(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ジルコニア積層体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20231003BHJP
A61K 6/818 20200101ALI20231003BHJP
A61K 6/822 20200101ALI20231003BHJP
A61K 6/824 20200101ALI20231003BHJP
【FI】
C04B35/488
A61K6/818
A61K6/822
A61K6/824
(21)【出願番号】P 2023530273
(86)(22)【出願日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2023005497
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2022023814
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】畦地 翔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晶子
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/004862(WO,A1)
【文献】特開2020-147495(JP,A)
【文献】特開2020-147494(JP,A)
【文献】特開2020-029395(JP,A)
【文献】特開2020-142983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/42-35/447
C04B 35/46-35/515
A61C 13/083
A61C 5/77
A61K 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面層と、2以上の単位層から構成された組成傾斜層とを有し、
前記単位層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面層側から積層体の前記表面層とは反対側の表面側に向かって変動しないか又は減少するように各単位層が積層することで組成傾斜層が構成されている、積層体であって、
前記表面層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜層を構成する各単位層の内の前記表面層に隣接した単位層である、第1の組成傾斜層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さ
く、
前記表面層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が2.5mol%以上6.0mol%以下であり、
前記表面層の安定化元素含有量と前記第1の組成傾斜層の安定化元素含有量の差が0mol%超2.5mol%以下である、積層体。
【請求項2】
前記表面層が、更に着色元素を含有する、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記表面層
の安定化元素含有量と前記第1の組成傾斜層の安定化元素含有量の差が
0mol%
超1.5mol%以下である請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記表面層の安定化元素含有量と前記第1の組成傾斜層の安定化元素含有量の差が0.2mol%以上である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記第1の組成傾斜層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が2.5mol%以上6.0mol%以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記安定化元素が、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1種以上である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記着色元素が、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかである請求項1乃至6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記着色元素の含有量が、0.01質量%以上1.0質量%以下である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
JIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反りが1.0mm以下である請求項1乃至8のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
前記積層体が焼結体である請求項1乃至9のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項11】
JIS R 1601に準じた方法で測定される前記表面層の三点曲げ強度が700MPa以上である、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記積層体が仮焼体である請求項1乃至9のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項13】
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
前記単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面粉末組成物層側から成形体の前記表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層して組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
前記表面粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の前記表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さ
く、
前記表面粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が2.5mol%以上6.0mol%以下であり、前記表面粉末組成物層の安定化元素含有量と前記第1の組成傾斜粉末組成物層の安定化元素含有量の差が0mol%超2.5mol%以下である、成形体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、
2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
前記単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面粉末組成物層側から成形体の前記表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層して組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
前記表面粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の前記表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さ
く、前記表面粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が2.5mol%以上6.0mol%以下であり、前記表面粉末組成物層の安定化元素含有量と前記第1の組成傾斜粉末組成物層の安定化元素含有量の差が0mol%超2.5mol%以下である、成形体を800℃以上1200℃未満で仮焼して仮焼体とする工程、及び、
仮焼体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項15】
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
前記単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面粉末組成物層側から成形体の前記表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層して組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
前記表面粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の前記表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さ
く、前記表面粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が2.5mol%以上6.0mol%以下であり、前記表面粉末組成物層の安定化元素含有量と前記第1の組成傾斜粉末組成物層の安定化元素含有量の差が0mol%超2.5mol%以下である、成形体を800℃以上1200℃未満で仮焼する工程、を有する、請求項1乃至9、12のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項16】
前記表面粉末組成物層が、更に着色元素を含有する、請求項13乃至15のいずか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記粉末組成物層に含まれる粉末組成物が造粒された状態の粉末である請求項13乃至16のいずか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の積層体を含む歯科材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はジルコニアの層が積層した組成物、更にはジルコニア積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア(ZrO2)の焼結体は、主としてジルコニアを含む原料粉末を成形、仮焼及び焼結することで製造される。焼結や仮焼といった熱処理によって、原料粉末は熱収縮及び緻密化するが、原料粉末の特徴、特に原料粉末の組成、によって熱処理時の挙動が異なる。
【0003】
原料粉末の大部分はジルコニアが占める。それにも関わらず、0.1質量%未満の添加剤の含有量が異なるに過ぎない原料粉末同士であっても、両粉末の熱収縮挙動は大きく異なる。このような組成の微差を有する原料粉末同士を積層させた成形体を熱処理した場合、層の一部の剥離、又は、歪の発生等の不具合が生じる。上述の不具合は、同一のジルコニアであっても、これに添加剤を添加した場合でさえ生じる。これらの不具合を生じさせずに成形体を熱処理するために、特別な調整や処理が必要とされていた(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献1には、ドーパントでコーティングすることによって原料粉末の組成及び熱収縮挙動を調整し、これを成形することによって、異なる色調の積層体からなる焼結体が得られることが開示されている。また、特許文献2には、上下層の粉末が混合した境界層を形成するような振動を与えて積層させて成形することによって、着色元素の含有量が異なる層からなり、色調の変化を有する積層体からなる焼結体が得られることが開示されている。
【0005】
ただし、特許文献1及び2で開示された積層体は、原料粉末の大部分を占めるジルコニアは同一の組成であり、これらの積層体は、主としてジルコニアの透光感に由来する質感も同一である。そのため、透光感の変化に由来する質感を有する自然歯と比べて異なる質感を与えるものであった。
【0006】
そこで、自然歯に近い印象を与えることができる、透光性及び色調のグラデーションを有するジルコニアの積層体が求められている。
特許文献3には、隣接する層間において異なる量のイットリアを含有するジルコニア組成物層が積層された、透光性及び色調のグラデーションを有する歯科補綴部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2016/0157971号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0328746号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0221554号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
歯科補綴部材として用いられる従来のジルコニア組成物層からなる積層体は、自然歯に近い印象を与えるために、裏面層(歯頚部に相当する層)から表面層(切端部に相当する層)にかけて、色調や透過率が徐々に変化していくように組成の異なる層が積層された構造を有する。しかしながら、色調や透過率が徐々に変化していくように組成の異なる層を積層させた場合、表面層(義歯切端部側の層)は透過率が高いものの機械的強度が低くなり、チッピングの発生を抑制できないという課題があった。
【0009】
本開示は、視認した場合に自然歯に近い印象を与えることができる、透光性及び色調のグラデーションを有し、且つ表面層(義歯切端部側の層)のチッピングを抑制できる積層体、その前駆体、又はそれらの製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。別の観点からは、歯科用補綴部材として適した積層体、その前駆体、又はそれらの製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、表面層と、表面層に隣接する層におけるジルコニアの安定化元素の含有量との関係を特定すれば、上記課題を解決できることを見出し、本開示に係る発明を完成した。
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
【0011】
[1]安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面層と、2以上の単位層から構成された組成傾斜層とを有し、
