(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 9/14 20060101AFI20231005BHJP
B29B 7/20 20060101ALI20231005BHJP
B29B 7/28 20060101ALI20231005BHJP
B29C 48/40 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/55 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/56 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20231005BHJP
【FI】
B29B9/14
B29B7/20
B29B7/28
B29C48/40
B29C48/55
B29C48/56
B29C48/92
(21)【出願番号】P 2023522915
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2022037104
(87)【国際公開番号】W WO2023058647
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021164604
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松山 理恵子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一史
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103978662(CN,A)
【文献】特開2012-213997(JP,A)
【文献】特開2020-040356(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026270(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/14
B29B 7/00 - 7/94
B29C 48/00 - 48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のスクリューを有する二軸押出機に、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを供給して溶融混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記溶融混練する工程は、前記二軸押出機の混練ゾーンで行われ、前記混練ゾーンにおける一対のスクリューのそれぞれには、少なくとも一つの切り欠きが形成された一条のフライト部を備える2以上の逆送りスクリューエレメントと、2以上の順送りスクリューエレメントとを有し、前記逆送りスクリューエレメントと、前記順送りスクリューエレメントとが隣接した状態で前記スクリューの軸方向に沿って交互に配置され
、
前記逆送りスクリューエレメントのフライト部の切り欠きの形状が円弧状、U字型、V字型、又は矩形状である、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記切り欠きは、曲率半径が0.05D~0.15Dの円弧状である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1
又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記二軸押出機の吐出量Qをスクリュー回転数Nsで除した値(Q/Ns)を、スクリューの芯間距離の3乗でさらに除した値(Q/Ns密度)が0.013~0.023kg/h・rpm・cm
3である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記繊維状充填剤の集束体が、直径が5~20μmで、長さが1~5mmのガラス繊維のチョップドストランドである、請求項1
又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂と前記繊維状充填剤の集束体とを溶融混練する工程の前に、前記熱可塑性樹脂と前記繊維状充填剤の集束体とを予備混練する工程をさらに含み、
前記予備混練する工程において、長さが0.05D~0.5Dのニーディングディスクを0.5D~5.0Dの長さとなるように装着された一対のスクリューを用いて前記熱可塑性樹脂と前記繊維状充填剤の集束体とを溶融混練する、請求項1
又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状充填剤を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維等の繊維状充填剤が分散された状態で含む熱可塑性樹脂組成物を製造する場合、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤とを二軸押出機で溶融混練するのが一般的である。繊維状充填剤は、通常、充填剤となる繊維を表面処理剤や集束剤等を塗布した後に多数本収束させたのちに数mmの長さでカットして集束体(チョップドストランドとも呼ばれる)の状態で二軸押出機に投入される。そして、溶融混練時に、繊維状充填剤の集束体が解繊されることにより、熱可塑性樹脂中に繊維状充填剤が分散された状態とすることができる。
