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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】エアバッグ用耐熱補強布
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20230929BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20230929BHJP
   B32B 25/10 20060101ALI20230929BHJP
   B32B 25/20 20060101ALI20230929BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230929BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20230929BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230929BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20230929BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20230929BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230929BHJP
【FI】
B60R21/235
B32B5/02 A
B32B25/10
B32B25/20
B32B27/00 101
B32B27/12
B32B27/20 Z
D06M15/643
C09D183/04
C09D7/61
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019197752
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021070394
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野副 次雄
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-321508(JP,A)
【文献】特開2010-013770(JP,A)
【文献】特開2010-053493(JP,A)
【文献】特開2003-278083(JP,A)
【文献】実開平06-016497(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0273276(US,A1)
【文献】特開2018-003194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B32B 5/02
B32B 25/10
B32B 25/20
B32B 27/00
B32B 27/12
B32B 27/20
D06M 15/643
C09D 183/04
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータから噴出される膨張用ガスにより展開および膨張するエアバッグにおいて、前記膨張用ガスが接触するエアバッグ部分に配置される耐熱補強布であって、該補強布は、綿、麻、または亜麻から選ばれる天然繊維の基布と、当該基布の両面のシリコーンゴム層からなり、
前記シリコーンゴム層は、エアバック用ナイロン織布に塗布した時に、35g/m 以下の塗布量で、自動車内装材料の燃焼試験FMVSS No.302試験における燃焼速度が80mm/分以下となるシリコーンゴム組成物により形成されている、エアバッグ用耐熱補強布。
【請求項2】
前記基布が平織り布である、請求項1に記載のエアバッグ用耐熱補強布。
【請求項3】
前記基布の織密度が経糸と緯糸のそれぞれ少なくとも35本/インチである、請求項2に記載のエアバッグ用耐熱補強布。
【請求項4】
前記シリコーンゴム層の総付着量が300g/m以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエアバッグ用耐熱補強布。
【請求項5】
シリコーンゴム組成物が、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)オルガノポリシロキサンレジンおよび/または無機質充填剤 5~100質量部、
(C)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分と(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.6~20モルとなる量}、および
(D)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒
から少なくともなる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエアバッグ用耐熱補強布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用耐熱補強布に関し、詳しくは、インフレータにより噴出される高温・高圧ガスから、エアバッグのガス流入部を保護するためのエアバッグ用耐熱補強布に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は、膨張用ガスを噴出するインフレータと、前記膨張用ガスにより展開および膨張するエアバッグとから構成される。インフレータから噴出される膨張用ガスは500℃以上の高温・高圧ガスであり、一方、エアバッグの外殻部分を構成する本体布部は、一般に、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維からなる布帛であるため、高温・高圧の膨張用ガスにより本体布部が瞬間的に溶融炭化し、前記膨張用ガスの高温による溶融、圧力による炭化部分の飛散によって孔が生じてしまうという課題がある。
【0003】
