(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】高効率焼結用光熱式色素を用いた積層造形
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20230929BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20230929BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20230929BHJP
B29C 64/194 20170101ALI20230929BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20230929BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20230929BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20230929BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230929BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230929BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/106
B29C64/165
B29C64/194
B29C64/209
B29C64/264
B29C64/321
B33Y10/00
B33Y70/00
C09K3/00 105
(21)【出願番号】P 2020543828
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2019008890
(87)【国際公開番号】W WO2019172320
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-09-10
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】リー,チャン‐ウク
(72)【発明者】
【氏名】ボイドストン,アンドルー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ガンター,マーク エー.
(72)【発明者】
【氏名】ストーティ,デュアン ダブリュ.
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149947(JP,A)
【文献】特表2007-534524(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0059475(US,A1)
【文献】特開2013-208899(JP,A)
【文献】特表2018-502752(JP,A)
【文献】国際公開第2007/000817(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0326790(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00- 64/40
B33Y 10/00- 99/00
B29C 65/00- 65/82
C08J 3/00- 3/28
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元物品の製造方法であって、以下の工程:
(a)ビルドプレート上に光熱色素を含む高性能ポリマー(HPP)組成物を積層する工程;
(b)前記組成物を電磁放射線に曝露して、3次元物品のポリマー層を形成する工程;
及び、
(c)前記(a)~(b)の工程を繰り返して、前記3次元物品の残部を造形する工程;
を含む、製造方法であって、ここで、前記光熱色素は、IR-806、インドシアニングリーン、又は以下の式(1):
【化1】
(式中、R’及びR”は各々独立して、H、アルキル、置換アルキル、アリールアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、カルボン酸、アルコキシ、アリールオキシ、ポリエチレングリコール、アミノ、ジアルキルアミノ、ハロゲン、トリアゾール、アミド、N-アルキルアミド、スルホン、スルホネート、ホスホネート、又はそれらの塩、光学異性体、幾何異性体若しくは互変異性体、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される)
で表される構造である化合物である、製造方法。
【請求項2】
HPP組成物が、溶媒に溶解された第1HPP、及び固体の第2HPPを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1HPPが、ポリケトンを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ポリケトンが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルエーテルケトン(PEKEKK)、又はポリエーテルケトンケトンケトン(PEKKK)を含む、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
第2HPPが、ポリイミド類、ポリケトン類、還元型ポリケトン類、及びポリエーテルスルホン類を含み、かつ、前記溶媒に不溶である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
溶媒がスペアミント油、α-テルピネン、リモネン(limonene)、α-ピネン(pinene)、フェンコン(fenchone)、アルコール、水、水性混合物、及びそれらの組み合わせを含む、請求項2記載の製造方法。
【請求項7】
工程(b)の前に、HPP組成物上に光熱色素がプリントされる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
光熱色素が、以下の式(2):
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は各々、独立して、H、アルキル、置換アルキル、アリールアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、カルボン酸、アルコキシ、アリールオキシ、ポリエチレングリコール、アミノ、ジアルキルアミノ、ハロゲン、トリアゾール、アミド、N-アルキルアミド、スルホン、スルホネート、ホスホネートからなる群から選択されるか、又は、R
1及びR
2はともに、場合によっては置換された5-若しくは6-員環を形成するか、又はR
2及びR
4はともに、場合によっては置換された5-若しくは6-員環、あるいはそれらの塩、光学異性体、幾何異性体若しくは互変異性体を形成する)
の構造を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
光熱色素が、以下の構造
【化3】
を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
電磁放射線は、近赤外領域にある、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
近赤外領域の波長は、800nm~1000nmである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
3次元物品の光熱硬化の方法であって、以下の工程:
組成物及び光熱色素からなる前記3次元物品;及び、
電磁放射線を用いて前記3次元物品を硬化させる工程;
を含む、方法であって、ここで、前記光熱色素は、以下の式(2):
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は各々、独立して、H、アルキル、置換アルキル、アリールアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、カルボン酸、アルコキシ、アリールオキシ、ポリエチレングリコール、アミノ、ジアルキルアミノ、ハロゲン、トリアゾール、アミド、N-アルキルアミド、スルホン、スルホネート、ホスホネートからなる群から選択されるか、又は、R
1及びR
2はともに、場合によっては置換された5-若しくは6-員環を形成するか、又はR
2及びR
4はともに、場合によっては置換された5-若しくは6-員環、あるいはそれらの塩、光学異性体、幾何異性体若しくは互変異性体を形成する)
の構造を有する、方法。
【請求項13】
3次元物品の光熱硬化の方法であって、以下の工程:
組成物及び光熱色素からなる前記3次元物品;及び、
電磁放射線を用いて前記3次元物品を硬化させる工程;
を含む、方法であって、ここで、前記光熱色素は、以下の構造:
【化6】
を有する、方法。
【請求項14】
電磁放射線は、近赤外領域にある、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
近赤外領域の波長は、800nm~1000nmである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
3次元物品が高性能ポリマーを含む、請求項12又は13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高性能ポリマーの組成物、及び当該組成物を用いて3次元物品を作製する方法及び装置が提供される。
【背景技術】
【0002】
3次元(3D)プリントとは、デジタル3Dオブジェクトモデルと材料ディスペンサに基づいて、3Dオブジェクトを造形するプロセスをいう。3Dプリントでは、ディスペンサは、少なくとも2次元で移動し、決定されたプリントパターンに従って材料を分配する。3Dオブジェクトを構築するには、プリントされるオブジェクトを保持するプラットフォームを調整して、ディスペンサを多層の材料に適用させて、一度に一層ずつ、多数の層の材料をプリントすることができる。
【0003】
従来の3Dプリントプロセスは、UVインクジェット法である。これは、材料を塗布する工程、紫外線硬化性の液体をプリントする工程、最後に紫外線源を用いて硬化する工程の3段階プロセスである。当該工程は各層で繰り返される。従来の3Dプリントでは、一般に、インクジェットタイプのプリントヘッドは、粉末状のビルド層の材料に液体又はコロイド状のバインダ材料を送達する。プリント技術には、粉末状ビルド材料の層を、通常はローラーを用いて表面に塗布することが含まれる。当該ビルド材料が表面に塗布された後、プリントヘッドは、当該液体バインダを材料の層の所定の領域に送達する。当該バインダは、材料に浸透し、粉末と反応して、例えば、粉末中の接着剤を活性化することによって、プリントされた領域で層を凝固させる。当該バインダはまた、下層に浸透し、層間結合を生成する。第1断面部分が造形された後、上記ステップが繰り返され、最終オブジェクトが造形されるまで、連続的な断面部分が造形される。
【0004】
最も古く、最もよく知られているレーザー系3Dプリントプロセスは、ステレオリソグラフィー(SLA)である。当該プロセスでは、放射線硬化性ポリマーの液体組成物を、レーザーを用いて各層ごとに硬化させる。同様のプロセスは選択的レーザー焼結(SLS)であり、熱可塑性又は焼結可能な金属をレーザーによって選択的に各層ごとに焼結して、3Dオブジェクトを造形する。
【0005】
3次元オブジェクトの製造用の公知の熱溶解積層(FDM)プロセスの一つは、押出系デジタル製造システムを用いる。また、これとはわずかな相違がある他の公知のプロセス、例えば、熱溶解フィラメント製造、溶融押出製造、又は選択的積層法がある。
