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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20231003BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231003BHJP
【FI】
C01B32/174
B82Y40/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020032214
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021134125
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】塚田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】村川 惠美
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-100895(JP,A)
【文献】国際公開第2010/101205(WO,A1)
【文献】特開2015-147187(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043487(WO,A1)
【文献】特開2018-145060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒーターを用いて、酸化剤およびカーボンナノチューブを含む被処理液を加熱する酸化処理工程を含むカーボンナノチューブ分散液の製造方法であって、
前記被処理液の質量または体積の値をMとし、
前記ヒーターをオンにした時点から、前記被処理液の温度が処理温度に達した時点までの前記被処理液の昇温速度をΔTとし、
前記被処理液の温度が処理温度に達した時点から、前記ヒーターをオフにする時点までの処理時間をtrとしたときの積M・ΔT・trの値に基づいて、前記ヒーターをオフにする時点を決定する、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項2】
前記積M・ΔT・trの値が予め定められた範囲内に達した時点で前記ヒーターをオフにする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項3】
前記被処理液中のカーボンナノチューブ濃度が5質量%以下である、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
前記酸化処理工程において冷却装置を使用し、前記冷却装置の冷却条件を調整する、請求項1~3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
前記酸化処理工程において断熱材を使用し、前記断熱材を調整する、請求項1~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項6】
前記ヒーターの発熱量を調整する、請求項1~5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)は、銅よりも高い電流密度耐性および電気伝導特性を持つため、半導体素子、ディスプレイ、LED、リチウムイオンバッテリー、太陽電池等の電子デバイスの材料として好適に用いられる。電子デバイスの材料としては、例えば、CNTを溶媒に分散させてなるCNT分散液を、スピンコートやインクジェット等の塗布方法によってシリコンウェハ上に均一に塗布した後、乾燥および高温アニールを実施することによって形成されたCNT薄膜が用いられる。
【0003】
均一で再現性に優れた高品質の電子デバイスを製造するためには、所望の特性のCNT分散液を用いてCNT薄膜を形成する必要がある。CNT薄膜の形成に用いるCNT分散液の特性としては、CNTの結晶性、官能基、直径、長さ、凝集率、炭素不純物含有率等が挙げられる。特に均一性および再現性に優れた電子デバイスを製造するためには、CNTの長さを100nm程度以下に精度良く制御することが重要となる。CNTの長さの均一性が悪いと、製造される電子デバイスの特性にばらつきが生じてしまう。また、長いCNTが混入していると、それが核となり短いカーボンナノチューブが集まって、CNT分散液中に凝集が生じるため、製造される電子デバイスの均一性が劣化する。逆にCNTの長さが10nm程度以下まで短くなるとアモルファスカーボンの特性が強く出現し、所望の電子デバイスの特性が得られなくなる。
【0004】
CNT分散液の原材料として用いるCNT粉体の長さは、CNTの製造方法に依存し、通常1μmから1mmと大きく幅がある。したがって、製造されるCNT分散液中のCNTを100nm程度以下の長さにするには、CNT粉体を百分の一から十万分の一程度に精度良く切断する必要がある。CNT粉体を切断する手法として、例えば、ジェットミリングやボールミリング等の機械的切断手法が使用されているが、これらの手法では1μm以下に切断することは難しい。
【0005】
CNT粉体を100nm程度以下の長さにまで分解および/または切断することが可能な手法として、硫酸と硝酸との混酸や硝酸等の酸化剤による液相酸化処理が知られている。
例えば、特許文献1においては、所定濃度の硝酸を用いて、精製前CNT含有組成物を加熱還流する液相酸化を行うことで、触媒が残っておらず、耐熱性が高く、且つ、炭素副生成物の少ないCNT含有組成物が高収率で得られることが報告されている。
また、特許文献2においては、CNTを硫酸と硝酸との混酸で処理することで、半導体性CNTを大量および高純度で選別する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/043487号
【文献】特開2005-194180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術の酸化処理手法においては、所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することが困難であった。
そこで、本発明は、所望の特性を有するカーボンナノチューブ分散液を精度良く製造し得るカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
