(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】抗PHF-タウ抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231010BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231010BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231010BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231010BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231010BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231010BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20231010BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231010BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231010BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231010BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231010BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231010BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231010BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231010BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61P25/28
A61P25/00
A61P21/04
A61P21/00
A61P25/16
A61K39/395 N
G01N33/53 D
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020546389
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 IB2019051748
(87)【国際公開番号】W WO2019171259
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-25
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397060175
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン コルン,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】メルケン,マーク
(72)【発明者】
【氏名】バロン,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】レーシー,エイリン アール.
(72)【発明者】
【氏名】ナンジュンダ,ルペシュ
(72)【発明者】
【氏名】ホイーラー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ルォ,ジンカン
(72)【発明者】
【氏名】ボージャース,マリアンヌ
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/096380(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/112078(WO,A1)
【文献】国際公開第1995/017429(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/197820(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0016330(US,A1)
【文献】国際公開第2001/055725(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0087861(US,A1)
【文献】Neuroscience Letters,1995年,Vol.192,p.81-88
【文献】Alzheimer's Research & Therapy,2018年01月,Vol.10, No.13,p.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
A61P 1/00-43/00
A61K 35/00-51/12
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相補的決定領域1(HCDR1)、HCDR2、及びHCDR3を含む重鎖可変領域(V
H)と、相補的決定領域1(LCDR1)、LCDR2、及びLCDR3を含む軽鎖可変領域(V
L)とを含む、PHF-タウに結合する単離抗体又はその抗原結合断片であって、
(a)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号1のHCDR1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号4のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(b)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号
1のHCDR1、配列番号8のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号9のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(c)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号
1のHCDR1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(d)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号
1のHCDR1、配列番号12のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(e)
前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号
1のHCDR1、配列番号13のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3
を含むか;あるいは
(f)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号
1のHCDR1、配列番号14のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む、
前記単離抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
(a)配列番号15と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号16と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(b)配列番号17と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号18と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(c)配列番号19と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号20と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(d)配列番号21と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号22と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(e)配列番号23と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号20と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;又は
(f)配列番号24と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号25と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1に記載の単離抗体又は抗原結合断片。
【請求項3】
(a)配列番号15の重鎖可変領域及び配列番号16を含む軽鎖可変領域;
(b)配列番号17を含む重鎖可変領域及び配列番号18を含む軽鎖可変領域;
(c)配列番号19を含む重鎖可変領域及び配列番号20を含む軽鎖可変領域;
(d)配列番号21を含む重鎖可変領域及び配列番号22を含む軽鎖可変領域;
(e)配列番号23を含む重鎖可変領域及び配列番号20を含む軽鎖可変領域;又は
(f)配列番号24を含む重鎖可変領域及び配列番号25を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1又は2に記載の単離抗体又は抗原結合断片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか
一項に記載の抗体又は抗原結合断片をコードしている、単離核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の単離核酸を含む、ベクター。
【請求項6】
請求項4に記載の核酸又は請求項5に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の単離抗体又は抗原結合断片と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項8】
病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散の低減を必要とする対象における、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散を低減する
ために用いられるものである、請求項7に記載の医薬組成
物。
【請求項9】
タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症を治療する
ために用いられるものである、請求項7に記載の医薬組成
物。
【請求項10】
タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症を治療する
ために用いられるものであり、前記タウ異常症が、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維型認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される
ものである、
請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片を生成する方法であって、前記抗体又は抗原結合断片を生成する条件下で前記抗体又は抗原結合断片をコードしている核酸を含む細胞を培養することと、前記細胞又は細胞培養物から前記抗体又は抗原結合断片を回収することとを含む、前記方法。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項に記載のヒト化抗体又は抗原結合断片を含む医薬組成物を生成する方法であって、前記抗体又は抗原結合断片を医薬的に許容される担体と組み合わせて前記医薬組成物を得ることを含む、前記方法。
【請求項13】
対象由来の生体サンプルにおけるPHF-タウの存在を検出する方法であって、前記生体サンプルを請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片と接触させることと、前記対象由来の前記サンプル中のPHF-タウへの前記抗体又は抗原結合断片の結合を検出することとを含む、前記方法。
【請求項14】
前記生体サンプルが、血液、尿、又は脳脊髄液のサンプルである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗PHU-タウ抗体、並びにその製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、徐々に激しい精神機能低下を導き、最終的には死に至らしめる、記憶、認知、論理的思考、判断力、及び情動安定性の進行性喪失を臨床的特徴とする、退行性脳障害である。ADは、高齢者の進行性精神機能不全(認知症)の非常に一般的な原因であり、米国では4番目に多い医学的死亡原因を表すと考えられている。ADは、世界中の民族で観察され、現在及び未来の、主たる公衆の健康上の問題を提示する。
