(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ブドウファバウイルスの検出法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20231002BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20231002BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20231002BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6888 Z
C12Q1/70
(21)【出願番号】P 2020012196
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-08-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトにおける掲載による公開〕 公開日:平成31年(2019年)2月2日 掲載アドレス:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/LC457511.1
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトにおける掲載による公開〕 公開日:平成31年(2019年)2月2日 掲載アドレス:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/LC457512.1
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物による公開〕 発行日:令和元年(2019年)8月21日 刊行物名:植物感染生理談話会論文集(第54号) 発行人:日本植物病理学会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔集会での発表による公開〕 開催日:令和元年(2019年)8月28~30日 集会名:日本植物病理学会 令和元年度植物感染生理談話会 開催場所:美人の湯 十勝川温泉 笹井ホテル
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトにおける掲載による公開〕 公開日:令和元年(2019年)10月16日 掲載アドレス:https://link.springer.com/article/10.1007/s10327-019-00888-0
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆男
(72)【発明者】
【氏名】千秋 祐也
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Virological Methods,2014年,Vol.197, pp.77-82
【文献】Genome Announcements,2016年,Vol.4, Issue.4, e00703-16,p.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/11
C12Q 1/6844
C12Q 1/6888
C12Q 1/70
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(5)~(9)のプライマー
:
(5) ブドウファバウイルスのRNA2における配列番号5記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(6) ブドウファバウイルスのRNA2における配列番号6記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(7) ブドウファバウイルスのRNA2における配列番号7記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(8) ブドウファバウイルスのRNA2における配列番号8記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(9) ブドウファバウイルスのRNA2における配列番号9記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー
のいずれか2つを含む、ブドウファバウイルスに特異的な塩基配列を増幅するためのプライマーセットであって、
以下の(c)~(f):
(c) 配列番号14記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号18記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(d) 配列番号15記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号19記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(e) 配列番号16記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号19記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(f) 配列番号17記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号19記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット
のいずれか1つのプライマーセットである、前記プライマーセット。
【請求項2】
以下の(1)~(4)のプライマー
:
(1) ブドウファバウイルスのRNA1における配列番号1記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(2) ブドウファバウイルスのRNA1における配列番号2記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(3) ブドウファバウイルスのRNA1における配列番号3記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(4) ブドウファバウイルスのRNA1における配列番号4記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー
のいずれか2つを含む、ブドウファバウイルスに特異的な塩基配列を増幅するためのプライマーセットであって、
以下の(a)又は(b):
(a) 配列番号10記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号13記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(b) 配列番号11記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号12記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット
のプライマーセットである、前記プライマーセット。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプライマーセットを含む、ブドウファバウイルス検出又はブドウファバウイルス感染診断用キット。
【請求項4】
請求項1又は2記載のプライマーセット又は
請求項3記載のキットを用いて、ブドウファバウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行う工程を含む、ブドウファバウイルス検出又はブドウファバウイルス感染診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばブドウファバウイルスを検出する遺伝子診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、「農研機構」と称する)で育成されたシャインマスカットは、近年栽培面積が急速に拡がっているが、それに伴い、原因不明の葉の奇形や退緑症状が問題となってきた。それらの樹からは、セコウイルス科ファバウイルス属のブドウファバウイルス(Grapevine fabavirus;以下、「GFabV」と称する)を含む4種のウイルス・ウイロイドが検出される(非特許文献1)。
【0003】
RNA1とRNA2をゲノムに持つGFabVは、次世代シーケンス(NGS)解析により、近年発見された新しいウイルスである(非特許文献2)。GFabVは農研機構のシャインマスカットの採穂用母樹から検出されており、既に国内の一般圃場に広く分布していると考えられる(非特許文献3)。GFabVは、混合感染している他のウイルス・ウイロイドと共に、一定の温度条件下におけるシャインマスカットの萎縮症状に関連することが示唆されている(非特許文献4)(
図1)。また、GFabVはこれまでに韓国、中国において発生が確認されている。
【0004】
一方、GFabVには複数の変異株が存在し、これまでに、幾つかのGFabV変異株を個別に検出する方法は公開されているが(非特許文献2及び4~6)、全てのGFabV変異株を網羅的に検出する手法は開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ito T, Nakaune R (2018) Grapevine fabavirus and grapevine geminivirus A in Japan. In: Fiore N, Carrasco AZ (eds) Proceedings of the 19th Congress of ICVG, Universidad de Chile, Santiago, pp. 74-75
【文献】Al Rwahnih M, Alabi OJ, Westrick NM, Golino D, Rowhani A (2016) Near-complete genome sequence of grapevine fabavirus, a novel putative member of the genus Fabavirus. Genome Announc 4:e00703-16
【文献】千秋祐也・伊藤隆男(2019)近年、国内のブドウから検出されたウイルスについて.植物感染生理談話会 第54号:24-33.
