(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】アレルギー性疾患の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/92 20060101AFI20231003BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231003BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231003BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231003BHJP
【FI】
G01N33/92 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N27/62 V
(21)【出願番号】P 2020504077
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2019009835
(87)【国際公開番号】W WO2019172457
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018043404
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】村田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】中村 達朗
(72)【発明者】
【氏名】橘 侑里
(72)【発明者】
【氏名】林 亜佳音
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-210554(JP,A)
【文献】特開2010-002416(JP,A)
【文献】稲垣真一郎ほか,小児アトピー性皮膚炎患者におけるプロスタグランジンD2(PGD2)尿中代謝産物測定の検討,日本小児アレルギー学会誌,2017年10月20日
【文献】椎大介、小田知子,アレルギー性結膜炎におけるPGD2の役割,アレルギーの臨床,2014年08月20日,Vol.461,PP.780-788
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を含んでなる、アレルギー性疾患、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出方法であって、前記脂質代謝物がPGD
2であり、かつ、前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎である、検出方法。
【請求項2】
前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、対象がアレルギー性疾患に罹患していること、あるいは対象の鼻腔または目において肥満細胞および/または好酸球が活性化していることが示される、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を含んでなる、アレルギー性疾患に対する治療効果
を判定
するための方法であって、前記脂質代謝物がPGD
2であり、かつ、前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎である、
方法。
【請求項4】
前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、治療前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性疾患に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に、治療効果があることが示される、請求項3に記載の
方法。
【請求項5】
前記アレルギー性鼻炎に対する治療が、薬物療法、免疫療法または外科手術療法である、請求項3または4に記載の
方法。
【請求項6】
前記アレルギー性鼻炎が、季節性アレルギー性鼻炎または通年性アレルギー性鼻炎である、請求項1または2に記載の検出方法または請求項3~5のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項7】
前記生体試料が、前記対象から非侵襲的に採取された体液である、請求項1、2または6に記載の検出方法または請求項3~6のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項8】
前記脂質代謝物が、PGE
2、12-HETE、15-HETE、12-HEPE、15-HEPE、14-HDoHE、8-HDoHE、13-HODE、8-isoPGE2、16-HDoHE、15-HEDE、15-OxoEDE、20-HETE、14,15-EET、13,14-dihydro-15-keto-PGD2、PGJ
2、LTB
4、9-HOTrE、13-HOTrE、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME、13-HpODE、18-HEPE、10-HDoHEおよび20-HDoHEからなる群から選択される1種または2種以上をさらに含む、請求項1、2、6および7のいずれか一項に記載の検出方法または請求項3~7のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項9】
前記脂質代謝物の濃度を質量分析法により測定する、請求項1、2および6~8のいずれか一項に記載の検出方法または請求項3~8のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項10】
アレルギー性疾患マーカー、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーとしての脂質代謝物の使用であって、前記脂質代謝物がPGD
2であり、かつ、前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎である、使用。
【請求項11】
前記アレルギー性鼻炎が、季節性アレルギー性鼻炎または通年性アレルギー性鼻炎である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記脂質代謝物が、PGE
2、12-HETE、15-HETE、12-HEPE、15-HEPE、14-HDoHE、8-HDoHE、13-HODE、8-isoPGE2、16-HDoHE、15-HEDE、15-OxoEDE、20-HETE、14,15-EET、13,14-dihydro-15-keto-PGD2、PGJ
2、LTB
4、9-HOTrE、13-HOTrE、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME、13-HpODE、18-HEPE、10-HDoHEおよび20-HDoHEからなる群から選択される1種または2種以上をさらに含む、請求項10または11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
アレルギー性疾患の治療薬の候補薬を対象に投与する工程と、前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程とを含んでなる、アレルギー性疾患の治療薬のスクリーニング方法であって、前記脂質代謝物がPGD
2であり、前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎であり、かつ、前記対象がヒトを除く哺乳動物である、スクリーニング方法。
【請求項14】
候補薬投与後の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、候補薬投与前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性疾患に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に、前記治療薬に治療効果があることが示される、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2018-43403(出願日:2018年3月9日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、アレルギー性疾患の検出方法に関する。本発明はまた、鼻腔または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出方法およびアレルギー性疾患に対する治療効果の判定方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アレルギー性疾患のうちアレルギー性鼻炎の患者は世界中で年々増加しており、日本では国民の4割以上が罹患している(厚生労働省2016)。アレルギー性鼻炎は花粉やハウスダスト等の抗原を体内へ取り込むことで引き起こされ、くしゃみや鼻漏、鼻閉等の症状を呈する。これらの症状によって引き起こされる全身倦怠感、睡眠障害は、アレルギー性鼻炎患者のQOLを著しく低下させる。
【0004】
アレルギー性鼻炎の診断方法として、血中IgE濃度の測定、皮内テスト、スクラッチテストおよび鼻汁中好酸球数測定等が行われている。しかし、これらの診断法は、病態進行(症状)との相関がない場合があること、侵襲性があること、上気道炎(風邪)および喘息などの病気との鑑別が難しいといった問題を含んでいる(非特許文献1)。このような背景のもと、抗原による反応誘発検査がアレルギー性鼻炎の確定診断として行われているが、患者への負担が大きく、また、診断を行うことができる病院も限られているという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chawes, B. L. K. Upper and lower airway pathology in young children with allergic- and non-allergic rhinitis. Danish Medical Journal 1-23 (2011).
【発明の概要】
【0006】
本発明は、アレルギー性疾患を検出する新規な方法を提供することを目的とする。本発明はまた、鼻腔または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の新規な検出方法と、アレルギー性疾患に対する治療効果の新規な判定方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは今般、鼻腔内において肥満細胞や好酸球の活性化が認められたアレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻腔分泌液中にアレルギー性鼻炎特異的な脂質代謝物の排泄を確認した。本発明者らはまた、鼻腔分泌液中の特定の脂質代謝物濃度を指標にすることにより、アレルギー性鼻炎と、鼻腔内における肥満細胞および好酸球の活性化状態を検出できることを見出した。本発明者らはさらに、肥満細胞や好酸球の活性化が認められたアレルギー性結膜炎モデルモルモットの目から分泌された涙液中にアレルギー性結膜炎特異的な脂質代謝物の排泄を確認した。本発明者らはさらにまた、目からの分泌液中の特定の脂質代謝物濃度を指標にすることにより、アレルギー性結膜炎と、目における肥満細胞および好酸球の活性化状態を検出できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を含んでなる、アレルギー性疾患、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出方法。
[2]前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、対象がアレルギー性疾患に罹患していること、あるいは対象の鼻腔または目において肥満細胞および/または好酸球が活性化していることが示される、上記[1]に記載の検出方法。
[3]対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を含んでなる、アレルギー性疾患に対する治療効果の判定方法。
[4]前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、治療前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性疾患に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に、治療効果があることが示される、上記[3]に記載の判定方法。
[5]前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎またはアレルギー性結膜炎である、上記[1]または[2]に記載の検出方法または上記[3]または[4]に記載の判定方法。
[6]前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎であり、アレルギー性鼻炎に対する治療が、薬物療法、免疫療法または外科手術療法である、上記[3]~[5]のいずれかに記載の判定方法。
[7]前記アレルギー性鼻炎が、季節性アレルギー性鼻炎または通年性アレルギー性鼻炎である、上記[5]に記載の検出方法または上記[5]または[6]に記載の判定方法。
[8]前記生体試料が、前記対象から非侵襲的に採取された体液である、上記[1]、[2]、[5]または[7]に記載の検出方法または上記[3]~[7]のいずれかに記載の判定方法。
[9]前記脂質代謝物が、アラキドン酸代謝物、エイコサペンタエン酸代謝物、ドコサヘキサエン酸代謝物、リノレン酸代謝物およびエイコサジエン酸代謝物からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]、[2]、[5]、[7]または[8]のいずれかに記載の検出方法または上記[3]~[8]のいずれかに記載の判定方法。