【0006】
FDM法では、2つの異なるポリマーフィラメントをノズル内で溶融し、選択的にプリントする。材料の1つは支持体材料を含み、これは、3Dオブジェクトの突出部分がプリントされる位置の上の位置でのみ必要であり、かつ、その後のプリント手順の間に支持が必要となる。当該支持体材料は、その後、例えば、酸、塩基又は水に溶解させて除去することができる。他の材料(ビルド材料)は、実際の3Dオブジェクトを造形する。ここでもまた、プリントは、一般に、層ごとに達成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高性能ポリマー(HPP)等のポリマーから構成される3次元物品を製造するための組成物、方法、方法及びシステムが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、3次元物品の光熱硬化方法が提供される。開示された方法は、組成物及び光熱色素からなる3次元物品を含み、電磁エネルギーを用いて前記物品を硬化させる。
【0009】
他の態様では、開示された方法は、3次元物品を製造する方法であって、高性能ポリマー(HPP)組成物をビルドプレート上に積層する工程、前記HPP組成物を電磁放射線に曝露して前記3次元物品のポリマー層を形成する工程、及び前記工程を繰り返して、3次元物品の残部を造形する工程、を含む方法である。
【0010】
本明細書に記載されるこれらの態様及び他の態様は、以下の詳細な説明を参照すれば明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1A~1Dは、本明細書に開示される、3次元物品層を層ごとにプリントする方法を示す図である。
図1Aでは、ローラー5は、粉末ベッドリザーバ2から粉末ベッド1へ粉末として高性能ポリマー(HPP)を積層する。ビルドプレート3は、必要に応じて上下方向に移動することができる。ヘッド4は、粉末ベッド1上にHPP組成物をプリントする。
【
図1B】
図1A~1Dは、本明細書に開示される、3次元物品層を層ごとにプリントする方法を示す図である。
図1Bは、パターン化される単一層を示す。
【
図1C】
図1A~1Dは、本明細書に開示される、3次元物品層を層ごとにプリントする方法を示す図である。
図1Cでは、ローラー5は、粉末ベッドリザーバ2から粉末ベッド1へHPPを積層する。
【
図1D】
図1A~1Dは、本明細書に開示される、3次元物品層を層ごとにプリントする方法を示す図である。
図1Dは、HPPが新しい粉末ベッド層を形成し、かつ、当該プロセスを繰り返して3次元物品層を層ごとにプリントすることができることを示す。
【
図2A】
図2A~2Dは、粉末PEEK及びBPA-PEEK溶液のペーストを成形することによって、長方形の3D造形物を調製する手順を示す。
図2Aは当該ペーストを示す。
【
図2B】
図2A~2Dは、粉末PEEK及びBPA-PEEK溶液のペーストを成形することによって、長方形の3D造形物を調製する手順を示す。
図2Bは、長方形の金型に配置された当該ペーストを示す。
【
図2C】
図2A~2Dは、粉末PEEK及びBPA-PEEK溶液のペーストを成形することによって、長方形の3D造形物を調製する手順を示す。
図2Cは、金型から取り出した後の、3D長方形の製品を示す。
【
図2D】
図2A~2Dは、粉末PEEK及びBPA-PEEK溶液のペーストを成形することによって、長方形の3D造形物を調製する手順を示す。
図2Dは、硬化後の3D長方形製品を示す。
【
図3A】
図3A-3Bは、各浸漬及び焼き付けサイクル後の3次元造形物の動的機械分析(DMA)を示す図である。
図3Aは、E’値は、最初の浸漬及び焼き付けサイクル後に変化するものの、さらなる浸漬及び焼き付けサイクル後には変化しないことを示す。
【
図3B】
図3A-3Bは、各浸漬及び焼き付けサイクル後の3次元造形物の動的機械分析(DMA)を示す図である。
図3Bは、浸漬及び焼き付けサイクルがガラス転移温度(Tg)を変化させないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
I.定義
【0013】
別段の定めがない限り、明細書及び特許請求の範囲を含め、本出願で用いられる以下の用語の定義を以下に与える。本明細書及び添付の特許請求の範囲(原文)で用いられる、単数形の「a」、「an」及び「the」には、文脈上明確な指示がない限り、指示対象の複数形も含まれることに留意されたい。
【0014】
用語「アルキル」は、別段の定めがない限り、炭素原子が1~12個ある、炭素原子及び水素原子のみからなる、一価の分枝状又は非分枝状の飽和炭化水素基を意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、オクチル、ドデシル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
本明細書で用いられる用語「アルキレン」は、別段の定めがない限り、炭素原子が1~8個ある、炭素原子及び水素原子のみからなる、二価の直鎖状又は分枝鎖状の飽和炭化水素基を意味する。アルキレン基の例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、エチルエチレン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
用語「アルケニレン」とは、別段の定めがない限り、少なくとも1つの二重結合を含み、炭素原子が2~8個ある、二価の直鎖状又は分枝鎖状の不飽和炭化水素基を意味する。アルケニレン基には、不斉炭素によって生成した、シス又はトランス((E)又は(Z))異性体基又はそれらの混合物が含まれる。アルケニレン基の例としては、エチニレン、2-プロペニレン、1-プロペニレン、2-ブテニル、2-ペンテニレン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
用語「アリール」は、少なくとも1つの環が本質的に芳香族であり、1又はそれ以上の縮合環からなる、一価の単環芳香族炭化水素基を意味し、別段の定めがない限り、場合によっては、ヒドロキシ、シアノ、低級アルキル、低級アルコキシ、チオアルキル、ハロゲン、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、ニトロ、アルコキシカルボニル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アミノカルボニル、カルボニルアミノ、アミノスルホニル、スルホニルアミノ、及び/又はトリフルオロメチルで置換されることができる。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル、インダニル、アントラキノリル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書中で用いられる用語「アリールアルキル」は、置換基として芳香族基があるアルキル基を意図する。さらに、アリールアルキル基は、場合によっては、置換されてよい。
【0019】
本明細書中で用いられる用語「ヘテロアリール」は、1~5個のヘテロ原子を含んでよい、単環のヘテロ芳香族基を意図する。用語「ヘテロアリール」はまた、2つの原子が隣接する2つの環(当該環は「縮合」である)に共通する、環が2又はそれ以上ある多環のヘテロ芳香族系を含み、ここで、環の少なくとも1つはヘテロアリールであり、例えば、他の環は、シクロアルキル類、シクロアルケニル類、アリール、ヘテロ環類、及び/又はヘテロアリール類であることができる。好ましいヘテロアリール基は、炭素原子を3~30個、好ましくは3~20個、より好ましくは3~12個、含む。好ましいヘテロアリール基としては、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾセレノフェン、フラン、チオフェン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾセレノフェン、カルバゾール、インドロカルバゾール、ピリジルインドール、ピロロジピリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、オキサトリアゾール、ジオキサゾール、チアジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、オキサジン、オキサチアジン、オキサジアジン、インドール、ベンズイミダゾール、インダゾール、インドキサジン、ベンズオキサゾール、ベンズイソオキサゾール、ベンズオチアゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、フタラジン、プテリジン、キサンテン、アクリジン、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、ベンズオフロピリジン、フロジピリジン、ベンズオチエノピリジン、チエノジピリジン、ベンゾセレノフェノピリジン、及びセレノフェノジピリジン、好ましくはジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾセレノフェン、カルバゾール、インドロカルバゾール、イミダゾール、ピリジン、トリアジン、ベンズイミダゾール、1,2-アザボリン、1,4-アザボリン、ボラジン、及びそれらのアザ類似体が挙げられる。さらに、ヘテロアリール基は、場合によっては、置換されてよい。
【0020】
本明細書で用いられる用語「ビルドプレート」は、ガラス、金属、セラミック、プラスチック、ポリマー等の材料から作られた固体表面をいう。
【0021】
本明細書中で用いられる用語「ハロゲン」は、フルオロ、ブロモ、クロロ及び/又はヨードをいう。
【0022】
[0022]用語「場合によっては」は、後に記載される事象又は状況が発生し得るか又は発生しない場合を意味し、当該記載は、当該事象又は状況が発生する場合及び発生しない場合を含む。
【0023】
用語「光熱色素」は、光エネルギーを熱エネルギーに変換するように構成された小分子をいう。当該光熱色素は、光を吸収し、吸収された光の少なくとも一部を熱に変換する。
【0024】
本明細書中で用いられる用語「ポリエチレングリコール」又は「PEG」は、いかなる水溶性ポリ(エチレンオキシド)をも包含することを意味する。通常、本明細書で用いるPEGオリゴマーは、-(CH2CH2O)n-又は(CH2CH2O)n-CH2CH2-であることができ、ここで、nは約2~50、好ましくは約2~約30であることができる。
【0025】
本明細書で引用した刊行物、特許及び特許出願の全ては、上記又は下記で、参照によりその全体が本明細書で援用される。
【0026】
II.概要
【0027】
開示されるのは、高性能ポリマー(HPP)の焼結に光熱色素を用いることに基づき、高性能ポリマー(HPP)を用いて、添加剤を製造する方法、及び3次元プリンタを用いるポリマー製物品の積層造形方法である。開示された方法には、より良好な機械的特性、より良好な熱的特性等を備える3次元物品を迅速にプリントできるという利点がある。開示された方法は、他の技術方法よりもフレキシブルであり、導電性ワイヤ等の他の周囲に3次元物品を形成して、回路を作成することができる。さらに、製造された物品は、Kapton(r)ポリマー、ポリケトンポリマー、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルスルホンポリマー等の当該物品の最終ポリマーに適合する分子構造的特徴及び物理的性質を備える。
