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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】アルコール組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/02 20060101AFI20231005BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20231005BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A01N31/02
A01N25/02
A01P3/00
A61K8/34
A61K8/73
A61K31/045
A61K31/047
A61K47/38
A61P17/00 101
A61Q19/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020150858
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022045265
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】須藤 貴音
(72)【発明者】
【氏名】新延 信吾
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0111972(US,A1)
【文献】特開平06-199700(JP,A)
【文献】特開2017-088679(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031644(WO,A1)
【文献】特開2007-084479(JP,A)
【文献】特開2018-012663(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017573(WO,A1)
【文献】特開2008-297270(JP,A)
【文献】特開2020-019746(JP,A)
【文献】特開2016-166134(JP,A)
【文献】特開昭54-133549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性セルロースエーテルを第一のアルコールに分散させることにより分散液を得る工程と、
前記分散液と水とを混合して前記水溶性セルロースエーテルを溶解させることにより溶解液を得る工程と、
前記溶解液と第二のアルコールとを混合することによりアルコール組成物を得る工程と
を含むアルコール組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第一のアルコールの質量と前記第一のアルコール及び前記第二のアルコールの合計の質量との比([第一のアルコール]/[第一のアルコール+第二のアルコール])が、0.70以下である請求項1に記載のアルコール組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アルコールが、炭素数1~4の低級アルコール及び多価アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールである請求項1又は2に記載のアルコール組成物の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールが、エタノール、イソプロパノール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールである請求項1又は2に記載のアルコール組成物の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールがエタノールであり、かつ該アルコールの含有量は60.0質量%~90.0質量%である請求項1又は2に記載のアルコール組成物の製造方法。
【請求項6】
前記分散液を得る工程は0℃~35℃の温度で実施され、前記溶解液を得る工程は0℃~35℃の温度で実施され、及び前記アルコール組成物を得る工程は0℃~35℃の温度で実施される請求項1又は2に記載のアルコール組成物の製造方法。
【請求項7】
前記アルコール組成物は、20℃の粘度が100mPa・s~50,000mPa・sである請求項1又は2に記載のアルコール組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール組成物は、工業的及び家庭的に広く利用されている。例えば、モノアルコール及び水を含む手指消毒剤、多価アルコールを含むものとしては医薬用及び食品用保冷剤、ヘアジェル等の化粧料、芳香剤等があり、アルコール組成物は様々な用途に使用されている。
【0003】
とりわけアルコール手指消毒剤の需要は、2020年になって急激に増加し、医療及び介護のみならず、一般家庭においても広く使用されるようになっている。例えば、粘度の高いゲル状の手指消毒剤は、手からこぼれ落ちにくく、持ち運びが容易であるといった利便性を有する。ゲル状の手指消毒剤を製造するためには、粘度調整が求められる。
【0004】
アルコール組成物における粘度調整のための増粘剤としては、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、セルロース誘導体等が用いられる。例えば、特許文献1では、アクリル系ポリマー、キサンタンガム及びセルロース誘導体を増粘剤として用いてアルコール組成物を得る方法が報告されている(特許文献1)。
【0005】
また、セルロース誘導体の中でもヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう。)を増粘剤として用いるものとして、エタノール、リン酸、リン酸三ナトリウム塩及びグリセリンの混合液にHPMCを加えて分散して懸濁液を得た後に、精製水を加えて消毒剤を得る方法(特許文献2)、加温したアルコールと水との混合液にHPMCを分散し、及び4時間放冷することにより溶解してアルコール組成物を得る方法(特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2008-508189号公報
【文献】特開2016-166134号公報
【文献】特表2015-524425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載の方法によれば、アルコール組成物が得られる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、アルコール組成物における増粘剤の含有量は0.3%と非常に少ないとの問題がある。また、特許文献2に記載の方法は、溶解性が十分でなく、粘度が1,210mPa・sと低く、粘度調整が困難な方法であるという問題がある。特許文献3に記載の方法は、加温を要することから、そのための製造設備及び加温後の冷却工程が求められ、時間及びコストを要するとの問題がある。