[10]前記脂質代謝物が、PGD2、PGE2、12-HETE、15-HETE、12-HEPE、15-HEPE、14-HDoHE、8-HDoHE、13-HODE、8-isoPGE2、16-HDoHE、15-HEDE、15-OxoEDE、20-HETE、14,15-EET、13,14-dihydro-15-keto-PGD2、PGJ2、LTB4、9-HOTrE、13-HOTrE、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME、13-HpODE、18-HEPE、10-HDoHEおよび20-HDoHEからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]、[2]、[5]および[7]~[9]のいずれかに記載の検出方法または上記[3]~[9]のいずれかに記載の判定方法。
[11]前記脂質代謝物の濃度を質量分析法により測定する、上記[1]、[2]、[5]および[7]~[10]のいずれかに記載の検出方法または上記[3]~[10]のいずれかに記載の判定方法。
[12]アレルギー性疾患マーカー、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーとしての脂質代謝物の使用。
[13]前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎またはアレルギー性結膜炎である、上記[12]に記載の使用。
[14]前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎であり、前記アレルギー性鼻炎が、季節性アレルギー性鼻炎または通年性アレルギー性鼻炎である、上記[12]または[13]に記載の使用。
[15]前記脂質代謝物が、アラキドン酸代謝物、エイコサペンタエン酸代謝物、ドコサヘキサエン酸代謝物、リノレン酸代謝物およびエイコサジエン酸代謝物からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[12]~[14]のいずれかに記載の使用。
[16]前記脂質代謝物が、PGD2、PGE2、12-HETE、15-HETE、12-HEPE、15-HEPE、14-HDoHE、8-HDoHE、13-HODE、8-isoPGE2、16-HDoHE、15-HEDE、15-OxoEDE、20-HETE、14,15-EET、13,14-dihydro-15-keto-PGD2、PGJ2、LTB4、9-HOTrE、13-HOTrE、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME、13-HpODE、18-HEPE、10-HDoHEおよび20-HDoHEからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[12]~[15]のいずれかに記載の使用。
[17]アレルギー性疾患の治療薬の候補薬を対象に投与する工程と、前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程とを含んでなる、アレルギー性疾患の治療薬のスクリーニング方法。
[18]候補薬投与後の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、候補薬投与前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性疾患に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に、前記治療薬に治療効果があることが示される、上記[17]に記載のスクリーニング方法。
[19]生体試料中の脂質代謝物においてアレルギー性疾患マーカー、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーを同定する方法であって、アレルギー性疾患に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度と、健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、前記の測定した2つの濃度を比較する工程を含む方法。
[20]アレルギー性疾患に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、当該脂質代謝物がアレルギー性疾患マーカー、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーであることが示される、上記[19]に記載の同定方法。
[21]前記アレルギー性疾患がアレルギー性鼻炎またはアレルギー性結膜炎である、上記[17]または[18]に記載のスクリーニング方法または上記[19]または[20]に記載のマーカーの同定方法。
【0009】
本発明によれば、アレルギー性疾患やアレルギー性疾患に対する治療効果を、簡便かつ的確に検出できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、未感作群およびOVA投与によって感作したOVA感作群の血清中のオボアルブミン特異的IgE量を示すグラフである。*はP<0.05を示す。
【
図2】
図2は、溶媒またはOVA投与後10分間における、くしゃみ回数の推移を示すグラフである。**はP<0.01vs溶媒投与群を示す。
【
図3】
図3は、溶媒投与群またはLPSを投与した上気道炎モデル群(LPS投与群)におけるくしゃみ回数の推移を示すグラフである。**はP<0.01vs溶媒1回投与群を示す。
【
図4】
図4は、溶媒またはOVAの投与前、投与5回目から24時間後および投与10回目から24時間後の鼻腔体積の変化を示すグラフである。*はP<0.05を示す。
【
図5】
図5は、鼻の断面のHE染色像の典型例を示す。右拡大図は、鼻甲介を示す。
【
図6】
図6は、OVA投与によるアレルギー性鼻炎モデルマウス、LPS投与による上気道炎モデルマウスおよび対照群における鼻甲介(鼻腔)に浸潤した粘膜型肥満細胞数の定量結果を示すグラフである。**はP<0.01vs溶媒10回投与群を示す。
【
図7】
図7は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群における鼻甲介に浸潤した結合織型肥満細胞数の定量結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群における鼻甲介に浸潤した好酸球数の定量結果を示すグラフである。**はP<0.01vs溶媒10回投与群を示し、#はP<0.01vs溶媒5回投与群を示し、$はP<0.01vsLPS投与群を示す。
【
図9】
図9は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群における鼻甲介に浸潤した好中球数の定量結果を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒1回投与群を示す。
【
図10】
図10は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出されたCOX下流(AA由来)の脂質メディエーター(A:PGD
2、B:PGE
2)の相対値を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒10回投与群を示し、#はP<0.05vs溶媒5回投与群またはP<0.05vsLPS投与群を示す。
【
図11】
図11は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出された12/15-LOX下流(AA由来)の脂質メディエーター(A:12-HETE、B:15-HETE)の相対値を示すグラフである。**はP<0.01vs溶媒10回投与群を示す。*はP<0.05vs溶媒5回または10回投与群を示す。
【
図12】
図12は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出された12/15-LOX下流(EPA由来)の脂質メディエーター(A:12-HEPE、B:15-HEPE)の相対値を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒5回または10回投与群を示す。
【
図13】
図13は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出された12/15-LOX下流(DHA由来)の脂質メディエーター(A:14-HDoHE)および5-LOX下流(DHA由来)の脂質メディエーター(B:8-HDoHE)の相対値を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒5回投与群を示す。**はP<0.01vs溶媒10回投与群を示す。
【
図14】
図14は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出された12/15-LOX下流(LA由来)の脂質メディエーター(13-HODE)の相対値を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒1回投与群を示し、#はP<0.05vsLPS投与群を示す。
【
図15】
図15は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出されたOX下(AA由来)の脂質メディエーター(8-isoPGE
2)の相対値を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒10回投与群を示す。
【
図16】
図16は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出されたOX下(DHA由来)の脂質メディエーター(16-HDoHE)の相対値を示すグラフである。
【
図17】
図17は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出されたOX下(EDA由来)の脂質メディエーター(A:15-HEDE)および15-HEDEの代謝物(B:15-OxoEDE)の相対値を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒10回投与群を示す。
【
図18】
図18は、アレルギー性鼻炎モデルマウス、上気道炎モデルマウスおよび対照群の鼻腔洗浄液中に検出されたCYP下流(AA由来)の脂質メディエーター(A:20-HETE、B:14,15-EET)の相対値を示すグラフである。*はP<0.05vs溶媒10回投与群を示す。
【
図19】
図19は、アレルギー性鼻炎モデルマウスおよび対照群の尿中に検出されたCOX下(AA由来)の脂質メディエーター(PGD
2)の相対値を示すグラフである。
【
図20】
図20は、アレルギー性鼻炎モデルマウスおよび対照群の尿中に検出された12/15-LOX下(AA由来)の脂質メディエーター(12-HETE)の相対値を示すグラフである。
【
図21】
図21は、アレルギー性鼻炎モデルマウスおよび対照群の尿中に検出された12/15-LOX下(EPA由来)の脂質メディエーター(12-HEPE)の相対値を示すグラフである。
【
図22】
図22は、未感作モルモット、アレルギー性結膜炎モデルモルモットおよび感染性結膜炎モデルモルモットの結膜の腫れについて示す図である。
【
図23】
図23は、溶媒投与群、アレルギー性結膜炎モデルモルモットおよび感染性結膜炎モデルモルモットの結膜を示す図である。
【
図24】
図24は、溶媒投与群、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の結膜の血管透過性、水分量および厚みを示すグラフである。
【
図25】
図25は、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の結膜の断面のHE染色像およびGiemsa染色像の典型例を示す。
【
図26】
図26は、未感作群、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の涙および結膜嚢洗浄液中に検出された脂質メディエーター(PGD
2、13,14-dihydro-15-keto-PGD2、PGJ
2)の相対値を示すグラフである。13,14-dihydro-15-keto-PGD2は、9α-ヒドロキシ-11,15-ジオキソ-プロスト-5Z-エン-1-酸(9α-hydroxy-11,15-dioxo-prost-5Z-en-1-oic acid)である。PGJ
2は、11-オキソ-15S-ヒドロキシ-プロスタ-5Z,9,13E-トリエン-1-酸(11-oxo-15S-hydroxy-prosta-5Z,9,13E-trien-1-oic acid)である。
【
図27】
図27は、未感作群、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の涙および結膜嚢洗浄液中に検出された脂質メディエーター(PGE
2、8-iso-PGE
2、12-KETE)の相対値を示すグラフである。PGE
2は、9-oxo-11α,15S-dihydroxy-prosta-5Z,13E-dien-1-oic acid(9-オキソ-11α,15S-ジヒドロキシ-プロスタ-5Z,13E-ジエン-1-酸)である。8-iso-PGE
2は、9-oxo-11α,15S-dihydroxy-(8β)-prosta-5Z,13E-dien-1-oic acid(9-オキソ-11α,15S-ジヒドロキシ-(8β)-プロスタ-5Z,13E-ジエン-1-酸)である。12-KETEは、12-オキソ-5Z,8Z,10E,14Z-エイコサテトラエン酸(12-oxo-5Z,8Z,10E,14Z-eicosatetraenoic acid)である。
