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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ゲル状食品及びゲル状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 9/10 20160101AFI20231003BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20231003BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20231003BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20231003BHJP
【FI】
A23L9/10
A23L29/281
A23L33/18
A23L33/19
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023543444
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2022032779
(87)【国際公開番号】W WO2023033048
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021144103
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100169317
【弁理士】
【氏名又は名称】濱野 愛
(72)【発明者】
【氏名】徳長 そよ香
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康信
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-284850(JP,A)
【文献】特開2008-194010(JP,A)
【文献】'+スキムミルク オススメです',01-07-2013 uploaded, [Retrieved on 12-10-2022],Retrieved from the Internet:<URL: https://brownktc.exblog.jp/20666066>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質の熱凝固を利用したゲル状食品であって、卵白蛋白質を1~6質量%、及びカゼインを4~15質量%含有し、ゲル状食品中の全蛋白質含有量が5.5~25質量%であり、
前記カゼインが、カゼインナトリウム及びカゼインカルシウムを含有し、
前記カゼインナトリウム及び前記カゼインカルシウムの質量比(カゼインナトリウム:カゼインカルシウム)が、30:70~70:30である、
ゲル状食品。
【請求項2】
コラーゲンペプチドを含有する、請求項1に記載のゲル状食品。
【請求項3】
高齢者用又は嚥下困難者用である、請求項1又は2に記載のゲル状食品。
【請求項4】
卵白蛋白質を1~6質量%、及びカゼインを4~15質量%含有し、ゲル状食品中の全蛋白質含有量が5.5~25質量%であるゲル状食品の製造方法であって、
前記製造方法が、加熱により蛋白質を凝固させる工程を有し、
前記カゼインが、カゼインナトリウム及びカゼインカルシウムを含有し、
前記カゼインナトリウム及び前記カゼインカルシウムの質量比(カゼインナトリウム:カゼインカルシウム)が、30:70~70:30である、
ゲル状食品の製造方法。
【請求項5】
コラーゲンペプチドを含有する、請求項に記載のゲル状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状食品及びゲル状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者や嚥下困難者は、通常の食事を十分に摂ることが困難な場合があり、食事の量が少なくなることで低栄養状態に陥るリスクがある。特に、蛋白質の摂取は、不足すると筋肉が衰えてフレイル(虚弱)に陥りやすく、さらに、運動・認知機能が低下しやすくなると言われており、3回の食事で必要な摂取量を充足することが重要である。
こうした問題に対処するべく、少量の食事量で十分な栄養が摂取できるように、各種の栄養素の密度を高めた食品が種々開発されている。そして、このような食品は、摂取がしやすいように、ゲル化剤を配合して適切なテクスチャーに調整されている。しかし、蛋白質含量を高めたゲル状食品においては、ゲル化剤を配合すると製造時に激しい含気が起こることや、ゲル化しないこと、又は加熱処理により、ゲル化剤によるゲルと、蛋白質の熱凝固によるゲルとの層に分かれるなどして、所望のテクスチャーのゲル状食品を得ることが困難であった。
【0003】
