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特許7360249ポリマー被覆無機フィラー、及び、これを含む樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ポリマー被覆無機フィラー、及び、これを含む樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、電子部品
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/00 20060101AFI20231004BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20231004BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20231004BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20231004BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20231004BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C09C1/00
C08F8/30
C08F2/44 A
C08L101/00
C08K9/04
B32B27/20 Z
C09C3/10
C09D201/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019069020
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164743
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-081728(JP,A)
【文献】特開2002-338422(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084121(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/025045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
C08F 2/44,20/00
C08K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が修飾されていない無機粒子の表面が被覆ポリマーで被覆されたポリマー被覆無機フィラーであって、
前記被覆ポリマーは、ラジカル重合性モノマーが重合した重合体又は共重合体であり、
前記被覆ポリマーは、側鎖にウレタン結合を介して、有機官能基を有し、
前記有機官能基が、ベンジル基 、シクロヘキシル基、ブチル基、2-フェニルエチル基から選ばれるいずれか1種以上からなることを特徴とする、ポリマー被覆無機フィラー。
【請求項2】
前記被覆ポリマーは、前記無機粒子と、有機溶剤と、被覆ポリマーの原料となるラジカル重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤とを、含む処理溶液中において、重合された重合体又は共重合体であり、
前記ラジカル重合性モノマーの少なくとも1種類と、前記有機溶剤が以下の関係にあることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー被覆無機フィラー。
(ラジカル重合性モノマーのSP値)-(有機溶剤のSP値)≧0.5
【請求項3】
前記ラジカル重合性モノマーが、水酸基を含む(メタ)アクリルモノマーを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリマー被覆無機フィラー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー被覆無機フィラーを含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
基材上に、請求項4の硬化性樹脂組成物を塗布、乾燥してなる樹脂層を有することを特徴とする、ドライフィルム。
【請求項6】
請求項4の硬化性樹脂組成物又は請求項の樹脂層を、硬化してなることを特徴とする、硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物を備えることを特徴とする、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子の表面を、ポリマーで被覆したポリマー被覆無機フィラー、及び、これを含む樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ソルダーレジストや封止材等の電子材料においては、要求される熱寸法安定性や誘電特性を改善するために無機粒子が充填される。この際、無機粒子は、ソルダーレジストや封止材の主成分である樹脂に対する極性の違いから濡れ性が悪く、無機粒子を樹脂組成物中に均一に分散することが困難であり、求められる性能を得られないおそれがあり、無機粒子の表面を化学的に修飾して分散性を改善する検討が行われてきた。
【0003】
特許文献1には、予めシランカップリング剤を含むポリマーを調製し、無機粒子表面と結合させることで無機粒子表面にポリマーを導入し、前記分散性を改善する方法が提案されている。
【0004】
特許文献2には、シランカップリング剤を用いて、ポリマーの原料となるモノマーを無機粒子表面に導入し、モノマー中でリビングラジカル重合させることで、無機粒子表面にポリマーを導入して、前記分散性を改善する方法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、ポリマーの原料となるモノマーと、RAFT剤とを無機粒子表面に結合させ、ポリマーを成長させ、前記分散性を改善する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2008/101581号公報
【文献】特開2005-120365号公報
