(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】固有振動数を調整できる振動発電装置、及び、固有振動数を調整できる振動発電方法
(51)【国際特許分類】
H02N 2/18 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
H02N2/18
(21)【出願番号】P 2020074717
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅彦
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-036455(JP,A)
【文献】特開2018-148791(JP,A)
【文献】特開2016-005332(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121759(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともU字型のフレーム構造を含む、磁性体の基材と、
前記磁性体の基材に取付けられた発電素子の振動により電力を得る振動発電手段と、
前記基材の磁化を変化させる
ことで振動の固有振動数を調整する磁化手段とを備えた
ことを特徴とする固有振動数を調整できる振動発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、
前記振動発電手段の発電素子は、
磁歪材料の周囲にコイルが配された素子本体を有し、
前記素子本体の振動により前記コイルに起電力を発生させる
ことを特徴とする固有振動数を調整できる振動発電装置。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、
前記基材は片持ち梁の状態で支持されている
ことを特徴とする固有振動数を調整できる振動発電装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、
前記磁化手段は、
所定時間の間、前記基材の近くに配置される、もしくは、前記基材に接触させる磁石である
ことを特徴とする固有振動数を調整できる振動発電装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、
前記磁化手段は、
所定距離を保持して、前記基材の近くに配置される、もしくは、前記基材に接触させる磁石である
ことを特徴とする固有振動数を調整できる振動発電装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、
前記磁化手段は、
所定時間の間、所定距離を保持して、前記基材の近くに配置される、もしくは、前記基材に接触させる磁石である
ことを特徴とする固有振動数を調整できる振動発電装置。
【請求項7】
磁性体の基材に取付けられた発電素子を振動させることで電力を得る振動発電方法において、
前記基材が、少なくともU字型のフレーム構造を含み、前記基材の磁化を変化させることで振動の固有振動数を調整し、任意の固有振動数を得て発電を行うことを特徴とする固有振動数を調整できる振動発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電素子を振動させて電力を得る振動発電装置、及び、振動発電方法に関し、固有振動数を調整できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
電力を供給するための設備(電力供給設備)としての発電設備には、発電機の駆動に伴い、励磁による電磁力に起因したモータ(回転子)等の揺れで発電機に振動が発生し、振動によるエネルギーが未利用のエネルギーとして存在しているのが現状である。
【0003】
例えば、特許文献1で開示された振動発電装置を用いて、電力を供給するための設備での振動によるエネルギーを電力に変換することが考えられる。電力を供給するための設備での振動によるエネルギーを電力に変換することができれば、未利用のエネルギーを有効に利用することが可能になる。
【0004】
共振を利用する形式の振動発電素子(発電素子)を用いることで、振動源の周波数に発電素子の固有振動数を合わせることで、効率的に振動エネルギーを取り込んで電力に変換することができる。発電素子の固有振動数を調整することは、発電素子の利用において極めて重要な作業となる。
【0005】
