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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】双性イオン基含有ポリマーハイドロゲル
(51)【国際特許分類】
   C08F 226/06 20060101AFI20231004BHJP
   C08F 230/02 20060101ALI20231004BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20231004BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20231004BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231004BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C08F226/06
C08F230/02
C08F8/00
C08F8/42
H01M8/16
H01M4/86 B
C12Q1/00 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019089808
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2019199603
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018092439
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】593020485
【氏名又は名称】吉野電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】高井 まどか
(72)【発明者】
【氏名】コウ,イセン
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正洋
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527669(JP,A)
【文献】特開2014-180256(JP,A)
【文献】特表2018-529486(JP,A)
【文献】特開2002-356519(JP,A)
【文献】特開2013-239292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 226/06
C08F 230/02
C08F 8/00
C08F 8/42
H01M 8/16
H01M 4/86
C12Q 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に双性イオン基を有するモノマーユニットi)及び側鎖にN-スクシンイミドエステル基を有するモノマーユニットii)を繰り返し単位として含む共重合体より形成されてなるハイドロゲルであって、
前記共重合体のみにより3次元構造が形成されており、
前記共重合体の主鎖構造が、ポリメタクリレート構造を有する、ハイドロゲル
【請求項2】
前記共重合体における前記モノマーユニットi)と前記モノマーユニットii)の比率が、モル比で55:45~45:55である、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
前記双性イオン基が、ホスホベタイン基、カルボキシベタイン基、又はスルホベタイン基である、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
前記モノマーユニットi)が、以下の式(I)で表される構造を有し、
【化1】
(式中、Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキルを表し;Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキレンを表す。)
前記モノマーユニットii)が、以下の式(II)で表される構造を有する、
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキルを表し;Rは、直接結合、又は炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレンを表す。)
請求項1~3のいずれか1に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
がメチル基であり;Rがメチレン基であり;Rがメチル基であり;及びRが直接結合である、請求項4に記載のハイドロゲル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1に記載のハイドロゲルに電子伝達性メディエータ化合物を共有結合により固定化した、ゲル材料。
【請求項7】
前記電子伝達性メディエータ化合物が、アミノ基を有するシクロペンタジエニル金属錯体、アミノ基を有するキノン化合物、又は酵素である、請求項6に記載のゲル材料。
【請求項8】