【0028】
一つの用途では、溶解性ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマーを、トルエン、カルボン(carvone)、THF、スペアミント油、α-テルピネン(terpinene)、リモネン、α-ピネン(pinen)、フェンコン(fenchone)、ベンゼン及びこれらの組合せ等の有機溶媒に溶解することができる。。場合によっては、当該溶液は、PEEK又はいかなる他のポリマー等のHPPの不溶性粒子(直径10~50ミクロン)を結合させるのに用いることができる。得られた混合物は、成形又は押出しすることができるペーストを形成することができる。好ましくは、近赤外で吸収が最大になる光熱色素は、溶媒に溶解することができる。当該光熱色素の溶液は、不溶性HPP粉末粒子のベッド、又は成形体にインクジェットでプリントし、電磁放射線に曝露して局部加熱を誘発し、HPP系3次元物品が積層造形される。最終プリント物品は、焼結等で硬化させて、最終造形物がもたらされる。このようにして得られた最終造形物は、グリーン本体プリントと比較して、機械的強度、引張弾性率、及び弾性係数が増加した。他の用途では、光熱色素を粉末形成材料全体に塗布し、電磁放射線のパターン化された塗布によって3Dプリントを行うことができる。
【0029】
III.ポリマー
【0030】
3次元形状は、1又はそれ以上の材料から作製することができる。ある実施形態では、3次元形状は、ポリマーを含むことができる。いかなるタイプのポリマーを用いても、3次元形状を形成することができ、かつ、当該ポリマーは、3次元形状が所望の特性を備えるように選択することができる。従って、当該ポリマーは、ポリイミド類、ポリケトン類、還元型ポリケトン類、ポリエーテルスルホン類等であることができる。
ポリケトンポリマー
【0031】
一態様では、3次元形状は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルエーテルケトン(PEKEKK)、又はポリエーテルケトンケトンケトン(PEKKK)等のポリケトンである最終ポリマーから作製することができる。ポリケトンポリマーがPEEKである場合、通常、以下:
【化1】
に示すように、少なくとも1つの芳香族ジヒドロキシ化合物及び少なくとも1つのジハロベンゾイド化合物又は少なくとも1つのハロフェノール化合物の、実質的に等モルの混合物を反応させることによって得ることができる。
【0032】
当該方法において有用な芳香族ジヒドロキシ化合物の非限定的な例は、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル及び4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンである。例示的な適当な芳香族ジヒドロキシ化合物として、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、1,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルメタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1,1-ジメチルプロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2-(4’-ヒドロキシフェニル)-2-(3’’-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-2-メチルペンタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、4,4-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ノナン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-エチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-n-プロピル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-イソプロピル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-sec-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-アリル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-メトキシ-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’、5’-ジメチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(2’,3’,5’,6’-テトラメチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-クロロ-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’,5’-ジクロロ)-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3’-ブロモ-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(2’,6’-ジブロモ-3’,5’-ジメチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シアノメタン、3,3-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-シアノブタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカンがあげられる。
【0033】
当該方法において有用なジハロベンゾイド化合物の非限定的な例は、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4-クロロ-4’-フルオロベンゾフェノン等であり;当該方法において有用なハロフェノール化合物の非限定的な例は、4-(4-クロロベンゾイル)フェノール及び(4-フルオロベンゾイル)フェノールである。従って、PEEKポリマーは、求核プロセス又は出発物質を求電子的に重合させて製造することができる。他のポリ(アリールエーテルケトン)は、他のモノマーから出発して製造することができる。ポリケトンポリマーがPAEK、PEK、PEKK、PEEEK、PEEKK、PEKEK、又はPEKKKである場合、それらは公知の方法を用いて合成することができる。あるいはまた、同等に、市販のPEEK、PAEK、PEK、PEKK、PEEEK、PEEKK、PEKEKK、又はPEKKKポリマーを用いることができる。
【0034】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、光開始チオール-エン重合に関与しうる、1若しくはそれ以上のアルケン基、1若しくはそれ以上のチオール基、又は1若しくはそれ以上のエポキシド基を含むことができる。以下に例示的な構造:
【化2】
を示す。
1又はそれ以上のアルケン官能基がある全ての化合物は、本明細書に記載された教示に適合して機能することが理解されるべきである。しかしながら、一般に、ポリアルケン又はアルケン化合物には、少なくとも2つのアルケン基があることが好ましい。アルケン基は、アリル類、アリルエーテル類、ビニルエーテル類、アクリレート類により提供されてよい。例えば、オレフィン部分は、アリル類、アリルエーテル類、ビニル、ビニルエーテル、アセチル、アクリレート、メタクリレート、マレイミド、ノルボルネン、若しくは炭素-炭素二重結合を含む他のモノマー、又はそれらの組み合わせ等の、いかなる適当なエチレン性不飽和基から選択することができる。例えば、当該モノマーは、2,2’-ジアリルビスフェノール-A、O,O’-ジアリルビスフェノールA、3,3’-ジアリルビスフェノールA、及びビスフェノールAビスアリルカーボネートであることができる。他のアリルモノマーとしては、ジアリルフタレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及びジアリルジフェネートが挙げられる。
【0035】
ポリケトンポリマーは、以下の:
【化3】
に示すような、アルケン基がある少なくとも1つのモノマー、少なくとも1つの芳香族ジヒドロキシ化合物及び少なくとも1つのジハロベンゾイド化合物又は少なくとも1つのハロフェノール化合物の混合物を反応させて得ることができる。
当該3つのモノマーは、モノマーのブロックとして交互に配列してもよく、ランダムに配列してもよく、かつ、いかなる比率であることができる。好ましくは、当該ケトンモノマーは反応混合物の約50%である。すなわち、当該反応混合物は、ジヒドロキシ化合物及びジハロ安息香化合物が実質的に等モルである混合物を含有することができる。従って、アルケン基があるモノマーの、芳香族ジヒドロキシモノマーに対する比率は、100:0、95:5、90:10、75:25、50:50、25:75、10:90、5:95、0:100、又はその間のいかなる他の比率であることができる。
【0036】
HPPは、ポリケトンポリマーのケタールであることができ、ここで、1又はそれ以上のカルボニル基(>C=O)は、ジエーテル(>C(OR)
2)に変換されることができ、ここで、Rは各々、独立して、アルキル、アルキレン、アルケニレン、アリール、又はそれらの組み合わせとして選択されることができる。当該ケタールは、カルボニル基と、例えば、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコール、又はそれらの組合せ等のアルコールとの反応により製造することができる。当該ケタールは、非環状、環状、又はスピロ環状ケタールであることができる。HPPはまた、ポリケトンポリマーのチオケタール、ジチオケタール、又はヘミケタールであってよい。当該ケタール、ヘミケタール、チオケタール又はジチオケタールは、ジハロ安息香化合物をアルコール又はチオールと、以下に示す反応:
【化4】
(式中、Xは、酸素又は硫黄等のヘテロ原子でありうる)
によって得ることができる。
適当な単官能性アルコールの例としては、メタノール;エタノール;プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、セチルアルコール、及びステアリルアルコールの様々な直鎖及び分枝鎖異性体;シクロヘキサノール、シクロオクタノール、ノルボルニルアルコール等のシクロアルキルアルコール;エチニルアルコール、3-メチルペンタノール-1-yn-3-オール、テトラデカ-9-イノール等のアルキニルアルコール;フェノール、ベンジルアルコール、トルオール、キシリルアルコール、5-フェニルペンタノール等のアリール及びアルカリアルコール;及び、1,1,1-トリクロロ-2-メチル-2-プロパノール、5-フルオロ-1-ペンタノール、5-アミノ-1-ペンタノール、5-ベンジルオキシ-1-ペンタノール、5-メトキシ-1-ペンタノール、3-ニトロ-2-ペンタノール、4-メチルチオ-1-ブタノール、6-ヒドロキシヘキサン酸、ラクタミド等の様々な官能基があるアルコールが挙げられる。ある実施形態では、当該ケタールは、ポリオールとカルボニル部分との反応によって形成される環状ケタールによって形成され得る。適当なポリオールの例としては、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2,3-プロパントリオール(グリセロール)、ジグリセロール(第一級及び第二級ヒドロキシル部分でカップリングされたグリセロール二量体の混合物)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオフェニルグリコール)、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール(チオグリセロール)、ジチオスレイトール、1,1,1-トリメチロールプロパン、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ペンタエリトリトール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、1,4-ジオキサン-2,3-ジオール等が挙げられる。