【文献】Chiaki Y, Ito T, Sato A, Sugiura H, Nishimura R (2019) Dwarfing caused by viral pathogens and leaf malformations in ‘Shine Muscat' grapevine. https://doi.org/10.1007/s10327-019-00888-0
【文献】Fan XD, Zhang ZP, Ren F, Hu GJ, Li ZN, Dong YF. (2017) First Report of Grapevine fabavirus in Grapevines in China. Plant Dis 101:847.
【文献】Jo Y, Song MK, Choi H, Park JS, Lee JW, Cho WK (2017) First report of grapevine fabavirus in diverse Vitis species in Korea. Plant Dis 101:1829
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の実情に鑑み、GFabVを網羅的に検出する遺伝子診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、GFabV変異株間に共通する保存領域を決定すると共に、それらの保存領域に対応するプライマーを設計し、それらのプライマーと、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の手法を用いることで、GFabV変異株を漏れなく検出するためのユニバーサル(網羅的)な遺伝子診断技術を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
[1]以下の(5)~(9)のプライマーのいずれか2つを含む、GFabVに特異的な塩基配列を増幅するためのプライマーセット。
(5) GFabVのRNA2における配列番号5記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(6) GFabVのRNA2における配列番号6記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(7) GFabVのRNA2における配列番号7記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(8) GFabVのRNA2における配列番号8記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(9) GFabVのRNA2における配列番号9記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー。
[2]以下の(c)~(f)のいずれか1つのプライマーセットである、[1]記載のプライマーセット。
(c) 配列番号14記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号18記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(d) 配列番号15記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号19記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(e) 配列番号16記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号19記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(f) 配列番号17記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号19記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット。
[3]以下の(1)~(4)のプライマーのいずれか2つを含む、GFabVに特異的な塩基配列を増幅するためのプライマーセット。
(1) GFabVのRNA1における配列番号1記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(2) GFabVのRNA1における配列番号2記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(3) GFabVのRNA1における配列番号3記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー;
(4) GFabVのRNA1における配列番号4記載の塩基配列から成る保存領域に対するプライマー。
[4]以下の(a)又は(b)のプライマーセットである、[3]記載のプライマーセット。
(a) 配列番号10記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号13記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット;
(b) 配列番号11記載の塩基配列を含むプライマーと配列番号12記載の塩基配列を含むプライマーとから成るプライマーセット。
