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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】銅電解アノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 25/04 20060101AFI20231003BHJP
   B22C 3/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B22D25/04 B
B22C3/00 B
B22C3/00 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019213956
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021084122
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】松浦 史弥
(72)【発明者】
【氏名】谷 明久
(72)【発明者】
【氏名】牧野 大河
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077573(JP,A)
【文献】特公昭47-040926(JP,B1)
【文献】特開2018-065167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 25/04
B22C 3/00
B22C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熔融粗金属をアノード鋳型に鋳込む工程と、
前記アノード鋳型に鋳込まれた前記熔融粗金属を冷却する工程と、
冷却された前記熔融粗金属からなる銅電解アノードを剥ぎ取る工程と、
前記銅電解アノードが剥ぎ取られた後に、前記アノード鋳型に離型剤を散布する工程と、を有する銅電解アノードの製造方法であって、
前記離型剤は、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、を含有し、
前記焼成粘土粉は、結晶水を含有する結晶水含有粘土粉を、示差熱-熱重量分析により測定される前記結晶水の分解温度以上の温度で保持する結晶水分解処理を施すことにより得られ、
前記結晶水含有粘土粉の粒度D50は15μm以下である
銅電解アノード製造方法。
【請求項2】
前記離型剤中の前記焼成粘土粉は、前記結晶水含有粘土粉と前記焼成粘土粉との合計質量に対して60~80質量%の範囲内で含有する
請求項1に記載の銅電解アノード製造方法。
【請求項3】
前記アノード鋳型1m当たりに散布する前記離型剤の散布量[離型剤重量(g)/アノード鋳型の散布面積(m)]を80(g/m)以上180(g/m)以下とする
請求項1又は2に記載の銅電解アノード製造方法。
【請求項4】
前記離型剤の固形分濃度は0.05g/cm以上0.10g/cm以下である
請求項1からのいずれかに記載の銅電解アノード製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬に代表される非鉄製錬プロセスにおける電解工程で使用される銅電解アノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば銅等の有価金属を含有する硫化精鉱のような非鉄金属原料から銅等の有価金属を得るための非鉄製錬プロセスでは、精製炉で純度を99.8%までに高めた精製粗銅を鋳造してアノードを製造し、得られたアノードは銅電解アノードとして電解工程に送られ、そのアノードと別途準備したカソードとを交互に電解槽に挿入して電解処理を施すことで、純度を99.99%以上にまで高めた電気銅を製造している。
【0003】
電解処理において、パーマネントカソード法(Permanent Cathode法、以下「PC法」という)の場合はステンレス製の薄板を、コンベンショナル法(種板法)の場合は高純度の銅からなる薄板状の種板を陰極(以下「電解用カソード」という)として、銅電解アノードと交互に電解槽内に貯留された電解液内に浸漬する。そして、電圧を印加することで電解用カソードの表面に銅を電着させ、電着した電気銅をステンレス製の薄板から剥ぎ取ることにより製品とし、種板の場合はそのままの状態で製品として出荷している。
【0004】
このような電解処理に用いられる銅電解アノードは、例えばターンテーブル型の鋳造装置で鋳造されている。銅電解アノード鋳造装置は、ターンテーブルの上に載置されたアノード鋳型を間欠的に回転しつつ、鋳込、冷却、剥取りを順次行うことによって、銅電解アノードを形成できるように構成されている。
【0005】
