(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】菓子類用小麦粉組成物、菓子類用ミックス、および菓子類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230929BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20230929BHJP
A23G 3/48 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A21D2/36
A23G3/48
(21)【出願番号】P 2019101263
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】白取 真希子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-043727(JP,A)
【文献】特開2017-131190(JP,A)
【文献】特開2013-070626(JP,A)
【文献】「強力粉」「中力粉」「薄力粉」3種の粉を常備する時代です, 創・食Club 料理通信,2010年,pp.1-2,retrieved on 2023.06.06, retrieved from the internet,https://www.e-sousyoku.com/pages/guest/item/catalog/ecriture/dwl/kashiyoko.pdf
【文献】cotta フランス産小麦100%メルベイユ 2.5kg,2016年,pp.1-4,retrieved on 2023.06.06, retrieved from the internet,https://web.archive.org/web/20160826220015/https://www.cotta.jp/products/detail.php?product_id=027344
【文献】Bls meuniers,2018年,pp.1-6
【文献】Cereal Chem.,1977年,vol.54, no.1,pp.198-204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A21D 2/00-17/00
A23G 3/00-3/56
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランス産
Oregrain種の小麦由来の小麦粉を20質量%以上含有する、菓子類を製造するための菓子類用小麦粉組成物であって、
ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉よりも、製造した菓子類における、遊離アミノ酸の総含有率、または、ピラジン類およびフラン類の含有率が高く、前記遊離アミノ酸、または、ピラジン類およびフラン類に由来するコクを前記菓子類
に付与するための、菓子類用小麦粉組成物。
【請求項2】
前記菓子類に香ばしさを付与するための、請求項1に記載の菓子類用小麦粉組成物。
【請求項3】
前記フランス産小麦由来の小麦粉を40質量%以上含有する、請求項1
または2に記載の菓子類用小麦粉組成物。
【請求項4】
前記菓子類が、焼き菓子類、揚げ菓子類、または蒸し菓子類のいずれかである、請求項1ないし
3のいずれか一項に記載の菓子類用小麦粉組成物。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の菓子類用小麦粉組成物を含む、
前記菓子類に前記コクを付与するための菓子類用ミックス。
【請求項6】
請求項1ないし
4のいずれか一項に記載の菓子類用小麦粉組成物、または請求項
5に記載の菓子類用ミックスを使用した、菓子類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類の製造に用いられる菓子類用小麦粉組成物、菓子類用ミックス、および菓子類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好の多様化により、菓子類において、食感、香ばしさ、コクなどを感じることができる菓子類が好まれ、様々な方法が提案されている。例えば、特定品種の小麦由来の小麦粉を用いることにより、さっくりとした食感で、口溶けが良い焼き菓子を得られる焼き菓子類用小麦粉が知られている(特許文献1)。また、特定のココナッツオイルを含有する油脂を用いることで菓子類にコクを付与できること(特許文献2)や、菓子類に加えた糖類を高温で反応させることで菓子類に香ばしさを付与できること(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-070626号公報
【文献】国際公開2016/136688号公報
【文献】特開2012-175931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、消費者の嗜好を満たすため、菓子類においては、砂糖や油脂などを多く加えることで香ばしさやコクを付与することが行われているが、このような添加物を増やさなくても、小麦本来の香ばしさやコクを菓子類に付与することができる菓子類用小麦粉組成物が求められていた。
【0005】
本発明は、小麦粉を原料とする菓子類を製造する場合に、香ばしさおよびコクを付与することができる菓子類用小麦粉組成物、菓子類用ミックス、および菓子類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)~(4)の菓子類用小麦粉組成物、(5)の菓子類用ミックス、および(6)の菓子類の製造方法に関する。