【文献】特開2016-180121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された方法によれば、前記分散性は改善される。しかしながら、予めシランカップリング剤を含むポリマーを調製する必要があり、手間とコストがかかるおそれがあった。
【0008】
特許文献2に記載された方法によっても、前記分散性は改善される。しかしながら、予め粒子表面に重合の開始点となるモノマーを導入する必要が有り、さらにin situで反応が進むため、モノマーの転化率が高くなりにくく、従って、大量のモノマーを配合する必要があるおそれがあり、手間とコストがかかるおそれがあった。
【0009】
特許文献3に記載された方法によっても、前記分散性は改善される。しかしながら、RAFT剤は高額であり、さらにRAFT重合は、酸素のない雰囲気下での製造となる等製造上の手間がかかるなど、手間とコストがかかるおそれがあった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、樹脂中又は有機溶剤中での分散性に優れ、安価で、製造効率が高く、さらに種々の官能基の導入が容易であるポリマー被覆無機フィラーと、これを含む硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意検討するなかで、特定の被覆ポリマーで無機粒子を被覆し、さらに、前記被覆ポリマーの側鎖にウレタン結合を介して、種々の官能基を導入した無機粒子が、安価で、製造効率が高く、容易に、様々な特性や機能を持たせることが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
無機粒子の表面が被覆ポリマーで被覆されたポリマー被覆無機フィラーであって、
前記被覆ポリマーは、ラジカル重合性モノマーが重合した重合体又は共重合体であり、
前記被覆ポリマーは、側鎖にウレタン結合を介して、有機官能基を有していることを特徴とする、ポリマー被覆無機フィラーを提供する。
【0013】
本発明のポリマー被覆無機フィラーは、前記被覆ポリマーが、無機粒子と、有機溶剤と、被覆ポリマーの原料となるラジカル重合性モノマーと、ラジカル重合開始剤とを、含む処理溶液中において、前記無機粒子の表面の一部又は全部に吸着したラジカル重合性モノマーを開始点として、共重合された共重合体であり、
前記ラジカル重合性モノマーの少なくとも1種類と、前記溶有機溶剤が以下の関係にあることを特徴とするポリマー被覆無機フィラーとしてもよい。
(ラジカル重合性モノマーのSP値)-(有機溶剤のSP値)≧0.5
【0014】
本発明のポリマー被覆無機フィラーは、前記ラジカル重合性モノマーが、水酸基を含む(メタ)アクリルモノマーを含むことを特徴とするポリマー被覆無機フィラーとしてもよい。
【0015】
また、本発明は、前記ポリマー被覆無機フィラーを含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物を提供する。
【0016】
また、本発明は、硬化性樹脂組成物が、基材上に、塗布、乾燥してなる樹脂層を有することを特徴とする、ドライフィルムを提供する。
【0017】
また、本発明は、前記硬化性樹脂組成物又は前記樹脂層が、硬化してなることを特徴とする、硬化物を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記硬化物を備えることを特徴とする、電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、安価で、製造効率が高く、容易に、様々な特性や機能を持たせることが可能となるポリマー被覆無機フィラーと、これを含む硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、電子部品を提供するポリマー被覆無機フィラーポリマー被覆無機フィラーことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
なお、説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0021】
本発明において、(メタ)アクリレートと記載された場合は、メタクリレート、アクリレート、又は、メタクリレートとアクリレートの混合物を示す。
【0022】
また、本発明において無機粒子とは、特に断らない限り、その表面がカップリング剤などのいかなる修飾処理も施されていない無機粒子のことを意味する。
【0023】
本発明において、用いられるラジカル重合性モノマーと有機溶剤のSP値は、Fedorsの方法により算出することができる。
【0024】
<<<ポリマー被覆無機フィラー>>>
本発明にかかるポリマー被覆無機フィラーは、無機粒子の表面が被覆ポリマーで被覆されている。ここで無機粒子の表面が被覆ポリマーで「被覆されている」とは、無機粒子の表面の一部又は全部が被覆ポリマーで被覆されていればよく、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により被覆の有無、熱重量示唆熱分析(TG/DTA)により被覆量を分析することができる。この被覆ポリマー被覆無機粒子は、樹脂中や有機溶剤中での分散性の観点からは、無機粒子に対して1.5質量%以上の被覆ポリマー被覆をされていることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる被覆ポリマーは、ラジカル重合性モノマーが重合した重合体又は共重合体である。
【0026】
本発明にかかる被覆ポリマーは、側鎖にウレタン結合を介して、有機官能基を有している。
【0027】
前記被覆ポリマーは、無機粒子と、有機溶剤と、前記ポリマーの原料となるラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーを重合させるラジカル重合開始剤とを含む処理溶液中において、前記ラジカル重合性モノマーが、前記無機粒子表面に吸着し、無機粒子表面上で重合することで形成される。ここで、ポリマーとは、ラジカル重合性モノマーが重合したものであり、ポリマーとしての重合度は、ラジカル重合性モノマー、有機溶剤、ラジカル重合開始剤、無機粒子の各成分の種類と配合量、反応温度、反応時間、撹拌処理等により調整することができる。