具体的に、銅電解アノード鋳造装置においては、精製炉から供給された精製粗銅がアノード鋳型に鋳込まれると、ターンテーブル上での間欠回転により冷却部内で冷却されて固体化する。そして、固体化した精製粗銅は、剥取機でアノード鋳型から剥ぎ取られることにより、銅電解アノードとなる。
【0006】
さて、このような銅電解アノードの製造過程で、銅電解アノードを剥ぎ取った後のアノード鋳型12には、次の精製粗銅を鋳込む前に、アノード鋳型からの銅電解アノードの剥離性を高めるために、離型剤(離型剤スラリー)が鋳型凹部内に散布される。
【0007】
離型剤(離型剤スラリー)は、別名、粘土水とも呼ばれている。例えば特許文献1(段落[0015]参照)に開示されるように、離型剤は、鋳型1枚当たり110gの粘土を1.8~2リットル程度の水(固形分濃度0.05~0.10g/cm)で懸濁させたスラリーにより構成され、アノード鋳型の鋳込み面に均等に散布される。
【0008】
このような製造方法によって製造される銅電解アノードの表面は平滑であることが求められている。一方、電解工程においては、生産性を上げるために、アノードとカソードの間隔は出来るだけ狭く設定されているが、アノード表面に不要な凸部等の出っ張りがあると、アノードとカソードの間隔が狭く設定された場合、アノードのショート発生率を増加させ、電解工程の電流効率を著しく悪化させてしまうからである。
【0009】
そこで、特許文献2には、結晶水を含有する離型剤をアノード鋳型へ散布する前に、その離型剤を結晶水の分解温度以上の温度で保持する結晶水分解処理を行う、銅電解アノードの製造方法が開示されている。この特許文献2に開示の技術によれば、結晶水分解処理により離型剤に含まれる結晶水が分解されるため、鋳込み工程で銅電解アノードの表面に膨れが発生することを抑制でき、銅電解アノードの表面の平滑性を向上できるとしている。しかしながら、焼成粘土粉は結晶水を有さないため、アノード鋳型への定着性が悪く、アノード鋳型を損耗する。
【0010】
一方、特許文献3には、焼成により失われた鋳型への定着性を確保するために、水ガラス等の粘結剤を用いた銅電解アノードの製造方法に関する技術が開示されている。特許文献3に開示の技術によれば、アノード鋳型と離型剤との定着性を良好なものとし、これによりアノード鋳型の寿命を維持することができる。
【0011】
この特許文献3に開示の技術のように、水ガラス等の粘結剤を用いることで、銅電解アノードの表面の膨れを抑制しながら、アノード鋳型への定着性を良好なものとしているが、水ガラス等の粘結剤も結晶水が含まれるため、膨れが発生することを完全に抑制することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-191171号公報
【文献】特開2015-139779号公報
【文献】特開2018-065167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、アノード鋳型への定着性を維持させながら、銅電解アノード表面の膨れを抑制する銅電解アノードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、アノード鋳型に散布する離型剤として、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉とを含有する離型剤を用いることで、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0015】
(1)本発明の第1は、熔融粗金属をアノード鋳型に鋳込む工程と、前記アノード鋳型に鋳込まれた前記熔融粗金属を冷却する工程と、冷却された前記熔融粗金属からなる銅電解アノードを剥ぎ取る工程と、前記銅電解アノードが剥ぎ取られた後に、前記アノード鋳型に離型剤を散布する工程と、を有する銅電解アノードの製造方法であって、前記離型剤は、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、を含有する、銅電解アノード製造方法である。
【0016】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記離型剤中の前記焼成粘土粉は、前記結晶水含有粘土粉と前記焼成粘土粉との合計質量に対して60~80質量%の範囲内で含有する、銅電解アノード製造方法である。
【0017】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記焼成粘土粉は、結晶水を含有する結晶水含有粘土粉を、示差熱-熱重量分析により測定される前記結晶水の分解温度以上の温度で保持する結晶水分解処理を施すことにより得られる、銅電解アノード製造方法である。
【0018】
(4)本発明の第4は、第1から第3のいずれかの発明において、前記アノード鋳型1m当たりに散布する前記離型剤の散布量[離型剤重量(g)/アノード鋳型の散布面積(m)]を80(g/m)以上180(g/m)以下とする、銅電解アノード製造方法である。
