(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】透明ポリイミド系高分子を含む光学フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231006BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
G02B5/30
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019048368
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018063083
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】池内 淳一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓史
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 佳久
(72)【発明者】
【氏名】林 志成
(72)【発明者】
【氏名】呂 奇明
(72)【発明者】
【氏名】李 宗銘
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ポリイミド系高分子を含む光学フィルムであって、
該透明ポリイミド系高分子の鎖中のイミド基に由来する
1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する
1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)は0.0001以上0.001以下であり、該透明ポリイミド系高分子のポリスチレン換算分子量は25万以上50万以下である、光学フィルム。
【請求項2】
厚さが30μm以上100μm以下であり、全光線透過率が85%以上である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記透明ポリイミド系高分子がフッ素基を有する、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記透明ポリイミド系高分子が2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン誘導体由来の繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
透明ポリイミド系高分子前駆体を減圧雰囲気下でイミド化して透明ポリイミド系高分子溶液を得るイミド化工程と、該透明ポリイミド系高分子溶液を希釈溶媒で希釈してワニスを調製する希釈工程と、該ワニスをキャスト成膜する工程とを有する光学フィルムの製造方法であって、該イミド化工程を行う反応容器の気相中の酸素濃度は0.02%以下であり、該
透明ポリイミド系高分子溶液に含まれる透明ポリイミド系高分子における鎖中のイミド基に由来する
1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する
1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)は0.0001以上0.001以下であり、該透明ポリイミド系高分子のポリスチレン換算分子量は25万以上50万以下である、光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ワニスがエステル系溶媒を含む、請求項5記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
フレキシブル表示装置の前面板用のフィルムである、請求項1~4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の光学フィルムを備えるフレキシブル表示装置。
【請求項9】
タッチセンサをさらに備える、請求項8に記載のフレキシブル表示装置。
【請求項10】
偏光板をさらに備える、請求項8又は9に記載のフレキシブル表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリイミド系高分子を含む光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリイミド系高分子を含む光学フィルムは、例えば、テレビ、パソコン、スマートフォン、タブレッド、及び電子ペーパーのような画像表示装置に対して機能を付与するための機能性フィルムとして使用されている。特に、上記画像表示装置内のディスプレイやタッチパネルのような電子デバイスの表示部分に使用される機能性フィルムには、黄色着色が小さいという高い透明性と高い耐折性とが求められる。
このような光学フィルムの製造方法として、ポリイミド系高分子と溶媒とを含むワニスを基材上に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させて製造する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ポリアミドイミド樹脂と酢酸ブチルとを含むワニスを用いたフィルムの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ワニスを製造してから長期保存する場合や、ワニスに用いる溶媒を長期保存した後にワニスを製造する場合に、ワニス自体が着色して得られるポリイミド系高分子のフィルムの透明性が低下することがあった。透明性を回復させる対応策として、ワニスの精製方法、例えば、着色したワニスからポリイミド系高分子を析出等で取り出し、溶媒に再溶解させる方法があるが、コスト面で不利となる。
このように長期保存したワニスや、長期保存した溶媒で製造したワニスを用いた場合に、高い透明性を有する光学フィルムを得ることは困難であった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期保存したワニスや、長期保存した溶媒で製造したワニスを用いた場合であっても、黄色着色が小さいという高い透明性及び高い耐折性を有する光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下の態様が含まれる。
[1]透明ポリイミド系高分子を含む光学フィルムであって、
該透明ポリイミド系高分子の鎖中のイミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)は0.0001以上0.001以下である、光学フィルム。
[2]該透明ポリイミド系高分子のポリスチレン換算分子量は25万以上50万以下である、[1]に記載の光学フィルム。
[3]厚さが30μm以上100μm以下であり、全光線透過率が85%以上である、[1]又は[2]に記載の光学フィルム。
[4]前記透明ポリイミド系高分子がフッ素基を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の光学フィルム。
[5]前記透明ポリイミド系高分子が2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン誘導体由来の繰り返し単位を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の光学フィルム。
[6]透明ポリイミド系高分子を含むワニスをキャスト成膜する工程を有する光学フィルムの製造方法であって、該透明ポリイミド系高分子における鎖中のイミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)は0.0001以上0.001以下である、光学フィルムの製造方法。
[7]前記ワニスがエステル系溶媒を含む、[6]に記載の光学フィルムの製造方法。
[8]フレキシブル表示装置の前面板用のフィルムである、[1]~[5]のいずれかに記載の光学フィルム。
[9][8]に記載の光学フィルムを備えるフレキシブル表示装置。
[10]タッチセンサをさらに備える、[9]に記載のフレキシブル表示装置。
[11]偏光板をさらに備える、[9]又は[10]に記載のフレキシブル表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期保存したワニスや、長期保存した溶媒で製造したワニスを用いた場合であっても、黄色着色が小さいという高い透明性及び高い耐折性を有する光学フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<光学フィルム>
本発明の光学フィルムは、
透明ポリイミド系高分子を含み、
該透明ポリイミド系高分子の鎖中のイミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)は0.0001以上0.001以下である。
【0009】
[1.積分比A/B]
積分比A/Bが0.0001以上0.001以下であると、光学フィルムの透明性が高くなる。透明ポリイミド系高分子における末端アミノ基の存在割合が十分に小さいため、透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基が過酸化物のような酸化剤により酸化されていない傾向にあるためと考えられる。透明ポリイミド系高分子の積分比A/Bは、光学フィルムの透明性をさらに向上させる観点から、好ましくは0.0002以上0.0008以下、より好ましくは0.0003以上0.0006以下である。本願の実施例の分子構造での積分比A/Bの算出方法は、実施例にて詳細に説明する。分子構造が異なる場合、測定可能なピークを適宜選択して算出することができる。
積分比A/Bを調整する手段としては、例えば、透明ポリイミド系高分子の重合度を調整する手段、及び過酸化物のような酸化剤による酸化反応の進行を阻害する手段が挙げられる。該重合度を調整する手段としては、例えば、重合条件(より具体的には、重合時間、重合温度、触媒の使用、溶媒の種類、及びモノマーの濃度等)が挙げられる。酸化反応の進行を阻害する手段としては、例えば、光学フィルムを作製するためのワニス中の過酸化物の濃度を低下させる手段(より具体的には、ワニス中で過酸化物の生成を阻害する手段等)が挙げられる。ワニスは、透明ポリイミド系高分子と溶媒とを含む。ワニス中の過酸化物は、主にワニス中の溶媒分子と溶存酸素との反応(溶媒分子の酸化反応)で生成すると考えられる。このため、ワニス中で過酸化物の生成を阻害する手段としては、例えば、ワニス中の溶存酸素濃度を低減する手段、及び酸素と反応して過酸化物を生成しにくい溶媒の種類を選択する手段が挙げられる。ワニス中の溶存酸素濃度を低減する手段としては、例えば、不活性ガス(より具体的には、アルゴンガス及びネオンガスのような希ガス、並びに窒素ガス等)により溶媒に対してバブリング処理を実行して、溶媒中の溶存酸素を不活性ガスに置換させる手段、及び減圧雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下として、溶媒と接触する気相の酸素濃度を低減する手段が挙げられる。バブリング処理の時間は、溶存酸素の置換を十分に達成し、かつコストを低減する観点から、例えば、10分以上1時間以下であることが好ましい。例えば、2種のエステルを含む混合溶媒に対してバブリング処理を実行する場合、2種の溶媒を混合する前にそれらの溶媒のうち、少なくとも一方のバブリング処理を実行してもよい。2種の溶媒を混合した後に、混合溶媒に対してバブリング処理を実行してもよい。また、ワニスを調製した後に、ワニスに対してバブリング処理を実行してもよい。溶媒については、後述する。
