(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20231003BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20231003BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231003BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231003BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
H01L21/304 622D
H01L21/304 622W
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2019173628
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018183310
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】陳 景智
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-205348(JP,A)
【文献】特開2004-297035(JP,A)
【文献】特開2017-101236(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0087065(US,A1)
【文献】特開2006-100550(JP,A)
【文献】特開2013-110253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、
pH調整剤と、
分散媒と、
ラクタム構造を持つ少なくとも1種の第1の水溶性高分子と、
下式(I)で示されるアルキレンオキシドを構造中に含む少なくとも1種の第2の水溶性高分子と、
【化1】
(式(I)中、Xは3以上の整数であり、かつnは2以上の整数である。)
を含
み、
前記砥粒が、シリカのみからなる粒子である、シリコンゲルマニウム研磨用組成物。
【請求項2】
前記第1の水溶性高分子が、ラクタム構造を含むモノマーのホモポリマー、または、ラクタム構造を含むモノマーと、他のモノマーとの共重合体である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記ラクタム構造を含むモノマーのホモポリマーが、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone,PVP)、ポリビニルカプロラクタム(polyvinyl caprolactam)、ポリビニルバレロラクタム(polyvinyl valerolactam)、ポリビニルラウロラクタム(polyvinyl laurolactam)、およびポリビニルピペリドン(polyvinyl piperidone)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記第2の水溶性高分子が、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol,PPG)、または、ポリブチレングリコール(polybutylene glycol)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記研磨用組成物のpH値が、1~9である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記研磨用組成物が、酸化剤をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、
シリコンゲルマニウムを研磨する工程を含
む、研磨方法。
【請求項8】
研磨圧力が4.1psiであるときに前記研磨対象物の除去速度を第1の除去速度とし、研磨圧力が1.4psiであるときに前記研磨対象物の除去速度は第2の除去速度としたときに、前記第1の除去速度の前記第2の除去速度に対する比の値が3より大きい、請求項7に記載の研磨方法。
【請求項9】
基板を準備する工程と、
請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて前記基板に対し研磨を行う工程と、
を含む、研磨済基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板が、ゲルマニウム材料を含有するシリコン基板である、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、この研磨用組成物を使用する研磨方法、および基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業においては通常、半導体基板(例えばウェハ)表面の平坦度を高めるために平坦化技術を使用している。化学機械研磨(chemical mechanical polishing, CMP)はよく用いられる平坦化技術の1つである。化学機械研磨技術は、シリカ、アルミナ、セリア等の砥粒、防蝕剤、界面活性剤等を含む研磨用組成物を使用して、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法である。
【0003】
ところで、半導体基板としてゲルマニウム材料を含むシリコン基板(本明細書では「ゲルマニウム含有基板」と略称することもある)も普及してきている。よって、ゲルマニウム含有基板を研磨するのに適用される研磨用組成物へのニーズも次第に増加してきている。
【0004】
特許文献1は、(A)無機粒子、有機粒子、またはこれらの混合物もしくは複合体と、(B)少なくとも1種の酸化剤と、(C)水性媒体と、を含む化学機械研磨組成物を開示している。特許文献1の化学機械研磨組成物は、ゲルマニウム元素またはシリコンゲルマニウムに対して化学機械研磨を行うのに適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】台湾特許出願第201311842 A1号明細書
【発明の概要】
【0006】
同一の研磨対象物の表面が高さの異なる部分を有するとき、このような高さの差は通常「段差(step difference)」と呼ばれる。化学機械研磨のプロセスにおいて、各材料は研磨速度(本明細書では「研磨速度」を「除去速度」と称することもある)がそれぞれ異なる。よって、同一の研磨対象物の表面に2種類以上の異なる材料が含まれる場合、化学機械研磨を行った後に、各材料の頂面がそれぞれ異なる高さを備える可能性がある。より具体的に言うと、研磨速度の比較的高い材料は除去される量がより多く、よってこの材料の頂面は他の材料の頂面より低くなる。言い換えると、異なる材料から構成される同一の研磨対象物を研磨するとき、この研磨対象物の表面に段差が生じる可能性があるということである。
【0007】
また、一般的な研磨用組成物は、同じ材料に対する除去速度が同じである。したがって、単一の材料から構成される同一の研磨対象物の表面に段差が存在する場合、この段差は当然に残されやすい。換言すれば、化学機械研磨では、単一の材料から構成された同一の研磨対象物に対し、その表面に存在する段差を解消することは困難である。
【0008】
本発明は、上記した実際の状況に鑑みて完成されたものであり、単一の材料から構成された同一の研磨対象物の表面の段差を有効に低減するか、または解消することのできる研磨用組成物の提供を目標としている。また、本発明は、かかる研磨用組成物を使用する研磨方法および基板の製造方法も提供する。
【0009】
上記目的の少なくとも一つを達成するため、本発明のいくつかの実施形態は、砥粒と、
pH調整剤と、分散媒と、ラクタム構造(lactam structure)を有する少なくとも1種の第1の水溶性高分子と、下式(I)で示されるアルキレンオキシドを構造中に含む少なくとも1種の第2の水溶性高分子と、を含む研磨用組成物を開示する。
【0010】
【0011】
式(I)中、Xは3以上の整数であり、かつnは2以上の整数である。
【0012】
さらに、本発明の別のいくつかの実施形態は、上述の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する研磨方法であって、該研磨対象物の材料がSiYGe(1-Y)(ただし0≦Y<1)である、研磨方法を開示する。