[5][1]~[4]のいずれか1記載のプライマーセットを含む、GFabV検出又はGFabV感染診断用キット。
[6][1]~[4]のいずれか1記載のプライマーセット又は[5]記載のキットを用いて、GFabVの標的核酸領域の増幅反応を行う工程を含む、GFabV検出又はGFabV感染診断方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブドウに感染する既知又は未知のGFabVを網羅的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ウイルス接種によるシャインマスカットの萎縮症状(右3本)を示す写真である。
【
図2-1】GFabV変異株の(A)RNA1及び(B)RNA2における塩基配列のアライメントである。(i):既報の3変異株(非特許文献2及び5)と本発明者等がデータベース上に公開したCSM株(LC424104/LC424105)、(ii):データベース上に登録があり論文未公表の11変異株、(iii):本発明者等が設計したユニバーサルプライマー配列、(iv):AB株、NI株、Ns1株、Z4株、Z6株、Sg24株の5'及び3'末端の増幅に使用したユニバーサルプライマーの配列領域。
【
図3】DWRSのRNA2におけるプライマーの設計位置を示す模式図である。
【
図4】ユニバーサルプライマーセットの(A)Fab-Det-F1/Fab-Det-R、(B)Fab-Det-F2/Fab-Det-R又は(C)Fab-Det-F3/Fab-Det-Rを用いたワンステップRT-PCRによる増幅産物のアガロースゲル電気泳動像である。各レーンは以下の通りである:M:Quick-Load Purple 1 kb Plus DNA Ladder(0.1-10.0 kb), 1:AB株, 2:16SM3株, 3:CSM株,4:DWRS株, 5:NI株, 6:Ns1株, 7:Sg24株, 8:Z4株, 9:Z6株, 10:無毒化シャインマスカット, 11:TEバッファー(10,11レーンはネガティブコントロール)。(A)の白抜き部は、今回の試験とは無関係の反応産物を泳動した部分について、写真の画像から消去したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るプライマーセットは、ブドウファバウイルス(GFabV)に特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするプライマーを含む、GFabVに特異的な塩基配列を増幅するためのプライマーセットである。
【0012】
GFabVは、2分節(RNA1及びRNA2)から成る1本鎖(+)RNAをゲノムとする(+)1本鎖RNAウイルスである。
【0013】
本発明者等は、国内のブドウ約200個体についてNGS解析を行う過程で、シャインマスカットを含む複数の品種からGFabVを検出し、合計8種の変異株について、RNA1とRNA2の全長配列を決定した。変異株を検出した品種及び症状と感染状況を、表1に示す。そのうちの16SM3株のRNA1及びRNA2の塩基配列は、非特許文献4に公開しており、遺伝子データベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)上に公開されている(アクセッション番号LC457511/LC457512)。一方、残りの7変異株(AB、DWRS、NI、Ns1、Sg24、Z4及びZ6)については、RNA1及びRNA2の塩基配列は、未公開である。
【0014】
【0015】
本発明者等は、このように本発明者等が配列決定したGFabV変異株のRNA1及びRNA2の塩基配列をデータベース上にある他のGFabV変異株のRNA1及びRNA2の塩基配列と共に比較及び分析し、GFabV変異株間で配列共通性が高い領域(保存領域)を見出した。見出した当該保存領域に基づき作製したプライマーを用いたRT-PCRによれば、GFabVを網羅的に検出できる。
【0016】
第一実施形態の本発明に係るプライマーセットは、GFabVのRNA1に対して設計されるプライマーを含むものであり、以下の(1)~(4)のプライマーのいずれか2つを含む、GFabVに特異的な塩基配列を増幅するためのプライマーセットである:
(1) GFabVのRNA1における配列番号1記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(1))に対するプライマー;
(2) GFabVのRNA1における配列番号2記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(2))に対するプライマー;
(3) GFabVのRNA1における配列番号3記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(3))に対するプライマー;
(4) GFabVのRNA1における配列番号4記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(4))に対するプライマー。
【0017】
本発明では、保存領域の塩基配列をDNAで示す(すなわち、GFabVのゲノムRNAにおける保存領域の塩基配列を、UをTに変換してDNAで表示する)。
【0018】
