(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】真空処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20231004BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01L21/302 101M
C23C16/44 B
(21)【出願番号】P 2019205132
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣實 一幸
【審査官】船越 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06050446(US,A)
【文献】特開2017-038002(JP,A)
【文献】特開2007-250568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/67-21/683
H01L 21/86
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が処理される処理室と、
前記試料が内部に保持される筐体と、
上蓋と、
前記筐体の端部を開放する開放位置と、前記筐体の端部を遮蔽する遮蔽位置との間で前記上蓋を枢動可能に支持するヒンジ機構と、を備え、
前記ヒンジ機構は、前記筐体の軸線方向に前記上蓋を変位可能に保持
し、
前記ヒンジ機構は、前記上蓋に設けられた穴に嵌合するヒンジ軸と、前記筐体に設けられ前記ヒンジ軸を保持する長穴ヒンジ穴とを具備し、
前記ヒンジ軸は、前記長穴ヒンジ穴の断面長手方向に変位可能であることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の真空処理装置において、
前記上蓋と前記筐体との間に真空シール部材が配置され、
前記ヒンジ軸が前記長穴ヒンジ穴の上端に位置するときの中心位置と、前記ヒンジ軸が前記長穴ヒンジ穴の下端に位置するときの中心位置との間の中心間距離は、前記真空シール部材の潰し代と同じである、または前記潰し代より小さいことを特徴とする真空処理装置。
【請求項3】
請求項
1または請求項
2に記載の真空処理装置において、
前記ヒンジ機構は、前記ヒンジ軸を前記長穴ヒンジ穴の上端に向かって付勢するバネ機構をさらに具備することを特徴とする真空処理装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の真空処理装置において、
前記バネ機構は、前記上蓋の重量と同じ重量または前記上蓋の重量以上の重量を支持できる付勢力を有することを特徴とする真空処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項
4のいずれか一項に記載の真空処理装置において、
閉じた状態の前記上蓋を前記筐体の軸線を挟んで前記ヒンジ機構とは反対側に支持するバネ受け機構をさらに具備することを特徴とする真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子を用いた機器が普及するにつれて価格競争が激化し、半導体処理装置自体の製造コスト低減までも求められるようになってきた。また、半導体処理装置の大きさにより設置時に占有する敷地面積が左右されることから、半導体処理装置の大きさを運用コストの一部ととらえ、低価格のみならず省スペースで高稼働率の半導体処理装置が求められているという実情がある。
【0003】
こうした要求を満たすため、特許文献1には、処理室の開閉蓋を開閉することができるヒンジ機構を採用した試料処理装置が開示されている。このようなヒンジ機構を用いることで、試料処理装置の敷地面積を小さくするとともに、メンテナンス性を向上し高稼働率を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1、
図2に従来のヒンジ機構を採用した真空処理装置の概略断面図を示す。
図1において、筐体11と上蓋15がヒンジ機構14により連結されている。ヒンジ機構14は、筐体11と上蓋15にそれぞれ備えられた突片に形成された孔にヒンジ軸を挿通(嵌合)してなり、該孔がヒンジ軸に対して摺動することで、筐体11に対して上蓋15が開閉可能となっている。筐体11と上蓋15との端部間には、全周にわたって真空シール部材19が配置されており、
