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特許7360672間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造する方法、インスリン産生細胞、細胞構造体および医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造する方法、インスリン産生細胞、細胞構造体および医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20231005BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20231005BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20231005BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231005BHJP
   A61K 35/39 20150101ALN20231005BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
C12N5/071
A61P3/10
A61K35/12
C12N15/09 Z
A61K35/39
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022061665
(22)【出願日】2022-04-01
(62)【分割の表示】P 2019552399の分割
【原出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2022079721
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017216927
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 光生
(72)【発明者】
【氏名】池本 哲也
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/052504(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105062953(CN,A)
【文献】国際公開第2009/116087(WO,A1)
【文献】Transplant International, Abstract of the 18th Congress of the European Society for Organ Transplant,2017年09月,Vol. 30(Suppl. 2),p. 518,P465
【文献】再生医療,2017年02月,Vol. 16, Suppl. 2017,p. 307,O-30-7, ISSN 1347-7919
【文献】メディカル・サイエンス・ダイジェスト,2014年,Vol. 40,No. 12,p. 46-49,ISSN 1347-4340
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造する方法であって、
(a)複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系細胞とをインキュベートすることによって、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を製造する工程、
(b)工程(a)においてインキュベートする前の間葉系幹細胞、工程(a)においてインキュベートしている間葉系幹細胞、または工程(a)で製造した細胞構造体の何れか一以上を、GLP-1受容体作動薬を含む培地中で培養する工程、および
(c)工程(a)または工程(b)で得られた細胞構造体を、水溶性ビタミンおよび肝細胞増殖因子を含む培地中で培養する工程、を含み、
前記生体親和性高分子ブロック一つの大きさが10μm以上300μm以下であり、
前記生体親和性高分子が、ポリペプチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸コポリマー、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、コンドロイチン、セルロース、アガロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、およびキトサンから選ばれる少なくとも一種であり、
工程(c)における培地が、さらにGLP-1受容体作動薬、アクチビンA、アルブミン、B27-supplementまたはN2-supplementから選択される1種以上を含む、
方法。
【請求項2】
工程(b)を3~14日間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)を7~35日間行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記GLP-1受容体作動薬がエキセンジン-4である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶性ビタミンがニコチンアミドである、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)における培地が、さらにアクチビンAを含む、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)における培地が、さらにヒストン脱アセチル化阻害剤を含む、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒストン脱アセチル化阻害剤がバルプロ酸である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)における培地がさらにアルブミンを含み、培地におけるアルブミンの含有量が0.1質量%~10質量%である、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(a)および前記工程(b)が、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とをGLP-1受容体作動薬を含む培地中でインキュベートすることによって、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を製造する工程である、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記間葉系幹細胞が脂肪由来幹細胞である、請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞構造体の厚さまたは直径が150μm以上3cm以下である、請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記生体親和性高分子ブロックがリコンビナントペプチドからなる、請求項1から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記リコンビナントペプチドが、下記式で示される、請求項13に記載の方法。
式:A-[(Gly-X-Y)-B式中、Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、nは3~100の整数を示し、mは2~10の整数を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【請求項15】
前記リコンビナントペプチドが、
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;の何れかである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記生体親和性高分子ブロックにおいて、前記生体親和性高分子が熱、紫外線または酵素により架橋されている、請求項1から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記生体親和性高分子ブロックが、生体親和性高分子の多孔質体を粉砕することにより得られる顆粒の形態にある、請求項1から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
複数個の生体親和性高分子ブロック、および
細胞としては、請求項1から17の何れか一項に記載の方法により製造されるインスリン産生細胞のみを含む細胞構造体であって、
前記生体親和性高分子ブロック一つの大きさが10μm以上300μm以下であり、
前記生体親和性高分子が、ポリペプチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸コポリマー、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、コンドロイチン、セルロース、アガロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、およびキトサンから選ばれる少なくとも一種であり、
複数個の前記インスリン産生細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されており、
5×10 個のインスリン産生細胞を含む細胞構造体を20mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度を、前記細胞構造体を3mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度で除することにより得られるStimulation Indexが2.5以上である、細胞構造体。
【請求項19】
請求項18に記載の細胞構造体を含む、医薬組成物。
【請求項20】
糖尿病治療剤である、請求項19に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造する方法、インスリン産生細胞、上記インスリン産生細胞を含む細胞構造体、および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞からインスリン産生細胞の分化誘導については、いくつかの報告がなされている。一方、ヒト由来細胞とその他(ラットやマウス)由来細胞では全く性質が異なり、ヒト細胞以外の細胞を用いて分化誘導することに成功していても、ヒト由来細胞の分化誘導の参考にはならないことが知られている。
【0003】
ヒト由来細胞での分化誘導について報告を整理してみると、例えば、非特許文献1では、ヒト臍帯由来間葉系幹細胞からインスリン発現細胞への分化誘導に成功したことが報告されている。ただし、非特許文献1においては、遺伝子発現レベルでのインスリン発現までであって、インスリンの分泌までは成功していない。
【0004】
また、非特許文献2では、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞からのインスリン産生細胞への分化誘導が記載されており、インスリン分泌までが確認されている。しかしながら、非特許文献2のFig.4から見て、グルコース濃度が5.56mmol/Lの際のインスリン分泌量と、16.7mmol/Lの際でのインスリン分泌量の比(これをSI,stimulation indexという)は明らかに2未満であることが分かる。上記の通り、非特許文献2においては、グルコース応答性を有するとされるSI≧2を満たしておらず、実用できるインスリン産生細胞を製造することはできていないことが分かる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】In Vitro Cell.Dev.Biol.-Animal (2011)47:54-63
【文献】Chinese Medical Journal 2007;120(9):771-776
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように間葉系幹細胞からインスリン分泌細胞への分化誘導の試みについて幾つかの報告はあるが、実用できる方法は未だ確立されておらず、新規な方法が求められていた。本発明の課題は、間葉系幹細胞から、十分なグルコース応答性を有するインスリン産生細胞を製造する方法、十分なグルコース応答性を有するインスリン産生細胞、上記インスリン産生細胞を含む細胞構造体、および医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生体親和性高分子ブロックと間葉系幹細胞とをGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬の存在下においてインキュベートして細胞構造体を製造し、上記の細胞構造体を、水溶性ビタミンおよび肝細胞増殖因子を含む培地中で培養することによって、十分なグルコース応答性を有するインスリン産生細胞を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造する方法であって、
