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特許7359590接合体及びそれを有する分離膜モジュール
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  • 特許-接合体及びそれを有する分離膜モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】接合体及びそれを有する分離膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20231003BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20231003BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20231003BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C04B37/02 Z
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019142136
(22)【出願日】2019-08-01
(65)【公開番号】P2020023432
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2018146305
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大貫 正道
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
(72)【発明者】
【氏名】坂本 尚之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩悦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直子
(72)【発明者】
【氏名】原 美沙
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-243246(JP,A)
【文献】特開2013-043170(JP,A)
【文献】特開2000-109690(JP,A)
【文献】国際公開第2009/113715(WO,A1)
【文献】特開2018-056509(JP,A)
【文献】特開2018-024206(JP,A)
【文献】特開2009-066528(JP,A)
【文献】特開2016-052959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
C07C 29/152
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト及びアルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、シリコンカーバイド、及びカーボンから選ばれる少なくとも1種である無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを、硬化後の熱膨張係数が30℃~300℃の平均値で30×10-7/K~90×10-7/Kであり、接合の焼成温度が80~200℃である無機接着剤で接合し、前記緻密部材と硬化後の無機接着剤の熱膨張係数の差が30℃~300℃の平均値で50×10 -7 /K以下である無機接着剤で接合した接合体。
【請求項2】
前記無機接着剤が金属アルコキシドを含有している請求項に記載の接合体。
【請求項3】
前記複合体と緻密部材との接合部分が封孔被膜で覆われている請求項1または2に記載の接合体。
【請求項4】
前記封孔被膜がシリカ被膜である請求項に記載の接合体。
【請求項5】
前記緻密部材の熱膨張係数が30℃~300℃の平均値で30×10-7/K~200×10-7/Kである請求項1~4のいずれか1項に記載の接合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接合体を100℃~500℃の高温条件下及び/または0.5~10MPaの高圧条件下で使用する、接合体の使用方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接合体を有する分離膜モジュール。
【請求項8】
請求項に記載の分離膜モジュールを有する反応器。
【請求項9】
硬化後の熱膨張係数が30℃~300℃の平均値で30×10-7/K~90×10-7/Kであり、接合の焼成温度が80~200℃である無機接着剤を用いて、ゼオライト
及びアルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、シリコンカーバイド、及びカーボンから選ばれる少なくとも1種である無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを接合する、接合方法であって、前記緻密部材と硬化後の無機接着剤の熱膨張係数の差が30℃~300℃の平均値で50×10 -7 /K以下である、接合方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜を有する構造体の接合技術に関するものであり、更に詳しくは、有機化学反応プロセス等に用いる際に溶媒やガスに曝して用いるゼオライト膜の接合構造を有するモジュール、そしてこの分離膜ジュールを用いた反応器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス分離能を有する膜は通常、無機多孔質支持体上に形成されたうえで、ガスの透過しない緻密部材と接合して使用する。その際に気密性が高い状態で接合することが必要である。ガス分離能を有する膜は、反応器に設置して工業的にガス分離に使用するのではなく、実験的にガス分離を行う場合の性能等を確認する目的で行われる場合には、短時間接合状態を保つことができればよいため、接合には瞬間接着剤等を用いればよいが、実際に反応器に設置して長時間にわたって安定してガス分離に使用する場合の接合には、多くの場合ガラスが用いられてきた。ガラスでの接合は、分離膜部分を交換する際に、再加熱することで簡単に外すことができるため、工業的にはガラスでの接合が一般的に使われてきた。特許文献1ではガス分離膜と金属部材とが熱膨張係数50×10-7/K~80×10-7/Kのガラスで接合された接合体が開示されている。また、特許文献2ではB及びPbOを所定量含有した特定のガラスとアルミナからなる分離膜シール用組成物が開示されている。また特許文献3ではセラミックス部材と金属部材とを熱膨張係数が55×10-7/K~65×10-7/Kのガラスで封止した構造体が開示されている。また特許文献4では、ゼオライト膜を支持する支持体とキャップとを膨潤性樹脂を介して接合した封止構造が開示されている。
【0003】
ガス分離能を有する膜としてゼオライトを用いる場合、ゼオライト膜の耐熱性に懸念があるため高温での処理は好ましくない。特許文献1及び3に開示されるような900℃以上の高温処理はゼオライト膜に破損等の構造上の劣化をもたらし、分離性能の低下を招く怖れがある。また高温での接合は加熱及び冷却に時間を要することとなり、接合体を大量に生産する上で効率低下及びコストアップにつながる。また特許文献2に開示されるようにPbOを主成分としたガラスを用いることで焼成温度を600℃以下にすることは可能であるが、鉛は体内に蓄積されると慢性中毒を引き起こすことが知られており、その使用は環境上問題があり、世界各国で行われている鉛の使用を規制する流れに逆行する。また特許文献4に開示されているように接合剤としてエポキシ樹脂等の膨潤性樹脂を用いた場合、高温高圧条件下で有機溶媒に曝されると、後に比較例で示すように劣化が進行し接合体が破断に至る場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-163827号公報
【文献】特開平10-180060号公報
【文献】特開2013-203602号公報
【文献】特開2007-50322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを接合した接合体を提供するにあたり、高温焼成等を必要としない簡便な手法により高い気密性を実現させること、さらには特に高温高圧条件下及び/又は溶媒やガス、特に有機溶媒や有機ガスの存在下で長時間使用できる耐久性に優れたものとすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を進め、ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを接合するために、硬化後の熱膨張係数が30×10-7/K~90×10-7/Kである無機接着剤を用いることで、高温焼成等を必要としない簡便な手法により高い気密性を持ち、高温高圧条件下及び/又は溶媒やガス、特に有機溶媒や有機ガスの存在下で長時間使用できる耐久性に優れた接合体を得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを、硬化後の熱膨張係数が30×10-7/K~90×10-7/Kである無機接着剤で接合した接合体。
[2]
ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とが、無機接着剤にて接合され、前記緻密部材と硬化後の無機接着剤の熱膨張係数の差が50×10-7/Kである無機接着剤で接合した接合体。
[3]
前記無機接着剤が金属アルコキシドを含有している[1]または[2]に記載の接合体。
[4]
