(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】加工条件変更方法及び加工装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/409 20060101AFI20231002BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
G05B19/409 C
B23Q15/00 301H
(21)【出願番号】P 2019135820
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴光
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-267255(JP,A)
【文献】特開2013-045358(JP,A)
【文献】特開2014-235443(JP,A)
【文献】特開2003-099113(JP,A)
【文献】特開2012-048517(JP,A)
【文献】特開2017-156835(JP,A)
【文献】特開昭63-307503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/409
B23Q 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持テーブルと、
該保持テーブルによって保持された該被加工物に加工を施す加工ユニットと、
複数の条件項目をそれぞれが含む複数の加工条件を記憶する記憶部を有する制御部と、
該制御部に接続された入力部と、を備える加工装置の加工条件を変更する加工条件変更方法であって、
該加工条件に含まれる複数の該条件項目のうち設定値が変更される所定の条件項目と、該所定の条件項目の変更後の設定値と、を該入力部に入力する入力ステップと、
該記憶部に記憶されている複数の該加工条件
のうち変更の対象とされた全ての該加工条件のそれぞれに含まれる該所定の条件項目の設定値を、該変更後の設定値に一括で変更する設定値変更ステップと、を備えることを特徴とする加工条件変更方法。
【請求項2】
該設定値変更ステップの前に、該記憶部に記憶されている複数の該加工条件にそれぞれ含まれる該所定の条件項目の設定値を、旧設定値として該記憶部に記憶する旧設定値記憶ステップを更に備えることを特徴とする請求項1記載の加工条件変更方法。
【請求項3】
該入力ステップでは、複数の該加工条件のうち所定の加工条件を指定する加工条件指定情報を該入力部に更に入力し、
該設定値変更ステップでは、該加工条件指定情報によって指定された該所定の加工条件に含まれる該所定の条件項目の設定値を変更することを特徴とする請求項1又は2記載の加工条件変更方法。
【請求項4】
被加工物を保持する保持テーブルと、
該保持テーブルによって保持された該被加工物に加工を施す加工ユニットと、
複数の条件項目をそれぞれが含む複数の加工条件を記憶する記憶部を有する制御部と、
該制御部に接続された入力部と、を備え、
該入力部は、該制御部に、該加工条件に含まれる複数の該条件項目のうち設定値が変更される所定の条件項目と、該所定の条件項目の変更後の設定値と、を入力し、
該制御部は、該記憶部に記憶されている複数の該加工条件
のうち変更の対象とされた全ての該加工条件にそれぞれ含まれる該所定の条件項目の設定値を、該変更後の設定値に一括で変更することを特徴とする加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を加工する加工装置、及び、該加工装置の加工条件を変更する加工条件変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスが形成された半導体ウェーハを分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数の半導体デバイスチップが製造される。また、基板上に実装された複数の半導体デバイスチップを樹脂でなる封止材(モールド樹脂)で被覆することによって形成されたパッケージ基板を分割することにより、パッケージデバイスが製造される。このパッケージデバイスは、携帯電話やパーソナルコンピュータに代表される様々な電子機器に内蔵される。
【0003】
近年では、電子機器の小型化、薄型化に伴い、半導体デバイスチップやパッケージデバイスにも薄型化が求められている。そこで、分割前の半導体ウェーハやパッケージ基板を研削して薄化する手法が用いられている。
【0004】
上記の半導体ウェーハやパッケージ基板に代表される被加工物の分割には、例えば、スピンドルに装着された環状の切削ブレードで被加工物を切削する切削装置が用いられる。また、被加工物の薄化には、例えば、スピンドルに装着された研削ホイールが備える研削砥石で被加工物を研削する研削装置が用いられる。
