IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許7359202耐水耐油剤組成物、その製造方法、物品及び耐水耐油紙
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】耐水耐油剤組成物、その製造方法、物品及び耐水耐油紙
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/20 20060101AFI20231003BHJP
   C08F 218/04 20060101ALI20231003BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20231003BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08F214/20
C08F218/04
C08F8/12
D21H21/14 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021509015
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2020010649
(87)【国際公開番号】W WO2020195860
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019061569
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上條 柚香
(72)【発明者】
【氏名】竹村 元宏
(72)【発明者】
【氏名】原 弘之
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104596(WO,A1)
【文献】特開昭61-281112(JP,A)
【文献】特開2013-100493(JP,A)
【文献】特開平07-133325(JP,A)
【文献】特開昭60-243107(JP,A)
【文献】特開2014-001369(JP,A)
【文献】特開2013-177585(JP,A)
【文献】DEMARTEAU, J et al.,Controlled Synthesis of Fluorinated Copolymers via Cobalt-Mediated Radical Copolymerization of Perfluorohexylethylene and Vinyl Acetate,Macromolecules,2017, Vol.50,p.3750-3760
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F214/
C08F218/
C08F 8/
D21H 21/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記単位aと、下記単位b及び下記単位cのうち少なくとも前記単位bとを有する重合体と、液状媒体とを含み
前記重合体を構成する全単位に対する前記単位aの割合が28~70モル%、前記単位bと前記単位cとの合計の割合が30~72モル%であり、
前記単位bと前記単位cとの合計に対する前記単位bの割合が45モル%以上である、耐水耐油剤組成物
単位a:下式1で表される単位。
-(CH-CHR)- 式1
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
単位b:下式2で表される単位。
-(CH-CH(OH))- 式2
単位c:下式3で表される単位。
-(CH-CH(OC(=O)R))- 式3
ただし、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。
【請求項2】
前記単位aと前記単位bの合計のモル数に対する前記単位aの割合が、20~70モル%である、請求項1に記載の耐水耐油剤組成物
【請求項3】
前記重合体の数平均分子量が9,000以上である、請求項1又は2に記載の耐水耐油剤組成物
【請求項4】
紙用である請求項1~3のいずれか一項に記載の耐水耐油剤組成物。
【請求項5】
重合体と液状媒体とを含む耐水耐油剤組成物の製造方法であり、
下記単量体aと下記単量体cとを含み、単量体成分全体に対する前記単量体aの割合が28~70モル%、前記単量体cの割合が30~72モル%である単量体成分を重合開始剤の存在下で重合して、前記単量体aに基づく単位と前記単量体cに基づく単位とを有する重合体を得、前記単量体cに基づく単位を、前記単量体cに基づく単位に対するけん化度が45モル%以上になるようにけん化する、耐水耐油剤組成物の製造方法。
単量体a:下式4で表される化合物。
CH=CH-R 式4
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
単量体c:下式5で表される化合物。
CH=CH-OC(=O)R 式5
ただし、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。
【請求項6】
乳化剤の存在下で前記単量体成分を重合して得られた重合体を含むエマルションを得る、請求項に記載の耐水耐油剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記エマルションから重合体を回収し、回収した重合体をけん化する、請求項に記載の耐水耐油剤組成物の製造方法。
【請求項8】
前記回収した重合体を精製して、けん化する、請求項に記載の耐水耐油剤組成物の製造方法。
【請求項9】
前記単量体cに基づく単位を含フッ素媒体の存在下でけん化する、請求項のいずれか一項に記載の耐水耐油剤組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の耐水耐油剤組成物を用いて処理された、物品。
【請求項11】
下記単位aと、下記単位b及び下記単位cのうち少なくとも前記単位bとを有する重合体を含み
前記重合体を構成する全単位に対する前記単位aの割合が28~70モル%、前記単位bと前記単位cとの合計の割合が30~72モル%であり、
前記単位bと前記単位cとの合計に対する前記単位bの割合が45モル%以上である、耐水耐油紙
単位a:下式1で表される単位。
-(CH-CHR)- 式1
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
単位b:下式2で表される単位。
-(CH-CH(OH))- 式2
単位c:下式3で表される単位。
-(CH-CH(OC(=O)R))- 式3
ただし、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。
【請求項12】
前記単位aと前記単位bの合計のモル数に対する前記単位aの割合が、20~70モル%である、請求項11に記載の耐水耐油紙
【請求項13】
前記重合体の数平均分子量が9,000以上である、請求項11又は12に記載の耐水耐油紙
【請求項14】
フッ素原子含有量が0.01~2.0g/mである、請求項11~13のいずれか一項に記載の耐水耐油紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体、その製造方法、耐水耐油剤組成物、物品及び耐水耐油紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙等の基材に耐水性及び耐油性を付与する耐水耐油剤組成物が知られている。耐水耐油剤組成物でパルプ又は紙を処理すると耐水耐油紙が得られる。耐水耐油剤組成物でパルプ又は紙を処理する方法としては、例えば、耐水耐油剤組成物を紙に塗布又は含浸する方法(外添加工)、耐水耐油剤組成物を含むパルプスラリーを抄紙する方法(内添加工)がある。
【0003】
特許文献1には、含フッ素共重合体が水性媒体に分散された耐水耐油剤組成物が記載されている。特許文献1の含フッ素共重合体は、炭素数6以下のペルフルオロアルキル基を有する単量体に基づく単位を60~98質量%、オキシアルキレン基を有する単量体に基づく単位を1~20質量%及びジアルキルアミノ基を有する単量体に基づく単位を1~30質量%含む。
【0004】
しかし、特許文献1の含フッ素共重合体は、単量体として(メタ)アクリレートを用いており、(メタ)アクリレートにおけるエステル結合が、アルカリ等による加水分解や紫外線による光分解で切断されやすい。そのため、含フッ素共重合体からペルフルオロアルキル基等が失われて、耐水性及び耐油性が低下することがある。
【0005】
一方、ペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有しない含フッ素共重合体として、以下のものが知られている。
(1)(ペルフルオロアルキル)ビニル単位と酢酸ビニル単位とビニルアルコール単位とを有する含フッ素共重合体(特許文献2)。
(2)(ペルフルオロアルキル)ビニル単位と酢酸ビニル単位とを有する含フッ素共重合体(特許文献3~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2005/090423号
【文献】特開昭60-243107号公報
【文献】特開昭61-281112号公報
【文献】特開平7-133325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の含フッ素共重合体は、(ペルフルオロアルキル)ビニル単位の含有量が少なく、水溶性であるので、この含フッ素共重合体を含む組成物で基材を処理した場合、耐水性や耐油性が不充分である。
特許文献3及び特許文献4の含フッ素共重合体は、(ペルフルオロアルキル)ビニル単位の含有量は多いものの、この含フッ素共重合体を含む組成物で基材を処理した場合、耐水性や耐油性が不充分である。
【0008】
本発明は、液状媒体に溶解又は分散可能で、耐水性及び耐油性に優れた耐水耐油紙等が得られる重合体、その製造方法、耐水性及び耐油性に優れた耐水耐油紙等が得られる耐水耐油剤組成物、及び耐水性及び耐油性に優れた物品及び耐水耐油紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下である。