(a)複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とをインキュベートすることによって、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の上記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を製造する工程、
(b)工程(a)においてインキュベートする前の間葉系幹細胞、工程(a)においてインキュベートしている間葉系幹細胞、または工程(a)で製造した細胞構造体のいずれか一以上を、GLP-1受容体作動薬を含む培地中で培養する工程、および
(c)工程(a)または工程(b)で得られた細胞構造体を、水溶性ビタミンおよび肝細胞増殖因子を含む培地中で培養する工程、
を含む方法。
【0009】
<2> 工程(b)を3~14日間行う、<1>に記載の方法。
<3> 工程(c)を7~35日間行う、<1>または<2>に記載の方法。
<4> 上記GLP-1受容体作動薬がエキセンジン-4である、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<5> 上記水溶性ビタミンがニコチンアミドである、<1>から<4>の何れか一に記載の方法。
<6> 工程(b)における培地が、さらにアクチビンAを含む、<1>から<5>の何れか一に記載の方法。
<7> 工程(c)における培地が、さらにヒストン脱アセチル化阻害剤を含む、<1>から<6>の何れか一に記載の方法。
<8> 上記ヒストン脱アセチル化阻害剤がバルプロ酸である、<7>に記載の方法。
【0010】
<9> 上記工程(a)および上記工程(b)が、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とをGLP-1受容体作動薬を含む培地中でインキュベートすることによって、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の上記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を製造する工程である、<1>から<8>の何れか一に記載の方法。
<10> 上記間葉系幹細胞が脂肪由来幹細胞である、<1>から<9>の何れか一に記載の方法。
<11> 上記生体親和性高分子ブロック一つの大きさが10μm以上300μm以下である、<1>から<10>の何れか一に記載の方法。
<12> 上記細胞構造体の厚さまたは直径が150μm以上3cm以下である、<1>から<11>の何れか一に記載の方法。
<13> 上記生体親和性高分子ブロックがリコンビナントペプチドからなる、<1>から<12>の何れか一に記載の方法。
【0011】
<14> 上記リコンビナントペプチドが、下記式で示される、<11>に記載の方法。式:A-[(Gly-X-Y)-B式中、Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、nは3~100の整数を示し、mは2~10の整数を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
<15> 上記リコンビナントペプチドが、
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または配列番号1に記載のアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;の何れかである、<13>または<14>に記載の方法。
<16> 上記生体親和性高分子ブロックにおいて、上記生体親和性高分子が熱、紫外線または酵素により架橋されている、<1>から<15>の何れか一に記載の方法。
<17> 上記生体親和性高分子ブロックが、生体親和性高分子の多孔質体を粉砕することにより得られる顆粒の形態にある、<1>から<16>の何れか一に記載の方法。
【0012】
<18> <1>から<17>の何れか一に記載の方法により製造されるインスリン産生細胞。
<19> 5x10個のインスリン産生細胞を含む細胞構造体を20mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度を、上記細胞構造体を3mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度で除することにより得られるStimulation Indexが2.5以上である、<18>に記載の細胞。
<20> <1>から<17>の何れか一に記載の方法により製造されるインスリン産生細胞を含む細胞構造体。
<21> 5x10個のインスリン産生細胞を含む細胞構造体を20mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度を、上記細胞構造体を3mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度で除することにより得られるStimulation Indexが2.5以上である、<20>に記載の細胞構造体。
<22> <18>または<19>に記載のインスリン産生細胞あるいは<20>または<21>に記載の細胞構造体を含む、医薬組成物。
<23> 糖尿病治療剤である、<22>に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、間葉系幹細胞から、十分なグルコース応答性を有するインスリン産生細胞を製造することができる。本発明のインスリン産生細胞および本発明の細胞構造体に含まれるインスリン産生細胞は、十分なグルコース応答性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、条件Aに記載した実験の液温プロファイリングを示す。
図2図2は、条件Bに記載した実験の液温プロファイリングを示す。
図3図3は、条件Cに記載した実験の液温プロファイリングを示す。
図4図4は、インスリン産生細胞をジチゾン染色によって確認した結果を示す。
図5図5は、インスリン産生細胞のグルコース応答性によるインスリン分泌能(Stimulation Index:SI)を測定した結果を示す。
図6図6は、細胞のみと細胞構造体でのSI繰り返し再現性を示す。
図7図7は、分化誘導した細胞構造体を糖尿病モデルマウスに移植した試験における、血糖値と移植日数を示す。
図8図8は、分化誘導した細胞構造体を糖尿病モデルマウスに移植した試験における、血中ヒトインスリン濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。
本発明における細胞構造体は、本明細書中において、モザイク細胞塊(モザイク状になっている細胞塊)と称する場合もある。また本明細書において「~」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
【0016】
本発明は、間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造する方法であって、
(a)複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とをインキュベートすることによって、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の上記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を製造する工程、
(b)工程(a)においてインキュベートする前の間葉系幹細胞、工程(a)においてインキュベートしている間葉系幹細胞、または工程(a)で製造した細胞構造体のいずれか一以上を、GLP-1受容体作動薬を含む培地中で培養する工程、および
(c)工程(a)または工程(b)で得られた細胞構造体を、水溶性ビタミンおよび肝細胞増殖因子を含む培地中で培養する工程、
を含む方法に関する。
【0017】
[工程(a)について]
工程(a)は、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とをインキュベートすることによって、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の上記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を製造する工程である。
【0018】
(1)生体親和性高分子ブロック
(1-1)生体親和性高分子
生体親和性とは、生体に接触した際に、長期的かつ慢性的な炎症反応などのような顕著な有害反応を惹起しないことを意味する。本発明で用いる生体親和性高分子は、生体に親和性を有するものであれば、生体内で分解されるか否かは特に限定されないが、生分解性高分子であることが好ましい。非生分解性材料として具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル、ステンレス、チタン、シリコーン、およびMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)などが挙げられる。生分解性材料としては、具体的には、天然由来のペプチド、リコンビナントペプチドまたは化学合成ペプチドなどのポリペプチド(例えば、以下に説明するゼラチン等)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、コンドロイチン、セルロース、アガロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、およびキトサンなどが挙げられる。上記の中でも、リコンビナントペプチドが特に好ましい。これら生体親和性高分子には細胞接着性を高める工夫がなされていてもよい。具体的には、「基材表面に対する細胞接着基質(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン)や細胞接着配列(アミノ酸一文字表記で表される、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、およびHAV配列)ペプチドによるコーティング」、「基材表面のアミノ化、カチオン化」、または「基材表面のプラズマ処理、コロナ放電による親水性処理」といった方法を使用できる。
【0019】
リコンビナントペプチドまたは化学合成ペプチドを含むポリペプチドの種類は生体親和性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ゼラチン、コラーゲン、アテロコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、プロネクチン、ラミニン、テネイシン、フィブリン、フィブロイン、エンタクチン、トロンボスポンジン、レトロネクチン(登録商標)が好ましく、最も好ましくはゼラチン、コラーゲン、アテロコラーゲンである。本発明で用いるためのゼラチンとしては、好ましくは、天然ゼラチン、リコンビナントゼラチンまたは化学合成ゼラチンであり、さらに好ましくはリコンビナントゼラチンである。ここでいう天然ゼラチンとは天然由来のコラーゲンより作られたゼラチンを意味する。
【0020】
化学合成ペプチドまたは化学合成ゼラチンとは、人工的に合成したペプチドまたはゼラチンを意味する。ゼラチン等のペプチドの合成は、固相合成でも液相合成でもよいが、好ましくは固相合成である。ペプチドの固相合成は当業者に公知であり、例えば、アミノ基の保護としてFmoc基(Fluorenyl-Methoxy-Carbonyl基)を使用するFmoc基合成法、並びにアミノ基の保護としてBoc基(tert-Butyl Oxy Carbonyl基)を使用するBoc基合成法などが挙げられる。なお、化学合成ゼラチンの好ましい態様は、本明細書中後記するリコンビナントゼラチンに記載した内容を当てはめることができる。
【0021】
本発明で用いる生体親和性高分子の親水性値「1/IOB」値は、0から1.0が好ましい。より好ましくは、0から0.6であり、さらに好ましくは0から0.4である。IOBとは、藤田穆により提案された有機化合物の極性/非極性を表す有機概念図に基づく、親疎水性の指標であり、その詳細は、例えば、Pharmaceutical Bulletin,vol.2,2,pp.163-173(1954)、「化学の領域」vol.11,10,pp.719-725(1957)、フレグランスジャーナル,vol.50, pp.79-82(1981)等で説明されている。簡潔に言えば、全ての有機化合物の根源をメタン(CH)とし、他の化合物はすべてメタンの誘導体とみなして、その炭素数、置換基、変態部、環等にそれぞれ一定の数値を設定し、そのスコアを加算して有機性値(OV)、無機性値(IV)を求め、この値を、有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。有機概念図におけるIOBとは、有機概念図における有機性値(OV)に対する無機性値(IV)の比、すなわち「無機性値(IV)/有機性値(OV)」をいう。有機概念図の詳細については、「新版有機概念図-基礎と応用-」(甲田善生等著、三共出版、2008)を参照されたい。本明細書中では、IOBの逆数をとった「1/IOB」値で親疎水性を表している。「1/IOB」値が小さい(0に近づく)程、親水性であることを表す表記である。