【0037】
その後、ポリケトンのケタール、ヘミケタール、チオケタール又はジチオケタールを、HPPとして用いて、最終ポリマーを作製するための重合反応を行うことができる。あるいは、最初にポリマーを得た後、少なくとも1つのカルボニル基を、ケタール、ヘミケタール、チオケタール又はジチオケタールに変換してHPPを得ることができる。
【0038】
HPPがPEEKのケタールである場合、ケトン部分のカルボニル基は、水、酸性溶液、熱、光、塩基触媒、接触水素化、又はそれらの組み合わせを用いる加水分解によって容易に再生することができる。例えば、PEEKのケタールは、ブレンステッド酸又はルイス酸系の試薬で刺激して、最終ポリケトンポリマーに変換することができる。したがって、例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、酢酸、硫酸、アリールスルホン酸、及びp-トルエンスルホン酸一水和物、リン酸又はオルトリン酸等のそれらの水和物、ポリリン酸、スルファミン酸の希釈溶液を刺激物質として用いることができる。他の実施形態では、用いられる酸触媒は非プロトン性であり、ルイス酸ともいう。当該ルイス酸触媒としては、例えば、四塩化チタン、三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化スズ等が挙げられる。いくつかの実施形態では、2種類以上の酸触媒が用いられるが、それはすなわち、1又はそれ以上の上記酸をブレンドして、混合物中で反応を触媒するのに用いられうる。
【0039】
ポリケトンポリマーの分子量は、3次元物品の強度が高く、非脆性であるような分子量でありえる。当該ポリケトンの平均分子量は、好ましくは1,000~400,000、より好ましくは10,000~350,000、さらにより好ましくは15,000~100,000である。すなわち、当該ポリケトンの平均分子量は、約5,000、7,000、10,000、15,000、17,000、19,000、20,000、22,000、23,000、24,000、25,000等であることができる。
【0040】
他の態様では、ポリケトンの分子量(ダルトンで表す)分布は、約500~約20,000、好ましくは約1,000~約10,000、より好ましくは約3,000~約7,000の範囲である。従って、当該ポリケトンの分子量分布は、約3,000~約5,000、約10,000~約13,000、約15,000~約18,000、約23,000~約27,000等であることができる。
【0041】
ポリケトンHPPは、当業界で公知の、熱、光、電気分解、金属触媒、又は化学的酸化剤等の刺激にポリケトンを曝露することによって、最終ポリケトンポリマーに変換することができる。光は、紫外線、赤外線、可視光線、又はそれらの組み合わせであり得る。光源としては、当業界で公知である、低圧、中圧又は高圧の水銀ランプ、及びメタルハライドランプ、キセノンランプ、陰極管、LED等が挙げられる。1の実施形態では、光は、中性条件下、場合によっては、例えばヨウ素、インジウム(III)トリフルオロメタンスルホネート又はテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、ルイス酸触媒等の触媒存在下で適用することができる。
【0042】
一態様では、3次元物品は、ポリイミドポリマーである最終ポリマーから造形される。当該ポリイミドポリマーは、その特性、例えば、高密着性、高強度、機械的特性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などに基づいて選択することができる。当該ポリイミドポリマーは、当業界で公知の方法を用いて、ポリ(アミド酸)のイミド化によって製造することができる。従って、例えば、ポリ(アミド酸)は、熱又は化学的イミド化反応物である刺激に曝され得る。あるいは、同等に、市販のポリイミドポリマーを用いることができる。
【0043】
他の態様では、3次元オブジェクトは、ポリスルホンポリマーである最終ポリマーから造形することができる。本明細書で用いられるポリスルホンは、サブユニット-アリール-SO
2-アリール-、より具体的には以下の:
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4が独立してアルキル、アルキレン、アリール、ハロゲンから選択される)
で表される、-アリール-SO
2-アリール-O-を含有するポリマーのファミリーをいう。
芳香族ポリエーテルスルホンは、溶媒中で、例えば、ジフェノールのジアルカリ金属塩とジハロジアリールスルホンとの反応によって製造することができる。ジフェノールのジアルカリ塩はまた、その場で製造することもでき、あるいは他の反応で製造することもできる。ジフェノール類は、上記又は当業界で公知であればいずれでもよい。ポリスルホン類は、一般にポリスルホンとして知られる4-[2-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン2-イル]フェノールと4-(4-ヒドロキシフェニル)スルホニルフェノールとのポリマー、及び一般にポリエーテルスルホンとして知られるベンゼン-1,4-ジオールと4-(4-ヒドロキシフェニル)スルホニルフェノールとのポリマーを含む。ポリエーテルスルホン(PES)は、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)及び/又はポリフェニルスルホン(PPSU)としても知られている。他の適当なポリスルホンは、ポリフェニルスルホンとしても知られている4-(4-ヒドロキシフェニル)フェノールと4-(4-ヒドロキシフェニル)スルホニルフェノールとのコポリマーである。
【0044】
ポリエーテルスルホンは、様々な方法によって製造することができる。ポリアリールエーテル類、特にポリアリールエーテルスルホン類の製造方法、改良多分散性及び低量のオリゴマーがあるポリアリールエーテルスルホン類の製造方法、並びに4,4’-ビフェノール、ビスフェノール-A(4,4’-イソプロピリデンジフェノール)及び4,4’-ジクロロジフェニルスルホンから誘導される構造単位を含むポリエーテルスルホン類の製造方法が公知である。従って、ポリスルホンポリマーは、公知の方法を用いて合成することができる。あるいは、同等に、市販のポリスルホンポリマーを用いることができる。
【0045】
IV.固体高性能ポリマー
溶媒を除去して、固体としての高性能ポリマー(HPP)の固体粉末を得ることができる。HPPをさらに処理して、所望の粒子サイズ分布又は粒子形状を有する粉末を得ることができる。例えば、モルタル及び乳棒、粉砕、超音波エネルギーの適用等の機械的装置を利用して、噴霧乾燥によって、又は制限通路内を高速で流れる液体中で粒子を剪断することによって、固体HPPの粒子サイズを小さくすることができる。例えば、固体HPPは、モルタルを用いて砕き、粉末化し、微粉化することができ、又はナノ化して、所望の平均粒子サイズのHPP粉末を得ることができる。従って、固体HPPを粉砕して、平均粒子サイズが、約5ミクロン~約250ミクロン、又は約10ミクロン~約100ミクロン等のポリ(アミド酸)粉末等を提供することができる。従って、HPP粉末の平均粒子サイズは、約5ミクロン~約25ミクロン、約20ミクロン~約60ミクロン、約10ミクロン~約20ミクロン、約20ミクロン~約30ミクロン、約40ミクロン~約50ミクロン、又は約25ミクロン~約50ミクロンであることができる。
【0046】
本明細書に記載された組成物では、平均粒子サイズが10nm~10ミクロンのHPP粉末が有用である。いくつかの態様では、粒子は、直径が、約1nm~約1000nm、約10nm~約200nm、及び約50nm~約150nmであるナノ粒子であり得る。他の態様では、粒子の大きさの範囲は、約500nm~約600nmであることができる。
【0047】
粒子はいかなる形状であることができるが、一般に球形である。適当な粒子は、球体、球体、平坦な板状の管、立方体、立方体、楕円体、楕円体、円筒体、円錐体、又はピラミッド形であり得る。粒子の形状はまた、ランダム又は不明瞭であってもよく、又はアモルファスであってもよい。
【0048】
粉末を形成するために用いられる方法は、好ましくは、粒子の単分散分布を生成する。しかしながら、多分散粒子サイズ分布を生成する方法を用いることができる。サイズ分布が単分散である粒子を生成しない方法の場合、粒子形成後に粒子を分離して、所望のサイズ範囲及び分布である複数の粒子を生成することができる。あるいは、同等に、市販のHPPを開示された方法で用いることができる。
【0049】
V.HPP組成物
HPP組成物は、溶媒に溶解した第1HPPと、溶媒に不溶で、最初は固体材料として存在する第2HPPとを含む。第1HPP及び第2HPPは、同一の又は異なるポリマーであってよく、ポリイミド、ポリケトン、還元型ポリケトン、ポリエーテルスルホン、又はそれらの組み合わせであってよい。
【0050】
ポリケトンポリマー又は他の高性能ポリマーは、溶媒に溶解することができる。開示された方法を実施する際に用いられる溶媒は、好ましくは、極性であり、沸点が高くてよく、かつ、HPPが可溶性であっても、最終ポリマーが不溶性であるか、又は、より溶解度が低い不活性有機溶媒である。用いられる溶媒の例としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及びN-メチルカプロラクタム等の分子に窒素原子がある溶媒;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、及びヘキサメチルスルホルアミド、テトラメチレンスルホン等の分子中に硫黄原子がある溶媒;クレゾール、フェノール、及びキシレノール等のフェノール類の溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、及びテトラグリム等の分子中に酸素原子がある溶媒;;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、i-プロピルベンゼン、1-クロロベンゼン、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、t-ブチルベンゼン、n-ブチルベンゼン、i-ブチルベンゼン、s-ブチルベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、1,3-ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、1,2-ジフルオロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、3-メチルアニソール、3-クロロアニソール、3-フェノキシトルエン、ジフェニルエーテル、アニソール、及びそれらの混合物等の芳香族溶剤、並びにアセトン、ジメチルイミダゾリン、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ピリジン、及びテトラメチル尿素等のその他の溶媒が挙げられる。さらに、R3O-(CH2)nC(O)NR1R2等のアミド系溶媒を用いることができ、ここで、R1、R2、及びR3は、独立して、H、又は、メチル(Me)、エチル(Et)、n-プロピル(n-Pr)、イソ-プロピル(i-Pr)、n-ブチル(n-Bu)、s-ブチル(s-Bu)、tert-ブチル(t-Bu)等の低級アルキルから、選択することができる。これらは、2つ以上の組み合わせで用いてよい。一態様では、当該溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0051】
