(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】擬似皮膚の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20231002BHJP
A45D 44/22 20060101ALI20231002BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20231002BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20231002BHJP
A61K 8/29 20060101ALI20231002BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/46 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/48 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20231002BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20231002BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20231002BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231002BHJP
C08F 220/58 20060101ALI20231002BHJP
C08L 1/26 20060101ALI20231002BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20231002BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
A61K8/81
A45D44/22 Z
A61K8/19
A61K8/24
A61K8/29
A61K8/73
A61L27/12
A61L27/16
A61L27/20
A61L27/44
A61L27/46
A61L27/48
A61L27/50
A61L27/60
A61Q1/00
A61Q19/00
C08F220/58
C08L1/26
C08L33/26
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020553295
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040932
(87)【国際公開番号】W WO2020085201
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018200425
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】野田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】那須 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】黒川 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】グン 剣萍
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/093337(WO,A1)
【文献】特開2006-213868(JP,A)
【文献】特開2012-001596(JP,A)
【文献】国際公開第02/032405(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181930(WO,A1)
【文献】特開2004-337307(JP,A)
【文献】特開平11-169453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
A45D 44/22
A61L 27/00- 27/60
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00、301/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)第一のモノマーを重合し架橋することにより第一の網目構造を形成させる工程と、
(B)該第一の網目構造中に(b1)第二のモノマーを導入した後、該(b1)第二のモノマーを重合し、場合により架橋することにより前記第一の網目構造中に第二の網目構造を形成させる工程と、を含む相互侵入網目構造を有するゲルからなる擬似皮膚の製造方法において、
前記工程(A)において、重合溶媒中に粉末および増粘剤を含み、前記(a1)第一のモノマーが、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を含み、前記(a1)第一のモノマーの含有量が、重合溶媒中0.5~1.5mol/Lであり、
前記(b1)第二のモノマーが、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、及びN-メチロールアクリルアミドから選択される少なくとも1種のアクリルアミド誘導体を含み、
前記増粘剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアリルエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースサクシネート、