【
図28】
図28は、未感作群、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の涙および結膜嚢洗浄液中に検出された脂質メディエーター(LTB
4、20-HETE、15-HETE、12-HETE)の相対値を示すグラフである。LTB
4は、5S,12R-ジヒドロキシ-6Z,8E,10E,14Z-エイコサテトラエン酸(5S,12R-dihydroxy-6Z,8E,10E,14Z-eicosatetraenoic acid)である。
【
図29】
図29は、未感作群、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の涙および結膜嚢洗浄液中に検出された脂質メディエーター(9-HOTrE、13-HOTrE、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME)の相対値を示すグラフである。9-HOTrEは、9S-ヒドロキシ-10E,12Z,15Z-オクタデカトリエン酸(9S-hydroxy-10E,12Z,15Z-octadecatrienoic acid)である。13-HOTrEは、13S-ヒドロキシ-9Z,11E,15Z-オクタデカトリエン(13S-hydroxy-9Z,11E,15Z-octadecatrienoic acid)である。9,10-DiHOMEは、(±)9,10-ジヒドロキシ-12Z-オクタデセン酸((±)9,10-dihydroxy-12Z-octadecenoic acid)である。12,13-DiHOMEは、(±)12,13-ジヒドロキシ-9Z-オクタデセン酸((±)12,13-dihydroxy-9Z-octadecenoic acid)である。
【
図30】
図30は、未感作群、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の涙および結膜嚢洗浄液中に検出された脂質メディエーター(13-HpODE、18-HEPE、12-HEPE)の相対値を示すグラフである。13-HpODEは、(±)13-ヒドロペルオキシ-9Z,11E-オクタデカジエン酸((±)13-hydroperoxy-9Z,11E-octadecadienoic acid)である。18-HEPEは、(±)-18-ヒドロキシ-5Z,8Z,11Z,14Z,16E-エイコサペンタエン酸((±)-18-hydroxy-5Z,8Z,11Z,14Z,16E-eicosapentaenoic acid)である。
【
図31】
図31は、未感作群、アレルギー性結膜炎群および感染性結膜炎群の涙および結膜嚢洗浄液中に検出された脂質メディエーター(8-HDoHE、10-HDoHE、16-HDoHE、20-HDoHE)の相対値を示すグラフである。10-HDoHEは、(±)10-ヒドロキシ-4Z,7Z,11E,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸((±)10-hydroxy-4Z,7Z,11E,13Z,16Z,19Z-docosahexaenoic acid)である。20-HDoHEは、(±)20-ヒドロキシ-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,18E-ドコサヘキサエン酸((±)20-hydroxy-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,18E-docosahexaenoic acid)である。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明において「脂質代謝物」とは、生体において酵素依存的酸化または酵素非依存的酸化(本明細書中「OX」ということがある)による分解で生じた脂質の分解物を意味し、炎症反応を制御する生理作用を持った脂質メディエーターを包含する。酵素依存的酸化は、生体内に存在する脂質代謝酵素により進行する。当該酵素としては、アレルギー性鼻炎の発症および進展に関連する脂質代謝酵素(好ましくはアレルギー性鼻炎の発症および進展により活性化される脂質代謝酵素)が挙げられ、例えば、シクロオキシゲナーゼ(本明細書中「COX」ということがある)、リポキシゲナーゼ(本明細書中「LOX」ということがある)(例えば、12/15LOX、5-LOX)、酵素非依存的酸化、シトクロムp450(本明細書中「CYP」ということがある)が挙げられる。また、酵素依存的酸化または酵素非依存的酸化により分解される脂質の例としては、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノレン酸およびエイコサジエン酸が挙げられる。
【0012】
本発明において脂質代謝物の例としては、アラキドン酸代謝物、エイコサペンタエン酸代謝物、ドコサヘキサエン酸代謝物、リノレン酸代謝物およびエイコサジエン酸代謝物が挙げられる。脂質代謝物の好ましい例としては、アラキドン酸のCOX代謝物(例えば、PGD2およびPGE2)、アラキドン酸のLOX代謝物(例えば、12-HETEおよび15-HETEのようなアラキドン酸の12/15LOX代謝物)、アラキドン酸のOX代謝物(例えば、8-isoPGE2)、アラキドン酸のCYP代謝物(例えば、20-HETEおよび14,15-EET)、エイコサペンタエン酸のLOX代謝物(例えば、12-HEPEおよび15-HEPEのようなエイコサペンタエン酸の12/15LOX代謝物)、ドコサヘキサエン酸のLOX代謝物(例えば、14-HDoHEのようなドコサヘキサエン酸の12/15LOX代謝物、8-HDoHEのようなドコサヘキサエン酸の5-LOX代謝物)、ドコサヘキサエン酸のOX代謝物(例えば、16-HDoHE)、リノレン酸のLOX代謝物(例えば、13-HODEのようなリノレン酸の12/15LOX代謝物)およびエイコサジエン酸のOX代謝物(例えば、15-HEDEおよび15-OxoEDE)が挙げられる。
【0013】
本発明においてアレルギー性鼻炎の検出、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出、アレルギー性鼻炎に対する治療効果の判定、アレルギー性鼻炎マーカー、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカー等に有用な脂質代謝物は、PGD2、PGE2、12-HETE、15-HETE、12-HEPE、15-HEPE、14-HDoHE、8-HDoHE、13-HODE、8-isoPGE2、16-HDoHE、15-HEDE、15-OxoEDE、20-HETEおよび14,15-EETである。
【0014】
本発明においてアレルギー性結膜炎の検出、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出、アレルギー性結膜炎に対する治療効果の判定、アレルギー性結膜炎マーカー、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカー等に有用な脂質代謝物は、PGD2、13,14-dihydro-15-keto-PGD2、PGJ2、LTB4、20-HETE、15-HETE、12-HETE、9-HOTrE、13-HOTrE、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME、13-HpODE、18-HEPE、12-HEPE、8-HDoHE、10-HDoHE、16-HDoHEおよび20-HDoHEである。
【0015】
本発明において「アレルギー性疾患」はアレルギー性反応を伴う疾患であり、例えば、アレルギー性鼻炎およびアレルギー性結膜炎が挙げられる。
【0016】
本発明において「アレルギー性鼻炎」は、抗原刺激により発症する鼻炎を意味し、季節性アレルギー性鼻炎および通年性アレルギー性鼻炎が含まれる。季節性アレルギー性鼻炎は、花粉症とも呼ばれ、スギ、ヒノキ、イネ、シラカンバ、ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ等の花粉により引き起こされるアレルギー性鼻炎である。通年性アレルギー性鼻炎は、ハウスダスト、ダニ、カビ、ペットの毛等のアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性鼻炎である。
【0017】
本発明において「アレルギー性結膜炎」は、抗原刺激により発症する結膜炎を意味し、季節性アレルギー性結膜炎および通年性アレルギー性結膜炎が含まれる。季節性アレルギー性結膜炎は、スギ、ヒノキ、イネ、シラカンバ、ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ等の花粉により引き起こされるアレルギー性疾患である。通年性アレルギー性結膜炎は、ハウスダスト、ダニ、カビ、ペットの毛等のアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性疾患である。
【0018】
本発明において「生体試料」は、生体から分離された試料を意味し、好ましくは生体から非侵襲的に採取された体液(例えば、鼻腔分泌液、口腔洗浄液、涙液などの目からの分泌液および尿)である。
【0019】
本発明における「対象」は、ヒトのみならず、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ)を含む意味で用いられる。
【0020】
本発明の第一の側面によれば、アレルギー性疾患の検出方法と、鼻腔または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出方法が提供される。本発明の検出方法によれば、生体試料中の脂質代謝物を指標にしてアレルギー性疾患と、鼻腔または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態(特に、鼻腔または目における肥満細胞の活性化状態)を検出することができる。
【0021】
本発明の第一の側面の好ましい態様によれば、アレルギー性鼻炎の検出方法と、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出方法が提供される。本発明の検出方法によれば、生体試料中の脂質代謝物を指標にしてアレルギー性鼻炎と、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態(特に、鼻腔における肥満細胞の活性化状態)を検出することができる。
【0022】
本発明の検出方法においては、まず、(A)被験対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を実施する。脂質代謝物の濃度の測定は、公知の方法により実施することができ、例えば、質量分析法や、ELISA法およびイムノクロマト法等のイムノアッセイにより脂質代謝物の濃度を測定することができる。質量分析法の例としては、液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリー法(LC-MS)、液体クロマトグラフィー-タンデムマススペクトロメトリー法(LC-MSMS)、高速液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリー法(HPLC-MS)および高速液体クロマトグラフィー-タンデムマススペクトロメトリー法(HPLC-MSMS)が挙げられる。イムノアッセイは、検出可能に標識した抗脂質代謝物抗体、または検出可能に標識した、抗脂質代謝物抗体に対する抗体(二次抗体)を用いる分析法である。抗体の標識法により、エンザイムイムノアッセイ(EIAまたはELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)等に分類され、これらのいずれも本発明に用いることができる。構造が類似した脂質代謝物の濃度を正確に測定する観点から、質量分析法(特に、LC-MSMSおよびHPLC-MSMS)による測定が好ましい。
【0023】
本発明の検出方法においては、前記工程(A)で測定された脂質代謝物の濃度に基づいて、生体試料を採取した対象についてアレルギー性鼻炎の有無、または鼻腔における肥満細胞および好酸球のいずれかまたは両方の活性化状態を決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、対象がアレルギー性鼻炎に罹患していること、あるいは対象の鼻腔において肥満細胞および/または好酸球が活性化していることが示される。すなわち、本発明の検出方法は、(B1)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、対象がアレルギー性鼻炎に罹患していると、あるいは対象の鼻腔において肥満細胞および/または好酸球が活性化していると決定する工程をさらに含んでいてもよい。健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度は、事前に複数の健常な対象から生体試料を採取して脂質代謝物濃度を測定して算出した平均値を用いることができる。また、「アレルギー性鼻炎に罹患している」とは、罹患している可能性がある場合も含む意味で用いられるものとし、「鼻腔において肥満細胞および/または好酸球が活性化している」とは、これらの細胞がヒスタミン等のアレルギー誘発物質を放出し、アレルギー反応を惹起している状態を意味し、肥満細胞数と好酸球数の増加とそれによるアレルギー反応の増加を含む意味で用いられるものとする。なお、本発明において「健常な対象」は、アレルギー性鼻炎を発症していない対象であればよく、例えば、アレルギー性鼻炎がスギ花粉に起因する季節性アレルギー性鼻炎である場合には、スギ花粉が飛散する前の対象を「健常な対象」とすることができる。