【0028】
また、本発明にかかるラジカル重合性モノマーのSP値と、有機溶剤のSP値とが、以下の関係にある。
(ラジカル重合性モノマーのSP値)-(有機溶剤のSP値)≧0.5
【0029】
このような関係にあると、ラジカル重合性モノマーと有機溶剤との相溶性が悪くなり、その結果、ラジカル重合性モノマーは、一般的に有機溶剤より親水性である無機粒子の表面に効率よく吸着されると考える。
【0030】
また、前記ポリマーは、単独のラジカル重合性モノマーの重合体又は複数種類のラジカル重合性モノマーの共重合体とすることができる。共重合体とする場合には、前記溶液中に、複数のラジカル重合性モノマーが含まれる。前記共重合体としては、特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ブロック-グラフト共重合等とすることができる。
【0031】
<無機粒子>
本発明において用いられる無機粒子は、その表面が修飾されていない無機粒子を意味するが、有機溶剤に比べて親水性が低い場合には、親水化処理することが好ましい。
【0032】
一般的に、表面が修飾されていない無機粒子は、その表面の極性が十分に高く、併用される有機溶剤に比べて親水性のものであれば、特に限定されない。このような無機粒子としては、例えば、シリカ、結晶性シリカ、ノイブルグ珪土、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ガラス粉末、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、天然マイカ、合成マイカ、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化鉄、非繊維状ガラス、ハイドロタルサイト、ミネラルウール、アルミニウムシリケート、カルシウムシリケート、ジルコン酸カルシウム、酸化亜鉛、はんだ粒子、銀粉、銅粉等の無機粒子を用いることができる。中でも、ソルダーレジストや封止材等の電子材料においては、熱寸法安定性や誘電特性に優れるシリカや、熱伝導性に優れる酸化アルミニウム、窒化ホウ素等を用いることが好ましい。また、シリカや酸化アルミニウムとしては、組成物中への充填性を向上させる観点から、球状シリカ、ジルコン酸カルシウム、球状酸化アルミニウムであることがより好ましい。
【0033】
この無機粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、10nm~20000nm、好ましくは20nm~10000nm、より好ましくは50nm~5000nmとすることができる。無機粒子の平均粒径は、レーザー回折法により測定されたD50の値とすることができる。レーザー回折法による測定装置としては、マイクロトラック・ベル社製のMicrotrac MT3300EXIIが挙げられる。
【0034】
<被覆ポリマー>
本発明にかかる被覆ポリマーは、ラジカル重合性モノマーが重合した重合体又は共重合体である。
【0035】
本発明にかかる被覆ポリマーは、側鎖にウレタン結合を介して、有機官能基を有している。
【0036】
本発明にかかる被覆ポリマーの側鎖にウレタン結合を介して、有機官能基を有する重合体又は共重合体である被覆ポリマーを得る方法としては、水酸基を含むラジカル重合性モノマーを重合させたのち、イソシアネート基を有する化合物と反応させてウレタン結合を介して有機官能基を有する被覆ポリマーを得る方法が挙げられる。
【0037】
<<<ポリマー被覆無機フィラーの製造方法>>>
以下には、本発明のポリマー被覆無機フィラーの製造方法について詳述する。
<<原料>>
<有機溶剤>
本発明において用いられる有機溶剤は、本発明のSP値の数値関係を満たす限りにおいて特に限定されない。有機溶剤は通常、疎水性を示し、そのSP値は7.0~12.0の範囲にあり、例えば、SP値が7.2~10.0のものが好適であり、SP値が7.5~9.5のものがより好適であり、SP値が8.0~9.2のものがさらに好適である。
【0038】
具体的には、有機溶剤として、トルエン(SP値9.14)、メチルエチルケトン(SP値9.9)、PMA(SP値9.25),酢酸エチル(SP値9.1)、カルビトールアセテート(SP値9.98)、シクロヘキサノン(SP値8.56)、アセトン(SP値10.0)、1-プロパノール(SP値11.84)等を挙げることができる。これらは単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。中でも、トルエン及び酢酸エチルは、ラジカル重合反応を妨げ無いことから好ましい。
【0039】
また、複数の有機溶剤を混合して用いる場合のSP値は、以下の式に従って計算することができる。以下の式は二つの有機溶剤を混合する場合の計算式である。
δsm=Xs1×δs1+(1-Xs1)×δs2
式中のδsmは混合溶剤のSP値、δs1は有機溶剤1のSP値、δs2は有機溶剤2のSP値、Xs1は有機溶剤1のモル分率を意味する。
【0040】
前記有機溶剤の処理溶液中での配合量は、無機粒子の配合量を100質量部としたときに、100質量部~500質量部とすることが好ましい。有機溶剤の配合量がかかる範囲にあることで、無機粒子表面にラジカル重合性モノマーを溶解した有機溶剤が行き渡り、効率よく被覆することが可能となる。
【0041】
<ラジカル重合性モノマー>
本発明において用いられるラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性反応基を有するモノマーであり、本発明におけるSP値の数値関係を満たす限りにおいて、特に限定されない。このようなSP値の数値関係を満たすことでラジカル重合性モノマーは一緒に配合される有機溶剤より親水性を示し、相溶性も低くなることで、親水性を示す無機粒子に効率よく吸着される。このようなラジカル重合性モノマーとしては、例えば、SP値が9.0~15.0であるものを用いることができ、SP値が9.5~13.5であるものが好適である。
【0042】
ここで、ラジカル重合性反応基としては特に限定されず、例えば、ビニル基、アリル基、アルケニル基、アルキレン基等を挙げることができ、ラジカル重合性モノマーは、かかる重合性反応基を少なくとも1種類含むものであれば良い。