【0008】
上記の問題は、HPMCがアルコールに不溶性であることに一因がある。増粘剤として使用されるメチルセルロース(以下、「MC」ともいう。)もまた、アルコールに不溶性である。すなわち、特許文献1~3に記載の方法によらなければ、HPMC又はMCを含み、かつ所定濃度のアルコールを含むアルコール組成物を調製しようとする場合、溶解時に十分な水和が生じず透明性が低くなり、また、溶解が不十分であることから、高粘性のアルコール組成物が得られない。
【0009】
更に、近年、社会的に環境負荷の小さい持続可能な資源の活用への意識が高まっている。HPMC及びMCといった水溶性セルロースエーテルをはじめとする持続可能な資源成分の使用が求められ、合成ポリマーからの置き換え及び合成ポリマーの使用量の削減が環境配慮の面から望まれる。そのために、HPMC又はMCを増粘剤として用いつつも、特許文献1~3に記載の方法に起因する問題を回避した、アルコール組成物の製造方法が求められる。
【0010】
したがって、本発明は、HPMC又はMCを増粘剤として使用しつつ、加熱処理を用いる工程を含まなくとも、適切な粘性になるように粘度調整が可能である、アルコール組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、HPMC及びMCといった水溶性セルロースエーテルを第一のアルコールに分散することにより分散液を得る工程と、該分散液と水とを混合して水溶性セルロースエーテルの溶解液を得る工程と、該溶解液と第二のアルコールとを混合してアルコール組成物を得る工程とを順を追って段階的に実施することにより、加熱処理を用いる工程を実施せずとも、種々の性質及び含有量の水溶性セルロースエーテルを用いて、適度な粘度を有するアルコール組成物が得られることを見出した。そして、このような知見に基づいて、本発明者らは、遂に、上記工程を含むアルコール組成物の製造方法を創作することに成功した。本発明は、本発明者らによって初めて見出された知見及び成功例に基づいて完成されたものである。
【0012】
従って、本発明によれば、以下の態様のアルコール組成物の製造方法及びキットが提供される:
[1]ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性セルロースエーテルを第一のアルコールに分散させることにより分散液を得る工程と、
前記分散液と水とを混合して前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はメチルセルロースを溶解させることにより溶解液を得る工程と、
前記溶解液と第二のアルコールとを混合することによりアルコール組成物を得る工程と
を含むアルコール組成物の製造方法。
[2]前記第一のアルコールの質量と前記第一のアルコール及び前記第二のアルコールの合計の質量との比([第一のアルコール]/[第一のアルコール+第二のアルコール])が、0.70以下である[1]に記載のアルコール組成物の製造方法。
[3]前記アルコールが、炭素数1~4の低級アルコール及び多価アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールである[1]又は[2]に記載のアルコール組成物の製造方法。
[4]前記アルコールが、エタノール、イソプロパノール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールである[1]又は[2]に記載のアルコール組成物の製造方法。
[5]前記アルコールがエタノールであり、かつ該アルコールの含有量は60.0質量%~90.0質量%である[1]又は[2]に記載のアルコール組成物の製造方法。
[6]ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性セルロースエーテルと
第一のアルコールと、
第二のアルコールと
を含み、かつ前記第一のアルコールの質量と前記第一のアルコール及び前記第二のアルコールの合計の質量との比([第一のアルコール]/[第一のアルコール+第二のアルコール])が、0.70以下である、
アルコール組成物製造用キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境に優しいヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースといった水溶性セルロースエーテルを用いつつ、加熱処理を用いる工程を経なくとも、適切な粘性のゲル状となる等といった、所望の粘度を有するアルコール組成物が得られる。また、本発明によれば、得られるアルコール組成物は高アルコール濃度とすることができることから、ゲル状の消毒用アルコール組成物の製造方法として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一態様であるアルコール組成物の製造方法(以下、単に「方法」ともいう。)及びアルコール組成物製造用キット(以下、単に「キット」ともいう。)について詳細に説明するが、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0015】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0016】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物である。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含有量」は、濃度及び使用量(加えた量)と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(wt%)」を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーター等の制限事項等が挙げられる。
【0017】
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数は一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0018】
本発明の一態様の方法は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性セルロースエーテルを第一のアルコールに分散させることにより分散液を得る工程(以下、「分散液を得る工程」ともいう。)と、前記分散液と水とを混合して前記水溶性セルロースエーテルを溶解させることにより溶解液を得る工程(以下、「溶解液を得る工程」ともいう。)と、前記溶解液と第二のアルコールとを混合することによりアルコール組成物を得る工程(以下、「アルコール組成物を得る工程」ともいう。)とを含む。