【0003】
ところが、繊維状充填剤の集束体の中には未解繊の状態で残存する場合がある。未解繊状態で存在する繊維状充填剤は射出成形の際にノズルの詰まりの原因となったり、成形品としたときに強度低下を招いたりする等の悪影響が危惧される。そのため、繊維状充填剤の集束体は十分に解繊されることが望まれる。
【0004】
近年、二軸押出機の高トルク化により従来生産できなかった吐出領域での熱可塑性樹脂組成物の製造が可能となり、熱可塑性樹脂組成物の単位時間あたりの製造量(生産性)が増大している。しかし、スクリューデザインを考慮せず二軸押出機からの溶融混練物の吐出量すなわち熱可塑性樹脂組成物の単位時間当たりの製造量を増大させると、繊維状充填剤の集束体全体に解繊に必要な応力がくまなく付与されず一部の繊維状充填剤が未解繊の状態で残存する。未解繊の状態を低減するには、二軸押出機からの吐出量を減少させて、繊維状充填剤の集束体全体に解繊に必要な応力を付与することとなるが、そうすると生産性が低下する。生産性を低下させることなく未解繊を減少させるには、スクリューの回転数を高めればよい。しかし、スクリューの回転数を高めると、せん断発熱により溶融混練中に樹脂の分解を招くことが危惧される。そこで、スクリューデザインを変更して、未解繊の繊維状充填剤を低減しつつ、樹脂の分解を抑制するための技術が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1においては、高トルクの二軸押出機を用い、高い吐出量で押出をしつつ、二軸押出機の混練工程で使用するスクリューとして、円弧状の切り欠きが形成されたフライト部を有する一条の逆送りスクリューエレメントを一以上有するスクリューを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の製造方法により、高トルクの二軸押出機を用いて、吐出量を増大して未解繊の繊維状充填剤を低減させつつ、樹脂の分解を抑制することについて一定の効果が確認されているが、未だ不十分であり改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、繊維状充填剤を含む熱可塑性樹脂組成物における未解繊の繊維状充填剤を低減し、かつ、樹脂の分解を抑制することができる熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)一対のスクリューを有する二軸押出機に、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを供給して溶融混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記溶融混練する工程は、前記二軸押出機の混練ゾーンで行われ、前記混練ゾーンにおける一対のスクリューのそれぞれには、少なくとも一つの切り欠きが形成された一条のフライト部を備える2以上の逆送りスクリューエレメントと、2以上の順送りスクリューエレメントとを有し、前記逆送りスクリューエレメントと、前記順送りスクリューエレメントとが隣接した状態で前記スクリューの軸方向に沿って交互に配置されている、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0009】
(2)前記熱可塑性樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である、前記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0010】
(3)前記二軸押出機の吐出量Qをスクリュー回転数Nsで除した値(Q/Ns)を、スクリューの芯間距離の3乗でさらに除した値(Q/Ns密度)が0.013~0.023kg/h・rpm・cm3である、前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0011】
(4)前記繊維状充填剤の集束体が、直径が5~20μmで、長さが1~5mmのガラス繊維のチョップドストランドである、前記(1)~(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0012】
(5)前記熱可塑性樹脂と前記繊維状充填剤の集束体とを溶融混練する工程の前に、前記熱可塑性樹脂と前記繊維状充填剤の集束体とを予備混練する工程をさらに含み、
前記予備混練する工程において、長さが0.05D~0.5Dのニーディングディスクを0.5D~5.0Dの長さとなるように装着された一対のスクリューを用いて前記熱可塑性樹脂と前記繊維状充填剤の集束体とを溶融混練する、前記(1)~(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維状充填剤を含む熱可塑性樹脂組成物における未解繊の繊維状充填剤を低減し、かつ、樹脂の分解を抑制することができる熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において用いる二軸押出機の構成を示す概念図である。
