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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-05
(45)【発行日】2023-10-16
(54)【発明の名称】アルミナ材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20231006BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20231006BHJP
【FI】
C01G25/02
C01F7/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020513952
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2018039393
(87)【国際公開番号】W WO2019082905
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2017205123
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】川上 義貴
(72)【発明者】
【氏名】安東 博幸
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-242917(JP,A)
【文献】特開昭52-075698(JP,A)
【文献】特開昭62-176542(JP,A)
【文献】特公平06-038914(JP,B2)
【文献】特開平09-122486(JP,A)
【文献】A.C. Faro et al,Mixed-oxide formation during preparation of alumina-supported zirconia: an EXAFS and DFT study,PHYSICAL CHEMISTRY CHEMICAL PHYSICS,2003年,vol. 5,pages 3811-3817
【文献】YAMAMOTO, Takashi,X-ray Absorption Spectroscopic Characterization of Solid Acid-base Catalysts,JOURNAL OF THE JAPAN PETROLEUM INSTITUTE,2014年,vol. 57, no. 6,pages 261-270
【文献】P. Berthet et al,Study by EXAFS of zirconium environment in Al2O3 - ZrO2 material prepared from metal-alkoxides,JOURNAL DE PHYSIQUE,1986年,vol. 47,pages C8-729 - C8-732
【文献】M.K. Loudjani et al,Study of the Chemical State and Local Structure of Zirconium in Polycrystalline alpha-Alumina by X-Ray Absorption Spectroscopy and STEM Analysis of Thin Foils,JOURNAL DE PHYSIQUE IV,1997年,vol. 7,pages C2-1209 C2-1210
【文献】YANG, X. et al,n-Butane isomerization catalyzed by sulfated zirconia nanocrystals supported on silica or gamma-alumina,CATALYSIS LETTERS,2006年,vol. 106,pages 195-203
【文献】DALMASCHIO, JOSE, Cleocir et al,Oxide surface modification: Synthesis and characterization of zirconia-coated alumina,JOURNAL OF COLLOID AND INTERFACE SCIENCE,2010年,vol. 343,pages 256-262
【文献】KOU, Yuan et al,Investigation of the Ensemble Effect of Zr02/A1203 Catalyst on Selective Synthesis of Ethylene from CO and H2,JOURNAL OF CATALYSIS,1996年,vol. 162,pages 361-364
【文献】YANG, Xiuchum et al,Atomic-Scale Structure of Al2O3-ZrO2 Mixed Oxides Prepared by Laser Ablation,AIP CONFERENCE PROCEEDINGS,2007年,vol. 882,pages 563-565
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
C01F 7/02
B01J 23/10
B01J 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ及びジルコニウムを含有するアルミナ材料であって、該アルミナ材料中のジルコニウムのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、0.1nm~0.2nmに存在するピークの強度の内で最大の強度をIとし、0.28nm~0.35nmに存在するピークの強度の内で最大の強度をIとしたとき、I/Iの値が0.5以下であり、
前記アルミナ材料に含まれるジルコニウムの量が、前記アルミナ材料の総重量に基づいて0.5重量%~5重量%であり、
前記動径分布関数における0.28nm~0.35nmに明瞭なピークが観測されないアルミナ材料であって、
前記明瞭なピークとは、上に凸のピークであって、そのピークの強度のIAに対する比が0.12以下であり、半値幅が0.06nm以下のピークを意味する、アルミナ材料。