【0022】
本発明で用いる高分子の「1/IOB」値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなることから、栄養成分の保持に有効に作用し、結果として、本発明にかかる細胞構造体(モザイク細胞塊)における細胞の安定化・生存しやすさに寄与するものと推定される。
【0023】
本発明で用いる生体親和性高分子がポリペプチドである場合は、Grand average of hydropathicity(GRAVY)値で表される親疎水性指標において、0.3以下、マイナス9.0以上であることが好ましく、0.0以下、マイナス7.0以上であることがさらに好ましい。Grand average of hydropathicity(GRAVY)値は、『Gasteiger E.,Hoogland C.,Gattiker A.,Duvaud S.,Wilkins M.R.,Appel R.D.,Bairoch A.;Protein Identification and Analysis Tools on the ExPASy Server;(In)John M. Walker(ed):The Proteomics Protocols Handbook, Humana Press(2005).pp. 571-607』および『Gasteiger E.,Gattiker A.,Hoogland C.,Ivanyi I.,Appel R.D., Bairoch A.;ExPASy:the proteomics server for in-depth protein knowledge and analysis.;Nucleic Acids Res. 31:3784-3788(2003).』の方法により得ることができる。
【0024】
本発明で用いる高分子のGRAVY値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなることから、栄養成分の保持に有効に作用し、結果として、本発明にかかる細胞構造体(モザイク細胞塊)における細胞の安定化・生存しやすさに寄与するものと推定される。
【0025】
(1-2)架橋
本発明で用いる生体親和性高分子は、架橋されているものでもよいし、架橋されていないものでもよいが、架橋されているものが好ましい。架橋されている生体親和性高分子を使用することにより、培地中で培養する際および生体に移植した際に瞬時に分解してしまうことを防ぐという効果が得られる。一般的な架橋方法としては、熱架橋、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)による架橋、縮合剤(カルボジイミド、シアナミドなど)による架橋、酵素架橋、光架橋、紫外線架橋、疎水性相互作用、水素結合、およびイオン性相互作用などが知られており、本発明においても上記の架橋方法を使用することができる。本発明で使用する架橋方法としては、さらに好ましくは熱架橋、紫外線架橋、または酵素架橋であり、特に好ましくは熱架橋である。
【0026】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、高分子材料間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼまたはラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として販売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、並びにヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、Haematologic Technologies,Inc.社)などが挙げられる。
【0027】
架橋(例えば、熱架橋)を行う際の反応温度は、架橋ができる限り特に限定されないが、好ましくは、-100℃~500℃であり、より好ましくは0℃~300℃であり、更に好ましくは50℃~300℃であり、特に好ましくは100℃~250℃であり、最も好ましくは120℃~200℃である。
【0028】
(1-3)リコンビナントゼラチン
本発明で言うリコンビナントゼラチンとは、遺伝子組み換え技術により作られたゼラチン類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドもしくは蛋白様物質を意味する。本発明で用いることができるリコンビナントゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで示される配列(XおよびYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す)の繰り返しを有するものが好ましい。ここで、複数個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。好ましくは、細胞接着シグナルが一分子中に2配列以上含まれている。本発明で用いるリコンビナントゼラチンとしては、コラーゲンの部分アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有するリコンビナントゼラチンを用いることができる。例えばEP1014176、米国特許6992172号、国際公開WO2004/85473、国際公開WO2008/103041等に記載のものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いるリコンビナントゼラチンとして好ましいものは、以下の態様のリコンビナントゼラチンである。
【0029】
リコンビナントゼラチンは、天然のゼラチン本来の性能から、生体親和性に優れ、且つ天然由来ではないことで牛海綿状脳症(BSE)などの懸念がなく、非感染性に優れている。また、リコンビナントゼラチンは天然ゼラチンと比べて均一であり、配列が決定されているので、強度および分解性においても架橋等によってブレを少なく精密に設計することが可能である。
【0030】
リコンビナントゼラチンの分子量は、特に限定されないが、好ましくは2000以上100000以下(2kDa(キロダルトン)以上100kDa以下)であり、より好ましくは2500以上95000以下(2.5kDa以上95kDa以下)であり、さらに好ましくは5000以上90000以下(5kDa以上90kDa以下)であり、最も好ましくは10000以上90000以下(10kDa以上90kDa以下)である。
【0031】
リコンビナントゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで示される配列の繰り返しを有することが好ましい。ここで、複数個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Gly-X-Y において、Glyはグリシンを表し、XおよびYは、任意のアミノ酸(好ましくは、グリシン以外の任意のアミノ酸)を表す。コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで示される配列とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成および配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。XおよびYで表されるアミノ酸にはイミノ酸(プロリン、オキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%~45%を占めることが好ましい。好ましくは、リコンビナントゼラチンの配列の80%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上のアミノ酸が、Gly-X-Yの繰り返し構造である。
【0032】
一般的なゼラチンは、極性アミノ酸のうち電荷を持つものと無電荷のものが1:1で存在する。ここで、極性アミノ酸とは具体的にシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンおよびアルギニンを指し、このうち極性無電荷アミノ酸とはシステイン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびチロシンを指す。本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおいては、構成する全アミノ酸のうち、極性アミノ酸の割合が10~40%であり、好ましくは20~30%である。且つ上記極性アミノ酸中の無電荷アミノ酸の割合が5%以上20%未満、好ましくは5%以上10%未満であることが好ましい。さらに、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシンおよびシステインのうちいずれか1アミノ酸、好ましくは2以上のアミノ酸を配列上に含まないことが好ましい。
【0033】
一般にポリペプチドにおいて、細胞接着シグナルとして働く最小アミノ酸配列が知られている(例えば、株式会社永井出版発行「病態生理」Vol.9、No.7(1990年)527頁)。本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、これらの細胞接着シグナルを一分子中に2以上有することが好ましい。具体的な配列としては、接着する細胞の種類が多いという点で、アミノ酸一文字表記で現わされる、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、およびHAV配列の配列が好ましい。さらに好ましくはRGD配列、YIGSR配列、PDSGR配列、LGTIPG配列、IKVAV配列およびHAV配列、特に好ましくはRGD配列である。RGD配列のうち、好ましくはERGD配列である。細胞接着シグナルを有するリコンビナントゼラチンを用いることにより、細胞の基質産生量を向上させることができる。
【0034】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおけるRGD配列の配置としては、RGD間のアミノ酸数が0~100の間で均一でないことが好ましく、RGD間のアミノ酸数が25~60の間で均一でないことがより好ましい。
この最小アミノ酸配列の含有量は、細胞接着・増殖性の観点から、タンパク質1分子中に好ましくは3~50個であり、さらに好ましくは4~30個であり、特に好ましくは5~20個であり、最も好ましくは12個である。
【0035】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおいて、アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は少なくとも0.4%であることが好ましい。リコンビナントゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのRGDモチーフを含むことが好ましい。アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は、より好ましくは少なくとも0.6%であり、更に好ましくは少なくとも0.8%であり、更に一層好ましくは少なくとも1.0%であり、特に好ましくは少なくとも1.2%であり、最も好ましくは少なくとも1.5%である。リコンビナントペプチド内のRGDモチーフの数は、250のアミノ酸あたり、好ましくは少なくとも4、より好ましくは少なくとも6、更に好ましくは少なくとも8、特に好ましくは12以上16以下である。RGDモチーフの0.4%という割合は、250のアミノ酸あたり、少なくとも1つのRGD配列に対応する。RGDモチーフの数は整数であるので、0.4%の特徴を満たすには、251のアミノ酸からなるゼラチンは、少なくとも2つのRGD配列を含まなければならない。好ましくは、本発明のリコンビナントゼラチンは、250のアミノ酸あたり、少なくとも2つのRGD配列を含み、より好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも3つのRGD配列を含み、さらに好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも4つのRGD配列を含む。本発明のリコンビナントゼラチンのさらなる態様としては、好ましくは少なくとも4つのRGDモチーフを含み、より好ましくは少なくとも6つのRGDモチーフを含み、さらに好ましくは少なくとも8つのRGDモチーフを含み、特に好ましくは12以上16以下のRGDモチーフを含む。
【0036】
リコンビナントゼラチンは部分的に加水分解されていてもよい。
【0037】