【0005】
切削装置や研削装置等の加工装置は、サイズ、材質、構造等が異なる複数の種類の被加工物を加工することがある。この場合、加工装置には、各被加工物の加工に適した複数の加工条件(レシピ)が予め記憶される。そして、加工装置によって加工される被加工物の種類に応じて適切な加工条件が選択され、この加工条件で被加工物が加工される。加工条件の設定は、例えばオペレーターが加工装置に備えられたタッチパネル等を操作して手動で行う。
【0006】
また、大量の被加工物を加工する大規模な工場では、加工条件が同一に設定された複数の加工装置を用いて、同種の被加工物が同時進行で加工される。ここで、加工条件を変更する必要が生じた際には、同種の被加工物を加工する全ての加工装置の加工条件を設定し直す作業が必要となる。この場合、オペレーターは各加工装置を個別に操作して加工条件を変更しなければならず、膨大な手間がかかる。
【0007】
そこで、複数の加工装置を互いに通信可能に構成し、一の加工装置を操作することによって他の加工装置の加工条件も変更可能とする加工装置の管理方法が用いられることがある。例えば特許文献1には、複数の加工装置を通信回路によって接続し、加工条件を各加工装置間で送受信可能とした構成が開示されている。これにより、加工条件の変更を加工装置毎に個別に行う作業が不要となり、加工条件の管理が簡易化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加工装置に記憶される複数の加工条件(レシピ)はそれぞれ、複数の条件項目(条件要素)を含んでいる。例えば、環状の切削ブレードで被加工物を切削する切削装置に記憶される加工条件には、加工送り速度、切削ブレードの回転数、切削ブレードの切り込み深さ等の条件項目が含まれており、加工の内容に応じて各条件項目の値が予め設定されている。そして、複数の加工条件が記憶された加工装置を使用する際、一部の条件項目の設定値のみが全ての加工条件において一律に変更される場合がある。
【0010】
例えば、加工される被加工物の種類に関わらず加工送り速度を所定の値に変更する場合には、全ての加工条件において、加工送り速度の設定値が所定の値に変更されるとともに、他の条件項目の設定値は変更されずに維持される。この場合、オペレーターは加工装置に備えられたタッチパネル等を操作して、一の加工条件を選択し、選択された加工条件に含まれる所定の条件項目(加工送り速度)の設定値のみを変更する作業を、全ての加工条件について繰り返し行う必要がある。そのため、加工条件の設定に手間がかかり、入力ミスも発生しやすくなる。
【0011】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、加工条件を簡易且つ確実に設定することが可能な加工条件変更方法及び加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、被加工物を保持する保持テーブルと、該保持テーブルによって保持された該被加工物に加工を施す加工ユニットと、複数の条件項目をそれぞれが含む複数の加工条件を記憶する記憶部を有する制御部と、該制御部に接続された入力部と、を備える加工装置の加工条件を変更する加工条件変更方法であって、該加工条件に含まれる複数の該条件項目のうち設定値が変更される所定の条件項目と、該所定の条件項目の変更後の設定値と、を該入力部に入力する入力ステップと、該記憶部に記憶されている複数の該加工条件のうち変更の対象とされた全ての該加工条件のそれぞれに含まれる該所定の条件項目の設定値を、該変更後の設定値に一括で変更する設定値変更ステップと、を備える加工条件変更方法が提供される。
【0013】
なお、好ましくは、該加工条件変更方法は、該設定値変更ステップの前に、該記憶部に記憶されている複数の該加工条件にそれぞれ含まれる該所定の条件項目の設定値を、旧設定値として該記憶部に記憶する旧設定値記憶ステップを更に備える。また、好ましくは、該入力ステップでは、複数の該加工条件のうち所定の加工条件を指定する加工条件指定情報を該入力部に更に入力し、該設定値変更ステップでは、該加工条件指定情報によって指定された該所定の加工条件に含まれる該所定の条件項目の設定値を変更する。
【0014】