【請求項2】
少なくとも一つの希土類元素をさらに含有する請求項1に記載のアルミナ材料。
【請求項3】
前記少なくとも一つの希土類元素が、セリウム、イットリウム、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、及び、イッテルビウムからなる群から選択される請求項2に記載のアルミナ材料。
【請求項4】
前記少なくとも一つの希土類元素がセリウムおよび/またはランタンである請求項2に記載のアルミナ材料。
【請求項5】
前記少なくとも一つの希土類元素がランタンである請求項4に記載のアルミナ材料。
【請求項6】
前記アルミナ材料に含まれるジルコニウムおよび前記少なくとも一つの希土類元素の合計量が、前記アルミナ材料の総重量に基づいて、0.5重量%~15重量%である請求項2~5のいずれか1項に記載のアルミナ材料。
【請求項7】
大気雰囲気下1200℃で4時間熱処理された後の比表面積が50m/g以上である請求項1~6のいずれか1項に記載のアルミナ材料。
【請求項8】
アルミナはγアルミナを80重量%以上含む請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミナ材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ材料、特に耐熱性が高いアルミナ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナは、耐熱性、絶縁性、耐摩耗性、耐食性等に優れているため、各種用途に幅広く使用されている。アルミナの具体的な用途として、例えば、自動車および二輪車等の内燃機関の排ガス処理、ガスタービンおよびボイラー等の高温下での排ガス処理等が挙げられ、触媒担体または貴金属のサポート材としてアルミナが広く使用されている。アルミナの表面に担持された貴金属は、高い触媒活性を発揮する。
【0003】
このような用途に用いられる場合、アルミナは、900℃~1000℃、あるいは1200℃を越える高温に曝されるため、焼結による比表面積の低下を起こすことがある。その場合、アルミナ表面に担持した貴金属が凝集したり、焼結に巻き込まれてアルミナ内部に取り込まれたりすることにより触媒活性が低下することがある。そのため、アルミナは、高い耐熱性を必要とし、高温条件下の使用においても比表面積の低下が少ないことが求められている。
【0004】
耐熱性をアルミナに付与するための検討として、例えば、特開昭62-176542号公報(特許文献1)には、粒径が500ミクロン以下のアルミナまたはアルミナ水和物の粉末を分散させた水溶液と希土類物質を含む溶液との混合液から、当該アルミナまたは当該アルミナ水和物に希土類物質を沈着させる方法が記載されている。
【0005】
特開昭63-242917号公報(特許文献2)には、アルミニウムアルコキシドとランタンアルコキシドの混合溶液を加水分解してゾルを得た後、ゲル化しこれを焼成する方法が記載されている。
【0006】
特開2005-193179号公報(特許文献3)には、Alからなる一次粒子と、ZrO、SiOおよびTiOの内から1種若しくは2種以上の金属酸化物からなる一次粒子と、希土類元素及び/又は希土類酸化物とを、含有する二次粒子、を含み、Alからなる一次粒子と金属酸化物からなる一次粒子とが互いに間に介在した状態で分散したものが開示されている。金属酸化物の平均粒子径は、明細書中に数nmの記載があり、実施例では30nmとの記載がある。
【0007】
また、WO2009/112356号公報(特許文献4)には、アルミナまたはアルミニウムオキシ水酸化物をベースとする担体上に担持酸化物として酸化ジルコニウムを含み、900℃で4時間焼成後、担持酸化物が担体上に付着した粒子が開示されている。酸化ジルコニウムは、最大粒径10nmであり、実施例では準弾性光散乱で測定して4nmとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-176542号公報
【文献】特開昭63-242917号公報
【文献】特開2005-193179号公報
【文献】WO2009/112356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法により得られた希土類元素を含むアルミナ材料を、高温における熱処理、例えば1200℃で4時間の加熱処理に曝すと、50m/g以上のBET比表面積を維持することは困難であり、触媒活性が低下する問題がある。
【0010】
特許文献3および4の技術は、アルミナ粒子と酸化ジルコニウム粒子を共存させて、アルミナ材料の耐熱性を高めるためのものであるが、1200℃で4時間の加熱処理に曝すと50m/g以上のBET比表面積を維持することは難しく、やはり耐熱性において不十分である。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、熱処理によるBET比表面積の低下が少ない耐熱性に優れたアルミナ材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前記課題を解決するため、以下のアルミナ材料を提供する。
[1] アルミナ及びジルコニウムを含有するアルミナ材料であって、該アルミナ材料中のジルコニウムのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、0.1nm~0.2nmに存在するピークの強度の内で最大の強度をIとし、0.28nm~0.35nmに存在するピークの強度の内で最大の強度をIとしたとき、I/Iの値が0.5以下であるアルミナ材料。
【0013】
[2] 上記動径分布関数における0.28nm~0.35nmに明瞭なピークが観測されない[1]に記載のアルミナ材料。
[3] 前記アルミナ材料中のジルコニウムの量が、アルミナ材料の総重量に基づいて0.1重量%~15重量%である[1]又は[2]に記載のアルミナ材料。
[4] 少なくとも1つの希土類元素をさらに含有する[1]~3のいずれか1項に記載のアルミナ材料。