前記単位層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面層側から積層体の前記表面層とは反対側の表面側に向かって変動しないか又は減少するように各単位層が積層することで組成傾斜層が構成されている、積層体であって、
前記表面層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜層を構成する各単位層の内の前記表面層に隣接した単位層である、第1の組成傾斜層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、
積層体。
[2]前記表面層が、更に着色元素を含有する、[1]に記載の積層体。
[3]前記表面層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が2.5mol%以上6.0mol%以下である[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]前記表面層の安定化元素含有量と前記第1の組成傾斜層の安定化元素含有量の差が0.2mol%以上である[1]乃至[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記第1の組成傾斜層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が2.5mol%以上6.0mol%以下である[1]乃至[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]前記安定化元素が、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1種以上である[1]乃至[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記着色元素が、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかである[1]乃至[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記着色元素の含有量が、0.01質量%以上1.0質量%以下である[1]乃至[7]のいずれかに記載の積層体。
[9]JIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反りが1.0mm以下である[1]乃至[8]のいずれかに記載の積層体。
[10]前記積層体が焼結体である[1]乃至[9]のいずれかに記載の積層体。
[11]JIS R 1601に準じた方法で測定される前記表面層の三点曲げ強度が700MPa以上である、[10]に記載の積層体。
[12]前記積層体が仮焼体である[1]乃至[9]のいずれかに記載の積層体。
[13]安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
前記単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面粉末組成物層側から成形体の前記表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層して組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
前記表面粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の前記表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、成形体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、[1]乃至[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[14]安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
前記単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面粉末組成物層側から成形体の前記表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層して組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
前記表面粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の前記表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、成形体を800℃以上1200℃未満で仮焼して仮焼体とする工程、及び、
仮焼体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、[1]乃至[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[15]安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
前記単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
前記組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面粉末組成物層側から成形体の前記表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層して組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
前記表面粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の前記表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、成形体を800℃以上1200℃未満で仮焼する工程、を有する、[1]乃至[9]、[12]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[16]前記表面粉末組成物層が、更に着色元素を含有する、[13]乃至[15]のいずかに記載の製造方法。
[17]前記粉末組成物層に含まれる粉末組成物が造粒された状態の粉末である[13]乃至[16]のいずかに記載の製造方法。
[18][1]乃至[12]のいずれかに記載の積層体を含む歯科材料。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、自然歯に近い印象を与えることができる、透光性及び色調のグラデーションを有し、且つ表面層(義歯切端部側の層)のチッピングを抑制できる積層体、その前駆体、又はそれらの製造方法のいずれかを提供することができる。更には、歯科用補綴部材として適した積層体、その前駆体、又はそれらの製造方法の少なくともいずれかを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】単位ジルコニア層が2層積層した構造を有する焼結体の断面を示す模式図
【
図2】単位ジルコニア層が4層積層した構造を有する焼結体の断面を示す模式図
【
図5】ネッキング構造を有するジルコニアを示す模式図
【
図6】実施例における積層体を作製する際の一軸加圧成形の成形工程を説明する模式図
【
図7】実施例における積層体を作製する際のCIP処理の成形工程を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本開示を説明するための例示であり、本開示はこれらの内容に限定されるものではない。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0015】
また、本明細書において、任意の要件に関する好ましい条件範囲として、好ましい下限値と好ましい上限値がそれぞれ複数挙げられている場合には、好ましい条件範囲を解釈する際、これらの下限値と上限値は、いずれの組み合わせでも用いられる。
【0016】
(積層体)
本実施形態の積層体は、安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面層と、2以上の単位層から構成された組成傾斜層とを有し、
単位層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
組成傾斜層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面層側から積層体の表面層とは反対側の表面側に向かって変動しないか又は減少するように各単位層が積層することで組成傾斜層が構成されている、積層体であって、
表面層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜層を構成する各単位層の内の表面層に隣接した単位層である、第1の組成傾斜層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、積層体である。
【0017】
本実施形態の積層体は、焼結体、仮焼体及び成形体の群から選ばれる1以上であればよく、焼結体及び仮焼体の少なくともいずれかであることが好ましい。本実施形態の積層体は、例えば、歯科補綴物としては焼結体であることが、また、その前駆体としては仮焼体であることが挙げられる。ここで、本実施形態において、「安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面層、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有する単位層、並びに、2以上の単位層から構成された組成傾斜層」は、それぞれ、積層体が焼結体である形態においては「安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面ジルコニア層、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有する単位ジルコニア層、並びに、2以上の単位ジルコニア層から構成された組成傾斜ジルコニア層」とすればよい。同様に、積層体が仮焼体である形態においては「安定化元素を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアを含有する表面ジルコニア組成物層、安定化元素を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニア及び着色元素を含有する単位ジルコニア組成物層、並びに、2以上の単位ジルコニア組成物層から構成された組成傾斜ジルコニア組成物層」とし、積層体が成形体である形態においては「安定化元素を含有するジルコニアを含有する、粉末組成物からなる表面粉末組成物層、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有する、並びに、粉末組成物からなる単位粉末組成物層、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層」とすればよい。
以下、本開示の積層体について、積層体が焼結体である実施形態の一例を示しながら説明する。
【0018】
(焼結体)
本実施形態は、安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面ジルコニア層と、2以上の単位ジルコニア層から構成された組成傾斜ジルコニア層とを有し、
単位ジルコニア層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
組成傾斜ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面ジルコニア層側から焼結体の表面ジルコニア層とは反対側の表面側に向かって変動しないか又は減少するように各単位ジルコニア層が積層することで組成傾斜ジルコニア層が構成されている、焼結体であって、
表面ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜ジルコニア層を構成する各単位ジルコニア層の内の表面ジルコニア層に隣接した単位層である、第1の組成傾斜ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、焼結体である。
【0019】
本実施形態の焼結体は、多層構造を有する組成物、いわゆる積層体であり、焼結組織からなる積層体である。本実施形態において、焼結組織は、主として、焼結後期段階のジルコニアからなる構造である。
本実施形態の焼結体は、安定化元素を含有するジルコニアを含有する、表面ジルコニア層、並びに、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有する、単位ジルコニア層、を有する。組成傾斜ジルコニア層は、2以上の単位ジルコニア層から構成される。表面ジルコニア層は、着色元素を含有していてもよい。表面ジルコニア層及び単位ジルコニア層は、主として安定化元素を含有するジルコニアの結晶粒子からなる。従って、本実施形態の焼結体は、安定化元素を含有するジルコニア結晶粒子からなるジルコニアと、着色元素を含有する場合は着色元素とを含む層、を3層以上備えた積層体、とみなすこともできる。
【0020】
<積層構造>
図1は、本実施形態の焼結体の構造の一例を示す模式図であり、表面ジルコニア層(10)と、2以上の複数の単位ジルコニア層(
図1においては2つの単位ジルコニア層)から構成される組成傾斜ジルコニア層(20)とを有する焼結体(100)の断面を模式的に示している。組成傾斜ジルコニア層(20)は、表面ジルコニア層(10)に隣接した単位ジルコニア層である第1の組成傾斜ジルコニア層(21)、及び焼結体(100)の表面ジルコニア層(10)とは反対側の表面に位置する単位ジルコニア層である第2の組成傾斜ジルコニア層(22)を含む。本実施形態の積層体(100)は、第1の組成傾斜層(21)の一方の面上には表面ジルコニア層(10)が設けられ、第1の組成傾斜ジルコニア層(21)のもう一方の面上には単位ジルコニア層である第2の組成傾斜ジルコニア層(22)が設けられている。
図1では、層が積み重なった方向(組成傾斜ジルコニア層から表面ジルコニア層に向かう方向;以下、「積層方向」ともいう。)をY軸方向に示し、各層の広がる方向(以下、「水平方向」ともいう。)をX軸方向に示している。
【0021】
