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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20231002BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C23C14/35 B
C23C14/34 B
C23C14/34 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022534907
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011719
(87)【国際公開番号】W WO2022009484
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020117530
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】織井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】箱守 宗人
(72)【発明者】
【氏名】須田 具和
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 大
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-519673(JP,A)
【文献】特表2013-506756(JP,A)
【文献】特開2005-350768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 -14/58
H01L 21/285
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸とターゲット面とを有し、前記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えた複数のロータリターゲットを少なくとも3個以上用いて基板にスパッタリング成膜を行う成膜方法であって、
前記複数のロータリターゲットは、前記中心軸が互いに平行で、かつ前記中心軸が前記基板と平行になるように配置され、
前記複数のロータリターゲットに電力を投入しながら、前記複数のロータリターゲットのそれぞれの前記磁石を、前記中心軸の周りに、前記基板に最も近いA点を有する円弧上を移動させながら、前記基板にスパッタリング成膜を行い、
前記複数のロータリターゲットの内、少なくとも両端に配置された一対のロータリターゲットは、前記複数のロータリターゲットが並設する方向において、それぞれの一部が前記基板からはみだすように配置され、前記一対のロータリターゲットの前記磁石は、前記円弧上において、前記A点より前記基板の中心から離れた領域で成膜する時間が前記A点より前記基板の中心に近い領域で成膜する時間より短く、
前記一対のロータリターゲットの前記磁石は、前記基板の側から前記基板の外側へ移動する場合は、前記A点を通過した後に速度が上がり、前記基板の外側から前記基板の側へ移動する場合は前記A点を通過する前に速度が下がり、
前記一対のロータリターゲットの一方から数えて前記複数のロータリターゲットの群の中心に向かってN番目の前記ロータリターゲットの前記磁石と、前記一対のロータリターゲットの他方から数えて前記複数のロータリターゲットの群の中心に向かってN番目の前記ロータリターゲットの前記磁石とは、それぞれの角度に対する角速度の変化が前記磁石が回転移動する範囲において対称である
成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載された成膜方法においては、
前記A点の前記磁石の角度を0度とし、前記0度から反時計回り方向を負角度、時計回り方向を正角度とした場合、
前記一対のロータリターゲットの前記磁石は、20度から90度までの範囲のいずれかの角度での位置と、-20度から-90度までの範囲のいずれかの角度での位置との間において回転移動する
成膜方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された成膜方法においては、
前記両端に配置された一対のロータリターゲットの一方は、前記円弧上の前記A点より前記基板の中心に近い領域から成膜を開始し、
前記両端に配置された一対のロータリターゲットの他方は、前記円弧上の前記A点より前記基板の中心から離れた領域から成膜を開始する
成膜方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載された成膜方法においては、