<1>下記単位aと、下記単位b及び下記単位cのうち少なくとも前記単位bとを有する重合体であり、
前記重合体を構成する全単位に対する前記単位aの割合が28~70モル%、前記単位bと前記単位cとの合計の割合が30~72モル%であり、
前記単位bと前記単位cとの合計に対する前記単位bの割合が45モル%以上である、重合体。
単位a:下式1で表される単位。
-(CH-CHR)- 式1
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
単位b:下式2で表される単位。
-(CH-CH(OH))- 式2
単位c:下式3で表される単位。
-(CH-CH(OC(=O)R))- 式3
ただし、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。
<2>前記単位aと前記単位bの合計のモル数に対する前記単位aの割合が、20~70モル%である、前記<1>の重合体。
<3>数平均分子量が9,000以上である、前記<1>又は<2>の重合体。
<4>下記単量体aと下記単量体cとを含み、単量体成分全体に対する前記単量体aの割合が28~70モル%、前記単量体cの割合が30~72モル%である単量体成分を重合開始剤の存在下で重合して、前記単量体aに基づく単位と前記単量体cに基づく単位とを有する重合体を得、前記単量体cに基づく単位を、前記単量体cに基づく単位に対するけん化度が45モル%以上になるようにけん化する、重合体の製造方法。
単量体a:下式4で表される化合物。
CH=CH-R 式4
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
単量体c:下式5で表される化合物。
CH=CH-OC(=O)R 式5
ただし、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。
<5>乳化剤の存在下で前記単量体成分を重合して得られた重合体を含むエマルションを得る、前記<4>の重合体の製造方法。
<6>前記エマルションから重合体を回収し、回収した重合体をけん化する、前記<5>の重合体の製造方法。
<7>前記回収した重合体を精製して、けん化する、前記<6>の重合体の製造方法。
<8>前記単量体cに基づく単位を含フッ素媒体の存在下でけん化する、前記<4>~<7>のいずれかの重合体の製造方法。
<9>前記<1>~<3>のいずれかの重合体と液状媒体とを含む、耐水耐油剤組成物。
<10>紙用である前記<9>の耐水耐油剤組成物。
<11>前記<9>の耐水耐油剤組成物を用いて処理された、物品。
<12>前記<1>~<3>のいずれかの重合体を含む、耐水耐油紙。
<13>フッ素原子含有量が0.01~2.0g/mである、前記<12>の耐水耐油紙。
【発明の効果】
【0010】
本発明の重合体は、液状媒体に溶解又は分散可能である。また、本発明の重合体によれば、耐水性及び耐油性に優れた耐水耐油紙等が得られる。
本発明の重合体の製造方法によれば、液状媒体に溶解又は分散可能で、耐水性及び耐油性に優れた耐水耐油紙等が得られる重合体を製造できる。
本発明の耐水耐油剤組成物によれば、耐水性及び耐油性に優れた耐水耐油紙等が得られる。
本発明の物品は、耐水性及び耐油性に優れる。
本発明の耐水耐油紙は、耐水性及び耐油性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における用語の意味や定義は以下の通りである。
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。「単量体に基づく単位」を、単に、「単量体単位」ともいう。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。同様に、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基及びメタアクリロイルオキシ基の総称である。
固形分濃度は、加熱前の試料の質量を試料質量、120℃の対流式乾燥機にて試料を4時間乾燥した後の質量を固形分質量として、固形分質量/試料質量×100によって計算される。
重合体の数平均分子量(以下、「Mn」という。)及び質量平均分子量(以下、「Mw」という。)は、標準ポリメチルメタクリレート試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、「GPC」という。)で測定することによって得られるポリメチルメタクリレート換算分子量である。
【0012】
<重合体>
本発明の重合体(以下、「重合体A」ともいう。)は、単位aと単位bとを有する。
重合体Aは、単位cをさらに有してもよい。
重合体Aは、他の単位(以下、「単位d」という。)をさらに有していてもよい。
単位a:下式1で表される単位。
-(CH-CHR)- 式1
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
単位b:下式2で表される単位。
-(CH-CH(OH))- 式2
単位c:下式3で表される単位。
-(CH-CH(OC(=O)R))- 式3
ただし、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。
【0013】
単位aにおけるRの炭素数は、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性により優れる点から、4~6が好ましく、6が特に好ましい。
は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0014】
としては、CF、CFCF、CF(CF、CFCFCFCF及びCFCFCFCFCFCFが好ましく、CF、CFCF、CFCFCFCF及びCFCFCFCFCFCFがより好ましく、CFCFCFCF及びCFCFCFCFCFCFがさらに好ましい。
【0015】
単位aは、典型的には、単量体aに基づく単位である。
単量体a:下式4で表される化合物。
CH=CH-R 式4
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
単量体aは、2種以上を併用してもよい。
【0016】
単位cにおいて、Rの炭素数は、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性により優れる点から、1~2が好ましく、1が特に好ましい。すなわち、Rはメチル基であることが特に好ましい。
Rは、直鎖状であってもよく分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0017】
単位cは、典型的には、単量体cに基づく単位である。
単量体c:下式5で表される化合物。
CH=CH-OC(=O)R 式5
ただし、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。
【0018】
単量体cは、炭素数1~4のアルキル基を有するカルボン酸ビニルエステルである。単量体cとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバル酸ビニルが挙げられる。
単量体cは、2種以上を併用してもよい。
【0019】
単位dは、単量体a及び単量体cと共重合可能な他の単量体(以下、「単量体d」という。)に基づく単位である。
単量体dは、重合反応性の炭素-炭素二重結合を2個以上有する化合物であってもよい。他の単量体における重合反応性の炭素-炭素二重結合の数は、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
単量体dとしては、単量体a及び単量体cと共重合しやすい点から、ビニル基又はアリル基を有する化合物が好ましい。
【0020】
単量体dとしては、炭素数8以上のカルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル、ハロゲン化ビニル、オレフィン、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ハロゲン化ビニル以外のハロゲン化オレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
炭素数8以上のカルボン酸ビニルエステルとしては、例えば、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、桂皮酸ビニル、が挙げられる。
カルボン酸アリルエステルとしては、例えば、酢酸アリル、アジピン酸ジアリルが挙げられる。
【0022】
ビニルエーテルとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、iso-ブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、クロロメチルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、クロロプロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
アリルエーテルとしては、例えば、アリルエチルエーテル、ジアリルエーテル、1,3-ジアリルオキシ-2-プロパノールが挙げられる。
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニルやフッ化ビニルが挙げられる。
オレフィンとしては、エチレン、プロピレンが挙げられる。
【0023】
(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、脂肪族環状(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
