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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】粉末油脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/01 20060101AFI20231002BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
A23D7/01
A23D7/00 506
A23D7/00 508
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022032494
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2018529387の分割
【原出願日】2017-05-26
(65)【公開番号】P2022066378
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2016147167
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼地 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】辻 美咲
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-033087(JP,A)
【文献】特開平05-030906(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0127983(KR,A)
【文献】特開2001-275590(JP,A)
【文献】特開2016-034271(JP,A)
【文献】特開2002-199851(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077105(WO,A1)
【文献】日高徹,グリセリン脂肪酸エステルを中心とする食品用乳化剤の現況と動向,油化学,1981年,Vol.30, No.12,p.823-836
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂(ただし、中鎖脂肪酸トリグリセリドを除く)、乳化剤及び賦形剤を含む粉末油脂組成物(ただし、カゼインナトリウムを含まない)であって、
前記乳化剤は、(a)HLBが9.2~9.8のジアセチル酒石酸モノグリセリドと、(b)HLBが9.5よりも高い乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)及び/又は(c)HLBが9.5以下の乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)とを含み、
粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量は、10質量%以上60質量%以下であり、ここで、
(i)前記油脂の含有量が40質量%以上60質量%以下の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、2.5~15質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~1であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0.01~0.35であり、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、30質量部以下であり、
(ii)前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.8~20質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~3であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~4であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、35質量部以下であり、そして
(iii)前記油脂の含有量が10質量%以上33質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.2~25質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~15であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~12であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、50質量部以下である、
前記粉末油脂組成物。
【請求項2】
前記粉末油脂組成物の50%脂肪球径が、0.05~3μmである、請求項1に記載の粉末油脂組成物。
【請求項3】
前記粉末油脂組成物の下記式:
【数4】
で表される脂肪球径分布が、0.3~6μmである、請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物。
【請求項4】
前記乳化剤(b)は、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項5】
前記乳化剤(c)は、モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項6】
前記油脂は、パーム油、大豆油、コーン油、菜種油、及びパーム核極度硬化油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項7】
前記賦形剤は、コーンシロップ、デキストリン、グルコース、異性化糖及び粉あめからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項8】
粉末油脂組成物(ただし、カゼインナトリウムを含まない)の製造方法であって、
(1)油脂(ただし、中鎖脂肪酸トリグリセリドを除く)、乳化剤、及び賦形剤に水を添加して原料混合物を得る工程、
(2)前記原料混合物を乳化させてエマルジョンを得る工程、及び
(3)前記エマルジョンを粉末乾燥する工程
を含み、
前記乳化剤は、(a)HLBが9.2~9.8のジアセチル酒石酸モノグリセリドと、(b)HLBが9.5よりも高い乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)及び/又は(c)HLBが9.5以下の乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)とを含み、
粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量は、10質量%以上60質量%以下であり、ここで、
