、トレイ19の周縁部分に位置している反応原料も、中心部分に位置する反応原料と同様に窒化されることとなる。
【0025】
本発明において、上述した窒素ガスが、乱れることなく、層流状態でスムーズに流れるようにするという見地から、シールド壁13は、
図2に示されているように円筒形状とすることがよく、さらに、トレイ19の平面形状は円形であることが好ましい。即ち、シールド壁19やトレイ19に角部が存在すると、窒素ガス(未反応窒素ガス及び副生ガス)が角部に当たったときに乱れ、ガス流のよどみが生じ易く、特に角部近傍に位置する反応原料の窒化反応が不安定となり、窒化反応が不均一となるおそれがあるからである。
【0026】
また、上記のようなトレイ19の内径D1は、特に制限されるものではないが、通常、トレイ19毎に生成する窒化物の量が適度な範囲となるように、200mm以下、特に10~80mm程度の範囲とすることがよい。また、トレイ19の高さhも、特に制限されるものではないが、トレイ19内に収容される反応原料(粉末状である)の高さtが10~80mm程度となるように、トレイ19の内径D1に応じて設定することが好ましい。この高さhが小さ過ぎると、トレイ19毎の処理量が少なくなり、窒化物を工業的に量産するためには、必要以上にトレイ19の積み重ね段数を多くしなければならず、この結果、シールド壁13やケーシング1が過度に大型化してしまい、反応原料が収容されたトレイ19の積み重ね作業や、シールド壁13の組み立て作業、さらには、反応終了後にトレイ19を取り出すための作業が大掛かりなものとなってしまう。また、高さhが大き過ぎると、反応原料の深部まで窒化させることが困難となるおそれがある。
従って、トレイ19の中心に形成されている中空筒19dの高さや切り欠き19cの高さh1は、上記のような量で収容された反応原料が中空筒19の内部に侵入せず、且つ切欠き19cからこぼれ落ちない程度の高さに設定される。
【0027】
また、トレイ19に形成されている複数の切欠き19c幅や数は、トレイ19の中心から外部の空隙Sへのガス流Zが周方向に均等となるように設定すればよく、従って、複数の切欠き19は、点対称となるように配置される。また、切欠き19の数は、
図3では4個となっているが、2個とすることもできるし、3個或いは5個以上とすることもできる。
【0028】
さらに、上述したトレイ19の外径D2は、シールド壁13の内径D3の50~95%程度に設定することが、排気管19から排気口17を介しての吸引を効率よく、且つスムーズなガス流を確保する上で好適である。
【0029】
本発明において、上記のような形態のトレイ19は、種々の窒化反応や酸化物の還元窒化などに使用される耐熱性の材料により形成され、例えば、カーボン、特にグラファイトが好適に使用される。また、これ以外にも、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス粉の焼結体によりトレイ19が形成されていてもよい。また、カーボンからなるトレイ上にアルミナ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス粉の焼結体または成型体製の板を載せることでカーボン製のトレイの劣化を防止することも好ましい態様である。
【0030】
上述したトレイ19の積載段数は、トレイの大きさ等に応じて工業的に十分な量の窒化物が1バッチで得られるように設定され、通常、5~40段に設定される。
【0031】
上述した本発明の窒化反応炉において、シールド壁13で区画されている反応室5の上部には、予熱室23が形成されていることが好ましい。即ち、窒素導入管25がケーシング1を貫通して予熱室23の上部に接続され、一方、予熱室23の下部には、前述した窒素ガス供給管21の上端が接続されている。即ち、窒素ガスは、導入管25から予熱室23に流れ込み、予熱室23から窒素ガス供給管21に導入され、前述したように、この供給管21からトレイ19内に窒素ガスが供給される。即ち、トレイ19内に使用されている反応原料を窒化させるための反応(例えば直接窒化や還元窒化)は極めて高温で行われるため、反応室15内がヒーター3により所定の反応温度に加熱されていたとしても、トレイ19内に供給される窒素ガスの温度が低いと、窒化反応が不安定となるおそれがある。このため、反応室5の上部に予熱室23を設け、窒素供給管21に導入する窒素ガスを、反応室5内と同等の温度に加熱されている予熱室23に通し、予め加熱しておくことが望ましい。
【0032】