前記共有結合が、モノマーユニットii)におけるN-スクシンイミドエステル基と電子伝達性メディエータ化合物との反応により形成される、請求項6又は7に記載のゲル材料。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、デバイス。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、バイオ燃料電池。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、バイオセンサー。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、薬物送達担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双性イオン基含有ポリマーよりなるハイドロゲルに関し、特に、酵素等のタンパク質や電子移動体(電子伝達メディエータ)を共有結合により固定化可能な双性イオン基含有ポリマーハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素や微生物などの生体触媒を用いて、グルコース等のバイオマスを燃料とし、これを電気エネルギーに変換するバイオ燃料電池の開発が活発に行われている。バイオ燃料電池における電極反応は、典型的には、グルコース等の燃料が生体触媒により酸化されるとともに、電子が電極に伝達されるが、この生体触媒から電極への電子伝達は、一般にメディエータと呼ばれる酸化還元化合物により仲介される。バイオ燃料電池の燃料としては、グルコース以外にもエタノールや、ラクトースなどの糖類も検討されている。また、生体触媒としては、微生物を用いることも研究されている。
【0003】
かかるバイオ燃料電池は、生体に対して安全な電源として、人体に接触して使用されるポータブル機器や体内埋埋め込み型の医療デバイスなどへの応用が期待されている。一方で、従来のバイオ燃料電池の課題として、出力密度、特に電流密度が低いこと、また、生体触媒の耐久性などが挙げられる。出力密度は、酵素やメディエータの選択だけでなく、それらの電極への固定化方法や電極材料の非表面積等にも依存する。これに対し、メディエータと酵素の単分子膜を金基板に形成した電極や、ポリマーを用いて酵素やメディエータを固定した電極が研究されている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、従来、酵素やメディエータを固定するために用いられているポリマーでは、その固定化量が少なく、結果として、十分な出力密度を得られていなかった。
【0004】
【文献】Hellerら、Phys. Chem. Chem. Phys., 6, 209-216, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、バイオ燃料電池の電極において用いられる酵素等のタンパク質やメディエータ化合物を効果的かつ安定に固定化できる高分子材料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、活性エステル基を導入した双性イオン基含有ポリマーにより3次元構造のハイドロゲルを形成することができ、酵素等のタンパク質やメディエータ化合物を共有結合を介して高い固定化量で固定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、一態様において、
<1>側鎖に双性イオン基を有するモノマーユニットi)及び側鎖にN-スクシンイミドエステル基を有するモノマーユニットii)を繰り返し単位として含む共重合体より形成されてなるハイドロゲル;
<2>前記共重合体における前記モノマーユニットi)と前記モノマーユニットii)の比率が、モル比で55:45~45:55である、上記<1>に記載のハイドロゲル。
<3>前記共重合体の主鎖構造が、ビニル基が重合した構造を有する、上記<1>又は<2>に記載のハイドロゲル;
<4>前記共重合体の主鎖構造が、アクリル系ポリマー構造を有する、上記<1>~<3>のいずれか1に記載のハイドロゲル;
<5>前記モノマーユニットi)が、以下の式(I)で表される構造を有し、
【化1】
(式中、Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキルを表し;Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキレンを表す。)
前記モノマーユニットii)が、以下の式(II)で表される構造を有する、
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキルを表し;Rは、直接結合、又は炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレンを表す。)
上記<1>~<4>のいずれか1に記載のハイドロゲル;及び
<6>Rがメチル基であり;Rがメチレン基であり;Rがメチル基であり;及びRが直接結合である、上記<5>に記載のハイドロゲル
を提供するものである。
【0008】
また、別の態様において、本発明は、
<7>上記<1>~<6>のいずれか1に記載のハイドロゲルに電子伝達性メディエータ化合物を共有結合により固定化した、ゲル材料;