図2に示すように筐体11に対して上蓋15を閉じたときに、内部に真空処理室(処理室ともいう)が形成される。
図1に示すヒンジ機構14を採用した装置では、ヒンジ機構14の支持部品が筐体11の一部を構成する。
【0006】
ここで、上蓋15を閉じたときに筐体11との隙間Sが均等でないと、真空シール部材19の潰れ量が不均一となり気体漏れが生じるおそれがある。そこで、真空処理室の真空度を確保するために、上蓋15を閉じた時に真空シール部材19が均一に潰れるようヒンジ機構14の高さを調整できる機構(不図示)が設けられている。この機構を用いて真空処理装置組み立て工程においてヒンジ機構の高さ方向を調整する。しかしながら、ヒンジ機構の高さ方向の調整が難しいという問題がある。
【0007】
さらに従来の装置では、ヒンジ機構14を支持するヒンジ軸が真空処理室の片側にしかないため、
図2に示すようにヒンジ軸を最適位置より上方に調整してしまうと、上蓋15と筐体11との隙間が不均一となってしまう。このため、真空処理室内の真空度が悪化したり、最悪の場合、真空を維持できないおそれがある。このような不具合は、ヒンジ機構の調整や部品の交換などで解消できるが、それにより製造工数の増大や交換部品の増加を招き、製造コストの増加につながる。
【0008】
また前述したように、ヒンジ機構14により開閉される部分は上蓋15であるから、ヒンジ機構14の調整が適切でなければ、筐体11に対して上蓋15が傾いてしまう。特に、半導体の加工ではウエハと呼ばれる円盤状の基板にエッチング処理を施し、ウエハから多くのチップを生成する。より多くのチップを取り出すためには、圧力、ガス濃度などの条件をウエハ面内で厳密に同一条件とすることが望ましく、従って筐体11と上蓋15とで形成される真空処理室は、ウエハ中心に同軸の円筒状で構成されることが望ましい。
【0009】
そのため、上記の理由で筐体11に対して上蓋15が傾いてしまうと、真空処理室の同軸性が損なわれ、ウエハ面内で均一処理ができなくなるおそれがある。微細化が促進されている半導体デバイスにおいて、このような真空処理室の同軸性悪化が生じると、チップ取得のための歩留まり悪化が増大する懸念がある。
【0010】
上記課題を解決するために、代表的な本発明にかかる真空処理装置の一つは、
試料が処理される処理室と、
前記試料が内部に保持される筐体と、
上蓋と、
前記筐体の端部を開放する開放位置と、前記筐体の端部を遮蔽する遮蔽位置との間で前記上蓋を枢動可能に支持するヒンジ機構と、を備え、
前記ヒンジ機構は、前記筐体の軸線方向に前記上蓋を変位可能に保持し、
前記ヒンジ機構は、前記上蓋に設けられた穴に嵌合するヒンジ軸と、前記筐体に設けられ前記ヒンジ軸を保持する長穴ヒンジ穴とを具備し、
前記ヒンジ軸は、前記長穴ヒンジ穴の断面長手方向に変位可能であることにより達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、代表的な本発明にかかる真空処理装置の一つは、処理室内で試料を加工する真空処理装置であって、試料を内部に保持する筐体と、上蓋と、前記上蓋を、前記筐体の端部を開放する開放位置と、前記筐体の端部を遮蔽する遮蔽位置との間で枢動可能に支持するヒンジ機構と、を有し、前記ヒンジ機構は、前記上蓋を、前記筐体の軸線方向に変位可能に保持することにより達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヒンジ機構を用いた場合でも、同軸性の悪化を抑制できる真空処理装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一般的なヒンジ機構を持つ真空処理装置の概略断面図である。
【
図2】