【0003】
AD個体の脳は、老人性(又はアミロイド)斑、アミロイド血管症(血管におけるアミロイド沈着)及び神経原線維変化と呼ばれる特徴的な病変を呈する。これら病変の大多数、特にアミロイド斑及び対らせん状細線維の神経原線維変化は、一般にAD患者の記憶及び認知機能に重要なヒトの脳のいくつかの領域で見られる。
【0004】
AD及びいくつかの他の神経変性疾患における神経原線維変性の主なタンパク質成分は、高リン酸化形態の微小管結合タンパク質タウである。タウの凝集を予防又は排除する治療法の開発は、長年にわたる関心事であるが、抗凝集化合物及びキナーゼ阻害剤を含む候補薬物は、臨床試験に入ったばかりである(Brunden,et al.Nat Rev Drug Discov 8:783-93,2009)。
【0005】
最近、トランスジェニックタウマウスモデルにおいて、タウについての能動及び受動免疫が治療可能性を有している可能性があるという前臨床的エビデンスが得られた(Chai,et al.J Biol Chem 286:34457-67,2011、Boutajangout,et al.J Neurochem 118:658-67,2011、Boutajangout,et al.J Neurosci 30:16559-66,2010、Asuni,et al.J Neurosci 27:9115-29,2007)。最近、タウ異常症の伝播及び拡散仮説が報告されたが、これは、ヒト脳におけるタウ異常症進行のBraakステージと前臨床的タウモデルにおけるタウ凝集体を注入した後のタウ異常症の拡散に基づいている(Frost,et al.J Biol Chem 284:12845-52,2009、Clavaguera,et al.Nat Cell Biol 11:909-13,2009)。したがって、AD及び他の神経変性疾患を治療するためにタウ凝集体及びタウ異常症進行を防ぐ治療法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的な一態様では、本発明は、単離抗体、好ましくは単離モノクローナル抗体、又はその抗原結合断片であって、PHF-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合する、抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0007】
一実施形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1又は7のHCDR1;配列番号2、8、10、12、13、又は14のHCDR2;及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖を有する。別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、配列番号4、9又は11のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖を有する。他の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、及び14のいずれかのCDRと少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一であるCDRを含む。
【0008】
別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号15、17、19、21、23、及び24のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号16、18、20、22、及び25のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0009】
別の実施形態では、本発明の単離抗体又はその抗原結合断片は、定常領域、例えばヒト又はマウス重鎖IgG定常領域、及びヒト又はマウス抗体軽鎖カッパ若しくはラムダ定常領域を更に含む。
【0010】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードしている単離核酸に関する。
【0011】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードしている単離核酸を含むベクターに関する。
【0012】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードしている単離核酸を含む宿主細胞に関する。
【0013】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明の単離抗体又はその抗原結合断片と、医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0014】
別の一般的な態様では、本発明は、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散の低減を必要とする対象における、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散を低減する方法であって、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。タウ異常症としては、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維型認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
好ましくは、タウ異常症は、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)、FTDP-17、又は進行性核上麻痺である。
【0016】
最も好ましくは、タウ異常症は、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)である。
【0017】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片を生成する方法であって、当該抗体又はその抗原結合断片を生成する条件下で当該抗体又はその抗原結合断片をコードしている核酸を含む細胞を培養することと、当該細胞又は細胞培養物から当該抗体又はその抗原結合断片を回収することとを含む、方法に関する。
【0018】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を生成する方法であって、当該抗体又はその抗原結合断片を医薬的に許容される担体と組み合わせて医薬組成物を得ることを含む、方法に関する。
【0019】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片を用いて、対象におけるPHF-タウの存在を検出する方法、又は対象におけるPHF-タウの存在を検出することによって当該対象におけるタウ異常症を診断する方法に関する。
【0020】
本発明の他の態様、特徴、及び利点は、発明の詳細な説明、並びにその好ましい実施形態及び添付の特許請求の範囲を含む以下の開示より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
上述の「課題を解決するための手段」及び以降の「発明を実施するための形態」は、添付の図面と併せて読むことでより良好に理解されるであろう。本発明は、図面に示される実施形態そのものに限定されない点は理解されるべきである。
【
図1A】表面プラズモン共鳴(SPR)によって分析した、組換え的に発現させたPT82mAb又はそのFab断片のPHF-タウ及び可溶性タウへの結合を示し、抗体又はFabの濃度を、それぞれのセンサーグラムの隣りに示す(75nM、15nM、3nM、0.6nM)。(A)mAbのPHFへの結合を示す。
【
図1B】表面プラズモン共鳴(SPR)によって分析した、組換え的に発現させたPT82mAb又はそのFab断片のPHF-タウ及び可溶性タウへの結合を示し、抗体又はFabの濃度を、それぞれのセンサーグラムの隣りに示す(75nM、15nM、3nM、0.6nM)。(B)FabのPHFへの結合を示す。
【
図1C】表面プラズモン共鳴(SPR)によって分析した、組換え的に発現させたPT82mAb又はそのFab断片のPHF-タウ及び可溶性タウへの結合を示し、抗体又はFabの濃度を、それぞれのセンサーグラムの隣りに示す(75nM、15nM、3nM、0.6nM)。(C)Fabの2N4Rタウへの結合を示す。
【
図2】10ng/mL又は1ng/mLにおける2N4Rタウの2つのコーティング濃度を用いてELISAによって分析された、ハイブリドーマ上清由来のPT82及び組換え的に発現させたPT82の組換え2N4Rタウへの結合を示す。
【
図3A】FRETアッセイにおいてタウ凝集体の形成をブロックするPT82mAbの能力を示す。(A)使用した細胞モデルにおけるFRETアッセイの図を示す。
【
図3B】FRETアッセイにおいてタウ凝集体の形成をブロックするPT82mAbの能力を示す。(B)陰性対照mAb(CNTO1037/C18A抗体)と比較したFRETアッセイにおけるPT82の有効性を示す。
【
図4A】免疫枯渇アッセイにおいてタウ凝集体の形成をブロックするPT82mAbの能力を示す。(A)PT82mAbを使用してヒトAD脳又はP301Sマウス脊髄抽出物由来のホモジネートのいずれかを免疫枯渇させた、免疫枯渇アッセイの図を示す。
【
図4B】免疫枯渇アッセイにおいてタウ凝集体の形成をブロックするPT82mAbの能力を示す。PT82mAbは、(B)FRETアッセイによってアッセイしたとき、AD脳及びP301S脊髄抽出物の両方においてタウ種を減少させることができた。
【
図4C】免疫枯渇アッセイにおいてタウ凝集体の形成をブロックするPT82mAbの能力を示す。PT82mAbは、(C)タウ凝集選択性MSDアッセイによってアッセイしたとき、AD脳及びP301S脊髄抽出物の両方においてタウ種を減少させることができた。
【
図5A】(A)全ホモジネートを分析したときの、インビボePHF注射モデルにおけるAT180及びPT3抗体と比較したPT82の有効性を示す。
【
図5B】(B)不溶性画分を分析したときの、インビボePHF注射モデルにおけるAT180及びPT3抗体と比較したPT82の有効性を示す。
【
図6A】(B)抗体及びPHFの頭蓋内への同時注射と比較した、(A)抗体を末梢投与(IP注射)した際のPT82及びPT3の有効性を示す。(C)全ホモジネート及び(D)不溶性画分で有効性を分析した。
【
図6B】(B)抗体及びPHFの頭蓋内への同時注射と比較した、(A)抗体を末梢投与(IP注射)した際のPT82及びPT3の有効性を示す。(C)全ホモジネート及び(D)不溶性画分で有効性を分析した。
【
図6C】(B)抗体及びPHFの頭蓋内への同時注射と比較した、(A)抗体を末梢投与(IP注射)した際のPT82及びPT3の有効性を示す。(C)全ホモジネート及び(D)不溶性画分で有効性を分析した。
【
図6D】(B)抗体及びPHFの頭蓋内への同時注射と比較した、(A)抗体を末梢投与(IP注射)した際のPT82及びPT3の有効性を示す。(C)全ホモジネート及び(D)不溶性画分で有効性を分析した。
【
図7】PT82の線形ペプチドマッピングを使用したエピトープマッピングデータを示す。
【
図8】ELISAによって測定したときの、可溶性タウへのヒト化PT82mAbの結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「抗体」は、広義に用いられ、ポリクローナル抗体、マウス、ヒト、ヒト適合化、ヒト化及びキメラモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体、並びに抗体フラグメントを含む、免疫グロブリン又は抗体分子を含む。
【0023】
一般に抗体とは、特定の抗原に対する結合特異性を示すタンパク質又はペプチド鎖である。抗体の構造は、公知である。免疫グロブリンは、重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて5つの主なクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに割り当てられ得る。IgA及びIgGは、アイソタイプのIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4として更に細分類される。いずれの脊椎動物種の抗体軽鎖も、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて2つの明確に異なるタイプ、すなわちカッパ(κ)及びラムダ(λ)のうちの一方に割り当てられ得る。
【0024】