<8>前記電子伝達性メディエータ化合物が、アミノ基を有するシクロペンタジエニル金属錯体、アミノ基を有するキノン化合物、又は酵素である、上記<7>に記載のゲル材料;
<9>前記共有結合が、モノマーユニットii)におけるN-スクシンイミドエステル基と電子伝達性メディエータ化合物との反応により形成される、上記<7>又は<8>に記載のゲル材料;
<10>上記<1>~<6>のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、デバイス;
<11>上記<1>~<6>のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、バイオ燃料電池;
<12>上記<1>~<6>のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、バイオセンサー;及び
<13>上記<1>~<6>のいずれか1に記載のハイドロゲルを用いる、薬物送達担体
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、3次元構造を有するハイドロゲルに共有結合を介して酵素や酵素等のタンパク質やメディエータ化合物を固定化できるため、従来の二次元ポリマー膜による固定化に比べて、固定化可能な体積が大きく、一定面積あたりの固定化量を多くすることができる。これにより、従来のバイオ燃料電池の課題であった出力密度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明は、水を含有するハイドロゲル構造であって、骨格となるリン脂質ポリマー等の双性イオン基含有ポリマーにより酵素等のタンパク質の生体機能を維持したまま固定化できることから、バイオ燃料電池における生体触媒の長期安定性の点でも優れるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のハイドロゲルの画像である。
図2図2は、本発明のアミノフェロセン(AFc)を結合したハイドロゲルの画像である。
図3図3は、酵素固定化ハイドロゲル(Gel/AFc/GOD)を修飾した電極で測定したサイクリックボルタモグラムである。
図4図4は、酵素固定化ハイドロゲル(Gel/AFc/GOD)を修飾した電極をアノードとして用いた場合の電力密度-電圧を示すグラフである。
図5図5は、酵素固定化ハイドロゲル(Gel/AFc/GOD)を修飾した電極をアノードとして用いた場合の24時間連続放電実験の電圧-時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0013】
1.ハイドロゲル
本発明のハイドロゲルは、側鎖に双性イオン基を有するモノマーユニットi)及び側鎖にN-スクシンイミドエステル基を有するモノマーユニットii)を繰り返し単位として含む共重合体より形成されてなることを特徴とする。これらのモノマーユニットは、それぞれランダムに結合する態様が代表的であるが、何らかの規則性・周期性を有する態様も本発明の範囲に含まれるものであり、例えば、交互ポリマー、周期ポリマー、ブロックコポリマーであることができ、場合にはよっては、グラフトポリマーであることもできる。なお、場合により、上記モノマーユニットi)及びii)以外のモノマーユニットを含んでいてもよい。
【0014】
当該共重合体中の上記モノマーユニット(i)に含まれる双性イオン基(zwitterionic group)は、当該置換基内に正電荷と負電荷の両方を持つ構造を有するものであり、両性イオン基(amphoteric ion group)ともいう。モノマーユニット(i)が双性イオン基を有することで、共重合体に親水性を付与し、酵素等の生体機能を固定化後も維持することが可能となる。かかる双性イオンの例としては、好ましくは、以下の(a)~(c)に示すポリマー構造中の側鎖部分、すなわち、(a)ホスホリルコリン基(ホスホベタイン基)、(b)スルホベタイン基、(c)カルボキシベタイン基を挙げることができる。ホスホリルコリン基(PC基)は、生体膜の主成分であるリン脂質(ホスファチジルコリン)の極性基と同様の構造を有する極性基である。
【化3】
【0015】
一方、当該共重合体中の上記モノマーユニット(ii)に含まれるN-スクシンイミドエステル基は、反応性の高い活性エステルであり、酵素等のタンパク質におけるアミノ基と反応して共有結合(アミド結合)を形成し、これにより酵素等をハイドロゲル中に固定化することができる。加えて、酵素等以外にも、アミノ基を有するメディエータ化合物に対しても、同様に共有結合を形成して固定化することができる。
【0016】
上記共重合体における主鎖(骨格)構造を形成するモノマーユニットにおける重合部位は、互いに重合反応してポリマーを形成することができるものであればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビニル系モノマー残基、アセチレン系モノマー残基、エステル系モノマー残基、アミド系モノマー残基、エーテル系モノマー残基およびウレタン系モノマー残基等が好ましく、これらの中でも、ビニル系モノマー残基がより好ましい。ビニル系モノマー残基としては、限定はされないが、例えば、ビニル部分が付加重合している状態のメタクリルオキシ基、メタクリルアミド基、アクリルオキシ基、アクリルアミド基、スチリルオキシ基およびスチリルアミド基等を用いることができ、これらの中でも、メタクリルオキシ基が好ましい。そして、上記重合部位は、各モノマーユニットについて同一であることもでき、それぞれ独立に異なることもできるが、いずれもビニル系モノマー残基、特に、メタクリルオキシ基である態様が好ましい。したがって、好ましい態様では、前記共重合体の主鎖構造は、ビニル基が重合した構造を有するものであり、より好ましくは、アクリル系ポリマー構造を有する。