これまで、ゲル化剤を使用せず、蛋白質の熱凝固を利用したゲル状食品として、1~6重量%のタンパク質と、6~15重量%の脂質と、0.1~2重量%の乳化剤及び/又はリン脂質の2種類以上とを含み、食品中の抽出脂質の10~30℃における固体脂含量の傾きが2.1~5、かつラウリン酸含量が0.01~45%以下であるゲル状食品が報告されている(特許文献1)。また、オカラが分離するまで加熱されることがなく、無菌充填された豆乳に、凝固性組成物を0.1~0.8%添加し、電子レンジで加熱するゲル状食品の製造方法が報告されている(特許文献2)。
しかし、より蛋白質含量を高めたゲル食品において、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を付与するには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-176749号公報
【文献】特開平11-169125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑み、蛋白質含有量が高く、均一なゲルであり、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を有するゲル状食品、及び該ゲル状食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、卵白蛋白質とカゼインとを特定量含有し、蛋白質の熱凝固を利用してゲル化することで、蛋白質含有量が高く、均一なゲルであり、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を有するゲル状食品が得られることを見出し、本発明を完成した。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1)蛋白質の熱凝固を利用したゲル状食品であって、卵白蛋白質を1~6質量%、及びカゼインを4~15質量%含有し、ゲル状食品中の全蛋白質含有量が5.5~25質量%である、ゲル状食品。
(2)前記カゼインはカゼインナトリウム及びカゼインカルシウムを含有する、(1)に記載のゲル状食品。
(3)コラーゲンペプチドを含有する、(1)又は(2)に記載のゲル状食品。
(4)高齢者用又は嚥下困難者用である、(1)~(3)のいずれか1つに記載のゲル状食品。
(5)(1)~(4)のいずれか1つに記載のゲル状食品の製造方法であって、加熱により蛋白質を凝固させる工程を有する、ゲル状食品の製造方法。
(6)卵白蛋白質を1~6質量%、及びカゼインを4~15質量%含有し、ゲル状食品中の全蛋白質含有量が5.5~25質量%であるゲル状食品の製造方法であって、加熱により蛋白質を凝固させる工程を有する、ゲル状食品の製造方法。
(7)前記カゼインはカゼインナトリウム及びカゼインカルシウムを含有する、(6)に記載のゲル状食品の製造方法。
(8)コラーゲンペプチドを含有する、(6)又は(7)に記載のゲル状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蛋白質含有量が高く、均一なゲルであり、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を有するゲル状食品、及び当該ゲル状食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず各範囲の上限と下限、並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、適宜「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0010】
〔ゲル状食品〕
本発明のゲル状食品は、蛋白質の熱凝固を利用してゲル化(すなわち、蛋白質が熱凝固して流動性を失っている状態)したゲル状食品であり、卵白蛋白質を1~6質量%、及びカゼインを4~15質量%含有し、ゲル状食品中の全蛋白質含有量が5.5~25質量%である。
本発明のゲル状食品は、具体的には、ゼリー、プリン、ゼリー飲料、ペースト調味料等、及びそれらと類似の態様である食品が挙げられる。また、本発明のゲル状食品は、加工原料として他の食品に添加することもできる。
本発明のゲル状食品の包装形態は、特に限定されるものではなく、ゼリー、プリン、ゼリー飲料、ペースト調味料等に通常用いられるものであれば目的に応じて任意に選択することができる。例えば、カップ、缶、紙容器、プラスチック容器、アルミパウチ、瓶等が挙げられる。
【0011】
本発明のゲル状食品は、全蛋白質含有量が好ましくは8~24質量%、より好ましくは10~24質量%、さらにより好ましくは15~23質量%、最も好ましくは18~22質量%である。全蛋白質含有量が上記の範囲にあると、蛋白質の摂取効率をより高めることができる。
なお、本発明のゲル状食品中の全蛋白質含有量は、ケルダール法により求めることができる。本発明において蛋白質含有量が高いゲル状食品とは、ゲル状食品中の全蛋白質含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であるものを指す。
