(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】磁気吸着機構、蒸着装置、および電子デバイスの製造装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20231005BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C14/56 G
(21)【出願番号】P 2019123683
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 圭介
(72)【発明者】
【氏名】江澤 光晴
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-073803(JP,A)
【文献】特開平10-303017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
C23C 14/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクを、磁力を用いて前記成膜対象物の表面に吸着させる磁気吸着機構であって、
前記成膜対象物に対して前記マスクとは反対側に配置される複数の磁石と、
複数の前記磁石が取り付けられ、前記磁石の磁力により前記マスクを前記成膜対象物に向かう方向に引き付ける吸着力を発生させる磁気回路を形成するバックヨークと、
を備え、
前記バックヨークは、前記磁石の着磁方向の端面との接触部において、前記端面の少なくとも一部との間に広さ可変の空間を形成することで、または前記端面の少なくとも一部を前記接触部の裏側に開放することで、前記吸着力を調整可能な磁気抵抗調整部を有
し、
前記磁気抵抗調整部は、
前記バックヨークにおける前記接触部とその裏側との間を貫通する貫通孔と、
前記裏側から前記貫通孔に挿入可能な強磁性体からなる充填部材と、
を有し、
前記充填部材の前記貫通孔に対する挿入量が調整されることで、または前記充填部材が前記貫通孔に挿入されるか否かで、前記吸着力を調整し、
前記貫通孔は、ねじ孔であり、
前記充填部材は、前記ねじ孔に螺合可能なボルトであることを特徴とする磁気吸着機構。
【請求項2】
前記ねじ孔に対する前記ボルトの挿入量を規制するためのナットをさらに備えることを特徴とする請求項
1に記載の磁気吸着機構。
【請求項3】
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクを、磁力を用いて前記成膜対象物の表面に吸着させる磁気吸着機構であって、
前記成膜対象物に対して前記マスクとは反対側に配置される複数の磁石と、
複数の前記磁石が取り付けられ、前記磁石の磁力により前記マスクを前記成膜対象物に向かう方向に引き付ける吸着力を発生させる磁気回路を形成するバックヨークと、
を備え、
前記バックヨークは、前記磁石の着磁方向の端面との接触部において、前記端面の少な
くとも一部との間に広さ可変の空間を形成することで、または前記端面の少なくとも一部を前記接触部の裏側に開放することで、前記吸着力を調整可能な磁気抵抗調整部を有し、
前記磁気抵抗調整部は、
前記バックヨークにおける前記接触部とその裏側との間を貫通する貫通孔と、
前記バックヨークの前記裏側に形成される溝部であって、その底部において前記貫通孔が開口する溝部と、
前記貫通孔の前記開口を塞ぐように前記溝部に嵌合可能な強磁性体からなる充填部材と、
を有し、
前記充填部材が前記溝部に嵌合されるか否かで、前記吸着力を調整することを特徴とす
る磁気吸着機構。
【請求項4】
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクを、磁力を用いて前記成膜対象物の表面に吸着させる磁気吸着機構であって、
前記成膜対象物に対して前記マスクとは反対側に配置される複数の磁石と、
複数の前記磁石が取り付けられ、前記磁石の磁力により前記マスクを前記成膜対象物に向かう方向に引き付ける吸着力を発生させる磁気回路を形成するバックヨークと、
を備え、
前記バックヨークは、複数の前記磁石の着磁方向の端面が接触する複数の接触部のなかに、前記端面の少なくとも一部との間に前記吸着力を調整するための空間を形成する凹部が設けられた接触部が含まれ
、
前記凹部が設けられた前記複数の接触部のなかには、前記凹部の深さが異なるものが含まれることを特徴とする磁気吸着機構。
【請求項5】
前記複数の接触部のなかには、前記凹部が設けられない第1の接触部が含まれることを特徴とする請求項
4に記載の磁気吸着機構。
【請求項6】
前記複数の接触部のなかには、前記端面の少なくとも一部を前記接触部の裏側に開放するように前記バックヨークを貫通する貫通孔が設けられた第2の接触部がさらに含まれることを特徴とする請求項
4または
5に記載の磁気吸着機構。
【請求項7】
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクと、
請求項1~
6のいずれか1項に記載の磁気吸着機構と、
前記磁気吸着機構により前記マスクが吸着された前記成膜対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着室と、
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の蒸着装置を用いて前記成膜対象物に成膜することにより、電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁力によってマスクを成膜対象物に吸着させる磁気吸着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子などの電子デバイスの製造では、成膜対象物としてガラスなどの基板の被成膜面を下向きにしてマスク上に載置し、マスクを介して被成膜面に成膜する方法が知られている。膜の品質上、膜厚を均一に成膜する必要があり、そのためには、基板とマスクとを密着させて成膜する必要がある。
そこで、特許文献1には、基板の支持部材であるホルダ部材に複数設けた磁石の磁力によってマスクを基板に吸引させて成膜する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基板の大型化に伴い、マスクを磁力によって基板に吸着させるための磁石の数が増加したことで、個々の磁力バラつきや組立精度のバラつきによってマスクに対する吸着力分布が所望の範囲内に収まらない状態となることがあった。このように、マスクに対する吸着力分布が所望の範囲内に収まらない状態となると、マスクが基板に吸着される際に、磁力のバラつきによって意図しない吸着の仕方でマスクを吸着させてしまうため、マスクと基板との間に隙間が生じてしまう。そのため、特許文献1に記載の方法によっても、局所的にマスクと基板との間に隙間が生じてしまうことがあった。マスクと基板との間に隙間が生じた状態で成膜すると、膜厚のバラつきにつながるため、改善が求められていた。
【0005】
そこで、個々の磁石の磁力バラつきを抑えるために磁石の選別を行う方法があるが、必要数の磁石を選別するためにはより多くの磁石が必要となるため磁石のコストが増大してしまう。また、個々の磁力を調整するために磁石とヨークの間にシム等を挿入する方法があるが、膨大な数の磁石に対して、「磁石の取外し、シムの挿入、磁石の再取付け、磁力の測定」の一連の作業が必要となるため作業コストが増大してしまう。
【0006】
本発明は、マスクに対する吸着力分布を簡便かつ高精度に調整可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の磁気式吸着機構は、
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクを、磁力を用いて前記成膜対象物の表面に吸着させる磁気吸着機構であって、
前記成膜対象物に対して前記マスクとは反対側に配置される複数の磁石と、
複数の前記磁石が取り付けられ、前記磁石の磁力により前記マスクを前記成膜対象物に向かう方向に引き付ける吸着力を発生させる磁気回路を形成するバックヨークと、
を備え、
前記バックヨークは、前記磁石の着磁方向の端面との接触部において、前記端面の少なくとも一部との間に広さ可変の空間を形成することで、または前記端面の少なくとも一部を前記接触部の裏側に開放することで、前記吸着力を調整可能な磁気抵抗調整部を有し、
前記磁気抵抗調整部は、
前記バックヨークにおける前記接触部とその裏側との間を貫通する貫通孔と、
前記裏側から前記貫通孔に挿入可能な強磁性体からなる充填部材と、
を有し、
前記充填部材の前記貫通孔に対する挿入量が調整されることで、または前記充填部材が前記貫通孔に挿入されるか否かで、前記吸着力を調整し、
前記貫通孔は、ねじ孔であり、
前記充填部材は、前記ねじ孔に螺合可能なボルトであることを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明の磁気式吸着機構は、
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクを、磁力を用いて前記成膜対象物の表面に吸着させる磁気吸着機構であって、
前記成膜対象物に対して前記マスクとは反対側に配置される複数の磁石と、
複数の前記磁石が取り付けられ、前記磁石の磁力により前記マスクを前記成膜対象物に向かう方向に引き付ける吸着力を発生させる磁気回路を形成するバックヨークと、
を備え、
前記バックヨークは、複数の前記磁石の着磁方向の端面が接触する複数の接触部のなかに、前記端面の少なくとも一部との間に前記吸着力を調整するための空間を形成する凹部が設けられた接触部が含まれ、
前記凹部が設けられた前記複数の接触部のなかには、前記凹部の深さが異なるものが含まれることを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明の蒸着装置は、