【0019】
本明細書における「水溶性セルロースエーテル」は、HPMC、MC又はその両方を意味する。
【0020】
本発明の一態様の方法によって製造されるアルコール組成物は、HPMC及びMCといった水溶性セルロースエーテル、水及びアルコールを含み、又はこれらの成分からなる場合でさえも、非常に広範な粘度を有することができる。このようなアルコール組成物の成分及び物性から、本発明の一態様の方法は、ゲル状アルコール消毒用組成物といった、アルコール消毒用組成物を製造する方法として有用である。
【0021】
<分散液を得る工程>
分散液を得る工程では、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース又はその両方を第一のアルコールに分散させることにより分散液を得る。
【0022】
[第一のアルコール]
本発明の一態様の方法では、アルコールを、第一のアルコール及び第二のアルコールのように二段階に分割して配合することに特徴がある。第一のアルコール及び第二のアルコールは、互いに同一種類のアルコールであってもよく、それぞれ異なる種類のアルコールであってもよい。アルコールは、水と相溶可能なものであれば特に限定されないが、例えば、炭素数1~4の低級アルコール及び多価アルコール等が挙げられる。
【0023】
炭素数1~4の低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、tert-ブタノール等が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ペンチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、アルコール組成物へ消毒効果を付与する観点からは、エタノール及びイソプロパノールが好ましく、汎用性及びアルコール組成物へ保湿性を付与する観点からは、グリセリンが好ましい。
【0024】
アルコールは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、例えば、炭素数1~4の低級アルコールと多価アルコールとを混合して使用してもよい。
【0025】
アルコールの含有量(第一のアルコールの質量及び第二のアルコールの質量の総量)は、使用する水溶性セルロースエーテルが溶解可能な量であれば、アルコール組成物の用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、アルコールがエタノール又はイソプロパノールである場合は、水溶性セルロースエーテルの溶解性の観点から、アルコール組成物の総質量中、好ましくは30.0質量%~95.0質量%であり、より好ましくは40.0質量%~95.0質量%であり、アルコール組成物の消毒性の観点から、更に好ましくは50.0質量%~95.0質量%であり、なお更に好ましくは60質量%~90.0質量%であり;アルコールがグリセリン、ジグリセリン又はグリセリンとジグリセリンとの混合物である場合は、水溶性セルロースエーテルの溶解性及びアルコール組成物の保湿性の観点から、アルコール組成物の総質量中、好ましくは20.0質量%~70.0質量%であり、より好ましくは20.0質量%~60.0質量%であり、更に好ましくは20.0質量%~50.0質量%である。
【0026】
第一のアルコールの含有量は特に限定されない。ただし、本発明の一態様の方法では、第一のアルコールの質量と第一のアルコール及び第二のアルコールの合計の質量とが一定の関係にあることにより、アルコール組成物における水溶性セルロースエーテルの溶解安定性が向上し、水溶性セルロースエーテルが良好に水和する。このような水溶性セルロースエーテルの十分な水和を達成するためには、第一のアルコールの質量と第一のアルコール及び第二のアルコールの合計の質量との比([第一のアルコール]/[第一のアルコール+第二のアルコール];以下、「第一のアルコール含有率」ともいう。)が0.70以下であることが好ましく、0.61以下であることがより好ましい。該比が0.70を超過する場合、後段の溶解液を得る工程において溶解液中の水比率が小さくなり、水溶性セルロースエーテルの溶解に寄与することが可能な水の量が十分ではなく水和が不十分になり、結果として水溶性セルロースエーテルの溶解が不十分になり、得られるアルコール組成物が期待する増粘性を発揮できない場合がある。
【0027】
例えば、第一のアルコールの質量が20.0質量%であり、第一のアルコールの質量と第一のアルコール及び第二のアルコールの合計の質量との比、すなわち、第一のアルコールの含有率が0.267である場合、アルコールの総質量は75.0質量%であり、第二のアルコールの質量は55.0質量%である。
【0028】
本発明の一態様の方法は、アルコールの配合を第一のアルコール及び第二のアルコールに二分割して、そのうちの第一のアルコールに水溶性セルロースエーテルを分散させることにより、予め水溶性セルロースエーテルの水溶液を調製するために必要な分散のための熱水を用いなくともよく、更に加熱処理及び加熱処理後に溶解温度以下まで冷却する冷却処理のための時間及び電力コストを削減することができる。
【0029】
[ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)]
HPMCは、セルロースにメトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基を導入してなる水溶性セルロースエーテルである。HPMCは、メトキシ基の置換度、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数、粘性、分子量等の物性について特に限定されず、得られるアルコール組成物に付与したい粘度等の特性に応じて適宜選択することができる。HPMCの入手方法は特に限定されず、これまでに知られている製造方法によって製造してもよく、市販品として入手してもよい。
【0030】
HPMCの製造方法としては、例えば、セルロースパルプにアルカリを反応させてアルカリセルロースを得て、次いで得られたアルカリセルロースをヒドロキシプロピル化剤及びメチル化剤と反応させて、次いで得られた反応物を洗浄、乾燥、粉砕等の処理に供することにより、水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースとして調製することができる。
【0031】