また、本発明の他の一態様によれば、被加工物を保持する保持テーブルと、該保持テーブルによって保持された該被加工物に加工を施す加工ユニットと、複数の条件項目をそれぞれが含む複数の加工条件を記憶する記憶部を有する制御部と、該制御部に接続された入力部と、を備え、該入力部は、該制御部に、該加工条件に含まれる複数の該条件項目のうち設定値が変更される所定の条件項目と、該所定の条件項目の変更後の設定値と、を入力し、該制御部は、該記憶部に記憶されている複数の該加工条件のうち変更の対象とされた全ての該加工条件にそれぞれ含まれる該所定の条件項目の設定値を、該変更後の設定値に一括で変更する加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る加工条件変更方法及び加工装置では、記憶部に記憶されている複数の加工条件にそれぞれ含まれる所定の条件項目の設定値が一括で変更される。これにより、加工条件の変更作業が単純化されるとともに、加工条件の入力ミスが生じにくくなり、加工装置の加工条件を簡易且つ確実に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】条件項目の設定値が変更される際の制御部を示すブロック図である。
【
図4】旧設定値記憶ステップにおける記憶部を示すブロック図である。
【
図5】一部の加工条件が変更される際の制御部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る加工装置の構成例について説明する。
図1は、加工装置2を示す斜視図である。加工装置2は、被加工物11に対して研削加工を施す研削装置である。
【0018】
加工装置2は、加工装置2を構成する各構成要素が搭載される基台4を備える。基台4の後端部には、直方体状の支持構造6がZ軸方向(鉛直方向、上下方向)に沿って設けられている。また、基台4の上面側には、長手方向がX軸方向(前後方向、第1水平方向)に沿う矩形状の開口4aが形成されている。
【0019】
開口4aの内部には、ボールネジ式のX軸移動機構8と、X軸移動機構8の一部を覆う防塵防滴カバー10とが配置されている。X軸移動機構8は、上面が防塵防滴カバー10から露出するX軸移動テーブル8aを備え、このX軸移動テーブル8aをX軸方向に沿って移動させる。
【0020】
X軸移動テーブル8a上には、被加工物11を保持する保持テーブル12が設けられている。保持テーブル12の上面は、X軸方向及びY軸方向(左右方向、第2水平方向)と概ね平行に形成されており、被加工物11を保持する保持面12aを構成する。保持面12aは、例えばポーラスセラミックス等によってポーラス状に形成され、保持テーブル12の内部に形成された流路(不図示)を介してエジェクタ等の吸引源(不図示)と接続されている。
【0021】
保持テーブル12の保持面12a上に、加工装置2によって加工される被加工物11が配置される。例えば被加工物11は、シリコン等でなる円盤状のウェーハであり、表面11a及び裏面11bを備える。被加工物11は、互いに交差するように格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)によって複数の領域に区画されており、この領域の表面11a側にはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)等のデバイスが形成されている。
【0022】
被加工物11の表面11a側には、樹脂等でなり被加工物11と概ね同径のテープ13が貼付される。このテープ13は、被加工物11の裏面11b側が加工装置2によって研削される際に、被加工物11の表面11a側に形成された複数のデバイスを保護する保護テープとして機能する。
【0023】
なお、被加工物11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば被加工物11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、サファイア、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の材料でなる任意の形状及び大きさのウェーハであってもよい。また、被加工物11に形成されるデバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。また、被加工物11にはデバイスが形成されていなくてもよく、テープ13が貼付されていなくてもよい。
【0024】
例えば被加工物11は、表面11a側(テープ13側)が保持面12aと対向し、裏面11b側が上方に露出するように、保持テーブル12上に配置される。この状態で吸引源の負圧を保持面12aに作用させると、被加工物11がテープ13を介して保持テーブル12によって吸引保持される。なお、
図1では特に円盤状の被加工物11の保持を想定して保持面12aが平面視で円形に形成されている例を示すが、保持面12aの形状は被加工物11の形状等に応じて適宜変更される。
【0025】
保持テーブル12は、X軸移動機構8によってX軸移動テーブル8aとともにX軸方向に沿って移動する。また、保持テーブル12は、モータ等の回転駆動源(不図示)と連結されており、この回転駆動源は保持テーブル12をZ軸方向に概ね平行な回転軸の周りで回転させる。