[5] 前記少なくとも1つの希土類元素がセリウム、イットリウム、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、及び、イッテルビウムからなる群から選択される[4]に記載のアルミナ材料。
[6] 前記少なくとも1つの希土類元素がセリウムおよび/またはランタンである[4]に記載のアルミナ材料。
[7] 前記少なくとも1つの希土類元素がランタンである[4]に記載のアルミナ材料。
[8] 前記アルミナ材料に含まれるジルコニウムおよび前記少なくとも1つの希土類元素の合計量が、アルミナ材料の総重量に基づいて、0.5重量%~15重量%である[4]~[7]のいずれか1項に記載のアルミナ材料。
[9] 大気雰囲気下1200℃で4時間熱処理された後の比表面積が50m/g以上である[1]~[8]のいずれか1項に記載のアルミナ材料。
[10] アルミナはγアルミナを80重量%以上含む[1]~[9]のいずれか1項に記載のアルミナ材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、熱処理によるBET比表面積の低下が少ない耐熱性に優れた材料アルミナが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例2のアルミナ材料中のジルコニウムのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数g(R)を示すグラフである。曲線Xが実施例2の動径分布関数g(R)であり、参考として、ジルコニア(ZrO)のみの同様な動径分布関数g(R)を曲線Yとして示した。
図2図2の曲線CAは実施例1の動径分布関数g(R)である。
図3図3の曲線CBは実施例3の動径分布関数g(R)である。
図4図4の曲線CCは実施例4の動径分布関数g(R)である。
図5図5の曲線CDは比較例1の動径分布関数g(R)である。
図6図6の曲線CEは比較例2の動径分布関数g(R)である。
図7図7の曲線CFは比較例3の動径分布関数g(R)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るアルミナ材料について詳しく説明する。
【0017】
本発明に係るアルミナ材料は、アルミナ及びジルコニウムを含有するアルミナ材料であって、該アルミナ材料中のジルコニウム(Zr)のK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、0.1nm~0.2nmに存在するピークの強度の内で最大の強度をIとし、0.28nm~0.35nmに存在するピークの強度の内で最大の強度をIとしたとき、I/Iの値が0.5以下である。I/Iの値は0.2以下であってもよい。
【0018】
本発明において、アルミナとは、αアルミナ、γアルミナ、ηアルミナ、θアルミナ、δアルミナ、ベーマイトおよび擬ベーマイトのいずれかを意味し、単独または2つ以上の混合物であってよい。より優れた耐熱性を得る観点から、アルミナは、γアルミナを含むことが好ましく、アルミナ中のγアルミナの割合は、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、最も好ましくは95重量%以上である。
【0019】
本発明に係るアルミナ材料は、アルミナ及びジルコニウムの他に、必要に応じて、希土類元素が含有されてもよい。希土類元素としては、具体的にはセリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)が挙げられる。これらの中でも耐熱性の観点から、Ce、Y、La,Pr、NdおよびYbが好ましく、更にCeおよびLaが好ましく、特にLaが好ましい。これらの希土類元素は、1種単独または複数種を組み合せることができる。
アルミナ材料中の希土類元素は、酸化物であることができる。アルミナ材料中のジルコニウムは、酸化物であることができる。
【0020】
本発明に係るアルミナ材料は、含有しているジルコニウム、必要に応じて含有される希土類元素、及び、ジルコニウム及び希土類元素に結合した酸素以外は、実質的にアルミナのみからなるが、原料、資材または製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避的不純物、例えば、Fe、Siおよび/またはNaを含有することがある。Fe、SiおよびNaは、触媒性能を低下させることが知られているため、アルミナ材料に全く含まれないことが好ましいが、含有量を0にすることは一般的に難しい。当該不可避的不純物はアルミナ材料の耐熱性を著しく劣化させない程度であれば含有してよく、一般的に許容できる量は、合計で100ppm以下である。触媒性能向上の観点から、Fe、SiおよびNaの含有量は、合計で10ppm以下であることが好ましい。Fe、SiおよびNa等の含有量は、発光分光法により測定することができる。
【0021】
本発明に係るアルミナ材料が含有するジルコニウムの量は、アルミナ材料の耐熱性を向上させる観点で、アルミナ材料の総重量に基づいて、好ましくは0.1重量%~15重量%、より好ましくは0.2重量%~10重量%、特に好ましくは0.5重量%~5重量%である。ジルコニウムが少なすぎると、耐熱性が十分でなく、ジルコニウムの量を多くし過ぎても添加による効果の増加が少なくなる。アルミナ材料に添加された希土類元素の総量は、アルミナ材料の総重量に基づいて、通常0重量%~10重量%、好ましくは0重量%~5重量%、より好ましくは0重量%~3重量%である。ジルコニウムとすべての希土類元素の合計の量は、アルミナ材料の総重量に基づいて、好ましくは0.5重量%~15重量%、より好ましくは1重量%~10重量%、特に好ましくは2重量%~8重量%である。
【0022】
