(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】改善された電極接着力及び抵抗特性を有するリチウム二次電池用分離膜及び該分離膜を含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20231003BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20231003BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/443 M
H01M50/426
H01M50/417
H01M50/446
H01M50/434
H01M50/46
(21)【出願番号】P 2022504277
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 KR2020010508
(87)【国際公開番号】W WO2021029629
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0099817
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ボン-テ・キム
(72)【発明者】
【氏名】キル-アン・ジュン
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1430975(KR,B1)
【文献】特開2016-033913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409-50/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性高分子基材と、前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に位置し、無機物粒子及びバインダー高分子を含む多孔性コーティング層と、を備え、前記バインダー高分子がPVdF系バインダー高分子を含み、X線回折(XRD)分析において、前記PVdF系バインダー高分子は、2θが18.2±0.2゜の位置で第1ピークを有し、2θが19.8±0.2゜の位置で第2ピークを有し、前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)が1.25以上2.75未満であり、
前記PVdF系バインダー高分子が、第1のPVdF系バインダー高分子及び第2のPVdF系バインダー高分子を含む、リチウム二次電池用分離膜。
【請求項2】
第2のPVdF系バインダー高分子が、前記多孔性コーティング層に含まれたバインダー高分子の総量を基準にして5重量%~50重量%の量で含まれる、請求項
1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項3】
第2のPVdF系バインダー高分子が、前記多孔性コーティング層に含まれたバインダー高分子の総量を基準にして12~35重量%の量で含まれる、請求項
1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項4】
第1のPVdF系バインダー高分子が、PVdF-HFP(ポリ(ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン))である、請求項
1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項5】
第2のPVdF系バインダー高分子が、PVdF-TFE(ポリ(ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン))、PVdF-TrFE(ポリ(ビニリデンフルオライド-トリフルオロエチレン))またはこれらの混合物である、請求項
1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項6】
前記PVdF-TFE又はPVdF-TrFEのそれぞれにおけるTFE又はTrFEの置換率が5~50mol%である、請求項
5に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項7】
前記PVdF-TFE又はPVdF-TrFEのそれぞれにおけるTFE又はTrFEの置換率が10~30mol%である、請求項
5に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項8】
前記多孔性コーティング層が、隣接した無機物粒子同士が実質的に接触して限定される空間である無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームを含み、前記無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームが空き空間になって多孔性コーティング層の気孔を形成する、請求項1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項9】
正極、負極、及び正極と負極との間に介在された分離膜を含むリチウム二次電池において、前記分離膜が請求項1から
8のうちいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜であるリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された電極接着力及び抵抗特性を有するリチウム二次電池用分離膜及び該分離膜を含むリチウム二次電池に関する。
【0002】
本出願は、2019年8月14日付け出願の韓国特許出願第10-2019-0099817号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池は、正極/負極/分離膜/電解液を基本にして構成され、化学エネルギーと電気エネルギーとが可逆的に変換しながら充放電可能な、エネルギー密度の高いエネルギー貯蔵体であり、携帯電話、ノートパソコンなどの小型電子装置に幅広く使用される。近年、環境問題、高い石油価格、エネルギー効率及び貯蔵のための対応として、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicles、HEV)、プラグイン電気自動車(plug-in EV)、電気自転車(e-bike)及びエネルギー貯蔵システム(Energy Storage System、ESS)への応用が急速に拡がっている。
【0004】
