(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ガリウム置換型固体電解質材料および全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C30B 29/28 20060101AFI20231006BHJP
C30B 13/28 20060101ALI20231006BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20231006BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231006BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231006BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20231006BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
C30B29/28
C30B13/28
C01G25/00
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/08
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2019170802
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】片岡 邦光
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠宗
(72)【発明者】
【氏名】有賀 智紀
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149374(JP,A)
【文献】特開2018-125207(JP,A)
【文献】特開2010-272344(JP,A)
【文献】国際公開第2018/195011(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017769(WO,A1)
【文献】WAGNER,Reinhard et al.,Crystal Structure of Garnet-Related Li-Ion Conductor Li7-3xGaxLa3Zr2O12: Fast Li-Ion Conduction Caus,Chemistry of Materials,2016年,Vol.28,p.1861-1871
【文献】Acta.Cryst.,2016年,E72,pp.287-289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C01G 25/00
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01B 1/08
H01B 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成がLi
7-3xGa
xLa
3Zr
2O
12(0.08≦x<0.5)で表され、相対密度が99%以上で、立方晶系で空間群I-43dに属し、ガーネット型構造を有
し、結晶構造内の12a席と12b席と2種類の48e席をリチウムイオンが占有し、12a席と12b席にガリウムが占有する、固体電解質材料。
【請求項2】
請求項1において、
リチウムイオン伝導率が2.0×10
-3S/cm以上である固体電解質材料。
【請求項3】
請求項1または2において、
格子定数aが1.29714nm≦a≦1.30433nmである固体電解質材料。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかにおいて、
前記相対密度が100%である固体電解質材料。
【請求項5】
化学組成がLi
(7-3x)yGa
xzLa
3Zr
2O
12(0.08≦x<0.5、1.1≦y≦1.4、1.6≦z≦3.3)で表される原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、移動速度8mm/h以上で前記溶融部あるいは前記溶融部に対し種結晶を移動して、化学組成がLi
7-3xGa
xLa
3Zr
2O
12(0.08≦x<0.5)で表され、相対密度が99%以上で、立方晶系で空間群I-43dに属し、ガーネット型構造を有する固体電解質材料の製造方法。
【請求項6】
請求項
5において、
前記移動速度が8mm/h以上19mm/h以下である固体電解質材料の製造方法。
【請求項7】
請求項
5または
6において、
棒形状の前記原料を、FZ法で育成する場合、回転速度30rpm以上で長手方向と垂直な面で回転させながら前記原料を溶融する固体電解質材料の製造方法。
【請求項8】
請求項
7において、
前記回転速度が30rpm以上60rpm以下である固体電解質材料の製造方法。
【請求項9】
請求項
5または
6において、
CZ法で育成する場合は、種結晶を前記溶融部につけて回転速度3rpm以上30rpm以下で回転させながら引き上げる固体電解質材料の製造方法。
【請求項10】
正極と、負極と、固体電解質とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、
前記固体電解質が請求項1から
4のいずれかの固体電解質材料から構成される全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密度とイオン伝導率が高いガリウム置換型固体電解質材料と、この固体電解質材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ニッカド電池やニッケル水素電池などの二次電池と比較してエネルギー密度が高く、高電位で作動させることができるため、携帯電話やノートパソコンなどの小型情報機器に広く用いられている。また近年、小型軽量化が図りやすいため、ハイブリット自動車や電気自動車用の二次電池として需要が高まっている。安全性を考慮して、可燃性の電解液を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の研究開発が行われている。全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質には、高いイオン伝導率が要求される。