(i)前記油脂の含有量が40質量%以上60質量%以下の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、2.5~15質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~1であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0.01~0.35であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、30質量部以下であり、
(ii)前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.8~20質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~3であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~4であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、35質量部以下であり、そして
(iii)前記油脂の含有量が10質量%以上33質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.2~25質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~15であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~12であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、50質量部以下である、前記粉末油脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)は、
(1)-1 HLBが7以上の前記乳化剤及び前記賦形剤を水と混合して水系混合物を得る工程、
(1)-2 HLBが7未満の前記乳化剤を前記油脂と混合して油系混合物を得る工程、及び、
(1)-3 上記水系混合物及び上記油系混合物を混合して前記原料混合物を得る工程
を含む、請求項8に記載の粉末油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂組成物及びその製造方法に関し、より詳細には冷水分散性に優れる粉末油脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー・紅茶用クリーム、菓子、スープ、調味料等の加工素材として、油性成分を水溶性成分で被覆した粉末油脂が広く用いられている。粉末油脂は、乳化剤や賦形剤と混合された食用油脂のエマルジョンを乾燥することにより製造される。上記エマルジョンを作製するための乳化剤には、従来、乳タンパク質の一種であるカゼインが用いられてきた。特許文献1には、pH7以下のカゼイン酸ナトリウム水溶液に食用油脂とジアセチル酒石酸エステルモノグリセリドとを添加し、攪拌乳化して食用油脂のO/W型エマルジョンを得、次いでこのO/W型エマルジョンを粉末化することを特徴とする粉末油脂の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、製造途中のエマルジョンの安定化を図るとともに、粉末化の際の熱による色焼けや分解による異臭等の問題が解決される。
【0003】
カゼインのような乳タンパク質を含まない粉末油脂もまた開発されている。特許文献2には、油脂、水、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、塩基及び/又は塩を含有し、pH2.0~12.0のO/W型乳化脂を粉末化してなることを特徴とする粉末油脂が記載されている。この粉末油脂は、長期間の保管でもブロッキング現象を起こさないため、取り扱い易く、製パンに使用したときの品質のバラツキを抑えることができる。特許文献3には、中鎖飽和脂肪酸トリグリセリド及び/又はこれらを主成分とした食用油脂と、澱粉加水分解物及び有機酸モノグリセリドを主成分としてなる粉末油脂組成物が記載されている。この粉末油脂組成物は、高カロリー、低蛋白質及び低ミネラルであり、分散性にも優れている。特許文献4は、(A)食用油脂と(B)オクテニルコハク酸エステル化澱粉と(C)トレハロースとを主成分として含有することを特徴とする無タンパク粉末油脂組成物を提案する。この組成物は、タンパク質や有機酸モノグリセリドなどの乳化剤を添加せずに、栄養成分的に高カロリーな加工食品用素材を提供可能である。特許文献5は、油性成分、アラビアガム及び糖類を含み、油性成分とアラビアガムとの重量比が2:1~1:5、かつアラビアガムと糖類との重量比が5:1~1:100であることを特徴とする粉末油脂組成物を提案する。この粉末油脂組成物は、タンパク質を含まず、油性成分の滲み出しがなく、そして水への溶解性が良好である。
【0004】
従来の粉末油脂は、温水や熱湯には急速に溶解するものの、水道水や氷入り飲料のような常温水や冷水には、分散し難く、また、溶け難いという問題点もあった。そこで、低温の水に対する分散性も優れる粉末油脂が提案されている。例えば特許文献6には、顆粒化したクリーマー粒子の形状の粉末クリーマーであって、該クリーマー粒子がそれぞれ甘味料、冷水分散性又は水溶性タンパク質及び淡泊なフレーバーと10℃未満の溶融点とを有する食用油、スクシニル化されたモノグリセリド又は蒸留されたモノグリセリドとモノジグリセリドのジアセチル酒石酸エステルとの混合物から選択される乳化剤を含有する前記粉末クリーマーが記載されている。この粉末クリーマーは、冷水可溶性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-030906(粉末油脂の製造方法)
【文献】特開昭63-309141(粉末油脂)
【文献】特開平6-33087(粉末油脂組成物)
【文献】特開平11-318332(無タンパク粉末油脂組成物)
【文献】特開2000-119688(粉末油脂組成物及びその製造方法)
【文献】特表2000-516096(冷水可溶性クリーマー)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、乳化剤としてカゼインのような乳タンパク質を使用しなくてもよく、さらに冷水分散性に優れた粉末油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討した結果、特定の乳化剤の組み合わせを含む粉末油脂組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、油脂、乳化剤及び賦形剤を含む粉末油脂組成物であって、
前記乳化剤は、(a)ジアセチル酒石酸モノグリセリドと、(b)HLBが9.5よりも高い乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)及び/又は(c)HLBが9.5以下の乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)とを含み、
粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量は、5質量%以上80質量%以下であり、ここで、
(i)前記油脂の含有量が40質量%以上80質量%以下の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.5~15質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~1であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~0.35であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、30質量部以下であり、
(ii)前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.3~20質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~3であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~4であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、35質量部以下であり、そして
(iii)前記油脂の含有量が5質量%以上33質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.1~25質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~15であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~12であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、50質量部以下である、
前記粉末油脂組成物を提供する。本発明の粉末油脂組成物は、乳化剤(a)を必須に含み、さらに乳化剤(b)及び(c)の少なくとも一種を必須に含むことを特徴とする。
【0008】
本明細書において、HLBは、Hydrophile-Lipophile Balance(親水性親油性バランス)を意味する。HLBは、親水基を持たない物質を0とし、そして親水基のみを持つ物質を20として等分したときに、親水性と親油性を併せ持つ乳化剤の親水性と親油性とのバランスを示す指標である。乳化剤のHLBが大きいほど、親水性が勝り、水に溶け易くなる。逆に、乳化剤のHLBが小さいほど、親油性が勝り、水に溶け難くなる。
【0009】
粉末油脂組成物の50%脂肪球径は、0.05~3μmであることが好ましい。
【0010】
前記粉末油脂組成物の下記式:
【数1】
で表される脂肪球径分布が、0.3~6μmであることが好ましい。
【0011】
前記乳化剤(b)は、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
前記乳化剤(c)は、モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
前記油脂は、例えばパーム油、大豆油、コーン油、菜種油、中鎖脂肪酸トリグリセリド及びパーム核極度硬化油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0014】
前記賦形剤は、例えばコーンシロップ、デキストリン、グルコース、異性化糖及び粉あめからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0015】
本発明はまた、粉末油脂組成物の製造方法であって、
(1)油脂、乳化剤、及び賦形剤に水を添加して原料混合物を得る工程、
(2)前記原料混合物を乳化させてエマルジョンを得る工程、及び
(3)前記エマルジョンを粉末乾燥する工程
を含み、
前記乳化剤は、(a)ジアセチル酒石酸モノグリセリドと、(b)HLBが9.5よりも高い乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)及び/又は(c)HLBが9.5以下の乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)とを含み、
粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量は、5質量%以上80質量%以下であり、ここで、
(i)前記油脂の含有量が40質量%以上80質量%以下の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.5~15質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~1であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~0.35であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、30質量部以下であり、
(ii)前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.3~20質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~3であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~4であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、35質量部以下であり、そして
(iii)前記油脂の含有量が5質量%以上33質量%未満の場合、
前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.1~25質量部であり、
前記乳化剤(b)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~15であり、
前記乳化剤(c)の前記乳化剤(a)に対する質量比は、0~12であり、ただし、前記質量比は同時に0でなく、
かつ、前記乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂100質量部に対して、50質量部以下である、
前記粉末油脂組成物の製造方法を提供する。
【0016】
前記(1)の混合物を得る工程は、
(1)-1 HLBが7以上の前記乳化剤及び前記賦形剤を水と混合して水系混合物を得る工程、
(1)-2 HLBが7未満の前記乳化剤を前記油脂と混合して油系混合物を得る工程、及び、
(1)-3 上記水系混合物及び上記油系混合物を混合して前記原料混合物を得る工程
