IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

特許7357346エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム
<>
  • 特許-エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム 図1
  • 特許-エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム 図2
  • 特許-エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム 図3
  • 特許-エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム 図4
  • 特許-エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム 図5
  • 特許-エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム 図6
  • 特許-エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、エクソソームの除去方法、分離液の取得方法およびエクソソームの単離カラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230929BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230929BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20230929BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20230929BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20230929BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20230929BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20230929BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20230929BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20230929BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230929BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALN20230929BHJP
【FI】
G01N33/543 581U
G01N33/53 S
G01N33/543 581W
G01N30/00 B
B01J20/281 X
C12N1/02
C12N5/07
C12M1/26
C07K17/00
C07K14/00
C07K7/08
C12Q1/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019164575
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021043037
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 丈典
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039179(WO,A1)
【文献】特開2007-112904(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084807(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/053243(WO,A1)
【文献】特表2019-518428(JP,A)
【文献】JNC株式会社,Cellufine ET clean | Affinity chromatography media for endotoxin removal,https://www.jnc-corp.co.jp/fine/en/cellufine/grade/grade-1-etclean/
【文献】Masayo Sakata,Selective Assay for LPS with Polylysine-Immobilized Cellulose Beads and Limulus Amebocyte Lysate, e-J. Surf. Sci. Nanotech,2009年,Vol. 7,pp.747-749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソソームを含む試料から前記エクソソームを単離する、エクソソームの単離方法であって、
前記試料と、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドが担持された担体と、を接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、前記複合体から前記エクソソームを解離させる解離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの単離方法。
【請求項2】
前記複合体に含まれる前記エクソソームは、CD63陽性エクソソームの含有量が、CD9陽性エクソソームの含有量の10%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のエクソソームの単離方法。
【請求項3】
前記ペプチドが結合した前記担体を、カラムに充填して用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のエクソソームの単離方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のエクソソームの単離方法を行なうためのエクソソームの単離キットであって、
前記ペプチドが担持された前記担体および前記解離バッファーを含むことを特徴とする、エクソソームの単離キット。
【請求項5】
エクソソームを含む試料から前記エクソソームを除去する、エクソソームの除去方法であって、
前記試料と、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドが担持された担体と、を接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって形成された前記複合体を担持する前記担体と、前記試料とを分離して、前記試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの除去方法。
【請求項6】
エクソソームを含む試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る、分離液の取得方法であって、
前記試料と、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドが担持された担体と、を接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって形成された前記複合体を担持する前記担体と、前記試料とを分離して、前記試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された前記分離液を得る分離工程を含むことを特徴とする、分離液の取得方法。
【請求項7】
請求項3に記載のエクソソームの単離方法請求項5に記載のエクソソームの除去方法または請求項6に記載の分離液の取得方法を行うためのエクソソームの単離カラムであって、
前記ペプチドが担持された前記担体が充填されていることを特徴とする、エクソソームの単離カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、およびエクソソームの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、細胞から分泌される直径50~150nm程度の、脂質二重膜に覆われている細胞外小胞である。エクソソームの内部には、マイクロRNA(以下、「miRNA」という。)等、分泌元の細胞固有の情報が高度に保存されていることから、がん等の各種疾患および生命現象の新たなバイオマーカーとして注目されている。
【0003】
また近年、間葉系幹細胞由来のエクソソームが、抗炎症作用および複合的な免疫制御作用を持つことが明らかとなり、エクソソームそのものを治療薬として利用する研究が活発に行われている。そのため、エクソソームを損傷の少ない状態(インタクトな状態)で単離する技術の重要性が高まってきている。エクソソームによる治療および診断の世界的な市場規模は、2023年には1億8千万米ドルに達するとの予測もあり、エクソソームの研究は最も成長が期待される研究分野のひとつに挙げられている。
