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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-27
(45)【発行日】2023-10-05
(54)【発明の名称】研磨用組成物及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20230928BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20230928BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230928BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020030986
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021055041
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019175307
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 幸信
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 彩乃
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049610(WO,A1)
【文献】特開2006-310596(JP,A)
【文献】特開2006-191078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ砥粒と、
ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が30万未満である第一の水溶性高分子と、
ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が第一の水溶性高分子より小さい第二の水溶性高分子と、
塩基性化合物と、
水と、
を含み、
絶縁膜からなるパターン上にケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる配線パターンを形成する用途で使用される研磨用組成物。
【請求項2】
前記第一の水溶性高分子および前記第二の水溶性高分子は、ラクタム環を含む化合物からなるモノマーで構成されたホモポリマーであるか、ラクタム環を含む化合物からなるモノマーとラクタム環を含まない化合物からなるモノマーとで構成されたコポリマーである請求項1記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記ラクタム環を含む化合物からなるモノマーとして、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、ビニルバレロラクタム、ビニルラウロラクタム、ビニルピペリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項2記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記ホモポリマーとして、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルバレロラクタム、ポリビニルラウロラクタム、およびポリビニルピペリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項2記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記第一の水溶性高分子および前記第二の水溶性高分子はポリビニルピロリドンである請求項1記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記第一の水溶性高分子および前記第二の水溶性高分子の合計含有率は0.05質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記第一の水溶性高分子の含有率(W1)と前記第二の水溶性高分子の含有率(W2)との比率(W1/W2)は、1/15以上15/1以下である請求項1~6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
界面活性剤またはグアニジノ基を有する化合物からなるエロージョン抑制剤をさらに含む請求項1~7のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤はアニオン系界面活性剤である請求項8記載の研磨用組成物。
【請求項10】
前記グアニジノ基を有する化合物は、クレアチニンまたはアルギニンである請求項8記載の研磨用組成物。
【請求項11】
シリカ砥粒と、
ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が30万未満である第一の水溶性高分子と、
ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が第一の水溶性高分子より小さい第二の水溶性高分子と、
塩基性化合物と、
水と、
を含む研磨用組成物を用いて、
絶縁膜からなるパターン上にケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、前記ケイ素材料からなる配線パターンを形成する工程を含む、研磨方法。
【請求項12】
前記第一の水溶性高分子および前記第二の水溶性高分子は、ラクタム環を含む化合物からなるモノマーで構成されたホモポリマーであるか、ラクタム環を含む化合物からなるモノマーとラクタム環を含まない化合物からなるモノマーとで構成されたコポリマーである請求項11記載の研磨方法。
【請求項13】
前記ラクタム環を含む化合物からなるモノマーとして、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、ビニルバレロラクタム、ビニルラウロラクタム、ビニルピペリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項12記載の研磨方法。
【請求項14】
前記ホモポリマーとして、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルバレロラクタム、ポリビニルラウロラクタム、およびポリビニルピペリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む請求項12記載の研磨方法。
【請求項15】
前記第一の水溶性高分子および前記第二の水溶性高分子はポリビニルピロリドンである請求項11記載の研磨方法。
【請求項16】
前記第一の水溶性高分子および前記第二の水溶性高分子の合計含有率は0.05質量%以下である請求項11~15のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項17】
前記第一の水溶性高分子の含有率(W1)と前記第二の水溶性高分子の含有率(W2)との比率(W1/W2)は、1/15以上15/1以下である請求項11~16のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項18】
界面活性剤またはグアニジノ基を有する化合物からなるエロージョン抑制剤をさらに含む請求項11~17のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項19】
前記界面活性剤はアニオン系界面活性剤である請求項18記載の研磨方法。