【0012】
本発明のゲル状食品は、固形分の含有量が好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~45質量%、さらにより好ましくは15~40質量%、最も好ましくは20~35質量%である。固形分の含有量が上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を付与する効果により優れる。
なお、本発明のゲル状食品中の固形分は、該ゲル状食品から水分を除いた残りの質量を指す。本発明のゲル状食品中の固形分は、常法の乾燥減量法(105℃,4時間)により求めることができる。
【0013】
本発明のゲル状食品は、硬さが好ましくは1500~25000N/m、より好ましくは2000~20000N/m、さらにより好ましくは2500~16000N/m、最も好ましくは5000~15000N/mである。本発明のゲル状食品の硬さが上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者でも容易に舌で押し潰せる物性により優れる。
【0014】
本発明のゲル状食品は、付着性が好ましくは2000J/m以下、より好ましくは0~1500J/m以下、最も好ましくは0~1000J/mである。本発明のゲル状食品の付着性が前記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者でも安全に飲み込むことができる物性により優れる。
【0015】
本発明のゲル状食品は、凝集性が好ましくは0.2~0.9、より好ましくは0.3~0.8、最も好ましくは0.4~0.7である。本発明のゲル状食品の凝集性が上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者でも安全に飲み込むことができる物性により優れる。
【0016】
上記の硬さ、付着性、及び凝集性の測定は、例えば、直径30mm、高さ15mmの容器に、本発明のゲル状食品を15mmの高さまで充填し、レオメーターを用いて、直径16mmの円柱状プランジャー、圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mm、20℃の条件で行う。次に、得られたテクスチャー曲線より、硬さ、付着性、及び凝集性を求めることができる。
【0017】
〔卵白蛋白質〕
本発明における卵白蛋白質は熱凝固性を有する。本発明における卵白蛋白質は、熱凝固性を有するものであれば、割卵して卵黄と分離したものについて、精製、抽出、濃縮あるいは希釈した卵白加工品を使用してもよい。また、本発明における卵白蛋白質は、熱凝固性を有するものであれば、酵素処理等を施し、生卵白の蛋白質より低分子になっているもの、逆に、卵白蛋白が、卵白中の、又は、別途添加した乳蛋白等卵白以外の蛋白質と結合して、生卵白の蛋白質より高分子になっている卵白加工品を使用してもよい。さらに、前記卵白加工品は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、本発明における卵白蛋白質は、該卵白蛋白質を10質量%含有する水溶液を90℃、30分間加熱後、常温まで冷却したときにゲル化(流動性を失っている状態)するものであることが好ましい。
【0018】
前記の卵白加工品は、蛋白質の含有量が好ましくは70質量%以上、より好ましくは70~95質量%、最も好ましくは75~90質量%である。蛋白質の含有量はケルダール法により求めることができる。また、前記の卵白加工品は、市販品を使用することができる。例えば、太陽化学(株)製の商品名「サンキララAD」、「サンキララRS」、キユーピータマゴ(株)製の商品名「乾燥卵白Mタイプ No.200」等が挙げられる。
【0019】
本発明のゲル状食品は、前記卵白蛋白質の含有量が、1~6質量%であり、好ましくは1~5質量%、より好ましくは1.1~4質量%、最も好ましくは1.2~3質量%である。卵白蛋白質の含有量が上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を付与する効果により優れる。
なお、卵白の蛋白質の供給源として卵白加工品を使用する場合は、卵白加工品中の蛋白質含有量を考慮して、本発明のゲル状食品中の卵白蛋白質の含有量が、所望の含有量となるように卵白加工品の配合量を調整すればよい。例えば、本発明のゲル状食品は、前記卵白加工品の含有量が、好ましくは1.2~7質量%、より好ましくは1.3~6質量%、さらにより好ましくは1.35~5質量%、最も好ましくは1.4~4質量%である。
【0020】
〔カゼイン〕
