(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】防除用製剤、並びに土壌処理方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/26 20060101AFI20231006BHJP
A01N 47/46 20060101ALI20231006BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20231006BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
A61K31/26
A01N47/46
A01P1/00
A61P33/02 171
(21)【出願番号】P 2019085952
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390004673
【氏名又は名称】田村製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大川 和久
(72)【発明者】
【氏名】升水 紀郎
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/082692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A01N
A01P
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソチオシアン酸アリルを有効成分として含有する、家畜飼育場におけるクリプトスポリジウム
防除用製剤。
【請求項2】
請求項1記載の防除用製剤を使用した、クリプトスポリジウム防除のための土壌処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソチオシアン酸化合物などを有効成分として含有するクリプトスポリジウム防除用製剤、それらの製剤を用いたクリプトスポリジウム防除のための土壌処理方法、並びにクリプトスポリジウム症治療剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)は、胞子虫類に属する原虫であり、世界中に広く分布している。例えば、クリプトスポリジウム・パルバム(学名「Cryptosporidium parvum」)は、ウシ、ブタなどでは、腸管寄生原虫として高い感染率が示されており、イヌ、ネコなどでも検出が報告されている。
【0003】
クリプトスポリジウムは、偏性細胞寄生性原虫であり、次のような生活環で発育するとされる。クロストスポリジウムのオーシストが糞便とともに排泄され、それが宿主体内へ経口摂取されると、オーシストが腸管内で脱嚢し、オーシスト内の4つのスポロゾイトが放出される。スポロゾイトは、腸内の上皮細胞に侵入して虫嚢を形成し、その内部で無性生殖を行って増殖する。増殖したスポロゾイトは、細胞外への放出と細胞内への侵入を繰り返し、さらに増殖する。その後、有性生殖期に移行すると、雄性生殖母体と雌性生殖母体のいずれかに分化し、それらの接合体が発育してオーシストとなり、これが遊離して糞便とともに宿主体外へ排泄される。
【0004】
クリプトスポリジウムのオーシストは、塩素に対する耐性が極めて高いことが知られている。そのため、家畜の糞便などとともに放出されたオーシストで水源が汚染されると、水道水などにクリプトスポリジウムのオーシストが混入することになり、それによって、ヒトで、下痢などを主症状とするクリプトスポリジウム症が集団的に発生することがある。ヒトにおけるクリプトスポリジウム症は、多くは1~2週間程度で自然治癒するが、免疫不全などを発症している患者の場合、死に至ることもある。ヒトのクリプトスポリジウム症では、重篤な場合、パロモマイシン、ニタゾキサニドなどの薬剤での治療が行われている。
【0005】
また、ウシ、ブタなどの家畜では、クリプトスポリジウムが広く蔓延している。特に、1カ月齢以下の仔ウシの場合、飼育環境中のオーシストによる汚染によって感染しやすく、水様下痢の症状を示し、二次感染により死に至ることもあり、経済的損失も大きい。一方、仔ウシのクリプトスポリジウム症に対する有効な予防・治療手段はほとんど確立されていない。
【0006】
なお、クリプトスポリジウムへの対策として、例えば、特許文献1には、カシューナッツ殻油などを含有したクリプトスポリジウム症防除剤が、特許文献2には、鉄化合物を有効成分として含有するクリプトスポリジウム症の治療・予防剤が、それぞれ記載されている。
【0007】
その他、本発明に関連する事項として、特許文献3には、イソチオシアン酸アリルを有蹄動物の肢蹄に投与することによる毛状疣贅病の予防・治療方法が開示されている。
【文献】特開2015-30717号公報
【文献】特開2010-13408号公報
【文献】特許第5740062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、クリプトスポリジウムは広く蔓延している一方、公衆衛生や畜産経済の観点などから、有効な防除手段が求められている。そこで、本発明は、クリプトスポリジウムに対し、有効性の高い防除手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、イソチオシアン酸アリルなどのイソチオシアン酸化合物が、クリプトスポリジウムの感染能を顕著に抑制することを新規に見出した。
【0010】
そこで、本発明では、下記一般式(I)で表される化合物を有効成分として含有するクリプトスポリジウム防除用製剤を提供する。
【化1】
[式I中、R
1は炭素原子数2~8のアルケニル基、炭素原子数1~6の低級アルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、炭素原子数7~20のアラルキル基、又は炭素原子数3~6のシクロアルキル基を表す。]