用語「抗体断片」は、インタクトな抗体の部分を意味する。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、CDR、抗原結合部位、重鎖又は軽鎖可変領域、ダイアボディ、単鎖抗体分子、並びに少なくとも2つのインタクトな抗体又はその断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0025】
免疫グロブリン軽鎖又は重鎖可変領域は、「抗原結合部位」が割り込んだ「フレームワーク」領域からなる。抗原結合部位は、以下のとおり様々な用語を使用して定義される:(i)相補的決定領域(CDR)は、配列多様性に基づいている(Wu and Kabat J Exp Med 132:211-50,1970)。一般に、抗原結合部位は、各可変領域に3つのCDR(重鎖可変領域(VH)にHCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに軽鎖可変領域(VL)にLCDR1、LCDR2、及びLCDR3)を有する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1991)。(ii)用語「超可変領域」、「HVR」、又は「HV」は、Chothia及びLesk(Chothia and Lesk,J Mol Biol 196:901-17,1987)によって定義されているように、構造中の超可変性である抗体可変ドメインの領域を指す。一般的に、抗原結合部位は、各VH(H1、H2、H3)及びVL(L1、L2、L3)に3つの超可変領域を有する。Chothia及びLeskは、構造的に保持されているHVを「カノニカル構造」と呼ぶ。付番システム、並びにCDR及びHVのアノテーションは、Abhinandan及びMartin(Abhinandan and Martin Mol Immunol.45:3832-9,2008)により最近改訂された。(iii)抗原結合部位を形成する領域の別の定義が、免疫グロブリン及びT細胞受容体由来のVドメインの比較に基づいて、Lefranc(Lefranc et al.,Dev Comp Immunol.27:55-77,2003)によって提案されている。International ImMunoGeneTics(IMGT)データベースが、標準化したこれらの領域の付番及び定義を提供している。CDR、HV、及びIMGTの記述間の対応については、Lefranc et al.,同上に記載されている。(iv)抗原結合部位は、「特異性決定残基の使用」(Specificity Determining Residue Usage、SDRU)(Almagro J Mol Recognit.17:132-43,2004)に基づいて記述することもでき、この場合、特異性決定残基(Specificity Determining Residues、SDR)は、抗原接触に直接関与する免疫グロブリンのアミノ酸残基を指す。
【0026】
「フレームワーク」又は「フレームワーク配列」は、抗原結合部位の配列であると定義されるもの以外の、抗体の可変領域内の残りの配列である。抗原結合部位の正確な定義は、上述したような様々な描写により決定され得るため、正確なフレームワーク配列は、抗原結合部位の定義に依存する。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「モノクローナル抗体」(mAb)とは、ほぼ均質な抗体の集団から得られる抗体(又は抗体フラグメント)を意味する。モノクローナル抗体は極めて特異性が高く、通常、単一の抗原決定基を標的とする。
【0028】
本明細書で使用するとき、用語「エピトープ」とは、抗体が特異的に結合する抗原の部分を意味する。エピトープは、通常、アミノ酸、リン酸化アミノ酸、又は多糖類側鎖などの部分の化学的に活性な(例えば、極性、非極性、又は疎水性の)表面基からなり、特定の3次元構造特性及び特定の帯電特性を有し得る。エピトープは、事実上線状であってもよく、又は線状の一連のアミノ酸ではなく、抗原の隣接していないアミノ酸間の空間的関係によって形成される不連続エピトープ、例えば、立体構造エピトープであってもよい。立体構造エピトープには、抗原の線状配列の異なる部分のアミノ酸同士が3次元空間で近接するような抗原の折畳みによって生じるエピトープが含まれる。
【0029】
タウは、多数の周知のアイソフォームを有する豊富な中枢及び末梢神経系タンパク質である。ヒトのCNSでは、オルタナティブスプライシングによって352~441のサイズの6つの主なタウアイソフォームが存在する(Hanger,et al.Trends Mol Med 15:112-9,2009)。これらアイソフォームは、0~2個のN末端挿入、及び3又は4個のタンデムに配置された微小管結合反復配列が制御されて含まれることにより互いに異なっており、0N3R(配列番号26)、1N3R(配列番号27)、2N3R(配列番号28)、0N4R(配列番号29)、1N4R(配列番号30)、及び2N4R(配列番号31)と称される。用語「対照タウ」及び「可溶性タウ」とは、本明細書で互換的に使用されるとき、リン酸化及び他の翻訳後修飾されていない、配列番号31のタウアイソフォームを指す。
【0030】
タウは、微小管に結合しており、タウのリン酸化によって調節され得るプロセスである、細胞を通じたカーゴの輸送を制御する。AD及び関連する疾患においては、タウの異常リン酸化が広く生じ、これは、タウの対らせん状細線維(PHF)と呼ばれる原線維への凝集の前に生じるか又はその凝集を誘発すると考えられる。PHFの主な成分は、高リン酸化タウである。用語「対らせん状細線維-タウ」又は「PHF-タウ」は、本明細書で使用するとき、対らせん状細線維における周知のタウ凝集体を指す。PHF構造における2つの主要な領域は、電子顕微鏡、ファジーコート、及びコア細線維により明らかであり、ファジーコートはタンパク質分解に対して感受性であり、フィラメントの外側に位置し、当該フィラメントのプロテアーゼ耐性コアが、PHFの主鎖を形成する(Wischik,et al.Proc Natl Acad Sci U S A 85:4884-8,1988)。
【0031】
本明細書で使用するとき、「PHF-タウに結合する抗体」は、ウエスタンブロットで評価したときにPHF-タウに結合する抗体を指す。典型的に、PHF-タウに結合する抗体は、5%(w/v)脱脂粉乳(NFDM)TBS-T、0.05% Tween-20で1時間ブロッキングした後、約500ngのPHF-タウをクマシー染色した後に評価することができる。対照タウ及びPHF-タウの両方がPHF-タウエピトープに対する選択性を有しないタウ抗体(例えば、抗体HT7(ThermoScientific(Rockford,IL))によって等しく検出される抗原負荷条件下で試験した場合、ウエスタンブロットによって測定したとき、PHF-タウに結合する抗体は、対照タウ(配列番号31)には結合しない場合がある(Mercken,et al.J Neurochem 58:548-53,1992)。このような例示的な抗原ローディング条件は、500ngのPHF-タウ及び200ngの対照タウである。
【0032】
本明細書では、従来周知のアミノ酸の1文字表記及び3文字表記を用いる。
【0033】
物質の組成
本発明は、抗PHF-タウ抗体及びこのような抗体の使用に関する。このような抗PHF-タウ抗体は、PHF-タウにてリン酸化エピトープを結合させる特性、又はPHF-タウにて非リン酸化エピトープを結合させる特性を有することができる。抗PHF-タウ抗体は治療薬として有用であり得、また、生体サンプル、例えば組織又は細胞中のPHF-タウを検出するための研究又は診断試薬としても有用であり得る。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明の抗体は、表1に示す配列を有する。PT82は、マウスモノクローナル抗体であり、PT1B778、PT1B779、PT1B780、PT1B781、及びPT1B782は、PT82のヒト化バージョンである。可変領域配列におけるCDRには下線を付している。ヒト化モノクローナル抗体のCDRにおける太字のアミノ酸は、PT82 CDR配列と比較したときの置換を示す。
【0035】
【0036】
【0037】
一実施形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1又は7のHCDR1;配列番号2、8、10、12、13、又は14のHCDR2;及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖を有する。別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、配列番号4、9又は11のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖を有する。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、
配列番号1のHCDR1;配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号4のLCDR1、配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3;
配列番号7のHCDR1;配列番号8のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号9のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3;
配列番号7のHCDR1;配列番号10のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3;
配列番号7のHCDR1;配列番号12のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3;
配列番号7のHCDR1;配列番号13のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3;又は
配列番号7のHCDR1;配列番号14のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3を含む。
【0039】
他の実施形態では、PHF-タウに結合する本発明のモノクローナル抗体は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、及び14のいずれかのCDRと少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、又は少なくとも99%同一である1つ以上のCDRを含む。
【0040】
別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号15、17、19、21、23、及び24のいずれかを含む重鎖可変領域と、配列番号16、18、20、22及び25のいずれかを含む軽鎖可変領域とを含む。
【0041】
別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、
配列番号15を含む重鎖可変領域及び配列番号16を含む軽鎖可変領域;
配列番号17を含む重鎖可変領域及び配列番号18を含む軽鎖可変領域;
配列番号19を含む重鎖可変領域及び配列番号20を含む軽鎖可変領域;
配列番号21を含む重鎖可変領域及び配列番号22を含む軽鎖可変領域;
配列番号23を含む重鎖可変領域及び配列番号20を含む軽鎖可変領域;又は
配列番号24を含む重鎖可変領域及び配列番号25を含む軽鎖可変領域を含む。
【0042】
別の実施形態では、PHF-タウに結合する本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号15、17、19、21、23、及び24のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び/又は配列番号16、18、20、22及び25のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。特定の実施形態では、CDR領域は、アミノ酸変化が可変領域の非CDR領域に存在するように、表1に記載のとおりである。
【0043】
別の実施形態では、本発明の単離抗体又はその抗原結合断片は、ヒトタウタンパク質の119~126を含むエピトープに結合し、アミノ酸の付番は、配列番号31に記載のアミノ酸配列を参照する。
【0044】
実施例で説明する実施形態は、一方が重鎖に由来し、一方が軽鎖に由来する可変領域の対を含むが、当業者であれば、別の実施形態が、単一の重鎖又は軽鎖の可変領域を含んでいてもよいことを理解するであろう。1つの可変領域を用いて、例えばPHF-タウに結合することが可能な2ドメイン特異的抗原結合断片を形成することが可能な可変ドメインについてスクリーニングすることができる。スクリーニングは、例えば、国際公開第92/01047号に開示されている階層的デュアルコンビナトリアルアプローチを用いたファージディスプレイスクリーニング法によって実現することができる。このアプローチでは、H鎖又はL鎖のいずれかのクローンを含む個別のコロニーを用いて他方の鎖(L又はH)をコードしているクローンの完全なライブラリを感染させ、得られた二本鎖特異的抗原結合ドメインを記載されるようなファージディスプレイ法に従って選択する。