発電素子の振動機構(基材や錘)の構造を調整することで固有振動数を調整することができるが、適用できる機器には制限があるのが現状である。このため、機器の大きさや構造等の制約を受け難い状態で固有振動数を調整することができる技術の出現が望まれているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、発電素子の振動機構の大きさや構造の制約を受けることなく、固有振動数を容易に調整することができる振動発電装置、及び、固有振動数を容易に調整することができる振動発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本願発明の固有振動数を調整できる振動発電装置は、少なくともU字型のフレーム構造を含む、磁性体の基材と、前記磁性体の基材に取付けられた発電素子の振動により電力を得る振動発電手段と、前記基材の磁化を変化させることで振動の固有振動数を調整する磁化手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る本発明では、発電素子の振動により電力が得られる。磁化手段により基材の磁化を変化させることで、基材のヤング率が変化し、発電素子の固有振動数が調整される。このため、基材の磁化を変化させることにより、発電素子の振動機構の大きさや構造の制約を受けることなく、固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【0010】
一般的に、発電素子の固有振動数を調整する場合、発電素子の振動機構(基材や錘)の構造を調整することが考えられる。近年、IoT(Internet of Things)技術を活用したインフラの状態監視機器の電源として、振動発電装置を用いることが多くなってきている。IoT技術を活用する場合、状態監視機器がコインサイズや乾電池サイズ等、極めて小さな構造となり、振動機構の構造を調整することは現実的には不可能な状態であった。本願発明を適用することにより、IoT技術を活用するための極めて小さな状態監視機器であっても、構造の調整を行うことなく(構造はそのままで)、固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明の固有振動数を調整できる振動発電装置は、請求項1に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、前記振動発電手段の発電素子は、磁歪材料の周囲にコイルが配された素子本体を有し、前記素子本体の振動により前記コイルに起電力を発生させることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明では、素子本体の振動から逆磁歪効果を用いて発電をすることができ、特に、電力供給設備の振動に固有振動数を合わせやすい。そして、構成が堅牢で大きな衝撃に対しても壊れにくい。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の固有振動数を調整できる振動発電装置は、請求項1もしくは請求項2に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、前記基材は片持ち梁の状態で支持されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明では、基材は片持ち梁の状態で支持されているので、わずかな磁化の変化により(ヤング率の変化により)発電素子の固有振動数の微調整を行うことができる。
【0015】
また、請求項4に係る本発明の固有振動数を調整できる振動発電装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、前記磁化手段は、所定時間の間、前記基材の近くに配置される、もしくは、前記基材に接触させる磁石であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る本発明では、所定時間の間、基材の近くに磁石を配置する、もしくは、基材に磁石を接触させることで、基材の磁化を変化させて発電素子の固有振動数を調整することができる。
【0017】
例えば、基材の近くに磁石を配置する、もしくは、基材に磁石を接触させる時間は、数秒から数十秒程度に設定される。磁石を離した後は、残留磁化により基材の磁化は変化したまま維持される。磁石のS極を配置する、もしくは、接触させるか、磁石のN極を配置する、もしくは、接触させるかにより、発電素子の固有振動数は、高周波数側、または、低周波数側に調整される。
【0018】