このようなリチウム二次電池の製造及び使用において安全性の確保は重要な解決課題である。特に、リチウム二次電池で通常使用される分離膜(separator)は、その材料的特性及び製造工程上の特性によって、高温などの状況で甚だしい熱収縮挙動を見せて内部短絡などの安定性問題を抱えている。近年、リチウム二次電池の安全性を確保するため、無機物粒子とバインダー高分子との混合物を多孔性高分子基材にコーティングして多孔性無機コーティング層を形成した有機-無機複合多孔性分離膜が提案されている。しかし、電極と分離膜とを積層して電極組立体を形成した場合、層間接着力が十分ではないため電極と分離膜とが分離されるおそれがあり、この場合、分離過程で脱離する無機物粒子が素子内で局所的な欠陥として作用し得るという問題がある。
【0005】
このような問題を解消しようとして、分離膜コーティング層に接着力を付与するため、PVdF系ポリマー、例えば、ポリ(ビニリデンフルオライド-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVdF-HFP))、ポリ(ビニリデンフルオライド-co-クロロトリフルオロエチレン)(PVdF-CTFE)を加湿相分離する方法で、分離膜の表面側へのバインダー高分子のマイグレーションを誘導して接着層を形成する方法が用いられている。
【0006】
前記PVdF系ポリマーが分離膜コーティング層に使用される場合、前記PVdF系ポリマーの接着力と抵抗特性とはトレードオフ(trade-off)関係を有すると知られている。すなわち、優れた接着力を有するPVdF系ポリマーは抵抗の面では不利であり、抵抗の面で有利なPVdF系ポリマーは接着力の面で不利であることが確認された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、無機物粒子を含む多孔性コーティング層を備えたリチウム二次電池用分離膜において、電極に対する接着力及び抵抗特性が両方とも当業界で要求される水準を満足できるほどに向上したリチウム二次電池用分離膜を提供することを目的とする。
【0008】
一方、本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解できるであろう。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示される手段、方法またはその組合せによって実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1具現例によれば、多孔性高分子基材と、前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に位置し、無機物粒子及びバインダー高分子を含む多孔性コーティング層と、を備え、前記バインダー高分子がPVdF系バインダー高分子を含み、X線回折(XRD)分析において、前記PVdF系バインダー高分子は2θが18.2±0.2゜の位置で第1ピークを有し、2θが19.8±0.2゜の位置で第2ピークを有し、前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)が1.25以上2.75未満であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0010】
本発明の第2具現例によれば、第1具現例において、前記PVdF系バインダー高分子が第1のPVdF系バインダー高分子及び第2のPVdF系バインダー高分子を含むことを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0011】
本発明の第3具現例によれば、第2具現例において、前記第2のPVdF系バインダー高分子が前記多孔性コーティング層に含まれたバインダー高分子の総量を基準にして5重量%~50重量%の量で含まれたことを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0012】
本発明の第4具現例によれば、第2具現例または第3具現例において、前記第2のPVdF系バインダー高分子が前記多孔性コーティング層に含まれたバインダー高分子の総量を基準にして12重量%~35重量%の量で含まれたことを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0013】
本発明の第5具現例によれば、第2具現例~第4具現例のうちいずれか一具現例において、前記第1のPVdF系バインダー高分子がPVdF-HFPであることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0014】
本発明の第6具現例によれば、第2具現例~第5具現例のうちいずれか一具現例において、第2のPVdF系バインダー高分子がPVdF-TFE、PVdF-TrFEまたはこれらの混合物であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0015】
本発明の第7具現例によれば、第6具現例において、前記PVdF-TFE又はPVdF-TrFEのそれぞれにおけるTFE又はTrFEの置換率が5~50mol%であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0016】
本発明の第8具現例によれば、第6具現例または第7具現例において、前記PVdF-TFE又はPVdF-TrFEのそれぞれにおけるTFE又はTrFEの置換率が10~30mol%であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0017】
本発明の第9具現例によれば、第1具現例~第8具現例のうちいずれか一具現例において、前記多孔性コーティング層は隣接した無機物粒子同士が実質的に接触して限定される空間である無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)を含むことを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0018】
本発明の第10具現例によれば、正極、負極、及び正極と負極との間に介在された分離膜を含むリチウム二次電池において、前記分離膜が第1具現例~第9具現例のうちいずれか一具現例によるリチウム二次電池用分離膜であるリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるリチウム二次電池用分離膜は、分離膜の表面に微細且つ均一な気孔が形成されて電極に対する接着表面積が増加し、その結果、電極接着力が改善される。
【0020】
また、本発明によるリチウム二次電池用分離膜は、分離膜の表面に形成された微細且つ均一な気孔によってイオン伝導経路が形成されるため低い界面抵抗を有し、出力及び寿命特性を改善することができる。
【0021】