【0045】
本発明の別の実施形態は、配列番号15、17、19、21、23、及び24のいずれかの重鎖可変領域(VH)並びに/又は配列番号16、18、20、22及び25のいずれかのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する抗原結合部位を含む、PHF-タウに結合する単離抗体である。一実施形態では、本発明の単離抗体又はその抗原結合断片は、IGHV6-3*01のIMGT生殖系列識別子(Barbie and Lefranc,1998、Exp.Clin.Immunogenet,15:171-183)を有するVHと、IGKV6-13*01のIMGT生殖系列識別子を有するVLとを含む。
【0046】
前述の実施形態のいずれかでは、PHF-タウに結合する単離抗体は、ヒト化され得る。
【0047】
本発明の抗体は、様々な技術により、例えばハイブリドーマ法(Kohler and Milstein,Nature.256:495-7,1975)により生成することができる。アクセプター抗体(典型的にはヒトなどの別の哺乳類種)に由来する軽鎖及び重鎖定常領域と会合しているドナー抗体(典型的にはマウス)に由来する軽鎖及び重鎖可変領域を含有するキメラmAbは、米国特許第4,816,567号に開示されている方法により調製することができる。非ヒトドナー免疫グロブリン(典型的にはマウス)に由来するCDRと1つ以上のヒト免疫グロブリンに由来する分子の残りの免疫グロブリン由来部分とを有するCDRグラフトmAbは、米国特許第5,225,539号に開示されているような当業者に公知の技術によって調製することができる。
【0048】
非ヒト配列を全く有しない完全ヒトmAbは、(Lonberg,et al.Nature 368:856-9,1994、Fishwild,et al.Nat Biotechnol 14:845-51,1996、Mendez,et al.Nat Genet 15:146-56,1997)において言及されている技術によって、ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウスから調製することができる。また、ヒトmAbは、ファージディスプレイライブラリから調製及び最適化することもできる(Knappik,et al.J Mol Biol 296:57-86,2000、Krebs,et al.J Immunol Methods 254:67-84,2001、Shi,et al.J Mol Biol 397:385-96,2010)。
【0049】
抗体のヒト化は、特異性決定残基リサーフェシング(SDRR)(米国特許出願公開第2010/0261620号)、リサーフェシング(Padlan et al.Mol.Immunol.28:489-98,1991)、超ヒト化(国際公開第04/006955号)、及びヒトストリング含有量の最適化(米国特許第7,657,380号)などの周知の方法を使用して達成することができる。グラフト化/ヒト化に有用なヒトフレームワーク配列は、当業者であれば関連するデータベースから選択することができる。選択されたフレームワークは、Queenら(Queen,et al.Proc Natl Acad Sci U S A 86:10029-33,1989)又は米国特許出願公開第2011/0092372号に開示されているものなどの技術によって、結合親和性を保持又は増強するために更に修飾されてもよい。
【0050】
免疫用抗原又は単離抗体として用いるためのPHF-タウのファージディスプレイライブラリからの調製は、任意の好適な技術を用いて行うことができる。例示的な方法では、PHF-タウは、Greenberg及びDavies(Greenberg and Davies Proc Natl Acad Sci U S A 87:5827-31,1990)に記載されているような周知のプロトコールを用いて、ADを有する患者の脳から単離される。PHF-タウは、アルツハイマー患者の死後皮質から単離してもよい。単離PHF-タウは、その純度及びPHF-タウと反応することが知られている抗体による過剰リン酸化状態を特徴とする。典型的なPHF-タウの調製では、ウエスタンブロットにおいて約60、64、68、及び72kDaで移動する高リン酸化バンド(Spillantini and Goedert Trends Neurosci 21:428-33,1998)は、高リン酸化PHF-タウに特異的に結合するが、脱リン酸化PHF-タウには結合しないAT8抗体によって検出される。
【0051】
本発明の抗体は、配列番号31の対照タウには結合しないという特徴を有し得る。このような抗体は、上記方法、及びウエスタンブロットにおいて対照タウに結合しないことについて抗体を試験し、次いで、上記のとおりクマシー染色することを用いて生成することができる。対照タウは、組換え的に発現させ、標準的な方法を用いて精製することができる。
【0052】
本発明の抗体又はその抗原結合断片は、例えば、対照及びADの脳切片に対する免疫組織化学的検査を用いて、その特異性について更に評価してもよい。
【0053】
本発明の抗体は、PHF-タウに対する親和性を有し得、解離定数(KD)は、約10-7、10-8、10-9、10-10、10-11、又は10-12M以下である。PHF-タウに対する所与の分子の親和性は、任意の好適な方法を用いて実験的に判定することができる。このような方法は、当業者に公知のBiacore、ProteOn若しくはKinExA装置、ELISA、又は競合的結合アッセイを利用し得る。
【0054】
本発明の別の態様は、配列番号15、17、19、21、23、及び24のいずれかの重鎖可変領域と、配列番号16、18、20、22及び25のいずれかのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを有する抗原結合部位を含む、PHF-タウ結合についてモノクローナル抗体と競合する単離抗体又はその抗原結合断片である。
【0055】
本発明の別の態様は、配列番号15の重鎖可変領域及び配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号17の重鎖可変領域及び配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号19の重鎖可変領域及び配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号21の重鎖可変領域及び配列番号22のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;配列番号23の重鎖可変領域及び配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は配列番号24の重鎖可変領域及び配列番号25のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する抗原結合部位を含む、PHF-タウ結合についてモノクローナル抗体と競合する単離抗体又はその抗原結合断片である。
【0056】
PHF-タウに対する結合間の競合は、周知の方法を用いてインビトロでアッセイすることができる。例えば、未標識抗体の存在下におけるMSD Sulfo-タグ(商標)NHS-エステル標識抗体のPHF-タウに対する結合は、イムノアッセイ、続いて、電気化学発光検出を用いて評価することができる。
【0057】
競合的結合に加えて、いくつかの周知の方法を用いて、本発明の抗体の結合エピトープを決定することができる。例えば、両方の個々の構成要素の構造が知られている場合、インシリコでタンパク質-タンパク質ドッキングを行って、適合する相互作用部位を特定することができる。抗原抗体複合体を用いて水素-重水素(H/D)交換を行って、抗体が結合し得る抗原の領域をマッピングすることができる。抗原のセグメント及び点変異誘導を用いることにより、抗体の結合に重要なアミノ酸の位置を特定することができる。抗体-抗原複合体の共結晶構造を使用して、エピトープ及びパラトープに寄与する残基を特定することができる。
【0058】
本発明の抗体は、IgG、IgD、IgA、又はIgMアイソタイプのモノクローナル抗体であってよい。本発明の抗体は、二重特異的又は多重特異的であってよい。例示的な二重特異性抗体は、PHF-タウ上の2つの異なるエピトープに結合することができるか、又はPHF-タウ及びアミロイドベータ(Aβに結合することができる。別の例示的な二重特異性抗体は、PHF-タウ及び内因性血液脳関門トランスサイトーシス受容体、例えば、インスリン受容体、トランスフェリング受容体(transferring receptor)、インスリン様増殖因子-1受容体、及びリポタンパク質受容体に結合することができる。例示的な抗体は、IgG1タイプである。
【0059】
本発明の抗体の免疫エフェクターの特性は、当業者には既知の技術により、Fc修飾によって強化又はサイレンシングすることが可能である。例えば、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、貧食、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体(BCR))の下方制御などのFcエフェクター機能は、これらの活性を担うFcの残基を修飾することによって提供及び/又は制御され得る。例えば、Fc領域は、エフェクター機能を排除する置換を有するヒトIgG4 Fc領域を含有し得る。したがって、単離抗体は、以下の置換のうちの1つ以上を含有する修飾されたヒトIgG4 Fc領域を有するFc領域を更に含む:残基233におけるグルタミン酸のプロリンでの置換、残基234におけるフェニルアラニンのアラニン又はバリンでの置換、及びに残基235におけるロイシンのアラニン又はグルタミン酸での置換(EU付番、Kabat,E.A.et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.U.S. Dept. of Health and Human Services, Bethesda,Md.,NIH Publication no.91-3242)。残基297(EU番号付け)においてAsnの代わりにAlaを使用することによって、IgG4 Fc領域におけるN連結グリコシル化部位を除去することは、残留エフェクター活性が排除されることを確実にする別の方法である。また、抗体の半減期を延長するFcドメインの残基を変異させることによって、薬物動態特性を増強することができる(Strohl Curr Opin Biotechnol 20:685-91,2009)。
【0060】
更に、本発明の抗体は、グリコシル化、異性化、脱グリコシル化、又はポリエチレングリコール部分の付加(ペグ化)及び脂質化などの自然界では生じない共有結合修飾などのプロセスによって、翻訳後修飾してもよい。このような修飾はインビボ又はインビトロで行われ得る。例えば、本発明の抗体はポリエチレングリコールとコンジュゲート(PEG化)することによって薬物動態的なプロファイルを向上させることができる。コンジュゲーションは、当業者に既知の方法によって行うことができる。治療用抗体とPEGとのコンジュゲーションは、薬効を増強するが、機能には干渉しないことが示されている(Knight,et al.Platelets 15:409-18,2004、Leong,et al.Cytokine 16:106-19,2001、Yang,et al.Protein Eng 16:761-70,2003)。
【0061】
本発明の別の実施形態は、本発明の抗体をコードしている単離ポリヌクレオチド、又はその補体、又はその断片である。例示的な単離ポリヌクレオチドは、配列番号1又は7のHCDR1;配列番号2、8、10、12、13、又は14のHCDR2;及び配列番号3のHCDR3を含む免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドであり、配列番号4、9、又は11のLCDR1;配列番号5のLCDR2;及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖を有する。更なる例示的な単離ポリヌクレオチドは、配列番号15、17、19、21、23、及び24のいずれかの重鎖可変領域と配列番号16、18、20、22、及び25のいずれかのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドである。
【0062】