溶媒は、スペアミント油、フェンコンであることができ、また、テルペン、例えば、メントール、リモネン、d-リモネン、リモネンオキシド、ゲラニオール、α-ピネン、α-ピネンオキシド、チモール、メントン(menthone)、ネオメントール、3-カレン、l-カルボール、カルボン、カルベオール、1,8-シネオール(ユーカリプトール)、シトラール、ジヒドロカルベオール、ジヒドロカルボン、4-テルピネノール、フェントン、プレゴン、プレゴール、イソプレゴール、ピペリトン、カンフル、?-テルピネオール、テルピネン-4-オール、リナロール、カルバクロール、トランスアネトール、アスカリドール、サフロール、それらのラセミ混合物、それらの異性体、及びそれらの混合物等などであり得るが、これらに限定されない。従って、当該溶媒は、テルペン炭化水素(例えば、オシメン、ミルセン)、テルペンアルコール類(例えば、ゲラニオール、リナロール、シトロネロール)又はテルペンアルデヒド及びケトン類(例えば、シトラール、プソイオノン、β-イオノン)等の非環式テルペンであり得る。当該溶媒は、テルペン炭化水素類(例えば、テルピネン、α-テルピネン、テルピノレン、リモネン)、テルペンアルコール類(例えば、テルピネオール、チモール、メントール)、又はテルペンケトン類(例えば、プレゴン、カルボン)等の単環テルペンであり得る。溶媒は、テルペン炭化水素類(例えば、カラン、ピナン、ボルナン)、テルペンアルコール類(例えば、ボルネオール、イソボルネオール)、又はテルペンケトン類(例えば、カンフル)等の二環テルペンであり得る。
【0052】
溶媒は、アルロシメン、アルロシメンアルコール類、アネトール、アニサルデイド、カンフェン、カンファー、10-カンフォルスルホン酸、3-カレン、シトラール、シントロネラール、シトロネロール、p-シメン、ジペンテン(p-メタ-1,8-ジエン)、ゲラニオール、7-ヒドロキシジヒドロシトロネラール、7-メトキシジヒドロシトロネラール、イソボルネオール、酢酸イソボルニル、p-メンタン-8-オール、p-メンタン-8-イルアセテート、メントール、メントン、ノポール、オシメン、ジヒドロミセノール、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、ピナン、2-ピナンヒドロペルオキシド、パインオイル、α-ピネン、β2-ピネン、2-ピナノール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピン水和物、酢酸α-テルピニル及びこれらの混合物であり得る。
【0053】
溶媒は、水又は水の混合物等の水性溶媒、及び有機溶媒、酸、塩基、アルコール等であってもよい。
【0054】
HPPは、有機溶媒又は水性溶媒等の溶媒に溶解することができる。有機溶媒は、NMP、DMF、DMAc、テルペン、トルエン、スペアミント油、フェンコン、又は上記で詳細に記載された他のいずれかを、単独で又は2又はそれ以上の溶媒の混合物として用いられうる。当該HPPは、1%溶液、2%溶液、3%溶液、4%溶液、5%溶液、6%溶液、7%溶液、8%溶液、9%溶液、10%溶液、15%溶液、20%溶液、25%溶液、30%溶液、35%溶液、40%溶液、45%溶液、50%溶液等を提供するように溶解することができる。
【0055】
溶解したHPPの溶液を用いて、ポリマー又はHPPの不溶性粒子を結合させることができる。一態様では、溶解したHPPの溶液に、固体として存在するが、溶媒に可溶性である第2HPPを添加する。得られた混合物は、ペーストが得られるような条件にすることができる。当該ペーストは成形又は押出されて、再構成不能な設計から鋳造されたHPPからオブジェクトを造形することができる。
【0056】
ポリマー又はHPPの不溶性粒子の平均粒子サイズは、例えば、約5ミクロン~約250ミクロン、又は約10ミクロン~約100ミクロン等である等、上記で詳細に記載されたいかなる所望の粒子サイズであることができる。材料の正確な粒子サイズは、一般に重要ではない。しかしながら、特定の態様では、材料の粒度が重要である場合がある。特に、材料の粒子サイズは、プリント装置のタイプが比較的小さな粒子サイズ又はより大きな粒子サイズのいずれかが望ましいことを指示するような態様において重要であり得る。例えば、粒子サイズは、成形又は押出プロセス中の材料の流れをより容易にするために重要であり得る。
【0057】
他の態様では、ポリマー又はHPPの不溶性粒子の粒子サイズを選択して、3D造形物の所望の特性を得ることができる。例えば、粒子サイズを選択して、3D造形物のより優れた形状保持、より高い凝集性、より高い強度、より高い機械的又は構造的完全性等を提供することができる。当該態様では、不溶性粒子の粒子サイズは、有利には、5ミクロン、10ミクロン、20ミクロン等、より小さくすることができる。この態様では、特定の理論に拘束されることを望まないが、粒子のサイズが小さければ、強度等がより高く、機械的特性に優れた3D造形物を提供すると考えられる。
【0058】
当業者が理解するように、ポリマー又はHPPの不溶性粒子の粒径と3D造形物の測定された特性との間に相関を創出することができる。測定された特性の例としては、ガラス転移温度、分解温度、ヤング率、弾性貯蔵率等が挙げられるが、これらに限定されない。この方法は、ポリマーの平均粒径と3D造形物の測定された機械的性質を入力とする。その後、当該相関を用いて、所定の機械的特性がある3D造形物を造形することができる3Dプリント方法で用いる粒子サイズを選択することができる。
【0059】
他の態様では、溶解したHPPの溶液に不溶性HPPの粒子を添加し、得られた混合物を粘性溶液が得られるような条件にすることができる。組成物の粘度は、典型的には、約0.1センチポアズ(cp)~約100cp、好ましくは約1cp~約50cpであり得る。HPP組成物の粘度は、多少の溶媒の添加、HPP溶液の濃度の選択、又は当業界で公知のいかなる他の手段によって調整することができる。組成物の粘度は、組成物が押出し装置を通って押出し温度で流れる程度である。
【0060】
VI.成形
3次元オブジェクトは、成形プロセスによって形成することができる。従って、成形及び乾燥工程は、適当な形状又は断面のキャビティ内にHPP組成物を鋳造又は成形する操作を含むことができる。用語「成形」は、その最も広い意味で用いられるべきであり、例えば、開放金型での鋳造、金型を介した押出及び押出物の切断、射出成形(射出圧縮成形、ガス支援射出成形及びインサート成形等)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形等のあらゆる種類のコンホメーションを包含する。
【0061】
HPP組成物は、金型又は押出成形に配置でき、所望の形状の3D物品を造形することができる。場合によっては、熱又は光等の刺激を印加することができる。
【0062】
VII.光熱色素
一態様では、粉末層に光熱色素を塗布して焼結を行うことができ、ここで、電磁エネルギーを適用すると、粉末粒子の光熱変換及び焼結が非常に効率的に行われる。当該光熱色素は、好ましくは、光エネルギーを熱エネルギーに変換するように構成された小分子である。光熱色素の例としては、IR-780、IR-806、IR-808、IR-820、インドシアニングリーン(ICG)、及びクロコナイン色素が挙げられる。いくつかの例示的な光熱色素の構造及び物理的特性を、以下に提供する。
表1 光熱色素とその物理的性質
【表1】
融点は、DSCによって得られたクロコナイン色素を除き、市販の製造業者によって報告された値から得た。
【0063】
クロコナイン色素は、下記の式(1):
【化6】
(式中、R’及びR”は各々、独立して、H、アルキル、置換アルキル、アリールアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、カルボン酸、アルコキシ、アリールオキシ、ポリエチレングリコール、アミノ、ジアルキルアミノ、ハロゲン、トリアゾール、アミド、N-アルキルアミド、スルホン、スルホネート、ホスホネート、又はそれらの塩、光学異性体、幾何異性体若しくは互変異性体からなる群から選択される)
で表される一般構造式を有する。
【0064】
一態様では、クロコナイン色素は、下記の式(2):
【0065】
【化7】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は各々、独立して、H、アルキル、置換アルキル、アリールアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、カルボン酸、アルコキシ、アリールオキシ、ポリエチレングリコール、アミノ、ジアルキルアミノ、ハロゲン、トリアゾール、アミド、N-アルキルアミド、スルホン、スルホネート、ホスホネートからなる群から選択されるか、又はR
1及びR
2はともに、場合によっては、置換された5-若しくは6-員環を形成するか、又はR
2及びR
4はともに、場合によっては、置換された5-若しくは6-員環、又はそれらの塩、光学異性体、幾何異性体若しくは互変異性体を形成する)
で表される一般構造式を有することができる。
【0066】
クロコナイン類は、近赤外~赤外領域に鋭く強い吸収バンドがある色素の一種である。当該クロコナイン色素は、一般的な溶媒中で、溶液粘度を高めることなく、広い溶解度を示す。上記の色素のコア構造はシクロペンタトリオン部分である。この成分は、隣接するカルボニル化合物の数を変化させ得る。チオフェン単位はまた、その性質上モジュール化されており、当該基を他の芳香族単位へ変化させて、吸収及び光熱伝達の操作波長を調節する。同様に、チオフェン環のN原子上のR基を変化させて、所望の電子的、溶解性、熱的、又は他の物理化学的特性を付与することができる。
【0067】
クロコナイン色素は、市販のものを入手してもよいし、クロコナイン酸と電子豊富な芳香族化合物、ヘテロ芳香族化合物またはオレフィン系化合物との縮合により調製してもよい。クロコナイン色素の具体例としては、以下の化合物:
【化8】
【化9】
【化10】
(式中、Xは、H、アルキル、置換アルキル、アリールアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、カルボン酸、アルコキシ、アリールオキシ、ポリエチレングリコール、アミノ、ジアルキルアミノ、ハロゲン、トリアゾール、アミド、N-アルキルアミド、スルホン、スルホネート又はホスホネートであり得る)
が挙げられる。
【0068】
上記のように、電磁エネルギーを適用することにより、3次元物品が高効率で光熱変換及び焼結される。当該電磁エネルギーは、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、又はそれらの組み合わせであり得る。従って、当該電磁エネルギーの周波数は、約700nm~約1200nm、約750nm~約1100nm、又は約800nm~約1000nmであることができる。光源としては、レーザー、低圧、中圧又は高圧水銀ランプ、及びメタルハライドランプ、キセノンランプ、陰極管、LED等があげられる。