脂肪族環状(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記以外の(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、窒素原子がヘテロ環構造を形成する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジイソプロピルアクリルアミド、N-(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(t-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ラウリル(メタ)アクリルアミド、N-ステアリル(メタ)アクリルアミド、N-ベヘニル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、が挙げられる。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
窒素原子がヘテロ環構造を形成する(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジンが挙げられる。
【0025】
ハロゲン化ビニル以外のハロゲン化オレフィンとしては、例えば、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCFが挙げられる。
【0026】
単量体dの他の例としては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、エチルビニルスルフィドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
単位aの割合は、重合体Aを構成する全単位に対して28~70モル%であり、30~45モル%が好ましく、32~40モル%がより好ましい。単位aの割合が前記範囲の下限値以上であれば、単量体成分の重合時に単量体成分の重合体Aへの転化率を向上させ、重合体Aの分子量も高くできる。また、重合体Aを、単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合が高いながらも有機溶剤に溶解可能なものとしやすい。また、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。単位aの割合が前記範囲の上限値以下であれば、重合体Aへの転化率を向上させるとともに、重合体Aの分子量も高くできる。
【0028】
単位bと単位cとの合計の割合は、重合体Aを構成する全単位に対して30~72モル%であり、35~70モル%が好ましく、40~68モル%がより好ましい。単位bと単位cとの合計の割合が前記範囲の下限値以上であれば、重合体Aへの転化率を向上させるとともに、重合体Aの分子量も高くできる。単位bと単位cとの合計の割合が前記範囲の上限値以下であれば、重合体Aを、単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合が高いながらも有機溶剤に溶解可能なものとしやすい。また、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。
【0029】
単位bの割合は、単位bと単位cとの合計に対して45モル%以上であり、75モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、100モル%であってもよい。単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合が前記下限値以上であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。
なお、典型的には、単位bは、単位cがけん化されたものであり、単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合は、けん化度に相当する。
【0030】
単位aのモル数の割合は、単位aと単位bの合計のモル数に対して20~70モル%が好ましく、25~45モル%がより好ましく、30~40モル%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、有機溶剤に溶解しやすい。
単位aと単位bと単位cとの合計の割合は、重合体Aを構成する全単位に対して70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。上記範囲内であれば、単量体成分の重合時に単量体成分の重合体Aへの転化率を向上させ、かつ重合体Aの分子量も高くできる。また、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。
各単位の割合は、例えば、H-NMRや13C-NMRによって算出できる。
【0031】
重合体AのMnは、9,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、11,000以上がさらに好ましい。重合体AのMnは、100,000以下が好ましく、80,000以下がより好ましく、50,000以下がさらに好ましい。重合体AのMnが前記範囲の下限値以上であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性がさらに優れる。重合体AのMnが前記範囲の上限値以下であれば、重合体Aの有機溶剤への溶解性がさらに優れるとともに、重合体Aの溶液の粘度を低くできる。
重合体AのMnは、9,000~100,000が好ましく、10,000~80,000がより好ましく、11,000~50,000がさらに好ましい。重合体AのMnが前記範囲内であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性がさらに優れる。
【0032】
重合体AのMwは、9,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましく、20,000以上がさらに好ましい。重合体AのMwは、150,000以下が好ましく、120,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。重合体AのMwが前記範囲の下限値以上であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性がさらに優れる。重合体AのMwが前記範囲の上限値以下であれば、重合体Aの有機溶剤への溶解性がさらに優れるとともに、重合体Aの溶液の粘度を低くできる。
重合体AのMwは、9,000~150,000が好ましく、15,000~120,000がより好ましく、20,000~100,000がさらに好ましい。重合体AのMwが前記範囲内であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性がさらに優れる。
【0033】
重合体Aは、分子量が1,000以下の重合体Aを含まないか、含む場合はその割合は重合体A全体に対して1%以下であることが好ましい。重合体Aは、分子量が1,000以下の重合体Aを含まないことがより好ましい。前記重合体Aの分子量が1,000以下の重合体Aを含む場合、その割合は重合体A全体に対して1%以下であることがより好ましい。
重合体Aが、分子量が1,000以下の重合体Aを含まないか、含む場合はその割合が上記範囲内であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性がさらに優れる。
重合体A全体に対する分子量が1,000以下の重合体Aの割合は、重合体Aの分子量をGPC測定により測定して得られたチャートにおいて、重合体A全体のピーク面積に対する分子量が1,000以下の部分のピーク面積の割合(%)として算出できる。
【0034】
(作用機序)
以上説明した重合体Aにあっては、単位aと、単位b及び単位cのうち少なくとも単位bを有し、全単位に対する単位aの割合が28~70モル%、単位bと単位cとの合計の割合が30~72モル%であり、単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合が45モル%以上であるから、液状媒体に溶解又は分散可能である。また、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。
【0035】
<重合体の製造方法>
重合体Aは、例えば以下の製造方法により製造できる。
下記単量体aと下記単量体cとを含み、単量体成分全体に対する前記単量体aの割合が28~70モル%、前記単量体cの割合が30~72モル%である単量体成分を重合開始剤の存在下で重合して、前記単量体aに基づく単位と前記単量体cに基づく単位とを有する重合体(以下、「重合体B」ともいう。)を得、前記単量体cに基づく単位を、けん化度が45モル%以上になるようにけん化して単位bに変換することにより、重合体Aを製造することができる。単位bに変換するのは単量体cに基づく単位の一部でも全部でもよい。
単量体a:下式4で表される化合物。
CH=CH-R 式4
単量体c:下式5で表される化合物。
CH=CH-OC(=O)R 式5
及びRはそれぞれ前記したとおりである。
単量体成分は、他の単量体をさらに含んでいてもよい。
【0036】
単量体成分全体に対する単量体aの割合は、28~70モル%であり、30~45モル%が好ましく、32~40モル%がより好ましい。単量体aの割合が前記範囲の下限値以上であれば、単量体成分の重合時に単量体成分の重合体Bへの転化率を向上させ、重合体Bの分子量も高くできる。また、重合体Aを、単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合が高いながらも有機溶剤に溶解可能なものとしやすい。また、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。単量体aの割合が前記範囲の上限値以下であれば、重合体Bへの転化率を向上させるとともに、重合体Bの分子量も高くできる。
【0037】
単量体成分全体に対する単量体cの割合は、30~72モル%であり、35~70モル%が好ましく、40~68モル%がより好ましい。単量体cの割合が前記範囲の下限値以上であれば、重合体Bへの転化率を向上させるとともに、重合体Bの分子量も高くできる。単量体cの割合が前記範囲の上限値以下であれば、重合体Aを、単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合が高いながらも有機溶剤に溶解可能なものとしやすい。また、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。