【0026】
支持構造6の前面側には、Z軸移動機構14が設けられている。Z軸移動機構14は、Z軸方向に沿って配置された一対のガイドレール16を備えており、この一対のガイドレール16には、移動プレート18が一対のZ軸ガイドレールに沿ってZ軸方向にスライド可能な状態で取り付けられている。移動プレート18の後面側(裏面側)にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部には一対のガイドレール16と概ね平行に配置されたボールネジ20が螺合されている。
【0027】
ボールネジ20の一端部には、パルスモータ22が連結されている。パルスモータ22によってボールネジ20を回転させると、移動プレート18はガイドレール16に沿ってZ軸方向に移動する。
【0028】
移動プレート18の前面側(表面側)には、移動プレート18の前面から前方に突出する支持具24が固定されている。支持具24は、被加工物11を加工する加工ユニット(加工手段)26を支持している。この加工ユニット26は、被加工物11に研削加工を施す研削ユニット(研削手段)である。加工ユニット26は、支持具24に固定される円筒状のハウジング28を備え、ハウジング28には回転軸となる円筒状のスピンドル30が収容されている。
【0029】
スピンドル30は、Z軸方向に沿って配置されている。スピンドル30の先端部(下端部)はハウジング28の外部に露出しており、この先端部には円盤状のホイールマウント32が固定される。また、スピンドル30の基端部(上端部)側にはモータ等の回転駆動源(不図示)が接続されており、スピンドル30及びホイールマウント32はこの回転駆動源から伝達される力によって、Z軸方向に概ね平行な回転軸の周りで回転する。
【0030】
ホイールマウント32の下面側には、ホイールマウント32と概ね同径に構成された円盤状の研削ホイール34が装着される。研削ホイール34は、金属等でなりホイールマウント32の下面側に装着される環状の基台と、基台の下面側に固定された複数の研削砥石とを備える。複数の研削砥石は、例えば直方体状に形成され、基台の外周に沿って概ね等間隔に配列されている。複数の研削砥石の下面は、被加工物11を研削する研削面に相当する。
【0031】
研削砥石は、ダイヤモンド、cBN(Cubic Boron Nitride)等でなる砥粒を、メタルボンド、レジンボンド又はビトリファイドボンド等の結合材で固定することにより形成される。ただし、研削砥石の材質、形状、構造、大きさ等に制限はなく、研削ホイール34が備える研削砥石の数も任意に設定できる。
【0032】
被加工物11を研削する際は、被加工物11を保持した保持テーブル12をX軸移動機構8によって移動させ、研削ホイール34の下に位置付ける。そして、保持テーブル12とスピンドル30(研削ホイール34)とをそれぞれ所定の方向に所定の回転数で回転させながら、スピンドル30(研削ホイール34)をZ軸移動機構14によって所定の速度で下降させ、研削ホイール34が備える複数の研削砥石を被加工物11の裏面11b側に接触させる。これにより、被加工物11の裏面11b側が研削され、被加工物11が所定の厚さまで薄化される。
【0033】
なお、加工ユニット26の内部には、純水等の加工液(研削液)を供給するための加工液供給路(不図示)が形成されている。被加工物11を加工する際には、この加工液供給路から研削ホイール34の研削砥石及び被加工物11に向かって加工液が供給される。これにより、研削砥石と被加工物11とが冷却されるとともに、加工によって生じた屑(加工屑)が洗い流される。
【0034】
また、加工装置2は、加工装置2の各構成要素(X軸移動機構8、保持テーブル12、Z軸移動機構14、加工ユニット26等)に接続された制御部(制御ユニット、制御手段)40を備える。制御部40は、コンピュータ等によって構成され、加工装置2の各構成要素を制御する。
【0035】
制御部40は、加工装置2の制御に必要な演算等の処理を行う処理部(処理手段)42と、処理部42による処理に用いられる各種のデータ、プログラム等が記憶される記憶部(記憶手段)44とを備える。処理部42は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサによって構成され、記憶部44は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリによって構成される。なお、後述の通り、記憶部44には加工装置2が被加工物11を加工する際の条件(加工条件)が記憶される。
【0036】
