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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】成膜装置及び電子デバイスの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20231010BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20231010BHJP
   C23C 16/04 20060101ALI20231010BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20231010BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231010BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231010BHJP
   H01L 21/673 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C23C14/56 J
C23C14/04 A
C23C14/56 G
C23C16/04
C23C16/44 F
H05B33/14 A
H05B33/10
H01L21/68 U
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021092524
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184582
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姫路 俊明
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-189939(JP,A)
【文献】特開2008-056966(JP,A)
【文献】特開2020-094262(JP,A)
【文献】特開2014-141706(JP,A)
【文献】特開2019-083311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
H10K 50/10
H05B 33/10
H01L 21/673
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが基板を保持する複数の基板キャリアと複数のマスクとを搬送して成膜を行うインライン式の成膜装置であって、
前記複数の基板キャリアのうちの特定の基板キャリアと前記複数のマスクのうちの特定のマスクとを積層する、または、前記特定の基板キャリアを前記特定のマスクに載置する合体室と、
前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクとを積層または載置した際の位置ずれ量を記録する記録部と、
前記記録部に記録された前記位置ずれ量を用いて前記合体室における前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクの位置合わせを行う位置合わせ部と、
前記特定の基板キャリアに保持され前記特定のマスクに積層または載置された基板に前記特定のマスクを介して材料を堆積させて成膜する成膜室と、
前記成膜室から搬送された前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクとを離間させる離間室と、
前記離間室にて離間された前記特定のマスクを一時的に保管するマスク保管室と、
前記離間室において互いに離間された前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクとが前記合体室において再び積層または載置されるように、前記複数の基板キャリア及び前記複数のマスクの少なくとも一方の搬送を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインライン式の成膜装置。
【請求項2】
前記マスク保管室は、前記離間室から前記合体室に向かう経路上に配される
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記マスク保管室は、前記離間室から前記合体室に向かう経路に沿って配される
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記マスク保管室は、それぞれが前記複数のマスクのいずれかを支持する複数のマスク支持部を有し、
前記複数のマスク支持部は鉛直方向に沿って配列される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記マスク保管室は、