【0010】
本発明において、透明ポリイミド系高分子のイミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Bは、透明ポリイミド系高分子のイミド基の数に対応して存在するプロトンの1H-NMRシグナルの積分値であってよい。また、透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Aは、透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基の数に対応して存在するプロトンの1H-NMRシグナルの積分値であってよい。
前記末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルは、末端アミノ基の近傍のプロトンに由来するシグナルであって、化学シフトが他のプロトンと重ならないシグナルを適宜選択することができる。前記末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルとして、アミノ基自身のプロトンに由来する1H-NMRシグナルを選択してもよいが、水分等の影響で波形が変化して精度が低くなる場合や他のピークと重複する場合には、末端アミノ基の近傍のプロトンを選択することが好ましい。前記イミド基の数に対応して存在するプロトンの1H-NMRシグナルは、ポリマーの構造中、イミド骨格に相関の強いプロトンの1H-NMRピークを選択すればよい。例えば、前記末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値の測定に、末端アミノ基の近傍の特定の部分構造Aにおける特定のプロトンAを選択し、同様の部分構造中のプロトンであって、化学シフトが異なるプロトンBをイミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値の測定に使用することができる。これらの1H-NMRシグナルの積分強度の比に基づいて、イミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)を求めることができる。なお、この場合、プロトンAの数がアミノ基の数に相当し、プロトンBの数がイミド基の数に相当するように、各プロトンを選択する。前記部分構造Aとしては、ポリマー中のジアミンに由来する構造を挙げることができる。
【0011】
[2.ポリスチレン換算分子量]
透明ポリイミド系高分子のポリスチレン換算分子量(ポリスチレン換算重量平均分子量)は、好ましくは25万以上50万以下、より好ましくは27万以上45万以下、さらに好ましくは30万以上45万以下である。ポリスチレン換算分子量が50万以下であると、光学フィルムを作製するためのワニスの加工性を向上させることができる。ポリスチレン換算分子量が25万以上であると、光学フィルムの耐折性を向上させることができる。
よって、ポリスチレン換算分子量が25万以上50万以下であると、光学フィルムの耐折性を向上させることができ、かつワニスの加工性を向上させることができる。
透明ポリイミド系高分子のポリスチレン換算分子量の測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて測定する。測定方法は、実施例にて詳細に説明する。
【0012】
ポリスチレン換算分子量の調整する手段としては、例えば、透明ポリイミド系高分子の重合度を調整する手段が挙げられる。該重合度を調整する手段としては、例えば、重合条件(より具体的には、重合時間、重合温度、触媒の使用、溶媒の種類、及びモノマーの濃度等)が挙げられる。
【0013】
[3.厚さ]
光学フィルムの厚さは、好ましくは30μm以上100μm以下、より好ましくは30μm以上90μm以下、さらに好ましくは30μm以上85μm以下である。厚さが30μm以上であると光学フィルムをデバイスとしたときの内部の保護の観点で有利であり、厚さが100μm以下であると耐折性、コスト、透明性などの観点で有利である。
【0014】
[4.透過率]
光学フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0015】
[5.透明ポリイミド系高分子]
(重合及びイミド化により得られる透明ポリイミド系高分子)
透明ポリイミド系高分子としては、例えば、ポリイミドが挙げられ、ポリイミド及びその誘導体を包括的に含む。本明細書においてポリイミドとは、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する重合体をいう。
【0016】
透明ポリイミド系高分子は、透明ポリイミド系高分子のフィルムの透明性の観点から、式(10)で表される繰り返し単位を主として含むことが好ましい。式(10)で表される繰り返し単位の比率は、透明ポリイミド系高分子の全繰り返し単位の合計に対し、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上、とりわけ好ましくは98モル%以上である。式(10)で表される繰り返し単位は、100モル%であってもよい。また、式(10)中、Gは4価の有機基であり、Aは2価の有機基である。
透明ポリイミド系高分子は、G及び/又はAが異なる、2種以上の式(10)で表される繰り返し単位を含んでもよい。
【0017】
【0018】
透明ポリイミド系高分子は、得られる透明ポリイミド系高分子フィルムの各種物性を損なわない範囲で、式(11)、式(12)及び式(13)で表される繰り返し単位のいずれか1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0019】
【0020】
式(10)及び式(11)中、G及びG1は4価の有機基を表し、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基を表す。G及びG1としては、例えば、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基、並びに4価の炭素原子数6以下の鎖式炭化水素基が挙げられる。式(20)~式(29)中の*は結合手を表し、式(26)中のZは、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-Ar-、-SO2-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH2-Ar-、-Ar-C(CH3)2-Ar-又は-Ar-SO2-Ar-を表す。Arは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数6~20のアリーレン基(より具体的には、フェニレン基等)を表す。得られるフィルムの黄色度を抑制する観点から、G及びG1は、式(20)~式(27)で表される基を表すことが好ましい。
【0021】
【0022】
式(12)中、G2は3価の有機基を表し、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基を表す。G2が表す3価の有機基としては、例えば、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基、並びに3価の炭素原子数6以下の鎖式炭化水素基が挙げられる。
【0023】
式(13)中、G3は2価の有機基を表し、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基を表す。G3が表す2価の有機基としては、例えば、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つがそれぞれ水素原子に置き換わった基、並びに炭素原子数6以下の2価の鎖式炭化水素基が挙げられる。
【0024】
式(10)~式(13)中、A、A1、A2及びA3はいずれも2価の有機基を表し、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基を表す。A、A1、A2、及びA3としては、例えば、式(30)、式(31)、式(32)、式(33)、式(34)、式(35)、式(36)、式(37)及び式(38)で表される基;それらがメチル基、フルオロ基、クロロ基、又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素原子数6以下の鎖式炭化水素基が挙げられる。
式(30)~式(38)中の*は結合手を表し、式(34)~式(36)中のZ1、Z2及びZ3は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-又は-CO-を表す。1つの例は、Z1及びZ3が-O-であり、かつ、Z2が-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-SO2-を表す。Z1とZ2、及び、Z2とZ3は、それぞれ、好ましくは各環に対してメタ位又はパラ位である。
【0025】
【0026】
式(10)及び式(11)で表される繰り返し単位は、通常、ジアミン及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(12)で表される繰り返し単位は、通常、ジアミン及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(13)で表される繰り返し単位は、通常、ジアミン及びジカルボン酸化合物から誘導される。これらカルボン酸化合物(テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物、及びジカルボン酸化合物)は、カルボン酸化合物類縁体(より具体的には、カルボン酸無水物、及びハロゲン化アルカノイル等)であってもよい。
【0027】
透明ポリイミド系高分子はフッ素基を有することが好ましい。透明ポリイミド系高分子は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン誘導体由来の繰り返し単位を含むことが好ましい。なお、本明細書では、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン誘導体は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンも含む。