【0013】
本発明のまた別のいくつかの実施形態は、基板を準備する工程と、上述の研磨用組成物を用いて該基板に対し研磨を行う工程と、を含む研磨済基板の製造方法を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、ならびに長所がより明瞭に、かつ分かりやすくなるよう、以下に好ましい実施形態を挙げ、詳細に説明していく。
【0015】
以下に本発明の実施形態を説明する。本発明はこれら実施形態に限定されることはない。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、砥粒と、pH調整剤と、分散媒と、ラクタム構造を有する少なくとも1種の第1の水溶性高分子と、下式(I)で示されるアルキレンオキシドを構造中に含む少なくとも1種の第2の水溶性高分子と、を含む研磨用組成物が提供される。かかる実施形態によれば、以下の技術的効果を有しうる。すなわち、研磨用組成物中に、それぞれ特定の構造を有する2種の水溶性高分子を用いる。このような研磨用組成物を使用して研磨を行うと、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差を大きくすることができる。言い換えると、異なる研磨圧力下における同じ材料の除去速度の差を大きくすることができる。よって、同じ材料から構成される同一の研磨対象物を研磨する場合でも、その表面に存在する段差を有効に低減するか、または解消することができる。なお、除去速度の差は、より正確には、除去速度の比であり、具体的には、高さの異なる部分のうち、低い部分に対する高い部分の除去速度の比である。
【0017】
【0018】
式(I)中、Xは3以上の整数であり、かつnは2以上の整数である。
【0019】
本実施形態において、研磨用組成物には、それぞれ特定の構造を有する2種の水溶性高分子が含まれる。本実施形態の研磨用組成物を用いて研磨を行うと、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)を大きくすることができる。言い換えると、異なる研磨圧力下における同じ材料の除去速度の差(比)を大きくすることができる。これにより、同じ材料から構成される同一の研磨対象物を研磨する場合でも、その表面に存在する段差を有効に低減するか、または解消することができる。
【0020】
本発明に係る研磨用組成物に適用される研磨対象物に特に制限はなく、一般的な半導体
基板であることが好ましい。研磨対象物としては、シリコン含有基板(例えば、アモルファスシリコン、結晶シリコン、シリカ、窒化ケイ素等)、ゲルマニウム含有基板を挙げることができる。研磨対象物の具体例としては、例えばSiYGe(1-Y)(ただし0≦Y<1)を挙げることができる。研磨対象物中、本発明に係る研磨用組成物は、ゲルマニウム含有基板を研磨するのに特に適している。ゲルマニウム含有基板の具体例としては、例えばSiZGe(1-Z)(ただし0.01≦Z<1)を挙げることができる。なお、上記「シリコン含有基板」は、ゲルマニウムは含まれない。本発明の一形態において、Zとしては、0.05~0.95が好ましく、0.1~0.90がより好ましい。
【0021】
本実施形態の研磨用組成物は、少なくとも1種の第1の水溶性高分子および少なくとも1種の第2の水溶性高分子を含む。第1の水溶性高分子はラクタム構造を有する。第2の水溶性高分子の構造には、下式(I)で示されるアルキレンオキシドが含まれる。
【0022】
【0023】
式(I)中、Xは3以上の整数であり、かつnは2以上の整数である。
【0024】
本発明に係る研磨用組成物の、段差を低減するかまたは解消することのできるメカニズムについて、本発明者は以下のように推論する。なお、下記するメカニズムは推測に基づくものであって、このメカニズムが正確であるか否かが、本発明の技術内容および特許請求の範囲に影響を及ぼすことはない、という点に注意されたい。
【0025】
先ず、本発明者は実験を行い、第1の水溶性高分子および第2の水溶性高分子の研磨対象物の除去速度に対する影響についてそれぞれ検討した。
【0026】
実験の結果より、第1の水溶性高分子は研磨対象物の除去速度を高めるということが示された。よって発明者は、第1の水溶性高分子が研磨対象物の表面に吸着すると、研磨対象物の親水性(または湿潤性)が高まり、ひいては研磨用組成物(研磨液)と研磨表面との親和性が改善されるため、研磨対象物の除去速度を高めることができたのではないかと推測する。なお、本発明の研磨用組成物は、ゲルマニウム材料を含有するシリコン基板以外の研磨にも適用可能である。
【0027】
また、実験の結果より、第2の水溶性高分子は研磨対象物の除去速度を低下させることが示された。本発明者は、第2の水溶性高分子が研磨対象物の表面に吸着すると、研磨対象物の親水性(または湿潤性)が低下し、ひいては研磨用組成物と研磨表面との反発力が高まるために、研磨対象物の除去速度が低下したと推測する。
【0028】
上述したように「研磨対象物の研磨表面に段差がある」とは、同一の研磨対象物の研磨表面が、相対的に高くなっている部分と、相対的に低くなっている部分とを含むということを意味する。化学機械研磨を行う際には、平坦な研磨パッドを使用するのが通常である。段差のある研磨対象物の研磨時において、同一の研磨対象物の表面の相対的に高くなっている領域について見ると、この領域における研磨対象物の表面と研磨パッドとの間の距離はより近い。メカニズムは不明であるが、研磨対象物の表面と研磨パッドの間の距離が近い場合には第1の水溶性高分子が働きやすくなり、遠い場合には第2の水溶性高分子が働きやすくなると考えられる。
【0029】
本発明に係る研磨用組成物を用いて化学機械研磨を所定の時間継続して行った後、同一の研磨対象物表面の元々の高さが比較的高かった領域は除去される材料の量がより多い。
表面が低くなるにつれて、この領域の研磨圧力および除去速度も低くなる。最後に、研磨対象物の表面全体の表面高さが一致(つまり、平坦化)すると、研磨圧力と除去速度も一致するようになる。そして、研磨を続けていっても、段差は生じなくなる。このようにして、研磨対象物の表面に存在する段差を低減するか、または解消することができるようになるのである。
【0030】
以下に本実施形態に係る研磨用組成物中に含まれる各種成分について説明する。
【0031】
[砥粒]
本実施形態の研磨用組成物には砥粒が含まれる。砥粒は無機粒子および有機粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えばシリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えばポリメタクリル酸メチル(polymethyl methacrylate, PMMA)粒子が挙げられる。これらのうち、シリカ粒子が好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。上述した砥粒は単独で使用することも、また2種以上を混合して使用することもできる。
【0032】
研磨用組成物中の砥粒の含量は0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上であるとより好ましく、0.1重量%以上であるとさらに好ましく、0.5重量%以上であることがよりさらに好ましい。砥粒の含量が多くなるにつれて、研磨対象物(例えば、ゲルマニウム材料を含む研磨対象物)に対する研磨速度が高まる。
【0033】
研磨用組成物中の砥粒の含量は、20重量%以下が好ましく、10重量%以下であるとより好ましく、5重量%以下であるとさらに好ましく、3重量%以下であってもよい。砥粒の含量が少なくなるにつれ、研磨用組成物の材料コストを抑えることができる他、砥粒の凝集が起こりにくくなる。
【0034】
砥粒の平均一次粒子径は5nm以上が好ましく、7nm以上であるとより好ましく、10nm以上であるとさらに好ましく、25nm以上であるとよりさらに好ましく、30nm以上であると特に好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨対象物(例えば、ゲルマニウム材料を含む研磨対象物)に対する研磨速度が高まる。なお、BET法により砥粒の比表面積を測定することができ、測定された比表面積に基づいて、砥粒の平均一次粒子径の値を算出できる。