それぞれが前記複数のマスクのいずれかを支持し、鉛直方向に沿って配列された複数のマスク支持部を有するカセットと、
前記カセットを昇降させる昇降手段と、を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記位置合わせ部は、前記基板キャリアに保持される前記基板に平行な平面内で、前記基板キャリアまたは前記マスクの少なくとも一方を移動させる面内移動手段と、前記基板キャリアと前記マスクの相対距離を変化させる距離変化手段とを有し、
前記面内移動手段は、前記記録部に記録された前記位置ずれ量に基づくオフセット量を含めて前記移動を行う
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記記録部は、前記位置ずれ量を、前記基板キャリアを識別するための基板キャリア識別情報に紐付けて記録する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記記録部は、前記位置ずれ量を、前記マスクを識別するためのマスク識別情報に紐づけて記録する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記記録部は、前記位置ずれ量を、前記基板キャリアを識別するための基板キャリア識別情報と、前記マスクを識別するためのマスク識別情報と、に紐づけて記録する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記合体室における前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクの組み合わせが、前記記録部に前記位置ずれ量が記録されている組み合わせとなるように、前記マスク保管室から前記特定のマスクを搬出する
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の成膜装置を用いて電子デバイスを製造する電子デバイスの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び電子デバイスの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス等の基板に蒸着材料を蒸着して成膜を行う成膜装置が知られており、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの電子デバイスの製造に用いられる。成膜装置として、基板に成膜が行われる複数のチャンバがクラスタ状に配置されたクラスタ型のものや、基板が搬送経路に沿って搬送されながら成膜処理を受けるインライン式のものが知られている。特許文献1(特開2020-094261号公報)には、基板キャリアに保持された基板が搬送されながら、マスクとのアライメント処理や複数のチャンバにおける成膜処理を受けることで、複数の成層が行われてディスプレイが製造される、インライン式の成膜装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-094261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の成膜装置内には複数の基板キャリアおよび複数のマスクが循環しており、成膜装置に順次搬入される基板は、基板キャリアにより保持されて搬送経路上を移動し、マスクとの位置合わせと取り付けを経て成膜処理を受ける。ここで、成膜装置内に搬入された基板は基板キャリアに保持された状態でアライメント室に移動し、基板キャリアごとマスクとの間で位置合わせされ、マスクと合体される。そして、基板キャリアが基板とマスクをともに保持しながら成膜室に移動し、搬送されながら成膜を受ける。成膜完了後、次の基板の成膜に用いるために基板キャリアからマスクが取り外される。そして、成膜済みの基板がキャリアから取り外され、成膜装置外に搬出される。
【0005】
しかしながら、インライン式の成膜装置内で、基板キャリアから取り外された後の複数のマスクを後の基板の成膜に用いるために保管する方法については、十分な検討がなされていなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、インライン式の成膜装置においてマスクを好適に保管する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
それぞれが基板を保持する複数の基板キャリアと複数のマスクとを搬送して成膜を行うインライン式の成膜装置であって、
前記複数の基板キャリアのうちの特定の基板キャリアと前記複数のマスクのうちの特定のマスクとを積層する、または、前記特定の基板キャリアを前記特定のママスクに載置する合体室と、
前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクとを積層または載置した際の位置ずれ量を
記録する記録部と、