(1)フランス産Oregrain種の小麦由来の小麦粉を20質量%以上含有する、菓子類を製造するための菓子類用小麦粉組成物であって、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉よりも、製造した菓子類における、遊離アミノ酸の総含有率、または、ピラジン類およびフラン類の含有率が高く、前記菓子類に、前記遊離アミノ酸、または、ピラジン類およびフラン類に由来するコクを前記菓子類に付与するための、菓子類用小麦粉組成物。
(2)前記菓子類に香ばしさを付与するための、上記(1)に記載の菓子類用小麦粉組成物。
(3)前記フランス産小麦由来の小麦粉を40質量%以上含有する、上記(1)または(2)のいずれかに記載の菓子類用小麦粉組成物。
(4)前記菓子類が、焼き菓子類、揚げ菓子類、または蒸し菓子類である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の菓子類用小麦粉組成物。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の菓子類用小麦粉組成物を含む、前記菓子類に前記コクを付与するための菓子類用ミックス。
(6)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の菓子類用小麦粉組成物、または上記(5)に記載の菓子類用ミックスを使用した、菓子類の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小麦粉を原料とする菓子類を製造する場合に、香ばしさおよびコクを付与することができる菓子類用小麦粉組成物、菓子類用ミックス、および菓子類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物、菓子類用ミックス、およびそれを使用した菓子類の製造方法について説明する。
【0009】
本発明に係る菓子類用小麦粉組成物は、当該菓子類用小麦粉組成物を使用して菓子類を製造した場合に、菓子類に香ばしさおよびコクを付与することができることを特徴とし、フランス産小麦のうちの特定品種由来の小麦粉を20質量%以上含有することを特徴とする。このようなフランス産小麦の特定品種としては、Aigle種、Allezy種、Aprilio種、Arezzo種、Bienfait種、Boregar種、Calabro種、Calumet種、Cellule種、Descartes種、Foxyl種、Fructidor種、Goncourt種、Hybello種、Hydrock種、Hypodrom種、Hywin種、Iilico種、Ionesco種、Laurier種、Lg Absalon種、Lg Armstrong種、Maori種、Matheo種、Nemo種、Oregrain種、Pibrac種、Rgt Kilimanjaro種、Rgt Tekno種、Rgt Venezio種、Rubisko種、Scenario種、Sepia種、Sy Mattis種、Sy Moisson種、およびTerroir種が挙げられる。本発明に係る菓子類用小麦粉組成物は、これら特定品種から選ばれる1種以上の品種の小麦粉を20質量%以上含有しており、たとえば上記特定品種のうち1種の小麦粉だけを20質量%以上含有していてもよいし、上記特定品種のうち2種以上の品種の小麦粉を合計で20質量%以上含有していてもよい。
【0010】
また、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物は、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉を20質量%以上含有していればよいが、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉を含有することがよい。また、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物は、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉だけを含有していてもよいし(すなわち、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉を100質量%含有していてもよいし)、上記特定品種から選ばれる1種以上の小麦由来の小麦粉に加えて、菓子類の種類に応じて適宜、上記特定品種以外の小麦由来の小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉、デュラム小麦粉など)を含有していてもよい。上記特定品種以外の小麦としては、特に限定されないが、たとえば日本産小麦である、きたほなみ、春よ恋、ゆめちから、キタノカオリ、はるゆたか、はるきらり、さとのそら、農林61号、あやひかり、つるぴかり、イワイノダイチなど、アメリカ産の小麦であるDNS(ダーク・ノーザン・スプリング)、WW(ウエスタン・ホワイト)など、カナダ産の小麦である1CW(NO1カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング)など、あるいは、オーストラリア産の小麦であるASW(オーストラリア・スタンダード・ホワイト)などが挙げられる。
【0011】
本発明に係る菓子類用小麦粉組成物は、菓子類の製造に用いることができるが、製造される菓子類は特に限定されず、焼き菓子類の製造に使用することもできるし、揚げ菓子類の製造に使用することもできるし、また、蒸し菓子類の製造に使用することもできる。具体的には、スポンジケーキ、バターケーキ、ビスケット、クッキー、クラッカー、シュー菓子、パイ類、ドーナツ、かりんとう、蒸しパンなどが挙げられる。特に、香ばしさを感じやすいことから、焼き菓子に使用することがより好ましい。また、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物は、胚乳部分からなる小麦粉、外皮を含む全粒粉のいずれを使用してもよく、菓子類の種類に応じて適宜選択することができる。