このため、一部のエアバッグでは、本体布部と同様の素材からなる複数枚の補強布を、本体布部の内面のうち、膨張用ガスの熱の影響を受けやすい箇所に重ねることにより、膨張用ガスの熱が本体布部に達しにくくなり、本体布部に孔が開くのを抑制している。しかし、補強布の枚数が多くなるに従い、それらの補強布を本体布部に縫合することが難しくなる。また、補強布の枚数が多くなるに従い、エアバッグが折り畳みにくくなるばかりか、重量が増え、また、折り畳んだときの嵩が大きくなって搭載性が低下するという課題がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、膨張用ガスが接触するエアバッグ部材の少なくとも1つを補強対象部材とし、その補強対象部材の耐熱性を補強するエアバッグ用耐熱補強布であって、綿繊維により形成され、かつ前記補強対象部材と前記ガス噴出部との間に配置される基布と、前記基布の前記ガス噴出部側の面にラミネートされているアルミニウム箔からなる耐熱層と、前記耐熱層の前記ガス噴出部側の面にラミネートされている樹脂フィルムからなるトップコート層とを備える耐熱補強布が提案されている。
【0005】
しかし、アルミニウム箔をラミネートした耐熱補強布は、その可撓性が低いことから、エアバッグの収納方法が制限されるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-172103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、インフレータにより噴出される高温・高圧ガスから、エアバッグのガス流入部を保護するための、可撓性に優れるエアバッグ用耐熱補強布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエアバッグ用耐熱補強布は、インフレータから噴出される膨張用ガスにより展開および膨張するエアバッグにおいて、前記膨張用ガスが接触するエアバッグ部分に配置される耐熱補強布であって、該補強布は、綿、麻、または亜麻から選ばれる天然繊維の基布と、当該基布の両面のシリコーンゴム層からなることを特徴とする。
【0009】
前記基布は平織り布であることが好ましく、その織密度は、経糸と緯糸のそれぞれ少なくとも35本/インチであることが好ましい。
【0010】
前記シリコーンゴム層の総付着量は300g/m以下であることが好ましく、前記シリコーンゴム層は、エアバック用ナイロン織布に塗布した時に、35g/m以下の塗布量で、自動車内装材料の燃焼試験FMVSS No.302試験における燃焼速度が80mm/分以下となるシリコーンゴム組成物により形成されていることが好ましく、このようなシリコーンゴム組成物としては、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)オルガノポリシロキサンレジンおよび/または無機質充填剤 5~100質量部、
(C)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分と(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.6~20モルとなる量}、および
(D)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒
から少なくともなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエアバッグ用耐熱補強布は、インフレータにより噴出される高温・高圧ガスから、エアバッグのガス流入部を保護することができ、可撓性が優れるので、エアバッグ収納の方式を制限しないという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である、両面にシリコーンゴム層を有するエアバッグ用耐熱補強布の断面図である。
図2】本発明のエアバッグ用耐熱補強布を配置したエアバッグの収納状態を示す断面図である。
図3】本発明のエアバッグ用耐熱補強布を配置したエアバッグの展開状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエアバッグ用耐熱補強布は、図1で示されるように、綿、麻、または亜麻から選ばれる天然繊維の基布1と、当該基布の両面のシリコーンゴム層2からなることを特徴とする。このような耐熱補強布は、インフレータから噴出される膨張用ガスにより展開および膨張するエアバッグにおいて、前記膨張用ガスが接触するエアバッグ部分に配置することにより、膨張用ガスの熱がエアバッグ本体布部に達しにくくなり、本体布部に孔があくのを抑制することができ、さらに、エアバッグの可撓性を損なうことがないので、エアバッグが折り畳み性を低下させることがない。
【0014】
これは、この耐熱補強布の基布を形成する、綿、麻、または亜麻から選ばれる天然繊維の炭化点が500℃~580℃と高く、エアバッグの布帛に用いられるポリアミド繊維やポリエステル繊維の融点よりも高く、膨張用ガスの熱によって溶融しないため、孔を生じにくいからである。
【0015】
また、この耐熱補強布は、その基布の両面にシリコーンゴム層を有するので、高温の膨張用ガスが透過して基布に直接触れるのを規制して、膨張用ガスの熱が基布に伝わるのを抑制する。また、シリコーンゴム層が、耐熱補強布の基布にアンカー効果により、機械的に結合しているので、エアバッグが展開および膨張するときにシリコーンゴム層が基布から剥離する現象が抑制され、膨張用ガスの圧力による破断の飛散が抑制される。この耐熱補強布は、単体でエアバッグに配置することができるが、エアバッグの可撓性を損なうことがなければ、二枚以上を重ねてエアバッグに配置することもできる。
【0016】
上記耐熱補強布において、その基布は、平織り布により構成されていることが好ましい。この平織り布は、経糸と緯糸とが交互に交差された状態で織られているため、他の織り組織、例えば、綾織り、朱子織りで織られている織布よりも経糸と緯糸との交差箇所が多く、引張り強度、引き裂き強度等の強度が高い。また、経糸の配列方向と緯糸の配列方向とで強度の差が少ない。そのため、シリコーンゴム層の強度を補う効果は、経糸の配列方向と緯糸の配列方向とで同程度に得られる。特に、その織密度は、経糸と緯糸のそれぞれがいずれも少なくとも35本/インチであることが好ましい。また、その糸の総繊度は限定されないが、好ましくは、100~2,000dtexの範囲内であることが好ましい。