【0003】
立方晶ガーネット型構造を有する材料は高いイオン伝導率を有することが報告され(例えば特許文献1参照)、この構造を有する材料の研究開発が進められている。特に、化学組成Li7-xLa3Zr2-xTaxO12の材料は、x=0.5付近で高いイオン伝導率を有していることが報告されている。高いイオン伝導率の実現には粒界抵抗や界面抵抗を極力低減させる必要があるため、高密度な成型体である固体材料が望ましい。また、高密度な成型体である固体材料は、充放電過程で正負極間での短絡が防止でき、薄片化が可能であるため、全固体リチウムイオン二次電池の将来的な小型化に可能性を与える。しかしながら、これらの立方晶ガーネット型構造を有する材料は難焼結性であり、高密度な成型体の作製が困難であることが知られている。
【0004】
最近、溶融法を利用したガーネット型構造を有するLi7-xLa3Zr2-xTaxO12やLi7-xLa3Zr2-xNbxO12の単結晶の育成の報告がある(例えば特許文献2、3参照)。
【0005】
最近、ガリウムを置換した立方晶ガーネット型構造Li7-3xGaxLa3Zr2O12の焼結体が製造され高いリチウムイオン導電率が報告されているが(例えば非特許文献1、2参照)、溶融法を利用した単結晶の製造は報告されていない。
【0006】
高いイオン伝導率の実現には粒界抵抗や界面抵抗を極力低減させる必要があるため、高密度な成型体である固体材料が望ましい。また、単結晶である高密度な成型体は、粒界の影響を受けないため、高いリチウムイオン導電性が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011―195373号公報
【文献】WO2016068040
【文献】WO2017130622
【非特許文献】
【0008】
【文献】Chemistry Materials、28、1861-1871(2016)
【文献】Crystallographic Communications、E72、287-289、(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、密度とリチウムイオン伝導率が高い新規なガリウム置換型固体電解質材料と、このガリウム置換型固体電解質材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、多結晶Li(7-3x)yGaxzLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5、1.1≦y≦1.4、1.6≦z≦3.3)を棒形状に成形した後、赤外集光加熱を用いたFZ法でこの多結晶を溶融・急冷することで、高密度のLi7-3xGaxLa3ZrO12(0.08≦x<0.5)の単結晶のロッドが作製できることを見出した。
【0011】
本発明の固体電解質材料は、化学組成がLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)で表され、相対密度が99%以上で、立方晶系に属し、ガーネット型構造を有する。本発明の固体電解質材料において、リチウムイオン伝導率が2.0×10-3S/cm以上であってもよい。本発明の固体電解質材料において、格子定数aが1.29714nm≦a≦1.30433nmであってもよい。本発明の単結晶固体電解質材料は材料を溶融して育成しており、結晶構造内の12a席(座標x=0.75、y=0.625,z=0)と12b席(座標x=0.75、y=0.125、z=0)と2種類の48e(座標x=0.6678、y=0.5607、z=0.1735、座標x=0.6970、y=0.5738、z=0.0948)をリチウムイオンが占有し、12a席(座標x=0.75、y=0.625,z=0)と12b席(座標x=0.75、y=0.125、z=0)をガリウムが占有していてもよい。これは従来報告されている結晶構造と結晶構造内にリチウムイオン配列が異なる新物質である。本発明の固体電解質材料において、相対密度が100%であることが好ましい。またガリウムの組成比xが0.5以上の場合は非特許文献2のようにランタン席にガリウムが占有するため本発明とは異なる結晶構造を有する物質となる。
【0012】
本発明の固体電解質材料の製造方法は、化学組成がLi(7-3x)yGaxzLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5、1.1≦y≦1.4、1.6≦Z≦3.3)で表される原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、移動速度8mm/h以上で溶融部を移動して、化学組成がLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)で表され、相対密度が99%以上で、立方晶系に属し、ガーネット型構造を有する。本発明の固体電解質材料の製造方法において、成長速度が8mm/h以上19mm/h以下であることが好ましい。本発明の固体電解質材料のFZ法による製造方法において、棒形状の原料を、回転速度30rpm以上で長手方向と垂直な面で回転させながら原料を溶融することが好ましく、回転速度が30rpm以上60rpm以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、固体電解質とを有し、固体電解質が本発明の固体電解質材料から構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、密度とイオン伝導率が高いガリウム置換型固体電解質材料と、このガリウム置換型固体電解質材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例で得られたFZ法により育成したLi
