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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】半導体膜及び半導体膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/448 20060101AFI20230929BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20230929BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20230929BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20230929BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20230929BHJP
   C30B 25/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
C23C16/448
C23C16/40
H01L21/365
H01L21/368 Z
C30B29/16
C30B25/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021193935
(22)【出願日】2021-11-30
(62)【分割の表示】P 2021016959の分割
【原出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022037942
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2020032301
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】川原村 敏幸
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069424(JP,A)
【文献】特開2017-005148(JP,A)
【文献】特開2007-027329(JP,A)
【文献】特開2014-031300(JP,A)
【文献】特開2020-002396(JP,A)
【文献】特開2020-188170(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0045661(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
C23C 16/40
H01L 21/365
H01L 21/368
C30B 29/16
C30B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜であって、
前記半導体膜の表面における直径0.3μm以上のパーティクル密度が50個/cm以下であることを特徴とする半導体膜。
【請求項2】
前記半導体膜の表面における直径0.3μm以上のパーティクル密度が1個/cm 未満であることを特徴とする請求項1に記載の半導体膜。
【請求項3】
前記Gaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜がα-Gaであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体膜。
【請求項4】
前記半導体膜の表面積が50cm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項5】
前記半導体膜の膜厚が1μm以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項6】
Gaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜であって、
前記半導体膜の表面における直径0.5μm以上のパーティクル密度が10個/cm以下であることを特徴とする半導体膜。
【請求項7】
前記半導体膜の表面における直径0.3μm以上のパーティクル密度が50個/cm以下であることを特徴とする請求項に記載の半導体膜。
【請求項8】
前記Gaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜がα-Gaであることを特徴とする請求項又はに記載の半導体膜。
【請求項9】
前記半導体膜の表面積が50cm以上であることを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項10】
前記半導体膜の膜厚が1μm以上であることを特徴とする請求項からのいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項11】
成膜用霧化装置で霧化した原料溶液のミストを成膜室に搬送して加熱した基体上にGaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜を成膜する半導体膜の製造方法であって、
前記成膜用霧化装置として、前記原料溶液を収容する原料容器と、前記原料容器の内部と外部を空間的に接続し、且つその下端が前記原料容器内において前記原料溶液の液面に触れないように設置された筒状部材と、超音波を照射する超音波発生源を一つ以上有する超音波発生器と、前記超音波を前記原料溶液に中間液を介して伝播させる液槽とを有する成膜用霧化装置を用い、
前記超音波発生源の超音波射出面の中心線をuとし、
