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特許7356828ポリアセタール樹脂組成物およびポリアセタール樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物およびポリアセタール樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/04 20060101AFI20230928BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20230928BHJP
   C08G 2/38 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C08L59/04
C08L59/00
C08G2/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019120495
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021006597
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】喜来 直裕
(72)【発明者】
【氏名】増田 栄次
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-146958(JP,A)
【文献】特開昭60-170652(JP,A)
【文献】国際公開第2000/047646(WO,A1)
【文献】特開2009-007522(JP,A)
【文献】特開昭58-174412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08G 2/00- 2/38
C08G61/00- 61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、
少なくともトリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)およびオルガノポリシロキサン(c)、とを重合反応させたポリアセタール共重合体(B)0.1~100質量部、
を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリアセタール樹脂(A)は、前記ポリアセタール共重合体(B)を含まず、
前記オルガノポリシロキサン(c)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物の縮合物であり、アルコキシ基を有する化合物である、ポリアセタール樹脂組成物。
Si(OR4-n (1)
(式(1)においてRは1価炭化水素基を表し、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0~3の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)におけるRがメチル基およびエチル基から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)におけるRがメチル基またはフェニル基から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアセタール樹脂(A)がアセタールコポリマーである請求項1~3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、
少なくともトリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)およびオルガノポリシロキサン(c)、とをカチオン重合触媒の存在下重合反応させたポリアセタール共重合体(B)0.1~100質量部
を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアセタール樹脂(A)は、前記ポリアセタール共重合体(B)を含まず、
前記オルガノポリシロキサン(c)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物の縮合物であり、アルコキシ基を有する化合物であるポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
Si(OR4-n (1)
(式(1)においてRは1価炭化水素基を表し、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0~3の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械物性に優れたポリアセタール樹脂組成物およびそのポリアセタール樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性等において、優れた特性を持っており、主に構造材料や機構部品等として電気機器、自動車部品、精密機械部品等に広く使用されている。しかし、ポリアセタール樹脂が利用される分野の拡大に伴い、要求特性は益々高度化、複合化、特殊化する傾向にある。そのような要求特性として、ポリアセタール樹脂が本来有する優れた摺動性、外観等を維持したまま、剛性改良、ホルムアルデヒドの発生抑制に対し一層の向上が要求される。
【0003】
これに対し、単に剛性を向上させるだけの目的であれば、ポリアセタール樹脂に繊維状フィラー等を充填する方法が一般的であるが、この方法では、繊維状フィラー等の充填による成形品の外観不良や摺動特性の低下等の問題、更には靱性低下の問題がある。
【0004】
また、ポリアセタール共重合体では、コモノマー量を減少させることにより、摺動性や外観を実質的に損なうことなく剛性を向上させることが知られているが、コモノマー減量の手法においては、靱性が低下するのみならずポリマーの熱安定性も低下する等の問題が生じ、必ずしも要求に応え得るものではなかった。
【0005】
分岐構造を導入したポリアセタール共重合体を配合した剛性向上も試みられているが(特許文献1)、分岐構造を導入したポリアセタール共重合体の重合の際に、コモノマーの種類によっては、カチオン重合触媒、特にプロトン酸を重合触媒とする場合に、重合開始が遅れ、突然爆発的に重合が起こってしまうことがあり、生産安定性の面からも課題があった。
