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特許7359866充電式リチウムイオン電池用の正極材料の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の正極材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20231003BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231003BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021563334
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2020061430
(87)【国際公開番号】W WO2020216888
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】19171244.7
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ランディ・デ・パルマ
(72)【発明者】
【氏名】カスペル・ランブライ
(72)【発明者】
【氏名】テ-ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘジョン・ヤン
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-023015(JP,A)
【文献】特表2008-544468(JP,A)
【文献】特開2016-139569(JP,A)
【文献】特開2017-182927(JP,A)
【文献】特表2018-529195(JP,A)
【文献】特開2002-187722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用の正極材料を調製する方法であって、
-ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物pMを、少なくとも650℃の焼結温度Tで熱処理に供することにより、熱処理された混合金属化合物Mを得る工程と、
-第1の冷却段階において、前記熱処理された混合金属化合物Mを、700℃と前記焼結温度Tのうち低い方の中間温度Tまで冷却する工程と、
-第2の冷却段階において、前記熱処理された混合金属化合物Mを、前記中間温度Tから550℃まで、2℃/分超、10℃/分未満の平均冷却速度で冷却する工程と、
-最終冷却段階において、前記熱処理された混合金属化合物Mを周囲温度まで冷却することにより、リチウムイオン電池用の正極材料を得る工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記混合金属化合物pMが、750℃~1050℃の焼結温度Tまで加熱することによって焼結される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の冷却段階が、任意の1分間隔で測定される10℃/分未満の冷却速度で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の冷却段階が、10℃/分未満の瞬間冷却速度で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理が第3の冷却段階を更に含み、前記熱処理された混合金属化合物Mが、550℃~400℃の温度から250℃~100℃の温度まで、少なくとも℃/分の平均冷却速度で冷却される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理された混合金属化合物Mが、前記第3の冷却段階において、少なくとも10℃/分の平均冷却速度で冷却される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の冷却段階において、前記熱処理された混合金属化合物Mが、前記中間温度Tから550℃まで、℃/分以上の平均冷却速度で冷却される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記混合金属化合物Mが、一般式Li1+aM’1-a[式中、-0.03≦a≦0.10であり、M’=NiM”Co(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、及び0≦d≦0.05であり、M”はMn又はAlのいずれか一方又は両方であり、EはM”とは異なるドーパントである)である]を有するリチウム化前駆体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法であって、
-前記リチウム化前駆体を、少なくとも650℃の焼結温度を上回る温度まで加熱して焼結する工程と、
-第1の冷却段階において、前記焼結された前駆体を、700℃と前記焼結温度のうち低い方の中間温度まで冷却する工程と、
-第2の冷却段階において、前記焼結された前駆体を、前記中間温度から550℃まで、2℃/分超及び10℃/分未満の平均冷却速度で冷却する工程と、
-第3の冷却段階において、前記前駆体を、550℃から200℃まで、℃/分超の平均冷却速度で冷却する工程と、
-第4の冷却段階において、前記前駆体を、200℃から周囲温度まで冷却する工程と、を含む、方法。
【請求項9】