【0035】
砥粒の平均一次粒子径は120nm以下が好ましく、80nm以下であるとより好ましく、50nm以下であるとさらに好ましく、40nm以下であるとよりさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。
【0036】
砥粒の平均二次粒子径は10nm以上が好ましく、20nm以上であるとより好ましく、30nm以上であるとさらに好ましく、50nm以上であると特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨対象物(例えば、ゲルマニウム材料を含む研磨対象物)に対する研磨速度が高まる。
【0037】
砥粒の平均二次粒子径は250nm以下が好ましく、200nm以下であるとより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下であると特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれ、研磨用組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。砥粒の平均二次粒子径の値は、適した方法、例えばレーザー光散乱法により測定することができる。
【0038】
砥粒に表面修飾を行ってもよい。一般的なコロイダルシリカは酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いため、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件下でもゼータ電位が比較的大きい正または負の値を有するよう表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する。その結果、研磨用組成物の保存安定性が向上する。このような表面修飾砥粒は、例えばアルミニウム、チタンもしくはジルコニウム等の金属、またはこれら金属の酸化物を砥粒と混合し、砥粒の表面にドープさせることにより得られる。また、塩基性条件下では、表面修飾如何に関わらずゼータ電位は負の値を示すため、基本的には良好に分散する。但し、表面修飾した砥粒は未修飾の砥粒よりもゼータ電位の絶対値がより大きいため、更に安定的に分散し得る。
【0039】
研磨用組成物中に含まれる表面修飾された砥粒は、その表面に有機酸を固定化したシリカであってもよい。中でも、有機酸をその表面に固定化したコロイダルシリカが好ましい。有機酸のコロイダルシリカ表面への固定化は、有機酸の官能基をコロイダルシリカの表面に化学的に結合させることにより行われる。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけでは、有機酸をコロイダルシリカ表面に固定化させることはできない。有機酸の1種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化させたければ、例えば“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載されている方法により行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(3-mercaptopropyl)trimethoxysilane)等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後、過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。本願の実施例で使用されたコロイダルシリカも左記のように作製されている。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカ表面に固定化させたいのであれば、例えば “Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”,Chemistry Letters,3,228-229(2000)に記載されている方法により行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステル(2-nitrobenzyl ester)を含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後、光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0040】
[第1の水溶性高分子]
本実施形態の研磨用組成物には、少なくとも1種の第1の水溶性高分子が含まれる。ラクタム構造を有する第1の水溶性高分子を使用することにより、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより高い(つまり研磨圧力がより大きい)部分の除去速度を高めることができると共に、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより低い(つまり研磨圧力がより小さい)部分の除去速度を低下させることができる。換言すると、第1の水溶性高分子を含有する研磨用組成物を用いて研磨を行えば、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)を大きくすることができ、段差を低減させるか、または解消するのに有用である。
【0041】
本明細書における“ラクタム構造”には、β-ラクタム(β-lactam)構造、γ-ラクタム(γ-lactam)構造、δ-ラクタム(δ-lactam)構造、ε-カプロラクタムまたはその他のラクタム構造が含まれ得る。ラクタム構造を含むモノマーを用い、第1の水溶性高分子を合成することができる。また、本明細書における「ラクタム構造を含むモノマー」には、ラクタムの窒素原子に重合性基(例えば、ビニル基)を備え
るモノマーが含まれ得る。
【0042】
第1の水溶性高分子には、ラクタム構造を含むモノマーの重合体、またはラクタム構造を含むモノマーと他のモノマーとの共重合体が含まれ得る。よって、本発明の一形態によれば、前記第1の水溶性高分子が、ラクタム構造を含むモノマーのホモポリマー、または、ラクタム構造を含むモノマーと、他のモノマーとの共重合体である。他のモノマーの例としては、例えば、ビニルアルコール、酢酸ビニルまたはその他の適したモノマーを挙げることができる。第1の水溶性高分子が共重合体である実施形態では、共重合体のタイプに特に制限は無く、例えば、第1の水溶性高分子は、ブロック共重合体(block copolymer)、ランダム共重合体(random copolymer)、グラフト共重合体(grafted copolymer)またはその他のタイプの共重合体であってよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、第1の水溶性高分子は、ラクタム構造を含むモノマーのホモポリマー(ポリラクタム)である。ポリラクタムの具体例としては、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone, PVP)、ポリビニルカプロラクタム(polyvinyl caprolactam)、ポリビニルバレロラクタム(polyvinyl valerolactam)、ポリビニルラウロラクタム(polyvinyl laurolactam)およびポリビニルピペリドン(polyvinyl
piperidone)からなる群より選ばれた少なくとも1種であってよい。これらポリラクタムのうち、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0044】
第1の水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、500,000以下が好ましく、200,000以下であるとより好ましく、100,000以下であるとさらに好ましく、65,000以下がよりさらに好ましい。また、第1の水溶性高分子の重量平均分子量は、3,000以上が好ましく、4,000以上がより好ましく、5,200以上がさらに好ましく、6,000以上がよりさらに好ましく、7,000以上がよりさらに好ましく、8,000以上であるとよりさらに好ましく、10,000以上であることがよりさらに好ましく、15,000以上であってもよく、20,000以上であってもよく、25,000以上であってもよく、30,000以上であってもよく、40,000以上であってよく、50,000以上であってよく、55,000以上であってよい。なお、本明細書における重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0045】