【0038】
単量体成分全体に対する単量体aと単量体cとの合計の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。上記範囲内であれば、単量体成分の重合時に単量体成分の重合体Bへの転化率を向上させ、かつ重合体Bの分子量も高くできる。また、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。
【0039】
重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤、放射線重合開始剤、ラジカル重合開始剤、イオン性重合開始剤が挙げられ、ラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系開始剤が重合温度に応じて用いられる。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系化合物が好ましく、アゾ系化合物の塩がより好ましい。
重合開始剤の添加量は、単量体成分100質量部に対して0.1~5質量部が好ましく、0.1~3質量部がより好ましい。
重合温度は、20~150℃が好ましく、40~90℃がさらに好ましい。
【0040】
単量体成分を重合する際には、分子量調整剤を用いてもよい。分子量調整剤としては、例えば、芳香族化合物、メルカプトアルコール、メルカプトカルボン酸、アルキルメルカプタンが好ましく、メルカプトカルボン酸又はアルキルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤としては、例えば、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマ(CH=C(Ph)CHC(CHPh、ただしPhはフェニル基である。)が挙げられる。
分子量調整剤の添加量は、単量体成分100質量部に対して0~5質量部が好ましく、0~2質量部がより好ましい。
【0041】
重合方法としては、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合等が挙げられる。これらの中でも乳化重合法が好ましい。単量体成分を乳化重合法により重合することにより、水性媒体以外の液状媒体を使用することなく、単量体成分の重合体Bへの転化率を向上できるとともに、重合体Bの分子量を高くできる。
【0042】
乳化重合法では、例えば、単量体成分と水性媒体と乳化剤と重合開始剤とを含む乳化液中で単量体成分を重合する。
水性媒体としては、後述する耐水耐油剤組成物における水性媒体と同様のものが挙げられる。
乳化剤としては、後述する耐水耐油剤組成物における乳化剤と同様のものが挙げられる。
【0043】
乳化液は、水性媒体、単量体成分及び乳化剤を混合し、ホモジナイザー、高圧乳化機等で分散した後、重合開始剤を添加することにより調製できる。混合液を乳化する際の温度は、例えば20~150℃である。
乳化液中の単量体成分の濃度は、40~70質量%が好ましく、45~60質量%がより好ましい。乳化液中の単量体成分の濃度が前記範囲内であれば、単量体成分の重合時に単量体成分の重合体Bへの転化率を向上させることができるとともに、重合体Bの分子量を充分に高くできる。
【0044】
乳化液中の乳化剤の含有量は、単量体成分の100質量部に対して1~6質量部が好ましい。乳化剤の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、乳化液の分散安定性に優れる。乳化剤の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性や耐油性への悪影響が少ない。
【0045】
乳化液中の単量体成分を重合するには、例えば、乳化液の温度を、前記した重合温度に昇温すればよい。重合時間は、例えば4~120時間である。
重合終了時の単量体成分の重合体Bへの転化率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。転化率を高くすることにより、重合体Bの分子量も高くなり、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性も良好となる。また、高い転化率にすることで、残存単量体による性能低下が抑えられるとともに、重合体A中に含まれるフッ素原子の数が多くなるため、耐水性及び耐油性が良好となる。転化率を80%以上とする方法としては、乳化組成を最適化する方法、重合時間を最適化する方法、重合時の単量体aと単量体cとのモル比率(a/c)を最適化する方法が挙げられる。転化率を80%以上とする点で、重合時の単量体aと単量体cとのモル比率(a/c)は28/72~70/30が好ましく、30/70~50/50がより好ましい。
【0046】
乳化液中で単量体成分に重合することにより、重合体Bのエマルションが得られる。
エマルションはそのままけん化工程に供してもよいし、エマルションから重合体Bを回収し、回収した重合体Bをけん化工程に供してもよい。
重合体Bの回収方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用できる。例えば、後述する実施例に示すように、エマルションを2-ブタノールとヘキサンの混合媒体に滴下して重合体Bを析出させ、固液分離する方法が挙げられる。
【0047】
回収した重合体Bをけん化工程に供する前に、重合体Bを精製してもよい。
精製方法としては、例えば、重合体Bを水及び水以外の極性溶剤で洗浄する方法が挙げられる。
水の温度は、20~70℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。
水の使用量は、例えば、重合体Bに対し、質量比で6~20倍である。
水以外の極性溶剤としては、重合体Bが溶解または膨潤せず、比較的低沸点な極性溶剤が作業性の面で好ましく、プロトン性極性溶剤がより好ましい。プロトン性極性溶剤の具体例としては、t-ブタノールやイソプロピルアルコールが挙げられる。極性溶剤の温度は、特に制限はないが、例えば20~30℃である。
水以外の極性溶剤の使用量は、例えば、重合体Bに対し、質量比で6~20倍である。
洗浄時間は、例えば5~40分間である。
【0048】
重合体B中の単量体cに基づく単位をけん化することで、単量体cに基づく単位の一部又は全部が単位bに変換される。
けん化方法は、特に限定されず、公知のけん化方法を採用できる。例えば、重合体Bを、水性媒体の存在下でアルカリ化合物と接触させる方法が挙げられる。
水性媒体としては、後述する耐水耐油剤組成物における水性媒体と同様のものを用いることができる。水性媒体の使用量は、例えば、重合体B100質量部に対して200~5000質量部である。
アルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ化合物の使用量は、有効成分の量として、例えば、重合体B100質量部に対して0.2~35質量部である。
アルカリ化合物を水溶液で用いる場合の濃度は、5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。使用するアルカリ化合物の濃度によって、けん化時間を調整することができる。
【0049】
単量体cに基づく単位は、含フッ素媒体の存在下でけん化することが好ましい。含フッ素媒体は重合体Bを良好に分散できるので、含フッ素媒体を存在させることにより、単量体cに基づく単位を効率良くけん化できる。
単量体cに基づく単位を含フッ素媒体の存在下でけん化するには、例えば、重合体Bと含フッ素媒体とを混合して分散液を得、この分散液に水性媒体及びアルカリ化合物を添加し、反応させればよい。
【0050】
含フッ素媒体としては、例えば、1H-トリデカフルオロヘキサン(AGC社製品名、アサヒクリンAC-2000、以下「AC-2000」という。)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(AGC社製品名、アサヒクリンAC-6000、以下「AC-6000」という。))、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン(AGC社製品名、アサヒクリンAE-3000、以下「AE-3000」という。)、ジクロロペンタフルオロプロパン(AGC社製品名、アサヒクリンAK-225、以下「AK-225」という。)、1、1、1、2、3、4、4、5、5、5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(AGC社製品名、サイトップCT-solv100E)、1-メトキシノナフルオロブタン(スリーエムジャパン社製品名、Novec7100)、1-エトキシノナフルオロブタン(スリーエムジャパン社製品名、Novec7200)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロ-4-(1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロポキシ)ペンタン(スリーエムジャパン社製品名、Novec7600)、2H,3H-ペルフルオロペンタン(三井・デュポンフロロケミカル社製品名、VertrelXF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-トリデカフルオロ-1-ノナノール、ヘキサフルオロベンゼン、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール、1H,1H,7H-ドデカフルオロ-1-ヘプタノールが挙げられる。
【0051】
単量体cに基づく単位をけん化する際の反応温度は、5~80℃が好ましく、20~70℃がより好ましい。反応時間は、所望のけん化度に応じて設定でき、反応温度によっても異なるが、例えば5分~48時間、さらには30分~30時間である。
反応は、例えば、アルカリ化合物を中和する方法、アルカリ化合物を水性媒体で洗浄する方法等により終了できる。
反応終了後、必要に応じて、反応液から水性媒体等を除去して重合体Aを回収する。