【0012】
また、本発明に係る菓子類用ミックスとして、上述した菓子類用小麦粉組成物と、他の食品材料とを混合したミックスを調製し提供することもできる。
【0013】
たとえば、本発明に係る菓子類用ミックスとして、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物と、以下の食品材料とを混合したミックスが開示される。本発明に係る菓子類用ミックスに含まれる小麦粉組成物以外の食品材料としては、小麦粉以外の穀粉類(米粉、大麦粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉、そば粉)、澱粉類(とうもろこし、もち種とうもろこし、馬鈴薯、葛、タピオカ、サゴ等を原材料とした未加工の澱粉、また、それら澱粉を原材料として、物理的及び/または化学的処理等(酵素処理、湿熱処理、α化、ヒドロキシプロピル化、アセチル化、架橋等)を施した澱粉または加工澱粉)、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油、粉末油脂等)、食塩、糖類(トレハロース、ぶどう糖、砂糖、マルトース、イソマルトース、デキストリン等の、液状または粉粒状の糖類)、糖アルコール類(ソルビトール、マルチトール、パラチニット、還元水飴等の、液状または粉粒状の糖アルコール類)、ベーキングパウダー、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、酵素類、調味料(アミノ酸、核酸等)、および香料のうち1以上の成分を一例として挙げることができるが、これに限定されず、他の食品材料も菓子類用ミックスに含めることができる。
【実施例】
【0014】
本発明に係る菓子類用小麦粉組成物の実施例について説明する。本実施例では、焼き菓子類であるシュー皮、揚げ菓子類であるケーキドーナツ、および蒸し菓子類である蒸しパンを、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物を使用して作製し、これら菓子類について、「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」の3つの項目について、5段階で官能評価を行った。
【0015】
なお、官能評価は、専門の訓練を受けた10名のパネルにて以下の評価基準で行い、評価結果は、評価点の平均値で示した。「香ばしさ」の評価は、後述するコントロールを基準として、コントロールよりも香ばしさが強い場合は5点、コントロールよりも香ばしさがやや強い場合は4点、コントロールと香ばしさが同程度の場合は3点、コントロールよりも香ばしさがやや弱い場合は2点、コントロールよりも香ばしさが弱い場合は1点として評価を行った。また、「コク」の評価は、コントロールを基準として、コントロールよりもコクが強い場合は5点、コントロールよりもコクがやや強い場合は4点、コントロールとコクが同程度の場合は3点、コントロールよりもコクがやや弱い場合は2点、コントロールよりもコクが弱い場合は1点として評価を行った。さらに、「小麦の風味」の評価は、コントロールを基準として、コントロールよりも小麦の風味が強い場合は5点、コントロールよりも小麦の風味がやや強い場合は4点、コントロールと小麦の風味が同程度の場合は3点、コントロールよりも小麦の風味がやや弱い場合は2点、コントロールよりも小麦の風味が弱い場合は1点として評価を行った。
【0016】
(試験1:シュー皮)
まず、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物を用いて作製したシュー皮の評価について説明する。本実施例では、アメリカ産のウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉と、フランス産小麦のOregrain種由来の小麦粉と、フランス産小麦のFructidor種由来の小麦粉とを、下記表1に示す割合にて配合し、シュー皮用の小麦粉組成物をそれぞれ調製した。
【表1】
【0017】
具体的には、コントロールでは、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉だけからなる小麦粉組成物を使用しており、実施例1では、フランス産小麦であるOregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用しており、実施例2では、フランス産小麦であるFructidor種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用した。また、実施例3~6に係る小麦粉組成物では、上記表1に示すように、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉とフランス産小麦であるOregrain種由来の小麦粉とを混合しており、その混合比率は実施例ごとに異なるが、Oregrain種由来の小麦粉の比率は全て20質量%以上となっている。一方、比較例1に係る小麦粉組成物は、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉とフランス産小麦であるOregrain種由来の小麦粉とを混合したものであるが、Oregrain種由来の小麦粉の含有量は20質量%未満となっている。
【0018】
