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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-28
(45)【発行日】2023-10-06
(54)【発明の名称】焼き菓子用澱粉
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20230929BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230929BHJP
   A21D 13/066 20170101ALI20230929BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D13/80
A21D13/066
A21D10/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019558141
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2018043497
(87)【国際公開番号】W WO2019111749
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2017235760
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】美藤 武敏
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健市
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-242752(JP,A)
【文献】特開2015-146750(JP,A)
【文献】特開2013-212104(JP,A)
【文献】特開2009-082108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルテンフリー且つグリアジンフリーの焼き菓子に用いられる焼き菓子用澱粉であって、
以下の成分(A)):
(A)ヒドロキシプロピル化澱粉
(B)リン酸架橋澱粉
(C)α化澱粉
を含み、
前記成分(A)および(B)の合計に対する成分(A)の含有量が質量比で0.03以上0.18以下であり、
当該焼き菓子用澱粉中の前記成分(A)および(B)の合計に対する前記成分(C)の含有量が質量比で0.01以上0.2以下である、焼き菓子用澱粉。
【請求項2】
前記成分(A)の原料澱粉が、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の焼き菓子用澱粉。
【請求項3】
前記成分(B)の原料澱粉が、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の焼き菓子用澱粉。
【請求項4】
当該焼き菓子用澱粉中の前記成分(A)の含有量が、当該焼き菓子用澱粉全体に対して1質量%以上18質量%以下であり、
前記成分(B)の含有量が、当該焼き菓子用澱粉全体に対して20質量%以上97質量%以下である、請求項1乃至3いずれか1項に記載の焼き菓子用澱粉。
【請求項5】
請求項1乃至いずれか1項に記載の焼き菓子用澱粉を含み、グルテンフリー且つグリアジンフリーである、焼き菓子用ミックス。
【請求項6】
請求項1乃至いずれか1項に記載の焼き菓子用澱粉を含み、グルテンフリー且つグリアジンフリーである、焼き菓子用生地。
【請求項7】
請求項1乃至いずれか1項に記載の焼き菓子用澱粉を含み、グルテンフリー且つグリアジンフリーである、焼き菓子。
【請求項8】
前記焼き菓子がパウンドケーキ、マドレーヌ、スポンジケーキからなる群から選択される1種である、請求項に記載の焼き菓子。
【請求項9】
請求項1乃至いずれか1項に記載の焼き菓子用澱粉を生地に含んで焼成することを含む、焼き菓子の口どけを向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子用澱粉に関する。
【背景技術】
【0002】
焼き菓子に用いる澱粉に関する技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
特許文献1(特開2013-212104号公報)には、加熱した型を用いて生地を焼成することにより、焼成後の状態で透明であり、しかも焼成後に保管した場合にも透明さを保ち且つ形態を維持できる焼き菓子を製造することができる、焼き菓子用ミックスに関する技術が記載されており、焼き菓子用ミックスにおいて、特定種の馬鈴薯澱粉を特定量含有し、且つ穀粉を実質的に含まない構成とすることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2(特開2009-82108号公報)には、ケーキ類製造用澱粉組成物中に天然澱粉、化工澱粉及び加工澱粉を全穀粉量に対して特定量含むとともに、これらの配合重量比を特定の範囲とすることが記載されている。かかる構成により、同文献に記載のケーキ類製造用澱粉組成物によれば、穀粉として小麦粉を澱粉に全量置換した際にも、安定なケーキ生地を形成し、加熱工程における生地の泡沫安定性に優れて工業的にも安定生産可能であり、しかも、小麦粉のみでは達成が困難な、ソフト感、弾力、口溶け、しっとり感などの食感に優れた、ケーキ類製造用澱粉組成物を提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-212104号公報