前記両端に配置された一対のロータリターゲットの前記磁石の移動において、前記円弧上の前記A点より前記基板の中心から離れた領域を移動する平均の角速度が前記A点より前記基板の中心に近い領域を移動する平均の角速度より速い
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型ディスプレイで用いられる基板に対する成膜技術では、膜厚分布に関し高い均一性が要求される。特に、成膜方法としてスパッタリング法を採用した場合、スパッタリング粒子の複雑な空間的分布に起因して、基板面内における膜厚分布の均一化が難しくなる場合がある。
【0003】
このような状況の中、内部に磁石が設けられた棒状のロータリターゲットを基板に対向して複数並設して、それぞれのロータリターゲットからスパッタリング粒子を基板に入射させ、膜厚分布の改善を試みた例がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-519673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、昨今における基板のさらなる大型化に伴い、基板の中央部と基板の端部とにおける膜厚がより不均一になる傾向にある。基板面内における膜厚の均一化を図るために、如何にして基板面内における膜厚補正するかが重要になっている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、基板面内における膜厚分布がより均一になる成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法では、中心軸とターゲット面とを有し、上記中心軸の周りに回転可能な磁石を内部に備えた複数のロータリターゲットを少なくとも3個以上用いて基板にスパッタリング成膜が行われる。
上記複数のロータリターゲットは、上記中心軸が互いに平行で、かつ上記中心軸が上記基板と平行になるように配置される。
上記複数のロータリターゲットに電力を投入しながら、上記複数のロータリターゲットのそれぞれの上記磁石を、上記中心軸の周りに、上記基板に最も近いA点を有する円弧上を移動させながら、上記基板にスパッタリング成膜を行い、上記複数のロータリターゲットの内、少なくとも両端に配置された一対のロータリターゲットの上記磁石は、上記円弧上において、上記A点より上記基板の中心から離れた領域で成膜する時間が上記A点より上記基板の中心に近い領域で成膜する時間より短い。
【0008】
このような成膜方法であれば、両端に配置された一対のロータリターゲットの磁石の移動が上記のように制御されて基板面内における膜厚分布がより均一になる。
【0009】
上記の成膜方法においては、上記A点の上記磁石の角度を0度とし、上記0度から反時計回り方向を負角度、時計回り方向を正角度とした場合、上記一対のロータリターゲットの上記磁石は、20度から90度までの範囲のいずれかの角度での位置と、-20度から-90度までの範囲のいずれかの角度での位置との間において回転移動してもよい。
【0010】
このような成膜方法であれば、両端に配置された一対のロータリターゲットの磁石の移動が上記のように制御されて基板面内における膜厚分布がより均一になる。
【0011】
上記の成膜方法においては、上記両端に配置された一対のロータリターゲットの一方は、上記円弧上の上記A点より上記基板の中心から近い領域から成膜を開始し、上記両端に配置された一対のロータリターゲットの他方は、上記円弧上の上記A点より上記基板の中心に離れた領域から成膜を開始してもよい。
【0012】
このような成膜方法であれば、両端に配置された一対のロータリターゲットの磁石の移動が上記のように制御されて基板面内における膜厚分布がより均一になる。
【0013】
上記の成膜方法においては、上記両端に配置された一対のロータリターゲットの上記磁石の移動において、上記円弧上の上記A点より上記基板の中心から離れた領域を移動する平均の角速度が、上記A点より上記基板の中心に近い領域を移動する平均の角速度より速くてもよい。
【0014】
このような成膜方法であれば、両端に配置された一対のロータリターゲットの磁石の移動が上記のように制御されて基板面内における膜厚分布がより均一になる。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、基板面内における膜厚分布がより均一になる成膜方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る成膜方法の一例を示す模式図である。
図2】ロータリターゲットの中心軸の周りに回転移動する磁石の角度の定義を説明するための図である。
図3】磁石の角度に対する磁石の移動速度(角速度)の一例を示すグラフ図である。