6.4Ga
0.20La
3Zr
2O
12単結晶の外観写真である。
【
図2】実施例で得られたLi
6.4Ga
0.20La
3Zr
2O
12単結晶の単結晶X線回折パターンである。
【
図3】実施例で得られたLi
6.4Ga
0.20La
3Zr
2O
12単結晶のガーネット型構造を示す模式図である。
【
図4】実施例で得られたLi
6.4Ga
0.20La
3Zr
2O
12単結晶の交流インピーダンス法によるナイキストプロットである。
【
図5】実施例で得られたLi
6.4Ga
0.20La
3Zr
2O
12単結晶の粉末X線回折パターンである。
【
図6】実施例で得られたFZ法により育成したLi
6.76Ga
0.08La
3Zr
2O
12単結晶の外観写真である。
【
図7】実施例で得られたFZ法により育成したLi
6.25Ga
0.25La
3Zr
2O
12単結晶の外観写真である。
【
図8】実施例で得られたCZ法により育成したLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12単結晶の外観写真である。
【
図9】実施例で得られたLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12単結晶の単結晶X線回折パターンである。
【
図10】実施例で得られたLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12単結晶のガーネット型構造を示す模式図である。
【
図11】実施例で得られたLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12単結晶の粉末X線回折パターンである。
【
図12】実施例で得られたLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12単結晶の交流インピーダンス法によるナイキストプロットである。
【
図13】実施例で作製した全固体リチウムイオン二次電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、目的の固体電解質材料の組成比よりリチウムとガリウムを過剰に含む混合原料を高温で溶融させ冷却する方法について鋭意検討した結果、立方晶系に属し、ガーネット型構造を有するLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の単結晶が作製できることを見出し、この単結晶が機械的に薄片化できることを確認して本発明を完成させた。立方晶系に属し、ガーネット型構造を有する単結晶をFZ法で育成する場合は、通常、試料棒を20rpm以下で回転させ、下降速度2mm/h程度で下降させる。しかし、この条件ではLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)に空隙が入り、高密度の結晶が作製できない。
【0017】
空隙がない結晶を作製するために、回転速度30rpm以上で棒形状の原料を回転させながら、移動速度8mm/h以上で溶融部を下降させて、溶融部を高速で冷却する。あるいは、原料の溶融部に対し移動速度8mm/h以上で種結晶を上昇させて冷却する。得られた高密度のLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶のロッドは、ダイヤモンドカッターなどで任意の厚さに切断できる。また、本発明の高密度のLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶は、高温でリチウムとガリウムが揮発することを考慮して、化学組成Li7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の各金属の化学量論比よりもリチウム量とガリウム量を増量した混合原料を溶融することによって製造できる。
【0018】
本発明の固体電解質材料は、化学組成がLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)で表され、相対密度が99%以上で、立方晶系に属し、ガーネット型構造を有する。なお、相対密度は、作製した薄片の外形を測定して、見かけの体積を算出し、測定質量から計算した見かけの密度を、単結晶X線構造解析結果から得られる真密度で割ることによって算出する。本発明の固体電解質材料は、高密度であるため、ダイヤモンドカッターなどで任意の厚さに容易に切断できる。また、本発明の固体電解質材料はイオン伝導率が高い。具体的には、リチウムイオン伝導率が2.0×10-3S/cm以上の固体電解質材料が得られる。
【0019】
本発明の固体電解質材料は、化学組成がLi(7-3x)yGaxzLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5、1.1≦y≦1.4、1.6≦z≦3.3)で表される原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、移動速度8mm/h以上で溶融部あるいは種結晶を移動することによって製造できる。具体的にはFZ法、チョクラルスキー(Czochralski:CZ)法、ブリッジマン法、ペデスタル法などによって本発明の高密度のLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶が育成される。製造したいLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶の大きさや形状等に応じて、これらの中から適切な製法を選択すればよい。FZ法またはCZ法によって、相対密度が100%であるLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶、すなわち本来のLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の単結晶が製造できる。相対密度が100%であるLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶は、リチウムイオン伝導性が特に優れている。