遺伝コードの縮重又は所与の発現系におけるコドンの選好性を考慮すると、本発明の抗体をコードする他のポリヌクレオチドも本発明の範囲内に含まれる。本発明の単離核酸は、公知の組換え又は合成技術を用いて作製することができる。モノクローナル抗体をコードしているDNAは、当該技術分野において公知の方法を用いて容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマが生成される場合、そのような細胞はそれらのDNAの供給源として機能することができる。あるいは、例えばファージ又はリボソームディスプレイライブラリなどのコード配列と翻訳産物とが連結しているディスプレイ技術を用いると、結合剤及び核酸の選択が簡略化される。ファージの選択後、ファージからの抗体コード領域が単離され、ヒト抗体、又は任意の他の所望の抗原結合断片を含む抗体全体の生成に使用され、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、及び細菌を含む任意の所望の宿主内で発現され得る。
【0063】
本発明の別の実施形態は、少なくとも1つの本発明のポリヌクレオチドを含むベクターである。このようなベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾンに基づくベクター、又は任意の手段によって所与の生物若しくは遺伝子的バックグラウンドに本発明のポリヌクレオチドを導入するのに好適な任意の他のベクターであってよい。
【0064】
本発明の別の実施形態は、本発明のポリヌクレオチドのいずれかを含む宿主細胞である。このような宿主細胞は、真核細胞、細菌細胞、植物細胞、又は古細菌細胞であってよい。例示的な真核細胞は、哺乳動物、昆虫、鳥類、又は他の動物由来のものであってもよい。哺乳類真核細胞としては、不死化細胞株(例えばハイブリドーマ)又は骨髄腫細胞株(例えばSP2/0(American Type Culture Collection(ATCC)、Manassas、VA、CRL-1581)、NS0(European Collection of Cell Cultures(ECACC)、Salisbury,Wiltshire,UK、ECACC No.85110503)、FO(ATCC CRL-1646)及びAg653(ATCC CRL-1580)マウス細胞株)が挙げられる。例示的なヒト骨髄腫細胞株は、U266(ATTC CRL-TIB-196)である。他の有用な細胞株としては、CHO-K1SV(Lonza Biologics)、CHO-K1(ATCC CRL-61、Invtrogen)のようなチャイニーズハムスターに由来する卵巣(CHO)細胞又はDG44が挙げられる。
【0065】
本発明の別の実施形態は、本発明の宿主細胞を培養し、当該宿主細胞によって産生された抗体を回収することを含む、PHF-タウと結合する抗体を作製する方法である。抗体を作製し、それを精製する方法は、当該技術分野において周知である。
【0066】
治療方法
Fab、(Fab’)2、scFv断片を含む本発明の抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片、又は本発明の抗体の抗原結合部位を含む抗体を用いて、脳内にタウの病理学的凝集を伴う神経変性疾患を有する患者における症状を治療、低減、又は予防することができる。
【0067】
本発明の方法によって治療される疾患(タウ異常症)としては、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維型認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
好ましくは、疾患(タウ異常症)は、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)、FTDP-17、又は進行性核上麻痺である。
【0069】
最も好ましくは、疾患(タウ異常症)は、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)である。
【0070】
任意の特定の理論に束縛されるものではないが、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、病理学的タウ凝集を低減し(例えば、凝集を予防及び/又は既に生じている凝集を減少させ)、ひいては、脳内のPHF-タウの量を低減することによって、その有益な効果を発揮することができる。本発明の抗体又はその抗原結合断片を用いて、任意の分類に属する動物患者を治療することができる。このような動物の例としては、ヒト、齧歯類、イヌ、ネコ、及び家畜などの哺乳動物が挙げられる。例えば、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、ADを治療するための医薬の調製において有用であり、当該医薬は、本明細書において規定される投薬量で投与するために調製される。
【0071】
本発明の別の実施形態は、タウの凝集を低減するのに十分な時間、治療的に有効な量の本発明の単離抗体又はその抗原結合断片を患者に投与することを含む、タウの凝集の低減を必要としている患者における、タウの凝集を低減する方法である。
【0072】
本発明の別の実施形態は、タウの凝集を伴う神経変性疾患の症状を治療又は低減するのに十分な時間、治療的に有効な量の本発明の単離抗体又はその抗原結合断片を患者に投与することを含む、患者における当該神経変性疾患の症状を治療又は低減する方法である。
【0073】
上記実施形態のいずれかでは、タウの凝集体を伴う神経変性疾患は、タウ異常症である。
【0074】
本明細書で使用するとき、「タウ異常症」は、脳内のタウの病理学的凝集を伴う任意の神経変性疾患を包含する。家族性及び散発性ADに加えて、他の例示的なタウ異常症は、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維型認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)である。(Morris,et al.Neuron 70:410-26,2011)。
【0075】
タウ異常症に関連する行動的表現型としては、認知障害、初期人格変化及び脱抑制、感情鈍麻、無為症、無言症、失行症、反復症、常同運動/挙動、口愛過度、混乱、連続タスクを予定又は計画する能力の欠如、利己的行動/無神経、反社会的特徴、共感の欠如、言葉のつかえ、錯誤的誤りは頻繁にあるが比較的理解力は保たれている失文症的な話し方、理解障害及び換語欠陥、緩徐進行性歩行不安定性、後方突進、すくみ、頻繁な転倒、非レボドパ反応性軸剛性、核上性注視麻痺、方形波痙攣、緩徐な垂直断続性運動、仮性球麻痺、四肢失行症、筋緊張異常、皮質性感覚消失、及び振戦が挙げられる。
【0076】
治療の影響を受けやすい患者としては、現在症状を示している患者に加えて、AD又は他のタウ異常症のリスクを有する無症候性個体が挙げられる。治療の影響を受けやすい患者としては、ADの家族歴又はゲノムにおける遺伝的リスク因子の存在など、ADの公知の遺伝的リスクを有する個体が挙げられる。例示的なリスク因子は、特に、位置717、並びに位置670及び671におけるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の変異(それぞれ、Hardy及びSwedish変異)である。他のリスク因子は、プレセニリン遺伝子、PS1及びPS2、並びにApoE4における突然変異、高コレステロール血症又は粥状硬化症の家族歴である。現在ADに罹患している個体は、上記リスク因子の存在によって特徴的な認知症から認識することができる。更に、ADを有する個体を同定するために利用可能な多数の診断試験が存在する。これらとしては、脳脊髄液のタウ及びAβ42レベルの測定が挙げられる。タウレベルの上昇及びAβ42レベルの低下が、ADの存在を表す。また、ADに罹患している個体は、アルツハイマー病及び関連障害協会の基準によって診断することもできる。
【0077】
投与/医薬組成物
本発明の抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片は、AD又は他のタウ異常症など、タウの病理学的凝集を伴う神経変性疾患を治療又は予防するための治療剤及び予防剤の両方として好適である。無症候性患者では、治療は何歳から開始してもよい(例えば、約10、15、20、25、30歳)。しかし、通常、患者が約40、50、60、又は70歳に達するまで治療を始める必要はない。治療は、典型的には、ある期間にわたる複数回投与を伴う。治療は、経時的に治療剤に対する抗体、又は活性化T細胞若しくはB細胞の応答を評価することによってモニタリングしてもよい。反応が低下した場合、追加投与が指示される。
【0078】
予防用途では、医薬組成物又は薬剤は、疾患の生化学的、組織学的、及び/又は挙動的症状、その合併症、並びに疾患の発現中に現れる中間病理学的表現型を含む、疾患のリスクをなくす若しくは低減する、重症度を低下させる、又は発症を遅らせるのに十分な量で、AD又は他のタウ異常症に罹患しやすいか又はそうでなければリスクを有する患者に投与される。治療用途では、組成物又は薬剤は、疾患の症状(生化学的、組織学的、及び/又は挙動的)のいずれかを低減、阻止、又は遅延させるのに十分な量で、かかる疾患が疑われるか又は既に罹患している患者に投与される。治療薬の投与により、障害の特徴的な病状を未だ発現していない患者における軽度認知障害を低減又はなくすことができる。治療又は予防的処置を達成するのに適切な量は、治療的に又は予防的に有効な用量として定義される。予防的及び治療的レジメンの両方において、組成物又は薬剤は、通常、十分な免疫反応が得られるまで何回か投与される。
【0079】
本発明の抗PHF-タウ抗体又はその断片は、関連する神経変性疾患の治療に有効な他の剤と併用投与してもよい。
【0080】
本発明の方法では、タウ異常症の治療又は症状の改善における抗体の「治療的に有効な量」は、標準的な研究技術によって決定することができる。例えば、抗体の用量は、当該技術分野において周知の関連する動物モデルに薬剤を投与することによって決定することができる。
【0081】
更に、最適な用量範囲を特定するのに役立てるために、場合によりインビトロアッセイを用いてもよい。特定の有効量の選択は、当業者であればいくつかの因子の考慮に基づいて(例えば臨床試験によって)決定することができる。このような要因としては、治療又は予防しようとする疾患、疾患症状、患者の体重、患者の免疫状態、及び当業者に公知のその他の要因が挙げられる。また、製剤に用いられる正確な用量は、投与経路及び疾患の重篤度に応じて決まり、医師の判断及び各患者の状況に従って決定されなければならない。有効量は、インビトロ又は動物モデル試験系から導かれる用量応答曲線から推定することができる。
【0082】
本発明の抗体を治療的に使用するための投与様式は、薬剤を宿主に送達する任意の好適な経路であってもよい。これら抗体の医薬組成物は、例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、又は頭蓋内等非経口投与に有用であるか、あるいは脳又は脊髄の脳脊髄液に投与してもよい。
【0083】
本発明の抗体又はその抗原結合断片は、医薬的に許容される担体における活性成分として有効な量の抗体又は断片を含有する医薬組成物として調製することができる。「担体」という用語は、抗体と一緒に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤、又は溶媒を指す。このような医薬用溶媒は、落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油などの、石油、動物、植物又は合成物由来の水及び油などの液体であってよい。例えば、0.4%生理食塩水及び0.3%グリシンを用いることができる。これらの溶液は滅菌され、一般には粒子状物質を含まない。これらは、従来の周知の滅菌技術(例えば、濾過)によって滅菌することができる。組成物は、生理的条件に近づけるために必要とされる医薬的に許容される補助物質、例えば、pH調整及び緩衝剤、安定化剤、増粘剤、滑沢及び着色剤等を含有していてよい。このような医薬製剤中の本発明の抗体の濃度は、幅広く、すなわち、約0.5重量%未満、通常は約1重量%又は少なくとも約1重量%から最大で15又は20重量%まで変化し得、そして、選択される具体的な投与様式に従って、主に、必要とされる用量、流体の体積、粘度等に基づいて選択される。
【0084】
治療は、単回投与スケジュール、又は複数回投与スケジュールで行ってもよく、複数回投与計画では、一次治療過程が1~10回の別個の投与と、続いて、応答を維持しかつ/又は強化するのに必要な後続の時間間隔で他の投与とを行い、例えば第2の投与を、1~4ヶ月で行い、また必要であれば、次の投与を数ヶ月後に行う。好適な治療スケジュールの例としては、(i)0、1ヶ月及び6ヶ月、(ii)0、7日及び1ヶ月、(iii)0及び1ヶ月、(iv)0及び6ヶ月、又は疾病の症候を軽減し、若しくは疾病の重症度を低下させることが期待される、所望の応答を誘発するのに十分な他のスケジュールが挙げられる。
【0085】
このように、筋肉内注射用の本発明の医薬組成物は、1mLの無菌緩衝水、及び約1ng~約100mg、約50ng~約30mg、又は約5mg~約25mgの本発明の抗体を含有するように調製してよい。同様に、静脈内注射用の本発明の医薬組成物は、約250mLの滅菌リンガー液、及び約1mg~約30mg又は約5mg~約約25mgの本発明の抗体を含有するように構成してよい。非経口投与可能な組成物を調製するための実際の方法が周知であり、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Science」、15th ed.,Mack Publishing Company,Easton,PAに、より詳細に記載されている。
