(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】シールシステム、および該シールシステムを備えたポンプシステム
(51)【国際特許分類】
F04D 29/12 20060101AFI20231004BHJP
F04D 7/02 20060101ALI20231004BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20231004BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20231004BHJP
F16J 15/40 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F04D29/12 B
F04D7/02 A
F16J15/34 B
F16J15/34 K
F16J15/447
F16J15/40 B
(21)【出願番号】P 2020531384
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028453
(87)【国際公開番号】W WO2020017635
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018135971
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】笠谷 哲司
(72)【発明者】
【氏名】本田 修一郎
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223332(JP,A)
【文献】実開平02-054972(JP,U)
【文献】特開平09-196184(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010054873(DE,A1)
【文献】特表2015-501903(JP,A)
【文献】特開2014-240699(JP,A)
【文献】特開2005-180652(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19722730(DE,A1)
【文献】特許第3979091(JP,B2)
【文献】特表2011-522175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/12
F04D 7/02
F16J 15/34
F16J 15/447
F16J 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムであって、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システム
と、
前記バリア室に接続された逃しラインと、
前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、
前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータと、
前記逃しライン内の圧力が前記圧力範囲から外れたときにポンプ停止信号を発する信号発信機を備え、
前記ポンプ側シール室は、前記ポンプの羽根車と前記メカニカルシールとの間に位置しており、
前記バリアガス供給システムは、前記バリア室内の圧力と、前記ポンプ側シール室内の圧力との差を一定に維持する圧力制御弁を備えている、シールシステム。
【請求項2】
揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムであって、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムと、
前記バリア室に接続された逃しラインと、
前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、
前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータと、
前記逃しラインに接続された圧力アキュムレータ
を備えている、シールシステム。
【請求項3】
揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムであって、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムと、
前記バリア室に接続された逃しラインと、
前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、
前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータと、
前記逃しラインに接続されたドレンポットと、
前記ドレンポット内の液面レベルを検出する液面検出器
を備えている
、シールシステム。
【請求項4】
揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムであって、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムを備え、
前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、
前記シールシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通するバリアガス流入ラインおよびバリアガス回収ラインをさらに備え、
前記バリアガス流入ラインは、前記バリアガス供給システムに接続されている
、シールシステム。
【請求項5】
前記大気側非接触シールは、前記ポンプの回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである、請求項
4に記載のシールシステム。
【請求項6】
揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムであって、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムを備え、
前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、
前記シールシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通する溶媒液供給ラインおよび溶媒液回収ラインをさらに備えている
、シールシステム。
【請求項7】
前記大気側非接触シールは、前記ポンプの回転軸を囲むフローティングシールである、請求項
6に記載のシールシステム。
【請求項8】
揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムであって、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムと、
前記バリア室内に設けられた室内非接触シール
を備えている
、シールシステム。
【請求項9】
前記室内非接触シールはラビリンスシールである、請求項
8に記載のシールシステム。
【請求項10】
前記バリアガス供給システムは、前記バリア室に面するバリアガス供給口を有しており、
前記室内非接触シールは、前記バリアガス供給口の大気側に位置している、請求項
8または
9に記載のシールシステム。
【請求項11】
前記ポンプ側シール室内に配置されたポンプ側非接触シールをさらに備えている、請求項1乃至
10のいずれか一項に記載のシールシステム。
【請求項12】
前記ポンプ側非接触シールは、前記ポンプの回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである、請求項
11に記載のシールシステム。
【請求項13】
前記メカニカルシールは、互いに接触する第1回転側シールリングおよび第1静止側シールリングと、互いに接触する第2回転側シールリングおよび第2静止側シールリングを備えたダブルメカニカルシールである、請求項1乃至