【0024】
本発明の検出方法によれば、対象についてアレルギー性鼻炎を検出することができる。従って、本発明の検出方法は、アレルギー性鼻炎の診断に補助的に用いることができ、対象がアレルギー性鼻炎に罹っているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師または獣医師が行うことができる。
【0025】
本発明の検出方法によれば、被験対象から非侵襲的に採取された生体試料に基づいてアレルギー性鼻炎や、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出を行うことができる。すなわち、本発明の検出方法は、患者への負担を軽減しつつ、簡便かつ的確にアレルギー性鼻炎や、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態を検出できる点で有利である。
【0026】
本発明の第一の側面の好ましい態様によればまた、アレルギー性結膜炎の検出方法と、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出方法が提供される。本発明の検出方法によれば、生体試料中の脂質代謝物を指標にしてアレルギー性結膜炎と、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態(特に、目における肥満細胞の活性化状態)を検出することができる。
【0027】
本発明の検出方法においては、まず、(A)被験対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を実施する。脂質代謝物の濃度の測定は、前記のように公知の方法により実施することができる。
【0028】
本発明の検出方法においては、前記工程(A)で測定された脂質代謝物の濃度に基づいて、生体試料を採取した対象についてアレルギー性結膜炎の有無、または目における肥満細胞および好酸球のいずれかまたは両方の活性化状態を決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、対象がアレルギー性結膜炎に罹患していること、あるいは対象の目において肥満細胞および/または好酸球が活性化していることが示される。すなわち、本発明の検出方法は、(B2)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、対象がアレルギー性結膜炎に罹患していると、あるいは対象の目において肥満細胞および/または好酸球が活性化していると決定する工程をさらに含んでいてもよい。健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度は、事前に複数の健常な対象から生体試料を採取して脂質代謝物濃度を測定して算出した平均値を用いることができる。また、「アレルギー性結膜炎に罹患している」とは、罹患している可能性がある場合も含む意味で用いられるものとし、「目において肥満細胞および/または好酸球が活性化している」とは、これらの細胞がヒスタミン等のアレルギー誘発物質を放出し、アレルギー反応を惹起している状態を意味し、肥満細胞数と好酸球数の増加とそれによるアレルギー反応の増加を含む意味で用いられるものとする。なお、本発明において「健常な対象」は、アレルギー性結膜炎を発症していない対象であればよく、例えば、アレルギー性結膜炎がスギ花粉に起因する季節性アレルギー性結膜炎である場合には、スギ花粉が飛散する前の対象を「健常な対象」とすることができる。
【0029】
本発明の検出方法によれば、対象についてアレルギー性結膜炎を検出することができる。従って、本発明の検出方法は、アレルギー性結膜炎の診断に補助的に用いることができ、対象がアレルギー性結膜炎に罹っているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師または獣医師が行うことができる。
【0030】
本発明の検出方法によれば、被験対象から非侵襲的に採取された生体試料に基づいてアレルギー性結膜炎や、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出を行うことができる。すなわち、本発明の検出方法は、患者への負担を軽減しつつ、簡便かつ的確にアレルギー性結膜炎や、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態を検出できる点で有利である。
【0031】
本発明の第二の側面によれば、アレルギー性疾患に対する治療効果の判定方法が提供される。本発明の判定方法によれば、生体試料中の脂質代謝物を指標にしてアレルギー性疾患に対する治療効果を判定することができる。
【0032】
本発明の第二の側面の好ましい態様によれば、アレルギー性鼻炎に対する治療効果の判定方法が提供される。本発明の判定方法によれば、生体試料中の脂質代謝物を指標にしてアレルギー性鼻炎に対する治療効果を判定することができる。
【0033】
本発明の判定方法においては、本発明の検出方法と同様に、(C)被験対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を実施する。脂質代謝物の濃度の測定は、本発明の検出方法と同様に行うことができる。
【0034】
本発明の判定方法においては、前記工程(C)で測定された脂質代謝物の濃度に基づいて、治療を受けた対象についてアレルギー性鼻炎に対する治療効果を決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、アレルギー性鼻炎に対する治療を受けた対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、治療前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性鼻炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、治療効果があることが示される。すなわち、本発明の判定方法は、(D1)アレルギー性鼻炎に対する治療を受けた対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、治療前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性鼻炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、治療効果があると決定する工程をさらに含んでいてもよい。治療前の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度は、治療前に対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定して得た値を用いることができる。健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度は、事前に複数の健常な対象から生体試料を採取して脂質代謝物濃度を測定して算出した平均値を用いることができる。なお、本発明の判定方法において治療を受ける対象は、好ましくはアレルギー性鼻炎に罹った対象である。また、本発明において「アレルギー性鼻炎に罹った対象」は、他の検査方法の結果がアレルギー性鼻炎を示している対象であればよく、好ましくは医師または獣医師によりアレルギー性鼻炎を発症しているとの診断を受けた対象とすることができる。
【0035】
本発明の判定方法によって治療効果を判定できるアレルギー性鼻炎に対する治療としては、例えば、薬物療法、免疫療法および外科手術療法が挙げられる。薬物療法としては、アレルギー性鼻炎の治療薬による治療が挙げられ、そのような治療薬の例としては、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬およびトロンボキサンA2阻害薬が挙げられる。免疫療法としては、アレルゲンの投与が挙げられ、そのようなアレルゲンの例としては、スギ花粉等の花粉が挙げられ、投与形式の例としては、舌下投与、皮下投与、経リンパ節投与が挙げられる。
【0036】
本発明の判定方法によれば、アレルギー性鼻炎に対する治療を受けた対象において、当該治療効果を判定することができるため、対象に対して行ったアレルギー性鼻炎に対する治療の有効性を検証することができる。そして、治療効果が認められない場合には直ちにその治療を中止し、別の治療計画を立てることができる。従って、本発明の判定方法は、無駄な投薬を抑制することができ、ひいては医療費削減や患者負担軽減に資することができる点で有利である。
【0037】
本発明の第二の側面の好ましい態様によればまた、アレルギー性結膜炎に対する治療効果の判定方法が提供される。本発明の判定方法によれば、生体試料中の脂質代謝物を指標にしてアレルギー性結膜炎に対する治療効果を判定することができる。
【0038】
本発明の判定方法においては、本発明の検出方法と同様に、(C)被験対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を実施する。脂質代謝物の濃度の測定は、本発明の検出方法と同様に行うことができる。
【0039】
本発明の判定方法においては、前記工程(C)で測定された脂質代謝物の濃度に基づいて、治療を受けた対象についてアレルギー性結膜炎に対する治療効果を決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、アレルギー性結膜炎に対する治療を受けた対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、治療前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性結膜炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、治療効果があることが示される。すなわち、本発明の判定方法は、(D2)アレルギー性結膜炎に対する治療を受けた対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、治療前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性結膜炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、治療効果があると決定する工程をさらに含んでいてもよい。治療前の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度は、治療前に対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定して得た値を用いることができる。健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度は、事前に複数の健常な対象から生体試料を採取して脂質代謝物濃度を測定して算出した平均値を用いることができる。なお、本発明の判定方法において治療を受ける対象は、好ましくはアレルギー性結膜炎に罹った対象である。また、本発明において「アレルギー性結膜炎に罹った対象」は、他の検査方法の結果がアレルギー性結膜炎を示している対象であればよく、好ましくは医師または獣医師によりアレルギー性結膜炎を発症しているとの診断を受けた対象とすることができる。
【0040】
本発明の判定方法によって治療効果を判定できるアレルギー性結膜炎に対する治療としては、例えば、薬物療法、免疫療法および外科手術療法が挙げられる。薬物療法としては、アレルギー性結膜炎の治療薬による治療が挙げられ、そのような治療薬の例としては、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬およびトロンボキサンA2阻害薬が挙げられる。免疫療法としては、アレルゲンの投与が挙げられ、そのようなアレルゲンの例としては、スギ花粉等の花粉が挙げられ、投与形式の例としては、舌下投与、皮下投与、経リンパ節投与が挙げられる。
【0041】
本発明の判定方法によれば、アレルギー性結膜炎に対する治療を受けた対象において、当該治療効果を判定することができるため、対象に対して行ったアレルギー性結膜炎に対する治療の有効性を検証することができる。そして、治療効果が認められない場合には直ちにその治療を中止し、別の治療計画を立てることができる。従って、本発明の判定方法は、無駄な投薬を抑制することができ、ひいては医療費削減や患者負担軽減に資することができる点で有利である。
【0042】
本発明の第三の側面によれば、アレルギー性疾患マーカーとしての脂質代謝物の使用が提供される。本発明において「アレルギー性疾患マーカー」は、その存在および量がアレルギー性疾患の発症の有無やその症状の重篤度の指標となる物質をいう。すなわち、本発明によれば、脂質代謝物をアレルギー性疾患の疾患識別マーカーとして使用し、他の類症疾患との鑑別に使用することができるとともに、脂質代謝物をアレルギー性疾患の重篤度の評価に使用することができる。
【0043】
本発明の第三の側面の好ましい態様によれば、アレルギー性鼻炎マーカーとしての脂質代謝物の使用が提供される。本発明において「アレルギー性鼻炎マーカー」は、その存在および量がアレルギー性鼻炎の発症の有無やその症状の重篤度の指標となる物質をいう。すなわち、本発明によれば、脂質代謝物をアレルギー性鼻炎の疾患識別マーカーとして使用し、他の類症疾患(例えば、上気道炎および喘息)との鑑別に使用することができるとともに、脂質代謝物をアレルギー性鼻炎の重篤度の評価に使用することができる。
【0044】