【0086】
本発明の抗体及びその断片は、保存のために凍結乾燥させ、使用前に好適な担体で再構成することができる。この技術は、抗体及び他のタンパク質調製物に効果的であることが示されており、当該技術分野において公知の凍結乾燥及び溶解技術を用いることができる。
【0087】
診断方法及びキット
本発明の抗体は、対象におけるAD又は他のタウ異常症を診断する方法において使用することができる。この方法は、本発明の抗体又はその断片などの診断試薬を用いてPHF-タウの存在を対象において検出することを含む。
【0088】
対象由来の生体サンプルを診断抗体試薬と接触させ、対象由来のサンプルにおける当該診断抗体試薬のPHF-タウに対する結合を検出することによって、当該生体サンプル(例えば、血液、尿、脳脊髄液)中のPHF-タウを検出することができる。検出を実施するためのアッセイとしては、周知の方法、例えば、ELISA、免疫組織化学的方法、ウエスタンブロット、又はインビトロイメージングが挙げられる。
【0089】
診断抗体又は類似の試薬は、患者の体内に静脈内注射により投与することができるか、あるいは、上に例示したとおり薬剤を宿主に送達する任意の好適な経路によって脳内に直接投与することができる。抗体の用量は、治療方法と同じ範囲内であるべきである。典型的に、抗体は標識されるが、同じ方法において、PHF-タウに対して親和性を有する一次抗体は未標識であり、二次標識剤は、一次抗体に結合させるために用いられる。標識の選択は、検出手段に依存する。例えば、蛍光標識は、光学検出に好適である。常磁性標識の使用は、外科的介入のないトモグラフィー検出に好適である。また、放射標識は、PET又はSPECTを用いて検出され得る。
【0090】
診断は、対象由来のサンプル又は対象における、標識PHF-タウ、タウ凝集体、及び/又は神経原線維変化の数、大きさ、及び/又は強度を、対応するベースライン値と比較することによって行われる。ベースライン値は、非罹患個体の集団における平均レベルを表し得る。また、ベースライン値は、同じ対象において決定された以前の値を表す。
【0091】
また、上記診断方法は、治療前、治療中、又は治療後の対象におけるPHF-タウの存在を検出することによって、治療に対する対象の応答をモニタリングするために用いることもできる。ベースラインに対する値の減少は、治療に対する陽性応答を示す。また、値は、病理学的タウが脳からクリアランスされたとき、生物学的流体において一時的に増加する場合がある。
【0092】
本発明は、更に、上記診断及びモニタリング方法を実施するためのキットに関する。典型的には、このようなキットには、本発明の抗体などの診断試薬と、任意選択的に検出可能な標識とが入っている。診断抗体自体は、直接検出可能であるか又は二次反応(例えば、ストレプトアビジンとの反応)を介して検出可能である、検出可能な標識(例えば、蛍光標識、ビオチン等)を含有してもよい。あるいは、検出可能な標識を含有する第2の試薬を利用してもよく、この場合、当該第2の試薬は、一次抗体に対する結合特異性を有する。生体サンプルにおけるPHF-タウを測定するのに好適な診断キットでは、キットの抗体は、マイクロタイターディッシュのウェルなどの固相に予め結合した状態で供給され得る。
【0093】
本出願全体で引用した全ての引用参考文献(論文参考文献、交付済み特許、公開された特許出願、及び同時係属の特許出願を含む)の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【実施例1】
【0094】
対らせん状細線維-タウ(PHF-タウ)の精製
Greenberg及びDavies(Greenberg and Davies Proc Natl Acad Sci U S A 87:5827-31,1990)の変法によって、PHF-タウを部分的に精製した。簡潔に述べると、組織学的に確認されたアルツハイマー患者から得られた皮質の死後組織を部分的に精製した。典型的に、1000rpmでガラス/テフロンポッター組織ホモジナイザー(IKA Works,Inc;Staufen,Germany)を用いて、前頭皮質5mgを10体積の冷バッファBuffer H(10mM Tris、800mM NaCl、1mM EGTA、及び10%スクロース/pH7.4)中でホモジナイズした。ホモジナイズされた材料を、SorvallローターSS34において27000gで20分間遠心分離した。ペレットを廃棄し、上清を1%(w/v)N-ラウロイルサルコシン及び1%(v/v)2-メルカプトエタノールの最終濃度に調整し、37℃で2時間インキュベートした。次いで、上清を、Beckman 60Tiローターにおいて20℃で35分間108000gで遠心分離した。ペレットを慎重にPBSで洗浄し、PBSに懸濁させた。上記のとおり上清を2回目の遠心分離にかけ、最後のペレットを溶解させ、分注し、-80℃で冷凍した。PHF-タウ調製物の量を、12% SDS-PAGEと、抗タウ抗体AT8及びHT7(ThermoScientific,Rockford,IL)を用いたウエスタンブロットとで評価した。優れた品質のPHF-タウ調製物は、AT8などの過剰リン酸化PHF-タウと反応する抗体で検出された、ウエスタンブロット上の約60、64、66、及び72kDaの分子量を有する4本のバンドからなる。同等の量及び純度を有する2つの別々のPHF-タウ調製物を同じ脳サンプルから作製した。調製物1を免疫に用いた。
【実施例2】
【0095】
PHF-タウに対するモノクローナル抗体の作製
正常Balb/cマウスにおいて標準的なハイブリドーマ技術を用いて抗PHF-タウ抗体を作製した(Kohler and Milstein Nature 256:495-7,1975)。得られたハイブリドーマを96ウェルプレートに播種し、10日後に、下記のとおり25ng/ウェルでコーティングされたPHF-タウにおいて直接ELISAでスクリーニングした。陽性細胞を、大腸菌(E.Coli)BL21細胞で発現させた対照タウ(配列番号31)でコーティングされたウェルあたり10ngで交差反応性について試験し、熱処理及び硫酸アンモニウム沈殿によって精製した。PT82は、PHFタウ及び対照タウ(配列番号31)の両方に結合することが見出された。
【0096】
陽性細胞を直ちにサブクローニングし、陽性クローンを液体窒素中で凍結させた。10%ウシ胎仔血清(Hyclone,Europe)、Hybridoma Fusion Cloning Supplement(2%)(Roche,Brussels,Belgium)、2%HT(Sigma,USA)、1mMのピルビン酸ナトリウム、2mMのL-グルタミン及びペニシリン(100U/mL)、並びにストレプトマイシン(50mg/mL)を添加したダルベッコ変法イーグル培地において、全てのハイブリドーマを増殖させた。
【0097】
抗体可変領域を、選択したハイブリドーマ細胞からマウスIgG1/IgG2/κバックグラウンドにクローニングし、発現させ、常法を用いて精製した。簡潔に述べると、PT/82ハイブリドーマ細胞をRLTバッファ(Qiagenカタログ番号79216)で溶解させ、-70℃で凍結した。溶解物を37℃で解凍し、RNeasy96キット(Qiagenカタログ番号74182)を使用してRNAを単離した。
【0098】
RNAのアリコートを使用して、マウスIgG重鎖、マウスカッパ軽鎖、及びマウスラムダ軽鎖の定常領域にアニーリングするように設計されたプライマーを使用して、遺伝子特異的リバースプライマーミックスを使用してcDNAを合成した。
【0099】
IgG重鎖可変領域、カッパ軽鎖可変領域、又はラムダ軽鎖可変領域のいずれかを増幅するように設計されたマウスプライマーセットを用いたPCR反応において、cDNAのアリコートを使用した。フォワードプライマーは、フレームワーク1にアニーリングするように設計された複数のプライマーからなっており、リバースプライマーは、定常領域にアニーリングするように設計されていた。PCR産物のアリコートを2%アガロースゲルで泳動したところ、重及びカッパPCR産物は、正確なサイズの可視バンドを示した。
【0100】
それぞれの定常領域にアニーリングするように設計された重鎖又はカッパ軽鎖リバースプライマーを使用して、重鎖及びカッパ軽鎖のPCR産物の配列を決定した(サンガー法)。配列を分析し、アラインメントして、最も一致するマウス生殖系列を同定した。重鎖及びカッパ鎖フレームワーク1配列の最初の10個のアミノ酸を、一致する生殖系列配列を用いて置換した。IgG重鎖及びカッパ可変領域のアミノ酸配列を、コドン最適化及び合成した。コドン最適化されたIgG重鎖及びカッパ軽鎖可変領域を合成し、断片をマウスIgG2aアイソタイプ重鎖及びカッパ軽鎖アイソタイプ発現ベクターにクローニングした。
【0101】
抗体の可変領域を、選択されたハイブリドーマ細胞からクローニングし、標準的な方法を用いて配列を決定し、mAb及びFab用の発現ベクターにサブクローニングした。MabをマウスIgG2a/κバックグラウンドで生成し、発現させ、親和性クロマトグラフィー(プロテインA)によって精製した。ヒトIgG1/κ定常ドメインに融合したマウス可変ドメイン及び重鎖のC末端におけるHisタグを有するキメラバージョンとして、Fabを生成した。FabをHEK293F細胞で一過的に発現させ、親和性クロマトグラフィー(HisTrap)によって精製した。
【実施例3】
【0102】
表面プラズモン共鳴(SPR)による結合評価
PHF及び可溶性(2N4R)タウとPT82及びそのFab断片について、ProteOn XPR36(Bio-Rad,Hercules,CA)又はBiacore T200(Biacore,Uppsala,Sweden)機器においてSPRによってPHF-タウ及び組み換えタウとの相互作用を評価した。表2は、PT82及びそのFabとPHF-タウ及び可溶性タウとの親和性評価の代表的な結果を示す。
【0103】
【0104】
PT82及びそのFabの両方がPHF-タウに結合した。一方、PT82のFab断片は、可溶性タウにも結合した(
図1も参照)。この研究の結果は、PT82がPHF-タウ及び可溶性タウに結合することを実証した。
【実施例4】
【0105】
抗体選択のための直接ELISA
25ng/ウェルのPHF-タウを、NUNC Maxisorp(Life Technologies)平底高結合96ウェルマイクロタイタープレートにおいて4℃で一晩、50μL/ウェルのコーティングバッファ(10mMのトリス、10mMのNaCl、及び10mMのNaN3、pH8.5)でコーティングした。次の日、室温で60分間75μL/ウェルのPBS中0.1%カゼインでプレートをブロッキングした。次に、50μLのハイブリドーマ上清を添加し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄後、結合しているモノクローナル抗体を、37℃で1時間、50μL/ウェルのセイヨウワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしているヒツジ抗マウスIgGで検出した(Amersham-Pharmacia Biotech)。両試薬を0.1%カゼイン/PBSで希釈した。プレートを洗浄し、0.42mMの3,5,3’,5’-テトラメチル-ベンジジン、100mMのクエン酸中0.003%(v/v)H2O2、及び100mMのリン酸水素二ナトリウム(pH4.3)溶液50μLを基質として添加した。室温でプレートシェーカー上において最長15分間反応を進行させることができ、その後、50μL/ウェルの2N H2SO4で発色を停止させ、マイクロタイタープレートリーダーで450nmにてプレートを読み取った(Thermomax,Molecular Devices)。
【実施例5】
【0106】
完全長タウタンパク質(1ng/mL又は10ng/mL)をプレートに直接コーティングし、異なる濃度の組換え的に又はハイブリドーマで生成されたPT82抗体と共にインキュベートしたELISAによって、組換え野生型(2N4R、配列番号31)タウへの結合を分析した(
図2)。抗体と共にインキュベーションした後、プレートを再度洗浄し、50μL/ウェルのHRPOで標識された抗マウス抗体(GE Healthcare)(ブロッキングバッファで1:10000希釈)を添加した。別の洗浄ステップの後、メーカーの取扱説明書に従い、「ワンステップ」TMB(Thermo Scientific)を用いて、検出を実施した。EnVision(登録商標)2102 Multilabel Reader(Perkin Elmer,Waltham,MA,USA)でプレートを分析した。結合曲線を、GraphPad Prism7.0ソフトウェアを使用して生成した。予想どおり、より低いコーティング濃度のタウからは、より低い最大値が得られた(例えば、赤色の曲線を、組換え抗体のそれぞれ1ng/mL又は10ng/mLへの結合が示された緑色の曲線と比較)。組換え的に及びハイブリドーマで生成された抗体の結合プロファイル間には、実質的な差は観察されなかった。