【0011】
この化合物は、クリプトスポリジウムが宿主上皮細胞へ侵入する能力を阻害し、その感染を抑制する効果を有している。そのため、例えば、クリプトスポリジウム防除用製剤として、家畜飼育場、例えば、ウシ・ブタなどの畜舎内や、牧場内の土壌などに散布することで、クリプトスポリジウム原虫の増殖・蔓延やクリプトスポリジウム症の発生・増悪・伝播・蔓延を効果的に防除できる可能性がある。また、クリプトスポリジウム症の予防又は治療剤としても有効な可能性がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、クリプトスポリジウム症の発生・増悪やその病原の伝播・蔓延などを有効に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<本発明に係るクリプトスポリジウム防除用製剤について>
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物を有効成分として含有するクリプトスポリジウム防除用製剤をすべて包含する。ここで、「クリプトスポリジウム防除」は、クリプトスポリジウムに対する防除、即ち、クリプトスポリジウムの感染力・増殖力を抑制させることを意味し、「クリプトスポリジウム防除用製剤」は、クリプトスポリジウムの防除のために使用する製剤、即ち、クリプトスポリジウムの感染力・増殖力などを抑制させるための製剤を意味する(以下同じ)。
【化2】
【0014】
上記一般式I中、R1は炭素原子数2~8のアルケニル基、炭素原子数1~6の低級アルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、炭素原子数7~20のアラルキル基、又は炭素原子数3~6のシクロアルキル基を表す。
【0015】
R1における炭素原子数2~8のアルケニル基は、少なくとも1個の二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の炭素数2~8の不飽和炭化水素基であればよい。そのような基として、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基(2-プロペニル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基などが挙げられる。
【0016】
R1における炭素原子数1~6の低級アルキル基は、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖の低級アルキル基であればよい。そのような基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。
【0017】
R1における炭素原子数6~12のアリール基としては、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基(その位置異性体をすべて含む)、トリメチルフェニル基(その位置異性体をすべて含む)、テトラメチルフェニル基(その位置異性体をすべて含む)、1-ナフチル基、2-ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。
【0018】
R1における炭素原子数7~18のアラルキル基は、上記低級アルキル基の水素原子一つが上記アリール基に置換されたもの、すなわちアリールC1-C6アルキル基であればよい。そのような基として、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基、メチルナフチル基(その位置異性体をすべて含む)、ジメチルナフチル基(その位置異性体をすべて含む)、ビフェニルメチル基、ビフェニルエチル基などが挙げられる。
【0019】
R1における炭素原子数3~6のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0020】
これらの中で、前記式I中、R1が炭素原子数2~6のアルケニル基であることが好適であり、R1がアリル基であること、即ち、前記化合物がイソチオシアン酸アリル(アリルイソチオシアネート)であることが最も好適である。
【0021】
本発明に係るクリプトスポリジウム防除用製剤は、固体状(例えば、粉末、顆粒、錠剤など)、液体状(例えば、液剤、懸濁化剤など)など、公知の剤型を広く採用できる。例えば、固体状の製剤を用時に溶媒で溶解して防除溶液を調製し、使用してもよいし、予め液体状の製剤として調製しておき、場合によっては用時にそれを適宜希釈して防除溶液として使用してもよい。
【0022】
本発明に係る化合物を溶解するための溶媒には公知のものを適宜採用できる。例えば、水、植物油、液体動物油、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、生理食塩水、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、アセトン、DMSOなどから適切なものを選択して用いてもよい。
【0023】
また、目的・用途・剤型などに応じて、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、安定剤、固体担体、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、界面活性剤、防腐剤、抗菌剤、抗酸化剤、pH調整剤、分散剤、芳香剤、着色剤、増粘剤などが適宜添加されていてもよい。
【0024】
