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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】コバルト保持物質からの金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20231003BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20231003BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B3/06
C22B3/44 101A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020523329
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2018078896
(87)【国際公開番号】W WO2019081432
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】17198908.0
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・フェルミューレン
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド・オウステルホフ
(72)【発明者】
【氏名】リュク・クーク
(72)【発明者】
【氏名】エリアン・アクリア
(72)【発明者】
【氏名】ティル・クリヴィッツ
(72)【発明者】
【氏名】トマス・スーテンス
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・バルテス
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/00
C22B 3/06
C22B 3/44
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1%を超えるCo、Co及びNiの合計が15%超、及び1%を超えるMgを酸化形態で含有する金属保持物質からの金属の回収方法であって、
前記金属保持物質を、スラグ生成剤とともに浴炉内で製錬し、それによって、還元製錬条件を適用することにより、及び0.25<SiO/Al <2.5、0.5<SiO/CaO<2.5、及びMgO>10%の割合に従う最終的なスラグ組成物を得るような量で、スラグ生成剤としてCaO、SiO、及びAlを選択することにより、80%超の前記Co、及び1%未満の前記Mgを有する合金相、並びにスラグ相を生成する、製錬工程と、
前記スラグ相から前記合金相を分離する工程と、を含み、
投入前処理工程は、結合剤の添加、アグロメレーション、又はこれらの組み合わせを含まない、方法。
【請求項2】
前記金属保持物質がMHPを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記製錬工程が、MHPから出発する完全なCo資源化方法のうちの唯一の製錬工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記合金相の顆粒化又は微粒化の工程を更に含む、請求項1又は2に記載の金属保持物質からの金属の回収方法。
【請求項5】
前記金属保持物質が、
Co保持鉱石又は濃縮物を浸出反応器に供給する工程と、
酸性条件で前記鉱石又は前記濃縮物を浸出させ、それによってCo保持母液を得る工程と、
MgOを使用することによって前記母液からCoを沈殿させることにより、1%を超えるCo及び1%を超えるMgを酸化形態で含有する金属保持物質を得る工程と、を含む方法により得られる、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属保持物質からの金属の回収方法。
【請求項6】
酸性条件で前記顆粒化又は微粒化された合金相を浸出させ、それによってCo保持浸出溶液を得る工程と、
前記溶液から不純物を抽出又は除去することによって前記浸出溶液を精製することにより、精製溶液を得る工程と、
前記精製溶液からCoを回収する工程と、を更に含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コバルト保持物質からのコバルトの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に対する需要の増加により、リチウムイオン電池市場の好況が始まっている。コバルト及びニッケルは、これらの再充電可能電池の製造に使用される最も重要な金属の一部であり、したがって、これらの金属に対する需要もまた、急速に成長している。
【0003】
世界のコバルト埋蔵量のおよそ半分は、ザンビアとコンゴ民主共和国との国境にまたがるアフリカのカッパーベルトに位置する。この領域では、コバルトは、銅産業の副産物として入手可能である。鉱床は、典型的には銅を4~5%含有し、コバルトは0.2~0.4%のみ存在する。コバルト回収プラントには、通常、銅精錬循環路のブリードからそれらが供給される。ブリード流は、典型的には、1リットル当たり数グラムのコバルト、及びいくらかのニッケルを、多数の不純物とともに含有し、この不純物は、中和工程によって現場である程度除去される。得られたコバルト保持生成物は、いわゆる混合水酸化物沈殿物(Mixed Hydroxide Precipitates、MHP)である。
【0004】