そして、調製した小麦粉組成物を用いて、シュー皮を製造した。具体的には、下記表2に示す配合量に基づいて、マーガリン、食塩、水をボールに入れて沸騰させ、そこに、それぞれ調製した小麦粉組成物とグラニュー糖とを加え混合した。そして、全卵とベーキングパウダーとを混合したものを数回に分けて加えて混合し、生地を調製した。生地を天板に絞り、上火195℃/下火210℃で16分焼成し、さらに上火205℃/下火210℃で3分30秒焼成して、各シュー皮を得た。
【表2】
【0019】
そして、下記表3に示すように、コントロールにおける「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」の各項目を基準点(3点)として、比較例1および実施例1~6について官能評価を行った。
【表3】
【0020】
その結果、上記表3に示すように、比較例1では、「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」の全ての項目について、コントロールとほぼ同程度の評価が得られた。一方、フランス産小麦であるOregrain種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例1,3~6、およびフランス産小麦のFructidor種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用した実施例2については、コントロールおよび比較例1と比べて、「香ばしさ」、「コク」、および「小麦の風味」の各項目の評価が相対的に高くなった。特に、Oregrain種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例1,3~6のうち、Oregrain種由来の小麦粉を40質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例1,3~5では、「香ばしさ」および「コク」がやや強いとの評価が得られた。また、Oregrain種由来の小麦粉を20質量%以上含有した実施例1,3~6の評価結果から、Oregrain種由来の小麦粉の含有量が多くなるほど、「香ばしさ」、「コク」、および「小麦の風味」の全ての項目について評価が高くなることがわかった。さらに、Fructidor種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用した実施例2においても、「香ばしさ」、「コク」、および「小麦の風味」の全ての項目について、Oregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用した実施例1と同程度の評価となっており、このことから、Fructidor種由来の小麦粉を20質量%以上含有することで、Oregrain種由来の小麦粉を20質量%含有する小麦粉組成物と同様に、「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」を焼き菓子類に付与することができると考えられる。
【0021】
また、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物の特性を検証するために、本試験1で製造したコントロール、実施例1、および実施例5のシュー皮について、遊離アミノ酸および揮発性成分を分析した。
【0022】
下記表4は、遊離アミノ酸の分析結果を示す表である。本試験1においては、高速液体クロマトグラフ法により、コントロール、実施例1、および実施例5のシュー皮に含まれる遊離アミノ酸を定量した。
【表4】
【0023】
上記表4に示すように、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉だけからなるコントロールに対して、フランス産小麦であるOregrain種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例1および実施例5では、遊離アミノ酸の含有量(総量)が有意に高くなった。また、Oregrain種由来の小麦粉を40質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例5のシュー皮に比べて、Oregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例1のシュー皮では、遊離アミノ酸をより多く含むことが分かった。アミノ酸は、食品のコクや風味に寄与することが知られており、このことから、表3に示すように、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物を用いたことで、菓子類のコクや風味を向上させることができたものと考えられる。
【0024】
また、ガスクロマトグラフ-質量分析法により、コントロール、実施例1、および実施例5のシュー皮に含まれる揮発性成分を検出した。具体的には、試料(シュー皮の底の焦げた部分は取り除いた)20gをバイアル瓶に入れ、55℃で加温し、気相部分の揮発性成分を固相微量抽出法により吸着した。これをGC-MSに導入し、揮発性成分のピークエリアの比較を行った。なお、化合物の同定は、GC-MS附属のライブラリー検索、および標品により行った。下記表5は揮発性成分の分析結果を示す表であり、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、酸類、ピラジン類、フラン類、並びにこれら以外の香気成分とその合計量をまとめた。
【表5】
【0025】