結果的に、本発明によれば、電極接着力及び界面抵抗が両方とも改善されたリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0022】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の原理を説明をするものであるため、本発明の範囲が図面に記載された事項に限定されることはない。一方、本明細書に添付される図面における要素の形状、大きさ、縮尺または比率などはより明確な説明を強調するため誇張されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例及び比較例で使用された第1のPVdF系バインダー高分子のWAXS(Wide-angle X-ray scattering)パターンである。
【
図2】実施例及び比較例で使用された第2のPVdF系バインダー高分子のWAXSパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施形態に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0025】
本発明によれば、多孔性高分子基材と、前記多孔性高分子基材の少なくとも一面上に位置し、無機物粒子及びバインダー高分子を含む多孔性コーティング層と、を備え、前記バインダー高分子がPVdF系バインダー高分子を含み、X線回折(XRD)分析において、前記PVdF系バインダー高分子は2θが18.2±0.2゜の位置で第1ピークを有し、2θが19.8±0.2゜の位置で第2ピークを有し、前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)が1.25以上2.75未満であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。ここで、第1ピークはPVdF系バインダー高分子のα相結晶に対する回折ピークであり、第2ピークはPVdF系バインダー高分子のβ相結晶に対する回折ピークである。
【0026】
以下、本発明を構成要素毎に詳しく説明する。
【0027】
1.多孔性高分子基材
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記多孔性高分子基材は、負極と正極とを電気的に絶縁させて短絡を防止しながら、リチウムイオンの移動経路を提供できるものであって、通常リチウム二次電池用分離膜素材として使用できるものであれば特に制限なく使用可能である。このような多孔性高分子基材としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレートのような高分子樹脂のうち少なくともいずれか一つから形成された多孔性高分子基材などが挙げられるが、特にこれらに限定されることはない。
【0028】
また、前記多孔性高分子基材としては、高分子樹脂を溶融して成膜したシート状のフィルムを使用することができる。望ましくは、前記多孔性高分子基材は、前記高分子樹脂を溶融して成膜したシート状のフィルムである多孔性高分子基材である。
【0029】
具体的には、前記多孔性高分子基材は下記のうちいずれか一つであり得る。
a)高分子樹脂を溶融/押出して成膜した多孔性フィルム、
b)前記a)の多孔性フィルムが2層以上積層された多層膜、
c)前記a)とb)をともに含む多層構造の多孔性複合膜。
【0030】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性高分子基材の厚さは5~50μmの範囲内で適切に選択され得る。多孔性高分子基材の厚さが特に上記の範囲に限定されることはないが、厚さが上記の下限よりも薄過ぎる場合は、機械的物性が低下して電池使用中に分離膜が損傷され易い。一方、多孔性高分子基材に存在する気孔の大きさ及び気孔度も特に制限されないが、それぞれ0.01~50μm及び10~95%であり得る。
【0031】
2.多孔性コーティング層
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性高分子基材の一面または両面に多孔性コーティング層が層状で形成される。前記多孔性コーティング層は、複数の無機物粒子とバインダー高分子との混合物を含み、前記無機物粒子がバインダー高分子を介して集積されて層状で形成され得る。前記多孔性コーティング層のバインダーは、無機物粒子同士が互いに結着した状態を維持できるようにこれらを互いに付着(すなわち、バインダーが無機物粒子同士の間を連結及び固定)でき、また、前記バインダーによって無機物粒子と多孔性高分子基材とが結着した状態を維持することができる。前記多孔性コーティング層の無機物粒子は実質的に互いに接触した状態でインタースティシャル・ボリュームを形成することができ、このとき、インタースティシャル・ボリュームは無機物粒子による充填構造(closely packed or densely packed)で実質的に接触する無機物粒子同士によって限定される空間を意味する。前記無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームは空き空間になって多孔性コーティング層の気孔を形成することができる。
【0032】
多孔性高分子基材の表面が、上述したように無機物粒子を含む多孔性コーティング層でコーティングされることで、耐熱性及び機械的物性がさらに向上することができる。すなわち、前記無機物粒子は、一般に、200℃以上の高温になっても物理的特性が変わらない特性を有するため、形成された多孔性コーティング層によってリチウム二次電池用分離膜が優れた耐熱性を有するようになる。
【0033】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性コーティング層は、1μm~50μm、2μm~30μmまたは2μm~20μmの厚さを有する。
【0034】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性コーティング層における前記無機物粒子とバインダー高分子との含量比は最終的に製造される本発明の多孔性コーティング層の厚さ、気孔の大きさ及び気孔度を考慮して決定するが、重量比を基準にして無機物粒子が50~99.9重量%または60~99.5重量%、バインダー高分子が0.1~50重量%または0.5~40重量%である。無機物粒子の含量が50重量%未満であれば、バインダー高分子の含量が多過ぎて無機物粒子同士の間に形成される空き空間が減少し、それによって気孔の大きさ及び気孔度が減少して最終的な電池の性能低下が引き起こされる問題がある。また、無機物粒子の含量が99.9重量%を超えれば、バインダー高分子の含量が少な過ぎて無機物粒子同士の間の接着力が弱化し、最終的な多孔性コーティング層の機械的物性が低下する問題がある。前記無機物粒子の含量が上記の範囲であれば、これら問題を防止することができる。