【0028】
(テトラカルボン酸化合物)
テトラカルボン酸化合物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物のような芳香族テトラカルボン酸化合物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物のような脂肪族テトラカルボン酸化合物が挙げられる。これらテトラカルボン酸化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、テトラカルボン酸二無水物の他、テトラカルボン酸クロライド化合物のようなテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0029】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(以下、6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。
【0030】
また、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これら芳香族テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0031】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。本明細書において、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物をいう。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物のようなシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物並びにこれらの位置異性体が挙げられる。これら環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物及び1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。これら非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0032】
透明ポリイミド系高分子のフィルムの透明性をさらに向上させる観点から、テトラカルボン酸化合物は、脂環式テトラカルボン酸二無水物又は非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)がより好ましい。これら好適なテトラカルボン酸化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0033】
(トリカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物)
原料モノマーは、トリカルボン酸化合物及び/又はジカルボン酸化合物をさらに含むことができる。
トリカルボン酸化合物としては、例えば、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、並びにそれらの類縁の酸クロライド化合物及び酸無水物が挙げられる。これらのトリカルボン酸化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。トリカルボン酸化合物としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0034】
ジカルボン酸化合物としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、並びにそれらの類縁の酸クロライド化合物及び酸無水物等が挙げられる。これらのジカルボン酸化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素原子数8以下である鎖式炭化水素のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0035】
テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物、及びジカルボン酸化合物の合計に対する、テトラカルボン酸化合物の割合は好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは90モル%以上、とりわけ好ましくは98モル%以上である。
【0036】
(ジアミン)
ジアミンとしては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、又はそれらの混合物が挙げられる。なお、本明細書において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。芳香環は単環でも縮合環でもよい。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びフルオレン環が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。芳香環の中でも、好ましくはベンゼン環である。また、本明細書において、「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0037】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミンのような非環式脂肪族ジアミン、並びに1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、及び4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンのような環式脂肪族ジアミンが挙げられる。これら脂肪族ジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0038】
芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、及び1,5-ジアミノナフタレン、並びに2,6-ジアミノナフタレンのような芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB))、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン、及びこれらの誘導体のような芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これら芳香族ジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0039】
ジアミンは、フッ素系置換基を有することもできる。フッ素系置換基としては、例えば、トリフルオロメチル基のような炭素原子数1~5のパーフルオロアルキル基及び、フルオロ基である。
【0040】
上記ジアミンの中でも、高透明性及び低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)誘導体、及び4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがさらに好ましい。
ジアミンは、ビフェニル構造及びフッ素系置換基を有するジアミンであることが好ましい。ビフェニル構造及びフッ素系置換基を有するジアミンとしては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)誘導体が挙げられる。
【0041】
原料モノマー中のジアミンと、テトラカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物とのモル比は、ジアミン1.00モルに対して、好ましくはテトラカルボン酸0.9モル以上1.1モル以下の範囲で適宜調節できる。高い耐折性を発現するためには得られる透明ポリイミド系高分子が高分子量であることが好ましいことから、ジアミン1.00モルに対してテトラカルボン酸0.98モル以上1.02モル以下であることがより好ましく、0.99モル以上1.01モル以下であることがさらに好ましい。
また、得られる透明ポリイミド系高分子フィルムの黄色度を抑制する観点から、得られる高分子末端に占めるアミノ基の割合が低いことが好ましく、ジアミン1.00モルに対してテトラカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物は1.00モル以上であることが好ましい。
【0042】
ジアミン及びカルボン酸化合物(例えば、テトラカルボン酸化合物)の分子中のフッ素数を調整して、得られる透明ポリイミド系高分子中のフッ素量を、透明ポリイミド系高分子の質量を基準として、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上とすることができる。フッ素の割合が高いほど原料費が高くなる傾向があることから、フッ素量の上限は好ましくは40質量%以下である。フッ素系置換基は、ジアミン又はカルボン酸化合物のいずれに存在してもよく、両方に存在してもよい。フッ素系置換基を含むことにより特にYI値が低減される場合がある。
【0043】
[6.光学フィルムの製造方法]
本発明の光学フィルムの製造方法は、透明ポリイミド系高分子を含むワニスをキャスト成膜する工程を有し、該透明ポリイミド系高分子における鎖中のイミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)は0.0001以上0.001以下である。透明ポリイミド系高分子を含むワニスをキャスト成膜する工程の一例を説明する。基材上にワニスを流延して塗膜を形成し、減圧、乾燥、及び加熱のような手段により塗膜から溶媒を除去し、基材から剥離する。これにより、透明ポリイミド系高分子フィルムが得られる。
【0044】
流延は、ロール・ツー・ロールやバッチ方式により、樹脂基材、ステンレス鋼ベルト、又はガラス基材上に行うことができる。樹脂基材としては、例えば、PET、PEN、ポリイミド、及びポリアミドイミドが挙げられる。これらの樹脂基材のうち、フィルムとの密着性及びコストの観点で、PETが好ましい。
【0045】
上記の製造方法で得られるワニスは、精製工程を経ずにフィルム化しても透明性の高い透明ポリイミド系高分子のフィルムが得られる。このため、ワニスから透明ポリイミド系高分子を析出等で取り出し、その後溶媒に再溶解する精製工程を経ずにフィルム化することができる。これにより、コスト面で有利なプロセスとなる。
【0046】
本発明の光学フィルムの製造方法では、加温した気体を塗膜の表面に接触させる乾燥機に塗膜を通過させるなどして、一定量の有機溶媒を揮発させ、塗膜を自己支持性フィルムとして支持体から剥離して得てもよい。実施温度は用いる基材により調節され、樹脂基材を用いる場合はそれらのガラス転移温度以下で行われるのが一般的である。通常、50~300℃の適切な温度に加熱すればよく、加熱温度は多段階で調節したり、温度勾配をつけたりしてもよい。適宜、不活性雰囲気あるいは減圧の条件下でおこなうことも好適である。