ここで、本発明におけるEXAFSスペクトルについて説明する。本発明におけるEXAFSスペクトルは、一般的なEXAFSスペクトルと同様に扱われ、該スペクトルの測定および原理は、例えば、「X線吸収分光法―XAFSとその応用―」(太田俊明編(2002年))に記載されている。具体的には、物質に単色X線を透過させたとき、物質に照射されたX線の強度(入射X線強度:I)と、物質を透過してきたX線の強度(透過X線強度:I)とから、その物質のX線吸光度が得られ、X線吸光度(y軸)をモニターしながら、物質に照射する単色X線のエネルギー、すなわち入射X線のエネルギー(eV、x軸)を変化させて、X線吸収スペクトル(x軸-y軸)を測定すると、X線吸光度が急激に増加するポイントがあり、このポイントにおけるx軸の値を吸収端という。吸収端は、物質を構成する元素に固有のものである。また、X線吸収スペクトルにおいて、この吸収端から20~1000eV程度高いエネルギー側の領域に現れる微細な振動構造を広域X線吸収微細構造(EXAFS)といい、そのスペクトルをEXAFSスペクトルという。
【0023】
EXAFSスペクトルについてフーリエ変換を施すと、X線吸収原子(注目する原子)を中心とした動径分布関数g(R)が得られる。この動径分布関数によって、X線吸収原子とX線散乱原子(X線吸収原子近傍の原子)との距離、X線散乱原子の数などの情報を得ることができ、注目する原子近傍の情報を得ることができる。本発明においては、ジルコニウム(Zr)のK吸収端に注目する。
【0024】
本発明におけるアルミナ材料は、アルミナ及びジルコニウムを含有するアルミナであって、該アルミナ材料中のジルコニウムのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、0.1nm~0.2nmに存在するピーク(以下、「ピークA」と言う。)の強度の内で最大の強度をIとし、0.28nm~0.35nmに存在するピーク(以下、「ピークB」と言う。)の強度の内で最大の強度をIとしたとき、I/Iの値が0.5以下、好ましくは0.2以下である。このアルミナ材料は高温、例えば大気雰囲気下で1200℃で4時間さらされても、比表面積の低下が少なく、耐熱性の高いものである。I/Iの値は、より好ましくは0.15以下であり、さらに好ましくは0.12以下であり、このようにすることにより、耐熱性はさらに向上する。Iの値は通常は0にはならないので、I/Iは通常は0を超える。
【0025】
上述と同様の動径分布関数をジルコニア(ZrO;酸化ジルコニウム)粒子中のジルコニウムについて得ることができる。ジルコニア粒子中のジルコニウムの動径分布関数では、Zr原子との原子間距離が0.1nm~0.2nmである位置に、O原子(酸素原子)によるピークが現れる。即ち、本発明におけるピークAは、本発明のアルミナ材料において、Zr原子に結合しているO原子によるものであると想定される。上述のジルコニア粒子中のジルコニウムの動径分布関数では、Zr原子との原子間距離が0.28nm~0.35nmである位置に、別のZr原子によるピークが現れる。即ち、本発明におけるピークBは、ジルコニア粒子に含まれるZr原子に隣接している別のZr原子によるものである。これらのピークの位置は、原子間距離に相当するが、位相シフトの影響により、これらの原子間距離は実際の値とは異なっていることがある。しかしながら、本発明ではピークの位置を原子間距離として扱う。尚、それぞれの範囲内にピークといえるものが無く、なだらかな曲線(直線を含む)のみの場合はその最大強度の値をIまたはIとする。I/Iが0.5以下とは、Zr-O構造の数に比べて、Zr-O-Zr構造の数が有意に少ないことを意味する。ジルコニウム原子の酸化物は存在するものの、複数のジルコニウム原子が酸素原子を介して結合したジルコニア粒子(ジルコニアの一次粒子)が少ないと考えられる。言い換えると、多くのジルコニウム原子は他のジルコニウム原子から孤立してアルミナ材料中に分散していると推定される。
【0026】
本発明に係るアルミナ材料では、ピークBの0.28nm~0.35nmの範囲に明瞭なピークが観測されないことが好ましい。前記の0.28nm~0.35nmの範囲にピークが存在しない場合は、ジルコニア(酸化ジルコニウム)の一次粒子が存在しないと推定される。ジルコニアはアルミナと固溶体を形成しにくいことが知られている。ジルコニアの一次粒子が存在しないことから、本発明に係るジルコニウムを含有するアルミナ材料においては、ジルコニウム原子が凝集してジルコニアを形成しておらず、ジルコニウム原子が高度に分散してアルミナ材料中に存在していると推定される。ここで、前記の“明瞭なピーク”とは、上に凸のピークであって、そのピークの強度のIに対する比が0.12以下であり、半値幅が0.06nm以下のピークを意味する。
【0027】
本発明のアルミナ材料においては、前記I/Iの規定を満たす限り、ジルコニアとしてジルコニウムが存在していてもよい。かかるジルコニアは、本発明のアルミナ材料の製造時にジルコニウムを添加する場合の添加量が多いこと、または原料からの不純物としてのジルコニアの混入等により、本発明のアルミナ材料中に存在する可能性がある。ジルコニアとして存在するジルコニウムの量は、ジルコニウム総量の10重量%以下であることが好ましく、特に5重量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明に係るアルミナ材料において、BET比表面積は80m/g~500m/gであることが好ましい。BET比表面積を当該範囲に制御することにより、触媒性能を良好に付与できる。触媒性能を良好に付与する観点から、BET比表面積は、85m/g以上であることがより好ましく、300m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積は、JIS-Z-8830に規定された方法に従い、N吸着法により求めることができる。
【0029】
本発明に係るアルミナ材料において、軽装嵩密度は0.1g/ml~1.1g/mlであることが好ましい。軽装嵩密度を当該範囲に制御することにより、スラリー作製工程でのハンドリング性が良好となる。スラリー作製工程でのハンドリング性を向上させる観点から、軽装嵩密度は、0.3g/ml以上であることがより好ましく、0.8g/ml以下であることがより好ましい。軽装かさ密度は、JIS R 9301-2-3に記載の方法で求める。すなわち、振動を防ぎ、静置した容積既知の容器(シリンダー)中に、試料(アルミナ材料粉末)を自由に落下させて集めた試料の質量を求め、この質量を試料の体積で除することで算出した密度である。