本発明におけるカゼインは、乳蛋白質の主体をなすリン蛋白質である。本発明におけるカゼインは、牛乳、脱脂乳等から公知の方法により分離したものについて、精製、抽出、濃縮等の処理をして得られるカゼイン加工品を使用してもよい。また、本発明におけるカゼイン由来の蛋白質は、塩の形態(カゼイン塩)であってもよく、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウム等から選ばれる1種又は2種以上のカゼイン塩を含むカゼイン加工品を使用してもよい。さらに、前記カゼイン加工品は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、本発明におけるカゼインは、該カゼインを10質量%含有する水溶液を90℃、30分間加熱後、常温まで冷却したときにゲル化(流動性を失っている状態)しないものであることが好ましい。
【0021】
前記のカゼイン加工品は、蛋白質の含有量が好ましくは70質量%以上、より好ましくは75~99質量%、最も好ましくは80~95質量%である。蛋白質の含有量はケルダール法により求めることができる。また、前記のカゼイン加工品は、市販品を使用することができる。例えば、タツア・ジャパン(株)製の商品名「TATUA 100」、「TATUA 400」、日本新薬(株)製の商品名「カゼインナトリウムS」、「カゼインカルシウムS」等が挙げられる。
【0022】
本発明のゲル状食品は、前記カゼインの含有量が、4~15質量%であり、好ましくは5~13質量%、より好ましくは6~12質量%、最も好ましくは7~11質量%である。カゼインの含有量が上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を付与する効果により優れる。具体的には、熱凝固(ゲル化)した卵白蛋白質は脆く、ばらけやすい物性を有するので、カゼインを含有させることで、ゲルの脆さや、ばらけやすさを低減し、高齢者や嚥下困難者に適した、より優れた嚥下物性を付与することができる。
なお、カゼインの供給源としてカゼイン加工品を使用する場合は、カゼイン加工品中の蛋白質含有量を考慮して、本発明のゲル状食品中のカゼインの含有量が、所望の含有量となるようにカゼイン加工品の配合量を調整すればよい。例えば、本発明のゲル状食品は、前記カゼイン加工品の含有量が、好ましくは4.5~17質量%、より好ましくは6~14質量%、さらにより好ましくは7~13質量%、最も好ましくは8~12質量%である。
【0023】
本発明におけるカゼインは、本発明のゲル状食品の物性を調整しやすくする観点から、カゼインナトリウムとカゼインカルシウムとを含有することが好ましい。
本発明のゲル状食品がカゼインナトリウムとカゼインカルシウムとを含有する場合は、該カゼインナトリウム及びカゼインカルシウムに由来する蛋白質が、上記の本発明のゲル状食品中のカゼインの好ましい含有量の範囲で、所望の含有量となるようにカゼインナトリウム及びカゼインカルシウムの配合量を調整すればよい。
【0024】
本発明のゲル状食品は、カゼインナトリウムの含有量が、好ましくは2~8質量%、より好ましくは3~7質量%、最も好ましくは4~6質量%である。また、本発明のゲル状食品は、カゼインカルシウムの含有量が、好ましくは2~8質量%、より好ましくは3~7質量%、最も好ましくは4~6質量%である。
さらに、本発明のゲル状食品は、カゼインナトリウムとカゼインカルシウムとを含有するときの質量比(カゼインナトリウム:カゼインカルシウム)が、好ましくは30:70~70:30、より好ましくは40:60~60:40、最も好ましくは45:55~55:45である。カゼインナトリウムとカゼインカルシウムの含有量、質量比が上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を付与する効果により優れる。
【0025】
〔コラーゲンペプチド〕
本発明におけるコラーゲンペプチドは、牛、豚、魚等に由来し、平均分子量が10000以下となるように分解処理されたコラーゲンペプチドである。前記コラーゲンペプチドは、1種単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、前記コラーゲンペプチドは、市販品を使用することができる。例えば、(株)ニッピ製「FCP」、「GELITA SOL NPS」、ルスロ社製「F5000HD」、「P5000HD」、「F2000HD」、「P2000HD」等が挙げられる。
【0026】
本発明におけるコラーゲンペプチドの平均分子量は、重量平均分子量(Mw)であり、好ましくは1000~10000、より好ましくは1500~7000、最も好ましくは2000~5000である。平均分子量が上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい、より優れた嚥下物性のゲル状食品が得られる。
なお、重量平均分子量は、日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合の写真用ゼラチン試験法(PAGI法)第10版「20-2 平均分子量」に記載されている方法に従って算出することができる。PAGI法は、高速液体クロマトグラフィーを用いたゲル濾過法によってコラーゲンペプチドのクロマトグラムを求め、その分子量分布を推定する方法である。