12のいずれか一項に記載のシールシステム。
【請求項14】
前記第1静止側シールリングの温度を測定する第1温度センサと、前記第2静止側シールリングの温度を測定する第2温度センサをさらに備えている、請求項
13に記載のシールシステム。
【請求項15】
揮発性液体を昇圧するためのポンプシステムであって、
回転軸と、
前記回転軸に固定された羽根車と、
前記羽根車が収容されたケーシングと、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システム
と、
前記バリア室に接続された逃しラインと、
前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、
前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータと、
前記逃しライン内の圧力が前記圧力範囲から外れたときにポンプ停止信号を発する信号発信機を備え、
前記ポンプ側シール室は、前記羽根車と前記メカニカルシールとの間に位置しており、
前記バリアガス供給システムは、前記バリア室内の圧力と、前記ポンプ側シール室内の圧力との差を一定に維持する圧力制御弁を備えている、ポンプシステム。
【請求項16】
揮発性液体を昇圧するためのポンプシステムであって、
回転軸と、
前記回転軸に固定された羽根車と、
前記羽根車が収容されたケーシングと、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムと、
前記バリア室に接続された逃しラインと、
前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、
前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータと、
前記逃しラインに接続された圧力アキュムレータ
を備えている
、ポンプシステム。
【請求項17】
揮発性液体を昇圧するためのポンプシステムであって、
回転軸と、
前記回転軸に固定された羽根車と、
前記羽根車が収容されたケーシングと、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムと、
前記バリア室に接続された逃しラインと、
前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、
前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータと、
前記逃しラインに接続されたドレンポットと、
前記ドレンポット内の液面レベルを検出する液面検出器
を備えている
、ポンプシステム。
【請求項18】
揮発性液体を昇圧するためのポンプシステムであって、
回転軸と、
前記回転軸に固定された羽根車と、
前記羽根車が収容されたケーシングと、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムを備え、
前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、
前記ポンプシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通するバリアガス流入ラインおよびバリアガス回収ラインをさらに備え、
前記バリアガス流入ラインは、前記バリアガス供給システムに接続されている
、ポンプシステム。
【請求項19】
前記大気側非接触シールは、前記回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである、請求項
18に記載のポンプシステム。
【請求項20】
揮発性液体を昇圧するためのポンプシステムであって、
回転軸と、
前記回転軸に固定された羽根車と、
前記羽根車が収容されたケーシングと、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムを備え、
前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、
前記ポンプシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通する溶媒液供給ラインおよび溶媒液回収ラインをさらに備えている
、ポンプシステム。
【請求項21】
前記大気側非接触シールは、前記回転軸を囲むフローティングシールである、請求項
20に記載のポンプシステム。
【請求項22】
揮発性液体を昇圧するためのポンプシステムであって、
回転軸と、
前記回転軸に固定された羽根車と、
前記羽根車が収容されたケーシングと、
バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、
前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、
前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムと、
前記バリア室内に設けられた室内非接触シール
を備えている
、ポンプシステム。
【請求項23】
前記室内非接触シールはラビリンスシールである、請求項
22に記載のポンプシステム。
【請求項24】
前記バリアガス供給システムは、前記バリア室に面するバリアガス供給口を有しており、
前記室内非接触シールは、前記バリアガス供給口の大気側に位置している、請求項
22または
23に記載のポンプシステム。
【請求項25】
前記ポンプ側シール室内に配置されたポンプ側非接触シールをさらに備えている、請求項
15乃至
24のいずれか一項に記載のポンプシステム。
【請求項26】
前記ポンプ側非接触シールは、前記回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである、請求項
25に記載のポンプシステム。
【請求項27】
前記メカニカルシールは、互いに接触する第1回転側シールリングおよび第1静止側シールリングと、互いに接触する第2回転側シールリングおよび第2静止側シールリングを備えたダブルメカニカルシールである、請求項
15乃至
26のいずれか一項に記載のポンプシステム。
【請求項28】
前記第1静止側シールリングの温度を測定する第1温度センサと、前記第2静止側シールリングの温度を測定する第2温度センサをさらに備えている、請求項
27に記載のポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体アンモニアなどの揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア、エチレン、プロピレンなどの揮発性物質からなる揮発性液体は、大気圧下では気化し、周囲雰囲気中に拡散する。このため、揮発性液体を昇圧するためのポンプには、揮発性液体の漏洩を防ぐことが求められる。そこで、ポンプは、揮発性液体の漏洩を防ぐためのメカニカルシールを備えている。さらに、メカニカルシールの回転側シールリングと静止側シールリングの接触面であるシール面からの揮発性液体の漏洩を防止するために、高圧のバリアガスをメカニカルシールの外周側に供給するガスシールシステムがポンプに接続される。
【0003】
メカニカルシールは、バリア室内に配置されており、高圧のバリアガスはバリア室内に導入される。バリアガスは、回転側シールリングと静止側シールリングのシール面間の微小な隙間を通ってメカニカルシールの内周側に流入する。ポンプ内の揮発性液体は、回転軸に沿ってメカニカルシールに到達するが、シール面間の隙間に形成されたバリアガスの流れは、揮発性液体がバリア室に侵入することを阻止する。このように、メカニカルシールとバリアガスシールシステムとの組み合わせは、揮発性液体が周囲雰囲気に漏洩することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シール面が損傷すると、バリアガスがシール面間の隙間を通過する流量が増え、結果としてバリア室内の圧力が低下する。さらに、揮発性液体の圧力は、環境温度に応じて変化しやすいため、ポンプ内での揮発性液体の圧力が上昇することがある。バリア室内のバリアガスの圧力が、シール面に到達した揮発性液体の圧力よりも低下すると、揮発性液体がバリア室内に漏洩してしまう。