前記記録部に記録された前記位置ずれ量を用いて前記合体室における前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクの位置合わせを行う位置合わせ部と、
前記特定の基板キャリアに保持され前記特定のマスクに積層または載置された基板に前記特定のマスクを介して材料を堆積させて成膜する成膜室と、
前記成膜室から搬送された前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクとを離間させる離間室と、
前記離間室にて離間された前記特定のマスクを一時的に保管するマスク保管室と、
前記離間室において互いに離間された前記特定の基板キャリアと前記特定のマスクとが前記合体室において再び積層または載置されるように、前記複数の基板キャリア及び前記複数のマスクの少なくとも一方の搬送を制御する制御部と、
を有することを特徴とするインライン式の成膜装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インライン式の成膜装置においてマスクを好適に保管する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の成膜装置の構成を示す模式図
図2】実施例1のアライメント装置の構成を示す断面図
図3】実施例1のアライメント装置の構成を示す斜視図
図4】実施例1の基板キャリアを説明するための図
図5】実施例1の基板キャリアとマスクの取り付けを説明するための図
図6】実施例1のアライメントにおける撮像を説明するための図
図7】実施例1の基板キャリアとマスクの位置ずれを説明するための図
図8】実施例1のマスク保管装置の構成を示す断面図
図9】実施例1の基板キャリアとマスクの組み合わせを示すタイミング図
図10】実施例2の成膜装置の構成を示す模式図
図11】実施例3の成膜装置の構成を示す模式図
図12】有機EL表示装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
以下の説明においては、電子デバイスを製造するインライン式成膜装置を例にして説明する。以下の説明における成膜方法は真空蒸着法とするが、成膜方法としてスパッタリング法など別の方法を採用してもよい。本発明に適用される基板としては、ガラスの他、シリコン等を用いる半導体、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選ぶことができる。なお、基板上に複数の層を形成する場合、一つ前の工程までに既に形成されている層も含めて「基板」と称する。以下で説明する装置の構成要素について、同一もしくは対応する部材を複数有する場合には、図面中にa、bなどの添え字を付与して示す。ただし、複数の部材を区別する必要がない場合には、添え字を省略して記述する。
【0013】
本発明は、基板に蒸着材料を蒸着させる蒸着装置もしくはそれを用いた蒸着方法、または、基板に材料を堆積させて膜を形成する成膜装置もしくはそれを用いた成膜方法として捉えることができる。本発明はまた、基板に成膜を行うことで電子デバイスを製造する、電子デバイスの製造装置や製造方法として捉えることができる。本発明はまた、上記の各
種装置を制御する制御方法として捉えることができる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0014】
[実施例1]
(成膜装置の構成)
図1は、本実施例に係る、有機ELディスプレイを製造するインライン式の成膜装置300の模式的な構成図である。有機ELディスプレイは、一般的に、回路素子を形成する回路素子形成工程と、基板上に有機発光素子を形成する有機発光素子形成工程と、形成した有機発光層上に保護層を形成する封止工程と、を経て製造される。本実施例に係る成膜装置300は有機発光素子形成工程を主に行う。
【0015】
成膜装置300は、概略、マスク搬入室90と、アライメント室100と、複数の成膜室110a、110bと、反転室111a、111bと、搬送室112と、マスク分離室113と、基板分離室114と、キャリア搬送室115と、マスク搬送室116と、基板搬入室117と、を有する。
【0016】
成膜装置300はさらに、基板キャリア9を搬送する搬送手段(後述)を有する。基板キャリア9は、成膜装置300の有する各チャンバ内を通る所定の搬送経路に沿って搬送される。具体的には、基板キャリア9は、基板搬入室117、反転室111a、マスク搬入室90、アライメント室100、複数の成膜室110a、110b、搬送室112、マスク分離室113、反転室111b、基板分離室114、キャリア搬送室115、の順に搬送され、再度、基板搬入室117に戻る。
【0017】
一方、マスク6は、マスク搬入室90、アライメント室100、複数の成膜室110a、110b、搬送室112、マスク分離室113、マスク搬送室116、の順に搬送され、再度、マスク搬入室90に戻る。このように、基板キャリア9とマスク6は、それぞれ所定の搬送経路に沿って循環して搬送される。以下、各チャンバについて説明する。