【文献】特開2009-82108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した技術を用いた場合、グルテンフリー且つグリアジンフリーの焼き菓子とした際であっても、外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスに優れる焼き菓子を得るという点において、改善の余地があることが本発明者らにより明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の成分(A)および(B):
(A)ヒドロキシプロピル化澱粉
(B)リン酸架橋澱粉
を含み、
前記成分(A)および(B)の合計に対する成分(A)の含有量が質量比で0.03以上0.18以下である、焼き菓子用澱粉が提供される。
【0007】
本発明によれば、上記本発明における焼き菓子用澱粉を含む、焼き菓子用ミックスが提供される。
また、本発明によれば、上記本発明における焼き菓子用澱粉を含む、焼き菓子用生地が提供される。
さらに、本発明によれば、上記本発明における焼き菓子用澱粉を含む、焼き菓子が提供される。
【0008】
本発明によれば、上記本発明における焼き菓子用澱粉を生地に含んで焼成することを含む、焼き菓子の口どけを向上させる方法が提供される。
【0009】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明には、上記本発明における焼き菓子用澱粉の、焼き菓子用ミックス、焼き菓子用生地、または焼き菓子の製造方法への使用も包含される。
また、本発明には、上記本発明における焼き菓子用ミックスの、焼き菓子用生地、または焼き菓子の製造方法への使用も包含される。
さらに、本発明には、上記本発明における焼き菓子用生地の、焼き菓子の製造方法への使用も包含される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、グルテンフリー且つグリアジンフリーの焼き菓子とした際であっても、外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスに優れる焼き菓子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、各成分の具体例を挙げて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
(焼き菓子用澱粉)
本実施形態において、焼き菓子用澱粉は、2種以上の澱粉により構成される組成物であって、成分(A):ヒドロキシプロピル化澱粉および成分(B):リン酸架橋澱粉を含む。
【0013】
(成分(A))
成分(A)のヒドロキシプロピル化澱粉は、具体的には、α化していない澱粉、つまりβ澱粉である。
成分(A)の冷水膨潤度は、2以上3.5未満であることが好ましい。
なお、成分(A)には、後述する成分(B):リン酸架橋澱粉等の架橋澱粉を含まない。
【0014】
成分(A)の原料澱粉は、焼き菓子の外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを好ましいものとする観点から、好ましくはタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはタピオカ澱粉である。
【0015】
焼き菓子用澱粉中の成分(A)の含有量は、焼き菓子の外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを好ましいものとする観点から、焼き菓子用澱粉全体に対して0質量%超であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらにより好ましくは7質量%以上である。
また、同様の観点から、焼き菓子用澱粉中の成分(A)の含有量は、焼き菓子用澱粉全体に対してたとえば20質量%以下であり、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0016】
(成分(B))
成分(B)のリン酸架橋澱粉は、具体的には、α化していない澱粉、つまりβ澱粉である。
成分(B)の冷水膨潤度は、2以上3.5未満であることが好ましい。
なお、成分(B)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、リン酸架橋以外の加工処理を施されていてもよい。
【0017】
成分(B)の原料澱粉は、焼き菓子の外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを好ましいものとする観点から、好ましくはタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはタピオカ澱粉である。
成分(A)の原料澱粉と成分(B)の原料澱粉とは、同じであっても異なってよく、好ましくは同じであり、より好ましくはいずれもタピオカ澱粉である。
【0018】
焼き菓子用澱粉中の成分(B)の含有量は、たとえば焼き菓子用澱粉中の成分(B)以外の澱粉を除いた残部とすることができる。
また、焼き菓子用澱粉中の成分(B)の含有量は、焼き菓子の食感を向上させる観点から、焼き菓子用澱粉全体に対して0質量%超であり、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらにより好ましくは70質量%以上、よりいっそう好ましくは80質量%以上、殊更好ましくは82質量%以上である。
また、同様の観点から、焼き菓子用澱粉中の成分(B)の含有量は、焼き菓子用澱粉全体に対して100質量%未満であり、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは93質量%以下である。