本発明において、「保存領域に対するプライマー」とは、保存領域全体若しくはその一部(センス配列)又はそれらの相補的配列(アンチセンス配列)に特異的にアニーリングできるように、保存領域全体若しくはその一部又はそれらの相補的配列と同一の又は実質的に同一の塩基配列を有するプライマーを意味する。ここで、「実質的に同一の塩基配列」とは、1又は数塩基(例えば、1~3塩基、好ましくは1又は2塩基)が保存領域全体若しくはその一部又はそれらの相補的配列と異なっても、保存領域全体若しくはその一部又はそれらの相補的配列に特異的にアニーリングできる塩基配列を意味する。
【0019】
各保存領域に対するプライマーの組み合わせのうち、
図2に示すように、5'側に存在する保存領域に対するプライマーが、フォワードプライマーとして保存領域全体若しくはその一部と同一の又は実質的に同一の塩基配列を有するプライマーであり、他方の3'側に存在する保存領域に対するプライマーが、リバースプライマーとして保存領域全体又はその一部の相補的配列と同一の又は実質的に同一の塩基配列を有するプライマーである。
【0020】
保存領域に対するプライマーは、例えばRT-PCRによる検出に適する縮重度(1,000以下、好ましくは200以下)やTm値(35~65℃、好ましくは45~55℃)を考慮して設計することができる。また、プライマーの縮重度が高くなりすぎないように、標的配列に対して結合しないが、2本鎖形成を阻害することもないイノシン残基(I)を、保存領域に対するプライマーの塩基として、例えば1~5塩基(好ましくは1又は2塩基)含んでもよい。さらに、保存領域に対するプライマーの長さは、標的配列に特異的にアニーリングできる長さであれば特に限定されないが、例えば18塩基~保存領域全体の長さ、好ましくは20塩基~保存領域全体の長さが挙げられる。
【0021】
具体的な第一実施形態の本発明に係るプライマーセットとしては、表2及び
図2に示す、以下の(a)又は(b)のプライマーセットが挙げられる:
(a) 配列番号10記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(1)に対するフォワードプライマーFab-RNA1-5F)と配列番号13記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(4)に対するリバースプライマーCS1-3R2)とから成るプライマーセット;
(b) 配列番号11記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(2)に対するフォワードプライマーFbC1f)と配列番号12記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(3)に対するリバースプライマーFbC1r)とから成るプライマーセット。
【0022】
第二実施形態の本発明に係るプライマーセットは、GFabVのRNA2に対して設計されるプライマーを含むものであり、以下の(5)~(9)のプライマーのいずれか2つを含む、GFabVに特異的な塩基配列を増幅するためのプライマーセットである:
(5) GFabVのRNA2における配列番号5記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(5))に対するプライマー;
(6) GFabVのRNA2における配列番号6記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(6))に対するプライマー;
(7) GFabVのRNA2における配列番号7記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(7))に対するプライマー;
(8) GFabVのRNA2における配列番号8記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(8))に対するプライマー;
(9) GFabVのRNA2における配列番号9記載の塩基配列から成る保存領域(表3及び
図2に示す保存領域(9))に対するプライマー。
【0023】
具体的な第二実施形態の本発明に係るプライマーセットとしては、表2及び
図2に示す、以下の(c)~(f)のいずれか1つのプライマーセットが挙げられる:
(c) 配列番号14記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(5)に対するフォワードプライマーFab-RNA2-5F)と配列番号18記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(9)に対するリバースプライマーCS2-3R1)とから成るプライマーセット;
(d) 配列番号15記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(6)に対するフォワードプライマーFab-Det-F1)と配列番号19記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(9)に対するリバースプライマーFab-Det-R)とから成るプライマーセット;
