(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】高周波信号伝送部品
(51)【国際特許分類】
H05K 5/02 20060101AFI20230927BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20230927BHJP
C08L 25/00 20060101ALI20230927BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20230927BHJP
H01B 3/00 20060101ALI20230927BHJP
H01B 3/42 20060101ALI20230927BHJP
H01Q 1/38 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
H05K5/02 J
C08K7/04
C08L25/00
C08L67/02
H01B3/00 A
H01B3/42 E
H01Q1/38
(21)【出願番号】P 2021550368
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028077
(87)【国際公開番号】W WO2021065161
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2019183774
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】西澤 洋二
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-189584(JP,A)
【文献】特開2013-043942(JP,A)
【文献】特開2019-031079(JP,A)
【文献】特開2013-131576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/02
C08K 7/04
C08L 25/00
C08L 67/02
H01B 3/00
H01B 3/42
H01Q 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部、
(B)ポリスチレン系樹脂15~50質量部、および
(C)繊維状無機充填材0~70質量部、
とを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(ただし、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、ポリグリセリンの全ての水酸基に脂肪酸がエステル結合してなるポリグリセリン脂肪酸エステル0.05~5.0重量部を含有するポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を除く)からなる高周波信号伝送部品。
【請求項2】
23℃、50%RHで300時間調湿した後の誘電正接が0.01以下であり、23℃50%RHで300時間調湿した後の比誘電率εr
1と、110℃で24時間乾燥時の比誘電率εr
2との比誘電率の差が、0.01以下である、請求項1記載の高周波信号伝送部品。
【請求項3】
23℃50%RHで300時間調湿した後の比誘電率εr
1が3.5以下であり、80℃の温水に300時間浸漬した後の吸水時の比誘電率εr
3との差が、0.10以下である、請求項1又は2記載の高周波信号伝送部品。
【請求項4】
(B)ポリスチレン系樹脂において、スチレン由来のモノマーが80モル%以上である、請求項1~3いずれかに記載の高周波信号伝送部品。
【請求項5】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、相溶化剤を含む請求項1~
4いずれかに記載の高周波信号伝送部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号伝送部品に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックは、機械的特性、電気的特性、耐水性、耐薬品性及び耐溶剤性等に優れるため、自動車用部品、電気・電子部品等の種々の用途に広く利用されている。
【0003】
近年、自動車用部品やモバイル用の電気・電子機器用に樹脂材料を用いることは、省資源・低環境負荷、軽量化等の観点からも特に望まれている。このような用途の中には、高周波信号を伝達あるいは電磁波を受発信する、電子回路の基材、該電子回路の接続用部品、該電子回路を覆う部品(以下、これらを高周波信号伝送部品という)もあり、このような部品に対しては耐衝撃性等の機械的強度のみならず、誘電特性に優れることも求められる。
【0004】
ここで、誘電特性とは高周波信号の伝送損失や透過損失が小さいことを指す。つまり、優れた誘電特性とは低誘電損失特性を意味する。また、機械的強度とは、屋外で使用される場合や、長期間使用される場合であっても充分に耐えられる程度の機械的強度を指す。
【0005】
低誘電損失特性を有する樹脂材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が知られている。高周波信号伝送部品の中には発熱するもの多く、これらの汎用樹脂を用いる場合、高温下の機械的強度が充分ではなく、好ましく使用出来ないことがあった。
【0006】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂という場合がある)は、高周波信号伝送部品に求められる機械的強度等の物性を有するとともに、耐熱性にも優れるため、高周波信号伝送部品の原料として好ましいように思われるものの、ポリブチレンテレフタレート樹脂は低誘電損失特性が充分ではないため、高周波信号伝送部品の原料として好ましく用いることができない。
【0007】