【0035】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性コーティング層の無機物粒子の大きさは制限されないが、均一な厚さのコーティング層形成及び適切な孔隙率のため、0.001~10μm、0.01~10μm、0.05~5μmまたは0.1~2μmの範囲であり得る。前記無機物粒子の大きさがこのような範囲を満たす場合、分散性が維持されてリチウム二次電池用分離膜の物性を調節し易く、多孔性コーティング層の厚さが増加する現象を回避できて機械的物性が改善でき、また、大き過ぎる気孔によって電池の充放電時に内部短絡が起きる確率が低下する。
【0036】
前記無機物粒子は、電気化学的に安定さえすれば特に制限されない。すなわち、前記無機物粒子は、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li+基準で0~5V)で酸化及び/または還元反応が起きないものであれば、特に制限されない。特に、イオン伝達能力のある無機物粒子を使用する場合、電気化学素子内のイオン伝導度を高めて性能向上を図ることができる。また、無機物粒子として誘電率の高い無機物粒子を使用する場合、液体電解質内の電解質塩、例えばリチウム塩の解離度増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0037】
上述した理由から、前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上または10以上の高誘電率無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子またはこれらの混合体を含むことができる。誘電率定数が5以上の無機物粒子の非制限的な例としては、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT、0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PT)、ハフニア(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO2、Y2O3、Al2O3、γ-AlOOH、SiC、TiO2などをそれぞれ単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、上述した高誘電率無機物粒子とリチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子とを混用する場合、これらの相乗効果は倍加され得る。
【0038】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子の非制限的な例としては、リチウムホスフェート(Li3PO4)、リチウムチタンホスフェート(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LixAlyTiz(PO4)3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14Li2O-9Al2O3-38TiO2-39P2O5などのような(LiAlTiP)xOy系ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、Li3.25Ge0.25P0.75S4などのようなリチウムゲルマニウムチオホスフェート(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、Li3Nなどのようなリチウムナイトライド(LixNy、0<x<4、0<y<2)、Li3PO4-Li2S-SiS2などのようなSiS2系ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)及びLiILi2S-P2S5などのようなP2S5系ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0039】
本発明の具体的な一実施形態によれば、多孔性コーティング層はバインダー高分子としてPVdF系バインダー高分子を含む。
【0040】
また、本発明の具体的な一実施形態によれば、前記PVdF系バインダー高分子は、第1のPVdF系バインダー高分子及び第2のPVdF系バインダー高分子を含む2種以上のPVdF系バインダー高分子である。
【0041】
本発明によれば、前記PVdF系バインダー高分子は、X線回折(XRD)分析において、2θが18.2±0.2゜位置で第1ピークを有し、2θが19.8±0.2゜位置で第2ピークを有し、前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)が1.25以上2.75未満である。このとき、前記第1ピークはPVdF系バインダー高分子のα相結晶に対する回折ピークであり、前記第2ピークはPVdF系バインダー高分子のβ相結晶に対する回折ピークである。
【0042】
前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)が1.25以上であれば、バインダー高分子の電解液吸収が多過ぎてリチウム二次電池用分離膜の抵抗が増加し、電解液の含浸時にリチウム二次電池用分離膜と電極と間の界面接着力が低くなってサイクル特性が劣化する問題を防止することができる。また、前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)が2.75未満であれば、バインダー高分子の結晶が過度に硬くなって、無水状態でリチウム二次電池用分離膜と電極とを積層するとき、バインダー高分子の変形(deformation)が制限されて必要な接着力及び/または製造工程性を確保し難い問題を防止することができる。
【0043】
本発明の多孔性コーティング層で使用されるPVdF系バインダー高分子のβ相結晶の比率は、X線回折(XRD)分析を通じて分析することができる。2θが18.2±0.2゜位置で現れる第1ピークはPVdF系バインダー高分子のα相結晶構造を意味し、2θが19.8±0.2゜位置で現れる第2ピークはPVdF系バインダー高分子のβ相結晶構造を意味するため、前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)がPVdF系バインダー高分子のα相に対するβ相の比率として定義され、上記の比率が1.25以上2.75未満とβ相の比率が高いことが望ましい。
【0044】