【0006】
例えば、ポリアセタール共重合体に関して、トリオキサンと、1分子中にグリシジルエーテル基を2個以上有する化合物とを共重合させた共重合体が提案されている(特許文献2)。しかし、グリシジルエーテル基に代表されるエポキシ基とエーテル酸素を官能基として複数個有する化合物を重合に使用する場合、重合安定性に課題が残っている。特にプロトン酸を重合触媒に使用した場合、低触媒量では重合が起こらず、触媒量を上げると、不定期な誘導期ののち、突然激しい重合反応が起こる現象が発生し、重合制御を難しくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭55-019942号公報
【文献】特開2001-163944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械物性のレベルを向上させたポリアセタール樹脂組成物およびそのポリアセタール樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリアセタール樹脂を基体とし、これにトリオキサンと炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物と特定の1種以上のシラン化合物の縮合物であって、アルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンとを重合反応させたポリアセタール共重合体を配合することにより、従来予知されなかったほどの機械物性の向上が可能であることを見出し、以下の本発明に達した。
【0010】
1. ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、
少なくともトリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)およびオルガノポリシロキサン(c)、とを重合反応させたポリアセタール共重合体(B)0.1~100質量部、
を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物であって、
該オルガノポリシロキサン(c)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物の縮合物であり、アルコキシ基を有する化合物である、ポリアセタール樹脂組成物。
Si(OR4-n (1)
(式(1)においてRは1価炭化水素基を表し、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0~3の整数である。)
2. 前記式(1)におけるRがメチル基およびエチル基から選ばれる少なくとも1種である前記1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
3. 前記式(1)におけるRがメチル基またはフェニル基から選ばれる少なくとも1種である前記1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
4. 前記ポリアセタール樹脂(A)がアセタールコポリマーである前記1~3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
5. ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、
少なくともトリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)およびオルガノポリシロキサン(c)、とをカチオン重合触媒の存在下重合反応させたポリアセタール共重合体(B)0.1~100質量部
を混合して得られるポリアセタール樹脂組成物の製造方法であって、
該オルガノポリシロキサン(c)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物の縮合物であり、アルコキシ基を有する化合物であるポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
Si(OR4-n (1)
(式(1)においてRは1価炭化水素基を表し、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0~3の整数である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、機械物性のレベルを向上させたポリアセタール樹脂組成物およびそのポリアセタール樹脂組成物の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)と、少なくともトリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)および特定の1種以上のシラン化合物の縮合物であって、アルコキシ基を有するオルガノポリシロキサン(c)とを重合反応させたポリアセタール共重合体(B)、とを含有するポリアセタール樹脂組成物であって、本発明の樹脂組成物において、かかるポリアセタール共重合体(B)の配合量は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、0.1~100質量部であり、好ましくは0.5~100質量部であることを特徴とする。
【0014】
<ポリアセタール樹脂(A)>
以下、本発明のポリアセタール樹脂組成物の構成について詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物の基体であるポリアセタール樹脂(A)とは、オキシメチレン単位(-CHO-)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、アセタールホモポリマー(例えば米国デュポン社製、商品名「デルリン」等)、オキシメチレン基以外に他のコモノマー単位を含有するアセタールコポリマー(例えば、ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラコン」等)が含まれる。