第1の水溶性高分子の重量平均分子量が500,000より大きいと、研磨用組成物(または研磨組成物)を調製した後、砥粒が時間の経過に伴って凝集し、ひいては操作性が低下してしまう。さらに、第1の水溶性高分子の重量平均分子量が高すぎると、第1の水溶性高分子の立体構造が過度に大きくなる可能性がある。この場合、研磨対象物へ吸着する水溶性高分子同士に隙間ができやすくなることで表面の保護が十分にできなくなる。よって、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより低い(研磨圧力がより小さい)部分の除去速度を低下させることは難しく、かつ、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)が小さくなりすぎる。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。
【0046】
また、第1の水溶性高分子の重量平均分子量が3,000より小さいと、第1の水溶性高分子の立体構造が過度に小さくなる可能性がある。この場合、研磨対象物への水溶性高分子の吸着が密になりすぎることで表面が過剰に保護される。よって、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより高い(研磨圧力がより大きい)部分の除去速度を高めさせる効果を発揮しづらくなる。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。
【0047】
第1の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量は、10,000ppm以下が好ましく、5,000ppm以下がより好ましく、1,000ppm以下であるとさらに好ましく、500ppm以下であるとよりさらに好ましく、200ppm以下であると特に好ましい。特に200ppm以下であることによって全体的な研磨レートを向上させることができる。また、第1の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量は、1ppm以上好ましく、10ppm以上であるとより好ましく、50ppm以上であるとさらに好ましく、75ppm以上であることがよりさらに好ましい。なお、本明細書において“ppm”とは、“重量ppm=質量ppm”のことを指す。
【0048】
第1の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量が10,000ppmより大きいと、研磨用組成物を調製した後、砥粒が時間の経過に伴って凝集し、ひいては操作性が低下してしまう。第1の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量が高すぎると、研磨対象物が除去される効果が弱まる可能性がある。よって、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより高い(研磨圧力がより大きい)部分の除去速度を高めることは困難となり、かつ、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)が小さくなりすぎる。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。
【0049】
また、第1の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量が1ppm未満であると、表面の相対的な高さがより低い研磨対象物の領域に吸着する第1の水溶性高分子の数が少なくなりすぎて、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより低い(研磨圧力がより小さい)部分の除去速度を低下させる効果が弱まる可能性がある。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。
【0050】
[第2の水溶性高分子]
本実施形態の研磨用組成物には、少なくとも1種の第2の水溶性高分子が含まれる。第2の水溶性高分子の構造には、下式(I)に示されるアルキレンオキシドが含まれる。
【0051】
【0052】
式(I)中、Xは3以上の整数であり、かつnは2以上の整数である。
【0053】
式(I)で示されるアルキレンオキシドを有する第2の水溶性高分子を使用することで、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより低い(つまり研磨圧力のより小さい)部分の除去速度を低下させることができる。換言すると、第2の水溶性高分子を含有する研磨用組成物を用いて研磨を行えば、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)を大きくすることができ、段差を低減するか、または解消するのに役立つ。
【0054】
式(I)中のXの数値は、第2の水溶性高分子を合成するのに用いるモノマーを表すものである。例えば、式(I)のXが3に等しいとき、第2の水溶性高分子を合成するのに用いるモノマーはプロピレングリコールであることを表すと共に、第2の水溶性高分子がポリプロピレングリコールであることを表す。また、式(I)中のnの数値は、単一の第2の水溶性高分子における繰り返し単位の数を表すものである。よって、Xおよびnの数値から、第2の水溶性高分子の重量平均分子量を推測することができる。Xの上限値とnの上限値に特に制限はないが、第2の水溶性高分子の研磨用組成物への溶解性を良好とすると共に、段差を低減するのに有利となるよう、Xの上限値は12が好ましく、6がより好ましく、5がさらに好ましく、4がよりさらに好ましい。nの上限値は150が好ましく、
100がより好ましく、50がさらに好ましく、20がよりさらに好ましい。nの下限値は、3が好ましく、4がより好ましく、5がさらに好ましい。
【0055】
第2の水溶性高分子の具体例としては、例えばポリプロピレングリコール(polypropylene glycol, PPG)、ポリブチレングリコール(polybutylene glycol)、ポリペンチレングリコール(polypentylene glycol)、ポリヘキシレングリコール(polyhexylene glycol)、ポリヘプチレングリコール(polyheptylene glycol)、ポリオクチレングリコール(polyoctylene glycol)、ポリノニレングリコール(polynonylene glycol)およびポリデシレングリコール(polydecylene glycol)を挙げることができる。いくつかの好ましい実施形態では、第2の水溶性高分子はポリプロピレングリコールまたはポリブチレングリコールである。別のいくつかのより好ましい実施形態では、第2の水溶性高分子はポリプロピレングリコールである。本発明の一実施形態によれば、前記第2の水溶性高分子が、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol,PPG)、または、ポリブチレングリコール(polybutylene glycol)である。かかる形態であることによって本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0056】
第2の水溶性高分子の重量平均分子量は、3,000以下が好ましく、3,000未満がより好ましく、2,000以下であるとより好ましく、1,200以下であるとさらに好ましく、800以下であると特に好ましい。また、第2の水溶性高分子の重量平均分子量は、200以上が好ましく、300以上であるとより好ましい。
【0057】