【0019】
(5)本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記離型剤の固形分濃度は0.05g/cm以上0.10g/cm以下である、銅電解アノード製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アノード鋳型に離型剤を定着させて銅電解アノードの剥ぎ取りを良好に維持しながら、その銅電解アノードの表面における膨れを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】銅電解アノードの製造方法において使用する銅電解アノード鋳造装置の構成を模式的に示す概略図である。
図2】押上げピンによる銅電解アノード剥ぎ取り動作の説明図である。
図3】(a)膨れが発生した銅電解アノードを模式的に示す平面図である。(b)銅電解アノードのX-X線断面図である。
図4】離型剤1、2を使用して製造した銅電解アノードの膨れ高さと、その発生割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
≪1.銅電解アノード製造方法≫
本発明に係る銅電解アノード製造方法は、銅電解アノード鋳造装置を用いて実施される、電解処理に用いられるアノードの製造方法である。具体的に、この銅電解アノードの製造方法は、熔融粗金属をアノード鋳型に鋳込む工程と、アノード鋳型に鋳込まれた熔融粗金属を冷却する工程と、冷却された熔融粗金属からなる銅電解アノードを剥ぎ取る工程と、銅電解アノードが剥ぎ取られた後にアノード鋳型に離型剤を散布する工程と、を有する。
【0024】
そして、この銅電解アノードの製造方法においては、アノード鋳型に離型剤を散布する工程において用いる離型剤として、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、を含有するものを用いることを特徴としている。
【0025】
このような方法によれば、アノード鋳型に離型剤を定着させて銅電解アノードの剥ぎ取りを良好に維持しながら、製造される銅電解アノードの表面の膨れを効果的に抑制することができる。
【0026】
<1-1.電解アノード鋳造装置について>
ここで、上述したように、本発明に係る銅電解アノードの製造方法は、銅電解アノード鋳造装置において実施することができる。ここで、銅電解アノードの製造方法の説明に先立ち、銅電解アノードを鋳造するための銅電解アノード鋳造装置について説明する。
【0027】
図1は、銅電解アノード鋳造装置の構成に一例を示す図である。図1に示す通り、銅電解アノード鋳造装置10は、ターンテーブル11、アノード鋳型12、冷却部13、不良アノード剥取機14、剥取機15、及び離型剤散布部16等を備える。そして、銅電解アノード鋳造装置10は、熔融状態にある精製粗銅の供給元である精製炉17に接続される。
【0028】
銅電解アノード鋳造装置10において、ターンテーブル11は、図1の矢印Rの方向に間欠的に回転可能に設置されており、ターンテーブル11上には複数個のアノード鋳型12が載置されている。アノード鋳型12には、熔融状態にある精製粗銅が傾注されて鋳込まれる。
【0029】
また、銅電解アノード鋳造装置10において、冷却部13では、アノード鋳型12に鋳込まれた精製粗銅を冷却し、剥取機15では、冷却して固体化した銅電解アノードをアノード鋳型12から剥ぎ取る。そして、離型剤散布部16では、剥ぎ取り時の剥離性を高めるための離型剤をアノード鋳型12内に散布する。
【0030】
このような銅電解アノード鋳造装置10においては、ターンテーブル11上に載置された複数個のアノード鋳型12が、矢印Rの方向に間欠的に回転することにより、鋳込み工程、冷却工程、剥取り工程、離型剤散布工程が順次行われる。
【0031】
<1-2.各工程について>
本発明に係る銅電解アノードの製造方法は、銅電解アノード鋳造装置10において、以下にその詳細を説明する鋳込み工程、冷却工程、剥取り工程、及び離型剤散布工程を、繰返し行うことにより、銅電解アノードを鋳造する。
【0032】
〔鋳込み工程〕
鋳込み工程は、精製粗銅をアノード鋳型12に鋳込む工程である。この工程では、精製炉17より供給される精製粗銅を、一定量ずつアノード鋳型12の鋳型凹部に傾注することにより、精製粗銅を銅電解アノードの形状に鋳込む。
【0033】
〔冷却工程〕
冷却工程は、アノード鋳型12の鋳型凹部に鋳込まれた精製粗銅を冷却する工程である。この工程では、冷却部(冷却フード)13において、鋳込まれた精製粗銅に対して冷却水を散布する手段等により、精製粗銅の固体化を促進する。また、この工程では、同時にアノード鋳型12の温度も適切な温度にまで低下させるように冷却する。