(e) 配列番号16記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(7)に対するフォワードプライマーFab-Det-F2)と配列番号19記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(9)に対するリバースプライマーFab-Det-R)とから成るプライマーセット;
(f) 配列番号17記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(8)に対するフォワードプライマーFab-Det-F3)と配列番号19記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(保存領域(9)に対するリバースプライマーFab-Det-R)とから成るプライマーセット。
【0024】
また、本発明は、本発明に係るプライマーセットを含む、GFabV検出又はGFabV感染診断用キットに関する。当該キットは、例えばRT-PCRに使用する逆転写酵素、DNAポリメラーゼ;RT-PCRに使用する核酸合成基質(dNTP)、緩衝液、塩類、容器等;RT-PCR増幅産物の検出に必要な試薬類(例えば、アガロースゲル、エチジウムブロマイド等);使用説明書等を更に含むことができる。
【0025】
さらに、本発明は、以上に説明する本発明に係るプライマーセット又はキットを使用して、GFabVの標的核酸領域の増幅反応を行う工程を含む、GFabV検出又はGFabV感染診断方法(以下、「本方法」と称する)に関する。本方法は、本発明に係るプライマーセットを用いた核酸増幅反応を行う工程を含み、例えばRT-PCR法、定量的RT-PCR法、RT-nested PCR法、ワンステップRT-PCR法等を利用することができる。
【0026】
例えば、本方法においてRT-PCR法を使用する場合には、先ず、従来公知の方法に従い、GFabV感染の有無の検出対象のブドウ由来のサンプルからRNAを抽出及び精製し、精製したRNAを鋳型とし、逆転写酵素及びランダムヘキサマー等のプライマーを用いて、cDNAを作製する。ここで、ブドウ由来のサンプルとしては、例えば植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞等が挙げられる。
【0027】
次いで、作製したcDNAを鋳型として、本発明に係るプライマーセットを用いたPCRに供する。PCR反応液は、例えば反応液10μL当たり、本発明に係るプライマーセットに含まれる各プライマーを終濃度0.1~2.0μM(好ましくは0.2-1.0μM)、cDNA 0.1~2μL(好ましくは1.0~1.5μL)、DNAポリメラーゼ0.1~2U(好ましくは0.5~1U)、及びdNTPを終濃度0.1~1mM(好ましくは0.1~0.3mM)で含まれるように調製する。また、PCRのサーマルサイクリング条件としては、使用するプライマーセットに応じて適宜決定することができるが、例えば変性:90~99℃(好ましくは94~98℃) 1~60秒(好ましくは20秒~30秒)、アニーリング:35~65℃(好ましくは50℃~55℃) 10~60秒(好ましくは15~30秒)、伸長:65~75℃(好ましくは68~72℃) 10~60秒(好ましくは30秒~60秒)の25~50サイクル(例えば35~45サイクル)が挙げられる。
【0028】
次いで、PCR反応後、反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイド染色により、使用したプライマーセットから想定されるサイズの増幅産物の有無を確認する。増幅産物の有無により、GFabV感染を診断(又は検査若しくは評価)することができる。
【0029】
また、増幅産物の配列解析により、感染しているGFabV変異株の系統判別を行うこともできる。
【0030】
本方法において、リアルタイムRT-PCR等の定量的RT-PCR法を使用する場合には、例えば上記RT-PCR法で使用する試薬以外に、増幅領域内に相補的に結合する蛍光プローブ(例えば、使用するプライマーがアニーリングする領域間に存在する上記保存領域全体若しくはその一部(センス配列)又はそれらの相補的配列(アンチセンス配列)に特異的にアニーリングできるように、当該保存領域全体若しくはその一部又はそれらの相補的配列と同一の又は実質的に同一の塩基配列を有し、5'末端にレポーターを標識し、且つ3'末端にクエンチェーを標識した蛍光プローブ等)を使用してPCRを行い、蛍光シグナルを指標として増幅産物を定量することができる。
【0031】
本方法において、RT-nested PCR法を使用する場合には、本発明に係るプライマーセットで増幅する標的領域の外側の位置にアニーリングするプライマーセットを使用し、ブドウ由来のサンプルからのRNAを鋳型として、cDNAをPCR増幅する。次いで、上記RT-PCR法と同様に、当該cDNAを鋳型として本発明に係るプライマーセットを用いたPCRに供する(Nested PCR)。
【0032】
本方法において、ワンステップRT-PCR法を使用する場合には、逆転写反応とPCR反応を同一チューブ内でワンステップで行う。具体的には、本発明に係るプライマーセットを使用し、ブドウ由来のサンプルからのRNAを鋳型としてcDNAを作製すると共に、作製したcDNAを鋳型としたPCRを行う。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
1.GFabVの塩基配列の決定及びその相同性