【0018】
未成膜の基板5は、まず基板搬入室117に搬入され、基板キャリア9に取り付けられる。具体的には、基板5は、被成膜面が鉛直方向上を向いた状態で基板搬入室117に搬入される。基板搬入室117内では、基板キャリア9が保持面が鉛直方向上を向いた状態で配置されている。基板搬入室117に搬入された基板5は、基板キャリア9の保持面の上に載置され、基板キャリア9によって保持される。
【0019】
基板5を保持する基板キャリア9は反転室111aに移動する。ここで、反転室111a、111bには基板キャリア9の基板保持面の向きを鉛直方向上向きから鉛直方向下向きに、または、鉛直方向下向きから鉛直方向上向きに反転させる反転機構120a、120bが備えられている。反転機構120a、120bとしては、基板キャリア9を把持等して姿勢(向き)を変化させることができる既知の機構を適宜採用してよい。反転機構120aが作動することで、基板キャリア9が基板5ごと反転され、基板5の被成膜面が鉛直方向下を向いた状態になる。
【0020】
一方、後述する基板5への成膜完了後に、基板キャリア9がマスク分離室113から反転室111bに搬入される際には、基板5の被成膜面が鉛直方向下を向いた状態で搬入されてくる。そこで反転機構120bは、基板キャリア9を基板5ごと反転して、基板5の被成膜面が鉛直方向上を向いた状態とする。
【0021】
なお、本発明は、本実施例のようなデポアップの構成(成膜時に基板5の被成膜面が鉛
直方向下側を向くような構成)に限られない。デポダウンの構成(成膜時に基板5の被成膜面が鉛直方向上方を向くような構成)や、サイドデポの構成(成膜時に基板5が垂直に立てられる構成)でもよい。本発明は、基板キャリア9をマスク6に載置する構成や、マスク6を基板キャリア9に載置する構成だけでなく、基板キャリア9とマスク6を積層する構成であれば適用可能である。
【0022】
反転室111aにおける反転を経て、基板キャリア9はマスク搬入室90に搬入される。それに合わせて、マスク6もマスク搬入室90に搬入される。そして、基板5を保持する基板キャリア9と、マスク6とは、アライメント室100に搬入される。アライメント室100は、マスク6と基板キャリア9との合体が行われる合体室とも呼べる。ここでの基板キャリア9とマスク6の組み合わせや、マスク6の運搬および保管方法については後述する。
【0023】
アライメント室100には、アライメント装置1が搭載されている。アライメント装置1は、基板キャリア9(およびそれが保持する基板5)と、マスク6とを位置合わせし、マスク6に基板キャリア9(基板5)を載置する。アライメント装置1はその後、基板キャリア9が載置されたマスク6を搬送ローラ15に受け渡し、次工程に向けて搬送を開始する。図2図3に示すように、搬送手段としての搬送ローラ15は、搬送経路の両脇に搬送方向に沿って複数配置されており、それぞれ不図示のACサーボモータの駆動力により回転することで、基板キャリア9やマスク6を搬送する。なお、アライメント室100と成膜室110aの間や、成膜室110aと成膜室110bの間に、基板キャリア9の速度を調整する速度調整室を設けてもよい。速度調整により、成膜室110において複数の基板キャリア9が所定の間隔を空けて搬送される。
【0024】
成膜室110には、鉛直方向上に向けて蒸着材料を放出する蒸発源7が配置されている。成膜室110に、基板キャリアに保持されつつ、被成膜面が鉛直方向下を向いた状態で搬入されてきた基板5が蒸発源7上を通過することで、マスク6によって遮られる個所以外の被成膜面が成膜される。成膜室110のチャンバ内部は、真空ポンプや室圧計を備えた室圧制御部(不図示)により内圧を調整され、成膜空間が形成される。蒸発源7は、蒸着材料を収容する坩堝などの材料収容部と、蒸着材料を加熱するシースヒータなどの加熱手段を備える。なお蒸発源7は、基板キャリア9(基板5)およびマスク6と略平行な平面内で材料収容部を移動させる機構や、蒸発源全体を移動させる機構を備えていてもよい。これにより、蒸着材料を射出する射出口の位置をチャンバ4内で基板5に対して相対的に変位させ、基板5上への成膜を均一化できる。
【0025】
成膜室110での成膜完了後、基板キャリア9とマスク6は、マスク分離室113に到達し、マスク分離室113にて互いに分離される。マスク分離室113は、基板キャリア9とマスク6とが離間される離間室とも呼べる。基板キャリア9から分離したマスク6は、マスク搬送室116へ搬送され、新たな基板5の成膜工程に回される。後述するが、本実施例のマスク搬送室116にはマスク保管装置310が配置されており、成膜装置内を循環する複数のマスク6の保管や、基板キャリア9に応じたマスクの選択的搬出を行う。マスク搬送室116は、マスクを保管する機能に着目するとマスク保管室とも呼べる。あるいは、マスク搬送室116は、マスクが待機する待機室とも呼べる。