【実施例6】
【0107】
脊髄同時培養アッセイ(FRETアッセイ)
コインキュベーションするためのタウ種を含有するホモジネートは、凝集したトランスジェニックヒトタウを含有する22~23週齢のP301Sトランスジェニック動物の脊髄組織に由来していた(
図3A)。アッセイで使用したレシピエント細胞は、K18/P301L-YFP及びK18/P301L-CFPを安定的に発現しているHEK細胞であった(Holmes et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.111(41):E4376-85,2014)。タウ種を含有するホモジネートを陰性対照又はPT82抗体とコインキュベートし、この混合物を添加して、72時間、発色団-K18含有HEK細胞を受容させた。FACSによりFRET陽性細胞を計数することによって、K18凝集体形成を測定した。
【0108】
PT82は、わずか3nMの濃度でタウ凝集体誘導をブロックした(
図3B)。
【実施例7】
【0109】
免疫枯渇細胞アッセイ
最大阻害率(%)の値が、当該種におけるエピトープの密度、又はPT82エピトープを含有する種の数に関係しているかどうかを調べるために、免疫枯渇アッセイを実施した(
図4A)。免疫枯渇アッセイにおいて、タウ種を陰性対照又はPT82抗体と共にインキュベートし、プロテインGビーズを用いて溶液から除去した。枯渇した上清を、発色団-K18含有HEK細胞内における残存播種能(residual seeding capacity)について試験し、上記のとおりFACSによって分析した(Holmes et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.111(41):E4376-85,2014)、又は凝集選択的タウアッセイを使用して凝集タウのレベルについて試験した。
【0110】
免疫枯渇のためのタウ種を含有するホモジネートは、22~23週齢のP301Sトランスジェニック動物の脊髄、又は冷凍保存したヒトAD脳組織から生成した。ヒトAD脳免疫枯渇アッセイにおいて、トランスフェクション試薬Lipofectamine2000の存在下において、枯渇後に上清を試験し、許容されるアッセイウィンドウを得た。
【0111】
タウ播種能(FRETアッセイで測定、
図4B)及びタウ凝集レベル(凝集タウ選択性MSDアッセイによって測定、
図4C)を、脊髄抽出物中のPT82及びヒトAD脳由来の全ホモジネートで枯渇させることができた。PT82は、ヒトAD脳及びTgP301S脊髄溶解物の両方に由来するタウ種を阻害した。タウ播種は、脊髄抽出物中のPT82でほぼ完全に枯渇させることができた。
【実施例8】
【0112】
ePHF注射モデルにおけるマウスPT82のインビボ有効性
合成K18原線維(Li and Lee,Biochemistry.45(51):15692-701,2006)又はヒトAD脳由来のPFH-タウ種などのタウの凝集促進断片を、細胞自律的凝集が始まっていない年齢でP301Lトランスジェニックマウスモデルの皮質又は海馬領域に注射する、トランスジェニックP301Lマウス注射モデルが確立されている。注射モデルは、タウ拡散の決定的な細胞外播種構成成分を再現することを目的としている。注射されるK18又はPHF-タウ種は、注入部位にてタウ異常症を誘発し、また、接続した反対側の領域において、より軽度に、タウ異常症を誘発する(Peeraer et al.,Neurobiol Dis.73:83-95,2015)。このモデルにより、AD脳由来のPHF-タウ種又はK18原線維と同時注射したときに、本発明の抗タウ抗体などの抗体の、抗播種能の試験が可能となる(Iba et al.,2015,J Neurosci.33(3):1024-37,2013;Iba et al.,Acta Neuropathol.130(3):349-62)。
【0113】
死後のAD脳のサルコシル不溶性画分の皮質注射により、タウ凝集の緩徐に進行する増加が誘発される。注射された半球では、注射の1ヶ月後に最初のシグナルが測定され、注射の更に3ヶ月後まで進行する。注射の5ヶ月後に、いくつかの動物では、P301L変異により引き起こされる濃縮の形成が開始される(Terwel et al.,2005,Id.)。AT8の染色レベルは、1ヶ月と3ヶ月との間で増加する(PT3親を参照)ため、抗体の有効性実験を、同時注射の2ヶ月後に分析する。更に、死後のAD脳のサルコシル不溶性画分の海馬注射により、注射された半球由来のサルコシル不溶性画分をMesoScale Discoveries(MSD)分析することによって測定される、用量依存的に進行するタウ凝集の増加が誘発される。
【0114】
動物治療及び頭蓋内注射
注射の検討のために、P301L変異を有する最長のヒトタウアイソフォーム(タウ-4R/2N-P301L)(Terwel et al.,2005,Id.)を発現するトランスジェニックタウ-P301Lマウスを、月齢3ヶ月にて手術に使用した。現地の倫理委員会が認可した手順を遵守して、全ての実験を実施した。定位脳手術については、モノクローナル抗体の存在下又は不存在下において、死後AD組織(富化した対らせん状細線維、ePHF)由来のサルコシル不溶性prep3μL(速度:0.25μL/分)を、マウスの海馬(AP-2.0、ML+2.0(ブレグマから)、DV1.8mm(硬膜から))に片側(右半球)注射した。マウスを切開するために屠殺した(頭蓋内注射の2ヶ月後)。
【0115】
抽出手順
注射された半球由来のマウス組織を計量し、6体積のホモジナイゼーションバッファ(10mMのTris HCl(pH7.6)、0.8MのNaCl、10%w/vのスクロース、1mMのEGTA、PhosStopホスファターゼ阻害剤カクテル、完全EDTA不含ミニプロテアーゼ阻害剤)中でホモジナイズした。28000×gにて20分間、ホモジネートを遠心分離し、得られた上清(全ホモジネート)からアリコートを取り出した後、1%のN-ラウロイルサルコシンを添加した。90分後(900rpm、37℃)、溶液を再び、184000×gにて1時間遠心分離にかけた。上清はサルコシル可溶性画分として保持したが、サルコシル不溶性材料を含有するペレットは、均質化緩衝液中に懸濁させた。
【0116】
生化学的分析
コーティング抗体(AT8)をPBS(1μg/mL)で希釈し、MSDプレート(30μL/ウェル)(L15XA、Mesoscale Discoveries)に分注し、これを4℃で一晩インキュベートした。5×200μLのPBS/0.5%のTween-20で洗浄した後、プレートをPBS中の0.1%のカゼインでブロックし、5×200μLのPBS/0.5%のTween-20で再び洗浄した。サンプル及び標準(共に、PBS中の0.1%のカゼインに希釈)を添加した後、プレートを4℃で一晩インキュベーションした。その後、プレートを5×200μLのPBS/0.5%Tween-20で洗浄し、PBS中の0.1%カゼイン中SULFO-TAG(商標)コンジュゲート検出抗体(AT8)を添加し、600rpmで振盪しながら室温で2時間インキュベーションした。最後の洗浄(5×200μLのPBS/0.5%のTween-20)の後、150μLの2×緩衝液Tを添加し、プレートをMSDイメージャで読み取った。死後のAD脳(ePHF)のサルコシル不溶性prepの16個の希釈物からなる検量線に対してそのままのシグナルを正規化し、任意の単位(AU)ePHFとして表した。GraphPadプリズムソフトウェア及び自動分析のために「インハウス」で開発したアプリケーションを用いて、統計分析(Bonferroni事後検定を伴うANOVA)を実施した。
【0117】
結果
海馬同時注射モデル下のマウスPT82(IgG2aとして組換え的に発現)の活性を、1つの研究においてAT180及びPT3の活性と比較した(
図5、表3)。抗体(4.5ピコモル)をePHFタウ(0.6ピコモル)と共に皮質に同時注射した。各群で15頭の動物を使用した。したがって、PT82の同時注射は、P301LマウスにおけるePHF誘導性タウ凝集を減弱した(
図5A及び5B)。全ホモジネート(
図5A)及びサルコシル不溶性ホモジネート(
図5B)において効果が観察された。
【0118】
【表3】
*多重比較のためにボンフェローニ補正を用いて一元配置分散分析により統計分析を行った。
【0119】
追跡調査では、PHFの頭蓋内注射(
図6A)及び抗体+PHFの頭蓋内同時注射(
図6B)後に抗体を末梢投与(20mg/kg、2×/週)した際のPT3及びPT82による有効性を比較した。末梢投与は、PHFの頭蓋内注射の2週間前に開始し、実験の生活相(life phase)の間継続した。表4は、実験で使用した抗体の量を示す。最初の研究と一致して、PT3及びPT82の両方の同時投与によって、サルコシル不溶性画分(
図6C及び表5)及び全脳ホモジネート(
図6D及び表5)中のePHF誘導性凝集シグナルが低減された。これに加えて、抗体の末梢投与は、ePHFによって誘導された播種を有意に阻害した。
【0120】
【0121】
【表5】
*多重比較のためにボンフェローニ補正を用いて一元配置分散分析により統計分析を行った。
【実施例9】
【0122】
アレイペプチドの合成
標的分子のエピトープを再構築するために、タウ441配列を網羅するペプチド(18アミノ酸が重複している20mer)のライブラリを合成した。独自の親水性ポリマー製剤でグラフト化し、続いて、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)と共にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いてt-ブチルオキシカルボニル-ヘキサメチレンジアミン(BocHMDA)と反応させ、その後、トリフルオロ酢酸(TFA)を用いてBoc基を切断することにより、アミノ官能化ポリプロピレン担体を得た。標準的なFmocペプチド合成を使用して、カスタム変性JANUS液体ハンドリングステーション(Perkin Elmer)によってアミノ官能化固体担体上でペプチドを合成した。Pepscan独自のスカフォールド上で化学的に結合したペプチド(Chemically Linked Peptides on Scaffolds、CLIPS)技術を用いて構造ミミックの合成を行った(Timmerman P,Puijk WC,Meloen RH(2007)Functional reconstruction and synthetic mimicry of a conformational epitope using CLIPS technology.J Mol Recognit 20:283-299.10.1002/jmr.846[doi])。CLIPS技術により、ペプチドを単ループ、二重ループ、三重ループ、シート状折畳み、らせん状折畳み、及びこれらの組み合わせにペプチドを構造化することが可能になる。CLIPSテンプレートは、システイン残基に結合する。ペプチド中の複数のシステインの側鎖が、1つ又は2つのCLIPSテンプレートに結合する。例えば、P2 CLIPS(2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン)の0.5mM溶液を重炭酸アンモニウム(20mM、pH7.8)/アセトニトリル(1:3(v/v))に溶解させる。この溶液をペプチドアレイに添加する。CLIPSテンプレートは、ペプチドアレイの固相結合ペプチド(3μLのウェルを有する455ウェルプレート)中に存在するとき、2つのシステインの側鎖に結合する。ペプチドアレイを、溶液中で完全に被覆しながら、溶液中で30~60分間穏やかに振盪する。最後に、ペプチドアレイを過剰のH2Oで広範に洗浄し、70℃で30分間PBS(pH7.2)中1%SDS/0.1%β-メルカプトエタノールを含有する破壊バッファ中で超音波処理し、続いて、更に45分間H2O中で超音波処理する。T3 CLIPS担持ペプチドを同様の方法で作製したが、ここでは3つのシステインを用いて作製した。
【0123】
Elisaスクリーニング
各合成ペプチドに対する抗体の結合(IgG2aとして組換え的に発現)を、ペプスキャン系ELISAにおいて試験した。ペプチドアレイを、一次抗体溶液と共にインキュベートした(4℃で一晩)。洗浄後、ペプチドアレイを、適切な抗体ペルオキシダーゼコンジュゲート(SBA)の1/1000希釈物と共に25℃で1時間インキュベートした。洗浄後、ペルオキシダーゼ基質2,2’-アジノ-ジ-3-エチルベンズチアゾリンスルホネート(ABTS)及び20μL/mLの3%H2O2を添加した。1時間後、発色を測定した。発色を電荷結合素子(CCD)カメラ及び画像処理システムを用いて定量した。
【0124】
結果
図7のデータは、タウ441配列中の残基103から出発して残基140までの一連のペプチドに対するPT82の結合を示す。これらの抗体については、他のタウペプチドに対する結合は観察されなかった。詳細なマッピングは、PT82が、共通モチーフ
119AGHVTQ
124(配列番号32)でペプチドに結合することを実証した。
【実施例10】
【0125】
PT82のヒト化