また、焼き菓子用澱粉中の成分(A)の含有量が、焼き菓子用澱粉全体に対して1質量%以上18質量%以下であるとともに、成分(B)の含有量が、焼き菓子用澱粉全体に対して20質量%以上97質量%以下であってもよい。
【0019】
焼き菓子用澱粉の成分(A)および(B)の合計に対する成分(A)の含有量は、焼き菓子の食感および口どけを向上させる観点から、質量比((A)/((A)+(B)))で0.03以上であり、好ましくは0.04以上である。
また、同様の観点から、上記質量比((A)/((A)+(B)))は、0.18以下であり、好ましくは0.16以下、さらに好ましくは0.12以下である。
【0020】
また、焼き菓子用澱粉は、成分(A)および(B)以外の澱粉を含んでもよく、好ましくは、成分(A)および(B)以外の澱粉として、成分(C):α化澱粉をさらに含んでもよい。
(成分(C))
次に、成分(C)について説明する。
成分(C)は、たとえばジェットクッカー処理、ドラムドライヤー処理、エクストルーダー処理等のα化処理が施されたα化澱粉である。
成分(C)の冷水膨潤度は、焼き菓子の食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを好ましいものとする観点から、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。
また、同様の観点から、成分(C)の冷水膨潤度は、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下である。
なお、成分(C)の冷水膨潤度の測定方法については、実施例の項で後述する。
【0021】
成分(C)の原料澱粉は、焼き菓子の外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを好ましいものとする観点から、好ましくはタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチおよびこれらの加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはタピオカ澱粉およびその加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、さらに好ましくはアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉である。
また、成分(C)の由来原料と成分(A)および(B)の由来原料とは同じであってもよく、異なってもよい。成分(C)の由来原料は、好ましくは成分(A)または(B)の由来原料と同じであり、より好ましくは成分(A)~(C)の由来原料が同じであり、さらに好ましくは成分(A)~(C)の由来原料がキャツサバである。
なお、キャツサバから取れる澱粉をタピオカ澱粉という。
【0022】
焼き菓子用澱粉が成分(C)を含む場合の成分(C)の含有量は、焼き菓子の焼成後生地のキメをより好ましいものとする観点から、焼き菓子用澱粉全体に対して好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらにより好ましくは4質量%以上である。
また、同様の観点から、焼き菓子用澱粉中の成分(C)の含有量は、焼き菓子用澱粉全体に対して好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0023】
焼き菓子用澱粉が成分(C)を含む場合の成分(A)および(B)の合計に対する成分(C)の含有量は、焼き菓子の食感および口どけを向上させる観点から、質量比((C)/((A)+(B)))で好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.02以上である。
また、同様の観点から、上記質量比((C)/((A)+(B)))は、好ましくは0.2以下であり、より好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.1以下である。
【0024】
本実施形態における焼き菓子用澱粉は、成分(A)および(B)を含むため、焼き菓子に好ましく用いることができる。さらに具体的には、成分(A)および(B)を含む焼き菓子用澱粉を用いることにより、グルテンフリー且つグリアジンフリーとする場合にも、外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスに優れる焼き菓子を得ることができる。
また、成分(A)および(B)を含む焼き菓子用澱粉を用いることにより、グルテンフリー且つグリアジンフリーの焼き菓子において、たとえば、甘味の増強効果を得ることも可能となるため、焼き菓子への砂糖等の甘味成分の配合量を低減することも可能となる。
また、成分(A)および(B)を含む焼き菓子用澱粉を用いることにより、たとえば、焼き菓子の口どけを向上させることも可能となる。
【0025】
(焼き菓子用ミックス)
本実施形態において、焼き菓子用ミックスは、上述した焼き菓子用澱粉を含む組成物である。さらに具体的には、焼き菓子用ミックスは、成分(A)および(B)を含むミックス粉であり、好ましくは成分(A)および(B)ならびに(C)を含むミックス粉である。
【0026】
また、焼き菓子用ミックスは、成分(A)~(C)以外の成分をさらに含んでもよい。
成分(A)~(C)以外の成分として、たとえば、前述した成分(A)~(C)以外の澱粉、穀粉、砂糖・甘味料等の甘味成分、乳製品、卵粉や卵白粉等の卵類、乳化剤、膨化剤、調味料、香料、抹茶やココアパウダーのような風味粉末、色素、増粘剤、油脂等を含んでもよく、これらのうち粉状のものを含むことが好ましい。さらに、ナッツ類、チョコチップ等の固形物を添加することもできる。
また、焼き菓子用ミックスは、好ましくはグルテンフリー且つグリアジンフリーである。