【0069】
光熱色素は、粉末ビルド材料全体に塗布することができ、レーザー光をパターン化して適用することによって3Dプリントを実施しうる。他の態様では、光熱色素は、噴射することによってパターンで粉末に塗布した後、粉末形成層の全部又は部分を適当な波長の光に曝露することによって焼結を達成することができる。クロコナイン色素等の光熱色素を用いると、熱エネルギーが局所化されて、クロコナイン色素も電磁放射線も受け取らない粉末の温度が上昇しないという利点がある。これにより、ビルドオブジェクトに取り込まれなかった粉体を再利用することができる。さらに、エネルギーを粉末層全体に入力する必要がなく、他の焼結技術に対して、操作上の利点がある。
【0070】
本明細書に詳細に記載した方法、プロセス、及びシステムを用いて調製した3次元物品は、回路用途、医療用途、輸送用途等に有用である。例えば、3次元物品は、プリント回路、絶縁体、矯正器具等の医療構成体、歯科インプラント、人工ソケット等、シールリング、ワッシャー等とすることができる。
【0071】
VIII.プリント
HPP組成物及びHPPの粉末の溶液を、3次元プリントシステムを用いて3次元物品を作製する方法に用いることができる。上記のように、HPP組成物は、溶媒に溶解した第1HPPと、固体として存在する第2HPPとを含み、そこで得られた混合物を混合して粘性溶液を提供する。3次元プリントシステムは、コンピュータ、3次元プリンタ、及びHPP粉末及びHPP組成物を分配する手段を備えることができる。3次元プリントシステムは、場合によっては、後プリント処理システムを備えることができる。コンピュータは、デスクトップ・コンピュータ、ポータブル・コンピュータ、又はタブレット等のパーソナル・コンピュータであり得る。コンピュータは、スタンドアロンコンピュータ、又はローカルエリアネットワーク(LAN)又はワイドエリアネットワーク(WAN)の部分であってよい。従って、コンピュータは、コンピュータ支援設計/コンピュータ支援製造プログラム又はカスタムソフトウェアアプリケーション等のソフトウェアアプリケーションを含むことができる。CAD/CAMプログラムは、データ記憶領域に記憶された3次元物品のデジタル表示を操作することができる。ユーザが3次元物品の造形を望む場合、ユーザは記憶された表示をソフトウェアプログラムにエクスポートし、次いでプログラムにプリントするように指示する。プログラムは、3次元プリンタを動作させるプリンタ内の電子機器を制御する命令を送ることによって各層をプリントする。あるいは、物品のデジタル表示は、プリンタハードウェアによってコンピュータ読取可能な媒体(例えば、磁気ディスク又は光ディスク)から直接読み取ることができる。
【0072】
通常、HPP固体又は粉体の第1層をビルドプレート上に積層することができる。積層されたHPP固体又は粉体は、約200℃未満、約30℃~170℃の範囲、好ましくは約50℃~約150℃の範囲であり得る温度に加熱することができる。温度は、HPP組成物が添加される場合にHPPの重合を補助するが、HPPの重合が生じる温度よりも低く選択される。したがって、積層されたHPP固体又は粉体は、約40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃等のビルド温度に加熱することができる。積層されたHPP固体又は粉体は、例えば、マイクロ波ヒータ、赤外線ヒータ、誘導ヒータ、ミカテミックヒータ、太陽熱ヒータ、熱交換器、アークヒータ、誘電体ヒータ、ガスヒータ、プラズマヒータ、ランプヒータ、赤外線ヒータ、又はそれらのいかなる組み合わせを含むが、これらに限定されないヒータを用いて、加熱プレート又は加熱ローラーを用いて、又はレーザー又はレーザーダイオード、例えば、走査二酸化炭素レーザーを用いてHPP固体又は粉体を局所的に加熱することによって、公知の接触又は非接触方法のいずれかを用いて、所望の温度に加熱することができる。
【0073】
HPP固体又は粉体の第1層は、ローラー、スクレーパ、機械的手段等のいずれかの公知の方法を用いて、ビルドプレート上に積層することができる。従って、例えば、測定量のHPP固体又は粉体を、ローラーを用いて所望の厚さまでビルドプレート上に分散させることができる。他の態様では、PEEK粉末層の厚さを、約0.1nm~500nm未満、約5nm~約250nm、約0.2nm~約100nm、約0.3nm~約50nm、約0.3nm~約25nm、約0.3nm~約20nm、約0.3nm~約15nm、約0.3nm~約10nm、約0.3nm~約5nm等にすることができる。さらに他の態様では、PEEK粉末層の厚さを、約10ミクロンから約500ミクロン未満、約25ミクロンから約250ミクロン、又は約50ミクロンから約100ミクロンにすることができる。
【0074】
3次元物品層を層ごとにプリントする方法を
図1A-1Dに示す。
図1Aでは、ローラー5は、1又はそれ以上の粉末ベッドリザーバ2から粉末ベッド1へ粉末としてHPP固体を積層する。ビルドプレート3は、必要に応じて垂直方向に移動することができる。ヘッド4は、粉末ベッド1上にHPP組成物をプリントする。HPP組成物は、溶媒に溶解したHPPを含む。溶媒は、例えば、低蒸気圧の溶媒等の上記溶媒のいずれであってもよく、かつ、食品安全性であるか、又はスペアミント油、α-テルピネン、リモネン、α-ピネン、フェンコン及びその組合せ等のGRASであってよい。当該HPP組成物は、いかなるプリントメカニズムによって、ビルドプレート上の粉末ベッドにプリントすることができる。例えば、プリントは、インクジェットプリント、スクリーンプリント、グラビアプリント、オフセットプリント、フレキソグラフィー(フレキソプリント)、スプレーコーティング、スリットコーティング、押出コーティング、メニスカスコーティング、マイクロスポッティング、ペンコーティング、ステンシルプリント、スタンピング、シリンジ分配、及び/又は所定のパターンでアクチベーター溶液を分配するポンプを含み得る。
【0075】
一態様では、
図1Bに示すように、シリンジ又はシリンジ状ディスペンサを用いて、ビルドプレート上にHPP組成物をプリントすることによって、3次元物品を形成することができる。
図1Bは、パターン化された単一層を示す。通常、シリンジは、HPP組成物の第1層を2次元パターンでビルドプレート上に積層する。Norm-Ject(r)Luer Lockプラスチック注射器等の注射器は、好ましくは小さなオリフィス直径を有し、それによって、微細な最小形状サイズを有する電子的形状の造形が可能になる。一態様では、シリンジ又は他の積層ツールは、直径が約200μm以下、より好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらにより好ましくは約25μm以下の積層オリフィスを含む。プリント速度は、用いられる形状サイズ及び材料に依存し、当業者によって容易に決定され、所望に応じて調節することができ、約1mm/秒~約1000mm/秒、約5mm/秒~約500mm/秒、約20mm/秒~約100mm/秒、又は約10mm/秒~約50mm/秒であり得る。したがって、プリント速度は、約5mm/秒から約30mm/秒の間、又は約10mm/秒から約20mm/秒の間であり得る。
【0076】
プリントシステムには、プリントメカニズムがあり、HPP組成物をHPP固体又は粉体上にプリントすることができる。例えば、プリントは、インクジェットプリント、シングルジェットプリント、スクリーンプリント、グラビアプリント、オフセットプリント、フレキソプリント、スプレーコーティング、スリットコーティング、押出コーティング、メニスカスコーティング、マイクロスポッティング、ペンコーティング、ステンシルプリント、スタンピング、シリンジ分配、及び/又は所定のパターンでHPP溶液を分配するポンプを含み得、従って、3次元物品は、インクジェットタイプのプリントカートリッジを用いて、インクジェットから構築プレート上にHPP組成物を積層することによって形成され得る。開示された方法で用いることができるインクジェットプリントヘッドとしては、MH5420、MH2480、MH2420、及びMH1801があげられ、これらは全てRicoh Printing Systems America,Incから入手可能である。
【0077】
通常、インクジェットノズルは、構築されたプレート上に積層されたHPP粉末ベッド上に、HPP組成物の2次元パターンをプリントする。プリントされた組成物を刺激と接触させることができ、ここで、HPPは、少なくとも部分的に、最終ポリマーに変換される。以下に詳細に説明するように、選択された刺激はHPPに依存し、熱、化学的酸化剤、酸、光、電気分解、金属触媒などであり得る。HPPが部分的又は完全に最終ポリマーに変換されうるように選択された、予め設定された時間経過後、HPP粉末の次の層が積層されて粉末ベッドを形成し、当該工程が繰り返される。従って、3D物品は層毎ごとに造形することができる。
【0078】
場合によっては、プリント溶液を刺激に曝露して、3次元物品のポリマー層を形成することができる。例えば、刺激は、熱又は化学的イミド化反応物であり得る。HPPがケタールである場合、刺激はブレンステッド酸、ルイス酸、又は光であり得る。HPPが多硫化物である場合、刺激は、有機過酸化物、有機過酸化物、無機過酸化物、又はそれらの混合物等の酸化剤であり得る。HPPが架橋部分を含む場合、刺激は、可視光又はUV光等の光であり得る。
【0079】
図1Cでは、ローラー5は、積層メカニズムとして、粉末ベッドリザーバ2から粉末ベッド1へHPP粉末を積層する。
図1Dは、HPP粉末が新しい粉末ベッド層を形成し、当該プロセスを繰り返して3次元物品を層ごとにプリントすることができることを示す。
【0080】
他の態様では、3次元物品は、リソグラフィを用いて構築プレート上に連続層をパターン化することによって造形することができる。3次元物品は、HPP粉末の層を塗布して、ビルドプレート上に粉末ベッドを形成することによって造形することができる。粉末ベッドを所定の温度に加熱する。マスク又はレチクル等のパターン化された画像形成プレートを通して、粉末ベッド上にHPP組成物をプリントする。HPP組成物は、例えば、注射器を用いて、インクジェットプリントヘッドを用いてスプレーするなど、いかなる公知の方法を用いて積層することができる。
【0081】
ジェット噴射されたHPP組成物を受け取った領域は、保持時間で温度を保つことによって重合させることができる。従って、HPP組成物に曝露されたHPP粉末は、約1分~約2時間、好ましくは約5分~約30分、より好ましくは約8分~約15分、又は約1秒~約300秒、好ましくは約5秒~約30秒、より好ましくは約8秒~約15秒、保持温度又は現在温度のままであることができる。従って、HPP組成物に曝露されたHPP粉末は、プレート上に、保持温度又は現在温度で、約7分、約8分、約9分、約10分、約11分、約12分、約13分、約14分、約15分等の保持時間の間、留まることができる。理論に拘束されることなく、保持時間では、溶媒等の流体の揮発性成分を蒸発させ、層を重合させるか、少なくとも部分的に重合させて、最終ポリマーが形成される。従って、当該保持時間は、HPPが重合して最終ポリマーになることができるように選択される。
【0082】
このプロセスを繰り返し、ビルドプレート上の前の層の上にHPP粉末の新しい層を塗布する。次いで、所望の造形物の次の断面が、新しい粉末層上にプリントされるHPP組成物と共にプリントされる。
【0083】