【0027】
本発明におけるコラーゲンペプチドは、蛋白質の含有量が好ましくは70質量%以上、より好ましくは70~100質量%、さらにより好ましくは80~98質量%、最も好ましくは85~95質量%である。蛋白質の含有量はケルダール法により求めることができる。
【0028】
本発明のゲル状食品は、全蛋白質含有量が10質量%以上(好ましくは15質量%以上)であるときに、好ましくはコラーゲンペプチドを含有することができる。
本発明のゲル状食品中のコラーゲンペプチドの含有量は、コラーゲンペプチド中の蛋白質含有量を考慮して、本発明のゲル状食品の全蛋白質含有量が所望の含有量となるように、コラーゲンペプチドの配合量を調整すればよいが、好ましくは5~17質量%、より好ましくは7~15質量%、最も好ましくは8~10質量%である。コラーゲンペプチドの含有量が上記の範囲にあると、本発明のゲル状食品の物性がより調整しやすくなる。
【0029】
〔その他の原料〕
本発明のゲル状食品は、本発明の効果を損なわない範囲において、目的に応じて、卵白蛋白質、カゼイン、及びコラーゲンペプチド以外の蛋白質素材(乳ホエー濃縮物、大豆蛋白質など)、糖類、油脂類、ビタミン、ミネラル等の各種栄養成分、乳化剤、安定剤、香料、風味原料等の食品添加物を含有してもよい。
【0030】
本発明のゲル状食品は糖類を含有してもよい。前記糖類は具体的には、砂糖、ショ糖、異性化液糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、水飴、蜂蜜等、転化糖、乳糖、シロップ、オリゴ糖等が挙げられる。
本発明のゲル状食品中の糖類の含有量は、好ましくは3~18質量%、より好ましくは5~15質量%、最も好ましくは7~12質量%である。糖類の含有量が上記の範囲にあると、本発明のゲル状食品の物性がより調整しやすくなる。
【0031】
本発明のゲル状食品は、蛋白質以外のゲル化剤(多糖類、化工澱粉等)を含有してもよいが、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下であり、蛋白質以外のゲル化剤を含有しないことが最も好ましい。蛋白質以外のゲル化剤の含有量が上記の範囲にあると、均一なゲルのゲル状食品がより得られやすい。
【0032】
本発明のゲル状食品は、水の含有量が好ましくは50~95質量%、より好ましくは55~90質量%、さらにより好ましくは60~85質量%、最も好ましくは65~80質量%である。水の含有量が上記の範囲にあると、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を付与する効果により優れる。
【0033】
〔ゲル状食品の用途〕
本発明のゲル状食品は、硬さ、凝集性、及び付着性を、上述した物性に調整できるので、高齢者用(高齢者向け食品用)又は嚥下困難者用(嚥下困難者向け食品用)の用途で好適に用いることができる。ここで、本発明における高齢者とは、60歳以上を意味し、好ましくは65歳以上であり、より好ましくは70歳以上の者である。また、本発明における嚥下困難者とは、嚥下に何らかの支障がある者を指す。例えば、嚥下能力が低下している高齢者、脳神経疾患や口腔疾患を有する者が挙げられる。
【0034】
〔ゲル状食品の製造方法〕
本発明のゲル状食品の製造方法は、上記の「本発明のゲル状食品」を製造する際に、加熱により蛋白質を凝固させる工程を有する。具体的には、本発明における卵白蛋白質及びカゼインを含有する溶液を調製し、容器に充填した後、該溶液を蛋白質の凝固温度以上に加熱することで熱凝固させてゲル化する製造方法である。
本発明のゲル状食品の製造方法において、加熱条件はゲル状食品中の蛋白質がゲル化して所望の物性となるように適宜設定できるが、好ましくは60~150℃、より好ましくは80~130℃であり、加熱時間は好ましくは10~90分、より好ましくは20~60分である。また、上記加熱は、本発明のゲル状食品が、好ましくは5~500mL、より好ましくは10~200mL、さらにより好ましくは20~100mLの容器に満量充填された態様について、処理されることが好ましい。本発明のゲル状食品は、一般的なゲル状食品の製造設備と製造条件で製造することができる。
【0035】
本発明のゲル状食品の製造方法は、上記の加熱により蛋白質を凝固させる工程を、殺菌処理と兼ねて行ってもよい。前記殺菌処理は、加工食品の殺菌処理で汎用される方法であれば特に限定されないが、例えば、UHT処理、レトルト処理等が挙げられる。
【0036】
本発明のゲル状食品の製造方法における、卵白蛋白質、カゼイン、コラーゲンペプチド、全蛋白質、及び固形分の各含有量、好ましい態様等は、上記の「本発明のゲル状食品」と同様である。
【実施例
【0037】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0038】