成膜対象物に対して所望の成膜パターンを形成するためのマスクと、
本発明の磁気吸着機構と、
前記磁気吸着機構により前記マスクが吸着された前記成膜対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着室と、
を備えることを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明の電子デバイスの製造装置は、
本発明の蒸着装置を用いて前記成膜対象物に成膜することにより、電子デバイスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マスクに対する吸着力分布を所望の値に簡便かつ高精度に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】有機ELパネルの製造ラインの制御ブロック図
【
図7】磁気抵抗調整部による磁気回路の変化を示す模式図
【
図10】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
【
図11】アライメントの進行の各段階の続きを示す概略図
【
図14】磁気抵抗調整部による磁気回路の変化を示す模式図
【
図16】磁気抵抗調整部による磁気回路の変化を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下で説明する実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定するものではない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、製造条件、寸法、材質、形状などは、特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、繰り返しの説明を省略する。
【0011】
本発明は、成膜対象物に蒸着による成膜を行う蒸着装置に組み込まれる、マスクを成膜対象物に吸着させる磁気式吸着機構に好適であり、典型的には有機ELパネルを製造するためにガラス基板に対して有機材料等を蒸着して成膜する蒸着装置に適用できる。本発明は、基板等の成膜対象物に薄膜、特に無機薄膜を所望の成膜パターンで形成するためのマスクを磁力によって成膜対象物に吸着させる磁気式吸着機構に好適である。
成膜対象物たる基板の材料は、磁力を透過する材料であればよく、ガラス以外にも、高分子材料のフィルム、強磁性体以外の金属などの材料を選択することができる。基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。蒸着材料としても、有機材料以外に、金属性材料(金属、金属酸化物など)などを選択してもよい。
本発明はまた、蒸着装置の制御方法や蒸着方法、薄膜を形成する成膜装置およびその制御方法、ならびに成膜方法としても捉えられる。本発明はまた、有機ELディスプレイなどの有機ELパネルを用いた電子デバイスの製造装置や電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
本発明における電子デバイスとしては、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)なども含まれる。
【0012】
[実施例1]
(製造ライン全体構成)
図1は、有機ELパネルの製造ライン100の全体構成を示す概念図である。概略、製造ライン100は、蒸着処理工程搬送路100a、リターン搬送路100b、マスク受渡機構100c、キャリアシフタ100d、マスク受渡機構100e、プリアライメント室100g、および、キャリアシフタ100fを備える、循環型搬送路を構成する。循環型搬送路を構成する各構成要素、例えば基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105、減速室106、マスク分離室107、反転室108、ガラス基板排出室109などには、搬送路を構成するための搬送モジュール301が配置されている。詳しくは後述するが、本図には、製造プロセスの各工程においてガラス基板G、マスクMおよび静電チャック308(符号C)がどのように搬送路上を搬送されるかが示される。
【0013】
蒸着処理工程搬送路100aでは、概略、外部よりガラス基板Gが搬送方向(矢印A)に搬入され、ガラス基板GとマスクMが搬送キャリア上に位置決めされて保持され、搬送キャリア302とともに搬送路上を移動しながら蒸着処理を施された後、成膜済みのガラス基板Gが排出される。リターン搬送路100bでは、蒸着処理完了後に分離されたマスクMと、ガラス基板排出後の搬送キャリア302が、基板搬入室側へと復帰する。
【0014】
マスク受渡機構100cでは、蒸着処理完了後に搬送キャリアから分離されたマスクMが、リターン搬送路へと移動される。リターン搬送路に移動したマスクMは、基板を排出して空になった搬送キャリア302に再び載置される。キャリアシフタ100dでは、ガラス基板Gを次工程へと排出した空の搬送キャリア302がリターン搬送路100bへと乗せ換えられる。マスク受渡機構100eでは、リターン搬送路100bを搬送されてきた搬送キャリアから分離されたマスクMが、蒸着処理工程搬送路100a上のマスク装着位置P2へと搬送される。キャリアシフタ100fでは、マスクM分離後の空の搬送キャリアが、リターン搬送路100bから蒸着処理工程搬送路100aの始点のガラス基板搬入位置P1へと搬送される。製造ライン100を用いた製造プロセスの詳細については後述する。
【0015】
図2は、製造ライン100の制御ブロックの概念図である。制御ブロックは、製造ライン100の全体の稼働情報を管理する稼働管理制御部700と、運行コントローラ20を含む。また、製造ライン100を構成する基板搬入室101、反転室102、アライメント室103、加速室104、蒸着室105等の各室(各装置)には、各室内部の駆動機構を制御する駆動制御部が設けられている。すなわち、基板搬入室101には基板搬入室制御部701a、反転室102には反転室制御部701b、アライメント室103にはアライメント室制御部701c、加速室104には加速室制御部701d、蒸着室105には蒸着室制御部701eが設けられている。上記以外の各装置(各室)にも、それぞれ制御部701Nが設けられている。これらの駆動制御部と全体を管理する稼働管理制御部700は、制御手段に含めて考えてもよい。また運行コントローラ20も、制御手段に含めて考えてもよい。
【0016】
また、基板搬入室101には搬送モジュールa(301a)、反転室102には搬送モジュールb(301b)、アライメント室103には搬送モジュールc(301c)、加速室104には搬送モジュールd(301d)、蒸着室105には搬送モジュールe(301e)が設けられている。上記以外の各室にも、それぞれ搬送モジュール301Nが設けられている。各装置に配置されている搬送モジュール301には、ガラス基板Gおよび搬送キャリア302の搬送方向に沿って、複数の駆動用コイルがライン状に配置されている。各搬送モジュール301に設けられたエンコーダの値に応じて、各駆動用コイルに流れる電流もしくは電圧を制御することにより、搬送キャリア302の駆動が制御される。搬送キャリア302にライン状に配置された磁石と、搬送モジュール301に搬送キャリア302の磁石に対向するように配置されたコイルが協働して基板を搬送することから、搬送キャリア302と搬送モジュール301を合わせて基板搬送ユニット300(搬送機構)と考えてもよい。
【0017】
各搬送モジュール301には、搬送キャリア302の位置を検出するエンコーダが設置されている。エンコーダの検出値に応じて、稼働管理制御部700が、各室の駆動制御部に指示を送信し、各室の駆動機構の制御を開始または停止させたり、制御状態を変化させたりする。なお、制御のトリガはエンコーダ検出値に限られず、制御に用いることができるものであれば任意のセンサを利用してよい。
【0018】
(搬送キャリアの構成)
図3(A)は固定部としての搬送モジュール301、可動部としての搬送キャリア302からなる基板搬送ユニット300を
図1の矢印Aで示す搬送方向から見た正面図である。
図3(B)は
図3(A)における枠Sで囲む要部の拡大図、
図3(C)は搬送キャリア302を側面図、
図4は搬送キャリアの分解斜視図である。搬送モジュール301は、製造ライン100の全域にわたって複数個配列されて搬送路を構成する。各搬送モジュール301の駆動用コイルに供給する電流を制御することにより、複数の搬送モジュール全体を1つの搬送路として制御し、搬送キャリア302を連続して移動させることができる。
【0019】
図において、搬送キャリア302のキャリア本体302Aは、矩形状のフレームで構成され、その左右両側面には断面コ字形状に側方に開くガイド溝303a,303bがそれぞれ搬送方向Aに平行な方向に沿って形成されている。一方、搬送モジュール301側の側板3011a,3011b内面には、複数のローラ列からなるローラベアリング(ガイドローラ)304a,304bが回転自在に取り付けられている。そして、各ガイド溝303a,303b内にそれぞれ挿入されたローラベアリング304a,304bによって、搬送キャリア302が搬送モジュール301に対して、矢印A方向(搬送方向)に移動自在に支持される。
【0020】
搬送キャリア302のキャリア本体302Aの両側部のガイド溝303a,303bの形成位置における上面には、複数のマグネットを所定のパターンで配列した駆動用マグネット305a,305b(磁石列)が、基板の搬送方向(進行方向)に平行に、リニアに配置されている。また、搬送モジュール301側には、複数のコイルを所定のパターンで配列した駆動用コイル306a,306b(コイル列)が配置されている。そして、駆動用マグネット305a,305bと、駆動用コイル306a,306bは、搬送モジュール301に搬送キャリア302が支持されたときに、それぞれ互いに対向して近接するように配置されている。搬送キャリア302側の駆動用マグネット305a,305bと、搬送モジュール301側の駆動用コイル306a,306bとの間に作用する電磁力によって、搬送キャリア302を浮上させたり、矢印Aの方向(搬送方向)に走行させたりすることができる。