このような予熱室23は、窒素導入管25から導入される窒素ガスの滞留時間をできるだけ長くすることにより、窒素ガスをできるだけ高温に加熱するというものであり、例えば、シールド壁13と同様の耐熱材料により形成されたボックス形状の枠体27の内部にガス流透過口を有する予熱板29が重ねられている。
【0033】
上記の予熱板29は、高熱伝導性のカーボン、好ましくはグラファイトや窒化ホウ素の焼結体等により形成されるが、滞留時間を長くするために、ガス流透過口の位置の異なるものを作成し、これらを重ね合わせて使用することが好適である。
【0034】
例えば、
図6(a)には、中心にガス透過口となる開口31が形成されており、中心開口予熱板29aが示されている。この中心開口予熱板29aには、中心開口31を取り囲むように、周方向に一定の間隔を置いてリング状に配列されている気流規制突起33が設けられている。
また、
図6(b)には、周縁にガス流透過口となる小孔34が多数分布している周縁小孔予熱板29bが示されている。
【0035】
上記のような中心開口予熱板29aと周縁小孔予熱板29bとを枠体27内で交互に重ねて予熱室23を形成することにより、この予熱室23内での窒素ガスの滞留時間を長くすることができる。即ち、窒素導入管25から予熱室23内に導入された窒素ガスは、周縁小孔予熱板29bの周縁に形成されている小孔34を通って中心開口予熱板29a上に流れる。中心開口予熱板29a上に流れ込んだ窒素ガスは、気流規制突起33の間を通り、中心の開口31から周縁小孔予熱板29b上に流れる。このように窒素ガスの流れを、周縁-中心-周縁-中心とジグザグにすることがで、滞留時間を長くし、窒素ガスを十分に高温に加熱することができる。
【0036】
このように、十分に加熱された窒素ガスを、窒素ガス供給管21から所定の反応温度に維持されている反応室5内に導入し、窒化反応を行うことにより、トレイ19上に窒化物を得ることができる。
反応終了後は、断熱性ケーシング1を開け、予熱室23を取り出し、次いでシールド壁13を引き抜いてトレイ19を取り出し、トレイ19上の反応生成物(窒化物)が回収される。
回収された窒化物は、適宜、酸化、酸洗や水洗等による洗浄や乾燥といった操作による高純度化、分級等の工程を得て、製品としての使用に供される。
【0037】
上述した本発明の窒化炉は、バッチ式で窒化反応を行うものであるが、副生するガスが、断熱性のケーシング1の内面やヒーター3に接触しないような構造となっているため、特に還元窒化反応の実施に好適であり、例えば、還元窒化法により、常温常圧で安定な窒化アルミニウム(AlN)や六方晶窒化ホウ素(h-BN)を製造するのに極めて適している。
【0038】
還元窒化還元窒化法による窒化アルミニウム(AlN)の製造は、以下のようにして実施される。即ち、アルミニウム源として酸化アルミニウム(Al2O3)等の含酸素アルミニウム化合物を使用し、この含酸素ホウ素化合物の粉末と、カーボン粉末との混合粉末を反応原料としてトレイ19上に敷き詰め、かかるトレイ19を前述した窒化炉の反応室5内に積載し、窒素ガス供給管21から窒素を供給し、含酸素アルミニウム化合物の還元及び窒化により、トレイ19上にAlNが得られる。
上記の反応は、下記式により表される。
Al2O3+3C+N2 → 2AlN+3CO
上記の反応は、一般に、反応室5内を1200~2000℃、好ましくは1400~1800℃の温度に設定されて実施される。この温度が低すぎると、還元窒化が十分に進行せず、また、反応室5内の温度が必要以上に高いと、生成したAlNが揮散し、排出されてしまうおそれがある。
【0039】
また、還元窒化法による六方晶窒化ホウ素(h-BN)の製造は、以下のようにして実施される。即ち、ホウ素源として酸化ホウ素(B2O3)等の含酸素ホウ素化合物を使用し、この含酸素ホウ素化合物の粉末と、カーボン粉末及び助剤との混合粉末を反応原料としてトレイ19上に敷き詰め、かかるトレイ19を前述した窒化炉の反応室5内に積載し、窒素ガス供給管21から窒素を供給し、含酸素ホウ素化合物の還元及び窒化により、トレイ19上にh-BNが得られる。
上記の反応は、下記式により表される。
B2O3+3C+N2 → 2BN+3CO
【0040】
上記の反応は、一般に、反応室5内を1200~2200℃、好ましくは1800~2100℃の温度に設定されて実施される。この温度が低すぎると、還元窒化が十分に進行せず、また、反応室5内の温度が必要以上に高いと、生成したh-BNが揮散し、排出されてしまうおそれがある。
【0041】
また、上記の反応により、金属酸化物の揮発物や二酸化炭素等の酸化性ガスが副生するが、このCOガスは、シールド壁13により、断熱性ケーシング1やヒーター3に接触することがなく、これにより、断熱性ケーシング1やヒーター3の劣化を有効に抑制することができ、装置寿命を長く保持することができる。