焼結体を構成する単位ジルコニア層の内、互いに隣接する層は、安定化元素の含有量が互いに同じであっても異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。安定化元素の含有量が異なるジルコニアを含むジルコニア層が積層した構造を有することで、焼結体が、安定化元素の含有量差や透光性などの相乗的な作用に基づく積層方向の色調変化が視認されうる積層体となる。
【0022】
また、組成傾斜ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面ジルコニア層側から焼結体の表面ジルコニア層とは反対側の表面側に向かって(
図1のY方向とは反対方向に向かって、すなわち、積層方向の反対方向に向かって)変動しないか又は減少するように各単位ジルコニア層が積層することで組成傾斜ジルコニア層が構成されている。好ましくは、組成傾斜ジルコニア層は、裏面側に向かって安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が減少するように単位ジルコニア層が積層することで構成されている。これにより、安定化元素の含有量差や透光性の相乗的な作用に基づき、色調のグラデーションが焼結体に形成され得る。さらに、表面ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、第1の組成傾斜ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい。
【0023】
一般に、ジルコニア層中に含まれるジルコニアの安定化元素の含有量を大きくすると、ジルコニア層の透光性が高くなるものの機械的強度が低下する。従来の透光性及び色調のグラデーションを有する焼結体は、表面層(義歯切端部側の層)のジルコニアの安定化元素の含有量を増加させて透光性を高めている。このため、従来の焼結体は、表面層(義歯切端部側の層)の機械的強度が低くなり、チッピングの発生を抑制できなかった。しかし、本実施形態の焼結体は、表面ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が第1の組成傾斜ジルコニア層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい。換言すれば、本実施形態の焼結体は、従来の焼結体と比較して表面層(義歯切端部側の層)におけるジルコニアの安定化元素の含有量が小さい。このため、本実施形態の焼結体は、表面層(義歯切端部側の層)の機械的強度が高く、チッピングの発生を抑制することができる。
【0024】
なお、
図1に示す焼結体(100)は、各層が界面を介して接している状態を示している。しかしながら、本実施形態の焼結体は、各層が積層して焼結した状態であればよく、視認できる界面を有さない状態で積層していてもよく、さらに、層間の界面は直線的なものに限定されない。
【0025】
本実施形態の焼結体は、単位ジルコニア層が3以上、更には4以上積層した構造を有していてもよい。単位ジルコニア層の増加によって、焼結体が、質感の細かな変化が視認されうる積層体となる。より自然歯と同様な質感とする場合、本実施形態の焼結体は、単位ジルコニア層が3以上10以下、更には3以上6以下、また更には4以上7以下、また更には4以上6以下積層した構造であることが例示できる。
【0026】
組成傾斜ジルコニア層は、第1及び第2の組成傾斜ジルコニア層以外の単位ジルコニア層(以下、「組成傾斜中間ジルコニア層」ともいう。)を、第1及び第2の組成傾斜ジルコニア層間に有してもよく、複数の単位ジルコニア層を組成傾斜中間ジルコニア層として含んでいてもよい。組成傾斜中間ジルコニア層(組成傾斜中間ジルコニア層において第1の組成傾斜ジルコニア層に隣接して積層している1層目の単位ジルコニア層を「第3の組成傾斜ジルコニア層」ともいい、第3の組成傾斜ジルコニア層から裏面側に向かって積層する2層目以上の単位ジルコニア層を「第4の組成傾斜ジルコニア層」、「第5の組成傾斜ジルコニア層」等ともいう。)を備える場合、組成傾斜中間ジルコニア層は、積層方向とは反対側に向かって安定化元素の含有量が変動しないか又は減少するように各単位ジルコニア層が積層した構造を有する。すなわち、第3、第4、第5の組成傾斜ジルコニア層の順に安定化元素の含有量が変動しないか又は減少する。安定化元素の含有量差や透光性などの相乗的な作用に基づく色調変化がより視認され易い観点からは、組成傾斜中間ジルコニア層は、積層方向とは反対側に向かって安定化元素の含有量が減少するように単位ジルコニア層が積層した構造を有することが好ましい。
【0027】
組成傾斜中間ジルコニア層を有する本実施形態の焼結体について、以下、
図2を用いて説明する。
【0028】
図2は、本実施形態の焼結体の構造の一例を示す模式図であり、表面ジルコニア層(10)と、4層の単位ジルコニア層から構成される組成傾斜ジルコニア層(20)とを有する焼結体(100)の断面を模式的に示している。
図2に示す焼結体は、上述した表面ジルコニア層、第1の組成傾斜ジルコニア層(21)及び第2の組成傾斜ジルコニア層(22)に加えて、組成傾斜中間ジルコニア層(23)である第3の組成傾斜ジルコニア層(23a)及び第4の組成傾斜ジルコニア層(23b)が積層した構造を有している。本実施形態の焼結体(100)は、第1の組成傾斜ジルコニア層(21)、第3の組成傾斜ジルコニア層(23a)、第4の組成傾斜ジルコニア層(23b)、第2の組成傾斜ジルコニア層(22)の順に、ジルコニアの安定化元素の含有量が変動しないか又は減少しており、なおかつ、表面ジルコニア層(10)に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、第1の組成傾斜ジルコニア層(21)に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい。
以下、表面ジルコニア層及び組成傾斜ジルコニア層の組成について説明する。
【0029】
<ジルコニア層の組成>
上述したように、表面ジルコニア層及び単位ジルコニア層はジルコニアを主成分とする層(以下、「ジルコニア層」ともいう)であり、当該ジルコニアは安定化元素を含有するジルコニア(以下、「安定化元素含有ジルコニア」ともいう。)である。本実施形態の焼結体及び各ジルコニア層は、安定化元素含有ジルコニアのみならず、ハフニア(HfO2)等の不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物としてのハフニアの含有量は、原料鉱石や製造方法により大きく異なるが、2.0質量%以下であることが例示できる。本実施形態において、含有量や密度の算出等、組成に関連する値の算出は、ハフニアをジルコニア(ZrO2)とみなして計算すればよい。
【0030】
本実施形態の焼結体において、ジルコニアは、ジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結された状態のジルコニアであることが好ましく、ジルコニウム化合物の加水分解で得られたジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結した状態のジルコニアであることがより好ましく、オキシ塩化ジルコニウムが加水分解したジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結された状態のジルコニアであることが更に好ましい。
ジルコニア層に含まれるジルコニアは、焼結したジルコニア、すなわちジルコニア結晶粒子であることが挙げられる。
【0031】
<<安定化元素>>
安定化元素はジルコニアの相転移を抑制する機能を有するものであればよい。安定化元素は、ジルコニアを着色する機能を有する元素を含まず、相転移を抑制する機能を有する安定化元素(以下、「非着色安定化元素」ともいう。)、及び、ジルコニアを着色する機能を有する元素を含み、相転移を抑制する機能を有する安定化元素(以下、「着色安定化元素」ともいう。)の少なくともいずれかが挙げられ、非着色安定化元素及び着色安定化元素であってもよく、少なくとも非着色安定化元素を含むことが好ましく、非着色安定化元素であることが好ましい。
【0032】
具体的な安定化元素として、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1種以上が例示できる。
【0033】
非着色安定化元素として、イットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの群から選ばれる1種以上が例示でき、イットリウム及びセリウムの少なくともいずれかであることが好ましく、イットリウムであることがより好ましい。
着色安定化元素として、プラセオジム、ネオジム、テルビウム、エルビウム及びイッテルビウムの群から選ばれる1種以上が例示でき、テルビウム及びエルビウムの少なくともいずれかであることが好ましく、エルビウムであることがより好ましい。
【0034】
安定化元素はジルコニアに含有された状態であり、ジルコニアに固溶された状態である。また、本実施形態の焼結体は、未固溶の安定化元素を含まないこと、すなわち、ジルコニアに固溶していない安定化元素を含まないこと、が好ましい。本実施形態において、「未固溶の安定化元素を含まないこと」とは、後述のXRD測定及びXRDパターンの解析において、安定化元素に由来するXRDピークが確認されないことである。但し、安定化元素に由来するXRDピークが確認されない程度であれば、未固溶の安定化元素を含むことは許容され得る。
【0035】
表面ジルコニア層に含まれるジルコニアの安定化元素の含有量(以下、「表面ジルコニア層の安定化元素含有量」ともいう。)は、好ましくは2.5mol%以上、より好ましくは3.0mol%以上、更に好ましくは3.5mol%以上、更により好ましくは4mol%以上、更により好ましくは4.3mol%以上、更により好ましくは4.9mol%以上である。表面ジルコニア層の安定化元素含有量は、6.0mol%以下、5.8mol%以下、5.5mol%以下又は5.2mol%以下であればよい。表面ジルコニア層の安定化元素含有量として2.5mol%以上6.0mol%以下、3.5mol%以上5.2mol%以下、3.5mol%以上6.0mol%以下、又は、3.5mol%以上5.2mol%未満が例示できる。
【0036】
単位ジルコニア層に含まれるジルコニアの安定化元素の含有量(以下、「単位ジルコニア層の安定化元素含有量」ともいう。)は、好ましくは2.5mol%以上、より好ましくは3.5mol%以上、更に好ましくは3.7mol%以上、更により好ましくは4.0mol%以上、更により好ましくは4.5mol%以上、更により好ましく4.9mol%以上である。単位ジルコニア層の安定化元素含有量は、6.0mol%以下、5.8mol%以下、5.5mol%以下又は5.2mol%以下であればよい。単位ジルコニア層の安定化元素含有量として2.5mol%以上6.0mol%以下、3.5mol%以上5.5mol%以下、3.5mol%以上6.0mol%以下、又は、3.5mol%以上5.5mol%未満が例示できる。
【0037】
表面ジルコニア層の安定化元素含有量は、第1の組成傾斜ジルコニア層に含まれるジルコニアの安定化元素の含有量(以下、「第1の組成傾斜ジルコニア層の安定化元素含有量」ともいう。)より小さい。具体的には、表面ジルコニア層の安定化元素含有量は、第1の組成傾斜ジルコニア層の安定化元素含有量より小さく表面ジルコニア層の安定化元素含有量と第1の組成傾斜ジルコニア層の安定化元素含有量の差が0mol%を超え、好ましくは0.05mol%以上、より好ましくは0.1mol%以上、更に好ましくは0.15mol%以上、更により好ましくは0.2mol%以上であり、また、2.5mol%以下、1.5mol%以下1.0mol%以下、0.5mol%以下又は0.4mol%以下であればよい。上記範囲内であれば、表面ジルコニア層の機械的強度が高く、チッピングの発生を抑制することができる焼結体が得られ易い。表面ジルコニア層の安定化元素含有量と第1の組成傾斜ジルコニア層の安定化元素含有量の差は、0mol%を超え、2.5mol%以下、0.05mol%以上1.5mol%以下、0.1mol%以上1.0mol%以下、0.15mol%以上0.5mol%以下、又は、0.2mol%以上0.4mol%以下であることが好ましい。
【0038】
第1の組成傾斜ジルコニア層の安定化元素含有量は、上述した単位ジルコニア層の安定化元素含有量の範囲内であって、表面ジルコニア層の含有量より大きければよい。
【0039】
第2の組成傾斜ジルコニア層に含まれるジルコニアの安定化元素の含有量(以下、「第2の組成傾斜ジルコニア層の安定化元素含有量」ともいう。)は、上述した単位ジルコニア層の安定化元素含有量の範囲内であればよく、第1の組成傾斜ジルコニア層の安定化元素含有量よりも大きいことが好ましい。
【0040】
組成傾斜中間ジルコニア層における各層に含まれるジルコニアの安定化元素の含有量(以下、「組成傾斜中間ジルコニア層の安定化元素含有量」ともいう。)は、第1及び第2の組成傾斜ジルコニア層に含まれるジルコニアの安定化元素の含有量の最小値以上、最大値以下である。また、組成傾斜中間ジルコニア層の安定化元素含有量は、表面ジルコニア層側から積層方向とは反対側に向かって変動していないか又は減少している。安定化元素の含有量差や透光性などの相乗的な作用に基づく色調変化がより視認され易い観点からは、組成傾斜中間ジルコニア層の安定化元素含有量は、表面ジルコニア層側から積層体の表面ジルコニア層とは反対側の表面側に向かって減少していることが好ましい。
【0041】
本実施形態の焼結体は、組成傾斜ジルコニア層における、隣接して積層する単位ジルコニア層同士の安定化元素の含有量の差が、0.1mol%以上、は0.3mol%以上、0.5mol%以上又は1.0mol%以上である構造を含むことが好ましい。また、組成傾斜ジルコニア層における、隣接して積層する単位ジルコニア層同士の安定化元素の含有量の差が、3.0mol%以下、2.5mol%以下又は2.0mol%以下である構造を含むことが好ましい。
【0042】