また、請求項5に係る本発明の固有振動数を調整できる振動発電装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、前記磁化手段は、所定距離を保持して、前記基材の近くに配置される、もしくは、前記基材に接触させる磁石であることを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る本発明では、所定距離を保持して、基材の近くに磁石を配置することで、基材の磁化を変化させて発電素子の固有振動数を調整することができる。
【0020】
例えば、磁石を配置する距離は、数cm程度に設定される。また、距離をゼロとして接触させることも可能である。磁石を離した後は、残留磁化により基材の磁化は変化したまま維持される。磁石のS極を配置する(接触させる)か、磁石のN極を配置する(接触させる)かにより、発電素子の固有振動数は、高周波数側、または、低周波数側に調整される。
【0021】
また、請求項6に係る本発明の固有振動数を調整できる振動発電装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固有振動数を調整できる振動発電装置において、前記磁化手段は、所定時間の間、所定距離を保持して、前記基材の近くに配置される、もしくは、前記基材に接触させる磁石であることを特徴とする。
【0022】
請求項6に係る本発明では、所定時間の間、所定距離を保持して、基材の近くに磁石を配置する(接触させる)ことで、基材の磁化を変化させて発電素子の固有振動数を調整することができる。
【0023】
上記目的を達成するための請求項7に係る本願発明の固有振動数を調整できる振動発電方法は、磁性体の基材に取付けられた発電素子を振動させることで電力を得る振動発電方法において、前記基材が、少なくともU字型のフレーム構造を含み、前記基材の磁化を変化させることで振動の固有振動数を調整し、任意の固有振動数を得て発電を行うことを特徴とする。
【0024】
請求項7に係る本発明では、基材の磁化を変化させてヤング率を変化させることで、共振周波数が調整され、任意の固有振動数を得て発電を行うことができる。このため、基材の磁化を変化させることにより、発電素子の振動機構の大きさや構造の制約を受けることなく、固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の固有振動数を調整できる振動発電装置、及び、固有振動数を調整できる振動発電方法は、発電素子の振動機構の大きさや構造の制約を受けることなく、固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施例に係る固有振動数を調整できる振動発電装置の概略構成を説明する外観図である。
【
図3】電圧と周波数との関係を説明するグラフである。
【
図5】磁石吸着時間と共振周波数との関係を説明するグラフである。
【
図6】本発明の他の実施例に係る固有振動数を調整できる振動発電装置の概略構成を説明する外観図である。
【
図7】磁石吸着時間と共振周波数との関係を説明するグラフである。
【
図8】本発明の他の実施例に係る固有振動数を調整できる振動発電装置の概略構成を説明する外観図である。
【
図9】磁石の距離と共振周波数との関係を説明するグラフである。
【
図10】磁石の距離と共振周波数との関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施例を具体的に説明する。
【0028】
図1には本発明の一実施例に係る固有振動数を調整できる振動発電装置(振動発電装置)を説明するための外観視の状況、
図2には振動発電装置の側面視の状況を示してある。
【0029】
図に示すように、振動発電装置1は、発電素子2の振動により電力を得る振動発電手段を備えている。発電素子2は、磁性体の基材である磁性材料製のU字型のフレーム3に取り付けられている。フレーム3には磁歪材料4が貼り付けられ、磁歪材料4の周囲にコイル5が巻かれた素子本体により発電素子2が構成されている。フレーム3の先端には振動子(錘)6が取り付けられている。
【0030】
そして、フレーム3の磁化を変化させてヤング率を調整する磁化手段としての磁化変化用の磁石7が備えられている。尚、図中8はフレーム3に取り付けられる固定磁石である。磁石7は、例えば、直径12mm、表面磁束密度30mTの磁石が用いられる。
【0031】
フレーム3が振動源11(例えば、発電設備の発電機や変圧器等)に取り付けられ、振動源11の振動により振動子(錘)6に振動が与えられる。振動が与えられると、慣性力により振動子6が、例えば、上下に往復移動し、フレーム3が変形する。フレーム3の変形により磁歪材料4の長手方向に圧縮・引張の力が作用し、逆磁歪効果により周囲の磁束が変化し電磁誘導によりコイル5に起電力が発生する(電力が発生する)。