前記中心線uと、前記筒状部材の側壁面の延長を含む、前記筒状部材の側壁面がなす面との交点Pが、前記筒状部材の下端点Bより下になるように超音波発生源を設けて前記原料溶液の霧化を行い、
前記半導体膜の成長速度を13.5nm/min以上とし、
前記半導体膜の表面における直径0.3μm以上のパーティクル密度が50個/cm以下である半導体膜を成膜することを特徴とする半導体膜の製造方法。
【請求項12】
前記半導体膜の表面における直径0.5μm以上のパーティクル密度が10個/cm以下である半導体膜を成膜することを特徴とする請求項11に記載の半導体膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用霧化装置及びこれを用いた成膜装置並びに半導体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に薄膜を形成させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう)が開発され、酸化物半導体膜などの作製に用いられている(特許文献1、2)。ミストCVD法での膜形成では超音波によりミストを得る方式が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-028480号公報
【文献】特開2014-063973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまで高品質な膜を形成するための原料霧化手法は確立されておらず、原料ミストの品質に起因したパーティクルが、作製した膜に多数付着する問題があった。また、成膜速度を高める場合などにミスト供給量を増加させると、このようなパーティクル付着がより顕著になることが知られており、膜品質と生産性の両立が課題であった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、パーティクル付着が抑制された高品質な薄膜を効率良く形成可能とする成膜用霧化装置、およびこれを用いて高品質な膜を高い生産性で形成するための成膜装置を提供することを目的とする。また、本発明は、膜表面のパーティクル密度が著しく低減された高品質な半導体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、原料溶液を収容する原料容器と、前記原料容器の内部と外部を空間的に接続し、且つその下端が前記原料容器内において前記原料溶液の液面に触れないように設置された筒状部材と、超音波を照射する超音波発生源を一つ以上有する超音波発生器と、前記超音波を前記原料溶液に中間液を介して伝播させる液槽とを有する成膜用霧化装置であって、前記超音波発生源の超音波射出面の中心線をuとし、前記中心線uと、前記筒状部材の側壁面の延長を含む、前記筒状部材の側壁面がなす面との交点Pが、前記筒状部材の下端点Bより下になるように超音波発生源が設けられている成膜用霧化装置を提供する。
【0007】
このような成膜用霧化装置であれば、成膜に適した、高品質で良好な高密度ミストを安定して得ることができるものとなるため、パーティクルの少ない高品質な膜を効率良く形成可能な成膜用霧化装置となる。
【0008】
このとき、前記中心線uが前記原料容器側壁を通るように超音波発生源が設けられていることが好ましい。
【0009】
このようにすれば、より高密度のミストをより安定して得ることができるものとなる。
【0010】
このとき、前記交点Pと前記下端点Bの距離が10mm以上となるように超音波発生源が設けられていることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、より高品質なミストをより安定して得ることができるものとなる。
【0012】
このとき、前記交点Pと前記下端点Bの距離が25mm以上となるように超音波発生源が設けられていることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、さらに高品質なミストをさらに安定して得ることができるものとなる。
【0014】
また、原料溶液を霧化して原料ミストを形成する霧化手段と、前記ミストを基体に供給して前記基体上に膜を形成する成膜手段とを少なくとも具備する成膜装置であって、前記霧化手段として上記の成膜用霧化装置を具備する成膜装置を提供する。
【0015】
このような装置とすれば、高品質な膜を高い生産性で製造することができるものとなる。
【0016】
本発明は、また、Gaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜であって、前記半導体膜の表面における直径0.3μm以上のパーティクル密度が50個/cm以下である半導体膜を提供する。
【0017】
このような半導体膜であれば、半導体装置製造に適した高品質な半導体膜となる。
【0018】
このとき、前記Gaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜はα-Gaであることが好ましい。
【0019】
これにより、半導体装置製造により適した高品質な半導体膜となる。
【0020】
このとき、前記半導体膜の表面積が50cm以上である半導体膜であることが好ましい。
【0021】
これにより、より高品質かつ生産性の高い半導体膜となる。
【0022】
このとき、前記半導体膜の膜厚が1μm以上である半導体膜であることが好ましい。
【0023】