【0043】
また、このラジカル重合性モノマーは、構造中に水酸基を有する。そのため、ラジカル重合性モノマーが重合した重合体又は共重合体で被覆された無機粒子の表面には水酸基が存在し、イソシアネート基を有する化合物と容易に反応して、修飾することが可能であるため、種々の官能基を導入することができ、ポリマー被覆無機フィラーの用途等によって、容易に、様々な特性や機能を持たせることが可能となる。
【0044】
このようなラジカル重合性モノマー(SP値)としては、水酸基を含む(メタ)アクリルモノマーが好ましく、例えば、アクリル酸、2-ヒドロキシエチルアクリレート(SP値12.45)、4-ヒドロキシブチルアクリレート(SP値11.64)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(SP値11.83)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(SP値10.80)、4-ヒドロキシブチルメタクリレート(SP値10.59)、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(SP値10.80)等を挙げることができる。これらは単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。なお、複数を組み合せて用いた場合には、無機粒子を被覆するポリマーは、共重合体となる。
【0045】
また、さらに、エポキシ基、グリシジル基、オキシラン基、オキセタン基等の環状エーテル基を含むラジカル重合性モノマーを構造中に水酸基を有するラジカル重合性モノマーと組み合わせて用いることもできる。かかるラジカル重合性モノマーが用いられた場合には、無機粒子を被覆するポリマー中に、環状エーテル基が存在することになる。このため、得られるポリマー被覆無機フィラーは、環状エーテル基と反応する水酸基などの活性水素を含む樹脂等とを反応させることが可能となる。従って、硬化物として様々な特性や機能を持たせることが可能となる。
【0046】
このようなラジカル重合性モノマー(SP値)としては、アクリル酸、2-ヒドロキシエチルアクリレート(SP値12.45)、4-ヒドロキシブチルアクリレート(SP値11.64)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(SP値11.83)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(SP値9.99)、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(SP値9.99)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(SP値10.80)、4-ヒドロキシブチルメタクリレート(SP値10.59)、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(SP値10.80)、グリシジルメタクリレート(SP値10.21)等を挙げることができる。これらは単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。なお、複数を組み合せて用いた場合には、無機粒子を被覆するポリマーは、共重合体となる。
【0047】
なお、複数のモノマーを混合して用いる場合には、下式を満たすラジカル重合性モノマーが、少なくとも1種類含まれていればよい。下式を満たすラジカル重合性モノマーが1つ以上含まれている場合には、他のモノマーが下式を満たさない場合においても、下式を満たすラジカル重合性モノマーが優先的に無機粒子表面に吸着し、吸着したモノマーを開始点としてポリマーが形成され、無機粒子を被覆することができる。
(ラジカル重合性モノマーのSP値)-(有機溶剤のSP値)≧0.5
【0048】
ラジカル重合性モノマーの処理溶液中での配合量は、無機粒子の配合量を100質量部としたときに、0.5質量部~15質量部であり、1質量部~10質量部が好ましく、1.5質量部~7.5質量部がより好ましい。前記モノマーの配合量が、かかる範囲にあることで、無機粒子表面の被覆が可能となる。
【0049】
<ラジカル重合開始剤>
本発明において用いられるラジカル重合開始剤は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されず、光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤等を用いることができる。ラジカル重合開始剤は、熱や紫外線により活性種(フリーラジカルとも称す)を発生し、前記ラジカル重合性モノマーを重合反応させ、ポリマーを容易に形成することができる。ラジカル重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0050】
熱ラジカル重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、アゾ系重合開始剤(例えば、2,2´-アゾビスイソブチロニトリル、2,2´-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4´-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、2,2´-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´-アゾビス(N,N´-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等);過酸化物系重合開始剤(例えば、ジベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルマレエート、過酸化ラウロイル等);レドックス系重合開始剤等が挙げられる。
【0051】
光ラジカル重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等を挙げることができる。
【0052】