を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粉末油脂組成物は、カゼインのような乳タンパク質を使用しなくても粉末油脂組成物となり、しかも冷水分散性に優れる。この粉末油脂組成物は、コーヒー・紅茶用のクリーミングパウダー、菓子、スープ、調味料等の加工素材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の粉末油脂組成物の油脂は、食用油として用いられるものであれば特に制限なく使用可能である。その例には、パーム油、大豆油、コーン油、菜種油、綿実油、紅花油、ひまわり油、パーム核油、椰子油、オリーブ油等の植物油;牛脂、豚脂(ラード)、乳脂、魚油等の動物性油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド;並びにこれらの油脂の硬化油(例えばパーム核極度硬化油)、エステル交換油、又は分別油脂が挙げられ、パーム油、大豆油、コーン油、菜種油、中鎖脂肪酸トリグリセリド及びパーム核極度硬化油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。前記油脂は、一種単独でも、二種以上の併用であってもよい。また、前記油脂の融点は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、最も好ましくは30℃以上であり、特に上限はないが70℃以下である。特に油脂の融点を所定の範囲とすることで、製造時の乳化安定性が良好となる。
【0019】
本発明の粉末油脂組成物中の油脂の含有量(含油分)は、5質量%以上80質量%以下であり、好ましくは10質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上50質量%以下である。所定の含油分とすることで、油脂が持つコクや風味を有し、粉体安定性の良い粉末油脂組成物を得ることができる。
【0020】
本発明の粉末油脂組成物は、乳化剤(a)として、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを含む。比較例1及び2に示されるように、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを、HLBが同程度の他の乳化剤に代えても、本発明の効果は得られない。したがって、本発明の粉末油脂組成物は、乳化剤(a)を必須の成分とする。
【0021】
ジアセチル酒石酸モノグリセリドのHLBは、通常8~10であり、好ましくは9.2~9.8であり、より好ましくは9.5である。
【0022】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの酸価は、90~120が好ましく、95~105がより好ましい。なお、酸価とは、「基準油脂分析試験法 2.3.1 酸価」に準じて測定した値を意味する。
【0023】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドのけん化価は、400~600が好ましく、450~550がより好ましい。なお、けん化価とは、「基準油脂分析試験法 2.3.2 けん化価」に準じて測定した値を意味する。
【0024】
ジアセチル酒石酸モノグリセリドは、市販のものでよく、例えば製品名ポエムW-60(理研ビタミン株式会社製)が挙げられる。
【0025】
本発明の粉末油脂組成物は、乳化剤(a)を所定量とすることで、冷水分散性が良好となる。本発明の粉末油脂組成物中の乳化剤(a)の含有量は、粉末油脂組成物中の油脂の含有量によって異なる。以下に、乳化剤の適正量を油脂の含有量に応じて場合分けする。
【0026】
(i)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が40質量%以上80質量%以下である場合、前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.5~15質量部であり、好ましくは1.5~13質量部であり、より好ましくは2.5~12質量部である。
【0027】
(ii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満である場合、前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.3~20質量部であり、好ましくは0.8~20質量部であり、より好ましくは0.8~18質量部である。
【0028】
(iii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が5質量%以上33質量%未満である場合、前記乳化剤(a)の含有量は、前記油脂100質量部に対して、0.1~25質量部であり、好ましくは0.2~20質量部であり、より好ましくは0.2~17質量部である。
【0029】
本発明の粉末油脂組成物にHLBが9.5よりも高い乳化剤(b)(ただし、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)を含めることは、粉末油脂組成物の脂肪球径を適度な大きさとすることができ、冷水分散性や白度を向上し、また、水分散時の油浮きを抑制することができる点で好ましい。
【0030】
乳化剤(b)の例には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート、及びショ糖脂肪酸エステルが含まれる。これらの乳化剤の構成脂肪酸の例には、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18)、ベヘニン酸(C22)、エルカ酸(C22)等が挙げられる。乳化剤(b)は、好ましくはポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート、及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種である。乳化剤(b)は、市販のものでよく、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフトQ-12S(HLB15.5、太陽化学株式会社製)、ポエムJ-0021(HLB15.5、理研ビタミン株式会社製);ポリソルベートとして、エマゾールO-120V(HLB15、花王株式会社製);並びにショ糖脂肪酸エステルとして、リョートーシュガーエステルS-1670(HLB16、三菱化学フーズ製)、DKエステルF-160(HLB15、第一工業製薬株式会社製)、DKエステルF-140(HLB13、第一工業製薬株式会社製)、DKエステルF-110(HLB11、第一工業製薬株式会社製)が挙げられる。乳化剤(b)は、一種単独でも二種以上併用してもよい。また、乳化剤(b)のHLBは、好ましくは10~17であり、より好ましくは11~16.5であり、さらに好ましくは12~16.5である。
【0031】
本発明の粉末油脂組成物中の乳化剤(b)の含有量は、粉末油脂組成物中の油脂の含有量によって異なる。以下に、乳化剤(b)の適正量を油脂の含有量に応じて場合分けする。