なお、上記従来技術の酸化処理手法において、所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することが困難である理由は、酸化処理の終点を正確に制御することが難しいことにあると考えられる。例えば、1mm程度の長さのCNTを100nm程度の長さに切断するためには、使用する酸化剤の種類および濃度に依存して、通常10時間程度の時間が必要となるが、終点を30分でも早く設定した場合は、長いCNTが多く残存するため、製造されるCNT分散液の分散特性が悪化する。逆に30分でも遅く設定した場合、CNTが過剰に切断されてアモルファスカーボン等の炭素不純物が多く生じてしまう。また、酸化処理に用いる装置の形状や断熱効率、酸化処理の工程条件、あるいは原材料として使用するCNTの種類等によって、終点は異なり得るため、終点予測は難しい。
【0009】
また、例えば、分光学的手法を用いたオンラインモニターによる終点検知を試みたとしても、酸化処理の被処理液が完全な黒色であるため、終点を検知する事は困難である。さらに、被処理液をサンプリング処理して所望の特性をチェックするオフライン測定では、サンプルの調製および測定に30分以上必要であり、酸化処理の終点を即時に検知して制御することが困難である。なお、溶鋼精錬等の他産業分野では、溶液中温度をモニターすることで反応終点を検知する手法が用いられているが、上述した酸化処理では、被処理液の温度は共沸温度となっており、ほぼ一定に推移するため、モニター温度を終点管理に適用することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、ヒーターを用いて、酸化剤およびカーボンナノチューブを含む被処理液を加熱する酸化処理工程を含むカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、被処理液の質量または体積の値Mと、ヒーターをオンにした時点から被処理液の温度が処理温度に達した時点までの被処理液の昇温速度ΔTと、被処理液の温度が処理温度に達した時点からヒーターをオフにする時点までの処理時間trとの積の値M・ΔT・trに基づいて、ヒーターをオフにする時点を決定すれば、所望の特性を有するカーボンナノチューブ分散液を精度良く製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、ヒーターを用いて、酸化剤およびカーボンナノチューブを含む被処理液を加熱する酸化処理工程を含むカーボンナノチューブ分散液の製造方法であって、前記被処理液の質量または体積の値をMとし、前記ヒーターをオンにした時点から、前記被処理液の温度が処理温度に達した時点までの前記被処理液の昇温速度をΔTとし、前記被処理液の温度が処理温度に達した時点から、前記ヒーターをオフにする時点までの処理時間をtrとしたときの積M・ΔT・trの値に基づいて、前記ヒーターをオフにする時点を決定することを特徴とする。本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法によれば、所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することができる。
【0012】
ここで、本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、前記積M・ΔT・trの値が予め定められた範囲内に達した時点で前記ヒーターをオフにすることが好ましい。積M・ΔT・trの値が予め定められた範囲内に達した時点でヒーターをオフにすれば、所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造することができる。
【0013】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、前記被処理液中のカーボンナノチューブ濃度が5質量%以下であることが好ましい。被処理液中のカーボンナノチューブ濃度が上記所定値以下であれば、所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造することができる。
【0014】
さらに、本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、前記酸化処理工程において冷却装置を使用し、前記冷却装置の冷却条件を調整することが好ましい。酸化処理工程において冷却装置を使用し、当該冷却装置の冷却条件を調整すれば、所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造することができる。
【0015】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、前記酸化処理工程において断熱材を使用し、前記断熱材を調整することが好ましい。酸化処理工程において断熱材を使用し、当該断熱材を調整すれば、所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造することができる。
【0016】
さらに、本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、前記ヒーターの発熱量を調整することが好ましい。ヒーターの発熱量を調整すれば、所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所望の特性を有するカーボンナノチューブ分散液を精度良く製造し得るカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法の酸化処理工程で用いる酸化処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】被処理液を加熱する場合における被処理液の温度およびヒーターの出力仕事量(相対量)の経時変化の一例を示すグラフである。
図3】本発明に関わる酸化処理の制御方法の一例のフロー図である。
図4】本発明に関わる酸化処理におけるエネルギーバランスを示す図である。
図5】未処理液および参考例1~5について、処理時間とカーボンナノチューブの凝集率との関係を示すグラフである。
図6】未処理液および参考例1~5について、処理時間とカーボンナノチューブの炭素不純物含有率との関係を示すグラフである。
図7】未処理液および参考例1~5について、処理時間と有効カーボンナノチューブ歩留りとの関係を示すグラフである。
図8】比較例2(ロット101~106)および実施例2(ロット201~208)について、有効カーボンナノチューブ歩留りを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
(カーボンナノチューブ分散液の製造方法)