本実施形態の焼結体の安定化元素の含有量(焼結体全体としての安定化元素の含有量)は任意であるが、1.5mol%を超え、好ましくは2.5mol%以上、より好ましくは3.0mol%以上、更に好ましくは3.5mol%以上、更により好ましくは4.1mol%以上、更により好ましくは4.2mol%以上である。また、焼結体の安定化元素の含有量(焼結体全体としての安定化元素の含有量)は任意であるが、好ましくは7.0mol%未満、より好ましくは6.5mol%以下、更に好ましくは6.0mol%以下、更により好ましくは5.5mol%以下、更により好ましくは5.3mol%以下、更により好ましくは5.0mol%以下である。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、本実施形態の焼結体の安定化元素の含有量(焼結体全体としての安定化元素の含有量)は、例えば、1.5mol%を超え7.0mol%未満、更には2.5mol%以上6.5mol%以下、また更には3.0mol%以上6.0mol%以下であること、また更には3.5mol%以上5.8mol%以下であることが挙げられ、4.1mol%以上5.5mol%以下であることが好ましく、4.2mol%以上5.3mol%以下であることがより好ましく、4.2mol%以上5.0mol%以下であることがより好ましい。焼結体の安定化元素含有量は、下式から求められ、各層の厚みにより異なる。
【0043】
焼結体の安定化元素含有量
=(表面ジルコニア層の層厚/焼結体の高さ)×表面ジルコニア層に含まれる安定化元素含有ジルコニアの安定化元素の含有量
+(各単位ジルコニア層の層厚/焼結体の高さ)×各単位ジルコニア層に含まれる安定化元素含有ジルコニアの安定化元素の含有量
【0044】
本実施形態において、安定化元素の含有量は、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素の合計に対する酸化物換算した安定化元素のモル割合である。安定化元素の酸化物換算は、酸化イットリウムはY2O3、酸化カルシウムはCaO、酸化マグネシウムはMgO、酸化セリウムはCeO2、酸化プラセオジムはPr6O11、酸化ネオジムはNd2O3、酸化テルビウムはTb4O7、酸化エルビウムはEr2O3及び酸化イッテルビウムはYb2O3とすればよい。例えば、安定化元素としてイットリウムとエルビウムが含まれる場合、安定化元素の含有量(mol%)は(Y2O3+Er2O3)/(ZrO2+Y2O3+Er2O3)×100から求められる。
【0045】
<<着色元素>>
本実施形態における着色元素は、ジルコニアを着色する機能を有する元素である。具体的な着色元素として、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかが例示でき、好ましくは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1種以上、より好ましくは、鉄、コバルト、マンガン、チタン、プラセオジム、ガドリウム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1種以上、更に好ましくは鉄、コバルト、チタン及びエルビウムの群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0046】
本実施形態の焼結体に含まれる着色元素は、酸化物の状態で含まれる着色元素(以下、「酸化物着色元素」ともいう。)、及び、着色安定化元素など、ジルコニアに固溶した状態で含まれる着色元素の少なくともいずれかであればよい。好ましい酸化物着色元素として、鉄、コバルト、ニッケル、チタン及びマンガンの群から選ばれる1種以上が挙げられ、鉄、コバルト及びチタンの群から選ばれる1種以上であることがより好ましい。本実施形態の焼結体は2種以上の着色元素を含んでいてもよく、例えば、2種以上5種以下、更には3種以上4種以下、の着色元素を含んでいてもよい。本実施形態の焼結体は、少なくとも着色安定化元素を含むことが好ましく、少なくともテルビウム及びエルビウムのいずれかを含むことがより好ましく、少なくともエルビウムを含むことが更に好ましい。特に好ましい着色元素として、鉄、チタン及びエルビウム;コバルト、チタン及びエルビウム;鉄及びエルビウムの群から選ばれる1以上、更にはコバルト、チタン及びエルビウム、並びに、鉄及びエルビウムの少なくともいずれか、またさらには鉄及びエルビウムが挙げられる。
【0047】
表面ジルコニア層及び単位ジルコニア層に含まれる着色元素の種類及び含有量は特に制限されず、各層の色調のグラデーション等を考慮して適宜選択されるとよい。
【0048】
本実施形態の焼結体の着色元素の含有量は、本実施形態の焼結体の質量に対する、酸化物換算した着色元素の質量割合として、下限値が0質量%を超え、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上であり、また、上限値が1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、本実施形態の焼結体の着色元素の含有量は、本実施形態の焼結体の質量に対する、酸化物換算した着色元素の質量割合として、例えば、0質量%を超え1.5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上0.8質量%以下、さらに好ましくは0.04質量%以上0.3質量%以下であればよい。例えば、安定化元素としてイットリウム(非着色安定化元素)とエルビウム(着色安定化元素)を含有し、なおかつ、アルミナとコバルト(酸化物着色元素)が含まれる場合、着色元素の含有量(質量%)は(Co3O4+Er2O3)/(ZrO2+Y2O3+Er2O3+Co3O4+Al2O3)×100から求められる。着色元素の酸化物換算は、酸化プラセオジムはPr6O11、酸化ネオジムはNd2O3、酸化テルビウムはTb4O7、酸化エルビウムはEr2O3、酸化イッテルビウムはYb2O3、酸化鉄はFe2O3、酸化コバルトはCo3O4、酸化ニッケルはNiO、酸化マンガンはMn3O4、及び酸化チタンはTiO2とすればよい。
【0049】
表面ジルコニア層は、着色元素を含有していてもよい。表面ジルコニア層に含まれる着色元素の含有量は、本実施形態の焼結体の質量に対する、酸化物換算した着色元素の質量割合として、下限値が0質量%を超え、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上であり、上限値が2質量%以下、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下であればよい。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、表面ジルコニア層に含まれる着色元素の含有量は、本実施形態の焼結体の質量に対する、酸化物換算した着色元素の質量割合として、例えば、0質量%を超え2質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1.2質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上0.8質量%以下、さらに好ましくは0.04質量%以上0.3質量%以下であることが挙げられる。
単位ジルコニア層に含まれる着色元素の含有量は、本実施形態の焼結体の質量に対する、酸化物換算した着色元素の質量割合として、下限値が0質量%を超え、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上であることが好ましく、上限値が2質量%以下、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下であることが好ましい。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、単位ジルコニア層に含まれる着色元素の含有量は、本実施形態の焼結体の質量に対する、酸化物換算した着色元素の質量割合として、例えば、0質量%を超え2質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1.2質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上0.8質量%以下、さらに好ましくは0.04質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。
【0050】
本実施形態の焼結体は、隣接して積層するジルコニア層同士の着色元素の含有量の差が、0質量%以上であることが好ましく、0.002質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることが更に好ましく、0.015質量%以上であることが更に好ましく、0.02質量%以上であることが更により好ましい。着色元素含有量の差が大きくなるほど、ジルコニア層間の色調の差が大きくなる傾向がある一方、反りが大きくなる場合もある。隣接する単位層における着色元素の含有量の差は、1質量%未満、更には0.8質量%以下、また更には0.5質量%以下であれば、焼結体の色調変化が自然歯と同等の色調変化になりやすい。隣接する単位層における着色元素の含有量の差は0質量%以上1質量%未満、0.002質量%以上0.8質量%以下、又は、0.005質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、全ての隣接する単位層における着色元素の含有量の差がこれを満たしていることが好ましい。
【0051】
本実施形態の焼結体はアルミナを含んでいてもよく、少なくとも1層のジルコニア層がアルミナを含むことが好ましく、表面ジルコニア層及び組成傾斜ジルコニア層がアルミナを含むことがより好ましい。本実施形態の焼結体がアルミナを含有する場合、アルミナ含有量は、焼結体の質量に対するアルミナの質量の割合として、0質量%以上であればよく、0質量%以上0.15質量%以下であること、更には0質量%以上0.10質量%以下、また更には0質量%以上0.07質量%以下であることが挙げられる。アルミナを含有する場合、例えば、アルミナ含有量の下限値は、0質量%を超え、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、アルミナ含有量の上限値は、0.15質量%以下、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下であることが挙げられる。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、アルミナ含有量は、例えば、0質量%を超え0.15質量%以下、好ましくは0.005質量%以上0.10質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.07質量%以下であることが挙げられる。
【0052】
ジルコニア層のアルミナ含有量も上述と同じ範囲であればよい。ジルコニア層のアルミナ含有量は、仮焼段階の熱収縮挙動への影響を与える場合がある。ジルコニア層のアルミナ含有量は任意であり、ジルコニア層は、それぞれ、アルミナ含有量が異なっていてもよいが、アルミナ含有量が等しいことが好ましい。ジルコニア層同士のアルミナ含有量が異なる場合、例えば、隣接するジルコニア層のアルミナ含有量の差の下限値は、0質量%を超え、更には0.005質量%以上であり、隣接するジルコニア層のアルミナ含有量の差の上限値は、0.15質量%以下、更には0.1質量%以下、また更には0.01質量%以下であることが例示できる。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、隣接するジルコニア層のアルミナ含有量の差は、例えば、0質量%を超え0.15質量%以下、更には0質量%を超え0.1質量%以下、また更には0質量%を超え0.01質量%以下、更には0.05質量%以上0.01質量%以下であることが例示できる。例えば、アルミナ(Al2O3)を含有し、非着色安定化元素がイットリウム及び着色安定化元素がエルビウムであるジルコニアからなるジルコニア層の場合、アルミナ含有量は{Al2O3/(ZrO2+Y2O3+Er2O3+Al2O3)}×100(質量%)として求めればよい。
【0053】
本実施形態の焼結体は、実質的に、シリカ(SiO2)を含まないことが好ましく、シリカが検出限界以下であることがより好ましい。
【0054】
本実施形態の焼結体は、少なくとも、結晶相が正方晶(T相)及び立方晶(C相)の少なくとも1つであるジルコニアを含むジルコニア層を含むことが好ましく、少なくとも、正方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア層を含むことがより好ましく、正方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア層と、立方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア層と、を含むことが更に好ましい。なお、本実施形態における「主相」とは、ジルコニアの結晶相の中で、最も存在割合(ピークの積分強度の割合)が多い結晶相を意味する。該存在割合は焼結体表面のXRDパターンから求めることができる。
【0055】
焼結体表面のXRDパターンの測定条件として、以下の条件が例示できる。
線源 : CuKα線(λ=1.541862Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
測定範囲 : 2θ=26°~33°
加速電圧・電流 : 40mA・40kV
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
ゴニオメータ半径 : 185mm
【0056】
得られたXRDパターンを平滑化処理及びバックグラウンド除去処理し、分割擬Voigt関数によりプロファイルフィッティングすることで、正方晶及び立方晶の割合(ピークの積分強度の割合)を求め、割合の高い結晶相を主相とすればよい。XRDパターンの測定及びフィッテングは、汎用の粉末X線回折装置(例えば、Ultima IV、RIGAKU社製)及び、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)により行うことができる。
【0057】
<焼結体及び焼結体を構成する各ジルコニア層(各焼結体層)の特性>
図1及び
図2に示す焼結体(100)は、各層の厚みを同程度で示している。しかしながら、本実施形態の焼結体は、各層の厚み(以下、「層厚」ともいう。)が、それぞれ、異なっていてもよく、各層のいずれかの層厚が厚くてもよい。自然歯と同様な質感とする観点からは、表面ジルコニア層の層厚は、組成傾斜ジルコニア層の層厚よりも薄いことが好ましく、更に組成傾斜ジルコニア層を構成する単位ジルコニア層の層厚と比較して薄い方が好ましい。
【0058】