【0020】
FZ法によって本発明の固体電解質材料を製造する場合には、棒形状の原料を、回転速度30rpm以上で長手方向と垂直な面で回転させながら原料を溶融し、溶融部を長手方向に移動することによって結晶を育成する。溶融部の移動速度を8mm/h以上と速くすることによって、リチウムとガリウムの揮発に伴う原料の分解が避けられる。CZ法によって本発明の固体電解質を製造する場合には、原料をるつぼ内で溶融し、種結晶を長手方向と垂直な面で回転させながら、溶融部を長手方向に移動することによって結晶を育成する。種結晶の移動速度を8mm/h以上と速くすることによって、リチウムとガリウムの揮発に伴う原料の分解が避けられる。この溶融部あるいは種結晶の移動速度は8mm/h以上19mm/h以下であることが好ましい。また、FZ法で育成する場合、溶融部ではリチウムが揮発しようとして気泡が発生するが、棒形状の原料の回転速度を30rpm以上と速くすることによって、気泡を取り除くことができる。原料の回転速度は30rpm以上60rpm以下であることが好ましい。原料の溶融および溶融部の移動は乾燥空気雰囲気で行うことが好ましい。
【0021】
こうして、相対密度が99%以上であるLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶が製造できる。相対密度が99%以上で、立方晶系に属し、ガーネット型構造を有するLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶の育成を例に、本発明の固体電解質材料の製造方法を説明する。まず、棒形状の原料を以下のようにして作製する。はじめに、高温でリチウムが揮発することを考慮して、リチウム化合物、ガリウム化合物、ランタン化合物およびジルコニウム化合物をLi:Ga:La:Zrが(7-3x)y:xz:3:2(0.08≦x<0.5、1.1≦y≦1.4、1.6≦z≦3.3)のモル比となるように秤量する。
【0022】
リチウム化合物としては、リチウムを含有するものであれば特に制限されず、Li2Oなどの酸化物、Li2CO3などの炭酸塩などが挙げられる。ガリウム化合物としては、ガリウムを含有するものであれば特に制限されず、Ga2O3などの酸化物、Ga(NO3)3などの硝酸塩などが挙げられる。ランタン化合物としては、ランタンを含有するものであれば特に制限されず、La2O3などの酸化物、La(OH)3などの水酸化物などが挙げられる。ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムを含有するものであれば特に制限されず、ZrO2などの酸化物、ZrCl4などの塩化物などが挙げられる。
【0023】
また、リチウム、ガリウム、ランタンおよびジルコニウムの中から選択される二種類以上からなる化合物を用いて、Li:Ga:La:Zrが(7-3x)y:xz:3:2(0.08≦x<0.5、1.1≦y≦1.4、1.6≦z≦3.3)のモル比となるように秤量してもよい。このような二種類以上からなる化合物として、La2Zr2O7などのランタンジルコニウム酸化物、GaLaO6などのガリウムランタン酸化物、Li5GaO4などのリチウムガリウム酸化物、Li2ZrO3などのリチウムジルコニウム酸化物などが挙げられる。
【0024】
つぎに、秤量した各化合物を混合する。混合方法は、これらの各化合物を均一に混合できる限り特に限定されず、例えばミキサー等の混合機を用いて湿式または乾式で混合すればよい。そして、得られた混合物をふた付きルツボに充填した後、600℃~900℃、好ましくは850℃で仮焼成することで原料となる粉末が得られる。なお、一度仮焼成した原料を、再度、粉砕、混合し、焼成することを繰り返すとさらに好ましい。
【0025】
つぎに、成型しやすくするために、得られた原料粉末を粉砕して粒子サイズを細かくする。粉砕方法は、粉末を微細化できる限り特に限定されず、例えば、遊星型ボールミル、ポットミル、ビーズミル等の粉砕装置を用いて湿式または乾式で粉砕すればよい。そして、得られた粉砕物をラバーチューブに充填した後、静水圧プレスを行って棒状に成型する。つぎに、得られた棒状の成型体を700℃~1300℃程度、好ましくは800℃~1150℃で4時間程度焼成して棒形状の原料が得られる。この時点では、原料の化学組成はLi(7-3x)yGaxzLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5、1.1≦y≦1.4、1.6≦z≦3.3)である。こうして、棒形状の原料が製造できる。
【0026】
そして、この棒形状の原料を赤外線集光加熱炉で溶融させた後に急冷することによって、相対密度が99%以上で、立方晶系に属し、ガーネット型構造を有するLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)が製造される。この製法により、長さ2cm以上のLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)の結晶が得られる。このため、同一品質を有する薄片が切断によって容易に作製できる。また、CZ法によって高密度のLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)結晶を製造する場合は、以下の手順で行う。まず、原料をルツボに入れて加熱し溶融する。つぎに、種結晶を原料の融液につけて回転しながら引き上げる。種結晶の回転速度は、3rpm以上30rpm以下であることが好ましい。種結晶の移動速度を8mm/h以上と速くすることによって、リチウムとガリウムの揮発が抑えられ、高密度のLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)結晶が得られると考えられる。また溶融法で育成したLi7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)はこれまでの固相法で合成された試料よりも格子定数が長くなる傾向がある。