【
図2】(a)順送りスクリューエレメント、(b)切り欠きが形成されたフライト部を有する一条の逆送りスクリューエレメントを示す斜視図である。
【
図3】順送りスクリューエレメントと、切り欠きが形成されたフライト部を有する一条の逆送りスクリューエレメントとの配置態様を示す概念図である。
【
図4】実施例・比較例における、順送りスクリューエレメントと、切り欠きが形成されたフライト部を有する一条の逆送りスクリューエレメントとの配置態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、一対のスクリューを有する二軸押出機に、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを供給して溶融混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法である。溶融混練する工程は、溶融した熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを混練する工程であり、二軸押出機の混練ゾーンで行われ、混練ゾーンにおける一対のスクリューのそれぞれには、少なくとも一つの切り欠きが形成された一条のフライト部を備える2以上の逆送りスクリューエレメント(以下、省略して「逆送りスクリューエレメント」とも呼ぶ。)と、2以上の順送りスクリューエレメントとを有する。また、逆送りスクリューエレメントと、順送りスクリューエレメントとが隣接した状態でスクリューの軸方向に沿って交互に配置されている。
【0016】
本実施形態に熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、二軸押出機の混練ゾーンにおける一対のスクリューのそれぞれに、順送りスクリューエレメントと、少なくとも一つの切り欠きが形成された一条のフライト部を有する逆送りスクリューエレメントとが隣接した状態でスクリューの軸方向に沿って交互に配置されている。そのような構成により、混練ゾーンにおいて、溶融した樹脂組成物は、順送りスクリューエレメントによる順送り方向への流れと、当該順送りスクリューエレメントに隣接する逆送りスクリューエレメントによる逆送り方向への流れとにより、溶融した樹脂組成物の流れが攪乱される。しかも、逆送りスクリューエレメントには、少なくとも一つの切り欠きが形成された一条のフライト部を有するため、樹脂組成物中の繊維状充填剤の集束体が切り欠きを往来する際、樹脂組成物中の繊維状充填剤の集束体に応力が与えられ解繊が進行する。従って、本実施形態に係る二軸押出機の混練ゾーンにおいては、繊維状充填剤の集束体を十分に解繊することができ、未解繊の繊維状充填剤を低減することができる。しかも、スクリューの回転数を必要以上に高めることなく、繊維状充填剤の集束体を十分に解繊することができるため、スクリュー回転数の増大に起因するせん断発熱による樹脂の分解を防止することができる。
【0017】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、二軸押出機を用い、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを溶融混練する。二軸押出機としては、例えば、
図1に示す構成のものが挙げられる。
図1に示す二軸押出機10は、熱可塑性樹脂を投入するためのホッパー12を備える第1供給口14、可塑化ゾーン16、第2供給口18、予備混練ゾーン20、混練ゾーン22、及び溶融混練された樹脂組成物が吐出される吐出ダイを備えたダイ部24を備える。第1供給口14に投入される粒状の熱可塑性樹脂は、可塑化ゾーン16に固体輸送され溶融される。熱可塑性樹脂の大部分の溶融が見込まれれば可塑化ゾーン16のエレメント構成に制限はない。例えば、片側のニーディングディスクの先端部とバレルの内壁との距離が0.4mmである1.0D(ディスク厚さ0.2D×5枚、ずらし角45°)の順送り2条ニーディングディスクエレメントを2組と、片側のニーディングディスクの先端部とバレルの内壁との距離が0.4mmである1.0D(ディスク厚さ0.2D×5枚、ずらし角45°)の逆送り2条ニーディングディスクエレメント1組とを組み合わせて可塑化ゾーンとすることができる。
第2供給口18は、例えば、サイドフィーダースクリューを有し、ここから繊維状充填剤の集束体を二軸押出機10へ供給することができる。
予備混練ゾーン20は、混練ゾーン22の上流側に位置し、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを含む組成物を予備混練する、必要に応じて設けられるゾーンである。予備混練は、混練ゾーン22において行う、溶融樹脂と繊維状充填剤の集束体との混練前に、溶融又は未溶融の状態の熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを積極的に接触(濡れ)させるために実施する。詳細については後述する。
混練ゾーン22は、予備混練ゾーン20の下流側に位置し、予備混練を終えた、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを含む組成物を溶融混練するゾーンである。