具体的には、ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン[商品名:Omnirad651、IGM Resins社製]、アニソイン等が挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[商品名:Omnirad184、IGM Resins社製]、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン[商品名:Omnirad2959、IGM Resins社製]、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン[商品名:Omnirad1173、IGM Resins社製]、メトキシアセトフェノン等が挙げられる。α-ケトール系光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエチル)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤としては、例えば、2-ナフタレンスルホニルクロライド等が挙げられる。光活性オキシム系光重合開始剤としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)-オキシム等が挙げられる。
【0053】
また、ベンゾイン系光重合開始剤には、例えば、ベンゾイン等が含まれる。ベンジル系光重合開始剤には、例えば、ベンジル等が含まれる。ベンゾフェノン系光重合開始剤には、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3´-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が含まれる。ケタール系光重合開始剤には、例えば、ベンジルジメチルケタール等が含まれる。チオキサントン系光重合開始剤には、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等が含まれる。
【0054】
アシルフォスフィン系光重合開始剤としては、例えば、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-n-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(1-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-t-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)シクロヘキシルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)オクチルホスフィンオキシド、ビス(2-メトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2-メトキシベンゾイル)(1-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジエトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジエトキシベンゾイル)(1-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジブトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4-ジメトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)(2,4-ジペントキシフェニル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルプロピルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルエチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルプロピルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルエチルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルベンジルブチルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルベンジルオクチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジイソプロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2-メチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-4-メチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジエチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,3,5,6-テトラメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4-ジ-n-ブトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)イソブチルホスフィンオキシド、2,6-ジメチトキシベンゾイル-2,4,6-トリメチルベンゾイル-n-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4-ジブトキシフェニルホスフィンオキシド、1,10-ビス[ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド]デカン、トリ(2-メチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、などが挙げられる。
【0055】
ラジカル重合開始剤の処理溶液中での配合量は、ラジカル重合性モノマーの配合量を100質量部としたときに、0.1質量部~6質量部であることが好ましい。前記重合開始剤の配合量が、かかる範囲にあることで、光重合開始剤が紫外線を吸収する阻害効果が抑制され、ポリマーの分子長が十分に得られることによりポリマーが無機粒子の表面から剥離し難くなり、効率よく無機粒子表面を被覆することが可能となる。