好ましくは、本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、式1:A-[(Gly-X-Y)-Bで示されるものである。n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。mは好ましくは2~10の整数を示し、より好ましくは3~5の整数を示す。nは3~100の整数が好ましく、15~70の整数がさらに好ましく、50~65の整数が最も好ましい。Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0038】
より好ましくは、本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、Gly-Ala-Pro-[(Gly-X-Y)63-Gly(式中、63個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、63個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。なお、63個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で示されるものである。
【0039】
繰り返し単位には天然に存在するコラーゲンの配列単位を複数結合することが好ましい。ここで言う天然に存在するコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれでも構わないが、好ましくはI型、II型、III型、IV型、またはV型コラーゲンである。より好ましくは、I型、II型、またはIII型コラーゲンである。別の形態によると、上記コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウスまたはラットであり、より好ましくはヒトである。
【0040】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンの等電点は、好ましくは5~10であり、より好ましくは6~10であり、さらに好ましくは7~9.5である。リコンビナントゼラチンの等電点の測定は、公知の等電点を測定できる方法であれば限定されないが、例えば、等電点電気泳動法(Maxey,C.R.(1976;Phitogr.Gelatin
2,Editor Cox,P.J.Academic,London,Engl.参照)によって、1質量%ゼラチン溶液をカチオンおよびアニオン交換樹脂の混晶カラムに通したあとのpHを測定することで実施することができる。
【0041】
好ましくは、リコンビナントゼラチンは脱アミン化されていない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンはテロペプタイドを有さない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンは、アミノ酸配列をコードする核酸により調製された実質的に純粋なポリペプチドである。
【0042】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンとして特に好ましくは、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上(より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;の何れかである
【0043】
本発明における配列同一性は、以下の式で計算される値を指す。
%配列同一性=[(同一残基数)/(アラインメント長)]×100
2つのアミノ酸配列における配列同一性は当業者に公知の任意の方法で決定することができ、BLAST((Basic Local Alignment Search Tool))プログラム(J.Mol.Biol.215:403-410,1990)等を使用して決定することができる。
【0044】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1若しくは数個」とは、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0045】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、当業者に公知の遺伝子組み換え技術によって製造することができ、例えばEP1014176A2号公報、米国特許第6992172号公報、国際公開WO2004/85473号、国際公開WO2008/103041号等に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、所定のリコンビナントゼラチンのアミノ酸配列をコードする遺伝子を取得し、これを発現ベクターに組み込んで、組み換え発現ベクターを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換体を作製する。得られた形質転換体を適当な培地で培養することにより、リコンビナントゼラチンが産生されるので、培養物から産生されたリコンビナントゼラチンを回収することにより、本発明で用いるリコンビナントゼラチンを調製することができる。
【0046】
(1-4)生体親和性高分子ブロック
本発明では、上記した生体親和性高分子からなるブロック(塊)を使用する。
本発明における生体親和性高分子ブロックの形状は特に限定されるものではない。例えば、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状、多孔質状、繊維状、紡錘状、扁平状およびシート状であり、好ましくは、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状および多孔質状である。不定形とは、表面形状が均一でないもののことを示し、例えば、岩のような凹凸を有する物を示す。なお、上記の形状の例示はそれぞれ別個のものではなく、例えば、粒子状(顆粒)の下位概念の一例として不定形となる場合もある。
【0047】
本発明における生体親和性高分子ブロックの形状は上記の通り特に限定されるものではないが、タップ密度が、好ましくは10mg/cm以上500mg/cm以下であり、より好ましくは20mg/cm以上400mg/cm以下であり、さらに好ましくは40mg/cm以上220mg/cm以下であり、特に好ましくは50mg/cm以上150mg/cm以下である。
【0048】
タップ密度は、ある体積にどれくらいのブロックを密に充填できるかを表す値であり、値が小さいほど、密に充填できない、すなわちブロックの構造が複雑であることが分かる。生体親和性高分子ブロックのタップ密度とは、生体親和性高分子ブロックの表面構造の複雑性、および生体親和性高分子ブロックを集合体として集めた場合に形成される空隙の量を表していると考えられる。タップ密度が小さい程、生体親和性高分子ブロック間の空隙が多くなり、細胞の生着領域が多くなる。また、小さ過ぎないことで、細胞同士の間に適度に生体親和性高分子ブロックが存在でき、細胞構造体とした場合に同構造体内部への栄養分送達を可能とすることから、上記の範囲に収まることが好適であると考えられる。
【0049】
本明細書でいうタップ密度は、特に限定されないが、以下のように測定できる。測定のために(直径6mm、長さ21.8mmの円筒状:容量0.616cm)の容器(以下、キャップと記載する)を用意する。まず、キャップのみの質量を測定する。その後、キャップにロートを付け、ブロックがキャップに溜まるようにロートから流し込む。十分量のブロックを入れた後、キャップ部分を200回机などの硬いところにたたきつけ、ロートをはずし、スパチュラですりきりにする。このキャップにすりきり一杯入った状態で質量を測定する。キャップのみの質量との差からブロックのみの質量を算出し、キャップの体積で割ることで、タップ密度を求めることができる。
【0050】
本発明における生体親和性高分子ブロックの架橋度は、特に限定されないが、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは2以上30以下であり、さらに好ましくは4以上25以下であり、特に好ましくは4以上22以下である。
【0051】
生体親和性高分子ブロックの架橋度(1分子当たりの架橋数)の測定方法は、特に限定されないが、生体親和性高分子がCBE3の場合には、例えば、後記実施例に記載のTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)法で測定することができる。具体的には、生体親和性高分子ブロック、NaHCO水溶液およびTNBS水溶液を混合して37℃で3時間反応させた後に反応停止したサンプルと、生体親和性高分子ブロック、NaHCO水溶液およびTNBS水溶液を混合した直後に反応停止させたブランクとをそれぞれ調製し、純水で希釈したサンプルおよびブランクの吸光度(345nm)を測定し、以下の(式2)、および(式3)から架橋度(1分子当たりの架橋数)を算出することができる。
【0052】
(式2) (As-Ab)/14600×V/w
(式2)は、生体親和性高分子ブロック1g当たりのリジン量(モル等量)を示す。
(式中、Asはサンプル吸光度、Abはブランク吸光度、Vは反応液量(g)、wは生体親和性高分子ブロック質量(mg)を示す。)
【0053】
(式3) 1-(サンプル(式2)/未架橋の高分子(式2))×34
(式3)は、1分子あたりの架橋数を示す。
【0054】
本発明における生体親和性高分子ブロックの吸水率は、特に限定されないが、好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上、さらに好ましくは500%以上、特に好ましくは600%以上、最も好ましくは700%以上である。なお吸水率の上限は特に限定されないが、一般的には4000%以下、または2000%以下である。
【0055】
生体親和性高分子ブロックの吸水率の測定方法は、特に限定されないが、例えば、後記実施例に記載の方法により測定することができる。具体的には、25℃において3cm×3cmのナイロンメッシュ製の袋の中に、生体親和性高分子ブロック約15mgを充填し、2時間イオン交換水中で膨潤させた後、10分風乾させ、それぞれの段階において質量を測定し、(式4)に従って吸水率を求めることができる。
【0056】
(式4)
吸水率=(w2-w1-w0)/w0
(式中、w0は、吸水前の材料の質量、w1は吸水後の空袋の質量、w2は吸水後の材料を含む袋全体の質量を示す。)
【0057】
本発明における生体親和性高分子ブロック一つの大きさは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上300μm以下であり、より好ましくは20μm以上200μm以下であり、より好ましくは20μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは50μm以上120μm以下であり、特に好ましくは53μm以上106μm以下である。
生体親和性高分子ブロック一つの大きさを上記の範囲内にすることにより、外部から細胞構造体の内部への栄養送達を良好にすることができる。なお、生体親和性高分子ブロック一つの大きさとは、複数個の生体親和性高分子ブロックの大きさの平均値が上記範囲にあることを意味するものではなく、複数個の生体親和性高分子ブロックを篩にかけて得られる、一つ一つの生体親和性高分子ブロックのサイズを意味するものである。
【0058】
ブロック一つの大きさは、ブロックを分ける際に用いたふるいの大きさで定義することができる。例えば、180μmのふるいにかけ、通過したブロックを106μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、106~180μmの大きさのブロックとすることができる。次に、106μmのふるいにかけ、通過したブロックを53μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、53~106μmの大きさのブロックとすることができる。次に、53μmのふるいにかけ、通過したブロックを25μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、25~53μmの大きさのブロックとすることができる。
【0059】
(1-5)生体親和性高分子ブロックの製造方法
生体親和性高分子ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、生体親和性高分子を含有する固形物(生体親和性高分子の多孔質体など)を、粉砕機(ニューパワーミルなど)を用いて粉砕することにより、生体親和性高分子ブロックを得ることができる。生体親和性高分子を含有する固形物(多孔質体など)は、例えば、生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥して得ることができる。
【0060】
上記の通り、生体親和性高分子を含有する固形物を粉砕することにより、表面形状が均一でない不定形の生体親和性高分子ブロックを製造することができる。
【0061】