表面ジルコニア層と組成傾斜ジルコニア層との層厚比は、特に制限されないが、表面ジルコニア層の層厚:組成傾斜ジルコニア層の層厚として、1:1~1:50が好ましく、1:1~1:30がより好ましく、1:2~1:20が更に好ましい。
【0059】
本実施形態の焼結体の形状は任意であり、球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状及び多面体状の群から選ばれる少なくとも1種や、クラウン、ブリッジ、オンレー及びアンレー等の歯科補綴材料をはじめとする歯科材料に適した形状、その他目的とする用途に応じた任意の形状であればよい。なお、本実施形態において、球状は、略球状等、真球以外の真球類似形体を含み、多面体状は多面体以外に、略多面体状等、多面体類似形状を含んでいてもよい。
【0060】
本実施形態の焼結体の寸法は任意であり、縦10mm以上120mm以下、横12mm以上120mm以下、及び、高さ6mm以上40mm以下であることが例示できる。また、本実施形態の焼結体の積層方向の厚み、すなわち焼結体の高さ、は任意であるが、例えば、4mm以上40mm以下、更には5mm以上30mm以下であることが挙げられる。
【0061】
<<焼結体の反り及び変形量>>
本実施形態における反りはJIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージ(以下、単に「ゲージ」ともいう。)を使用して測定される値である。本実施形態の焼結体の反りは、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.3mm以下、更に好ましくは0.2mm以下、更により好ましくは0.1mm以下、特に好ましくは0.05mm以下である。焼結体は反りを有さない(反りが0mmであること)が好ましいが、本実施形態の焼結体はゲージで測定できない程度の反りを有していてもよい(反りが0mm以上)。本実施形態の焼結体は反りが0mmを超え、更には0.01mm以上であることが例示できる。反りは0.06mm以下、更には0.05mm以下、また更には測定限界未満(0.03mm未満)であることが好ましい。本実施形態の焼結体の反りは、測定限界未満、0mm以上0.06mm以下、0mm以上0.05mm以下、又は、0mm以上0.03mm未満が例示できる。
【0062】
反りは、焼結体(積層体)の凸部が水平板と接するように配置した状態で形成される隙間に挿入できるゲージの厚みの最大値により測定することができる。
図3は、反りの測定方法を示す模式図である。焼結体(300)は、円板状試料の断面を示しており、積層方向(Y軸方向)に反った状態の焼結体を示している。
図3では、説明のため、焼結体(300)の反りを強調して示している。
図3で示すように、反りの測定に際しては、凹凸形状の焼結体(300)の凸部が水平板(31)と接するように配置する。これにより、焼結体(300)と水平板(31)とが接した面(以下、「底面」ともいう。)と、水平板(31)との間に隙間が形成される。当該隙間にゲージを挿入し、挿入できたゲージの厚みの最大値をもって、反りが測定できる。
図3において、ゲージ(32A)は、焼結体(300)の底面の下部に位置しており、隙間に挿入できた状態を示し、一方、ゲージ(32B)は、焼結体(300)の底面の下部に位置しておらず、隙間に挿入できない状態を示している。
図3におけるゲージ(32A)及び(32B)は、互いに、厚みが1段階(例えば、0.01mm)異なるゲージであり、焼結体(300)の反りは、ゲージ(32A)の厚みとなる。なお、説明の簡便化のため、
図3においては、ゲージ(32A)及び(32B)の両方を挿入した図として示しているが、反りの測定は厚みの薄いゲージから順番に、隙間に挿入することにより測定すればよい(例えば、ゲージ(32A)を使用して測定した後に、これを取り除き、次いでより厚いゲージ(32B)を使用して測定する、など)。
【0063】
本実施形態の焼結体は、焼結体の寸法に対する反り(以下、「変形量」ともいう。)、が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。変形量は0以上、更には0.01以上、また更には0.05以上であることが例示できる。
【0064】
変形量は、以下の式から求めることができる。
変形量=(反り:mm)/(焼結体の寸法:mm)×100
焼結体の寸法は、反りの方向に対して垂直となる方向の焼結体の大きさである。
図3における焼結体(300)は積層方向(Y軸方向)に沿っているため、焼結体(300)の寸法は、積層方向と垂直となる水平方向(X軸方向)の焼結体の大きさ(33)である。寸法はノギスやマイクロメーター等を使用した公知の測定方法で測定できる。例えば、円板状や円柱状の積層体の場合、焼結体の寸法は、焼結体の直径を示す。円板状や円柱状の積層体の場合、焼結体の寸法は、ノギスを使用して、上端の直径及び下端の直径を各4点ずつ測定し、上端及び下端の直径の平均値を求め、求まった値の平均値をもって積層体の寸法とすることが挙げられる。
【0065】
本実施形態において、反り及び変形量は、円板形状の試料を測定試料として測定される値であることが好ましく、直径5mm以上120mm以下の円板形状の試料を測定試料として測定される値であることがより好ましい。
例えば、焼結体の直径が、105mmで、反りが0.2mmの場合には、変形量は、
0.2/105×100=0.19となる。
【0066】
<<焼結体の密度>>
本実施形態の焼結体はJIS R 1634に準じた方法で測定される密度の下限値が、5.7g/cm3以上、5.9g/cm3以上又は6.0g/cm3以上であること、密度の上限値が、6.3g/cm3以下又は6.1g/cm3以下であることが例示できる。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、仮焼体の密度は、5.7g/cm3以上6.3g/cm3以下であること、5.9g/cm3以上6.1g/cm3以下であること、又は6.0g/cm3以上6.1g/cm3以下であることが例示できる。この範囲の密度は、相対密度として99%以上に相当し、実用的な強度を備えた、いわゆる緻密な焼結体、となる密度である。
【0067】
<<焼結体もしくは焼結体層の色調>>
本実施形態の焼結体、もしくは各ジルコニア層(各焼結体層)の色調は、L*a*b*表色系で示される明度L*の下限値が60以上、好ましくは65以上であり、明度L*の上限値が90以下、好ましくは85以下であり、色相a*の下限値が-5以上、好ましくは-3以上であり、色相a*の上限値が5以下、好ましくは3以下であり、なおかつ、色相b*の下限値が0以上、好ましくは3以上であり、色相b*の上限値が25以下、好ましくは20以下であること、が例示できる。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、本実施形態の焼結体、もしくは各ジルコニア層(各焼結体層)の色調は、例えば、60以上90以下、好ましくは65以上85以下であり、色相a*が-5以上5以下、好ましくは-3以上3以下であり、なおかつ、色相b*が0以上25以下、好ましくは3以上20以下であること、が例示できる。色調がこの範囲であることで、焼結体が自然歯と類似した色調を呈する。
【0068】
本実施形態の焼結体は、色調の変化を有するため、各ジルコニア層の彩度C*が異なることが好ましい。彩度C*は鮮やかさを示す指標であり、L*a*b*表色系で示される色相a*及びb*から、C*={(a*)2+(b*)2}0.5より求められる。組成傾斜ジルコニア層における、隣接して積層する単位ジルコニア層の彩度C*の差の絶対値(△C*)の下限値が0.1以上であること、更には0.3以上、また更には1.0以上、また更には1.5以上であり、絶対値(△C*)の上限値が15.0以下であること、更には10.0以下、また更には5.0以下、また更には3.0以下であることが例示できる。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、本実施形態の焼結体は、隣接して積層する単位ジルコニア層の彩度C*の差の絶対値(△C*)が、例えば、0.1以上15.0以下であること、更には0.3以上10.0以下、また更には1.0以上5.0以下、また更には1.5以上3.0以下であることが例示できる。△C*がこの範囲であることで、自然歯に近い鮮やかさのグラデーションを有する積層体として視認され得る。同様に、隣接して積層する単位ジルコニア層の明度L*の差の絶対値(△L*)が好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、好ましくは15.0以下、より好ましくは10.0以下であることが例示できる。
【0069】
色調(L*、a*及びb*)及びC*は、JIS Z 8722の幾何条件cに準拠した照明・受光光学系を備えた分光測色計を使用し、SCI方式で測定された値を使用し、求めることができる。分光測色計として、例えば、コニカミノルタ社製のCM-700dが例示できる。本実施形態の焼結体若しくは焼結体層の色調測定には、焼結体の任意の個所を水平方向に切り出し、これを直径20mm×厚さ1.0±0.1mm及び表面粗さ(Ra)≦0.02μmの円板形状となるように加工した測定試料を用いればよい。
色調及びC*の具体的な測定条件として、測定試料を黒色板の上に配置して測定する方法(いわゆる黒バック測定)において、以下の条件が例示できる。
光源 : D65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCI
【0070】
<<焼結体もしくは焼結体層の透過率>>
本実施形態の焼結体は、少なくとも、透光感を有するジルコニア層を含むことが好ましい。さらに、少なくとも、試料厚み1.0±0.1mmにおけるCIE標準光源D65に対する全光線透過率(以下、単に「全光線透過率」ともいう。)が好ましくは15%以上であり、より好ましくは20%以上であり、更に好ましくは23%以上であるジルコニア層を有することが好ましい。また、全光線透過率が好ましくは60%以下であり、より好ましくは55%以下であり、更に好ましくは50%以下であるジルコニア層を有することが好ましい。本実施形態の焼結体は、その呈色によって吸収する光の波長が異なる。そのため、透光性の指標としては、CIE標準光源D65のように、異なる波長を含む光に対する全光線透過率が適している。
【0071】
本実施形態の焼結体における各ジルコニア層(各焼結体層)は、隣接して積層するジルコニア層の全光線透過率の差が1%以上であることが好ましく、1.5%以上であることがより好ましい。また、隣接して積層するジルコニア層の全光線透過率の差が、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0072】
本実施形態の焼結体の全光線透過率は、焼結体の任意の個所を水平方向に切り出し、これを試料厚み1.0±0.1mmとなるように加工した測定試料として測定すればよい。
【0073】
全光線透過率は、JIS K 7361に準じた方法で測定し、CIE標準光源D65を入射光とし、当該入射光に対する拡散透過率と直線透過率を合計した透過率の値として求めることができる。厚み1.0±0.1mm及び表面粗さ(Ra)≦0.02μmのサンプルを測定試料とし、一般的な濁度計(ヘーズメーター;例えば、NDH4000、NIPPON DENSOKU製)を使用してCIE標準光源D65の光を当該試料に照射し、積分球により透過光を集光することで試料の透過率(拡散透過率及び直線透過率)は測定され、これを全光線透過率とすればよい。
【0074】
<<焼結体層の三点曲げ強度>>
本実施形態の焼結体における各ジルコニア層(各焼結体層)の三点曲げ強度は、JIS R 1601に準じた方法で測定される三点曲げ強度が500MPa以上であることが好ましく、550MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがより好ましく、800MPa以上であることが更に好ましい。三点曲げ強度は、1300MPa未満であること、更には1200MPa以下であることが例示でき、500MPa以上1300MPa未満、又は、800MPa以上1200MPa以下であることが好ましい。
JIS R 1601に準じた方法で測定される表面ジルコニア層(焼結体層)の三点曲げ強度は、700MPa以上であることが好ましく、750MPa以上であることがより好ましく、800MPa以上であることが更に好ましい。表面ジルコニア層(焼結体層)における三点曲げ強度が700MPa以上であれば、チッピングの発生を十分に抑制することができる。
チッピング発生の抑制のため、表面ジルコニア層は第1の組成傾斜ジルコニア層より三点曲げ強度が高く、その差が50MPa以上、100MPa以上又は150MPa以上であることが好ましい。表面ジルコニア層と第1の組成傾斜ジルコニア層との三点曲げ強度の差は、審美性が損なわれない範囲であれば任意であるが、500MPa以下、更には300MPa以下であればよい。
【0075】
図4はジルコニア層(焼結体層)(400)の三点曲げ強度の測定の様子を示す模式図である。
図4において、Y軸方向に積層方向を、及び、X軸方向に水平方向を示している。三点曲げ強度の測定に供する測定試料は、厚みを積層方向とし、幅及び長さを水平方向として作製された直方体形状の焼結体である。
図4で示すように、三点曲げ強度は、測定試料(400)の長さに対して垂直となるように荷重(41)を印加して測定すればよい。測定試料は、荷重(41)が支点間距離(42)の中間に印加されるよう、配置すればよい。三点曲げ強度の測定は、支点間距離30mmで、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体を測定試料として使用し、クロスヘッドスピードは0.5mm/minとして10回測定した平均値をもって本実施形態に係るジルコニア層(焼結体層)の三点曲げ強度とすればよい。
【0076】
次に、積層体が仮焼体である実施形態を示しながら、上述の焼結体と異なる主な点について説明する。
【0077】
(仮焼体)
本実施形態の仮焼体は、
安定化元素を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアを含有する表面ジルコニア組成物層と、2以上の単位ジルコニア組成物層から構成された組成傾斜ジルコニア組成物層とを有し、
単位ジルコニア組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアと、着色元素とを含有し、