図4】磁石の角度に対する放電時間の割合の一例を示すグラフ図である。
図5】図(a)は、磁石の角度に対する磁石の移動速度(角速度)の一例を示すグラフ図である。図(b)は、磁石の角度に対する放電時間の割合の一例を示すグラフ図である。
図6】本実施形態の成膜装置の一例を示す模式的平面図である。
図7】図(a)は、比較例に係る基板面内の膜厚分布を示すグラフ図である。図(b)は、本実施形態の成膜方法で成膜した場合の基板面内の膜厚分布の一例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0018】
図1(a)、(b)は、本実施形態に係る成膜方法の一例を示す模式図である。図1(a)には、複数のロータリターゲットと基板との配置関係を示す模式的な断面が示され、図1(b)には、その配置関係を示す模式的な平面が示されている。なお、本実施形態に係る成膜は、例えば、図6に示す成膜装置400の制御装置410によって自動的に行われる。
【0019】
本実施形態の成膜方法では、回転可能な円筒状の複数のロータリターゲットの少なくとも3個以上が用いられて基板10にスパッタリング成膜(マグネトロンスパッタリング)がなされる。図1(a)、(b)には、例えば、10個のロータリターゲット201~210が例示されている。複数のロータリターゲットの数は、この数に限らず、例えば、基板10のサイズに応じて適宜変更される。
【0020】
複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、中心軸20とターゲット面(スパッタリング面)21とを有する。複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、中心軸20の周りに回転可能な磁石を内部に備える。例えば、図1(a)、(b)の例では、複数のロータリターゲット201~210の順に、磁石301~310が配置されている。磁石301~310は、所謂、磁石アセンブリである。磁石301~310は、永久磁石と磁気ヨークとを有する。
【0021】
複数のロータリターゲット201~210は、中心軸20が互いに平行で、かつ中心軸20が基板10と平行になるように配置される。例えば、複数のロータリターゲット201~210は、中心軸20と交差する方向にターゲット面21同士が互いに対向するように並設される。複数のロータリターゲット201~210が並設された方向は、基板10の長手方向に対応している。なお、必要に応じて、複数のロータリターゲット201~210が並設された方向は、基板10の短手方向としてもよい。
【0022】
基板10は、図示しない基板ホルダに支持される。基板ホルダの電位は、例えば、浮遊電位、接地電位等とする。複数のロータリターゲット201~210は、複数のロータリターゲット201~210が並ぶ方向が基板10の長手方向に平行になるように配置される。複数のロータリターゲット201~210のそれぞれのターゲット面21は、基板10の成膜面11に対向している。
【0023】
なお、図1(a)、(b)では、複数のロータリターゲット201~210が並設された方向がY軸方向に対応し、基板10から複数のロータリターゲット201~210に向かう方向がZ軸に対応し、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれが延在する方向がX軸に対応している。
【0024】
また、Y軸方向において、複数のロータリターゲット201~210の群の両端には、一対のロータリターゲット201、210が配置される。例えば、Z軸方向において複数のロータリターゲット201~210と基板10とを見た場合、Y軸方向において、一対のロータリターゲット201、210が基板10からはみ出すように配置される。例えば、一対のロータリターゲット201、210のそれぞれの少なくとも一部と、基板10とが重なるように、複数のロータリターゲット201~210と基板10とが配置される。
【0025】
具体的には、一対のロータリターゲット201、210のそれぞれの中心軸20と、基板10とが重なるように、複数のロータリターゲット201~210と基板10とが配置される。例えば、一対のロータリターゲット201、210のそれぞれの中心軸20が基板10の内側に位置するように、複数のロータリターゲット201~210が配置される。
【0026】
図1(a)、(b)の例では、Z軸方向において、ロータリターゲット201の中心軸20と、基板10のY軸方向における端部12aとが重複している。また、ロータリターゲット210の中心軸20と、基板10のY軸方向における端部12bとが重複している。
【0027】