【0027】
また、本発明の高密度Li7-3xGaxLa3Zr2O12(0.08≦x<0.5)結晶は、リチウムイオン伝導性に優れているため、全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質に使用できる。すなわち、本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、固体電解質とを有し、固体電解質が本発明の固体電解質材料から構成されている。以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
(Li6.4Ga0.2La3Zr2O12原料の混合)
まず、炭酸リチウムLi2CO3(レアメタリック製、純度99.99%)15.318gと、酸化ガリウムGa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)2.061gと酸化ランタンLa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)26.873gと、酸化ジルコニウムZrO2(レアメタリック製、純度99.99%)13.551gをメノウ製乳鉢に入れて、エタノールを使用した湿式法によって均一に混合した。なお、酸化ランタンは、あらかじめ900℃で仮焼成したものを使用した。この混合物の金属のモル比Li:Ga:La:Zrは、目的物であるLi6.4Ga0.2La3Zr2O12の化学量論比よりもリチウムが目的組成の1.3倍量、ガリウムが目的組成の2倍量である。すなわち、化学組成がLi8.32Ga0.4La3Zr2O12に相当する分量である。
【0029】
つぎに、ふた付きのアルミナるつぼ(ニッカトー製、C3型)にこの混合物57.l803gを充填した。そして、これをボックス型電気炉(ヤマト科学製、FP100型)に入れて、850℃で6時間仮焼成して粉末を得た。そして、得られた粉末を粉砕した。すなわち、粉末57gと、直径5mmのジルコニアボール300gと、イソプロパノール100gを容量250mLのジルコニア製粉砕容器に充填し、遊星型ボールミル(ドイツ・フリッチュ製、型式P-6)を用いて、公転回転数200rpmで合計300分回転させて粉砕した。粉砕後の粉末を100℃で24時間乾燥させ、250μm目開きのふるいを用いて分級した。
【0030】
(棒形状の原料の作製)
上記工程でふるいを通過した粉末を用いて、以下の手順で棒形状の原料を作製した。まず、ゴム製の型にこの粉末15.127gを充填して脱気した。つぎに、この型を密閉した状態で水中に入れて、40MPaで5分間維持した。そして、水の圧力を下げた後、成形体を型から取り出した。成形体は、直径1.1cm、高さ7.5cmの円柱形状をしていた。つぎに、箱型電気炉(デンケン製、型番KDF009)を用いて、この円柱状の成形体を1150℃で4時間焼成した。取り出した成形体は、直径0.75cm、高さ5.2cmの円柱形状をしていた。
【0031】
(Li
6.4Ga
0.2La
3Zr
2O
12の結晶の育成)
まず、1kWのハロゲンランプを装備した四楕円型赤外線集光加熱炉(FZ炉)(Crystal System社製、FZ-T-10000H型)に、上記工程で得られた棒形状の原料を設置して、乾燥空気雰囲気にした。つぎに、棒形状の原料を長手方向と垂直な面で40rpmで回転させながら、出力23.3%で加熱した。しばらくすると、多結晶試料の一部が溶融して溶融部を形成した。そして、棒形状の原料の設置台を10mm/hの移動速度で下降させて高密度のLi
6.4Ga
0.2La
3Zr
2O
12の結晶(以下「試料1」ということがある)を育成した。なお、試料1の化学組成はICP-AESと単結晶X線結晶構造解析によって分析した。ICP-AESの結果化学組成はLi:Ga:La:Zr=6.4:0.2:3.0:2.0であった。試料1の外観を
図1に示す。
図1に示すように、長さ3cmの高密度のLi
6.4Ga
0.2La
3Zr
2O
12の結晶が作製できた。
【0032】
(高密度のLi
6.4Ga
0.2La
3Zr
2O
12の結晶の評価)
二次元IP検出器を有する単結晶X線回折装置(リガク社製、R-AXIS RAPID-II)を用いて、試料1の構造を調べた。試料1のX線回折パターンを
図2に示す。
図2に示すように、明瞭な回折点が測定できた。また、試料1の回折強度データを収集し、結晶構造解析プログラムJana2006によって結晶構造を調べたところ、試料1は立方晶に属することがわかった。試料1をダイヤモンドカッターで切断して厚さ0.1cmの薄片を4枚作製し、上述の方法でこれらの相対密度を算出した。その結果、これらの相対密度はそれぞれ99.5%、99.8%、99.9%、100%であった。
【0033】
図3は試料1の構造を模式的に示している。これまでに報告されている立方晶ガーネット型構造Li
7-3xGa
xLa
3Zr
2O
12は、空間群I-43dに属し、非特許文献1では、結晶構造内の12a席、12b席、48e席がリチウムイオン席であり、12a席と12b席がガリウムイオン席である。また、非特許文献2では結晶構造内の12a席、12b席、2種類の48e席がリチウムイオン席であり、12a席と12b席とランタン席である24d席がガリウムイオン席である。一方で溶融法で育成した試料1は、結晶構造内の12a席(座標x=0.75、y=0.625、z=0)、12b席(座標x=0.75、y=0.125,z=0)、2種類の48e席(座標x=0.6597、y=0.5490、z=0.1707、座標x=0.6918、y=0.5739、z=0.0990)がリチウムイオン席であり、12a席と12b席がガリウムイオン席であった。すなわち、試料1は、非特許文献1および非特許文献2とは結晶構造が異なる新物質であった。この結晶構造解析の信頼度を示すR因子は2.26%であったため、結晶構造解析結果は妥当であると言える。