【請求項20】
前記グアニジノ基を有する化合物は、クレアチニンまたはアルギニンである請求項18記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤等を含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグ等である。
半導体基板をCMPにより研磨する際に使用する研磨用組成物については、これまでに様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリシリコンに対する研磨特性、特に段差解消効率を改善するための研磨用組成物が記載されている。その研磨用組成物は、砥粒(コロイダルシリカ)及び酸化剤を含み、pHが6以上である。この研磨用組成物によれば、酸化剤が、pH6以上の組成物中において、研磨対象物であるポリシリコンの表面に対して、化学的な作用を与えて化学的に研磨するため、段差を有する研磨対象物に対する段差解消特性が向上する、と記載されている。
また、特許文献1には、段差解消効率をさらに向上させるために配合する添加剤である水溶性高分子の一例として、重量平均分子量が40000のポリビニルピロリドンを500ppm含む研磨用組成物が記載されている。この研磨用組成物は、pHが9であり、過酸化酸素を0.1質量%含有する。
【0004】
特許文献2には、アセチレン結合を有する有機化合物、水溶性のビニル重合体及び水を含み、pHが4~9であり、半導体用酸化セリウムスラリーと組み合わせることにより半導体用無機絶縁膜を研磨することが可能なCMP研磨剤用添加剤が記載されている。この添加剤を配合することで、ウエハ面内全面の研磨均一性を向上させ、ウエハ面内全面の平坦化特性を向上させることができると記載されている。また、水溶性のビニル重合体としてポリビニルピロリドンは例示されていない。
【0005】
特許文献3には、シリコンウェーハを粗研磨する用途の研磨用組成物として、砥粒と、重量平均分子量が異なる二種の同一構造体(第一の含窒素水溶性高分子および第二の含窒素水溶性高分子)からなる含窒素水溶性高分子(ポリビニルピロリドン、含有率が0.005質量%以下)と、塩基性化合物と、水と、を含む研磨用組成物が記載されている。また、二種類の含窒素水溶性高分子の配合比として、第一の含窒素水溶性高分子(重量平均分子量が30万以上):第二の含窒素水溶性高分子(重量平均分子量が30万未満)=5:1~1:20が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-86355号公報
【文献】特開2008-85058号公報
【文献】WO2019/116833パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体装置の製造工程においては、例えば、シリコン窒化膜(絶縁膜)からなるパターン上にポリシリコン膜(ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜)が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、ポリシリコン膜からなる配線パターンを形成することが行われている。この研磨の際に生じる問題点として、ポリシリコン膜からなる配線パターンの上面が皿のように凹んでしまうディッシングが生じること、配線間のシリコン窒化膜の上面が削り取られてエロージョンが生じること、削り取られるべきポリシリコン膜が残存して配線パターン間のシリコン窒化膜が露出しない状態になることが挙げられる。
【0008】
特許文献1に記載された研磨用組成物は、デッィシング抑制を目的としたものであるが、酸化剤を含んでいることでポリシリコン膜の研磨速度が著しく低下する。特許文献2に記載されたCMP用研磨剤は、砥粒として酸化セリウムを含む。酸化セリウムは、一般に高価であるとともに、容易に沈降するため保存安定性に劣るものである。
特許文献3に記載された研磨用組成物は、分子量が30万以上の水溶性高分子を含むため、「絶縁膜からなるパターン上にケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる配線パターンを形成する用途」に適していない。
【0009】
本発明の課題は、絶縁膜からなるパターン上にケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる配線パターンを形成する用途に好適である(上記問題点が抑制される)とともに、研磨速度の著しい低下も抑制できる研磨用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の研磨用組成物は、砥粒と、ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が30万未満である第一の水溶性高分子と、ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が第一の水溶性高分子より小さい第二の水溶性高分子と、塩基性化合物と、水と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁膜からなるパターン上にケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる配線パターンを形成する用途に好適であるとともに、研磨速度の著しい低下も抑制できる研磨用組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で研磨試験を行った研磨対象物と、この研磨対象物の理想的な研磨状態を示す断面図である。
図2】実施例で研磨試験を行った後の研磨対象物にポリシリコン膜の残存がない状態(◎)を示す平面図である。
図3】実施例で研磨試験を行った後の研磨対象物にポリシリコン膜の残存は一部あるが、問題のない状態(○)を示す平面図である。
図4】実施例で研磨試験を行った後の研磨対象物にポリシリコン膜の残存が多く問題のある状態(×)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の一態様]
上述のように、本発明の一態様の研磨用組成物は、シリカ砥粒と、ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が30万未満である第一の水溶性高分子と、ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が第一の水溶性高分子より小さい第二の水溶性高分子と、塩基性化合物と、水と、を含む。
本発明の一態様の研磨用組成物によれば、上述の第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子の両方を含むことで、上述の第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子の両方を含まない又はいずれか一方のみを含む研磨用組成物と比較して、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜を含む研磨対象物の研磨を行った際の研磨特性が向上する。
【0014】
第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子は、ともにラクタム環を含む高分子化合物からなり、いずれも重量平均分子量が30万未満である。第二の水溶性高分子の重量平均分子量は第一の水溶性高分子の重量平均分子量よりも小さい。このような第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子の両方(重量平均分子量が30万未満)を含むことで、これらの両方を含まない又はいずれか一方のみを含む研磨用組成物と比較して、「絶縁膜からなるパターン上にケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる配線パターンを形成する」研磨方法を実施する際に、配線パターンのディッシングが抑制され、絶縁膜のエロージョンが抑制され、配線パターン間の絶縁膜が露出しない状態になることが抑制される。