本発明のCNT分散液の製造方法は、ヒーターを用いて、酸化剤およびカーボンナノチューブを含む被処理液を加熱する酸化処理工程を含む。そして、本発明のCNT分散液の製造方法は、所定の積の値に基づいて、ヒーターをオフにする時点を決定することを特徴とする。なお、本発明のCNT分散液の製造方法は、任意で、上記酸化処理工程以外の工程を含んでいてもよい。
本発明のCNT分散液の製造方法によれば、所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することができる。そして、製造されたCNT分散液を用いて形成されたCNT薄膜は、半導体素子、ディスプレイ、LED、リチウムイオンバッテリー、太陽電池等の電子デバイスの材料として好適に用いることができる。
【0021】
ここで、製造されるCNT分散液において所望とされる「特性」としては、用途によって異なるが、例えば、CNTの結晶性、官能基、直径、長さ、凝集率、炭素不純物含有率、歩留り等が挙げられる。また、これらの特性に関する数値等の好ましい範囲などは、用途に応じて適宜設定することができる。
【0022】
さらに、「所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することができる」とは、酸化処理に用いる装置、および酸化処理の条件などが変更された場合であっても、所望の特性を有するCNT分散液を製造することができることを意味する。
なお、酸化処理に用いる装置および処理条件などは、意図的に変更される場合もあるが、何らかの要因によって意図せずに変更される場合もある。
そして、本発明のCNT分散液の製造方法によれば、酸化処理に用いる装置および処理条件などが、意図的に変更された場合は勿論、意図せずに変更された場合であっても、所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することができる。
【0023】
<酸化処理工程>
酸化処理工程では、ヒーターを用いて、酸化剤およびカーボンナノチューブを含む被処理液を加熱する。そして、被処理液の質量または体積の値Mと、ヒーターをオンにした時点から被処理液の温度が処理温度に達した時点までの被処理液の昇温速度ΔTと、被処理液の温度が処理温度に達した時点からヒーターをオフにする時点までの処理時間trとの積の値M・ΔT・trに基づいて、ヒーターをオフにする時点を決定する。
【0024】
<<被処理液>>
ここで、酸化処理工程に用いる被処理液は、酸化剤およびCNTを含む。また、被処理液は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で、酸化剤およびCNT以外の成分を更に含んでいてもよい。そして、被処理液は、通常、水等の溶媒中に上記成分を混合してなる液体である。なお、溶媒としては、例えば、酸化剤としての硝酸に含まれる水等の溶媒をそのまま用いることができる。
【0025】
[酸化剤]
酸化剤としては、硝酸、硫酸、過酸化水素水などを用いることができる。なお、これらの酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0026】
そして、被処理液中の酸化剤の濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。被処理液中の酸化剤の濃度が上記下限以上であれば、酸化反応を良好に促進することができる。一方、被処理液中の酸化剤の濃度が上記上限以下であれば、酸化反応が過度に進行して炭素不純物が生成することを抑制することができる。
【0027】
[カーボンナノチューブ]
被処理液中に含まれるCNTは、CNT分散液の原料となるCNTであり、酸化処理工程において、酸化剤と共に加熱されることにより、酸化処理を施される。
【0028】
そして、被処理液中のCNTとしては、特に限定されることはなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。
また、CNTの平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。CNTの平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、CNTの凝集を抑制して、CNTの分散性を高めることができる。
なお、CNTの平均直径(Av)および平均長さは、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の直径(外径)および長さを測定して求めることができる。
そして、CNTの平均直径(Av)や平均長さは、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
更に、CNTのBET比表面積は、600m2/g以上であることが好ましく、700m2/g以上であることがより好ましく、800m2/g以上であることが更に好ましく、2000m2/g以下であることが好ましく、1800m2/g以下であることがより好ましく、1500m2/g以下であることが更に好ましい。また、CNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m2/g以上であることが好ましい。CNTのBET比表面積が600m2/g以上であれば、得られる薄膜の表面均一性を十分に高めることができる。また、CNTのBET比表面積が2000m2/g以下であれば、CNTの凝集を抑制してCNTの分散性を高めることができる。
【0029】
また、被処理液中のCNTの平均長さ、アスペクト比等も、本発明の所望の効果が得られる範囲内であれば、特に限定されることはない。
【0030】
そして、被処理液中のCNT濃度は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。被処理液中のCNT濃度が5質量%以下であれば、所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造することができる。
【0031】
[被処理液の質量または体積の値M]
そして、被処理液の質量または体積の値Mは、使用する酸化処理装置のスケール等に応じて適宜設定することができる。
なお、被処理液の質量は、100g以上であることが好ましく、500g以上であることがより好ましく、1kg以上であることが更に好ましく、100kg以下であることが好ましく、20kg以下であることがより好ましく、10kg以下であることが更に好ましい。
また、被処理液の体積は、100mL以上であることが好ましく、500mL以上であることがより好ましく、1L以上であることが更に好ましく、100L以下であることが好ましく、20L以下であることがより好ましく、10L以下であることが更に好ましい。