【0021】
なお、搬送キャリア側のガイド溝303a,303bの開口幅303Wは、搬送モジュール側の各ローラベアリング304a,304bの直径304Rよりも、クリアランスCLだけ広く形成されている(303W=304R+CL)。この構成により、ガイド溝内において、ローラベアリング304a,304bが所定のクリアランスCLの範囲内で浮上できる。
【0022】
このような構成により、ムービングマグネット型のリニアモータ制御を実施することができる。すなわち、駆動系を構成する駆動用コイル306a,306bを構成する複数のコイルそれぞれに供給する電流を制御することにより、搬送キャリア302の進行方向における推進力を発生させたり、搬送モジュール301に対する磁気浮上力を発生させたりすることができる。なお、搬送機構が備える搬送モジュールと搬送キャリアの一方にコイルを、他方に磁石を配置する構成であればよく、ムービングコイル方式であっても搬送キャリアの浮上アライメントを行うことができる。
【0023】
さらに、
図3に示したような搬送モジュール301と搬送キャリア302の構成によれば、ローラベアリング304a,304bを用いて、搬送キャリア302をローラで支持しながら搬送することも可能である。すなわち、搬送キャリア302が磁気浮上していない状態(搬送キャリア302が自重で沈み、ガイド溝303a、303bがローラベアリング304a、304bに接触支持されている状態)で搬送キャリア302を移動させることができる。
【0024】
(搬送キャリア上のガラス基板GとマスクMの保持機構)
次に、搬送キャリア302にガラス基板Gを保持する機構と、ガラス基板上にマスクMを保持する機構について説明する。本実施例によれば、ガラス基板Gは静電吸着手段である静電チャック308によって、マスクMは磁気吸着手段としての磁気吸着チャック307によって、それぞれ搬送キャリア302に重ねて保持されるように構成されている。
【0025】
図3、
図4において、矩形フレーム状の搬送キャリア302のキャリア本体302A下
面には、磁気吸着チャック307と静電チャック308を重ねて収納したチャックフレーム309が取り付けられている。磁気吸着チャック307はマスクMを磁気的に吸着し、静電チャック308はガラス基板Gを静電力によって吸着する。キャリア本体302Aの矩形フレーム上面には、静電チャック308に電荷を帯電させる制御部が内蔵された静電チャック制御ユニット(制御ボックス312)が配されている。
この制御ボックス312を動作させてチャックフレーム309内の静電チャック308を帯電させることにより、ガラス基板Gを吸着して保持することができる。
【0026】
磁気吸着チャック307は、
図3に示すように、チャック本体307xと、チャック本体307xの背面(ガラス基板Gと対向する側とは反対側)からキャリア本体302側にZ軸方向(図の上方向)に延びる2本のガイドロッド307aとを有している。このガイドロッド307aがキャリア本体302Aのフレームに設けられた筒状ガイド307bに摺動自在に挿入され、チャックフレーム309内を上下に移動可能となっている。
【0027】
磁気吸着チャック307は、外部に設けられた駆動源側の連結端部の駆動側連結端部に設けられた駆動側フック307gに係脱可能な連結部である連結フック307cを有している。この連結フック307cが駆動側フック307gと係合し、駆動側フック307gを上下方向に駆動(移動)させることによって、ガイドロッド307aを介して、チャック本体307xを上下方向に駆動させる。駆動側フック307gは、装置外部に配置される流体圧シリンダやボールねじを用いた駆動装置等のアクチュエータ307hによって制御される。
【0028】
図示例では、ガイドロッド307aの先端部に固定されたキャップ307iに連結フック307cが設けられると共に、キャップ307iの側面に側方に延びる位置決め片307dが設けられている。一方、キャリア本体302A側には、この位置決め片307dが、チャック本体307xの上端位置にて当接する上端ロック片307fと、下端位置をロックする下端ストッパ307eとに選択的に係合可能となっている。上端ロック片307fは、水平方向に移動可能となっており、上端位置にて位置決め片307dの下面に係合する係合位置と、位置決め片307dから離れる退避位置間を移動可能となっている。上端ロック片307fが退避位置にあるときに、位置決め片307dが下方に移動可能となり、下端ストッパ307eに当接することで、チャック本体307xのキャリア本体302Aに対する下降位置が規制される。この下降限は、マスクMを磁気吸着する位置であるが、チャック本体307xと静電チャック308との間には若干隙間を設けている。これによって、磁気吸着チャック307の重量が静電チャック308に作用するのを回避している。
【0029】
この上端ロック片307fの駆動も外部駆動力によって駆動される。例えば、回転駆動のアクチュエータ307mで先端に設けたピニオンを回転駆動させ、上端ロック片307fまたは、直線ガイド307kの可動部材に設けたラックに噛合うようにすれば、上端ロック片307fを水平移動させることができる。
【0030】
上端ロック片307fは、
図3に示すように、キャリア本体302Aに設けられた台座307jの上面に、所定間隔離間した一対の直線ガイド307kを介してスライド自在に支持されている。直線ガイド307kの間の台座307j上面には、下端ストッパ307eが突設されている。位置決め片307dは、直線ガイド307kの間を通過可能な幅に構成されており、上端ロック片307fが退避位置に移動すると、下方への移動が可能となり、下端ストッパ307eに当接する。
【0031】
チャックフレーム309の静電チャック308にガラス基板Gを保持した状態で、マスクMをガラス基板Gに対してアライメントを行いながら接近させ、マスクMがガラス基板
Gに当接した状態で、磁気吸着チャック307をマスクM側へと移動させる。これにより、マスクMがガラス基板Gおよび静電チャック308を挟んで磁気吸着チャック307に磁気的に吸着される。これによって、ガラス基板GとマスクMが相互に位置合わせされた状態で、チャックフレーム309にチャックされ、結果として搬送キャリア302に保持されることとなる。
【0032】
次に、
図4を参照して、静電チャック308及び磁気吸着チャック307の形状について説明する。チャックフレーム309は、キャリア本体302Aより一回り小さい矩形状の部材で、静電チャック308の外周縁を保持し、磁気吸着チャック307の格子状の支持フレーム307x2を支持する矩形状の枠体307x1の4辺をガイドするガイド壁309aを構成している。
【0033】
静電チャック308は、セラミック等の板状部材で、内部電極に電圧を印加し、ガラス基板Gとの間に働く静電力によってガラス基板Gを吸着するもので、チャックフレーム309の下側縁に上下に移動不能に固定されている。静電チャック308は、
図4に示すように、複数のチャック板308aに分割されており(図では6枚)、各チャック板308aの辺同士が複数のリブ309bによって固定されている。リブ309bは、磁気吸着チャック307の支持枠が干渉しないように複数に分かれている。
【0034】
磁気吸着チャック307のチャック本体307xは、矩形状の枠体307x1にマスクMに形成された遮蔽パターンに対応するパターンの格子状の支持フレーム307x2と、支持フレーム307x2に取り付けられる吸着マグネット401(
図5~
図7)を含む磁気吸着機構と、を備えた構成となっている。吸着マグネット401は、支持フレーム307x2にヨーク板307x3を介して格子に沿ってS極、N極のマグネットが交互にライン状に配列されている。磁気吸着機構の詳細については後述する。
【0035】
また、搬送キャリア302下面のチャックフレーム309の周囲複数箇所(実施例では10箇所)には、磁気吸着チャック307とは別に、マスクMを保持するマスク保持手段としてのマスクチャック311が設けられている。このマスクチャック311は、外部に配置されるアクチュエータ311mからの駆動力で駆動される構成で、搬送キャリア302には駆動源は搭載されていない。
【0036】
(製造プロセス)
次に実際にガラス基板GにマスクMを固定し、蒸着室において有機EL発光材料を真空蒸着して排出するプロセスについて説明する。
【0037】
図1は、上述したように、有機ELパネルの製造ライン100における各製造プロセス工程に対してガラス基板G、マスクMを搬送する搬送キャリア302(静電チャック308)の移動位置を示す。図では理解を容易とするため、製造プロセス工程における制御上の各移動位置に搬送キャリア302を符号C1、C2を付して描いているが(符号の意味は後述する。)、実際に図示した数だけ搬送キャリア302が搬送路上に導入されているとは限らない。同時に導入される台数は、製造プロセスの設計、タクトタイムによって決定される。また、図では製造ライン上を搬送キャリア等が紙面上で反時計回りに移動しているが、この方向には限定されない。
【0038】
製造ライン100において、搬送キャリア302の搬送方向への推進力としては磁気駆動方式(リニアモータ方式)が採用される。また搬送キャリア302の鉛直方向の支持には、磁気による浮上とローラによるガイドの支持のいずれかが用いられる。上述したように、搬送キャリア302を磁気浮上させて搬送する場合、ゴミやチリの発生が少ないため、有機ELパネルの製造のような高い真空度やクリーン度が要求される装置での搬送に非