【0015】
ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が異なる二つの水溶性高分子を含む場合でも、一方の水溶性高分子の重量平均分子量が30万以上であると、上記研磨方法を実施する際に、配線パターン間の絶縁膜が露出しない状態になり易い。
本発明の一態様の研磨用組成物は、上述の第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子の両方を含むことで上記作用、効果が得られるものであって、酸化剤を含む必要がないため、酸化剤を含む特許文献1の研磨用組成物のような研磨速度の著しい低下が生じない。
【0016】
[本発明の一態様についての詳細な説明]
以下、本発明の一態様について詳細に説明する。
<研磨対象物>
本発明の一態様の研磨用組成物の用途としては、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜を含む研磨対象物の研磨が挙げられる。
ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料としては、例えば、ポリシリコン(Poly-Si)、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金等が挙げられる。特に、ポリシリコンからなる膜を含むものを研磨する用途に適している。
ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜を含む研磨対象物は、ケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料以外の材料として、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、金属等を含む。
【0017】
<砥粒>
本発明の一態様の研磨用組成物はシリカ砥粒(シリカ粒子からなる砥粒)を含む。砥粒として酸化セリウムを用いると、研磨後の研磨対象物上に酸化セリウムの残渣が残りやすくなるため、酸化セリウムを用いることは好ましくない。
シリカ粒子の種類としては、特に制限されず、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等が挙げられるが、好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の一態様の研磨用組成物を構成するシリカ粒子として好適に用いられる。
【0018】
しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中で拡散する性質を有する金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0019】
シリカ粒子は、カチオン性基を有してもよい。すなわち、シリカ粒子は、カチオン変性シリカ粒子であってもよく、カチオン変性コロイダルシリカであってもよい。カチオン性基を有するコロイダルシリカ(カチオン変性コロイダルシリカ)として、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤をシリカ粒子の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(アミノ基修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0020】
コロイダルシリカは、アニオン性基を有してもよい。すなわち、シリカ粒子は、アニオン変性シリカ粒子であってもよく、アニオン変性コロイダルシリカであってもよい。アニオン性基を有するコロイダルシリカ(アニオン変性コロイダルシリカ)として、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アルミン酸基等のアニオン性基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなアニオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特に制限されず、例えば、末端にアニオン性基を有するシランカップリング剤とコロイダルシリカとを反応させる方法が挙げられる。
【0021】
具体例として、スルホン酸基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(スルホン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0022】
カルボン酸基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”,Chemistry Letters,3,228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(カルボン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0023】
シリカ粒子の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱等の多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0024】
シリカ粒子の大きさは特に制限されない。しかしながら、シリカ粒子の平均一次粒子径は、20nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、60nm以上であることが特に好ましい。また、シリカ粒子の平均一次粒子径は、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、シリカ粒子の平均一次粒子径は、20nm以上250nm以下であることが好ましく、40nm以上200nm以下であることがより好ましく、50nm以上150nm以下であることがさらに好ましく、60nm以上100nm以下であることが特に好ましい。なお、シリカ粒子の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定されるシリカ粒子の比表面積に基づいて算出される。
【0025】
シリカ粒子の平均二次粒子径は、50nm以上であることが好ましく、80nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、120nmであることが特に好ましい。また、シリカ粒子の平均二次粒子径は、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましく、250nm以下であることが特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、シリカ粒子の平均二次粒子径は、50nm以上500nm以下であることが好ましく、80nm以上400nm以下であることがより好ましく、100nm以上300nm以下であることがさらに好ましく、120nm以上250nm以下であることが特に好ましい。なお、シリカ粒子の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0026】