前記複合体と緻密部材との接合部分が封孔被膜で覆われている[1]~[3]のいずれかに記載の接合体。
[5]
前記封孔被膜がシリカ被膜である[4]に記載の接合体。
[6]
前記緻密部材の熱膨張係数が30×10-7/K~200×10-7/Kである[1]~[5]のいずれかに記載の接合体。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の接合体を100℃~500℃の高温条件下及び/または0.5~10MPaの高圧条件下で使用する、接合体の使用方法。
[8]
[1]~[6]のいずれかに記載の接合体を有する分離膜モジュール。
[9]
[8]に記載の分離膜モジュールを有する反応器。
[10]
硬化後の熱膨張係数が30×10-7/K~90×10-7/Kである無機接着剤を用いて、ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを接合する、接合方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高温焼成等を必要としない簡便な手法により、高い気密性を有し、高温高圧条件下及び/又は溶媒やガス、特に有機溶媒や有機ガスの存在下で長時間使用できる、ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と緻密部材との接合体、及びそれを有する分離膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを無機接着剤で接合した接合体の断面模式図である。
図2】ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを無機接着剤で接合した接合体の断面模式図である。
図3】ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを無機接着剤で接合した接合体の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ゼオライト>
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、酸素12員環以下、酸素6員環以上の細孔構造を有するゼオライトを含むものが好ましく、酸素10員環以下、6員環以上の細孔構造を有するゼオライトを含むものがより好ましい。
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0011】
酸素12員環以下、酸素6員環以上の細孔構造を有するゼオライトとしては、International Zeolite Association (IZA)が定めるコードで、例えば、AEI、AEL、AFI、AFG、ANA、ATO、BEA、BRE、CAS、CDO、CHA、CON、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAR、FAU、FER、FRA、HEU、GIS、GIU、GME、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTL、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MON、MOR、MSO、MTF、MTN、MTW、MWW、NON、NES、OFF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STI、STT、TOL、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどがあげられる。これらの中から選ばれるいずれかであるのが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る接合体は、単なる分子篩、つまり単に分子のサイズの差により、篩として分子を透過させる目的ではなく、ゼオライトが分離の目的物を選択吸着することにより、例えばサイズが大きい方の分子を透過させたり、あるいは同程度の大きさの分子同士を分離したりする目的で使用できるものであることがより好ましい。つまり、ゼオライトの表面への選択吸着により、目的物を分離するものであることがより好ましい。このようなゼオライトは、使用温度が高すぎると、その選択吸着能力が弱まってしまうところ、例えば500℃以下程度の温度条件下であれば、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0013】
<無機多孔質支持体>
ゼオライトは可塑性に乏しいため、膜化する場合は、何らかの基板上に支持される形で作製される。支持体は、ガス分子が侵入できる多孔性であり、例えば、3次元状に連続した多数の微細な小孔を有する。
【0014】