図2は、一般的なヒンジ機構をもつ真空処理装置の概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態1に関わる真空処理装置の概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態1に関わるヒンジ開状態のヒンジ機構を示す拡大断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態1に関わるヒンジ閉状態のヒンジ機構を示す拡大断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態1に関わるヒンジ閉状態且つ真空排気状態のヒンジ機構を示す拡大断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態2に関わる真空処理装置の概略断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態2に関わるヒンジ閉状態のヒンジ機構及びバネ受け機構を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
【0015】
[実施例1]
図3に、実施形態1に係る真空処理装置構成の概略図を示す。本実施形態の真空処理装置は、真空処理室を内部に形成する中空円筒状の筐体1と、真空処理室内で処理される試料2を載置するためのステージ3と、筐体1に設けられたヒンジ機構4と、筐体1の上端を遮蔽する有頂円筒状の上蓋5とにより構成される。ヒンジ機構4は、上蓋5を、筐体1の上端を開放する開放位置と、筐体1の上端部を遮蔽する遮蔽位置との間で枢動可能に支持している。筐体1の上端面と上蓋5の下端面は、それぞれの軸線に対して直交している。筐体1と上蓋5の形状は、以上に限られない。
【0016】
図4に、実施形態1の開いた状態でのヒンジ機構4の詳細を示す。ヒンジ機構4は、上蓋5の上側突片5aに形成された円形穴(図示せず)に挿通(嵌合)された円筒状のヒンジ軸6と、ヒンジ軸6を上下に変位可能に支持するため筐体1の下側突片1aに形成された長穴ヒンジ穴7と、下側突片1aにおいて長穴ヒンジ穴7に連通するように形成された連通孔1bと、連通孔1b内でヒンジ軸6を下方から付勢するように設置されるバネ機構8と、により構成される。長穴ヒンジ穴7の断面長手方向は、筐体1の軸線方向(上下方向)に沿っている。
【0017】
バネ機構8は、連通孔1bの下端にて螺合しバネ機構8の下端を支持するねじ部8aを備える。ねじ部8aを、連通孔1bに対して螺動させることで、ばね付勢力を調整できる。筐体1の上端面に形成された周溝1c内に、Oリングなどの弾性部材からなる真空シール部材9が配置されている。
【0018】
本実施形態のバネ機構8は、上蓋5の重量と同じかもしくはそれ以上の重量を支持できる付勢力を有することが望ましい。そうすることで、バネ機構8に支えられたヒンジ軸6は長穴ヒンジ穴7の上端まで持ち上げられて保持され、その位置でヒンジ開閉が行われる。
【0019】
図5に、実施形態1の閉じた状態でのヒンジ機構4の詳細を示す。本実施形態において、ヒンジ軸6が長穴ヒンジ穴7の上端に位置するときの中心位置と、長穴ヒンジ穴7の下端に位置するときの中心位置との間の中心間距離Lは、真空シール部材9の潰し代Hと同じかもしくはより小さく設定される(
図6参照)。
図4、
図5に示す状態では、長穴ヒンジ穴7の上端にヒンジ軸6が位置し、
図6に示す状態では、長穴ヒンジ穴7の下端にヒンジ軸6が位置する。真空シール部材9の潰し代Hとは、真空シール部材9が潰れる前の状態から、真空シール部材が潰れた後の状態までの圧縮距離をいう。
【0020】
上蓋5が閉じた状態では、上蓋5の下端面と、真空シール部材9とが全周で接触する。この状態で、筐体1内の真空処理室を真空源(不図示)と接続(いわゆる真空引き)すれば、真空処理室内の気圧が下がるため上蓋5が筐体1に接近し、真空シール部材9が徐々に潰される。
【0021】
図6に、実施形態1の真空処理室が負圧とされた後のヒンジ機構の詳細を示す。筐体1内の真空処理室が負圧とされた後、負圧による引き込み力で上蓋5およびヒンジ軸6は、長穴ヒンジ穴7の下端まで下降し、上蓋5の下端面と筐体1の上端面が、真空シール部材9を介在させつつ完全に密着する。筐体1の上端面は、機械加工により精度の良い平面となっており、上蓋5と筐体1が密着することにより、上蓋5の軸線は筐体1の軸線と平行(好ましくは合致)するように設置される。ステージ3と筐体1の同軸性は予め確保されているため、閉じた上蓋5と、ステージ3および試料2の同軸性が損なわれることなく、これにより同軸性を備えた真空処理室を構成することができる。また、本実施形態によれば、バネ機構8によりヒンジ軸6が付勢されているため、組み立て工程中にヒンジ機構の高さ調整を行う必要がない。これにより、組み立て時間を短縮できるため製造コストの上昇を抑えることができる。