【0034】
また、このリチウムイオンの配列は、ガリウム置換立方晶ガーネット型構造の中で、リチウムイオン同士の距離が最も近く適度にリチウムイオン席が欠損している。このため、試料1のリチウムイオン伝導率は他の立方晶ガーネット型構造化合物よりも高いと考えられる。試料1を切断して、直径約0.50cm、厚さ約0.10cmの薄片を作製した。この薄片の表側と裏側に、底面が一辺0.40cmの円形で、厚さが40nmの金をスパッタリングして電極を形成した。この試料を窒素雰囲気中25℃で交流インピーダンス法(測定装置:Solarton、1260)によりリチウムイオン伝導率を測定したところ
図4に示すナイキストプロットが得られ、その値はトータルの抵抗値から算出すると2.4×10
-3S/cmであった。
【0035】
試料1の単結晶X線回折測定で観測された反射を用いて、最小二乗法により格子定数aを求めたところ、a=1.29714nm±0.00005nmであった。この格子定数から、試料1はガーネット型構造を有するリチウム複合酸化物であることがわかった。試料1を粉砕して粉末X線回折測定を行った結果を
図5に示す。試料1の粉末X線回折パターンは、立方晶ガーネット型構造の単一相の回折パターンと同様であった。粉末X線構造解析の結果から算出される格子定数aは、a=1.29825nm±0.00001nmであった。単結晶X線回折測定と粉末X線構造解析の結果を併せると、試料1の格子定数は、1.29714nm≦a≦1.29825nmである。
【実施例2】
【0036】
(Li6.76Ga0.08La3Zr2O12原料の混合)
まず、炭酸リチウムLi2CO3(レアメタリック製、純度99.99%)28.349gと、酸化ガリウムGa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)2.3979gと酸化ランタンLa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)50.000gと、酸化ジルコニウムZrO2(レアメタリック製、純度99.99%)25.213gをメノウ製乳鉢に入れて、エタノールを使用した湿式法によって均一に混合した。なお、酸化ランタンは、あらかじめ900℃で仮焼成したものを使用した。この混合物の金属のモル比Li:Ga:La:Zrは、目的物であるLi6.76Ga0.08La3Zr2O12の化学量論比よりもリチウムが目的組成の1.2倍量、ガリウムが目的組成の3.2倍量である。すなわち、化学組成がLi8.11Ga0.25La3Zr2O12に相当する分量である。
【0037】
つぎに、ふた付きのアルミナるつぼ(ニッカトー製、C3型)にこの混合物57.273gを充填した。そして、これをボックス型電気炉(ヤマト科学製、FP100型)に入れて、850℃で6時間仮焼成して粉末を得た。そして、得られた粉末を粉砕した。すなわち、粉末57gと、直径5mmのジルコニアボール300gと、イソプロパノール100gを容量250mLのジルコニア製粉砕容器に充填し、遊星型ボールミル(ドイツ・フリッチュ製、型式P-6)を用いて、公転回転数200rpmで合計300分回転させて粉砕した。粉砕後の粉末を100℃で24時間乾燥させ、250μm目開きのふるいを用いて分級した。
【0038】
(棒形状の原料の作製)
上記工程でふるいを通過した粉末を用いて、以下の手順で棒形状の原料を作製した。まず、ゴム製の型にこの粉末15.098gを充填して脱気した。つぎに、この型を密閉した状態で水中に入れて、40MPaで5分間維持した。そして、水の圧力を下げた後、成形体を型から取り出した。成形体は、直径1.1cm、高さ7.5cmの円柱形状をしていた。つぎに、箱型電気炉(デンケン製、型番KDF009)を用いて、この円柱状の成形体を1150℃で4時間焼成した。取り出した成形体は、直径0.78cm、高さ5.8cmの円柱形状をしていた。
【0039】
(Li
6.76Ga
0.08La
3Zr
2O
12の結晶の育成)
まず、1kWのハロゲンランプを装備した四楕円型赤外線集光加熱炉(FZ炉)(Crystal System社製、FZ-T-10000H型)に、上記工程で得られた棒形状の原料を設置して、乾燥空気雰囲気にした。つぎに、棒形状の原料を長手方向と垂直な面で40rpmで回転させながら、出力22.9%で加熱した。しばらくすると、多結晶試料の一部が溶融して溶融部を形成した。そして、棒形状の原料の設置台を10mm/hの移動速度で下降させて高密度のLi
6.76Ga
0.08La
3Zr
2O
12の結晶(以下「試料2」ということがある)を育成した。なお、試料2の化学組成はICP-AESと単結晶X線結晶構造解析によって分析した。ICP-AESの結果化学組成はLi:Ga:La:Zr=6.8:0.08:3.0:2.0であった試料2の外観を
図6に示す。
図6に示すように、長さ3cmの高密度のLi
6.76Ga
0.08La
3Zr
2O
12の結晶が作製できた。
【0040】
(高密度のLi6.76Ga0.08La3Zr2O12の結晶の評価)
二次元IP検出器を有する単結晶X線回折装置(リガク社製、R-AXIS RAPID-II、AFC-7S)を用いて、試料1の構造を調べた。試料2の回折強度データを収集し、結晶構造解析プログラムJana2006によって結晶構造を調べたところ、試料2は試料1と同様の結晶構造に属することがわかった。
【0041】