【0056】
<イソシアネート化合物>
本発明において用いられるイソシアネート化合物は、前記ラジカル重合性モノマーが重合した重合体又は共重合体で被覆された無機粒子の表面に存在する水酸基と反応する。イソシアネート化合物としては、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されず、有機化合物の末端にイソシアネート基を有する化合物であればよい。さらに別の末端に、反応性の官能基(有機官能基)を含むものであれば、それら官能基を利用して、ポリマー被覆無機フィラーを、容易に、さらに修飾することが可能となる。このような有機官能基は、反応性を有していれば特に問題ないが、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)クリル基、イソシアネート基、エポキシ基、グリシジル基、オキシラン基、オキセタン基等を挙げることができる。エポキシ基、グリシジル基、オキシラン基、オキセタン基等の環状エーテル基を含むイソシアネート化合物が用いられた場合には、無機粒子を被覆するポリマー中に、環状エーテル基が存在することになる。このため、得られるポリマー被覆無機フィラーは、環状エーテル基と反応する水酸基やアミノ基などの活性水素を含むモノマー等で容易に修飾することが可能となる。従って、ポリマー被覆無機フィラーの用途等によって、容易に、様々な特性や機能を持たせることが可能となる。
【0057】
イソシアネート化合物としては、例えば、ベンジルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、2-フェニルエチルイソシアネート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、2-イソシアナト-1-メチルエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナト-1,1-ジメチルエチル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトシクロヘキシル(メタ)アクリレート、メタクリロイルイソシアネート、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0058】
イソシアネート化合物の配合量は、水酸基を含むラジカル重合性モノマーが重合又は共重合された重合体又は共重合体の水酸基当量に対し、イソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基当量の比(前記水酸基当量/イソシアネート基当量)は、特に限定されないが、例えば、0.1~10とすることができ、0.5~2が好ましく、0.7~1.4がより好ましい。
【0059】
また、イソシアネート化合物をラジカル重合性モノマーが重合した重合体又は共重合体で被覆された無機粒子の表面に存在する水酸基と反応させる際には、触媒をもちいることができる。具体的には、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の強塩基、ジブチルチンジラウレート等の錫触媒が挙げられる。
【0060】
<<ポリマー被覆無機フィラーの製造方法の好適例>>
本発明のポリマー被覆無機フィラーの製造方法の好適例は、有機溶剤と、被覆ポリマーの原料となるラジカル重合性モノマーと、該モノマーを重合させるラジカル重合開始剤と、を含む処理溶液中に無機粒子を浸漬し、好ましくは撹拌することで、前記無機粒子の表面に前記ラジカル重合性モノマーを吸着させる工程を含む点に一の特徴がある。
【0061】
特に、この工程において、前記ラジカル重合性モノマーのうち少なくとも1種類のモノマーと、前記有機溶剤とが、SP値で以下の関係にあることを最大の特徴とする。
(ラジカル重合性モノマーのSP値)-(有機溶剤のSP値)≧0.5
このような関係にあると、ラジカル重合性モノマーと有機溶剤との相溶性が悪くなり、その結果、ラジカル重合性モノマーは、一般的に有機溶剤より親水性である無機粒子の表面に効率よく吸着されると考える。
【0062】
ここで、本発明において、撹拌方法(条件を含む)は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。特に、撹拌温度(処理溶液の温度)の調整は、ラジカル重合性モノマーの無機粒子表面への吸着効率を調整できる点で、重合反応を効率良くに行うことに有効である。
【0063】
本発明において、SP値の上記数値関係は、無機粒子の表面をラジカル重合性モノマーの重合により有機ポリマー被覆するための処理溶液中での、有機溶剤とラジカル重合性モノマーとの親和性(濡れ性とも称す)の関係を意味しており、該成分同士のSP値の差が小さいことは、その成分間における親和性が高いことを表している。また、水のSP値は有機溶剤やラジカル重合性モノマーに比べて大きい(水のSP値:23.4)ことから、SP値が高いことは親水性が高いことも表している。
【0064】
従って、本発明における上記処理溶液中では、無機粒子の表面に前記ラジカル重合性モノマーを効率よく吸着させるために、ラジカル重合性モノマーと有機溶剤との親和性を悪くする一方で、ラジカル重合性モノマーと無機粒子との親和性を良くすることが重要であり、SP値の関係では、ラジカル重合性モノマーのSP値と有機溶剤のSP値において、ラジカル重合性モノマーのSP値が大きく、かつ、SP値の差を0.5以上とすることが必要である。
【0065】
このようなSP値の数値関係によれば、無機粒子の表面を被覆するラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、有機溶剤、無機粒子を混合した処理溶液中で、無機粒子の表面にラジカル重合性モノマーが効率よく吸着され、ラジカル重合性モノマーと有機溶剤の分離や無機粒子の凝集といった不具合が生じない。さらに後述するように、上記処理溶液中に配合するラジカル重合開始剤によりラジカル重合性モノマーを重合させる際、無機粒子の表面に吸着されたラジカル重合性モノマーが優先的に重合するため、無機粒子の表面に良好な有機ポリマーからなる被膜を効率よく形成することができるものと推察する。