これにより、より良質であり、半導体装置により適した半導体膜となり、さらに半導体装置の設計自由度を高めることができるものとなる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、高品質で高密度なミストが安定して得られる成膜用霧化装置を提供できる。また、本発明によれば、高い生産性で高品質な膜を製造可能な成膜装置を提供できる。さらに、本発明によれば、パーティクル密度が著しく低減された半導体膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る成膜用霧化装置の構成を示した図である。
図2】本発明に係る成膜用霧化装置のミスト発生部を説明する図である。
図3】本発明に係る成膜装置の構成の一形態を説明する図である。
図4】本発明に係る成膜装置の構成の別の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
上述のように、パーティクル付着が抑制された高品質な薄膜を形成可能とする成膜用霧化装置、およびこれを用いて高品質な膜を高い生産性で形成するための成膜装置が求められていた。また、パーティクルの少ない高品質な半導体膜が求められていた。
【0028】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、原料溶液を収容する原料容器と、前記原料容器の内部と外部を空間的に接続し、且つその下端が前記原料容器内において前記原料溶液の液面に触れないように設置された筒状部材と、超音波を照射する超音波発生源を一つ以上有する超音波発生器と、前記超音波を前記原料溶液に中間液を介して伝播させる液槽とを有する成膜用霧化装置であって、前記超音波発生源の超音波射出面の中心線をuとし、前記中心線uと、前記筒状部材の側壁面の延長を含む、前記筒状部材の側壁面がなす面との交点Pが、前記筒状部材の下端点Bより下になるように超音波発生源が設けられている成膜用霧化装置により、パーティクル付着が抑制された高品質な薄膜を高い生産性で形成できるものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0029】
以下、図面を参照して説明する。
【0030】
(成膜用霧化装置)
図1に、本発明に係る成膜用霧化装置100を示す。成膜用霧化装置100は、原料溶液114を収容する原料容器111と、原料容器111の内部と外部を空間的に接続し、且つその下端が原料容器111内において原料溶液114の液面に触れないように設置された筒状部材113と、超音波を照射する超音波発生源(超音波振動板)121を一つ以上有する超音波発生器120と、超音波を原料溶液114に中間液123を介して伝播させる液槽122とを具備する。
【0031】
原料容器111にはキャリアガス131を導入するためのキャリアガス導入口112が設置されている。原料容器111および筒状部材113の形状は特に限定されないが、円柱状とすることでキャリアガス131とミスト132が混合した混合気133を円滑に流すことができる。キャリアガス導入口112は筒状部材113の原料容器111内部における下端よりも上方に設けられることが好ましい。このようにすることで、キャリアガス131とミスト132を十分に混合することができる。また原料容器111は、図には示していないが、原料溶液114の消費に応じて補充する機構を備えていても良い。
【0032】
成膜用霧化装置を構成する部材は、原料溶液114に対して化学的に安定かつ十分な機械的強度をもつ材質および構造であれば特に限定されるものではなく、例えば、金属やプラスチック材料、ガラス、金属表面にプラスチック材料をコーティングした材料等が利用できる。
【0033】
超音波発生器120は、少なくとも、超音波発生源121を備えている。また、超音波発生器120は発振器等を備えることで、超音波発生源121を駆動させることができる。また、液槽122は、超音波発生源121から照射された超音波を原料溶液114に伝播するための中間液123を収容するものである。液槽122に収容されている中間液123は、超音波を阻害しなければ特に限定されず、例えば、水やアルコール類およびオイル類などを用いて良い。液槽122等は、中間液123に対して化学的に安定で、ある程度の機械的強度をもつ材質および構造であれば特に限定されるものではない。例えば、金属やプラスチック材料、ガラス、金属表面にプラスチック材料をコーティングした材料等が利用できる。また液槽122は、図には示していないが、中間液123の液量や温度を検知および制御する手段をさらに備えていても良い。
【0034】
超音波発生源121の超音波の射出面は平坦な形状をしており、照射方向はこの射出面を傾斜させて固定しても良いし、角度調節機構121aにより傾斜させることで変えられるようにしても良い。また、超音波発生源121は、少なくとも1つの超音波振動板(不図示)を備えていればよく、振動板単体であっても良いし、超音波の照射方向を制御するための手段と組み合わせて構成されていても良い。また、超音波発生源121は、所望のミスト密度や原料容器111のサイズなどに応じて単一または複数設けて良い。超音波発生源121から照射される超音波の周波数は、所望の粒径と粒度のミスト132を発生するものであれば限定されないが、例えば、1.5MHzから4.0MHzを用いると良い。これにより原料溶液114が成膜に適したミクロンサイズの液滴にミスト化される。
【0035】