【0032】
<<酸化処理装置>>
上述した被処理液に対する加熱は、ヒーターを用いて行う。ここで、通常、酸化処理工程における被処理液に対する加熱は、ヒーターを備える酸化処理装置を用いて行う。
【0033】
図1は、本発明のCNT分散液の製造方法の酸化処理工程で用いる酸化処理装置の一例を示す概略構成図である。なお、図1中、矢印は熱の移動を示す。
【0034】
酸化処理装置100は、ヒーター3、被処理液4を入れた容器8、容器8の下面部および側面部を覆う断熱材1、容器8の上面部を覆う断熱材9、被処理液4の温度を測定する温度計6、および、容器8内の気相部を冷却する還流冷却装置2を備える。なお、被処理液4は、質量または体積の値Mが予め計測されてから、容器8内に充填される。さらに、被処理液4の温度を均一にし、かつ酸化反応を促進するため、容器8内には、攪拌装置5が取り付けられている。
【0035】
容器8の材質としては、金属を含有せず、且つ、耐硝酸性の高い石英を用いている。また、容器8の形状は、還流冷却装置2、攪拌装置5、温度計6等の機器の取り付けを容易にするため、円筒形状としている。さらに、容器8の上面部は、断熱材9で覆われている。なお、容器8としては、断熱性を向上させる観点から、球形フラスコを用いてもよい。
【0036】
ヒーター3としては、電熱線を有する電熱式ヒーターを用いている。そして、できるだけ被処理液4を均一に加熱するため、ヒーター3(電熱線)を容器8の下面部および側面部の両方に設置している。なお、ヒーター3には、オン/オフを切り替えるための電源7が設けられている。また、ヒーター3としては、例えば、誘導加熱等の別方式のものを用いることもできる。
【0037】
また、容器8の下面部および側面部を覆う断熱材1については、容器8およびヒーター3の形状に合ったものを予め作製して、設置している。また、容器8の上面部を覆う断熱材9についても、容器8の上部の形状に合うように予め作製して、設置している。なお、断熱材1および断熱材9の材質としては、例えば、グラスウール等の不燃綿を用いることができる。
【0038】
酸化処理装置100における被処理液4の温度の制御方法としては、PID方式を用いている。なお、被処理液の温度の制御方法としては、バイメタル等のオンオフ制御を用いてもよい。
【0039】
還流冷却装置2は、容器8内の上部の気相空間に設置されている。これにより、例えば、酸化処理剤として硝酸を用いた場合に、高温で分解して発生した二酸化窒素および四酸化二窒素の濃度を制御すると共に、被処理液から熱エネルギーを逃すことができる。冷媒としては、例えば、硝酸と反応しない純水あるいはスリーエムジャパン社製「フロリナート(登録商標)」などを用いることができる。また、還流冷却装置2に設置された流量計12で計測された冷媒の流量と、還流冷却装置2の入口に設置された温度計11および出口に設置された温度計10から、還流冷却装置2によって被処理液から逃された熱エネルギーを計算することができる。
【0040】
以上、酸化処理装置の一例について説明したが、本発明のCNT分散液の製造方法においては、これに限定されず、上述した酸化処理装置100以外の装置を用いることもできる。
【0041】
<<加熱>>
本発明のCNT分散液の製造方法における酸化処理工程の一例として、上述の図1に示した酸化処理装置100を用いて被処理液を加熱する場合について以下に説明する。
ここで、図2は、酸化処理装置100を用いて被処理液4を加熱する場合における被処理液4の温度およびヒーター3の出力仕事量(相対量)の経時変化の一例を示すグラフである。
【0042】
まず、ヒーター3をオンにして、被処理液4の加熱を開始し、被処理液4の温度が処理温度Trに達するまで、昇温を行う。なお、被処理液4が処理温度Trに達した時点をtsとする。次いで、被処理液4の温度が処理温度Trに達した時点ts以降は、ヒーター3のパワー(発熱量)等を調整することにより、被処理液4の温度が可能な限り処理温度Trから変動しないように制御する。その後、ヒーター3をオフにして、被処理液4の加熱を終了する。なお、ヒーター3をオフにする時点をteとする。ヒーター3をオフにする時点te以降は、被処理液4は常温(25℃)付近まで降温する。そして、上記処理後の被処理液をCNT分散液として回収する。
【0043】
なお、ヒーター3をオンにする前(加熱開始前)、ヒーター3をオンにしている間(加熱中)、およびヒーター3をオフにした後(加熱終了後)のいずれにおいても、攪拌装置5を用いて、被処理液4を適宜攪拌することができる。被処理液4を攪拌することで、被処理液4の温度を均一にし、かつ、酸化反応を促進することができる。
また、同様に、ヒーター3をオンにする前(加熱開始前)、ヒーター3をオンにしている間(加熱中)、およびヒーター3をオフにした後(加熱終了後)のいずれにおいても、還流冷却装置2を用いて冷却を適宜行うことができる。例えば、ヒーター3をオフにした時点te以降も還流冷却装置2を稼働させて冷却を行うことで、被処理液の温度を速やかに常温まで低下させることができる。
【0044】
ここで、処理温度Trは、通常、被処理液4の沸点付近の温度であり、被処理液4の組成等によって異なるが、例えば、100℃以上150℃以下の範囲内で設定することができる。
【0045】
そして、ヒーター3をオンにした時点から、被処理液4の温度が処理温度Trに達した時点tsまでの被処理液4の昇温速度をΔTとする。
ここで、昇温速度ΔTは、ヒーター3をオンにした時点から、被処理液4の温度が処理温度Trに達した時点tsまでの任意の時点における被処理液4の昇温速度とすることができる。そして、通常は、被処理液4の昇温速度が安定している時間帯の任意の時点における昇温速度をΔTとして設定する。例えば、被処理液4の昇温速度ΔTは、処理温度Trの1/2の温度である温度Taの時点における被処理液4の昇温速度とすることができる。
【0046】
昇温速度ΔTは、0.2℃/分以上であることが好ましく、0.5℃/分以上であることがより好ましく、1.0℃/分以上であることが更に好ましく、50℃/分以下であることが好ましく、20℃/分以下であることがより好ましく、10℃/分以下であることが更に好ましい。
なお、昇温速度ΔTは、冷却装置の冷却条件(例えば、冷媒の流量)、断熱材(例えば、断熱材の材質、充填条件、および設置条件)、並びにヒーターの稼働条件(例えば、ヒーターの発熱量)などを調整することによって、制御することができる。
【0047】
酸化処理工程における酸化処理は、被処理液4の温度が処理温度Trに達した時点tsを始点とし、ヒーター3をオフにする時点teを終点とする。