【0066】
また、本発明のポリマー被覆無機フィラーの製造方法は、前記工程にて無機粒子に吸着させたラジカル重合性モノマーを、ラジカル重合開始剤に、より好ましくは熱又は紫外線を加えることで、重合させる工程を含む点に一の特徴がある。これにより、無機粒子表面に有機ポリマーの被膜を形成し、さらにイソシアネート基を有する化合物を混合、反応させることで、本発明のポリマー被覆無機フィラーを得ることができる。
【0067】
このようにして得られたポリマー被覆無機フィラーは、処理溶液中から取出して乾燥した状態で用いても良いし、前記処理溶液中に分散した状態で用いても良い。乾燥した状態で用いる場合には、公知の方法でろ過するなどして、ポリマー被覆無機フィラーを分離する。分離後、ポリマー被覆無機フィラーを有機溶剤等で洗浄し、未反応のモノマーや、無機粒子表面と結合していないポリマーを、取り除き、所定の温度に加熱して乾燥することができる。乾燥方法は、乾燥炉などの公知の方法を用いて行うことができる。
【0068】
このように、本発明のポリマー被覆無機フィラーは、安価なラジカル重合反応及び水酸基とイソシアネートの付加反応により、生成が可能であり、生産効率が高い。
【0069】
<<<硬化性樹脂組成物>>>
本発明のポリマー被覆無機フィラーは、硬化性樹脂、硬化剤、硬化触媒等を配合してなる硬化性樹脂組成物に含むことができる。本発明のポリマー被覆無機フィラーは、硬化性樹脂組成物中で、優れた分散性を示す。また、硬化性樹脂組成物や、その硬化物の用途等によって、配合されるラジカル重合性モノマーやイソシアネート化合物に様々な官能基を含ませることで、硬化性樹脂組成物やその硬化物が、容易に、優れた接着性、耐薬品性及び耐熱性、低熱膨張性、高破断伸び(高靭性)、低硬化収縮性、低誘電正接率といった様々な特性や機能を有することが可能となる。
【0070】
本発明の硬化性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のポリマー被覆無機フィラーを、硬化性樹脂、硬化剤、硬化触媒等と配合し、ホモジナイザー等で撹拌することで、本発明の硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0071】
<<<ドライフィルム>>>
本発明にかかるドライフィルムは、上述した硬化性組成物を基材に塗布又は含侵し、乾燥して得られる樹脂層である。
【0072】
ここで基材とは、銅箔等の金属箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のフィルム、ガラスクロス、アラミド繊維等の繊維が挙げられる。
【0073】
ドライフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に硬化性組成物を塗布乾燥させ、必要に応じてポリプロピレンフィルムを積層することにより得られる。
【0074】
<<<硬化物>>>
硬化物は、上述した硬化性組成物(ドライフィルムに含まれる樹脂層を含む)を硬化することで得られる。
【0075】
硬化性組成物から硬化物を得るための方法は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成に応じて適宜変更可能である。一例として、上述したような基材上に硬化性組成物の塗工(例えば、アプリケーター等による塗工)を行う工程を実施した後、必要に応じて硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を実施し、加熱(例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、真空オーブン、真空プレス機等による加熱)により硬化性樹脂と硬化剤を熱架橋させる熱硬化工程を実施すればよい。なお、各工程における実施の条件(例えば、塗工厚、乾燥温度及び時間、加熱温度及び時間等)は、硬化性組成物の組成や用途等に応じて適宜変更すればよい。
【0076】
<<<電子部品>>>
このような硬化物は、優れた、接着性、耐薬品性及び耐熱性、低熱膨張性、高破断伸び(高靭性)、低硬化収縮性、低誘電正接率を有するため、電子部品用等に使用可能である。特に、層間絶縁膜やソルダーレジストドライフィルムとしてプリント配線板に用いられる。
【0077】
<<<ポリマー被覆無機フィラーの用途>>>
本発明のポリマー被覆無機フィラーは、樹脂中に充填する充填剤として用いることができる。特に、配線板や電子部品に用いられる封止材等の硬化性樹脂組成物や、ドライフィルムを構成する硬化性樹脂組成物からなる樹脂層に充填することで、それら硬化性樹脂組成物及びドライフィルムの樹脂層を硬化してなる硬化物の熱寸法安定性や誘電特性を向上させることができる。
【実施例
【0078】
(実施例1)
・原料
無機粒子1:シリカ粒子、平均粒径500μm(株式会社アドマテックス社製SQ-C6)、15g
有機溶剤:トルエン(富士フィルム和光純薬製、SP値9.14)、36g
水酸基を含むラジカル重合性モノマー1:2-ヒドロキシエチルアクリレート、SP値12.45、0.3g
ラジカル重合開始剤:アゾ重合開始剤(富士フィルム和光純薬製V65)、54mg
イソシアネート化合物:ベンジルイソシアネート(東京化成工業社製)、3.9g
・製造方法
上記原料のトルエン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アゾ重合開始剤を容器に計り取り、撹拌して処理溶液を準備し、次いで、別に計量した上記原料のシリカ粒子を処理溶液中に浸漬し、窒素雰囲気下、60℃で、20時間反応させた。次いで、別に計量した上記原料のイベンジルイソシアネートを加え、撹拌しながら、65℃で、7時間反応させた。その後、ろ過により反応物を取り出し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(三共化学株式会社製)により洗浄を行い、残留しているモノマー、イソシアネート化合物、無機粒子表面を被覆していないポリマーを完全に除去したのち、80℃の乾燥炉内で5時間乾燥させ、実施例1のポリマー被覆無機フィラーを得た。なお、該ポリマー被覆無機フィラーをFT-IR測定することによりカルボニル基由来のピークとウレタン結合由来のピークを確認し、無機粒子が、2-ヒドロキシエチルポリマーにより被覆され、さらにベンジルイソシアネートが反応していることを確認した。