賦形剤の例として、糖アルコール類(例えば、エリスリトール、マンニトール、キシリトール、ソルビトールなど)、糖類(例えば、白糖、粉糖、乳糖、ブドウ糖など)、シクロデキストリン類(例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンおよびスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムなど)、セルロース類(例えば、結晶セルロース、微結晶セルロース、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロースなど)、デンプン類(例えば、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、部分α化デンプン、α化デンプンなど)、デキストリン、マルトデキストリン、ショ糖エステル、ポビドン、ヒプロメロースフタル酸エステル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、カルメロースナトリウム、ヒプロメロース、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、プルラン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーなどが挙げられる。
【0025】
崩壊剤の例として、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、部分α化デンプン、α化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、寒天、ゼラチン末などが挙げられる。
【0026】
結合剤の例として、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0027】
滑沢剤の例として、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、ショ糖脂肪酸エステル、水素添加植物油、マクロゴールなどが挙げられる。
【0028】
コーティング剤の例として、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルテタアクリレート・メタアクリル酸共重合体、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、酢酸フタル酸セルロース、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーSなどが挙げられる。
【0029】
安定剤の例として、脂肪酸及びその塩、メチルパラベン、パラヒドロキシ安息香酸エステル類(例えば、プロピルパラペンなど)、クロロブタノール、ペンジルアルコール,フェニルエチルアルコール等のアルコール類、チメロサール、無水酢酸、ソルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、L-アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、プチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、酢酸トコフェロール、ゲンチジン酸、アスコルビン酸、ベンジルアルコール、トコフェロール、没食子酸、没食子酸エステル、α-チオグリセロール、α-トコフェロール、タンパク質及び多糖類などが挙げられる。
【0030】
固体担体の例として、天然鉱物粉末(例えば、カチオンクレー、バイロフィライトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリン、粘土、タルク、チョーク、石英、アタパルジャイト、珪藻土類など)、合成鉱物粉末(例えば、ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩など)、高分子性天然物(例えば、結晶性セルロース、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸など)などが挙げられる。
【0031】
溶解補助剤の例として、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0032】
緩衝剤の例として、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩酒石酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、HEPESなどの緩衝液などを用いることができる。
【0033】
等張化剤の例として、塩化ナトリウム、ブドウ糖、D-ソルビトール、グリセリン、D-マンニトールなどを用いることができる。
【0034】
界面活性剤の例として、非イオン性界面活性剤(例えば、脂肪アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグリコシド、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、オクチルグルコシド、ペプチルチオグルコシド、デカノイル-N-メチルグルカミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンへプタメチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテ、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールエステル
など)、陰イオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル-N-サルコシン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、N-パルミトイルグルタルミン酸ナトリウム、N-メチル-N-アシルタウリンナトリウムなど)、陽イオン性界面活性剤(例えば、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルアンモニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリドなど)、両性界面活性剤(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N-ラウリルジアミノエチルグリシン、N-ミリスチルジアミノエチルグリシン、N-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウム、3-[(3-コラミドプピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸、パルミトイルリゾレシチン、ドデシル-N-ベタイン、ドデシル-β-アラニンなど)などが挙げられる。
【0035】
防腐剤の例として、パラベン類(例えば、安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなど)、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、ソルビン酸カリウム、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル類、パラオキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、などを用いることができる。
【0036】
抗菌剤の例として、四級アンモニウム塩系の殺菌防除剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)、フェノール系の殺菌防除剤(例えば、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、チモール)、クロロヘキシジン、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、抗菌性を有する植物の抽出物・精油(例えば、タイム、レモングラス、柑橘類、レモン、オレンジ、アニス、クローブ、アニシード、マツ、シナモン、ゼラニウム、バラ、ミント、ラベンダー、シトロネラ、ユーカリ、ペパーミント、樟脳、アジョワン、ビャクダン、ローズマリー、クマツヅラ、フリーグラス、レモングラス、ラタニア、ヒマラヤスギなど)などが挙げられる。
【0037】
抗酸化剤の例として、亜硫酸塩、アスコルビン酸などを用いることができる。
【0038】
pH調整剤の例として、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸、リン酸、ホウ酸、硫酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウムなどのアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモールなどの塩基、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどを用いることができる。
【0039】
分散剤の例として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート80(TWEEN80)などを用いることができる。
【0040】
芳香剤の例として、香料成分(例えば、1-カルボン、シンナミックアルデヒド、オレンジオイル、メチルサリシレート、オイゲノール、メンチルアセテート、スピラントール、エチルアセテート、エチルブチレート、イソアミルアセテート、ヘキサナール、ヘキセナール、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、ベンズアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、フラネオール、マルトール、エチルマルトール、ガンマ/デルタデカラクトン、ガンマ/デルタウンデカラクトン、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、メンチルラクテート、エチレングリコール-1-メンチルカーボネートなど)、天然精油(例えば、ウィンターグリーン油、クローブ油、タイム油、セージ油、カルダモン油、ローズマリー油、マジョラム油、ナツメグ油、ラベンダー油、パラクレス油など)、フルーツ系香料(例えば、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、アップル、バナナ、ストロベリー、ブルーベリー、メロン、ピーチ、パイナップル、グレープ、マスカット、チェリー、スカッシュなど)、ペパーミント、スペアミント、メントール、ヨーグルト、コーヒー、ブランデーなどを用いることができる。
【0041】
着色剤の例として、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、アナトー色素、パプリカ色素、紅花色素、紅麹色素、カロチン色素、カロチノイド色素、フラボノイド色素、コチニール色素、アマランス(赤色2号)、エリスロシン(赤色3号)、アルラレッドAC(赤色40号)、ニューコクシン(赤色102号)、フロキシン(赤色104号)、ローズベンガル(赤色105号)、アシッドレッド(赤色106号)、タートラジン(黄色4号)、サンセットイエローFCF(黄色5号)、ファストグリーンFCF(緑色3号)、ブリリアントブルーFCF(青色1号)、インジゴカルミン(青色2号)、青色201号、青色204号、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、雲母チタン、酸化チタンなどを用いることができる。
【0042】