HPP粉末の層をビルドプレートに適用し、アクチベーターの溶液を積層し、そして所定の温度及び所定の保持時間に、ビルドプレート上に留まらせうる以前の工程は、最終物品が完成するまで繰り返される。未反応のHPP粉末は、所望であれば、プロセスの間いつでも除去することができる。従って、3次元物品は、一連のHPP層を構築プレート上に積層して粉末ベッドを形成し、そしてHPP組成物を粉末ベッド上にプリントすることによって層毎に構築することができる。
【0084】
他の態様では、3次元プリントシステムを用いて3次元物品を作製するプロセスに用いるHPP組成物をビルドプレート上に積層して、3次元プリントシステムを用いて刺激をプリントして、3次元物品を造形することができる。上記のように、HPP組成物は、溶媒に溶解した第1HPPと、固体として存在する第2HPPとを含み、そこで得られた混合物は、粉末ベッドとしてビルドプレート上に積層することができる。刺激が光開始剤である場合、UV光等の光の露光を用いて、3D物品を造形することができる。
【0085】
他の態様では、刺激と混合されたHPP粉末をビルドプレート上に積層し、3次元プリントシステムを用いて刺激をプリントして3次元物品を造形することができる。溶媒に溶解したHPPを含むHPP組成物は、ビルドプレート上に積層されたHPP粉末上にプリントすることができる。溶媒は、例えば、低蒸気圧の溶媒等の、上記の溶媒のいずれであってもよく、食品安全性であるか、又はスペアミント油、α-テルピネン、リモネン、α-ピネン、フェンコン、アルコール、水、水性混合物、及びそれらの組み合わせ等のGRASであってもよい。。HPP組成物は、いかなるプリントメカニズムによっても、ビルドプレート上の粉末ベッドにプリントすることができる。刺激が光開始剤である場合、UV光等の光の露光を用いて、3D物品を造形することができる。場合によっては、3次元プリントシステムを使用して、酸、塩基、又はブレンステッド酸/塩基等の他の刺激を、3D物品上にパターンでプリントし、それにより、選択された領域をさらに硬化させることができる。この方法は、架橋密度が異なる不均一部分がある3D物品を製造するのに用いることができる。
【0086】
IX.硬化
上記の方法及びプロセスを用いて得られた3次元物品は、硬化されて、最終3次元物品として得ることができる。物品の硬化は、物品がビルドプレートに取り付けられている間に行うことができ、又は物品の硬化は、物品を最初にビルドプレートから分離し、次いで硬化させることによって行うことができる。硬化プロセスにおいて、未反応のプレポリマーは最終ポリマーに変換される。従って、例えば、プレポリマーがポリ(アミド酸)である場合、未反応ポリ(アミド酸)は、硬化プロセス中にイミド化によってポリイミドポリマーに変換される。
【0087】
一態様では、硬化プロセスの間に、ポリ(アミド酸)は、水が除去される脱水によってポリイミドポリマーに変換され得る。ポリイミドを生成するイミド化、すなわち、ポリ(アミド酸)中の閉環は、熱処理、化学的脱水、又はその両方、その後の縮合物の脱離によって達成することができる。ポリイミドポリマーは、溶媒除去を伴う熱処理による熱イミド化、及び化学的イミド化、例えば溶媒除去を伴う無水酢酸による処理による熱イミド化等の公知の方法による重合/イミド化反応によって製造することができる。
【0088】
一態様では、化学的イミド化を用いてポリ(アミド酸)をポリイミドに変換することができる。化学的イミド化は、無水酢酸等の公知の試薬;オルトエステル、例えばオルトギ酸トリエチル;カップリング試薬、例えばカルボジイミド、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド及びジイソプロピルカルボジイミド、ボロン酸、ボロン酸エステルなどを用いて行うことができる。
【0089】
さらに他の態様では、ポリイミド及びポリイミドを含む組成物又は物品等の化合物の硬化は、高温で硬化させることによって達成することができる。硬化は、約190℃より高い、好ましくは約250℃より高い、より好ましくは約290℃より高い温度での等温加熱によることができる。従って、熱イミド化は、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約350℃、約375℃等で行うことができる。硬化温度は、ポリ(アミド酸)がポリイミドに変換され、当該温度がガラス転移温度又はポリイミドの融点を下回るように選択される。
【0090】
あるいは、高温硬化は、等温ステージングプロセスで行うことができる。例として、当該等温ステージングプロセスは、硬化される材料を180℃~220℃、例えば約200℃に、ある期間、通常は1~2時間、加熱することによって開始することができる。しかし、1時間未満、又は30分未満等、より短時間で行うこともできる。さらに、10時間まで等のより長い時間で行うこともできる。続いて、温度を段階的に上昇させることができる。各工程は、10℃から50℃の温度上昇に相当する。さらに、各工程の期間は、30分~10時間、例えば1~2時間であることができる。最終工程では、約300℃等の250~400℃の温度で硬化させることができる。等温ステージングプロセスでは、各等温工程の期間は、温度が上昇するにつれて短くなってもよい。等温ステージングプロセスのさらなる例は、温度が300℃に達するまで毎時25℃ずつ上昇する150℃で始まるプロセスである。
【0091】
最終造形物の高温硬化は、連続的に温度を上昇させることによって行うことができる。好ましくは、加熱速度は、最初は遅く、温度が上昇するにつれて徐々に速まる。したがって、例えば、加熱プロセスは、150℃で開始することができ、温度は、300℃以上に達するまで連続的に上昇する。
【0092】
熱イミド化の加熱時間は、約0.1時間~約48時間、例えば、0.5時間~15時間、又は0.5時間~5時間であり得る。
【0093】
こうして製造されたポリイミドポリマーは、破断時の引張強さが150MPa以上、より好ましくは200MPa以上、特に好ましくは250MPa以上である。引張強さは、Instron Load Frame instrumentsを用いる等の公知の方法を用いて測定することができる。
【0094】
こうして製造されたポリイミドポリマーの引張係数は、1.5GPa以上、より好ましくは2.0GPa以上、特に好ましくは2.5GPa以上である。
【0095】
〔実施例〕
以下の実施例は、例示のみを目的として提供されるものであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。使用された数値(例えば、量、温度など)の正確さを保証する努力がなされてきたが、もちろん、幾つかの実験誤差及び逸脱は許容されるべきである。
【0096】
市販の、直径20μmの粉末PEEKはEvonik(r)から、又は直径50μmの粉末PEEKはVictrexから購入し、受領したままの状態で用いた。調製したPEEK試料の機械的性質をPerkinElmer(r)製動的機械的分析器(DMA)8000によって試験した。直線粘弾性領域(歪み0.03mm)内の長方形試料に、温度24℃~270℃(架橋フィルムでは150℃)の関数として、3℃/分の一定周波数(長方形試料では1Hz、架橋フィルム試料では10Hz)で正弦波力を印加した。ガラス転移温度(Tg)はtan(δ)ピークであると決定した。ドッグボーン試料(厚さ3.1mm、幅5.2mm)の引張試験は、Instron 5500Rにより、伸縮計(初期長さ25.4mm)を用いて1mm/分の速度で実施した。引張係数(又はヤング係数)は、引張応力のプロットの傾きから歪み関数として計算した。市販粉末PEEK及び合成BPA‐PEEKの示差走査熱量測定(DSC)試験を、窒素下でTA Instruments(r) DSC Q20熱量計によって実施した。アルミニウム皿に密封された粉末試料をまず室温から10℃/分で380℃に加熱し、試料中の熱履歴を消去し、室温に冷却した。次に、試料を380℃に10℃/分で加熱し、この2回目の加熱からのWattとして熱流を記録した。合成したBPA‐PEEKの分子量を、Wyatt Technologies Corporation製の各々103、103、及び105Aの孔サイズの3つのMZゲル10μmカラム、DAWN HELEOS II 18角多角レーザー光散乱検出器、及びOptiLab(r)T‐rEx屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。THFを溶出液として1mL/分の速度で用いた。絶対質量平均分子量は、カラム通過後のポリマーの100%質量回収率を仮定して測定したdn/dc値によって決定した。粉末PEEK及びBPA-PEEKの熱質量分析(TGA)は、TA TGA Q50により室温から800℃、10℃/分で実施した。
【実施例1】
【0097】
高分子量BPA-PEEKポリマーの合成
以下の構造:
【化11】
を有するPEEKポリマー合成した。ビスフェノールA(BPA、11.46g、50ミリモル)、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(10.91g、50ミリモル)、及び炭酸カリウム(7.6g、55ミリモル)を、凝縮器付きのN2ガス入口及びディーンスタークトラップに接続された3首フラスコ中の100mLの乾燥DMSO及び50mLの乾燥トルエン中で混合した。この混合物を、オイルバス中、150℃(160℃まで)で2時間撹拌し、次いで、170℃(180℃まで)で15時間(から24時間)撹拌した。重合が進行するにつれ、固体生成物が沈殿した。溶液を室温に冷却し、溶媒をデカントして固体生成物を得た。固体生成物をDCM(~200mL)に溶解し、氷浴中で冷メタノールを加えてポリマー固体を沈殿させることにより、固体生成物を精製した。得られた固体を水で洗浄して、あらゆる残留K
2CO
3を除去し、濾過した。さらなる精製のために、乾燥後、固体生成物を氷浴中に溶解し、冷メタノールを加えてポリマー固体を沈殿させた。ポリマー固体を風乾し、最終生成物として淡褐色~黄褐色の固体を得た(21g、収率94%)。
【実施例2】
【0098】
アルケン部分を含むポリマーの合成
以下の構造:
【化12】
を有するPEEKポリマーを合成した。100mLのフラスコに、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(3.30g、15.12ミリモル)、ビスフェノールA(1.72g、7.53ミリモル)、2,2’-ジアリルビスフェノールA(2.33g、7.55ミリモル)及びDMSO(30mL)を加えた。懸濁液を、全ての固体が溶解するまで50℃に加熱した。この溶液にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド五水和物(5.54g、30.57ミリモル)を加え、反応温度を120℃に上昇させた。90分後、反応物を室温に冷却し、液体をデカントした。残った固体をジクロロメタンに溶解し、メタノールに沈殿させて、アルケン含有PEEK(4.69g、収率70%)を得た。
1H‐NMR分光法による分析は、BPA:ジアリルBPA単位の比が~1:1を示した。
【実施例3】
【0099】
以下のエポキシド部分:
【化13】
を含むポリマーを合成した。
実施例1で調製したアルケン含有PEEK(4.69g、10.51ミリモル)のジクロロメタン(75mL)中溶液に、m-CPBA(5.21g、21.13ミリモル)を添加した。2時間撹拌した後、ポリマーをメタノール中に沈殿させて、エポキシ-PEEKポリマー(4.23g、収率87%)を得た。GPC分析では、Mn=21.6KDa、Mw=39.4KDa、?=1.82.