第2の水溶性高分子の重量平均分子量が3,000よりも大きいと、研磨用組成物(または研磨組成物)を調製した後、砥粒が時間の経過に伴って凝集し、ひいては操作性が低下してしまう虞がある。さらに、第2の水溶性高分子の重量平均分子量が高すぎると、第2の水溶性高分子の曇点(cloud point)が低くなりすぎる可能性がある。アルキレンオキシド構造を含むグリコール溶液について言えば、グリコール化合物の溶解度は温度の上昇に伴って下降する。温度がある特定の温度まで上昇すると、グリコール溶液は相分離が生じて2層に分かれ始め、これによって溶液が濁ると考えられる。所謂「曇点」(「曇点温度」ともいう)とは、溶液が濁り始める上記特定の温度のことを指す。第2の水溶性高分子の曇点が低すぎると(例えば、曇点が室温よりも低いか、または化学機械研磨プロセスの操作温度よりも低い)、研磨用組成物中の第2の水溶性高分子は分散媒と相分離を起こして析出し易くなってしまう。このようであると、研磨用組成物が変質し、かつ研磨用組成物の研磨作用を低下させてしまう。
【0058】
また、第2の水溶性高分子の重量平均分子量が200よりも小さいと、第2の水溶性高分子の立体構造が過度に小さくなる可能性があり、研磨対象物の表面に吸着する第2の水溶性高分子の数が多くても、依然として研磨対象物を保護することは難しいと考えられる。よって、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより低い(研磨圧力がより小さい)部分の除去速度を低下させることは困難である。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物が、第1の水溶性高分子と、第2の水溶性高分子とを有し、当該第1の水溶性高分子の重量平均分子量が3,000以上であり、当該第2の水溶性高分子の重量平均分子量が3,000未満である。このように2種類以上の水溶性高分子を含有し、各水溶性高分子の重量平均分子量を上記のようにすることによって本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。なお、本形態において、第1の水溶性高分子と、第2の水溶性高分子との重量平均分子量の上限、下限は、上記で説明した値を自由に選択することができる。具体的には、例えば、第1の水溶性高分子の重量平
均分子量の下限を8,000以上にしてもよいし、30,000以上にしてもよい。なお、本明細書に開示されている数値等の上限下限は、本実施形態に限らず、上限値、下限値を自由に選択することができ、上限値のみ、下限値のみも自由に選択することができる。
【0060】
第2の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量は、5,000ppm以下が好ましく、4,000ppm以下がより好ましく、3,000ppm以下がさらに好ましく、2,000ppm以下であるとよりさらに好ましく、1,000ppm以下であるとよりさらに好ましく、800ppm以下であると特に好ましい。特に800ppm以下であることによって全体的な研磨レートを向上させることができる。また、第2の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量は、10ppm以上が好ましく、50ppm以上であるとより好ましく、100ppm以上であるとさらに好ましく、200ppm以上であるとよりさらに好ましく、300ppm以上であるとよりさらに好ましく、400ppm以上であると特に好ましい。
【0061】
第2の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量が5,000ppmより大きいと、研磨用組成物を調製した後、砥粒が時間の経過に伴って凝集し、ひいては操作性が低下してしまう虞がある。さらに、第2の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量が高すぎると、表面の相対的な高さがより高い研磨対象物の領域に吸着する第2の水溶性高分子の数が過度に多くなり、研磨対象物が除去されにくくなってしまう可能性がある。このため、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより高い(研磨圧力がより大きい)部分の除去速度を高めることが困難となり、かつ、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)が小さくなりすぎてしまう。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。
【0062】
また、第2の水溶性高分子の研磨用組成物中の含量が10ppm未満であると、表面の相対的な高さがより低い研磨対象物の領域に吸着する第2の水溶性高分子の数が少なくなりすぎ、研磨対象物を保護するのが難しくなる可能性がある。このため、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより低い(研磨圧力がより小さい)部分の除去速度を低下させることが困難となる。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。
【0063】
[pH調整剤]
本実施形態の研磨用組成物にはpH調整剤が含まれる。pH調整剤により研磨用組成物のpH値を所望の値に調整することができる。pH調整剤としては、公知の酸または塩基を使用することができる。
【0064】
本実施形態の研磨用組成物に用いられるpH調整剤としての酸は、無機酸または有機酸であってもよいし、また、キレート剤であってもよい。pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)、フッ化水素酸(HF)、硼酸(H3BO3)、炭酸(H2CO3)、次亜リン酸(H3PO2)、亜リン酸(H3PO3)およびリン酸(H3PO4)を挙げることができる。これら無機酸のうち、好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸である。
【0065】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸(hydroxyacetic
acid)、サリチル酸(salicylic acid)、グリセリン酸(glyceric acid)、シュウ酸(oxalic acid)、マロン酸(malonic acid)、コハク酸(succinic acid)、グルタル酸(glutaric acid)、アジピン酸(adipic acid)、ピメリン酸(pimeli
c acid)、マレイン酸(maleic acid)、フタル酸(phthalic
acid)、リンゴ酸(malic acid)、酒石酸(tartaric acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、グリオキシル酸(glyoxylic acid)、2-フランカルボン酸(2-furancarboxylic acid)、2,5-フランジカルボン酸(2,5-furandicarboxylic acid)、3-フランカルボン酸(3-furancarboxylic acid)、2-テトラヒドロフランカルボン酸(2-tetrahydrofuran carboxylic acid)、メトキシ酢酸(methoxyacetic acid)、メトキシフェニル酢酸(methoxyphenylacetic acid)およびフェノキシ酢酸(Phenoxyacetic acid)を挙げることができる。メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)、エタンスルホン酸(ethanesulfonic acid)およびイセチオン酸(2-hydroxyethanesulfonic acid)等の有機硫酸を使用してもよい。これら有機酸のうち、好ましいのは、酢酸等のモノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸等のジカルボン酸;ならびにクエン酸などのトリカルボン酸である。
【0066】
本実施形態の研磨用組成物に用いられるpH調整剤としての塩基は、例えば、アルカリ金属の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。
【0067】