【0006】
揮発性液体がシール面に侵入すると、メカニカルシールにダメージを与える。その際バリア室内に十分な圧力が保たれている場合は、揮発性液体は液状のまま漏れていく。大気側のシール面が液体の影響やなんらかの影響でダメージを受けた場合には、バリア室の圧力が低下してしまう可能性がある。その場合は、揮発性液体は、急激な温度低下を伴いながら、気液二相の流体に変化し、メカニカルシールに甚大なダメージを及ぼす。メカニカルシールがそのシール機能を発揮できなくなると、揮発性物質が周囲雰囲気中に漏洩し、環境汚染を引き起こしてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、揮発性液体の周囲雰囲気への漏洩を確実に防止することができるシールシステムを提供する。さらに、本発明は、そのようなシールシステムを備えたポンプシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムであって、バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムを備え、前記ポンプ側シール室は、前記ポンプの羽根車と前記メカニカルシールとの間に位置しており、前記バリアガス供給システムは、前記バリア室内の圧力と、前記ポンプ側シール室内の圧力との差を一定に維持する圧力制御弁を備えている、シールシステムが提供される。
【0009】
一態様では、前記シールシステムは、前記バリア室に接続された逃しラインと、前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータをさらに備えている。
一態様では、前記シールシステムは、前記逃しライン内の圧力が前記圧力範囲から外れたときにポンプ停止信号を発する信号発信機を備えている。
一態様では、前記シールシステムは、前記逃しラインに接続された圧力アキュムレータをさらに備えている。
一態様では、前記シールシステムは、前記逃しラインに接続されたドレンポットと、前記ドレンポット内の液面レベルを検出する液面検出器をさらに備えている。
【0010】
一態様では、前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、前記シールシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通するバリアガス流入ラインおよびバリアガス回収ラインをさらに備え、前記バリアガス流入ラインは、前記バリアガス供給システムに接続されている。
一態様では、前記大気側非接触シールは、前記ポンプの回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである。
【0011】
一態様では、前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、前記シールシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通する溶媒液供給ラインおよび溶媒液回収ラインをさらに備えている。
一態様では、前記大気側非接触シールは、前記ポンプの回転軸を囲むフローティングシールである。
【0012】
一態様では、前記シールシステムは、前記バリア室内に設けられた室内非接触シールをさらに備えている。
一態様では、前記室内非接触シールはラビリンスシールである。
一態様では、前記バリアガス供給システムは、前記バリア室に面するバリアガス供給口を有しており、前記室内非接触シールは、前記バリアガス供給口の大気側に位置している。
一態様では、前記シールシステムは、前記ポンプ側シール室内に配置されたポンプ側非接触シールをさらに備えている。
一態様では、前記ポンプ側非接触シールは、前記ポンプの回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである。
【0013】
一態様では、前記メカニカルシールは、互いに接触する第1回転側シールリングおよび第1静止側シールリングと、互いに接触する第2回転側シールリングおよび第2静止側シールリングを備えたダブルメカニカルシールである。
一態様では、前記シールシステムは、前記第1静止側シールリングの温度を測定する第1温度センサと、前記第2静止側シールリングの温度を測定する第2温度センサをさらに備えている。
【0014】
一態様では、揮発性液体を昇圧するためのポンプシステムであって、回転軸と、前記回転軸に固定された羽根車と、前記羽根車が収容されたケーシングと、バリア室およびポンプ側シール室を形成するスタッフィングボックスと、前記バリア室内に配置されたメカニカルシールと、前記ポンプ側シール室内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスを前記バリア室内に供給するバリアガス供給システムを備え、前記ポンプ側シール室は、前記羽根車と前記メカニカルシールとの間に位置しており、前記バリアガス供給システムは、前記バリア室内の圧力と、前記ポンプ側シール室内の圧力との差を一定に維持する圧力制御弁を備えている、ポンプシステムが提供される。
【0015】
一態様では、前記ポンプシステムは、前記バリア室に接続された逃しラインと、前記逃しラインに取り付けられた圧力逃し弁と、前記逃しライン内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、前記圧力逃し弁を開く弁アクチュエータをさらに備えている。
一態様では、前記ポンプシステムは、前記逃しライン内の圧力が前記圧力範囲から外れたときにポンプ停止信号を発する信号発信機を備えている。
一態様では、前記ポンプシステムは、前記逃しラインに接続された圧力アキュムレータをさらに備えている。
一態様では、前記ポンプシステムは、前記逃しラインに接続されたドレンポットと、前記ドレンポット内の液面レベルを検出する液面検出器をさらに備えている。
【0016】
一態様では、前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、前記ポンプシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通するバリアガス流入ラインおよびバリアガス回収ラインをさらに備え、前記バリアガス流入ラインは、前記バリアガス供給システムに接続されている。
一態様では、前記大気側非接触シールは、前記回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである。
【0017】
一態様では、前記スタッフィングボックスは、前記メカニカルシールの大気側に位置する大気側シール室をさらに形成しており、前記シールシステムは、前記大気側シール室内に配置された大気側非接触シールと、前記大気側シール室に連通する溶媒液供給ラインおよび溶媒液回収ラインをさらに備えている。
一態様では、前記大気側非接触シールは、前記回転軸を囲むフローティングシールである。
【0018】
一態様では、前記ポンプシステムは、前記バリア室内に設けられた室内非接触シールをさらに備えている。
一態様では、前記室内非接触シールはラビリンスシールである。
一態様では、前記バリアガス供給システムは、前記バリア室に面するバリアガス供給口を有しており、前記室内非接触シールは、前記バリアガス供給口の大気側に位置している。
一態様では、前記ポンプシステムは、前記ポンプ側シール室内に配置されたポンプ側非接触シールをさらに備えている。
一態様では、前記ポンプ側非接触シールは、前記回転軸を囲むフローティングシールまたはラビリンスシールである。
【0019】
一態様では、前記メカニカルシールは、互いに接触する第1回転側シールリングおよび第1静止側シールリングと、互いに接触する第2回転側シールリングおよび第2静止側シールリングを備えたダブルメカニカルシールである。