【0034】
冷却部(冷却フード)13内は、例えばシャワー状の冷却水が、銅電解アノード及びアノード鋳型12に散布されて構成される。
【0035】
〔剥取り工程〕
剥取り工程は、冷却工程で冷却され固体化した銅電解アノードを、アノード鋳型12の鋳型凹部から剥ぎ取る工程である。
【0036】
図2には、銅電解アノード剥ぎ取り動作の模式図を示す。銅電解アノードEの剥ぎ取り方法として、例えば、予め鋳型凹部内に設置されている押し上げピンによって鋳型凹部から銅電解アノードEの一部である耳部分(垂下用耳部)を押し上げ、押し上げられた当該部分を剥取機15により引掛けて剥取る方法により行うことができる。
【0037】
またこの押し上げは、冷却部(冷却フード)13内で行われることが好ましい。例えば、冷却フード内における進行方向略中間点(例えば図1中M点)で1回目の押し上げ(1次押上げ)を行い、冷却フード内における進行方向下流側(例えば図1中D点)で2回目の押し上げ(2次押上げ)を行う。
【0038】
1回目の押し上げ(1次押上げ)は、押上げによる負荷に銅電解アノードが耐えられる、すなわち変形しない程度まで銅電解アノードが固化している状態で行うことが好ましい。具体的には、鋳型温度が700℃以下となったときに1回目の押し上げ(1次押上げ)を行うことが好ましい。鋳型温度が高すぎると、固化途中の銅電解アノードが、押上げピン18の押し上げる力に負けて、下に凸の状態に曲がり、図2の点線で示す腰折れ状態の不良アノードE’の状態となるおそれがあるためである。なお、このような不良アノードE’は、図1に示す不良アノード剥取機14により除去される。
【0039】
2回目の押し上げ(2次押上げ)は、1回目の押し上げよりも鋳型温度がより低くなった状態で行う。このように、冷却部(冷却フード)13内で異なる温度で2回以上押し上げることにより、アノード鋳型12の鋳型凹部から銅電解アノードを円滑に剥取ることができる。このような押し上げ位置は異なる温度で2回以上押し上げることができるように冷却部(冷却フード)13内である程度自在に調製することができる。
【0040】
〔離型剤散布工程〕
離型剤散布工程は、銅電解アノードが剥ぎ取られた後のアノード鋳型12の鋳型凹部内に離型剤を散布する工程である。上述した剥取り工程において銅電解アノードが剥ぎ取られた後、次の鋳込み工程を好ましい態様で行うために、アノード鋳型12の凹部内に離型剤を散布すると、後述するように170~180℃程度の熱を有するアノード鋳型12により離型剤に含まれる水分が蒸発して、離型層が形成される。離型層が形成されたアノード鋳型12は、次サイクルの鋳込み工程を行うために、精製粗銅の鋳込み位置まで回送された後に、新たな精製粗銅が鋳込まれる。
【0041】
≪2.離型剤について≫
ここで、離型剤散布工程にてアノード鋳型12に散布される離型剤は、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、水とが混合されてなるスラリーとして使用される。本実施の形態に係る銅電解アノードの製造方法では、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、を含有する離型剤を用いることを特徴としている。
【0042】
ここで、離型剤において、従来のように結晶水含有粘土粉のみからなるものを使用した場合、アノード表面胴体の表面に、図3(a)、(b)に示すような水膨れのような凹凸(以下、「膨れ」という)Sが形成されることがある。このような銅電解アノードの表面に発生する「膨れ」の原因としては、次のように考えられる。すなわち、離型剤散布時におけるアノード鋳型12の温度は170~180℃程度であることから、離型剤(離型剤スラリー)に含まれる水分のうち、付着水は蒸発するが、粘土粉に含有される結晶水は分解されずに、次の鋳込み工程時まで残存する。そして、結晶水が残存する粘土粉が付着したアノード鋳型12に精製粗銅を注湯していくと、精製粗銅の熱によって残存した結晶水が分解し、水蒸気を発生させる。発生した水蒸気が熔銅表面付近に取り込まれると、その状態で熔銅表面の固化が進行していき、その結果として表面に膨れが形成される。
【0043】
そこで、本実施の形態に係る銅電解アノードの製造方法では、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、を含有した離型剤を用いることで、アノード鋳型12に離型剤を定着させて銅電解アノードの剥ぎ取りを良好に維持しながら、製造される銅電解アノードの表面の膨れを効果的に抑制することができる。
【0044】
(1)離型剤の構成
(結晶水含有粘土粉)