【0004】
エクソソームの単離方法としては、超遠心機を用いた超遠心分離法が一般的に利用されている。しかしながら、この超遠心分離法は、大スケール化(大量精製)および多検体化に対応することが難しい。さらには、強い遠心力によってエクソソームが損傷を受ける等の問題点も指摘されている。これからのエクソソーム研究およびエクソソームによる治療の普及には、より再現性が高く、大量かつ多検体に対応できる単離方法の開発が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、互いに近接した4つ以上のリジンを含むペプチドを利用することで、損傷の極めて少ない、インタクトな状態でのエクソソームの単離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2019/039179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エクソソームは均一なものではなく、分化した細胞の種類および状態によって多様に変化することが知られている。例えば、CD9およびCD63はいずれもエクソソームのマーカーとして知られているが、エクソソームでの、CD9の発現量とCD63の発現量との相関はあまり高くないと考えられている。すなわち、比較的CD9の発現量が多いエクソソーム(CD9陽性エクソソーム)と、比較的CD63の発現量が多いエクソソーム(CD63陽性エクソソーム)とが存在する。CD63陽性エクソソームは、腫瘍化した細胞から多く分泌されることが知られている(参考文献:Ricklefs FL et al. J Extracell Vesicles. 2019;8(1);1588555)。したがって、特にがん診断分野においては、CD63陽性エクソソームを効率よく単離できることが求められる。また、今後、例えばエクソソームそのものを治療薬として利用する場合には、多様な種類のエクソソームを単離できる方法が必要となる。しかしながら、特許文献1に記載のエクソソームの単離方法では、単離できるエクソソームの種類については不明である。
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献1に記載のエクソソームの単離方法(後述の、アルファ結合により連続するリジンを含むペプチドを用いた方法)は、CD9陽性エクソソームがCD63陽性エクソソームよりも優先的に単離できることが分かった(後述の比較例2参照)。本発明の目的は、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)多様な種類のエクソソーム、特にCD63陽性エクソソームを効率よく単離する方法、エクソソームの単離キット、およびエクソソームの単離カラムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、エクソソームを含む試料から簡便に多様な種類のエクソソームを除去できる、エクソソームの除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、イプシロン結合により連続するリジンを含むペプチドは、多様なエクソソームと結合することができ、特にCD63陽性エクソソームと優先的に結合できることを見出した。さらに、本発明者らは、イプシロン結合により連続するリジンを含むペプチドを担持した担体を用いた場合、担体に結合したエクソソームを温和な条件で担体から解離できることを見出した。そして、本発明者らは、これらの知見から、多様なエクソソームのうち、特にCD63陽性エクソソームを優先的に単離できる方法を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下のような構成である。
〔1〕エクソソームを含む試料からエクソソームを単離する、エクソソームの単離方法であって、前記試料と、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドが担持された担体と、を接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、前記複合体から前記エクソソームを解離させる解離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの単離方法。
〔2〕前記複合体に含まれる前記エクソソームは、CD63陽性エクソソームの含有量が、CD9陽性エクソソームの含有量の10%以上であることを特徴とする、〔1〕に記載のエクソソームの単離方法。
〔3〕前記ペプチドが結合した前記担体を、カラムに充填して用いることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のエクソソームの単離方法。
〔4〕〔1〕から〔3〕の何れか1つに記載のエクソソームの単離方法を行なうためのエクソソームの単離キットであって、前記ペプチド、前記担体および前記解離バッファーを含むことを特徴とする、エクソソームの単離キット。
〔5〕エクソソームを含む試料からエクソソームを除去する、エクソソームの除去方法であって、前記試料と、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドが担持された担体と、を接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、前記複合体形成工程によって形成された前記複合体を担持する前記担体と、前記試料とを分離して、前記試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの除去方法。
〔6〕〔3〕に記載のエクソソームの単離方法または〔5〕に記載のエクソソームの除去方法を行うためのエクソソームの単離カラムであって、前記ペプチドが結合した前記担体が充填されていることを特徴とする、エクソソームの単離カラム。
〔7〕〔1〕から〔3〕の何れか1つに記載のエクソソームの単離方法によって単離されたことを特徴とする、エクソソーム。
〔8〕〔5〕に記載のエクソソームの除去方法によって得られたことを特徴とする、分離液。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)、多様な種類のエクソソームを単離することが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ε-ポリリジンおよびα-ポリリジンの構造を示す図である。
図2】実施例1の実験操作手順の概要を示す図である。
図3】実施例1の精製チャートおよび精製結果を示す図である。
図4】実施例2の実験操作手順の概要を示す図である。
図5】比較例2の実験操作手順の概要を示す図である。
図6】実施例2および比較例2に係る方法により単離されたエクソソームのマーカー解析結果を示す図である。
図7】実施例2および比較例2に係る方法により単離されたエクソソームの比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。本発明はまた、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0014】
本明細書中では、用語「ペプチド」は、「ポリペプチド」と交換可能に使用され、ペプチド結合によってアミノ酸2個以上が結合した化合物を意味する。また、「ペプチド結合」は、アミノ酸におけるα位のアミノ基とカルボキシル基との結合だけではなく、アミノ酸の側鎖に含まれるアミノ基と、α位のカルボキシル基との結合についても含む。ここで、アミノ酸の側鎖に含まれるアミノ基が、リジンにおけるε位のアミノ基である場合のペプチド結合を「イプシロン結合」という。本明細書中では、アミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
【0015】
〔1.エクソソームの単離方法〕
本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離方法(以下、適宜「本発明の単離方法」という。)は、エクソソームを含む試料からエクソソームを単離する、エクソソームの単離方法であって、
前記試料と、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドが担持された担体と、を接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、前記複合体から前記エクソソームを解離させる解離工程を含んでいる。
【0016】
本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離方法は、上記構成とすることから、下記(1)~(3)の効果を奏する。
(1)超遠心機等を使用する必要がないため、短時間に、かつ、簡便に、エクソソームを単離できる。