本発明の第三の側面によればまた、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーとしての脂質代謝物の使用が提供される。本発明において「鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカー」は、その存在および量が鼻腔における肥満細胞の活性化の有無やその活性化の程度の指標となる物質をいう。すなわち、本発明によれば、脂質代謝物を鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーとして使用し、鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化の有無やその活性化の程度に加えて、鼻腔内のアレルギー反応の程度の検査に使用することができる。本発明の使用は、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0045】
本発明の第三の側面の好ましい態様によればまた、アレルギー性結膜炎マーカーとしての脂質代謝物の使用が提供される。本発明において「アレルギー性結膜炎マーカー」は、その存在および量がアレルギー性結膜炎の発症の有無やその症状の重篤度の指標となる物質をいう。すなわち、本発明によれば、脂質代謝物をアレルギー性結膜炎の疾患識別マーカーとして使用し、他の類症疾患(例えば、感染性結膜炎)との鑑別に使用することができるとともに、脂質代謝物をアレルギー性結膜炎の重篤度の評価に使用することができる。
【0046】
本発明の第三の側面によればまた、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーとしての脂質代謝物の使用が提供される。本発明において「目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカー」は、その存在および量が目における肥満細胞の活性化の有無やその活性化の程度の指標となる物質をいう。すなわち、本発明によれば、脂質代謝物を目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーとして使用し、目における肥満細胞および/または好酸球の活性化の有無やその活性化の程度に加えて、目内のアレルギー反応の程度の検査に使用することができる。本発明の使用は、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0047】
本発明の判定方法は、アレルギー性疾患の治療薬の有効性の判定に用いることができるため、アレルギー性疾患の治療薬のスクリーニングにも使用することができる。例えば、本発明の判定方法は、アレルギー性鼻炎の治療薬の有効性の判定に用いることができるため、アレルギー性鼻炎の治療薬のスクリーニングに使用することができる。すなわち、本発明の第四の側面によれば、(E1)アレルギー性鼻炎の治療薬の候補薬を対象に投与する工程と、(F1)前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程とを含んでなる、アレルギー性鼻炎の治療薬のスクリーニング方法が提供される。本発明のスクリーニング方法においては、前記工程(F1)で測定された脂質代謝物の濃度に基づいて、候補薬の治療効果の有無を決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、候補薬投与後の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、候補薬投与前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性鼻炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、前記候補薬に治療効果があることが示される。すなわち、本発明のスクリーニング方法は、(G1)候補薬投与後の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、候補薬投与前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性鼻炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、治療効果があると決定する工程をさらに含んでいてもよく、それにより治療効果がある候補薬を選択することができる。本発明のスクリーニング方法は、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。本発明のスクリーニング方法において候補薬を投与される対象は、好ましくはアレルギー性鼻炎に罹った対象である。本発明のスクリーニング方法を実施する場合には、対象はヒト以外の哺乳動物を用いることができる。
【0048】
本発明の判定方法はまた、アレルギー性結膜炎の治療薬の有効性の判定に用いることができるため、アレルギー性結膜炎の治療薬のスクリーニングに使用することができる。すなわち、本発明の第四の側面によればまた、(E2)アレルギー性結膜炎の治療薬の候補薬を対象に投与する工程と、(F2)前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程とを含んでなる、アレルギー性結膜炎の治療薬のスクリーニング方法が提供される。本発明のスクリーニング方法においては、前記工程(F2)で測定された脂質代謝物の濃度に基づいて、候補薬の治療効果の有無を決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、候補薬投与後の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、候補薬投与前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性結膜炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、前記候補薬に治療効果があることが示される。すなわち、本発明のスクリーニング方法は、(G2)候補薬投与後の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、候補薬投与前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性結膜炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に(好ましくは有意差をもって下回る場合に)、治療効果があると決定する工程をさらに含んでいてもよく、それにより治療効果がある候補薬を選択することができる。本発明のスクリーニング方法は、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。本発明のスクリーニング方法において候補薬を投与される対象は、好ましくはアレルギー性結膜炎に罹った対象である。本発明のスクリーニング方法を実施する場合には、対象はヒト以外の哺乳動物を用いることができる。
【0049】
本発明の第五の側面によれば、(H)アレルギー性疾患に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度と、健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、(I)前記の測定した2つの濃度を比較する工程とを含んでなる、生体試料中の脂質代謝物においてアレルギー性疾患マーカー、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーを同定する方法が提供される。
【0050】
本発明の第五の側面の好ましい態様によれば、(H1)アレルギー性鼻炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度と、健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、(I1)前記の測定した2つの濃度を比較する工程とを含んでなる、生体試料中の脂質代謝物においてアレルギー性鼻炎マーカー、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーを同定する方法が提供される。本発明の同定方法においては、前記工程(I1)で行った濃度の比較結果に基づいて、脂質代謝物をアレルギー性鼻炎マーカー、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーと決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、アレルギー性鼻炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、当該脂質代謝物がアレルギー性鼻炎マーカー、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーであることが示される。すなわち、本発明の同定方法は、(J1)アレルギー性鼻炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、当該脂質代謝物がアレルギー性鼻炎マーカー、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーであると決定する工程をさらに含んでいてもよい。本発明の同定方法は、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0051】
本発明の第五の側面の好ましい態様によればまた、(H2)アレルギー性結膜炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度と、健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、(I2)前記の測定した2つの濃度を比較する工程とを含んでなる、生体試料中の脂質代謝物においてアレルギー性結膜炎マーカー、または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーを同定する方法が提供される。本発明の同定方法においては、前記工程(I2)で行った濃度の比較結果に基づいて、脂質代謝物をアレルギー性結膜炎マーカー、または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーと決定する工程をさらに実施することができる。この工程では、アレルギー性結膜炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、当該脂質代謝物がアレルギー性結膜炎マーカー、または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーであることが示される。すなわち、本発明の同定方法は、(J2)アレルギー性結膜炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に(好ましくは有意差をもって上回る場合に)、当該脂質代謝物がアレルギー性結膜炎マーカー、または目における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーであると決定する工程をさらに含んでいてもよい。本発明の同定方法は、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0052】
本発明の検出方法によりアレルギー性疾患が検出された対象に対しては、アレルギー性疾患に対する治療を実施することができる。従って、本発明の第六の側面によれば、(A)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、(B)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、対象がアレルギー性疾患に罹患していると決定する工程と、(K)アレルギー性疾患に罹患していると決定された対象に、アレルギー性疾患に対する治療を実施する工程を含んでなる、アレルギー性疾患の治療方法が提供される。
【0053】
本発明の第六の側面の好ましい態様によれば、(A)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、(B1)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、対象がアレルギー性鼻炎に罹患していると決定する工程と、(K1)アレルギー性鼻炎に罹患していると決定された対象に、アレルギー性鼻炎に対する治療を実施する工程を含んでなる、アレルギー性鼻炎の治療方法が提供される。本発明の治療方法のうちアレルギー性鼻炎の検出工程(すなわち、工程(A)および(B1))は、本発明の検出方法の記載に従って実施することができる。アレルギー性鼻炎に対する治療は、本発明の判定方法の記載に従って実施することができる。
【0054】
本発明の第六の側面の好ましい態様によればまた、(A)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、(B2)対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、対象がアレルギー性結膜炎に罹患していると決定する工程と、(K2)アレルギー性結膜炎に罹患していると決定された対象に、アレルギー性結膜炎に対する治療を実施する工程を含んでなる、アレルギー性結膜炎の治療方法が提供される。本発明の治療方法のうちアレルギー性結膜炎の検出工程(すなわち、工程(A)および(B2))は、本発明の検出方法の記載に従って実施することができる。アレルギー性結膜炎に対する治療は、本発明の判定方法の記載に従って実施することができる。
【0055】