生体親和性高分子の多孔質体を製造する方法としては、特に限定されないが、生体親和性高分子を含む水溶液を凍結乾燥させることによっても得ることができる。例えば、溶液内で最も液温の高い部分の液温(内部最高液温)が、未凍結状態で「溶媒融点-3℃」以下となる凍結工程を含めることによって、形成される氷は球状とすることができる。この工程を経て、氷が乾燥されることで、球状の等方的な空孔(球孔)を持つ多孔質体が得られる。溶液内で最も液温の高い部分の液温(内部最高液温)が、未凍結状態で「溶媒融点-3℃」以上となる凍結工程を含まずに、凍結されることで、形成される氷は柱/平板状とすることができる。この工程を経て、氷が乾燥されると、一軸あるいは二軸上に長い、柱状あるいは平板状の空孔(柱/平板孔)を持つ多孔質体が得られる。生体親和性高分子の多孔質体を、粉砕し、生体親和性高分子ブロックを製造する場合には、粉砕前の多孔質体の空孔が、得られる生体親和性高分子ブロックの形状に影響を与えるため、上記の通り、凍結乾燥の条件を調整することにより、得られる生体親和性高分子ブロックの形状を調整することができる。
【0062】
生体親和性高分子の多孔質体の製造方法の一例としては、
(A)溶液内で最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差が2.5℃以下であり、かつ、溶液内で最も液温の高い部分の温度が溶媒の融点以下で、生体親和性高分子の溶液を、未凍結状態に冷却する工程、
(B)工程(A)で得られた生体親和性高分子の溶液を凍結する工程、および
(C)工程(B)で得られた凍結した生体親和性高分子を凍結乾燥する工程
を含む方法を挙げることができるが、上記方法に限定されるわけではない。
【0063】
生体親和性高分子の溶液を未凍結状態に冷却する際に、最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差が2.5℃以下(好ましくは2.3℃以下、より好ましくは2.1℃以下)、つまり温度の差を小さくすることによって、得られる多孔質のポアの大きさのばらつきが少なくなる。なお最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差の下限は特に限定されず、0℃以上であればよく、例えば0.1℃以上、0.5℃以上、0.8℃以上、または0.9℃以上でもよい。これにより、製造された多孔質体を用いて製造した生体親和性高分子ブロックを用いた細胞構造体は、高い細胞数を示すという効果が達成される。
【0064】
工程(A)の冷却は、例えば、水よりも熱伝導率の低い素材(好ましくは、テフロン(登録商標))を介して冷却することが好ましく、溶液内で最も液温の高い部分は、冷却側から最も遠い部分と擬制することができ、溶液内で最も液温の低い部分は、冷却面の液温と擬制することができる。
【0065】
好ましくは、工程(A)において、凝固熱発生直前の、溶液内で最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差が2.5℃以下であり、より好ましくは2.3℃以下であり、さらに好ましくは2.1℃以下である。ここで「凝固熱発生直前の温度差」とは、凝固熱発生時の1秒前~10秒前の間で最も温度差が大きくなるときの温度差を意味する。
【0066】
好ましくは、工程(A)において、溶液内で最も液温の低い部分の温度は、溶媒融点-5℃以下であり、より好ましくは溶媒融点-5℃以下かつ溶媒融点-20℃以上であり、更に好ましくは溶媒融点-6℃以下かつ溶媒融点-16℃以上である。なお、溶媒融点の溶媒とは、生体親和性高分子の溶液の溶媒である。
【0067】
工程(B)においては、工程(A)で得られた生体親和性高分子の溶液を凍結する。工程(B)にて凍結するための冷却温度は、特に制限されるものではなく、冷却する機器にもよるが、好ましくは、溶液内で最も液温の低い部分の温度より、3℃から30℃低い温度であり、より好ましくは、5℃から25℃低い温度であり、更に好ましくは、10℃から20℃低い温度である。
【0068】
工程(C)においては、工程(B)で得られた凍結した生体親和性高分子を凍結乾燥する。凍結乾燥は、常法により行うことができ、例えば、溶媒の融点より低い温度で真空乾燥を行い、さらに室温(20℃)で真空乾燥を行うことにより凍結乾燥を行うことができる。
【0069】
本発明では好ましくは、上記工程(C)で得られた多孔質体を粉砕することによって、生体親和性高分子ブロックを製造することができる。即ち、生体親和性高分子ブロックは、好ましくは、生体親和性高分子の多孔質体を粉砕することにより得られる顆粒の形態にあるものでもよい。
【0070】
(2)細胞
本発明で使用する細胞は、間葉系幹細胞である。使用する間葉系幹細胞は1種でもよいし、複数種の細胞を組合せて用いてもよい。
本発明で使用する間葉系幹細胞(MSC)は、未分化細胞としての複製能力を有し、かつ骨細胞、軟骨細胞、心筋細胞および脂肪細胞などへの分化能を有する細胞である。間葉系幹細胞の起源は特に限定されず、ヒト間葉系幹細胞でもよいし、マウス、ラット、ネコ、またはイヌ等の非ヒト動物由来の間葉系幹細胞でもよい。
【0071】
間葉系幹細胞は,骨髄、軟骨、脂肪組織,胎盤組織、臍帯組織、歯髄等の種々の組織から取得できることが知られており、その由来は特に限定されない。間葉系幹細胞としては、脂肪由来間葉系幹細胞および骨髄由来間葉系幹細胞が好ましく、脂肪由来間葉系幹細胞が好ましい。間葉系幹細胞の由来としては、ヒト由来または犬由来が好ましい。間葉系幹細胞は、投与する患者の自家細胞でもよいし、他家細胞でもよい。
【0072】
各組織から間葉系幹細胞を単離する方法としては、従来公知の方法を採用することが可能であり、例えば、コラゲナーゼ法によって組織から間葉系幹細胞を好適に分離することができる。 例えば、間葉系幹細胞は、細胞表面マーカー(CD105、CD73、CD90など)を指標として回収することができる。
【0073】
(3)細胞構造体
本発明における細胞構造体は、上記した複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも1種類の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の上記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の上記高分子ブロックが配置されている細胞構造体である。本発明においては、生体親和性高分子ブロックと間葉系幹細胞とを用いて、複数個の細胞の隙間に複数個の高分子ブロックをモザイク状に3次元的に配置させることによって、生体親和性高分子ブロックと細胞とがモザイク状に3次元配置されることにより、構造体中で細胞が均一に存在する細胞3次元構造体が形成され、物質透過能を有することとなる。
【0074】
本発明における細胞構造体は、複数個の細胞の隙間に複数個の高分子ブロックが配置されているが、ここで、「細胞の隙間」とは、構成される細胞により、閉じられた空間である必要はなく、細胞により挟まれていればよい。なお、すべての細胞に隙間がある必要はなく、細胞同士が接触している箇所があってもよい。高分子ブロックを介した細胞の隙間の距離、即ち、ある細胞とその細胞から最短距離に存在する細胞を選択した際の隙間距離は特に制限されるものではないが、高分子ブロックの大きさであることが好ましく、好適な距離も高分子ブロックの好適な大きさの範囲である。
【0075】
また、本発明にかかる高分子ブロックは、細胞により挟まれた構成となるが、すべての高分子ブロック間に細胞がある必要はなく、高分子ブロック同士が接触している箇所があってもよい。細胞を介した高分子ブロック間の距離、即ち、高分子ブロックとその高分子ブロックから最短距離に存在する高分子ブロックを選択した際の距離は特に制限されるものではないが、使用される細胞が1~数個集まった際の細胞の塊の大きさであることが好ましく、例えば、10μm以上1000μm以下であり、好ましくは10μm以上100μm以下であり、より好ましくは10μm以上50μm以下である。
【0076】
なお、本明細書中、「構造体中で細胞が均一に存在する細胞3次元構造体」等、「均一に存在する」との表現を使用しているが、完全な均一を意味するものではない。
【0077】
本発明における細胞構造体の厚さまたは直径は、所望の大きさとすることができるが、下限としては、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより一層好ましく、215μm以上であることがより好ましく、400μm以上がさらに好ましく、730μm以上であることが最も好ましい。厚さまたは直径の上限は特に限定されないが、使用上の一般的な範囲としては3cm以下が好ましく、2cm以下がより好ましく、1cm以下であることが更に好ましい。また、細胞構造体の厚さまたは直径の範囲として、好ましくは150μm以上3cm以下、より好ましくは400μm以上3cm以下、より一層好ましくは500μm以上2cm以下、更に好ましくは720μm以上1cm以下である。
【0078】
本発明における細胞構造体は、好ましくは、高分子ブロックからなる領域と細胞からなる領域がモザイク状に配置されている。尚、本明細書中における「細胞構造体の厚さまたは直径」とは、以下のことを示すものとする。細胞構造体中のある一点Aを選択した際に、その点Aを通る直線の内で、細胞構造体外界からの距離が最短になるように細胞構造体を分断する線分の長さを線分Aとする。細胞構造体中でその線分Aが最長となる点Aを選択し、その際の線分Aの長さのことを「細胞構造体の厚さまたは直径」とする。
【0079】
本発明における細胞構造体においては、細胞と高分子ブロックの比率は特に限定されないが、好ましくは細胞1個当りの高分子ブロックの質量が0.0000001μg以上1μg以下であることが好ましく、より好ましくは0.000001μg以上0.1μg以下、さらに好ましくは0.00001μg以上0.01μg以下、最も好ましくは0.00002μg以上0.006μg以下である。上記範囲とすることにより、より細胞を均一に存在させることができる。また、下限を上記範囲とすることにより、上記用途に使用した際に細胞の効果を発揮することができ、上限を上記範囲とすることにより、任意で存在する高分子ブロック中の成分を細胞に供給できる。ここで、高分子ブロック中の成分は特に制限されないが、後記する培地に含まれる成分が挙げられる。
【0080】
(4)細胞構造体の製造方法
細胞構造体は、生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞とを混合することによって製造することができる。より具体的には、細胞構造体は、生体親和性高分子ブロック(生体親和性高分子からなる塊)と、細胞とを交互に配置することにより製造できる。なお、交互とは、完全な交互を意味するものではなく、例えば、生体親和性高分子ブロックと細胞とが混合された状態を意味する。製造方法は特に限定されないが、好ましくは高分子ブロックを形成したのち、細胞を播種する方法である。具体的には、生体親和性高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートすることによって、細胞構造体を製造することができる。例えば、容器中、容器に保持される液体中で、細胞と、予め作製した生体親和性高分子ブロックをモザイク状に配置する。配置の手段としては、自然凝集、自然落下、遠心、攪拌を用いることで、細胞と生体親和性高分子ブロックからなるモザイク状の配列形成を、促進、制御することが好ましい。
【0081】
用いられる容器としては、細胞低接着性材料、細胞非接着性材料からなる容器が好ましく、より好ましくはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートからなる容器である。容器底面の形状は平底型、U字型、V字型であることが好ましい。
【0082】
上記の方法で得られたモザイク状細胞構造体は、例えば、(i)別々に調製したモザイク状細胞塊同士を融合させる、または(ii)分化培地または増殖培地下でボリュームアップさせる、などの方法により所望の大きさの細胞構造体を製造することができる。融合の方法、ボリュームアップの方法は特に限定されない。
【0083】
例えば、生体親和性高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートする工程において、培地を分化培地または増殖培地に交換することによって、細胞構造体をボリュームアップさせることができる。好ましくは、生体親和性高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートする工程において、生体親和性高分子ブロックをさらに添加することによって、所望の大きさの細胞構造体であって、細胞構造体中に細胞が均一に存在する細胞構造体を製造することができる。
【0084】
上記別々に調製したモザイク状細胞塊同士を融合させる方法とは、具体的には、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、上記複数の間葉系幹細胞により形成される複数個の隙間の一部または全部に、一または複数個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を複数個融合させる工程を含む、細胞構造体の製造方法である。