上記表5に示すように、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉だけからなるコントロールに対して、フランス産小麦であるOregrain種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例1および実施例5のシュー皮では、香ばしさに寄与する香り成分であるピラジン類、および甘い香りのフラン類の検出量が多くなった。また、Oregrain種由来の小麦粉を40質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例5のシュー皮に比べて、Oregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例1のシュー皮では、ピラジン類およびフラン類の検出合計量がより多くなった。
【0026】
また、表5に示すように、コントロールに対して、実施例1および実施例5では、アルデヒド類およびケトン類についても検出合計量が多くなった。さらに、Oregrain種由来の小麦粉を40質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例5のシュー皮に比べて、Oregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例1のシュー皮では、アルデヒド類およびケトン類の検出合計量がより多くなった。
【0027】
このように、アルコール類とその他の香気成分(酢酸ブチルなど)を除く、アルデヒド類、ケトン類、酸類、ピラジン類およびフラン類の各香気成分の検出合計量はそれぞれ、コントロールに対して、実施例1および実施例5のシュー皮で多く、さらに、Oregrain種由来の小麦粉を40質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例5のシュー皮に比べて、Oregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例1のシュー皮では、各香気成分の検出合計量がより多くなった。また、全ての香気成分の検出合計量は、コントロールに対して、実施例1および実施例5のシュー皮で多く、さらに、Oregrain種由来の小麦粉を40質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例5のシュー皮に比べて、Oregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物で製造した実施例1のシュー皮では、全ての香気成分の検出合計量がより多くなった。このように、実施例1,5では、コントロールと比べて、香気成分を多く含んでおり、このことから、表3に示すように、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物を用いることで、菓子類の香ばしさやコクを向上させることができたものと考えられる。特に、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物では、香ばしさに寄与する香り成分であるピラジン類、および甘い香りのフラン類の検出量が、コントロールと比べて多くなることで、菓子類の香ばしさやコクを向上させることができたものと考えられる。
【0028】
(試験例2:ケーキドーナツ)
次いで、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物を用いて製造したケーキドーナツの評価について説明する。本実施例では、アメリカ産のウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉と、フランス産小麦のOregrain種由来の小麦粉と、フランス産小麦のFructidor種由来の小麦粉と、フランス産小麦であるRubisko種由来の小麦粉とを、下記表6に示す割合にて配合し、ケーキドーナツ用の小麦粉組成物をそれぞれ調製した。
【表6】
【0029】
具体的には、コントロールは、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉だけからなる小麦粉を使用しており、実施例7ではフランス産小麦であるOregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用しており、実施例8ではフランス産小麦であるFructidor種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用している。また、実施例9~11では、上記表6に示すように、フランス産小麦であるRubisko種を単体、または、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉とフランス産小麦であるRubisko種由来の小麦粉とを、Rubisko種由来の小麦粉の比率が20質量%以上となるように混合した小麦粉組成物を使用している。
【0030】
本実施例では、下記表7に示す配合に基づいて、グラニュー糖、食塩、脱脂粉乳、ベーキングパウダーをよく混合した。その後、水を少しずつ加え、良く混ぜ、さらに全卵を加えよく混合した。そして、それぞれ調製した小麦粉組成物、強力粉を加え混合した後、ショートニングを加えて混合し、生地を調製した。生地を180~185℃の油で1分油ちょうし、反転後さらに1分油ちょうして、各ケーキドーナツを得た。
【表7】
【0031】
そして、下記表8に示すように、コントロールにおける「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」の各項目を基準点(3点)として、実施例7~11について官能評価を行った。
【表8】
【0032】