そして、被処理液4の温度が処理温度Trに達した時点tsから、ヒーター3をオフにする時点teまでの時間を処理時間trとする。
ここで、処理時間trは、0.5時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、5時間以上であることがより好ましく、100時間以下であることが好ましく、50時間以下であることがより好ましく、20時間以下であることが更に好ましい。
【0048】
そして、酸化処理工程においては、上述した被処理液4の質量または体積の値Mと、昇温速度ΔTと、処理時間trとの積M・ΔT・trの値に基づいて、ヒーター3をオフにする時点teを決定する。
より具体的には、上述した積M・ΔT・trの値が予め定められた範囲内に達した時点でヒーター3をオフにすることが好ましい。
なお、積M・ΔT・trの値が「予め定められた範囲内に達した時点でヒーターをオフにする」とは、当該積の値が予め定められた範囲の下限値または上限値と一致した時点に限らず、当該積の値が予め定められた範囲内にある間にヒーターをオフにすればよいことを意味する。
【0049】
[予め定められた範囲]
上述した「予め定められた範囲」は、例えば、本発明のCNT分散液の製造方法とは別途で、積M・ΔT・trの値の参照値Q0を決定するための予備実験を行い、得られた参照値Q0に基づいて設定することができる。
【0050】
ここで、予備実験では、ヒーターを用いて、酸化剤およびカーボンナノチューブを含む被処理液を加熱する酸化処理の参考例を複数回繰り返して実施し、その結果に基づいて、参照値Q0を決定する。予備実験の一例の概要を下記に説明する。
(1)参考例1
参考例1を次の手順で行う。まず、ヒーターをオンにして、酸化剤およびカーボンナノチューブを含む被処理液(質量または体積の値をM´とする)の温度が処理温度Tr´に達するまで昇温を行う。ここで、ヒーターをオンにした時点から、被処理液の温度が処理温度Tr´に達した時点までの被処理液の昇温速度をΔT´とする。被処理液の温度が処理温度Tr´に達した時点以降は、被処理液の温度が可能な限り処理温度Tr´から変動しないように制御する。そして、被処理液の温度が処理温度Tr´に達した時点から処理時間tr´が経過した時点でヒーターをオフにする。その後、常温付近まで降温した被処理液をCNT分散液として取得する。
(2)参考例2以降
参考例2として、処理時間tr´を変更したこと以外は、上記参考例1と同様にして酸化処理を行い、CNT分散液を得る。
上記と同様の操作を繰り返し、参考例N(Nは2以上の整数)まで実施することで、最終的に、処理時間tr´が相互に異なる参考例1~N(Nは2以上の整数)の酸化処理により製造されたCNT分散液を得る。
(3)参考例相互間の比較
参考例1~Nにて得られたCNT分散液の特性(例えば、CNT凝集率、CNTの炭素不純物含有率、および有効CNT歩留りなど)を比較して、参考例1~Nの中から、最も所望とする特性を有するCNT分散液が得られた参考例を1つ選択して、参考例Xとする。
(4)参照値Q0の決定
最も所望とする特性を有するCNT分散液が得られた参考例Xにおける被処理液の質量または体積の値M´をM0とし、昇温速度ΔT´をΔT0とし、被処理液が処理温度Tr´に達した時点からヒーターをオフにする時点までの処理時間tr´をtr0としたときの積M0・ΔT0・tr0の値を参照値Q0とする。
【0051】
なお、上記の予備実験の一例では、処理時間tr´を意図的に変更した複数の参考例を実施しているが、参照値Q0を決定するための予備実験は、これに限定されることはなく、例えば、処理時間は一定にして、被処理液の質量または体積の値M´、並びに/若しくは昇温速度ΔT´を意図的に変更した複数の参考例を実施してもよいものとする。
【0052】
なお、上述した予備実験で用いる被処理液と、本発明のCNT分散液の製造方法で用いる被処理液とでは、酸化剤の種類および濃度は同じである。
また、予備実験に用いる被処理液と、本発明のCNT分散液の製造方法で用いる被処理液とでは、層数、平均長さ、平均直径、アスペクト比等が同じCNTを使用する。
なお、予備実験と、本発明のCNT分散液の製造方法とでは、被処理液中のCNT濃度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。そして、本発明のCNT分散液の製造方法により所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造する観点から、予備実験と、本発明のCNT分散液の製造方法とで、被処理液中のCNT濃度が同じであることが好ましい。
また、予備実験で用いる被処理液の質量または体積の値M´と、本発明のCNT分散液の製造方法で用いる被処理液の質量または体積の値Mとは同じであってもよいし、異なっていてもよいものとする。
【0053】
さらに、予備実験と、本発明のCNT分散液の製造方法とでは、同じヒーターを用いてもよいし、異なるヒーターを用いてもよい。
なお、予備実験においてヒーターを備える酸化処理装置を用いる場合は、本発明のCNT分散液の製造方法で用いる酸化処理装置と同じ装置を用いてもよいし、異なる装置を用いてもよい。例えば、予備実験で用いる酸化処理装置と、本発明のCNT分散液の製造方法で用いる酸化処理装置とで、被処理液を入れる容器、ヒーター、冷却装置、断熱材等の規模、材質、性能、設置条件などが異なっていてもよい。
さらに、予備実験と、本発明のCNT分散液の製造方法とで、酸化処理中のヒーターの稼働条件(例えば、発熱量)、および冷却装置の冷却条件(例えば、冷媒の流量)などは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
予備実験における処理温度Tr´と、本発明のCNT分散液の製造方法における処理温度Trとは同じ温度であるものとする。
また、予備実験における被処理液の昇温速度ΔT´と、本発明のCNT分散液の製造方法における昇温速度ΔTとは、同じであってもよいし、異なっていてもよいものとする。
ただし、予備実験における被処理液の昇温速度ΔT´と、本発明のCNT分散液の製造方法における昇温速度ΔTとは、いずれも同じ温度の時点における被処理液の昇温速度として設定する必要がある。例えば、本発明のCNTの分散液の製造方法において、処理温度Trの1/2の温度Taにおける被処理液の昇温速度をΔTとして設定する場合、予備実験においても、処理温度Tr´(=Tr)の1/2の温度Taにおける被処理液の昇温速度をΔT´として設定する。
【0055】