【0030】
このような構成を有する本発明に係るアルミナ材料は、長時間に亘って高温に曝されても比表面積の低下が少なく、耐熱性に優れる。このような特性を有する本発明に係るアルミナ材料は、主に自動車触媒における貴金属の担体に好ましく使用されてよく、耐熱性に優れた自動車触媒を提供することができる。
【0031】
本発明に係るアルミナ材料は、(1)アルミニウムアルコキサイドを得る工程S1と、(2)アルミニウムアルコキサイドを加水分解して水酸化アルミニウムを得る工程S2と、(3)水酸化アルミニウムを乾燥して水酸化アルミニウム粉末を得る工程S3と、(4)水酸化アルミニウム粉末を焼成してアルミナ材料を得る工程S4と、を含み、工程S2において、ジルコニウムおよび必要に応じて希土類元素を添加する方法により、製造することができる。以下、この製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0032】
S1.アルミニウムアルコキサイドを得る工程
アルミニウムアルコキサイドを得る工程S1においては、下記(1)式に示すように、金属アルミニウム(Al)とアルコール(ROH)との固液反応によりアルミニウムアルコキサイド(Al(OR))を得る。
2Al+6ROH→2Al(OR)+3H (1)
【0033】
ここで、Rは、それぞれ独立に、メチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、ネオブチル、ノルマルペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ノルマルヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、ノルマルヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、ノルマルオクチル、イソオクチル及びネオオクチルから選ばれる少なくとも1つである。特に、メチル、エチル、ノルマルプロピル、及びイソプロピルから選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0034】
原料の金属アルミニウムとしては、特に限定されないが、その中に含まれる鉄、ケイ素、ナトリウム、銅、マグネシウム等の不純物含有量が100ppm以下であって、純度99.99%以上の高純度のアルミニウムを用いることが好ましい。このような高純度の金属アルミニウムを用いることにより、不純物含有量の少ない高純度のアルミナ材料をより効果的に製造することができる。また、その金属アルミニウムを用いて得られたアルミニウムアルコキサイドの精製が不要となり製造効率が上がる。このような高純度のアルミニウムとしては、市販されているものを使えばよい。
【0035】
金属アルミニウムの形状としては、特に限定されず、インゴット、ペレット、箔、線、粉末等のいずれの形態であってもよい。
【0036】
原料のアルコールとしては、好ましくは炭素数が1~8、より好ましくは炭素数が1~4の一価アルコールを用いる。アルコールは、一般に炭素鎖が長くなるほど、金属アルミニウムとの反応性が低下する。より具体的に、原料のアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0037】
金属アルミニウムとアルコールとの反応温度は、反応が進行するような温度であれば特に限定されないが、金属アルミニウムとアルコールとの反応を促進させる観点から、用いる溶媒系の沸点で、還流条件下で反応させることが好ましい。
【0038】
工程S1により、上述したような、使用したアルコールに相当するアルコキシ基を有するアルミニウムアルコキサイドが生成する。より具体的には、アルミニウムアルコキサイドとして、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムイソプロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムsec-ブトキサイド、アルミニウムt-ブトキサイド等が生成する。
【0039】
S2.アルミニウムアルコキサイドを加水分解して水酸化アルミニウムを得る工程S2
工程S2では、工程S1で生成したアルミニウムアルコキサイドを加水分解して水酸化アルミニウムを得る。
【0040】
工程2における加水分解は、1段階で実施してもよく、2段階以上で実施してもよい。
2段階で加水分解する場合は、例えば次のように行う。
先ず、第1の加水分解処理として、アルコールなどの溶媒とアルミニウムアルコキサイドとの混合物に対して所定濃度の水を含有するアルコール溶液を添加し、アルミニウムアルコキサイドの一部に対する加水分解処理を進行させて、急激な発熱による局所反応を起こさずにゆるやかな加水分解反応を生じさせる(第1の加水分解工程S21)。そして次に、第2の加水分解処理として、水を加えて、アルミニウムアルコキサイドの全量に対する加水分解処理を進行させる(第2の加水分解工程S22)。
【0041】
この工程S2において、アルコールなどの溶媒及びアルミニウムアルコキサイドの混合物、及び/又は、水を含有するアルコール溶液に対して、ジルコニウム化合物などのジルコニウム源および必要に応じて希土類元素化合物などの希土類元素源を添加する。ジルコニウム源および必要に応じて希土類元素源は、液中で溶解していてもよく、分散していてもよい。ジルコニウム源および必要に応じた希土類元素源の存在下でアルミニウムアルコキサイドを加水分解することにより、ジルコニウムおよび必要に応じて希土類元素を含む水酸化アルミニウムを得ることができる。
【0042】
添加するジルコニウム源および希土類元素源は、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等のジルコニウム化合物および希土類元素化合物の形で用いることができる。
【0043】