本発明の第七の側面によれば、対象の生体試料中の脂質代謝物の定量手段を含んでなる、アレルギー性疾患(例えば、アレルギー性鼻炎またはアレルギー性結膜炎)、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出用キットが提供される。本発明のキットは、典型的には、本発明の検出方法を使用してアレルギー性疾患(例えば、アレルギー性鼻炎またはアレルギー性結膜炎)、または鼻腔もしくは目における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態を検出するためのキットである。脂質代謝物の定量手段としては、例えば、該脂質代謝物に特異的に結合する物質が挙げられ、典型的には脂質代謝物に対する抗体である。脂質代謝物の定量手段としてはまた、前記のような質量分析法に使用する質量分析計が挙げられる。
【0056】
本発明のキットにおいて、脂質代謝物の定量手段が抗体である場合には、本発明のキットは該抗体を利用するイムノアッセイにより脂質代謝物の濃度を測定するために必要な試薬(および場合によっては装置)を含むものである。
【0057】
本発明のキットの例としては、サンドイッチ法によって脂質代謝物の濃度を測定するキットが挙げられ、該キットは、マイクロタイタープレートと、捕捉用の抗脂質代謝物抗体と、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼで標識した抗脂質代謝物抗体と、アルカリホスファターゼの基質またはペルオキシダーゼの基質とを含んでいてもよい。
【0058】
上記キットは、例えば、以下のようにして使用することができる。まず、マイクロタイタープレートに捕捉用抗体を固定し、ここに対象の生体試料を適宜希釈して添加した後インキュベートし、該試料を除去して洗浄する。続いて、標識した抗脂質代謝物抗体を添加してインキュベートおよび洗浄を行った後、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、脂質代謝物の濃度を求めることができる。
【0059】
本発明のキットの例としてはまた、二次抗体を使用したサンドイッチ法によって脂質代謝物の濃度を測定するキットが挙げられ、該キットは、マイクロタイタープレートと、捕捉用の抗脂質代謝物抗体と、一次抗体としての抗脂質代謝物抗体と、二次抗体としての、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼで標識した抗脂質代謝物抗体に対する抗体と、アルカリホスファターゼの基質またはペルオキシダーゼの基質とを含んでいてもよい。
【0060】
上記キットは、例えば、以下のようにして使用することができる。まず、マイクロタイタープレートに捕捉用抗体を固定し、ここに対象の生体試料を適宜希釈して添加した後インキュベートし、該試料を除去して洗浄する。続いて、一次抗体を添加してインキュベートおよび洗浄を行い、さらに酵素標識した二次抗体を添加してインキュベートを行った後、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、脂質代謝物の濃度を求めることができる。
【0061】
本発明のキットにおいて、標識抗体は、酵素標識した抗体に限定されず、放射性物質(25I、131I、35S、3H等)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等)、発光物質(ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等)、ナノ粒子(金コロイド、量子ドット)等で標識した抗体であってもよい。また、標識抗体としてビオチン化抗体を用い、標識したアビジンまたはストレプトアビジンをキットに加えることもできる。
【0062】
本発明のキットの例としてはさらに、イムノクロマト法によって脂質代謝物の濃度を測定するキットが挙げられ、該キットは、金コロイドなどで標識した第1の抗脂質代謝物抗体が格納された抗体格納部と、第2の抗脂質代謝物抗体(好ましくは脂質代謝物の別のエピトープを認識する抗体)をセルロース膜などにライン状に固定した判定部とが細い溝でつながれた構成とすることができる。
【0063】
上記キットは、例えば、以下のようにして使用することができる。まず、抗体格納部あるいは抗体格納部に隣接する生体試料受部に生体試料を添加すると、抗体格納部で標識抗体と脂質代謝物が結合して脂質代謝物-標識抗体複合体となり、当該複合体が毛細管現象により溝を通って判定部に移動する。続いて、当該複合体が、固定された第2の抗脂質代謝物抗体に捕捉されると、金コロイドのプラズモン効果により、赤色のラインが判定部に出現し、脂質代謝物の存在を検出することができる。この場合のキットは検査用スティック等のスティック状の形態で提供することができ、生体試料としては尿を用いることができる。該検査用スティックは、尿検体を吸収するための吸収紙や、乾燥剤等をさらに備えていてもよい。
【0064】
本発明のキットにおいて、脂質代謝物の定量手段が質量分析計である場合には、本発明のキットは質量分析計に加えて、場合によっては内部標準装置を含むものである。内部標準を用いることにより質量分析器による測定の際に、分析毎の抽出効率およびイオン化効率を補正することができる。質量分析に使用する内部標準としては、重水素化脂質代謝物が挙げられる。
【0065】
本発明のキットは、上記に加えて、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0066】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[101]対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を含んでなる、アレルギー性鼻炎、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化状態の検出方法。
[102]前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、対象がアレルギー性鼻炎に罹患していること、あるいは対象の鼻腔において肥満細胞および/または好酸球が活性化していることが示される、上記[101]に記載の検出方法。
[103]対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程を含んでなる、アレルギー性鼻炎に対する治療効果の判定方法。
[104]前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、治療前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性鼻炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に、治療効果があることが示される、上記[103]に記載の判定方法。
[105]アレルギー性鼻炎に対する治療が、薬物療法、免疫療法または外科手術療法である、上記[103]または[104]に記載の判定方法。
[106]前記生体試料が、前記対象から非侵襲的に採取された体液である、上記[101]または[102]に記載の検出方法または上記[103]~[105]のいずれかに記載の判定方法。
[107]前記アレルギー性鼻炎が、季節性アレルギー性鼻炎または通年性アレルギー性鼻炎である、上記[101]、[102]および[106]のいずれかに記載の検出方法または上記[103]~[106]のいずれかに記載の判定方法。
[108]前記脂質代謝物が、アラキドン酸代謝物、エイコサペンタエン酸代謝物、ドコサヘキサエン酸代謝物、リノレン酸代謝物およびエイコサジエン酸代謝物からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[101]、[102]、[106]および[107]のいずれかに記載の検出方法または上記[103]~[107]のいずれかに記載の判定方法。
[109]前記脂質代謝物が、PGD2、PGE2、12-HETE、15-HETE、12-HEPE、15-HEPE、14-HDoHE、8-HDoHE、13-HODE、8-isoPGE2、16-HDoHE、15-HEDE、15-OxoEDE、20-HETEおよび14,15-EETからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[101]、[102]および[106]~[108]のいずれかに記載の検出方法または上記[103]~[108]のいずれかに記載の判定方法。
[110]前記脂質代謝物の濃度を質量分析法により測定する、上記[101]、[102]および[106]~[109]のいずれかに記載の検出方法または上記[103]~[109]のいずれかに記載の判定方法。
[111]アレルギー性鼻炎マーカー、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーとしての脂質代謝物の使用。
[112]前記アレルギー性鼻炎が、季節性アレルギー性鼻炎または通年性アレルギー性鼻炎である、上記[111]に記載の使用。
[113]前記脂質代謝物が、アラキドン酸代謝物、エイコサペンタエン酸代謝物、ドコサヘキサエン酸代謝物、リノレン酸代謝物およびエイコサジエン酸代謝物からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[111]または[112]に記載の使用。
[114]前記脂質代謝物が、PGD2、PGE2、12-HETE、15-HETE、12-HEPE、15-HEPE、14-HDoHE、8-HDoHE、13-HODE、8-isoPGE2、16-HDoHE、15-HEDE、15-OxoEDE、20-HETEおよび14,15-EETからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[111]~[113]のいずれかに記載の使用。
[115]アレルギー性鼻炎の治療薬の候補薬を対象に投与する工程と、前記対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程とを含んでなる、アレルギー性鼻炎の治療薬のスクリーニング方法。
[116]候補薬投与後の対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、候補薬投与前の対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度またはアレルギー性鼻炎に罹った対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を下回る場合に、前記治療薬に治療効果があることが示される、上記[115]に記載のスクリーニング方法。
[117]生体試料中の脂質代謝物においてアレルギー性鼻炎マーカー、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーを同定する方法であって、アレルギー性鼻炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度と、健常な対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度を測定する工程と、前記の測定した2つの濃度を比較する工程を含む方法。
[118]アレルギー性鼻炎に罹患した対象の生体試料中の脂質代謝物の濃度が、健常な対象の生体試料中の当該脂質代謝物の濃度を上回る場合に、当該脂質代謝物がアレルギー性鼻炎マーカー、または鼻腔における肥満細胞および/または好酸球の活性化マーカーであることが示される、上記[117]に記載の同定方法。
【実施例】
【0067】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0068】
例1:疾患モデルマウスの作製
(1)アレルギー性鼻炎モデルマウスの作製
BALB/C系統のマウス(雌、5週齢)23匹(日本クレア社、以下同様)に生理食塩水(大塚製薬社製)で溶解希釈したオボアルブミン(ovalbumin、Sigma社製、本明細書中「OVA」ということがある。)50μgおよび硫酸カリウムアルミニウム(Sigma-Aldrich社製)1mgを同時に腹腔内投与し、2週間後に再度、OVA50μgを腹腔内投与して感作を行った。2回目の感作から2週間後に、OVA(400μg/10μL)を1日に1回、5日間(計5回)または10日間(計10回)経鼻投与して刺激し、アレルギー性鼻炎(本明細書中「AR」ということがある。)モデルマウスを作製した。なお、OVAを5回投与した群を「OVA5回投与群」(11匹)とし、OVAを10回投与した群を「OVA10回投与群」(12匹)とした。
【0069】
(2)上気道炎モデルマウスの作製
BALB/C系統のマウス(雌、5週齢)9匹にリポ多糖(Lipopolysaccharide、Sigma社製、本明細書中「LPS」ということがある。)(15μg/10μL)を1回、経鼻投与して、上気道炎モデルマウスを作製した。
【0070】
(3)対照群
対照群として、BALB/C系統のマウス(雌、5週齢)10匹に、上記(1)で用いた生理食塩水(10μL)を1日に1回、1日間(計1回)、5日間(計5回)または10日間(計10回)経鼻投与した(溶媒投与群)。なお、溶媒を1回投与した群を「溶媒1回投与群」とし、溶媒を5回投与した群を「溶媒5回投与群」とし、溶媒を10回投与した群を「溶媒10回投与群」とした。
【0071】
例2:アレルギー性鼻炎および上気道炎の症状の評価
(1)血清中の抗原特異的IgE量の測定
抗原の感作により、血清中の抗原特異的IgE値が上昇することが知られている。例1(1)で作製したアレルギー性鼻炎モデルマウスのオボアルブミンによる感作を確認するため、血清中のオボアルブミン特異的IgE量を測定した。具体的には、OVA感作マウス(OVA2回感作後、OVA刺激をしていない群)(5匹)および対照群として未感作のマウス(BALB/C系統のマウス(雌、5週齢)、5匹、本明細書中「未感作群」ということがある。)から眼窩採血により50μL採血した。採取した血液を常温で1時間放置した。次いで、9500rpm、4℃で10分間遠心し、血清と血餅を分離した。血清を回収した後、-80℃で保存した。IgE量の測定は、凍結保存した血清を25倍希釈し、次いで、Anti-Ovalbumin IgE(マウス)ELISA Kit(Cayman Chemical社製)を用いて、キット添付の説明書に従って実施した。