一対のロータリターゲット201、210と基板10の端部12a、12bとをこのように配置することにより、両端に配置されたロータリターゲット201、210から放出されるスパッタリング粒子が基板10の外側を無駄に通過することなく、基板10の端部12a、12b付近に指向される。これにより、基板10の端部12a、12b付近の膜厚が確実に補正される。なお、実施形態では、一対のロータリターゲット201、210の中、ロータリターゲット201を一方のロータリターゲット、ロータリターゲット210を他方のロータリターゲットと呼称することがある。
【0028】
また、Y軸方向において、複数のロータリターゲット201~210のピッチは、略均等に設定される。また、スパッタリング成膜中における、複数のロータリターゲット201~210と基板10との相対距離は、固定距離とされる。
【0029】
複数のロータリターゲット201~210のそれぞれの外径は、100mm以上200mm以下である。Y軸方向における複数のロータリターゲット201~210のピッチは、200mm以上300mm以下である。基板10のサイズは、Y軸方向が700mm以上4000mm以下、X軸方向が700mm以上4000mm以下である。
【0030】
複数のロータリターゲット201~210の材料は、例えば、アルミニウム等の金属、In-Sn-O系、In-Ga-Zn-O系の酸化物等である。基板10の材料は、例えば、ガラス、有機樹脂等である。
【0031】
本実施形態では、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれに放電電力が投入され、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれの磁石が中心軸20の周りに円弧上を回転移動しながら基板10にスパッタリング成膜が行われる。
【0032】
特に、スパッタリング成膜では基板10のサイズが大型になるほど、基板10の端部12a、12b付近に形成される膜の厚みと、基板10の中央部に形成される膜の厚みとの差が大きくなる傾向にある。ここで、基板10の中央部とは、ロータリターゲット202~209が対向する基板10の領域であるとする。
【0033】
本実施形態では、一群のロータリターゲット201~210の両端に配置された一対のロータリターゲット201、210と、一対のロータリターゲット201、210の間に配置されたロータリターゲット202~209の磁石の回転移動との様相を変えることにより、基板10の面内における膜厚分布をより均一に制御する。
【0034】
複数のロータリターゲット201~210の磁石の回転移動は、360度以下の回転角での始点から終点までの1回の回転移動でもよく、360度以下の回転角での少なくとも1回の揺動でもよい。なお、本実施形態の揺動動作では、磁石が折り返す際に折り返し位置では磁石が停止せず、連続的な折り返し移動をする。
【0035】
複数のロータリターゲット201~210のそれぞれには、それぞれのロータリターゲットの消耗を略均等にするため、同じ電力が投入される。投入電力は、直流電力でもよく、RF帯、VHF帯等の交流電力でもよい。また、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、時計回りまたは反時計回りに回転する。複数のロータリターゲット201~210のそれぞれは、例えば、同じ回転数で5rpm以上30rpm以下に設定される。
【0036】
以下、磁石301~310の回転動作の具体例について説明する。まず、複数のロータリターゲット201~210の中、両端に配置された一対のロータリターゲット201、210の磁石301、310の回転動作の具体例について説明する。
【0037】
図2は、ロータリターゲットの中心軸の周りに回転移動する磁石の角度の定義を説明するための図である。図2では、一例として、複数のロータリターゲット201~210の中、ロータリターゲット201が例示される。磁石の角度、正角度、負角度、及びA点(後述)の定義については、ロータリターゲット201以外のロータリターゲット202~210についても、ロータリターゲット201と同様の定義がなされる。
【0038】
本実施形態では、磁石301の角度について、磁石301の中心と基板10との距離が最短となるときの磁石301の角度が0度とされる。例えば、中心軸20から基板10の成膜面11に垂線を引いた場合、この垂線と磁石301の中心30とが一致した位置が磁石301の角度0度に相当する。磁石301が中心軸20を回転移動するとき、その中心30は、円弧の軌道を描く。角度が0度のとき、磁石310は基板10に最も近づき、このときの円弧上の点をA点とする。また、磁石301の角度の正負については、0度から時計回り方向を正角度(+θ)、反時計回り方向を負角度(-θ)とする。なお、磁石301の位置とは、ある角度における中心30の角度位置であるとする。