制御部40には、制御部40に各種の情報を入力する入力部(入力手段)60と、加工に関する各種の情報(加工条件、加工結果等)を表示する表示部(表示手段)70とが接続されている。入力部60は操作パネル(操作キー)やマウス等によって構成され、表示部70はディスプレイ等によって構成される。また、表示部70は、情報の入力が可能なタッチパネル等によって構成されていてもよい。この場合は、表示部70が入力部60としても機能するため、入力部60を別途設ける必要がない。
【0037】
上記の加工装置2は、サイズ、材質、構造等が異なる複数の種類の被加工物11を加工する。そのため、記憶部44には、各被加工物11の加工の適した複数の加工条件(レシピ)が記憶される。そして、加工装置2によって加工される被加工物11の種類に応じて適切な加工条件が選択され、この加工条件で被加工物11が加工されるように、制御部40が加工装置2の各構成要素の動作を制御する。
【0038】
図2は、制御部40を示すブロック図である。記憶部44は、加工装置2の加工条件を記憶する加工条件記憶部46を備える。加工条件記憶部46には、内容の異なる複数の加工条件(レシピ)48が記憶されている。また、各加工条件48はそれぞれ、加工条件48の名称を示す加工条件名48aと、複数の条件項目(条件要素)48bとを含む。
図2には、記憶部44に6種類の加工条件48(加工条件A~F)が記憶され、各加工条件48がそれぞれ3つの条件項目48b(条件項目a,b,c)を含む例を示している。ただし、加工条件48及び条件項目48bの数に制限はない。
【0039】
加工条件名48aは、加工条件48のインデックスとなる文字列であり、例えば被加工物11のサイズ、被加工物11の材質、加工の内容等を示す文字や数字を含む。また、条件項目48bは、加工条件48を構成する項目(要素)であり、加工条件48の内容を決定する各種のパラメータである。条件項目48bの例としては、被加工物11の厚さの目標値(仕上げ厚さ)、研削ホイール34(スピンドル30)の回転数、保持テーブル12の回転数、研削ホイール34の下降速度(研削ホイール34を被加工物11に押し付ける速度)、加工液の供給量及び温度等が挙げられる。
【0040】
条件項目48bはそれぞれ、加工内容に応じて所定の値に設定されている。例えば、加工条件A(加工条件名“XXXX”)に含まれる条件項目a,b,cの設定値はそれぞれ、x1,y1,z1となっている。条件項目48bの設定値が変更されることにより、加工条件48の内容が変更される。
【0041】
加工装置2で被加工物11を加工する際は、まず、被加工物11の種類に応じて加工条件が設定される。具体的には、オペレーターが被加工物11の加工に適した一の加工条件48を選択し、その加工条件48の加工条件名48aを入力部60に入力する。入力部60に入力された加工条件名48aは、入力部60から制御部40の処理部42に入力される。
【0042】
処理部42は、入力部60に入力された加工条件名48aに対応する加工条件48を、記憶部44内の加工条件記憶部46から読み出し、その加工条件48に含まれる各条件項目48bの設定値を、加工用のパラメータとして設定する。そして、処理部42は、条件項目48bの設定値に従って、加工装置2の各構成要素の動作を制御する。
【0043】
これにより、オペレーターが指定した加工条件48で被加工物11が加工される。また、処理部42は、設定された加工条件48や加工の進行状況等の情報を表示部70に出力し、この情報を表示部70に表示させる。
【0044】
記憶部44に新たな加工条件48又は条件項目48bを追加する場合や、記憶部44に記憶された加工条件48又は条件項目48bを変更、削除する場合は、オペレーターが必要な情報を入力部60に入力する。そして、処理部42は記憶部44にアクセスし、入力部60に入力された情報に基づいて加工条件48又は条件項目48bの追加、変更(上書き)、削除を行う。
【0045】
例えば、
図2に示す加工条件Aに含まれる条件項目aの設定値x
1と、加工条件Bに含まれる条件項目bの設定値y
2とを変更する場合、オペレーターはまず、入力部60を操作し、加工条件Aを選択する。そして、条件項目aの変更後の設定値を入力部60に入力し、条件項目aの設定値を変更する。その後、加工条件Aの選択を解除し、加工条件Bを選択する。そして、条件項目bの変更後の設定値を入力部60に入力し、条件項目bの設定値を変更する。
【0046】
なお、加工条件48に含まれる複数の条件項目48bのうち、一部の条件項目48bの設定値のみが、複数の加工条件48において一律に変更される場合がある。例えば、加工装置2によって加工される全ての種類の被加工物11の仕上げ厚さを所定の値に一律に変更する場合には、全ての加工条件48において、被加工物11の仕上げ厚さを示す条件項目48bの設定値のみを変更する必要がある。
【0047】