前記第2の冷却段階が、任意の1分間隔で測定される10℃/分未満の冷却速度で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の冷却段階が、10℃/分未満の瞬間冷却速度で行われる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の冷却段階が、10℃/分超の平均冷却速度で行われる、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
0.60≦x≦0.95である、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の冷却段階中の任意の時点における冷却速度が、前記第2の冷却段階中の前記平均冷却速度の±10%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を含む、二次リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次リチウムイオン電池用のリチウムニッケルコバルト酸化物系正極化合物(lithium nickel cobalt oxide based positive electrode compounds)を、製造プロセスにおいてより低いコスト及び改善されたエネルギー効率で製造するための方法に関するものである。マンガン及び/又はアルミニウムは任意選択で含まれる。以下、これらの化合物をN(M)Cと呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
N(M)C系正極材料は、概ね、酸化性雰囲気中で、金属水酸化物などの遷移金属含有前駆体と、炭酸リチウムや水酸化リチウムなどのリチウム源の間における固体反応によって調製される。全般的なプロセスは、例えば国際公開第2017/042654(A1)号に開示されているように、ブレンド、熱処理、ミリング、及びスクリーニングを含む。
【0003】
N(M)Cの製造プロセスで主にスループットのボトルネックとなっているのが、熱処理である。これは、加熱、焼結、冷却の各工程で構成されている。遷移金属含有前駆体とリチウム源との混合物は、概ね650℃~1050℃の範囲内の目標の焼結温度までゆっくりと加熱される。焼結プロセス工程の後、概ね、焼結された製品を自然に冷却して、製品の体積全体での熱的均一性を確保する。例えば、欧州特許第3 054 508(A1)号には、実施例1の焼結後において、5時間で750℃から200℃までの自然冷却プロファイルが記載されている。
【0004】
混合物が目標の焼結温度に達した後、その温度で10~20時間留まる。焼結時間は、前駆体の反応が完了し、一次粒子の成長が所望のサイズまで進むのに十分な時間である必要がある。ブレンド、ミリング、スクリーニングの各工程には、それぞれ30分未満が必要である。そのため、熱処理プロセスの総生産時間のうち、冷却工程が大きな割合を占めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電気化学的特性を損なうことなく、より経済的でエネルギー効率が高く、商業的に利用可能なN(M)C正極材料の製造プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項1に記載のカソード活物質を調製するための方法を提供することにより、上述の問題の少なくとも1つの解決策を提供する。有利なことに、本発明では、エネルギー経済的で環境に優しい方法で、カソード活性電池材料を高スループットで製造することができる。
【0007】
発明の説明
複数段階の冷却プロセス
この目的のために、冷却工程を早めることが考えられる。第1の態様では、本発明は、リチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法を提供する。特に、本発明は、リチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法を提供する。該方法は、
-ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む混合金属化合物pMを、少なくとも650℃の温度Tで熱処理に供することにより、熱処理された混合金属化合物Mを得る工程と、
-第1の冷却段階において、当該熱処理された混合金属化合物Mを、700℃と焼結温度Tのうち低い方の中間温度Tまで冷却する工程と、
-第2の冷却段階において、当該熱処理された混合金属化合物Mを、当該中間温度Tから550℃まで、2℃/分超、10℃/分未満の平均冷却速度で冷却する工程と、
-最終冷却段階において、当該熱処理された混合金属化合物Mを周囲温度まで冷却することにより、リチウムイオン電池用の正極材料を得る工程と、を含む。
【0008】
好ましくは、当該混合金属化合物pMは、一般式Li1+aM’1-a[式中、-0.03≦a≦0.25であり、M’=NiM”Co(式中、0.15≦x≦0.95、0.00≦y≦0.80、0.05≦z≦0.40、0.00≦d≦0.10であり、M”は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Eは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg及びVから選択されるドーパントである)である]を有するリチウム化前駆体を含む。好ましくは、当該熱処理は、当該リチウム化前駆体を、少なくとも650℃の焼結温度Tまで加熱することにより、焼結された前駆体を得ることを含む。
【0009】