【0039】
ロータリターゲット201の中心軸20の周りに磁石301を回転移動させることにより、マグネトロン放電時においては、磁石301が対向するターゲット面21付近にプラズマを集中させることができる。換言すれば、磁石301が対向するターゲット面21から優先的にスパッタリング粒子を放出することができる。これにより、磁石301の角度に応じて、スパッタリング粒子がターゲット面21から放出する指向を制御することができる。さらに、基板10を複数のロータリターゲット201~210に対向配置させた後において、磁石310の移動角度の範囲を変えることによりスパッタリング粒子が基板10に向かう指向を事後的に変えることができる。
【0040】
図3(a)、(b)は、磁石の角度に対する磁石の移動速度(角速度)の一例を示すグラフ図である。図3(a)には、磁石301の角度に対する磁石の移動速度の一例が示されている。図3(b)には、磁石310の角度に対する磁石の移動速度の一例が示されている。また、図3(a)、(b)に例示される磁石301、310の回転移動は、始点から終点までの1回の回転移動であるとする。図3(a)、(b)では、一例として、時計回り方向で磁石301、310を回転移動させながらスパッタリング成膜が行われる。
【0041】
本実施形態では、基板10にスパッタリング成膜を行う際に、複数のロータリターゲット201~210の中、両端に配置された一対のロータリターゲット201、210の磁石301、310については、次のような回転移動の制御を行う。
【0042】
例えば、磁石301、310に対して、円弧上において磁石301、310の角速度を変化させることにより、A点よりも基板10の中心から離れた領域で成膜する時間がA点よりも基板10の中心に近い領域で成膜する時間より短くなるように回転移動させる。ロータリターゲット201は、円弧上のA点よりも基板10の中心に近い領域から成膜を開始し、ロータリターゲット210は、円弧上のA点よりも基板10の中心から離れた領域から成膜を開始する。
【0043】
例えば、図3(a)に示すように、磁石301は、角度が-60度~+60度の範囲において回転移動する。ここで、角度-60度での位置が磁石301の回転移動の始点であり、角度+60度での位置が磁石301の回転移動の終点である。磁石301が始点に位置したときに、ロータリターゲット201に放電電力が投入される。放電電力の投入は、他のロータリターゲット202~210においても始点で投入される。すなわち、始点でプラズマが着火する。
【0044】
この回転角(120度)の範囲において、始点位置での角速度が略0.2deg./secであるのに対し、終点位置での角速度が120deg./secに設定される。例えば、始点位置から25度までの範囲の角速度が0.2deg./sec乃至0.2deg./sec付近であるのに対し、25度から終点位置までの範囲の角速度が120deg./secに設定される。
【0045】
磁石301については、その回転移動において、円弧上のA点よりも基板10の中心から離れた領域を移動する平均の角速度がA点よりも基板10の中心に近い領域を移動する平均の角速度より速くなるように回転移動させる。
【0046】
例えば、図3(a)に示されるように、磁石301が始点位置からA点の位置まで回転移動する範囲においては、角速度の平均値が低速度であるのに対して、磁石301がA点の位置から終点位置まで回転移動する範囲においては、角速度の平均値が高速度に設定される。
【0047】
また、図3(b)に示すように、磁石310については、角度が-60度~60度の範囲において回転移動する。ここで、角度-60度での位置が磁石310の回転移動の始点であり、角度+60度での位置が磁石310の回転移動の終点である。磁石310が始点に位置したときに、ロータリターゲット210に放電電力が投入される。
【0048】
この回転角(120度)の範囲において、磁石310が始点位置での角速度が120deg./secであるのに対し、磁石310が終点位置での角速度が略0.2deg./secに設定される。例えば、始点位置から-25度までの範囲の角速度が120deg./secであるのに対し、-25度から終点位置までの範囲の角速度が0.2deg./sec乃至0.2deg./sec付近に設定される。
【0049】
磁石310においては、その回転移動において、円弧上のA点よりも基板10の中心から離れた領域を移動する平均の角速度がA点よりも基板10の中心に近い領域を移動する平均の角速度より速くなるように回転移動させる。
【0050】
例えば、磁石310が始点位置からA点の位置まで回転移動する範囲においては、角速度の平均値が高速度であるのに対して、磁石310がA点の位置から終点位置まで回転移動する範囲においては、角速度の平均値が低速度に設定される。