前記第1ピークの面積に対する前記第2ピークの面積の比(第2ピークの面積/第1ピークの面積)を測定するため、下記のような方法が用いられる:バインダー高分子を用意した後、Xeuss 2.0 SAXS/WAXSシステムを使用してカプトン(Kapton)テープにサンプルホルダーを取り付ける。2.5゜≦2θ≦52゜の範囲で6.7cmのSDDで120秒間測定し、実験で得られた2Dイメージはフォックストロットプログラム(Foxtrot program)を用いてビームストップ基準で円形に平均化して1Dイメージに変換される。同じコンフィギュレーション(6.7cmのSDD)で同一時間測定されたカプトン散乱強度(Kapton scattering intensity)をバックグラウンドとして使用する。前記1Dイメージで、2θが18.2゜位置を中心にした18.2±0.2゜位置のピークを第1ピークにして、2θが19.8゜位置を中心にした19.8±0.2゜位置のピークを第2ピークにした後、前記第1ピークと第2ピークとを分解してそれぞれのピークの面積を計算し、第2ピークの面積/第1ピークの面積の比を求める。
【0045】
本明細書ではX線回折(XRD)分析において、2θが18.2±0.2゜位置でピークを現してα相結晶の形成がより容易なPVdF系バインダー高分子を第1のPVdF系バインダー高分子と称し、2θが19.8±0.2゜位置でピークを現してβ相結晶の形成がより有利なPVdF系バインダー高分子を第2のPVdF系バインダー高分子と称する。
【0046】
本発明の具体的な一実施形態において、前記PVdF系バインダー高分子は、実質的に第1のPVdF系バインダー高分子及び第2のPVdF系バインダー高分子からなることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0047】
本発明の具体的な一実施形態において、前記PVdF系バインダーは第1のPVdF系バインダー高分子及び第2のPVdF系バインダー高分子からなることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0048】
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記第2のPVdF系バインダー高分子は、第1のPVdF系バインダー高分子と第2のPVdF系バインダー高分子との総重量を基準にして5重量%以上、5~50重量%、12~40重量%または12~35重量%の量で含まれ、第1のPVdF系バインダー高分子が残りのバインダー高分子を構成することができる。第2のPVdF系バインダー高分子の含量が上記の下限値未満であれば、目的とするほどのβ相結晶が形成されず、第2のPVdF系バインダー高分子の含量が上記の上限値よりも多ければ、β相結晶の形成が多過ぎてバインダー高分子の結晶が過度に硬くなり、無水状態でリチウム二次電池用分離膜と電極とを積層するとき、バインダー高分子の変形(deformation)が制限されて必要な接着力及び/または製造工程性を確保し難い問題が生じ得る。
【0049】
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記第2のPVdF系バインダー高分子は、前記多孔性コーティング層に含まれたバインダー高分子の総量を基準にして5重量%以上、5~50重量%、12~40重量%または14~35重量%で含まれる。前記第2のPVdF系バインダー高分子が上記の量で多孔性コーティング層に含まれると、バインダー高分子による吸収(uptake)が低くて電解液の含浸後にも気孔を維持でき、リチウム二次電池用分離膜の抵抗を低いレベルに維持できるという効果を奏し得る。
【0050】
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記多孔性コーティング層に使用されたバインダー高分子は、実質的に第1のPVdF系バインダー高分子及び第2のPVdF系バインダー高分子を含む。
【0051】
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記多孔性コーティング層に使用されたバインダー高分子は、第1のPVdF系バインダー高分子及び第2のPVdF系バインダー高分子を含む。
【0052】
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記第1のPVdF系バインダー高分子はPVdF-HFPである。
【0053】
本発明の具体的な一実施形態によれば、前記第2のPVdF系バインダー高分子がPVdF-TFE、PVdF-TrFEまたはこれらの混合物であることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0054】
特に、PVdF系バインダーにおいて、TFE及びTrFEの置換率が高くなるほどこのようなβ相結晶の含量を高めるのに有利である。例えば、置換率が5~50mol%または10~30mol%である場合、β相結晶の含量を高めるのに有利である。
【0055】
前記第2のPVdF系バインダー高分子は、15~45%または20~30%の範囲の結晶化度を有し得る。前記第2のPVdF系バインダー高分子が、上記の範囲の結晶化度を有する場合、電解液吸収率を制御して抵抗を下げながらも、過度に硬くなって接着力が低下する現象を防止する効果を奏し得る。
【0056】
前記第2のPVdF系バインダー高分子は、110~145℃の範囲の融点を有し得る。前記β相結晶を形成し易いPVdF系バインダーが上記の範囲の融点を有する場合、コーティング層の自己接着力は低いながらも電極との接着力の確保には有利な効果を有し得る。
【0057】
前記第2のPVdF系バインダー高分子は、第1のPVdF系バインダー高分子またはγ相結晶の形成に有利なPVdF系バインダー高分子に比べて、電解液に含浸したとき電解液の吸収(uptake)が低く、電解液の含浸後にも気孔を維持できるため、リチウム二次電池用分離膜の抵抗を低く維持するのに有利である。
【0058】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性コーティング層に分散剤が使用されなくてもよい。
【0059】
本発明の具体的な他の実施形態において、多孔性コーティング層に分散剤がさらに含まれ得る。前記分散剤は、多孔性コーティング層を構成する固形分の含量100重量部を基準にして1重量部~3重量部の含量で含まれて無機物粒子の分散性を改善する機能を発揮する。分散剤の非制限的な例としては、アクリル系共重合体;シアノエチルポリビニルアルコール;バイカリン、ルテオリン、タキシフォリン、ミリセチン、ケルセチン、ルチン、カテキン、エピガロカテキンガレート、ブテイン(butein)、ピセアタンノール、タンニン酸を含むフェノール系化合物;ピロ没食子酸;アミロース;アミロペクチン;キサンタンガム及び脂肪酸系化合物からなる高分子化合物1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0060】