有利なことに、本発明者らは、熱処理された混合金属化合物M(例えば焼結された前駆体など)を、熱処理の温度から550℃まで、最大でも10℃/分の平均冷却速度で冷却することを条件に、正極電池材料の電気化学的特性に悪影響を及ぼさないことを見出した。高速処理を実現するために、平均冷却速度は少なくとも2℃/分であることが好ましい。また、本発明者らは、熱処理された混合金属化合物M(例えば焼結された前駆体など)が550℃以下の温度を有していれば、本方法で得られる正極活物質の電気化学的特性は、更なる冷却軌跡によって悪影響を受けないことを見出した。つまり、高速処理を実現するために、熱処理された化合物の温度が550℃を下回ると、冷却速度を上げることが好ましいのである。
【0010】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該第2の冷却段階の任意の時点における冷却速度は実質的に一定である。これは、当該冷却速度が当該第2の冷却段階の任意の時点において、当該第2の冷却段階中の当該平均冷却速度の±25%であることを意味する。好ましくは、当該冷却速度は、当該第2の冷却段階の任意の時点において、当該平均冷却速度の±15%、より好ましくは、当該平均冷却速度の±10%、更には±5%である。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該混合金属化合物pMは、700℃~1200℃、好ましくは750℃~1050℃の温度Tで熱処理に供される。好ましくは、当該混合金属化合物pMは、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃、若しくは1000℃の温度T、又はその間の任意の温度で熱処理に供される。好ましくは、当該混合金属化合物は、温度Tで0.1時間~24時間、好ましくは0.25時間~10時間、熱処理に供される。より好ましくは、当該混合金属化合物pMは、1時間~6時間、最も好ましくは1時間~3時間、当該熱処理に供される。好ましくは、当該混合金属化合物pMは、リチウム化前駆体を含む。好ましくは、当該熱処理は、焼結プロセスを含む。
【0012】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、第2の冷却段階は、任意の1分間隔で測定された10℃/分未満の平均冷却速度で行われ、好ましくは2℃/分~10℃/分、より好ましくは2.5℃/分~10℃/分、より好ましくは3.0℃/分~10℃/分、更により好ましくは3.5℃/分~10℃/分、最も好ましくは4℃/分~10℃/分、又は更に5℃/分~10℃/分の平均冷却速度で行われる。
【0013】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、第2の冷却段階は、10℃/分未満の瞬間冷却速度で行われ、好ましくは2℃/分~10℃/分、より好ましくは2.5℃/分~10℃/分、より好ましくは3.0℃/分~10℃/分、更により好ましくは3.5℃/分~10℃/分、最も好ましくは4℃/分~10℃/分の瞬間冷却速度で行われる。
【0014】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該熱処理は第3の冷却段階を更に含み、当該熱処理された混合金属化合物M(例えば焼結された前駆体など)は、550℃~400℃の温度から250℃~100℃の温度まで、少なくとも4℃/分、好ましくは少なくとも10℃/分、より好ましくは20℃/分~120℃/分の平均冷却速度で冷却される。好ましくは、当該熱処理された混合金属化合物M(例えば焼結された前駆体など)は、約550℃から約200℃まで冷却される。
【0015】
より好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該熱処理された混合金属化合物M(例えば焼結された前駆体など)は、当該第3の冷却段階において、当該第2の冷却段階における平均冷却速度以上の平均冷却速度で冷却される。
【0016】
より好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該熱処理された混合金属化合物M(例えば焼結された前駆体など)は、当該第3の冷却段階において、少なくとも10℃/分の平均冷却速度、好ましくは20℃/分~120℃/分の冷却速度で冷却される。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、-0.03≦a≦0.10である。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、0.60≦x≦0.95、好ましくは0.60≦x≦0.92、より好ましくはx=0.65、x=0.70、x=0.75、x=0.80、x=0.85、若しくはx=0.90、又はその間の任意の値である。
【0019】
混合金属化合物pM
一実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該混合金属化合物pMは、粉末などの粒状材料の形態で、又は0.5mm~10.0mm、好ましくは1.0mm~5.0mmの寸法を有するペレットの形態で提供される。