常に有効である。
【0039】
図中、各構成要素の位置関係が変化する部位には、以下に示すようなP1~P8の符号を付す。
P1:搬送キャリア上にガラス基板Gを保持するガラス基板搬入位置
P2:搬送キャリア上のガラス基板GにマスクMを装着するマスク装着位置
P3:蒸着処理後のガラス基板GからマスクMを分離するマスク分離位置
P4:蒸着処理後のガラス基板Gを搬送キャリア302から分離して排出する基板排出位置
P5:ガラス基板Gを排出した空の搬送キャリア302をリターン搬送路へと受け渡すキャリア受渡位置
P6:蒸着処理後に分離したマスクMをリターン搬送路上の搬送キャリア302に装着するマスク受渡位置
P7:リターン搬送路上を搬送中の搬送キャリア302からマスクMを分離して、マスク装着位置P2へと搬送するマスク復帰位置
P8:マスクMを分離した搬送キャリア302をリターン搬送路から蒸着処理用搬送路上のガラス基板搬入位置P1へとシフトさせるキャリア復帰位置(リターン搬送路終点)
【0040】
製造ライン100を搬送モジュール301によって搬送キャリア302が移動する間に、製造ライン上の様々な位置において、ガラス基板G、マスクM、および、搬送キャリアが備える静電チャック308などの積層関係が変化したり、反転処理によって上下が180°逆転したりする。そこで
図1では、ガラス基板G、マスクM、および、静電チャック308の上下関係の理解を助けるために、主な位置ごとに符号を示している。すなわち、ガラス基板Gの成膜される側の面(被成膜面)が一番上に来る場合は符号G1、成膜されない側の面が一番上に来る場合は符号G2で示す。また、静電チャック308の基板吸着側が一番上に来る場合は符号C1、基板を吸着しない側が一番上に来る場合は符号C2で示す。また、マスクMの成膜側の面が一番上に来る場合は符号M1、成膜されない側が一番上に来る場合は符号M2で示す。符号は、各反転室では反転後の状態を示し、搬入室や排出室では搬入後・排出後の状態を示す。
【0041】
<搬入プロセス>
ガラス基板搬入位置P1において、外部のストッカより、蒸着処理工程搬送路100a上の基板搬入室101にガラス基板Gが搬入され、搬送キャリア302上の所定の保持位置において、静電チャック308によって保持される。ガラス基板搬入位置P1においては、搬送キャリア302とこれを支持する搬送モジュール301は、搬送モジュール301が下側となるように配置されている。このとき、搬送キャリア302のガラス基板保持面(チャック面)が上を向いた姿勢である。ガラス基板Gは、ガラス基板搬入位置P1に上方より搬入され、当該チャック面に載置される。
【0042】
続いて、ガラス基板を保持した搬送キャリア302がガラス基板搬入位置P1から反転室102へ搬送される。この搬送はローラ搬送モードで行われる。すなわち、搬送キャリア302は、ガイド溝303がガイドとなるローラベアリング304a、304bに接触しながら、電流または電圧を印加された駆動用コイル306a、306bと駆動用マグネット305a、305bとの間に発生する磁力により、進行方向に進む。
【0043】
<反転・モード切換えプロセス>
反転室102において、回転支持機構が、ガラス基板を保持した搬送キャリア302を支持した搬送モジュール301を、進行方向に対して180度回転させる。これにより搬送キャリア302および搬送モジュール301の上下関係が反転し、ガラス基板Gが下面側となる。回転支持機構は、搬送モジュール301を搬送キャリア302ごと進行方向に
180度単位で回転できる。回転動作中に搬送キャリア302と搬送モジュール301の位置ずれを起こさないように、重心位置に回転軸が位置するように構成することが好ましい。図中では、搬送キャリア302と搬送モジュール301の進行方向での反転を、矢印Rで示す。なお、搬送モジュール301と搬送キャリア302を機械的にロックするロック機構を使用することも好ましい。
【0044】
ここで、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと回転する理由の1つは、搬送キャリア302をガイドするために、搬送キャリアのガイド溝303a,303b内に搬送モジュールの両側に配列されたローラベアリング304a,304bが挿入されていることによる。もう1つの理由は、搬送キャリア側のマグネットと搬送モジュール側のコイルが互いに対向する位置関係にあるため、搬送キャリアのみを反転する構造とすると、反転重量は軽くなるものの、搬送キャリア側のマグネットの配置や搬送モジュールとのガイド機構が複雑になることによる。
【0045】
反転室での反転処理後、駆動用コイルに印加される電流または電圧が制御されて、搬送キャリア302の支持方法が、ローラベアリング304a,304bとガイド溝303a,303bの当接から、磁気浮上に切換えられる。これにより、ローラ搬送モードから磁気浮上搬送モードに移行する。続いて、搬送キャリア302が磁気浮上搬送モードでアライメント室103(マスク装着位置P2)へと移動される。
【0046】
<アライメントプロセス>
アライメント動作は、アライメントカメラによって、ガラス基板GとマスクMに予め形成されているアライメントマークを撮像して両者の位置ずれ量及び方向を検知し、磁気浮上している搬送キャリア302の位置を搬送駆動系によって微動しながら位置合わせ(アライメント)を行い、ガラス基板GとマスクMの位置が正確に位置合わせされた状態で、磁気吸着チャック307によってマスクMが吸着され、搬送キャリア302に保持される。
【0047】
この保持状態は、前述のように10カ所のマスクチャック311によってロックされ、以後、静電チャック308、磁気吸着チャック307を解除しても、ガラス基板GとマスクMがアライメントされた状態で搬送キャリア302に保持された状態が維持される。
【0048】
ここで、アライメントの際に、搬送キャリア302が磁気浮上した状態で、搬送モジュール301に対する位置を微調整するようにしている。そのため、アライメント専用の微動調整機構を別途設けることなく、搬送キャリア駆動系によってアライメントを実施できるので、搬送キャリア302の構成の簡略化、軽量化にも有効である。
【0049】
(処理フロー)
図8のフローチャートと、
図9~
図11を参照して、アライメント室103におけるアライメント動作の詳細を説明する。
図9(A)~
図11(D)はそれぞれ、
図8のステップS1~S5,S7~S12に対応する。なお、説明を簡潔にするため、
図9~
図11にはローラベアリング304a,304bとガイド溝303a,303bを図示しない。
【0050】
まずステップS1において、
図9(A)のように、マスクMがマスク受渡機構100eによりプリアライメント室100gから搬入される。アライメント室制御部は、アライメント室103に設けられたセンサにより搬入の完了を検知する。
【0051】
次にステップS2において、
図9(B)のように、反転室102からアライメント室103に、基板を保持した搬送キャリア302が磁気浮上搬送モードで搬入される。ここでの搬送方向Aは、奥から手前に向かう方向とする。アライメント室制御部は、搬送モジュ
ール301のエンコーダの値から位置を検出し、所定のアライメント位置で搬送キャリア302を停止させる。このときのマスクMとガラス基板Gのクリアランス(隙間)を、CLS2とする。例えばCLS2=68mmである。
【0052】
次にステップS3において、
図9(C)のように、昇降装置202(ジャッキ203a~203d、昇降ロッド204a~204d)によりマスクMを上昇させ、ガラス基板Gに接触する直前で停止する。ジャッキ203a~203dと昇降ロッド204a~204dは、本実施例では、マスクトレイ205の下面四隅にそれぞれ4組設けられており、
図9では、ジャッキ203aと昇降ロッド204a、ジャッキ203bと昇降ロッド204bの組のみ示している。停止位置は、次のステップS4において、アライメントカメラが、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークを同時に計測可能な位置となる。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS3とすると、例えばCLS3=3mmである。
【0053】
次にステップS4において、
図9(D)のように、アライメントカメラ1310により、ガラス基板GとマスクMのそれぞれのアライメントマークが同時に計測される。なお、搬送キャリア302には、アライメントカメラの光軸方向に沿って貫通孔が設けられている。アライメントカメラは、この貫通孔を介して、ガラス基板GとマスクMに設けられたアライメントマークを計測することができる。また、アライメントマーク計測を可能にする構成であれば、貫通孔ではなく、例えば切欠きなどを用いてもよい。
【0054】
次にステップS5において、
図10(A)のように、アライメント室制御部は、S4における計測結果からガラス基板GとマスクMの位置ズレ量を算出し、位置ずれの値が所定の許容範囲に収まるように、ガラス基板Gを保持した搬送キャリア302の位置を調整する。位置調整の際には、符号331で示すように、駆動用コイル306a、306b(
図3参照)に印加される電流または電圧を制御して、駆動用マグネット305a,305bとの間の磁力を調整する。このように本ステップのアライメント動作は、搬送キャリア302を浮上させた状態で行われる。次にステップS6において、アライメントカメラが再度計測を行い、アライメント室制御部が位置ずれの値が所定の範囲内かどうかを判定する。もし範囲外であればS5に戻り、位置ずれ値が範囲内に収まるまでアライメントを繰り返す。
【0055】