【0017】
上記耐熱補強布において、シリコーンゴム層の厚さは限定されないが、その総付着量が300g/m以下であることが好ましい。このような被覆重量のシリコーンゴム層は、耐熱補強布の柔軟性を損なうことなく、必要な耐熱性を確保することができる。
【0018】
このようなシリコーンゴム層を形成するシリコーンゴム組成物としては、エアバック用ナイロン織布に塗布した時に、35g/m以下の塗布量で、自動車内装材料の燃焼試験FMVSS No.302試験における燃焼速度が80mm/分以下となるようなものであることが好ましい。このようなシリコーンゴム組成物の硬化機構は限定されず、例えば、付加反応、縮合反応、有機過酸化物によるラジカル反応、UV照射によるラジカル反応等が挙げれ、比較的低温で速やかに硬化することから、付加反応による硬化するものが好ましく。このようなシリコーンゴム組成物としては、例えば、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)オルガノポリシロキサンレジンおよび/または無機質充填剤 5~100質量部、
(C)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分と(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.6~20モルとなる量}、および
(D)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒
から少なくともなるものが好ましい。
【0019】
(A)成分は、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンである。(A)成分中のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~12のアルケニル基が例示され、好ましくは、ビニル基である。また、(A)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子結合有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~12のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6~12のアリール;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の炭素数1~12のハロゲン化アルキル基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。
【0020】
(A)成分は実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンであるが、分子鎖の一部に分岐を有していてもよい。また、(A)成分の粘度は限定されないが、好ましくは、25℃における粘度が100~100,000mPa・sの範囲内、あるいは1,000~50,000mPa・sの範囲内である。これは、(A)成分の粘度が上記範囲の下限以上であると、得られるシリコーンゴム層の機械的強度が向上するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴム組成物の塗工性が向上するからである。なお、(A)成分の粘度は、JIS K7117-1に準拠した回転粘度計によって測定することができる。
【0021】
(A)成分としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)シロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体が挙げられる。
【0022】
(B)成分は、シリコーンゴム層の機械的強度を向上させ、耐熱補強布の基布に対する浸透性と接着性を向上させるためのオルガノポリシロキサンレジン、あるいは上記組成物の粘度を調整したり、シリコーンゴム層の機械的強度、耐熱性、あるいは難燃性を向上させるために配合される無機質充填剤である。(B)成分のオルガノポリシロキサンレジンはレジン状の分子構造、すなわち、式:SiO4/2で示されるQ単位のシロキサンあるいは式:RSiO3/2で示されるT単位のシロキサンを主成分とするオルガノポリシロキサンであり、その他のシロキサン単位として、式:RSiO2/2で示されるD単位のシロキサン、式:RSiO1/2で示されるM単位のシロキサンを有いてもよい。式中のRは炭素数1~12の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~12のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~12のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6~12のアリール;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の炭素数1~12のハロゲン化アルキル基が例示され、好ましくは、メチル基、ビニル基、フェニル基である。特に、シリコーンゴム層の機械的強度をより向上することから、(B)成分のオルガノポリシロキサンレジンは、分子中にアルケニル基を有することが好ましい。
【0023】
(B)成分のオルガノポリシロキサンレジンとしては、例えば、(CH)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるレジン、(CH)SiO1/2単位と(CH=CH)SiO3/2単位とSiO4/2単位からなるレジン、(CH=CH)(CH)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるレジン、(CH=CH)(CH)SiO1/2単位と(CH=CH)SiO3/2単位とSiO4/2単位からなるレジンが挙げられる。また、常温で液状であるもの、固形状であっても(A)成分への相溶性があるものが好ましい。
【0024】