【0020】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該混合金属化合物pMは、レーザー粒径分布測定法で求めたメジアン粒径d50が最大で100μm、好ましくは最大で50μm、より好ましくは0.5μm~25.0μm、最も好ましくは1μm~15μmの粒子状物質で構成されている。本発明の好ましい一実施形態では、当該混合金属化合物pMの平均粒子直径(d50)は、4~14μm、好ましくは7~10μmの範囲である。化合物のメジアン粒径(PD50又はd50)は、レーザー粒径分布測定法によって得られる。本明細書では、レーザーの粒径分布は、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro 2000MU湿式分散体アクセサリを有するMalvern Mastersizer 2000を使用して測定される。水性媒体中の粉末の分散を改良するために、十分な超音波照射(通常、12の超音波変位のために1分)、及び撹拌が適用され、適切な界面活性剤が導入される。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該混合金属化合物pMは、粒子状物質で構成され、0.4g/cmよりも高い見かけの密度、好ましくは0.6g/cmよりも高い密度、好ましくは0.8g/cmよりも高い密度、好ましくは1.0g/cmよりも高い密度、好ましくは1.4g/cmよりも高い密度、更には1.5g/cmよりも高い密度で提供される。好ましくは、当該混合金属化合物pMは粒子状物質で構成され、2.3g/cm未満、好ましくは2.1g/cm未満、更には2.0g/cm未満の密度で提供される。
【0022】
本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該混合金属化合物pMは、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含む。好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、当該混合金属化合物pM中のニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの総含有量に対して、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは60モル%~99モル%の量でNiを含む。最も好ましくは、当該混合金属化合物pMは、60モル%~95モル%、更により好ましくは、80モル%~95モル%、例えば、80モル%、85モル%、90モル%、95モル%、及びその間の全ての値の量でNiを含む。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該混合金属化合物pMは、混合金属水酸化物、炭酸塩、オキシ水酸化物及び/又は酸化物を含み、当該混合金属化合物pMは、好ましくは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg及びVから選択される1種以上の金属を更に含み、より好ましくは、Al、Ti、Zr、W及びMgから選択される。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態では、当該混合金属化合物pMは、Ni、Co及びAlを含む。本発明の別の好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、Ni、Co及びMnを含む。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、一般式(I)によるものであり、明確にするために(複数の)対イオンは省略されている。
NiM”Co (I)
式中、xは0.15~0.95、好ましくは0.30~0.92、より好ましくは0.50~0.90、最も好ましくは0.60~0.85の範囲であり;yは0.00~0.80、好ましくは0.01~0.60、より好ましくは0.05~0.20の範囲であり;zは0.00~0.40、好ましくは0.01~0.30、より好ましくは0.02~0.10の範囲であり、dは0.00~0.10、好ましくは0.001~0.005の範囲であり;M”は、Mn又はAlの一方又は両方であり;そしてEは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Sr、Mg、Na及びV(これらの組み合わせを含む)から選択され、好ましくはBa、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Sr、Mg及びVから選択され;そして、x+y+z+d=1であり、y+z+d≧0.05、好ましくはy+z+d≧0.08、より好ましくはy+z+d≧0.10である。好ましくは、Eは、Al、Mg、W、Ti、Zr及びこれらの組み合わせから選択され、より好ましくは、Eは、Al、Mg、Zr及びこれらの組み合わせから選択される。
【0026】
一般式(I)による混合金属化合物pMの好ましい例は、Ni1/3Co1/3Mn1/3、Ni0.4Co0.2Mn0.4、Ni0.5Co0.2Mn0.3、Ni0.6Co0.2Mn0.2、(Ni0.85Co0.150.98Al0.02、(Ni0.85Co0.150.97Al0.03、(Ni0.85Co0.150.95Al0.05、Ni0.8Co0.1Μn0.1、及び、Ni0.7Co0.2Mn0.1、Ni0.2Co0.1Mn0.7、Ni0.25Co0.15Mn0.6、(Ni0.6Co0.2Mn0.20.997Al0.003、(Ni0.6Co0.2Mn0.20.998AI0.002、(Ni0.7Co0.2Mn0.10.997Al0.003、(Ni0.7Co0.2Mn0.10.998Al0.002、(Ni0.8Co0.1Mn0.10.997Al0.003、(Ni0.8Co0.1Mn0.10.998Al0.002から選択される。
【0027】
当該混合金属化合物pMは、微量の他の金属イオン、例えば、Na、Ca又はZnなどの微量のユビキタス金属を含み得るが、このような微量のものは、本発明の説明では考慮されない。本発明の文脈における「微量」という用語は、当該混合金属化合物pMの総金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を指す。
【0028】