HPMCの粘度は特に限定されないが、例えば、アルコール組成物に所望の粘度を付与するためには、HPMCの2.0質量%水溶液の20℃における粘度として、好ましくは1,000mPa・s~120,000mPa・sであり、より好ましくは1,500mPa・s~100,000mPa・sであり、更に好ましくは2,000mPa・s~100,000mPa・sである。HPMCの2.0質量%水溶液の20℃における粘度が1,000mPa・s未満である場合、アルコール組成物へ付与する増粘効果が弱く、アルコール組成物の粘度安定性が十分ではない可能性がある。一方、HPMCの2.0質量%水溶液の20℃における粘度が120,000mPa・sを超える場合、HPMCはアルコールとの相溶性が悪くなり、溶解性が劣り、結果としてアルコール組成物の増粘性及び/又は透明性が低くなる可能性がある。HPMCの20℃における2.0質量%水溶液の粘度は、後述する実施例に記載のとおりに、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の「粘度測定法」の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定する。
【0032】
HPMCにおけるメトキシ基の置換度(DS)は、アルコールとの相溶性の観点から、好ましくは1.00以上であり、より好ましくは1.20~2.20であり、更に好ましくは1.3~2.1である。メトキシ基の置換度(DS)とは、無水グルコース1単位当たりのメトキシ基の平均個数をいう。
【0033】
HPMCにおけるヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、アルコールとの相溶性の観点から、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.10~0.60であり、更に好ましくは0.13~0.40である。ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均モル数をいう。
【0034】
HPMCにおけるメトキシ基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSは、第十七改正日本薬局方のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)に関する測定方法を用いて測定した値を換算することによって求める。
【0035】
HPMCの含有量は、アルコール組成物に付与する所望の増粘性によって適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、アルコール組成物の総質量中、好ましくは0.05質量%~4.0質量%であり、より好ましくは0.1質量%~3.8質量%であり、更に好ましくは0.2質量%~3.5質量%であり、なお更に好ましくは0.5質量%~3.0質量%である。
【0036】
[メチルセルロース(MC)]
MCはセルロースにメトキシ基を導入してなる水溶性セルロースエーテルである。MCは、メトキシ基の置換度、粘性、分子量等の物性について特に限定されず、得られるアルコール組成物に付与したい粘度等の特性に応じて適宜選択することができる。MCの入手方法は特に限定されず、これまでに知られている製造方法によって製造してもよく、市販品として入手してもよい。
【0037】
MCの製造方法としては、例えば、セルロースパルプにアルカリを反応させてアルカリセルロースを得て、次いで得られたアルカリセルロースをメチル化剤と反応させて、次いで得られた反応物を洗浄、乾燥、粉砕等の処理に供することにより、水溶性メチルセルロースとして調製することができる。
【0038】
MCの粘度は特に限定されないが、例えば、アルコール組成物に所望の粘度を付与するためには、MCの2.0質量%水溶液の20℃における粘度として、好ましくは1,000mPa・s~50,000mPa・sであり、より好ましくは1,500mPa・s~40,000mPa・sであり、更に好ましくは2,000mPa・s~30,000mPa・sである。MCの20℃における2.0質量%水溶液の粘度が1,000mPa・s未満である場合、アルコール組成物へ付与する増粘効果が弱く、アルコール組成物の粘度安定性が十分ではない可能性がある。一方、MCの20℃における2.0質量%水溶液の粘度が50,000mPa・sを超える場合、アルコールとの相溶性が悪くなり、溶解性が劣り、結果としてアルコール組成物の増粘性及び/又は透明性が低くなる可能性がある。MCの20℃における2.0質量%水溶液の粘度は、後述する実施例に記載のとおりに、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定する。
【0039】
MCにおけるメトキシ基の置換度(DS)は、アルコールとの相溶性の観点から、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.30~2.10であり、更に好ましくは1.50~2.00である。メトキシ基の置換度(DS)とは、無水グルコース1単位当たりのメトキシ基の平均個数をいう。
【0040】
MCの含有量は、アルコール組成物に付与する所望の増粘性によって適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、アルコール組成物の総質量中、好ましくは0.05質量%~4.0質量%であり、より好ましくは0.1質量%~3.5質量%であり、更に好ましくは0.2質量%~3.0質量%であり、なお更に好ましくは0.5質量%~2.2質量%である。
【0041】
MCにおけるメトキシ基のDSは、第十七改正日本薬局方のメチルセルロースに関する測定方法を用いて測定した値を換算することによって求める。
【0042】
ただし、水溶性セルロースエーテルとしてHPMC及びMCの両方を用いる場合は、水溶性セルロースエーテルの総量は、HPMC及びMCの上記した範囲を考慮して、これらに求める増粘性及びアルコールへの溶解性を考慮して適宜設定すればよい。
【0043】
[工程条件]
第一のアルコールに水溶性セルロースエーテルを分散させる条件は特に限定されず、これまでに知られているとおりの、固形物を溶媒中に分散させる条件を採用することができる。例えば、第一のアルコールと水溶性セルロースエーテルとを接触させた後、撹拌等の混合処理に供して、第一のアルコール中に水溶性セルロースエーテルを分散させることにより、分散液が得られる。
【0044】
混合処理として撹拌を採用する場合は、撹拌手段は特に限定されないが、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、ホモディスパー、フロージェットミキサー、ウルトラミキサー、コロイドミル、スリーワンモータ等の撹拌装置を用いた撹拌手段を挙げることができる。
【0045】