MHPの生成は、アフリカのカッパーベルト全体での現況技術である。ほとんどの場合、マグネシア乳(MgO)が、以下の反応に従う水酸化コバルトの沈殿に使用される。
CoSO4,aq+MgO+HO→Co(OH)2,s+MgSO4,aq
【0005】
実際には、上記反応に従って得られたMHPは、典型的には、沈殿した金属の塩基性硫酸塩及び部分的に酸化された種、例えば、オキシ水酸化物を含有する。コバルト以外に、それらは、相当量のニッケル、銅、又は他の有価金属を含有してもよい。
【0006】
MHPは、通常、含有される有価金属の精製及び回収のために専用のプラントに輸送される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
まれに、石灰(CaO)沈殿が、マグネシアの代わりに使用される。しかしながら、その場合、MHPは、セッコウで希釈されるため、それにより、輸送及び処理コストがより高くなり、更なる精製が必要になる。
【0008】
しかしながら、マグネシアによる沈殿は欠点がないわけではない。得られたMHPは、通常、かなりの量のマグネシウムで汚染されている。沈殿物中にマグネシウムが存在すると、特に高純度コバルト塩、水酸化物、又は金属の生成に関して、下流精錬フローシートに対して有害な影響がある。
【0009】
ほとんどの場合、重要な純度要件は、世界規模のコバルト生産を吸収する量が増加しつつある電池産業によって決定される。これらの純度要件故に、例えば選択的な沈殿、溶媒抽出、及びイオン交換を伴う複雑な処理経路が開発されてきた。これらの経路の大部分は、マグネシウムの干渉に対処する必要がある場合に、より複雑かつ高価になる。
【0010】
しかしながら、マグネシアを精錬工程に先行して分離するいくつかの方法が知られている。このアプローチは、コバルト精錬中のマグネシウムの干渉を回避する。
【0011】
米国特許出願公開第2009249921(A1)号は、シリカ/石灰又はシリカ/アルミナに基づくスラグ組成物を使用して、コバルト-ニッケル化合物中のマグネシアのスラッギングについて教示している。この方法は、直接還元としても知られる金属の固相還元に限定される。その後の溶融操作は、スラグから合金を分離する目的で任意選択的に実施される。
【0012】
国際公開第2009100495号は、ニッケル産出物中に存在する汚染物質に対する高い溶解度を有するように、スラグの化学的性質を制御することによって溶融ニッケルを製造する、ニッケル産出物のための浴製錬方法について教示している。汚染物質は、元素形態及び化合物として、マグネシウム、カルシウム、コバルト、銅、マンガン、ケイ素、イオウ、リン、及びアルミニウムと定義される。
【0013】
本発明による方法はまた、マグネシアの先行分離を実現する。しかし、従来技術とは対照的に、本発明は、スラグにマグネシアを収集しながら、溶融金属相中でのコバルト及び存在する場合はニッケルの同時資源化を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、1%を超えるCo、Co及びNiの合計が15%超、及び1%を超えるMgを酸化形態で含有する金属保持物質からの金属の回収方法が開発され、この方法は、
金属保持物質を、スラグ生成剤とともに浴炉内で製錬し、それによって、還元製錬条件を適用することにより、及び0.25<SiO/Al<2.5、0.5<SiO/CaO<2.5、及びMgO>10%の割合に従う最終的なスラグ組成物を得るような量で、スラグ生成剤としてCaO、SiO、及びAlを選択することにより、80%超、好ましくは90%超のCo、及び1%未満のMgを有する合金相、並びにスラグ相を生成する工程と、
スラグ相から合金相を分離する工程と、を含む。
【0015】
全ての百分率は、120℃で乾燥した後の重量基準で表される。
【0016】
「酸化形態の金属保持物質」とは、その中の金属が0よりも高い酸化状態にあることを意味する。
【0017】
製錬方法中、Co及びNiは、合金中に収集され、例えば、沈降後に選択的にタップすることによって、これらの相が分離された後に、Mgは、MgOとしてスラグ中に濃縮される。
【0018】
当業者は、必要な還元製錬条件を得る方法、すなわち、天然ガス、油、及び石炭などが挙げられるがこれらに限定されない、十分な量の還元剤を添加することを知っている。Siが合金への従属を開始する高還元条件は、合金中のSiの存在がCo精製方法を複雑にする場合があるため、有利ではない。
【0019】
Coの最低濃度が1%であると、回収プロセスの経済的な価値を確実にするために好ましい。Co含有量がこれより低いと、それらの物質からCoを回収及び精錬する経済的な動機が不十分であるため、Co-Mg干渉の問題の関連性が低くなるであろう。
【0020】
Co及びNiの合計の最低濃度が15%であると、製錬操作中に十分な量の合金を生成して、金属保持物質を容易に選択的にタッピングすることを可能にするため好ましい。典型的なMHPは、このレベルの金属を含有する。
【0021】
この方法は、合金に対するCo収率が、特にCo含有量が比較的低い物質に対処する場合、80%超であり、又は特にCo含有量が高い物質に対処する場合、90%超であることによって特徴付けられる。上記の還元条件により、Siの望ましくない還元を誘発することなくそのような収率を達成することができる。そのような条件下では、1%未満のMgが合金に従属する。したがって、99%超のMgがスラグに従属するため、Mgは本質的に合金中に含まれない。
【0022】
冶金を炉に投入して供給するために使用される技術によっては、物質のごく一部の画分が、炉を出るオフガスと一緒に直接運ばれる場合がある。この画分は、存在する場合、溶融浴に決して到達せず、製錬工程を効率的に飛び越す。したがって、この画分は、Mg及びCoの収率を検討する場合には考慮されない。