【0026】
一方、基板5を保持した基板キャリア9は、マスク6との分離後に反転室111bで上下反転され、基板分離室114へ搬送される。基板分離室114において、成膜が完了した基板5が基板キャリア9から分離され、成膜装置300から搬出される。基板キャリア9は、キャリア搬送室115を経て基板搬入室117に搬送され、新たな基板5の保持に用いられる。
【0027】
(基板キャリア)
基板キャリア9の構成を説明する。図4(a)は、基板キャリア9の模式的平面図である。図4(b)は図4(a)のA矢視断面図であり、基板保持面が上方(紙面手前方向)を向いた状態を示す。基板キャリア9は、平面視で略矩形の平板状の構造体である。
【0028】
基板キャリア9の搬送時には、基板キャリア9の四辺のうち、搬送方向に沿った、対向する二辺が、搬送ローラ15によって支持される。搬送ローラ15は、基板キャリア9の搬送経路の両側に複数配置された搬送回転体により構成される。搬送ローラ15が回転することにより、基板キャリア9が搬送方向においてガイドされながら移動する。
【0029】
基板キャリア9は、矩形の平板状部材であるキャリア面板30と、複数のチャック部材32と、複数の支持体33と、を有する。基板キャリア9は、キャリア面板30の保持面31に基板5を保持する。図中には便宜的に、基板5が保持されたときに基板5の外縁に対応する破線が示されている。破線の内側の領域を基板保持部、外側の領域を外周部とも呼ぶ。基板保持部と外周部は便宜的に規定されるものであり、両者の間に構造の差異がなくてもよい。
【0030】
チャック部材32は、基板5をチャックするチャック面を有する突起である。本実施例でのチャック面は、粘着性の部材(PSC:Physical Sticky Chucking)によって構成された粘着面であり、物理的な粘着力、あるいは、物理的な吸着力(adsorption)によって基板5を保持する。複数のチャック部材32のそれぞれによって基板5をチャックすることで、基板5がキャリア面板30の保持面31に沿って保持される。複数のチャック部材32はそれぞれ、チャック面がキャリア面板30の保持面31から所定の距離だけ飛び出た状態に配置されている。
【0031】
チャック部材32は、マスク6の形状に応じて配置されることが好ましく、マスク6の基板5の被成膜領域を区画するための境界部(桟の部分)に対応して配置されていることがより好ましい。これにより、チャック部材32が基板5と接触することによる基板5の成膜エリアの温度分布への影響を抑制できる。また、チャック部材32は、ディスプレイのアクティブエリアの外に配置されることが好ましい。これは、チャック部材32による吸着による応力が基板5を歪ませる懸念、あるいは成膜時の温度分布に影響を及ぼす懸念があるためである。
【0032】
後述するように、基板5を保持するキャリア面板30の保持面31が下方を向くよう基板キャリア9が反転され、マスク6上に載置される際に、支持体33がマスク6に対して基板キャリア9を支持する。いくつかの実施形態では、支持体33がキャリア面板30の保持面31から突出した凸部として構成されているものの、反転後には基板5の全体がマスク6に密着している。別の実施形態では、少なくとも支持体33の近傍においては、基板キャリア9に保持された基板5と、マスク6とが離間するように、支持体33が基板キャリア9を支持する。
【0033】
(アライメント装置)
図2は、成膜装置300のアライメントのための構成を示す模式的な断面図であり、図1のBB矢視に対応する。アライメント装置1は、アライメント室100に配置され、基板キャリア9に保持された基板5と、マスク6との相対位置合わせを行う。
【0034】
アライメント装置1は、内部を真空雰囲気や不活性ガス雰囲気に維持されるチャンバ4を備える。チャンバ4は、上部隔壁4a、側壁4b、底壁4cを有している。上部隔壁4aの上には、基板キャリア9を駆動してマスク6との位置を相対的に合わせる位置合わせ機構60(位置合わせ部)が配置されている。可動部を多く含む位置合わせ機構60をチ
ャンバ外に配置することで、チャンバ内での発塵を抑制できる。アライメント装置1はさらに、基板キャリア9を保持するキャリア支持部8と、マスク6を保持するマスク受け台16と、搬送ローラ15と、を有している。
【0035】
位置合わせ機構60は、基板キャリア9(基板5)とマスク6の相対的な位置関係を変化させたり安定的に保持したりする。位置合わせ機構60は、面内移動手段11と、Z昇降ベース13と、Z昇降スライダ10を含む。面内移動手段11は、チャンバ4の上部隔壁4aに接続され、Z昇降ベース13をXYθ方向に駆動する。Z昇降ベース13は、面内移動手段11に接続され、基板キャリア9がZ方向に移動するときのベースとなる。Z昇降スライダ10は、Zガイド18(18a~18d)に沿ってZ方向に移動可能な部材である。Z昇降スライダは、キャリア保持シャフト12を介してキャリア支持部8に接続されている。