アクリル系共重合体は、OH基、COOH基、CN基、アミン基及びアミド基からなる群より選択される1種または2種以上の作用基を含む共重合体であり得る。
【0061】
このようなアクリル系共重合体の例としては、エチルアクリレート-アクリル酸-N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体、エチルアクリレート-アクリル酸-2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート共重合体、エチルアクリレート-アクリル酸-N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体、エチルアクリレート-アクリル酸-2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート共重合体またはこれらの2以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
多孔性コーティング層の気孔の大きさ及び気孔度は、主に無機物粒子の大きさに依存するが、例えば粒径が1μm以下の無機物粒子を使用する場合、形成される気孔も1μm以下になる。このような気孔構造は以後注液される電解液で満たされ、このように満たされた電解液はイオンを伝達する役割を果たすようになる。したがって、前記気孔の大きさ及び気孔度は、多孔性無機コーティング層のイオン伝導度の調節に重要な影響因子である。
【0063】
本発明の多孔性無機コーティング層の気孔の大きさは、望ましくは0.001~10μmまたは0.001~1μmである。
【0064】
本発明の多孔性無機コーティング層の気孔度(porosity)は、5vol%~95vol%、10vol%~95vol%、20vol%~90vol%または30vol%~80vol%の範囲である。前記気孔度は、前記多孔性無機コーティング層の厚さ、横及び縦で計算した体積から、前記コーティング層の各構成成分の重量と密度で換算した体積を引いた値に該当する。
【0065】
前記多孔性無機コーティング層が上記の範囲の気孔の大きさ及び/または気孔度を有すると、本発明の一実施形態によるリチウム二次電池用分離膜が非正常な状況で短絡することを防止でき、適切な抵抗特性と通気度をともに備えることができる。
【0066】
3.多孔性コーティング層の製造方法
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性コーティング層は、溶媒に上述した無機物粒子及びバインダー高分子を混合して多孔性コーティング層用組成物を用意し、これを多孔性高分子基材上に塗布して乾燥することで形成される。
【0067】
本発明において、前記溶媒は有機溶剤であり、前記無機物粒子及びバインダー高分子を均一に分散できるものであれば特に制限されない。
【0068】
前記有機溶剤としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのケトン類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素など塩素系脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアクリロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられるが、本発明の具体的な一実施形態によれば、前記溶媒は乾燥工程上の利点を考慮してアセトンを含むことができる。
【0069】
これら溶媒は、単独で使用してもよく、これらを2種以上混合した混合溶媒を使用してもよい。これらのうち、沸点が低くて高揮発性の溶媒が短時間で且つ低温で除去できるため、特に望ましい。具体的には、アセトン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、キシレン、N-メチルピロリドン、またはこれらの2以上の混合溶媒であることが望ましい。
【0070】
前記組成物のうち、無機物粒子とバインダー高分子との含有比率は、多孔性コーティング層について上述したような比率にすることが望ましい。
【0071】
前記組成物を多孔性高分子基材上に塗布して多孔性コーティング層を形成する方法には制限がなく、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、ドクターブレードコーティング法、リバースロールコーティング法、ダイレクトロールコーティング法などが挙げられる。
【0072】
多孔性コーティング層を形成するためのコーティング過程は、一定範囲の湿度で実施することが望ましい。組成物をコーティングした後、乾燥過程を経ながら、コーティング層(組成物)に溶解されているバインダー高分子は、当業界で公知の相分離(vapor-induced phase separation)現象によって相転移特性を有するようになる。
【0073】
前記相分離のために非溶媒が気体状態で導入されてもよい。前記非溶媒は、バインダー高分子を溶解させず、溶媒と部分相溶性のあるものであれば特に制限されず、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノールからなる群より選択される一つ以上であり得る。
【0074】
気体状態の非溶媒を導入して添加する場合、少量の非溶媒を用いた相分離が可能であり、無機組成物の乾燥がより容易であるという長所がある。
【0075】
このとき、気体状態の非溶媒を添加する温度は、15℃~70℃の範囲であり得、15℃未満であると、非溶媒が気体状態を維持し難く、無機物組成物の乾燥速度が遅くて生産性が低く、70℃超過であると、溶媒及び非溶媒の乾燥速度が速すぎて相分離が十分に起き難い。
【0076】
また、相分離過程において、非溶媒の蒸気圧が飽和蒸気圧対比15%~80%または30%~50%になるように非溶媒を添加し、相分離させる過程が順次に行われ得る。前記非溶媒の蒸気圧が飽和水蒸気対比15%未満であると、非溶媒の量が少な過ぎて相分離が十分に起き難く、80%超過であると、相分離が過剰に起きて均一なコーティングを得難い。
【0077】
気体状態で非溶媒を添加して相分離を起こすためには、溶媒の沸点が低くて容易に蒸発することが有利である。すなわち、溶媒が蒸発しながら温度を下げれば気体相の非溶媒が凝縮(condensation)しながら溶媒と容易に交換し得る。一具体例において、気体状態の非溶媒を添加する場合、前記溶媒は沸点が30℃~80℃であり得る。また、前記気体状態の非溶媒が添加される無機物組成物の溶媒は、例えば、アセトン及びメチルエチルケトンからなる群より選択される一つ以上であり得る。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、リチウム二次電池用分離膜は、相分離過程でまたは相分離の後に浸漬工程を行わなくてもよく、望ましくは、相分離過程でまたは相分離の後に浸漬工程を行わない。浸漬工程は多孔性コーティング層にインタースティシャル・ボリュームによって形成された気孔を閉塞し得るため、抵抗減少という本発明が目的とする効果に適さない。