撹拌温度は特に限定されないが、好ましくは0℃~40℃であり、より好ましくは0℃~35℃であり;撹拌時間は特に限定されないが、好ましくは1分間~30分間であり、より好ましくは5分間~15分間である。
【0046】
分散液を得る工程では、水溶性セルロースエーテルの塊(凝集塊(ママコ))等、水溶性セルロースエーテルが分散せずに混合前の状態にある部分又は凝集している部分を目視で実質的に無いことを確認することにより、均一な分散液が得られたということができる。また、分散液は、少なくとも静置後1時間は均一な状態を保っていることが好ましい。水溶性セルロースエーテルは、第一のアルコールに良好に分散するために粉末状であることが好ましく、乾式レーザー回析法による体積基準の平均粒子径が10μm~100μmであることがより好ましい。
【0047】
<溶解液を得る工程>
溶解液を得る工程では、分散液を得る工程で得られた分散液と水とを混合して、水溶性セルロースエーテルを溶解させることにより溶解液を得る。
【0048】
[水]
水は特に限定されないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、水道水等が挙げられる。また、水溶性セルロースエーテルを溶解し得る限り、水に塩、水溶性高分子等の成分を含んだ水溶液を用いてもよい。
【0049】
水の含有量は、水溶性セルロースエーテルの量に応じて適宜設定すればよいが、水の量が多いほど水溶性セルロースエーテルの溶解量が多くなる。水の含有量は、水溶性セルロースエーテルの溶解に必要とされる量又はそれ以上であればよく、例えば、アルコールがエタノール又はイソプロパノールである場合は、アルコール組成物の総質量中、好ましくは4.9質量%~69.9質量%であり、より好ましくは4.9質量%~59.9質量%であり、更に好ましくは4.9質量%~49.9質量%であり、なお更に好ましくは4.9質量%~39.9質量%であり;アルコールがグリセリン、ジグリセリン又はグリセリンとジグリセリンとの混合物である場合は、アルコール組成物の総質量中、好ましくは26質量%~79.9質量%であり、より好ましくは36質量%~79.9質量%であり、更に好ましくは46質量%~79.9質量%である。
【0050】
水の温度は、水溶性セルロースエーテルの種類によって適宜設定し得るが、例えば、0℃~35℃であり、水溶性セルロースエーテルが低温であるほど溶解性が高くなるという性質を考慮すれば、好ましくは0℃~30℃であり、より好ましくは0℃~20℃である。
【0051】
[工程条件]
分散液と水とを混合して、水溶性セルロースエーテルを溶解させる条件は特に限定されず、これまでに知られているとおりの、分散液中の物質を水に溶解させる条件を採用することができる。例えば、作業性の観点から、分散液に水を添加したものを混合処理に供することが好ましい。
【0052】
混合処理として、撹拌による混合処理を採用することが好ましい。撹拌手段は特に限定されないが、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、ホモディスパー、フロージェットミキサー、ウルトラミキサー、コロイドミル、スリーワンモータ等の撹拌装置を用いた撹拌手段等を挙げることができる。撹拌手段は、分散液を得る工程で採用したものと同一の撹拌手段であってもよいし、異なる撹拌手段であってもよい。
【0053】
撹拌温度は水溶性セルロースエーテルが溶解する温度であれば特に限定されないが、好ましくは0℃~35℃であり、より好ましくは0℃~25℃である。撹拌時間は水溶性セルロースエーテルの溶解が完了する時間であれば特に限定されないが、好ましくは10分間~60分間である。
【0054】
溶解液を得る工程では、水溶性セルロースエーテルの分離又は析出を目視で実質的に無いことを確認することにより、溶解液が得られたということができる。溶解液を得る工程において、水溶性セルロースエーテルの溶解性を向上させるために、工程の一部又は全部を冷却しながら行ってもよい。
【0055】
<アルコール組成物を得る工程>
アルコール組成物を得る工程では、溶解液を得る工程で得られた溶解液と第二のアルコールとを混合することによりアルコール組成物を得る。
【0056】
[第二のアルコール]
前記したとおり、第二のアルコールは、第一のアルコールと同一種類のアルコールであってもよく、第一のアルコールと異なる種類のアルコールであってもよい。第二のアルコールの含有量は特に限定されないが、アルコール組成物における水溶性セルロースエーテルの良好な水和を達成するためには、第一のアルコールの質量と第一のアルコール及び第二のアルコールの合計の質量との比([第一のアルコール]/[第一のアルコール+第二のアルコール])が0.70以下になるような量であることが好ましい。
【0057】
[工程条件]
溶解液と第二のアルコールとを混合して、アルコール組成物を得る条件は特に限定されず、これまでに知られているとおりの、液体どうしを混和させる条件を採用することができる。例えば、作業性の観点から、溶解液に第二のアルコールを添加したものを撹拌等により混合処理に供することが好ましい。撹拌手段は特に限定されないが、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、ホモディスパー、フロージェットミキサー、ウルトラミキサー、コロイドミル、スリーワンモータ等の撹拌装置を用いた撹拌手段等を挙げることできる。撹拌手段は、分散液を得る工程及び/又は溶解液を得る工程で採用したものと同一の撹拌手段であってもよいし、異なる撹拌手段であってもよい。ただし、アルコール組成物中の水溶性セルロースエーテルの溶解安定性及びアルコール組成物中の各成分の均一性を向上させるために、溶解液と第二のアルコールとを強い混合処理に供することが好ましく、激しい混合処理に供することがより好ましく、ホモジナイズ処理に供することが更に好ましい。
【0058】
撹拌温度は特に限定されないが、好ましくは0℃~35℃であり、より好ましくは0℃~25℃である。撹拌時間は特に限定されないが、好ましくは20分間~90分間である。
【0059】
アルコール組成物を得る工程では、水溶性セルロースエーテルの分離又は析出を目視で実質的に無いことを確認することにより、アルコール組成物が得られたということができる。水溶性セルロースエーテルの溶解が不十分であると、アルコール組成物を1週間静置した場合に、水溶性セルロースエーテルの分離又は析出した部分が沈降する傾向にある。したがって、アルコール組成物は、1週間静置した場合に、分離又は析出した水溶性セルロースエーテルの沈降が目視によって実質的に認められないものであることが好ましい。アルコール組成物を得る工程において、水溶性セルロースエーテルの溶解性を向上させるために、工程の一部又は全部を冷却しながら行ってもよい。