本実施形態の研磨用組成物のpH値は、9以下が好ましく、8以下であるとより好ましく、7以下であるとさらに好ましい。本実施形態の研磨用組成物のpH値は、7未満であってもよく、6以下であってもよく、6未満であってもよく、5以下であってもよく、5未満であってもよく、4以下であってもよく、4未満であってもよく、3以下であってもよく、3未満であってもよく、2.8以下であってもよい。さらに、本実施形態の研磨用組成物のpH値の下限値に特に制限はないが、プロセスの安全性および廃液処理の負担を考慮すると、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、2超であってもよく、3以上であっても、3超であっても、4以上であっても、4超であっても、5以上であっても、5超であっても、6以上であっても、6超であっても、7以上であっても、7超であってもよい。本発明の実施形態において、前記研磨用組成物のpH値が、1~9であることが好ましい。
【0068】
研磨用組成物がアルカリ性である(つまり、pHが7より大きい)と、研磨対象物のゲルマニウムを含む材料の部分は腐蝕されることとなる。このような腐蝕作用は、ゲルマニウム材料を含む部分の除去速度を高め得る。しかし、pHが高すぎる(例えばpHが9より大きい)と、同一の研磨対象物の表面の相対的な高さがより低い部分の除去速度を高めることになって、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)を小さくする可能性がある。これでは、段差を低減するか、または解消するには不利である。本発明の実施形態によれば、研磨用組成物のpHが9以下であり、かつ、研磨用組成物中の第2の水溶性高分子の含量が、5,000ppm以下である。かかる実施形態によって、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。なお、本実施形態においてもまた、研磨用組成物のpHの上限、下限、第2の水溶性高分子の含量の上限、下限を上記した数値を自由に選択することができるのは上述のとおりである。
【0069】
[分散媒]
本実施形態の研磨用組成物には分散媒(「溶媒」と称してもよい)が含まれる。分散媒は、研磨用組成物中の各成分を分散または溶解させるために用いることができる。本実施形態において、研磨用組成物は、分散媒として水を含んでいてよい。
【0070】
他の成分の作用を阻害することを抑えるという観点から、できる限り不純物を含まない水が好ましい。より具体的には、イオン交換樹脂で不純物イオンを除去した後、フィルターを通して異物を除去した純水もしくは超純水、または蒸留水が好ましい。
【0071】
[酸化剤]
本発明の実施形態の(あるいは、本発明の実施形態の研磨方法で使用する)研磨用組成物には、必要に応じて、さらに酸化剤が含まれていてもよい。研磨用組成物に含まれる酸化剤の種類に特に制限はないが、0.3V以上の標準電極電位を有するものであると好ましい。0.3V未満の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合に比して、0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤の使用は、研磨用組成物を用いて行うゲルマニウム材料部分およびシリコン材料部分の研磨速度をさらに高めるのに有用である。0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤の具体例としては、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、有機酸化剤、オゾン水、銀(II)の塩、鉄(III)の塩および過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸 (peroxodisulfuric acid)、ペルオキソりん酸(peroxophosphoric acid)、ペルオキソ硫酸(peroxosulfuric acid)、過ほう酸(peroxoboric acid)、過ギ酸(performic acid)、過酢酸(peracetic acid)、過安息香酸(perbenzoic acid)、過フタル酸(Perphthalic acid)、次亜塩素酸(hypochlorous acid)、次亜臭素酸(hypobromous acid)、次亜ヨウ素酸(hypoiodous acid)、塩素酸(chloric acid)、亜塩素酸(chlorous acid)、過塩素酸(perchloric acid)、臭素酸(bromic acid)、ヨウ素酸(iodic acid)、過ヨウ素酸(periodic acid)、硫酸、過硫酸(persulfuric acid)、ジクロロイソシアヌル酸(dichloroisocyanuric acid)ならびにこれらの塩を挙げることができる。これら酸化剤は単独で使用してもよいし、または2種類以上を混合して使用してもよい。上記の標準電極電位の上限にも特に制限はないが、3.0V以下、2.5V以下、あるいは、2.0V以下等が好適である。
【0072】
上記酸化剤のうち、研磨用組成物を用いて行うゲルマニウム材料部分およびシリコン材料部分の研磨速度を有効に高めるという点について考えれば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、次亜塩素酸およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましい。
【0073】
なお、標準電極電位とは、酸化反応に関与するすべての化学種が標準状態となっているときの電極電位のことをいい、下記の数式1で表される。
【0074】
【0075】
数式1中、E0は標準電極電位であり、△G0は酸化反応の標準ギブス(Gibbs)エネルギー変化であり、Kはその平衡定数であり、Fはファラデー定数であり、Tは絶対温度であり、nは酸化反応に関与する電子数である。数式1からわかるように、標準電極電位は温度に伴って変動するため、本明細書では、25℃における標準電極電位を採用する。なお、水溶液系の標準電極電位については、例えば改定4版化学便覧(基礎編)II,pp464~468(日本化学会編)に記載されている。
【0076】
研磨用組成物中の酸化剤の含量は、0.01mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上であるとより好ましい。酸化剤の含量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるゲルマニウム材料部分の研磨速度を高めることができる。研磨用組成物中の酸化剤の含量
は、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。また、研磨用組成物中の酸化剤の含量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0077】
研磨用組成物中の酸化剤の含量は、2mol/L以下が好ましく、1mol/L以下であるとより好ましく、0.5mol/L以下であるとさらに好ましい。酸化剤の含量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるようになる他、研磨プロセス後の研磨用組成物の処理の負担(つまり廃液処理の負担)を軽減することもできる。
【0078】
[その他の成分]
本発明の研磨方法で使用する研磨用組成物には、必要に応じて、アミノ酸、キレート剤、金属防食剤、防腐剤、抗カビ剤等その他の成分がさらに含まれていてもよい。
【0079】
[研磨方法および基板の製造方法]
上述したように、本発明に係る研磨用組成物は、シリコン含有基板およびゲルマニウム含有基板を研磨するのに適している。よって、本発明は、本発明に係る研磨用組成物によりゲルマニウム材料を含有する研磨対象物を研磨する研磨方法を提供する。かかる研磨対象物はSiYGe(1-Y)(ただし0≦Y<1)であってよい。よって、本発明は、上記の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含み、前記研磨対象物の材料が、SiYGe(1-Y)(ただし0≦Y<1)である、研磨方法が提供される。また、本発明は、基板を準備する工程と、上記の研磨用組成物を用いて前記基板に対し研磨を行う工程と、を含む、研磨済基板の製造方法が提供される。本発明に係る研磨用組成物は、ゲルマニウム含有基板を研磨するのに特に適している。よって、本発明は、本発明に係る研磨用組成物を使用しゲルマニウム材料を含有するシリコン基板に対して研磨を行うステップを含む、研磨済基板の製造方法を提供する。ゲルマニウム材料を含有するシリコン基板はSiZGe(1-Z)(ただし0.01≦Z<1)であってよい。