その結果、上記表8に示すように、Oregrain種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例7、Fructidor種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例8、およびRubisko種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例9~11では、コントロールと比べて、「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」の各項目について相対的に評価が高くなることが分かった。また、Rubisko種由来の小麦粉を20質量%以上含有した実施例9~11の評価結果から、Rubisko種由来の小麦粉の含有量が多くなるほど、「香ばしさ」、「コク」、および「小麦の風味」の全ての項目について評価が高くなることがわかった。さらに、Oregrain種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用した実施例7、Fructidor種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用した実施例8においても、「香ばしさ」、「コク」、および「小麦の風味」の全ての項目について、Rubisko種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用した実施例9と同程度の評価が得られており、このことから、Oregrain種由来の小麦粉やFructidor種由来の小麦粉を20質量%以上含有することで、Rubisko種由来の小麦粉を20質量%含有する小麦粉組成物と同様に、「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」を揚げ菓子類に付与することができるものと考えられる。
【0033】
(試験例3:蒸しパン)
次いで、本発明に係る小麦粉組成物を用いて製造した蒸しパンの官能評価について説明する。本実施例では、アメリカ産のウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉と、フランス産小麦のFructidor種由来の小麦粉とを、下記表9に示す割合にて配合し、蒸しパン用の小麦粉組成物をそれぞれ調製した。
【表9】
【0034】
具体的には、コントロールは、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉だけからなる小麦粉を使用しており、実施例12ではフランス産小麦であるFructidor種由来の小麦粉を100質量%含有する小麦粉組成物を使用している。また、実施例13~14に係る小麦粉組成物は、上記表9に示すように、ウエスタン・ホワイト小麦由来の小麦粉とフランス産小麦であるFructidor種由来の小麦粉とを混合しており、その混合比率は実施例ごとに異なるが、Fructidor種由来の小麦粉の比率は全て20質量%以上となっている。
【0035】
本実施例では、下記表10に示す配合に基づいて、調製した小麦粉組成物、砂糖およびベーキングパウダーをよく混合し、ショートニングと水を加え、混合した後、生地を量り、型に流したのち、15分間蒸して、各蒸しパンを得た。
【表10】
【0036】
そして、下記表11に示すように、コントロールにおける「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」の各項目を基準点(3点)として、実施例12~14について官能評価を行った。
【表11】
【0037】
その結果、上記表11に示すように、Fructidor種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例12~14では、コントロールと比べて「香ばしさ」、「コク」および「小麦の風味」の各項目の評価が相対的に高くなること分かった。また、Fructidor種由来の小麦粉を20質量%以上含有する小麦粉組成物を使用した実施例12~14の評価結果から、Fructidor種由来の小麦粉の含有量が多くなるほど、「香ばしさ」、「コク」、および「小麦の風味」の全ての項目について評価が高くなることがわかった。
【0038】
以上のように、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物は、フランス産小麦由来の小麦粉を20質量%以上含有する、菓子類を製造するための小麦粉であって、上記フランス産小麦が、Aigle種、Allezy種、Aprilio種、Arezzo種、Bienfait種、Boregar種、Calabro種、Calumet種、Cellule種、Descartes種、Foxyl種、Fructidor種、Goncourt種、Hybello種、Hydrock種、Hypodrom種、Hywin種、Iilico種、Ionesco種、Laurier種、Lg Absalon種、Lg Armstrong種、Maori種、Matheo種、Nemo種、Oregrain種、Pibrac種、Rgt Kilimanjaro種、Rgt Tekno種、Rgt Venezio種、Rubisko種、Scenario種、Sepia種、Sy Mattis種、Sy Moisson種、およびTerroir種から選ばれる1種以上の小麦であることを特徴とする。これにより、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物を原料として菓子類を製造した場合に、香ばしさやコクを菓子類に付与することができる。また、本発明に係る菓子類用小麦粉組成物を原料として菓子類を製造した場合に、「香ばしさ」および「コク」を菓子類に付与するだけではなく、「小麦の風味」も付与することができるという効果を奏することができる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態例の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。