ジルコニウム化合物および希土類元素化合物は、溶媒に溶解して溶液として添加してよい。また、ジルコニウム化合物および希土類元素化合物が溶媒に溶解しにくい場合には、ジルコニウム化合物および希土類元素化合物の微粒子を溶媒に分散させて分散液として添加してもよい。当該分散液の溶媒には、ジルコニウム化合物および必要に応じて希土類元素化合物の一部が溶解していてもよい。
【0044】
溶媒は、単独または2種以上を混合して用いてもよく、溶媒に対するジルコニウム化合物および希土類元素化合物の溶解度または分散性、溶液の濃度並びにその他の製造条件等を考慮して、適切に選択してよい。
【0045】
水を含有するアルコール溶液に対してジルコニウム化合物及び必要に応じた希土類化合物を添加する場合、ジルコニウムおよび必要に応じた希土類元素をより均一に水酸化アルミニウムに含ませる観点から、水およびアルコールを含む混合物にジルコニウム化合物および必要に応じて希土類元素化合物を溶解した溶液を用いることが好ましい。この溶液は、アルコール以外の有機溶媒を含んでいてもよい。ジルコニウムおよび必要に応じて希土類元素をより均一に水酸化アルミニウムに含ませることにより、ジルコニウムおよび必要に応じて希土類元素が高度にアルミナ材料中に分散したアルミナ材料を製造することができる。このようなアルミナ材料は、高温での熱処理後にBET比表面積の低下を小さくすることができ、より耐熱性に優れる。
【0046】
前記第1の加水分解工程S21では、水のみではなく、所定濃度の水を含有するアルコール溶液を用いる。添加するアルコール溶液の水濃度は、好ましくは5重量%~30重量%であり、より好ましくは5重量%~20重量%、よりさらに好ましくは5重量%~10重量%である。アルコール溶液中の水の濃度を5重量%以上とすることにより加水分解が十分に進行し、一方、30重量%以下とすることにより、局所的な加水分解反応を抑制し、水酸化アルミニウムの凝集を防ぐことができる。
【0047】
また、この第1の加水分解工程S21では、例えば上述の濃度の水を含有するアルコール溶液を、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が、例えば1.5~2.0となるように添加して加水分解してよい。アルミニウムアルコキサイドに対するアルコール溶液中の水のモル比を1.5以上とすることにより、アルミニウムアルコキサイドの加水分解が抑制されることを防ぐことができる。一方、モル比を2.0以下とすることにより、アルミニウムアルコキサイドの局所的な加水分解反応を防ぐことができる。
【0048】
水を含有するアルコール溶液としては、特に限定されないが、上述した工程S1において用いられるアルコールに水を含有させたものを用いることができる。この場合、加水分解に用いたアルコールを回収することで、その回収したアルコールを工程S1に再利用することができる。
【0049】
水を含有するアルコール溶液を用いてアルミニウムアルコキサイドを加水分解する際の反応温度は、特に限定されず、例えば、常温から溶媒の沸点以下の温度とすることができる。この工程S21で、アルミニウムアルコキサイドにジルコニウム化合物及び必要に応じて希土類化合物を添加することができる。その場合は、溶媒が還流する条件で加水分解反応を行うと、ジルコニウムや希土類元素をより均一に分散させることができて、好ましい。
【0050】
工程S21の反応後、大部分のアルコールを除去して、固体と若干量のアルコールとの混合物を得ることが好ましい。
次に、第2の加水分解工程S22においては、第1の加水分解工程S21後の混合物に対して、水を加えて、アルミニウムアルコキサイドの全量に対する加水分解処理を行う。
【0051】
この第2の加水分解工程S22では、水のアルミニウムアルコキサイドに対するモル比が好ましくは1.0~7.0、より好ましくは1.5~3.0となるように水を添加して加水分解してよい。水のアルミニウムアルコキサイドに対するモル比を1.0以上とすることにより、アルミニウムアルコキサイド全量に対する加水分解を行うことができる。一方、モル比を7.0以下とすることにより、生成する水酸化アルミニウムに含まれる水分量が多くなりすぎることを防ぐことができる。それにより、水酸化アルミニウムの乾燥処理に際して、乾燥に要する時間が長くなることによる生産性の低下を防止する。
【0052】
この第2の加水分解工程S22における加水分解処理においても、その反応温度としては特に限定されず、例えば、常温から溶媒の沸点以下の温度とすることができる。
【0053】
S3.水酸化アルミニウムを乾燥して水酸化アルミニウム粉末を得る工程
工程S3では、工程S2で得られた水酸化アルミニウムを乾燥して水酸化アルミニウム粉末を得る。水酸化アルミニウム粉末は、完全に乾燥される必要はなく、次の工程S4にて水酸化アルミニウム粉末を焼成する際にも乾燥は行われ得るので、工程S4に時間がかかりすぎないように、適切に乾燥されていればよい。
【0054】
乾燥方法としては、例えば水酸化アルミニウムを加熱することにより、水分を蒸発させる方法が好ましい。乾燥温度としては、例えば溶媒の沸点以上とすることが好ましい。乾燥機としては、例えば材料静置型乾燥機、材料移送型乾燥機、材料撹拌型乾燥機、熱風移送型乾燥機、円筒乾燥機、赤外線乾燥機、凍結乾燥機、高周波乾燥機を用いることができる。
【0055】
S4.水酸化アルミニウム粉末を焼成してアルミナ材料を得る工程S4
工程S4では、ジルコニウムおよび必要に応じて希土類元素を含有する水酸化アルミニウム粉末を焼成することにより、アルミナ、ジルコニウムおよび必要に応じて希土類元素を含有するアルミナ材料を得る。
【0056】
焼成工程S4における焼成処理の条件としては、特に限定されないが、水酸化アルミニウム粉末をアルミナに変化させるのに必要な熱エネルギーを加える。
【0057】
例えば、以下の焼成処理の条件で水酸化アルミニウム粉末を焼成することにより、アルミナ材料を得ることができる。例えば、水酸化アルミニウムを800℃以上の焼成温度で一定時間保持して焼成する。より具体的には、例えば900℃~1100℃の焼成温度で0.5時間~20時間保持することによってアルミナ材料を得ることができる。
【0058】