(2)イプシロン結合により連続するリジンが、比較的CD63の発現量が多いエクソソーム(CD63陽性エクソソーム)を含む多様なエクソソームの膜に結合することを利用しているため、広くエクソソームを捕捉し、単離することができる。
(3)エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響が無い(または少ない)金属陽イオンを含む解離バッファーを用いたマイルドな(温和な)条件で、複合体からエクソソームを解離させている。そのため、エクソソームを傷つけることなく(換言すればインタクトな状態、またはインタクトに近い状態で)、複合体からエクソソームを単離することができる。
【0017】
インタクトな状態(またはインタクトに近い状態)のエクソソームを単離することによって、例えば、(1)エクソソームの生理作用等の機能解析、および(2)バイオマーカー(エクソソーム由来のタンパク質、miRNA等の核酸)等に利用することが可能である。
【0018】
また、エクソソームはがん、アルツハイマー病、心筋梗塞、脳梗塞、および感染症等、幅広い疾患の治療への応用が期待されている。そのため、インタクトな状態(またはインタクトに近い状態)のエクソソームを単離することによって、単離したエクソソームそのものを、(3)治療薬、および(4)ドラッグデリバリーシステムの運搬体、として利用できる。特に、上記(3)治療薬としてのエクソソームの利用には、(A)再生医療への補助的な利用、(B)免疫制御を目的とした利用、および(C)ワクチンとしての利用等が考えられている(参考文献:実験医学、2016年、34巻、p1390-1396:エクソソームが築く次世代医療)。
【0019】
上記(A)~(C)について具体例を挙げて説明する。間葉系幹細胞(mesenchymal stem/stromal cell;MSC)由来のエクソソームは、最も研究されているエクソソームである。MSC由来のエクソソームは、細胞分裂の促進作用、抗アポトーシス作用、および抗炎症作用を持つことが知られている。これにより、損傷組織の周囲の組織の2次的な損傷を低減することが可能であり、損傷組織の回復を促進することができる。そのため、皮膚および肝臓の再生、並びに心筋梗塞からの回復等の多くの疾患への応用が期待されている((A)再生医療への補助的な利用)。また、MSC由来のエクソソームには、複合的な免疫制御作用があり、自己免疫疾患の治療、および臓器移植後の免疫制御への応用が期待されている((B)免疫制御を目的とした利用)。
【0020】
また、抗原提示細胞にがん抗原ペプチドを反応させた後に回収した、抗原提示細胞から分泌されたエクソソームには、抗原ペプチドが提示されており、CD4およびCD8T細胞を活性化する作用がある。また、がん細胞由来のエクソソームを直接抗原として使用することによって、当該エクソソームをワクチンとして利用することも考えられている((C)ワクチンとしての利用)。
【0021】
特に、本発明の単離方法により効率的に単離できるCD63陽性エクソソームは、腫瘍化した細胞から多く分泌されることが知られている。本発明の単離方法は、比較的CD9の発現量が多いエクソソーム(CD9陽性エクソソーム)およびCD63陽性エクソソーム等を含む、多様な種類のエクソソームを網羅的に単離できる。したがって、本発明の単離方法により単離されたエクソソームによれば、上記(1)エクソソームの生理作用等の機能解析について、より網羅的かつ漏れの少ない解析が実現できる。特にがん分野においては、上記(1)エクソソームの生理作用等の機能解析によるがん病態の解明等への効果的な利用が期待できる。
【0022】
また、本発明の単離方法により単離されたエクソソームは、上記(2)バイオマーカーとして利用することで、がん診断ツールとしての効果的な利用が期待できる。さらに、上記(3)治療薬、および上記(4)ドラッグデリバリーシステムの運搬体としての利用についても、より多様な種類のエクソソームを単離できることにより、応用可能な範囲が広がることが期待できる。
【0023】
以下では、本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離方法に用いられる材料についてまずは説明し、続いて、エクソソームの単離方法の各工程について説明する。
【0024】
〔1-1.材料〕
(試料)
本発明の単離方法において、「エクソソームを含む試料」(本明細書中では、単に試料とも称する)とはエクソソームを含む混合物であれば、その他の構成は特に限定されず、例えば、エクソソームを含む生物学的試料が挙げられる。
【0025】
本明細書中では、「生物学的試料」とは、生物の体内から採取された検体を意味する。生物学的試料としては、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液、汗、母乳、羊水、脳脊髄液(髄液)、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液等が含まれるがこれらに限定されない。生物学的試料の選択は、目的に応じて、当業者により適宜設定され得る。例えば、採取の容易さの観点からは、血液、血漿、血清、唾液、尿等が好ましく用いられる。
【0026】
本発明の一実施形態では、生物学的試料の由来は、エクソソームを保有する生物種由来であれば別段限定されない。生物学的試料の由来となる生物種としては、例えば哺乳類が好ましい。哺乳類の例としては、マウス(Mus musculus)、ウシ(Bos Taurus)、ヒト(Homo sapiens)等が挙げられる。
【0027】
(ペプチド)
本発明の単離方法において利用するペプチド(以下、適宜「本発明のペプチド」という。)は、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジン(「リシン」ともいう。)を含むペプチドであって、試料中のエクソソームと結合することができる。特に、このようなペプチドであればCD63陽性エクソソームと好適に結合することができる。
【0028】
本発明の発明者らは、本発明のペプチドが、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むことによって、本発明のペプチドはCD63陽性エクソソームを含む多様なエクソソームと結合できることを見出した。また、本発明の発明者らは、上述の特許文献1に記載のエクソソームの単離方法では、CD9陽性エクソソームが、CD63陽性エクソソームよりも優先的に単離されることを見出した(後述の比較例2参照)。すなわち、イプシロン結合により連続するリジンは、α位のアミノ基およびカルボキシル基により結合するペプチド結合(「アルファ結合」ともいう。)により連続するリジンよりも、CD63陽性エクソソームとの結合親和性が高い。これは、本発明の発明者らによる鋭意研究により見出された知見である。したがって、本発明の単離方法によれば、CD63陽性エクソソームを容易に単離できる。
【0029】
本発明のペプチドと結合するエクソソームは、CD63陽性エクソソームの含有量が、CD9陽性エクソソームの含有量の10%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の15%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の20%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量25%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の30%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の35%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の40%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の45%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の50%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の55%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の60%以上である。
【0030】
図1に示すように、イプシロン結合により連続するリジン(ε-ポリリジン)の側鎖に含まれるアミノ基は、アルファ結合により連続する複数のリジン(α-ポリリジン)の側鎖に含まれるアミノ基よりも、ポリペプチドの主鎖に近い位置に配置される。このように、同じリジンであっても、ペプチド結合の部位が違うとポリペプチドの構造が大きく異なる。これにより、イプシロン結合により連続するリジンと、α結合により連続するリジンとの間で、エクソソームに対する結合性の違いが生じると考えられる。
【0031】