増粘剤の例として、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ローカストビーンガム、グアーガム、カゼインナトリウム、卵アルブミン、ゼラチン寒天、デンプン、化工デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ヒプロメロース、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、糖アルコール(ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトールなど)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなど)、ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、キサンタンガム、カラゲニンガム、トラガカントガム、クインスシードエキス、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0043】
本発明に係る上記の化合物は、例えば、クリプトスポリジウム全般、例えば、クリプトスポリジウム・パルバムなどに対し、感染抑制効果を有する。
【0044】
本発明に係るクリプトスポリジウム防除用製剤を防除対象物又は防除対象区域に使用することで、そこに存在したクリプトスポリジウムの感染能を抑制し、クリプトスポリジウムを有効に防除することができる。
【0045】
防除対象は、クリプトスポリジウムで汚染された又はその可能性のある物・場所・領域であれば原則的に全て適応可能であり、特に限定されない。例えば、家畜飼育場(畜舎・家畜授精施設などの畜産施設、放牧場など)、実験用動物・飼育動物などを含む動物飼育施設・領域、上下水処理施設、貯水池、医療・介護施設・領域、食肉生産・加工施設、食品生産・加工施設などの床面・壁面・出入口、それらの施設内に設置・配置された物、それらの施設内で行う業務で用いる器具・機材などのクリプトスポリジウム防除に本発明を適用できる。また、上下水・汚濁水・貯留水などの液体中におけるクリプトスポリジウム汚染の防除にも有効である。
【0046】
例えば、予め又は用時に本発明に係る液体状の製剤を準備し、その防除溶液に防除対象物を浸漬したり、その防除溶液を含ませた布材などで防除対象物又は防除対象区域を拭いたりすることでクリプトスポリジウム防除を行ってもよいし、その防除溶液を防除対象物又は防除対象区域に散布したり、噴霧器などで霧状に噴霧したり、若しくは発泡ノズルなどで泡状に噴霧したりすることで、クリプトスポリジウム防除を行ってもよい。また、防除対象が液体の場合、例えば、その液体に上記化合物を添加などし、その液体に上記化合物を含有させることで、クリプトスポリジウム防除を行ってもよい。その他、例えば、粉末状の製剤をそのまま防除対象物又は防除対象区域に撒布・散布してもよい。
【0047】
例えば、家畜飼育場など、広い区域のクリプトスポリジウム防除を行う際には、防除対象区域に本発明に係る防除溶液又は粉末製剤を散布してもよい。各施設の床面・壁面やそれらの施設内に設置・配置された物のクリプトスポリジウム防除を行う際には、本発明に係る防除溶液を含ませた布材などで防除対象物・区域を拭ってもよいし、防除対象物・区域に噴霧器などで本発明に係る防除溶液又は粉末製剤を霧状に略均一に噴霧したり、発泡ノズルなどで泡状に噴霧したりしてもよい。また、各施設の出入口などに踏込槽を準備してその中に本発明に係る防除溶液を入れておくことで、施設に出入りする人の足元をクリプトスポリジウム防除するようにしてもよい。その他、施設内で行う業務で用いる器具・機材などのクリプトスポリジウム防除を行う際には、本発明に係る防除溶液にそれらの器具・機材などを浸漬してもよいし、それらの器具・機材などに本発明に係る防除溶液又は粉末製剤を霧状に略均一に噴霧したり、発泡ノズルなどで泡状に噴霧したりしてもよい。
【0048】
本発明に係るクリプトスポリジウム防除用製剤を液体状の製剤として、若しくは液体状に調製して用いる場合、防除溶液における本発明に係る化合物の濃度は、例えば、最終濃度(使用時の濃度)が1~50,000mg/Lであることが好適であり、10~20,000mg/Lであることがより好適であり、100~10,000mg/Lであることがさらに好適であり、150~5,000mg/Lであることがさらに好適であり、200~1,000mg/Lであることが最も好適である。本発明に係るクリプトスポリジウム防除用製剤を固体状の製剤として用いる場合、同製剤中に、本発明に係る化合物が1~100重量%含有していることが好適であり、3~50重量%含有していることがより好適であり、5~30重量%含有していることが最も好適である。
【0049】
本発明に係るクリプトスポリジウム防除用製剤は、少なくとも本発明に係る化合物が所定濃度の範囲で含有していればよく、当該化合物以外のクリプトスポリジウム防除に有効な成分、及び/又は、クリプトスポリジウム以外の病原の防除に有効な成分をさらに含有していてもよい。
【0050】
<本発明に係る土壌処理方法について>
本発明は、上述の防除用製剤を使用した、クリプトスポリジウム防除のための土壌処理方法をすべて包含する。
【0051】
例えば、家畜飼育場などの土壌全体に、一般式(I)で表された化合物を含有した防除用製剤を散布することにより、家畜飼育場内のクリプトスポリジウム汚染を有効に抑制することができる。
【0052】
散布手段は、公知の手段を広く採用でき、特に限定されない。例えば、予め又は用時に本発明に係る液体状の製剤を準備し、その防除溶液を防除対象区域に散布することで、クリプトスポリジウム防除を行ってもよい。また、例えば、粉末状の製剤を準備し、それをそのまま防除対象区域に散布してもよい。
【0053】
<本発明に係るクリプトスポリジウム症の予防又は治療剤について>
本発明は、上述の化合物を有効成分として含有するクリプトスポリジウム症の予防又は治療剤をすべて包含する。
【0054】
上述の通り、この化合物は、クリプトスポリジウムが宿主上皮細胞へ侵入する能力を阻害し、その感染を抑制する効果を有しており、ヒト、ウシ、ブタなどのクリプトスポリジウム症の予防又は治療剤としても有効な可能性がある。