【0015】
アセタールコポリマーにおいて、コモノマー単位には炭素数2~6程度(好ましくは、炭素数2~4程度)のオキシアルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(-CHCHO-)、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基等)が含まれる。
【0016】
また、コモノマー単位の含有量は、樹脂の結晶性と化学安定性を大幅に損なわない程度の量、例えば、ポリアセタール重合体の構成単位に占める割合として、一般的には0.01~20モル%、好ましくは、0.03~10モル%、更に好ましくは、0.1~7モル%程度の範囲から選択できる。
【0017】
アセタールコポリマーは、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマー等であってよい。アセタールコポリマーは、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等であってよい。
【0018】
また、このようなポリアセタール樹脂(A)の重合度、分岐度や架橋度も特に制限はなく溶融成形可能であればよい。本発明において配合するポリアセタール樹脂(A)としては、その熱安定性等の点で特にアセタールコポリマーが好ましい。
【0019】
<ポリアセタール共重合体(B)>
本発明のポリアセタール共重合体(B)は、少なくともトリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)とオルガノポリシロキサン(c)とを重合反応させたポリアセタール共重合体であって、該オルガノポリシロキサン(c)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物の縮合物であり、アルコキシ基を有する化合物であることを特徴とする。
Si(OR4-n (1)
(式(1)においてRは1価炭化水素基を表し、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0~3の整数である。)
【0020】
≪トリオキサン(a)≫
本発明において用いられるトリオキサン(a)とは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。
【0021】
≪炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)≫
本発明において、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)をコモノマーとして用いることが可能である。
【0022】
本発明の炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物とは、ポリアセタール共重合体の製造においてコモノマーとして一般に使用される化合物である。具体的には、1,3-ジオキソラン、1,3,6-トリオキソカン、1,4-ブタンジオールホルマール等が挙げられる。
【0023】
本発明において、(b)成分は、トリオキサン100質量部に対して0.01~20質量部の範囲となるように使用するのが好ましく、さらに好ましくは0.05~5質量部の範囲である。
【0024】
≪式(1)で表されるシラン化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物を縮合させることで得られ、アルコキシ基を有するオルガノポリシロキサン(c)≫
Si(OR4-n (1)
(式(1)においてRは1価炭化水素基を表し、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0~3の整数である。)
【0025】
式(1)で表されるシラン化合物としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0026】
本発明のオルガノポリシロキサン(c)は、式(1)で表されるシラン化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物を公知の縮合反応触媒、具体的には酸触媒、塩基触媒、有機金属化合物触媒などを用いて、縮合させることにより得られる。
【0027】
具体的には、例えば、特許2904317号公報や同3389338号公報等に記載の方法で(アルコキシ)シラン化合物を部分加水分解縮合し、本発明の効果を生ずる程度のアルコキシ基を含有するものである。
【0028】
本発明のオルガノポリシロキサン(c)がアルコキシ基を有することは、オルガノポリシロキサン中のアルコキシ基を定量することによって知ることができる。例えば、29Si-NMR測定やKOHを加えて熱分解した際に生成するアルコール量で定量することができる。
【0029】
本発明のオルガノポリシロキサン(c)は、アルコキシ基と場合により炭化水素基を含有しかつシロキサン骨格を有する化合物である。アルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
【0030】
上記炭化水素基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基等の飽和炭化水素基やフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
本発明のオルガノポリシロキサン(c)にかかわる前記式(1)におけるRは得られるポリアセタール樹脂組成物の機械物性の観点からメチル基およびエチル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
また、前記オルガノポリシロキサン(c)にかかわる前記式(1)におけるRは得られるポリアセタール樹脂組成物の機械物性の観点からメチル基もしくはフェニル基から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0032】