及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレー
トから選択される少なくとも1種であり、前記増粘剤の含有量が、前記工程(A)の重合溶媒中0.3~1重量%であり、
前記工程(A)の重合溶媒が分散剤を含み、該分散剤がヘキサメタリン酸ナトリウム又はポリアクリル酸ナトリウムであり、前記分散剤の含有量が、前記粉末に対して5重量%以上であることを特徴とする擬似皮膚の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の擬似皮膚の製造方法において、
前記第二のモノマーがアクリルアミド又はジメチルアクリルアミドであることを特徴とする擬似皮膚の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の擬似皮膚の製造方法において、前記増粘剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースステアリルエーテルであることを特徴とする擬似皮膚の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の擬似皮膚の製造方法において、前記工程(A)において、重合溶媒中に架橋剤を含み、前記架橋剤が多官能不飽和モノマーであることを特徴とする擬似皮膚の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の擬似皮膚の製造方法において、前記架橋剤の添加量が前記(a1)第一のモノマー100モル%に対して、0.5~20モル%であることを特徴とする擬似皮膚の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の擬似皮膚の製造方法において、前記(b1)第二のモノマーを含む溶液中に第一の網目構造を有するゲル前駆体を浸漬することにより、前記第一の網目構造中に前記(b1)第二のモノマーを導入することを特徴とする擬似皮膚の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2018年10月24日付け出願の日本国特許出願2018-200425号の優先権を主張しており、ここに折り込まれるものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は擬似皮膚の製造方法に関し、特に十分な強度および自然で均一な色を有し、長時間貼付可能な擬似皮膚の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、擬似皮膚の開発が進んでいる。例えば、相対的に耐久力が高く伸びの大きな第一 のウレタン樹脂で形成し、内部に肌の色を表わす着色剤層を挟み込んだ表面層と、第一のウレタン樹脂より相対的に軟質な第二のウレタン樹脂で形成される基層とよりなる人工皮膚モデルが開発されている(特許文献1参照)。
しかし、これらの擬似皮膚は、実際に顔等の皮膚に長時間貼付可能なものではなく、擬似皮膚上に化粧料を塗布して仕上がり具合を評価するためのものであった。
これに対して、実際に顔に長時間貼付可能なだけではなく、毎朝の化粧習慣や日中の化粧直しから解放し、メークしたての完璧な肌状態を少なくとも一日保つことの可能な擬似皮膚の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術に鑑み行われたものであり、その解決すべき課題は、十分な強度および自然で均一な色を有し、長時間貼付可能な擬似皮膚の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが前述の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、相互侵入網目構造を有するゲルからなる擬似皮膚において、第一の網目構造を形成させる工程の重合溶媒中に粉末および増粘剤を含み、第一のモノマーの含有量を特定量配合して得られることにより、十分な強度および自然で均一な色を有し、長時間貼付可能な擬似皮膚を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかる擬似皮膚の製造方法は、(A)(a1)第一のモノマーを重合し架橋することにより第一の網目構造を形成させる工程と、
(B)該第一の網目構造中に(b1)第二のモノマーを導入した後、該(b1)第二のモノマーを重合し、場合により架橋することにより前記第一の網目構造中に第二の網目構造を形成させる工程と、を含む相互侵入網目構造を有するゲルからなる擬似皮膚の製造方法において、
前記工程(A)において、重合溶媒中に粉末および増粘剤を含み、(a1)第一のモノマーの含有量が、重合溶媒中0.5~3mol/Lであることを特徴とする。
前記擬似皮膚の製造方法において、(a1)第一のモノマーが、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸であることが好適である。
前記擬似皮膚の製造方法において、増粘剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースステアリルエーテルであることが好適である。
前記擬似皮膚の製造方法において、増粘剤の配合量が、工程(A)の重合溶媒中0.3~1重量%であることが好適である。
前記擬似皮膚の製造方法において、工程(A)の重合溶媒に分散剤を含み、該分散剤にヘキサメタリン酸ナトリウムまたはポリアクリル酸ナトリウムを含むことが好適である。
前記擬似皮膚の製造方法において、分散剤の含有量が、粉末に対して5重量%以上であることが好適である。