なお、本明細書において、Dはバレルの内径を意味する。例えば、スクリューエレメントの長さが0.5Dと表記された場合、当該長さはスクリューの軸方向の長さであり、バレルの内径の0.5倍であることを意味する。
【0018】
本実施形態においては、混練ゾーン22におけるスクリューの構成に特徴があり、混練ゾーンにおける一対のスクリューには、少なくとも一つの切り欠きが形成された一条のフライト部を有する2以上の逆送りスクリューエレメントと、2以上の順送りスクリューエレメントとを有する。そして、逆送りスクリューエレメントと、順送りスクリューエレメントとが隣接した状態でスクリューの軸方向に沿って交互に配置されている。混練ゾーンにおいては、上述の通り、溶融した樹脂組成物の流れが攪乱されるとともに、繊維状充填剤の集束体は逆送りスクリューエレメントのフライト部の切り欠きを往来することにより解繊が進行する。そのため、繊維状充填剤の集束体を十分に解繊することができる。
以下に各スクリューエレメントについて説明する。
【0019】
[順送りスクリューエレメント]
順送りスクリューエレメントは、溶融した樹脂組成物を下流方向に搬送する機能を果たす。順送りスクリューエレメントがそのような機能を有するのであればその形状に特に制限はなく、例えば、
図2(a)に示すように、フライト部が連続的に繋がっているフルフライト形状の二条スクリューエレメント30が挙げられる。
【0020】
順送りスクリューエレメントの条数としては、1~2条が好ましい。また、順送りスクリューエレメントの長さは、0.2D~5Dであることがより好ましい。
【0021】
[逆送りスクリューエレメント]
逆送りスクリューエレメントは、少なくとも一つの切り欠きが形成された一条のフライト部を有するスクリューエレメントである。例えば、
図2(b)に示すように、13個の切り欠き36が形成された一条のフライト部34を有するスクリューエレメント32が挙げられる。
【0022】
逆送りスクリューエレメントのフライト部に形成された切り欠きの形状は、円弧状、U字型、V字型、矩形状などの形状が挙げられ、中でも、円弧状、U字型が好ましい。
切り欠きが円弧状の場合、繊維状充填剤の集束体を十分に解繊する観点から、当該円弧の半径(曲率半径)は、0.05D~0.15Dであることが好ましく、0.06D~0.12Dであることがより好ましい。
【0023】
逆送りスクリューエレメントの切り欠きの個数は、繊維状充填剤の集束体を十分に解繊する観点から、7~20であることが好ましく、9~16であることがより好ましい。
【0024】
逆送りスクリューエレメントの長さは、0.2D~3.5Dであることが好ましく、0.2D~2.0Dであることがより好ましい。
【0025】
本実施形態においては、順送りスクリューエレメント及び逆送りスクリューエレメントは、隣接した状態で交互に配置されるが、その例を
図3に示す。
図3における矢印は溶融した樹脂組成物が流れる方向を示す。
図3(a)においては、溶融した樹脂組成物の流れの上流側から順に、逆送りスクリューエレメント40、順送りスクリューエレメント42、逆送りスクリューエレメント40、順送りスクリューエレメント42、及び逆送りスクリューエレメント40のそれぞれが隣接した状態で配置されている。また、左側と中央の逆送りスクリューエレメント40の長さは1.0Dであり、右側の逆送りスクリューエレメント40の長さは0.5Dであり、順送りスクリューエレメント42の長さはいずれも0.5Dである。
【0026】
繊維状充填剤の集束体を十分に解繊するには、溶融した樹脂組成物の流れをより攪乱することが好ましく、そのためには順送りスクリューエレメント及び逆送りスクリューエレメントの組合せが多数存在することが好ましい。そのようなスクリューエレメントの組合せを多数存在させるには、それぞれの長さを短くして交互に配置することが好ましい。例えば、それぞれの長さが0.5Dである複数のスクリューエレメント交互に配置する形態であり、その形態を
図3(b)に示す。
図3(b)においては、溶融した樹脂組成物の流れの上流側から順に、逆送りスクリューエレメント40、順送りスクリューエレメント42、逆送りスクリューエレメント40、順送りスクリューエレメント42、及び逆送りスクリューエレメント40のそれぞれが隣接した状態で配置されている。また、逆送りスクリューエレメント40及び順送りスクリューエレメント42の長さはいずれも0.5Dである。
【0027】
本実施形態において、隣接して配置される順送りスクリューエレメントと逆送りスクリューエレメントとの組合せを1とした場合、混練ゾーンにおける当該組合せの総数は、2~10が好ましく、2~5がより好ましい。また、スクリューエレメントと逆送りスクリューエレメントとの組合せに対して、さらにスクリューエレメント及び逆送りスクリューエレメントのいずれか1つを配置してもよい。その場合、最も下流側の位置が最も流れが攪乱される位置であることから、その位置に逆送りスクリューエレメントを配置することが好ましい。
【0028】
本実施形態において、二軸押出機の吐出量Qをスクリュー回転数Nsで除した値(Q/Ns)を、スクリューの芯間距離の3乗でさらに除した値(Q/Ns密度)が0.013~0.023kg/h・rpm・cm3であることが好ましい。それについて以下に説明する。