一態様では、前記ポンプシステムは、前記第1静止側シールリングの温度を測定する第1温度センサと、前記第2静止側シールリングの温度を測定する第2温度センサをさらに備えている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バリア室内の圧力および/またはポンプ側シール室内の圧力の変化にかかわらず、バリア室内のバリアガスの圧力は、常に、揮発性液体の圧力よりも高く維持される。したがって、本発明に係るシールシステムは、揮発性液体のバリア室内への漏洩を防ぐことができる。
シール面の損傷により、揮発性液体がバリア室内に漏洩した場合であっても、圧力逃し弁および逃しラインを通じて揮発性流体(液相、気相、または気液二相の揮発性の流体)を回収することができる。さらに、非接触シールは、揮発性流体の流れを堰き止め、揮発性流体の周囲雰囲気への漏洩を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ポンプシステムの一実施形態を示す図である。
【
図2】メカニカルシールを含むシールシステムの一実施形態を示す拡大図である。
【
図3】シールシステムの他の実施形態を示す図である。
【
図4】シールシステムの他の実施形態を示す図である。
【
図5】シールシステムの他の実施形態を示す図である。
【
図6】シールシステムの他の実施形態を示す図である。
【
図7】シールシステムの他の実施形態を示す図である。
【
図8】シールシステムの他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、ポンプシステムの一実施形態を示す図である。このポンプシステムは、揮発性液体を昇圧するためのポンプ1と、揮発性液体の周囲雰囲気への漏洩を防止するためのシールシステム2とを備えている。本実施形態では、ポンプ1は多段ポンプである。すなわち、ポンプ1は、回転軸5と、回転軸5に固定された複数の羽根車7と、羽根車7が収容されるケーシング8とを備えている。本実施形態では、複数の羽根車7のうちの半分は一方向を向き、他の半分は反対方向を向いている。羽根車7をこのように配置することにより、羽根車7を回転させて揮発性液体を昇圧しているときに羽根車7に作用するスラスト力をキャンセルすることができる。一実施形態では、複数の羽根車7は同じ方向を向いてもよい。他の一実施形態では、ポンプ1は、1つの羽根車を備えた単段ポンプであってもよい。
【0023】
回転軸5は、2つのラジアル軸受10および1つのスラスト軸受11により回転可能に支持されている。回転軸5は、図示しない原動機(電動機、内燃機関など)に連結されており、原動機によって回転される。羽根車7は回転軸5と一体に回転する。ケーシング8は、揮発性液体の吸込み口8Aおよび吐出し口8Bを有している。揮発性液体は、吸込み口8Aを通ってケーシング8内に導入される。羽根車7の回転に伴い、揮発性液体はケーシング8内で昇圧され、吐出し口8Bを通ってケーシング8から吐き出される。
【0024】
2つのラジアル軸受10のうちの一方と、羽根車7との間にはバランス機構15が配置されている。このバランス機構15は、羽根車7の回転によって昇圧された揮発性液体の圧力を、吸込み圧力に相当する圧力まで低下させる装置である。バランス機構15の大気側に位置するバランス室16は、バランスライン17を通じて吸込み口8A、または吸込み口8Aに接続された揮発性液体移送管(図示せず)、または揮発性液体供給源(図示せず)に接続されている。したがって、バランス室16内の圧力は、吸込み圧力と実質的に同じとなっている。
【0025】
ポンプ1が取り扱う液体は、揮発性液体である。本明細書において、揮発性液体は、大気圧下では気体の状態で存在する揮発性物質からなる液体である。より具体的には、揮発性液体は、水よりも揮発性が高い液体であり、言い換えれば、水よりも沸点が低い液体である。揮発性液体の具体例としては、液状のアンモニア、エチレン、プロピレン、二酸化炭素、アルコール、ブタン、プロパンが挙げられる。揮発性液体は、予め加圧された状態で、図示しない揮発性液体供給源からポンプ1に供給される。
【0026】
揮発性液体がポンプ1から漏れると、気化して周囲雰囲気中に拡散してしまう。そこで、揮発性液体の漏洩を防止するために、シールシステム2が設けられている。このシールシステム2は、羽根車7の大気側に配置されている2つのメカニカルシール20と、2つのメカニカルシール20がそれぞれ収容されている2つのバリア室30内にバリアガスを供給するバリアガス供給システム32を備えている。2つメカニカルシール20は、2つのスタッフィングボックス35内にそれぞれ配置されている。すなわち、各バリア室30は、各スタッフィングボックス35によって形成されており、各メカニカルシール20は各バリア室30内に配置されている。2つのスタッフィングボックス35は、ケーシング8の両側に固定されている。
【0027】
図2は、メカニカルシール20を含むシールシステム2の一実施形態を示す拡大図である。
図2では、2つのメカニカルシール20のうち、バランス室16に隣接するメカニカルシール20が示されている。吸込側に配置された他方のメカニカルシール20も同じ構成を有しているので、その重複する説明を省略する。
【0028】
本実施形態に係るシールシステム2は、メカニカルシール20およびバリアガスで揮発性液体をシールするガスシールシステムである。
図2に示すように、本実施形態のメカニカルシール20は、2対の回転側シールリング21A,22Aおよび静止側シールリング21B,22Bを備えたダブルメカニカルシールである。より詳しくは、メカニカルシール20は、互いに接触する第1回転側シールリング21Aおよび第1静止側シールリング21Bと、互いに接触する第2回転側シールリング22Aおよび第2静止側シールリング22Bを備えている。メカニカルシール20は、第1静止側シールリング21Bを第1回転側シールリング21Aに押し付ける第1スプリング23と、第2静止側シールリング22Bを第2回転側シールリング22Aに押し付ける第2スプリング24をさらに備えている。
【0029】
回転軸5の外周面には軸スリーブ38が固定されており、この軸スリーブ38上に第1回転側シールリング21Aおよび第2回転側シールリング22Aが固定されている。より具体的には、シールリングホルダ40が軸スリーブ38に固定されており、シールリングホルダ40と軸スリーブ38の外周面により第1回転側シールリング21Aおよび第2回転側シールリング22Aが保持されている。回転軸5、軸スリーブ38、第1回転側シールリング21A、および第2回転側シールリング22Aは、一体に回転可能である。
【0030】
第1静止側シールリング21Bおよび第2静止側シールリング22Bは、軸方向に移動可能にスタッフィングボックス35に支持されている。第1スプリング23および第2スプリング24はスタッフィングボックス35に保持されている。第1静止側シールリング21B、第2静止側シールリング22B、第1スプリング23、および第2スプリング24は、回転しない。2対の回転側シールリング21A,22Aおよび静止側シールリング21B,22Bは、回転軸5に垂直な平面(想像面)に関して対称に配置される。第1回転側シールリング21Aおよび第1静止側シールリング21Bはポンプ側に配置され、第2回転側シールリング22Aおよび第2静止側シールリング22Bは大気側に配置されている。
【0031】
メカニカルシール20は、バリア室30内に配置されている。このバリア室30は、スタッフィングボックス35の内面によって形成されている。さらに、メカニカルシール20のポンプ側には、ポンプ側シール室43が設けられている。このポンプ側シール室43もスタッフィングボックス35の内面によって形成されている。ポンプ側シール室43は、羽根車7とメカニカルシール20との間に位置している。
【0032】
ケーシング8内の揮発性液体は、回転軸5に沿って流れてポンプ側シール室43に流入し、ポンプ側シール室43を満たす。