本発明のペプチドは、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含んでいればエクソソームを単離できる程度の結合強度を持ってエクソソームに結合することができる。本発明のペプチドは、イプシロン結合により連続する20個以上のリジンを含むことが好ましく、イプシロン結合により連続する25個以上のリジンを含むことがより好ましく、イプシロン結合により連続する30個以上のリジンを含むことがより好ましく、イプシロン結合により連続する35個以上のリジンを含むことがより好ましい。また、本発明のペプチドに含まれる、イプシロン結合により連続するリジンは40個以下であることが好ましい。本発明のペプチドが上記構成を有することによって、当該ペプチドは、エクソソームとより結合しやすくなるという利点を有する。
【0032】
本発明のペプチドは、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含む限り、その他の構成は特に限定されず、リジンのみからなるペプチドであってもよく、またリジン以外のアミノ酸を含むペプチドであってもよい。さらには、本発明のペプチドは糖鎖またはイソプレノイド基等のペプチド以外の構造をさらに含む複合ペプチドであってもよい。本発明のペプチドに含まれるアミノ酸は修飾されていてもよい。また本発明のペプチドに含まれるアミノ酸はL型であっても、D型であってもよい。
【0033】
本発明のペプチドは、当該分野において公知の任意の手法に従って容易に作製され得、例えば、微生物により産生される天然ペプチドとして発現されてよい。イプシロン結合により連続するリジンを生産する微生物については、例えば参考文献(Shima, S. and Sakai H. (1977). Polylysine produced by Streptomyces. Agricultural and Biological Chemistry 41: 1807-1809)に記載されている。また、ペプチドの発現ベクターが導入された形質転換体によって発現されても、化学合成されてもよい。すなわち、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた、本発明の範囲内である。化学合成法としては、液相法を挙げることができる。また市販されているε-ポリリジンを本発明のペプチドとして利用可能である。
【0034】
本発明のペプチドは、最小で20個のリジンからなり得るため、本発明のペプチドの分子量の下限は2581.42[=(146.19×20)-(18.02×19)]であるといえる。本発明のペプチドの分子量の上限は特に限定されるものではないが、溶解性および粘度等の操作性の観点からは300000程度が上限であるといえる。
【0035】
本発明のペプチドは、単一の分子量を有するペプチドからなるものであっても、それぞれ異なった分子量を有するペプチドの混合物からなるものであってもよい。
【0036】
(担体)
本発明の単離方法において利用する担体(以下適宜「本発明の担体」という。)は、本発明のペプチドが担持可能な担体を意味する。本発明の担体は、エクソソームに結合した本発明のペプチドと結合しエクソソーム-本発明のペプチド-本発明の担体の順で結合した複合体を形成し得る。
【0037】
本発明の単離方法では、担体を用いることによって、エクソソームを含む複合体を効率的かつ簡便に単離することが可能となる。
【0038】
担体は、本発明のペプチドを直接的または間接的に担持(保持)できる構造物であれば、その他の構成は特に限定されない。本発明の担体としては、担体に結合する本発明のペプチドの機能を弱めない支持体であることが好ましく、例えば、ガラス、ナイロンメンブレン、半導体ウェハー、ラテックス粒子、セルロース粒子、マイクロビーズ、シリカビーズ、磁性ビーズ等が挙げられる。本発明の担体としては、エクソソームを含む複合体の回収およびエクソソームの単離を容易に行なうことができるという点で、カラム精製に適したセルロース粒子であることが好ましい。セルロース粒子はタンパク質、DNA、細胞等の分離精製において広く使用されており、当業者であれば十分に理解し得る担体である。
【0039】
ペプチドと担体との結合態様は、別段限定されず、周知の態様であってよい。また、ペプチドと担体との結合は直接的であっても間接的であってもよい。また、ペプチドと担体との結合は、ポリペプチドからなるリンカーを介してもよい。
【0040】
担体と結合するペプチドの種類は、一種類であってもよいし、複数種類の組み合わせであってもよい。複数種類のペプチドが組み合わせて用いられる場合、その組み合わせは別段限定されない。
【0041】
なお本発明のペプチドは、ビオチン化して、本発明の担体に保持されたストレプトアビジンに結合させてもよい。
【0042】
(解離バッファー)
本発明の単離方法では、後述する解離工程において、複合体と金属陽イオンを含む解離バッファー(以下、適宜「本発明の解離バッファー」という。)とを接触させることによって、複合体からエクソソームを解離させ、エクソソームを単離する。本発明の解離バッファーはタンパク質変性剤等を含むことなく、マイルドな(温和な)条件でエクソソームを複合体から解離させることができるため、エクソソームをインタクトな状態(インタクトに近い状態)で単離することができる。このようなマイルドな解離バッファーで、本発明のペプチドとエクソソームとの結合を解離させることができるということを見出したのは本発明者らが初めてであり、この新規知見を知らない当業者は本発明に容易に想到することはできない。またエクソソームをインタクトな状態(インタクトに近い状態)で簡便に単離することができるという効果は、本発明の顕著かつ有利な効果である。
【0043】
本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンとしては、特に限定されず、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、銀イオン、および銅(I)イオン等の1価の金属陽イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、バリウムイオン、銅(II)イオン、鉄(II)イオン、スズ(II)イオン、コバルト(II)イオン、および鉛(II)イオン等の2価の金属陽イオン、ならびにアルミニウムイオン、および鉄(III)イオン等の3価の金属陽イオン、等が挙げられる。本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンとしては、これら金属陽イオンの中でも、水溶性が高いことから、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、およびニッケルイオンが好ましい。さらに、複合体からエクソソームを十分に解離させることができることから、本発明の解離バッファーは、上述した金属陽イオンの中でもナトリウムイオン、カリウムイオン、もしくはマグネシウムイオンを、単独でまたは組み合わせて含むことが好ましい。
【0044】
本発明の単離方法の目的は、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)エクソソームを単離することである。よって、本発明の単離方法において「インタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)エクソソームを単離する」とは、エクソソームを傷つけることなく(ほぼ傷つけることなく)、試料中のエクソソームを、試料中のエクソソーム以外の物質(例えばタンパク質等)から分離し、単離することを意味する。換言すれば、本発明の単離方法において「インタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)エクソソームを単離する」とは、エクソソームの膜構造(具体的には脂質二重膜構造)を保った状態(ほぼ保った状態)で、および、膜に存在するタンパク質の構造を保った状態(ほぼ保った状態)で、試料中のエクソソームを、試料中のエクソソーム以外の物質と分離し、単離することを意味する。
【0045】
解離バッファーは、エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない範囲において、金属陽イオン以外の物質を含んでいてもよい。
【0046】
解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、複合体からエクソソームを解離させることが可能であり、かつ、エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない限り、特に限定されない。つまり、使用する本発明のペプチドとエクソソームとの結合強度、および金属陽イオンの種類(価数)等に応じて最適な陽イオンの濃度は変わり得る為、適宜最適な濃度を検討の上、決定すればよい。なお、本発明の解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.01M~5Mであることが好ましく、0.05M~2Mであることがより好ましく、0.1M~1Mであることがさらに好ましく、0.2M~0.7Mであることがさらに好ましく、0.2~0.4Mであることが特に好ましい。
【0047】