本実施形態において、支持体を構成する材質としては、未処理ガスが反応しない化学的に安定で、かつ機械的強度に優れたものであることが好ましく、具体的には、各種アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニアといった酸化物セラミックスのほか、シリコンカーバイド、カーボン、ガラスなどを用いることができる。
また、支持体の形状は、ゼオライト膜の用途により異なるが、特に円筒形の支持体上のゼオライト膜は、外側からの圧力に対する強度が強く、バッチプロセスや流通プロセス(リサイクルプロセスを含む)等で簡便に用いる上で好適である。
【0015】
<ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体>
本実施形態では、例えば、円筒形の支持体を準備し、まずゼオライトの微結晶を細孔内に担持する。担持する方法は、ディップ法、ラビング法、吸引法、含浸法等を用いることができる。該微結晶は、ゼオライト膜を構成する結晶を成長させるときの核の役割を果た
し、種結晶ともいう。ゼオライトの成長工程には、ゼオライト合成時と同様、水熱合成を用いることができる。
ゼオライト膜複合体におけるゼオライト膜の膜厚は特段限定されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、また通常50μm以下、好ましくは20μm以下である。膜厚を0.1μm以上とすることにより緻密性が高く膜の選択性が高く保たれ、膜厚を50μm以下とすることによりガスの透過量が十分保たれる。また、基体が管形状を有するとき、ゼオライトが被覆する面は、管の外側でも、内側でも、この両者でもよい。
支持体へのゼオライト結晶成長までの工程では、支持体の両末端は開放したままバッチプロセスで行うことができる。
【0016】
<緻密部材>
緻密部材は、反応に供するガスや反応したガスが、部材から漏れることが無い程度の緻密性(機密性)を有する部材である。このような緻密性を有する部材であれば特に限定されず、典型的には金属が用いられる。ここでいう金属の例としては、ステンレス鋼からなるSUS材、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス、コバールなどの合金、などが含まれる。
緻密部材の熱膨張係数は通常30×10-7/K~200×10-7/Kであり、下限は35×10-7/K以上が好ましく、40×10-7/K以上がより好ましく、45×10-7/K以上が更に好ましい。上限は150×10-7/K以下が好ましく、120×10-7/K以下がより好ましく、85×10-7/K以下がさらに好ましい。緻密部材の熱膨張係数が上記範囲であることで、無機接着剤の熱膨張係数との差が、例えば50×10-7/K以下と小さくなり、良好なシール性(気密性)と耐久性を保つことができる。
なお、本発明において熱膨張係数とは線膨張係数のことであり、温度上昇に伴って生じる固体の長さ方向の変化割合を示したものである。本明細書において、熱膨張係数は30℃~300℃での平均値である。熱膨張係数の測定は、JISZ2285(金属材料)、JISR1618(セラミックス)等に記載の方法に従って実施することができる。
【0017】
<無機接着剤>
本実施形態で使用する無機接着剤の特徴は、その主成分が無機物、好ましくは酸化物や窒化物であるため、高温高圧でさらに有機溶媒または有機ガスに接触しつつ使用している場合においても、高い気密性を維持し、耐久性に優れることにある。
尚、本発明の無機接着剤は、化学反応により固化し、接着するものであり、加熱した場合でも元の状態に戻らないものである。
無機接着剤としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、マグネシア、ジルコン、グラファイト、窒化アルミニウムおよびこれらの混合物を主成分としたものを好適に用いることができる。無機接着剤の熱膨張係数は、概ね主成分の熱膨張係数に依存し、他の添加物を加えることで調整をすることができる。上述の主成分を使用すると、熱膨張係数を以下に述べる好ましい範囲にしやすいため好ましい。
本実施形態に用いる無機接着剤の硬化後の熱膨張係数は通常30×10-7/K~90×10-7/Kであり、下限は35×10-7/K以上が好ましく、45×10-7/K以上がより好ましく、55×10-7/K以上が更に好ましい。上限は88×10-7/Kが好ましく、85×10-7/K以下がより好ましく、82×10-7/K以下が更に好ましい。
なお、無機接着剤と緻密部材との熱膨張係数の差は、50×10-7/K以下であることが好ましく、40×10-7/K以下であることが好ましく、30×10-7/K以下であることが好ましく、15×10-7/K以下であることが更に好ましい。
【0018】
複合体と緻密部材とを、このような無機接着剤により接合して得られた接合体は、空気