【0051】
このように、ロータリターゲット201の磁石301における角度に対する角速度の変化(図3(a))と、ロータリターゲット210の磁石310における角度に対する角速度の変化(図3(b))とが磁石が回転移動する範囲(-60度~+60度)において対称になるように、磁石301、310のそれぞれの角速度が設定される。
【0052】
また、一対のロータリターゲット201、210において、ロータリターゲット201の磁石301と、ロータリターゲット210の磁石310とが同じ回転方向に回転移動する。回転の方向は、この例に限らず、磁石301、310が回転移動する方向が互いに逆でもよい。
【0053】
図4(a)、(b)は、磁石の角度に対する放電時間の割合の一例を示すグラフ図である。図4(a)には、磁石301の角度に対する放電時間の割合の一例が示され、図4(b)には、磁石310の角度に対する放電時間の割合の一例が示されている。
【0054】
ここで、放電時間の割合とは、所定の角度の位置における磁石の滞在時間の割合に相当する。すなわち、放電時間の割合が高いほど、その角度位置での磁石の移動時間が長いことを意味する。換言すれば、放電時間の割合とは、磁石と対向するターゲット面21付近に集中する放電プラズマの滞在時間の割合に相当し、放電時間の割合が高いほど、ターゲット面21からのスパッタリング粒子の放出量が多くなる。
【0055】
図4(a)に示すように、磁石301の回転移動によって、-60度から+25度までのいずれかの位置での放電時間割合が3%から10%の範囲であるのに対し、+25度から+60度までのいずれかの位置での放電時間割合は、略0%に制御される。
【0056】
これにより、ロータリターゲット201のターゲット面21付近には、磁石301が+25度から+60度の位置まで位置するときよりも、磁石301が-60度から+25度の位置まで位置するときのほうが長く放電プラズマが滞在する。この結果、ロータリターゲット201のターゲット面21から放出されるスパッタリング粒子は、基板10の端部12aより外側よりも、端部12aから基板10の内側に向かう領域に優先的に指向する。
【0057】
一方、図4(b)に示すように、磁石310の回転移動によって、-60度から-25度の位置までのいずれかの位置での放電時間割合が略0%であるのに対し、-25度から+60度までのいずれかの位置での放電時間割合は、3%から10%の範囲に制御される。
【0058】
これにより、ロータリターゲット210のターゲット面21付近には、磁石310が-60から-25度の位置まで位置するときよりも、磁石310が-25度から+60度の位置まで位置するときのほうが長く放電プラズマが滞在する。この結果、ロータリターゲット210のターゲット面21から放出されるスパッタリング粒子は、基板10の端部12bより外側よりも、端部12bから基板10の内側に向かう領域に優先的に指向する。
【0059】
なお、図3(a)、(b)及び図4(a)、(b)で示された例は、一例であり、磁石301、310のそれぞれが回転移動する回転角は、図3(a)、(b)及び図4(a)、(b)の例に限らない。
【0060】
例えば、一対のロータリターゲット201、210の磁石301、310は、20度から90度までの範囲のいずれかの角度での位置と、-20度から-90度までの範囲のいずれかの角度での位置との間において回転移動してもよい。
【0061】
例えば、ロータリターゲット201の磁石301の回転移動の始点が-20度から-90度までの範囲のいずれかの角度での位置であり、回転移動の終点が+20度から+90度までの範囲のいずれかの角度での位置である場合、ロータリターゲット210の磁石310の回転移動の始点は、-20度から-90度までの範囲のいずれかの角度での位置であり、回転移動の終点が+20度から+90度までの範囲のいずれかの角度での位置としてもよい。
【0062】
次に、残りのロータリターゲット202~209の磁石の回転動作の具体例について説明する。
【0063】
図5(a)は、磁石の角度に対する磁石の移動速度(角速度)の一例を示すグラフ図である。図5(b)は、磁石の角度に対する放電時間の割合の一例を示すグラフ図である。図5(a)には、磁石302~309の角度に対する磁石の移動速度の一例が示され、図5(b)には、磁石302~309の角度に対する放電時間の割合の一例が示されている。
【0064】
磁石302~309に対しては、磁石301、310の回転移動とは様相が異なるように回転移動の制御が行われる。磁石302~309においては、磁石302~309が回転移動する回転角の範囲において、回転移動の途中での角速度が最も速くなるように回転移動する。
【0065】