図2は、本発明に係る成膜用霧化装置のミスト発生部を説明する図であり、図1の点線枠箇所Aにおいて、超音波を照射しているときの原料溶液の液面近傍における状態を模式的に示した拡大図である(液槽を省略して記載)。超音波発生源121の超音波射出面の中心線をuとする。超音波発生源121から原料溶液201の下方より中心線u方向に超音波が照射されると、原料溶液201には超音波照射方向に沿って液柱202が生じ、同時にミスト化される。このとき、中心線uが筒状部材220と交わらないように角度調節機構121aにより超音波発生源121を傾ける。すなわち、中心線uと筒状部材220の側壁の延長を含む、筒状部材220の側壁面がなす面との交点Pが、筒状部材220の下端点Bより下になるような範囲において、原料容器210の側壁の方向に向くようにする。
【0036】
また、中心線uが原料容器210の側壁を通るように超音波発生源121が設けられているのが良い。このようにすれば、より高密度のミストをより安定して得ることができるものとなる。
【0037】
さらに、交点Pと下端点Bの距離PBは10mm以上となるように超音波発生源121が設けられているのが良く、より好ましくは25mm以上となるように超音波発生源121が設けられているのが良い。PBが10mm以上であれば、混合気の流れがより円滑になるため、ミスト供給量が低下して成膜速度が低下することを有効に防止できる。また、混合気中に、基板上で未反応生成物やパーティクルの原因になる、比較的大きな粒径の液滴が増加することによる、基板上の膜への欠陥の形成が有効に防止できるので膜の品質がより向上する。
【0038】
(成膜装置)
本発明は、さらに図1および図2で説明した成膜用霧化装置を用いた成膜装置を提供する。
【0039】
図3は、本発明に係る成膜装置の構成の一形態を説明する図である。本発明に係る成膜装置300は、少なくとも、原料溶液321を霧化して原料ミスト322を形成する霧化手段320と、ミスト322を基体334に供給して基体334上に膜を形成する成膜手段330とを具備する。成膜装置300は、霧化手段として、図1および図2で説明した本発明の成膜用霧化装置100を備えている。さらに、キャリアガス供給部311や、霧化手段320と成膜手段330は配管313、324で接続されている。
【0040】
キャリアガス供給部311は、例えば、空気圧縮機や各種ガスボンベまたは窒素ガス分離機などでもよく、また、ガスの供給流量を制御する機構を備えていて良い。
【0041】
配管313、324は原料溶液321や成膜手段330付近における温度などに対して十分な安定性を持つものであれば特に限定されず、石英やポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などといった一般的な樹脂製の配管を広く用いることができる。
【0042】
また、図には示していないが、キャリアガス供給部311から霧化手段320を介さない配管を別途配管324に接続し、混合気352に希釈ガスを供給できるようにしても良い。
【0043】
霧化手段320は、成膜する材料などに応じて複数台を備えていても良い。またこの場合、複数の霧化手段320から成膜手段330へ供給される混合気352は、それぞれ独立して成膜手段330に供給されても良いし、配管324中、あるいは混合用の容器(不図示)などを別途設けて混合しても良い。
【0044】
成膜手段330は、成膜室331と、成膜室331内に設置され、膜を形成する基体334を保持するサセプター332と、基体334を加熱する加熱手段333を備えていて良い。
【0045】
成膜室331の構造等は特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやステンレスなどの金属を用いて良いし、より高温で成膜を行う場合には石英や炭化シリコンを用いても良い。
【0046】
加熱手段333は基体334、サセプター332および成膜室331の材質や構造によって選定されればよく、例えば、抵抗加熱ヒーターやランプヒーターが好適に用いられる。
【0047】
キャリアガス351は、霧化手段320内で形成されたミスト322と混合されて混合気352となり、成膜手段330へと搬送されて成膜が行われる。
【0048】
また本発明に係る成膜装置は、さらに排気手段340を備えていて良い。排気手段340は成膜手段330に配管などで接続されていても良いし、間隙を置いて設置されていても良い。また排気手段340は成膜手段330から排出される熱およびガスや生成物に対して安定な素材で構成されてさえいれば、特に構造や構成は限定されず、公知の一般的な排気ファンや排気ポンプが使用できる。また排出されるガスや生成物の性質に応じて、例えば、ミストトラップ、ウェットスクラバー、バグフィルター、除害装置などを備えていても良い。
【0049】
図3では、基体334が成膜室331内部に設置される成膜手段330の形態を説明したが、本発明に係る成膜装置ではこれに限らず、図4に示すように成膜手段430として、ミスト422を含む混合気452を吐出するノズル431を用い、サセプター432の上に設置された基体434へ混合気452を直接吹き付けて成膜する成膜装置400としても良い。
【0050】
この場合、ノズル431とサセプター432のうち、いずれかまたは両方が水平方向に駆動する駆動手段を備え、基体434とノズル431の水平方向における相対位置を変化させながら成膜が行われて良い。またサセプター432は基板434を加熱する加熱手段433を備えていて良い。また成膜手段430は、排気手段435を備えていて良い。排気手段435はノズル431と一体化していても良いし、別々に設置されていても良い。尚、図1から3と同じものについては適宜説明を省略する。
【0051】
(半導体膜)
本発明に係る半導体膜は、Gaを含みコランダム型結晶構造を有する半導体膜であり、半導体膜の表面における直径0.3μm以上のパーティクル密度が50個/cm以下のものである。直径0.3μm以上のパーティクルは、半導体膜をもとに半導体装置としたときに、特性に大きな影響を与えるものである。上記のような、直径0.3μm以上のパーティクル密度を有する半導体膜は、半導体装置製造に適した高品質なものとなる。