【0047】
また、必要に応じて、剥離された透明ポリイミド系高分子フィルムをさらに80~300℃で加熱してもよい。
【0048】
ワニスは、透明ポリイミド系高分子と溶媒とを含む。
【0049】
〔溶媒〕
溶媒は、ワニスの組成としての基本的な特性を備えた上で、さらに長期にわたり高い透明性を有することが好ましい。前者は、透明ポリイミド系高分子を溶解又は分散させ、かつワニスの粘度を塗布に適切な粘度にする特性である。後者は、例えば、溶媒分子が酸素と反応しにくく又は酸素と反応しても反応活性の高い過酸化物を生成しにくい特性、及び酸素を溶存させにくい特性である。
このような特性を満たす観点から、溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒(より具体的には、N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと記載することがある)、及びジメチルスルホキシド等)、ケトン(より具体的には、シクロペンタノン(以下、CPと記載することがある)等)、及びエステル系溶媒であるカルボン酸エステル(より具体的には、酢酸エステル、及び環状カルボン酸エステル等)が挙げられる。酢酸エステルとしては、例えば、酢酸ブチル、酢酸アミル、及び酢酸イソアミルが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、例えば、γ-ブチロラクトン(以下、GBLと記載することがある)が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0050】
これらの溶媒の中でも、2つの特性をさらに向上させる観点から、GBL、DMAc、酢酸ブチル、酢酸アミル、CP及び酢酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒が好ましく、及び前記溶媒から選ばれる少なくとも2種以上のエステルがより好ましい。前記少なくとも1種の溶媒としては、例えば、DMAcとGBL、及びCPとGBLとの組合せが挙げられる。前記少なくとも2種以上のエステルの組合せとしては、例えば、GBLとDMAc、GBLと酢酸ブチル、GBLと酢酸アミル、GBLと酢酸イソアミル、DMAcと酢酸ブチル、DMAcと酢酸アミル、DMAcと酢酸イソアミル、酢酸ブチルと酢酸アミル、酢酸ブチルと酢酸イソアミル、酢酸アミルと酢酸イソアミル、GBLとDMAcと酢酸ブチル、GBLとDMAcと酢酸アミル、GBLとDMAcと酢酸イソアミル、GBLと酢酸ブチルと酢酸アミル、GBLと酢酸ブチルと酢酸イソアミル、GBLと酢酸アミルと酢酸イソアミル、DMAcと酢酸ブチルと酢酸アミル、DMAcと酢酸ブチルと酢酸イソアミル、DMAcと酢酸アミルと酢酸イソアミル、酢酸ブチルと酢酸アミルと酢酸イソアミル、GBLとDMAcと酢酸ブチルと酢酸アミル、GBLとDMAcと酢酸ブチルと酢酸イソアミル、GBLとDMAcと酢酸アミルと酢酸イソアミル、GBLと酢酸ブチルと酢酸アミルと酢酸イソアミル、DMAcと酢酸ブチルと酢酸アミルと酢酸イソアミル、及びGBLとDMAcと酢酸ブチルと酢酸アミルと酢酸イソアミルとの組合せが挙げられ、好ましくはGBLと酢酸ブチル、GBLと酢酸アミル、GBLと酢酸イソアミル、酢酸ブチルと酢酸アミル、酢酸ブチルと酢酸イソアミル、酢酸アミルと酢酸イソアミル、GBLと酢酸ブチルと酢酸アミル、GBLと酢酸ブチルと酢酸イソアミル、GBLと酢酸アミルと酢酸イソアミル、酢酸ブチルと酢酸アミルと酢酸イソアミル、及びGBLと酢酸ブチルと酢酸アミルと酢酸イソアミルとの組合せが挙げられ、より好ましくはGBLと酢酸ブチル、GBLと酢酸アミル、GBLと酢酸イソアミル、GBLと酢酸ブチルと酢酸アミル、GBLと酢酸ブチルと酢酸イソアミル、GBLと酢酸アミルと酢酸イソアミル、及びGBLと酢酸ブチルと酢酸アミルと酢酸イソアミルとの組合せが挙げられる。
【0051】
2種の溶媒からなる混合溶媒の場合、その混合比(質量比)は、好ましくは1:9~9:1、より好ましくは2:8~8:2である。3種の溶媒からなる混合溶媒の場合、その混合比(質量比)は、好ましくは1~8:1~8:1~8、より好ましくは2~7:2~7:2~7である。
2種以上の溶媒からなる場合、2種以上の溶媒のうちの1種の溶媒の含有率は、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0052】
〔添加剤〕
ワニスは、透明性を損なわない範囲で、添加剤をさらに含んでもよい。添加剤としては、例えば、無機粒子、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、安定剤、着色剤、難燃剤、滑剤、増粘剤、及びレベリング剤が挙げられる。
【0053】
[7.ワニスの製造方法]
ワニスの製造方法は、例えば、透明ポリイミド系高分子の原料モノマーを溶媒A中において重合して透明ポリイミド系高分子前駆体を得る重合工程と、減圧雰囲気下、第三級アミンを含む溶媒A中において該透明ポリイミド系高分子前駆体をイミド化して透明ポリイミド系高分子溶液を得るイミド化工程と、該透明ポリイミド系高分子溶液を溶媒Bで希釈してワニスを調製する希釈工程とを含む。ワニスの製造工程は、反応容器からワニスを抜き出すワニス抜き出し工程をさらに含んでもよい。
【0054】
(重合工程)
重合工程では、透明ポリイミド系高分子の原料モノマーを溶媒A中において重合して透明ポリイミド系高分子前駆体を得る。溶媒Aは、上述した溶媒で挙げたものとすることができる。原料モノマー及び溶媒Aを含む全液体に占める原料モノマーの量は、10~60質量%とすることができる。原料モノマーの量が多いと重合速度が上がる傾向があり、分子量を高くすることができる。また、重合時間を短縮することができ、透明ポリイミド系高分子の着色が抑えられる傾向にある。原料モノマーの量が多すぎると、重合物又は重合物を含む溶液の粘度が高くなる傾向にあるため、撹拌しにくくなったり、反応容器や撹拌翼などに重合物が付着して収率が低くなったりすることがある。なお、溶媒Aは、上述した溶媒で挙げたものとすることができる。
【0055】
原料モノマーの各成分、及び、溶媒Aの混合の順序は特に限定されず、全てを同時に混合しても良いし別々に混合してもよいが、ジアミンの少なくとも一部と溶媒とを混合した後にカルボン酸化合物を加えることが好ましい。ジアミン及びカルボン酸化合物は分割して加えても、化合物ごとに段階的に加えてもよい。
【0056】
反応マス中の原料モノマーをよく撹拌することで原料モノマーの重合が促進され透明ポリイミド系高分子前駆体が形成される。必要に応じて、反応マスを40~90℃程度に加熱してもよい。原料モノマーの重合工程の進行と同時並行で、後述するイミド化工程を進行させることもできる。この場合、後述するイミド化の条件に合せて反応マスをさらに高温に加熱してもよい。
重合の反応時間は、例えば、24時間以下とすることができ、1時間以下であってもよいし、1~24時間とすることができる。
【0057】
反応マスは透明ポリイミド系高分子前駆体の重合工程中に第三級アミンを含んでいてもよい。この場合、第三級アミンはジアミンと溶媒Aとを混合する前に加えても、混合した後に加えてもよく、ジアミンと溶媒とカルボン酸化合物とを混合した後に加えてもよい。
また、用いる溶媒の一部で希釈しておいてから反応マスに加えてもよい。
【0058】
〔第三級アミン〕
第三級アミンは、重合工程での溶媒A中で原料モノマーの重合触媒として、又はイミド化工程での溶媒A中で透明ポリイミド系高分子前駆体のイミド化触媒として機能し得る。
第三級アミンの例としては、式(d)で表される第三級アミン(以下、第三級アミンDと記載することがある)が挙げられる。
【0059】
【化5】
式(d)において、R
1Dは炭素原子数8~15の三価の脂肪族炭化水素基である。
【0060】
第三級アミンDとしては、例えば、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン及びイソキノリンが挙げられる。
【0061】
第三級アミンの沸点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、さらに好ましくは170℃以上、とりわけ好ましくは200℃以上である。第三級アミンの沸点の上限は特に規定されないが、通常350℃以下である。第三級アミンの沸点が前記の範囲にあると、減圧中の水分の留去に際して、系外に除かれる触媒量が抑制される傾向があるために好ましい。
【0062】
(イミド化工程)
続いて、イミド化工程では、減圧雰囲気下、第三級アミンを含む溶媒A中において前記透明ポリイミド系高分子前駆体をイミド化して透明ポリイミド系高分子溶液を得る。より具体的には、減圧雰囲気下で、第三級アミンを含む反応マスを加熱することによって透明ポリイミド系高分子前駆体のイミド化を促進し、ポリイミドを生成しつつ副生する水等を留去する。上記の重合を行った反応容器内で、溶媒A中の透明ポリイミド系高分子前駆体をイミド化することが好適である。第三級アミンは、上述のように原料モノマーを重合して透明ポリイミド系高分子前駆体を生成する重合工程中又は重合工程前に加えてもよいが、透明ポリイミド系高分子前駆体を生成する工程の後に加えてもよい。
【0063】
透明ポリイミド系高分子前駆体の生成反応とイミド化反応とを、同時に進行させてもよい。その場合、イミド化反応で生成する水によりアミド基の結合が切断され、得られる透明ポリイミド系高分子の分子量が低くなることがある。このような透明ポリイミド系高分子を含むワニスから得られるフィルムは、耐折性が低下することがある。イミド化工程の際に、減圧して反応溶液中の水を速やかに除去することで、アミド基の切断反応を抑制し、得られる透明ポリイミド系高分子の分子量を高くすることができる。したがって、特に透明ポリイミド系高分子前駆体の生成反応とイミド化反応とを同時に進行させる場合に、イミド化工程を減圧雰囲気下で行うことにより、精製工程を経ずに透明ポリイミド系高分子を含むワニスから直接フィルムを製造してもフィルムに高い耐折性を与えられる傾向がある。
【0064】
反応マスにおいて、耐折性向上の観点から、100質量部の原料モノマーに対する第三級アミンの添加量は、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上である。一方、フィルムの着色を抑制する目的からは触媒の添加量は少ないことが好ましい。第三級アミンの添加量は好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.7質量部以下、よりさらに好ましくは0.5質量部以下、とりわけ好ましくは0.3質量部以下である。
【0065】
イミド化工程の温度は、好ましくは100℃以上250℃以下、より好ましくは150℃以上210℃以下である。
【0066】