前記擬似皮膚の製造方法において、(a1)第一のモノマーの含有量が、重合溶媒中0.5~1.5mol/Lであることが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、十分な強度および自然で均一な色を有し、長時間貼付可能な擬似皮膚の製造方法を提供することができる。また、(a1)第一のモノマーの含有量を調製することにより、実際に皮膚に乗せた際に違和感がない擬似皮膚の製造方法も提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明にかかる擬似皮膚の製造方法は、(A)(a1)第一のモノマーを重合し架橋することにより第一の網目構造を形成させる工程と、
(B)該第一の網目構造中に(b1)第二のモノマーを導入した後、該(b1)第二のモノマーを重合し、場合により架橋することにより前記第一の網目構造中に第二の網目構造を形成させる工程と、を含む相互侵入網目構造を有するゲルからなる擬似皮膚の製造方法において、
前記工程(A)において、重合溶媒中に粉末および増粘剤を含み、(a1)第一のモノマーの含有量が、重合溶媒中0.5~3mol/Lであることを特徴とする。
相互侵入網目構造とは、第一の網目構造および第二の網目構造の2つの網目構造が重なり合い、相互に絡み合っている構造を意味する。
【0010】
((A)第一の網目構造を形成させる工程)
第一の網目構造は、(a1)第一のモノマーを重合し架橋することにより形成された網目構造である。第一の網目構造の重合溶媒中に粉末および増粘剤を含むことが必要である。
【0011】
((a1)第一のモノマー)
(a1)第一のモノマーは、単官能不飽和モノマーである。単官能不飽和モノマーとは、1分子中に1個の炭素-炭素不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。
【0012】
(a1)第一のモノマーとしては、アニオン性不飽和モノマー(a1-1)を用いることが好ましい。
アニオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において負に帯電するモノマーを意味する。第一の網目構造を(b1)第二のモノマーの溶液(以下、「第二のモノマー溶液」という。)に浸漬した際、第一の網目構造においてアニオン性不飽和モノマー(a1-1)に由来する単位の酸性基が解離することで、アニオン同士が反発して第一の網目構造が膨潤挙動を発現し、(b1)第二のモノマーを第一の網目構造内に導入することが容易になる。
【0013】
(a1-1)アニオン性不飽和モノマーとしては、例えば、スルホン酸基を有する不飽和モノマー(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等)、カルボン酸基を有する不飽和モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸等)、リン酸基を有する不飽和モノマー(メタクリルオキシエチルトリメリック酸等)、これらの塩等が挙げられる。これらアニオン性不飽和モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
(a1-1)アニオン性不飽和モノマーの含有量は、(a1)第1のモノマー100モル%のうち、5モル%以上であることが好ましい。(a1-1)アニオン性不飽和モノマーの含有量が5モル%以上であれば、第一の網目構造の膨潤挙動が発現しやすく、充分な機械強度を有するゲルを得ることが容易になる。
【0015】
また、(a1)第1のモノマーには、(a1-1)アニオン性不飽和モノマー以外に、他の不飽和モノマーが含まれていてもよい。他の不飽和モノマーとしては、(a1-2)ノニオン性不飽和モノマーや(a1-3)カチオン性不飽和モノマーが挙げられる。
ノニオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において正負いずれにも帯電しない、また帯電しても極めて微弱であるモノマーを意味する。また、カチオン性不飽和モノマーとは、単官能不飽和モノマーのうち、水中において正に帯電するモノマーを意味する。
【0016】
(a1-2)ノニオン性不飽和モノマーの種類は、溶媒に可溶であれば特に限定されない。
(a1-2)ノニオン性不飽和モノマーとしては、公知のモノマーが挙げられ、例えば、アクリルアミド誘導体(アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等)、メタクリルアミド誘導体(メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン等)、アクリレート(ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等)、メタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等)、アクリロニトリル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、酢酸ビニル等の水溶性のものや、アルキル(メタ)アクリレート(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、反応性官能基を有する(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等)等の水溶性に乏しいノニオン性不飽和モノマーが挙げられる。
これらノニオン性不飽和モノマー(a1-2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