結晶水含有粘土粉とは、結晶水を含有する粘土粉である。離型剤において結晶水含有粘土粉を含有することで、結晶水含有粘土粉が高温状態のアノード鋳型12により急速に乾燥することでバインダーとなってアノード鋳型12にその離型剤を定着させ、アノード鋳型12内に良好に離型層を形成させて、アノード鋳型12から銅電解アノードの剥取りを容易にする。
【0045】
結晶水含有粘土粉における粘土粉は、特に限定されないが、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、イライト、バーミキュライト等の鉱物のうちの1種以上を主成分として含む。
【0046】
また、粘土粉は、その粒度D50の上限が15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、9μm以下であることがさらに好ましい。なお、「粒度D50」とは、粒度分布曲線における体積積算50%となる粒径であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定することができる。
【0047】
結晶水含有粘土粉の粒度D50が15μmを超えると、アノード鋳型12に形成される離型層の強度が低下し、離型剤とアノード鋳型への定着性が低下するおそれがある。
【0048】
なお、粘土粉の粒度D50の下限値としては、特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。
【0049】
(焼成粘土粉)
焼成粘土粉とは、結晶水含有粘土粉を焼成して得られる粘土粉である。このように、離型剤において焼成粘土粉を含有することにより、銅電解アノードの表面の膨れを抑制することができる。
【0050】
焼成粘土粉は、結晶水含有粘土粉を、所定以上の温度で保持して焼成することにより得られる。より具体的には、焼成粘土粉は、結晶水を含有する結晶水含有粘土粉を、示差熱-熱重量分析により測定される結晶水の分解温度以上の温度で保持する結晶水分解処理を施すことにより得られる。このように、焼成粘土粉は、その焼成粘土粉と共に離型剤を構成する結晶水含有粘土粉を原料として、それを焼成して得られることから、例えば、結晶水含有粘土粉の一部を焼成して焼成粘土粉を得る等することで、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉をそれぞれ別途入手する必要がなくなり生産性を向上させることができる。
【0051】
結晶水分解処理において、結晶水の分解温度とは、示差熱-熱重量分析により求めた分解温度である。示差熱-熱重量分析による結晶水の分解温度の測定は、具体的には、JIS K0129による測定方法によって測定することができる。なお、この結晶水の分解温度は、測定する機器に由来するバラツキや、示差熱-熱重量分析以外の方法で測定した場合の測定方法に由来する違いがあることから、示差熱-熱重量分析により測定した結晶水の分解温度に対して、5%程度低い温度で保持することが好ましい。
【0052】
また、結晶水分解処理時において、結晶水の分解温度以上の温度は、結晶水の分解温度+300℃以下であることが好ましい。結晶水の分解温度+300℃以下であることにより、粘土粉が焼結することを抑制して、容易に粒度を制御することができる。
【0053】
また、結晶水分解処理は、例えば、電気炉やキルン等の同一プラント内の既存の各種加熱炉を使用することができる。ただし、この処理を一連のプロセス或いは同一の設備内で行うことは必須ではない。
【0054】
また、焼成時間としては、10~120分であることが好ましい。焼成の保持時間が10分に満たないと、焼成が不十分となり粘土粉中に結晶水が残存する可能性がある。一方で、焼成の保持時間が120分を超えると、結晶水は完全に分解できるものの、エネルギーコストが過剰にかかるため好ましくない。
【0055】
(結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉との割合)
上述したように、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、を含有する離型剤を用いることにより、アノード鋳型12への離型剤の定着性を維持させながら、製造される銅電解アノード表面の膨れを効果的に抑制することができる。すなわち、結晶水含有粘土粉による効果と、焼成粘土粉による効果とが両立させて、表面の膨れを抑制した銅電解アノードを、高い生産性でもって製造することができる。
【0056】