例えば、図5(a)に示すように、磁石302~309の角速度は、角度が0度(A点)付近において角速度が最も速くなっている。ここで、角度-60度での位置が磁石302~309の回転移動の始点であり、角度+60度での位置が磁石302~309の回転移動の終点である。また、磁石302~309における始点及び終点での角速度は、磁石301の終点の角速度及び磁石310の始点での角速度よりも低く設定される。磁石302~309のそれぞれが始点に位置したときに、ロータリターゲット202~209に放電電力が投入される。
【0066】
すなわち、磁石302~309においては、始点付近での角速度は比較的遅く、回転移動範囲の途中、例えば、0度(A点)で角速度が比較的高くなり、終点付近で再び角速度が比較的遅くなる制御がなされる。ロータリターゲット202~209のそれぞれの磁石は、例えば、同じ回転方向に回転移動する。
【0067】
これにより、図5(b)に示すように、ロータリターゲット202~209においては、角度が0度付近での放電時間割合が0%に近くなるのに対し、始点付近及び終点付近での放電時間割合が0度付近での放電時間割合に比べて高く制御される。
【0068】
これにより、ロータリターゲット202~209のターゲット面21付近には、磁石302~309のそれぞれの角度が0度付近に位置するときよりも、始点付近及び終点付近に位置するときのほうが長く放電プラズマが滞在する。この結果、ロータリターゲット202~209のターゲット面21から放出されるスパッタリング粒子は、始点から終点までの範囲において広角に指向する。
【0069】
この結果、基板10上では、ロータリターゲット202~209のそれぞれから放出されるスパッタリング粒子が重なり合うことになり、ロータリターゲット202~209が対向する基板10の中央部において、略均一な厚みの膜が形成される。
【0070】
なお、図5(a)、(b)で示された例は、一例であり、磁石302~309のそれぞれが回転移動する回転角は、図5(a)、(b)の例に限らない。
【0071】
例えば、ロータリターゲット201から数えて複数のロータリターゲット201~210の群の中心に向かってN番目のロータリターゲットの磁石と、ロータリターゲット210から数えて複数のロータリターゲット201~210の群の中心に向かってN番目のロータリターゲットの磁石とについては、それぞれの角度に対する角速度の変化が磁石が回転移動する範囲においてに対称となるように制御してもよい。
【0072】
例えば、ロータリターゲット202の磁石302と、ロータリターゲット209の磁石309とについては、それぞれの角度に対する角速度の変化が磁石が回転移動する範囲においてに対称となるように制御してもよい。ロータリターゲット203の磁石303と、ロータリターゲット208の磁石308とについては、それぞれの角度に対する角速度の変化が磁石が回転移動する範囲においてに対称となるように制御してもよい。ロータリターゲット204の磁石304と、ロータリターゲット207の磁石307とについては、それぞれの角度に対する角速度の変化が磁石が回転移動する範囲においてに対称となるように制御してもよい。ロータリターゲット205の磁石305と、ロータリターゲット206の磁石306とについては、それぞれの角度に対する角速度の変化が磁石が回転移動する範囲においてに対称となるように制御してもよい。
【0073】
このような対称な制御をすることにより、基板10の中央部においては、より均一な厚みの膜が形成される。
【0074】
なお、スパッタリング成膜中においては、マグネトロン放電の安定性を確保するために、隣り合うロータリターゲット間で磁石が接近または対向しないことが望ましい。このため、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれの磁石は、成膜中、同じ回転方向に回転移動することが望ましい。
【0075】
このような手法によれば、基板10の端部12a、12b付近に形成される膜の厚みが補正されて、基板10の中央部に形成される膜の厚みと、基板10の端部12a、12b付近に形成される膜の厚みとが略均一になるように調整される。
【0076】
図6は、本実施形態の成膜装置の一例を示す模式的平面図である。図6には、成膜装置400が上方から見た場合の平面図が模式的に描かれている。成膜装置400には、少なくとも3個以上のロータリターゲットが配置される。
【0077】
成膜装置400として、マグネトロンスパッタリング成膜装置が例示される。成膜装置400は、真空容器401と、複数のロータリターゲット201~210と、電源403と、基板ホルダ404と、圧力計405と、ガス供給系406と、ガス流量計407と、排気系408と、制御装置410とを具備する。基板ホルダ404には、基板10が支持されている。