【0080】
研磨ステップで使用する研磨装置として、一般的な化学機械研磨プロセスで用いる研磨装置を使用することができる。かかる研磨装置には、研磨対象物を保持するキャリアおよび回転数を変更することのできるモーター等が設置されていると共に、研磨パッド(または研磨布)を貼り付けることのできる研磨定盤を備える。
【0081】
上記研磨パッドに特に制限はなく、一般の不織布、ポリウレタン樹脂製パッド、および多孔質フッ素樹脂製パッド等を使用することが可能である。さらに、必要に応じて、研磨パッドに溝加工を施すこともでき、これにより、研磨用組成物が研磨パッドの溝中にたまるようになる。
【0082】
研磨ステップのパラメータ条件にも特に制限はなく、実際の必要に応じて調整を行うことができる。例えば、研磨定盤の回転速度は10~500rpmとすることができ、キャリアの回転速度は10~500rpmとすることができ、研磨用組成物の流量は10~500ml/minとすることができる。研磨用組成物を研磨パッドへ供給する方法にも特に制限はなく、例えば、ポンプ等による連続供給の方法を採用できる。
【0083】
また、本発明の一形態において、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.1~10psiが好ましく、2~3psiであることがより好ましい。
【0084】
研磨ステップ終了後、水流中で研磨対象物を洗浄し、回転乾燥機等で研磨対象物に付着している水滴を飛ばして乾燥し、平坦な表面を有する、段差の無い基板を得る。
【0085】
また、本発明の一実施形態によれば、研磨圧力が3.1~5.0psi(特に好ましくは、4.1psi)であるときに前記研磨対象物の除去速度を第1の除去速度とし、研磨圧力が0.5~1.9psi(特に好ましくは、1.4psi)であるときに前記研磨対象物の除去速度は第2の除去速度としたときに、前記第1の除去速度の前記第2の除去速度に対する比の値が3より大きい。かかる実施形態によって、本発明の所期の効果(段差の低減または解消)を効率よく発揮する。当該比は、3.1以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましく、4.0以上がよりさらに好ましい。かかる実施形態によれば、より効率よく段差を解消できるとの技術的効果を有する。当該比は高ければ高いほど好ましいので上限はないが、現実的には、10以下程度である。
【0086】
よって、本発明の一実施形態によれば、研磨圧力が3.1~5.0psiの際の研磨速度をより高め、研磨圧力が0.5~1.9psiの際の研磨速度をより低めることができる研磨用組成物を提供することができる。
【0087】
本発明は以下の形態を開示している。
【0088】
1.砥粒と、pH調整剤と、分散媒と、ラクタム構造を持つ少なくとも1種の第1の水溶性高分子と、下式(I)で示されるアルキレンオキシドを構造中に含む少なくとも1種の第2の水溶性高分子と、
【0089】
【0090】
(式(I)中、Xは3以上の整数であり、かつnは2以上の整数である。)
を含む、研磨用組成物。
【0091】
2. 前記第1の水溶性高分子がポリラクタム、またはラクタム構造を含むモノマーと他のモノマーとの共重合体である、1.に記載の研磨用組成物。
【0092】
3. 前記ポリラクタムが、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone,PVP)、ポリビニルカプロラクタム(polyvinyl caprolactam)、ポリビニルバレロラクタム(polyvinyl valerolactam)、ポリビニルラウロラクタム(polyvinyl laurolactam)、およびポリビニルピペリドン(polyvinyl piperidone)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、2.に記載の研磨用組成物。
【0093】
4. 前記第2の水溶性高分子が、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol,PPG)、または、ポリブチレングリコール(polybutylene glycol)である、1.~3.のいずれか1つに記載の研磨用組成物。
【0094】
5. 前記研磨用組成物のpH値が、1~9である、1.~4.のいずれか1つに記載の研磨用組成物。
【0095】
6. 前記研磨用組成物が、酸化剤をさらに含む、1.~5.のいずれか1つに記載の研磨用組成物。
【0096】
7. 1.~6.のいずれか1つに記載の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含み、前記研磨対象物の材料が、SiYGe(1-Y)(ただし0≦Y<1)である、研磨方法。
【0097】
8. 研磨圧力が4.1psiであるときに前記研磨対象物の除去速度を第1の除去速度とし、研磨圧力が1.4psiであるときに前記研磨対象物の除去速度は第2の除去速度としたときに、前記第1の除去速度の前記第2の除去速度に対する比の値が3より大きい、7.に記載の研磨方法。
【0098】
9. 基板を準備する工程と、1.~6.のいずれか1つに記載の研磨用組成物を用いて前記基板に対し研磨を行う工程と、を含む、研磨済基板の製造方法。
【0099】
10. 前記基板が、ゲルマニウム材料を含有するシリコン基板である、9.に記載の製造方法。
【実施例】
【0100】
以下の実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例のみに限定されることはない。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行っている。また、特記しない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0101】
[研磨用組成物の調製]
下表1に示される組成に従って、砥粒、pH調整剤、酸化剤、第1の水溶性高分子および第2の水溶性高分子を分散媒(超純水)中で混合し(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物のpHを、pHメーター(堀場製作所製LAQUA)を用いて確認した(pH値測定時の研磨用組成物温度は25℃)。また、表1中の「-」はその成分を添加していないことを表す。表1における各成分の詳細は以下のとおりである。
【0102】
研粒:コロイダルシリカ(一次平均粒子径:35nm、二次平均粒子径:70nm;表面にスルホン酸基を固定)
HNO3:硝酸(濃度:70%)
NH4OH:水酸化アンモニウム(純度:29%)
Acetic acid:酢酸(濃度:99.8%)
Citric acid:クエン酸(純度:30%)
酸化剤:H2O2(濃度:31%)
PVP K12:ポリビニルピロリドン(Mw:5,000)
PVP K15:ポリビニルピロリドン(Mw:10,000)
PVP K30:ポリビニルピロリドン(Mw:60,000)
Vinylpyrrolidone/vinyl acetate copolymers(ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体):(PVP/VA W-635, Ashland社製;Mw:21,000)
Polyvinyl caprolactam(ポリビニルカプロラクタム):(Mw:6,600)
Poly(2-ethyl-2-oxazoline):ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(Mw:50,000)
Polyvinyl alcohol:ポリビニルアルコール(Mw:50,000)
Carboxymethyl cellulose:カルボキシメチルセルロース (Mw:90,000)
Hydroxyethyl cellulose:ヒドロキシエチルセルロース(Mw:90,000)
PEG 400:ポリエチレングリコール(Mw:400)
PPG 400:ポリプロピレングリコール(Mw:400)
PPG 1000:ポリプロピレングリコール(Mw:1,000)。