試料2の単結晶X線回折測定で観測された反射を用いて、最小二乗法により格子定数aを求めたところ、a=1.30433nm±0.00014nmであった。この格子定数から、試料2はガーネット型構造を有するリチウム複合酸化物であることがわかった。試料2を粉砕して粉末X線回折測定を行い、粉末X線構造解析の結果から算出される格子定数aは、a=1.29985nm±0.00001nmであった。単結晶X線回折測定と粉末X線構造解析の結果を併せると、試料1の格子定数は、1.29985nm≦a≦1.30433nmである。
【実施例3】
【0042】
(Li6.25Ga0.25La3Zr2O12原料の混合)
まず、炭酸リチウムLi2CO3(レアメタリック製、純度99.99%)18.416gと、酸化ガリウムGa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)2.301gと酸化ランタンLa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)30.000gと、酸化ジルコニウムZrO2(レアメタリック製、純度99.99%)15.128gをメノウ製乳鉢に入れて、エタノールを使用した湿式法によって均一に混合した。なお、酸化ランタンは、あらかじめ900℃で仮焼成したものを使用した。この混合物の金属のモル比Li:Ga:La:Zrは、目的物であるLi6.25Ga0.25La3Zr2O12の化学量論比よりもリチウムが目的組成の1.3倍量、ガリウムが目的組成のリチウムが1.6倍量である。すなわち、化学組成がLi8.13Ga0.40La3Zr2O12に相当する分量である。
【0043】
つぎに、ふた付きのアルミナるつぼ(ニッカトー製、C3型)にこの混合物57.273gを充填した。そして、これをボックス型電気炉(ヤマト科学製、FP100型)に入れて、850℃で6時間仮焼成して粉末を得た。そして、得られた粉末を粉砕した。すなわち、粉末57gと、直径5mmのジルコニアボール300gと、イソプロパノール100gを容量250mLのジルコニア製粉砕容器に充填し、遊星型ボールミル(ドイツ・フリッチュ製、型式P-6)を用いて、公転回転数200rpmで合計300分回転させて粉砕した。粉砕後の粉末を100℃で24時間乾燥させ、250μm目開きのふるいを用いて分級した。
【0044】
(棒形状の原料の作製)
上記工程でふるいを通過した粉末を用いて、以下の手順で棒形状の原料を作製した。まず、ゴム製の型にこの粉末15.128gを充填して脱気した。つぎに、この型を密閉した状態で水中に入れて、40MPaで5分間維持した。そして、水圧を下げた後、成形体を型から取り出した。成形体は、直径1.1cm、高さ7.5cmの円柱形状をしていた。つぎに、箱型電気炉(デンケン製、型番KDF009)を用いて、この円柱状の成形体を1150℃で4時間焼成した。取り出した成形体は、直径0.79cm、高さ6.0cmの円柱形状をしていた。
【0045】
(Li
6.25Ga
0.25La
3Zr
2O
12の結晶の育成)
まず、1kWのハロゲンランプを装備した四楕円型赤外線集光加熱炉(FZ炉)(Crystal System社製、FZ-T-10000H型)に、上記工程で得られた棒形状の原料を設置して、乾燥空気雰囲気にした。つぎに、棒形状の原料を長手方向と垂直な面で40rpmで回転させながら、出力23.1%で加熱した。しばらくすると、多結晶試料の一部が溶融して溶融部を形成した。そして、棒形状の原料の設置台を10mm/hの移動速度で下降させて高密度のLi
6.25Ga
0.25La
3Zr
2O
12の結晶(以下「試料3」ということがある)を育成した。なお、試料3の化学組成はICP-AESと単結晶X線結晶構造解析によって分析した。ICP-AESの結果化学組成はLi:Ga:La:Zr=6.25:0.25:3.0:2.0であった試料3の外観を
図7に示す。
図7に示すように、長さ3cmの高密度のLi
6.25Ga
0.25La
3Zr
2O
12の結晶が作製できた。
【0046】
(高密度のLi6.25Ga0.25La3Zr2O12の結晶の評価)
二次元IP検出器を有する単結晶X線回折装置(リガク社製、R-AXIS RAPID-II)を用いて、試料3の構造を調べた。試料3の回折強度データを収集し、結晶構造解析プログラムJana2006によって結晶構造を調べたところ、試料3は試料1と同様の結晶構造に属することがわかった。
【0047】
試料3の単結晶X線回折測定で観測された反射を用いて、最小二乗法により格子定数aを求めたところ、a=1.30364nm±0.00025nmであった。この格子定数から、試料3はガーネット型構造を有するリチウム複合酸化物であることがわかった。試料3を粉砕して粉末X線回折測定を行い、粉末X線構造解析の結果から算出される格子定数aは、a=1.29993nm±0.00001nmであった。単結晶X線回折測定と粉末X線構造解析の結果を併せると、試料3の格子定数は、1.29993nm≦a≦1.30364nmである。
【実施例4】
【0048】
CZ法によるLi6.64Ga0.12La3Zr2O12結晶の製造
(Li6.64Ga0.12La3Zr2O12原料の混合)
まず、炭酸リチウムLi2CO3(レアメタリック製、純度99.99%)15.785gと、酸化ガリウムGa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)2.301gと酸化ランタンLa2O3(レアメタリック製、純度99.99%)30.000gと、酸化ジルコニウムZrO2(レアメタリック製、純度99.99%)15.128gをメノウ製乳鉢に入れて、エタノールを使用した湿式法によって均一に混合した。なお、酸化ランタンは、あらかじめ900℃で仮焼成したものを使用した。この混合物の金属のモル比Li:Ga:La:Zrは、目的物であるLi6.64Ga0.12La3Zr2O12の化学量論比よりもリチウムが目的組成の1.2倍量、ガリウムが目的組成の3.3倍量である。すなわち、化学組成がLi7.968Ga0.40La3Zr2O12に相当する分量である。
【0049】
(2) Li6.64Ga0.12La3Zr2O12結晶の育成