【0052】
けん化度は、45モル%以上であり、75モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、100モル%であってもよい。けん化度が前記下限値以上であれば、重合体Aを含む組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。
【0053】
<耐水耐油剤組成物>
本発明の耐水耐油剤組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、重合体Aと液状媒体とを含む。
液状媒体としては、水性媒体、非水性媒体又はそれらの混合媒体が挙げられる。
液状媒体が水性媒体である場合、本組成物は、重合体Aと水性媒体と乳化剤とを含む重合体分散液であることが好ましい。
液状媒体が非水性媒体又は混合媒体である場合、本組成物は、重合体Aと非水性媒体又は混合媒体とを含む重合体溶液であることが好ましい。重合体溶液における乳化剤は、典型的には、重合体Aの100質量部に対して0.3質量部以下である。
本組成物とは、本発明の重合体Aの製造方法によって得られた分散液、及び基材を処理するために、当該分散液をさらに希釈した分散液のことも意味する。
本組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0054】
(水性媒体)
水性媒体としては、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合媒体が挙げられる。
水溶性有機溶剤は、水と任意の割合で混和可能な有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール(ただし、エーテルアルコールを除く。)、エーテルアルコール及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。アルコールとしては、例えば、t-ブタノール、プロピレングリコールが挙げられる。エーテルアルコールとしては、例えば、3-メトキシメチルブタノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールが挙げられる。非プロトン性極性溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン(以下、「THF」という。)、アセトニトリル、アセトンが挙げられる。液状媒体が水性媒体である場合の水溶性有機溶剤としては、重合体Aと水性媒体との相溶性を向上して基材上で均一な膜をつくりやすい点から、エーテルアルコールが好ましく、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましい。液状媒体が後述の混合媒体である場合の水性媒体としては、非プロトン性極性溶剤が好ましい。
水性媒体が水溶性有機溶剤を含む場合、水溶性有機溶剤の含有量は、水の100質量部に対して、1~80質量部が好ましく、10~60質量部がより好ましい。
【0055】
(非水性媒体)
非水性媒体は、上記水性媒体を含まない液状媒体であり、典型的には、水溶性有機溶剤以外の有機溶剤である。非水性媒体としては、重合体Aを溶解可能なものであれば特に限定されず、例えば、上記水性媒体を含まないケトン、アミド結合を有する化合物、上記水性媒体を含まず、かつエーテル結合を有し水酸基を有さない化合物、含フッ素媒体が挙げられる。
上記水性媒体を含まないケトンとしては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
アミド結合を有する化合物としては、例えば、ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシージメチルプロパンアミド、メチルピロリドンが挙げられる。
上記水性媒体を含まず、かつエーテル結合を有し水酸基を有さない化合物としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
含フッ素媒体としては、上記耐水耐油剤組成物の項目で挙げた化合物と同様の化合物を用いることができる。
非水性媒体としては、2種以上を用いてもよい。
【0056】
(混合媒体)
混合媒体は、重合体Aを溶解可能であり、かつ非水性媒体と、非水性媒体と任意に混和可能な水性媒体を組合せた混合媒体であってよい。
混合媒体を構成する非水性媒体としては、上記の化合物を用いることができ、含フッ素媒体又は上記ケトン化合物が好ましい。混合媒体における含フッ素媒体としては、AK-225、AE-3000、AC-6000、AC-2000が好ましい。上記ケトン化合物としては、メチルイソブチルケトンが好ましい。
混合媒体を構成する水性媒体としては、上記の化合物を用いることができ、水溶性有機溶剤が好ましく、非プロトン性極性溶剤がより好ましく、THF、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミドがさらに好ましい。
混合媒体としては、含フッ素媒体及び非プロトン性極性溶剤の組み合わせ、又は含フッ素媒体及び上記ケトン化合物の組み合わせが好ましく、AK-225とTHFの混合媒体がより好ましい。
混合媒体における含フッ素媒体の割合は、混合媒体の全質量に対して、30~70体積%が好ましく、40~60体積%がより好ましい。上記混合媒体における、含フッ素媒体の割合が上記範囲内であると、重合体Aが溶解しやすいため好ましい。上記割合は、室温(25±5℃)における値である。
【0057】
(乳化剤)
乳化剤は、親水部位と疎水部位の両方を有する界面活性剤である。
乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤が挙げられる。乳化剤は、フッ素原子を有さない非フッ素系乳化剤が好ましい。
乳化剤としては、本組成物の分散安定性に優れる点から、ノニオン性乳化剤の単独使用、ノニオン性乳化剤とカチオン性乳化剤もしくは両性乳化剤との併用、又はアニオン性乳化剤の単独使用が好ましく、ノニオン性乳化剤とカチオン性乳化剤との併用がより好ましい。
ノニオン性乳化剤とカチオン性乳化剤との比(ノニオン性乳化剤/カチオン性乳化剤)は、100/0~40/60(質量比)が好ましく、97/3~40/60(質量比)がより好ましい。
ノニオン性乳化剤とカチオン性乳化剤との特定の組み合わせにおいては、重合体Aの100質量部に対する乳化剤の合計量を、5質量部以下にできるので、乳化剤に起因する本組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性への悪影響を低減できる。
【0058】
ノニオン性乳化剤の例としては、特開2009-215370号公報の段落[0067]~[0095]に記載の界面活性剤s1~s6が挙げられる。
界面活性剤s1は、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンモノアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンモノアルカポリエニルエーテル、又はポリオキシアルキレンモノポリフルオロアルキルエーテルである。界面活性剤s1としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
界面活性剤s2は、分子中に1個以上の炭素-炭素三重結合及び1個以上の水酸基を有する化合物である。界面活性剤s2としては、アセチレングリコールエチレンオキシド付加物がノニオン性乳化剤として好ましい。
界面活性剤s3は、ポリオキシエチレン鎖と、炭素数が3以上のオキシアルキレンが2個以上連続して連なったポリオキシアルキレン鎖とが連結し、かつ、両末端が水酸基である化合物である。界面活性剤s3としては、エチレンオキシドプロピレンオキシド重合物が好ましい。
ノニオン性乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
カチオン性乳化剤の例としては、特開2009-215370号公報の段落[0096]~[0100]に記載の界面活性剤s7が挙げられる。
界面活性剤s7は、置換アンモニウム塩形のカチオン性乳化剤である。
界面活性剤s7としては、窒素原子に結合する水素原子の1個以上が、アルキル基、アルケニル基又は末端が水酸基であるポリオキシアルキレン鎖で置換されたアンモニウム塩が好ましく、下式s71で表される化合物s71がより好ましい。
[(R21]・X 式s71。
21は、水素原子、炭素数が1~22のアルキル基、炭素数が2~22のアルケニル基、炭素数が1~9のフルオロアルキル基、又は末端が水酸基であるポリオキシアルキレン鎖である。4つのR21は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、4つのR21は同時に水素原子ではない。Xは、対イオンである。
としては、塩素イオン、エチル硫酸イオン、又は酢酸イオンが好ましい。
化合物s71としては、例えば、モノステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、モノステアリルジメチルモノエチルアンモニウムエチル硫酸塩、モノ(ステアリル)モノメチルジ(ポリエチレングリコール)アンモニウムクロリド、モノフルオロヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、ジ(牛脂アルキル)ジメチルアンモニウムクロリド、ジメチルモノココナッツアミン酢酸塩が挙げられる。
カチオン性乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
両性乳化剤の例としては、特開2009-215370号公報の段落[0101]~[0102]に記載の界面活性剤s8が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤s8は、アラニン、イミダゾリニウムベタイン、アミドベタイン又は酢酸ベタインである。
【0061】
(他の成分)
他の成分は、本発明の重合体Aの製造方法によって得られた分散液に添加してもよいし、当該分散液をさらに希釈した分散液に添加してもよい。