シリカ粒子の平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。シリカ粒子の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、シリカ粒子の平均会合度は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。シリカ粒子の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。なお、シリカ粒子の平均会合度は、シリカ粒子の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0027】
シリカ粒子のアスペクト比は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡によりシリカ粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。シリカ粒子のアスペクト比は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0028】
シリカ粒子のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比であるD90/D10は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中のシリカ粒子における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比D90/D10は特に制限されないが、2.04以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。
シリカ粒子の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D10等)は、シリカ粒子の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0029】
本発明の一態様の研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量(濃度)は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。シリカ粒子の含有量がこのような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じるのをより抑えることができる。なお、研磨用組成物が2種以上のシリカ粒子を含む場合には、シリカ粒子の含有量はこれらの合計量を意図する。
本発明の一態様の研磨用組成物は、シリカ粒子に加えて、他の砥粒を含んでもよい。他の砥粒の例としては、例えば、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子等の金属酸化物粒子が挙げられる。
【0030】
<第一の水溶性高分子、第二の水溶性高分子>
本発明の一態様の研磨用組成物は、ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が30万未満である第一の水溶性高分子と、ラクタム環を含む高分子化合物からなり、重量平均分子量が第一の水溶性高分子より小さい第二の水溶性高分子と、を含む。
第一の水溶性高分子の重量平均分子量は、25,000以上30万未満であることが好ましく、30,000以上200,000以下であることがより好ましく、35,000以上150,000以下であることがさらに好ましい。
第二の水溶性高分子の重量平均分子量は、1,000以上25,000未満であることが好ましく、3,000以上20,000以下であることがより好ましく、5,000以上15,000以下であることがさらに好ましい。
【0031】
第一の水溶性高分子の重量平均分子量と第二の水溶性高分子の重量平均分子量との組合せとしては、第一の水溶性高分子の重量平均分子量が25,000以上30万未満で第二の水溶性高分子の重量平均分子量が1,000以上25,000未満であることが好ましく、第一の水溶性高分子の重量平均分子量が30,000以上200,000以下で第二の水溶性高分子の重量平均分子量が3,000以上20,000以下であることがより好ましく、第一の水溶性高分子の重量平均分子量が35,000以上150,000以下で第二の水溶性高分子の重量平均分子量が5,000以上15,000以下、が挙げられる。
【0032】
第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子としては、ラクタム環を含む化合物からなるモノマーで構成されたホモポリマーであるか、ラクタム環を含む化合物からなるモノマーとラクタム環を含まない化合物からなるモノマーとで構成されたコポリマーが挙げられる。
ラクタム環を含む化合物からなるモノマーとしては、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、ビニルバレロラクタム、ビニルラウロラクタム、ビニルピペリドンが挙げられる。
【0033】
ラクタム環を含む化合物からなるモノマーで構成されたホモポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルバレロラクタム、ポリビニルラウロラクタム、およびポリビニルピペリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子は、ポリビニルピロリドンであることが特に好ましい。
【0034】
本発明の一態様の研磨用組成物において、第一の水溶性高分子および第二の水溶性高分子の合計含有率は0.05質量%以下であることが好ましい。このような範囲内であれば、ポリシリコンの高研磨速度を維持するのに有利である。
本発明の一態様の研磨用組成物において、第一の水溶性高分子の含有率(W1)と第二の水溶性高分子の含有率(W2)との比率(W1/W2)は、1/15以上15/1以下であることが好ましく、1/10以上10/1以下であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0035】
<塩基性化合物>
本発明の一態様の研磨用組成物は、塩基性化合物を含む。
本発明の一態様の研磨用組成物に含まれる塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、無機酸のアルカリ金属塩、無機酸のアンモニウム塩、有機酸のアルカリ金属塩、有機酸のアンモニウム塩、およびアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ化合物が挙げられる。これらアルカリ化合物を使用することにより、研磨対象物に含まれるシリコンが溶解しやすいアルカリ領域にpHを調整できるだけでなく、アルカリ化合物は研磨中において砥粒表面や研磨対象物表面へ吸着することなく大半が分散媒中に溶解しているため、シリコンの除去を阻害することがなく、効率的な研磨が実現できる。
【0036】
アルカリ金属の水酸化物の例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