一方、(B)成分の無機質充填剤としては周知のものが使用可能であり、具体的には、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、焼成シリカ等の微粉末状のシリカ充填剤;ヒュームド酸化チタン等の補強性充填剤;粉砕石英、珪藻土、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の非補強性充填剤;これらの充填剤をオルガノシラン、オルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物で処理したものが例示される。これらの中でも比表面積が50m/g以上の超微粉末状のシリカが好ましい。これらの中でも表面処理された超微粉末状のシリカ、例えば、オルガノシラン、オルガノシラザン、ジオルガノシクロポリシロキサン等で予め表面処理されたシリカはさらに好適である。
【0025】
(B)成分の含有量は基布に対する浸透性を良くすると同時に薄膜コーティング性を向上させることから、(A)成分100質量部に対して、5~100質量部の範囲内、好ましくは10~80質量部の範囲内である。また、(B)成分として、超微粉末状のシリカを使用する場合には、(A)成分100質量部に対して、5~15質量部の範囲内であることが好ましい。これは微粉末状シリカの含有量が15質量部を超えると、上記組成物の粘度が高くなり過ぎて、溶剤なしで基布にコーティングすることが困難になるからであり、5質量部未満になるとシリコーンゴム層の機械的強度が低下するからである。
【0026】
(C)成分は、上記組成物の架橋剤である、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンである。(C)成分中の水素原子以外のケイ素原子結合有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~12のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6~12のアリール;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の炭素数1~12のハロゲン化アルキル基が例示され、好ましくは、メチル基、フェニル基である。
【0027】
(C)成分の分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、樹脂状が挙げられる。また、(C)成分の粘度は限定されないが、好ましくは、25℃における動粘度が1~1,000mm/sの範囲内のものである。これは、(C)成分の粘度が上記範囲の下限以上であると、得られるシリコーンゴム層の機械的強度が向上するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られるシリコーンゴム組成物の塗工性が向上するからである。なお、(C)成分の粘度は、JIS Z8803に準拠したウベローデ型粘度計によって測定することができる。
【0028】
(C)成分としては、例えば、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルフェニルシロキシ基封鎖メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ単位とSiO4/2単位からなる共重合体が挙げられる。
【0029】
(C)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して、このオルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が0.6~20モルとなる量であり、好ましくは、1~15モルとなる量、あるいは1~10モルとなる量である。
【0030】
(D)成分は、上記組成物を硬化させるためのヒドロシリル化反応用触媒である。このような(D)成分としては、例えば、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、四塩化白金、塩化白金酸のオレフィン錯体、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルケニルシロキサンとの錯化合物;その他、ロジウム化合物、パラジウム化合物が例示される。
【0031】
(D)成分の含有量は触媒量であり、通常、(A)成分100万質量部に対して(D)成分中の触媒金属が0.1~500質量部の範囲内、好ましくは1~50質量部の範囲内となる量である。これは0.1質量部未満では反応が充分に進行せず、500質量部を超えると不経済であるためである。
【0032】
上記組成物には、その他任意の成分として、(E)エポキシ基含有有機ケイ素化合物を含有してもよい。このような(E)成分としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有オルガノアルコキシシラン;ケイ素原子結合のビニル基とアルコキシ基を有するエポキシ基含有オルガノポリシロキサン、ケイ素原子結合水素原子を有するエポキシ基含有オルガノポリシロキサン、ケイ素原子結合水素原子とアルコキシ基を有するエポキシ基含有オルガノポリシロキサン等のエポキシ基含有オルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0033】
また、上記組成物には、その他任意の成分として、(F)有機チタン化合物を含有してもよい。このような(F)成分としては、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラオクチルチタネート等の有機チタン酸エステル類;ジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)チタン、ジイソプロポキシビス(アセト酢酸エチル)チタン等のチタンキレート化合物が挙げられる。(F)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲内である。これは(F)成分の含有量が5質量部を超えると、上記組成物の保存安定性が悪化するからであり、0.1質量部未満になるとシリコーンゴム層表面の粘着性低減に効果を示さないからである。
【0034】