【0036】
基板キャリア9(基板5)を基板5に平行な平面内でXYθ移動させるときには、Z昇降ベース13、Z昇降スライダ10およびキャリア保持シャフト12が一体として駆動し、キャリア支持部8に駆動力を伝達する。そのための面内移動手段11としては例えば、互いに異なる方向に駆動力を発生させる複数の駆動ユニットを用いることができる。各駆動ユニットが移動量に応じた駆動力を発生させることにより、Z昇降ベース13のXYθ方向における位置を制御可能である。
【0037】
また、基板キャリア9(基板5)をZ移動させるときには、Z昇降スライダ10がZ昇降ベース13に対してZ方向に駆動する。このとき、駆動力は、キャリア保持シャフト12(12a~12d)を介してキャリア支持部8に伝達される。このようにZ昇降スライダ等が距離変化手段として機能することにより、基板キャリア9とマスク6の相対距離が変化する。
【0038】
なお、本実施例のように位置合わせ機構60が基板5を移動させる構成には限定されず、位置合わせ機構60がマスク6を移動させてもよいし、基板5とマスク6の両方を移動させてもよい。すなわち、位置合わせ機構60は基板5およびマスク6の少なくとも一方を移動させることにより、基板5とマスク6の相対的な位置を合わせる機構である。
【0039】
図3は、アライメント装置1の一形態を示す斜視図である。マスク受け台16は、マスク台ベース19上に載置された昇降台ガイド34に沿って上下に昇降する。また、マスク6の搬送方向に沿った辺の下部には搬送ローラ15が載置されており、マスク6はマスク受け台16が下降することによって搬送ローラ15に受け渡される。例えば有機ELディスプレイの製造に用いられるマスクは、成膜パターンに応じた開口を有するマスク箔6bが高剛性のマスクフレーム6aに架張された状態で固定された構成を有している。この構成により、マスク受け部はマスク箔6bの撓みを低減した状態で保持することができる。
【0040】
キャリア保持シャフト12は、チャンバ4の上部隔壁4aに設けられた貫通孔を通って、チャンバ4の外部と内部にわたって設けられている。キャリア保持シャフト12の下部にはキャリア支持部8が設けられ、基板キャリア9を介して基板5を保持可能となっている。キャリア保持シャフト12のうち貫通孔からZ昇降スライダ10への固定部分までの区間(貫通孔より上方の部分)は、Z昇降スライダ10と上部隔壁4aとに固定されたベローズ40によって覆われる。これにより、キャリア保持シャフト12全体を成膜空間2と同じ真空状態に維持できる。
【0041】
Z昇降ベース13の側面には、Z昇降スライダ10を鉛直Z方向に案内するための4本のZガイド18a~18dが固定されている。Z昇降スライダ中央に配置されたボールネジ27は、Z昇降ベース13に固定されたモータ26から伝達される駆動力をZ昇降スラ
イダ10に伝達する。モータ26が内蔵する不図示の回転エンコーダの回転数により、Z昇降スライダ10のZ方向位置が計測可能である。なお、Z昇降スライダ10の昇降機構は、ボールネジ27と回転エンコーダに限定されるものではなく、リニアモータとリニアエンコーダの組み合わせなど、任意の機構を採用することができる。
【0042】
アライメント装置1による各種の動作(面内移動手段11によるアライメント、Z昇降スライダ10の昇降、キャリア支持部8による基板保持、蒸発源7による蒸着など)は、制御部70によって制御される。制御部70は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部70の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部70の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、成膜装置300のチャンバごとに制御部70が設けられていてもよいし、1つの制御部70が複数のチャンバあるいは成膜装置全体を制御してもよい。記録部71は、制御部70が情報を記録し、読み出すためのメモリである。記録部71として制御部70内蔵メモリを用いてもよい。
【0043】
アライメント時に基板5とマスク6との位置を検出するために、撮像装置14(14a~14d)が用いられる。チャンバ4の上部隔壁4aの外側には、マスク6上のアライメントマークおよび基板5上のアライメントマークの位置を取得するための撮像装置14が配置されている。上部隔壁4aには、撮像装置14がチャンバ内部を撮像できるように、撮像装置14のカメラ光軸上に撮像用貫通孔が設けられている。撮像用貫通孔には、チャンバ内部の気圧を維持するために窓ガラス17(17a~17d)がはめ込まれる。
【0044】
(基板とマスクの取り付け)