組成傾斜ジルコニア組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面ジルコニア組成物層側から仮焼体の表面ジルコニア組成物層とは反対側の表面側に向かって変動しないか又は減少するように各単位ジルコニア組成物層が積層することで組成傾斜ジルコニア組成物層が構成されている、仮焼体であって、
表面ジルコニア組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜ジルコニア組成物層を構成する各単位ジルコニア組成物層の内の表面ジルコニア組成物層に隣接した単位ジルコニア組成物層である、第1の組成傾斜ジルコニア組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい仮焼体である。
【0078】
仮焼体は、多層構造を有する組成物、いわゆる積層体であり、ネッキング構造を有する組織、いわゆる仮焼粒子、からなる積層体である。仮焼体は、必要に応じて加工され、焼結体の前駆体として供することができ、また、予備焼結体や、軟焼結体や、半焼結体とも称呼される。
【0079】
ネッキング構造は、焼結温度未満で熱処理されたジルコニアが有する構造であり、ジルコニア粒子が相互に化学的に癒着した構造である。
図5に示すように、仮焼体が有する表面ジルコニア組成物層及び単位ジルコニア組成物層(以下、「ジルコニア組成物層」ともいう)に含まれるジルコニア(51)は、粉末組成物中のジルコニアの粒子形状の一部が確認できる。本実施形態において、ネッキング構造を有する組織は、焼結初期段階のジルコニアからなる構造である。これは、焼結組織、すなわち焼結後期段階のジルコニア結晶粒子からなる構造とは異なる。従って、本実施形態の仮焼体は、安定化元素を含有するジルコニアのネッキング構造を有するジルコニア粒子からなるジルコニアと、着色元素を含む場合は着色元素とを含む層、を3層以上備えた積層体、とみなすこともできる。
【0080】
仮焼体は、ジルコニア層を有する代わりに、安定化元素を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアと、着色元素を含む場合は着色元素とを含むジルコニア組成物層(以下、「組成物層」ともいう。)を有し、焼結体で説明した積層構造、と同等な構造を有する。仮焼体において、安定化元素及び着色元素は、ジルコニアに固溶した状態であってもよく、酸化物又はその前駆体の状態であってもよい。
【0081】
<ジルコニア組成物層の組成>
仮焼体に含まれるジルコニアは、ジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結温度未満で熱処理された状態であることが好ましく、ジルコニウム化合物の加水分解で得られたジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結温度未満で熱処理された状態であることがより好ましく、オキシ塩化ジルコニウムが加水分解したジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結温度未満で熱処理された状態であることが更に好ましい。
【0082】
仮焼体及び各組成物層の安定化元素の含有量は任意であるが、上述の本実施形態の焼結体と同様であればよい。
仮焼体は、少なくとも、正方晶又は立方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア組成物層を含むことがより好ましい。
【0083】
<仮焼体及び仮焼体を構成する層の特性>
仮焼体は、反りが1.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることが更に好ましく、0.2mm以下であることが更により好ましく、0.1mm以下であることが更により好ましく、0.05mm以下であることが更により好ましい。仮焼体は反りを有さないこと(反りが0mmであること)が好ましいが、ゲージで測定できない程度の反りを有していてもよい(反りが0mm以上)。仮焼体は反りが0mmを超え、更には0.01mm以上であることが例示できる。反りは0.06mm以下、更には0.05mm以下、また更には測定限界未満(0.03mm未満)であることが好ましい。
【0084】
仮焼体は、変形量が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。変形量は0以上、更には0.01以上、また更には0.05以上であることが例示できる。
【0085】
仮焼体は、密度が2.4g/cm3以上が好ましく、3.1g/cm3以上であることがより好ましく、3.7g/cm3以下であることが好ましく、3.5g/cm3以下であることがより好ましい。この範囲の密度は、相対密度は40%~60%に相当する。仮焼体はCAD/CAM加工等の加工に適した強度を有する積層体であればよい。
仮焼体の密度は、質量測定により求まる質量、及び、寸法測定により求まる体積から求められる。
【0086】
仮焼体に含まれるジルコニア組成物層の色調は、これを焼結して得られる焼結体と異なっていてもよく、色調の変化を有さなくてもよい。
仮焼体及び各ジルコニア組成物層は不透明であり、全光線透過率は0%であるが、測定誤差を考慮した場合、全光線透過率が0%以上0.2%以下であることが例示できる。
仮焼体は、CAD/CAMや切削などの加工の際の欠陥が発生しにくい程度の強度を有していればよく、例えば、ビッカース硬度として25HV以上150HV(=kgf/mm2)以下又は30HV以上130HVであること、が挙げられる。
ビッカース硬度の測定は、ダイヤモンド製の正四角錘の圧子を備えた一般的なビッカース試験機(例えば、Q30A、Qness社製)を使用して行うことができる。測定は、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕の対角長さを目視にて測定する。得られた対角長さを使用して、以下の式からビッカース硬度を求めることができる。
Hv=F/{d2/2sin(α/2)}
上の式において、Hvはビッカース硬度(HV)、Fは測定荷重(1kgf)、dは押込み痕の対角長さ(mm)、及び、αは圧子の対面角(136°)である。
ビッカース硬度の測定条件として、以下の条件が挙げられる。
測定試料 : 厚み2.0±0.5mmの円板状
測定荷重 : 1kgf
測定に先立ち、測定試料は、仮焼体の任意の個所を水平方向に切り出し、#800の耐水研磨紙で測定面を研磨し0.1mmを超える凹凸を除去し、前処理とすればよい。
【0087】
本実施形態の積層体は、装飾部材、構造材料や光学材料等、公知のジルコニアの用途に供することができるが、積層体が焼結体である場合は義歯、例えばクラウン、ブリッジ等、の歯科材料として好適に使用することができ、本実施形態の焼結体を含む歯科材料とすることができる。また、積層体が仮焼体である場合、義歯、例えばクラウン、ブリッジ等、の歯科材料の前駆体として好適に使用することができ、ブランク、ディスク、ブロック、ミルブランク等の歯科用補綴材料及びこれらの前駆体として供することができる。さらに、本実施形態の積層体を含む歯科材料とすることができる。
【0088】
(積層体の製造方法)
次に、本実施形態の積層体の製造方法について説明する。
本実施形態の積層体が焼結体である形態における製造方法は、
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面粉末組成物層側から成形体の表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物が積層することで組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
表面粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、成形体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、積層体の製造方法、である。
【0089】
また、本実施形態の別の製造方法は、
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面粉末組成物層側から成形体の表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物が積層することで組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
表面粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、成形体を800℃以上1200℃未満で仮焼して仮焼体とする工程、及び、
仮焼体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、積層体の製造方法、である。
【0090】
また、本実施形態の更なる別の製造方法は、
安定化元素を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアを含有する表面ジルコニア組成物層と、2以上の単位ジルコニア組成物層から構成された組成傾斜ジルコニア組成物層とを有し、
単位ジルコニア組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアと、着色元素とを含有し、
組成傾斜ジルコニア組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面ジルコニア組成物層側から仮焼体の表面ジルコニア組成物層とは反対側の表面側に向かって変動しないか又は減少するように各単位ジルコニア組成物層が積層することで組成傾斜ジルコニア組成物層が構成されている、仮焼体であって、
表面ジルコニア組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜ジルコニア組成物層を構成する各単位ジルコニア組成物層の内の表面ジルコニア組成物層に隣接した単位ジルコニア組成物層である、第1の組成傾斜ジルコニア組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい仮焼体を、1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、積層体の製造方法、である。
【0091】
本実施形態の積層体が仮焼体である形態における製造方法は、
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面粉末組成物層側から成形体の表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層することで組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
表面粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、成形体を800℃以上1200℃未満で仮焼して仮焼体とする工程、を有する、積層体の製造方法、である。
【0092】
(成形体)
本実施形態の製造方法に供する成形体について、以下、上述の焼結体及び仮焼体と異なる主な点について説明する。
本実施形態の製造方法に供する成形体は、
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面粉末組成物層と、2以上の単位粉末組成物層から構成された組成傾斜粉末組成物層とを有し、
単位粉末組成物層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、
組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量が、表面粉末組成物層側から成形体の表面粉末組成物層とは反対側の表面粉末組成物側に向かって変動しないか又は減少するように各単位粉末組成物層が積層することで組成傾斜粉末組成物層が構成されており、
表面粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、組成傾斜粉末組成物層を構成する各単位粉末組成物層の内の表面粉末組成物層に隣接した単位粉末組成物層である、第1の組成傾斜粉末組成物層に含まれる安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、成形体である。
【0093】
成形体は、多層構造を有する組成物、いわゆる積層体であり、粉末組成物からなる積層体である。成形体は、仮焼体又は焼結体の前駆体として供することができる。
成形体は、ジルコニア層を有する代わりに、安定化元素を含有するジルコニアを含む粉末組成物からなる粉末組成物層(以下、「粉末層」ともいう。)を有し、焼結体で説明した積層構造、と同等な構造を有する。従って、成形体は、安定化元素を含有するジルコニアの粉末を含む層、を3層以上備えた積層体、とみなすこともできる。成形体において、安定化元素は、ジルコニアに固溶した状態であってもよく、酸化物又はその前駆体の状態であってもよい。前駆体として、硫化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物及びオキシ水酸化物の群から選ばれる1以上、更には塩化物、水酸化物、オキシ水酸化物の群から選ばれる1以上、が例示できる。なお、表面粉末組成物層は、着色元素を含有していてもよい。着色元素を含有する場合、着色元素は少なくとも酸化物を含むことが好ましい。
【0094】
成形体は、反りが1.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましく、0.1mm以下であることが更により好ましく、0.05mm以下であることが更により好ましい。成形体は反りを有さない(反りが0mmであること)が好ましいが、ゲージで測定できない程度の反りを有していてもよい(反りが0mm以上)。成形体は反りが0mmを超え、更には0.01mm以上であることが例示できる。反りは0.06mm以下、更には0.05mm以下、また更には測定限界未満(0.03mm未満)であることが好ましい。
【0095】
成形体は、変形量が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。変形量は0以上、更には0.01以上、また更には0.05以上であることが例示できる。
【0096】