以上述べたように、本フローのアライメント動作は、搬送キャリアおよびそれに保持されるガラス基板Gが磁気浮上した状態で、磁力により搬送キャリアの位置を調整することで行われる。この構成では搬送キャリアと搬送モジュールが非接触であるため、摩擦等の影響が抑制され、また高精度な位置決めが可能になる。また、アライメントに搬送キャリアを搬送するための駆動用コイルと駆動用マグネットにより発生する磁力を用いるため、アライメント用に別の駆動手段を設ける必要がない。その結果、装置の構成を簡易化するとともにコストを低減することが可能である。
【0056】
アライメント動作が完了すると、マスクMを磁気吸着する行程に入るが、本実施例では、まず、マスクチャック311によって、マスクフレームMFをチャックする。
すなわち、S7において、
図10(B)のように、マスクMを上昇させてガラス基板Gに近接させる。マスクMの上昇時には、昇降装置202によってマスクトレイ205を上昇させることにより、マスク支持部206によって支持されているマスクMが上昇する。マスクM自体は、図に模式的に示すように撓んでおり、マスク支持部206に支持されたマスクフレームMFが上昇し、ガラス基板Gと所定の隙間まで近接する。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS71とすると、例えばCLS71=0.5mmである。また、搬送キャリア302が磁気浮上していることから、キャリアスタンド部31の下端とマスクトレイ205の間にはクリアランスCLS72が存在する。
【0057】
次に、S8において、
図10(C)のように、磁気浮上制御をOFFとし、搬送キャリア302をマスクトレイ205に着座させる。磁気浮上制御がOFFとなることによって、浮上力をなくした搬送キャリア302が自重によって落下し、マスクトレイ205に着座する。図示例では、キャリア本体302Aに設けられたキャリアスタンド部302A1の下端がマスクトレイ205に当接するようになっている。このときのマスクMとガラス基板GのクリアランスをCLS8とすると、例えばCLS8=0.3mmである。
【0058】
次に、S9において、
図10(D)のように、マスクチャックを実施する。
すなわち、外部の駆動装置の駆動によって、回転軸311fが回転駆動され、チャック片311cがマスクフレームMFに係合してチャックされる。図示例では、上側のチャック片311bを省略している。この時点で、マスクフレームMFが固定される。この状態は静電チャック308、磁気吸着チャック307を解除しても維持される。
【0059】
次に、S10において、
図11(A)のように、マスクチャック311でマスクMが保持された状態で、搬送キャリア302を浮上開始位置まで上昇させる。搬送キャリア302の上昇はマスクトレイ205の昇降装置によって行う。浮上開始位置は、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305の間隔が、搬送キャリア302を浮上させることができる程度の吸引力となる距離である。本ステップでは例えば、搬送キャリア302を0.7mm程度上昇させる。
【0060】
次に、S11において、
図11(B)のように、磁気浮上制御をONとし、マスクトレイ205から、マスクMが保持された搬送キャリア302を浮上させる。すなわち、搬送モジュール301の駆動用コイル306と搬送キャリア302の駆動用マグネット305間の吸引力によって、搬送キャリア302がマスクトレイ205から所定量浮上する。上昇量は、たとえば、0.5mm程度である。すなわち、このときのマスクトレイ205と、搬送キャリア302のキャリアスタンド部302A1の下端の間のクリアランスをCLS11とすると、例えばCLS11=0.5mmである。
【0061】
次に、S12において、
図11(C)のように、磁気吸着チャック307を下降させてマスクMを磁気吸着させる。すなわち、上昇端でロックされていたロック片が外部のアクチュエータによって回転駆動されて、退避位置に移動して下降方向へのロックが外れ、磁気吸着チャック307がガラス基板Gを保持する静電チャック308に向けて下降し、静電チャック308及びガラス基板Gを挟んで、磁気吸着チャック307の吸着マグネット401とマスクMが磁気吸着されて保持される。これによって、アライメントされた状態のマスクMがガラス基板Gの成膜面に全面的に密着して保持される。なお、磁気吸着チャック307の下方への移動は、搬送キャリア302の外部からの駆動力によって実現している。このときの磁気吸着チャック307の下降量は、例えば30mmである。
【0062】
次に、S13において、
図11(D)のように、搬送キャリア302が搬送方向Aに向かって、アライメント室103から加速室104に搬出される。
【0063】
以上のフローにより、静電チャック308によって保持されたガラス基板Gの成膜面に、アライメントされたマスクMが磁気吸着チャック307によって保持され、さらにマスクチャック311によってマスクフレームMFがチャックされた状態で、搬送キャリア302が搬出される。
【0064】
<蒸着プロセス>
図1に戻り、説明を続ける。アライメント動作を完了し、アライメント室103より排出された搬送キャリアは、上述したように加速室104で加速され、蒸着室105へと搬
入される。搬送キャリアを蒸着室105に搬入する前に加速することにより、アライメント室103における高精度アライメント処理に要した時間の遅れを補償し、タクトタイムの低下を抑えることができる。
【0065】
蒸着室では、搬送キャリアを所定の蒸着速度で磁気浮上した状態で矢印B方向に移動しながら、有機EL発光材料を真空蒸着する。これによりガラス基板Gの被成膜面に対し、マスクMによる所望の成膜パターンでの成膜が行われる。このように、搬送キャリアをアライメント室から加速室および蒸着室に搬入するときや、蒸着室内を移動させるときに、磁気浮上搬送モードを用いることで、塵の発生や摩擦による粉体の発生を防止できるので、高品質な成膜が可能となる。
【0066】
<分離・搬出プロセス>
蒸着処理を終え蒸着室105より排出された搬送キャリアは、減速室106で減速され、マスク分離位置P3にあるマスク分離室107へと搬送されて所定位置で停止する。ここでマスクチャック311によるマスクMのロック状態が解除され、マスクMがガラス基板より分離される。
【0067】
分離されたマスクMは、上述したマスク昇降装置と同様の機構によって下降される。マスク受渡機構100cは、下降されたマスクMを保持フレームで受け取って保持し、蒸着処理工程搬送路100aとリターン搬送路100bの間の退避位置へと搬送する。そして、リターン搬送路100b上のマスク受取位置P6に、基板排出後の空の搬送キャリア302が移動して来ると、搬送キャリア302の下方位置へとマスクMを移動させる。そして、マスク昇降装置と同様の機構によってマスクMを搬送キャリア302下面へと上昇させ、磁気チャック308に保持させる。このようにマスクMを保持した搬送キャリア302は、供給側へとリターン搬送される。
【0068】
一方、マスク分離室107でマスクMを分離済みの搬送キャリア302は、マスクチャック311の係止部によってガラス基板Gを保持したまま反転室108へと移動する。反転室108内では、供給側の反転室102と同様の回転支持機構が、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと、進行方向に180度回転する。これにより、ガラス基板Gが上面となる。
【0069】
反転室108で反転された後、搬送キャリア302の搬送モードが、磁気浮上搬送モードから再びローラ搬送モードに切り換えられる。続いて、搬送キャリア302は、ローラ搬送により、基板排出位置P4のガラス基板排出室109へと搬送される。基板排出位置P4では、ガラス基板Gのマスクチャックが解除され、ガラス基板Gは不図示の排出機構によって次工程へと搬送される。
【0070】
ガラス基板排出室109でガラス基板Gを排出して空の状態となった搬送キャリア302は、搬送モジュール301とともに、図で見ると反時計まわりに90度回転される。そのためにガラス基板排出室109は、搬送モジュール301を平面方向で回転させる方向変換機構を備える。続いて搬送キャリア302は、搬送モジュール301からキャリアシフタ100dに受け渡され、リターン搬送路100b始点であるキャリア受渡位置P5へと搬送される。一方、搬送キャリア302をキャリアシフタ100dへと受け渡した後の搬送モジュール301は、時計まわりに90度回転され元の方向に戻る。これにより搬送モジュール301は、次に反転室108より搬出される搬送キャリア302を受け入れ可能な状態に復帰する。
【0071】
キャリアシフタ100dは、搬送モジュール301と同様の搬送用機構を持つ。キャリアシフタ100dは、ガラス基板排出室109で90度回転された搬送モジュール301
から、基板を排出して空になった搬送キャリア302を受け取り、リターン搬送路100bの始点(キャリア受渡位置P5)に配置された方向変換機構(方向変換用の搬送モジュール)110へと引き渡す。方向変換機構110は搬送キャリア302を、平面視で反時計回りに90度回転し、リターン搬送路100bを構成する搬送モジュール301ヘと搬送する。搬送完了後、方向変換機構110は時計まわりに90度回転して元の位置に復帰し、キャリアシフタ100dより次の搬送キャリア302を受け取り可能な状態になる。
【0072】
<リターンプロセス>
搬送キャリア302は、リターン搬送路100b上をローラ搬送モードで移動する。反転室111において、回転支持機構が、搬送キャリア302を搬送モジュール301ごと進行方向に180度回転する。これにより搬送キャリア302は、静電チャック308のマスク装着面が下面側となった状態でマスク受取位置P6に搬入される。続いて搬送キャリア302は、マスク受渡機構100cからマスクMを受け取って磁気吸着チャック307で吸着し、マスクチャック311で保持する。続いて搬送キャリア302は、マスクMをマスクチャック311で保持しながら、引き続きローラ搬送モードで矢印C方向へと移動する。
【0073】