本発明のオルガノポリシロキサン(c)の市販品としては、例えば、「SR2402Resin」、「AY42-163」、「DC-3074intermediate」及び「DC-3037intermediate」(以上、ダウ・東レ株式会社製)、「KC-89S」、「KR-500」、「X-40-9225」、「X-40-9246」、「X-40-9250」、「KR-9218」、「KR-213」、「KR-510」、「X-40-9227」、「X-40-9247」、「KR-401N」(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0033】
本発明において、(c)成分は重合反応において連鎖移動剤として機能していると考えられる。その結果、トリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)および前記オルガノシロキサン(c)との重合反応を行う際に重合の制御が容易となり、生産性が向上する。得られたポリアセタール共重合体(B)が樹脂組成物の結晶性を上げることから樹脂組成物の機械物性を向上させたものと考えられる。
【0034】
本発明において、(c)成分は、トリオキサン(a)100質量部に対して0.01~5質量部の範囲となるように使用するのが好ましく、さらに好ましくは0.03~1質量部の範囲である。
【0035】
<ポリアセタール共重合体(B)の重合方法>
本発明のポリアセタール共重合体(B)の重合方法は、少なくとも、トリオキサン(a)、炭素数2以上のオキシアルキレン基を環内に有する環状アセタール化合物(b)およびオルガノポリシロキサン(c)、とをカチオン重合触媒の存在下重合反応させることを特徴とする。
そして該オルガノポリシロキサン(c)が、下記式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上のシラン化合物の縮合物であることを特徴とする。
Si(OR4-n (1)
(式(1)においてRは1価炭化水素基を表し、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。nは0~3の整数である。)
【0036】
<カチオン重合触媒>
カチオン重合触媒としては、トリオキサンを主モノマーとするカチオン共重合において公知の重合触媒が使用できる。代表的には、ルイス酸、プロトン酸が挙げられる。特に、以下に示すプロトン酸であることが好ましい。
【0037】
≪プロトン酸≫
プロトン酸としては、パーフルオロアルカンスルホン酸、ヘテロポリ酸、イソポリ酸が挙げられる。
パーフルオロアルカンスルホン酸の具体例として、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸、ペンタデカフルオロへプタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸が挙げられる。
【0038】
ヘテロポリ酸とは、異種の酸素酸が脱水縮合して生成するポリ酸をいい、中心に特定の異種元素が存在し、酸素原子を共有して縮合酸基が縮合してできる単核又は複核の錯イオンを有する。イソポリ酸とは、イソ多重酸、同核縮合酸、同種多重酸とも称され、V価又はVI価の単一種類の金属を有する無機酸素酸の縮合体から成る高分子量の無機酸素酸をいう。
【0039】
ヘテロポリ酸の具体例として、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。特に、重合活性の観点から、ヘテロポリ酸は、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸から選択されることが好ましい。
【0040】
イソポリ酸の具体例として、パラタングステン酸、メタタングステン酸等に例示されるイソポリタングステン酸、パラモリブデン酸、メタモリブデン酸等に例示されるイソポリモリブデン酸、メタポリバナジウム酸、イソポリバナジウム酸等が挙げられる。中でも、重合活性の観点から、イソポリタングステン酸であることが好ましい。
【0041】
≪ルイス酸≫
ルイス酸としては、例えば、ホウ素、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、具体的には三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。
【0042】
重合触媒の量は特に限定されるものでないが、全モノマーの合計に対して0.1ppm以上50ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以上30ppm以下であることがより好ましい。特に好ましくは0.1ppm以上10ppm以下である。(以下、単位のppmは全て質量標準である。)
【0043】
本発明のポリアセタール共重合体の重合方法は、特に限定されるものではない。製造するにあたり、重合装置も特に限定されるものではなく、公知の装置が使用され、バッチ式、連続式等、いずれの方法も可能である。また、重合温度は65℃以上135℃以下に保つことが好ましい。
カチオン重合触媒は、重合に影響のない不活性な溶剤で希釈して使用することが好ましい。
【0044】
重合後の重合触媒の失活は従来公知の方法で行うことができる。例えば、重合反応後、重合機より排出される生成反応物、重合機中の反応生成物に塩基性化合物又はその水溶液等を加えて行うこともできる。
重合触媒を中和し失活するための塩基性化合物は、特に限定されるものでない。重合及び失活の後、必要に応じて更に、洗浄、未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0045】
上記のようにして得られるポリアセタール共重合体(B)は、その重量平均分子量(サイズ排除クロマトグラフィにて測定したポリメタクリル酸メチル換算値)が10000~500000であることが好ましく、特に好ましくは20000~150000である。また、末端基については、H-NMRにより検出されるヘミホルマール末端基量(例えば、特開2001-11143公報記載の方法による)が0~4mmol/kgであることが好ましく、特に好ましくは0~2mmol/kgである。
【0046】