その改善策として、PBT樹脂とポリエチレン系樹脂の混合物が、一定水準以上の機械的強度を有し、かつ低誘電損失特性を有する樹脂材料として開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら近年特にアンテナ、レドーム、センサーなど屋外で利用される高周波信号伝送部品用としての低誘電損失特性の樹脂材料が求められており、これらには屋外の環境として特に雨、雪等の水分による影響を受けにくいという特性(以下、耐水性という)が必要であり、上記材料ではいまだその性能は満足するものではなかった。
【0010】
本発明はこの課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高周波信号伝送部品として、従来よりも水分の影響を受けにくいという優れた特性を有するものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下によって上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
1. 少なくとも、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部、
(B)ポリスチレン系樹脂15~50質量部、および
(C)繊維状無機充填材0~70質量部、
とを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる高周波信号伝送部品。
2. 23℃、50%RHで300時間調湿した後の誘電正接が0.01以下であり、23℃50%RHで300時間調湿した後の比誘電率εr1と、110℃で24時間乾燥時の比誘電率εr2との比誘電率の差が、0.01以下である、前記1記載の高周波信号伝送部品。
3. 23℃50%RHで300時間調湿した後の比誘電率εr1が3.5以下であり、80℃の温水に300時間浸漬した後の吸水時の比誘電率εr3との差が、0.10以下である、前記1又は2記載の高周波信号伝送部品。
4. ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、相溶化剤を含む前記1~3いずれかに記載の高周波信号伝送部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、高周波信号伝送部品として、従来よりも水分の影響を受けにくいという優れた特性を有するものを提供することができる。
本発明の効果が発現する機構について、まだ明らかではないが、連続するベンゼン環構造の重なりが、低誘電損失特性と耐水性の両方によい影響を与えていると推測している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は本発明の高周波信号伝送部品の使用例を模式的に示す図であり、(a)は、高周波信号伝送部品が高周波信号発信部を覆う場合を示す図であり、(b)は、高周波信号伝送部品が高周波信号受信部を覆う場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
<高周波信号伝送部品>
図1は本実施形態の高周波信号伝送部品の使用例を模式的に示す図であり、(a)は高周波信号伝送部品が高周波信号発信部を覆う場合であり、(b)は高周波信号伝送部品が高周波信号受信部を覆う場合である。このように本実施形態の高周波信号伝送部品は、高周波電気・電子機器に用いられる部品であり、より具体的には、高周波電気・電子機器の回路基板、高周波電気・電子機器のアンテナ基材、高周波電気・電子機器のアンテナカバー、高周波電気・電子機器のコネクタ、高周波電気・電子機器の筺体等である。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態の高周波信号伝送部品10は、高周波信号伝送発信部20や高周波信号受信部30を覆うための部品である。高周波信号伝送部品10が高周波信号発信部20を覆う場合には、
図1(a)に示すように、高周波信号発信部20が発した電磁波が高周波信号伝送部品10を透過して、外部に存在する高周波信号受信部(図示せず)に受信される。
【0018】
また、高周波信号伝送部品10が高周波信号受信部30を覆う場合には、
図1(b)に示すように、外部に存在する高周波信号発信部(図示せず)が発した電磁波が高周波信号伝送部品10を透過して、高周波信号受信部30に受信される。
【0019】
本実施形態の高周波信号伝送部品10は、低誘電損失特性、優れた耐衝撃性、優れた耐水性を備えるため、過酷な環境下で使用される高周波信号伝送部品として好ましい。特に、車載衝突防止用レーダーを保護するための部品(衝突回避等を目的としたレーダーを保護するための部品)、車載用アンテナカバー、車載用コネクタ、車載電子制御回路筐体、携帯電話用筐体、ノートパソコン用筐体として用いられる場合には、本発明の有する耐水性や機械的強度が必要になる場合が多い。
【0020】
また、
図1では高周波信号発信部20や高周波信号受信部30を覆う高周波信号伝送部品10の全体が本発明の高周波信号伝送部品になっているが、電磁波が通る部分等の一部に本発明の高周波信号伝送部品を配置してもよい。
【0021】
また、
図1に示すような、高周波信号発信部20や高周波信号受信部30を、本実施形態の高周波信号伝送部品10が覆ったものは、本発明の高周波電気・電子機器の一例である。高周波電気・電子機器の例としては、レーダーセンサ等が挙げられる。
【0022】
本発明の高周波信号伝送部品が、低誘電損失特性、優れた機械的強度、そして優れた耐水性を備えるのは、高周波信号伝送部品が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリスチレン系樹脂、(C)繊維状無機充填材とを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成されるからである。
【0023】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物>
本発明の高周波信号伝送部品を構成するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、少なくとも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリスチレン系樹脂および(C)繊維状無機充填材とを含む。