【0055】
本発明に係るクリプトスポリジウム症の予防又は治療剤は、固体状(例えば、粉末、顆粒、錠剤など)、液体状(例えば、液剤、懸濁化剤など)など、公知の剤型を広く採用できる。
【0056】
例えば、粉末・顆粒・錠剤などの固形製剤とする場合、目的・用途・剤型などに応じて、本剤に、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、安定剤、固体担体、緩衝剤、等張化剤、界面活性剤、防腐剤、抗菌剤、抗酸化剤、pH調整剤、分散剤、芳香剤、着色剤、増粘剤、無痛化剤などが適宜添加されていてもよい。無痛化剤の例として、例えば、ベンジルアルコールなどを用いることができる。その他の各成分には、例えば、上述のものを広く採用することができる。
【0057】
例えば、液剤・懸濁化剤などの液体状製剤とする場合、目的・用途・剤型などに応じて、溶媒のほか、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、界面活性剤、防腐剤、抗菌剤、抗酸化剤、pH調整剤、着色剤、増粘剤、無痛化剤などを適宜配合してもよい。各成分には、例えば、上述のものを広く採用することができる。
【0058】
本発明に係る薬剤は、哺乳動物、例えば、ヒト、家畜類(例えば、ウシ、ブタなど)、イヌ、ネコなどに適用可能性がある。
【0059】
投与ルートは適用対象(患者・患畜)の腸内に本薬剤が到達すればよく、特に限定されない。例えば、固形製剤又は液体製剤を経口投与してもよく、注射剤、坐剤、ペレットなどで非経口投与してもよい。また、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなどに適用する場合、餌などに含有させ、それを摂取させることで投与するようにしてもよい。
【0060】
投与量は、適用対象・症状・投与方法などに応じて適宜定めればよく、特に限定されない。投与量は、例えば、好適には0.01~200mg/kg(体重)/日であり、より好適には、0.05~100mg/kg(体重)/日であり、最も好適には、0.1~30mg/kg(体重)/日である。
【実施例1】
【0061】
実施例1では、クリプトスポリジウムの宿主腸管内細胞への侵入が、イソチオシアン酸アリルによって抑制されるかどうかを検証した。
【0062】
宿主細胞として、HCT-8細胞(ヒト大腸がん由来細胞)を準備した。96ウエルプレートにHCT-8細胞を播種し、コンフルエントの状態になるように培養した。
【0063】
クリプトスポリジウムを、以下の通り調製した。クリプトスポリジウムオーシストを遠心分離によって集積させた後、タウロコール酸及びトリプシンを加えて37℃条件下で60分間静置して脱嚢させ、得られたスポロゾイトを収集・懸濁し、供試材料とした。
【0064】
試験物質として、ワサオーロ(登録商標、三菱化学フーズ株式会社製、イソチオシアン酸アリルを10重量%含有した粉末製剤、以下同じ)を精製水で溶解して用いた。
【0065】
HCT-8細胞が播種された各ウエルに、スポロゾイト(2×104cells/ウエル)と、イソチオシアン酸アリルを含有した培地100μLとを加え、48時間静置した。なお、培地は、RPMI-1640に10%FCSなどを添加した通常の培地に、イソチオシアン酸アリルが、最終濃度で、それぞれ0.001μg/mL、0.01μg/mL、0.1μg/mL、1.0μg/mLになるようにワサオーロ溶液を添加し、調製した。その他、陰性対照では、培地にワサオーロ溶液を添加せず、陽性対照では、培地に、ワサオーロ溶液の代わりにパロモマイシンを、最終濃度が1.0μg/mLになるように添加した。
【0066】
イソチオシアン酸アリル存在下で48時間静置した後、培地中に残ったスポロゾイト(HCT-8細胞に侵入しなかったスポロゾイト)を培地ごと除去し、PBSで洗浄した後、底面のHCT-8細胞をメタノール固定した。そして、抗クリプトスポリジウム抗体を一次抗体として免疫染色を行い、顕微鏡下で、HCT-8細胞内に侵入したクリプトスポリジウムの数を計測した。
【0067】
結果を
図1に示す。
図1は、イソチオシアン酸アリル存在下におけるHCT-8細胞へのクリプトスポリジウムの侵入率を表すグラフである。図中の縦軸の「宿主細胞への侵入率」は、イソチオシアン酸アリル非存在下でのHCT-8細胞へのクリプトスポリジウムの侵入数を100%とした場合におけるクリプトスポリジウムの侵入率の棒グラフであることを表す。図中、「N」の棒グラフは陰性対照(イソチオシアン酸アリル非存在下におけるHCT-8細胞へのクリプトスポリジウムの侵入率、即ち100%)を、「P」の棒グラフは陽性対照(パロモマイシン1.0μg/mL存在下でのHCT-8細胞へのクリプトスポリジウムの侵入率)を表す。図中の「1~4」の棒グラフは、それぞれ、イソチオシアン酸アリルを、最終濃度で0.001μg/mL、0.01μg/mL、0.1μg/mL、又は1.0μg/mL添加した場合におけるHCT-8細胞へのクリプトスポリジウムの侵入率を表す。
【0068】
図1に示す通り、イソチオシアン酸アリル非存在下における宿主細胞へのクリプトスポリジウムの侵入率(100%)と比較して、イソチオシアン酸アリル存在下では、原虫の宿主細胞への侵入率が顕著かつ濃度依存的に低下した。また、陽性対照(パロモマイシン存在下)と比較しても、イソチオシアン酸アリル存在下では、原虫の宿主細胞への侵入が顕著に抑制されていた。本結果より、イソチオシアン酸アリルが、クリプトスポリジウムが宿主上皮細胞へ侵入する能力を阻害し、その感染を抑制する効果を有していることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】実施例1において、イソチオシアン酸アリル存在下におけるHCT-8細胞へのクリプトスポリジウムの侵入率を表すグラフ。