【0072】
(2)くしゃみ症状の評価
例1で作製したARモデルマウス(22匹)および溶媒投与群(10匹)は、1~10回の各回目のOVA投与または溶媒投与後1分から11分までの10分間のくしゃみ回数を計測した。例1で作製した上気道炎モデルマウス(9匹)および溶媒1回投与群(6匹)は、LPS投与後または溶媒投与後1時間おきに(10時間後まで)くしゃみ回数を計測した。
【0073】
(3)鼻腔体積の測定
例1で作製したARモデルマウスの鼻腔体積は、OVA投与前(6匹)、OVA5回目投与から24時間後(6匹)、およびOVA10回目投与から24時間後(6匹)にコンピューター断層撮影法(Computed Tomography)により測定した。対照として、例1で作製した溶媒投与群の鼻腔体積は、溶媒投与前(6匹)、溶媒5回目投与から24時間後(6匹)、および溶媒10回目投与から24時間後(6匹)に上記と同様にして測定した。具体的には、麻酔したマウスを48mmΦ視野固定具に固定した後、micro CT(LCT-200、日立アロカメディカル社製)を用いて撮影した。撮影条件はピクセルサイズ:48μm、スライス厚・スライス間隔:96μm、スライス数:35枚、回転速度:標準、回転角度:360°、X管電圧:低、投影方向数:1592とした。撮影した画像から-900から-300HU(Housefield unit)のCT値を持つ領域を鼻腔と判断し、その体積を測定した。
【0074】
(4)統計処理
例2~例5において、測定値は平均値±標準偏差で表した。また、有意差検定はone-way analysis of variance(ANOVA)を用いた後、Tukey’s testを行った。2要因の群間での有意差検定はtwo-way ANOVAを用いた後、Bonferroni post-testを行った。危険率(P)が5%未満の場合に有意差ありと判定した。
【0075】
(5)結果
例1で作製したモデルマウスについて行った上記(1)~(3)の評価結果は
図1~4に示される通りであった。
【0076】
図1の結果から、未感作群では、OVA特異的IgEは検出されなかったのに対し、OVA感作マウスでは、23±6.29ng/mLの血清中オボアルブミン特異的IgEが検出されたことから、例1(1)で作製したアレルギー性鼻炎モデルマウスはオボアルブミンにより感作されたことが確認された。また、
図2の結果から、溶媒投与群では、溶媒の投与回数はくしゃみの頻度に影響を与えなかったのに対し、アレルギー性鼻炎モデルマウスでは、OVA投与1回目からくしゃみ頻度の上昇がみられ、OVA投与5回目では溶媒投与群と比較してくしゃみ回数が有意に増加し、OVA投与10回目まで高頻度のくしゃみ回数が維持された。また、
図3の結果から、上気道炎モデルマウスのくしゃみ回数は、LPS投与2時間後には増加し、LPS投与6時間後には最大値を示したが、LPS投与10時間後には溶媒投与群と同等レベルまで減少した。上気道炎モデルマウスのくしゃみ回数の最大値は、アレルギー性鼻炎モデルマウスのOVA投与5回目(OVA5回投与群)のくしゃみ回数と同程度であった。また、
図4の結果から、溶媒投与群では溶媒の投与回数は鼻腔体積に影響しなかった。アレルギー性鼻炎モデルマウスでは、OVA5回投与群では鼻腔体積が減少し、OVA10回投与群では、OVA投与前と比較して鼻腔体積が有意に減少したことから、OVA10回投与群では鼻閉の症状が確認された。
【0077】
例3:アレルギー性鼻炎および上気道炎の病理組織学的評価
(1)手順
例1で作製したARモデルマウス(OVA5回投与群、OVA10回投与群)、上気道炎モデルマウス(LPS投与群)および対照群(溶媒1回投与群、溶媒5回投与群、溶媒10回投与群)(各群6匹)を用いて病理組織学的解析を行った。具体的には、マウスから上顎を切除し、即座に4%パラホルムアルデヒドに4℃で5日間浸漬した。次いで、EDTAに毎日浸漬して4℃で10日間脱灰処理を行った。次いで、眼窩を覆う骨を剃刀で切除し、脱水、透徹処理後、パラフィンに包埋し幅4μmの連続切片標本を作製した。ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)、クロロアセテート・エステラーゼ染色(CAE染色)、トルイジンブルー染色(TB染色)またはメイグリュンワルド・ギムザ染色(MG染色)を常法に従って行い封入した。具体的な染色手順は、後記の通りである。染色した鼻腔組織を光学顕微鏡(ACT-10、ニコン社製)下で観察し、顕微鏡用デジタルカメラ(OPTIPHOT-2、ニコン社製)を用いて撮影した。鼻甲介(鼻炎が起こったときに炎症細胞が浸潤してくる、毛細血管が多く集まる部位)における免疫細胞(結合織型肥満細胞、粘膜型肥満細胞、好酸球、好中球)数を、1セクションあたり16~24個の無作為に選択された区画内(倍率×400)で計測した。
【0078】
(2)クロロアセテート・エステラーゼ(CAE)染色
CAE染色は、ナフトールAS-Dクロロアセテートを基質にして肥満細胞特異的なエステラーゼを赤色に染める染色法である。上記(1)で作製した連続切片標本を脱パラフィン処理後、染色に用いた。4%の亜硝酸ナトリウム溶液とニューフクシン液を1:1で混合した後、この溶液とナフトール液を1:9の割合で混合した。この溶液とリン酸バッファー(0.2M NaH2PO4 0.2M Na2HPO4 pH7.6)を1:20の割合で混合し、切片を10分間浸漬した。切片を蒸留水で洗浄後、ヘマトキシリン溶液を用いて対比染色を行った。1mm2内の結合組織および粘膜組織に存在する全ての肥満細胞(結合織型肥満細胞および粘膜型肥満細胞)数を計測し、平均値および標準偏差を算出した。
【0079】
(3)トルイジンブルー(TB)染色
TB染色は、酸性粘液多糖類を染色する。酸性粘液多糖類は、結合織型肥満細胞に存在し、粘膜型肥満細胞には存在しない。上記(1)で作製した連続切片標本を脱パラフィン処理後、0.05%トルイジンブルー溶液(pH4.1)に10分間浸漬した。次いで、90%アルコール溶液で脱色させた後、封入した。ここで、CAE染色は結合織型および粘膜型のいずれの肥満細胞も染色するが、TB染色は結合織型肥満細胞のみを染色する。CAE染色とTB染色をそれぞれ別の切片で行い、CAE染色陽性、かつ、TB染色陽性な細胞を結合織型肥満細胞と判断した。また、CAE染色陽性、かつ、TB染色陰性な細胞を粘膜型肥満細胞と判断し、1mm2内の結合組織および粘膜組織に存在する全ての結合織型肥満細胞数または粘膜型肥満細胞数を計測し、平均値および標準偏差を算出した。
【0080】
(4)メイグリュンワルド・ギムザ(MG)染色
メイグリュンワルド・ギムザ染色は、好酸球に特異的な好酸性顆粒を赤色に染色する。上記(1)で作製した連続切片標本を脱パラフィン処理後、メイグリュンワルド染色液に切片を6分間浸漬した。次いで、1/15M-リン酸緩衝液(×10)(0.2M NaH2PO4 0.2M Na2HPO4 pH6.4~6.8)で切片を洗浄後、ギムザ染色液と蒸留水を1:20の割合で混合した溶液に切片を3分間浸漬した。HE染色とMG染色をそれぞれ別の切片で行い、HE染色により分葉核が確認され、かつ、MG染色陽性な細胞を好酸球と判断した。また、HE染色により分葉核が確認され、かつ、MG染色陰性な細胞を好中球と判断し、1mm2内の結合組織および粘膜組織に存在する全ての好酸球数または好中球数を計測し、平均値および標準偏差を算出した。
【0081】
(5)結果
例1で作製したモデルマウスについて行った上記(2)~(4)の病理組織学的評価の結果は
図6~9に示される通りであった。
【0082】
図6に示される通り、OVA5回投与群、溶媒投与群(投与回数:1、5、10回、以下同様)およびLPS投与群では、鼻甲介(
図5)に浸潤した粘膜型肥満細胞数に有意な差は認められなかったのに対し、OVA10回投与群では溶媒10回投与群と比較して、粘膜型肥満細胞数が有意に増加した。また、
図7に示される通り、OVA投与群(5、10回)、溶媒投与群(1、5、10回)およびLPS投与群では、鼻甲介に浸潤した結合織型肥満細胞数に有意な差は認められなかった。また、
図8に示される通り、OVA5回投与群およびOVA10回投与群では、溶媒10回投与群と比較して、鼻甲介に浸潤した好酸球数の有意な増加が認められた。また、OVA10回投与群はOVA5回投与群と比較して浸潤した好酸球数が有意に増加した。さらに、OVA5回投与群では、LPS投与群と比較して浸潤した好酸球数が有意に増加した。また、
図9に示される通り、OVA投与群(5、10回)および溶媒投与群(1、5、10回)では、鼻甲介に浸潤した好中球数に有意な差は認められなかったのに対し、LPS投与群では溶媒1回投与群と比較して、好中球数が有意に増加した。以上の免疫細胞の鼻腔内(鼻甲介)浸潤程度、鼻腔組織の病態学的特徴および例2で示されたアレルギー症状(くしゃみ、鼻閉)を総合判断し、OVA5回投与群を軽度のアレルギー性鼻炎、OVA10回投与群を重度のアレルギー性鼻炎と定義した。なお、アレルギー性鼻炎の発症および進行には肥満細胞および好酸球の組織内浸潤が重要な役割を果たすこと、および成熟度の高い結合織型肥満細胞は鼻腔内に常在し、未成熟な粘膜型肥満細胞は炎症刺激により鼻甲介に浸潤することが知られている(Terada, N. et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology 94, 629-642, 1994)。
【0083】
例4:アレルギー性鼻炎と上気道炎モデルマウスの鼻腔洗浄液中の脂質メディエーターの分析
(1)脂質メディエーターの測定
ア 鼻腔洗浄液の調製
例1(1)で作製したアレルギー性鼻炎モデルマウス(OVA5回投与群:11匹、OVA10回投与群:12匹)、上気道炎モデルマウス(LPS投与群:9匹)および溶媒投与群(溶媒1回投与群、溶媒5回投与群、溶媒10回投与群、各群10匹)を用いて脂肪酸代謝酵素(COX、LOX、CYP)下流およびOX下の脂質メディエーター産生量を調べた。各群におけるOVA投与、LPS投与または溶媒投与から20分後にマウスを安楽死処置した。下顎を切除し、冷却した生理食塩水550μLを気管支から鼻先まで流し、採取し、-80℃で凍結することにより、鼻腔洗浄液を調製した。
【0084】
イ 鼻腔洗浄液からの脂質抽出
上記アで調製した鼻腔洗浄液を1000rpm、4℃で10分間遠心分離した。上清400μLに0.05%ギ酸水50μL、表2に示す内部標準溶液50μLおよび蒸留水550μLを加え試料溶液を調製した。試料溶液を予めメタノールおよび蒸留水で平衡化した固相抽出カートリッジ(HLB 1cc Vac Cartridge、Oasis、Waters社製)に負荷した。カートリッジをMilliQ水1mL、ヘキサン1mLで洗浄した後、カートリッジに付着させた脂質をメタノール1mLで溶出した。次いで、溶出液を室温で4時間、減圧乾固してペレットにした後、80%メタノールに再溶解することによって脂質サンプル溶液を調製した。
【0085】
ウ 液体クロマトグラフィー質量分析法による脂質濃度の測定
上記イで調製したサンプル溶液を質量分析器で解析した。液体クロマトグラフィー質量分析に用いた条件は以下の通りである。
【0086】
<LC条件>
分析カラム:Phenomenex,KinetexC8(2.1mmI.D.×150mm、2.6μm、KINETEX社製)
移動相A:0.05%ギ酸
移動相B:0.05%ギ酸アセトニトリル
流速:0.4mL/分
注入量:5μL
カラム温度:45℃
グラジエントプログラム:表1に示される通りであった。
【0087】
【0088】
<MS条件>
質量分析器:LCMS-8030(島津製作所社製)
測定プログラム;LC/MS/MSメソッドパッケージ 脂質メディエーターver.1
(島津製作所社製)
ネブライザーガス流量:3L/分
ドライイングガス流量:15L/分
DL温度:250℃
ヒートブロック温度:400℃
イオン化モード:ESI+/-
内部標準溶液:組成は表2に示される通りであった。
【0089】
【0090】
(2)データ処理
上記測定プログラムに従って、検出された脂質メディエーター(133種)を物性に基づいて13種類のグループに分割し、各グループに対して内部標準物質を設定した(表2参照)。LabSolutions(Version5.80、島津製作所社製)を用いて、各脂質メディエーターのクロマトグラムから算出したピーク面積値を、上記の対応する内部標準物質のピーク面積値で除することによって脂質抽出時に生じる定量誤差等を補正した。脂質メディエーターの濃度(
図10~21の縦軸)は、脂質メディエーターのピーク面積値を内部標準物質のピーク面積値で除した値として示した。
【0091】
(3)結果
下記に記載の通り、検出された脂質メディエーター(133種)のうち15種について、OVA投与群(すなわち、鼻腔において肥満細胞および好酸球が活性化されたARモデルマウス)での産生量が有意に高いこと、あるいは、高い傾向が観察された
【0092】
ア COX下流の脂質メディエーターの産生量
図10に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、アラキドン酸(arachidonic acid、本明細書中「AA」ということがある。)由来、シクロオキシゲナーゼ(COX)下流の脂質メディエーターであるプロスタグランジンD2(prostaglandin D2、本明細書中「PGD
2」ということがある。)およびプロスタグランジンE2(prostaglandin E2、本明細書中「PGE
2」ということがある。)が検出された。PGD