粉末層に含まれるジルコニアは、ジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアであることが好ましく、ジルコニウム化合物の加水分解で得られたジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアであることがより好ましく、オキシ塩化ジルコニウムが加水分解したジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアであることが更に好ましい。
粉末層に含まれるジルコニアはジルコニア粉末であることが好ましい。ジルコニア粉末は、平均粒子径が、0.3μm以上0.7μm以下であることが好ましく、0.4μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0097】
ジルコニア粉末は、BET比表面積が7.5m2/g以上15m2/g以下であるとよい。BET比表面積がこの範囲未満であると、焼結速度が遅くなりすぎ、一方、BET比表面積がこの範囲を超えると、焼結速度が速くなりすぎる。いずれの場合にも常圧焼結、特に大気焼結、において緻密化しにくくなる。昇温速度の速い焼結を適用した場合であっても緻密化が促進される傾向があるため、BET比表面積の下限値は8m2/g以上、9m2/g以上、又は、9.5m2/g以上であることが好ましく、BET比表面積の上限値は15m2/g以下、13m2/g以下、又は、11m2/g以下であることが好ましい。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、ジルコニア粉末のBET比表面積は、例えば、8m2/g以上15m2/g以下、9m2/g以上13m2/g以下、又は、9.5m2/g以上11m2/g以下であることが好ましい。
本実施形態において、BET比表面積は、JIS R 1626に準じて測定されるBET比表面積であり、吸着ガスに窒素を使用したキャリアガス法による、BET5点法により測定すればよい。BET比表面積の具体的な測定条件として以下の条件が例示できる。
【0098】
[BET比表面積の測定条件]
吸着媒体 :N2
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
BET比表面積は、一般的な装置(例えば、トライスターII 3020、島津製作所社製)を使用して測定することができる。
【0099】
粉末層に含まれる着色元素は、ジルコニア粉末と混合された状態及びジルコニアに固溶した状態の少なくともいずれかであることが好ましい。また、着色元素粉末とジルコニア粉末とが混合された状態であってもよい。
【0100】
成形体は結合剤を含んでいてもよい。結合剤を含むことで、成形体の保形性が高くなる。成形体が含む結合剤は、セラミックスの成形に使用される公知のものを使用することができ、有機結合剤であることが好ましい。有機結合剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系樹脂の群から選ばれる1種以上、好ましくはポリビニルアルコール及びアクリル系樹脂の1種以上であり、より好ましくはアクリル系樹脂である。本実施形態において、アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくともいずれかを含む重合体である。具体的なアクリル系樹脂として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸共重合体及びメタクリル酸共重合体の群から選ばれる1 種以上、並びに、これらの誘導体、が例示できる。
【0101】
成形体及び各粉末層の安定化元素及び着色元素の含有量は任意であるが、上述の本実施形態の焼結体と同様であればよい。
【0102】
各粉末層が結合剤を含有する場合、成形時の欠陥を抑制する観点から、各粉末層の結合剤の含有量として、下限値が、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましく、2.5質量%以上であることが更により好ましく、上限値が、8.0質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましく、5.5質量%以下であることが更に好ましい。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、各粉末層の結合剤の含有量は、例えば、1.5質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上8.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以上6.0質量%以下であることが更に好ましく、2.5質量%以上5.5質量%以下であることが更により好ましい。
【0103】
結合剤の含有量は、粉末層中の粉末組成物から結合剤を除いたものの質量に対する結合剤の質量割合({結合剤/(粉末組成物-結合剤)}×100)であり、粉末組成物の製造にあたり、結合剤以外の粉末組成物の構成成分(例えば、酸化物換算した安定化元素、ジルコニア及びアルミナ)の合計質量を求めた後、これに対する目的とする結合剤の質量割合を求め、粉末組成物を製造することが挙げられる。
成形体の反りを抑制するため、各粉末層の結合剤の含有量は隣接する粉末層の安定化元素の含有量に応じて調整することが好ましい。
【0104】
操作性の観点から、粉末層に含まれる粉末組成物は、ジルコニア粉末、着色元素及び結合剤を含有する場合には結合剤が造粒された状態の粉末(以下、「造粒粉末」ともいう。)であることが好ましく、噴霧乾燥等によって顆粒状に造粒された造粒粉末(以下、「粉末顆粒」ともいう。)であることがより好ましい。
造粒粉末の粒子径は任意であるが、平均凝集径(以下、「平均顆粒径」ともいう。)として、下限値が1μm以上、好ましくは5μm以上が例示でき、上限値が150μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下が例示できる。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、造粒粉末の粒子径は、平均凝集径として、例えば、1μm以上150μm以下、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上50μm以下、更に好ましくは5μm以上30μm以下が例示できる。別の実施形態として20μm以上50μm以下が例示できる。
本実施形態において、平均凝集径は体積粒度分布測定における累積50%に相当する径である。体積粒度分布は汎用の装置(例えば、MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)により、測定することができる値であり、球形近似した粒子の体積径である。
前処理として、測定に先立ち、造粒粉末を目開き125μmの篩により篩分けすればよい。
【0105】
成形体は、少なくとも、正方晶又は立方晶を主相とするジルコニアを含む粉末層を含むことが好ましい。
【0106】
成形体は、密度が、例えば、2.4g/cm3以上、好ましくは3.1g/cm3以上、3.7g/cm3以下、好ましくは3.5g/cm3以下であることが例示できる。この範囲の密度は、相対密度は40%~60%に相当する。
成形体の密度は、質量測定により求まる質量、及び、寸法測定により求まる体積から求められる。
【0107】
成形体に含まれるジルコニア層の色調は、これを焼結して得られる焼結体と異なっていてもよく、色調の変化を有さなくてもよい。
成形体及び各粉末層は不透明であり、全光線透過率が0%であるが、測定誤差を考慮した場合、全光線透過率が0%以上0.2%以下であることが例示できる。
成形体は、仮焼又は焼結時に供する際の割れや欠けが生じない程度の強度を有していればよい。
【0108】
成形体は、粉末組成物を積層させ、これを成形することで得られる。各粉末組成物は、公知の方法でジルコニア粉末と結合剤を含有する場合には結合剤とを所望する任意の割合で混合することで得られる。成形は加圧成形であることが好ましい。例えば、裏面層に対応する組成を有する粉末組成物を成形型に充填し、裏面層とする。その後、裏面層に隣接する層の組成に対応する組成を有する粉末組成物を、裏面層の上に充填する。3層以上の粉末層が積層した構造を有する成形体とする場合、同様な操作を繰返し、必要な粉末組成物を積層させればよい。表面層の組成に対応する組成を有する粉末組成物を充填した後、任意の圧力で一軸加圧成形して予備成形体を得、これを冷間静水圧プレス(以下、「CIP」ともいう。)処理することで、成形体が得られる。積層時は、振動機を使用した振動等、層間に混合層を形成させる振動を与える必要はない。また、一軸加圧成形は、表面層に対応する組成を有する粉末組成物の充填後に行うことが好ましく、表面層に対応する組成を有する粉末組成物を充填する前の加圧は行わないことが好ましい。
【0109】
一軸加圧成形の成形圧は15MPa以上であることが好ましく、18MPa以上であることがより好ましく、200MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましい。一軸加圧成形は、成形圧が高くなるに伴い、成形体の反りが抑制される傾向がある。CIP処理の圧力は、成形圧98MPa以上392MPa以下が挙げられる。
成形体を焼結温度未満の温度で処理することで、成形体が仮焼体となる。仮焼方法及び仮焼条件は公知の方法を使用することができる。
【0110】
仮焼時の保持温度(以下、「仮焼温度」ともいう。)としては、例えば、800℃以上1200℃未満、好ましくは900℃以上1150℃以下、より好ましくは950℃以上1100℃以下が挙げられる。
仮焼温度における保持時間(以下、「仮焼時間」ともいう。)としては、例えば、好ましくは0.5時間以上5時間以下、より好ましくは0.5時間以上3時間以下である。
なお、上昇させる温度、その際の温度上昇率、及び上昇させた温度での保持時間を複数段階に分けて、温度上昇させてもよい。
例えば、室温から300℃まで15℃/時間、300℃で5時間保持、300℃から700℃まで15℃/時間、700℃で1時間保持、700℃から1000℃まで50℃/時間、1000℃で2時間保持のような条件で仮焼させてもよい。
【0111】
仮焼工程における雰囲気(以下、「仮焼雰囲気」ともいう。)は、還元性雰囲気以外の雰囲気であることが好ましく、酸素雰囲気又は大気雰囲気の少なくともいずれかであることがより好ましく、大気雰囲気であることが更に好ましい。
【0112】
本実施形態の製造方法では、成形体及び仮焼体のいずれか(以下、これらをまとめて「成形体等」ともいう。)を、1200℃を以上1600℃以下で処理する。これにより成形体等が焼結体となる。焼結に先立ち、成形体等を任意の形状に加工してもよい。
焼結方法及び焼結条件は公知の方法を使用することができる。焼結方法として常圧焼結、HIP処理、SPS及び真空焼結の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。工業的な焼結方法として汎用されているため、焼結方法は好ましくは常圧焼結、より好ましくは大気雰囲気下の常圧焼結である。焼結方法は常圧焼結のみであることが好ましく、常圧焼結後の加圧焼結を行わないことがより好ましい。これにより、焼結体を、常圧焼結体として得ることができる。本実施形態において、常圧焼結とは、焼結時に被焼結物に対して外的な力を加えず、単に加熱することによって焼結する方法である。
【0113】
焼結時の保持温度(以下、「焼結温度」ともいう。)としては、下限値が1200℃以上であり、好ましくは1300℃以上、より好ましくは1400℃以上、更に好ましくは1430℃以上、更により好ましくは1480℃以上であり、上限値が1650℃以下であり、好ましくは1580℃以下、より好ましくは1560℃以下、更に好ましくは1560℃以下、更により好ましくは1560℃以下である。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、焼結温度は、例えば、1200℃以上1650℃以下であり、好ましくは1300℃以上1580℃以下、より好ましくは1400℃以上1560℃以下、更に好ましくは1430℃以上1560℃以下、更により好ましくは1480℃以上1560℃以下である。別の実施形態において、焼結温度は1450℃以上1650℃以下であり、好ましくは1500℃以上1650℃以下、より好ましくは1550℃以上1650℃以下である。
焼結温度までの昇温速度としては、下限値が50℃/時間以上が挙げられ、好ましくは100℃/時間以上、より好ましくは150℃/時間以上であり、上限値が800℃/時間以下が挙げられ、好ましくは700℃/時間以下である。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、焼結温度までの昇温速度は、例えば、50℃/時間以上800℃/時間以下が挙げられ、好ましくは100℃/時間以上800℃/時間以下、より好ましくは150℃/時間以上800℃/時間以下、更に好ましくは150℃/時間以上700℃/時間以下である。
焼結温度での保持時間(以下、「焼結時間」ともいう。)としては、焼結温度により異なるが、好ましくは、下限値が1時間以上であり、上限値が5時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下である。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、焼結時間は、例えば、焼結温度により異なるが、好ましくは1時間以上5時間以下、より好ましくは1時間以上3時間以下、更に好ましくは1時間以上2時間以下である。
例えば、室温から1500℃まで100℃/時間、1500℃で2時間保持のような条件で焼結させてもよい。
【0114】
焼結の雰囲気(以下、「焼結雰囲気」ともいう。)は、還元性雰囲気以外の雰囲気であることが好ましく、酸素雰囲気又は大気雰囲気の少なくともいずれかであることがより好ましく、大気雰囲気であることが更に好ましい。大気雰囲気とは、主として窒素及び酸素からなり、酸素濃度が18~23体積%程度であることが例示できる。
焼結工程における好ましい焼結条件として、大気雰囲気の常圧焼結、が挙げられる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を用いて本開示の積層体について説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0116】
(BET比表面積)
BET比表面積は、自動比表面積自動測定装置(装置名:トライスターII 3020、島津製作所製)を使用し、JIS R 1626に準じ、BET5点法により測定した。測定条件は以下のとおりである。