当該混合金属化合物pMは、単結晶生成物であってもよいし、多結晶生成物であってもよい。好ましくは、当該混合金属化合物pMは、多結晶構造を有する。混合金属化合物pMは、好ましくは、複数の凝集した一次粒子によって形成された二次粒子を含む。混合金属化合物pMの二次粒子の粒子形状は、好ましくは回転楕円体であり、すなわち球形を有する粒子である。球状回転楕円体とは、正確な球状のものだけでなく、代表的な試料の少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径が10%以下の差である粒子も含むものとする。
【0029】
本発明の一実施形態では、混合金属化合物pMは、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子として提供される。更により好ましくは、混合金属化合物pMは、球状の一次粒子の凝集体又は小板の凝集体である球状の二次粒子として提供される。
【0030】
本発明の第1の好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、リチウムを含む1つ以上の混合金属化合物(例えば酸化リチウムとして構成される)として、当該支持体上に提供され、一般式Li1+aM’1-a[式中、aは-0.5~0.5、好ましくは-0.2~0.2、より好ましくは-0.1~0.1、最も好ましくは-0.05~0.05であり、M’は上記のような混合金属化合物のカチオン部分である]を有する。
【0031】
本発明の第2の好ましい実施形態では、当該混合金属化合物pMは、混合物MLとして提供され、当該混合物MLは、上述した1つ以上の混合金属化合物pMと、1つ以上のリチウム化合物Lとを含む。
【0032】
好ましくは、当該混合金属化合物pMは、当該熱処理の前に所定量のリチウム化合物Lと混合されて混合物MLを形成し、当該混合物MLの熱処理時に、一般式Li1+aM’1-a[式中、aは-0.5~0.5、好ましくは-0.2~0.2、より好ましくは-0.1~0.1、最も好ましくは-0.05~0.05であり、M’は上述のような混合金属化合物のカチオン部分である]によるカソード活物質が形成される。
【0033】
本発明の一実施形態では、当該混合金属化合物pMは、所望の電極活物質と同じ熱処理された混合金属化合物Mの組成を有する。混合金属化合物MのpMが所望の電極活物質と同じである実施形態では、混合金属化合物pMのM’とリチウム化合物Lのリチウムとのモル比は、所望の化合物の所望の範囲でほぼ選択され、例えば1:(1+a)の範囲で選択される。本発明の別の実施形態では、当該混合金属化合物Mは、混合金属化合物pMと異なる組成を有する。例えば、Mn、Co、Niから選択される2種類以上の遷移金属の比率は、目的の電極活物質と同じであるが、元素Eが不足している。
【0034】
本発明のプロセスにおける熱処理工程の前に、混合金属化合物pMは、好ましくは乾式混合工程で、少なくとも1種のリチウム化合物と混合される。当該リチウム化合物は、好ましくは、LiO、LiOH、及びLiCOから選択され、それぞれそれ自体で、又はその水和物として、例えば、LiOH×HOとして選択される。また、2種類以上のリチウム化合物を組み合わせることも可能である。混合金属化合物pMとリチウム化合物との混合に適した装置の例としては、タンブラーミキサー、プラウシェアミキサー、フリーフォールミキサーなどがある。本発明の方法における熱処理工程の後、粒子状物質は支持体から容易に除去することができ、更なるプロセス工程、例えば、冷却、篩い分け、又は製品の粉砕と篩い分けの組み合わせに供することができる。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の第1の態様による方法を提供し、当該混合物MLは、Zr、Ti、W、及び特にAlの金属酸化物、金属水酸化物、及び金属オキシ水酸化物から選択される化合物を更に含む。
【0036】
4段階の冷却プロセス
代替的又は更なる態様において、本発明は、リチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法を提供する。該方法は、一般式Li1+aM’1-a[式中、-0.03≦a≦0.10であり、M’=NiM”Co(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、0≦d≦0.05であり、M”はMn又はAlのいずれか一方又は両方であり、EはM”とは異なるドーパントである)である]を有するリチウム化前駆体から出発し、
-前駆体を、少なくとも650℃の焼結温度を上回る温度まで加熱して焼結する工程と、
-第1の冷却段階において、焼結された前駆体を、700℃と焼結温度のうち低い方の中間温度まで冷却する工程と、
-第2の冷却段階において、焼結された前駆体を、中間温度から550℃まで、2℃/分超、好ましくは5℃/分超、及び10℃/分未満の平均冷却速度で冷却する工程と、
-第3の冷却段階において、前駆体を、550℃から200℃まで、5℃/分超、好ましくは10℃/分超の平均冷却速度で冷却する工程と、
-第4の冷却段階において、前駆体を、200℃から周囲温度まで冷却する工程と、を含む。
【0037】
上述の方法は、冷却軌跡の間に1つ以上の追加段階を更に含み得る。「段階」という用語は、「工程」、「フェーズ」、又は「サイクル」という用語の同義語と見なされる。冷却段階中の平均冷却速度は、その段階の温度差及び時間差の比として理解する必要がある。
【0038】
典型的な場合では、焼結温度は700℃をはるかに上回り、第1の冷却段階は焼結温度から700℃までと定義される。しかし、特定の材料組成では、650~700℃の焼結温度が適切な場合もある。第1の冷却段階は、焼結温度で開始及び停止するという点で容易である。
【0039】