2の産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群およびLPS投与群と比較して有意に高かった(
図10A)。また、PGE
2の産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群、OVA5回投与群およびLPS投与群と比較して有意に高かった(
図10B)。
【0093】
イ LOX下流の脂質メディエーターの産生量
図11に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、AA由来、12/15-リポキシゲナーゼ(LOX)下流の脂質メディエーターである12-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(hydroxy eicosatetraenoic acid、本明細書中「HETE」ということがある。)および15-HETEが検出された。12-HETEの産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群と比較して有意に高かった(
図11A)。また、15-HETEの産生量は、OVA5回投与群およびOVA10回投与群では、それぞれ溶媒5回および10回投与群と比較して有意に高かった(
図11B)。
【0094】
図12に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid、本明細書中「EPA」ということがある。)由来、12/15-LOX下流の脂質メディエーターである12-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(hydroxy eicosapentaenoic acid、本明細書中「HEPE」ということがある。)および15-HEPEが検出された。12-HEPEの産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群と比較して有意に高かった(
図12A)。また、15-HEPEの産生量は、OVA5回投与群では、溶媒5回投与群と比較して有意に高かった(
図12B)。
【0095】
図13に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid、本明細書中「DHA」ということがある。)由来、12/15-LOX下流の脂質メディエーターである14-ヒドロキシドコサヘキサエン酸(hydroxy docosahexaenoic acid、本明細書中「HDoHE」ということがある。)および5-LOX下流の脂質メディエーターである8-HDoHEが検出された。14-HDoHEの産生量は、OVA5回投与群およびOVA10回投与群では、それぞれ溶媒5回および10回投与群と比較して有意に高かった(
図13A)。また、8-HDoHEの産生量は、OVA5回投与群およびOVA10回投与群では、それぞれ溶媒5回および10回投与群と比較して有意に高かった(
図13B)。
【0096】
図14に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、リノレン酸(α-linolenic acid、本明細書中「LA」ということがある。)由来、12/15-LOX下流の脂質メディエーターである13-ヒドロキシオクタデカジエン酸(hydroxy octadecadienoic acid、本明細書中「HODE」ということがある。)が検出された。13-HODEの産生量は、OVA5回投与群では、溶媒5回投与群と比較して有意に高かった。また、OVA10回投与群では、LPS投与群と比較して有意に高かった。
【0097】
ウ OX下の脂質メディエーターの産生量
図15に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、AA由来、酵素非依存的酸化(OX)下流の脂質メディエーターである8-イソプロスタグランジンE2(iso prostaglandin E2、本明細書中「isoPGE
2」ということがある。)が検出された。8-isoPGE
2の産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群と比較して有意に高かった。
【0098】
図16に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、DHA由来、OX下の脂質メディエーターである16-HDoHEが検出された。16-HDoHEの産生量は、OVA投与群では、溶媒投与群と比較して高い傾向が認められた。
【0099】
図17に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、エイコサジエン酸(eicosadienoic acid、本明細書中「EDA」ということがある。)由来、OX下の脂質メディエーターである15-ヒドロキシエイコサジエン酸(hydroxy eicosadienoic acid、本明細書中「HEDE」ということがある。)および15-オキソエイコサジエン酸(本明細書中「OxoEDE」ということがある。)が検出された。15-HEDEの産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群と比較して有意に高かった。また、15-OxoEDEの産生量は、OVA投与群では、溶媒投与群と比較して高い傾向が認められた。
【0100】
エ CYP下流の脂質メディエーターの産生量
図18に示される通り、OVA投与群の鼻腔洗浄液において、AA由来、シトクロムp450(CYP)下流の脂質メディエーターである20-HETEおよび14,15-エポキシエイコサトリエン酸(epoxy eicosatrienoic acid、本明細書中「EET」ということがある。)が検出された。20-HETEの産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群と比較して有意に高かった(
図18A)。また、14,15-EETの産生量は、OVA10回投与群では、溶媒10回投与群と比較して有意に高かった(
図18B)。
【0101】
例5:アレルギー性鼻炎と上気道炎モデルマウスの尿中の脂質メディエーター
(1)脂質メディエーターの測定
ア 尿の調製
例1で作製したARモデルマウス(OVA5回投与群、OVA10回投与群)および対照群(溶媒5回投与群、溶媒10回投与群)(各群10匹)を用いて脂肪酸代謝酵素(COX、LOX、CYP)下流およびOX下の脂質メディエーター産生量を調べた。各群のマウスから尿を採取した。具体的には、OVA5回投与群および溶媒5回投与群の採尿は、OVAまたは溶媒の4回目投与の後に代謝ケージにマウスを入れ、投与5回目までの24時間の尿を採取した。また、OVA10回投与群および溶媒10回投与群の採尿は、OVAまたは溶媒の10回目投与の後に代謝ケージにマウスを入れ、24時間後までの尿を採取した。
【0102】
イ 尿からの脂質抽出
上記アで調製した尿を1000rpm、4℃で10分間遠心分離した。上清100μLに0.05%ギ酸水10μL、内部標準溶液50μLおよび脱イオン水850μLを加え試料溶液を調製した以外は、例4(1)イの記載と同様にして、脂質サンプル溶液を調製した。
【0103】
ウ 液体クロマトグラフィー質量分析法による脂質濃度の測定
例4(1)ウの記載と同様にして、脂質濃度を測定した。
【0104】
(2)データ処理
例4(2)の記載と同様にして、データ処理を実施した。
【0105】
(3)結果
ア COX下流の脂質メディエーターの産生量
図19に示される通り、OVA投与群の尿において、AA由来、COX下流の脂質メディエーターであるPGD
2が検出された。PGD
2の産生量は、OVA5回投与群およびOVA10回投与群では、溶媒投与群と比較して高い傾向が認められた。
【0106】
イ LOX下流の脂質メディエーターの産生量
図20に示される通り、OVA投与群の尿において、AA由来、12/15-LOX下流の脂質メディエーターである12-HETEが検出された。12-HETEの産生量は、OVA5回投与群およびOVA10回投与群では、溶媒投与群と比較して高い傾向が認められた。
【0107】
図21に示される通り、OVA投与群の尿において、EPA由来、12/15-LOX下流の脂質メディエーターである12-HEPEが検出された。12-HEPEの産生量は、OVA5回投与群およびOVA10回投与群では、溶媒投与群と比較して高い傾向が認められた。
【0108】
例6:アレルギー性結膜炎疾患モデルモルモットの作製
(1)アレルギー性結膜炎モデルモルモットの作製
Kwl:Hartley系統のモルモット(雄、7~11週齢)(3匹)に生理食塩水(大塚製薬社製)10μLで溶解希釈したオボアルブミン(ovalbumin、Sigma社製、本明細書中「OVA」ということがある。)100μgおよび硫酸カリウムアルミニウム(Sigma-Aldrich社製)1mgを同時に腹腔内投与し、2週間後に再度、生理食塩水10μLで溶解希釈したOVA100μgおよび硫酸カリウムアルミニウム1mgを腹腔内投与して感作を行った。2回目の感作から2週間後に、OVA(250μg/10μL)を1日おきに1回、11日間(計6回)点眼投与して刺激し、アレルギー性結膜炎モデルモルモットを作製した。
【0109】
(2)感染性結膜炎モデルモルモットの作製
Kwl:Hartley系統のモルモット(雄、7~11週齢)3匹にリポ多糖(Lipopolysaccharide、Sigma社製、本明細書中「LPS」ということがある。)(5μg/5μL)を2回、結膜内投与して、感染性結膜炎モデルモルモットを作製した。以下、特に断りのない限り、LPS投与から12時間後に試験に用いた。
【0110】
(3)対照群(溶媒投与群)
アレルギー性結膜炎の対照群として、Kwl:Hartley系統のモルモット(雄、7~11週齢)3匹に、上記(1)で用いた量と回数の生理食塩水(5μL)を点眼投与した(溶媒投与群1)。感染性結膜炎の対照群として、Kwl:Hartley系統のモルモット(雄、7~11週齢)3匹に、上記(2)で用いた量と回数の生理食塩水(5μL)を点眼投与した(溶媒投与群2)。
【0111】
(4)対照群(未感作群)
対照群として、Kwl:Hartley系統のモルモット(雄、7~11週齢)を用いた(未感作群)。
【0112】
例7:アレルギー性結膜炎および感染性結膜炎の症状の評価
(1)結膜の腫れの観察
ア 方法
例6で作製したアレルギー性結膜炎モデルモルモット(OVA2回感作後、OVA刺激回数が1、2または3回の各モルモット)、感染性結膜炎モデルモルモットおよび未感作群の結膜の腫れを観察した。各アレルギー性結膜炎モデルは、最終のOVA刺激から30分後の結膜について、また、感染性結膜炎モデルモルモットは、LPS投与から10時間後の結膜について観察した。
【0113】
イ 結果
結果は、
図22に示される通りであった。アレルギー性結膜炎および感染性結膜炎の両モデルモルモットにおいて、未感作群と比較して、結膜の腫れが確認された。
【0114】
(2)血管透過性の評価
ア 方法
例6で作製したアレルギー性結膜炎モデルモルモット(3匹)、感染性結膜炎モデルモルモット(3匹)および対照群として溶媒投与群1(3匹)および溶媒投与群2(3匹)の結膜の血管透過性、水分量および結膜の厚みを観察した。血管透過性は、エバンスブルー(Sigma社製)を用いてマイルズアッセイ法に従って測定した。水分量は、シルマル試験紙(あゆみ製薬社製)を用いて測定した。結膜の厚みは、ノギスを用いて測定した。
【0115】
イ 結果
結果は、
図23と
図24に示される通りであった。アレルギー性結膜炎モデルでは、感染性結膜炎モデルまたは溶媒投与群1と比較して、水分量の増加および血管透過性の亢進が確認された。
【0116】
(3)アレルギー性結膜炎および感染性結膜炎の病理組織学的評価
ア 方法
例6で作製したアレルギー性結膜炎モデルモルモットおよび感染性結膜炎モデルモルモットの結膜における病理組織学的評価を行った。具体的には、例3に記載の方法を用いた。
【0117】
イ 結果
結果は、
図25に示される通りであった。アレルギー性結膜炎モデルおよび感染性結膜炎モデルの各病態に即した免疫細胞の浸潤が認められた。
【0118】
例8:アレルギー性結膜炎および感染性結膜炎モデルモルモットの涙および結膜嚢洗浄液中の脂質メディエーターの分析
(1)脂質メディエーターの測定
ア 涙および結膜嚢洗浄液の調製
例6で作製したアレルギー性結膜炎モデルモルモット(3匹)、感染性結膜炎モデルモルモット(3匹)および未感作群(3匹)の結膜を用いて脂肪酸代謝酵素(COX、5-LO、12/15-LO、CYP)下流の脂質メディエーター産生量を調べた。涙および結膜嚢洗浄液の調製は、逆相固相抽出で行った。
【0119】
イ 涙および結膜嚢洗浄液からの脂質抽出
上記アで調製した涙および結膜嚢洗浄液からの脂質抽出は、例4(1)イの記載に従って行った。
【0120】
ウ 液体クロマトグラフィー質量分析法による脂質濃度の測定
上記イで調製したサンプル溶液の脂質濃度の測定は、例4(1)ウの記載に従って行った。
【0121】
(2)データ処理
上記(1)で検出された脂質メディエーターの脂質メディエーターの濃度(
図26~31の縦軸)は、例4(2)の記載に従って行った。
【0122】
(3)結果
結果は、
図26~31に示される通りであった。検出された脂質メディエーターのうちPGD
2、13,14-dihydro-15-keto-PGD2、PGJ
2、LTB
4、20-HETE、15-HETE、12-HETE、9-HOTrE、13-HOTrE、9,10-DiHOME、12,13-DiHOME、13-HpODE、18-HEPE、12-HEPE、8-HDoHE、10-HDoHE、16-HDoHEおよび20-HDoHEについて、アレルギー性結膜炎モデルにおいて有意に産生量が高いこと、あるいは、生産量が高い傾向が観察された。