本発明の重合体Aの製造方法によって得られた分散液に添加する他の成分としては、例えば、重合体A以外の樹脂、糊剤、架橋剤、触媒、有機充填材、無機充填材、支持剤、保剤、凝集剤、緩衝剤、殺菌剤、殺生物剤、金属イオン封鎖剤、疎水化剤、界面活性剤、消泡剤、揮発性有機溶剤が挙げられる。
基材を処理するために上記分散液をさらに希釈した分散液に添加する他の成分としては、例えば、後述の外添加工用の併用剤として、紙力増強剤(各種澱粉、樹脂等)、サイズ剤、浸透剤、消泡剤、キレート剤、染料、顔料、染料、バインダ、酸、アルカリ、アルギネート、硫酸バンドが挙げられ、後述の内添加工における併用剤として、凝結剤、歩留り剤、サイズ剤、紙力増強剤、顔料、染料、pH調整剤が挙げられる。
他の成分は2種類以上を用いてもよい。
重合体Aの製造方法によって得られた分散液に添加した種類と同じ成分又は同じ作用を引き起こす成分であって、別の種類の成分を、さらに基材を処理するために上記分散液を希釈した分散液に添加してもよい。他の成分の例示はこれらに限定されない。
【0062】
本組成物が架橋剤を含む場合、基材との接着性が向上しやすい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、メチロール系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びオキサゾリン系架橋剤が好ましい。
イソシアネート系架橋剤としては、例えば、芳香族ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、脂肪族ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、芳香族非ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、脂肪族非ブロックタイプイソシアネート系架橋剤が挙げられる。イソシアネート系架橋剤は、界面活性剤によって乳化された水分散型、又は親水基を有した自己水分散型が好ましい。
【0063】
メチロール系架橋剤としては、例えば、尿素又はメラミンとホルムアルデヒドとの縮合物又は予備縮合物、メチロール-ジヒドロキシエチレン-尿素及びその誘導体、メチロール-エチレン-尿素、メチロール-プロピレン-尿素、メチロール-トリアゾン、ジシアンジアミド-ホルムアルデヒドの縮合物、メチロール-カルバメート、メチロール-(メタ)アクリルアミド、これらの重合体が挙げられる。
【0064】
カルボジイミド系架橋剤は、分子中にカルボジイミド基を有するポリマーであり、基材等のカルボキシ基、アミノ基、活性水素基と優れた反応性を示す架橋剤である。
オキサゾリン系架橋剤は、分子中にオキサゾリン基を有するポリマーであり、基材等のカルボキシ基と優れた反応性を示す架橋剤である。
【0065】
他の架橋剤としては、例えば、ジビニルスルホン、ポリアミド及びそのカチオン誘導体、ポリアミン及びそのカチオン誘導体、ジグリシジルグリセロール等のエポキシ誘導体、(エポキシ-2,3-プロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、N-メチル-N-(エポキシ-2,3-プロピル)モルホリニウムクロライド等のハライド誘導体、エチレングリコールのクロロメチルエーテルのピリジニウム塩、ポリアミン-ポリアミド-エピクロヒドリン樹脂、ポリビニルアルコール又はその誘導体、ポリアクリルアミド又はその誘導体、グリオキサール樹脂系防しわ剤が挙げられる。
【0066】
本組成物が、メチロール系架橋剤又はグリオキサール樹脂系防しわ剤を含む場合、添加剤として、触媒を含むことが好ましい。好ましい触媒としては、例えば、無機アミン塩、有機アミン塩が挙げられる。無機アミン塩としては、例えば、塩化アンモニウムが挙げられる。有機アミン塩としては、例えば、アミノアルコール塩酸塩、セミカルバジド塩酸塩が挙げられる。アミノアルコール塩酸塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩酸塩、ジエタノールアミン塩酸塩、トリエタノール塩酸塩、2-アミノ-2-メチルプロパノール塩酸塩が挙げられる。
【0067】
(各成分の割合)
本発明の製造方法によって、重合体Aを製造した際に得られる本組成物の固形分濃度は、25~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
本発明の製造方法によって、重合体Aを製造した際に得られる本組成物の乳化剤の含有量は、重合体Aの100質量部に対して1~6質量部が好ましい。
【0068】
本組成物を紙等の基材の処理に用いる際の固形分濃度は、例えば0.1~10質量%であり、0.3~5質量%が好ましく、0.8~3質量%がより好ましい。
本組成物を紙等の基材の処理に用いる際の本組成物中の架橋剤の濃度は、0.1~3質量%が好ましい。
【0069】
(作用機序)
以上説明した本組成物にあっては、重合体Aが単位aと、単位b及び単位cのうち少なくとも単位bとを有し、全単位に対する単位aの割合が28~70モル%、単位bと単位cとの合計の割合が30~72モル%であり、単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合が45モル%以上であるから、本組成物を用いた耐水耐油紙等の耐水性及び耐油性に優れる。また、本組成物においては、重合体Aの液状媒体への溶解性又は分散性も良好である。
【0070】
<物品>
本発明の物品は、本組成物を用いて処理された物品である。
本組成物で処理される物品としては、例えば、繊維、繊維織物、繊維編物、不織布、ガラス、紙、木、皮革、人工皮革、石、コンクリート、セラミックス、金属、金属酸化物、窯業製品、樹脂成形品、多孔質樹脂、多孔質繊維が挙げられる。多孔質樹脂は、例えば、フィルターとして用いられる。多孔質樹脂の材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。多孔質繊維の材料としては、例えば、ガラス繊維、セルロースナノファイバー、炭素繊維、セルロースアセテートが挙げられる。
処理方法としては、例えば、公知の塗工方法によって物品に本組成物を塗布又は含浸した後、乾燥する方法が挙げられる。
【0071】
(作用機序)
以上説明した本発明の物品は、本組成物で処理されたものであるから、耐水性及び耐油性に優れる。
【0072】
<耐水耐油紙>
本発明の耐水耐油紙は、重合体Aを含む。
【0073】
重合体Aの含有量は、本発明の耐水耐油紙の単位面積当たりの重合体Aの質量として、0.01~3.0g/mが好ましく、0.1~1.5g/mがより好ましい。重合体Aの含有量が前記範囲の下限値以上であれば、耐水性及び耐油性がより優れる。重合体Aの含有量が前記範囲の上限値以下であれば、空気透過性又は水蒸気透過性により優れる。重合体Aの含有量は、耐水耐油紙のフッ素原子含有量から算出できる。詳しくは、後述する実施例に記載のとおりである。
耐水耐油紙のフッ素原子含有量は、ピロヒドロリシス燃焼法により求める。具体的な測定手順は後述の実施例に示すとおりである。
【0074】
フッ素原子含有量は、本発明の耐水耐油紙の単位面積当たりのフッ素原子の質量として、0.01~2.0g/mが好ましく、0.6~1.0g/mがより好ましい。フッ素原子含有量が前記範囲の下限値以上であれば、耐水性及び耐油性がより優れる。フッ素原子含有量が前記範囲の上限値以下であれば、空気透過性又は水蒸気透過性により優れる。
【0075】
耐水耐油紙の製造方法としては、本組成物を紙基材に塗布又は含浸する方法(外添加工)又は本組成物を含むパルプスラリーを抄紙する方法(内添加工)が挙げられる。
外添加工及び内添加工において、本組成物は水又は水性媒体で希釈して用いてもよい。
【0076】
(外添加工)
紙基材としては、水にパルプを分散したパルプスラリーの1種を単独で、又は2種以上を任意の配合率で混合し、叩解、薬剤添加を行った後に、ワイヤを用いて抄きあげたものが挙げられる。形態としては、連続した長尺のウェブ状のもの、これを裁断した枚葉状のもの、パルプモールド成型機で得られた成型体(容器等)等が挙げられる。
紙基材の坪量は例えば、10g/m~500g/mである。
【0077】
パルプの原料の具体例としては、例えば、針葉樹、広葉樹等の木材;バガス、稲わら、竹、葦、ヤシがら等の草本;古紙が挙げられる。パルプの原料のうち、木材、草本を用いてパルプ化したパルプをフレッシュパルプといい、古紙を用いたパルプをリサイクルパルプという。
フレッシュパルプは、製造方法に応じて異なる名称で呼ばれている。フレッシュパルプの名称としては、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ、機械パルプ(MP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。フレッシュパルプとしては、必要に応じて単独又は複数の漂白処理を行ったものを用いてもよい。
リサイクルパルプとしては、必要に応じて離解、除塵、脱墨、漂白の各工程のうち1つの工程を行って、又は複数の工程を組み合わせて製造されたものを用いてもよい。
【0078】
紙基材は、本発明の効果を損なわない範囲内で、サイズ剤、定着剤、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、染料、顔料、填料等を含んでもよい。
【0079】
本組成物の塗布又は含浸は、抄紙後であればどの段階で行ってもよく、抄紙、ウェットプレス及び前段ドライヤを経た後のサイズプレスの段階でもよく、サイズプレスよりも後のコータを用いる段階でもよい。
本組成物の塗布には、塗工機を用いてもよい。塗工機としては、サイズプレス機、コータ、印刷機等が挙げられる。サイズプレス機としては、ツーロールサイズプレス機、フイルムトランスファーサイズプレス機、キャレンダーサイズプレス機等が挙げられる。コータとしては、ロールコータ、エアナイフコータ、ダイコータ、ブレードコータ、バーコータ、ビルブレードコータ、ショートドエルブレードコータ等が挙げられる。印刷機としては、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、オフセット印刷機等が挙げられる。
【0080】