ヘミホルマール末端基量を上記範囲に制御するためには、重合に供するモノマー、コモノマー総量中の不純物、特に水分を20ppm以下にするのが好ましく、特に好ましくは10ppm以下である。
【0047】
<その他成分>
上記の如き本発明の樹脂組成物には、必要に応じて選択される各種安定剤を配合するのが好ましい。ここで用いられる安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種または2種以上を挙げることができる。
【0048】
更に、本発明を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば耐候(光)安定剤、染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは、有機高分子材料、無機または有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種または2種以上添加することができる。
【0049】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリアセタール樹脂組成物の製造には、溶融混練処理装置が使用される。溶融混練処理装置については特に限定されないが、ポリアセタール樹脂およびポリアセタール共重合体を溶融させて混練する機能を有し、好ましくはベント機能を有するものであり、例えば、少なくとも1つのベント孔を有する単軸又は多軸の連続押出し混練機、コニーダー等が挙げられる。溶融混練処理は、ポリアセタール樹脂およびポリアセタール共重合体の融点以上260℃までの温度範囲が好ましい。260℃より高いと重合体の分解劣化が生じ好ましくない。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で使用したポリアセタール樹脂(A)およびポリアセタール共重合体(B)は以下の通りである。
【0051】
<ポリアセタール樹脂(A)>
ポリアセタール樹脂は、次のようにして調製した。
二軸パドルタイプの連続式重合機にトリオキサン(TOX)96.7質量%と1,3-ジオキソラン(DO)3.3質量%と800ppmのメチラールの混合物を連続的に供給し、触媒として三フッ化ホウ素20ppmを添加し重合を行った。
重合機吐出口より排出された重合体は、直ちにトリエチルアミン1000ppm含有水溶液を加えて粉砕、攪拌処理を行うことにより触媒の失活を行った。次いで、遠心分離により重合体を回収し、乾燥を行うことによりポリアセタール樹脂を得た。
【0052】
<ポリアセタール共重合体(B)>
ポリアセタール共重合体(B)は、次のようにして調製した。
熱媒を通すことのできるジャケットと撹拌羽根を有する密閉オートクレーブ中に300gのトリオキサン(a)を入れ、さらに(b)成分および(c)成分として表1に記載の化合物を、それぞれ表1に示した質量部になるように添加した。これら内容物を撹拌し、ジャケットに80℃の温水を通して内部温度を約80℃に保った後、触媒として、リンタングステン酸(PWA)をギ酸メチル溶液の形で(a)と(b)の質量の和に対して4.5ppmまたはトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)をシクロヘキサン溶液の形で(a)と(b)の質量の和に対して1.0ppm添加し、重合反応を行った。実施例10はTfOH、それ以外は、PWAを使用した。
実施例で用いた(b)成分は(b-1)1,3-ジオキソラン(DO)、(b-2)1,4-ブタンジオールホルマール(BDF)であり、(c)成分は(c-1)KR-500(R:メチル基、R:メチル基)、(c-2)KR-401N(R:メチル基/フェニル基、R:メチル基)(ともに信越化学工業(株)製)である。
【0053】
5分後にこのオートクレーブへトリエチルアミン1000ppmを含む水300gを加えて反応を停止し、内容物を取り出して200メッシュ以下に粉砕した。次いで、アセトンで洗浄した後に、乾燥を行うことによりポリアセタール共重合体(B)を得た。実施例、比較例の各成分は、表1に示した。
【0054】
比較として下記ジグリシジル化合物(X-1およびX-2)を本発明の(c)成分に替えて重合に用い、比較のポリアセタール共重合体を得た。
【0055】
X-1: ブタンジオールジグリシジルエーテル
【化1】
X-2:トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル
【0056】
【化2】
【0057】
<実施例および比較例>
ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、表1に示す各種成分を表1に示す添加量で混合し、ベント付き二軸の押出機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。
なお、全ての試料において、溶融混錬の際に(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対してエチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert―ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](IRGANOX245 BASF社製)0.35質量部とメラミン0.08質量部を添加した。
【0058】
なお、比較例2および3では、ポリアセタール共重合体(B)に関し、表1記載の条件では、他の重合条件は実施例と同一にしても、重合反応は観測されなかった。
【0059】
【表1】
<評価>
実施例における特性評価項目及び評価方法は以下の通りである。結果を表2に示す。
[引張試験]
ISO527-1、2に準拠し、ISOType1A試験片の引張強度(TS)の測定を行った。測定室は、23℃50%RHの雰囲気を保持した。
[曲げ試験]
機械物性としてISO178に準拠した曲げ弾性率(FM)を測定した。測定室の条件は、23℃55%RHとした。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の機械物性評価から、本発明の樹脂組成物において、機械物性(引張強度、曲げ弾性率)に優れていることがわかる。