【0032】
(i)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が40質量%以上80質量%以下である場合、乳化剤(b)の乳化剤(a)に対する質量比は、0~1であり、好ましくは0~0.7であり、より好ましくは0.05~0.55である。
【0033】
(ii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満である場合、乳化剤(b)の乳化剤(a)に対する質量比は、0~3であり、好ましくは0~2.5であり、より好ましくは0.01~1.8である。
【0034】
(iii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が5質量%以上33質量%未満である場合、乳化剤(b)の乳化剤(a)に対する質量比は、0~15であり、好ましくは0~10であり、より好ましくは0.5~8であり、さらに好ましくは0.5~6である。
【0035】
本発明の粉末油脂組成物にHLBが9.5以下の乳化剤(c)(ただし、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを除く)を含めることは、油浮きを防ぐ点で好ましい。さらに、本発明の粉末油脂組成物に乳化剤(b)及び(c)の両方を使用することは、粉末油脂組成物の脂肪球径を適度な大きさとすることができ、冷水分散性や白度を向上し、また、水分散時の油浮きを抑制することができる点で好ましい。
【0036】
乳化剤(c)の例には、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びレシチンが含まれる。これらの乳化剤の構成脂肪酸の例には、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18)、ベヘニン酸(C22)、エルカ酸(C22)等が挙げられる。有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の例には、酢酸、クエン酸、コハク酸等が挙げられ、好ましくはクエン酸又はコハク酸である。乳化剤(c)は、好ましくは、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、及びモノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種である。乳化剤(c)は、市販のものでよく、有機酸モノグリセリドとして、サンソフトNo.621B(HLB9.5、太陽化学株式会社製)、及びサンソフトNo.681NU(HLB8.5、太陽化学株式会社製);ソルビタン脂肪酸エステルとして、エマゾールP-10V(HLB6.7、花王株式会社製)、ポエムS-60V(HLB5.1、理研ビタミン株式会社製)、RIKEMAL-SV-60(HLB5.1、理研ビタミン株式会社製)、ポエムS-65V(HLB3、理研ビタミン株式会社製)、RIKEMAL-SV-65(HLB3、理研ビタミン株式会社製)、及びRIKEMAL-P-200S(HLB3.2、理研ビタミン株式会社製);並びに、モノグリセリン脂肪酸エステルとして、ポエムP-200(HLB3.2、理研ビタミン株式会社製)、及びポエムOL-200V(HLB3.1、理研ビタミン株式会社製)が挙げられる。乳化剤(c)は、一種単独でも、二種以上併用してもよい。また、乳化剤(c)のHLBは、好ましくは2~9であり、より好ましくは2~8であり、さらに好ましくは2.5~7.5である。
【0037】
本発明の粉末油脂組成物中の乳化剤(c)の含有量は、粉末油脂組成物中の油脂の含有量によって異なる。以下に、乳化剤(c)の適正量を油脂の含有量に応じて場合分けする。
【0038】
(i)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が40質量%以上80質量%以下である場合、乳化剤(c)の乳化剤(a)に対する質量比は、0~0.35であり、好ましくは0~0.15であり、より好ましくは0.01~0.15である。
【0039】
(ii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満である場合、乳化剤(c)の乳化剤(a)に対する質量比は、0~4であり、好ましくは0~3であり、より好ましくは0.01~2.5である。
【0040】
(iii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が5質量%以上33質量%未満である場合、乳化剤(c)の乳化剤(a)に対する質量比は、0~12であり、好ましくは0~10であり、より好ましくは0.05~10である。
【0041】
本発明の粉末油脂組成物は、乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量を所定の範囲とすることで、冷水分散性が向上し、そして食味の良いものとなる。本発明の粉末油脂組成物中の乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、前記油脂の含有量により異なる。以下に、乳化剤の総含有量を、油脂の含有量に応じて場合分けする。
【0042】
(i)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が40質量%以上80質量%以下の場合、乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、油脂100質量部に対して、30質量部以下であり、好ましくは1質量部以上14質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上13質量部以下である。
【0043】
(ii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が33質量%以上40質量%未満の場合、乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、油脂100質量部に対して、35質量部以下であり、好ましくは0.5質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以上25質量部以下である。
【0044】
(iii)粉末油脂組成物中の前記油脂の含有量が5質量%以上33質量%未満の場合、乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量は、油脂100質量部に対して、50質量部以下であり、好ましくは0.3質量部以上50質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以上35質量部以下である。
【0045】