イミド化工程の圧力は、好ましくは730mmHg以下、より好ましくは700mmHg以下、さらに好ましくは675mmHg以下である。イミド化工程の圧力は、例えば、350mmHg以上とすることができ、500mmHg以上であってもよい。イミド化工程の温度における溶媒の蒸気圧によっては、反応の安定性を高めるために圧力は400mmHg以上で行うことが好ましいこともある。同じ理由で、600mmHg以上で行うことがより好ましいこともある。
イミド化工程の圧力をイミド化工程の溶媒の飽和蒸気圧の近くに設定するとYIが抑制されやすい傾向がある。飽和蒸気圧から50mmHg以内の圧力が好ましい。
【0067】
加熱時間は、例えば、通常、1~24時間、好ましくは1~12時間、より好ましくは2~9時間、さらに好ましくは2~8時間、よりさらに好ましくは2~6時間、とりわけ好ましくは2~5時間である。加熱中には撹拌を行うことが好適である。
反応時間が長くなると、分子量が高くなるが、樹脂の黄色味が強くなりやすい傾向がある。一方、反応時間が短いと分子量が低くなりやすく、黄色味は弱くなる傾向がある。
【0068】
透明ポリイミド系高分子のフィルムの透明性の低下を抑制する観点から、イミド化工程は、減圧雰囲気下で実行することが好ましい。イミド化工程が減圧雰囲気下で実行されると、反応容器内の溶媒Aを含む液相と接触する気相中の酸素濃度が低いため、溶媒A中への酸素の溶け込みが低減し、透明ポリイミド系高分子溶液中の過酸化物濃度が低減すると考えられる。製造方法において、反応容器の気相中の酸素濃度が低い状態で、減圧雰囲気下での反応マスの加熱によるイミド化工程が行われればよく、減圧雰囲気下での加熱より前、原料モノマー等の投入する時から当該酸素濃度が低くてもよい。酸素濃度は、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.01%以下である。高温に加熱したときに酸素濃度が高いと、特に着色の原因となるので、例えば、反応溶液の温度が130℃以上のときに、酸素濃度を0.02%以下にすることが好ましい。前駆体の合成及び前駆体のイミド化において、実質的に酸素は発生しないことから、例えば原料投入前に反応容器内を窒素ガスで置換するなどして気相の酸素濃度を下げることにより、イミド化工程における気相の酸素濃度を低減することができる。イミド化工程の酸素濃度は、例えば反応容器内部を減圧する際に反応容器から除去するガス中の酸素濃度の分析をすることにより把握できる。減圧中の酸素濃度の測定が困難な場合、減圧前後の気相をサンプリングして酸素濃度を測定してもよい。減圧雰囲気下と同様に酸素濃度を下げる目的で、減圧雰囲気下に代えて不活性ガス雰囲気下でイミド化工程を実行してもよい。
【0069】
加熱後に、大気圧に戻し、冷却することにより、透明ポリイミド系高分子溶液が得られる。
【0070】
(希釈工程)
続く、希釈工程では、透明ポリイミド系高分子溶液を溶媒Bで希釈してワニスを調製する。より具体的には、得られた透明ポリイミド系高分子溶液に対し、さらに、溶媒Bを加えて透明ポリイミド系高分子の濃度を調整してワニスを得る。好適なワニス中の固形分濃度は、10~25質量%である。
なお、ワニスからフィルムを作製する場合、ワニス中の固形分の全量に対して、透明ポリイミド系高分子を30質量%以上含むワニスを使用すれば、後述する主成分の1つが透明ポリイミド系高分子である透明ポリイミド系高分子フィルムを容易に得ることができる。透明ポリイミド系高分子の濃度は、ワニスの全質量を基準に好ましくは10質量%以上、より好ましくは13質量%以上である。
【0071】
希釈は反応容器内において行うことができ、反応容器から回収した後の溶液に対して行うこともできる。
【0072】
反応容器内において、イミド化後の透明ポリイミド系高分子溶液に対して溶媒Bを追加して、反応容器内における透明ポリイミド系高分子の濃度を希釈させると、次の抜き出し工程で反応容器に残る高分子の量を低減できて、高分子の収率の向上が図れる。また、反応容器に残る高分子の量が減ると、この反応容器を用いた次の重合及びイミド化の繰り返し工程において、得られる透明ポリイミド系高分子の着色(例えば黄色)が改善される。
【0073】
希釈用の溶媒Bは、上述した溶媒で挙げたものとすることができる。溶媒Bと溶媒Aとは、互いに同一種でもよいし、互いに異種でもよい。希釈用の溶媒Bとして、ポリイミド系樹脂に対する溶解性の高い溶媒を適切に選定することで、反応容器からの透明ポリイミド系高分子の回収率が高くなる。
【0074】
反応容器内での希釈を、異なる種類の複数の溶媒Bを用いて複数回行うこともできる。
【0075】
(ワニス抜き出し工程)
続いて、ワニス抜き出し工程では、反応容器から、ワニスを抜き出す。抜き出したワニスは、後述するフィルム形成工程に利用できる。
【0076】
透明ポリイミド系高分子における鎖中のイミド基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Bに対する、該透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基に由来する1H-NMRシグナルの積分値Aの比(積分比A/B)が0.0001以上0.001以下である光学フィルムを製造するためには、キャスト成膜時のワニス中の透明ポリイミド系高分子の積分比A/Bを0.0001以上0.001以下であるように管理することが必要である。
積分比A/Bは、透明ポリイミド系高分子の分子量や重合モノマーの比率や仕込み順などで制御することができる。分子量が高い場合、積分比A/Bが小さくなる傾向があり、分子量が低い場合、積分比A/Bが大きくなる傾向がある。
積分比A/Bは溶液状態(例えば、ポリイミド系ワニス)で透明ポリイミド系高分子を長期間保管することで減少することがある。これは、保管中に透明ポリイミド系高分子の末端アミノ基が酸化などで変化してしまうことが原因と考えられる。保管期間は、溶媒の種類や保管条件に依存するが、好ましくは1年以内、より好ましくは6ヶ月以内、さらに好ましくは1ヶ月以内である。保管温度は、例えば40℃を超えないようにすることが好ましい。末端アミノ基の酸化を抑制する観点から、溶媒中の過酸化物の量は、少ないことが好ましい。過酸化物の発生を抑制する観点から、溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒(より具体的には、DMAc及びジメチルスルホキシド等)、ケトン(より具体的には、CP等)、エステル系溶媒であるカルボン酸エステル(より具体的には、酢酸エステル、及び環状カルボン酸エステル等)が挙げられ、好ましくは環状カルボン酸エステル(より具体的には、γ-ブチロラクトン等)、酢酸エステル(より具体的には、酢酸ブチル、及び酢酸アミル等)、N,N-ジメチルアセトアミド、及びそれらの混合物であり、より好ましくはγ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸アミル、N,N-ジメチルアセトアミド、及びそれらの混合物である。希釈前の溶媒に不活性ガスでのバブリングを行うことで溶媒中の溶存酸素を不活性ガスに置換して過酸化物の発生を抑制することができる。容器内を不活性ガスで充填して保管することでも末端アミノ基の酸化を抑制することができる。
【0077】
前記の、透明ポリイミド系高分子のフィルムは光学フィルムとして用いられ、例えば、表示装置の前面板、特にフレキシブル表示装置の前面板(ウインドウフィルム)として有用である。フレキシブル表示装置は、例えば、フレキシブル機能層と、フレキシブル機能層に重ねられて前面板として機能する光学フィルムを有する。すなわち、フレキシブル表示装置の前面板は、フレキシブル機能層の上の視認側に配置される。この前面板は、フレキシブル機能層を保護する機能を有する。
【0078】
表示装置としては、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。フレキシブル表示装置としては、フレキシブル特性を有する全ての表示装置、中でも好ましくは折り曲げ可能な、フォルダブル表示装置やローラブル表示装置が挙げられる。
【0079】
[フレキシブル表示装置]
本発明は、本発明の光学フィルムを備える、フレキシブル表示装置も提供する。本発明の光学フィルムは、好ましくはフレキシブル表示装置において前面板として用いられ、該前面板はウインドウフィルムと称されることがある。該フレキシブル表示装置は、フレキシブル表示装置用積層体と、有機EL表示パネルとからなり、有機EL表示パネルに対して視認側にフレキシブル表示装置用積層体が配置され、折り曲げ可能に構成されている。フレキシブル表示装置用積層体は、ウインドウフィルム、偏光板(好ましくは円偏光板)、タッチセンサを含有していてもよく、それらの積層順は任意であるが、視認側からウインドウフィルム、偏光板、タッチセンサ又はウインドウフィルム、タッチセンサ、偏光板の順に積層されていることが好ましい。タッチセンサの視認側に偏光板が存在すると、タッチセンサのパターンが視認されにくくなり表示画像の視認性が良くなるので好ましい。それぞれの部材は接着剤、粘着剤等を用いて積層することができる。また、前記ウインドウフィルム、偏光板、タッチセンサのいずれかの層の少なくとも一面に形成された遮光パターンを具備することができる。
【0080】
[偏光板]
本発明のフレキシブル表示装置は、偏光板、好ましくは円偏光板をさらに備えてよい。円偏光板は、直線偏光板にλ/4位相差板を積層することにより右若しくは左円偏光成分のみを透過させる機能を有する機能層である。たとえば外光を右円偏光に変換して有機ELパネルで反射されて左円偏光となった外光を遮断し、有機ELの発光成分のみを透過させることで反射光の影響を抑制して画像を見やすくするために用いられる。円偏光機能を達成するためには、直線偏光板の吸収軸とλ/4位相差板の遅相軸は理論上45°である必要があるが、実用的には45±10°である。直線偏光板とλ/4位相差板とは必ずしも隣接して積層される必要はなく、吸収軸と遅相軸の関係が前述の範囲を満足していればよい。全波長において完全な円偏光を達成することが好ましいが実用上は必ずしもその必要はないので本発明における円偏光板は楕円偏光板をも包含する。直線偏光板の視認側にさらにλ/4位相差フィルムを積層して、出射光を円偏光とすることで偏光サングラスをかけた状態での視認性を向上させることも好ましい。
【0081】
直線偏光板は、透過軸方向に振動している光は通すが、それとは垂直な振動成分の偏光を遮断する機能を有する機能層である。前記直線偏光板は、直線偏光子単独又は直線偏光子及びその少なくとも一面に貼り付けられた保護フィルムを備えた構成であってもよい。前記直線偏光板の厚さは、200μm以下であってもよく、好ましくは0.5~100μmである。厚さが前記の範囲にあると柔軟性が低下し難い傾向にある。