【0017】
好ましくは、モノマーユニットi)は、以下の式(I)で表される構造を有する。
【化4】
【0018】
式(I)において、Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキルを表し、好ましくは、炭素数1~5の直鎖アルキルであり、より好ましくはメチル基である。Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキレンを表し、好ましくは炭素数1~5の直鎖アルキレンであり、より好ましくはメチレン基である。
【0019】
モノマーユニットi)の具体例としては、これに限定されるものではないが、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-(2-メタクリルアミド)エチルホスホリルコリン、4-メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6-メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10-メタクリロイルオキシデシルシルホスホリルコリン、ω-メタクリロイルジオキシエチレンホスホリルコリンおよび4-スチリルオキシブチルホスホリルコリン等に由来する構造単位が好ましく挙げられる。これらの中でも、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来する構造単位が特に好ましい。これらは双性イオン基としてホスホリルコリン基を有する例であるが、上述のように当該ホスホリルコリン基に相当する部分をスルホベタイン基やカルボキシベタイン基に替えたモノマーユニットを用いることもできる。
【0020】
また、好ましくは、モノマーユニットii)は、以下の式(II)で表される構造を有する。
【化5】
【0021】
式(II)において、Rは、炭素数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキルを表し、好ましくは、炭素数1~5の直鎖アルキルであり、より好ましくはメチル基である。Rは、直接結合、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレンを表し、好ましくは直接結合又は炭素数1~5の直鎖アルキレンであり、より好ましくは直接結合である。ここで、スクシンイミジル基部分は、任意の置換基により置換されていてもよい。
【0022】
共重合体における前記モノマーユニットi)と前記モノマーユニットii)の比率は、ハイドロゲルの形成しやすさの観点から、モル比で55:45~45:55であることが好ましい。より好ましくは、モル比で50:50である。
【0023】
特に好ましい態様では、上記式(I)及び(II)においてRがメチル基であり;Rがメチレン基であり;Rがメチル基であり;及びRが直接結合である。この場合のモノマーユニットi)及びii)よりなる共重合は、以下の構造を有する。
【化6】
【0024】
ここで、m及びnは、ポリマーの中における各モノマーユニットの存在比であって、互いに独立して、2以上の整数を表すが、それぞれ2000以下、好ましくは1000以下であることができる。各モノマーユニットの存在比にであるm:nは、上述のように、好ましくは55:45~45:55であり、より好ましくは、50:50である。また、上述のように、各モノマーユニットはそれぞれランダムな順序で結合する態様が代表的であるが、何らかの規則性・周期性を有する態様も本発明の範囲に含まれるものであり、例えば、交互ポリマー、周期ポリマー、ブロックコポリマーであることができる。
【0025】
上述のように、共重合体は、場合により、上記モノマーユニットi)及びii)以外のその他のモノマーユニットを含んでいてもよい。かかる側鎖に疎水性基を有するモノマーユニットを含むことで、必要に応じて、ハイドロゲルが内包する水の量を低下させ、強度を向上させることができる場合がある。
【0026】
上記共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定はされないが、例えば、50,000~1,000,000が好ましく、より好ましくは150,000~1,000,000、さらに好ましくは500,000~1,000,000である。
【0027】
なお、上記共重合体の合成については、モノマー化合物の調製およびそれらの重合を含め、当業者の技術水準に基づき、常法により行うことができる。例えば、共重合体の合成は、ラジカル重合、溶液重合,乳化重合,懸濁重合等の公知の方法を用いることができる。
【0028】