(a1-2)ノニオン性不飽和モノマーは、機械強度を発現させやすい点から、分子量(質量平均分子量)が1000以下のものが好ましい。中でも、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましい。さらに、特に分子内に水素結合を形成する部位、すなわち水酸基やアミド基を有するモノマー、例えばN-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体等を用いることが好ましい。
【0018】
(a1-3)カチオン性不飽和モノマーとしては、例えば、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに代表されるような不飽和4級アンモニウム塩等が挙げられる。
(a1-3)カチオン性不飽和モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(a1)第一のモノマーの含有量は、重合溶媒中0.5~3mol/Lであることが必要である。(a1)第一のモノマーの含有量が少なすぎると、粉末分散性に劣る。(a1)第一のモノマーの含有量が多すぎると、モノマーが溶解せず、重合することができなくなってしまう。
【0020】
第一の網目構造は、(a1)第一のモノマーを重合し架橋することにより得られる。すなわち、架橋剤を含むことが必要である。
【0021】
(架橋剤)
架橋剤としては、多官能不飽和モノマーが挙げられる。
多官能不飽和モノマーとは、重合性官能基を2個以上有する不飽和モノマーを意味する。重合性官能基とは、ポリマーに架橋点を形成する官能基であり、(メタ)アクリロイル基やビニル基等が挙げられる。ポリアルキレングリコール構造とは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラメチレンオキシド等のアルキレンオキシドに由来する構成単位(以下、「アルキレンオキシド単位」という。)が繰り返し存在する構造を意味する。
【0022】
多官能不飽和モノマーとして、例えば、N,N-メチレンビスアクリルアミド、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、モノプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
架橋剤の添加量は、(a1)第一のモノマー100モル%に対して、0.5~20モル%が好ましく、2~15モル%がより好ましい。前記添加量が0.5モル%以上であれば、第一の網目構造の形状を保ちやすく、(b1)第二のモノマーを導入する際の第一の網目構造の取り扱いが容易になる。また、前記添加量が20モル%以下であれば、第一の網目構造が充分に膨潤しやすく、第一の網目構造に(b1)第二のモノマーを充分に吸収させることが容易になる。
【0024】
本発明の擬似皮膚の製造方法の工程(A)において、重合溶媒中に粉末および増粘剤を含むことが必要である。
【0025】
(粉末)
相互浸入網目構造を有するゲルは、第一の網目構造の重合溶媒中に粉末を配合することで、本発明の擬似皮膚として提供することができる。
粉末としては、擬似皮膚として用いることができるようにゲルを着色できるものであれば特に限定されないが、酸化チタン、黄酸化鉄、赤酸化鉄、酸化亜鉛、黒酸化鉄、ポリメタクリル酸メチル、シリカ、シリコーンエラストマー、セルロース末等が挙げられる。
【0026】
粉末の配合量は、工程(A)の重合溶媒中0.5~3重量%であることが好ましい。粉末の配合量が少なすぎると、擬似皮膚として機能しなくなる場合がある。粉末の配合量が多すぎると、粉末が凝集してしまう場合があることに加えて、ゲルが脆弱になる場合がある。
【0027】
(増粘剤)
本発明の擬似皮膚は、第一の網目構造の重合溶媒中に増粘剤を配合することで、色材の分散性を改善することが可能である。
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアリルエーテル等が挙げられる。特に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアリルエーテルが、分散性の改善効果の点から最も好ましい。
【0028】
増粘剤の配合量は、工程(A)の重合溶媒中0.3~1重量%であることが好ましく、0.4~0.8重量%であることが特に好ましい。増粘剤の配合量が少なすぎると、粉末分散性に劣る場合がある。増粘剤の配合量が多すぎると、硬くなりすぎて皮膚に貼付した際に違和感を生じる場合がある。また、粘度が高くなり製造性が大きく低下する場合がある。
【0029】
本発明の擬似皮膚の製造方法の工程(A)において、上記以外の成分として、重合溶媒に分散剤、中和剤、重合開始剤、水を添加することが好ましい。
【0030】
(分散剤)
本発明の擬似皮膚は、工程(A)の重合溶媒中に分散剤を添加することが好ましい。
分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、等が挙げられる。
【0031】
分散剤の含有量は、粉末に対して5重量%以上であることが好ましい。分散剤の含有量の配合量が少なすぎると、粉末分散性に劣る場合がある。
【0032】
((B)第二の網目構造を形成させる工程)
本発明の相互浸入網目構造を有するゲルは、第二の網目構造を有する。
第二の網目構造は、第一の網目構造中に(b1)第二のモノマーを導入し、該(b1)第二のモノマーを重合し架橋することにより前記第一の網目構造中に形成された網目構造である。
(b1)第二のモノマーは、(b1-1)ノニオン性不飽和モノマーを含むモノマーであり、必要に応じて他の(b1-2)不飽和モノマーとの混合物を用いることもできる。