16SM3株に関しては、NGS解析により得られたコンティグが、既報のGFabV BB株(KX241484-KX241485)と塩基配列相同性の高いものであったことから、コンティグ配列とBB株の配列を基にプライマーを設計してほぼ全長の塩基配列を決定した(非特許文献4)。
【0035】
DWRS株に関しては、NGS解析により得られたコンティグからBLASTN及びBLASTX解析にて、既報のGFabVに相同性の高いコンティグを選抜した。それらのコンティグに対して特異的なプライマーを構築し、RT-PCRで対象の配列を増幅後、増幅断片の塩基配列を確認した。また、両分節共に、RACE法及びリードマッピングを用いて、全ゲノム配列を決定した。
【0036】
本発明者等は、DWRS株と同様の手法により、シャインマスカットから本出願以前に見出したCSM株の全ゲノム配列を決定しており、データベース上に公開している(LC424104/LC424105)。
【0037】
DWRS株とCSM株について、両分節の5'及び3'末端の配列が保存されていることが確認できたため、それらの保存領域にユニバーサルプライマーFab-RNA1-5F、CS1-3R2、Fab-RNA2-5F、CS2-3R1を設計した(
図2及び表2)。
【0038】
その他の7変異株(AB、DWRS、NI、Ns1、Sg24、Z4、Z6)については、NGS解析により得られたコンティグからBLASTN及びBLASTX解析にて、GFabVに相同性の高いコンティグを選抜した後、上記のユニバーサルプライマーと各コンティグに対する特異的プライマーの組み合わせをそれぞれ用いてRT-PCRを行い、増幅産物の塩基配列解析により両末端のプライマー配列部分を含む全長の塩基配列を決定した。
【0039】
本発明者等が発見した変異株に既報の変異株を加え、塩基配列の相同性を解析したところ、RNA1で73-99%、RNA2で76-99%と遺伝的に多様であることが確認された。
【0040】
【0041】
2.網羅的遺伝子診断に用いる保存領域の探索とプライマーの設計
本発明者等が決定したRNA1とRNA2について、データベース上に登録されている他の塩基配列と共にアライメントを行い、保存領域をそれぞれ探索した。
【0042】
データベース上に登録されている塩基配列として、RNA1については、KX241482・KX241484(非特許文献2)、KX962563(非特許文献5)、本発明者等が先に登録したCSM株(LC424104)の4変異株、RNA2については、KX241483・KX241485(非特許文献2)、KX962564(非特許文献5)及びCSM株(LC424105)の4変異株と、データベースに登録されて論文未公表のMH578343-MH578353の11変異株の計15変異株を利用した(
図2)。なお、MH578343-MH578353の塩基配列決定方法は公表されていないため、登録された塩基配列の信憑性は不明である。
【0043】
RNA1においては保存領域(1)~(4)を、RNA2においては保存領域(5)~(9)をそれぞれ決定した(表3及び
図2)。保存領域(1)、(4)、(5)、(9)については、上記のユニバーサルプライマーFab-RNA1-5F、CS1-3R2、Fab-RNA2-5F、Cs2-3R1の設計に利用した(
図2及び表2)。
【0044】
なお、16SM3株の塩基配列では、保存領域(1)及び(5)の5'末端部分が欠失している(
図2)。16SM3株は、CSM株と99.2~99.5%の非常に高い塩基配列相同性を示し、ほぼ同一の変異株と考えられる。一方で、16SM3株は、シャインマスカットの採穂用母樹に感染しており、その塩基配列決定にはRACE法までは行っていない。CSM株は、採穂用母樹からの複製樹に由来しており、RACE法とリードマッピングで5'末端配列を決定している。以上のことから、16SM3株とCSM株は、同じ保存領域(1)及び(5)を持つと考えられる。
【0045】
その他の保存領域(2)~(3)及び(6)~(8)にもユニバーサルプライマーを設計して(
図2及び表2)、RT-PCR(項目3参照)によるユニバーサル診断が可能かどうか試験を行った。保存領域(2)では、相同ユニバーサルプライマーFbC1fを設計し、保存領域(3)で設計した相補ユニバーサルプライマーFbC1rと組み合わせて、少なくとも16SM3株、Sg24株、Z6株、Ns1株について、それぞれ特異的増幅が得られることを確認した。保存領域(6)~(8)には相同ユニバーサルプライマーFab-Det-F1~F3を設計した。なお、Fab-Det-F3については、Dual priming oligonucleotide(Chun JY, Kim KJ, Hwang IT, Kim YJ, Lee DH, Lee IK, et al. (2007) Dual priming oligonucleotide system for the multiplex detection of respiratory viruses and SNP genotyping of CYP2C19 gene. Nucleic Acids Res. 35:e40)の技術を利用して非特異反応を抑える工夫も施した。さらに、保存領域(9)には相補プライマーFab-Det-Rを新たに設計した。Fab-Det-F1~F3とFab-Det-Rの組み合わせで行った試験結果については項目3に示す。また、各保存領域のコンセンサス配列を表3に示す。