【0052】
なお、本発明における「パーティクル」とは、半導体膜中に取り込まれ膜と一体化したもの及び半導体膜表面に異物として付着したものを含み、膜の表面を観察したときにパーティクルとして観察されるものを指す。また、パーティクルの直径は、光散乱式のパーティクル測定機により測定されたパーティクルのサイズに基づく値である。パーティクルのサイズは、測定機を複数のサイズの標準粒子で校正することで判定される。即ち、測定機でパーティクルを測定した際の測定値と標準粒子を測定した際の測定値を照らし合わせることにより分類される値である。半導体膜の表面におけるパーティクルは、例えばレーザー散乱式のパーティクルカウンタを用いて測定することができる。
【0053】
本発明に係る半導体膜は、Gaを含みコランダム型結晶構造を有するものであれば限定されないが、特にα-Gaであることが好ましい。α-Gaは半導体装置製造により適した高品質な半導体膜である。また、半導体膜の表面積は50cm以上であることが好ましい。このような半導体膜は、より高品質かつ生産性の高い半導体膜である。
【0054】
さらに、半導体膜の膜厚は1μm以上であること好ましい。このような半導体膜は、より良質であり、半導体装置により適したものであり、さらに半導体装置の設計自由度を高めることができるものである。
【0055】
本発明に係る半導体膜は、本発明に係る成膜用霧化装置を備えた成膜装置を用い、成膜装置の成膜室内に設置した基体上に成膜することで得ることができる。基体は、成膜可能であり膜を支持できるものであれば特に限定されない。基体の材料も特に限定されず公知の基体を用いることができ、有機化合物であってもよいし無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、酸化ガリウム等が挙げられるが、これに限られるものではない。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、板状の基体が好ましい。板状の基体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10~2000μmであり、より好ましくは50~800μmである。基体が板状の場合、その面積は50mm以上が好ましく、より好ましくは直径が2インチ(50mm)以上である。半導体膜を基体上に成膜した後に、基体を除去して単独の半導体膜としてもよい。
【0056】
原料溶液は、Gaを含み、ミスト化が可能な材料を含んでいれば特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよい。金属又は金属化合物が好適に用いられ、Gaのほかに、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種以上の金属を含むものを使用できる。
【0057】
原料溶液として、前記金属を錯体又は塩の形態で、有機溶媒又は水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。
【0058】
また、原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、なかでも、臭化水素酸又はヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H)、過酸化ナトリウム(Na)、過酸化バリウム(BaO)、過酸化ベンゾイル(CCO)等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0059】
さらに、前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016/cm~1×1022/cmであってもよく、約1×1017/cm以下の低濃度にしても、約1×1020/cm以上の高濃度としてもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0061】
(実施例1)
図1および図2に示した成膜用霧化装置と、図3に示した成膜装置を用いて、α-酸化ガリウムの成膜を行った。
【0062】
成膜用霧化装置にはいずれも硼珪酸ガラス製の原料容器と筒状部材を使用し、また、石英製の成膜室を用意した。キャリアガス供給には窒素ガスが充填されたガスボンベを使用した。ガスボンベと成膜用霧化装置をウレタン樹脂製チューブで接続し、さらに成膜用霧化装置と成膜室を石英製の配管で接続した。
【0063】
原料溶液としてガリウムアセチルアセトナート0.02mol/Lの水溶液に濃度34%の塩酸を体積比で1%加え、スターラーで60分間攪拌したものを用意し、これを原料容器に充填した。成膜用霧化装置は2基の超音波振動板(周波数2.4MHz)を備えたものを使用した。筒状部材下端のB点と、筒状部材の側壁面と超音波の射出方向の交わるP点との距離BPが30mmとなるように超音波照射方向と筒状部材の位置を調整した。
【0064】
次に、厚さ0.6mm、直径4インチ(約10cm)のc面サファイア基板を、成膜室内に設置した石英製のサセプターに載置し、基板温度が500℃になるように加熱した。
【0065】
次に、超音波振動板により水を通じて原料容器内の前駆体に超音波振動を伝播させて、原料溶液を霧化(ミスト化)した。
【0066】
次に、原料容器に窒素ガスを5L/minの流量で加え、成膜室にミストと窒素ガスの混合気を60分間供給して成膜を行った。この直後、窒素ガスの供給を停止し、成膜室への混合気供給を停止した。