【0042】
さらに、反応原料中の助剤は、上記の還元窒化反応を原料内部まで均一に進行させるために使用されるものであり、例えば、含酸素アルカリ土類金属化合物、特に炭酸カルシウムや酸化カルシウムが好適に使用される。即ち、上記のような高温で還元窒化反応を実施すると、反応室5内を高温に昇温させる過程で、このような助剤が分解してガス(例えば炭酸ガス)が発生する。この結果、窒素ガスを供給する段階で反応原料の内部に空隙が生成しており、反応原料の深部まで窒素ガスが侵入し、迅速且つ均一に、還元窒化反応を進行させることができる。例えば、本発明者等は、前述した図に示す窒化炉を用いて、上記のh-BNの製造を行ったところ、トレイ19の全体にわたって、白色度の高いh-BNの粉末(例えば白色度Wが90以上)が製造されたことを確認している。例えば、還元窒化が不均一に進行すると、カーボンが残留するため、部分的に白色度の低い部分が生成するが、本発明では、還元窒化が均一に且つ内部まで進行するため、白色度も全体にわたって高いものとなっている。
また、内径D1が60mmのトレイ19の積み重ね段数を20とし、窒素ガス供給管21からの窒素ガスの吐出速度(線速)が0.5Ncm/s以上となるように設定したとき、15時間以内に還元窒化反応が完了したことも確認している。
【0043】
尚、前記反応原料である混合粉末を調製するための混合は、各成分が均一に混合される限り、特に制限されず、振動ミル、ボールミル、ドラムミキサー振動攪拌機等の混合装置を用いて行われる。
【0044】
また、反応原料中、ホウ素源とカーボン粉末との量比は、元素比(B/C)が0.60~0.85、特に0.65~0.80の範囲となるように設定される。この元素比(B/C)が上記範囲よりも小さいと、反応生成物中に未反応カーボンが多く存在するようになり、目的とするh-BNを得ることが困難となるおそれがある。また、上記範囲よりも大きいと、還元されずに揮散するホウ素化合物の量が増大し、収率が低下するばかりか、排気ライン中での還元窒化により、排気ラインが閉塞してしまうなどの不都合も生じる恐れがある。
また、含ホウ素化合物と助剤との量比は、例えば酸化物換算でのホウ素とカルシウムのモル比(B2O3/CaO)が4.0~6.0、特に4.5~5.5の範囲とすることが好適である。このモル比が、当該範囲よりも小さいと、カルシウム由来の不純物がトレイ19上に多く存在することとなり、収率が低下してしまう。また、モル比が上記範囲よりも大きいと、還元されずに揮散するホウ素化合物の量が増大し、収率の低下ばかりか、排気ラインの閉塞も生じるおそれがある。
【0045】
また、本発明においては、上記のような反応原料を用いて、h-BNを製造する場合、
図7に示されているように、窒化ホウ素(h-BN)の成型体または粉末からなる離型層をトレイ19の底壁19a上に敷き詰め、この上に、反応原料を敷き詰めることが好適である。
即ち、トレイ19上での還元窒化によりh-BNを製造する場合、生成するh-BN粉末がトレイ19の底壁19aに付着してしまい、トレイ19からの取り出しが困難となってしまうおそれがある。特にグラファイトカーボン製のトレイ19が使用されている場合には、この傾向が大きい。このような不都合を防止するために、トレイ19の底壁19a上に窒化ホウ素の成型体または粉末を敷き詰めて離型層とし、生成する窒化ホウ素粉末とトレイ19の底壁19aとの直接接触を回避することにより、上記のような不都合を有効に防止することができる。
【0046】
上記のようにしてトレイ19上に生成した六方晶窒化ホウ素(h-BN)の粉末は、トレイ19から回収し、酸洗により未反応酸化ホウ素や助剤に由来するCa若しくはCa化合物などを除去し、水洗し、適宜、振動篩などを用いて所定の粒度に分級し、包装袋に回収し、販売に供される。
【0047】
このように、本発明の窒化反応炉によれば、バッチ式でありながら、一度に多量の窒化物を製造することができ、さらに窒化反応も迅速かつ均一に進行させることができ、さらには、断熱性ケーシング1やヒーター3の劣化も有効に回避することができ、装置寿命が長く、効率よく窒化物を生産することができ、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0048】
1:断熱性ケーシング
3:ヒーター
5:反応室
11:底板
13:シールド壁
17:排気口
19:トレイ
19c:切欠き
21:窒素ガス供給管
23:予熱室
S:空隙