【0046】
【0047】
3.ワンステップRT-PCRによる検出の実施
上記の各種ユニバーサルプライマーを用いたRT-PCRは、逆転写とPCR反応を同一チューブ内で行うワンステップRT-PCRの手法により行った。すなわち、それぞれの変異株が感染しているブドウ葉サンプルからPlant/Fungi RNA Purification Kit(ノルジェン)を用いて抽出したRNAを鋳型とし、PrimeScript One-Step RT-PCR Kit Ver. 2(タカラバイオ)を用いてワンステップRT-PCRを行った。PrimeScript One-Step RT-PCR Kit Ver. 2では、10μlの反応系で、2×1step buffer 5μl、PrimeScript 1step Enzyme 0.4μl、鋳型となる精製RNAを1μl、5μMに希釈した各プライマーを1.2μlずつ(終濃度0. 6μM)加え、不足部分についてはRNase free H2Oを加えることで10μlの反応液を作り、逆転写反応を50℃30分→95℃2分行った後、95℃20秒→52℃30秒→72℃40秒を43サイクル行った。
【0048】
得られた増幅産物のうち、5μlを1.5%アガロースゲル電気泳動により解析した。得られた増幅断片については、クローニングあるいはダイレクトシーケンスの手法により、それぞれ特異的な塩基配列が得られていることを確認した。
【0049】
保存領域(6)~(8)に設計した相同ユニバーサルプライマーFab-Det-F1~F3と、保存領域(9)に設計した相補ユニバーサルプライマーFab-Det-R(
図2及び
図3並びに表2)を用いて行ったワンステップRT-PCRの結果を
図4に示す。いずれのプライマーセットにおいても、全てのGFabV変異株が感染しているサンプルから、想定位置にバンドが得られた。そのうち、Fab-Det-F1とFab-Det-Rの組み合わせを用いた場合が最も効率よく増幅ができ、明瞭な陽性のバンドが確認できた。その他の2つのプライマーセットではAB株とDWRS株のバンドが薄いものの十分に目視で陽性が確認できた。Fab-Det-F1又はFab-Det-F2とFab-Det-Rを用いたPCR産物については、十分な塩基配列の長さがあり、ダイレクトシーケンス解析により、又はクローニングして塩基配列を解析することで、それぞれ感染している変異株の系統判別も行うことができた。一方、Fab-Det-F3とFab-Det-Rを用いたPCR産物は増幅産物が短いため、系統判別まではできなかった。
【0050】
4.考察
本発明者等は、RNA1とRNA2に存在する幾つかの保存領域を決定し、プライマーを設計して実際に試し、ユニバーサルな検出が可能であることを確認した。データベース上に登録されたものも含めて全ての変異株を試験したわけではないが、アライメントを検討する限り、多少のミスマッチが認められたとしてもRT-PCRでの検出には支障がなく(Stadhouders, R. Pas, SD, Anber J, Voermans J, Mes THM, Schuttenet M (2010) The effect of primer-template mismatches on the detection and quantification of nucleic acids using the 5'nuclease assay. J Mol Diagn 12:109-117)、それら全ての変異株を理論的には検出可能なユニバーサルプライマーであると考える。それらのうち、
図4に示したユニバーサルプライマーセットの中では、Fab-Det-F1とFab-Det-RによるRT-PCRが最も効率よく増幅し、GFabV変異株のユニバーサル検出法として実用性を有すると判断した。また、Fab-Det-F1(又はFab-Det-F2)とFab-Det-Rを用いたPCR産物については、塩基配列の解析により変異株の系統判別も行うことができるので、伝染ルートの特定等の用途にも適すると考えらえた。一方、Fab-Det-F3とFab-Det-Rを用いた場合は、増幅産物の短いことが望ましいリアルタイムRT-PCRでは有効に活用できると考える。また、内在性コントロール(宿主DNA)や他ウイルスの検出と合わせたPCR反応を行うために、PCR増幅産物の長さや反応温度を調整したりする場合等には、条件に適するプライマーの組み合わせを選択して利用することができる。さらに本発明者等は将来的にTaqman法を用いたリアルタイムRT-PCRでの診断も見据えており、そのプローブも、今回決定した保存領域を利用することが可能である。
【0051】
これらのユニバーサルプライマーの設計に用いた保存領域は、本発明者等が国内で探索してここに紹介したGFabV変異株の遺伝子情報と、本発明者等が先に公開したCSM株及び既報の3変異株(非特許文献2及び5)の遺伝子情報を主として利用して決定しており、国内のブドウが保毒する変異株を含めてGFabVに広く保存されていることを示すことができている(
図2)。一方で、MH578343-MH578353(
図2)は、中国の研究者によりデータベース上に公開されているが、論文未公表のため配列の信憑性は不明であることと、これらの配列を参考にしてプライマーを設計したとしても、日本国内の多様な変異株に適合するかどうかは本発明者等の試験結果が無ければ不明のままであった。
【配列表】