図2に示すポンプ側シール室43は、バランス室16に連通している。したがって、揮発性液体は、バランス室16を通過した後、ポンプ側シール室43に到達する。ポンプ側シール室43内の圧力は、バランス室16内の圧力と同じである。
【0033】
バリアガス供給システム32は、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力よりも高い圧力のバリアガスをバリア室30内に供給するように構成されている。すなわち、バリアガス供給システム32は、バリアガス供給源46から供給されるバリアガスを加圧するコンプレッサ47と、バリア室30内のバリアガスの圧力を調整する圧力制御弁50と、バリアガス供給源46からバリア室30まで延びるバリアガス供給ライン52と、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力を測定する液体圧力センサ54を備えている。
【0034】
コンプレッサ47および圧力制御弁50は、バリアガス供給ライン52に接続されている。圧力制御弁50は、コンプレッサ47の下流側に配置されている。バリアガス供給ライン52の一端はバリアガス供給源46に接続され、バリアガス供給ライン52の他端はバリア室30に接続されている。バリアガス供給システム32は、バリア室30に面するバリアガス供給口53を有する。このバリアガス供給口53は、バリアガス供給ライン52の開口端から構成されている。バリアガス供給源46から供給されるバリアガスはコンプレッサ47により加圧され、圧力制御弁50を通過し、そして、バリアガス供給ライン52を通ってバリアガス供給口53からバリア室30内に流入する。
【0035】
バリアガスの例としては、窒素などの不活性ガス、二酸化炭素ガス、空気などが挙げられる。バリアガスは、上記揮発性液体とは異なる流体である。バリアガス供給源46は、ポンプシステムが設置されている施設にユーティリティ設備として設けられた不活性ガス供給源であってもよく、または揮発性液体を生成する過程で排出された窒素ガスを溜めた窒素ガス貯留タンクであってもよい。バリアガス供給源46から供給されるバリアガスの圧力が、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力よりも十分高ければ、コンプレッサ47は設けなくてもよい。
【0036】
図2において、液体圧力センサ54の設置位置は模式的に示されている。液体圧力センサ54は、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力を測定するための圧力測定器である。本明細書において、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力を直接測定すること、およびポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力に相当する圧力を測定することのどちらも、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力を測定することを意味する。
【0037】
液体圧力センサ54の設置位置は、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力、またはポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力に相当する圧力を液体圧力センサ54が測定可能であれば、特に限定されない。例えば、液体圧力センサ54は、ポンプ側シール室43に接続されてもよい。この場合は、液体圧力センサ54は、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力を直接測定することができる。一実施形態では、
図1に示すように、液体圧力センサ54はバランスライン17に接続されてもよいし、またはケーシング8の吸込み口8Aに接続されてもよいし、または吸込み口8Aに接続された揮発性液体移送管(図示せず)に接続されてもよい。バランスライン17内の圧力は、ポンプ側シール室43内の圧力と実質的に同じであるので、バランスライン17に接続された液体圧力センサ54は、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力に相当する圧力を測定することができる。ケーシング8の吸込み口8Aおよび揮発性液体移送管内の揮発性液体の圧力も、ポンプ側シール室43内の圧力と実質的に同じである。
【0038】
バランス機構15、バランス室16、およびバランスライン17が設けられていない場合、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力は、ポンプ1の吐出し圧力に相当する。この場合は、液体圧力センサ54はケーシング8の吐出し口8Bに接続されてもよい。
【0039】
図2に示すように、シールシステム2は、バリア室30に接続された逃しライン56と、逃しライン56に取り付けられた圧力逃し弁57と、逃しライン56内の圧力を測定する気体圧力センサ60と、逃しライン56内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに圧力逃し弁57を開く弁アクチュエータ61をさらに備えている。気体圧力センサ60は、バリア室30と圧力逃し弁57との間に配置されている。逃しライン56は、バリア室30に面する流体入口58を有している。バリアガス供給システム32からバリア室30内に供給されたバリアガスは、流体入口58を通って逃しライン56内に流入する。
【0040】
圧力逃し弁57は、通常は閉じられている。したがって、通常運転時では、逃しライン56の内部はバリアガスで満たされているが、バリアガスの流れは逃しライン56内には実質的に形成されていない。逃しライン56はバリア室30に連通しているので、バリア室30内の圧力は、逃しライン56内の圧力と同じである。したがって、逃しライン56に接続された気体圧力センサ60は、バリア室30内の圧力に相当する圧力を測定することができる。本明細書において、バリア室30内の圧力を直接測定すること、およびバリア室30内の圧力に相当する圧力を測定することのどちらも、バリア室30内の圧力を測定することを意味する。
【0041】
気体圧力センサ60は、圧力制御弁50に電気的に接続されており、気体圧力センサ60は圧力の測定値(すなわち、バリア室30内の圧力の測定値)を圧力制御弁50に送信するように構成されている。液体圧力センサ54も圧力制御弁50に電気的に接続されており、液体圧力センサ54は圧力の測定値(すなわち、ポンプ側シール室43内の圧力の測定値)を圧力制御弁50に送信するように構成されている。圧力制御弁50は、液体圧力センサ54から送られた圧力の測定値と、気体圧力センサ60から送られた圧力の測定値との差(すなわち、ポンプ側シール室43内の圧力とバリア室30内の圧力との差)が一定に維持されるように動作する。より具体的には、圧力制御弁50は、バリア室30内のバリアガスの圧力が、ポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力よりも、所定のバイアス値だけ高く維持されるように動作する。圧力制御弁50の具体例としては、アクチュエータ駆動型の差圧制御弁などが挙げられる。
【0042】
本実施形態によれば、バリア室30内の圧力および/またはポンプ側シール室43内の圧力が変化しても、バリア室30内のバリアガスの圧力は、常に、揮発性液体の圧力よりも高く維持される。したがって、バリア室30内のバリアガスは、第1回転側シールリング21Aと第1静止側シールリング21Bの接触面であるシール面間の微小な隙間を通ってポンプ側シール室43内に流入する。このようなバリアガスの流れは、揮発性液体がバリア室30内に漏洩することを防止することができる。
【0043】