【実施例4】
【0100】
スぺアミント油中のエポキシ-PEEKの光架橋:
実施例2で調製したエポキシ-PEEKポリマーをスペアミント油に溶解して、7質量%のエポキシ-PEEK溶液を得た。対照実験ではエポキシ-PEEKポリマーは存在しなかった。エポキシ-PEEK溶液に、1質量%又は8質量%のいずれかのトリアリールスルホニウム光開始剤、0、0.1、0.1質量%のいずれかのパラ-トルエンサルトン酸、0質量%又は1質量%のフルオロアンチモン酸六水和物(HSbF
6・6H
2O)、及び0質量%又は1質量%のトリフルオロ酢酸(TFA)を添加した。約0.3mLの溶液をスライドガラス上に積層し、発光波長が365nmである100Wランプを用いて、UV光の露光は有無のいずれかであった。スライドガラスから取り出してから、材料が硬化して自立するのに要した時間を記録した。データを表2にまとめた。
【表2】
表2 溶媒としてのスペアミント油中のエポキシ-PEEKの架橋化硬化時間
【0101】
結果は、光開始剤の非存在下で酸を添加しても、硬化時間の低減に効果がないことが示された。表2のデータは、pTSA(項目1)やTFA(項目4)は単独では影響を及ぼさないことを示している。しかし、HSbF6・6H2Oを用いた場合、光開始剤が存在しなくても硬化時間は1分であることが観察された(項目2)。さらに、スペアミント油中で酸と光開始剤を組み合わせて用いた場合は、どちらか一方の活性化剤を単独で用いるより効果が高かった。例えば、光開始剤/UV光又はpTSAのいずれも、個々にはエポキシ-PEEKを硬化しなかったが、組合せた場合(項目6)では、硬化は7分間で成功した。同様の相乗効果が、光開始剤(項目8)を用いたTFAでも観察された。HSbF6・6H2Oを光開始剤との併用(項目7)の硬化時間は、HSbF6・6H2Oを単独で用いた場合(項目2)とほぼ同様であった。
【実施例5】
【0102】
テルペン溶媒中のエポキシ-PEEKの光架橋:
テルピネン溶媒中のエポキシ-PEEKポリマーの光架橋は、溶媒がスペアミント油及びテルペンであること以外は、実施例4の記載に従って行った。スライドガラスから取り出してから、材料が硬化して自立するのに要した時間を記録した。データを表3にまとめた。
【表3】
表3 溶媒としてのスペアミント油とテルペンの混合物中のエポキシ-PEEKの架橋化硬化時間
【0103】
その結果、共溶媒としてテルペンを添加すると、溶媒としてスペアミント油と比較して硬化時間が短縮されたことが示された。α-テルピネン、リモネン、及びα-ピネンをスペアミント油との共溶媒として用いた(項目1~6)したところ、各々スペアミント油のみを用いた場合よりも良好な結果が得られた(表3、項目5、硬化は認められなかった)。共溶媒が低極性である場合は、エポキシ-PEEKを7質量%で溶解するには、スペアミント油が必要であった。光開始剤の質量%を1質量%から8質量%に高めると、3つの溶媒混合物各々の硬化時間が短縮されたことが観察された。
【実施例6】
【0104】
フェンコン中のエポキシ-PEEKの光架橋:
溶媒としてのフェンコン中のエポキシ-PEEKポリマーの光架橋を、実施例4に記載したように実施した。スライドガラスから取り出してから、材料が硬化して自立するのに要した時間を記録した。データを表4にまとめた。
【表4】
表4 溶媒としてのフェンコン中のエポキシ-PEEKの架橋化硬化時間
【0105】
フェンコンには、極性カルボニル官能基があるが、ラジカル種と反応する可能性のあるα,β-不飽和基がない食品安全性溶媒である。データは、溶媒としてフェンコンを用いると、スペアミント油とテルペンの混合物を用いるスペアミント油溶媒系と比較して、硬化時間がはるかに短くなることを示す。具体的には、光開始剤がなくてもHSbF6・6H2Oを用いると、硬化時間は30秒であった(項目2)。さらに、光開始剤を用いた場合の硬化時間は、より迅速な15秒間であった(項目5)。光開始剤及び酸(項目6、7及び8)を用いても、硬化時間が30秒未満ならなかった。しかしながら、表3のデータは、架橋用溶媒としてフェンコンを用いると、硬化時間が極めて短縮されることを示す。
【実施例7】
【0106】
PEEKポリマーを用いたモデル製品の造形:
実施例1で調製したBPA-PEEKポリマーをスペアミント油に溶解して、6質量%~8質量%のBPA-PEEK溶液を得た。BPA-PEEK溶液2mLに直径約20μmの粉末PEEK(1g、Evonikより購入)を加え、混合物を室温で一晩撹拌してペースト(半固体、
図2A)を得た。このペーストを架橋ポリシロキサン(3.8mm(T)×5.7mm(W)×28.6mm、
図2B)の長方形形状(又はドックボーン状)に成形した。オーブン内に成形した形状を配置し、約0.5℃/分~120℃(100℃~150℃)の速度で温度を上昇させ、高速加熱による高温亀裂を防止した。3時間加熱した後、PEEK粉末とBPA-PEEKの混合物中に鋳造した長方形の造形物を鋳型から取り出した(
図2C)。鋳造した造形物をさらに220℃で3時間乾燥し、残留溶媒を除去した。乾燥造形物を以下の2つの方法により高温で焼成した。第1方法では、粉末PEEK(345℃)の融点以下の332℃(温度範囲:345℃まで)で乾燥造形物を2~3時間焼成した。第2方法では、乾燥造形物を、粉末PEEKの融点を超える360℃以上で、短期間(すなわち、5分間)焼き付けた。試料を220℃から365℃(温度範囲:360℃~380℃)に約7℃/分の速度で加熱し、365℃で5分間(試料の大きさに応じて最大20分)保ち、室温まで冷却した(
図2D)。2回目の方法(360℃以上で焼成)で焼成した製品は、ゆっくりと(少なくとも1時間)150℃まで冷却し、試料の歪みや曲げを最小限に抑える必要がある。長方形の底面が完全に溶けきれておらず、試料が湾曲した場合、試料を上向きに戻し、さらに5分間365℃で焼き上げた。365℃で焼成した後、試料の寸法を2.9mm×5.0mm×22.4mmに縮小させた。
【0107】
PEEK試料の機械的性質に及ぼす浸漬の影響を調べるために、DMA実験後の最初の焼成長方形試料をスペアミント油中のPEEK溶液(6質量%又は8質量%)に30分間浸漬した。試料を室温の空気中で乾燥し、さらに220℃の加熱オーブン中で2時間乾燥した。次いで、試料を365℃で5分間焼き付けした。この方法を「第1浸漬、第2焼き付け」いい、この試料をDMAで検査したところ、DMA実験用の長方形試料の面積は同じであった。その後、DMAをPEEK溶液に浸漬し、乾燥し、同じ条件下で焼き付けた後の試料を「第2浸漬、第3焼き付け」とした。結果を
図3A-3Bに示す。さらなる浸漬及び焼き付けサイクルにより、535MPaの弾性貯蔵率(E’)が増加したが、さらなる浸漬及び焼き付けサイクルはE’を改善しなかった(
図3A)。さらに、ガラス転移温度Tgは、浸漬及び焼き付けサイクルによって変化しなかった(
図3B)。
【実施例8】
【0108】
エポキシ-PEEKの光熱硬化:
実施例3で調製したエポキシ-PEEKポリマーをフェンコンに溶解して、7質量%のエポキシ-PEEK溶液を得た。エポキシ-PEEK溶液にクロコナイン色素を0.1質量%、0.25質量%、0.5質量%又は1質量%のいずれかで添加した。対照実験ではクロコナイン色素は存在しなかった。この溶液をスライドガラス上に積層し、808nmダイオードレーザー(2.53W)で照射した。物質が架橋するのに必要な時間を記録した。データを表4にまとめた。対照実験では、エポキシ-PEEKポリマーは架橋しなかった(表5、項目1)。対照的に、架橋フィルムは、7質量%エポキシ-PEEK中の1質量%%クロコナイン色素上でレーザーを30秒露光した後に検出された(表5、項目2)。
【表5】
表5 溶液中のエポキシ-PEEKの光熱硬化
【0109】
レーザーパワーは非常に高いが,光熱硬化は小領域に限定されることが観察された。ビーム直径は小さく(1cm未満)、レーザーをラスタリングして硬化エポキシ-PEEKのパターンを造形(又は「延伸」)することができる。
【実施例9】
【0110】
PEEK粉末の光熱硬化:
PEEK粉末(Evonik)は、20μmと50μmを1:1の質量比で混合することによって調製した。実施例2で製造したものをフェンコンに溶解し、7質量%のエポキシ-PEEK溶液を得た。クロコナイン色素溶液は、0.1質量%、0.25質量%、0.5質量%又は1質量%のいずれかでフェンコン中で調製した。PEEK粉末及びクロコナイン色素溶液を質量比1:1で混合してスラリーを得た。対照実験ではクロコナイン色素は存在しなかった。スラリーをスライドガラス上に積層し、808nmダイオードレーザー(2.53 W)で照射した。物質が架橋するのに必要な時間を記録した。
【0111】
0.1質量%以上のクロコナイン色素を含むスラリーは、レーザー露光で煙とともに即時燃焼を示した。スラリー中の粉末は黒色となり、30秒間のレーザー照射で溶融した。レーザーを用いて長方形パターンを描き、得られた同様の形状の焼結造形物を得た。クロコナイン色素濃度の変動は、転帰にほとんど影響を及ぼさなかった。この実験では、エポキシ-PEEKを全く含まず、光熱色素の市販のPEEKの焼結能力を示す。
【実施例10】
【0112】
粉末PEEKとエポキシ-PEEK溶液の混合物の光熱硬化:
実施例2で調製したエポキシ-PEEKポリマーをフェンコンに溶解して、7質量%のエポキシ-PEEK溶液を得た。エポキシ-PEEK溶液に、0.1質量%、0.25質量%、0.5質量%又は1質量%のいずれかでクロコナイン色素を添加し、PEEK粉末及びエポキシ-PEEK/クロコナイン色素溶液を質量比1:1で混合してスラリーを得た。対照実験ではクロコナイン色素は存在しなかった。スラリーをスライドガラス上に積層し、808nmダイオードレーザー(2.53W)で照射した。物質が架橋するのに必要な時間を記録した。データを表5に要約する。対照実験では、エポキシ-PEEKポリマーは架橋しなかった(表6、項目1)。対照的に、0.1質量%以上のクロコナイン色素では、30秒間のレーザー照射後に架橋フィルムが検出された(表6、項目2)。
【表6】
表6 エポキシ-PEEKとPEEK粉末の混合物の光熱硬化
【0113】
0.1質量%以上のエポキシ-PEEKと色素のスラリーは、レーザーを適用すると煙とともに即時燃焼し、レーザー照射で褐色になった。ビームを用いると長方形が30秒で得られた。
【0114】
本発明を、特に、好ましい実施形態及び様々な代替実施形態を参照して示され説明してきたが、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更を行うことができることを理解するであろう。