所定の焼成温度にまで昇温するときの昇温速度としては、特に限定されないが、例えば30℃/時~500℃/時とする。
【0059】
焼成処理は、例えば焼成炉を用いて行うことができる。焼成炉としては、材料静置型焼成炉、例えばトンネルキルン、回分式通気流型箱型焼成炉、回分式並行流型箱型焼成炉等を用いることができる。
【0060】
また、焼成雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気下の他、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性雰囲気下、又は還元雰囲気下のいずれであってもよい。
【0061】
焼成容器は、特に限定されず、例えば、升状、底付きの円筒状、多角柱状の鞘を用いることができる。焼成容器は、アルミナセラミックス製のものが好ましい。アルミナセラミックス製の焼成容器を用いることにより、焼成時のアルミナ材料の汚染を防止することができ、高純度のアルミナ材料を得ることができる。
【0062】
以上のように本発明に係るアルミナ材料の製造方法を説明したが、本発明に係るアルミナ材料の所望の特性を理解した当業者が試行錯誤を行い、本発明に係る所望の特性を有するアルミナ材料を製造する方法であって、上記の製造方法以外の方法を見出す可能性がある。
【0063】
本発明に係るアルミナ材料を各種用途に使用する際には、粉砕することにより、粒径制御をして用いてよい。上述のように、本発明に係るアルミナ材料は、例えばスラリー化等の際に粒径制御されても、耐熱性の低下が少なく、優れた耐熱性を維持することができる。
【0064】
粉砕する方法としては、例えば、ボールミル等を用いて粉砕する方法が挙げられる。
【0065】
自動車触媒の製造方法
本発明に係るアルミナ材料は、自動車触媒に有用である。自動車触媒の製造方法は、(1)本発明に係るアルミナ材料と、バインダーと、分散溶媒と、貴金属とを含むスラリーを製造する工程と、(2)前記スラリーを基材にコーティングする工程と、(3)前記スラリーをコーティングした前記基材を熱処理して、前記スラリー中の前記アルミナ材料を焼結する工程と、を含む。
【0066】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)およびベーマイトゲル(ゲル状アルミナ水和物)等が挙げられる。また、分散溶媒としては、例えば、水およびアルコール等が挙げられるが、水を用いることが好ましい。貴金属としては、例えば、Pt、Pd、Rh等が挙げられる。また、スラリーは、本発明に係るアルミナ材料、バインダー、分散溶媒および貴金属の以外に、他の成分を含んでよい。
【0067】
基材としては、一般的に用いられているハニカム担体を使用してよい。スラリーを用いて担体をコーティングする方法として、例えば、ウォッシュコート法が挙げられる。
【0068】
アルミナ材料を焼結する工程は、例えば、800℃~1100℃で0.5時間~10時間保持することにより行ってよい。
【0069】
本発明に係るアルミナ材料は優れた耐熱性を有することから、本発明に係る自動車触媒の製造方法により、耐熱性に優れた自動車触媒を提供することができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
実施例1
純度99.99%以上の高純度金属アルミニウム(住友化学(株)製)と純度99.9%以上のイソプロピルアルコール(JXTGエネルギー(株)製)とを用いて得られたアルミニウムイソプロポキシド1430gと、イソプロピルアルコール160gとの混合物に、酢酸ランタン1.5水和物(ニッキ(株)製)7.2gおよびオキシ酢酸ジルコニウム(第一稀元素化学工業(株)製)31gを加え、還流下で60分間撹拌した。次いで、アルミニウムアルコキサイドに対する水のモル比が1.7になるように、イソプロピルアルコールと水との混合液(重量比率で、イソプロピルアルコール:水=9:1)を添加して第1の加水分解工程を行った。
【0072】
次いで、第1の加水分解工程S21で添加したイソプロピルアルコール量に対して、60重量%のイソプロピルアルコールを回収した。その後、アルミニウムイソプロポキシドに対する水のモル比が2.3になるように水を追加で添加して第2の加水分解工程S22を行い(工程S21と工程S22との合計で、アルミニウムイソプロポキシドに対する水のモル比は4.0)、水酸化アルミニウム、水およびイソプロピルアルコールを含む懸濁液を得た。得られた懸濁液を撹拌しつつ加熱して乾燥し、水酸化アルミニウム(擬ベーマイト)粉末を得た。得られた水酸化アルミニウム粉末を、電気炉を用いて、1000℃で4時間焼成し、アルミナ(γアルミナ)、La及びZrを含む実施例1のアルミナ材料を得た。
添加金属元素(ZrおよびLa)の量はアルミナ材料に対する重量%で表すと、Zr=1重量%、La=1重量%であった。
【0073】
得られたアルミナ材料について、島津製作所社製の比表面積測定装置「フロソーブII 2300」を使用し、JIS-Z-8830に規定された方法に従って、アルミナ材料のBET比表面積(BET-1)をN吸着法により求めた。次に、アルミナ材料を大気雰囲気下で1100℃で4時間熱処理し、同じくN吸着法によりBET比表面積(BET-2)を測定した。また、アルミナ材料を大気雰囲気下で1200℃で4時間熱処理した後、同様にBET比表面積(BET-3)を測定した。測定値を表1に記載した。
【0074】
実施例2~4
ジルコニウム(Zr)、および、ランタン(La)を表1に示す組成にする以外は、実施例1と同様に処理して、アルミナ、Zrおよび必要に応じて希土類元素Laを含むアルミナ材料を作成した。得られたアルミナ材料について、実施例1と同様に、3種類のBET比表面積(BET-1、BET-2およびBET-3)を測定し、表1に測定値を記載した。
【0075】
比較例1
比較例1では、特許文献3の実施例1の手法を用いて以下の通り合成した。