前記直線偏光子は、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルムを染色、延伸することで製造されるフィルム型偏光子であってもよい。延伸によって配向したPVA系フィルムに、ヨウ素等の二色性色素が吸着、又はPVAに吸着した状態で延伸されることで二色性色素が配向し、偏光性能を発揮する。前記フィルム型偏光子の製造においては、他に膨潤、ホウ酸による架橋、水溶液による洗浄、乾燥等の工程を有していてもよい。延伸や染色工程はPVA系フィルム単独で行ってもよいし、ポリエチレンテレフタレートのような他のフィルムと積層された状態で行うこともできる。用いられるPVA系フィルムの厚さは好ましくは10~100μmであり、延伸倍率は好ましくは2~10倍である。
さらに前記偏光子の他の一例としては、液晶偏光組成物を塗布して形成する液晶塗布型偏光子であってもよい。前記液晶偏光組成物は、液晶性化合物及び二色性色素化合物を含むことができる。前記液晶性化合物は液晶状態を示す性質を有していればよく、特にスメクチック相等の高次の配向状態を有していると高い偏光性能を発揮することができるため好ましい。また、液晶性化合物は重合性官能基を有していることも好ましい。
【0082】
前記二色性色素は、前記液晶化合物とともに配向して二色性を示す色素であって、二色性色素自身が液晶性を有していてもよいし、重合性官能基を有していることもできる。液晶偏光組成物の中のいずれかの化合物は重合性官能基を有している。
前記液晶偏光組成物はさらに開始剤、溶剤、分散剤、レベリング剤、安定剤、界面活性剤、架橋剤、シランカップリング剤などを含むことができる。
前記液晶偏光層は、配向膜上に液晶偏光組成物を塗布して液晶偏光層を形成することにより製造される。
液晶偏光層は、フィルム型偏光子に比べて厚さを薄く形成することができる。前記液晶偏光層の厚さは、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは1~5μmであってもよい。
前記配向膜は、例えば基材上に配向膜形成組成物を塗布し、ラビング、偏光照射等により配向性を付与することで製造することができる。前記配向膜形成組成物は、配向剤の他に溶剤、架橋剤、開始剤、分散剤、レベリング剤、シランカップリング剤等を含んでいてもよい。前記配向剤としては、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリアクリレート類、ポリアミック酸類、ポリイミド類を使用できる。光配向を適用する場合にはシンナメート基を含む配向剤を使用することが好ましい。前記配向剤として使用される高分子の重量平均分子量が10,000~1,000,000程度であってもよい。前記配向膜の厚さは、配向規制力の観点から、好ましくは5~10,000nm、より好ましは10~500nmである。前記液晶偏光層は基材から剥離して転写して積層することもできるし、前記基材をそのまま積層することもできる。前記基材が、保護フィルムや位相差板、ウインドウの透明基材としての役割を担うことも好ましい。
【0083】
前記保護フィルムとしては、透明な高分子フィルムであればよく、前記透明基材に使用される材料、添加剤が使用できる。セルロース系フィルム、オレフィン系フィルム、アクリルフィルム、ポリエステル系フィルムが好ましい。エポキシ樹脂等のカチオン硬化組成物やアクリレート等のラジカル硬化組成物を塗布して硬化して得られるコーティング型の保護フィルムであってもよい。必要により可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料や染料のような着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤等を含んでいてもよい。前記保護フィルムの厚さは、200μm以下であってもよく、好ましくは、1~100μmである。前記保護フィルムの厚さが前記の範囲にあると、保護フィルムの柔軟性が低下し難い。保護フィルムは、ウインドウの透明基材の役割を兼ねることもできる。
【0084】
前記λ/4位相差板は、入射光の進行方向に直交する方向(フィルムの面内方向)にλ/4の位相差を与えるフィルムである。前記λ/4位相差板は、セルロース系フィルム、オレフィン系フィルム、ポリカーボネート系フィルム等の高分子フィルムを延伸することで製造される延伸型位相差板であってもよい。必要により位相差調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料や染料のような着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤等を含んでいてもよい。前記延伸型位相差板の厚さは、200μm以下であってもよく、好ましくは1~100μmである。厚さが前記の範囲にあるとフィルムの柔軟性が低下し難い傾向にある。
さらに前記λ/4位相差板の他の一例としては、液晶組成物を塗布して形成する液晶塗布型位相差板であってもよい。前記液晶組成物は、ネマチック、コレステリック、スメクチック等の液晶状態を示す性質を有する液晶性化合物を含む。液晶組成物の中の液晶性化合物を含むいずれかの化合物は重合性官能基を有している。前記液晶塗布型位相差板はさらに開始剤、溶剤、分散剤、レベリング剤、安定剤、界面活性剤、架橋剤、シランカップリング剤などを含むことができる。前記液晶塗布型位相差板は、前記液晶偏光層での記載と同様に配向膜上に液晶組成物を塗布硬化して液晶位相差層を形成することで製造することができる。液晶塗布型位相差板は、延伸型位相差板に比べて厚さを薄く形成することができる。前記液晶偏光層の厚さは、通常0.5~10μm、好ましくは1~5μmであってもよい。前記液晶塗布型位相差板は基材から剥離して転写して積層することもできるし、前記基材をそのまま積層することもできる。前記基材が、保護フィルムや位相差板、ウインドウの透明基材としての役割を担うことも好ましい。
【0085】
一般的には、短波長ほど複屈折が大きく長波長になるほど小さな複屈折を示す材料が多い。この場合には全可視光領域でλ/4の位相差を達成することはできないので、視感度の高い560nm付近に対してλ/4となるような面内位相差100~180nm、好ましくは130~150nmとなるように設計されることが多い。通常とは逆の複屈折率波長分散特性を有する材料を用いた逆分散λ/4位相差板を用いることは視認性をよくすることができるので好ましい。このような材料としては延伸型位相差板の場合は特開2007-232873号公報等、液晶塗布型位相差板の場合には特開2010-30979号公報に記載されているものを用いることも好ましい。
また、他の方法としてはλ/2位相差板と組合せることで広帯域λ/4位相差板を得る技術も知られている(特開平10-90521号公報)。λ/2位相差板もλ/4位相差板と同様の材料方法で製造される。延伸型位相差板と液晶塗布型位相差板との組合せは任意であるが、どちらも液晶塗布型位相差板を用いることは厚さを薄くすることができるので好ましい。
前記円偏光板には斜め方向の視認性を高めるために、正のCプレートを積層する方法も知られている(特開2014-224837号公報)。正のCプレートも液晶塗布型位相差板であっても延伸型位相差板であってもよい。厚さ方向の位相差は、通常-200~-20nm、好ましくは-140~-40nmである。
【0086】
[タッチセンサ]
本発明のフレキシブル表示装置は、タッチセンサをさらに備えていてもよい。タッチセンサは入力手段として用いられる。タッチセンサとしては、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式等様々な様式が提案されており、いずれの方式でも構わない。中でも静電容量方式が好ましい。静電容量方式タッチセンサは活性領域及び前記活性領域の外郭部に位置する非活性領域に区分される。活性領域は表示パネルで画面が表示される領域(表示部)に対応する領域であって、使用者のタッチが感知される領域であり、非活性領域は表示装置で画面が表示されない領域(非表示部)に対応する領域である。タッチセンサはフレキシブルな特性を有する基板と;前記基板の活性領域に形成された感知パターンと;前記基板の非活性領域に形成され、前記感知パターンとパッド部を介して外部の駆動回路と接続するための各センシングラインを含むことができる。フレキシブルな特性を有する基板としては、前記ウインドウの透明基板と同様の材料が使用できる。タッチセンサの基板は、その靱性が2,000MPa%以上であるものがタッチセンサのクラック抑制の面から好ましい。より好ましくは靱性が2,000~30,000MPa%であってもよい。ここで、靭性は、高分子材料の引張実験を通じて得られる応力(MPa)-歪み(%)曲線(Stress-strain curve)で破壊点までの曲線の下部面積として定義される。
【0087】
前記感知パターンは、第1方向に形成された第1パターン及び第2方向に形成された第2パターンを備えることができる。第1パターンと第2パターンは互いに異なる方向に配置される。第1パターン及び第2パターンは、同一層に形成され、タッチされる地点を感知するためには、それぞれのパターンが電気的に接続されなければならない。第1パターンは各単位パターンが継ぎ手を介して互いに接続された形態であるが、第2パターンは各単位パターンがアイランド形態に互いに分離された構造になっているので、第2パターンを電気的に接続するためには別途のブリッジ電極が必要である。感知パターンは周知の透明電極素材を適用することができる。例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、亜鉛酸化物(ZnO)、インジウム亜鉛スズ酸化物(IZTO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)、カドミウムスズ酸化物(CTO)、PEDOT(poly(3,4-ethylenedioxythiophene))、炭素ナノチューブ(CNT)、グラフェン、金属ワイヤなどを挙げることができ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。好ましくはITOを使用することができる。金属ワイヤに使用される金属は特に限定されず、例えば、銀、金、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、チタン、テレニウム、クロムなどを挙げることができる。これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0088】