製品の良好な電気化学的性質を確保するためには、第2の冷却段階での平均冷却速度を10℃/分未満に制限することが不可欠であることがわかっている。更に、冷却速度を一定に保つことにより、一時的により高い冷却速度へ移行することが避けられるため有利である。そのため、任意の1分間隔で測定した場合、冷却速度を10℃/分未満に維持することが好ましい。10℃/分未満の瞬間冷却速度を維持することが更により好ましい。これにより、優れた電気化学的性質が保証される。
【0040】
瞬間冷却速度は、任意の短い時間間隔で測定されたときの冷却速度として理解する必要がある。
【0041】
第1の冷却段階は、有利には、5℃/分超、好ましくは10℃/分超の平均速度で実施される。これにより、総熱処理時間を最小限に抑えることができる。
【0042】
第3の冷却段階は、急速に行うのが有利で、これも総熱処理時間を最小限に抑えるのに役立つ。550℃に達した時点で化学的及び物理的に凍結したと考えられるため、急冷しても製品は劣化しない。
【0043】
最終冷却段階は、任意の冷却速度で行うことができる。高い速度が有用であり得るが、200℃に冷却された製品は、特別な装置や材料を使わずに、必要な方法で簡単に取り扱うことができる。そのため、製品を室温まで急速に冷却する必要はない。
【0044】
中間温度から200℃までの総冷却時間が110分未満であれば、高い製品スループットの目標に合致すると十分に考えられる。焼結温度から200℃までの総冷却時間は110分未満が好ましい。
【0045】
以下の詳細な説明では、本発明の実施を可能にするために、実施形態を詳細に説明している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態に関して記載するが、本発明はこれらの好ましい実施形態を限定するものと理解するべきではない。それとは対照的に、本発明は、以下の発明を実施するための形態及び添付図面を考慮することから明らかになるように、多数の代替物、変形物、及び均等物を含む。
【0046】
本発明は、N(M)C系正極材料を調製するための方法を対象とし、該N(M)C系正極材料は、一般式Li1+aM’1-a[式中、-0.03≦a≦0.10であり、M’=NiM”Co(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、及び0≦d≦0.05であり、M”はMn又はAlのいずれか一方又は両方であり、EはM”とは異なるドーパントである)である]を有する。
【0047】
N(M)C系正極材料は、単一加熱プロセス、例えば国際公開第2017/042654(A1)号に開示されているような二重加熱プロセス、更には三重加熱プロセスを含む様々な固体反応によって調製することができる。三重加熱プロセスとは、3つの加熱段階を含むプロセスを意味する。本発明による方法は、最後の加熱段階の後に適用することが望ましい。
【0048】
例えば、二重加熱プロセスを使用する場合、第1の加熱で得られた化合物は、第2の加熱で少なくとも650℃の温度で再び加熱されるため、第1の加熱の冷却条件は重要ではない。
【0049】
従来のローラーハースキルン(RHK)のような既存の炉の技術では、焼結工程後の焼結された製品の冷却が非常に遅くなる。最新の炉の技術を用いれば、焼結された製品の急速な冷却が可能になる。これはプロセス効率の観点からも魅力的で、滞留時間が短いほど、概ねスループットが高くなるからである。しかし、急冷すると電気化学的性質が低下する可能性があることがわかっている。この問題は、本発明によれば、冷却経路を遅いトラックと速いトラックに分けることで解決される。これにより、良好な電気化学的性質を維持しつつ、滞留時間を最小限に抑えることができる。
【0050】
700℃と焼結温度のうち低い方の温度から550℃までの間の冷却速度(以下「CR2」)が、電気化学的特性を決定する重要なパラメータであることを発見した。
【0051】
以下のようなメカニズムが想定されている。N(M)C製造プロセスの焼結工程では、700℃を上回る高温になると、LiやNiなどの原子が結晶構造の中で活発に部位を変化させる。その結果、Liの経路が遮断され、電池の可逆容量の減少につながる可能性がある。Li部位上のNi(%)は、X線回折分析によって得られたカチオン交換の度合いを示す定量的なパラメータである。概ね、冷却工程中に、Li及びNiの大部分は、それら自体の部位に戻る。しかし、冷却速度が高すぎる場合(10℃/分超など)、動態的に元の部位に戻る可能性があるLiやNiが少なくなってしまう。CR2が10℃/分未満であれば、Li部位上のNiを最小限に抑えることができる。
【0052】
550℃未満の冷却速度では、N(M)C系正極材料の電気化学的特性に影響を与えないことが観察された。そのため、550℃未満の冷却速度を高くすることができる。
【0053】
また、550℃から200℃までの平均冷却速度(以下「CR3」)は、好ましくは5℃/分超、又は更に10℃/分超である必要があり、これは、所望の高スループットを得るのに有効であるからである。このようなCR3は、通常の自然冷却速度である約2℃/分よりもはるかに高いため、総冷却時間を大幅に短縮できる。200℃までの温度は、破砕/ミリングプロセスなどの次のプロセス工程で容易に対処できるため、200℃未満の冷却速度は比較的重要ではない。
【0054】
複数の適切に制御された冷却工程を含むプロセスには、冷却ユニットのより高度な設計が必要である。高温焼結された化合物は、第1の冷却ユニットに移される。このユニットでは、焼結された凝集化合物を550℃まで冷却する。このユニットは、冷気を注入することでローラー速度を上げる第2のRHKとすることができる。その後、焼結された化合物は第2の冷却ユニットに移される。第2の冷却ユニットでは、焼結された凝集化合物を200℃まで冷却する。このユニットは、大量の冷気を注入する第3のRHKにもなる。上記の例は限定的なものではない。水冷壁を備えた回転式の炉は、例えば、第2の冷却ユニットのRHKを交換するために代用され得る。