【0022】
以上述べた本実施形態によれば、真空処理装置の製造工程においてヒンジ機構の調整が不要となり製造コストの低減につながるとともに、ヒンジ調整に伴う真空処理室の同軸性悪化を防止できるため半導体デバイスの歩留まり改善につながる。
【0023】
[実施例2]
図7に、実施形態2に係る真空処理装置の概略図を示す。本実施形態の真空処理装置は、真空処理室を内部に形成する中空円筒状の筐体1と、真空処理室内で処理される試料2を載置するためのステージ3と、筐体1に設けられたヒンジ機構4と、ヒンジ機構4により枢動可能に支持される上蓋5と、筐体1においてヒンジ機構4とは中心軸を挟んで反対側に設置されたバネ受け機構10とにより構成される。なお、上述の実施形態と同様な構成については同じ符号を付し、異なる点を中心に説明する。
【0024】
図8に、実施形態2におけるヒンジ機構4、及びバネ受け機構10の詳細を示す。ヒンジ機構4は、実施形態1と同様に、上蓋5の上側突片5aに形成された円形穴(図示せず)に挿通されたヒンジ軸6と、ヒンジ軸6を上下に変位可能に支持するため筐体1の下側突片1aに形成された長穴ヒンジ穴7と、下側突片1aにおいて長穴ヒンジ穴7に連通するように形成された連通孔1bと、連通孔1b内でヒンジ軸6を下方から付勢するように設置されるバネ機構8と、により構成される。
【0025】
バネ受け機構10は、筐体1の突片1dに形成された貫通孔1e内から上方に突出するように設けられた突出部材10aと、突出部材10aを上方に付勢するコイルばね10bと、貫通孔1eに取り付けられコイルばね10bの下端を支持する支持部材10cとを有する。
【0026】
長穴ヒンジ穴7の中心間距離Lは実施形態1と同様、真空シール部材9の潰し代Hと同等かそれ以下で設定される。一方、バネ受け機構10の突出部材10aの突出量Xも長穴ヒンジ穴7中心間距離Lと同じ寸法に設定されている。そのため、
図2のように上蓋5が閉じた状態のとき、上蓋5の下端面は水平に保持される。
【0027】
真空シール部材9は繰返し使用することで微小な塑性変形が生じるため、少しずつ潰し代Hが減少する。そのため実施形態1のようにヒンジ機構4が片持ち構造である場合、真空シール部材9の潰し代Hが減少した状態で上蓋5を閉じると、その減少具合に応じて上蓋5が傾くおそれがある。最終的に真空処理室内が真空になり上蓋5が筐体1に完全に密着した状態になるとこの傾きは解消されるが、傾いた状態で上蓋5が下降するため、構成部品同士が干渉するなどして傷つく恐れがある。これに対し、実施形態2では、筐体1の軸線を挟んでヒンジ機構4の反対側にバネ受け機構10を設けたため、上蓋5を閉じる際に傾くことが無い。
【0028】
なお、実施形態2において真空シール部材9の潰し代Hが減少した場合、ヒンジ機構4とバネ受け機構10の両持ち構造により上蓋5が支持された状態になるため、閉じた上蓋5と真空シール部材9との間に隙間ができてしまい、真空引き時に該隙間から外気を吸い込むおそれがある。そのため、実施形態2においては、上蓋5を上方より押さえつけるようなネジ機構(不図示)を備えることが望ましい。このようなネジ機構は真空排気を開始するためのきっかけを提供するもので足りるため、大きな力で締め付ける必要がない。そのため、作業時間短縮のために工具を使わず手で回すことのできるローレットノブなどを用いたものであることが望ましい。実施形態2の構成によれば、作業時間の増加を招くことなく、精度よく真空処理装置を設置することができる。
【0029】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態における構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態における構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1・・・筐体
2・・・試料
3・・・ステージ
4・・・ヒンジ機構
5・・・上蓋
6・・・ヒンジ軸
7・・・長穴ヒンジ穴
8・・・バネ機構
9・・・真空シール部材
10・・・バネ受け機構