なお、予備実験の参考例1~Nにおける処理時間tr´の中には、本発明のCNT分散液の製造方法の酸化処理工程における処理時間trと同じ時間が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0056】
そして、予備実験により決定された参照値Q0に基づいて、上述した予め定められた範囲を設定することができる。
例えば、予め定められた範囲は、参照値Q0、並びに、関係式:0<k1≦1≦k2を満たすk1およびk2の値を用いて、「k10以上」で表される下限値のみを有する範囲であってもよいし、「k20以下」で表される上限値のみを有する範囲であってもよいし、「k10以上k20以下」ので表される下限値および上限値の両方を有する範囲であってもよい。
【0057】
なお、k1およびk2の値が1に近いほど(即ち、下限値および上限値が参照値Q0に近いほど)、所望の特性を有するCNT分散液を更に精度良く製造することができる。例えば、k1の値が1に近いほど(即ち、下限値が参照値Q0に近いほど)、酸化反応が適度に進行することにより、CNTが程良く切断されて良好に分散するため、有効CNT歩留りが高いCNT分散液を得ることができる。また、例えば、k2の値が1に近いほど(即ち、上限値が参照値Q0に近いほど)、酸化反応が過度に進行することを抑制し、炭素不純物の発生を低減できるため、有効CNT歩留りが高いCNT分散液を得ることができる。
【0058】
そして、予め定めた範囲を参照値Q0の1点のみに設定し、上述した積M・ΔT・trの値が参照値Q0と一致した時点でヒーターをオフにすれば、特に精度良く所望の特性のCNT分散液を製造することができる。
【0059】
ここで、図3において、本発明に関わる酸化処理の制御方法の一例のフロー図を示す。図3に示す酸化処理の制御方法の一例では、酸化剤およびCNTを含む被処理液を加熱する酸化処理において、被処理液の質量または体積の値をMとし、ヒーターをオンにした時点から、被処理液の温度が処理温度に達した時点までの被処理液の昇温速度をΔTとし、被処理液の温度が処理温度に達した時点から、ヒーターをオフにする時点までの処理時間をtrとしたときの積M・ΔT・trの値が参照値Q0未満である間は、ヒーターをオンの状態にして酸化処理を継続し、積M・ΔT・trの値が参照値Q0以上に達した時点でヒーターをオフにして酸化処理を終了する。このように酸化処理を制御することにより、所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することができる。
なお、上記一例では、予め定められた範囲は「参照値Q0以上」に設定されているが、本発明の所望の効果が得られる限り、特に限定されず、例えば、上述した参照値Q0の値に基づいて任意に設定することができる。
【0060】
(考察)
本発明について以下に考察する。
図4に示すように、ヒーターによる熱エネルギーは、放熱および冷却によってその一部が失われ、残りのエネルギーが反応エネルギーとして、CNTの酸化反応に消費される。これらの放熱量および冷却熱量は断熱材や冷却条件によって変動するため、結果として実質的に利用できる反応エネルギー量が変動することになる。被処理液の昇温速度ΔTは、放熱および冷却によって失われる熱量を差し引いて、単位時間当たりに被処理液に加えられる熱エネルギーを表す。したがって、昇温速度ΔTと、被処理液の質量または体積の値Mと、処理時間trとの積M・ΔT・trは、実質的に酸化処理に利用される実効エネルギーを表す良いパラメーターとなる。厳密に言えば、昇温中(ヒーターをオンにした時点から被処理液が処理温度に達する時点まで)のヒーターによる熱エネルギーと、酸化処理中(被処理液が処理温度に達した時点からヒーターをオフにする時点まで)のヒーターによる熱エネルギーとは異なるが、放熱および冷却による損失エネルギーに対する実効エネルギーの相対値は、昇温中と酸化処理中とでそれほど変わらない。したがって、例えば、CNT分散液の製造方法の酸化処理工程において、積M・ΔT・trの値が上述した予め定められた範囲内に達した時点でヒーターをオフにすれば、CNTの酸化反応に利用される実効エネルギーを、所望の特性のCNT分散液が得られることが実証された予備実験の参考例XのCNTの酸化反応に利用された実効エネルギーと同程度にすることができるため、所望の特性を有するCNT分散液を精度良く製造することができる。
なお、積M・ΔT・trの値を制御する手法としては、処理時間trの調整、被処理液の質量または体積の値Mの調整、並びに、ヒーターのワット数(発熱量)、断熱材、および冷却装置の冷却条件(例えば冷媒の流量)などの変更による昇温速度ΔTの調整などが挙げられるが、処理時間trの調整が最も容易である。
【実施例
【0061】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、量を表す「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0062】
なお、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率および有効CNT歩留りは、下記の方法に従って測定した。
【0063】
<CNTの凝集率>
得られたCNT分散液または未処理液を水で100倍に希釈した後、アンモニアを少量添加してpH7.0に調整し、得られた液の光の透過度(A)を測定した。さらに、この液を200nmの空孔径のシリンジフィルターを通して得られた液の光の透過度(B)を測定した。ここで、CNTの凝集率は、式:{1-(B/A)}×100[%]により算出した。なお、CNT分散液中でCNTが完全に分散していれば、BとAとは同一の値となり、CNTの凝集率は0%となる。
【0064】
<CNTの炭素不純物含有率>
得られたCNT分散液または未処理液を水で100倍に希釈した後、アンモニアを少量添加してpH7.0に調整し、得られた液の光の透過度(A)を測定した。さらに、この溶に塩を加えて、炭素不純物であるアモルファスカーボンだけを塩析させて、上澄み液の光透過度(C)を測定した。CNTの炭素不純物含有率(相対値)は、式:{1-(C/A)}×100[%]により算出した。なお、CNTが炭素不純物を含有しない場合は、CとAとは同一の値となり、炭素不純物含有率(相対値)は0%となる。
【0065】
<有効CNT歩留り>
上記で得られたCNTの凝集率および炭素不純物含有率を用いて、有効CNT歩留りを、下記の式により算出した。CNT分散液における有効CNT歩留りが高いほど、CNTは良好に分散し、且つ、炭素不純物の含有率も小さいため、均一性および再現性に優れた電子デバイスの製造に良好に使用し得ることを示す。
有効CNT歩留り={1-(CNTの凝集率/100)}×{1-(CNTの炭素不純物含有率/100)}×100[%]