【0024】
≪(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂≫
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0025】
本発明で用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
本発明において用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
本発明において用いるポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されない。また、固有粘度の異なるポリブチレンテレフタレート樹脂を混合して、所望の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂に調整してもよい。
【0028】
本発明で用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に制限されないが、後述する(D)相溶化剤を、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が含む場合には、上記末端カルボキシル基は特定の範囲に含まれることが好ましい。詳細は後述する。
【0029】
≪(B)ポリスチレン系樹脂≫
(B)ポリスチレン系樹脂は、分子内に重合性二重結合を有するスチレン系モノマーを重合してなるものである。上記スチレン系モノマーとしては特に限定されず、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-フルオロスチレン、p-フェニルスチレン、p-t-ブチルスチレン、α-メチルスチレンエチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、2-ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0030】
(B)ポリスチレン系樹脂は、他のモノマーを共重合してもよいが、スチレン由来のモノマーが50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、80モル%以上であることがさらにより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい。他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン等のオレフィンモノマー、メチルメタクリレート等のアクリルエステルモノマー等を挙げることができる。
【0031】
(B)ポリスチレン系樹脂の含有量は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。(B)ポリスチレン系樹脂の上記含有量が10質量部以上であれば低誘電損失特性や優れた耐衝撃性を示すという理由で好ましく、100質量部以下であれば機械的強度や耐水性に優れるという理由で好ましい。より好ましい(B)ポリスチレン系樹脂の上記含有量は10質量部以上60質量部以下である。
【0032】
≪(C)繊維状無機充填材≫
本発明において、(C)繊維状無機充填材の種類は特に限定されない。例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等が(C)繊維状無機充填材として挙げられる。
【0033】
本発明においては、これらの(C)繊維状無機充填材の中でもガラス繊維が特に好ましい。ガラス繊維とは、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。
【0034】
本発明では、ガラスの種類にも限定されず、樹脂組成物に一般的に用いられるAガラスやEガラスの他、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスを用いることもできるが、低誘電損失特性の観点では、DガラスやNEガラスといった、いわゆる低誘電ガラスが好ましく用いられる。低誘電ガラスはAガラスやEガラスに比べ、酸化ホウ素を多く含み、酸化アルミニウムや酸化カルシウム、酸化マグネシウムが少ない組成のガラスであり、比誘電率や誘電正接が低いものとして知られている。
【0035】
上記の通り、ガラス繊維の繊維長、繊維径も一般的な範囲内にあればよい。例えば、繊維長が2.0mm以上6.0mm以下、繊維径が9.0μm以上14.0μm以下のものを使用可能である。
【0036】
また、(C)繊維状無機充填材と、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との界面特性を向上させる目的で、シラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された(C)繊維状無機充填材が好ましく用いられる。かかるシラン化合物やエポキシ化合物としては公知のものがいずれも好ましく用いることができる。
【0037】
(C)繊維状無機充填材の含有量は特に限定されないが、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下であることが好ましい。上記含有量は20質量部以上であれば高い機械的強度が得られるという理由で好ましく、80質量部以下であれば誘電特性や成形性を損なわないという理由で好ましい。(C)繊維状無機充填材のより好ましい含有量は20質量部以上60質量部以下である。
【0038】
≪(D)相溶化剤≫
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(D)相溶化剤を含んでもよい。本発明で用いる(D)相溶化剤を添加することにより、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂の相溶性を向上させ、屋外での使用により雨等の水分に曝される環境であっても、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリスチレン系樹脂の界面への水分の浸入を抑制しやすくなる。