本発明の粉末油脂組成物に含まれる賦形剤は、主として油性成分を被覆することにより、粉末油脂組成物を形成し、そして油性成分の滲み出しを防止するために用いられる。賦形剤の例には、デンプン糖、水あめ、粉あめ、コーンシロップ、蔗糖(スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、トレハロース、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の糖類;エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴等の糖アルコール;小麦粉;馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦粉デンプン等のデンプン類;ゼラチン;キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、トラガントガム等のガム質等が挙げられる。これらの賦形剤は、一種単独でも、二種以上の併用でもよい。
【0046】
前記賦形剤は、好ましくは糖類であり、より好ましくは、コーンシロップ、デキストリン、グルコース、異性化糖及び粉あめからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、さらに好ましくはコーンシロップ及びデキストリンから選ばれる1種以上であり、特に好ましくはコーンシロップである。前記糖類の平均分子量は、好ましくは400~20,000であり、より好ましくは400~4,100である。また、糖類のデキストロース当量(DE)は、好ましくは10以上50以下であり、より好ましくは10以上40以下であり、さらに好ましくは10以上35以下である。
【0047】
本発明の粉末油脂組成物中の賦形剤の含有量は、通常、20~90質量%でよく、好ましくは30~85質量%であり、より好ましくは40~70質量%である。賦形剤を所定量配合することで、冷水分散性が良く、そして保存安定性の良い粉末油脂組成物を得ることができる。
【0048】
本発明の粉末油脂組成物は、油脂、賦形剤及び乳化剤以外に、粉末油脂組成物に汎用される助剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加してもよい。そのような助剤の例としては、リン酸水素2カリウム、硫酸2カリウム、クエン酸ナトリウム等のpH調整剤;トコフェロール等の抗酸化剤;上記賦形剤以外の甘味料;安定剤;香料;着色剤;炭酸カルシウム、二酸化チタン等が挙げられる。
【0049】
前記粉末油脂組成物の50%脂肪球径は、通常、0.05~3μmでよく、好ましくは0.05~2μmであり、特に好ましくは0.05~1μmである。50%脂肪球径を所定の範囲とすることで、冷水分散性の良好な粉末油脂組成物とすることができる。
【0050】
前記粉末油脂組成物の下記式:
【数2】
で表される脂肪球径分布は、通常、0.3~6μmであり、好ましくは0.4~5μmであり、特に好ましくは0.4~4μmである。分布が所定の範囲であると冷水分散性が良好であり、また、保存性の良好な粉末油脂組成物を得ることができる。
【0051】
本発明の粉末油脂組成物は、例えば、以下の工程:
(1)油脂、乳化剤、及び賦形剤に水を添加して原料混合物を得る工程、
(2)前記原料混合物を乳化させてエマルジョンを得る工程、及び
(3)前記エマルジョンを粉末乾燥する工程
に従って、製造することができる。
【0052】
前記工程(1)において、添加する水の量は、油脂、乳化剤及び賦形剤の合計100質量部に対して、通常、30~200質量部でよく、好ましくは30~150質量部である。
【0053】
(1)の工程は、
(1)-1 HLBが7以上の前記乳化剤及び前記賦形剤を水と混合して水系混合物を得る工程、及び、
(1)-2 HLBが7未満の前記乳化剤を前記油脂と混合して油系混合物を得る工程
(1)-3 上記水系混合物及び上記油系混合物を混合して原料混合物を得る工程
を含むことが、作業性の点で好ましい。
【0054】
(2)の工程は、汎用の方法でよく、例えばホモジナイザー、ホモミキサー、高圧乳化機、高圧均質機、コロイドミル、カッターミキサー等で乳化処理される。
【0055】
(3)の工程は、汎用の方法でよく、例えば真空乾燥、真空凍結乾燥、真空ベルト乾燥、真空ドラム乾燥、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥等を用いることができる。
【0056】
本発明の粉末油脂組成物は、コーヒー、紅茶、チョコレート飲料、ミルクセーキ等に使われるインスタントクリーミングパウダー;粉末ホイップクリーム、粉末スープ等の粉末食品の成分;菓子、パン、麺、畜肉加工品等の食品用加工素材等に用いることができる。
【実施例
【0057】
以下に、本発明の実施例及び比較例を記載することにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<粉末油脂組成物調製用原料>
粉末油脂組成物の調製に使用する原料を、表1~3に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
<粉末油脂組成物の調製方法>
粉末油脂組成物を以下の手順で調製した。まず、油脂、乳化剤、賦形剤、及びpH調整剤が、水100質量部に対して100質量部となるように水に添加して混合することにより、原料混合物を得た。混合は、HLBが7以上の乳化剤及び前記賦形剤を水と混合して水系混合物を得、一方、HLBが7未満の乳化剤を油脂と混合して油系混合物を得、両者を合一して撹拌することにより原料混合物を得た。pH調整剤(リン酸水素2カリウム)をジアセチル酒石酸モノグリセリド1質量部に対して0.8質量部となるように添加した。賦形剤は100質量部から油脂、乳化剤及びpH調整剤を引いた残部とした。例えば実施例7の粉末油脂組成物(含油分45%(対組成物%)及び総乳化剤含量12.3%(対油%))を調製する場合、水100質量部(コーンシロップに含まれる水を含む)に賦形剤(コーンシロップ)46.39質量部(固形分として)、pH調整剤3.06質量部、並びにHLB7以上の乳化剤であるDKエステルF-160を1.34質量部及びポエムW-60を3.83質量部配合した。一方、油脂45質量部にHLB7未満の乳化剤であるエマゾールP-10Vを0.38質量部配合した。両者を合一して撹拌することにより、原料混合物を得た。
【0062】
次に、上記原料混合物を、高圧乳化機(製品名:LAB-2000、SPXフローテクノロジー株式会社製)にて500barで処理することにより、O/W型エマルジョンを得た。得られたエマルジョンをスプレードライヤー(製品名:B-290、日本ビュッヒ株式会社製、INLET175℃、ポンプ出力50%、噴霧空気流量600L/時間)を用いて乾燥粉末化することにより粉末油脂組成物を得た。
【0063】
<脂肪球径の測定>
レーザ回折式粒度分布測定装置(製品名:SALD-2200、株式会社島津製作所製)を用いて、以下の条件:
屈折率: 1.60-0.5i
分散媒: 水
ポンプスピード: 8