透過量が、本明細書実施例の欄に記載された試験方法において、100sccm以下であることが好ましく、50sccm以下であることがより好ましく、20sccm以下であることが更に好ましく、10sccm以下であることが最も好ましい。
また、接合体は、オートクレーブ中に内容積に対し、体積にして1/16のメタノールと、1/16の脱塩水を加え、1時間で280℃まで昇温し、この状態で48時間維持した後、自然冷却し、これを常圧で120℃4時間乾燥した後、再び空気透過量測定を行っても、空気透過量が100sccm以下であることが好ましく、50sccm以下であることがより好ましく、20sccm以下であることが更に好ましく、10sccm以下であることが最も好ましい。熱膨張率の条件に加え、このような条件を満たすことにより、接合体を有する分離膜モジュールをメタノール合成反応器に設置した場合に、より長時間にわたってメタノールの生産を行っても、接合部に問題を生じるようなことが無いため、より好ましい。
【0019】
また、本実施形態に用いる無機接着剤は金属アルコキシドを含むことが好ましい。
金属アルコキシドの添加効果については、詳細は不明であるが、緻密部材表面の酸化物層と反応し、接合強度を高めるため、クラック、ピンホールが発生しにくくなると推定している。
【0020】
上記の金属アルコキシドの例としては、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシドなどのアルカリ土類金属アルコキシド、ボロンメトキシド、ボロンエトキシド、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムブトキシド、ガリウムメトキシド、ガリウムエトキシドなどの13族元素のアルコキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ゲルマニウムメトキシド、ゲルマニウムエトキシド、スズメトキシド、スズエトキシドなどの14族元素のアルコキシド、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシド、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ハフニウムメトキシド、ハフニウムエトキシドなどの4族元素のアルコキシド、バナジウムメトキシド、バナジウムエトキシド、ニオブメトキシド、ニオブエトキシド、タンタルメトキシド、タンタルエトキシドなどの5族元素のアルコキシドなどが挙げられる。さらには以上に挙げたアルコキシド類のオリゴマーが挙げられる。これらの中でも架橋構造を作りやすく、さらに入手がしやすい点から、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムブトキシドなどのアルミニウムアルコキシド類、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランなどのシリコンアルコキシド、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシドなどのチタンアルコキシド類、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシドなどのジルコニウムアルコキシド類、およびこれらのオリゴマーが好ましく、中でもアルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシドおよびこれらのオリゴマーがより好適である。
【0021】
また、無機接着剤における金属アルコキシドの含有量は、通常0.01~5質量%であり、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、また、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。0.01質量%以上であると物性の向上が
顕著に認められる。一方、5質量%以下とすることで、比重の増加が抑えられコスト面でも有利となり、また衝撃強度が高い状態を維持しやすい。
本実施形態に好適に用いることができる無機接着剤は、例えば、スリーボンド社製「TB3732」が市販されている。
【0022】
<ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と緻密部材との接合体>
本実施形態において接合は、複合体が円筒形支持体の場合はその両末端について行ってもよい。例えば、複合体が円筒形であるゼオライト膜を用いて混合ガス分離プロセスを行う場合、ゼオライト膜を有する円筒型支持体の外部を混合ガスで満たし、圧力をかけることで、あるいは内部の真空排気を行うことで分離を遂行する。したがって、一方の末端はキャップにより封止し、もう一方の末端に配管を接続してもよく、両末端に配管を接続してもよい。
【0023】