【0066】
(予備実験)
予備実験として、以下の参考例1~5の酸化処理を行い、得られたCNT分散液を比較し、最も所望とする特性を有するCNT分散液が得られた参考例に基づいて、参照値Q0の値を決定した。
【0067】
<参考例1>
カーボンナノチューブ100gを50%硝酸水溶液20Lに添加して、被処理液を調製した。なお、被処理液の質量の値はM´(=20.1kg)であり、被処理液中のCNT濃度は0.5%であった。なお、酸化処理を行う前の被処理液(未処理液)を用いて、上述した方法により、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率および有効CNT歩留りを測定した。結果を図5~7に示す。
次いで、上記で調製した被処理液を、図1に示した酸化処理装置100の容器8に入れた。
ヒーター3をオンにして被処理液の加熱を開始し、処理温度115℃まで昇温させた。
被処理液が処理温度115℃に達した時点以降は、被処理液の温度が可能な限り115℃から変動しないようにヒーター3のパワーを制御した。具体的には、被処理液の温度が115℃以上120℃以下に維持されるようにした。
そして、被処理液が処理温度115℃に達した時点から11時間が経過した時点(即ち、処理時間tr´が480分となった時点)でヒーター3をオフにして加熱を停止し、被処理液が常温(25℃)になるまで静置し、酸化処理後の被処理液をCNT分散液として回収した。
なお、上述した操作は、還流冷却装置2を稼働させ、冷却を行いながら実施した。
得られたCNT分散液を用いて、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率および有効CNT歩留りを測定した。結果を図5~7に示す。
【0068】
<参考例2~5>
処理時間tr´を480分から、540分、600分、660分、720分にそれぞれ変更したこと以外は、上記と同様の操作にて酸化処理を行い、得られたCNT分散液を用いて各種の測定を行った。結果を図5~7に示す。
【0069】
図7に示す通り、参考例4(処理時間tr´=660[分]=11[時間])において、得られるCNT分散液中の有効CNT歩留りが最大となっていることがわかる。そこで、参考例4における酸化処理の条件を標準条件とした。
そして、最も所望とする特性を有するCNT分散液が得られた参考例4について、被処理液の質量の値M´(=20.1kg)をM0とし、処理温度115℃の1/2である温度57.5℃の時点における被処理液の昇温速度ΔT´をΔT0とし、処理時間tr´(=11[時間])をtr0としたときの積の値M0・ΔT0・tr0を参照値Q0として求めた。
【0070】
(本実験1)
上述した予備実験の参考例4で得られたCNT分散液の有する特性が所望の特性であるものとして、以下の実施例1-1~1-2、および比較例1-1~1-2の酸化処理を行った。
【0071】
<比較例1-1>
容器8の上面部を覆う断熱材9(上部断熱材)の量を10%削減したこと以外は、上述した予備実験の参考例4で使用した酸化処理装置100と同じ酸化処理装置を準備した。
次いで、参考例4と同様にして調製した被処理液(質量の値M=M0、CNT濃度0.5%)を容器8に入れた。
ヒーター3をオンにして被処理液の加熱を開始し、処理温度115℃まで昇温させた。なお、上部断熱材を10%削減したことにより、処理温度115℃の1/2である温度57.5℃の時点における被処理液の昇温速度ΔTは、上述した参考例4における昇温速度ΔT0から45%低下していた(即ち、比較例1-1における昇温速度ΔTは0.55ΔT0であった)。
被処理液が処理温度115℃に達した時点以降は、被処理液の温度が可能な限り115℃から変動しないようにヒーター3のパワーを制御した。具体的には、被処理液の温度が115℃以上120℃以下に維持されるようにした。
そして、被処理液が処理温度115℃に達した時点から11時間が経過した時点(即ち、処理時間trが11時間となった時点)でヒーター3をオフにして加熱を停止し、被処理液が常温(25℃)になるまで静置し、酸化処理後の被処理液をCNT分散液として回収した。
得られたCNT分散液を用いて、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率を測定し、その結果に基づいて、有効CNT歩留りを求めた。結果を表1に示す。
【0072】
<実施例1-1>
上部断熱材の量を10%削減したこと以外は、上述した予備実験の参考例4で使用した酸化処理装置100と同じ酸化処理装置を準備した。
次いで、参考例4と同様にして調製した被処理液(質量の値M=M0、CNT濃度0.5%)を容器8に入れた。
ヒーター3をオンにして被処理液の加熱を開始し、処理温度115℃まで昇温させた。なお、上部断熱材を10%削減したことにより、処理温度115℃の1/2である温度57.5℃の時点における被処理液の昇温速度ΔTは、上述した参考例4における昇温速度ΔT0から45%低下していた(即ち、実施例1-1における昇温速度ΔTは0.55ΔT0であった)。
被処理液が処理温度115℃に達した時点以降は、被処理液の温度が115℃からなるべく変動しないようにヒーター3のパワーを制御した。具体的には、被処理液の温度が115℃以上120℃以下に維持されるようにした。
そして、被処理液の質量の値M(=M0)と、被処理液の昇温速度ΔT(=0.55ΔT0)と、処理時間trとの積の値M・ΔT・trが上述した参照値Q0の値と一致するように、処理時間trが20時間になった時点でヒーター3をオフにして加熱を停止し、被処理液が常温(25℃)になるまで静置し、酸化処理後の被処理液をCNT分散液として回収した。
得られたCNT分散液を用いて、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率を測定し、その結果に基づいて、有効CNT歩留りを求めた。結果を表1に示す。
【0073】
<比較例1-2>
上述した予備実験の参考例4と同じ操作で、被処理液(質量の値M=M0、CNT濃度0.5%)を、酸化処理装置100の容器8に入れた。
ヒーター3をオンにして被処理液の加熱を開始し、処理温度115℃まで昇温させた。このとき、還流冷却装置2の冷媒の流量を、参考例4のときの冷媒の流量から30%増加させた。冷媒の流量の増加により、処理温度115℃の1/2である温度57.5℃の時点における被処理液の昇温速度ΔTは、上述した参考例4における昇温速度ΔT0から18%低下していた(即ち、比較例1-2における昇温速度ΔTは0.82ΔT0であった)。