メカニカルシール20の大気側には、大気側シール室63が設けられている。大気側シール室63は、スタッフィングボックス35の内面によって形成されている。バリア室30は、ポンプ側シール室43と大気側シール室63との間に位置している。バリア室30内のバリアガスは、第2回転側シールリング22Aと第2静止側シールリング22Bの接触面であるシール面間の微小な隙間を通って大気側シール室63内にも流入する。バリア室30、ポンプ側シール室43、および大気側シール室63を形成するスタッフィングボックス35は単一の構造体であるが、一実施形態ではスタッフィングボックス35は複数の構造体の組み合わせから構成されてもよい。
【0044】
シールシステム2は、バリアガス供給システム32に接続されたバリアガス流入ライン66と、バリアガス流入ライン66に取り付けられた圧力制御弁69と、大気側シール室63に連通するバリアガス回収ライン72と、大気側シール室63内に配置された大気側非接触シールとしてのフローティングシール73をさらに備えている。バリアガス流入ライン66の一端はバリアガス供給ライン52に接続され、バリアガス流入ライン66の他端は大気側シール室63に連通している。圧力制御弁69は、バリアガス供給システム32から送られてきたバリアガスの圧力を大気圧よりも高い所定の圧力にまで減圧する減圧弁である。バリアガス流入ライン66とバリアガス供給ライン52との接続点は、圧力制御弁50の上流側であり、コンプレッサ47の下流側である。
【0045】
フローティングシール73は、スタッフィングボックス35に固定された止め輪75にスプリング77によって押し付けられている。フローティングシール73は、回転軸5を囲むように配置されている。より具体的には、フローティングシール73は、回転軸5の外周面に固定された軸スリーブ38の周囲に配置されており、回転軸5および軸スリーブ38はフローティングシール73を貫通して延びている。フローティングシール73の内周面と、軸スリーブ38の外周面との間には、微小な隙間が形成されており、フローティングシール73は軸スリーブ38および回転軸5とは非接触である。フローティングシール73は環状であり、例えば、カーボンリングから構成される。
【0046】
バリアガスは、バリアガス流入ライン66を通じて大気側シール室63に導入され、さらに大気側シール室63からバリアガス回収ライン72を通って流出する。このように、大気側シール室63内にはバリアガスの流れが常に形成されている。バリア室30から第2回転側シールリング22Aと第2静止側シールリング22Bのシール面間の隙間を通って流れたバリアガスは、バリアガス流入ライン66から導入されたバリアガスとともに、バリアガス回収ライン72に流入する。バリアガス回収ライン72を通って流れたバリアガスは、回収してもよいし、またはフレアスタックに放出してもよい。一実施形態では、大気側シール室63内に配置された大気側非接触シールは、フローティングシール73に代えて、ラビリンスシールであってもよい。
【0047】
大気側のシールリング22A,22Bのシール面が何らかの原因で損傷すると、バリア室30の圧力が低下してしまう。その場合は、ポンプ側シール室43内の揮発性液体は、シールリング21A,21Bのシール面を通ってバリア室30内に漏洩する。揮発性液体は、バリア室30内で温度低下を伴いながら、気液二相の流体に変化し、その体積が膨張する。このような低温の気液二相流体は、メカニカルシール20にダメージを与え、メカニカルシール20を破壊してしまうことがある。
【0048】
そこで、そのようなメカニカルシール20へのダメージを防止するために、逃しライン56内の圧力が予め設定された圧力範囲から外れたときに、弁アクチュエータ61は圧力逃し弁57を開く。揮発性液体がバリア室30内に漏洩すると、揮発性液体の少なくとも一部は気化するので、バリア室30に連通する逃しライン56内の圧力が上昇する。気体圧力センサ60はこの圧力の上昇を検出し、弁アクチュエータ61を作動させる。弁アクチュエータ61は圧力逃し弁57を開き、揮発性流体(液相、気相、または気液二相の揮発性の流体)を、バリア室30から逃しライン56を通じて流出させることができる。揮発性流体は、バリアガスとともに、逃しライン56を通じて回収される。回収された揮発性流体は、燃焼処理などの無害化処理をしてもよい。
【0049】
本実施形態では、弁アクチュエータ61は、エアシリンダ78および作動流体供給弁80の組み合わせから構成されている。エアシリンダ78は、圧力逃し弁57に連結されており、圧力逃し弁57を開くように動作する。エアシリンダ78は、作動流体供給弁80を経由して作動流体供給源81に接続されている。作動流体供給源81の例としては、空気供給源が挙げられる。空気供給源は、ポンプシステムが設置されている施設にユーティリティ設備として設けられた空気供給ラインであってもよい。一実施形態では、弁アクチュエータ61は、モータ駆動型アクチュエータであってもよい。
【0050】
気体圧力センサ60は、作動流体供給弁80に電気的に接続されており、逃しライン56内の圧力の測定値を作動流体供給弁80に送信するように構成されている。作動流体供給弁80は、その内部にメモリ(図示せず)を有しており、このメモリに上記圧力範囲の上限値および下限値を予め記憶している。逃しライン56内の圧力の測定値が圧力範囲を外れたときに、作動流体供給弁80が開き、作動流体が作動流体供給源81からエアシリンダ78に供給される。これによりエアシリンダ78が作動して圧力逃し弁57を開く。揮発性流体(液相、気相、または気液二相の揮発性の流体)は、バリア室30から逃しライン56を通じて排出される。
【0051】
バリア室30内に揮発性液体が漏洩すると、揮発性流体(液相、気相、または気液二相の揮発性の流体)は、大気側に配置された第2回転側シールリング22Aおよび第2静止側シールリング22Bのシール面間の隙間を通過する。このような場合であっても、揮発性流体は、バリアガス流入ライン66から注入されたバリアガスにより、バリアガス回収ライン72に運ばれ、バリアガスとともにバリアガス回収ライン72を通って回収される。
【0052】
このように、本実施形態のシールシステム2は、揮発性液体のバリア室30への漏洩を防止できるのみならず、たとえ揮発性液体がバリア室30内に漏れた場合であっても、揮発性液体(揮発性流体)が周囲雰囲気に漏洩することを防止することができる。したがって、本発明は、揮発性液体を安全に取り扱うことができるポンプシステムを提供することができる。
【0053】
気体圧力センサ60は、信号発信機85に電気的に接続されており、逃しライン56内の圧力の測定値を信号発信機85に送信するように構成されている。信号発信機85は、その内部にメモリ(図示せず)を有しており、このメモリに上記圧力範囲の上限値および下限値を予め記憶している。逃しライン56内の圧力の測定値が圧力範囲を外れたときに、信号発信機85は、ポンプ停止信号を発するように構成されている。信号発信機85は、ポンプ1の原動機(図示せず)の運転を制御する運転制御部87に有線通信または無線通信によって接続されている。ポンプ停止信号は、運転制御部87に送信され、運転制御部87は、ポンプ停止信号を受けて、ポンプ1の原動機を停止させる。これにより、ポンプ1の運転が停止され、揮発性液体の漏洩の拡大を防ぐことができる。
【0054】
ポンプ側のシールリング21A,21Bのシール面が損傷すると、揮発性液体がバリア室30に漏洩することがありうる。バリア室30内に十分な圧力が保持されている場合は、揮発性液体は液状のままバリア室30内に漏洩する。しかし、揮発性液体が大気側のシールリング22A,22Bに到達すると、シールリング22A,22Bのシール面が損傷することがある。このような場合、バリア室30内の圧力が低下する。また、大気側のシールリング22A,22Bのシール面がなんらかの原因で損傷した場合、またはバリアガス供給システム32がバリアガスの供給圧力を上げられない場合には、バリア室30の圧力が落ちてしまう。
【0055】