ここで、加工装置2では、設定値が変更される所定の条件項目48bと、その条件項目48bの変更後の設定値とが入力部60に入力されると、記憶部44に記憶されている複数の加工条件48にそれぞれ含まれる所定の条件項目48bの設定値が、該変更後の設定値に一括で変更される。そのため、オペレーターは、加工条件48を1つずつ選択して条件項目48bの設定値を変更する作業を繰り返す必要がない。これにより、加工装置2の加工条件の変更作業が単純化されるとともに、入力ミスが生じにくくなる。
【0048】
以下、加工装置2の加工条件を設定する方法の具体例について説明する。以下では一例として、全ての加工条件48(加工条件A~F)について、条件項目cの設定値をz
7に変更する場合について説明する。
図3は、条件項目48bの設定値が変更される際の制御部40を示すブロック図である。
【0049】
まず、加工条件48に含まれる複数の条件項目48bのうち設定値が変更される所定の条件項目48bと、所定の条件項目48bの変更後の設定値と、を入力部60に入力する(入力ステップ)。設定値が変更される所定の条件項目48bと、その条件項目48bの変更後の設定値とは、例えば加工装置2のオペレーターによって選択され、入力部60に入力される。
図3には、設定値が変更される所定の条件項目48bが条件項目cであり、条件項目cの変更後の設定値がz
7である例を示している。
【0050】
次に、記憶部44に記憶されている複数の加工条件48にそれぞれ含まれる所定の条件項目48bの設定値を、変更後の設定値に一括で変更する(設定値変更ステップ)。具体的には、入力部60に入力された条件項目c及び設定値z7は、制御部40が備える処理部42に入力される。そして、処理部42は記憶部44内の加工条件記憶部46にアクセスし、全ての加工条件48(加工条件A~F)の条件項目cの設定値をz7に書き換える。これにより、全ての加工条件48において、条件項目cの設定値がz7に一括で変更される。
【0051】
条件項目48bの一括変更は、例えば処理部42が記憶部44に記憶された所定のプログラムを実行することによって行われる。具体的には、記憶部44には、入力部60に入力された所定の条件項目48bの設定値を、入力部60に入力された所定の設定値に変更する処理を、加工条件記憶部46に記憶された全ての加工条件48に対して実行するプログラムが記憶されている。そして、入力部60に条件項目48b及び設定値が入力されると、処理部42はこのプログラムを実行する。
【0052】
なお、全ての加工条件48について所定の条件項目48bの設定値を一括で変更した後、その条件項目48bの設定値を変更前の設定値(旧設定値)に戻すことがある。例えば、条件項目48bの設定値を一時的に変更した場合や、変更後の条件項目48bの設定値が適切でなかった場合には、条件項目48bの設定値を旧設定値に戻す作業が必要となる。また、過去の条件項目48bの設定値を保存しておき、後に適切な加工条件を選定する際に参照することがある。
【0053】
そこで、設定値変更ステップの前に、記憶部44に記憶されている複数の加工条件48にそれぞれ含まれる所定の条件項目48bの設定値を、旧設定値として記憶部44に記憶してもよい(旧設定値記憶ステップ)。
図4は、旧設定値記憶ステップにおける記憶部44を示すブロック図である。
【0054】
記憶部44は、加工条件記憶部46に加えて、更に旧設定値記憶部50を備える。この旧設定値記憶部50は、所定の条件項目48bの変更前の設定値を記憶する。例えば、入力部60に条件項目c及び設定値z
7が入力され、全ての加工条件48(加工条件A~F)の条件項目cの設定値がz
7変更される場合には(
図3参照)、当該変更の前に、加工条件A~Fの条件項目cの設定値(z
1~z
6)がそれぞれコピーされ、旧設定値記憶部50に記憶される。なお、この条件項目cの設定値のコピーは、処理部42によって行われる。これにより、所定の条件項目48bの変更前の設定値が記憶部44に保存される。
【0055】
例えば加工条件A~Fの条件項目cの設定値(z
1~z
6)は、
図4に示すように加工条件A~Fの加工条件名48aと対応付けられた状態で、旧設定値記憶部50に記憶される。そして、加工条件A~Fの条件項目cの設定値がz
7に一括で変更された後(設定値変更ステップ)、旧設定値記憶部50に記憶された条件項目cの旧設定値(z
1~z
6)を読みだし、これを加工条件記憶部46に記憶された加工条件A~Fの条件項目cの設定値として上書きすることにより、加工条件記憶部46の条件項目cの設定値を変更前の値に戻すことができる。
【0056】
また、
図3では、全ての加工条件48(加工条件A~F)の条件項目48bの設定値を変更する場合について説明したが、一部の加工条件48の条件項目48bの設定値のみを変更することもできる。例えば、特定のサイズ、又は特定の材質の被加工物11を加工するための加工条件48のみを対象として、条件項目48bの設定値の変更を行ってもよい。