【0027】
焼き菓子用ミックスの焼き菓子用澱粉の含有量は、たとえば焼き菓子の種類に応じて設定することができるが、焼き菓子の外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを好ましいものとする観点から、焼き菓子用ミックス全体に対して、好ましくは50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
また、同様の観点から、焼き菓子用ミックスの焼き菓子用澱粉の含有量は、焼き菓子用ミックス全体に対して、100質量%以下であり、好ましくは99質量%以下である。
【0028】
(焼き菓子用生地)
本実施形態において、焼き菓子用生地は、上述した焼き菓子用澱粉を含む組成物である。さらに具体的には、焼き菓子用生地は、成分(A)および(B)を含む生地であり、好ましくは成分(A)および(B)ならびに(C)を含む生地である。
【0029】
また、焼き菓子用生地は、成分(A)~(C)以外の成分をさらに含んでもよい。
成分(A)~(C)以外の成分として、たとえば、前述した成分(A)~(C)以外の澱粉、穀粉、砂糖・はちみつ・甘味料等の甘味成分、乳製品、全卵・卵白・卵黄・卵粉等の卵類、乳化剤、膨化剤、調味料、香料、抹茶やココアパウダーのような風味粉末、色素、増粘剤、油脂、果汁や野菜汁、豆乳、水等を含んでもよい。さらに、ナッツ類、チョコチップ等の固形物を添加することもできる。
また、焼き菓子用生地は、好ましくはグルテンフリー且つグリアジンフリーである。
【0030】
焼き菓子用生地中の焼き菓子用澱粉の含有量は、たとえば焼き菓子の種類に応じて設定することができるが、焼き菓子の外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを好ましいものとする観点から、焼き菓子用生地全体に対して、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは25質量%以上である。
また、同様の観点から、焼き菓子用生地の焼き菓子用澱粉の含有量は、焼き菓子用生地全体に対して、50質量%以下であり、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。
【0031】
(焼き菓子)
本実施形態において、焼き菓子は、前述した焼き菓子用澱粉を含む。
焼き菓子の具体例として、パウンドケーキ、マドレーヌ、スポンジケーキ、バウムクーヘン、フィナンシェが挙げられる。焼き菓子の外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスを向上させる観点から、焼き菓子は、好ましくはパウンドケーキ、マドレーヌおよびスポンジケーキからなる群から選択される1種であり、より好ましくはパウンドケーキである。
また、焼き菓子用澱粉は、好ましくはグルテンフリー且つグリアジンフリーである。
【0032】
本実施形態において、焼き菓子は、たとえば、前述した焼き菓子用澱粉を生地に含んで焼成する工程を含む製造方法により得ることができる。
本実施形態において得られる焼き菓子は、成分(A)および(B)を含む焼き菓子用澱粉を生地に含むものであるため、外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスに優れる。
また、本実施形態において、焼き菓子の口どけを向上させる方法は、たとえば、焼き菓子用澱粉を生地に含んで焼成することを含む。
また、本実施形態において、焼き菓子の甘味を向上させる方法は、たとえば、焼き菓子用澱粉を生地に含んで焼成することを含む。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 以下の成分(A)および(B):
(A)ヒドロキシプロピル化澱粉
(B)リン酸架橋澱粉
を含み、
前記成分(A)および(B)の合計に対する成分(A)の含有量が質量比で0.03以上0.18以下である、焼き菓子用澱粉。
2. 前記成分(A)の原料澱粉が、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上である、1.に記載の焼き菓子用澱粉。
3. 前記成分(B)の原料澱粉が、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉およびワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上である、1.または2.に記載の焼き菓子用澱粉。
4. 当該焼き菓子用澱粉中の前記成分(A)の含有量が、当該焼き菓子用澱粉全体に対して1質量%以上18質量%以下であり、
前記成分(B)の含有量が、当該焼き菓子用澱粉全体に対して20質量%以上97質量%以下である、1.乃至3.いずれか1つに記載の焼き菓子用澱粉。
5. 成分(C):α化澱粉をさらに含む、1.乃至4.いずれか1つに記載の焼き菓子用澱粉。
6. 当該焼き菓子用澱粉中の前記成分(A)および(B)の合計に対する前記成分(C)の含有量が質量比で0.01以上0.2以下である、5.に記載の焼き菓子用澱粉。
7. 1.乃至6.いずれか1つに記載の焼き菓子用澱粉を含む、焼き菓子用ミックス。
8. 当該焼き菓子用ミックスがグルテンフリー且つグリアジンフリーである、7.に記載の焼き菓子用ミックス。
9. 1.乃至6.いずれか1つに記載の焼き菓子用澱粉を含む、焼き菓子用生地。
10. 当該焼き菓子用生地がグルテンフリー且つグリアジンフリーである、9.に記載の焼き菓子用生地。
11. 1.乃至6.いずれか1つに記載の焼き菓子用澱粉を含む、焼き菓子。
12. 前記焼き菓子がパウンドケーキ、マドレーヌ、スポンジケーキからなる群から選択される1種である、11.に記載の焼き菓子。