ブリッジ電極は感知パターン上部に絶縁層を介して前記絶縁層上部に形成することができ、基板上にブリッジ電極が形成されており、その上に絶縁層及び感知パターンを形成することができる。前記ブリッジ電極は感知パターンと同じ素材で形成することもでき、モリブデン、銀、アルミニウム、銅、パラジウム、金、白金、亜鉛、スズ、チタン又はこれらのうちの2種以上の合金などの金属で形成することもできる。第1パターンと第2パターンは電気的に絶縁されなければならないので、感知パターンとブリッジ電極の間には絶縁層が形成される。絶縁層は第1パターンの継ぎ手とブリッジ電極の間にのみ形成することもでき、感知パターンを覆う層の構造に形成することもできる。後者の場合は、ブリッジ電極は絶縁層に形成されたコンタクトホールを介して第2パターンを接続することができる。前記タッチセンサはパターンが形成されたパターン領域と 、パターンが形成されていない非パターン領域間の透過率の差、具体的には、これらの領域における屈折率の差によって誘発される光透過率の差を適切に補償するための手段として基板と電極の間に光学調節層をさらに含むことができ、前記光学調節層は無機絶縁物質又は有機絶縁物質を含むことができる。光学調節層は光硬化性有機バインダー及び溶剤を含む光硬化組成物を基板上にコーティングして形成することができる。前記光硬化組成物は無機粒子をさらに含むことができる。前記無機粒子によって光学調節層の屈折率を上昇させることができる。
前記光硬化性有機バインダーは、例えば、アクリレート系単量体、スチレン系単量体、カルボン酸系単量体などの各単量体の共重合体を含むことができる。前記光硬化性有機バインダーは、例えば、エポキシ基含有繰り返し単位、アクリレート繰り返し単位、カルボン酸繰り返し単位などの互いに異なる各繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。
前記無機粒子は、例えば、ジルコニア粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子などを含むことができる。前記光硬化組成物は、光重合開始剤、重合性モノマー、硬化補助剤などの各添加剤をさらに含むこともできる。
【0089】
[接着層]
前記フレキシブル表示装置用積層体を形成する各層(ウインドウ、偏光板、タッチセンサ)並びに各層を構成するフィルム部材(直線偏光板、λ/4位相差板等)は接着剤によって接着することができる。接着剤としては、水系接着剤、有機溶剤系接着剤、無溶剤系接着剤、固体接着剤、溶剤揮散型接着剤、湿気硬化型接着剤、加熱硬化型接着剤、嫌気硬化型接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、硬化剤混合型接着剤、熱溶融型接着剤、感圧型接着剤(粘着剤)、再湿型接着剤等、汎用に使用されているものが使用できる。中でも水系溶剤揮散型接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、粘着剤がよく用いられる。接着層の厚さは、求められる接着力等に応じて適宜調節することができ、例えば0.01~500μm、好ましくは0.1~300μmである。接着層は、前記フレキシブル表示装置用積層体には複数存在してよいが、それぞれの厚さ及び用いられる接着剤の種類は同じであっても異なっていてもよい。
【0090】
前記水系溶剤揮散型接着剤としてはポリビニルアルコール系ポリマー、でんぷん等の水溶性ポリマー、エチレン-酢酸ビニル系エマルジョン、スチレン-ブタジエン系エマルジョン等水分散状態のポリマーを主剤ポリマーとして使用することができる。水、前記主剤ポリマーに加えて、架橋剤、シラン系化合物、イオン性化合物、架橋触媒、酸化防止剤、染料、顔料、無機フィラー、有機溶剤等を配合してもよい。前記水系溶剤揮散型接着剤によって接着する場合、前記水系溶剤揮散型接着剤を被接着層間に注入して被着層を貼合した後、乾燥させることで接着性を付与することができる。前記水系溶剤揮散型接着剤を用いる場合の接着層の厚さは、通常0.01~10μm、好ましくは0.1~1μmであってもよい。前記水系溶剤揮散型接着剤を複数層の形成に用いる場合、それぞれの層の厚さ及び前記接着剤の種類は同じであっても異なっていてもよい。
【0091】
前記活性エネルギー線硬化型接着剤は、活性エネルギー線を照射して接着剤層を形成する反応性材料を含む活性エネルギー線硬化組成物の硬化により形成することができる。前記活性エネルギー線硬化組成物は、ハードコート組成物と同様のラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有することができる。前記ラジカル重合性化合物とは、ハードコート組成物と同様であり、ハードコート組成物と同様の種類のものが使用できる。接着層に用いられるラジカル重合性化合物としてはアクリロイル基を有する化合物が好ましい。接着剤組成物としての粘度を下げるために単官能の化合物を含むことも好ましい。
【0092】
前記カチオン重合性化合物は、ハードコート組成物と同様であり、ハードコート組成物と同様の種類のものが使用できる。活性エネルギー線硬化組成物に用いられるカチオン重合性化合物としては、エポキシ化合物が特に好ましい。接着剤組成物の粘度を下げるために単官能の化合物を反応性希釈剤として含むことも好ましい。
活性エネルギー線組成物には重合開始剤をさらに含むことができる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、ラジカル及びカチオン重合開始剤等であり、適宜選択して用いることができる。これらの重合開始剤は、活性エネルギー線照射及び加熱の少なくとも一種により分解されて、ラジカルもしくはカチオンを発生してラジカル重合とカチオン重合を進行させるものである。ハードコート組成物の記載の中で活性エネルギー線照射によりラジカル重合又はカチオン重合の内の少なくともいずれか開始することができる開始剤を使用することができる。
【0093】
前記活性エネルギー線硬化組成物はさらに、イオン捕捉剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、密着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動粘度調整剤、可塑剤、消泡剤溶剤、添加剤、溶剤を含むことができる。前記活性エネルギー線硬化型接着剤によって接着する場合、前記活性エネルギー線硬化組成物を被接着層のいずれか又は両方に塗布後貼合し、いずれかの被着層又は両方の被着層を通して活性エネルギー線を照射して硬化させることで接着することができる。前記活性エネルギー線硬化型接着剤を用いる場合の接着層の厚さは、通常0.01~20μm、好ましくは0.1~10μmであってもよい。前記活性エネルギー線硬化型接着剤を複数層の形成に用いる場合には、それぞれの層の厚さ及び用いられる接着剤の種類は同じであっても異なっていてもよい。
【0094】
前記粘着剤としては、主剤ポリマーに応じて、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等に分類され何れを使用することもできる。粘着剤には主剤ポリマーに加えて、架橋剤、シラン系化合物、イオン性化合物、架橋触媒、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、染料、顔料、無機フィラー等を配合してもよい。前記粘着剤を構成する各成分を溶剤に溶解・分散させて粘着剤組成物を得て、該粘着剤組成物を基材上に塗布した後に乾燥させることで、粘着層(接着層)が形成される。粘着層は直接形成されてもよいし、別途基材に形成したものを転写することもできる。接着前の粘着面をカバーするためには離型フィルムを使用することも好ましい。前記粘着剤を用いる場合の接着層の厚さは、通常1~500μm、好ましくは2~300μmであってもよい。前記粘着剤を複数層の形成に用いる場合、それぞれの層の厚さ及び用いられる粘着剤の種類は同じであっても異なっていてもよい。
【0095】
[遮光パターン]
前記遮光パターンは前記フレキシブル表示装置のベゼル又はハウジングの少なくとも一部として適用することができる。遮光パターンによって前記フレキシブル表示装置の辺縁部に配置される配線が隠されて視認されにくくすることで、画像の視認性が向上する。前記遮光パターンは単層又は複層の形態であってもよい。遮光パターンのカラーは特に制限されることはなく、黒色、白色、金属色などの多様なカラーを有することができる。遮光パターンはカラーを具現するための顔料と、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン、シリコーンなどの高分子で形成することができる。これらの単独又は2種類以上の混合物で使用することもできる。前記遮光パターンは、印刷、リソグラフィ、インクジェットなど各種の方法にて形成することができる。遮光パターンの厚さは、通常1~100μm、好ましくは2~50μmである。また、遮光パターンの厚さ方向に傾斜等の形状を付与することも好ましい。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記しない限り、質量%及び質量部を意味する。まず評価方法について説明する。
【0097】
<1.ポリイミドワニスの製造及びポリイミドフィルムの製膜>
(実施例1)
(1)ポリイミド溶液の調製
窒素雰囲気下、反応容器に、触媒(第三級アミン)としてのイソキノリン 0.5質量部を投入した。反応容器は、溶媒トラップ及びフィルターを取り付けた真空ポンプが接続され、オイルバスに設置されていた。次に、反応容器に溶媒Aとしてγ-ブチロラクトン(GBL) 305.58質量部と、ジアミンとしての2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB) 104.43質量部とをさらに投入した、反応容器内の内容物を撹拌して完溶させた。さらにテトラカルボン酸二無水物としての4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA) 145.59質量部を反応容器へ投入した後、反応容器内の内容物を撹拌しつつ、オイルバスで昇温を開始した。加えたTFMBと6FDAとのモル比(6FDA:TFMB)は1.00:0.995であり、原料モノマーの濃度は45質量%であった。原料モノマー100質量部に対する第三級アミンの質量は0.2質量部であった。反応容器内の内温が120℃に到達したところで、反応容器内の圧力を400mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温した。内温が180℃に到達した後、さらに5.5時間加熱撹拌を行った後に大気圧まで復圧し、170℃まで冷却しポリイミド溶液を得た。減圧前後に反応容器中の酸素濃度を確認したところ、0.01%未満であった。170℃にてGBLを加えてポリイミドの固形分が40質量%である均一溶液として、ポリイミド溶液を得た。
【0098】
(2)ワニスの製造
希釈溶媒(溶媒B)としてのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を30分間窒素ガスでバブリング処理を実行した。上記(1)で得られたポリイミド溶液に、バブリング処理を施したDMAcを155℃で加えてポリイミドの固形分が20質量%である均一溶液とし、反応容器から取り出し、ワニスを得た。
【0099】
(3)ポリイミドワニスの保管
上記(2)で調製したワニスを温度25℃及び湿度50%の環境下で5ヶ月間保管した。保管後のワニス中のポリイミドの積分比A/Bは0.00052であり、ポリスチレン換算分子量は36万であった。
【0100】
(4)ポリイミドフィルムの製膜