【0055】
本発明における複数の冷却工程を含むプロセスで得られる最終製品は、一般式Li1+aM’1-a[式中、-0.03≦a≦0.10であり、M’=NiM”Co(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、0≦d≦0.05であり、M”はMn又はAlのいずれか一方又は両方であり、EはM”とは異なるドーパントのいずれか一方又は複数である)である]を有するN(M)C系正極材料である。
【0056】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による方法によって得られた正極活物質を含む二次リチウムイオン電池を提供する。
【0057】
実施例では、以下の2つの評価方法を採用している。
【0058】
1.コインセルの性能
正極の調製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極材料、コンダクタ(Super P、Timcal)、バインダー(KF#9305、Kureha)を、重量比90:5:5の配合で含有するスラリーを、高速ホモジェナイザーによって調製する。均質化したスラリーを、230μmのギャップを有するドクターブレードコータを使用してアルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃において乾燥させて、次にカレンダ工具を使用してプレスする。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔の片との間に配置する。EC/DMC(1:2)中の1M LiPFを電解質として使用し、かつセパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0059】
コインセルの性能は、従来の「一定カットオフ電圧」試験によって測定される。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(東洋製)を用いて、25℃でサイクルする。コインセル試験手順は、160mA/gの1C電流定義を使用する。コインセルを、電圧が4.3Vになるまで0.1Cで充電し、30分後に電圧が3.0Vになるまで0.1Cで放電する。これにより、放電容量DQ1(mAh/g)を決定する。
【0060】
放電容量は最も重要な品質パラメータである。Li1+a(Ni0.60Mn0.20Co0.201-aに準拠した組成物の場合、1.00≦a≦1.05であり、少なくとも176.0mAh/gの放電容量を有するものを良好な製品と定義する。
【0061】
2.X線回折
正極材料のX線回折(XRD)パターンは、1.5418Åの波長で放射されるCu Kα放射線源(40kV、40mA)を使用して、Rigaku X線回折計(Ultima IV)を用いて収集した。機器の構成は、1°のソーラースリット(Soller slit、SS)、10mmの発散高さ制限スリット(divergent height limiting slit、DHLS)、1°の発散スリット(divergence slit、DS)、及び0.3mmの受光スリット(reception slit、RS)に設定する。ゴニオメータの直径は、158mmである。XRDでは、回折パターンは、スキャン速度1°/分及びステップサイズ0.02°/スキャンで5~85°(2θ)の範囲で得る。結晶子サイズは、シェラーの式を使用して、X線回折パターンから得た(104)面のピークの回折角及び半値全幅(full width at half maximum、FWHM)から計算する。
【0062】
【数1】
【0063】
τ:結晶子サイズ(nm)は、結晶粒度以下であり得る、規則的な結晶性ドメインの平均サイズ;
K:シェラー定数、0.9;
λ:X線波長(CuΚα=1.5418Å);
β:FWHM;
θ:XRDピーク位置、2θの1/2。
【0064】
X線回折パターンの(ほぼ)44.5±1°で、空間群R-3mを有する結晶構造に割り当てられた(104)面のピークを観察する。(104)面のピークのFWHMと2θは、Origin 9.1ソフトウェアのローレンツピーク当てはめ関数を用いて求めている。Li上のNi(%)は、TOPAS 4.0ソフトウェアを用いたリートベルト法で得られたものである。
【0065】
結晶子サイズが40~50nmであると同時に、Li上のNiの割合が3.5%未満であれば、合成により一貫して受け入れられる可能性のある製品が得られることになる。
【発明を実施するための形態】
【0066】
[実施例]
本発明を、以下に提供する実施例において更に例示する。
【0067】
実施例EX1-01
正極材料であるEX1-01を、国際公開第18/158078(A)号の製造例3に記載されているような二重焼成法によって調製する。この方法は以下の工程で構成されている。
1)金属含有前駆体の調製工程:Ni0.60Mn0.20Co0.200.17(OH)1.83の一般式を持つ金属含有前駆体(MBPと呼ぶ)を、混合ニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを用いて、大規模な連続撹拌槽型反応器(CSTR)での共沈プロセスにより調製する。
2)第1のブレンド工程:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、LiCO及びMBPを、Li/M’モル比(M’はNi、Mn、Coである)が0.85となるように均一にブレンドする。