そこで、気体圧力センサ60によって測定されたバリア室30内の圧力が上記圧力範囲を外れた場合(すなわち、圧力範囲の下限値を下回る場合)、あるいは、バリア室30内の圧力の変化率の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、信号発信機85はポンプ停止信号を発する。さらに、バリア室30の圧力が下がった場合には、漏れた揮発性液体が揮発してしまうことが考えられるので、気体圧力センサ60によって測定されたバリア室30内の圧力が上記圧力範囲を外れた場合(すなわち、圧力範囲の下限値を下回る場合)、あるいは、バリア室30内の圧力の変化率の絶対値が所定の値よりも大きい場合には、弁アクチュエータ61は圧力逃し弁57を開けて、揮発した気液二相流体を逃がす。尚、このような場合でも、大気側シール室63にバリアガスを流すので、揮発性液体の大気中への気化および拡散を確実に防止することが可能である。
【0056】
図3は、シールシステム2の他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1および
図2を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、シールシステム2は、逃しライン56に接続された圧力アキュムレータ88を備えている。この圧力アキュムレータ88は、逃しライン56を通じてバリア室30に連通している。
【0057】
圧力アキュムレータ88の内部にはダイヤフラム88aが配置され、窒素ガスなどの気体が封入されている。逃しライン56内のバリアガスの一部は圧力アキュムレータ88内に導入され、圧力アキュムレータ88内に蓄積される。圧力アキュムレータ88内に蓄積されたバリアガスは、圧力アキュムレータ88内に予め封入されている上記気体の圧力により加圧される。何らかの原因で、バリアガス供給システム32からのバリアガスの供給が停止したり、バリアガスの供給圧力が低下したときに、圧力アキュムレータ88は、バリア室30内にバリアガスを逃しライン56を通じて供給し、バリア室30内の圧力をポンプ側シール室43内の揮発性液体の圧力よりも高く維持することができる。
【0058】
逃しライン56には、ドレンポット90が接続されている。このドレンポット90には、ドレンポット90内の液面レベルを検出する液面検出器91が取り付けられている。ポンプ側のシールリング21A,21Bのシール面が損傷すると、揮発性液体がバリア室30に漏洩することがありうる。バリア室30内に十分な圧力が保持されている場合は、揮発性液体は液状のままバリア室30内に漏洩する。揮発性液体は逃しライン56を流れてドレンポット90内に集められる。ドレンポット90内の揮発性液体の液面レベルが設定レベルに達したことを液面検出器91が検出すると、液面検出器91は漏洩検出信号を発する。この漏洩検出信号は、運転制御部87に送信され、運転制御部87は、漏洩検出信号を受けて、ポンプ1の原動機を停止させる。液面検出器91の具体的な構成は特に限定されないが、液面検出器91の例としては接触式液面センサ、非接触式液面センサ、フロートスイッチなどが挙げられる。
【0059】
図4は、シールシステム2の他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1および
図2を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、シールシステム2は、バリア室30内に設けられた室内非接触シールとしてのラビリンスシール95を備えている。このラビリンスシール95は、軸スリーブ38に固定されたシールリングホルダ40の外周面上に設けられている。
【0060】
ラビリンスシール95と、バリア室30を形成するスタッフィングボックス35の内面との間には微小な隙間が形成されており、ラビリンスシール95は、スタッフィングボックス35とは非接触である。ラビリンスシール95は、バリア室30に面するバリアガス供給口53の大気側に位置している。さらに、ラビリンスシール95は、バリア室30に面する流体入口58の大気側に位置している。バリアガス供給口53および流体入口58は、第1静止側シールリング21Bとラビリンスシール95の間に位置している。ラビリンスシール95は、第1静止側シールリング21Bと第2静止側シールリング22Bとの間に位置している。
【0061】
バリアガス供給口53からバリア室30内に供給されたバリアガスの一部は、ポンプ側に配置された第1回転側シールリング21Aおよび第1静止側シールリング21Bのシール面間の微小な隙間を通ってポンプ側シール室43内に流れる。同時に、バリアガス供給口53からバリア室30内に供給されたバリアガスの一部は、ラビリンスシール95を通過し、大気側に配置された第2回転側シールリング22Aおよび第2静止側シールリング22Bのシール面間の微小な隙間を通り、大気側シール室63に向かって流れる。
【0062】
ポンプ側シール室43内の揮発性液体がバリア室30内に漏洩した場合であっても、揮発性流体(気相、液相、または気液二相の流体)は、ラビリンスシール95に堰き止められ、大気側に配置された第2回転側シールリング22Aおよび第2静止側シールリング22Bに到達することが阻止される。
【0063】
上述したように、揮発性液体がバリア室30内に漏洩すると、弁アクチュエータ61が圧力逃し弁57を開く。その結果、バリアガス供給口53から流体入口58に流れるバリアガスの流れがバリア室30内に形成される。バリア室30内に漏洩した揮発性流体は、バリアガスとともに流体入口58に流入し、逃しライン56を通って回収される。このように、ラビリンスシール95は、バリア室30内に漏洩した揮発性流体を流体入口58に導く機能を有しており、揮発性流体が大気側に流れることを防止することができる。一実施形態では、室内非接触シールとして、ラビリンスシール95に代えて、ねじ条シールであってもよい。
【0064】
図5は、シールシステム2の他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1および
図2を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、シールシステム2は、ポンプ側シール室43内に配置されたポンプ側非接触シールとしてのフローティングシール97を備えている。
【0065】
フローティングシール97は、ポンプ側シール室43を形成するスタッフィングボックス35の垂直面35aにスプリング98によって押し付けられている。フローティングシール97は、回転軸5を囲むように配置されている。より具体的には、フローティングシール97は、回転軸5の外周面に固定された軸スリーブ38の周囲に配置されており、回転軸5および軸スリーブ38はフローティングシール97を貫通して延びている。フローティングシール97の内周面と、軸スリーブ38の外周面との間には、微小な隙間が形成されており、フローティングシール97は軸スリーブ38および回転軸5とは非接触である。フローティングシール97は環状であり、例えば、カーボンリングから構成される。
【0066】
メカニカルシール20が正常に機能している間は、ポンプ側シール室43には揮発性液体の流れは実質的に形成されない。メカニカルシール20が損傷、または大きく摩耗した結果として、ポンプ側シール室43内の揮発性液体がバリア室30内に漏洩すると、揮発性液体は、フローティングシール97の内周面と、軸スリーブ38の外周面との間に形成された微小な隙間を流れる。このとき、揮発性液体の圧力が下がり、揮発性液体の温度が上がる。結果として、揮発性液体の少なくとも一部は気化する。気化した揮発性流体は、揮発性液体に比べて、メカニカルシール20にダメージを与えにくい。よって、フローティングシール97は、揮発性流体が漏洩したときのメカニカルシール20のダメージを最小限にすることができる。一実施形態では、ポンプ側シール室43内に配置されたポンプ側非接触シールは、フローティングシール97に代えて、ラビリンスシールであってもよい。
【0067】
図6は、シールシステム2の他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1および