無機酸のアルカリ金属塩の例としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸のアルカリ金属塩;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸のアルカリ金属塩;モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等のモリブテン酸のアルカリ金属塩;次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸のアルカリ金属塩;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸のアルカリ金属塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸のアルカリ金属塩;塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩酸のアルカリ金属塩;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸のアルカリ金属塩;ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸のアルカリ金属塩;ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のホウ酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
無機酸のアンモニウム塩の例としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジ亜リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫化アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、ホウフッ化アンモニウム等が挙げられる。
【0037】
有機酸のアルカリ金属塩の例としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、グリセリン酸ナトリウム、グリセリン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、マロン酸ナトリウム、マロン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、マレイン酸ナトリウム、マレイン酸カリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、グルタル酸ナトリウム、グルタル酸カリウム、アビエチン酸ナトリウム、アビエチン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸ナトリウム、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸カリウム、エレオステアリン酸ナトリウム、エレオステアリン酸カリウム、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸ナトリウム、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸カリウム、レチノイン酸ナトリウム、レチノイン酸カリウム、イミノジ酢酸カリウム等が挙げられる。
【0038】
有機酸のアンモニウム塩の例としては、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸二アンモニウム、シュウ酸水素アンモニウム、安息香酸アンモニウム、クエン酸一アンモニウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、乳酸アンモニウム、フタル酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、酒石酸一アンモニウム、酒石酸二アンモニウム、アスパラギン酸アンモニウム等が挙げられる。
これらアルカリ化合物の中でも、研磨されて得られる半導体装置の動作不良を防止する目的から、水酸化カリウム、無機酸のカリウム塩、無機酸のアンモニウム塩、有機酸のカリウム塩、有機酸のアンモニウム塩、およびアンモニアから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0039】
<水>
本発明の一態様の研磨用組成物は、分散媒として水を含む。
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水を含むことが好ましい。このような水としては、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。
通常は、研磨用組成物に含まれる分散媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上が水であることがより好ましく、99体積%以上が水であることがさらに好ましく、100体積%が水であることが特に好ましい。
【0040】
<エロージョン抑制剤>
本発明の一態様の研磨用組成物は、界面活性剤またはグアニジノ基を有する化合物からなるエロージョン抑制剤をさらに含むことが好ましい。
界面活性剤からなるエロージョン抑制剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤いずれを用いても良いが、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0041】
アニオン系界面活性剤からなるエロージョン抑制剤としては、アルキル硫酸(塩)、アルキルリン酸(塩)、アルキルナフタレンスルホン酸(塩)、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸(塩)、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニル硫酸(塩)、ポリオキシアルキレンアルキルスルホコハク酸(塩)、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルリン酸(塩)、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸(塩)、ポリオキシアルキレンアルキル酢酸(塩)、ポリオキシアルキレンアルキルスルホコハク酸(塩)、アルキルスルホコハク酸(塩)、アルキルナフタレンスルホン酸(塩)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸(塩)等が挙げられる。その中でも、分岐アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C9-17)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、またはポリオキシエチレン(n=45-55)アリルフェニルエーテルホスフェートアミン塩を用いることが好ましい。
【0042】
グアニジノ基を有する化合物からなるエロージョン抑制剤としては、クレアチニン、アルギニン、グリコシアミンが挙げられる。その中でも、クレアチニンまたはアルギニンを用いることが好ましい。
本発明の一態様の研磨用組成物が界面活性剤からなるエロージョン抑制剤を含む場合、その含有率は0.00001質量%以上であることが好ましく、0.00005質量%以上であることがより好ましく、0.0001質量%以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物が界面活性剤からなるエロージョン抑制剤を含む場合、その含有率は0.01質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましい。0.00001質量%未満であるとエロージョン抑制作用が実質的に得られず、0.01質量%を超えるとポリシリコン膜の研磨速度が低下する。
【0043】