繊維状充填剤の集束体の解繊に影響を与える運転条件パラメーターとして、Q/Nsが挙げられる。Q/Nsが大きいほど、熱可塑性樹脂組成物に与える比エネルギーが小さくなるため、樹脂劣化を抑制した運転が可能となるが、繊維状充填剤の集束体の未解繊が発生しやすくなる。Q/Nsの上限は、混練物の粘度、繊維状充填剤の集束体の解繊度合いだけでなく、スクリューデザイン、二軸押出機のモーター性能、スクリューの噛合い比率によって決まる。
当然ながら、Q/Nsが示す比エネルギーの混練物への影響は、二軸押出機のサイズに依存する。二軸押出機内の混練物の量は、スクリューの噛合い比率が同じ場合、二軸押出機内の有効体積に比例する。有効体積とは、二軸押出機内で材料が充満することのできる空間体積であり、この有効体積は隣り合うスクリュー間の芯間距離の3乗と比例関係にある。そして、Q/Nsを隣り合うスクリューの芯間距離の3乗で除した値を、Q/Ns密度と定義すると、二軸押出機のサイズが変わっても、単位量の混練物に対する比エネルギーの影響はQ/Ns密度で比較が可能となる。
【0029】
本実施形態においては、Q/Ns密度が0.013~0.023kg/h・rpm・cm3となる運転条件下で運転することが好ましく、0.015~0.021kg/h・rpm・cm3がより好ましく、0.017~0.020 kg/h・rpm・cm3がさらに好ましい。上記範囲内で運転することで、樹脂分解の発生を抑えながら繊維状充填剤の集束体の未解繊の発生を抑えることができる。
【0030】
本実施形態においては、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを溶融混練する工程の前に、熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを予備混練する工程をさらに含むことが好ましい。換言すると、
図1に示す通り、混練ゾーンの上流側に予備混練ゾーンを設けることが好ましい。予備混練する工程においては、長さが0.05D~0.5Dのニーディングディスクを0.5D~5.0Dの長さとなるように装着された一対のスクリューを用いて熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを溶融混練することが好ましい。予備混練する工程を含むことで、上述の通り、混練ゾーンにおいて行う、溶融樹脂と繊維状充填剤の集束体との混練前に、溶融又は未溶融の状態の熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを積極的に接触(濡れ)させ、混練ゾーンでの溶融樹脂と繊維状充填剤の集束物との溶融混練をより効果的に進めることができる。
【0031】
予備混練ゾーンにおいて使用するニーディングディスクの厚みは、0.05D~0.5Dが好ましく、0.1D~0.3Dであることがより好ましい。ニーディングディスクの厚みが0.05D~0.5Dであると、強度や耐久性が十分であるとともに、溶融又は未溶融の状態の熱可塑性樹脂と繊維状充填剤の集束体とを積極的に接触(濡れ)させることができる。また、スクリューに対する負荷が小さい。
【0032】
予備混練ゾーン長さは、0.5D~5.0Dが好ましく、1.0D~4.0Dがより好ましい。予備混練ゾーン長さが0.5D~5.0Dであると、濡れが十分で、スクリューの長さが過度に長くならず、他のゾーンの確保が容易となる。
【0033】
予備混練ゾーンにおいて使用するニーディングディスクの形状は特に制限はなく、ニーディングディスク、ショルダーカットニーディングディスク、偏心ニーディングディスクのいずれでもよい。
【0034】
以下、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において使用する各成分について説明する。
【0035】
[熱可塑性樹脂]
本実施形態において、熱可塑性樹脂としては汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックを使用することができ、結晶性熱可塑性樹脂や非晶性熱可塑性樹脂が好適に用いられる。結晶性熱可塑性樹脂としてはポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等のポリアリーレンサルファイド樹脂(PAS)、液晶性ポリマー(LCP)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド樹脂(PA)等が挙げられる。
【0036】
[繊維状充填剤]
本実施形態において、繊維状充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維等の複数本を集束した集束体が挙げられる。ガラス繊維の集束体(以下、「ガラス繊維束」とも呼ぶ。)は、数百~数千本のガラス繊維(モノフィラメント)が束になったチョップドストランドである。また、ガラス繊維の直径は、5~20μmの範囲のものが好ましく、6~18μmのものがより好ましい。さらに、ガラス繊維の長さは7~16mmのものが好ましく、8~14mmのものがより好ましい。
【0037】
[他の成分]