ゼオライト膜を表面に持つ複合体と緻密部材からなるキャップ、あるいはキャップに類似した末端構造を持つ緻密部材からなる配管との接合方法は、複合体とキャップとの間を無機接着剤で接合できる方法であればどのような方法でもよいが、例えば、複合体の側面部分であり、かつキャップと接触する部分にあらかじめ無機接着剤を塗布しておき、該複合体にキャップを回転させながら、接合面をならしつつ接合する方法などが例示される。
【0024】
複合体と緻密部材とを無機接着剤にて接合した後、必要に応じて室温にて通常1~24時間放置した後、焼成して接合を行う。なお、本実施形態において室温とは15~30℃をいう。
接合の焼成温度は通常80~200℃であり、好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上、また、好ましくは180℃以下、更に好ましくは150℃以下である。接合の焼成時間は通常10~300分であり、好ましくは30分以上、更に好ましくは60分以上、また、好ましくは180分以下、更に好ましくは120分以下である。
【0025】
以下に、ゼオライトと無機多孔質支持体との複合体と緻密部材とが無機接着剤を介して接合された例を図1図3を用いて説明する。
図1に示すように、ゼオライトと無機多孔質支持体との複合体1とフランジ2とを、無機接着剤4を介して直接接合することもできる。このような形態では、部材間の接続の経時的劣化に伴うガス漏れなどのリスクを低減することができる。この場合フランジ2が、緻密部材になる。
一方、図2に示すように、ゼオライトと無機多孔質支持体との複合体1と配管3とが、単に無機接着剤4を介して接合していてもよい。本実施形態の無機接着剤は、高い気密性と耐久性を有することから、このような接合も可能である。この場合は配管3が緻密部材になる。
図3は、ゼオライトと無機多孔質支持体との複合体1と配管3とが無機接着剤4を介して接合された一例を示す断面模式図である。ゼオライトと無機多孔質支持体との複合体1は無機接着剤4を介して、配管3と接合する。配管3はゼオライトと無機多孔質支持体との複合体1を覆うように接合されている。
尚、本発明の「接合体」とは、ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とが接合されているものであり、複合体の性能が低下し、これを交換する際に取り外しが可能な部品であるが、そのような取り外し機構を持たない場合、例えばメタノール合成反応器等の反応器に組み込まれている場合には、反応器の内部にある緻密部材までを含むものとする。
【0026】
<封孔被膜>
本実施形態において、複合体と緻密部材との接合部分は、封孔被膜により覆われていることが好ましい。接合部分は接合に用いた無機接着剤を硬化するための焼成に起因して、
接合部分の表面にマイクロクラック、ピンホール等の微細孔が形成されている場合がある。よって、接合部分に封孔処理を施し、これらの微細孔を塞ぐことがシール性(気密性)を向上させる観点から好ましい。また、封孔処理によって形成される封孔被膜が、接合部分の劣化、ピンホール等の損傷を抑制し得る点でも接合部分を封孔被膜で覆うことが望ましい。
【0027】
封孔被膜を形成し得る封孔剤としては、シリカ、アルミナ等の無機材料;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂等の有機系高分子;などを含むものが挙げられ、溶剤を含んでいてもよく、無溶剤でもよい。本実施形態においては、無機接着剤との密着性及びガスバリア性の観点から、無機系の封孔剤、特にシリカを使用することが好ましい。また緻密な被膜を形成する点で、シリコーン樹脂も好適に用いられる。封孔剤の付着量は、所望の封孔被膜の膜厚に応じて適宜決めればよい。
封孔剤の取り扱い性、特に垂れを防ぐ観点から粘度としては2(mPa・s,25℃)以上が好ましく、より好ましくは5(mPa・s,25℃)以上、さらに好ましくは10(mPa・s,25℃)以上である。また、孔内に封孔剤が浸透易い点から、200(mPa・s,25℃)以下、好ましくは100(mPa・s,25℃)以下、さらに好ましくは50(mPa・s,25℃)以下である。この範囲とすることでシール性(気密性)が向上し、かつ取り扱い性にも優れる。
【0028】
具体的な封孔処理の方法としては、まず、接合部分に対し、封孔剤を塗布、噴霧等により付着させ、塗膜を得る。このとき、シール性(気密性)を向上する目的で接合部分の封孔剤を付着させる逆側を減圧させてもよい。減圧は、封孔剤を接合体表面に付着させるに先立って行ってもよく、付着と同時に行ってもよく、付着後に行ってもよい。このような減圧により、封孔剤を接合部分の細孔内に隙間なく浸透させ、接合部分表面の細孔を塞ぎ得る。
【0029】