【0103】
[研磨速度の測定]
上記にて得られた研磨用組成物を用い、以下の研磨条件下でシリコンゲルマニウム(SiGe)基板(Silicon Valley Microelectronic, Inc製)を研磨したときの研磨速度を測定した。シリコンゲルマニウムは具体的にSi0.75Ge0.25であった。
【0104】
研磨装置:片面CMP研磨装置(ENGIS:エンギス社製)
研磨パッド:ポリウレタン製パッド
定盤回転速度:90rpm
キャリア回転速度:50rpm
研磨用組成物の流量:100mL/min
研磨時間:60sec
第1の研磨圧力:4.1psi(約28.2kPa)
第2の研磨圧力:1.4psi(約9.7kPa)。
【0105】
研磨対象物の研磨前および研磨後の厚さを、光干渉式膜厚測定システム(フィルメトリクス社製;Filmetric F20により測定した。研磨速度を次式により算出した。
【0106】
研磨速度={[研磨前の厚さ]-[研磨後の厚さ]}/[処理時間]
上式中、厚さの単位はÅ、処理時間の単位は分、研磨速度の単位は(Å/min)である。なお、処理時間は、具体的には、研磨時間を意味する。
【0107】
[研磨速度の選択比の計算]
上記の第1の研磨圧力(つまり4.1psi)下で研磨を行い、上式により研磨対象物の第1の研磨圧力における第1の研磨速度R1を求めた。また、上記の第2の研磨圧力(つまり1.4psi)下で研磨を行い、上式により研磨対象物の第2の研磨圧力における第2の研磨速度R2を求めた。第1の研磨速度R1の第2の研磨速度R2に対する比の値(R1/R2)を計算した。かかる比の値(R1/R2)は、異なる研磨圧力(つまり、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分)における研磨速度の差(比)を表すのに用いることができる。比の値(R1/R2)が大きくなるほど、異なる研磨圧力における研磨速度の差がより大きくなる、つまり、研磨速度の選択比がより大きくなる、ということを表す。各実施例および比較例の第1の研磨速度R1、第2の研磨速度R2および比の値(R1/R2)も表1中に示されている。
【0108】
ここで、4.1psi、1.4psiの数値の根拠を説明する。研磨方法を実施する際、研磨対象物にかける設定圧力(研磨圧力)を2~3psi程度に設定することがよくある。段差の高い部分には設定圧力よりも高い圧力がかかり、段差の低い部分には設定圧力よりも低い圧力がかかるが、この場合、想定値としては、それぞれ、4.1psi程度と1.4psi程度である。これが、根拠である。
【0109】
なお、4.1psi/1.4psiは、約3であるが、これは、1.5~4.5の範囲に収まっている。ここで、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)が、特に、0.1~10psiであれば、この低い圧力に対する高い圧力の比は、凡そ、この1.5~4.5の範囲に収まる。つまり、本発明の実施形態の研磨用組成物は如何なる研磨圧力条件においても適用可能である。
【0110】
このように、本発明の実施形態の研磨用組成物は、研磨速度の特異的な研磨圧力依存性
を有するので、研磨圧力が相対的に高い部分をより速く研磨し、研磨圧力が相対的に低い部分をより低く研磨することができる。よって、本発明の研磨用組成物段差の低減または解消を効率的に行うことができることに資する。
【0111】
本発明の一形態において、R1/R2は、3.1以上が好ましく、3.5以上がより好ましく、4.0以上がさらに好ましい。R1/R2は大きければ大きいほどよく、理論上、より理想的な段差の低減または解消ができる。上限としては、特に制限はないが、現実的には、10以下程度である。
【0112】
【0113】
【0114】
表1の比較例1を参照されたい。比較例1の研磨用組成物には第1の水溶性高分子および第2の水溶性高分子が含まれない。比較例1中、第1の研磨速度R1の第2の研磨速度R2に対する比の値(R1/R2)は3である。本明細書では比較例1を評価の参考基準
とする。研磨速度の比の値(R1/R2)が3より大きければ、その研磨用組成物は段差を低減するか、または解消することのできる合格品であると判定し、研磨速度の比の値(R1/R2)が3以下であれば、その研磨用組成物は段差を低減するか、または解消することが困難な不合格品であると判定した。
【0115】
表1の実施例1から実施例15を参照されたい。実施例1から実施例15までで用いた各研磨用組成物にはいずれも、ラクタム構造を有する第1の水溶性高分子と、式(I)で示されるアルキレンオキシドを有する第2の水溶性高分子とが含まれている。実験の結果から、実施例1から実施例15までのすべてで、研磨速度の比の値(R1/R2)がいずれも3よりも大きいことが示された。このことからわかるように、実施例1から実施例15までで用いた各研磨用組成物はいずれも、段差を低減できるかまたは解消することができる、と判定することができる。
【0116】
表1の比較例2を参照されたい。比較例2の研磨用組成物には第1の水溶性高分子が含まれていない。さらに、表1の比較例3を参照されたい。比較例3の研磨用組成物には第2の水溶性高分子が含まれていない。実験の結果より、比較例2および比較例3の研磨速度の比の値(R1/R2)はいずれも3未満であることが示されている。これからわかるように、第1の水溶性高分子または第2の水溶性高分子の単独使用では、段差を低減するか、または解消することが難しい。さらに、第1の水溶性高分子および第2の水溶性高分子を使用しない研磨用組成物と比較して、第1の水溶性高分子または第2の水溶性高分子を単独で使用した研磨用組成物は、その段差を解消する能力が、却って低下する可能性がある。
【0117】
表1の実施例1および比較例4を同時に参照されたい。比較例4はポリエチレングリコール(polyethylene glycol, PEG)を、実施例1のポリプロピレングリコールに置き換えて使用している。比較例4の研磨用組成物のこの他の成分は、実施例1とはすべて同じである。実験の結果より、比較例4の研磨速度の比の値(R1/R2)は3に等しく、実施例1の研磨速度の比の値(R1/R2)は6.6であることが示されている。これからわかるように、第2の水溶性高分子の代わりに、上記の式(I)とは異なる水溶性高分子を用いた場合、段差を解消する能力を有効に改善することは難しい。
【0118】
表1の比較例5から比較例8を参照されたい。比較例5から比較例8までの各研磨用組成物はいずれも、第1の水溶性高分子の代わりに、ラクタム構造を有さない水溶性高分子を用いている。実験の結果より、比較例5から比較例8までの各研磨用組成物の研磨速度の比の値(R1/R2)はいずれも3以下であることが示されている。これからわかるように、第1の水溶性高分子の代わりにラクタム構造を有さない水溶性高分子を用いた場合、段差を解消する能力を有効に改善することは困難であり、ひいては段差を解消する能力をより低下させる可能性さえある。
【0119】
以上まとめると、本発明に係る研磨用組成物は、それぞれ特定の構造を有する2種の水溶性高分子を含む。本発明の研磨用組成物を用いて研磨を行うと、同一の研磨対象物の表面における高さの異なる部分の除去速度の差(比)を大きくすることができる。言い換えると、同じ材料の異なる研磨圧力下での除去速度の差(比)を大きくすることができる。これにより、同じ材料から構成される研磨対象物を研磨するときにも、研磨対象物の表面に存在する段差を有効に低減するか、または解消することができる。
【0120】
また、本発明に係る研磨用組成物は、化学機械研磨プロセスに使用することができ、平坦な表面を備える基板を得るのに有用である。したがって産業上の利用可能性を備える。
【0121】
本発明をいくつかの好ましい実施形態により上記のように開示したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当然に、任意の変更および修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、後述する特許請求の範囲で定義されたものが基準となる。
【0122】
なお、本出願は、2018年9月28日に出願された日本国特許出願第2018-183310号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。