【0060】
本発明の一態様の方法では、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができるが、分散液を得る工程、溶解液を得る工程及びアルコール組成物を得る工程を途中に他の工程を挟むことなく連続的に実施することが好ましい。
【0061】
<アルコール組成物>
本発明の一態様の方法によって得られるアルコール組成物は、本発明の一態様の方法によって得られたものである限り、その物性及び用途について特に限定されない。本発明の一態様の方法で製造されることにより、得られるアルコール組成物は、粘度を広範囲に設定することができる。例えば、アルコール組成物は、20℃の粘度を100mPa・s~50,000mPa・sに設定することができ、ゲル状、液体状等の形態をとり得る。
【0062】
本発明の一態様の方法で製造されることにより、得られるアルコール組成物は、損失正接(tanδ)を低くすることができ、及び/又は透光度を高くすることができる。例えば、アルコール組成物は、良好な塗布性を与える観点から、損失正接(tanδ)を0.05~5.00に設定することができ、更に損失正接(tanδ)を1.00以下に設定することにより、液ダレが抑えられ、ベタつきの少ない塗布感が優れた、ゲル状の形態をとることができる。例えば、アルコール組成物は、透光度を10.0%~99.0%に設定することができ、更に透光度を65.0%以上に設定することにより、透明性の高い外観に優れた形態をとることができる。
【0063】
また、本発明の一態様の方法は、損失正接(tanδ)が1.00以下であり、かつ透光度が65.0%以上であるアルコール組成物を製造することができる。このようなアルコール組成物は、優れた粘弾性と高い透明性とを併せもつゲル形態のアルコール組成物として有用である。
更に、アルコールの含有量を60.0質量%以上にすることにより、優れた粘弾性及び高い透明性に加えて消毒性を有する、ゲル形態のアルコール消毒用組成物として有用である。また、アルコールとしてグリセリンを採用することにより、優れた粘弾性及び高い透明性に加えて保湿性を有する、ゲル形態のアルコール含有化粧品用組成物として有用である。
【0064】
アルコール組成物の粘度、損失正接(tanδ)及び透光度は、後述する実施例に記載の方法によって得られる値である。また、アルコール組成物の液ダレ及び塗布感は、後述する実施例に記載の方法によって確認される。
【0065】
更に、本発明者らが検討を進めたところ、水溶性セルロースエーテルのメトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)、アルコール濃度(質量%;X)及び第一のアルコール含有率(%;Y)が一定の関係になるように設定することにより、所望の粘度を有し、更に損失正接(tanδ)が低い、及び/又は透光度が高いアルコール組成物を製造することができることを見出した。
【0066】
すなわち、上記した本発明の一態様の方法により、DS、MS、X及びY並びにこれらの値から下記の式で算出されるZが下記表1~3に記載の関係になるようにすれば、それぞれ所望の粘度を有し、かつ損失正接(tanδ)が低いアルコール組成物(表1);所望の粘度を有し、かつ透光度が高いアルコール組成物(表2);及び所望の粘度を有し、損失正接(tanδ)が低く、かつ透光度が高いアルコール組成物(表3)が得られる。
(DS+MS)/X×Y=Z (ただし、X>Y)
【0067】
表1~3において、条件Iで用いる水溶性セルロースエーテルはMCであり、条件II~IVで用いる水溶性セルロースエーテルはHPMCである。なお、表1~3におけるDS、MS、X、Y及びZの各数値は目安であり、これらの数値の範囲内になければ各種アルコール組成物を製造できないと解釈すべきではない。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表1~3において、条件II~IVで用いるHPMCにおけるDS及びMSは、アルコール組成物におけるHPMCの溶解性及びアルコール組成物へ付与する増粘性の観点から、所定の関係にあることが好ましい。例えば、条件IIで用いるHPMCは、DSが1.6~2.1であり、かつMSが0.17~0.30であることが好ましく;条件IIIで用いるHPMCは、DSが1.60~2.10であり、かつMSが0.12~0.21であることが好ましく;及び条件IVで用いるHPMCは、DSが1.20~1.70であり、かつMSが0.17~0.30であることが好ましい。
【0072】
本発明の一態様の方法では、アルコール組成物に所望の性質を付与するために、HPMC、MC、アルコール、水に加えて、その他の添加剤を使用できる。
【0073】
添加剤は、本発明の課題解決の妨げにならない限り特に限定されないが、例えば、殺菌剤、粘度調整剤、pH調整剤、香料、顔料、染料、酸化防止剤、防腐剤、保湿剤等が挙げられる。
【0074】
殺菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、ヒノキチオール等が挙げられる。
【0075】
粘度調整剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子等が挙げられる。
【0076】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸アンモニウム、アンモニア、アンモニア水、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、ジメチルアミン、ジエチルアミン等の第2級のアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級のアルキルアミン;モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ポリエタノールアミン等が挙げられる。
【0077】
香料としては、例えば、バラ油、ジャスミン油、ラベンダー油、イランイラン油、ペパーミント油、ゼラニウム油、パチュリー油、サンダルウッド油、シンナモン油、レモン油、オレンジ油、ベルガモット油、リモネン、β-カリオフィレン、シス-3-ヘキセノール、リナロール、ファルネソール、β-フェニルエチルアルコール、2,6-ノナジエナール、シトラール、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ι-カルボン、シクロペンタデカノン、リナリルアセテート、γ-ウンデカラクトン、オーランチオール等が挙げられる。
【0078】
顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、無水ケイ酸を被覆あるいは複合した酸化亜鉛、酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄、γ-酸化鉄、黄酸化鉄、黄土、黒酸化鉄、カーボンブラック、低次酸化チタン等が挙げられる。
【0079】
染料としては、例えば、酸性染料、ニトロ染料、分散染料、塩基性染料、酸化染料中間体等が挙げられる。
【0080】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0081】
防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0082】
保湿剤としては、例えば、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ムコ多糖、尿素、ソルビトール、コンドロイチン硫酸、ピロリドンカルボン酸、乳酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。
【0083】
添加剤は、上記したものの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、添加剤は、市販のものを用いてもよいし、これまでに知られている方法により製造したものを用いてもよい。
【0084】
添加剤の含有量は、アルコール組成物に付与する所望の性質及び用途に応じて適宜変動するが、例えば、アルコール組成物の保存安定性の観点から、好ましくは0.001質量%~20.0質量%である。
【0085】
<キット>
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の方法を実施するために用いられる、アルコール組成物製造用キットである。本発明の一態様のキットは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性セルロースエーテルと、第一のアルコールと、第二のアルコールとを含む。ただし、第一のアルコールの質量と第一のアルコール及び第二のアルコールの合計の質量との比([第一のアルコール]/[第一のアルコール+第二のアルコール])が、0.70以下、好ましくは0.61以下である。
【0086】
本発明の一態様のキットは、水溶性セルロースエーテル、第一のアルコール及び第二のアルコールに加えて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、水;殺菌剤、粘度調整剤、pH調整剤、香料、顔料、染料、酸化防止剤、防腐剤、保湿剤といった添加剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
本発明の一態様のキットは、各成分が個別の容器に入れられていることが好ましいが、例えば、第一のアルコールと第二のアルコールとは同一の容器に入れられていてもよい。第一のアルコールと第二のアルコールとが同一の容器に入れられている場合は、例えば、アルコールを入れた容器に標線等を記載すること等により、第一のアルコールの質量と第二のアルコールの質量とが上記質量比の関係になるように、各アルコールの量を示すことが好ましい。
【0088】
本発明の一態様のキットについて、各成分を入れる容器は特に限定されないが、例えば、アルミといった金属、紙、ポリエチレンテレフタレート及びPress Through Package(PTP)といったプラスチック、ガラス等を素材とする包装容器が挙げられる。本発明の一態様のキットは、本発明の一態様の方法が記載された説明書又はパッケージを含むことが好ましい。
【実施例
【0089】
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例又は比較例によって限定されるものではない。
【0090】
<物性評価>
[HPMC及びMCの粘度]
HPMC及びMCの水溶性セルロースエーテルの粘度について、2.0質量%水溶液の20℃における粘度を、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の「粘度測定法」の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定した。
【0091】
[アルコール組成物の粘度]
アルコール組成物の粘度は、単一円筒型粘度計(東京計器社製、「DVM-BII」、ローターNo.2~4)を用いて、20℃にて30回転で120秒後の測定値として測定した。粘度が20,000mPa・sを超える場合は、B型粘度計(東京計器社製、「B8H」、ローターNo.5)を用いて、20℃にて20回転で120秒後の測定値として測定した。
【0092】
[損失正接]
損失正接は、アルコール組成物について、レオメータ「MCR-301」(アントンパール社製)を用いて、以下のようにして測定した。
レオメータの試料測定部を予め25℃に温調した。アルコール組成物をCC27測定カップ(直径30mm及び高さ80mmのアルミ製の円筒状容器)の標線(25ml)まで注ぎ入れた。測定カップに注いだアルコール組成物について、周波数を1Hzとし、ボブシリンダー(直径26.7mm及び高さ40.0mm:CC27)により、0.01%~100.0%の範囲でひずみをかけた際の粘弾性を測定した。測定部は25℃にて一定に保持した。測定された粘弾性の値を、損失正接の値とした。
【0093】
[透光度]
透光度は、20℃に温調されたアルコール組成物について、光電比色計「PC-50形」(KOTAKI社製)を用いて、フィルター720nm、20mmセルにより測定した。
【0094】
[液ダレ]
液ダレは、アルコール組成物をディスペンサー容器(「200mlポンプボトル」、口径3mm、FRCOLOR社製)に容れて、3回連続してゲルとして吐出した際の液切れを目視で確認することにより、以下の評価基準に従って評価した。
評価基準:
-:液ダレがない
+:3回押下したうち、1回の押下で液だれがあった
++:3回押下したうち、2回の押下で液だれがあった
+++:3回押下したうち、3回ともの押下で液だれがあった
【0095】
<官能評価>
[塗布感]
塗布感は、アルコール組成物の使用感の評価に秀でたパネラー5名により、以下のようにして官能評価により確認した。
即ち、各パネラーは、アルコール組成物 5mlを手の甲に乗せ、手全体に塗り込んだ際の使用感を、以下の評価基準-aに従って点数をつけた。次いで、最も回答者数が多かった点数を塗布感として採用した。ただし、損失正接が1.0を超え、かつ透光度が65%以上の組成物については、塗布感に対する効果を有さないため、別の評価基準(評価基準-b)を設けた。
【0096】
評価基準-a
3:伸びが良く、ベタツキ感がなく、かつ乾燥感が少ない
2:伸びが良く、しっとりした塗布感である
1:ベタツキ感がある
0:伸びが悪い、又は手から液がこぼれて塗布し難い