本組成物を塗布又は含浸した後、紙基材を乾燥させる。乾燥方法は、熱により乾燥させる方法でもよく、熱をかけずに乾燥させる方法(風乾)でもよい。
乾燥温度は、20~300℃が好ましく、20~250℃がより好ましい。
【0081】
(内添加工)
パルプスラリーは水と水に分散されたパルプとを含む。
パルプの原料は、上記外添加工について述べた内容と同様である。パルプスラリーは、ドライパルプを離解機で離解して製造してもよく、パルプ製造設備で製造されたウェットパルプを希釈して用いてもよい。パルプスラリーの1種を単独で、又は2種以上を任意の配合率で混合したものが用いられる。
パルプスラリー中のパルプの濃度は、0.1~10質量%が好ましい。
【0082】
本組成物の添加は、パルプスラリーを抄紙機のワイヤ上に供給する前であればどの段階で行ってもよい。
【0083】
パルプスラリーの抄紙には、抄紙機を用いることができる。抄紙機は、パルプスラリーをワイヤ上で脱水可能な装置であればよい。抄紙機としては、長網抄紙機のような連続式の抄紙機でもよく、バッチ式のパルプモールド成型機等でもよい。バッチ式のパルプモールド成型機とは、例えば、パルプスラリーをワイヤで形成された成型枠を用いて脱水し、成型体を製造する装置である。
【0084】
(作用機序)
本発明の耐水耐油紙は、本組成物で処理されたパルプ又は紙であるから、耐水性及び耐油性に優れる。
【実施例
【0085】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1~9は実施例であり、例10~27は比較例である。室温とは、25±5℃の温度である。
【0086】
(固形分濃度)
試料(乳化液)を、120℃に加熱した吸気式オーブン(対流式乾燥機)で4時間加熱した。加熱後に得られた固体の質量(固形分質量)を加熱前の試料の質量で割ることによって固形分濃度(質量%)を求めた。
【0087】
(転化率)
各例における原料の使用量から計算された重合体エマルションの固形分濃度の理論値と、重合体エマルションの固形分濃度の実測値とから、実測値/理論値×100によって単量体成分の重合体への転化率を求めた。転化率が90%以上をA(良)、80%以上90%未満をB(可)、80%未満をC(不可)とした。
【0088】
(分子量)
後述する重合体のうち重合体(FV1)~(FV9)、(1b)、(2b)、(3b-1)及び(3b-2)については、以下の手順で分子量を測定した。他の重合体は、後述の混合媒体に溶解せず、測定できなかった。
重合体を含フッ素媒体(AGC社製品名、AK-225)/THF=6/4(体積比)の混合媒体に溶解させて、固形分濃度0.5質量%の溶液とし、0.2μmのフィルターに通し、分析サンプルとした。分析サンプルについて、GPC測定により数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)を測定した。測定条件は下記のとおりである。
装置:東ソー社製、HLC-8320GPC、
カラム:Polymer laboratories社製、MIXED-C 300×7.5mm 5μm、
移動相:AK-225/THF=6/4(体積比)の混合媒体、
流速:1.0mL/分、
オーブン温度:37℃、
試料濃度:1.0質量%、
注入量:50μL、
検出器:RI(屈折率検出器)、
分子量標準:ポリメチルメタクリレート(Mn=2136000、955000、569000、332800、121600、67400、31110、13300、7360、1950、1010、及び550)。
【0089】
(けん化度)
けん化前の重合体、けん化後の重合体それぞれについて、AK-225/THF=5/5(体積比)の混合媒体にて重合体を溶解させ、同程度の濃度の溶液を得た後、溶媒を除去することにより、赤外分光法(IR)による赤外線吸収スペクトル測定用のフィルムを作製した。けん化前の重合体から得たフィルムをけん化前サンプル、けん化後の重合体から得たフィルムをけん化後サンプルとした。各サンプルについて、ATR(全反射測定)法により赤外線吸収スペクトルを測定した。赤外線吸収スペクトルにおいて、エステル結合のC=O伸縮振動に帰属されるピークは1735cm-1~1745cm-1の範囲に観察される。けん化前サンプルの赤外線吸収スペクトルの1735cm-1~1745cm-1の範囲における吸光度の最大値Xと、けん化後サンプルの赤外線吸収スペクトルの1735cm-1~1745cm-1の範囲における吸光度の最大値Yから、(1-(Y/X))×100によってけん化度を算出した。
【0090】
(処理後の紙のフッ素原子含有量)
処理後の紙のフッ素原子含有量、すなわち処理後の紙に付着したフッ素原子の量(g/m)は、特開2009-215370号に記載の方法に従って、ピロヒドロリシス燃焼法により求めた。ピロヒドロリシス燃焼法は、分析化学Vol.26、No.10、第721~723頁、「含フッ素有機化合物のフッ素の定量」(1977年、社団法人日本分析化学会発行)に記載されている石英管酸素燃焼ガス捕集法に基づいた方法である。
【0091】
(処理後の紙の重合体含有量)
処理後の紙の重合体含有量、すなわち処理後の紙に付着した重合体の量(g/m)は、重合体のフッ素原子含有量及び処理後の紙のフッ素原子含有量から算出した。重合体のフッ素原子含有量は、重合体の製造に用いた単量体の使用量から算出した。
ただし、例13~15及び例25~27については、処理後の紙のフッ素原子含有量が微量であるため、塗工前後の紙の質量差により、処理後の紙の重合体含有量(g/m)を見積もった。
【0092】
(耐油性)
処理後の紙について、表1に示す比率(体積%)でひまし油、トルエン、ヘプタンを混合した試験液(kit試験液)を用い、TAPPI KIT-559cm-02に準じた下記の方法で耐油性(kit法)を評価した。
室温条件下、処理後の紙を、汚れのない平らな黒色の表面に置き、キット番号の大きい試験液の1滴を13mmの高さから試験紙上に滴下した。15秒後、清潔な吸取り紙で滴下した試験液を除去し、試験液が接触した紙の表面の状態を目視で観察した。紙の表面に滴下した液滴の跡が残らなくなる最初の、最も大きいキット番号を耐油性の指標とした。番号が大きいほど耐油性が高い。なお、キット番号に小数点以下の数値が付してある場合は、そのキット番号よりもその小数点以下の数値の分だけ評価が高いことを示す。耐油性は、5以上が好ましく、7以上が特に好ましい。
【0093】
(溶解性試験)
後述の製造例(1a)、(9a)及び(1b)~(8b)で得られた重合体、及びEVAL(エチレン変性ポリビニルアルコール、EXCEVAL TM RS-2117、クラレ社製品名)(以下、「EVAL」ともいう。)について、AK-225/THF=1/1(体積比)の混合媒体及び水の二種類の液状媒体に対する溶解性を以下の手順で評価した。
重合体の濃度が0.2質量%になるように、重合体と液状媒体とを混合して試料を調整した。試料をよく攪拌し、目視で観察した。重合体が液状媒体に完全に溶解した場合は「A」、一部溶解した場合は「B」、まったく溶解しなかった場合は「C」とした。
【0094】
【表1】
【0095】
(耐水性)
処理後の紙について、JIS P 8122:2004に従って、ステキヒト法によるサイズ度(秒)を測定した。サイズ度が長いほど耐水性が高い。サイズ度は5秒以上が好ましく、10秒以上が特に好ましい。
【0096】
(単量体a)
C6OLF:CH=CH-CFCFCFCFCFCF(東京化成工業社製)
【0097】
(単量体c)
VAC:酢酸ビニル(東京化成工業社製)
【0098】
(媒体)
水:イオン交換水
DPG:ジプロピレングリコール
【0099】
(乳化剤)
E430:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エチレンオキシド約30モル付加物、花王社製品名、エマルゲン430)
P204:エチレンオキシド・プロピレンオキシド重合物(オキシエチレン基含有量40質量%、日油社製品名、プロノン#204)
AQ18-63:モノステアリルトリメチルアンモニウムクロリドの63質量%水及びイソプロピルアルコール溶液(ライオン社製品名、リポカード18-63)
SFY485:アセチレングリコールエチレンオキシド付加物(エチレンオキシド付加モル数30モル、日信化学工業社製品名、サーフィノール485)
これらの乳化剤は、有効成分濃度が10質量%となるように水で希釈して使用した。
【0100】
(重合開始剤)
VA-061A:2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](和光純薬社製、VA-061)と80質量%の酢酸水溶液とを、質量比1:1で混合して得られた混合液
DBPO:過酸化ベンゾイル
【0101】
(製造例(1a)~(6a))
30mLバイアル瓶に、表2に示す種類及び仕込み量の単量体、媒体及び乳化剤を入れて混合液を得た。表2に示す濃度は各原料における固形分濃度である。混合液をホモジナイザーに投入して分散し、乳化液を得た。100mLアンプル瓶に乳化液を入れ、表2に示す種類及び仕込み量の重合開始剤を添加した。アンプル瓶内を窒素置換し、45℃に昇温し、単量体成分を72時間重合させて重合体エマルションを得た。
重合体エマルションの8gを、2-ブタノール/ヘキサン=8/2(体積比)の混合媒体25gに滴下し、攪拌して固体を析出させた。3000回転/分で10分間遠心分離した後、固体を分離した。これに40℃の温水を加えてよく攪拌し、3000回転/分で10分間遠心分離した後、2-プロパノール25gを加えてよく攪拌した。3000回転/分で10分間遠心分離した後、固体を上澄み液から分離し、40℃で一晩真空乾燥して重合体(けん化前の重合体(FV1)~(FV6))を得た。
【0102】
(製造例(7a)及び(8a))
攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた1L反応装置中に、表3に示す種類及び仕込み量の単量体、重合開始剤を導入して溶液を得た。表3に示す濃度は各原料における固形分濃度である。この溶液を73℃に昇温し、単量体成分を50分間重合させた。次いで、メタノール100gにて混合物濃度80質量%に希釈し、60℃に維持した。混合物濃度は重合固形分の濃度である。重合の過程で混合物濃度を80質量%から段階的に70質量%、60質量%を経て50質量%になるようにメタノールで希釈して粘度を調節した。温度は重合の間に65℃にまで上昇させた。65℃に達した時点から5時間後に、この反応液をメタノール200gと混合した。その後、反応液から未反応のVACを除くために蒸留して重合体(けん化前の重合体(FV7)及び(FV8))を得た。