1.6モル/Lの硝酸アルミニウム水溶液と、1.46モル/Lのオキシ硝酸ジルコニウム水溶液と、1.63モル/Lの硝酸ランタン水溶液とを混合して混合溶液を得た。次いで、十分に撹拌しながら、その混合溶液を、25%アンモニア水溶液(pH≧9)356mLと純水500mLとを混合した水溶液に添加することにより、Al、ZrO及び希土類酸化物の前駆体である各水酸化物析出物を共沈させて得た。得られた水酸化物析出物を遠心分離し、続いて十分に水で洗浄した後、大気雰囲気中、400℃で5時間保持して蒸発乾固した。そして、大気雰囲気中、700℃で5時間焼成することにより、アルミナ材料を得た。添加金属元素(ZrおよびLa)の量はアルミナ材料に対する重量%で表すと、Zr=3重量%、La=1重量%であった。
【0076】
得られたアルミナ材料について、実施例1と同様に、3種類のBET比表面積(BET-1、BET-2およびBET-3)を測定し、表1に測定値を記載した。
【0077】
比較例2および3
ジルコニウム(Zr)およびランタン(La)を表1に示す組成にする以外は、比較例1と同様に処理して、アルミナ材料を作成した。得られたアルミナ材料について、実施例1と同様に、3種類のBET比表面積(BET-1、BET-2およびBET-3)を測定し、表1に測定値を記載した。
【0078】
【表1】
【0079】
上記表1によれば、全ての実施例でBET-3が50m/gを超えており、実施例で得られたアルミナ材料は、高温にさらされても、高い比表面積が維持されて、その性能の著しい低下がみられない高耐熱性を有していることを確認することができた。
【0080】
広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルの測定および解析
アルミナ材料中に含有されるジルコニウムのK吸収端のEXAFSスペクトルの測定は、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光科学研究施設ビームラインNW-10AのXAFS測定装置を用いてQuickXAFS法にて行った。入射X線強度(I)は、ガスとしてAr(25体積%)+N(75体積%)を使用したイオンチェンバーを用いて常温下で測定し、透過X線強度(I)は、ガスとしてKrを使用したイオンチェンバーを用いて常温下で測定した。測定したエネルギー範囲、間隔、及び測定点1点当りの積算時間は、次のように設定した。
【0081】
・入射X線のエネルギー範囲:17494~19099eV
・データ点数:3835点
・スキャン時間:300秒
・積算:1回
【0082】
上記により、各入射X線エネルギー(E、x軸)において、I、Iを測定し、次式により、X線吸光度(y軸)を求め、x軸-y軸でプロットすることにより、X線吸収スペクトルを得た。
X線吸光度μt=-ln(I/I
【0083】
EXAFSスペクトルの解析は次のようにして行った。
X線吸収スペクトルから、次のようにして、ZrのK吸収端のEXAFSスペクトルを得て、動径分布関数を得た。具体的には、得られたQuickXAFS法によるX線吸収スペクトルデータを高エネルギー加速器研究機構が提供している「Multi File Converter」、「Multi Data Smoothing」にて(株)リガク製EXAFS解析ソフト形式へと変換し、スムージング処理を行った(スムージング条件:Savitzky-Golay法、Points:10、rep:5)後、解析ソフト((株)リガク製REX2000)を用いてEXAFS振動の解析を行った。ZrのK吸収端のエネルギーE0(x軸)は、X線吸収スペクトルにおけるZrのK吸収端付近のスペクトルにおいて、その一階微分係数が最大となるエネルギー値(x軸)とした。スペクトルのバックグランドは、前記のZrのK吸収端よりも低エネルギー域のスペクトルにVictoreenの式(Aλ-Bλ+C;λは入射X線の波長、A,B,Cは任意の定数)を最小自乗法で当てはめて決定され、スペクトルからバックグランドを差し引いた。続いて、該スペクトルにつき、Spline Smoothing法(Spline Termination1:0.002、Spline Termination:0.2で設定)により孤立原子の吸光度(μ)を見積もり、EXAFS関数χ(k)を抽出した。なお、kは0.5123×(E-E01/2で定義される光電子の波数のことで、このときのkの単位はÅ-1である。最後に、kで重み付けしたEXAFS関数kχ(k)について、特に断りのない限り、kが3.0から12.0Å-1の範囲でフーリエ変換して動径分布関数g(R)を求めた(フーリエ変換条件は次の通り、FT size:2048、Filter type:HANNING、Window width:Δk/10)。なお、得られた動径分布関数の横軸原子間距離は未補正である。
【0084】
得られた動径分布関数から0.1nm~0.2nmに存在するピークの強度の内で最大の強度Iおよび0.28nm~0.35nmに存在するピークの強度の内で最大の強度Iを求めた。この方法により求めた実施例1のI/Iは0.1であり、実施例2のI/Iは0.1であり、実施例3のI/Iは0.1であり、実施例4のI/Iは0.2であった。比較例1のI/Iは1.1であり、比較例2のI/Iは1.0、実施例3のI/Iは1.0であった。また、実施例2で得られたアルミナ材料について得た前記動径分布関数を図1の曲線Xに示す。参考として、図1には、ジルコニア(ZrO)のみの同様な動径分布関数を曲線Yとして示した。実施例1で得られたアルミナ材料の動径分布関数を図2の曲線CAに、実施例3のアルミナ材料の動径分布関数を図3の曲線CBに、実施例4のアルミナ材料の動径分布関数を図4の曲線CCに、比較例1のアルミナ材料の動径分布関数を図5の曲線CDに、比較例2のアルミナ材料の動径分布関数を図6の曲線CEに、比較例3のアルミナ材料の動径分布関数を図7の曲線CFに示す。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のアルミナ材料は、熱処理によるBET比表面積の低下が少ない耐熱性に優れたものであり、自動車および二輪車等の内燃機関の排ガス処理、ガスタービンおよびボイラー等の排ガス処理の触媒の基材に利用される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7