【0079】
実施例2~4、参考例5~6
実施例1のイソシアネート化合物を表1に記載のイソシアネート化合物に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例2~4及び参考例5~6のポリマー被覆無機フィラーを得た。
【0080】
実施例7~10、参考例11~12
実施例1の水酸基を含むラジカル重合性モノマー、イソシアネート化合物を表1及び表2に記載の水酸基を含むラジカル重合性モノマー、イソシアネート化合物に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例7~10及び参考例11~12のポリマー被覆無機フィラーを得た。
【0081】
実施例13~16、参考例17~18
実施例1の無機粒子、イソシアネート化合物を表2に記載の無機粒子、イソシアネート化合物に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例13~16及び参考例17~18のポリマー被覆無機フィラーを得た。
【0082】
(比較例1~3)
比較例1~3は、表2に記載の配合を、イソシアネート化合物を添加しない以外は、実施例1、7、13と同様にして、比較例1~3のポリマー被覆無機フィラーを得た。
【0083】
(分散性評価)
評価基準は以下の様にした。表面被覆粒子1mgを5mLバイアルに量り取り、表1記載の溶媒を5mL加えた。30分超音波処理を行った後、静置し分散安定性の評価を行った。評価基準は以下とした。
〇:分散性良好であり1時間静置後に沈殿が見られない。
△:静置後30分で沈殿が発生。
×:静置後10分以内に沈殿が発生。
結果を表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】
・無機粒子
SiO: アドマテックス社製 SQ-C6
CaZrO: 堺化学工業社製 CZ-03
・有機溶剤
トルエン:富士フィルム和光純薬工業社製
・水酸基を有するラジカル重合性モノマー
2-ヒドロキシエチルアクリレート: 東京化成工業社製
4-ヒドロキシブチルアクリレート: 東京化成工業社製
・重合開始剤
V-65: 富士フィルム和光純薬工業社製 2,2‘-アゾビス2,4-ジメチルバレロニトリル
・イソシアネート化合物
ベンジルイソシアネート: 東京化成工業社製
2―フェニルエチルイソシアネート: 東京化成工業社製
シクロヘキシルイソシアネート: 東京化成工業社製
ブチルイソシアネート: 東京化成工業社製
2-イソシアナトエチルアクリレート: 東京化成工業社製
2-イソシアナトエチルメタクリレート: 東京化成工業社製
・分散性試験
CA: カルビトールアセテート、東京化成工業社製
PMA: プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、東京化成工業社製
アセトン: 東京化成工業社製
【0086】
(硬化物評価)
<硬化性樹脂組成物の調製>
・原料
フィラー1:実施例1のポリマー被覆無機フィラー
フィラー2:実施例2のポリマー被覆無機フィラー
フィラー3:実施例3のポリマー被覆無機フィラー
フィラー4:実施例4のポリマー被覆無機フィラー
フィラー5:実施例7のポリマー被覆無機フィラー
フィラー6:実施例8のポリマー被覆無機フィラー
フィラー7:実施例9のポリマー被覆無機フィラー
フィラー8:実施例10のポリマー被覆無機フィラー
フィラー9:実施例13のポリマー被覆無機フィラー
フィラー10:実施例16のポリマー被覆無機フィラー
フィラー11:比較例1のポリマー被覆無機フィラー
フィラー12:比較例2のポリマー被覆無機フィラー
フィラー13:比較例3のポリマー被覆無機フィラー
エポキシ樹脂:JER828(ビスフェノールA型エポキシ、エポキシ当量:190) 三菱ケミカル社製
硬化剤:KAYAHARD A-A日本化薬社(株)製
硬化触媒1:2E4MZ(2-エチル-4-メチルイミダゾール)四国化成工業(株)製
溶剤:シクロヘキサノン
【0087】
・硬化性樹脂組成物の調製方法
実施例A~N、及び、比較例A~Fの硬化性樹脂組成物は、下記の表3及び表4中の記載に従って、各成分を配合撹拌後、3本ロールミルにより混錬し、各硬化性樹脂組成物を調製した。表3及び表4中の数値は、質量部を示す。
【0088】
<熱膨張率>
厚さ18μmの銅箔に、アプリケーターを用いて硬化後の膜厚が55μmとなるように各実施例及び比較例の組成物を塗布し、熱風循環式乾燥炉にて80℃で20分間乾燥させた後、熱風循環式乾燥炉にて180℃30分加熱して硬化させ、銅箔から剥がして、各組成物の硬化物からなるフィルムサンプルを得た。得られたフィルムサンプルを、3mm幅×30mm長にカットし、熱膨張率測定用試験片とした。
【0089】
この試験片について、ティー・エイ・インスツルメント社製TMA(Thermomechanical Analysis)Q400を用いて、引張モードで、チャック間16mm、荷重30mN、窒素雰囲気下、20~250℃まで5℃/分で昇温し、次いで、250~20℃まで5℃/分で降温し、熱膨張率(ppm/K)を測定した。結果を表3及び表4に示した。
【0090】
<引張破断伸び及び破断応力>
実施例A~N及び比較例A~Fの組成物について、熱膨張率評価において作製した各組成物の硬化物からなるフィルムサンプルを、5mm×10cmに裁断して引張破断伸び及び強度測定用試験片を作製した。この試験片について、島津製作所製小型卓上試験機EZ-SXを用い、引張速度10mm/分にて引張破断応力[MPa]と引張破断伸び(最大歪)[%]を測定した。その結果を下記の表3及び表4に示した。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
(評価結果)
本発明のポリマー被覆無機フィラーが、安価で、生産効率の高い方法で製造が可能であり、また、評価結果から有機溶剤中での分散性に優れることが理解できる。