次いで、得られた塗膜を硬化し、封孔被膜を形成する。硬化方法としては、封孔剤の種類に応じて適切な方法を採用すればよい。封孔剤として、高分子材料の溶液や無機微粒子の懸濁液を使用する場合には、100~300℃で60~300分乾燥すればよく、高分子材料と架橋剤とを含む組成物を使用した場合には、熱硬化、光硬化等を行ってもよい。また、封孔剤として有機系又は無機系のモノマーやオリゴマーを使用する場合には、これらを100~300℃で30~180分重合することにより硬化してもよい。
【0030】
封孔被膜としてシリカ被膜を使用する場合、シリケートオリゴマー処理と称される封孔処理を行うことができる。シリケートオリゴマー処理は、例えば以下のようにして行われる。まず、アルコキシシラン化合物に代表されるシリケートオリゴマーを含む封孔剤を、接合部分に塗布する。このようなシリケートオリゴマーの市販品としては、MKCシリケート(登録商標)MS-51、MS-56、MS-57、MS-56S(いずれも三菱ケミカル社製、メチルシリケートオリゴマー)、エチルシリケート40、エチルシリケート48(いずれもコルコート社製、エチルシリケートオリゴマー)、シリケート40、シリケート45(多摩化学工業)、メチルシリケートとエチルシリケートの混合オリゴマーであるEMS-485(コルコート社製)等が挙げられる。次いで、得られた塗膜を150~280℃で30~180分加熱し、ゾルゲル法による加水分解及び重縮合反応を行うことにより、シリカ被膜が得られる。
【0031】
封孔被膜としてシリコーン樹脂を使用する場合は、アルコキシアルキルシランのオリゴマーを含有した封孔剤を用いればよい。このような封孔剤としては、パーミエイトHS-80、HS-90、HS-100、HS-200、HS-300、HS-330、HS-350、HS-360、HS-820(いずれもディ・アンド・ディ社製)等が挙げられる。これらを塗布して得られた塗膜を100℃~250℃で30分から180分加熱する
ことでシリコーン樹脂被膜が得られる。
【0032】
<分離膜モジュール>
別の実施形態である分離膜モジュールはゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体と緻密部材を有し、その他、導入、排出口を備えた容器、フランジ、配管等を含むことができる。
分離膜モジュールは高圧容器内に設置して圧力をかけることで、あるいは透過側の真空排気を行うことでガスや溶媒を分離できる。
また分離膜モジュールは、反応と同時に分離する形態で用いても良い。
<反応器>
この実施形態の分離膜モジュールを反応器中に設置することにより、逆反応の起こり得る反応を利用したものの製造方法において、本来の化学平衡を常に生産に有利な方向に動かせるため、収率が向上し、かつ破損等の恐れも少なく、長時間にわたって使用することができる。
【0033】
<使用条件>
本実施形態の接合体を反応プロセスで使用する方法としては、温度は通常100~450℃であり、200~350℃が好ましい。100℃~500℃の高温条件でも使用可能である。また、圧力は通常0.5~8MPaであり、2~6MPaが好ましい。0.5~10MPaの高圧条件でも使用可能である。
【実施例
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
(ゼオライト及びアルミナ多孔質支持体の複合体の作製)
予め種結晶を付着させたアルミナ多孔質支持体(外径12mm、内径9mm、全長40mm)を、組成100SiO:27.8NaO:0.021Al:4000HOの水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で12時間水熱合成を行った。所定時間経過後、常温まで放冷した後、多孔質支持体-ゼオライト複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、120℃で4時間以上乾燥させ、MFI型ゼオライトとアルミナ多孔質支持体の複合体を得た。
【0036】
(接合体の作製)
コバール製キャップ(外径14.0mm、内径12.2mm、高さ4mm、熱膨張係数52×10-7/K)の凹部に無機接着剤としてスリーボンド社製「TB3732」(アルミナ系、硬化後の熱膨張係数80×10-7/K、金属アルコキシド含有)を0.6g充填し、その上に上記MFI型ゼオライトとアルミナ多孔質支持体との複合体を載せた。ついで複合体の上部に560gの重りを載せて荷重をかけ、室温で1時間放置した。ついで100℃で30分加熱した後、自然冷却を行い、接合体を得た。
【0037】
(空気透過量測定)
大気圧下で接合体の端(キャップが接合していない方)を、気密性を保持した状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインと接合体の間に設置したマスフローメーターで接合体を透過した空気の流量を測定したところ、0.3sccmであった。なお、sccmとは0℃、1気圧換算のcc/minを表す。マスフローメーターとしては、ブルックスインスツルメント社製GF40(最大流量20sccm)を用いた。マスフローメーターの表示が20sccmを超える場合は、KOFLOC社製8500MM(最大流量3