3)第1の焼結工程:第1のブレンド工程で得られた混合物を、800℃の炉で2時間の滞留時間をかけて焼結する。
4)第2のブレンド工程:第1の焼結で得られたリチウム欠乏焼結前駆体を、LiOH・HOとブレンドして、中間生成物のLi化学量論を、最終的な目標組成であるLi1.017(Ni0.60Mn0.20Co0.200.983に修正する。
5)第2の焼結工程:第2のブレンド工程からの混合物を、炉の中で乾燥空気雰囲気下、855℃で10時間焼結する。25℃から855℃までの平均加熱速度は2.5℃/分である。
6)冷却工程:焼結された化合物を200℃まで平均冷却速度2.5℃/分で自然冷却する。
7)後処理工程:冷却工程の後、冷却された焼結化合物を粉砕、分級、篩い分けして、非凝集NMC粉末を得る。
【0068】
実施例EX1-02
正極材料であるEX1-02を、国際公開第18/158078(A)号の製造例3に記載されているような二重焼成法によって調製する。この方法は以下の工程で構成されている。
1)第1のブレンド工程:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、LiCO及びMBPを、Li/M’モル比(M’はNi、Mn、Coである)が0.725となるように均一にブレンドする。
2)第1の焼結工程:第1のブレンド工程で得られた混合物を、700℃の炉で2時間の滞留時間をかけて焼結する。
3)第2のブレンド工程:第1の焼結で得られたリチウム欠乏焼結前駆体を、LiOH・HOとブレンドし、中間生成物のLi化学量論をLi1.017(Ni0.60Mn0.20Co0.200.983の最終的な目標組成に修正する。
4)第2の焼結工程:アルミナるつぼ内の第2のブレンド工程で得られた混合物を、チャンバ炉内の乾燥空気雰囲気下、910℃で1時間焼結する。25℃から910℃までの平均加熱速度は2.5℃/分である。
5)冷却工程:アルミナるつぼを温度が700℃である第2のチャンバ炉に輸送し、焼結された化合物を910℃から700℃まで急冷する。その後、この化合物を、第2のチャンバ炉で700℃から550℃まで平均冷却速度4.4℃/分で自然冷却する。第2のチャンバ炉の温度が550℃に達した時点で、アルミナるつぼ内の化合物を銅製の金属ブロックに流し込み、急冷工程として別の銅製の金属ブロックに化合物を押し付ける。550℃から室温までの平均冷却速度は約70℃/分である。
6)後処理工程:冷却された焼結化合物を粉砕、分級、篩い分けすることで、非凝集NMC粉末を得る。
【0069】
実施例2及び比較例2
Li1.005(Ni0.60Mn0.20Co0.200.995、EX2-01、EX2-02、CEX2-01、CEX2-02、CEX2-03の式を持つ正極材料は、単一の焼成法で調製される。この方法は以下の工程で構成されている。
1)ブレンド工程:LiCO及びとMBPを、Li/M’モル比(M’はNi、Mn、Coである)が1.01となるように均一にブレンドする。
2)焼結工程:アルミナるつぼ内のブレンド工程から得られた混合物を、炉内の乾燥空気雰囲気下、860℃で10時間焼結する。25℃から860℃までの平均加熱速度は2.5℃/分である。
3)冷却工程:焼結された凝集化合物を、860℃から表2に示す温度Xまで自然冷却する。860℃からXまでの平均冷却速度は4.4℃/分である。温度がXに達した時点で、アルミナるつぼ内の化合物を銅製の金属ブロックに注ぎ、急冷工程として別の銅製の金属ブロックに化合物を押し付ける。
4)後処理工程:冷却された焼結化合物を粉砕、分級、篩い分けして、非凝集NMCの粉末を得る。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に、実施例1-01及び実施例1-02に従って調製した試料の冷却条件及び評価を示す。CR2は700℃から550℃までの平均冷却速度であり、CR3は550℃から200℃までの平均冷却速度である。EX1-02のプロセスでは、CR2が比較的速く、CR3が非常に速いため、総冷却時間が大幅に短縮されている。EX1-02はLi上にNiが比較的多いにもかかわらず、EX1-02の放電容量は、EX1-01と同等である。したがって、電気化学的性能を損なうことなく、冷却時間を短縮できることが証明された。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に、比較例2及び実施例2で調製した試料の冷却条件と評価を示す。CR2は700℃から550℃までの平均冷却速度であり、CR3は550℃から200℃までの平均冷却速度である。
【0074】
実施例EX-01及びEX2-02では、良好な製品が得られた。しかし、総冷却時間は、それぞれ262分及び285分となり、あまり好ましくない。これは、適用した冷却速度が低すぎたためである。
【0075】
CEX2-01、CEX2-02及びCEX2-03は、700~550℃の臨界領域で急速に冷却されるため、製品の品質が低下してしまう。より具体的には、CEX2-01及びCEX2-02は、それぞれ850℃及び750℃から200℃まで、それぞれ130℃/分及び110℃/分の速度で冷却され、CEX2-03は、650℃から200℃まで、90℃/分の速度で冷却される。
【0076】
実施例EX1-02及びEX2-01も本発明による。より具体的には、EX1-02は900℃の焼結温度から700℃まで急冷し、次いで、700~550℃の臨界領域で4.4℃/分の適切な速度で冷却し、EX2-01は860℃の焼結温度から550℃まで4.4℃/分の速度で冷却することで、700~550℃の臨界領域でも適切な速度も確保する。