で、粉末油脂組成物の脂肪球径(10%脂肪球径、90%脂肪球径、及び50%脂肪球径)を測定した。さらに、90%脂肪球径及び10%脂肪球径から、脂肪球径分布(90%脂肪球径-10%脂肪球径)を算出した。なお、10%脂肪球径、90%脂肪球径及び50%脂肪球径は、横軸に粒子径、縦軸に積算%とした分布曲線において、それぞれ、10%の横軸と交差する粒子径、90%の横軸と交差する粒子径、及び50%の横軸と交差する粒子径を意味する。
【0064】
<冷水分散性の評価>
上記粉末油脂組成物の冷水(5℃)への分散率(%)を、以下の手順で測定した。まず、粉末油脂組成物5gを5℃の水50gの入った200mLビーカーに加えて、温調付マグネティックスターラー(製品名:クールスターラーCPS-300、株式会社サイニクス製)を用いて、設定温度1.5℃及び撹拌速度600rpmの条件で30秒間撹拌した。撹拌後直ちに、φ75mmのステンレス製ふるい3段(目開き250μm、125μm及び75μm)に通して、ろ過した。得られたろ液のBrixを、糖度計(製品名:POCKET REFRACTOMETER ModeS、株式会社アタゴ製)を用いて3回測定した。この操作を、3回繰り返し、それらの平均値を分析値とした。
【0065】
冷水分散率は、以下の式:
【数3】
により求めた。
【0066】
次に、カゼインナトリウムを含む粉末油脂組成物を対照として、本発明の粉末油脂組成物の冷水分散性を評価した。冷水分散性は、油脂の含有量によって変わる。そこで、油脂の含有量20、35及び45質量%の粉末油脂組成物について、それぞれカゼインナトリウムを含む粉末油脂組成物(対照)を調製し、その冷水分散率を求めた。
【0067】
カゼインナトリウムを含む粉末油脂組成物(対照)を、以下のように調製した。水100質量部(コーンシロップに含まれる水を含む)に賦形剤(コーンシロップ(固形分))75.9、59.4、又は48.4質量部、リン酸水素二カリウム2.1質量部、カゼインナトリウム2、3.5、又は4.5質量部、油脂20、35、又は45質量部を配合した。両者を合一して撹拌し、さらに高圧乳化機(同上)にて500barで処理することにより、O/W型エマルジョンを得た。得られたエマルジョンをスプレードライヤー(同上)で乾燥粉末化することにより、粉末油脂組成物(対照)を得た。対照の粉末油脂組成物の脂肪球径分布、50%脂肪球径及び冷水分散率を測定した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
表4に示す結果を用いて、粉末油脂組成物(対照)と同じ含油分で調整した粉末油脂組成物の冷水分散性をランク分けした。ランクA~Dを効果ありと評価した。評価基準を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
〔実施例1~3〕含油分45%での乳化剤の変更試験(1)
HLB9.5のポエムW-60からなる乳化剤(a)と、HLB15.0のDKエステルF-160からなる乳化剤(b)及び/又はHLB6.7のエマゾールP-10Vとを含む本発明の粉末油脂組成物(実施例1~3)を、前記調製方法に従って調製した。比較のため、乳化剤(a)を、HLBが比較的近い3種類の乳化剤(c)に代えた粉末油脂組成物を調製した(比較例1~4)。これらの粉末油脂組成物の噴霧乾燥後の脂肪球径分布、50%脂肪球径及び冷水分散率を測定した。さらに、冷水分散率から冷水分散性を評価した。結果を表6に示す。なお、比率(b)/(a)は乳化剤(b)の乳化剤(a)に対する質量比であり、比率(c)/(a)は乳化剤(c)の乳化剤(a)に対する質量比である。また総乳化剤量(対油%)は油脂100質量部に対する乳化剤(a)、(b)及び(c)の総含有量(質量部)に相当する。
【0072】
【表6】
【0073】
表6を見ると、HLBが同程度であるが乳化剤(a)と異なる乳化剤(c)を含む比較例1~2の粉末油脂組成物は、噴霧乾燥後の50%脂肪球径が大きく、脂肪球径分布も広い。乳化剤(a)を含まない比較例3~4の粉末油脂組成物は、50%脂肪球径が更に大きくなり、また、脂肪球径分布がさらに広くなる。これらの比較例の粉末油脂組成物の冷水分散性は改善されない。一方、実施例1~3の乳化剤(a)を含む本発明の粉末油脂組成物は、噴霧乾燥後の50%脂肪球径が、それぞれ、0.52μm、1.07μm、及び0.58μmと極めて小さく、そして脂肪球径分布が、それぞれ、0.73μm、1.93μm、及び1.97μmと極めて狭い。実施例の冷水分散性は、比較例1~4と比べて顕著に改善されたことがわかる。本発明の粉末油脂組成物の冷水分散性の向上は、粉末油脂組成物の50%脂肪球径が小さいことと、脂肪球径分布が狭いことが寄与したためと考えられる。
【0074】
〔実施例4~10〕含油分45%での乳化剤の変更試験(2)
本発明の粉末油脂組成物の乳化剤(a)と乳化剤(b)又は乳化剤(c)との比率を、表7に示す範囲で変更した。前記方法により粉末油脂組成物を調製し、50%脂肪球径、脂肪球径分布、及び冷水分散率を測定し、冷水分散性を評価した。結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
表7において、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)が本発明で規定する範囲に入らない比較例5の粉末油脂組成物では、脂肪球径分布が広く、50%脂肪球径が大きく、そして冷水分散性が悪い。一方、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)が本発明で規定する範囲に入る実施例4~10の粉末油脂組成物は、脂肪球径分布が狭く、50%脂肪球径が小さく、そして冷水分散性が向上することが確認された。
【0077】
〔実施例11~34〕含油分45%での乳化剤の変更試験(3)
本発明の粉末油脂組成物の乳化剤(a)、(b)及び(c)の含有量を表8に示す範囲で変更した。前記方法により粉末油脂組成物を調製し、脂肪球径分布、50%脂肪球径及び冷水分散率を測定し、冷水分散性を評価した。結果を表8に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
表8から、含油分45%において、乳化剤の比率(b)/(a)又は(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入る限り、乳化剤(a)の含有量を変更しても、本発明の粉末油脂組成物の物性は変更されないことが確認された。
【0080】
〔実施例35~45〕含油分45%での乳化剤の変更試験(4)
乳化剤(b)を表9に示すものに変更した本発明の粉末油脂組成物を調製した。調製した粉末油脂組成物の脂肪球径分布、50%脂肪球径及び冷水分散率を測定し、冷水分散性を評価した。結果を表9に示す。
【0081】
【表9】
【0082】
表9に示すとおり、乳化剤(b)を変更しても、乳化剤の比率(b)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入る限り、本発明の粉末油脂組成物の物性は変更されないことが確認された。