搬送キャリア302は、マスク分離室112におけるマスク分離位置P7まで移動したのち停止し、マスクチャック311を解除してマスクMを分離する。分離されたマスクMは、マスク受渡機構100eへと受け渡される。マスク受渡機構100eは、蒸着処理工程搬送路100aとリターン搬送路100bの間のプリアライメント室100gにおいてマスクMを粗くアライメントしたのち、アライメント室103へと搬送する。
【0074】
一方、マスク分離位置P7においてマスクMを分離した搬送キャリア302は、反転室113において進行方向に180度回転される。これにより静電チャック308のガラス基板保持面が上面側に向いた状態となる。そして搬送キャリア302は、リターン搬送路100bの終点であるキャリア復帰位置P8にある方向変換機構114によって、時計まわりに90度回転される。続いてキャリアシフタ100fヘと引き渡され、蒸着処理工程搬送路100aの始点である、ガラス基板搬入位置P1にある基板搬入室101へと搬送される。方向変換機構114は、搬送キャリア302を引き渡したあとで反時計回りに90度回転して元の状態に戻る。一方、基板搬入室101内に搬入された搬送キャリア302は、さらに反時計まわりに90度回転され、外部より搬入される次のガラス基板Gを保持可能な初期位置へと復帰する。
【0075】
以上の処理を行うことによって、順次搬入されるガラス基板上に有機EL発光材料を蒸着する一連の処理を滞りなく実行することができる。
【0076】
また、搬送キャリア302を磁気浮上方式で搬送することにより塵や摩擦による粉体の発生を抑制できるので、特に蒸着室内部や蒸着室への搬出入などにおいて有効である。さらに、図示例によれば、ガラス基板Gが製造ライン100に搬入された後、アライメント及び蒸着を経て排出されるまでの過程において、ガラス基板Gは一方向に搬送されるのみであり、かつ、進行方向で上下反転する必要はあるものの、ロボット等により平面方向で旋回する必要はない。すなわち、ガラス基板Gは直線状の搬送路上を搬送される。したがって、ガラス基板Gをロボット等で平面方向に旋回する必要がないため、塵や粉体が基板に付着する可能性をさらに低減できる。
【0077】
さらに、図示例では、ガラス基板Gの被成膜面を上向きにした状態で製造ラインに搬入する。そのため、例えばガラス基板Gを成膜されない面を支持機構に載置して搬入すれば、搬送キャリア302上へのガラス基板装着時に成膜面を保護する点でも有効である。
【0078】
ここで、蒸着室では真空中で蒸着材料をPVDあるいはCVDで気化あるいは昇華させて成膜処理を行うため、蒸着材料を下方に配置する必要がある。そこで蒸着時には、ガラス基板の被成膜面を下向きに位置させた姿勢に制御する必要がある。本実施例の構成によれば、マスクMは、搬送キャリア302に保持されたガラス基板Gの被成膜面が下面側を向いている状態で、下側から当該被成膜面に向かって上昇され、アライメント工程を経てガラス基板Gに装着される。そのため、マスクMを装着した時点で、上記の蒸着材料を蒸着可能な姿勢となっている。
【0079】
搬送キャリア302へのガラス基板保持には静電チャック308が用いられ、マスク保持には磁気吸着チャック307および機械式のマスクチャック311が用いられる。静電チャック308および磁気吸着チャック307はチャックフレーム309内に組み込まれており、磁気吸着チャック307は、チャックフレーム309内における昇降動作(マスクMに対するマグネット401の接近離間動作)によってチャック、非チャック状態を切り替えることができる。マスクMは、まず機械式のマスクチャック311により、ガラス基板Gを挟んで搬送キャリア302に弾性的に保持される。その後、磁気吸着チャック307を下降させることで、マスクMのチャックを完了する。本実施例の構成によれば、これら3種のチャックを搬送キャリア302にコンパクトに組み込むことができる。
【0080】
本実施例の静電チャックを制御する静電チャック制御部は、充電式の電源や、制御系からの指令を通信する無線通信手段とともに制御ボックス312に格納され、搬送キャリアに組み込まれている。そのため、製造プロセスにおいて、外部より搬送キャリア302に電源供給ケーブルや通信ケーブル等を接続する必要がなくなる。
【0081】
上述の実施例では、駆動用マグネット305a、305bは搬送キャリア302の上面に設けられ、搬送モジュール301に上に駆動用マグネット305a、305bに対向するように配置された駆動用コイル306a、306bによって上部から吸引される構成となっている。しかしながら磁石ユニットとコイルユニットの配置はこれに限られず、搬送キャリア302の側面に駆動用マグネットを配置し、駆動用マグネットに対向する搬送モジュール301上の位置に複数のコイルを配置し、搬送キャリア302の側面から磁気浮上により保持することも可能である。
【0082】
本実施例によれば、搬送キャリア302によりガラス基板GとマスクMを保持した状態で、蒸着室において蒸着される前に、アライメント室において磁気により浮上した状態で、磁気の力によりアライメントされる。これにより、高精度な位置決めが可能となる。また、搬送キャリアの搬送手段であるコイルへの電流もしくは電圧により制御するため、アライメント用に別の手段を設ける必要がなく、装置をシンプルでかつ低コストで実現することが可能である。
【0083】
<本実施例の特徴的構成及び優れた点>
図5~
図7、
図12を参照して、本実施例に係る磁気吸着機構について説明する。
図5は、磁気吸着チャック307に取り付けられた本実施例に係る磁気吸着機構の構成を示した分解斜視図である。
図6は、磁気抵抗調整部402の構成を示した概略図である。
図7は、磁気抵抗調整部402による磁気回路の変化を示す模式図である。
図12は、磁気吸着チャック307の下面図(マスクM側から見た模式図)であり、ヨーク板307x3における各吸着マグネット401の配置構成及び磁気抵抗調整部402の配置構成の一例を示す模式図である。
【0084】
(磁気吸着チャックの詳細な構成と磁気抵抗調整方法)
図5、
図6、
図7を参照して、磁気吸着チャック307について詳細に説明する。
図5に示すように、磁気吸着チャック307のチャック本体307xは、矩形状の枠体
307x1と、マスクMに形成された遮蔽パターンに対応するパターンの格子状の支持フレーム307x2と、支持フレーム307x2に取り付けられる磁気吸着機構と、を備える。磁気吸着機構は、磁気抵抗調整部402を有するバックヨークとしてのヨーク板307x3と、ヨーク板307x3に取り付けられる永久磁石である吸着マグネット401と、を備えた構成となっている。吸着マグネット401は、ヨーク板307x3の下面である主面400に取り付けられる。ヨーク板307x3は、支持フレーム307x2の下面に取り付けられている。
【0085】
図6に示すように、吸着マグネット401は、ヨーク板307x3の主面400に複数個取り付けられ、吸着マグネットN極401x1、吸着マグネットS極401x2のマグネットが交互にライン状に所定の間隔を空けて配列されている。
【0086】
各吸着マグネット401は、それぞれの磁極の配置がマスクMの吸着方向に並ぶように、ヨーク板307x3の主面400に取り付けられる。すなわち、吸着マグネット401の着磁方向(磁極が並ぶ方向)が、ステンレス等の磁性金属材で構成されたマスクMをガラス基板Gに対して引き付けるべき方向に並ぶように、各吸着マグネット401は、ヨーク板307x3の主面400に取り付けられる。具体的には、吸着マグネットN極401x1は、N極がマスクMと対向する側に位置し、S極がヨーク板307x3の主面400と対向する側に位置し、着磁方向における主面400側の端面であるS極側の着磁面401e2が主面400と接するように取り付けられる。一方、吸着マグネットS極401x2は、S極がマスクMと対向する側に位置し、N極がヨーク板307x3の主面400と対向する側に位置し、着磁方向における主面400側の端面であるN極側の着磁面401e1が主面400と接するように取り付けられる。
【0087】
なお、
図6では、マスクMと磁気吸着チャック307との間に配置されるガラス基板G及び静電チャック308の図示を省略している。すなわち、磁気吸着チャック307(各吸着マグネット401)は、成膜対象物であるガラス基板Gに対して、マスクMとは反対側に配置された構成となっている。
【0088】
図6に示すように、磁気抵抗調整部402は、ヨーク板307x3を貫通する貫通孔であるねじ孔402x1と、ねじ孔402x1に挿入可能な充填部材としてのボルト402x2と、ボルト402x2の挿入量を規制するナット402x3と、を備える。
【0089】
ねじ孔402x1は、ヨーク板307x3における吸着マグネット401が配列された位置に対応して形成されている。ねじ孔402x1は、吸着マグネット401の裏側においてヨーク板307x3の主面400とその反対側の面との間を貫通する(主面400と反対側の面とでそれぞれ開口するように貫通する)。ねじ孔402x1の主面400側の開口は、吸着マグネット401によって塞がれる(開口しない)ように構成されている。すなわち、ねじ孔402x1の径は、ねじ孔402x1の開口面積が吸着マグネット401の着磁面のうちヨーク板307x3の主面400に取り付けられる側の着磁面よりも小さくなるように設定されている。
【0090】
ボルト402x2は、強磁性体からなり、ヨーク板307x3の主面400とは反対側からねじ孔402x1に螺合可能に構成されている。なお、強磁性体としては、例えば、永久磁石といった磁気を発生する材料や鉄などの磁力で吸着可能な材料で構成されたものが挙げられる。ボルト402x2に用いる強磁性体は、ヨーク板307x3と同じ材料でもよいし、異なる材料でもよい。
【0091】
ナット402x3は、強磁性体ではない材質で形成されており、ボルト402x2のねじ孔402x1に対する挿入量を任意の位置で固定する際に用いられる。