【0103】
(製造例(9a))
内容積200mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧3MPa)に、t-ブチルアルコールの79.0g、t-ブチルビニルエーテル(以下、「TBVE」という。)の26.7g、炭酸カリウムの0.48g、及びパーブチルパーオキシピバレート(以下、「PBPV」という。)の70質量%イソオクタン溶液の0.46gを添加し、Nガスで加圧パージを繰り返して系内の酸素を除去した。次いで、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」という。)の26.7gをオートクレーブ中に導入し、55℃まで加熱した。この時点での圧力は1.56MPaを示した。その後、7時間重合し、圧力が1.12MPaまで低下したところでオートクレーブを水冷し、未反応TFEをパージして重合を停止させた。得られた重合体溶液をメタノール中に投入し、生成した重合体を析出させた後、真空乾燥を行って重合体を得た。重合体の収量は22.0g、単量体の反応率は41%であった。フッ素質量分析の結果、重合体の共重合組成比はTFE/TBVE=51/49(モル%)であった。また両単量体の共重合反応性比からの計算で実質的に交互構造(交互共重合比率95%以上)を有していることが分かった。
次いで、重合体2.0g、濃硫酸0.5mL、エタノール50mL、水1mLを100mLフラスコに入れ、90℃で加熱攪拌し、TBVEのt-ブチル基を加水分解させて、水酸基に変換した。この反応系は撹拌後3~4時間で均一溶液となった。90℃で合計12時間反応させて、反応液を得た。得られた反応液を水中に滴下し、重合体を析出させた。得られた重合体を水で洗浄した後、40℃で真空乾燥を行い、1.42gの白色の重合体(重合体(FV9))を単離した。得られた重合体(FV9)は、加水分解により使用したTBVEの97モル%以上のt-ブチル基が水酸基に変換されていた。
【0104】
(製造例(1b)、(2b)、(3b-1)、(3b-2)、(4b)~(6b))
表4に記載された条件で、製造例(1a)~(6a)で得られた各重合体(FV1)~(FV6)をけん化して、重合体(1b)、(2b)、(3b-1)、(3b-2)、(4b)、(5b)又は(6b)を得た。
バイアル瓶にけん化前の重合体(FV1)~(FV6)のそれぞれの1.5g、媒体(AGC社製品名、AE-3000)22.5gを加えて重合体溶液を調製し、重合体溶液をメタノール13.5gで希釈した。これに表4に示す濃度のNaOH水溶液1.5gを加え、軽く振り混ぜた。50℃で3時間放置して反応がある程度進行したら、室温で24時間放置して反応終了とした。ただし、製造例(3b-1)及び(3b-2)では、50℃で45分間放置して反応終了とした。反応終了後、媒体を減圧留去し、40℃、減圧下で1時間乾燥させて固体を得た。固体を水で洗浄、ろ過した後、再び40℃で乾燥させて重合体(けん化後の重合体(1b)、(2b)、(3b-1)、(3b-2)、(4b)、(5b)又は(6b))を得た。
【0105】
(製造例(7b)及び(8b))
表4に記載された条件で、製造例(7a)又は(8a)で得られた重合体(FV7)又は(FV8)をけん化して、重合体(7b)又は(8b)を得た。
製造例(7a)又は(8a)で得られた重合体50gをメタノール150gに溶解して溶液を得た。この溶液に22℃で、水4g及び濃度10質量%のNaOHメタノール溶液4gを加え、均一化するために約5分間攪拌した。得られたアルカリ性ゲルを粉砕し、粉砕した時点から50分後に、メタノール50g中で濃度70質量%酢酸水溶液0.6mLにて中和して反応を終了させた。反応終了後、媒体を減圧留去し、40℃、減圧下で1時間乾燥させて固体を得た。固体を水で洗浄し、ろ過した後、再び40℃で乾燥させて重合体(けん化後の重合体(7b)又は(8b))を得た。
【0106】
表2に、製造例(1a)~(6a)における、単量体、媒体、乳化剤、重合開始剤それぞれの使用量、重合時のC6OLFとVACのモル比、乳化液100質量%に対する単量体成分の濃度、エマルションの固形分濃度、重合体の転化率、分子量(Mn、Mw)を示す。
表3に、製造例(7a)及び(8a)における、単量体、媒体、重合開始剤それぞれの使用量、重合時のC6OLFとVACのモル比、重合体の転化率、分子量(Mn、Mw)を示す。
表4に、けん化前の重合体(FV1)~(FV8)をけん化し、重合体(1b)、(2b)、(3b-1)、(3b-2)、(4b)~(8b)を得た際のけん化条件を示す。また、けん化の有無に関わらず、後述する例1~27で用いた重合体の分子量(Mn、Mw)を示す。ただし、重合体(4b)~(8b)及びEVALについては、AK-225/THFの混合媒体に不溶であったため、分子量の測定を行わなかった。また、重合体(4b)~(7b)については前述の溶解性試験における混合媒体にも水にも十分に溶解しなかったため、後述の紙の評価は行わなかった。各重合体における溶解性試験の結果を併せて表4に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
(例1~12)
表5の例1~12に示す重合体(1b)、(2b)、(3b-1)又は(3b-2)を、AK-225/THF=1/1(体積比)の混合媒体で希釈して、表5に示す濃度の処理液を調製した。
【0111】
調製した処理液をバーコートで、坪量40g/mの晒無サイズ紙(Bleached non-sized paper)上に塗工した後、室温にて一晩放置し、処理液中に含まれる混合媒体を揮発させた。次いで、105℃で60秒間乾燥した。
(例13~15)
表5の例13~15に示す重合体(8b)を、水で希釈して、表5に示す濃度の処理液を調製した。
調製した処理液をバーコートで、坪量40g/mの晒無サイズ紙上に塗工して、105℃で60秒間乾燥した。
(例16~18)
表5の例16~18に示す重合体(FV1)を、AK-225/THF=1/1(体積比)の混合媒体で希釈して、表5に示す濃度の処理液を調製した。
調製した処理液をバーコートで、坪量40g/mの晒無サイズ紙上に塗工した後、室温にて一晩放置し、処理液中に含まれる混合媒体を揮発させた。次いで、105℃で60秒間乾燥した。
【0112】
(例19~21)
水95質量部にポリビニルアルコール(クラレ社製、クラレポバール PVA-117)(以下、「PVA」ともいう。)5質量部を添加し、攪拌しながら95℃まで昇温し、1時間保持したのち常温まで冷却し、濃度5質量%のPVA水溶液を得た。
PVA水溶液をさらに水で表5のPVA前処理の欄に示す濃度に希釈した水溶液を前処理液として調製した。この前処理液をバーコートで坪量40g/mの晒無サイズ紙上に、表5の塗工量の欄に示す量のPVAが付着するように塗工した。次いで、105℃で60秒間乾燥した。
表5の例19~21に示す重合体(FV1)をAK-225/THF=1/1(体積比)の混合媒体で希釈して、表5に示す濃度の処理液を調製した。
調製した処理液をバーコートで、PVA前処理を施した紙の上に塗工した後、室温にて一晩放置し、処理液中に含まれる混合媒体を揮発させた。次いで、105℃で60秒間乾燥した。
【0113】
(例22~24)
表5の例22~24に示す重合体(FV9)を、AK-225/THF=1/1(体積比)の混合媒体で希釈して、表5に示す濃度の処理液を調製した。
調製した処理液をバーコートで、坪量40g/mの晒無サイズ紙上に塗工した後、塗工した晒無サイズ紙を室温にて一晩放置し、処理液中に含まれる混合媒体を揮発させた。次いで、105℃で60秒間乾燥した。
(例25~27)
水95質量部にEVAL5質量部を添加し、攪拌しながら95℃まで昇温し、1時間保持した。次いで、常温まで冷却し、濃度5質量%のEVAL水溶液を得た。
EVAL水溶液をさらに水で表5に示す濃度に希釈して処理液を調製した。
調製した処理液をバーコートで、坪量40g/mの晒無サイズ紙上に塗工した後、105℃で60秒間乾燥した。
【0114】
表5に、例1~27の処理後の紙の重合体含有量(g/m)、フッ素原子含有量(g/m)、耐水性及び耐油性を示す。
【0115】
【表5】
【0116】
例1~9に用いた重合体(1b)、(2b)、(3b-1)は、液状媒体に溶解した。また、処理後の紙が耐油性及び耐水性に優れていた。
単位bと単位cとの合計に対する単位bの割合(けん化度)が45モル%未満である例10~12の重合体(3b-2)は、処理後の紙が耐油性及び耐水性に劣っていた。
単位aの含有量が0.25~25モル%である重合体(4b)~(7b)は、AK-225とTHFとの混合媒体にも水にも溶解しなかった。
単位aの含有量が0.05モル%である例13~15の重合体(8b)は、水に溶解したが、処理後の紙が耐油性及び耐水性に劣っていた。
単位bを含まない例16~18の重合体(FV1)は、処理後の紙が耐油性及び耐水性に劣っていた。
紙をPVAで前処理した例19~21では、例16~18よりも耐油性及び耐水性が向上したが、例1~9よりも劣っていた。
単位aの代わりにTFE単位を有する例22~24の重合体(FV9)は、AK-225とTHFとの混合媒体には溶解したが、処理後の紙が耐油性及び耐水性に劣っていた。
フッ素を全く含有しない例25~27のEVALは、処理後の紙が耐油性及び耐水性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の重合体及びこれを含む組成物は、耐水耐油剤、ガラス、樹脂製品等の表面処理剤、撥水撥油剤、防汚処理剤、剥離剤等として有用である。
本発明の耐水耐油紙は、食品包装容器、食品包装用紙、防汚シート等として有用である。
なお、2019年3月27日に出願された日本特許出願2019-061569号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。