【0085】
[工程(b)について]
工程(b)は、工程(a)においてインキュベートする前の間葉系幹細胞、工程(a)においてインキュベートしている間葉系幹細胞、または工程(a)で製造した細胞構造体のいずれか一以上を、GLP-1受容体作動薬を含む培地中で培養する工程である。
【0086】
上記の通り、工程(b)は工程(a)の前に行ってもよく、工程(b)と工程(a)とを同時に行ってもよく、工程(b)は工程(a)の後に行ってもよい。また、工程(b)は、工程(a)の前、工程(a)と同時、工程(a)の後のうちの何れか1以上で行うことができる。即ち、工程(b)は、工程(a)の前および工程(a)と同時に行ってもよいし、工程(a)の前および工程(a)の後に行ってもよいし、工程(a)と同時および工程(a)の後に行ってもよいし、工程(a)の前、工程(a)と同時、および工程(b)の後に行ってもよい。工程(b)を工程(a)の前に行う場合には、工程(a)においてインキュベートする前の間葉系幹細胞をGLP-1受容体作動薬を含む培地中で培養し、その後に、GLP-1受容体作動薬を含む培地中で培養した間葉系幹細胞を用いて工程(a)を行って細胞構造体を製造する。工程(b)と工程(a)とを同時に行う場合には、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とをGLP-1受容体作動薬を含む培地中でインキュベートすることによって、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の上記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を製造する。工程(b)を工程(a)の後に行う場合には、先ず工程(a)で細胞構造体を製造し、その後、工程(a)で製造した細胞構造体を、GLP-1受容体作動薬を含む培地中で培養する。
【0087】
工程(b)における培地は、GLP-1受容体作動薬を含む培地である。培地の種類は、間葉系幹細胞を維持培養または拡大培養できる培地であれば、その種類は特に限定されないが、例えば、MesenPro(2%血清含有、ライフテクノロジーズ)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12(20%FBS(ウシ胎児血清)(Gibco)含有、ライフテクノロジーズ)、DMEM(10%FBS(Gibco)含有、SIGMA)、PRIME-XV XSFM(無血清、JXエネルギー)、MSCGM BulletKit(商標)(タカラバイオ)、Mesencult-ACF(動物由来成分不含)およびMesencult-SF(無血清、何れもベリタス)、MSCGM BullrtKit(血清含有、Lonza)などを挙げることができる。
【0088】
GLP-1受容体作動薬としては、GLP-1、GLP-1類似体、およびGLP-1受容体を通じたシグナル伝達を促進する他の物質(ペプチドまたは低分子化合物など)が挙げられる。GLP-1類似体の例としては、エキセナチド(エキセンジン-4)、エキセナチドLAR(long acting release:エキセナチドの長時間作用性遊離製剤)、リラグルチド、タスポグルチド、セマグルチド、アルビグルチド、リキシセナチド、デュラグルチドなどが挙げられる。
GLP-1受容体作動薬としては、エキセンジン-4が好ましい。
【0089】
工程(b)における培地におけるGLP-1受容体作動薬(好ましくはエキセンジン-4)の含有量は、好ましくは1nmol/L~100nmol/Lであり、より好ましくは2nmol/L~50nmol/Lであり、さらに好ましくは5nmol/L~20nmol/Lである。
【0090】
工程(b)における培地には、GLP-1受容体作動薬の他に、アクチビンA、アルブミン、B27-supplement(Gibco社)またはN2-supplement(Gibco社)から選択される1種以上を含めることができる、工程(b)における培地は、アクチビンAを含むことが好ましい。工程(b)で用いる培地は、特に好ましくは、アクチビンA、アルブミン、B27-supplement(Gibco社)またはN2-supplement(Gibco社)の全てを含む。
【0091】
工程(b)における培地がアクチビンAを含む場合、培地におけるアクチビンAの含有量は、好ましくは5ng/mL~500ng/mLであり、より好ましくは10ng/mL~200ng/mLであり、さらに好ましくは20ng/mL~100ng/mLである。
工程(b)における培地がアルブミンを含む場合、培地におけるアルブミンの含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。
工程(b)における培地がB27-supplement(Gibco社)を含む場合、培地におけるB27-supplementの含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。
工程(b)における培地がN2-supplement(Gibco社)を含む場合、培地におけるN2-supplementの含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。
【0092】
工程(b)においては、細胞または細胞構造体を3~14日間培養することが好ましく、7~9日間培養することがより好ましい。
工程(b)における培養条件としては、一般的な細胞培養の条件を選択すればよい。37℃、5%COの条件などが例示される。培養中は適切な間隔(好ましくは1日から7日に1回、より好ましくは3日から4日に1回)で培地を交換することが好ましい。
【0093】
培養には、プレート、ディッシュ、細胞培養用フラスコ、細胞培養用バッグ等の細胞培養容器を使用することができる。なお、細胞培養用バッグとしては、ガス透過性を有するものが好適である。大量の細胞を必要とする場合には、大型培養槽を使用してもよい。培養は開放系または閉鎖系のどちらでも実施することができる。
【0094】
[工程(c)について]
工程(c)は、工程(a)または工程(b)で得られた細胞構造体を、水溶性ビタミンおよび肝細胞増殖因子(HGF)を含む培地中で培養する工程である。
【0095】
工程(c)における培地は、水溶性ビタミンおよび肝細胞増殖因子(HGF)を含む培地である。培地の種類は、間葉系幹細胞を維持培養または拡大培養できる培地であれば、その種類は特に限定されないが、例えば、MesenPro(2%血清含有、ライフテクノロジーズ)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12(20%FBS(ウシ胎児血清)(Gibco)含有、ライフテクノロジーズ)、DMEM(10%FBS(Gibco)含有、SIGMA)、PRIME-XV XSFM(無血清、JXエネルギー)、MSCGM BulletKit(商標)(タカラバイオ)、Mesencult-ACF(動物由来成分不含)およびMesencult-SF(無血清、何れもベリタス)、MSCGM BullrtKit(血清含有、Lonza)などを挙げることができる。
【0096】
水溶性ビタミンとしては、ビタミンC;ビタミンB1;ビタミンB2;ナイアシンやニコチンアミドを含むビタミンB3;ビタミンB5;ビタミンB6;ビタミンB7;ビタミンB9;およびビタミンB12などが挙げられる。水溶性ビタミンとしては、ニコチンアミドが好ましい。
【0097】
工程(c)における培地における水溶性ビタミン(好ましくはニコチンアミド)の含有量は、好ましくは1mmol/L~100mmol/Lであり、より好ましくは2mmol/L~50mmol/Lであり、さらに好ましくは5mmol/L~20mmol/Lである。
【0098】
工程(c)における培地における肝細胞増殖因子(HGF)の含有量は、好ましくは5ng/mL~500ng/mLであり、より好ましくは10ng/mL~200ng/mLであり、さらに好ましくは20ng/mL~100ng/mLである。
【0099】
工程(c)における培地には、水溶性ビタミンおよび肝細胞増殖因子(HGF)の他に、ヒストン脱アセチル化(HDAC)阻害剤を含むことができる。工程(c)における培地は、ヒストン脱アセチル化(HDAC)阻害剤を含むことが好ましい。
【0100】
ヒストン脱アセチル化(HDAC)阻害剤としては、(1)脂肪酸類、例えば酪酸、β-ヒドロキシ酪酸、バルプロ酸、これらの塩やエステルなど、(2)ヒドロキサム酸類、例えばトリコスタチンA、オキサムフラチン、スベロイルアニリド(suberoylanilide)など、(3)環状ペプチド、例えばトラポキシン(trapoxin)、アピシヂン(apicidin)、FK228など、(4)ベンズアミドなどが挙げられる。ヒストン脱アセチル化(HDAC)阻害剤としては、バルプロ酸が好ましい。
【0101】
工程(c)における培地がバルプロ酸を含む場合、培地におけるバルプロ酸の含有量は、好ましくは0.1mmol/L~10mmol/Lであり、より好ましくは0.2mmol/L~5mmol/Lであり、さらに好ましくは0.5mmol/L~2mmol/Lである。
【0102】
工程(c)における培地には、工程(b)における培地と同様に、GLP-1受容体作動薬、アクチビンA、アルブミン、B27-supplement(Gibco社)またはN2-supplement(Gibco社)から選択される1種以上を含んでいてもよい。工程(c)における培地は、特に好ましくはGLP-1受容体作動薬、アクチビンA、アルブミン、B27-supplement(Gibco社)およびN2-supplement(Gibco社)の全てを含む。
【0103】
工程(c)における培地がGLP-1受容体作動薬を含む場合、培地におけるGLP-1受容体作動薬の含有量は、好ましくは1nmol/L~100nmol/Lであり、より好ましくは2nmol/L~50nmol/Lであり、さらに好ましくは5nmol/L~20nmol/Lである。
【0104】
工程(c)における培地がアクチビンAを含む場合、培地におけるアクチビンAの含有量は、好ましくは5ng/mL~500ng/mLであり、より好ましくは10ng/mL~200ng/mLであり、さらに好ましくは20ng/mL~100ng/mLである。
工程(c)における培地がアルブミンを含む場合、培地におけるアルブミンの含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。
工程(c)における培地がB27-supplement(Gibco社)を含む場合、培地におけるB27-supplementの含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。
工程(c)における培地がN2-supplement(Gibco社)を含む場合、培地におけるN2-supplementの含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。
【0105】
工程(c)において、細胞構造体は7~35日間培養することが好ましく、14~28日間培養することがより好ましい。
工程(c)における培養条件としては、一般的な細胞培養の条件を選択すればよい。37℃、5%COの条件などが例示される。培養中は適切な間隔(好ましくは1日から7日に1回、より好ましくは3日から4日に1回)で培地を交換することが好ましい。
【0106】
培養には、プレート、ディッシュ、細胞培養用フラスコ、細胞培養用バッグ等の細胞培養容器を使用することができる。なお、細胞培養用バッグとしては、ガス透過性を有するものが好適である。大量の細胞を必要とする場合には、大型培養槽を使用してもよい。培養は開放系または閉鎖系のどちらでも実施することができる。
【0107】
本発明によれば、上記した工程(a)、工程(b)および工程(c)により、間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造することができる。インスリン産生細胞とは、インスリンを合成し、細胞外へ分泌する能力を有する細胞を意味する。
【0108】
[インスリン産生細胞、インスリン産生細胞を含む細胞構造体、および医薬組成物]
本発明によれば、上記した工程(a)、工程(b)および工程(c)を含む、間葉系幹細胞からインスリン産生細胞を製造する方法により製造されるインスリン産生細胞、および上記インスリン産生細胞を含む細胞構造体が提供される。本発明によれば、上記インスリン産生細胞または上記細胞構造体を含む医薬組成物が提供される。
インスリン産生細胞および細胞構造体においては、5x10個のインスリン産生細胞を含む細胞構造体を20mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度を、上記細胞構造体を3mmol/Lグルコース濃度下で2mLのKrebs-Ringer bicarbonateバッファー中で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度で除することにより得られるStimulation Indexが好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3.0以上であり、特に好ましくは3.4以上である。