【0092】
磁気抵抗調整部402は、ボルト402x2のねじ孔402x1に対する挿入量を調整すること、またはボルト402x2のねじ孔402x1への挿抜を選択することで吸着マグネット401の磁力によるマスクMに対する吸着力を制御することができる。具体的には、ヨーク板307x3の主面400に接合された吸着マグネット401の着磁面の一部(ねじ孔402x1の開口と対向する領域)と、ねじ孔402x1及びボルト402x2との間には、空間(隙間)gが形成される。吸着マグネット401とヨーク板307x3によって形成される磁気回路における磁気の一部は、吸着マグネット401の端面から空間gを通ってヨーク板307x3(ねじ孔402x1周面)やボルト402x2(先端面)に至る磁路を形成する。空間gを広くするほど、すなわち、空間gを経由する磁路を長くするほど、吸着マグネット401の磁力によるマスクMに対する吸着力は減少し、空間gを狭くするほど、すなわち、空間gを経由する磁路を短くするほど、上記吸着力は増加する。したがって、ボルト402x2をねじ孔402x1に挿入せずに、吸着マグネット401の裏側に開放された空間を形成する(空間gの広さを無限大にする)ことで、上記吸着力は最小になる。また、ボルト402x2をねじ孔402x1の奥まで、すなわち、ボルト402x2の先端面が吸着マグネット401の接合端面と当接するまで、ボルト402x2をねじ孔402x1に挿入する(空間gを無くす)ことで、上記吸着力は最大となる。
【0093】
したがって、ボルト402x2のねじ孔402x1に対する挿入量、またはボルト402x2をねじ孔402x1に挿入するか否かによって、磁気抵抗調整部402は、概略、次の三つの態様を取り得る。
一つ目は、ボルト402x2がねじ孔402x1の奥まで挿入され、吸着マグネット401とヨーク板307x3との間に空間gが形成されていない態様である(第1の磁気抵抗調整部402A)。
二つ目は、ボルト402x2がねじ孔402x2に挿入されず、吸着マグネット401の裏側に着磁面の一部を開放する空間が形成された態様である(第2の磁気抵抗調整部402B)。
三つ目は、ボルト402x2がねじ孔402x1の奥まで挿入されずに、吸着マグネット401とねじ孔402x1とボルト402x2との間に空間gが形成された態様である(第3の磁気抵抗調整部402C1、402C2)。
【0094】
第3の磁気抵抗調整部402C1、402C2では、ボルト402x2の先端面がヨーク板307x3の主面400に対して後退した構成となっており、磁気回路を形成するバックヨーク構成において、吸着マグネット401との接合面に対し凹んだ凹部形状を有する接触部(第3の接触部)をなしている。ボルト402x2のねじ孔402x1に対する挿入量の調整により、凹部の深さは可変であり、したがって、吸着マグネット401の磁力によるマスクMに対する吸着力を調整可能な広さ可変の空間が形成される。
第1の磁気抵抗調整部402Aは、バックヨーク構成において上記凹部が設けられない接触部(第1の接触部)をなしている。
第2の磁気抵抗調整部402Bは、バックヨーク構成において上記凹部の代わりに吸着マグネット401の端面の一部を接触部の裏側に開放するように貫通する貫通孔が形成された接触部(第2の接触部)をなしている。
【0095】
なお、一つの吸着マグネット401に対するねじ孔402x1の数は1個に限定されず、2個あるいはそれ以上とすることもできる。また、一つの吸着マグネット401に対してねじ孔402x1に挿入されるボルト402x2の数も、適宜選択される。
さらに、ナット402x3は、ねじ孔402x1に対するボルト402x2の挿入量に応じて高さの異なるものを使い分けてもよいし、ボルト402x2の挿入量によっては、使用しないでもよい。
また、長さの違うボルトを使い分けることで、隙間gの広さを調整するようにしてもよい。
【0096】
図7(A)、
図7(B)、を参照して、磁気吸着機構の磁気抵抗調整について説明する。
図7(A)は、磁気抵抗調整部における磁力の調整について単純モデルに置き換えた様子を示す模式的断面図である。
図7(B)は、
図7(A)の等価回路を示す図である。
図7(A)において、上下方向に磁化された吸着マグネット401がヨーク410に取り付けられている。ヨーク410には吸着マグネット401に対応した位置にねじ孔402x1が形成されている。ねじ孔402x1には強磁性体からなるボルト402x2が挿入量可変で挿入される。吸着マグネット401におけるヨーク410との取り付け面(一方の磁極に着磁された端面)とは反対側の面(他方の磁極に着磁された端面)と、ヨーク410と、の間には、空間411が形成されている。吸着マグネット401で発生した磁力により、ヨーク410において吸着マグネット401と空間411を挟んで反対側に位置する領域に吸着マグネット401側に向かうように作用する吸着力を発生させる磁気回路が形成される。
【0097】
ここで、磁気回路における磁束φ、起磁力Fおよび磁気抵抗Rの関係について説明する。磁束φ、起磁力Fおよび磁気抵抗Rの間には、次式(1)の関係が成り立つ。
φ=F/R …(1)
ここで、起磁力Fは、吸着マグネット401の寸法精度やヨーク板307x3に対する取付精度等に起因する所定の値のもの、すなわち、個々の吸着マグネット401においてそれぞれ固有の値(個体差のある値)となるものである。
【0098】
図7(A)に示すように、吸着マグネット401とヨーク410が接している面を通る磁気は、ヨーク410と空間411を通る回路(
図7(A)において実線矢印で示す回路)を形成する。
図7(B)の等価回路で表すと、ヨーク410内を通る磁気抵抗はR1であり、空間411の磁気抵抗はRAirである。
一方、吸着マグネット401とねじ孔402x1が接している面を通る磁気回路は、ねじ孔402x1内の空間gと強磁性体からなるボルト402x2内を経由し、ヨーク410と空間411を通る回路(
図7(A)において破線矢印で示す回路)を形成する。
図7(B)の等価回路で表すと、ねじ孔402x1とボルト402x2からなる部分の磁気抵抗はVRであり、ヨーク410内を通る磁気抵抗はR2であり、空間411の磁気抵抗はRAirである。従って、磁気抵抗調整部402周辺における合計磁気抵抗R0は、次式(2)となる。
1/R0=1/R1+1/(VR+R2) …(2)
【0099】
ねじ孔402x1とボルト402x2からなる部分では、ねじ孔402x1においてボルト402x2が挿入されていない空間gの磁気抵抗は大きく、強磁性体からなるボルト402x2の磁気抵抗は小さい。従って、ねじ孔402x1に対するボルト402x2の挿入量を増加させる(空間gを狭くする)とVRは小さくなるためR0も小さくなる。一方、ボルト402x2の挿入量を減少あるいは抜去させる(空間gを広くする)とVRは大きくなるためR0も大きくなる。よって、式(1)、(2)より、VRを増加させると磁束φは小さくなり、VRを減少させると磁束φは大きくなる。
【0100】
上述したように、本実施例では、ねじ孔402x1および強磁性体からなるボルト402x2が、ヨーク板307x3に配列された各吸着マグネット401に対応した位置に設けられている。そして、各ボルト402x2のねじ孔402x1に対する挿入量を調整する、あるいは抜去することで、各吸着マグネット401の吸着対象物であるマスクMに対する吸着力を個別に調整することができる。これにより、各吸着マグネット401の個々の組付け精度の差や寸法精度等の個体差による吸着力のばらつきを吸収して、各吸着マグ
ネット401のマスクMに対する吸着力の均一化を図ることができる。また、マスクMにおける吸着位置に応じて各吸着マグネット401の吸着力を個々に調整することで、マスクMを基板Gに対して隙間なく吸着させるためのバランスの取れた吸着力分布を形成することができる。すなわち、本実施例によれば、ボルト402x2の抜き差し、挿入量の調整による簡易かつ省スペースな構成により、マスクMを吸着する吸着力分布を高精度かつ簡便に調整することができる。また、各ボルト402x2の材質を透磁率の異なる材質へ変更することでも、マスクMをガラス基板G表面に吸着させる吸着力分布を高精度かつ簡便に調整することができる。
【0101】
ここで、
図12を参照して、吸着マグネット401及び磁気抵抗調整部402の配置構成の一例について説明する。上述した磁気抵抗調整部402は、ヨーク板307x3に取り付けられる全ての吸着マグネット401に対して設置するのが最も好ましいが、例えば、コストとの兼ね合いにより最低限必要な箇所にのみ設置するようにしてもよい。
図12に示すように、ヨーク板307x3における梁307x3-1の中央部は、マス
クMのたわみ量が大きいため、対応する位置に配置された吸着マグネット401x2に磁気抵抗調整部402を設置するとよい(磁気抵抗調整部402-1)。また、ヨーク板307x3において梁と梁とが交差する交差部307x3-2は、磁力が乱れやすい箇所と
なるため、ここに配置された吸着マグネット401x1に磁気抵抗調整部402を設置するとよい(磁気抵抗調整部402-2)。
なお、ヨーク板307x3の外周部は、マスクのたわみ量が少ない(マスクの動ける量が相対的に少ない)箇所となるため、磁気抵抗調整部402を設置する必要性は低い。
【0102】
[実施例2]
図13、
図14を参照して、本発明の実施例2について説明する。
図13は、磁気吸着チャック307に取り付けられた磁気吸着機構307の構成を示した概略図である。
図14は、磁気抵抗調整部502による磁気回路の変化を示す概略図である。
なお、実施例2において実施例1と共通する構成については同じ符号を付して再度の説明を省略する。実施例2においてここで特に説明しない事項は、実施例1と同様である。
【0103】
(磁気吸着チャックの詳細な構成と磁気抵抗調整方法)