また、解離バッファーのpHは適宜設定され得る。解離バッファーのpHは、5~10であることが好ましく、6~9であることがより好ましく、7~8であることがさらに好ましく、7.3~7.5であることが特に好ましい。解離バッファーのpHが上記範囲であれば、エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えないため好ましい。
【0048】
〔1-2.工程〕
(複合体形成工程)
本発明の単離方法に含まれる複合体形成工程(以下、適宜「本発明の複合体形成工程」という。)は、エクソソームを含む試料と、本発明の担体に担持された本発明のペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体(エクソソーム-本発明のペプチド-本発明の担体の順で結合した複合体。以下、適宜「本発明の複合体」という。)を形成させる複合体形成工程である。試料と、本発明の担体に担持された本発明のペプチドとを接触させる方法としては、試料中のエクソソームと本発明の担体に担持された本発明のペプチドとが結合し、本発明の複合体を形成できるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。
【0049】
例えば、エクソソームを含む試料と本発明の担体に担持された本発明のペプチドとの接触において、例えば柱状または円筒状の容器(カラム)に本発明のペプチドが担持された本発明の担体を充填することによって調製したカラム(本明細書中では、「ペプチドカラム」という。)を用いる方法が挙げられる。当該ペプチドカラムに試料を含む溶液を通液させることによって、試料と本発明の担体に担持された本発明のペプチドとを接触させ、本発明の複合体を得ることが可能である。この場合、本発明のペプチドが本発明の担体に予め担持された、市販のεポリペプチド担体等を用い、当該εポリペプチド担体等をカラムに充填することによって、ペプチドカラムを作製してもよい。
【0050】
ペプチドカラムと試料との接触時間は、試料中のエクソソームと本発明の担体に担持された本発明のペプチドとが本発明の複合体を形成するために十分な時間であることが好ましい。上記時間は、試料を含む溶液の通液速度、または、当該溶液を添加してから通過を開始するまでの時間等を調整することによって、適宜設定できる。
【0051】
前記ペプチドカラムに試料溶液を通液させるための物理的方法は従来公知の方法を用いることが可能である。例えば、以下(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)鉛直方向に載置されたペプチドカラム上に、前記試料溶液を添加し、重力によってペプチドカラム内に前記試料溶液を通液させる方法。
(2)ペプチドカラムの一方に前記試料溶液を添加し、試料溶液を添加した方向から加圧するか、または、試料溶液を添加した方向とは逆の方向から吸引することによって、ペプチドカラム内に前記試料溶液を通液させる方法。
(3)ペプチドカラムの一方に試料溶液を添加した後、当該ペプチドカラムを遠心チューブ内に装填し、当該遠心チューブを遠心分離することによって、ペプチドカラム内に前記試料溶液を通液させる方法。なお、上記(3)の方法は、いわゆる従来公知のスピンカラムを用いた方法である。すなわち、本発明の担体を充填するカラムは、スピンカラムであってもよい。
【0052】
また、複合体形成工程は、カラムを用いずに、本発明のペプチドと本発明の担体と試料とを接触させた後にエクソソーム-本発明のペプチド-本発明の担体の順で結合した複合体を形成させてもよい。この場合、本発明の担体としては磁気ビーズを用いてもよい。
【0053】
(洗浄工程)
本発明の単離方法には、洗浄工程が含まれていることが好ましい。
【0054】
洗浄工程は、カラム中等の本発明の複合体を、適当な洗浄液を用いて、適当な回数洗浄する工程である。洗浄工程は、当該複合体が解離しない条件下で行なわれるものであれば、使用される洗浄液の種類および洗浄回数等は特に限定されない。
【0055】
洗浄工程で使用される洗浄液としては、例えば、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline、PBS)が挙げられる。
【0056】
本発明の複合体形成工程において、ペプチドカラムまたは担体カラムを用いた場合には、本発明の複合体が形成された後のカラムに対して前記洗浄液を適当量通液すればよい。
【0057】
(解離工程)
本発明の単離方法に含まれる解離工程(以下、適宜「本発明の解離工程」という。)は、前記複合体形成工程によって得られた本発明の複合体と、金属陽イオンを含む本発明の解離バッファーとを接触させて、本発明の複合体からエクソソームを解離させる工程である。
【0058】
本発明の複合体と本発明の解離バッファーとを接触させる方法としては、本発明の複合体からエクソソームを解離させるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。例えば、複合体形成工程において本発明の複合体が形成されたカラムに、本発明の解離バッファーを通液させることによって、本発明の複合体と本発明の解離バッファーとを接触させることが可能である。カラムへ本発明の解離バッファーを通液させるための物理的方法としては、(複合体形成工程)の項に記載した(1)~(3)の方法が挙げられる。カラムと本発明の解離バッファーとを接触させた場合には、エクソソームは複合体から解離され当該解離バッファーへ移動する。従って、カラム通液後の解離バッファーを単離することによって、エクソソームを単離することができる。
【0059】
カラム中の担体と解離バッファーとの接触時間は、本発明の複合体からエクソソームが解離するために十分な時間であることが好ましい。上記時間は、解離バッファーの通液速度、または、解離バッファーを添加してから通過を開始するまでの時間等を調整することによって、適宜設定できる。
【0060】
また、カラムを用いない場合には、本発明の複合体を含む容器に本発明の解離バッファーを添加し、混合させる方法であってもよい。本発明の複合体と本発明の解離バッファーとの接触によって、エクソソームは本発明の複合体から解離され、当該解離バッファーへ移動する。そして、当該解離バッファーと本発明の担体とを分離し当該解離バッファーを単離することにより、エクソソームを単離することができる。
【0061】
本発明の解離工程において、本発明のペプチドは、本発明の担体に結合されたままでいてもよく、本発明の担体から解離されていてもよい。また、上記分離の後、単離された解離バッファー中に本発明のペプチドが含まれていてもよい。エクソソームをより純度高く単離する観点から、本発明の解離工程において本発明のペプチドは本発明の担体に結合されたままでいることが好ましく、上記分離の後、単離された解離バッファー中に本発明のペプチドが含まれていないことが好ましい。
【0062】
なお、本発明の単離方法によって単離されたエクソソームについても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
〔2.エクソソームの除去方法〕
本発明の一実施形態に係るエクソソームの除去方法(以下、適宜「本発明の除去方法」という。)は、エクソソームを含む試料からエクソソームを除去する、エクソソームの除去方法であって、
前記試料と、イプシロン結合により連続する20個以上40個以下のリジンを含むペプチドが担持された担体と、を接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって形成された前記複合体を担持する前記担体と、前記試料とを分離して、前記試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含んでいる。
【0064】
本発明の一実施形態に係るエクソソームの除去方法は、上記構成とすることから、下記(1)および(2)の効果を奏する。
(1)超遠心機等を使用する必要がないため、短時間に、かつ、簡便に、エクソソームを除去できる。
(2)イプシロン結合により連続するリジンが、CD63陽性エクソソームを含む多様なエクソソームの膜に結合することを利用しているため、広くエクソソームを捕捉し、試料中から除去することができる。
【0065】
上記(1)および(2)の効果により、本発明の除去方法によって、試料から、CD63陽性エクソソームを含む多様な種類のエクソソームが効率的に除去された分離液を得ることができる。したがって、エクソソームの残留が極めて少ない分離液を、簡便な方法により容易に得ることができる。
【0066】
このようなエクソソームの除去方法は、例えばエクソソームを除去した血清の作製に有用である。培養細胞を培養する場合、一般的にウシ胎児血清(FBS)が使用される。通常、FBSにはウシ由来のエクソソームが含まれるため、ヒト細胞から分泌されたエクソソームを回収したい場合、あらかじめウシ由来のエクソソームを除去したFBSを使用する必要がある。このようなFBSを作製するために、一般的には100000×gで16時間以上、4℃で超遠心分離することで、エクソソームを除去する方法が用いられる。しかしながら、この超遠心法ではエクソソームの除去に長時間必要となる、FBS中から完全にエクソソームを除去することは難しい(例えば、超遠心時間が16時間だと、約20%のエクソソームはFBS中に残存する)等の問題がある。一方、本発明の除去方法によれば、ウシ由来のエクソソームが含まれたFBSをカラムに通すだけで良いため、ウシ由来のエクソソームを除去したFBSを容易に作製できる。