【0032】
磁化手段としての磁石7を用いて、フレーム3の磁化を変化させてヤング率を調整することで、発電素子2の固有振動数が調整される。即ち、所定時間の間、フレーム3の近くに磁石7を配置する、もしくは、フレーム3に磁石7を接触させることで、フレーム3の磁化が変化し、フレーム3のヤング率が任意に調整されて、発電素子2の固有振動数が調整される。
【0033】
例えば、フレーム3の近くに磁石7を配置する、もしくは、フレーム3に磁石7を接触させる時間は、数秒から数十秒程度に設定される。磁石7を離した後は、残留磁化によりフレーム3の磁化は変化したまま維持される。磁石7のS極を配置する、もしくは、接触させるか、磁石7のN極を配置する、もしくは、接触させるかにより、発電素子2の固有振動数は、高周波数側、または、低周波数側に調整される。
【0034】
このため、磁石7を用いて、フレーム3の磁化を変化させることで、発電素子2の固有振動数が調整され、発電素子2の振動機構の大きさや発電素子2が備えられる構造の制約を受けることなく、即ち、構造物を分解して発電素子2の振動子(錘)6等を改良することなく、発電素子2の固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【0035】
一般的に、発電素子の固有振動数を調整する場合、発電素子の振動機構(基材や錘)の構造を調整することが考えられる。近年、IoT(Internet of Things)技術を活用したインフラの状態監視機器の電源として、振動発電装置を用いることが多くなってきている。IoT技術を活用する場合、状態監視機器が極めて小さな構造となり、振動機構の構造を調整することは現実的には不可能な状態であった。
【0036】
磁石7を用いてフレーム3の磁化を変化させる本実施例の技術を適用することにより、IoT技術を活用するための極めて小さな機器(状態監視機器)であっても、構造の調整を行うことなく(構造はそのままで)、発電素子2の固有振動数を容易に調整することが可能になる。即ち、振動子(錘)6の設置位置を微調整(例えば、μm単位で調整)したり、振動子(錘)6の質量を微調整(例えばmg単位で調整)したりする繊細で困難な作業を必要とせずに、発電素子2の固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【0037】
つまり、フレーム3の磁化を変化させることにより、発電素子2の振動機構の大きさや発電素子2が組み込まれる構造物の制約を受けることなく、発電素子2の固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【0038】
発電素子2は、磁歪材料4の周囲にコイル5が配された素子本体を有し、素子本体の振動によりコイル5に起電力を発生させるので、素子本体の数十Hzから数百Hzの固有振動数から逆磁歪効果を用いて、発電をすることができ、特に、構造上、電力供給設備の振動に固有振動数を合わせやすい特徴を持つ。つまり、電力供給設備には、50Hzもしくは60Hz、その倍数の振動が構造体に生じているので、この振動数に固有振動数を合わせやすい。そして、構成が堅牢で大きな衝撃に対しても壊れにくい。
【0039】
また、振動子(錘)6、発電素子2を有するフレーム3が片持ち梁の状態で支持されているので、わずかな磁化の変化により(ヤング率の変化により)発電素子2の固有振動数の微調整を行うことができる。
【0040】
上述した振動発電装置1は、発電素子2の振動により電力が得られ、必要な電力として供給される。このため、小さな振動加速度の振動源11(例えば、発電機や変圧器等)であっても、使用目的に応じた必要な電力を発電することが可能になる。
【0041】
振動源11の周波数に発電素子2の固有振動数が合っていれば、効率的に振動エネルギーを取り込んで電力に変換することができる。このため、振動源11の周波数に対して発電素子2の固有振動数を合致させるために、フレーム3の磁化を変化させて発電素子2の固有振動数を調整し、効率的に振動エネルギーが取り込めるようにしている。
【0042】
即ち、磁化手段としての磁石7を用いて、フレーム3の磁化を変化させてヤング率を調整することで、発電素子2の固有振動数を調整している。例えば、所定時間の間、フレーム3の近くに磁石7を配置する、もしくは、フレーム3に磁石7を接触させることで、フレーム3の磁化を変化させ、フレーム3のヤング率を任意に調整して、発電素子2の固有振動数を調整する。