00sccm)を用いた。
【0038】
(実施例2)
実施例1の接合体に封孔処理を実施した。具体的にはMFI型ゼオライトとアルミナ多孔質支持体との複合体とキャップとの接合部分に、内部を減圧にしつつ三菱ケミカル社製メチルシリケートオリゴマー「MKCシリケート(登録商標)MS-56」を塗布した。1時間室温に放置した後に、250℃で30分加熱処理して封孔被膜を形成した。空気透過量を測定したところ、0.1sccm以下となり封孔被膜によりシール性が向上した。
【0039】
(実施例3)
無機接着剤として東亜合成社製「アロンセラミックD」(アルミナ系、硬化後の熱膨張係数80×10-7/K、金属アルコキシド含有せず)を0.6g充填し、その上に上記MFI型ゼオライトとアルミナ多孔質支持体との複合体を載せた。ついで複合体の上部に560gの重りを載せて荷重をかけ、室温で20時間放置した。ついで90℃で1時間加熱し、さらに150℃で1時間加熱した後、自然冷却を行い接合体を得た。空気透過量を測定したところ、14sccmであった。
【0040】
(実施例4)
実施例3の接合体を用いた以外は実施例2と同様の手法により封孔処理を施した接合体を得た。空気透過量を測定したところ、0.1sccm以下となり封孔処理によりシール性が向上した。
【0041】
(実施例5)
無機接着剤として東亜合成社製「アロンセラミックE」(ジルコニア・シリカ系、硬化後の熱膨張係数40×10-7/K、金属アルコキシド含有せず)を用いた以外は実施例3と同様の手法により接合体を得た。空気透過量を測定したところ、18sccmであった。
【0042】
(実施例6)
実施例5の接合体を用いた以外は実施例2と同様の手法により封孔処理を施した接合体を得た。空気透過量を測定したところ、0.1sccm以下となり封孔被膜によりシール性が向上した。
【0043】
(実施例7)
三菱ケミカル社製メチルシリケートオリゴマー「MKCシリケート(登録商標)MS-56」の代わりにディ・アンド・ディ社製「パーミエイトHS-90」を用いた以外は実施例2と同様の手法により封孔処理を施した接合体を得た。空気透過量を測定したところ、0.1sccm以下となり封孔被膜によりシール性が向上した。
【0044】
(比較例1)
無機接着剤として東亜合成社製「アロンセラミックC」(シリカ系、硬化後の熱膨張係数130×10-7/K、金属アルコキシド含有せず)を用いた以外は実施例3と同様の手法により接合体を得た。空気透過量を測定したところ、103sccmであった。
実施例1~7及び比較例1の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例8)
(耐久性試験)
内容積80mlのSUS-316製オートクレーブに実施例1の接合体を入れ、さらにメタノール5ml及び脱塩水5mlを加えた後、大気圧下で密閉させて電気炉にセットし、電気炉を280℃まで1時間で加熱昇温した。280℃に到達(この時の圧力は3.2MPaGであった)してから48時間後に加熱を終了し電気炉からオートクレーブを取り出して、自然冷却させた。2時間以上冷却した後にオートクレーブを開放し接合体を取り出した。これを常圧にて120℃で4時間乾燥させた後に、空気透過量測定を実施したところ、0.3sccmと試験前後で変化がなく、良好な耐久性を示すことがわかった。
【0047】
(実施例9)
実施例2の接合体を用いた以外は実施例8と同様の手法により耐久性試験を実施した。空気透過量は0.1sccm以下であった。
【0048】
(実施例10)
実施例7の接合体を用いた以外は実施例8と同様の手法により耐久性試験を実施した。空気透過量は0.2sccmであった。
【0049】
(比較例2)
比較例1の接合体を用いた以外は実施例8と同様の手法により耐久性試験を実施した。空気透過量は300sccm以上(測定レンジオーバー)であった。
【0050】
(比較例3)
無機接着剤ではない接着剤としてスリーボンド製「TB1208B」(シリコーン系、
金属アルコキシド含有せず)を用い、100℃で30分加熱した代わりに120℃で1時間加熱した以外は実施例1と同様の手法により接合体を得た。空気透過量を測定したところ、0.1sccm以下であった。ついでこの接合体を用いて実施例8と同様の手法により耐久性試験を実施したところ、接合部が破断しており、MFI型ゼオライトとアルミナ多孔質支持体の複合体とキャップとが分裂していた。
実施例8~10及び比較例2~3の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【符号の説明】
【0052】
1 ゼオライト及び無機多孔質支持体の複合体
2 緻密部材からなるフランジ
3 緻密部材からなる配管
4 無機接着剤
図1
図2
図3