ヒト化重鎖及び軽鎖の最良の組み合わせを見つけるために、いくつかのヒトV領域配列を試験のために選択した。ヒト生殖細胞系及びJ領域の選択は、フレームワーク(FR)領域におけるマウス抗体との全体的な配列類似性にのみ基づくものであった。CDR配列も、その長さ又は標準構造も、この選択には考慮しなかった。
【0126】
HFAで使用したCDRの定義は、(Fransson J,et al.J.Mol.Biol.2010;398:214-231)に記載されており、Martinの定義(Abhinandan KR and Martin AC.Mol.Immunol.2008;45:3832-3839)に対応する。CDRは、以下のように定義される(Chothia付番スキーム[Chothia C,and Lesk A.J.Mol.Biol.1987;196:901-917]を使用。VL/VHの対形成及びCDRの立体構造にとって重要であることが知られているフレームワーク位置では、ヒトからマウスへの復帰突然変異を組み込んで、ヒト化V領域の結合親和性を維持するために、二残基ライブラリでアミノ酸を変化させた。PT82については、CDRをヒトHV3-72*01a生殖系列遺伝子にグラフトした。VH:ヒト/マウスバイナリコンビナトリアルライブラリは、位置37:I、V;78:V、L;93:T、A;94:R、Gを含んでいた。軽鎖については、位置4:L、M及び78:L、MにおけるVL:ヒト/マウスバイナリコンビナトリアルライブラリを用いて、CDRをヒトKV1-9*01a遺伝子にグラフト化した。
【0127】
更に、ヒト化PT82の親和性を改善するのに役立てるためにファージディスプレイライブラリにおいて、VH及びVLにおけるいくつかの位置をランダム化した(表6)。
【0128】
【0129】
重複PCRにおいて縮重オリゴヌクレオチドを使用して、ヒト化/成熟ライブラリを作製した。次いで、相補性マウスV領域と組み合わせて、VH又はVLライブラリDNA断片を、pCNTOファージミド(Shi et al.,J.Mol.Biol.397:385-396,2010;国際公開第2009/085462号;米国特許出願公開第2010/0021477号;同第2012/0108795号)にクローニングした。ライブラリライゲーションを精製し、MC1061F’細胞に形質転換した。対数増殖期成長(OD600nm≒0.6)が達成されるまで、細胞を2xYT(Carb)中で成長させた。ヘルパーファージを添加し、培養物を37℃で30分間インキュベートした。それぞれ35ug/mL及び1mMの最終濃度になるようにカナマイシン及びIPTGを各培養物に添加し、振盪しながら30℃で一晩増殖させた。PEG/NaClを用いて細菌培地からファージを沈殿させ、PBSに再懸濁した。
【0130】
親和性成熟パニングにあたって、Bt-タウペプチドを50μLのSAコーティングされた磁気ビーズ上に捕捉した。抗原の濃度は、1回目は10nM、2回目は0.1nM、そして3回目は0.1nMであった。ビーズを、PBSTで6回洗浄し、PBSで1回洗浄し、続いて上述の大腸菌に感染させた。ファージディスプレイ選択後、感染したMC1061F’細胞からファージミドDNAを単離し、制限酵素で消化してpIXをコードしている配列を除去し、線状化したプラスミドDNAを切除し、アガロースゲルから精製した。次に、このDNAをT4 DNAリガーゼで自己連結した。連結したDNAをMC1061F’細胞内に電気穿孔し、LB(Carb/グルコース)寒天プレート上で平板培養した。
【0131】
この電気穿孔からのコロニーをELISAスクリーニング及びFab発現の評価のために選んだ。簡潔に言えば、Maxisorp96ウェルプレートを可溶性タウタンパク質でコーティングした。Fabコロニーを2xYT培地で増殖させ、Fab発現をIPTGにより誘導した。ELISAプレートを洗浄し、大腸菌培地に分泌されたFabを各ELISAプレートに添加した。プレートを洗浄し、抗Fab’2:HRP(Jackson ImmunoResearch)をELISAプレートに添加した。プレートを洗浄し、化学発光検出試薬を添加し、発光についてPerkin Elmer EnVisionプレートリーダーでプレートを読み取った。
【0132】
VH及びVLの両方で陽性クローンの配列を決定した。VH及びVL配列を表1に列挙する。固有の配列を、完全長IgG1分子として発現及び精製するためのIgG遺伝子発現コンストラクトにクローニングした。IgGコンストラクトをCHO-Expi細胞にトランスフェクトし、IgGタンパク質をMabSelectSure樹脂を用いて精製した。次いで、IgG結合を検出するために、抗ヒトFc:HRP(Jackson ImmunoResearch)を使用して、可溶性タウへの結合について抗体をELISAで試験した。このデータを
図8に示す。ヒト化は、可溶性タウに対するPT82の結合と比較して、可溶性タウに対する結合に実質的に影響を及ぼさなかった。
【0133】
ELISAは、PGS中5μg/mLで開始した5つの5倍希釈物で抗体を試験し、抗ヒトFc:HRP(Jackson ImmunoResearch)を使用してIgG結合を検出したことを除いて、Fabについて記載したとおり行った。
【0134】
以上、本発明を詳細に、かつその具体的な実施形態を参照して説明したが、当業者には、発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更及び改変を行い得る点は明らかであろう。
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載の発明を列挙する。
[発明1]
相補的決定領域1(HCDR1)、HCDR2、及びHCDR3を含む重鎖可変領域(V
H
)と、相補的決定領域1(LCDR1)、LCDR2、及びLCDR3を含む軽鎖可変領域(V
L
)とを含む、PHF-タウに結合する単離抗体又はその抗原結合断片であって、
(a)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号1のHCDR1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号4のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(b)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のHCDR1、配列番号8のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号9のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(c)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のHCDR1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(d)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のHCDR1、配列番号12のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;
(e)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のHCDR1、配列番号13のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含むか;あるいは
(f)前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のHCDR1、配列番号14のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3、並びに配列番号11のLCDR1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む、
前記単離抗体又はその抗原結合断片。
[発明2]
(a)配列番号15と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号16と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(b)配列番号17と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号18と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(c)配列番号19と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号20と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(d)配列番号21と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号22と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;
(e)配列番号23と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号20と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域;又は
(f)配列番号24と少なくとも95%同一である配列を含む重鎖可変領域及び配列番号25と少なくとも95%同一である配列を含む軽鎖可変領域
を含む、発明1に記載の単離抗体又は抗原結合断片。
[発明3]
(a)配列番号15の重鎖可変領域及び配列番号16を含む軽鎖可変領域;
(b)配列番号17を含む重鎖可変領域及び配列番号18を含む軽鎖可変領域;
(c)配列番号19を含む重鎖可変領域及び配列番号20を含む軽鎖可変領域;
(d)配列番号21を含む重鎖可変領域及び配列番号22を含む軽鎖可変領域;
(e)配列番号23を含む重鎖可変領域及び配列番号20を含む軽鎖可変領域;又は
(f)配列番号24を含む重鎖可変領域及び配列番号25を含む軽鎖可変領域
を含む、発明1又は2に記載の単離抗体又は抗原結合断片。
[発明4]
発明1~3のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片をコードしている、単離核酸。
[発明5]
発明4に記載の単離核酸を含む、ベクター。
[発明6]
発明4に記載の核酸又は発明5に記載のベクターを含む、宿主細胞。
[発明7]
発明1~3のいずれか一つに記載の単離抗体又は抗原結合断片と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[発明8]
病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散の低減を必要とする対象における、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散を低減する方法であって、発明7に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
[発明9]
タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症を治療する方法であって、発明7に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
[発明10]
タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症を治療する方法であって、発明7に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含み、前記タウ異常症が、アルツハイマー病(家族性アルツハイマー病及び散発性アルツハイマー病を含む)、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維型認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される、前記方法。
[発明11]
発明1~3のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片を生成する方法であって、前記抗体又は抗原結合断片を生成する条件下で前記抗体又は抗原結合断片をコードしている核酸を含む細胞を培養することと、前記細胞又は細胞培養物から前記抗体又は抗原結合断片を回収することとを含む、前記方法。
[発明12]
発明1~3のいずれか一つに記載のヒト化抗体又は抗原結合断片を含む医薬組成物を生成する方法であって、前記抗体又は抗原結合断片を医薬的に許容される担体と組み合わせて前記医薬組成物を得ることを含む、前記方法。
[発明13]
対象由来の生体サンプルにおけるPHF-タウの存在を検出する方法であって、前記生体サンプルを発明1~3のいずれか一つに記載の抗体又は抗原結合断片と接触させることと、前記対象由来の前記サンプル中のPHF-タウへの前記抗体又は抗原結合断片の結合を検出することとを含む、前記方法。
[発明14]
前記生体サンプルが、血液、尿、又は脳脊髄液のサンプルである、発明13に記載の方法。
【配列表】