ここで、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉との含有比率としては、特に限定されないが、焼成粘土粉の含有量が結晶水含有粘土粉の含有量よりも多いことが好ましい。より具体的には、例えば、離型剤中の焼成粘土粉の含有割合として、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉との合計質量に対して60~80質量%の範囲内とすることが好ましい。焼成粘土粉の添加量が80質量%を超えると、結晶水含有粘土粉の含有量が相対的に低下するため、アノード鋳型12への定着性が低下するおそれがある。さらに、離型層が厚くなり、銅電解アノードの冷却が不十分となるおそれがある。一方、焼成粘土粉の添加量が60質量%未満であると、焼成粘土粉の含有量が相対的に低下するため、銅電解アノードの表面の膨れを抑制する効果が十分に得られなくなるおそれがある。さらに、離型層が薄くなり、アノード鋳型12が損耗するおそれがある。
【0057】
(離型剤の固形分濃度)
また、離型剤における固形分濃度としては、特に限定されないが、0.05g/cm以上0.10g/cm以下であることが好ましい。
【0058】
離型剤スラリーの固形分濃度が0.05g/cm未満であると、アノード鋳型12に形成される離型層が薄くなりやすく、定着性が低下するおそれがある。また、アノード鋳型12への定着性を向上させるために離型剤の散布量を増やした場合には、アノード鋳型1枚当りの散布時間が掛かりすぎることになる。また、0.10g/cmより大きいと、アノード鋳型12に形成される離型層が厚くなりやすく、銅電解アノードの冷却が不十分となるおそれがある。また、結晶水含有粘土粉と、焼成粘土粉と、を含有する離型剤を用いる離型剤散布工程においては、その散布方法によっては水分の蒸発に間に合わず離型剤を鋳型凹部に均一に散布することが困難となるおそれがある。
【0059】
(2)離型剤の散布量
本発明において、離型剤散布工程にて散布する離型剤の散布量は、特に限定されないが、アノード鋳型1m当たりに散布する離型剤の散布量[離型剤重量(g)/アノード鋳型の散布面積(m)]として、80(g/m)以上180(g/m)以下とすることが好ましい。
【0060】
上述した離型剤の散布量が80g/m未満であると、アノード鋳型12に形成される離型層が薄くなりやすく、アノード鋳型12への定着性が低下するおそれがある。一方、離型剤の散布量が180g/mを超えると、アノード鋳型12に形成される離型層が厚くなりやすく、銅電解アノードの冷却が不十分となるおそれがある。
【0061】
また、離型剤散布工程においては、離型剤のスラリーをアノード鋳型12の鋳型凹部に散布してから、次サイクルで鋳型凹部に精製粗銅を鋳込むまでに離型剤を乾燥させることが好ましい。具体的に、離型剤に含まれる水分が蒸発することで離型剤に含まれる固形分からなる離型層を形成し、次サイクルの鋳込み工程を行う。
【0062】
このとき、アノード鋳型12の温度としては170~180℃程度であり、その熱によって離型剤に含まれる水分の蒸発が進行する。このため離型剤を乾燥させるにはアノード鋳型12を所定時間静置すればよく、必要に応じて送風等してもよい。
【0063】
アノード鋳型12を静置する場合、その静置する時間(乾燥時間)としては60~160秒程度が好ましい。静置する時間(乾燥時間)が60秒よりも短いと、散布された離型剤に水分が残ってしまうおそれがあり、一方で、静置する時間(乾燥時間)が160秒を超えると、銅電解アノードの生産量が低下してしまうおそれがある。
【実施例
【0064】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
(焼成粘土粉の製造)
離型剤として用意した結晶水含有粘土粉に含まれる結晶水の分解温度は、JIS KO129による示差熱-熱重量分析による測定で、647℃であった。よって、この結晶水含有粘土粉を700℃で500分間保持することにより結晶水分解処理を施し、焼成粘土粉とした。分解した結晶水分量は、結晶水含有粘土粉の質量に対して9質量%であった。この焼成粘土粉の粒度D50を測定したところ、粒度D50=15μmであり、処理前の結晶水含有粘土粉よりも粗大化していた。
【0066】
次に、その焼成粘土粉を、ボールミルを用いて粒度D50=10μmまで粉砕した。なお、粒度D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マクロトラック社製、型番9320-X100)により測定した。
【0067】
(離型剤の調製)
結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉を水に懸濁させ、結晶水含有粘土粉が0.02g/cm、焼成粘土粉が0.04g/cmである離型剤(固形分濃度0.06g/cm)を調製した。なお、焼成粘土粉は、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉との合計質量に対して66質量%である。
【0068】
(銅電解アノードの製造)