【0033】
(b1-1)ノニオン性不飽和モノマーとしては、単官能不飽和モノマーで公知のノニオン性不飽和モノマーを用いることができ、(a1-2)ノニオン性不飽和モノマーで挙げたものと同じものが挙げられる。(b1-1)ノニオン性不飽和モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
(b1-1)ノニオン性不飽和モノマーの含有量は、(b1)第二のモノマー100モル%のうち、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。ノニオン性不飽和モノマー(b1-1)の含有量が60モル%以上であれば、(b1)第二のモノマー同士の電気的な反発等を抑制しやすく、第一の網目構造中に充分な量の(b1)第二のモノマーを導入することが容易になる。
【0035】
(b1-2)他の不飽和モノマーとしては、アニオン性不飽和モノマー、カチオン性不飽和モノマーを用いることができ、(a1-1)アニオン性不飽和モノマー、(a1-3)カチオン性不飽和モノマーで挙げたものと同じモノマーが挙げられる。
【0036】
第二の網目構造は、(b1)第二のモノマーを重合し、場合により架橋することにより得られる。架橋する場合の架橋剤としては、工程(A)と同様のものが挙げられる。
【0037】
本発明の擬似皮膚には、必要に応じて、上記以外の成分、公知の可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤を配合してもよい。
【0038】
本発明の擬似皮膚の製造方法を、以下に詳述する。
(工程(A))
まず、(a1)第一のモノマー、粉末、増粘剤、架橋剤、重合開始剤等を、溶媒に溶かして第一のモノマー溶液を調製する。ついで、第一のモノマー溶液を容器や枠へ流し込み、該溶液に熱または光を当てることにより、(a1)第一のモノマーが重合、架橋されて三次元架橋ポリマーである第一の網目構造が形成される。
【0039】
重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。
熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。
光重合開始剤としては、アルキルフェノン系開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤等の一般的な光重合開始剤が挙げられる。
【0040】
(工程(B))
第一の網目構造中に、(b1)第二のモノマー、重合開始剤等を導入することによって、第一の網目構造中に含まれる溶媒に(b1)第二のモノマー、重合開始剤等を均一に拡散させる。
ついで、(b1)第二のモノマーが導入された第一の網目構造に熱または光を当てることにより、(b1)第二のモノマーを重合させ、ポリマーとする。
該ポリマーの架橋は、(b1)第二のモノマーの重合と同時に行ってもよく、ポリマーを得た後に行ってもよい。
以上のようにして、第一の網目構造中に第二の網目構造を形成することにより、相互侵入網目構造を有する、任意の形状のゲルが得られる。
【0041】
第一の網目構造中に(b1)第二のモノマーを導入する方法としては、(b1)第二のモノマー、重合開始剤等を溶解した第二のモノマー溶液中に、第一の網目構造を有するゲル前駆体を浸漬し、第一の網目構造が溶媒を吸収し、膨潤していく過程で、(b1)第二のモノマーを第一の網目構造内に取り込ませる方法が簡便である。
【0042】
重合方法は、工程(A)における重合方法と同じ方法を用いることができる。
なお、第一の網目構造が不透明で充分に光を透過しない場合には、熱重合開始剤によるラジカル重合法が好ましい。また、温度によって挙動の変わる不飽和モノマーを用いる場合には、光重合開始剤による光重合法が好ましい場合もある。
(a1)第一のモノマーの重合方法と、(b1)第二のモノマーの重合方法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
工程(B)における架橋方法としては、化学結合による架橋方法、イオン結合による架橋方法、物理的架橋方法等が挙げられる。具体的には、下記の架橋方法が挙げられ、特殊な設備を必要としない、製造工程が複雑にならない、操作が簡便である、第二の網目構造を制御しやすい点から、方法(α)が好ましい。
(α)1分子中に2個以上の炭素-炭素不飽和二重結合を有する多官能不飽和モノマー(b2)を(b1)第二のモノマーとともに用いて、重合と同時に架橋する方法。
(β)放射線照射によって、(b1)第二のモノマーにより形成されたポリマー中にラジカルを発生させて架橋する方法。
(γ)ポリマーを構成する(b1)第二のモノマーに由来する単位の側鎖の官能基同士を直接反応させる方法。
(δ)ポリマーを構成する(b1)第二のモノマーに由来する単位の側鎖の官能基同士を橋架け剤で架橋する方法。
(ε)多価金属イオン(銅イオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン等)を用いて、イオン結合または配位結合によって架橋する方法。
【0044】
本発明の擬似皮膚は、長時間貼付することが可能なため、メーキャップ、保湿効果を有しつつ、紫外線等の外部刺激から皮膚を保護することも可能である。
【実施例】
【0045】
本発明について、以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する重量%で示す。
実施例の説明に先立ち本発明で用いた試験の評価方法について説明する。
【0046】
評価(1):粉末分散性
試料の粉末分散性について、評価した。