13. 当該焼き菓子がグルテンフリー且つグリアジンフリーである、11.または12.に記載の焼き菓子。
14. 1.乃至6.いずれか1つに記載の焼き菓子用澱粉を生地に含んで焼成することを含む、焼き菓子の口どけを向上させる方法。

【実施例
【0033】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
以下の例において、断りのない場合、「%」とは、「質量%」である。また、断りのない場合、「部」とは、「質量部」である。
【0034】
(原材料)
原材料として、主に以下のものを使用した。
マーガリン:マイスタージェネータ、株式会社J-オイルミルズ製
砂糖:上白糖、日新製糖株式会社製
ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉(成分(A)):ジェルコール POT-05、株式会社J-オイルミルズ製、冷水膨潤度2.3
リン酸架橋タピオカ澱粉(成分(B)):アクトボディー TP-4W、株式会社J-オイルミルズ製、冷水膨潤度2.1
α化アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(成分(C)):ジェルコール GT-α、株式会社J-オイルミルズ製、冷水膨潤度14.1
薄力粉:ハート、日本製粉株式会社製
ベーキングパウダー:Fアップ、株式会社アイコク製
【0035】
(冷水膨潤度の測定方法)
「澱粉・関連糖質実験法」、279-280頁、1986年、学会出版センターに記載される方法で冷水膨潤度を測定した。具体的には以下の方法で測定した。
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社、型番MX50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾燥物質量を算出した。
(2)この乾燥物質量換算で試料1g精秤し、遠心管にとり、メチルアルコール1mLで含浸させ、ガラス棒で撹拌しながら、25℃の蒸留水を加え正確に50mLとした。ときどき振盪し、25℃で20分間放置した。25℃で30分間、2860×gで遠心分離し、沈殿層と上澄層に分けた。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とした。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とした。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とした。
【0036】
(実施例1、比較例1、2)
本例では、パウンドケーキの作製および評価をおこなった。表1に、対照例を含む各例のパウンドケーキの配合および評価結果を示す。なお、表1に記載の各例において、焼き菓子用澱粉は、成分(A)~(C)の1種以上を含んで構成される。
【0037】
(パウンドケーキの製造方法)
1.表1に示した原材料のうち、マーガリンと砂糖を5コートのボウルに入れ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで中速にて8分間ミキシングした。
2.上記1.で得られた混合物に全卵を3回に分けて加えた。添加するごとに、中速にて2分間ミキシングし、混合物を得た。
3.一方、表1に示した原材料のうち、実施例及び比較例では成分(A)から(C)およびベーキングパウダーを均一に混ぜ合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉と、ベーキングパウダーとを均一に混ぜ合わせてミックス粉を得た。これらを、上記2.の混合物に加え、低速で、1分30秒間混ぜ、生地を得た。生地比重は、約0.8となった。
4.パウンド型(S)に、320gの生地を入れて、以下の条件で焼成した。
オーブン:プリンスオーブン:PJS3-222B、株式会社マルゼン
焼成温度:上段180℃/下段180℃
焼成時間:35分間
【0038】
(評価方法)
2名の専門パネラーの合議により、パウンドケーキの外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメ、甘さ(甘味の強さ)を評価した。評価基準は以下のようにし、3点以上を合格とした。
(外観)
4:焼き縮みが非常に小さい
3:焼き縮みが小さい
2:焼き縮みがやや大きい
1:焼き縮みが大きい
(食感)
4:やわらかくしっとりしている
3:やややわらかくしっとりしている
2:やや硬くパサつきがある
1:硬くパサつきがある
(口どけ)
4:非常に口どけが良い
3:口どけが良い
2:あまり口どけが良くない
1:口どけが良くない
(焼成後生地のキメ)
4:キメが細かい
3:キメがやや細かい
2:ややキメが粗い、あるいはややキメが詰まっている
1:キメが粗い、あるいはキメが詰まっている
(甘さ(甘味の強さ))
4:対照例よりも甘さが強い
3:対照例と同程度に甘い
2:対照例より甘さが弱い
1:対照例より非常に甘さが弱い
【0039】
【表1】
【0040】
表1より、実施例1で得られたパウンドケーキは焼き縮みが抑制されており、好ましい外観であった。また、実施例1においては、比較例1および2に比べて、パウンドケーキの外観、食感、口どけ、焼成後生地のキメおよび甘さのバランスに優れていた。
また、実施例1のスポンジケーキは、対照例よりも少ない砂糖の添加量で対照例と同程度の甘味を感じられるものだった。
【0041】
この出願は、2017年12月8日に出願された日本出願特願2017-235760号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。