ラジカル重合の際の重合開始剤としては、反応温度30~90℃の範囲で分解し、ラジカルを発生するものであれば特に制限なく使用することができる。そのような重合開始剤の具体例としては、例えば、2,2-アゾビス(2-アミジノプロピル)二塩酸塩、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビス(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、コハク酸パーオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、アゾビスイソブチロニトリル、2,2 -アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、t-ブチルペルオキシネオデカノエート等が挙げられる。好ましくは、2,2-アゾビスイソブチロニトリルである。
【0029】
これらのラジカル重合開始剤は単独で用いても混合物で用いてもよい。また、重合開始剤には各種レドックス系の促進剤を用いても良い。ゲル化のしやすさの観点から、重合開始剤の使用量は、反応溶液中で5mM未満であることが好ましい。
【0030】
ゲル化の効率等の観点から、重合反応溶液中におけるモノマーの濃度は、全モノマーの合計の濃度で、1M~2Mであることが好ましい。重合反応における溶媒は、各モノマーが溶解し得るものを用いることができるが、ゲル化の効率等の観点から、クロロホルムが好ましい。反応温度は通常30~90℃の範囲であり、特に好ましくは40~59℃である。
【0031】
2.電子伝達性メディエータ化合物を固定化したゲル材料
一態様において、本発明は、上述のハイドロゲルに電子伝達性メディエータ化合物を共有結合により固定化した、ゲル材料にも関する。
【0032】
ここで、「電子伝達性メディエータ化合物」は、バイオ燃料電池における生体触媒に加えて、かかる生体触媒による電子移動を仲介し得る酸化還元電子を有するメディエータ化合物をも含む。かかる生体触媒としては、酵素等のタンパク質であることができ、例えば、グルコースを燃料とするバイオ燃料電池において用いられる酵素触媒であるグルコースオキシダーゼ(GOD)を挙げることができる。メディエータ化合物としては、アミノ基を有するシクロペンタジエニル金属錯体やアミノ基を有するキノン化合物を挙げることができ、好ましくは、アミノフェロセン、アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノンなどを用いることができる。
【0033】
上述のように、上記モノマーユニット(ii)におけるN-スクシンイミドエステル基が、酵素等のタンパク質やメディエータ化合物におけるアミノ基と反応することで、共有結合(アミド結合)を形成し、これにより電子伝達性メディエータ化合物をハイドロゲル中に安定に固定化することができる。また、ハイドロゲルは3次元構造を有するため、従来の二次元ポリマー膜による固定化に比べて固定化可能な体積が大きく、上記電子伝達性メディエータ化合物の固定化量を多くすることができる。これによりバイオ燃料電池における出力密度(電力量)を向上させることが可能となる。
【0034】
本発明のハイドロゲルは、薬物送達担体、バイオセンサー、特にバイオ燃料電池における電極において好適に用いることができる。それゆえ、本発明は、上述のハイドロゲルを用いるバイオ燃料電池にも関する。
【0035】
さらに、本発明のハイドロゲルは、その生体親和性及び固定化能が好適な、その他のデバイスに用いることもできる。例えば、当該ハイドロゲルを用いたグルコースセンサー等のバイオセンサーに応用することができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
1.ポリマーの合成
モノマーユニットとして、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、及びメタクリル酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MNHS)を用いた。これらは、市販のものを用いた。
【0038】
MPCとMNHSの合計量を1mol/Lとし、重合開始剤としての2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い、当該技術分野において慣用されているラジカル重合反応により、共重合体Poly(MPC-co-MHNS)を合成した。反応時間は24時間、反応温度は59℃とした。溶媒はクロロホルムを用いた。
【表1】
【0039】
結果を表1と図1に示す。MPC:MNHSがほぼ1:1の条件において、Poly(MPC-co-MHNS)のゲル化できるポリマーが得られた。ハイドロゲル形成が認められたゲル50~1000の重合反応では、各モノマー及び重合開始剤を混合した反応初期では、反応溶液は透明であったが、重合反応が進むについて反応溶液が白濁した。重合反応終了後、沈殿生成物を減圧乾燥して溶媒を除去し、白色粉末のPoly(MPC-co-MHNS)を得た。
【0040】
2.メディエータ化合物の固定化
次に、1.で得られたPoly(MPC-co-MHNS)にメディエータ化合物を固定化した。反応式は以下のとおりである。
【化7】
【0041】
有機溶媒で反応:
アミノフェロセン(AFc)をエタノールに溶解し、当該溶液中に1.で得られたPoly(MPC-co-MHNS)及び触媒としてトリエチルアミンを添加し、室温で一晩撹拌した。黒色の生成物(Gel/AFc)が得られた。当該生成物をシャーレ上で一晩乾燥した後、エタノールで洗浄した。当該生成物を水に浸漬したところ、膨潤が認められ、ハイドロゲルであることを確認した。また、得られたフェロセン固定化ハイドロゲル(Gel/AFc)の安定性を観測した結果を表2中に示す。ポリマーGel150~1000に基づくフェロセン固定化ハイドロゲルでは、水中で24時間保持した後でも安定なゲルとして存在していた(表中の「×」は、ゲルが溶液化し安定性に乏しい場合を表している)。
【0042】
水溶液で反応:
アミノフェロセン及び1.で得られたPoly(MPC-co-MHNS)を炭酸水素ナトリウム溶液に溶解し、37℃で一晩攪拌した。黒色の生成物(Gel/AFc)が得られた。当該生成物を攪拌しながら乾燥した後、水に浸漬したところ、膨潤が認められ、ハイドロゲルであることを確認した。
【0043】
表2は、AFcを固定化させたゲルの、エタノールおよび水中でのゲルの安定性を確認した結果を示すものである。
【表2】
【0044】
3.ゲル化試験
上記1.に従い、得られたポリマーPMS30、PMS40、Gel-1000を水に攪拌して24時間転倒した後の写真を図1に示す。Gel-1000にアミノフェロセンを添加した後に得られたハイドロゲルの写真を図2に示す。
【0045】
表2に示すように、重合度が150/150であるポリマーGel-150由来のゲルのほうが高い膨潤度(732%)を示した。一方、重合度が300/300であるポリマーGel-300由来のゲルでは膨潤度は428%であった。この結果から、ハイドゲルの膨潤度を、Poly(MPC-co-MHNS)の重合度で制御できることが分かった。また、ハイドロゲルのメッシュサイズは膨潤度に依存すため、異なる大きさの生体分子を捕捉するために重合度によってメッシュサイズを調節できることも示唆される。
【0046】
4.酵素の固定化
物理的に酵素の固定化:
上記2.で有機溶媒で得られたフェロセン固定化ハイドロゲル(Gel/AFc)に、さらに、物理的に酵素を固定化した。エタノール洗浄したGel/AFcを一晩真空乾燥して残留エタノールを除去した。次に、真空乾燥したGel/AFcを50mg/mlのグルコースオキシダーゼ(GOD)溶液に浸してGel/AFc/GODを得た。これを4℃で保存した。
【0047】
化学的に酵素の固定化:
上記2.で水溶液で得られたフェロセン固定化ハイドロゲル(Gel/AFc)に、さらに、化学的に酵素を固定化した。アミノフェロセン及び1.で得られたPoly(MPC-co-MHNS)を炭酸水素ナトリウム溶液に溶解し、37℃で一晩攪拌した。黒色の生成物(Gel/AFc)が得られた。当該生成物にGOD及びクロスリンカーとして1,4-ブタンジオール ジグリシジルエーテル(BDDE)を添加し、4℃で一晩攪拌してGel/AFc/GODを得た。当該生成物を攪拌しながら乾燥した後、4℃で保存した。
【0048】
5.電気化学的測定
上記4.で得られた化学的に酵素を固定化したハイドロゲル(Gel/AFc/GOD)の電気化学的応答を測定した。ハーフセル試験により、バイオアノードの電流密度およびGel/AFc/GODの安定性を調べた。また、ハーフセル試験により、ゲルの発電性能を検証した。測定は、参照電極としてAg/AgCl(3M NaCl)を有するPrinceton Applied Research VersaSTAT4ポテンシオスタットおよび対電極としてのPtワイヤを用いた。
【0049】
5-1.ハーフセル試験
上記4.で得られた化学的に酵素を固定化したハイドロゲル(Gel/AFc/GOD)を小片として切断し、グラッシーカーボン電極表面に直接設置した。得られたサイクリックボルタモグラムを図3に示す。その結果、グルコースの存在によって電流値が増大した。これは、電極において酵素(GOD)、メディエータ(AFc)および電極表面の間で電子移動が生じたことを示している。さらに、
また、AFcの初期酸化還元電位は約-0.09Vであるのに対して、ハイドロゲルへの固定化後は、酸化還元電位は約0.2Vまで上昇することが観察された。これは、ハイドロゲルとAFcとの間の化学的結合を裏付けるものである。
【0050】
5-2.フルセル試験
酵素固定化ハイドロゲル(Gel/AFc/GOD)の修飾の前に、グラッシーカーボン電極表面を2wt%のカーボンナノチューブで修飾した。その後、Gel/AFc/GODで修飾してアノードとした。当該バイオアノードを、カソードとしてPtワイヤと接続することによってグルコースバイオ燃料電池を構築した。50mMグルコースの存在下、PBS(pH7)中で測定を行った。
【0051】
得られた電圧&電力密度 -電流密度のグラフを図4に示す。この結果は、酵素固定化ハイドロゲル(Gel/AFc/GOD)が、グルコースバイオ燃料電池の電極に適用することができ、かつ高い電力密度を提供することを実証するものである。
【0052】
得られた24時間連続放電実験の電圧-時間のグラフを図5に示す。この結果は、ハイドロゲルがタンパク質やメディエータ化合物を効果的かつ安定に固定化できることを実証するものである。
図1
図2
図3
図4
図5