本実施形態においては、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、蛍光増白剤、難燃剤、又は、有機高分子材料、無機若しくは有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種又は2種以上添加することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1~6、比較例1~3]
各実施例・比較例において、
図1に示す構成の二軸押出機を用い、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、繊維状充填剤の集束物43質量部とを以下の押出条件にて溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、第1供給口14から供給し、繊維状充填剤の集束物は第2供給口18から供給した。また、使用した各成分の詳細は以下の通りである。
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂(固有粘度(o-クロロフェノール中において温度35℃で測定):0.8dL/g))
(2)束状繊維状充填剤
日本電気硝子(株)製、チョップドストランド(直径:10.5μm、長さ:3.0mm)
【0040】
(押出条件)
・二軸押出機:TEX44αII、日本製鋼所(株)製
・シリンダー温度:270℃
・スクリュー回転数:320rpm
・押出量:300kg/hr
【0041】
一方、二軸押出機の混練ゾーンは、実施例1~6においては、
図4(a)に示すように、3個の逆送りスクリューエレメント40と、2個の順送りスクリューエレメント42とが交互に配置されている。なお、逆送りスクリューエレメント40は、円弧状の切り欠きが13個形成された一条のフライト部を有する逆送りスクリューエレメントであり(
図2(b)参照)、順送りスクリューエレメント42は、二条の順送り搬送エレメントである(
図2(a)参照)。また、左側と中央の逆送りスクリューエレメント40の長さは1.0Dであり、右側の逆送りスクリューエレメント40の長さは0.5Dであり、順送りスクリューエレメント42の長さはいずれも0.5Dである。
比較例1は、
図4(b)に示すように、3個の逆送りスクリューエレメント40が互いに隣接した状態で配置されている。左側と中央の逆送りスクリューエレメント40の長さは1.0Dであり、右側の逆送りスクリューエレメント40の長さは0.5Dである。
比較例2~3は、
図4(c)に示すように、3個の逆送りスクリューエレメント40と、円弧状の切り欠き13個が形成された一条のフライト部を有する2個の順送りスクリューエレメント44とが交互に配置されている。順送りスクリューエレメント44は、逆送りスクリューエレメント40とは、順送りか逆送りかの点で異なり、それ以外は同じである。また、左側と中央の逆送りスクリューエレメント40の長さは1.0Dであり、右側の逆送りスクリューエレメント40の長さは0.5Dであり、順送りスクリューエレメント44の長さはいずれも1.0Dである。
【0042】
また、各実施例・比較例においては、二軸押出機の予備混練ゾーンにおいて、以下の条件1又は2に基づく予備混練を実行した。
条件1:片側の先端部の隙間が0.4mmである0.5D(0.1D×5枚、ずらし角45°)の順送りニーディングエレメントを2組用いて1.0Dの長さとした。
条件2:片側の先端部の隙間が0.4mmである0.5D(0.1D×5枚、ずらし角45°)の順送りニーディングエレメントを4組用いて2.0Dの長さとした。
【0043】
<評価>
各実施例・比較例において得られたペレットを用い、以下の評価を行った。
[ガラス繊維の未解繊数評価]
各実施例・比較例で得られたペレット状の樹脂組成物に対し、X線CT装置(コムスキャンテクノ(株)製、ScanXmate-D090SS270)を用い、以下の測定条件にて未解繊のガラス繊維の個数を計数した。具体的には、各樹脂ペレット9gをサンプルセルに入れ、X線CT透過像を撮影し、輝度が高く映る未解繊のガラス繊維束の個数を計数した。計数結果を表1に示す。
(測定条件)
管電圧:54kV
管電流:130μA
解像度20.0μm
画像マトリックス幅1856×高さ1472
【0044】
[樹脂温度]
各実施例・比較例の樹脂組成物の調製時に、二軸押出機に設置された溶融樹脂の吐出ダイの穴に熱電対型温度計の温度測定部を挿入し、表示温度が安定した時点での表示温度を読み取った。読み取った温度を表1に示す。
【0045】
【0046】
表1より、実施例1~6は、比較例1~3よりもガラス繊維の未解繊数が少ないことが分かる。すなわち、混練ゾーンにおけるスクリューエレメントの配置態様を
図4(a)のようにすることで、未解繊のガラス繊維を低減できることが示された。また、予備混練を行わなかった実施例1と、予備混練を行ったこと以外は実施例1と同様に処理した実施例2及び3との比較から、予備混練を行った方が未解繊のガラス繊維をより低減できることが分かる。
実施例6は、Q/Ns密度が0.010kg/h・rpm・cm
3と低く、ガラス繊維の未解繊数は確認されなかった。ただし、樹脂温度が300℃以上となり、せん断発熱が発生していると考えられる。