【0043】
これにより、極めて小さな機器であっても、振動子(錘)6の設置位置を微調整(例えば、μm単位で調整)したり、振動子(錘)6の質量を微調整(例えばmg単位で調整)したりする繊細で困難な作業を行うことなく、装置の構造はそのままの状態で、発電素子2の固有振動数を容易に調整して振動源11の周波数に合致させることが可能になる。
【0044】
前述したように、配置する(接触させる)磁石7のS極、N極を任意に選択することで、発電素子2の固有振動数は、高周波数側、または、低周波数側に調整される。磁石7を離した後は、残留磁化によりフレーム3の磁化は変化したまま維持される。
【0045】
図3、
図4に基づいて磁石7と用いた効果を説明する。
【0046】
図3には配置する磁石7のS極、N極に応じた電圧と周波数との関係を説明するグラフ、
図4には残留磁化による電圧の経時変化を説明するグラフを示してある。
【0047】
図3に実線で示すように、固有振動数(ピーク)をQHz(例えば、100Hz)に調整した発電素子2に対し、磁石7のS極をフレーム3の近くに配置(接触)させた場合、
図3に点線で示すように、固有振動数(ピーク)はQa(例えば、0.5Hz程度高い周波数)に調整される。また、磁石7のN極をフレーム3の近くに配置(接触)させた場合、
図3に一点鎖線で示すように、固有振動数(ピーク)はQb(例えば、0.5Hz程度低い周波数)に調整される。
【0048】
つまり、所定時間(数秒から数十秒程度)の間、フレーム3の近くに磁石7のS極、もしくは、N極を配置することで、発電素子2の固有振動数を、高周波数側、または、低周波数側に調整することができる。
【0049】
磁石7を離した後は、残留磁化によりフレーム3の磁化は変化したまま維持される。即ち、固有振動数(ピーク)が、例えば、99.5Hzとなっている発電素子2を用い、数分後に磁石7のS極をフレーム3の近くに配置(接触)させて固有振動数(ピーク)をQHz(例えば、100Hz)に微調整した場合を説明する。
【0050】
図4に示すように、最初の数分間は、振動源11に対する共振状態からずれがあるため、電圧がV1から徐々に高くなり、数分後に、電圧がV2にされる。磁石7を離した後は、残留磁化によりフレーム3の磁化が変化したまま維持され、240時間が経過しても電圧がV2に維持される。
【0051】
つまり、磁石7を離した後は、残留磁化によりフレーム3の磁化は変化したまま維持され、長期にわたり効率的に振動エネルギーを取り込むことができる。
【0052】
上述した振動発電装置1は、発電素子2の振動機構の大きさや構造の制約を受けることなく、発電素子2の固有振動数を容易に調整することが可能になる。
【0053】
図5に基づいて磁石7を吸着した時間に対する共振周波数の状況を説明する。
【0054】
図5には配置する磁石7のS極、N極に応じた吸着時間(秒)と共振周波数との関係を説明するグラフを示してある。図示の実施例では、磁石7として、直径12mm、表面磁束密度30mTの磁石7を用いた。
【0055】
共振周波数を100Hzにチューニングした状況で、磁石7のS極を0秒から60秒吸着させた場合、図中■印で示すように、100Hzから100.2Hzまでの間で共振周波数が高くなることが確認された。そして、磁石7のN極を0秒から60秒吸着させた場合、図中〇印で示すように、100Hzから99.4Hzまでの間で共振周波数が低くなることが確認された。
【0056】
従って、所定時間の間、フレーム3の近く(振動子(錘)6)に磁石7を配置する(吸着させる)ことで、フレーム3の磁化を変化させて発電素子2の固有振動数を調整することができることが確認された。
【0057】
図6、
図7に基づいて他の実施例を説明する。
図6には本発明の他の実施例に係る固有振動数を調整できる振動発電装置(振動発電装置)を説明するための外観視の状況、
図7には配置する磁石7のS極、N極に応じた吸着時間(秒)と共振周波数との関係を説明するグラフを示してある。尚、
図1、
図2に示した部材と同一の部材には、同一符号を付してある。
【0058】
図6に示すように、振動発電装置21は、発電素子2が3個並べて振動源11に取り付けられ、3個のフレーム3の先端には、一つの振動子(錘)16が取り付けられている。そして、フレーム3の磁化を変化させてヤング率を調整する磁化手段としての磁化変化用の磁石7が備えられている。磁石7は、例えば、直径12mm、表面磁束密度30mTの磁石が用いられる。
【0059】
共振周波数を120Hzにチューニングした状況で、磁石7のS極を0秒から60秒吸着させた場合、