実施例2における磁気抵抗調整部502は、ヨーク板307x3に設けた貫通孔502x1、強磁性体からなる充填部材502x2によって、貫通孔502x1内の空間gの磁気抵抗を変化させることにより、マスクMを吸着する吸着力分布を調整する構成となっている。貫通孔502x1と充填部材502x2は、実施例1の貫通孔402x1と充填部材402x2のようなねじ螺合により挿抜する構成ではなく、シンプルに挿抜できる構成となっている。嵌合形状も特に限定されるものではなく、充填部材502x2は、三角柱や四角柱、円柱など、任意の形状に構成してよい。
【0104】
図13に示すように、磁気抵抗調整部502は、ヨーク板307における吸着マグネット401が配列された位置に形成された主面400と主面400と反対の面とを貫通する貫通孔502x1と、貫通孔502x1に挿入可能、かつ、嵌合する形状の強磁性体からなる充填部材502x2と、を備えた構成となっている。
なお、充填部材502x2に用いられる強磁性体としては、例えば、永久磁石といった磁気を発生する材料や鉄などの磁力で吸着可能な材料が挙げられる。また、吸着マグネット1個に対する貫通孔502x1の数は1個に限定されず、2個あるいはそれ以上とすることもできる。また、吸着マグネット1個に対する充填部材502x2は、適宜挿入される。
【0105】
図14(A)、(B)、を参照して、磁気吸着機構の磁気抵抗調整について説明する。
図14(A)は、磁気抵抗調整部における磁力の調整について単純モデルに置き換えた様
子を示す図である。
図14(B)は、
図14(A)の等価回路を示す図である。
図14(A)において、上下方向に磁化された吸着マグネット401がヨーク410に取り付けられている。ヨーク410には吸着マグネット401に対応した位置に貫通孔502x1が形成されている。貫通孔502x1には貫通孔に嵌合する形状の強磁性体からなる充填部材502x2が挿入量可変で挿入される。吸着マグネット401の取り付け面と反対側の面とヨーク410の間には空間411が形成されている。吸着マグネット401で発生した磁力により、空間411を挟んで反対側のヨーク410を吸着する吸着力が発生する。
【0106】
図14(A)に示すように、吸着マグネット401とヨーク410が接している面を通る磁気は、ヨーク410と空間411を通る回路(
図14(A)において実線矢印で示す回路)を形成する。
図14(B)の等価回路で表すと、ヨーク410内を通る磁気抵抗はR1であり、空間411の磁気抵抗はRAirである。
一方、吸着マグネット401と貫通孔502x1が接している面を通る磁気回路は、貫通孔502x1内の強磁性体からなる充填部材502x2を経由し、ヨーク410と空間411を通る回路(
図14(A)において破線矢印で示す回路)を形成する。
図14(B)の等価回路で表すと、貫通孔502x1と充填部材502x2からなる部分の磁気抵抗はVRであり、ヨーク410内を通る磁気抵抗はR2であり、空間411の磁気抵抗はRAirである。従って、磁気抵抗調整部周辺における合計磁気抵抗R0は、上記式(2)と同じ次式となる。
1/R0=1/R1+1/(VR+R2)
【0107】
貫通孔502x1と充填部材502x2からなる部分では、充填部材502x2を挿入するとVRは小さくなるためR0も小さくなり、充填部材502x2を抜去させるとVRは大きくなるためR0も大きくなる。よって、式(1)、(2)より、VRを増加させると磁束φは小さくなり、VRを減少させると磁束φは大きくなる。
【0108】
本実施例の構成においても、貫通孔502x1および強磁性体からなる充填部材502x2がヨーク板307x3に配列された各吸着マグネット401に対応した位置に設けられているため、各充填部材502x2を挿入量する、あるいは抜去することで、磁気抵抗を調整することができる。これにより、マスクMを吸着する吸着力分布を高精度かつ簡便に調整できる。また、各充填部材502x2の材質を透磁率の異なる材質へ変更することでも、マスクMを吸着する吸着力分布を高精度かつ簡便に調整できる。
【0109】
なお、本実施例においても、実施例1と同様に、充填部材502x2の貫通孔502x1に対する挿入量を調整できるように構成し、実施例1と同様の空間gを広さ可変に形成できるように構成してもよい。
【0110】
[実施例3]
図15、
図16を参照して、本発明の実施例3について説明する。
図15は、磁気吸着チャック307に取り付けられた磁気吸着機構の詳細構成を示した図である。
図16は、磁気抵抗調整部602による磁気回路の変化を示す概略図である。
なお、実施例3において実施例1と共通する構成については同じ符号を付して再度の説明を省略する。実施例3においてここで特に説明しない事項は、実施例1と同様である。
【0111】
(磁気吸着チャックの詳細な構成と磁気抵抗調整方法)
実施例3における磁気抵抗調整部602は、ヨーク板307x3に設けた貫通孔602x1、溝部602x4、強磁性体からなる充填プレート602x2によって、溝部602x4内の空間の磁気抵抗を変化させることにより、マスクMを吸着する吸着力分布を調整する構成となっている。
【0112】
図15に示すように、磁気抵抗調整部602は、ヨーク板307における吸着マグネット401が配列された位置に形成された主面400と主面400と反対の面とを貫通する貫通孔602x1と、貫通孔602x1周辺を掘削した溝部602x4と、溝部602x4に合致する形状の強磁性体からなる充填プレート602x2と、を備えた構成となっている。すなわち、貫通孔602x1は、主面400とは反対側においては、溝部602x4の底部において開口するように構成されている。
なお、充填プレート602x2に用いられる強磁性体としては、例えば、永久磁石といった磁気を発生する材料や鉄などの磁力で吸着可能な材料が挙げられる。また、吸着マグネット1個に対する貫通孔602x1、および溝部602x4の数は1個に限定されず、2個あるいはそれ以上とすることもできる。また、溝部602x4は複数の貫通孔602x1にまたがって掘削しても良い。また、吸着マグネット1個に対する充填プレート602x2は、適宜装着される。
【0113】
図16(A)、(B)、を参照して、磁気吸着機構の磁気抵抗調整について説明する。
図16(A)は、磁気抵抗調整部における磁力の調整について単純モデルに置き換えた様子を示す図である。
図16(B)は、
図16(A)の等価回路を示す図である。
図16(A)において、上下方向に磁化された吸着マグネット401がヨーク410に取り付けられている。ヨーク410には吸着マグネット401に対応した位置に貫通孔602x1が形成され、貫通孔602x1周辺には貫通孔602x1周辺を掘削した溝部602x4が形成されている。溝部602x4には溝部602x4に装着可能な形状の強磁性体からなる充填プレート602x2が装着される。吸着マグネット401の取り付け面と反対側の面とヨーク410の間には空間411が形成されている。吸着マグネット401で発生した磁力により、空間411を挟んで反対側のヨーク410を吸着する吸着力が発生する。
【0114】
図16(A)に示すように、吸着マグネット401とヨーク410が接している面を通る磁気は、ヨーク410と空間411を通る回路(
図16(A)において実線矢印で示す回路)を形成する。
図16(B)の等価回路で表すと、ヨーク410内を通る磁気抵抗はR1であり、空間411の磁気抵抗はRAirである。
一方、吸着マグネット401と貫通孔602x1が接している面を通る磁気回路は、貫通孔602x1内の空間gと強磁性体からなる充填プレート602x2内を経由し、ヨーク410と空間411を通る回路(
図16(A)において破線矢印で示す回路)を形成する。
図16(B)の等価回路で表すと、貫通孔602x1と充填プレート602x2からなる部分の磁気抵抗はVRであり、ヨーク410内を通る磁気抵抗はR2であり、空間411の磁気抵抗はRAirである。従って、磁気抵抗調整部周辺における合計磁気抵抗R0は、上記式(2)と同じ次式となる。
1/R0=1/R1+1/(VR+R2)
【0115】
貫通孔602x1と充填プレート602x2からなる部分では、貫通孔602x1の空間gの磁気抵抗は大きく、強磁性体からなる充填プレート602x2の磁気抵抗は小さい。従って、充填プレート602x2を装着させるとVRは小さくなるためR0も小さくなり、充填プレート602x2を抜去させるとVRは大きくなるためR0も大きくなる。よって、式(1)、(2)より、VRを増加させると磁束φは小さくなり、VRを減少させると磁束φは大きくなる。
【0116】
本実施例の構成においても、貫通孔602x1および強磁性体からなる充填プレート602x2がヨーク板307x3に配列された各吸着マグネット401に対応した位置に設けられているため、各充填プレート602x2を装着する、あるいは抜去することで、磁気抵抗を調整することができる。これにより、マスクMを吸着する吸着力分布を高精度か
つ簡便に調整できる。また、各充填プレート602x2の材質を透磁率の異なる材質へ変更することでも、マスクMを吸着する吸着力分布を高精度かつ簡便に調整できる。
【0117】
なお、例えば、充填プレート602x2の下面に、貫通孔602x1に挿入嵌合可能な下向きの凸部を設けて、貫通孔602x1内の空間gの広さを調整できるようにしてもよい。すなわち、例えば、充填プレート602x2として、上記凸部なしのものと、上記凸部の高さ違いのものを複数用意しておき、適宜選択して溝部602x4に装着するようにすれば、さらに高精度に吸着力分布を調整することが可能になる。
【符号の説明】
【0118】
307:磁気吸着チャック、307x:チャック本体、307x1:枠体、307x2:支持フレーム、307x3:ヨーク板(バックヨーク)、400:主面、401:吸着マグネット、401x1:吸着マグネットN極、401x2:吸着マグネットS極、402:磁気抵抗調整部、402x1:ねじ孔、402x2:ボルト、402x3:ナット、410:ヨーク、411:空間、G:ガラス基板、M:マスク