【0083】
〔実施例46~54〕含油分45%での乳化剤の変更試験(5)
乳化剤(c)を表10に示すものに変更した本発明の粉末油脂組成物を調製した。調製した粉末油脂組成物の脂肪球径分布、50%脂肪球径及び冷水分散率を測定し、冷水分散性を評価した。結果を表10に示す。
【0084】
【表10】
【0085】
表10に示すとおり、含油分45%において、乳化剤(c)を変更しても、乳化剤(c)/(a)の比率及び総含有量が本発明で規定する範囲に入る限り、本発明の粉末油脂組成物の物性は変更されないことが確認された。
【0086】
〔実施例55~59〕含油分35%での乳化剤の変更試験(1)
実施例1において、含油分45%から35%に変更し、実施例1と同様の手順で粉末油脂組成物を調製した。ここで、総乳化剤量を3.5%~42%まで変化させたが、乳化剤比率は(b):(a):(c)=1.40:1.00:0.40を維持した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表11に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
表11から、含油分35%において、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)が本発明で規定する範囲に入るが、乳化剤の総含有量が本発明で規定する範囲を超えた比較例7の粉末油脂組成物は、脂肪球径分布が広く、50%脂肪球径が大きく、そして冷水分散性が悪い。一方、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0089】
〔実施例60~64〕含油分35%での乳化剤の変更試験(2)
含油分35%において、総乳化剤量を1.5%~24.7%まで変化させたが、乳化剤比率を(b):(a):(c)=0.35:1.00:0.10に維持した粉末油脂組成物を調製した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表12に示す。
【0090】
【表12】
【0091】
表12から、含油分35%において、乳化剤の組み合わせを変更しても、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0092】
〔実施例65~68〕含油分35%での乳化剤の変更試験(3)
含油分35%において、乳化剤(b)DKエステルF-160の配合割合を表13に記載の割合に変更した粉末油脂組成物を調製した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表13に示す。
【0093】
【表13】
【0094】
表13から、含油分35%において、乳化剤の組み合わせを変更しても、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0095】
〔実施例69~71〕含油分35%での乳化剤量の変更試験(4)
含油分35%において、乳化剤(c)エマゾールP-10Vの配合割合を表14に記載の割合で変更した粉末油脂組成物を調製した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表14に示す。
【0096】
【表14】
【0097】
表14から、含油分35%において、乳化剤の組み合わせを変更しても、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0098】
〔実施例72~78〕含油分20%での乳化剤の変更試験(1)
実施例1において、含油分45%から20%に変更し、実施例1と同様の手順で粉末油脂組成物を調製した。ここで、総乳化剤量を0.9%~49%まで変化させたが、乳化剤比率は(b):(a):(c)=1.40:1.00:0.40に維持した粉末油脂組成物を調製した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表15に示す。
【0099】
【表15】
【0100】
表15から、含油分20%において、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0101】
〔実施例79~82〕含油分20%での乳化剤の変更試験(2)
含油分20%において、乳化剤(b)DKエステルF-160の配合割合を表16に記載の割合で変更した粉末油脂組成物を調製した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表16に示す。
【0102】
【表16】
【0103】
表16から、含油分20%において、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0104】
〔実施例83~88〕含油分20%での乳化剤の変更試験(3)
含油分20%において、乳化剤(c)エマゾールP-10Vの配合割合を表17に記載の割合で変更した粉末油脂組成物を調製した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表17に示す。
【0105】
【表17】
【0106】
表17から、含油分20%において、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)及び総含有量が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0107】
〔実施例89~90〕含油分20%での乳化剤の変更試験(4)
含油分20%において、表18及び19に記載の配合で粉末油脂組成物を調製した。実施例1と同様に評価を行った。結果を表18及び19に示す。
【0108】
【表18】
【0109】
【表19】
【0110】
表18及び19から、含油分20%において、乳化剤の組み合わせを変更しても、乳化剤の比率(b)/(a)及び(c)/(a)が本発明で規定する範囲に入ると、本発明の粉末油脂組成物の物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0111】
〔実施例91~94〕賦形剤の変更試験
実施例7において、コーンシロップの代わりに表20に記載の賦形剤を用いて粉末油脂組成物を得た。得られた粉末油脂組成物を実施例1と同様に評価した。結果を表20に示す。
【0112】
【表20】
【0113】
表20から、本発明の粉末油脂組成物は、賦形剤を変更しても、物性(冷水分散性)が向上することが確認された。
【0114】
〔実施例95~96〕油脂の変更試験
実施例7において、パーム核極度硬化油の代わりに、表21に記載の油脂を用いて粉末油脂組成物を得た。得られた粉末油脂組成物を実施例1と同様に評価した結果を表21に示す。
【0115】
【表21】
【0116】
表21から、本発明の粉末油脂組成物は、油脂を変更しても、物性(冷水分散性)が向上することが確認された。