まず、内径2.6cm、深さ2.8cmの円筒状のイリジウム容器に、上記工程で得られた多結晶Li7.968Ga0.40La3Zr2O12粉末28gを充填した。つぎに、高周波誘導加熱機能を備える単結晶引き上げ炉(CZ炉)(テクノサーチ社製、TCH-3)に、このイリジウム容器を設置した。そして、長さ50mmのイリジウムロッドを引き上げ部に設置して、CZ炉内を乾燥窒素雰囲気にした。つぎに、高周波出力を少しずつ上げていき、出力58.8%でイリジウム容器を加熱し続けた。しばらくすると、イリジウム容器に充填したLi7.968Ga0.40La3Zr2O12粉末が溶融した。
【0050】
そして、長手方向と垂直な面でこのイリジウムロッドを3rpmで回転させながらLi
7.968Ga
0.40La
3Zr
2O
12の溶融部に入れた後、イリジウムロッドを10mm/hの移動速度で上昇させてLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12結晶を育成した。育成したLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12結晶(以下「試料4」ということがある)の外観を
図8に示す。
【0051】
(高密度のLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12の結晶の評価)
二次元IP検出器を有する単結晶X線回折装置(リガク社製、R-AXIS RAPID-II)を用いて、試料4の構造を調べた。試料4のX線回折パターンを
図9に示す。
図9に示すように、明瞭な回折点が測定できた。また、試料1の回折強度データを収集し、結晶構造解析プログラムJana2006によって結晶構造を調べたところ、試料4は立方晶に属することがわかり、FZ法で育成された単結晶と結晶構造の相違はなった。また単結晶X線解析の結果、試料4の化学組成はLi
6.64Ga
0.12La
3Zr
2O
12であった。
【0052】
図10は試料4の構造を模式的に示している。FZ法で育成された結晶と同様の結晶構造を有していることがわかった。これまでに報告されている立方晶ガーネット型構造Li
7-3xGa
xLa
3Zr
2O
12は、空間群I-43dに属し、非特許文献1では、結晶構造内の12a席、12b席、48e席がリチウムイオン席であり、12a席と12b席がガリウムイオン席である。また、非特許文献2では結晶構造内の12a席、12b席、2種類の48e席がリチウムイオン席であり、12a席と12b席とランタン席である24d席がガリウムイオン席である。一方で溶融法で育成した試料4は、結晶構造内の12a席(座標x=0.75、y=0.625,z=0)と12b席(座標x=0.75、y=0.125、z=0)と2種類の48e(座標x=0.6678、y=0.5607、z=0.1735、座標x=0.6970、y=0.5738、z=0.0948)をリチウムイオンが占有し、12a席(座標x=0.75、y=0.625,z=0)と12b席(座標x=0.75、y=0.125、z=0)をガリウムイオン席であった。すなわち、試料4は、非特許文献1および非特許文献2とは結晶構造が異なりFZ法で育成した単結晶と同様の新物質であった。この結晶構造解析の信頼度を示すR因子は2.26%であったため、結晶構造解析結果は妥当であると言える。
【0053】
試料4の単結晶X線回折測定で観測された反射を用いて、最小二乗法により格子定数aを求めたところ、a=1.2994nm±0.0003nmであった。この格子定数から、試料4はガーネット型構造を有するリチウム複合酸化物であることがわかった。試料4を粉砕して粉末X線回折測定を行った結果を
図11に示す。試料4の粉末X線回折パターンは、立方晶ガーネット型構造の単一相の回折パターンと同様であった。粉末X線構造解析の結果から算出される格子定数aは、a=1.29875nm±0.00001nmであった。単結晶X線回折測定と粉末X線構造解析の結果を併せると、試料4の格子定数は、1.29875nm≦a≦1.2994nmである。
【0054】
試料4を切断して、直径約0.70cm、厚さ約0.10cmの薄片を作製した。この薄片の表側と裏側に、底面が一辺0.70cmの円形で、厚さが40nmの金をスパッタリングして電極を形成した。この試料を窒素雰囲気中25℃で交流インピーダンス法(測定装置:Solarton、1260)によりリチウムイオン伝導率を測定したところ
図12に示すナイキストプロットが得られ、その値はその値はトータルの抵抗値から算出すると2.9×10
-3S/cmであり、FZ法で育成された単結晶と相違は見られなかった。
【実施例5】
【0055】
全固体リチウムイオン二次電池の作成
酢酸リチウム2水和物(シグマアルドリッチ製)0.0105モルと酢酸コバルト4水和物(和光純薬工業製)0.01モルをエチレングリコール(和光純薬工業製)100gに溶解した。次にポリビニルピロリドンK-30(和光純薬工業製)10gを加えて溶解させることで0.1モル/Kgのコバルト酸リチウム前駆体溶液を調製した。酢酸リチウム量を酢酸コバルト量よりもモル比で5%多くしたのは、焼成時のリチウム蒸発分を加味したためである。次に試料1を切断して、直径約0.6cm、厚さ約0.10cmの薄片を作製して、薄片に上記溶液を10μl滴下して400℃で20分仮焼成を行った後、850℃で10分焼成して、試料1表面に正極としてコバルト酸リチウムを合成した(以下「試料2」ということがある)。次にグローブボックス中で、市販の電池評価用HSセル(宝泉株式会社製)に
図13に示すように試料1と直径4mmに打ち抜いた金属リチウムを入れ全固体リチウムイオン二次電池を作製した。この全固体リチウムイオン二次電池は開回路電圧で2.8Vを示したことより、電池として機能していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の高密度Li7-3xGaxLa3Zr2O12結晶は、全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質材料などに利用できる。