【0067】
〔2-1.材料〕
本発明の一実施形態に係る除去方法は、上述した本発明のペプチドおよび本発明の担体を用いて行なうことができる。また、本発明の除去方法における「エクソソームを含む試料」は、本発明の単離方法にて用いる試料と同様である。よって、材料については〔1-1.材料〕の説明を援用可能である。
【0068】
〔2-2.工程〕
本発明の除去方法は、複合体形成工程および分離工程を含む。複合体形成工程については、上述した本発明の単離方法に含まれる複合体形成工程と同様のため、〔1-2.工程〕の(複合体形成工程)の説明を援用可能である。
【0069】
(分離工程)
本発明の除去方法に含まれる分離工程(以下、適宜「本発明の分離工程」という。)は、
前記複合体形成工程によって形成された本発明の複合体を担持する本発明の担体と、本発明のペプチドおよび本発明の担体と接触後の試料とを分離して、前記試料からエクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程である。
【0070】
本発明の複合体と試料とを分離する方法としては、本発明の複合体形成工程においてペプチドカラムまたは担体カラムが用いられる場合には、フロースルーとして分離液を回収でき、本発明の複合体はカラム内に留まる。したがって、本発明の複合体と試料とを分離することが容易である。
【0071】
また、カラムを用いない場合には、例えば遠心分離によって本発明の複合体を試料から分離することができる。例えば、500g~4000gの条件下で遠心を行なうことによって、本発明の複合体を試料から分離することが可能である。
【0072】
また本発明の複合体に含まれる担体が、磁性ビーズである場合には、従来公知のマグネティックスタンド等の磁性体を用いて外部から磁力を与えることによって、複合体を容易に試料から分離することができる。
【0073】
本発明の除去方法は、上述した複合体形成工程および分離工程以外の工程が含まれていてもよい。その他の工程としては、例えば解離工程が挙げられる。
【0074】
(解離工程)
解離工程の方法については、上述の本発明の単離方法に含まれる解離工程と同様のため、〔1-2.工程〕の(解離工程)の説明を援用可能である。解離工程により、本発明の担体が、エクソソームを含む試料との接触前の状態に再生できる。また、解離工程後に、本発明のペプチドが本発明の担体に結合されたままとなる場合には、本発明のペプチドについても、本発明の担体に結合した状態で再利用できる。
【0075】
解離工程では、温和な条件によりエクソソームを本発明の複合体から解離することができるため、本発明の担体および本発明のペプチドは変性等の損傷を受けにくい。したがって、本発明の担体および本発明のペプチドは、解離工程を経ることにより、複数回に渡って本発明の除去方法に利用することができる。
【0076】
なお、本発明の除去方法によって得られた分離液についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
〔3.エクソソームの単離キット〕
本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離キット(以下、適宜「本発明のキット」という)は、上述した本発明の単離方法または本発明の除去方法を行なうためのキットであって、上述した本発明のペプチドが担持された本発明の担体、および本発明の解離バッファー、を含む。よって、キットの構成の説明については、〔1.エクソソームの単離方法〕の説明が援用可能である。
【0078】
また、本発明のキットには、本発明のペプチドが担持された本発明の担体が保持されるカラムが含まれていてもよい。また、当該カラムには本発明のペプチドが担持された本発明の担体が予め充填されていてもよい。前記カラムは重力により試料溶液等を通液させるものであってもよく、前記カラムの一方から吸引により試料溶液等を通液させるものであってもよい。また前記カラムは、従来公知のスピンカラムであってもよい。
【0079】
また本発明のキットには、上記の構成の他に、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュ等)が含まれていてもよい。本発明のキットは、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。本発明のキットの説明において使用される用語「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図され得る。
【0080】
また本発明のキットは、本発明の単離方法または本発明の除去方法を実施するための説明書を備えていてもよい。
【0081】
〔4.エクソソームの単離カラム〕
本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離カラム(以下、適宜「本発明のカラム」という)は、上述した本発明の単離方法または本発明の除去方法を行なうためのカラムであって、上述した本発明のペプチドが担持された本発明の担体が充填されたカラムである。前記カラムは重力により試料溶液等を通液させるものであってもよく、前記カラムの一方から吸引により試料溶液等を通液させるものであってもよい。また前記カラムには、従来公知のスピンカラムが含まれる。
【0082】
本発明のカラムは、〔1.エクソソームの単離方法〕および〔2.エクソソームの除去方法〕を行うために用いられる。したがって、本発明のカラムの説明については、〔1.エクソソームの単離方法〕および〔2.エクソソームの除去方法〕の説明が援用可能である。
【実施例
【0083】
以下、実施例により本発明の一実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
<1.カラムを用いたエクソソームの単離および除去>
〔材料および方法〕
(試料の調製)
エクソソームの多産生株として知られている乳がんの細胞株MCF-7(JCRB細胞バンク)を用いて、以下の方法により試料の調製を行った。培地はDMEM培地(Dulbecco's modified Eagle medium、Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。
(1)ディッシュ中で、MCF-7細胞を10mLのDMEM培地に播種し(1.0×10cells/mL)、37℃、5%COの条件で培養を行なった。DMEM培地には予め、10%(v/v)非働化ウシ胎児血清(HyClone FBS;GE Healthcare社製)、100units/mLペニシリン(ナカライテスク社製)、および0.1mg/mLストレプトマイシン(Meiji Seikaファルマ社製)を添加した。
(2)細胞がディッシュの培養面積に対して50%~80%になるまで培養した。
(3)3mLのPBS(ナカライテスク社製)をゆっくりと添加してディッシュ全体に行き渡らせた後、PBSを取り除いた。
(4)(3)の洗浄工程を2回行い、ディッシュからFBS由来のエクソソームを取り除いた。
(5)10mLのAdvanced DMEM培地(Thermo Fisher Scientific社製)を添加して培養を行なった。24時間培養後、エクソソームが含まれる培養上清を回収した。
(6)培養上清を2000×g、10minの遠心分離を行ない、培養上清中のディッシュから剥がれた細胞を取り除いた。
(7)培養上清を10000×g、30minの遠心分離を行ない、培養上清中のデブリを取り除いた。
(8)培養上清を0.22μmフィルターで濾過し、試料(以下、「精製前サンプル」という。)とした。精製前サンプルは、必要に応じて-80℃で保存した。
【0085】
(カラム精製)
本発明の実施例1として、ε-ポリリジン(イプシロン結合により連続する複数のリジンを含むペプチド)が結合した担体が充填されたカラム(ε-ポリリジンカラム)を用いて、精製前サンプルからのエクソソームの単離および除去を行った。図2に示すように、ε-ポリリジンカラムは、参考文献(高分子論文集、64、12、821-829(2007))に記載の方法により調製した、20~40残基のリジンからなるε-ポリリジンが固定化された多孔性球状セルロース粒子を用いた。このε-ポリリジンカラムを、液体クロマトグラフィーシステム(AKTA purifier、GE Healthcare社製)に接続して精製を行った。精製では、Buffer XとしてBW Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル株式会社製)、Buffer Yとして1M NaCl溶液を用いた。
【0086】
カラム精製の方法について、図3を参照して以下に説明する。