【0079】
本発明の一実施形態によれば、リチウム二次電池用分離膜は、相分離後に乾燥することができる。乾燥は当業界で公知の方法を使用でき、使用された溶媒の蒸気圧を考慮した温度範囲でオーブンまたは加熱式チャンバを用いてバッチ式でまたは連続式で行うことができる。前記乾燥は前記組成物内に存在する溶媒を殆ど除去することであり、生産性などを考慮して高速で行われることが望ましく、例えば1分間以下、望ましくは30秒間以下であり得る。
【0080】
前記多孔性コーティング層は、多孔性高分子基材の両面ともにまたは一面のみに選択的に形成され得る。
【0081】
このように製造されたリチウム二次電池用分離膜は、電気化学素子用分離膜としても用いられ得る。前記電気化学素子は、電気化学反応を行うあらゆる素子を含み、具体的には、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはキャパシタなどが挙げられる。特に、前記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0082】
本発明による具体的な一実施形態において、リチウム二次電池は当業界で周知の通常の方法によって製造することができる。本発明による一実施形態によれば、正極と負極との間に上述した分離膜を介在させて電極組立体を用意し、これを電池ケースに収納した後、電解液を注入することで二次電池を製造することができる。
【0083】
本発明の一実施形態において、前記二次電池の電極は、当業界で周知の通常の方法によって電極活物質を電極電流集電体に接着した形態で製造することができる。前記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の正極に使用される通常の正極活物質を使用でき、特にリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物またはこれらを組み合わせた複合酸化物などのようなリチウム吸着物質(lithium intercalation material)などが望ましい。負極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の負極に使用される通常の負極活物質を使用でき、特にリチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コークス(petroleum coke)、活性化炭素、グラファイトまたはその他炭素類などのようなリチウム吸着物質などが望ましい。正極電流集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがあり、負極電流集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケルまたは銅合金、またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがある。
【0084】
本発明で使用できる電解液は、A+B-のような構造の塩であり、A+はLi+、Na+、K+のようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、B-はPF6
-、BF4
-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、AsF6
-、CH3CO2
-、CF3SO3
-、N(CF3SO2)2
-、C(CF2SO2)3
-のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩を、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものであるが、これらに限定されることはない。
【0085】
前記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び求められる物性に応じて、電池製造工程のうち適切な段階において行えばよい。すなわち、電池組み立ての前または電池組み立ての最終段階などにおいて注入すればよい。本発明の電極組立体を電池に適用する工程では、一般的な工程である巻取(winding)の他にも、分離膜と電極との積層(lamination、stack)及び折畳み(folding)工程が可能である。
【0086】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0087】
実施例
実施例1
多孔性コーティング層形成用組成物の用意
無機物粒子として、平均直径500nmのAl2O3粉末と平均直径250nmのγ-AlOOH粉末とが9:1の重量比で混合されたものを用意した。
【0088】
バインダー高分子として2種のPVdF系バインダー高分子を用意するが、第1のPVdF系バインダー高分子としてはPVdF-HFPバインダー高分子(ソルベイ社製、Solef21510)を用意し、第2のPVdF系バインダー高分子としてはPVdF-TFEバインダー高分子(ダイキン社製、VT-475)を用意した。
【0089】
第1のPVdF系バインダー高分子と前記第2のPVdF系バインダー高分子とを1:1の重量比で混合し、有機溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)に50℃で約4時間溶解させてバインダー高分子溶液を製造した。
【0090】
前記バインダー高分子と混合した無機物粒子とが35:65の重量比になるように、前記混合した無機物粒子を前記バインダー高分子溶液に添加した。
【0091】
総12時間にわたってボールミル法で無機物粒子を破砕及び分散して多孔性コーティング層形成用組成物を製造した。このとき、固形分の比率が30%になるように調節して多孔性コーティング層形成用組成物を用意した。
【0092】
多孔性高分子基材に多孔性コーティング層を形成
多孔性高分子基材として大きさ6cm×15cmのポリエチレン多孔性高分子基材(厚さ9μm、多孔度43%、通気時間110sec、抵抗0.45Ω)を用意した。
【0093】