[ゲル状食品の製造]
表1~3に記載した配合のゲル状食品を製造した。具体的には、配合量の約6割の水を90℃に加熱し、カゼインナトリウムを全量溶解した。次に、残りの水(室温)を投入後、撹拌しながら原料を全て投入し、溶解して均一な溶液を得た。
調製した溶液を脱気した後、25mLの耐熱プラスチック容器に充填し密封して、オートクレーブを用いて加熱凝固(121℃、30分間)し、ゲル状食品(実施例1~8、比較例1~3)を得た。
【0039】
表1~3に記載の各原料は以下のものを使用した。
・卵白加工品-1:商品名「サンキララAD」、太陽化学(株)製、蛋白質含量78質量%、水分7質量%
・卵白加工品-2:商品名「乾燥卵白Mタイプ No.200」、キユーピータマゴ(株)製、蛋白質含量86.5質量%、水分7質量%
・カゼインナトリウム:商品名「TATUA 100」、タツア・ジャパン(株)製、蛋白質含量93.3質量%、水分4.3質量%
・カゼインカルシウム:商品名「TATUA 400」、タツア・ジャパン(株)製、蛋白質含量91.6質量%、水分4.2質量%
・コラーゲンペプチド:商品名「GELITA SOL NPS」、(株)ニッピ製、蛋白質含量90質量%、水分7質量%
・スクラロース:商品名「SU-600」、ツルヤ化成工業(株)製
・砂糖:商品名「上白糖」、三井製糖(株)製、水分0.8質量%
【0040】
[ゲル状食品の評価]
1)外観の目視評価
5名のパネルが上記で製造したゲル状食品の外観を目視観察し、以下の評価基準に従い、5人のパネルの合議により決めた。結果を表1~3に示す。
(外観の評価基準)
○:不均一なゲルの形成、及び/又はゲルの層の分離が認められず、均一なゲル
×:非ゲル化、不均一なゲルの形成、及びゲルの層の分離のいずれかが認められる
【0041】
2)硬さ、付着性、凝集性の測定
上記で製造したゲル状食品を、直径30mm、高さ15mmの容器に、15mmの高さまで充填し、20℃で10分間静置した後、レオメーター(RE-33005 RHEONER、(株)山電製)を用いて測定した。直径16mmの樹脂製の円柱状プランジャーを用いて、圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmの条件により、硬さ(N/m)、付着性(J/m)、及び凝集性を測定し、以下の評価基準で評価した。評価結果を表1~3に示す。
なお、比較例2は、ゲル化しなかったため、各評価を実施しなかった。
【0042】
(硬さの評価基準)
○:1500~25000N/m(嚥下困難者用食品として適切な硬さ)
×:1500N/m未満、又は25000N/mよりも大きい(軟らかすぎ、又は硬すぎて嚥下困難者用食品として適切ではない)
【0043】
(付着性の評価基準)
◎:0~1000J/m(嚥下困難者用食品としてより適切な付着性)
○:1001~2500J/m(嚥下困難者用食品として適切な付着性)
×:2501J/m~(付着力が強すぎて嚥下困難者用食品として適切ではない)
【0044】
(凝集性の評価基準)
○:0.2~0.9(嚥下困難者用食品として適切な凝集性)
×:0.2未満、又は0.9よりも大きい(凝集力が弱すぎ、又は強すぎて嚥下困難者用食品として適切ではない)
【0045】
3)嚥下物性の官能試験
上記で製造した各ゲル状食品を、5名の専門パネルが5g喫食し、下記の基準に従い、5人の専門パネルの合議により決めた。評価結果を表1~3に示す。
(嚥下物性の評価基準)
○:飲み込み易く嚥下困難者用食品として適切
×:飲み込み難く嚥下困難者用食品として不適切
【0046】
表1~3中の「カゼイン含量」は、原料であるカゼインナトリウムとカゼインカルシウムに含まれる蛋白質の合計含有量(質量%)を指す。
表1~3中の「総蛋白質含量」は、原料である卵白加工品、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、及びコラーゲンペプチドに含まれる蛋白質の合計含有量(質量%)を指す。
表1~3中の「固形分含量」は、水以外の原料について、水分を除いた合計含有量(質量%)を指す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表1~3の結果より、卵白加工品を2~6質量%(卵白蛋白質として1.6~4.7質量%)、カゼインを5.55~11.08質量%含有し、かつ、総蛋白含有量が10.23~24.31である本発明のゲル状食品(実施例1~8)は、均一なゲルであり、高齢者や嚥下困難者が摂取しやすい嚥下物性を有するものであった。
他方、カゼインを含有せず卵白蛋白質のみでゲル化したゲル状食品(比較例1)は、硬すぎて高齢者や嚥下困難者用の食品として許容できない物性であった。同様に、卵白蛋白質を7.5質量%含有するゲル状食品(比較例3)も、卵白蛋白質の配合量が多いため、硬いゲルとなり高齢者や嚥下困難者用の食品として許容できない物性であった。また、卵白蛋白質を含有しない食品(比較例2)は、ゲル化しなかった。