【0067】
作製した積層体の結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGaであることが確認された。
【0068】
この後、作製した膜の膜厚を光反射率解析で測定し、成長速度を算出した。また、膜上のパーティクル(直径0.5μm以上)密度を基板検査機(KLA candela-CS10)で評価した。
【0069】
(実施例2)
窒素ガス流量を10L/minとした以外は実施例1と同様に成膜を行った。
【0070】
作製した積層体の結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGaであることが確認された。
【0071】
この後、実施例1と同様に膜を評価した。
【0072】
(実施例3)
成膜装置に図4で示した成膜装置を用いた他は、実施例1と同様の装置および原料溶液を使用してα-酸化ガリウムの成膜を行った。ミスト吐出ノズルには石英製のものを使用した。サセプターにはアルミ製ホットプレートを使用し、基板を450℃に加熱した。次にサセプターを10mm/sの速度でミスト吐出ノズルの下を水平方向に往復駆動させ、さらにミスト吐出ノズルからサセプター上の基板へ混合気を5L/min供給して60分間成膜を行った。
【0073】
作製した積層体の結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGaであることが確認された。この後、実施例1と同様に膜を評価した。
【0074】
(比較例1)
超音波を、筒状部材の筒内に向けて超音波発生器から直上に照射した他は、実施例1と同様に成膜を行った。
【0075】
作製した積層体の結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGaであることが確認された。この後、実施例1と同様に膜を評価した。
【0076】
(比較例2)
超音波を、筒状部材の筒内に向けて超音波発生器から直上に照射した以外は実施例2と同様に成膜を行った。
【0077】
作製した積層体の結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGaであることが確認された。この後、実施例1と同様に膜を評価した。
【0078】
実施例1、2、3及び比較例1、2における成長速度および得られた膜のパーティクル密度を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1より、実施例1、2、3に示されるように、本発明に係る成膜装置は、高い成長速度で、かつパーティクルが少ない高品質な膜を作製することのできる優れたものであることが分かる。一方、従来技術の成膜用霧化装置を用いた比較例1、2では、成長速度が低く、また多くのパーティクルが付着していた。
【0081】
(実施例4)
成膜時間、すなわち、成膜室にミストと窒素ガスの混合気を供給する時間を120分間としたこと以外は実施例1と同じ条件で成膜を行い、膜厚1μm以上の半導体膜の成膜を行った。そして、成膜して得た膜の表面のパーティクル(直径0.3μm以上)密度を、基板検査機(KLA candela-CS10)で評価した。
【0082】
(実施例5)
成膜時間を120分間としたこと以外は実施例2と同条件で成膜し、実施例4と同条件で評価を行った。
【0083】
(実施例6)
成膜時間を120分間としたこと以外は実施例3と同条件で成膜し、実施例4と同条件で評価を行った。
【0084】
(比較例3)
成膜時間を120分間としたこと以外は比較例1と同条件で成膜し、実施例4と同条件で評価を行った。
【0085】
(比較例4)
成膜時間を120分間としたこと以外は比較例2と同条件で成膜し、実施例4と同条件で評価を行った。
【0086】
実施例4、5、6及び比較例3、4における成長速度および得られた膜のパーティクル密度を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2より、実施例4、5、6に示されるように、本発明に係る成膜装置を用いて成膜を行った場合、高い成長速度で、かつパーティクルが少ない高品質な膜を作製することができることが分かる。特に、直径0.3μm以上のパーティクル密度が50個/cm以下である半導体膜を得ることができた。一方、従来技術の成膜用霧化装置を用いた比較例3、4では、成長速度が低く、また多くのパーティクルが付着していた。
【0089】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0090】
100…成膜用霧化装置、 111…原料容器、 112…キャリアガス導入口、
113…筒状部材、 114…原料溶液、 120…超音波発生器、
121…超音波発生源、 121a…角度調節機構、 122…液槽、
123…中間液、 131…キャリアガス、 132…ミスト、 133…混合気、
201…原料溶液、 202…液柱、 210…原料容器、 220…筒状部材、
300…成膜装置、 311…キャリアガス供給部、 313、324…配管、
320…成膜用霧化装置(霧化手段)、 321…原料溶液、 322…ミスト、
330…成膜手段、 331…成膜室、 332…サセプター、 333…加熱手段、
334…基体、 340…排気手段、 351…キャリアガス、 352…混合気、
400…成膜装置、 422…ミスト、 430…成膜手段、 431…ノズル、
432…サセプター、 433…加熱手段、 434…基体、 435…排気手段、
452…混合気。
図1
図2
図3
図4