(1)流速0.2mL/min、100%Buffer Xの条件で送液を行ない、ε-ポリリジンカラムを平衡化した。
(2)上述の精製前サンプルに対して、1/10量(例:2mLのサンプルに対して0.2mL)のBinding Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル株式会社製)を添加し、全量をインジェクションした。なお、当該インジェクション後から溶出までの全画分を1mLずつ分取した。
(3)Binding Bufferを添加した精製前サンプルを、ε-ポリリジンカラムを通過させてフロースルー画分として回収した後、そのまま送液してε-ポリリジンカラムを洗浄した。
(4)NaClの濃度勾配(Buffer Y、0-100%、50min)により、ε-ポリリジンカラムに結合したエクソソームを溶出した。図3に示すように、画分A1~A7がフロースルー画分、画分A8~A11が洗浄画分、画分A12以降が溶出画分である。
【0087】
(エクソソームの定量および純度評価)
上述のカラム精製により得られた各画分に含まれるエクソソーム濃度は、CD9/CD63ELISAキット(コスモ・バイオ社製)を用いて測定した。測定サンプルとしては、精製前サンプル、または得られた各画分を20倍にアッセイバッファーで希釈して調製した。また、標準タンパク質として、CD9/CD63融合タンパク質を使用した。測定方法は、同キットのプロコールに従って行なった。具体的な測定方法を以下に示す。
(1)抗CD9抗体固相化96ウェルプレートに、100μLの希釈した測定サンプル、または100μLのCD9/CD63融合タンパク質の段階希釈サンプル(12.5~100pg/mL)を添加して、2時間静置で反応させた。
(2)300μLの洗浄バッファー(1×)で3回洗浄した後、100μLのHRP標識抗CD63抗体溶液を添加して2時間静置で反応させた。
(3)300μLの洗浄バッファー(1×)で3回洗浄した後、100μLの基質液を添加して10分間発色反応させ、50μLの停止液を添加して発色反応を停止させた。
(4)プレートリーダー(ARVO MX 1420、パーキンエルマー社製)でA450の吸光度を測定した。
【0088】
標準タンパク質である、CD9/CD63融合タンパク質の段階希釈サンプルの測定結果から検量線を作成し、測定サンプル中に含まれるエクソソーム濃度を、CD9/CD63融合タンパク質の濃度で換算した。
【0089】
また、純度を評価するために、測定サンプルに含まれるタンパク質濃度についてMicro BCA Protein assay kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。各測定サンプル中の全エクソソーム量(pg)/全タンパク質量(μg)を求め、エクソソームの純度を評価した。
【0090】
(超遠心分離法を用いたエクソソームの単離および純度評価)
比較例1として、超遠心分離法によりエクソソームを単離した。超遠心分離法の具体的な方法は、以下の通りである。
(1)上述の精製前サンプルを用いて、100000×g、70min、4℃の条件で超遠心分離を行なった。
(2)上清を取り除いて、0.5mLのPBS(ナカライテスク社製)で懸濁し、再度同じ条件で超遠心分離を行なった。
(3)上清を取り除いて、0.05mLのPBS(ナカライテスク社製)で懸濁し、超遠心分離サンプルを得た。
【0091】
上述の(エクソソームの定量および純度評価)の方法と同様に、超遠心分離サンプルのエクソソーム濃度は、CD9/CD63ELISAキットを用いて測定した。またタンパク質濃度は、Micro BCA Protein assay kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。そして、超遠心分離サンプル中のエクソソームの純度を、全エクソソーム量(pg)/全タンパク質量(μg)で評価した。
【0092】
〔結果:エクソソームの単離〕
図3中の表に示すように、実施例1において、フロースルー画分(A3)ではエクソソームが検出されなかった。一方、1M NaCl濃度勾配による溶出画分ではエクソソームが検出された。特に、0.2~0.4MのNaClの溶出画分(A15およびB15)では、エクソソームが多く検出された。さらに、エクソソームが検出された画分においてタンパク質濃度の測定を行ない、純度(エクソソーム量(pg)/タンパク質量(μg))の評価を行なった。その結果、精製前サンプルと比較して、溶出画分(A15)では純度が約31倍に、溶出画分(B15)では純度が約56倍に向上していることが分かった(図3)。したがって、本発明の単離方法によれば、エクソソームが高純度で単離できることが示された。
【0093】
次に、本発明の単離方法を用いた実施例1と、最も標準的な方法として知られている超遠心機によるエクソソームの単離方法を用いた比較例1との比較を行った。具体的には、実施例1により単離したエクソソームを含む溶出画分と、比較例1により単離したエクソソームを含む超遠心分離サンプルとの、エクソソームの純度を比較した。結果を以下の表1に示す。実施例1の溶出画分は、比較例1の超遠心分離サンプルよりもエクソソームの純度が最大で約26倍高かった。したがって、本発明の単離方法によれば、従来の超遠心機を用いた単離方法よりも、極めて高い純度(14.6~26倍の純度)でエクソソームを単離できることが示された。
【0094】
【表1】
【0095】
〔結果:エクソソームの除去〕
また、図3中の表に示すように、実施例1において、フロースルー画分(A3)ではエクソソームが全く検出されなかった。このことから、本発明の除去方法によれば、試料からエクソソームを、検出限界以下まで高効率に除去できることが示された。
【0096】
<2.ε-ポリリジンおよびα-ポリリジンによるエクソソームの単離>
〔材料および方法〕
(ε-ポリリジンを用いたエクソソームの単離およびマーカー解析)
本発明の実施例2として、ε-ポリリジンを用いてエクソソームの単離を行った。図4に、本発明の実施例2の単離方法の概要を示している。ε-ポリリジン固定化担体は、<1.カラムを用いたエクソソームの単離および除去>で使用したε-ポリリジンが固定化された多孔性球状セルロース粒子を用いた。なお、実施例2では、遠心分離はいずれも300×g、2minの条件で行った。
【0097】
具体的な方法について、以下に示す。
(1)0.2mLの上述の精製前サンプルに0.02mLのBinding Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル株式会社製)を添加した。
(2)ε-ポリリジン固定化担体(0.2mL)を1.5mLチューブに添加して遠心分離し、ε-ポリリジン固定化担体を沈殿させた。
(3)上清を取り除き、0.2mLのBW Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル株式会社製)を添加して担体と混合し、担体を洗浄した。
(4)(3)の洗浄操作を2回行なった後、ε-ポリリジン固定化担体を0.2mLのBW Bufferで懸濁し、ε-ポリリジン固定化担体の懸濁液を得た。
(5)得られたε-ポリリジン固定化担体の懸濁液100μLと、Binding Bufferを添加した精製前サンプル220μLとを混和し、30min反応させた。
(6)この反応液を遠心分離して、上清を取り除いた。0.2mLのBW Bufferを添加、混合することで洗浄した。
(7)(6)の洗浄操作を3回行なった後、ε-ポリリジン固定化担体を0.2mLのBW Bufferで懸濁した。
(8)得られた懸濁液を、CD9陽性エクソソームの検出用と、CD63陽性エクソソームの検出用とに分けて、それぞれ100μLずつ1.5mLチューブに分注した。また陰性コントロールとして、1.5mLチューブに、50μLのBW Bufferで洗浄したε-ポリリジン固定化担体のみを分注したものを2本用意した。
(9)1.5mLチューブを遠心分離して上清を取り除き、100μLのブロッキング溶液を添加して、20min混和反応させた。ブロッキング溶液は、TBS(pH7.4、ナカライテスク社製)に、2%BSA(富士フィルム和光純薬社製)と0.025% Tween 20(富士フィルム和光純薬社製)を添加した溶液である。
(10)さらに100μLの1次抗体溶液を添加して、30min混和反応させた。1次抗体溶液としては、抗CD9抗体(Anti-CD9 Human (Mouse) Unlabeled 12A12、コスモ・バイオ社製)、または抗CD63抗体(Anti-CD63、Monoclonal Antibody (3-13)、富士フィルム和光純薬社製)を、それぞれブロッキング溶液で1000倍希釈したものを用いた。
(11)1次抗体溶液を添加して30min反応後、遠心分離して上清を取り除き、0.1mLのTBS-T(TBS(pH7.4)に0.025% Tween 20を添加した溶液)で2回洗浄した。
(12)それぞれの1.5mLチューブを遠心分離して上清を取り除き、100μLの2次抗体溶液を添加して、30min混和反応させた。2次抗体溶液としては、Anti-Mouse-HRP(Goat Anti-Mouse IgG H&L (HRP)、ab97023、Abcam社製)をブロッキング溶液で50000倍希釈したものを用いた。