本発明の一態様の研磨用組成物がグアニジノ基を有する化合物からなるエロージョン抑制剤を含む場合、その含有率は0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物がグアニジノ基を有する化合物からなるエロージョン抑制剤を含む場合、その含有率は5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。0.001質量%未満であるとエロージョン抑制作用が実質的に得られず、5質量%を超えるとポリシリコン膜の研磨速度が低下する。
【0044】
<その他の添加剤>
本発明の一態様の研磨用組成物は、酸化剤を含まないことが好ましい。
本発明の一態様の研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、キレート剤、増粘剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、界面活性剤(エロージョン抑制剤として含まれるものとは異なるもの)、溶解助剤等の公知の添加剤をさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
<研磨用組成物のpH>
本発明の一態様の研磨用組成物のpHは8以上であることが好ましい。pHが8以上であれば、pHが8未満の場合よりも研磨速度が向上する。このpHは8.5以上であることがより好ましく、9.0以上であることがさらに好ましく、9.5以上であることが特に好ましい。一方、安全性の観点からは、研磨用組成物のpHは、13.0以下であることが好ましく、12.0以下であることがより好ましく、11.5以下であることがさらに好ましい。
すなわち、本発明の一態様の研磨用組成物の好ましいpHの範囲は8.0以上13.0以下であり、より好ましくは8.5以上12.0以下であり、さらに好ましくは9.0以上11.5以下であり、特に好ましくは9.5以上11.5以下である。よって、塩基性化合物の配合量は、上記pHの範囲となるように調整することが好ましい。
【0046】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の一態様の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、シリカ粒子、第一の水溶性高分子、第二の水溶性高分子、塩基性化合物、および必要に応じて他の添加剤を、分散媒である水の中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0047】
<研磨方法>
本発明の一態様の研磨用組成物を用いてケイ素-ケイ素結合を有するケイ素材料からなる膜を含む研磨対象物を研磨する研磨方法について、以下に説明する。
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと、回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0048】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の一態様の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0049】
本発明の一態様の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の一態様の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水等の希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例1】
【0050】
以下、本発明の実施例および比較例について説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。なお、以下に示す実施例では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。また、以下の実施例には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0051】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
平均一次粒子径が90nmのコロイダルシリカを、研磨用組成物の総量に対して1.5質量%の添加量となるように、第一の水溶性高分子として重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンを、研磨用組成物の総量に対して0.00300質量%の添加量となるように、第二の水溶性高分子として重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンを、研磨用組成物の総量に対して0.00300質量%の添加量となるように、分散媒である水に加えて、混合液を得た。
その後、得られた混合液に、アンモニアをpHが10.4となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物において、第一の水溶性高分子の含有率(W1)と第二の水溶性高分子の含有率(W2)との比率(W1/W2)は1である。
研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0052】
(実施例2)
重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンおよび重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、それぞれ0.00200質量%となるようにした。これ以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0053】
(実施例3)
平均一次粒子径が90nmのコロイダルシリカに代えて平均一次粒子径が70nmのコロイダルシリカを用いた。重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンおよび重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、それぞれ0.00025質量%となるようにした。また、アンモニアに代えて水酸化カリウムをpHが10.7となるように添加した。これらの点以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0054】
(実施例4)
重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンに代えて、重量平均分子量が100000であるポリビニルピロリドンを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0055】
(実施例5)
平均一次粒子径が90nmのコロイダルシリカに代えて平均一次粒子径が70nmのコロイダルシリカを用いた。重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00050質量%となるようにした。重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00005質量%となるようにした。比率(W1/W2)は10である。これらの点以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0056】
(実施例6)
平均一次粒子径が90nmのコロイダルシリカに代えて平均一次粒子径が70nmのコロイダルシリカを用いた。重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00005質量%となるようにした。重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00050質量%となるようにした。比率(W1/W2)は1/10である。これらの点以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0057】