図5は、一部の加工条件48が変更される際の制御部40を示すブロック図である。
【0057】
入力ステップにおいては、設定値を変更する条件項目48b(
図5では条件項目c)と、その条件項目48bの変更後の設定値(
図5ではz
7)とに加えて、条件項目48bの設定値が変更される一部の加工条件48を指定する情報(加工条件指定情報)が、入力部60に入力される。例えば、加工条件48を指定する情報として、加工条件名48aの条件が入力される。
図5では、加工条件名48aに文字列“XXX”が含まれる加工条件48(加工条件A~C)を指定する情報が入力される例を示している。
【0058】
入力部60に条件項目48b(条件項目c)、設定値(z7)、及び加工条件指定情報(加工条件名48aの条件)が入力されると、処理部42は記憶部44内の加工条件記憶部46にアクセスし、加工条件指定情報によって指定される加工条件48に含まれる条件項目48bの設定値を書き換える。具体的には、処理部42は加工条件記憶部46に記憶された複数の加工条件48のうち、加工条件名48aに文字列“XXX”が含まれる加工条件48(加工条件A~C)の条件項目cの設定値を、z7に書き換える。これにより、一部の加工条件48において、条件項目cの設定値がz7に一括で変更される。
【0059】
なお、加工条件48には、その加工条件48で加工される被加工物11のサイズや材質を示す情報が更に含まれていてもよい。この場合、入力部60に被加工物11のサイズ又は材質を指定する情報を入力することにより、特定のサイズ又は材質の被加工物11を加工するための加工条件48のみに対して、条件項目48bの設定値の変更を実行することができる。また、加工条件名48aに被加工物11のサイズや材質を示す文字列が含まれている場合は、当該文字列を加工条件指定情報として入力することにより、特定のサイズ又は材質の被加工物11を加工するための加工条件48のみを選択することができる。
【0060】
以上の通り、本実施形態に係る加工条件変更方法では、記憶部44に記憶されている複数の加工条件48にそれぞれ含まれる所定の条件項目48bの設定値が一括で変更される。これにより、加工条件の変更作業が単純化されるとともに、加工条件の入力ミスが生じにくくなり、加工装置2の加工条件を簡易且つ確実に設定することが可能となる。
【0061】
なお、本実施形態では、加工装置2が被加工物11を研削する加工ユニット26(研削ユニット)を備える研削装置である場合について説明したが、加工装置2の種類に制限はない。例えば加工装置2は、環状の切削ブレードで被加工物11を切削する加工ユニット(切削ユニット)を備える切削装置、研磨パッドで被加工物11を研磨する加工ユニット(研磨ユニット)を備える研磨装置、レーザービームの照射によって被加工物11を加工する加工ユニット(レーザー照射ユニット)を備えるレーザー加工装置等であってもよい。
【0062】
加工装置2が切削装置である場合は、加工条件48に含まれる条件項目48bとして、切削ブレードの回転数、加工送りの速度及び方向、切削ブレードの切り込み深さ、切削ブレードによって切削される領域の間隔、加工液(純水等)の供給量及び温度等が記憶部44に記憶される。
【0063】
また、加工装置2が研磨装置である場合は、加工条件48に含まれる条件項目48bとして、被加工物11の厚さの目標値(仕上げ厚さ)、研磨パッドの回転数、保持テーブルの回転数、研磨パッドの下降速度(研磨パッドを被加工物11に押し付ける速度)、加工液(純水等)の供給量及び温度等が記憶部44に記憶される。
【0064】
また、加工装置2がレーザー加工装置である場合は、加工条件48に含まれる条件項目48bとして、レーザービームの照射条件(波長、パワー、スポット径、繰り返し周波数、集光点の位置等)、加工送りの速度及び方向等が記憶部44に記憶される。
【0065】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0066】
11 被加工物
11a 表面
11b 裏面
13 テープ
2 加工装置
4 基台
4a 開口
6 支持構造
8 X軸移動機構
8a X軸移動テーブル
10 防塵防滴カバー
12 保持テーブル
12a 保持面
14 Z軸移動機構
16 ガイドレール
18 移動プレート
20 ボールネジ
22 パルスモータ
24 支持具
26 加工ユニット(加工手段)
28 ハウジング
30 スピンドル
32 ホイールマウント
34 研削ホイール
40 制御部(制御ユニット、制御手段)
42 処理部(処理手段)
44 記憶部(記憶手段)
46 加工条件記憶部
48 加工条件(レシピ)
48a 加工条件名
48b 条件項目(条件要素)
50 旧設定値記憶部
60 入力部(入力手段)
70 表示部(表示手段)