(13)2次抗体溶液を添加して30min反応後、1.5mLチューブを遠心分離して上清を取り除き、0.1mLのTBS-Tで3回洗浄した。
(14)1.5mLチューブを遠心分離して上清を取り除き、0.05mLのTBS(pH7.4)に懸濁した。
(15)得られた懸濁液10μLに90μLの発光基質(ELISA-Starペルオキシダーゼ化学発光基質、富士フィルム和光純薬社製)を添加して5min反応後、プレートリーダーで発光値を測定した。
【0098】
得られた発光値から、陰性コントロールの発光値を差し引いて、ε-ポリリジン固定化担体に結合したCD9陽性エクソソームまたはCD63陽性エクソソームの量を定量した。
【0099】
(α-ポリリジンを用いたエクソソームの単離およびマーカー解析)
比較例2として、α-ポリリジン(アルファ結合により連続する複数のリジンを含むペプチド)を用いてエクソソームの単離を行った。図5に、比較例2の単離方法の概要を示している。比較例2では、8つのリジン残基を含むα-ポリリジンおよび磁性ビーズを用いた。エクソソームの回収は、ExoIntact Exosome精製試薬キット(HMTバイオメディカル株式会社製)を用いて行なった。また、α-ポリリジンを固定化した磁性ビーズ(以降、「α-ポリリジン固定化磁性ビーズ」という。)の調製と、α-ポリリジン結合磁性ビーズと、Binding Bufferを添加した精製前サンプルとの混合、および洗浄は同キットのプロトコルに従って行なった。磁性ビーズと溶液との分離には、マグネットスタンド(Thermo Fisher Scientific社製)を使用した。
【0100】
具体的な方法について、以下に示す。
(1)精製前サンプル0.02mLのBinding Bufferを添加した。
(2)Binding Bufferを添加した精製前サンプル220μLに、α-ポリリジン固定化磁性ビーズを8μL添加して30min混合させることで、α-ポリリジン固定化磁性ビーズにエクソソームを結合させた。α-ポリリジン固定化磁性ビーズは、20μLのBiotin-labeled EX peptide(ビオチン標識したα-ポリリジン)と、20μLのStreptavidin Magnetic Beads(1μm、10mg/mL)とを混合および洗浄した後、20μLのBW Bufferに懸濁して調製した。
(3)反応後、0.2mLのBW Bufferで3回洗浄し、200μLのBW Bufferに再懸濁した。
(4)得られた懸濁液を、CD9陽性エクソソームの検出用と、CD63陽性エクソソームの検出用とに分けて、それぞれ100μLずつ1.5mLチューブに分注した。また陰性コントロールとして、1.5mLチューブに4μLのα-ポリリジン固定化磁性ビーズのみを分注したものを2本用意した。
(5)1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置した後、上清を取り除き、100μLのブロッキング溶液を添加して、20min混和反応させた。ブロッキング溶液は、実施例2と同様のものを使用した。
(6)さらに100μLの1次抗体溶液を添加して、30min混和反応させた。なお、1次抗体溶液および2次抗体溶液は、実施例2と同様のものを使用した。
(7)1次抗体溶液で30min反応後、1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置して上清を取り除き、0.1mLのTBS-Tで2回洗浄した。
(8)1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置して上清を取り除き、100μLの2次抗体溶液を添加して、30min混和反応させた。
(9)2次抗体溶液で30min反応後、1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置して上清を取り除き、0.1mLのTBS-Tで3回洗浄した。
(10)1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置して上清を取り除き、0.04mLのTBS(pH7.4)に懸濁した。
(11)得られた懸濁液10μLに、実施例2と同様の発光基質90μLを添加して5min反応後、プレートリーダーで発光値を測定した。
【0101】
得られた発光値から、陰性コントロールの発光値を差し引いて、α-ポリリジン固定化磁性ビーズに結合したCD9陽性エクソソームまたはCD63陽性エクソソームの量を定量した。
【0102】
〔結果〕
図6に示すように、ε-ポリリジン固定化担体を用いた本発明の実施例2では、α-ポリリジン固定化磁性ビーズを用いた比較例2と比べて、CD9陽性エクソソームおよびCD63陽性エクソソームの両方を、良好に結合できることが分かった。
【0103】
また図7に示すように、担体に結合するCD63陽性エクソソームの量を、担体に結合するCD9陽性エクソソームの量で割った値(CD63/CD9)を比較した結果、ε-ポリリジン固定化担体では、α-ポリリジン固定化磁性ビーズに比べてCD63/CD9の値が約6.7倍高まった。言い換えれば、ε-ポリリジン固定化担体はCD9陽性エクソソームおよびCD63陽性エクソソームの両方と良好に結合するが、α-ポリリジン固定化磁性ビーズはCD9陽性エクソソームへの結合と比較して、CD63陽性エクソソームへの結合が非常に弱いことが示唆された。
【0104】
以上より、エクソソームを単離するためにε-ポリリジンを用いれば、α-ポリリジンを用いる場合と比較して、CD63陽性エクソソームを含む多様な種類のエクソソームをより好適に単離できることが示された。
【0105】
<3.スピンカラムよるエクソソームの単離>
〔材料および方法〕
本発明の実施例3として、スピンカラムを用いたエクソソームの単離を行った。スピンカラムとして、マイクロバイオスピンクロマトグラフィー用カラム(バイオ・ラッド社製)を用いた。なお、実施例3では、遠心分離はいずれも300×g、1minの条件で行った。
(1)スピンカラムを2mLチューブにセットして、ε-ポリリジン担体0.5mLを添加して、遠心分離することで保存液を取り除いた。フロースルーを捨て、0.6mLのBW Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル社製)を添加して遠心分離することで、ε-ポリリジン担体の平衡化を行なった。
(2)上述の精製前サンプル1.0mLに0.1mLのBinding Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル社製)を添加した。
(3)(2)で得られたサンプル0.55mLをε-ポリリジン担体に添加し10秒混合することで、ε-ポリリジン担体にエクソソームを結合させた。
(4)スピンカラムを遠心分離し、フロースルーを除去した。残りの(2)で得られたサンプルも全て、0.55mLずつ(3)の操作を行なって、エクソソームをε-ポリリジン担体に結合させた。
(5)ε-ポリリジン担体に0.6mLのBW Bufferを添加して遠心分離し、フロースルーを除去することで、ε-ポリリジン担体の洗浄を行なった。この洗浄操作は合計で3回行なった。
(6)洗浄操作後のスピンカラムを新しい2.0mLチューブにセットして、0.2mLのElution Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル社製)をε-ポリリジン担体に添加し10秒混合することで、Elution Buffer中にエクソソームを溶出させた。
(7)スピンカラムを遠心分離し、フロースルー(エクソソーム溶出画分)を回収した。この溶出工程を再度行ない、それぞれ回収したエクソソーム溶出画分をまとめた。
【0106】
〔結果〕
スピンカラムにより精製したエクソソーム溶出画分と、上述の比較例1により単離したエクソソームを含む超遠心分離サンプルとで、エクソソームの純度を比較した。結果を以下の表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
スピンカラムで単離したエクソソーム溶出画分は、比較例1の超遠心分離サンプルよりもエクソソームの純度が約3.7倍高かった。したがって、スピンカラムを用いた本発明の単離方法によれば、従来の超遠心機を用いた単離方法よりも高い純度でエクソソームを単離できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によると、簡便に、かつインタクトな状態(インタクトに近い状態)で、CD63陽性エクソソームを含む多様な種類のエクソソームを単離または試料から除去することができる。したがって、本発明によると、多様な種類のエクソソームの内部に包含される物質の解析を簡便に、かつ、詳細に行なうことができるようになる。したがって、本発明は、種々の技術分野、とりわけ、製薬および医療分野等において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7