【0097】
評価基準-b
2:手からこぼれず塗布可能でありベタツキが少ない
1:手からこぼれず塗布可能である
0:手から液がこぼれて塗布し難い
【0098】
<アルコール組成物の製造方法>
[使用材料]
HPMC及びMCは、表4に記載のサンプル(全て、信越化学工業社製)を用いた。アルコールは、エタノール(富士フィルム和光純薬社製)、イソプロパノール(キシダ化学社製)及びグリセリン(キシダ化学社製)を用いた。水は純水を用いた。
【0099】
【表4】
【0100】
[実施例1]
200ml容ビーカーに、第一のアルコールとしてエタノール(20.0g)を正確に量り、MCであるCE-1(2.0g)を加え、マグネチックスターラー(アズワン社製、「HS-360」、200rpm~300rpm)を用いて均一な分散液となるように2分間撹拌した。その後、撹拌したまま、得られた分散液に20℃の純水(28.0g)を添加し、MCを溶解して溶解液を得た。得られた溶解液に、第二のアルコールとしてエタノール(50.0g)を加え、小型ホモジナイザー(アズワン社製、「AHG-160D」、5,000rpm)を用いて4分間ホモジナイズ処理することにより、実施例1のアルコール組成物を製造した。
【0101】
[実施例2~24及び26~39]
表5に示す、アルコール及びサンプルの種類及び量を用いたこと以外は、実施例1と同様に実施例2~24及び26~39のアルコール組成物を製造した。
【0102】
[実施例25]
カルボキシビニルポリマー(2.0g)を純水(98.0g)に添加し、ホモミキサー(アズワン社製、「HM-310」)を用いて溶解し、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)2%水溶液を調製した。
200ml容ビーカーにエタノール(20.0g)を正確に量り、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(2.0g)を加え、マグネチックスターラー(アズワン社製、「HS-360」、200rpm~300rpm)を用いて均一な分散液となるよう2分間撹拌した。その後、撹拌したままの分散液に20℃の純水(17.8g)及びカルボマー2.0質量%水溶液(10.0g)を添加し、HPMCを溶解させた。得られた溶解液にエタノール(50.0g)を加え、小型ホモジナイザー(アズワン社製、「AHG-160D」)を用いて5,000rpmで4分間ホモジナイズ処理した後、前記溶液にトリエタノールアミンを加えpHを6~8に調節することによりアルコール組成物を製造した。
【0103】
[実施例40]
200ml容ビーカーにエタノール(20.0g)を正確に量り、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(2.0g)を加え、マグネチックスターラー(アズワン社製、「HS-360」、200rpm~300rpm)を用いて均一に分散液となるよう2分間撹拌した。その後、撹拌したままの分散液に20℃の純水(26.0g)を添加し、HPMCを溶解させた。得られた溶解液にエタノール(50.0g)及びグリセリン(2.0g)を加え、小型ホモジナイザー(アズワン社製、「AHG-160D」)を用いて5,000rpmで4分間ホモジナイズ処理することによりアルコール組成物を製造した。
【0104】
[比較例1~3]
表5に示す、アルコール及びサンプルの種類及び量を用いたこと以外は、実施例1と同様に比較例1~3のアルコール組成物を製造した。ただし、比較例1~2のアルコール組成物を製造するに際して第二のアルコールを用いず、比較例3のアルコール組成物を製造するに際して第一のアルコールを用いなかった。
【0105】
<評価結果>
実施例1~40のアルコール組成物について、粘度、損失正接、透光度、液ダレ及び塗布感を評価した結果を表5及び表6に示す。
【0106】
実施例1~40のアルコール組成物の製造方法では、熱水を使用しないため、熱水の冷却工程が不要であり、時間及び使用電力が削減された。また、予めHPMC又はMCの水溶液を調製しなかったことから、ワンポットでアルコール組成物を調製することが可能であった。
【0107】
実施例1~40のアルコール組成物は、種々のアルコールを用いて、HPMC又はMCが良好に溶解されており、かつ粘度を629mPa・s~25,250mPa・sと広範囲に調整が可能なものであった。
【0108】
それに対して、比較例1及び2のアルコール組成物では、HPMCが溶解しておらず、1週間静置すると析出したHPMCが沈降した。比較例3のアルコール組成物を製造するに際して、水にHPMC粉末を添加すると、粉末の塊の表面が先に溶解し、塊内部まで水が浸透せず、いわゆるママコ(凝集塊)が発生した。比較例1~3のアルコール組成物は、外観が悪かっただけでなく、HPMCが溶解しなかったために、増粘効果が十分に得られず、粘度測定ができなかった。
【0109】
実施例1~40のアルコール組成物のうち、損失正接が1.00以下であったものは、弾性の寄与が粘性の寄与を上回り、良好なゲル形態を保持した。その結果、容器からの液ダレがなく、手に取った際にも手からこぼれ落ちることなく塗り広げることができた。また、損失正接が1.00以下であったものの多くは、伸びが良く、塗り広げやすくて、ベタツキ感が少なく良好な使用感であった。
【0110】
実施例1~40のアルコール組成物のうち、透光度が65.0%以上であったものは、透明性が高く、外観が良好であった。また、透光度が65.0%以上であり、かつ損失正接が1.00超過であるものは、ゲル感が弱くなめらかな液状であり、手からこぼれ落ちずに塗布できた。
【0111】
実施例1~40のアルコール組成物のうち、損失正接が1.00以下であり、かつ透光度が65.0%以上であったものは、良好なゲル形態を保持し、液ダレがなく、透明性が高くて外観が良好であり、更に使用感に優れるものであった。
【0112】
実施例1~40のアルコール組成物のうち、アルコールとしてグリセリンを含むアルコール組成物は、良好な性状に加えて、保湿感があり、非常に優れた使用感であった。
【0113】
また、実施例1~40のアルコール組成物は、共通して、含有する水溶性セルロースエーテルが十分に溶解しているために、1週間、室温にて静置しても、粘度は調製直後とほとんど変わらなかった。したがって、水溶性セルロースエーテルは、アルコールに難溶性でありながらも、アルコール組成物においてよく溶解していることがわかった。
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の一態様のアルコール組成物の製造方法によれば、医療分野、パーソナルケア分野、化粧品分野等において使用可能であり、所望の粘度及びアルコール濃度に設定されたアルコール組成物を工業的に製造することができる。