【0039】
(D)相溶化剤の例としては、グリシジル基含有反応性化合物、マレイン酸変性化合物等、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基と反応する官能基を有する化合物が挙げられ、グリシジル基含有反応性化合物としては、グリシジル基を有するモノマーと、エチレン系モノマーまたはスチレン系モノマーから構成される反応性共重合体、および/または、これに加えてメタクリル酸アルキルエステル系モノマー、アクリル酸アルキルエステル系モノマーを含んだ3種以上のモノマーから構成されるグリシジル基含有反応性化合物であってもよい。
【0040】
マレイン酸変性化合物としては、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル-無水マレイン酸共重合体、スチレン・マレイン酸ハーフエステル共重合体であってもよい。
【0041】
(D)相溶化剤中の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基と反応する官能基当量をγ(g/eq)、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の1kg当たりの末端カルボキシル基量をα(meq/kg)としたとき、上記官能基当量と、上記末端カルボキシル基の当量との比(γ-1×106×wγ/(α×wα)が、0.1以上5以下であることが好ましい。 ここで、wαは(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量(100質量部)、wγは(D)相溶加材の含有量(前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する含有量をそれぞれ表す。
【0042】
(D)相溶化剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部当たり、1質量部以上15質量部以下である。
【0043】
≪その他の添加物≫
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、核剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤、その他の樹脂等を挙げることができる。
【0044】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の、その他の成分の含有量は特に限定されないが、上記含有量は、通常20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。なお、その他の成分として難燃剤を用いる場合には上記含有量は、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
【0045】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法>
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製法の具体的態様は、特に限定されるものではなく、一般に樹脂組成物又はその成形体の調製法として公知の設備と方法により、樹脂組成物を調製することができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。また、押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
【0046】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の性質>
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、海島構造を有する。具体的には、ポリブチレンテレフタレート樹脂のマトリックス相(海)と、ポリスチレン系樹脂の分散相(島)とから構成される。ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量とポリスチレン系樹脂の含有量とを調整することで上記海島構造を形成させることができる。
【0047】
例えば、ポリスチレン系樹脂のマトリックス相になっている場合、マトリックス相と分散相との判別が困難な場合には、ポリスチレン系樹脂に対するポリブチレンテレフタレートの含有量を増加させることで、上記の海島構造を形成させることができる。
【0048】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、繊維状無機充填材はマトリックス相に存在している。マトリックス相に繊維状無機充填材が存在していない場合には、繊維状無機充填材の表面を上記有機処理剤で処理することで、繊維状無機充填材をマトリックス相に存在させやすくすることができる。
【0049】
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂単体や、繊維状無機充填材で強化されたポリブチレンテレフタレート樹脂よりも耐衝撃性に優れる点が特徴の1つであるが、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は下記の通り優れた低誘電損失特性、耐水性を有するため、高周波信号伝送部品の原料として好ましく採用することができる。樹脂組成物が、非常に優れた耐衝撃性を有しつつ、以下のような物性を備えることで、樹脂組成物を車載衝突防止用レーダー等の原料に好ましく用いることができる。
【0050】
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、優れた誘電特性を有する。具体的には23℃50%RHで300時間調湿した後の誘電正接が0.01以下、23℃50%RHで300時間調湿した後の比誘電率εr1と110℃で24時間乾燥時の比誘電率εr2との差が、0.10以下であるものが好ましく用いられる。
【0051】