【0023】
提案されたAl-SiO-CaO-MgOの4元系は、比較的低い粘度を有するスラグを得るように選択される。スラグ組成物が、その粘度が1500cP未満であるように選択される場合、断片化された物質は、容易に湿潤され、スラグに組み込まれるので、次いで浴に直接供給することができる。その場合、結合剤を添加してアグロメレートを形成するような投入前処理工程は不要になる。
【0024】
提案される4元スラグ系を使用する場合、スラグ中のMgO濃度は10%超に到達することができる。スラグ中のMgO濃度が高いほど、所定量のMgOを溶解するために必要なスラグの量が少なくなる。したがって、スラグ中の金属損失がより低くなる。
【0025】
更により好ましいスラグ組成物は、35%未満のCaOを含有するものであり、なぜなら、これにより、スラグ中のMgO溶解の速度が改善されるからである。
【0026】
更なる実施形態では、金属保持物質はMHPを含む。その中でも最も価値のある有価金属はCo及びNiである。他の元素が存在するが、不純物とみなされる。
【0027】
更なる実施形態では、製錬工程は、MHPから出発する完全なCo資源化方法のうちの唯一の製錬工程である。
【0028】
資源化方法を単一の製錬工程に限定することは、経済的な理由から望ましい。製錬工程とは、高温で実施されるか焼、焙焼、製錬、及び精錬などの、乾式冶金方法を意味する。この文脈において、高温は、液体水の存在を排除する温度である。完全なCo資源化方法とは、MHPから開始し、その意図された使用に適合する純度を有するCo化合物で終了する方法を意味する。
【0029】
更なる実施形態では、この方法は、合金相の顆粒化又は微粒化の工程を更に含む。
【0030】
顆粒化、好ましくは微粒化は、湿式冶金ユニット操作を使用して精錬工程を実施する際に典型的に必要とされるであろう浸出工程の速度を向上させるのに実際に有用である。
【0031】
更なる実施形態では、金属保持物質は、
Co保持鉱石又は濃縮物を浸出反応器に供給する工程と、
酸性条件で鉱石又は濃縮物を浸出させ、それによってCo保持母液を得る工程と、
MgOを使用することによって母液からCoを沈殿させることにより、1%を超えるCo及び1%を超えるMgを酸化形態で含有する金属保持物質を得る工程と、を含む方法により得られる。
【0032】
MHPからのMgOの分離方法は、実際に、このようなMgOに汚染されたMHPをもたらす先行方法と最も好適に組み合わされる。
【0033】
更なる実施形態では、この方法は、
酸性条件で顆粒化又は微粒化された合金相を浸出させ、それによってCo保持浸出溶液を得る工程と、
溶液から不純物を抽出又は除去することによって浸出溶液を精製することにより、精製溶液を得る工程と、
精製溶液からCoを回収する工程と、を更に含む。
【0034】
本方法は、合金を顆粒化又は微粒化する工程を含む場合、含有されたコバルトを湿式冶金技術を使用して更に資源化するのに最も好適である。実際に、Mgが存在しないおかげで、Co保持溶液から抽出するか又は別の方法で除去しなければならない不純物が少なくなる。これは、Mgが溶液中に存在する状況とは対照的であり、なぜなら、その場合、唯一の実質的な精製スキームが、溶液からのコバルトの選択的抽出を含むからであり、それはより複雑で高価な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[実施例]
混合水酸化物沈殿物(MHP)は、典型的には、50%以上の自由水分を含有する。このような物質を製錬炉に供給する前には、部分乾燥が必要である。したがって、最初にMHPを約20%の含水量まで乾燥する。乾燥させて水分レベルを約20%よりも低下させることは、物質が粉末状になりすぎて安全な取り扱いができなくなるので推奨されない。
【0036】
出発物質として使用したMHPの組成を表1に示す。120℃で乾燥させた物質に関する組成を表す。
【0037】
【表1】
【0038】
1000gのMHP、360gのコークス、400gのフェロスラグ、及び100gのAlからなる混合物を融剤として調製する。アグロメレーション又は結合剤の使用などの前処理は行わない。フェロスラグは、製鉄方法の高炉において製造される一般的に入手可能な種類のものである。
【0039】
混合物を、体積1Lの窒化ホウ素被覆アルミナるつぼ内で溶融する。誘導炉を使用して1500℃の温度を維持する。溶融したら、るつぼに100gのMHPを4段階で添加する。
【0040】
全ての物質を添加したら、130L/時のCOと6L/時の混合物を浴内に1時間吹き込むことによって酸素分圧を一定にする。これにより、適切な平衡酸化還元電位(pO)が確立される。当業者は、天然ガス、油、及び石炭などの他の一般的に入手可能な還元剤を使用して、工業規模で同じ酸化還元電位を容易に達成するであろう。
【0041】
この後、溶融物を15分間デカントする。スラグの良好な流動性により、効率的なデカンテーションが可能となる。すなわち、スラグ中に浮遊する残留合金液滴がない。冷却後、合金-スラグ相分離を手動で行った後、両方の相を分析する。
【0042】
詳細な物質バランスを表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
スラグは、SiO/Al比が0.7、及びSiO/CaO比が1.2である。それぞれの11%及び15%のMg及びCa濃度は、18.2%のMgO及び21.1%のCaOに対応する。
【0045】
合金に対するCoの収率は98.8%であり、スラグに対するMgの収率は100%である。Mgを含まない合金をこうして得る。