【0109】
本発明の医薬組成物は、インスリン産生細胞または細胞構造体に加えて、薬学的に許容される担体または添加物を含んでいてもよい。薬学的に許容される担体または添加物としては、希釈液または緩衝液(例えば、水、通常生理食塩溶液)、キレート化剤(例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA))、緩衝剤(例えば酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩);張性の調整のための作用物質(例えば塩化ナトリウムまたはデキストロースなど)を挙げることができるが、特に限定されない。
【0110】
本発明においては、インスリン産生細胞、インスリン産生細胞を含む細胞構造体、または医薬組成物を、インスリン療法を必要とする対象に移植することができる。
インスリン療法を必要とする対象の病態としては、
1型糖尿病、インスリン依存型の2型糖尿病、
糖尿病昏睡、
重症感染症の併発、中等度以上の外科手術の際、および糖尿病合併妊娠、
などを挙げることができるが、特に限定されない。
本発明の医薬組成物は好ましくは、糖尿病治療剤として使用することができる。
【0111】
移植方法としては、切開、注射、内視鏡といったものが使用可能である。インスリン産生細胞を含む細胞構造体は、細胞シートといった細胞移植物とは異なり、構造体のサイズを小さくすることができるため、注射による移植といった低侵襲の移植方法が可能となる。
【0112】
インスリン産生細胞またはインスリン産生細胞を含む細胞構造体を移植する際の量は、移植対象(ヒト、動物)の状態などに応じて適宜選択することができるが、移植する細胞数としては、1.0×10cells/kg以上2.0×1010cells/kg以下が好ましく、1.0×10cells/kg以上2.0×10cells/kg以下がより好ましい。インスリン産生細胞またはインスリン産生細胞を含む細胞構造体の移植回数は、1回だけ移植してもよいし、必要に応じ2回以上の移植を行うこともできる。
【0113】
本発明によればさらに以下の発明が提供される。
(A)本発明のインスリン産生細胞または本発明の細胞構造体を、インスリン療法を必要とする対象に投与することを含む、インスリン療法を必要とする病態(好ましくは、糖尿病)の治療方法。
(B)インスリン療法を必要とする病態(好ましくは、糖尿病)の治療において使用するための、本発明のインスリン産生細胞または本発明の細胞構造体。
(C)医薬組成物(好ましくは、糖尿病治療剤)の製造のための、本発明のインスリン産生細胞または本発明の細胞構造体の使用。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0114】
[参考例1]リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)
リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)として以下のCBE3を用意した(国際公開WO2008/103041号公報に記載)。
CBE3:分子量:51.6kD構造: GAP[(GXY)63Gアミノ酸数:571個
RGD配列:12個イミノ酸含量:33%ほぼ100%のアミノ酸がGXYの繰り返し構造である。CBE3のアミノ酸配列には、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシンおよびシステインは含まれていない。CBE3はERGD配列を有している。
等電点:9.34
GRAVY値:-0.682
1/IOB値:0.323アミノ酸配列(配列表の配列番号1)(国際公開WO2008/103041号公報の配列番号3と同じ。但し末尾のXは「P」に修正)
GAP(GAPGLQGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGPAGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPP)G
【0115】
[参考例2] リコンビナントペプチド多孔質体の作製
[PTFE厚・円筒形容器]
底面厚さ3mm、直径51mm、側面厚さ8mm、高さ25mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製円筒カップ状容器を用意した。円筒カップは曲面を側面としたとき、側面は8mmのPTFEで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も3mmのPTFEで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。よって、円筒カップの内径は43mmになっている。以後、この容器のことをPTFE厚・円筒形容器と呼称する。
【0116】
[アルミ硝子板・円筒形容器]
厚さ1mm、直径47mmのアルミ製円筒カップ状容器を用意した。円筒カップは曲面を側面としたとき、側面は1mmのアルミで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も1mmのアルミで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。また、側面の内部にのみ、肉厚1mmのテフロン(登録商標)を均一に敷き詰め、結果として円筒カップの内径は45mmになっている。また、この容器の底面にはアルミの外に2.2mmの硝子板を接合した状態にしておく。以後、この容器のことをアルミ硝子・円筒形容器と呼称する。
【0117】
[温度差の小さい凍結工程、および乾燥工程]
PTFE厚・円筒形容器またはアルミ硝子板・円筒形容器にCBE3水溶液を流し込み、真空凍結乾燥機(TF5-85ATNNN:宝製作所)内で冷却棚板を用いて底面からCBE3水溶液を冷却した。この際の容器、CBE3水溶液の最終濃度、液量、および棚板温度の設定の組み合わせは、以下に記載の通りで用意した。
【0118】
条件A:
PTFE厚・円筒形容器、CBE3水溶液の最終濃度4質量%、水溶液量4mL。棚板温度の設定は、-10℃になるまで冷却し、-10℃で1時間、その後-20℃で2時間、さらに-40℃で3時間、最後に-50℃で1時間凍結を行った。本凍結品はその後、棚板温度を-20℃設定に戻してから-20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×10Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。それによって多孔質体を得た。
【0119】
条件B:
アルミ・硝子板・円筒形容器、CBE3水溶液の最終濃度4質量%、水溶液量4mL。棚板温度の設定は、-10℃になるまで冷却し、-10℃で1時間、その後-20℃で2時間、さらに-40℃で3時間、最後に-50℃で1時間凍結を行った。本凍結品はその後、棚板温度を-20℃設定に戻してから-20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×10Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。それによって多孔質体を得た。
【0120】
条件C:
PTFE厚・円筒形容器、CBE3水溶液の最終濃度4質量%、水溶液量10mL。棚板温度の設定は、-10℃になるまで冷却し、-10℃で1時間、その後-20℃で2時間、さらに-40℃で3時間、最後に-50℃で1時間凍結を行った。本凍結品はその後、棚板温度を-20℃設定に戻してから-20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×10Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。それによって多孔質体を得た。
【0121】
[各凍結工程での温度測定]
条件A~条件Cのそれぞれについて、溶液内で冷却側から最も遠い場所の液温(非冷却面液温)として容器内の円中心部の水表面液温を、また、溶液内で冷却側に最も近い液温(冷却面液温)として容器内の底部の液温を測定した。
その結果、それぞれの温度とその温度差のプロファイルは図1図3の通りとなった。
【0122】
図1図2図3から条件A、条件B、条件Cでは棚板温度-10℃設定区間(-20℃に下げる前)において液温が融点である0℃を下回り、かつその状態で凍結が起こっていない(未凍結・過冷却)状態であることがわかる。また、この状態で、冷却面液温と非冷却面液温の温度差が2.5℃以下となっていた。なお、本明細書において、「温度差」とは、「非冷却面液温」-「冷却面液温」を意味する。その後、棚板温度を-20℃へ更に下げていくことによって、液温が0℃付近へ急激に上昇するタイミングが確認され、ここで凝固熱が発生し凍結が開始されたことが分かる。また、そのタイミングで実際に氷形成が始まっていることも確認できた。その後、温度は0℃付近を一定時間経過していく。ここでは、水と氷の混合物が存在する状態となっていた。最後0℃から再び温度降下が始まるが、この時、液体部分はなくなり氷となっている。従って、測定している温度は氷内部の固体温度となり、つまり液温ではなくなる。
【0123】
以下に、条件A、条件B、条件Cについて、非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差、棚板温度を-10℃から-20℃へ下げる直前の温度差と、凝固熱発生直前の温度差を記載する。なお、本発明で言う「直前の温度差」とは、イベント(凝固熱発生等)の1秒前~20秒前までの間で検知可能な温度差の内、最も高い温度のことを表している。
【0124】
条件A非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差:1.1℃-10℃から-20℃へ下げる直前の温度差:0.2℃凝固熱発生直前の温度差:1.1℃
【0125】
条件B非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差:1.0℃-10℃から-20℃へ下げる直前の温度差:0.1℃凝固熱発生直前の温度差:0.9℃
【0126】
条件C非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差:1.8℃-10℃から-20℃へ下げる直前の温度差:1.1℃凝固熱発生直前の温度差:2.1℃
【0127】
[参考例3]生体親和性高分子ブロックの作製(多孔質体の粉砕と架橋)
参考例2で得られた条件Aおよび条件BのCBE3多孔質体をニューパワーミル(大阪ケミカル、ニューパワーミルPM-2005)で粉砕した。粉砕は、最大回転数で1分間×5回、計5分間の粉砕で行った。得られた粉砕物について、ステンレス製ふるいでサイズ分けし、25~53μm、53~106μm、106~180μmの未架橋ブロックを得た。その後、減圧下160℃で熱架橋(架橋時間は8時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間の6種類を実施した)を施して、生体親和性高分子ブロック(CBE3ブロック)を得た。
【0128】
以下、48時間架橋を施した条件Aの多孔質体由来ブロックをE、48時間架橋を施した条件Bの多孔質体由来ブロックをFと称する。EおよびFは温度差の小さい凍結工程により製造した多孔質体から作られた温度差小ブロックである。なお、架橋時間の違いは本実施例の評価においては性能に影響が見られなかったため、以後、48時間架橋したものを代表として使用した。また、EおよびFでは性能に差が見られなかった。以下の参考例、実施例では、条件A、サイズ53~106μm、架橋時間48時間で作製した生体親和性高分子ブロックを使用した。
【0129】
[参考例4] 生体親和性高分子ブロックのタップ密度測定
タップ密度は、ある体積にどれくらいのブロックを密に充填できるかを表す値であり、値が小さいほど、密に充填できない、すなわちブロックの構造が複雑であると言える。タップ密度は、以下のように測定した。まず、ロートの先にキャップ(直径6mm、長さ21.8mmの円筒状:容量0.616cm)が付いたものを用意し、キャップのみの質量を測定した。その後、ロートにキャップを付け、ブロックがキャップに溜まるようにロートから流し込んだ。十分量のブロックを入れた後、キャップ部分を200回、机などの硬いところにたたきつけ、ロートをはずし、スパチュラですりきりにした。このキャップにすりきり一杯入った状態で質量を測定した。キャップのみの質量との差からブロックのみの質量を算出し、キャップの体積で割ることで、タップ密度を求めた。
その結果、参考例3の生体親和性高分子ブロックのタップ密度は98mg/cmであった。
【0130】
[参考例5] 生体親和性高分子ブロックの架橋度測定