また、23℃50%RHで300時間調湿した後の比誘電率εr1が3.5以下、80℃の温水に300時間浸漬した後の吸水時の比誘電率εr3との差が、0.10以下であるものが好ましく用いられる。
【0052】
つまり本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、湿度の影響が小さく、優れた耐水性のある誘電特性を有する。
【0053】
<高周波信号伝送部品>
本発明の高周波信号伝送部品は、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる。成形方法は特に限定されず、例えば、射出成形法等を採用可能であるが、高周波信号伝送部品の形状等に応じて好ましい成形方法を採用することができる。
【0054】
上記の通り、原料であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、耐衝撃性に優れ、さらに、優れた耐水性や誘電特性を有するため、本発明の高周波信号伝送部品も、優れた耐衝撃性、耐水性、誘電特性を有する。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<材料>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT):(ポリプラスチックス社製)、末端カルボキシル基量24meq/kg
(B-1)ポリスチレン系樹脂1(PS)(HF-77、PSジャパン社製)
(B-2)シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)(ザレック130ZC、出光興産社製)
【0057】
また、その他使用した樹脂は以下の通りである。
PP:ポリプロピレン(プライムポリプロJ707EG、プライムポリマー社製)
PTFE: 四フッ化エチレン樹脂(KTL-450 喜多村社製)
PPE:ポリフェニレンエーテル(PX100L、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
EEA:エチレンエチルアクリレート(NUC-6570、日本ユニカー社製)
PC:ポリカーボネート(パンライトL1225、帝人化成社製)
PET:ポリエチレンテレフタレート(BF3067、インドラマ社製)
PA6:ポリアミド(UBEナイロン1015B、宇部興産社製)
コアシェル型ポリマー(パラロイドEXL2311、ロームアンドハースジャパン社製)
エポキシ樹脂(エピコートJER1004K、三菱化学社製)
【0058】
(C-1)繊維状無機充填材:ガラスファイバー(Eガラス)(GF)(ECS03T-187 日本電気硝子社製)
(C-2)低誘電ガラス繊維:(TLD-CS10-3.0-T-436S 泰山ガラス繊維社製)
【0059】
フェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010 BASFジャパン社製)
(D-1)相溶化剤:グリシジル基含有反応性化合物:メタクリル酸グリシジル/エチレン 共重合ポリマー(「ボンドファーストE」、住友化学社製、エポキシ当量約1200g/eq、メタクリル酸グリシジル12質量%)
(D-2)相溶化剤:無水マレイン酸変性SEBS(クレイトンポリマージャパン製FG1901 ポリスチレン含量30質量%)
カーボンブラック(750B、三菱化学製)
【0060】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造>
表1、2に示す成分を表1、2に示す割合(単位は質量部)で使用し、30mmφのスクリューを有する2軸押出機(日本製鋼所製TEX-30α)に供給して250℃で溶融混練し、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。
【0061】
<評価>
得られたペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、また、表に示す材料を使用し、下記の評価に使用する試験片を、射出成形法にて製造した。
【0062】
[引張試験]
機械物性評価用試験片を用い、ISO527-1,2に定められている評価基準に従い、引張強さ、引張伸びを評価した。評価結果を表1、2に示した。
[曲げ試験]
ISO178に準拠して、試験片の曲げ強度、曲げ弾性率を評価した。評価結果を表1、2に示した。
[シャルピー衝撃値]
機械物性評価用試験片を用い、ISO-179(試験片厚み4mm)に定められている評価基準に従い、シャルピー衝撃強度評価した。評価結果を表1、2に示した。
【0063】
[溶融粘度特性(MV)]
本発明の樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥後、ISO11443に準拠し、キャピログラフ1B(東洋精機製作所社製)を用いて、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec-1にて測定した。単位はkPa・sである。評価結果を表1、2に示した。
【0064】
[誘電特性および耐水性の評価]
実施例、比較例について、比誘電率、誘電正接を測定した。具体的にはAgilent社製ネットワークアナライザー8757D及び関東電子株式会社製空洞共振器複素誘電率測定装置を用い、1GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により23℃50%RHで測定した。なお、測定の際には、所定の形状(断面1.0mm×1.0mm、長さ80mm)の試験片を、空洞共振器に挿入した。評価結果を表1、2に示した。
【0065】
【0066】
【0067】
表1、2から、本発明の高周波信号伝送部品の原料として使用可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(実施例のPBT樹脂組成物)であれば、機械的強度を落とすことなく、誘電特性および耐水性において優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
10 高周波信号伝送部品
20 高周波信号伝送発信部
30 高周波信号受信部