(実施例7)
平均一次粒子径が90nmのコロイダルシリカに代えて平均一次粒子径が70nmのコロイダルシリカを用いた。重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00005質量%となるようにした。重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00005質量%となるようにした。比率(W1/W2)は1である。また、アンモニアを、研磨用組成物の総量に対して0.194質量%となる量だけ添加した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.3であった。これらの点以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0058】
(実施例8)
アンモニアに代えて水酸化カリウムを添加した。これらの点以外は実施例7と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.7であった。
【0059】
(実施例9)
平均一次粒子径が70nmのコロイダルシリカを、研磨用組成物の総量に対して1.5質量%の添加量となるように、第一の水溶性高分子として重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンを、研磨用組成物の総量に対して0.00005質量%の添加量となるように、第二の水溶性高分子として重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンを、研磨用組成物の総量に対して0.00005質量%の添加量となるように、エロージョン抑制剤として分岐アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C9-17)を、研磨用組成物の総量に対して0.0005質量%の添加量となるように、分散媒である水に加えて、混合液を得た。
その後、得られた混合液に、水酸化カリウムを研磨用組成物の総量に対して0.194質量%となる量だけ添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.7であった。研磨用組成物において、第一の水溶性高分子の含有率(W1)と第二の水溶性高分子の含有率(W2)との比率(W1/W2)は1である。
【0060】
(実施例10)
エロージョン抑制剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた。この点以外は実施例9と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.7であった。
(実施例11)
エロージョン抑制剤としてポリオキシエチレン(n=45-55)アリルフェニルエーテルホスフェートアミン塩を用いた。この点以外は実施例9と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.7であった。
【0061】
(実施例12)
エロージョン抑制剤としてポリオキシエチレン(n=8)スチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウムを用いた。この点以外は実施例9と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.7であった。
(実施例13)
エロージョン抑制剤としてクレアチニンを、研磨用組成物の総量に対して0.1質量%の添加量となるように加えた。この点以外は実施例9と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.7であった。
(実施例14)
エロージョン抑制剤としてアルギニンを、研磨用組成物の総量に対して0.1質量%の添加量となるように加えた。これらの点以外は実施例9と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHを確認したところ10.8であった。
【0062】
(比較例1)
いずれのポリビニルピロリドンも添加しなかった。アンモニアに代えて水酸化カリウムをpHが10.7となるように添加した。これらの点以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
(比較例2)
いずれのポリビニルピロリドンも添加しなかった。これ以外は実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0063】
(比較例3)
重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.01000質量%となるようにした。また、重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンを添加しなかった。これらの点以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
(比較例4)
重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00250質量%となるようにした。また、重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンを添加しなかった。これらの点以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0064】
(比較例5)
重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンの研磨用組成物の総量に対する添加量を、0.00250質量%となるようにした。また、重量平均分子量が10000であるポリビニルピロリドンを添加しなかった。これらの点以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
(比較例6)
重量平均分子量が40000であるポリビニルピロリドンに代えて重量平均分子量が300000であるポリビニルピロリドンを添加した。これ以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。
【0065】
<研磨速度の測定>
得られた各研磨用組成物を用いて、何もドーピングされていないポリシリコン膜(以下、「Non-Doped poly-Si膜」と称する。)、リンがドーピングされたポリシリコン膜によるパターンを含む膜(以下、「Doped poly-PTW膜」と称する。)、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜に対するCMP研磨を行い、研磨速度を調べた。
【0066】
(研磨速度測定用ウェーハ)
各膜の研磨速度の測定は、以下に示すCMP評価用ウェーハを用いて行った。
Non-Doped poly-Si膜の研磨用:シリコンウェーハの表面に厚さ5,000Åのポリシリコン膜が形成されているブランケットウェーハ(300mm)、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製。
Doped poly-PTW膜の研磨用:854マスクパターン、シリコンウェーハ上に厚さ1000Åの窒化シリコン膜を形成し、深さ800Åのトレンチを掘った後、リンがドーピングされた(リン濃度0.1質量%)厚さ2000ÅのPoly-Si膜を形成して凹凸を埋めたウェーハ(300mm)、株式会社アドバンテック製。