A:粉末は、均一に分散していた。
B:粉末の一部凝集が認められる。
C:粉末の凝集が認められる。
【0047】
評価(2):粉末沈降性
試料の粉末沈降性について、評価した。
A:粉末は、沈降していない。
B:粉末の一部沈降が認められる。
C:粉末の沈降が認められる。
【0048】
評価(3):ゲルの均一性
試料のゲルの均一性について、評価した。
A:均一。
B:一部不均一。
C:不均一。
【0049】
評価(4):皮膚に乗せた際の感触
試料を皮膚に乗せた際の感触を、ベースゲルを皮膚に乗せた際の感触と比較して、評価した。
A:試料は、ベースゲルよりもやわらかく、皮膚との親和性を感じた。
B:試料は、ベースゲルとほぼ同じ感触を有していた。
C:試料は、ベースゲルよりも固く、違和感があった。
【0050】
本発明者らは、下記表1に示す水中粉末分散物を常法により調製し、上記評価方法(1)で評価した。下記表1において、配合量は重量部で示されている。結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1より、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムおよびポリアクリル酸ナトリウムを用いることで、水中での粉末の分散性に優れることが明らかになった。
【0053】
次に、本発明者らは、相互浸入網目構造を有するゲルについて、擬似皮膚として用いることができるように粉末の配合を検討した。具体的には、第一の網目構造を形成する工程(A)に配合する増粘剤の種類について検討を行った。すなわち、下記表2に示す擬似皮膚およびベースゲルを、下記製造方法により製造し、上記評価基準(1)~(4)について評価した。結果を表2に示す。
【0054】
(擬似皮膚およびベースゲル製造方法)
(工程(A))
第一モノマー溶液はモノマーと架橋剤、開始剤、中和剤を水で溶解して調整した。粉末分散液は表1の組成で、粉末と分散剤、水を混合後、5分間超音波処理を行った。増粘用の高分子を水に溶解させ1%の水溶液を調整した。第一モノマー溶液に粉末分散液を撹拌混合後に、増粘用高分子水溶液を混合した。得られた重合溶液を自転公転ミキサー等を用いて脱泡し、ガラス製の重合用の型に流し込み、65℃で8時間重合を行った。
【0055】
(工程(B))
第二モノマー溶液はモノマーと架橋剤、開始剤を水で溶解して調整した。重合後の第一網目ゲルを第二モノマー溶液に浸漬し8時間静置後、65℃で8時間重合した。重合後のゲルをイオン交換水に浸漬することで残存モノマー等を除去した。
【0056】
なお、以下の表におけるAMPS、MBAA、APS、AAm、DMAAmは、以下の化合物である。
AMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
MBAA:N,N’-メチレンビスアクリルアミド
APS:過硫酸アンモニウム
AAm:アクリルアミド
DMAAm:ジメチルアクリルアミド
【0057】
【0058】
表2より、工程(A)に配合する増粘剤の種類により、粉末配合ゲルの粉末の分散性、ゲルの均一性に影響が出ることがわかった。
増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアリルエーテルを用いることで、粉末配合ゲルの粉末の分散性、ゲルの均一性を向上できることがわかった。
また、粉末を配合すると、ゲルに乗せた際の感触が悪化してしまうことが明らかになった。
以上のことから、本発明にかかる擬似皮膚の製造方法において、増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースステアリルエーテルを用いることが好ましい。
【0059】
次に、本発明者らは、工程(A)に配合する増粘剤の配合量について検討を行った。下記表3に示す擬似皮膚および上記表2に示すベースゲルを、上記製造方法により製造し、上記評価基準(1)~(4)について評価した。結果を表3に示す。
【0060】
【0061】
表3より、工程(A)に配合する増粘剤の配合量が低すぎると、粉末沈降性に影響があることがわかった。
このため、粉末沈降性を考慮すると、増粘剤の配合量は、工程(A)の重合溶媒中0.3重量%以上であることが好ましい。
【0062】
次に、本発明者らは、工程(A)に配合する(a1)第一のモノマーの配合量や工程(B)に配合する(b1)第二のモノマーの種類について検討を行った。下記表4に示す擬似皮膚および上記表2に示すベースゲルを、上記製造方法により製造し、上記評価基準(1)~(4)について評価した。結果を表4に示す。
【0063】
【0064】
表4より、(a1)第一のモノマーの配合量を減らすことで、皮膚に乗せた際の感触を改善できることが明らかになった。
また、(b1)第二のモノマーとしてAAm以外にDMAAmを用いることもできることが明らかになった。
【0065】
次に、本発明者らは、(a1)第一のモノマーの含有量について、さらなる検討を行った。下記表5に示す擬似皮膚および上記表2に示すベースゲルを、上記製造方法により製造し、上記評価基準(1)~(4)について評価した。結果を表5に示す。
【0066】
【0067】
試験例5-1より、(a1)第一のモノマーの含有量が少なすぎると、粉末分散性が悪くなってしまうことがわかった。
また、(a1)第一のモノマーの含有量が多すぎると、モノマーが溶解せず、重合することができなかった(試験例5-4)。
したがって、(a1)第一のモノマーの含有量は、重合溶媒中0.5~3mol/Lであることが必要である。また、皮膚に乗せた際の感触を考慮すると、(a1)第一のモノマーの含有量が、重合溶媒中0.5~1.5mol/Lであることが好ましい。