また、上記組成物には、その他任意の成分として、(G)硬化遅延剤を含有してもよい。このような(G)成分としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、フェニルブチノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;テトラメチルテトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、ベンゾトリアゾールが例示される。この(G)成分の含有量は、通常、(A)成分100質量部に対して0.01~10質量部の範囲内である。
【0035】
このようなシリコーンゴム組成物を調製する方法は限定されず、ニーダーミキサー、加圧ニーダーミキサー、ロスミキサー等の混合機で均一に混練することにより、容易に製造することができる。
【0036】
上記組成物を基布にコーティングし、熱風乾燥炉に入れて加熱硬化させてシリコーンゴム層を有する耐熱補強布とすることができる。この耐熱補強布は、表面の粘着性が少ないため、エアバッグの本体布部との密着性が乏しく、その表面へのタルク、炭酸カルシウム等の打粉を施さなくても縫製などの際の加工性に優れ、折り畳み収納時に本体布部同士が癒着する問題も少ない。
【0037】
次に、本発明のエアバッグ用耐熱補強布をエアバッグに用いた実施形態を図2および図3により詳細に説明する。ただし、本発明のエアバッグ用耐熱補強布は、図2および図3で示される実施形態に限定されるものではない。なお、図2は、本発明のエアバッグ用耐熱補強布を配置したエアバッグの収納状態を示す断面図である。一方、図3は、このエアバッグが展開した状態を示す断面図である。
【0038】
インフレータ3としては、ディスクタイプのインフレータが例示され、インフレータ3の本体部にエアバッグの本体布部4の端部が取り付けられており、インフレータ4の内部のガス発生剤(図示せず)により、エアバッグの本体布部4を展開および膨張させる。インフレータ3が作動しない状態では、エアバッグの本体布部4は折りたたまれ、ハンドル、フロントパネル、あるいはサイドピラー等に収納されている。
【0039】
また、インフレータ3には複数のガス噴出部(図示せず)が設けられており、膨張ガスでエアバッグを速やかに展開できるようにしている。
【0040】
エアバッグの本体布部4は、強度が高く、かつ可撓性を有する素材であるポリアミド繊維又はポリエステル繊維を用いて織成した織布によって形成されている。
【0041】
本発明のエアバッグ用耐熱補強布5は、インフレータ3から噴出される膨張ガスが接触する箇所、図3においては、エアバッグの本体布部4が折りたたまれたときに、インフレータ3に接する箇所や、インフレータ3から噴出される膨張ガスを整流するためのインナーバッグに使用することができる。この耐熱補強布5の厚みは限定されないが、エアバッグの本体基布の折りたため性を低下させないためには、5μm~30μmの厚みを有することが好ましい。
【実施例
【0042】
本発明のエアバッグ用耐熱補強布を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中の粘度(Pa・sまたはmPa・s)は、JIS K7117-1に準拠した回転粘度計を使用して測定した25℃における値であり、また、動粘度(mm/s)は、JIS Z8803に準拠したウベローデ型粘度計によって測定した25℃における値である。
【0043】
[FMVSS No.302試験]
耐熱補強布を、縦10cm、横25cmの長方形に切り出し、これを試験体とした。燃焼速度(mm/分)は、自動車内装材料の燃焼試験FMVSS No.302(Federal Motor Vehicle safety Standards No.302)に規定の方法に準拠して測定した。燃焼速度が80mm/分以下である場合を可とし、80mm/分を超える場合を不可とした。なお、シリコーンゴム層を片面のみに有する場合には、シリコーンゴム層が接炎側となるようにして試験した。
【0044】
[炎による孔の形成の有無]
水平に保持した試験体の下側から、メタンガスを使用し、炎の高さを38mmに調節したブンゼンバーナーを、試験体からブンゼンバーナーの先端位置が30mmとなる位置から、2分間接炎し、表側に炎による孔が形成されるかを目視にて観察した。
【0045】
[鉄球落下試験]
上記の試験後、炎による孔の形成が無かった場合、直ちにブンゼンバーナーを取り除き、シリコーンゴム層より50mmの高さから、接炎部分の中央に8.7gの鉄球を落下させた。鉄球が通過しない場合を可とし、通過した場合を不可とした。
【0046】
[参考例1]
粘度2,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン 100質量部、(CH)(CH=CH)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、粘度が230mPa・sであるメチルビニルポリシロキサンレジン(ビニル基の含有量=5.6質量%) 30質量部をロスミキサーに入れた。次いで、これにBET比表面積が200m/gであるヒュームドシリカ 12質量部、シリカの表面処理剤としてのヘキサメチルジシラザン 5質量部と水 2質量部を加えて、均一になるまで混合し、さらに真空下で加熱処理して、流動性のあるシリコーンゴムベースを調製した。
【0047】
次に、このシリコーンゴムベース 100質量部に、動粘度5mm/sの平均分子式:
MeSiO(MeHSiO)[(CH)SiO]SiMe
で表されるオルガノポリシロキサン 10質量部(上記シリコーンゴムベース中のビニル基の合計1モルに対して、このオルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が1.4モルとなる量)、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体(白金含有量=0.4質量%) 0.5質量部と硬化抑制剤としての3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール 0.4質量部、接着付与剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 1質量部、および粘着防止剤としてテトラブチルチタネート 0.5質量部、および水酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製のマグシーズS) 25質量部を均一に混合して、粘度32Pa・sのシリコーンゴム組成物(1)を調製した。