上述のようにして得られた離型剤を、アノード鋳型1m当たりに散布する離型剤の散布量[離型剤重量(g)/アノード鋳型の散布面積(m)]は110(g/m)となるように、アノード鋳型に均一に散布して、アノード鋳型を温度170~180℃程度の状態で90秒静置することで乾燥させ、離型層を形成する離型剤散布工程を経た後、上述した鋳込み工程、冷却工程、剥取り工程を経て銅電解アノードを製造した。
【0069】
製造した銅電解アノード40枚について、各銅電解アノードの表面の膨れ高さの最大値を測定したところ、平均値3.6mmと低く、効果的に膨れを抑制することができた。また、鋳型が損耗により寿命を迎えるまで、銅電解アノード100枚以上を製造することができた。なお、銅電解アノードの表面の「膨れ高さ」は、銅電解アノードの表面から膨れの頂点までの高さを意味する。
【0070】
[実施例2]
離型剤について、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉を水に懸濁させ、結晶水含有粘土粉が0.03g/cm、焼成粘土粉が0.04g/cmである離型剤(固形分濃度0.07g/cm)を調製した以外は、実施例1と同様に銅電解アノードを製造した。なお、焼成粘土粉は、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉との合計質量に対して57質量%である。アノード鋳型1m当たりに散布する離型剤の散布量[離型剤重量(g)/アノード鋳型の散布面積(m)]は127(g/m)であった。
【0071】
銅電解アノード40枚の膨れ高さを測定したところ、平均値6.4mmと低かった。そして、鋳型が損耗により寿命を迎えるまで、銅電解アノード100枚以上を製造することができた。
【0072】
[比較例1]
離型剤について、結晶水含有粘土粉のみを水に懸濁させ、結晶水含有粘土粉が40g/L(固形分濃度0.04g/cm)となるように離型剤を調製した以外は、実施例1と同様に銅電解アノードを製造した。アノード鋳型1m当たりに散布する離型剤の散布量[離型剤重量(g)/アノード鋳型の散布面積(m)]は73(g/m)であった。
【0073】
銅電解アノード83枚の膨れ高さを測定したところ、平均値7.4mmであり、実施例を比べて膨れが大きくなり、効果的に膨れを抑えることができなかった。なお、アノード鋳型が損耗により寿命を迎えるまで、銅電解アノード4000枚以上を製造することができた。
【0074】
[比較例2]
離型剤について、焼成粘土粉のみを水に懸濁させ、焼成粘土粉が40g/L(固形分濃度0.04g/cm)となるように離型剤を調製した以外は、実施例1と同様に銅電解アノードを製造した。
【0075】
剥離剤が剥がれて焼き付きを発生し、銅電解アノードを製造することができなかった。
【0076】
以上より、アノード鋳型に結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉とを含有する離型剤を散布した本発明の銅電解アノード製造方法であれば、離型剤を鋳型へ定着させながら、アノード表面の膨れを抑制できることが確認された。
【0077】
[参照例]
離型剤について、焼成粘土粉と水ガラスを水に懸濁させ、焼成粘土粉を0.04g/cm、水ガラス(JIS K1408、3号に規定される珪酸ソーダ)を0.04mL/gとなるように離型剤2を調製した。
【0078】
結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉とを含有する離型剤1(実施例1)と、離型剤2と、を使用して実施例1と同様に銅電解アノードをそれぞれ40枚製造した。なお、散布量は実施例1の散布量と同量になるようにした。図4に、離型剤1、2を使用して製造した銅電解アノードの表面の膨れ高さと、その発生割合を示す。なお、銅電解アノードの表面の「膨れ高さ」は、銅電解アノードの表面から膨れの頂点までの高さを意味する。
【0079】
水ガラスと焼成粘土粉とを含む離型剤2を使用した場合に比べて、結晶水含有粘土粉と焼成粘土粉とを含有する離型剤1を使用した場合の方が、高さ6~8mmの膨れの発生割合が低減した。これは、離型剤に水ガラスを含有した離型剤2の場合、乾燥時間が長くなり鋳造間でアノード鋳型の離型剤が乾燥するまでの時間が掛かるため、完全に結晶水が分解しきれず、銅電解アノードの表面の膨れを十分に抑制できなかったためと推測される。
【0080】
よって、離型剤に結晶水含有粘土粉を含有することで、離型剤に水ガラスを含有した場合と比べて銅電解アノードの表面の膨れをより効果的に抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0081】
10 銅電解アノード鋳造装置
11 ターンテーブル
12 アノード鋳型
13 冷却部
14 不良アノード剥取機
15 剥取機
16 離型剤散布部
17 精製炉
18 押上げピン
E 電極用アノード
E’ 電極用アノード(不良アノード)
S 膨れ
図1
図2
図3
図4