図7中■印で示すように、120Hzから120.4Hzまでの間で共振周波数が高くなることが確認された。そして、磁石7のN極を0秒から60秒吸着させた場合、
図7中〇印で示すように、120Hzから119.4Hzまでの間で共振周波数が低くなることが確認された。
【0060】
従って、所定時間の間、フレーム3の近く(振動子(錘)16)に磁石7を配置する(吸着させる)ことで、フレーム3の磁化を変化させて発電素子2の固有振動数を調整することができることが確認された。
【0061】
そして、所定時間の間、フレーム3の近く(振動子(錘)16)に磁石7を配置する(吸着させる)ことで、発電素子2が1つの場合と同じ傾向で共振周波数を変化させることができることが確認された。このため、発電素子2の形態や、チューニングされた元の共振周波数に関わらず、発電素子2の固有振動数を調整することが可能になる。
【0062】
図8から
図10に基づいて磁石の距離を調整した場合の実施例を説明する。
【0063】
図8には磁石の距離を調整した場合の実施例に係る固有振動数を調整できる振動発電装置(振動発電装置)を説明するための外観視の状況、
図9には配置する磁石7のS極、N極に応じた配置距離(cm)と共振周波数との関係を説明するグラフを示してある。尚、
図1、
図2に示した部材と同一の部材には、同一符号を付してある。
【0064】
図8に示すように、振動発電装置1に対して、フレーム3の磁化を変化させてヤング率を調整する磁化手段としての磁化変化用の磁石37が備えられている。磁石37は、例えば、直径80mm、表面磁束密度100mTの磁石が用いられる。
【0065】
共振周波数を100Hzにチューニングした状況で、磁石37のN極を8cmから0cmの間で所定距離を保持した場合、
図9中〇印で示すように、100Hzから99.1Hzまでの間で共振周波数が低くなることが確認された。そして、磁石37のS極を8cmから0cmの間で所定距離を保持した場合、
図9中■印で示すように、100Hzから100.6Hzまでの間で共振周波数が高くなることが確認された。
【0066】
従って、所定距離が徐々に短くなるように磁石37を配置する(吸着させる)ことで、フレーム3の磁化を変化させて発電素子2の固有振動数を調整することができることが確認された。
【0067】
図10には、
図6に示した振動発電装置21に対して、配置する磁石37のS極、N極に応じた配置距離(cm)と共振周波数との関係を説明するグラフを示してある。尚、
図1、
図2、
図6に示した部材と同一の部材には、同一符号を付してある。
【0068】
発電素子2が3個並べて振動源11に取り付けられた振動発電装置21に対して、共振周波数を120Hzにチューニングした状況で、磁石37のN極を8cmから0cmの間で所定距離を保持した場合、図中〇印で示すように、120Hzから119.2Hzまでの間で共振周波数が低くなることが確認された。そして、磁石37のS極を8cmから0cmの間で所定距離を保持した場合、図中■印で示すように、120Hzから120.6Hzまでの間で共振周波数が高くなることが確認された。
【0069】
従って、所定距離が徐々に短くなるように磁石37を配置する(吸着させる)ことで、フレーム3の磁化を変化させて発電素子2の固有振動数を調整することができることが確認された。
【0070】
そして、所定距離が徐々に短くなるように磁石37を配置する(吸着させる)ことで、発電素子2が1つの場合と同じ傾向で共振周波数を変化させることができることが確認された。このため、発電素子2の形態や、チューニングされた元の共振周波数に関わらず、発電素子2の固有振動数を調整することが可能になる。
【0071】
磁石37の配置の距離の調整に加えて、配置する時間を調整することで、発電素子2の固有振動数を更に調整することが可能になる。
【0072】
尚、上記実施例では、片持ち梁の状態で保持されたフレーム3の磁化を変化させることで、磁歪式の発電素子2の固有振動数を調整する例を挙げて説明したが、鉄板等の基材に圧電素子(発電素子)を貼り付ける等した構成の振動発電装置であっても、基材の磁化を変化させて圧電素子の固有振動数を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、発電素子を振動させて電力を得る振動発電装置、及び、振動発電方法の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1、21 振動発電装置
2 発電素子
3 フレーム
4 磁歪材料
5 コイル
6、16 振動子(錘)
7、37 磁石
8 固定磁石
11 振動源