参考例3で架橋したブロックの架橋度(1分子当たりの架橋数)を算出した。測定はTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)法を用いた。
<サンプル調製>
ガラスバイアルに、サンプル(約10mg)、4質量%NaHCO水溶液(1mL)および1質量%のTNBS水溶液(2mL)を添加し、混合物を37℃で3時間振とうさせた。その後、37質量%塩酸(10mL)および純水(5mL)を加えた後、混合物を37℃で16時間以上静置し、サンプルとした。
【0131】
<ブランク調整>
ガラスバイアルに、サンプル(約10mg)、4質量%NaHCO水溶液(1mL)および1質量%TNBS水溶液(2mL)を添加し、直後に37質量%塩酸(3mL)を加え、混合物を37℃で3時間振とうした。その後、37質量%塩酸(7mL)および純水(5mL)を加えた後、混合物を37℃で16時間以上静置し、ブランクとした。
純水で10倍希釈したサンプル、および、ブランクの吸光度(波長345nm)を測定し、以下の(式2)、および(式3)から架橋度(1分子当たりの架橋数)を算出した。
【0132】
(式2) (As-Ab)/14600×V/w
(式2)は、リコンビナントペプチド1g当たりのリジン量(モル当量)を示す。
(式中、Asはサンプル吸光度、Abはブランク吸光度、Vは反応液量(g)、wはリコンビナントペプチド質量(mg)を示す。)
【0133】
(式3) 1-(サンプル(式2)/未架橋リコンビナントペプチド(式2))×34
(式3)は、1分子あたりの架橋数を示す。
【0134】
その結果、参考例3の生体親和性高分子ブロックの架橋度は、4.2であった。
【0135】
[参考例6] 生体親和性高分子ブロックの吸水率測定
参考例3で作製した生体親和性高分子ブロックの吸水率を算出した。
25℃において、3cm×3cmのナイロンメッシュ製の袋の中に、生体親和性高分子ブロック約15mgを充填し、2時間イオン交換水中で膨潤させた後、10分風乾させた。それぞれの段階において質量を測定し、(式4)に従って、吸水率を求めた。
【0136】
(式4)
吸水率=(w2-w1-w0)/w0
(式中、w0は、吸水前の材料の質量、w1は吸水後の空袋の質量、w2は吸水後の材料を含む袋全体の質量を示す。)
【0137】
その結果、参考例3のブロックの吸水率は、786%であった。
【0138】
以下において、VPAとはバルプロ酸を意味する。
以下の比較例1、参考例7、実施例1および実施例2における細胞の培養は全て、37℃、5%COにて行った。
【0139】
[比較例1]細胞のみの分化誘導(VPA-)
市販のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hADSC:Lonza)を解凍し、5継代を経るまで継代した。この段階の継代数としては8継代でも結果が変わらなかった。
その後、上記細胞を12wellに5×10個/wellを播種し、Step1として、以下のメディウムおよびコンパウンドにて7日間培養した。
DMEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin。
なお、この段階の培養数としては9日間でも結果は変わらなかった。
【0140】
その後、得られた細胞集塊についてStep2として以下のメディウムによって14日間培養を行った。
DMEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin,10mmol/L nicotinamide;Sigma,50ng/mL hepatocyte growth factor;Peprotech。
なお、この段階の培養数は28日間でも結果は変わらなかった。
【0141】
[参考例7]細胞のみの分化誘導(VPA+)
市販のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hADSC:Lonza)を解凍し、5継代を経るまで継代した。この段階の継代数としては8継代でも結果が変わらなかった。
その後、上記細胞を12wellに5×10個/wellを播種し、Step1として、以下のメディウムおよびコンパウンドにて7日間培養した。
DMEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin。
なお、この段階の培養数としては9日間でも結果は変わらなかった。
【0142】
その後、得られた細胞集塊についてStep2として以下のメディウムによって14日間培養を行った。
DMEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin,10mmol/L nicotinamide;Sigma,50ng/mL hepatocyte growth factor;Peprotech, 1mmol/L Valproic acid。
なお、この段階の培養数は28日間でも結果は変わらなかった。
【0143】
[実施例1]細胞構造体(モザイク細胞塊)での分化誘導(VPA-)
市販のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hADSC:Lonza)を解凍し、5継代を経るまで継代した。この段階の継代数としては8継代でも結果が変わらなかった。
その後、上記細胞を12wellに5×10個/wellと、参考例3で作製した生体親和性高分子ブロック(53-106μm)0.5mgを播種し、Step1として、以下のメディウムおよびコンパウンドにて7日間培養した。
DMEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin。
なお、この段階の培養期間は9日間でも結果は変わらなかった。
【0144】
その後、得られた細胞集塊についてStep2として以下のメディウムによって14日間培養を行った。
DMEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin,10mmol/L nicotinamide;Sigma,50ng/mL hepatocyte growth factor;Peprotech。
なお、この段階の培養期間は28日間でも結果は変わらなかった。
【0145】
[実施例2]細胞構造体(モザイク細胞塊)での分化誘導(VPA+)
市販のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hADSC:Lonza)を解凍し、5継代を経るまで継代した。この段階の継代数としては8継代でも結果が変わらなかった。
その後、上記細胞を12wellに5×10個/wellと、参考例3で作製した生体親和性高分子ブロック(53-106μm)0.5mgを播種し、Step1として、以下のメディウムおよびコンパウンドにて7日間培養した。
DMEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin。
尚、この段階の培養数としては9日間でも結果は変わらなかった。
【0146】
その後、得られた細胞集塊についてStep2として以下のメディウムによって14日間培養を行った。
MEM/F12;Gibco,1質量%B27-supplement;Invitrogen,1質量%N2-supplement;Invitrogen,50ng/mL
activin A;Peprotech,10nmol/L exendin-4;Sigma,1質量%human-Alubmin,10mmol/L nicotinamide;Sigma,50ng/mL hepatocyte growth factor;Peprotech, 1mmol/L Valproic acid。
なお、この段階の培養数は28日間でも結果は変わらなかった。
【0147】
[試験例1]評価
比較例1、参考例7、実施例1および実施例2で得られたインスリン産生細胞(IPCs)は濃度2μg/mlのジチゾン(Dithizone)染色によって確認を行った。その結果、図4に示すように、実施例1および実施例2で得られたインスリン産生細胞はジチゾン染色で赤く良く染色されており、インスリン産生細胞が多いと考えられた。図4において、細胞のみ(VPA-)は比較例1を示し、細胞のみ(VPA+)は参考例7を示し、細胞構造体(VPA-)は実施例1を示し、細胞構造体(VPA+)は実施例2を示す。
【0148】
また、得られたそれぞれのIPCsのグルコース応答性によるインスリン分泌能を測定した。培地成分としてKrebs-Ringer bicarbonate(KRB)bufferを使用し、2mLの培地量において5×10個の細胞を20mmol/Lグルコース濃度下で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度をELISA(酵素免疫吸着測定法)で測定した。また、培地成分としてKrebs-Ringer bicarbonate(KRB)bufferを使用し、2mLの培地量において5×10個の細胞を3mmol/Lグルコース濃度下で60分間培養した際の培地中のインスリン濃度をELISAで測定した。「20mmol/Lグルコース時の濃度」を「3mmol/Lグルコース時の濃度」で除した値(比)をStimulation Index(SI)として求めた。
【0149】
その結果、図5に示すように、SIは、比較例1が1.64、参考例7が2.24、実施例1が2.53、実施例2が3.42であった。このことから、細胞構造体を用いて間葉系幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を行った場合には、高効率でインスリン産生細胞への分化誘導が起こり、SIが高くなったことが示された。さらに、細胞構造体と同時にHDAC阻害剤であるVPAを併用した場合には、顕著にSIが向上していることが分かった。図5において、細胞のみ(VPA-)は比較例1を示し、細胞のみ(VPA+)は参考例7を示し、細胞構造体(VPA-)は実施例1を示し、細胞構造体(VPA+)は実施例2を示す。
【0150】
[実施例3]
また、確認の為、細胞のみと細胞構造体の結果について、再現性確認の実験を5回繰り返した。結果、図6のように細胞のみの場合はSIが平均1.5程度。一方、細胞構造体の場合はSIが3.9となり、有意な差が生じていることも確認された。なお、細胞構造体の場合はSIが最大で4.9を示した。ちなみに正常な生体由来膵島ではSIは2.0以上であることとされている。
【0151】
[実施例4]
次に分化誘導した細胞構造体を糖尿病モデルマウスに移植し、血糖値を制御可能であるかを評価した。なお、糖尿病モデルマウスは、ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu)に200mg/kgでストレプトゾトシンを投与し、血糖値が250mg/dlを2度超えた個体、あるいは血糖値が300mg/dlを1度超えた個体を糖尿病モデルマウスとして使用した。
移植にあたっては、実施例2で作った分化誘導した細胞構造体を150個(150IE)あるいは300個(300IE)移植した。なお、移植部位は腎被膜下に移植した。評価にあたっては、血糖値を測定した。
結果、図7に示すように、細胞構造体を150個移植した場合は、移植後の血糖値は200mg/dlを下回って正常範囲(200mg/dl以下)を示す個体と、移植後の血糖値が変わらず400mg/dl程度を推移する個体が存在した。一方、細胞構造体を300個移植した場合は、移植後1日目から血糖値が200mg/dl以下となり、確実に血糖値が制御されていた。参考までに、参考例7で用意した細胞のみ(VPA-)についても150個移植を行ってみたが、移植後、血糖値は下がらず、上昇したままとなることが確認された。
また、血糖値を200mg/dl以下にできなかった細胞構造体150個移植個体と、血糖値を200mg/dl以下で制御出来た細胞構造体300個移植個体について、移植7日後に、マウスの血中でヒトインスリンが検出されるかをELISA法にて測定した。結果、図8に示すように、移植をしていないコントロール個体ではヒトインスリンはほとんど検出されず、また細胞構造体を150個移植した個体では、30mU/L程度という低い値のヒトインスリン濃度がマウス血中で測定された。一方、細胞構造体300個を移植した個体ではマウス血中のヒトインスリン濃度は200mU/Lを超える高い値として検出された。なお、ヒトでは空腹時は140-1,540mU/Lと言われており、細胞構造体300個を移植した場合、その範囲に入るヒトインスリンが血中で認められたということがわかる。加えて、ヒトインスリンとマウスインスリンでは交差が0.3%未満であることが分かっており、細胞構造体300個移植個体での高値の血中ヒトインスリンはマウス由来ではないと考えてよい。
これらのことから、分化誘導した細胞構造体はSIで2以上を示し、かつ動物試験において体内でインスリンを放出し、血糖値を制御する能力を有している、と考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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