被処理液が処理温度115℃に達した時点以降は、被処理液の温度が可能な限り115℃から変動しないようにヒーター3のパワーを制御した。具体的には、被処理液の温度が115℃以上120℃以下に維持されるようにした。
そして、被処理液が処理温度115℃に達した時点から11時間が経過した時点(即ち、処理時間trが11時間となった時点)でヒーター3をオフにして加熱を停止し、被処理液が常温(25℃)になるまで静置し、酸化処理後の被処理液をCNT分散液として回収した。
得られたCNT分散液を用いて、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率を測定し、その結果に基づいて、有効CNT歩留りを求めた。結果を表1に示す。
【0074】
<実施例1-2>
上述した予備実験の参考例4と同じ操作で、被処理液(質量の値M=M0、CNT濃度0.5%)を、酸化処理装置100の容器8に入れた。
ヒーター3をオンにして被処理液の加熱を開始し、処理温度115℃まで昇温させた。このとき、還流冷却装置2の冷媒の流量を、参考例4のときの冷媒の流量から30%増加させた。冷媒の流量の増加により、処理温度115℃の1/2である温度57.5℃の時点における被処理液の昇温速度ΔTは、上述した参考例4における昇温速度ΔT0から18%低下していた(即ち、実施例1-2における昇温速度ΔTは0.82ΔT0であった)。
被処理液が処理温度115℃に達した時点以降は、被処理液の温度が可能な限り115℃から変動しないようにヒーター3のパワーを制御した。具体的には、被処理液の温度が115℃以上120℃以下に維持されるようにした。
そして、被処理液の質量の値M(=M0)と、被処理液の昇温速度ΔT(=0.82ΔT0)と、処理時間trとの積の値M・ΔT・trが上述した参照値Q0の値と一致するように、処理時間trが13.4時間になった時点でヒーター3をオフにして加熱を停止し、被処理液が常温(25℃)になるまで静置し、酸化処理後の被処理液をCNT分散液として回収した。
得られたCNT分散液を用いて、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率を測定し、その結果に基づいて、有効CNT歩留りを求めた。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1より、実施例1-1および1-2により製造されたCNT分散液は、比較例1-1および1-2により製造されたCNT分散液よりも、有効CNT歩留りの値が、予備実験の参考例4で製造されたCNT分散液の有効CNT歩留りの値に近く、所望の特性を有していることがわかる。このことから、被処理液の質量または体積の値Mと、昇温速度ΔTと、処理時間trとの積の値M・ΔT・trに基づいて、ヒーターをオフにする時点を決定した実施例1-1および1-2では、処理時間trのみに基づいてヒーターをオフにする時点を決定した比較例1-1および1-2と比較して、所望の特性を有するカーボンナノチューブ分散液を精度良く製造できることが分かる。
【0077】
(本実験2)
<比較例2(ロット101~106)>
上述した予備実験の参考例4と同じ操作(即ち、被処理液が処理温度115℃に達した時点からヒーター3をオフにする時点までの処理時間tr=11[時間])での酸化処理を、ロット101~106の合計6回繰り返して行い、CNT分散液を製造した。
なお、上述した予備実験の参考例4と同じ操作を行ったものの、各ロット101~106の処理温度115℃の1/2である温度57.5℃の時点における被処理液の昇温速度ΔTの値と、参考例4における昇温速度ΔT0の値とは一致していなかった。また、各ロット101~106における昇温速度ΔT同士の値も一致しておらず、相互に異なっていた。
各ロット101~106で得られたCNT分散液を用いて、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率を測定し、その結果に基づいて、有効CNT歩留りを求めた。結果を図8に示す。
【0078】
<実施例2(ロット201~208)>
被処理液が処理温度115℃に達した時点からヒーター3をオフにする時点までの処理時間trが11時間になるようにヒーター3をオフにするのではなく、被処理液の質量の値Mと、処理温度115℃の1/2である温度57.5℃の時点における被処理液の昇温速度ΔTと、処理時間trとの積の値M・ΔT・trが上述した参照値Q0の値と一致するように、ヒーター3をオフにする時点を決定して、処理時間trを調整したこと以外は、上述した予備実験の参考例4と同じ操作での酸化処理を、ロット201~208の合計8回繰り返して行い、CNT分散液を製造した。
なお、上述した予備実験の参考例4と同じ操作を行ったものの、各ロット201~208における昇温速度ΔTの値と、参考例4における昇温速度ΔT0の値とは一致していなかった。また、各ロット201~208における昇温速度ΔTの値同士も一致しておらず、相互に異なっていた。よって、積の値M・ΔT・trを参照値Q0と一致させるため、各ロット201~208における処理時間trの値同士も一致しておらず、相互に異なっていた。
各ロット201~208で得られたCNT分散液を用いて、CNTの凝集率、CNTの炭素不純物含有率を測定し、その結果に基づいて、有効CNT歩留りを求めた。結果を図8に示す。
【0079】
図8より、実施例2(ロット201~208)により製造されたCNT分散液は、比較例2(ロット101~106)により製造されたCNT分散液よりも、有効CNT歩留りの値が、予備実験の参考例4で製造されたCNT分散液の有効CNT歩留りの値に近く、高いレベルで安定していて、所望の特性を有していることがわかる。このことから、被処理液の質量または体積の値Mと、昇温速度ΔTと、処理時間trとの積の値M・ΔT・trに基づいて、ヒーターをオフにする時点を決定した実施例2(ロット201~208)では、処理時間trのみに基づいてヒーターをオフにする時点を決定した比較例2(ロット101~106)と比較して、所望の特性を有するカーボンナノチューブ分散液を精度良く製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、所望の特性を有するカーボンナノチューブ分散液を精度良く製造し得るカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
1,9 断熱材
2 還流冷却装置
3 ヒーター
4 被処理液
5 攪拌装置
6,10,11 温度計
7 電源
8 容器
12 流量計
100 酸化処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8