該ポリエチレン多孔性高分子基材の両面に、前記多孔性コーティング層形成用組成物をディップコーティングで塗布した。次いで、前記多孔性コーティング層形成用組成物が塗布されたポリエチレン多孔性高分子基材を非溶媒である水に直ちに浸漬して溶媒/非溶媒交換を通じて相分離を行った。その後、置換された非溶媒である水を乾燥し、多孔性高分子基材の両面に多孔性コーティング層が備えられたリチウム二次電池用分離膜を製造した。前記多孔性コーティング層は、隣接した無機物粒子同士が実質的に接触して限定される空間である無機物粒子同士のインタースティシャル・ボリュームを含み、前記無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームは空き空間になって多孔性コーティング層の気孔を形成する構造を有する。
【0094】
多孔性高分子基材の両面に塗布された多孔性コーティング層の全体コーティング量は5.5g/m2と測定された。
【0095】
実施例2
第1のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-HFPバインダー高分子と第2のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-TFEバインダー高分子との比率を15:85の重量比に調整したことを除き、実施例1と同様にリチウム二次電池用分離膜を製造した。
【0096】
実施例3
第1のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-HFPバインダー高分子をアルケマ社製のKynar2500に変更したことを除き、実施例2と同様に分離膜を製造した。
【0097】
比較例1
第2のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-TFEバインダー高分子を使用せず、同量の第1バインダー高分子であるPVdF-HFPバインダー高分子に代替したことを除き、実施例1と同様に分離膜を製造した。
【0098】
比較例2
第1のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-HFPバインダー高分子をアルケマ社製のKynar2500に変更したことを除き、比較例1と同様に分離膜を製造した。
【0099】
比較例3
第1のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-HFPバインダー高分子を使用せず、同量の第2のPVdF系バインダー高分子に代替したことを除き、実施例1と同様に分離膜を製造した。
【0100】
比較例4
第1のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-HFPバインダー高分子をアルケマ社製のKynar2751に変更したことを除き、比較例1と同様に分離膜を製造した。
【0101】
比較例5
第1のPVdF系バインダー高分子であるPVdF-HFPバインダー高分子をアルケマ社製のLBGに変更したことを除き、比較例1と同様に分離膜を製造した。
【0102】
評価例1:各バインダー高分子のWAXS分析
Xeuss 2.0 SAXS/WAXシステムを使用してカプトン(Kapton)テープにサンプルホルダーを取り付け、アルケマ社製のKynar2500バインダー高分子、アルケマ社製のKynar2751バインダー高分子、アルケマ社製のLBGバインダー高分子及びソルベイ社製のSolef21510バインダー高分子、ダイキン社製のVT-475バインダー高分子をそれぞれ2.5゜≦2θ≦52゜の範囲で6.7cmのSDDで120秒間測定した。
【0103】
実験で得られた2Dイメージはフォックストロットプログラムを用いてビームストップ基準で円形に平均化されて1Dイメージに変換され、このように変換されたイメージを
図1及び
図2に示した。同一コンフィギュレーション(6.7cmのSDD)で同一時間測定されたカプトン散乱強度をバックグラウンドとして使用した。
【0104】
評価例2:第2ピークの面積/第1ピークの面積の比
実施例1~実施例4及び比較例1~比較例7のように1種または2種の混合バインダー高分子を用意した後、Xeuss 2.0 SAXS/WAXシステムを使用してカプトンテープにサンプルホルダーを取り付け、2.5゜≦2θ≦52゜の範囲で6.7cmのSDDで120秒間測定した。
【0105】
実験で得られた2Dイメージはフォックストロットプログラムを用いてビームストップ基準で円形に平均化されて1Dイメージに変換された。同一コンフィギュレーション(6.7cmのSDD)で同一時間測定されたカプトン散乱強度をバックグラウンドとして使用した。
【0106】
前記1Dイメージで、2θが18.2゜位置を中心にした18.2±0.2゜位置のピークを第1ピークにし、2θが19.8゜位置を中心にした19.8±0.2゜位置のピークを第2ピークにした。
【0107】
前記第1ピークと第2ピークとを分解してそれぞれのピークの面積を計算した後、第2ピークの面積/第1ピークの面積の比を下記の表1にまとめて示した。
【0108】
【0109】
表1に示されたように、実施例1~実施例3の第2ピークの面積/第1ピークの面積の比がそれぞれ1.74、2.49、2.58である一方、比較例1~比較例5の第2ピークの面積/第1ピークの面積の比は0.91、0.88、2.88、0.85、1.04であった。
【0110】
評価例3:分離膜の抵抗測定
それぞれの実施例及び比較例の分離膜に対し、以下のような方法で抵抗を測定した。エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びプロピルプロピオネートが25:10:65の比率(体積比)で混合された溶媒にLiPF6を1モル濃度で溶解させて電解液を用意した。該電解液をそれぞれの分離膜に含浸させた後、コインセルを製作し、電気化学インピーダンス分光装置(electrochemical impedance spectroscopy)を用いて電気抵抗を測定した。その結果を下記の表2にまとめて示した。
【0111】
評価例4:負極-分離膜の接着力
人造黒鉛、カーボンブラック、カルボキシメチルセルロース、バインダーとしてのアクリル系共重合体を93:1:1:5の重量比で混合した後、水に分散させて負極スラリーを製造し、これを銅集電体にコーティングした後、乾燥及び圧延して負極を製造した。
【0112】
各実施例及び比較例で得られた分離膜の多孔性コーティング層と負極とが対面するように負極と分離膜とを積層し、二枚の厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの間に挟んだ後、60℃、1000Kgfの条件で1秒間加圧して負極と分離膜とをラミネーションした。得られた結果物を接着強度測定機(LLOYD Instrument製、LF plus)に固定し、上部の分離膜試験片を25℃、25mm/minの速度で180゜角度で剥離して、このときの強度を測定した。その結果を下記の表2にまとめて示した。
【0113】