図2を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、シールシステム2は、圧力制御弁50をバイパスするバイパスライン100と、バイパスライン100に取り付けられたバイパス弁101と、バリアガス流入ライン66に取り付けられた開閉弁102をさらに備えている。バイパスライン100の一端は、圧力制御弁50の上流側の位置でバリアガス供給ライン52に接続され、バイパスライン100の他端は、圧力制御弁50の下流側の位置でバリアガス供給ライン52に接続されている。
【0068】
バイパス弁101および開閉弁102は、手動弁である。通常運転時には、開閉弁102は開状態にあり、バイパス弁101は閉状態にある。メカニカルシール20が損壊した結果として揮発性液体がバリア室30内に漏洩し、メカニカルシール20を分解する必要が生じた場合は、開閉弁102を閉じ、バイパス弁101を開く。バリアガスは、バリアガス流入ライン66を流れる代わりに、バイパスライン100を通ってバリアガス供給ライン52に流入し、バリア室30内に供給される。本実施形態によれば、より多くのバリアガスがバリア室30に供給されるので、バリア室30内に漏れた揮発性流体は逃しライン56を通って流出しやすくなる。
【0069】
図7は、シールシステム2の他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1および
図2を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、シールシステム2は、バリアガス流入ライン66の代わりに、大気側シール室63に溶媒液を供給する溶媒液供給ライン110を備えている。さらに、シールシステム2は、バリアガス回収ライン72の代わりに、大気側シール室63に供給された溶媒液を回収する溶媒液回収ライン111を備えている。
【0070】
溶媒液供給ライン110の一端は溶媒液供給源112に接続され、溶媒液供給ライン110の他端は大気側シール室63に連通している。溶媒液回収ライン111の一端は大気側シール室63に連通している。溶媒液の例としては、水、または水溶液が挙げられる。溶媒液は、溶媒液供給ライン110から大気側シール室63に供給され、大気側シール室63から溶媒液回収ライン111を通って排出される。溶媒液の大気側への漏洩を確実に防止するために、大気側シール室63内に配置された大気側非接触シールはフローティングシール73である。
【0071】
揮発性液体の中には、気化するよりも液体(溶媒)に溶けやすい性質のものがある。アンモニアはその代表例である。揮発性液体がアンモニアである場合には、通常運転時に大気側シール室63に溶媒液供給ライン110からアンモニアの溶媒として水(または水溶液)を供給することで、アンモニアが気化する前に水に溶けるので、アンモニアの気化および大気中への拡散を確実に防止することが可能である。
【0072】
アンモニアは、水に溶けるときに発熱し、また水は懸濁するので、アンモニアの漏れの程度を調査するために、溶媒液の温度を測定する溶媒液温度センサ114、および溶媒液の懸濁度を観察するためのフローサイト115が溶媒液回収ライン111に取り付けられている。尚、ポンプ1の置かれる環境が、氷点下の寒冷地の場合には、凍結しない溶媒液が必要となるので、溶媒液として不凍液、特にグリセリン水溶液を用いるのが好ましい。
【0073】
図8は、シールシステム2の他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1および
図2を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、シールシステム2は、第1静止側シールリング21Bの温度を測定する第1温度センサ121と、第2静止側シールリング22Bの温度を測定する第2温度センサ122を備えている。
【0074】
シールリング21A,21Bのシール面、およびシールリング22A,22Bのシール面は、安定的な運転時には、バリアガスに接触している。しかしながら、揮発性液体がバリア室30内に漏洩すると、シール面の摩擦熱により揮発性液体の一部がシール面上で気化する。結果として、シール面上で圧力が局所的に上昇し、シール面圧が不安定になる。さらに、シール面の摩擦抵抗はウエット環境とドライ環境とで異なるために、シール面の摺動状態が不安定になると想定される。そして、その状態は静止側シールリング21B,22Bの温度の変化となって顕れる。
【0075】
そこで、本実施形態のシールシステム2は、メカニカルシール20の静止側シールリング21B,22Bの各々の温度を測定する第1温度センサ121および第2温度センサ122を備える。第1温度センサ121および第2温度センサ122は、信号発信機125に電気的に接続されており、静止側シールリング21B,22Bの温度の測定値を信号発信機125に送信するように構成されている。信号発信機125は、静止側シールリング21Bの温度の測定値または静止側シールリング22Bの温度の測定値がしきい値を超えたときに、ポンプ停止信号を発するように構成されている。ポンプ停止信号は、運転制御部87に送信され、運転制御部87は、ポンプ停止信号を受けて、ポンプ1の原動機を停止させる。これにより、ポンプ1の運転が停止され、揮発性液体の漏洩の拡大を防ぐことができる。信号発信機125と、上述した実施形態の信号発信機85は、1つの信号発信機から構成されてもよい。
【0076】
上述した各実施形態は適宜組み合わせることができる。例えば、
図4に示すラビリンスシール95、および
図5に示すフローティングシール97は、
図3、
図6、
図7、
図8に示す実施形態と組み合わせることができる。また、
図4に示すラビリンスシール95は、
図5に示す実施形態と組み合わせることができる。
【0077】
上述した各実施形態に示すポンプ1は、複数の羽根車を有する多段ポンプであるが、本発明は上述した実施形態に限らず、両吸込単段ポンプ、および片吸込単段ポンプにも適用することができる。
【0078】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、液体アンモニアなどの揮発性液体を昇圧するためのポンプに使用されるシールシステムに利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 ポンプ
2 シールシステム
5 回転軸
7 羽根車
8 ケーシング
8A 吸込み口
8B 吐出し口
10 ラジアル軸受
11 スラスト軸受
15 バランス機構
16 バランス室
17 バランスライン
20 メカニカルシール
21A 第1回転側シールリング
21B 第1静止側シールリング
22A 第2回転側シールリング
22B 第2静止側シールリング
23 第1スプリング
24 第2スプリング
30 バリア室
32 バリアガス供給システム
35 スタッフィングボックス
38 軸スリーブ
40 シールリングホルダ
43 ポンプ側シール室
46 バリアガス供給源
47 コンプレッサ
50 圧力制御弁
52 バリアガス供給ライン
53 バリアガス供給口
54 液体圧力センサ
56 逃しライン
57 圧力逃し弁
58 流体入口
60 気体圧力センサ
61 弁アクチュエータ
63 大気側シール室
66 バリアガス流入ライン
69 圧力制御弁
72 バリアガス回収ライン
73 フローティングシール
75 止め輪
77 スプリング
78 エアシリンダ
80 作動流体供給弁
81 作動流体供給源
85 信号発信機
87 運転制御部
88 圧力アキュムレータ
88a ダイヤフラム
90 ドレンポット
91 液面検出器
95 ラビリンスシール
97 フローティングシール
98 スプリング
100 バイパスライン
101 バイパス弁
102 開閉弁
110 溶媒液供給ライン
111 溶媒液回収ライン
112 溶媒液供給源
114 溶媒液温度センサ
115 フローサイト
121 第1温度センサ
122 第2温度センサ
125 信号発信機