【0067】
シリコン酸化膜の研磨用:シリコンウェーハの表面に厚さ10,000Åのシリコン酸化膜(TEOS膜)が形成されているブランケットウェーハ(300mm)、株式会社アドバンテック製。
窒化シリコン膜の研磨用:シリコンウェーハの表面に厚さ3,500Åの窒化シリコン膜(SiN膜)が形成されているブランケットウェーハ(300mm)、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製。
【0068】
(研磨装置及び研磨条件)
使用した研磨装置および研磨条件は以下の通りとした。
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製、300mm用CMP片面研磨装置 Reflexion LK
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.2psi
研磨定盤回転数:73rpm
キャリア回転数:67rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分
研磨時間:60秒間
研磨前の各膜の膜厚(Å)から研磨後の各膜の膜厚(Å)を引いた値を研磨時間(min)で除算し、得られた算出値を、研磨速度(Removal Rate;RR)とした。
研磨前後の各膜の膜厚(Å)は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA-Tencor)株式会社製 型番:ASET-f5x)によって求めた。
【0069】
<研磨試験>
得られた各研磨用組成物を用いて、シリコンウェーハ上に酸化膜を介してシリコン窒化膜からなるパターンが形成され、その上にポリシリコン膜が形成された研磨対象物をCMP法で研磨して、ポリシリコン膜からなる配線パターンを形成する研磨試験を行った。
図1に示すように、研磨対象物10は、シリコンウェーハ1上に酸化膜2を介してシリコン窒化膜からなるパターン3が形成され、その上にポリシリコン膜4が形成されたものである。シリコン窒化膜からなるパターン3の厚さT1は1000Åであり、線幅H1は10μmもしくは0.25μmであり、間隔H2は10μmもしくは0.25μmである。また、ポリシリコン膜4の厚さT2は2000Åである。
研磨対象物10に対して理想的な研磨が行われた場合、シリコン窒化膜からなるパターン3上にポリシリコン膜4が残存せず、パターン3の上面が全て露出した状態になり、ポリシリコン膜からなる配線パターン41が形成され、隣り合う配線パターン41の間にシリコン窒化膜からなる線状パターン31が存在する状態となる。図2は、この状態を示す平面図である。
【0070】
(研磨装置及び研磨条件)
使用した研磨装置および研磨条件は以下の通りとした。
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製、300mm用CMP片面研磨装置 Reflexion LK
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.2psi
研磨定盤回転数:73rpm
キャリア回転数:67rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分
研磨時間:15秒間
【0071】
(性能評価)
研磨試験後の研磨対象物の表面状態を原子間力顕微鏡(商品名WA-1300、日立建機ファインテック株式会社製)で観察して、削り取られるべきポリシリコン膜4の残存状態を調べるとともに、10μm幅の配線パターン41のディッシング量および0.25μm幅の線状パターン31のエロージョン量を測定した。
削り取られるべきポリシリコン膜4の残存状態については、以下のように評価した。
◎:研磨対象物にポリシリコン膜の残存がない状態(例えば図2の状態)
○:研磨対象物にポリシリコン膜の残存は一部あるが、問題のない状態(例えば図3の状態)
×:研磨対象物にポリシリコン膜の残存が多く問題のある状態(例えば図4の状態)
得られた研磨速度の測定値および研磨試験結果を、各研磨用組成物の構成とともに表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1~4、6、8~10、12~14の各研磨用組成物を用いた研磨の場合、削り取られるべきポリシリコン膜4の残存はなく、図2に示す状態となった(表1に「◎」と表示)。また、配線パターン41のディッシング量は比較例1の173Åより低い161Å以下であり、線状パターン31のエロージョン量は比較例1の132Åより低い88Å以下であった。
【0074】
実施例5、7、11の研磨用組成物を用いた研磨の場合、削り取られるべきポリシリコン膜4の一部は残存しているが、配線パターン41間のシリコン窒化膜からなるパターン31のほとんどは露出している状態(例えば図3の状態)にあり、問題のない状態であった(表1に「○」と表示)。また、配線パターン41のディッシング量は比較例1の173Åより低い157Åであり、線状パターン31のエロージョン量は比較例1の132Åより低い87Å以下であった。
【0075】
比較例1、2、4、5の各研磨用組成物を用いた研磨の場合、削り取られるべきポリシリコン膜4の残存はなく、図2に示す状態となった(表1に「◎」と表示)が、比較例1では、配線パターン41のディッシング量が173Åと高く、線状パターン31のエロージョン量も132Åと高かった。比較例2では、線状パターン31のエロージョン量が133Åと高かった。比較例4では、線状パターン31のエロージョン量が98Åと高かった。比較例5では、線状パターン31のエロージョン量が127Åと高かった。
【0076】
比較例3と比較例6の各研磨用組成物を用いた研磨の場合、削り取られるべきポリシリコン膜4の多くが残存し、例えば図4に示すように、配線パターン41間のシリコン窒化膜からなるパターン31が、配線の長さ方向全体で全く露出しない状態になっている部分も多かった(表1に「×」と表示)。
【0077】
以上の結果から、実施例1~14の研磨用組成物では、削り取られるべきポリシリコン膜が残存することを低減できる効果とともに、ディッシングおよびエロージョンの抑制効果が得られることが分かった。これに対して、比較例1~6の研磨用組成物ではいずれかの効果が得られなかった。また、実施例1~14の研磨用組成物では、ポリシリコン膜の研磨速度は2256~2903Å/minであり、ポリビニルピロリドンを含有しない比較例1、2の研磨用組成物によるポリシリコン膜の研磨速度(2432~2646Å/min)と同等程度であった。
【0078】
また、含まれる塩基性化合物の種類のみが異なる実施例7と実施例8の研磨用組成物を比較すると、水酸化カリウムを含む実施例8の研磨用組成物を用いた研磨の方が、アンモニアを含む実施例7の研磨用組成物を用いた研磨より、削り取られるべきポリシリコン膜4の残存低減効果が高く、配線パターン41のディッシング量および線状パターン31のエロージョン量も少なかった。この結果から、塩基性化合物としては、アンモニアよりも水酸化カリウムを使用する方が好ましいことが分かる。
【0079】
さらに、エロージョン抑制剤を含むか含まないかのみが異なる実施例8と実施例9~14の研磨用組成物とを比較すると、エロージョン抑制剤を含む実施例9~14の研磨用組成物を用いて研磨した方が、エロージョン抑制剤を含まない実施例8の研磨用組成物を用いて研磨した場合よりも、エロージョン量をより一層低減できることが分かる。
【符号の説明】
【0080】
10 研磨対象物
1 シリコンウェーハ
2 酸化膜
3 シリコン窒化膜からなるパターン
4 ポリシリコン膜
41 ポリシリコン膜からなる配線パターン
31 シリコン窒化膜からなる線状パターン
図1
図2
図3
図4