吸着媒体 :N2
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
【0117】
(平均顆粒径)
平均顆粒径は、マイクロトラック粒度分布計(装置名:MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定により測定した。測定条件は以下のとおりである。
光源 :半導体レーザー(波長:780nm)
電圧 :3mW
ジルコニアの屈折率 :2.17
計算モード :MT3000
前処理として、測定に先立ち、造粒粉末を目開き125μmの篩により篩分け、篩を通過した造粒粉末を測定試料とした。
【0118】
(反り及び変形量)
円板形状の積層体(成形体、仮焼体又は焼結体)を測定試料とし、以下の式(3)から、それぞれの変形量を求めた。
変形量=(反り:mm)/(寸法:mm)×100・・・(3)
【0119】
変形量の求め方について、さらに詳しく説明する。
積層体の作製条件は次のとおりである。
[積層体]
金型径 :Φ110mm
粉末質量:470g(積層体に使用した粉末の総質量)
成形圧 :一軸加圧成形:49MPa+CIP処理:196MPa
成形工程:1番目の層を形成する原料粉末を金型に投入→ならす→2番目の層を形成する原料粉末を金型に投入→ならす→(以降繰り返し)→一軸加圧成形→CIP処理
【0120】
上記積層体の作製において、一軸加圧成形の成形工程を模式的に表した図を
図6に、またCIP処理の成形工程を模式的に表した図を
図7に示す。
図6では、(a)金型(62)に粉末組成物(61)を投入し→(b)粉末組成物をならし→(c)(2番目の層も同様に形成し、以降繰り返し)、(d)一軸加圧成形(63)にて、粉末組成物を加圧する様子を示す。
図7では、一軸加圧成形された粉体(積層体)(71)を、高圧容器内に入れ、高圧容器内に溶媒(72)を満たし、粉体を等方的に加圧する様子を示す。
【0121】
CIP処理を経ることにより、反り及び変形量測定用の成形体を得た。
上記成形体に対し、下記条件の仮焼を行い、反り及び変形量測定用の仮焼体を得た。
上記成形体に対し、下記条件の仮焼及び焼結を行い、反り及び変形量測定用の焼結体を得た。
[仮焼・焼結条件]
仮焼:室温から300℃まで15℃/時間、300℃で5時間保持、300℃から700℃まで15℃/時間、700℃で1時間保持、700℃から1000℃まで50℃/時間、1000℃で2時間保持、その後炉内冷却した。
焼結:室温から1500℃まで100℃/時間、1500℃で2時間保持、その後炉内冷却した。
【0122】
成形体、仮焼体、及び焼結体のそれぞれの積層体に対して、反りの測定は、
図3に示した測定法により行った。測定試料の凸部が水平板に接するように測定試料を配置した。水平板と底面の間に形成された空隙にJIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージ(製品名:75A19、永井ゲージ製作所社製)を挿入して、反りを測定した。測定は、水平板上と平行に配置したゲージを、水平板と測定試料の底面との間に形成された空隙に挿入し、当該空隙に挿入できたゲージの最大の厚みとなるゲージ厚を計ることで行い、当該ゲージ厚を反りとした。なお、反りは、単体のゲージ又はゲージの組合せることによって、ゲージ厚0.03mmから0.01mm刻みで順次測定した。
測定試料の寸法は、ノギスを使用して上端の直径及び下端の直径を各4点ずつ測定し、上下端の直径の平均値を求めた。
【0123】
合成例1(ジルコニア粉末の合成)
(ジルコニア粉末A1)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリウム濃度がY2O3換算で5.09mol%となるように塩化イットリウム、及び、エルビウム濃度がEr2O3換算で0.07mol%となるように酸化エルビウムを当該水和ジルコニアゾルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゾルを1175℃で2時間焼成した後、純水で水洗し、大気雰囲気、110℃で乾燥した。これにα-アルミナ、酸化物着色元素として酸化鉄、及び純水を混合してスラリーとし、これをボールミルで22時間処理することで、アルミナを0.05質量%及び酸化物着色元素として酸化鉄換算で鉄を0.06質量%含み、残部が5.09mol%イットリウム及び0.07mol%エルビウム含有ジルコニアである粉末を含むスラリーを得た。得られたスラリーに対し、スラリー中の粉末の質量に対するバインダーの質量割合が3質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合した。当該スラリーを、大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥することで、ジルコニア粉末A1を得た。得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が10.1m2/g及び平均顆粒径が45μmであった。ジルコニア粉末A1の組成を下記表1に示す。
【0124】
ジルコニア粉末A1を49MPaの圧力で一軸加圧成形及び圧力196MPaでCIP処理して、ジルコニア粉末A1の粉末層を得た。
得られた粉末層を、下記条件で仮焼・焼結することにより、焼結体層を得た。
[仮焼・焼結条件]
仮焼:室温から300℃まで15℃/時間、300℃で5時間保持、300℃から700℃まで15℃/時間、700℃で1時間保持、700℃から1000℃まで50℃/時間、1000℃で2時間保持、その後炉内冷却した。
焼結:室温から1500℃まで100℃/時間、1500℃で2時間保持、その後炉内冷却した。
【0125】
ジルコニア粉末A1の焼結体層に対して、下記方法により、三点曲げ強度(MPa)、全光線透過率(%)、色調(L*、a*及びb*)を測定した。
【0126】
(三点曲げ強度)
三点曲げ強度の測定は、上述したとおり
図4に示したJIS R 1601に準じた方法で測定した。
【0127】
(全光線透過率)
JIS K 7361の方法に準じた方法によって、試料の全光線透過率を測定した。標準光源D65を測定試料に照射し、当該測定試料を透過した光束を積分球によって検出することによって、全光線透過率を測定した。測定には一般的なヘーズメーター(装置名:ヘーズメーターNDH4000、NIPPON DENSOKU製)を使用した。
測定試料として円板形状の試料を使用し、測定に先立ち、焼結体の任意の個所を水平に切り出した後、当該試料の両面を鏡面研磨し、試料厚み1.0±0.1mm及び表面粗さ(Ra)が0.02μm以下とした。
【0128】
(色調L*、a*、b*、ΔL*及び△C*)
JIS Z 8722の幾何条件cに準拠した照明・受光光学系を備えた分光測色計(装置名:CM-700d、コニカミノルタ社製)を使用して焼結体の色調を測定した。測定条件は以下のとおりである。
光源 : D65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCI
背景 : 黒色板
測定試料として焼結体の任意の個所を水平方向に切り出した後、当該試料の両面を鏡面研磨し、直径20mm×厚さ1.0±0.1mm及び表面粗さ(Ra)が0.02μm以下とした。測定試料を黒色板の上に配置し、研磨後の両表面を評価面とし、それぞれ、色調(L*、a*及びb*)を測定した(黒バック測定)。測定された各表面のL*の差の絶対値を△L*とし、a*及びb*から求められたC*の差の絶対値を△C*として求めた。色調評価有効面積は直径10mmを採用した。
【0129】
ジルコニア粉末A1を用いた焼結体に対する特性の評価結果を表1及び表2に示す。
【0130】
(ジルコニア粉末A2)
イットリウム濃度がY2O3換算で5.14mol%となるように塩化イットリウム及びエルビウム濃度がEr2O3換算で0.03mol%となるように酸化エルビウムを添加したこと、酸化物着色元素として酸化鉄及び酸化コバルトを用い、含有量を表1に示すように変更した以外は、ジルコニア粉末A1と同様な方法で表1の組成を有するジルコニア粉末A2を作製した。
ジルコニア粉末A1と同様の方法により、ジルコニア粉末A2を用いた焼結体層を作製し、該焼結体層の特性を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0131】
(ジルコニア粉末A3)
アルミナを使用しなかったこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で表1の組成を有するジルコニア粉末A3を作製した。
ジルコニア粉末A1と同様な方法により、ジルコニア粉末A3を用いた焼結体層を作製し、該焼結体層の特性を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0132】
(ジルコニア粉末B1~B3及びC1~C10)
ジルコニア粉末A1に対し、安定化元素の種類及び含有量、着色元素の種類及び含有量を表1に示すように変更した以外は、ジルコニア粉末A1と同様な方法で表1の組成を有するジルコニア粉末B1~B3及びC1~C10を作製した。
ジルコニア粉末B1~B3及びC1~C10に対しても、これらの粉末を用いた焼結体層を作製し、該焼結体層の特性を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0133】
【0134】
実施例1
(成形体)
内径110mmの金型に、141.0gのジルコニア粉末C6を充てんした後、金型をタッピングし第4粉末層(第2の組成傾斜粉末組成物層に対応)とした。第4粉末層の上に98.7gのジルコニア粉末C2を充てんし、金型をタッピングし第3粉末層(第3の組成傾斜粉末組成物層に対応)とした。第3粉末層の上に89.3gのジルコニア粉末B1を充てんし、金型をタッピングし第2粉末層(第1の組成傾斜粉末層に対応)とした。第2粉末層の上に141.0gのジルコニア粉末A1を充てんし、金型をタッピングし第1粉末層(表面粉末組成物層に対応)とした後、98MPaの圧力で一軸加圧成形を行った。その後、圧力196MPaでCIP処理して4層からなる積層体を得、これを本実施例の成形体とした。
【0135】
(仮焼体)
成形体を室温から300℃まで15℃/時間、300℃で5時間保持、300℃から700℃まで15℃/時間、700℃で1時間保持、700℃から1000℃まで50℃/時間、1000℃で2時間保持、その後炉内冷却して仮焼し、積層体を得、本実施例の仮焼体とした。各層における仮焼体厚み比率を表2に示す。
【0136】
(焼結体)
仮焼体を昇温速度100℃/時、焼結温度1500℃及び焼結時間2時間で焼成し、積層体を得、本実施例の焼結体とした。
【0137】
成形体、仮焼体、及び焼結体に対する、反り及び変形量の測定結果を下記表2に示す。実施例1の焼結体の反りの測定結果は、測定限界(0.03mm)未満であった。
【0138】
(実施例2~15及び比較例1)
実施例1に対し、用いる粉末の種類、粉末質量及び用いた粉末の積層順番を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様な方法で表2に示す積層体を作製した。各実施例の成形体、仮焼体、及び焼結体に対して、反り及び変形量を測定した。測定結果を表2に示す。なお、表2中、反りの測定結果が「N.D.」と記載しているのは、測定限界未満「0.03mm未満」を意味する。また、表2中、△L*及び△C*は、それぞれ組成傾斜ジルコニア層を構成する単位ジルコニア層間の明度の差及び彩度の差である。例えば、実施例1においては、粉末B1から得られた第1の組成傾斜ジルコニア層と、粉末C2から得られた第3の組成傾斜ジルコニア層の△L*が5.8及び△C*が5.4であること、粉末C2から得られた第3の組成傾斜ジルコニア層と、粉末C6から得られた第2の組成傾斜ジルコニア層の△L*が0.7及び△C*が0.7であること、を示している。
【0139】
【0140】
表面層の安定化元素含有量が隣接する第1の組成傾斜層の安定化元素含有量より小さい実施例1~15は、表面層の三点曲げ強度は800MPa以上であり、第1の組成傾斜層より三点曲げ強度が150MPa以上高く、機械的強度が高い積層体であった。また、組成傾斜層を有する実施例1~15は、自然歯に近い印象を与えることができる、透光性及び色調のグラデーションを有する積層体であった。
一方、表面層の安定化元素含有量が隣接する第1の組成傾斜層の安定化元素含有量より大きい比較例1は、透光性及び色調のグラデーションを有するものの、表面層の三点曲げ強度が600MPa程度であり、実施例ほど高い機械的強度を有する積層体ではなかった。
なお、令和4年2月18日に出願された日本国特許出願2022-023814号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本開示の明細書の開示として、取り入れる。
【符号の説明】
【0141】
100、200、500、600:ジルコニア焼結体
10:表面ジルコニア層
20:組成傾斜ジルコニア層
21:第1の組成傾斜ジルコニア層
22:第2の組成傾斜ジルコニア層
23:組成傾斜中間ジルコニア層
23a:第3の組成傾斜ジルコニア層
23b:第4の組成傾斜ジルコニア層
31:水平板
32A、32B:シクネスゲージ
33:焼結体の大きさ
41:荷重
42:支点間距離
51:ネッキング構造を有するジルコニア
61:粉末組成物
62:金型
63:一軸加圧
71:一軸加圧成形された粉体(積層体)
72:溶媒
【要約】
自然歯に近い印象を与えることができる、透光性及び色調のグラデーションを有し、且つ表面層(義歯切端部側の層)のチッピングを抑制できる積層体を提供する。
安定化元素を含有するジルコニアを含有する表面層と、2以上の単位層から構成された組成傾斜層とを有し、前記単位層は、それぞれ、安定化元素を含有するジルコニア及び着色元素を含有し、前記組成傾斜層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの前記安定化元素の含有量が、前記表面層側から積層体の前記表面層とは反対側の表面側に向かって変動しないか又は減少するように各単位層が積層することで組成傾斜層が構成されている、積層体であって、前記表面層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量は、前記組成傾斜層を構成する各単位層の内の前記表面層に隣接した単位層である、第1の組成傾斜層に含まれる前記安定化元素を含有するジルコニアの安定化元素の含有量より小さい、積層体。