上記(3)で得られたポリイミドワニス200.00質量部に(2)で準備したDMAcを加えて15質量%溶液を調製し、それをPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上で流涎した後、温度50℃で30分間加熱し、引き続いて温度140℃で10分加熱して、PET上に塗膜を形成した。得られた塗膜をPETから剥離してさらに200℃40分加熱することでポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚さは80μmであった。
【0101】
(実施例2)
(1)ワニスの調製
バブリング処理を施した希釈溶媒をDMAcからシクロペンタノン(CP)に変更し、バブリング処理を施した希釈溶媒の温度を155℃から130℃に変更した以外は、実施例1のワニスの製造方法と同様にしてワニスを得た。バブリング処理を施したCPは、CPを40分間窒素ガスでバブリング処理を実行して得た。
【0102】
(2)ポリイミドワニスの保管
保管するワニスを実施例1(2)のワニスから実施例2(1)のワニスに変更し、保管期間を5ヶ月間から2週間に変更した以外は、実施例1(3)と同様にしてワニスを保管した。保管後のワニス中のポリイミドの積分比A/Bは、0.00035であり、ポリスチレン換算分子量は30万であった。
【0103】
(3)ポリイミドフィルムの製膜
実施例1(3)で調製したワニスから実施例2(2)で調製したワニスに変更し、実施例1(2)で準備したバブリング処理を施したDMAcを実施例2(1)で準備したバブリング処理を施したCPに変更した以外は、実施例1の製造方法と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚さは80μmであった。
【0104】
(比較例1)
(1)ワニスの調製
希釈溶媒をバブリング処理を施したDMAcからバブリング処理を施していないCPに変更し、希釈溶媒の温度を155℃から130℃に変更した以外は、実施例1のワニスの製造方法と同様にしてワニスを得た。
【0105】
(2)ポリイミドワニスの保管
保管するワニスを実施例1(2)のワニスから比較例1(1)のワニスに変更し、保管期間を5ヶ月間から4ヶ月間に変更した以外は、実施例1(3)と同様にしてワニスを保管した。保管後のワニス中のポリイミドの積分比A/Bは、0.00006であり、ポリスチレン換算分子量は32万であった。
【0106】
(3)ポリイミドフィルムの製膜
実施例1(3)で調製したワニスから比較例1(2)で調製したワニスに変更し、実施例1(2)で準備したバブリング処理を施したDMAcを比較例1(1)で準備したバブリング処理を施さなかったCPに変更した以外は、実施例1の製造方法と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚さは80μmであった。
【0107】
(比較例2)
(1)ワニスの調製
希釈溶媒を、バブリング処理を施したDMAcからバブリング処理を施さなかったGBLに変更した以外は、実施例1の製造方法と同様にしてワニスを得た。
【0108】
(2)ポリイミドワニスの保管
保管するワニスを実施例1(2)のワニスから比較例2(1)のワニスに変更し、保管期間を5ヶ月間から2ヶ月間に変更した以外は、実施例1(3)と同様にしてワニスを保管した。保管後のワニス中のポリイミドの積分比A/Bは、0.0062であり、ポリスチレン換算分子量は19万であった。
【0109】
(3)ポリイミドフィルムの製膜
実施例1(3)で調製したワニスから比較例2(2)で調製したワニスに変更し、実施例1(2)で準備したバブリング処理を施したDMAcを比較例1(1)で準備したバブリング処理を施さなかったGBLに変更した以外は、実施例1の製造方法と同様にして、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚さは80μmであった。
【0110】
<2.測定方法及び算出方法>
【0111】
(1)積分値の測定
実施例及び比較例で使用したポリイミド樹脂の積分値は、NMRにより測定し、式(40)及び式(41)に表す部分構造に由来するシグナルから得た。測定条件及び得られた結果から積分比を算出する方法は次の通りである。なお、式(40)及び(41)はポリイミドを構成するTFMBに由来する構造単位の一部である。式(40)中の*は、一方が隣接するイミド結合の窒素原子に結合する結合手を表し、他方が隣接するベンゼン環の炭素原子に結合する結合手を表す。式(41)中の*は、隣接するベンゼン環に結合する結合手を表す。本実施例において、プロトンAの数は末端アミノ基の数に相当し、プロトンBの数はイミド基の数に相当する。
【化6】
【0112】
(測定試料の調製方法)
実施例及び比較例で調製した保管後のワニスに大過剰量の貧溶媒としてのメタノールを加えて再沈殿法により析出・乾燥させて得たポリイミド樹脂を、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解させたものを測定試料とした。なお、測定試料は、光学フィルムからも調製することができる。具体的には、光学フィルムを重水素化溶媒に直接溶解する方法や、光学フィルムを可溶な溶媒に溶解し、得られた溶液を重水素化溶媒と混合する方法などが挙げられる。溶解しにくい場合は超音波処理や加温を行って溶解させてもよい。
【0113】
(NMRの測定条件)
測定装置:NMR装置(Bruker社製「AVANCE600」)
検出器 :Bruker社製「TCI Cryo Probe」
試料温度:303K
試料濃度:15mg/0.75mL
溶媒種 :DMSO-d6
パルスシークエンス:Burker標準パルスシークエンスzgを使用
積算回数:256回
待ち時間:10秒
【0114】
(透明ポリイミド系高分子の積分比A/Bの算出方法)
ポリイミド樹脂を含む溶液を測定試料として得られた1H-NMRスペクトルにおいて、式(40)中のプロトン(B)に由来するシグナルの積分値をB、プロトン(A)に由来するシグナルの積分値をAとした。積分値Bの積分範囲は、7.65~7.75ppmであり、積分値Aの積分範囲は6.78~6.83ppmであった。得られたA及びBから、積分比A/Bを求めた。なお、プロトン(A)及びプロトン(B)に由来するシグナルに、それぞれ別の構造に由来するシグナルが重なる場合、そのシグナルにおいて重なりのない部分の強度を積分し、その部分の面積比から本来のシグナル強度を求め、積分比A/Bを算出した。
【0115】
(2)ポリスチレン換算分子量の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
(2-1)前処理方法
実施例及び比較例で調製した保管後のワニスをγ-ブチロラクトン(GBL)に溶かして20%溶液とした後、DMF溶離液にて100倍に希釈し、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。なお、測定試料は、光学フィルムからも調製することができる。具体的には、光学フィルムをDMFとGBLとの混合溶液に溶解させて測定する。添加剤などのピークがある場合は無視して解析してもよく、GPC測定前に適切な方法で混合物を取り除いてもよい。
(2-2)測定条件
カラム:TSKgel SuperAWM-H×2+SuperAW2500×1(6.0mm I.D.×150mm×3本)
溶離液:DMF(10mmolの臭化リチウム添加)
流量:0.6mL/分
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:20μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0116】
(3)厚さ測定
ポリイミドフィルムの厚さは、デジマチック シックネスゲージ((株)ミツトヨ製「品番547-401)を用いて測定した。
【0117】
<3.評価方法>
(1)透明性の評価方法:フィルムの黄色度(YI値)の算出方法
実施例及び比較例で得られた透明ポリイミド系高分子フィルムのそれぞれの黄色度(Yellow Index:YI値)を、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V-670」)を用いて測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、ポリイミド系フィルムをサンプルホルダーにセットして、波長300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。3刺激値から下記の式に基づいてYI値を算出した。YI値は、YI値の絶対値が小さいほど透明性に優れることを示す。
YI値=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0118】
(2)耐折性の評価方法:MITの折り曲げ回数の測定方法
実施例及び比較例で得られた透明ポリイミド系高分子フィルムの耐折性は、以下の基準で評価した。該フィルムを、ダンベルカッターを用いて10mm×100mmの短冊状にカットした。カットしたフィルムを(株)東洋精機製作所製のMIT-DA MIT耐折疲労試験機にセットして、試験速度175cpm、折り曲げ角度135°、荷重750g、及び折り曲げクランプのR=1.0mmの条件で、該フィルムを裏表両方向へ交互に折り曲げ、破断するまでの折り曲げ回数を測定した。折り曲げ回数が多いほど耐折性が優れることを示す。
【0119】
(3)透明性の評価方法:全光線透過率(Tt)の測定方法
実施例及び比較例で得られた透明ポリイミド系高分子フィルムの全光線透過率(Tt:単位%)を、JIS K 7105:1981に準拠して、スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピュータHGM-2DPにより測定した。全光線透過率が大きいほど透明性に優れることを示す。
【0120】
【0121】
実施例1及び2の光学フィルムは、透明ポリイミド系高分子を含んでいた。前記透明ポリイミド系高分子の積分比A/Bは、0.0001以上0.001以下であった。
実施例1及び2の光学フィルムのYI値は、それぞれ1.9及び2.0であった。実施例1及び2の光学フィルムのMITの折り曲げ回数は、それぞれ、85,000回及び78,000回であった。
【0122】
比較例1及び2の光学フィルムは、透明ポリイミド系高分子を含んでいた。比較例1及び2の光学フィルムに含まれる透明ポリイミド系高分子の積分比A/Bは、0.0001以上0.001以下の範囲に含まれなかった。
比較例1及び2の光学フィルムのYI値は、それぞれ3.8及び1.9であった。また、比較例1及び2の光学フィルムのMITの折り曲げ回数は、それぞれ、80,000回及び8,000回であった。
【0123】
以上から、実施例1及び2の光学フィルムは、比較例1及び2の光学フィルムに比べ、黄色着色が小さく、高い透明性と高い耐折性とを有することは明らかである。