【0078】
真空容器401は、排気系408によって減圧雰囲気を維持する。真空容器401は、複数のロータリターゲット201~210、基板ホルダ404、及び基板10等を収容する。真空容器401には、真空容器401内の圧力を計測する圧力計405が取り付けられる。また、真空容器401には、放電ガス(例えば、Ar、酸素)を供給するガス供給系406が取り付けられる。真空容器401内に供給されるガス流量は、ガス流量計407で調整される。
【0079】
複数のロータリターゲット201~210は、成膜装置400の成膜源である。例えば、複数のロータリターゲット201~210が真空容器401内に形成されるプラズマによってスパッタリングされると、スパッタリング粒子が複数のロータリターゲット201~210から基板10に向けて出射される。
【0080】
電源403は、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれに投入される放電電力を制御する。電源403は、DC電源でもよく、RF、VHF等の高周波電源でもよい。複数のロータリターゲット201~210に電源403から放電電力が供給されると、複数のロータリターゲット201~210のターゲット面21の近傍にプラズマが形成される。
【0081】
制御装置410は、電源403が出力する電力、ガス流量計407の開度等を制御する。圧力計405で計測された圧力は、制御装置410に送られる。
【0082】
制御装置410は、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれの磁石を中心軸20の周りに回転移動させながら、基板10にスパッタリング成膜を行う制御をする。例えば、制御装置410は、図1(a)~図5(b)を用いて説明された、磁石301~310の回転移動の制御、複数のロータリターゲット201~210のそれぞれへの電力供給を制御する。
【0083】
図7(a)は、比較例に係る基板面内の膜厚分布を示すグラフ図である。図7(b)は、本実施形態の成膜方法で成膜した場合の基板面内の膜厚分布の一例を示すグラフ図である。破線は、個々のロータリターゲット201~210から放出するスパッタリング粒子が基板10に堆積した場合の膜厚分布を示す。実線は、個々のロータリターゲット201~210によって形成された膜厚分布が合成された膜厚分布を示す。横軸の幅方向は、複数のロータリターゲット201~210が並設された方向に対応する。縦軸は、膜厚である。
【0084】
図7(a)に示す比較例では、個々のロータリターゲット201~210の磁石301~310の位置が0度に固定された場合の膜厚分布が示されている。この場合、個々のロータリターゲット201~210から放出するスパッタリング粒子の放出角度分布は、所謂、余弦則に則る。これにより、個々のロータリターゲット201~210による膜厚分布は、膜厚分布の中心線を基準に対称となった分布を示す(破線)。また、個々の膜厚分布は、同じ分布を示している。
【0085】
これらの個々の膜厚分布を重ねた膜厚分布(実線)は、山と谷とが顕著に表れ、膜厚の基板面内分布がばらつくことが分かる。
【0086】
これに対し、図7(b)に示す本実施形態では、ロータリターゲット201、210から放出するスパッタリング粒子の放出角度分布が比較例に比べて基板10の中心側に寄り、スパッタリング粒子の放出角度が基板10の中心側に指向する。これにより、ロータリターゲット201、210による膜厚分布は、膜厚分布の中心線を基準に非対称となり、基板10の中心側に分布が寄っている。また、ロータリターゲット201、210による膜厚分布のピークは、ロータリターゲット202~209による膜厚分布のピークよりも高い。
【0087】
さらに、ロータリターゲット201、210から放出するスパッタリング粒子の放出角度分布は、比較例に比べて広角に指向する。これにより、ロータリターゲット202~209による膜厚分布は、比較例に比べて基板10の両端に向かって広がった様相を示す。
【0088】
従って、これらの個々の膜厚分布を重ねた膜厚分布(実線)は、比較例に比べて平坦となり、膜厚の基板面内分布がより均一になることが分かる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0090】
10…基板
11…成膜面
12a、12b…端部
20…中心軸
21…ターゲット面
201~210…ロータリターゲット
301~310…磁石
400…成膜装置
401…真空容器
403…電源
404…基板ホルダ
405…圧力計
406…ガス供給系
407…ガス流量計
408…排気系
410…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7