【0048】
このシリコーンゴム組成物は、エアバッグ用ナイロン織布(経糸/緯糸=46/46、470dtex)に塗布した時、10~15g/mの塗布量でFMVSS No.302試験における燃焼速度が80mm/分以下となるものである。
【0049】
[参考例2]
粘度2,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン 100質量部、室温で固体状の(CH)(CH=CH)SiO1/2単位と(CH)SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなるメチルビニルポリシロキサンレジン(ビニル基の含有量=1.9質量%) 30質量部をロスミキサーに入れた。次いで、これにBET比表面積200m/gのヒュームドシリカ 12質量部、ヒュームドシリカの表面処理剤としてヘキサメチルジシラザン 5質量部と水 2質量部を加えて均一になるまで混合し、さらに真空下で加熱処理して流動性のあるシリコーンゴムベースを調製した。
【0050】
次に、このシリコーンゴムベース 100質量部に、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体(白金含有量=0.4質量%) 0.5質量部と3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール 0.4質量部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 1質量部、動粘度5mm/sのエチルポリシリケート(SiO含有量=40質量%) 1質量部、およびテトラブチルチタネート 0.5質量部を加えて均一に混合した後、動粘度5mm/sの平均分子式:
(CH)SiO[(CH)HSiO][(CH)SiO]Si(CH)
で表されるオルガノポリシロキサン 8質量部(上記シリコーンゴムべース中のビニル基の合計1モルに対して、このオルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が2.8モルとなる量)を加え均一に混合して、粘度26Pa・sのシリコーンゴム組成物(2)を調製した。
【0051】
このシリコーンゴム組成物は、エアバッグ用ナイロン織布(経糸/緯糸=46/46、470dtex)に塗布した時、15~20g/mの塗布量でFMVSS No.302における燃焼速度が80mm/分以下となるものである。
【0052】
[参考例3]
粘度40Pa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン 100質量部、湿式シリカ(日本シリカ製のニプシルLP) 60質量部、へキサメチルジシラザン 9.7質量部、水 4.4質量部、粘度20mPa・sの分子鎖両末端ジメチルヒドロキシシ口キシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ビニル基の含有量=約10.9質量%) 0.7質量部をロスミキサーに投入し、室温で均一になるまで混合した後、減圧下200℃で2時間加熱処理して、流動性のあるシリコーンゴムベースを調製した。
【0053】
次に、このシリコーンゴムベース 53質量部に、粘度40Pa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン 40質量部、動粘度3.5mm/sの環状メチルビニルシロキシ 0.1質量部、動粘度5.5mm/sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体 4.3質量部(上記シリコーンゴムべース中のビニル基の合計1モルに対して、このオルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が6.5モルとなる量)、白金の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン溶液(白金含有量=0.4質量%) 0.15質量部、およびエチニルシクロヘキサノール 2質量部と粘度10Pa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン 98質量部との混合物 2質量部を加えて均一に混合して、粘度128Pa・sのシリコーンゴム組成物を調製した。
【0054】
このシリコーンゴム組成物は、エアバッグ用ナイロン織布(経糸/緯糸=46/46、470dtex)に塗布した時、30~35g/mの塗布量でFMVSS No.302試験における燃焼速度が80mm/分以下となるものである。
【0055】
[実施例1~5、比較例1~6]
参考例1~3で調製したシリコーンゴム組成物を、表1および表2に記載の基布に表中の記載の塗布量で塗布し、180℃で2分間加熱することにより硬化させた。ここで、織物へのコーティング方法は、ナイフコーターで液状シリコーンゴム組成物が塗りむらなく均一にコーティングし、オーブン中で180℃で2分間加熱硬化させてシリコーンゴム層を有する耐熱補強布を作製した。両面塗りの場合は、双方の面の塗布量が、ほぼ同量となるよう調節した。これらの基布について、FMVSS No. 302試験、炎による孔の形成の有無、熱鉄球落下試験を行い、それらの結果を表1および表2に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のエアバッグ用耐熱補強布は、インフレータにより噴出される高温・高圧ガスから、エアバッグのガス流入部を保護することができ、可撓性が優れるので、各種形式のエアバッグの耐熱補強布として利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 天然繊維からなる基布
2 シリコーンゴム層
3 インフレータ
4 エアバッグの本体布部
5 耐熱補強布
図1
図2
図3