図5は、基板5を基板キャリア9に取り付け、その基板キャリア9を反転してマスク6へ載置するまでの様子を示す模式的断面図である。基板キャリア9のキャリア面板30は、金属等で構成された板状部材であり、保持面31により基板5を保持する。キャリア面板30は、ある程度の剛性(少なくとも基板5よりも高い剛性)を有しており、基板5を保持面31に沿って保持することで、基板5の撓みを抑制する。図5(a)は基板搬入室117において、保持面31が上方を向いた基板キャリア9の上に、基板5が載置される様子を示す。
【0045】
反転室111aにおいて、基板キャリア9が基板5ごと上下反転されることにより、図5(b)の状態から図5(c)の状態になる。基板キャリア9は、保持面31が下方を向く姿勢となり、基板5は、チャック部材32の保持力によって保持面31に下方から張り付き、被成膜面が下方を向く状態となる。そして、図5(c)の状態で、基板キャリア9がアライメント室100に搬入され、マスク6の上方に移動する。
【0046】
その後、図5(d)に示すように、基板キャリア9がマスク6上に載置される。複数の支持体33が、キャリア面板30の外周部に、保持面31及びチャック部材32よりも突出して配置されている。支持体33は、基板5が基板キャリア9に保持された状態で、基板5よりもマスク6側に突出するように設けられている。基板キャリア9は、支持体33を介してマスクフレーム6aの外周フレーム上に、アライメント動作を経て着座する。この時、基板5の全部がマスク6と接触している。このような構成により、成膜時にマスクと基板の間への材料の回り込みが低減できる。
【0047】
別の実施形態では、図5(e)に示すように、基板キャリア9が支持体33を介してマスクフレーム6aの外周フレーム上に着座した時、少なくとも支持体33の近傍では、基
板5とマスク6が離間する。このような構成により、アライメントの精度を向上させることができる。ここでの「近傍」とは、基板5の一部がマスク6と接触しているときに、基板5の接触している部分よりも支持体33に近い基板5のいずれかの部分を指す。図5(e)では、基板5の全体がマスク6と離間している。この場合、当然に支持体33の近傍でも基板5とマスク6とが離間している。なお、基板5の撓みによって、基板5の一部がマスク6と接触してもよいし、あるいは、基板5の全部がマスク6と接触してもよい。
【0048】
基板キャリア9は、さらに、保持した基板5を介してマスク6を磁力によって引き付けるための磁力発生手段(不図示)を有してよい。磁力発生手段としては、永久磁石や電磁石、永電磁石を備えた磁石プレートを用いることができる。また、磁力発生手段は、キャリア面板30に対して相対移動可能に設けられていてもよい。より具体的には、磁力発生手段は、キャリア面板30との間の距離を変更可能に設けられてもよい。
【0049】
なお、基板キャリア9が基板5を保持するための構成はチャック部材32に限定されない。例えば、反転時において構造的に基板5を下方から支持する支持部を備えた基板キャリア9を用いてもよい。あるいは、キャリア面板30の内部に設けられた電極への電圧印加により生成される静電気力によって基板5を保持する、静電チャックを用いてもよい。また、基板5とマスク6を共に挟持するクランプ機構を用いてもよい。
【0050】
(マスクの構成)
図6(b)に示すように、マスク6は枠状のマスクフレーム6aに数μm~数十μm程度の厚さのマスク箔6bが溶接固定された構造を有する。マスクフレーム6aは、マスク箔6bが撓まないように、マスク箔6bをその面方向に引っ張った状態で支持する。マスク箔6bは、基板の被成膜領域を区画するための境界部を含む。マスク箔6bの有する境界部は基板5にマスク6を装着したときに基板5に密着し、成膜材料を遮蔽する。なお、マスク6はマスク箔6bが境界部のみを有するオープンマスクであってもよいし、境界部以外の部分、すなわち基板の被成膜領域に対応する部分に、画素または副画素に対応する微細な開口が形成されたファインマスクであってもよい。基板5としてガラス基板またはガラス基板上にポリイミド等の樹脂製のフィルムが形成された基板を用いる場合、マスクフレーム6aおよびマスク箔6bの主要な材料としては、鉄合金を用いることができ、ニッケルを含む鉄合金を用いることが好ましい。
【0051】
(アライメント)
図6(a)~図6(c)を参照して、撮像装置14を用いて基板マーク37とマスクマーク38の位置を計測する方法を説明する。図6(a)は、キャリア支持部8に保持されている状態のキャリア面板30上の基板5を上から見た図である。説明のため、キャリア面板30は点線で、透過されたように図示する。基板5の四隅には、基板マーク37a~37dが形成されている。撮像装置14a~14dは基板マーク37a~37dを同時計測する。制御部70は、各基板マーク37a~37dの中心位置4点の位置関係から、基板5のX方向移動量、Y方向移動量、回転量を算出することにより、基板5の位置情報を取得できる。
【0052】
図6(b)は、マスクフレーム6aを上面から見た図であり、四隅にマスクマーク38a~38dが形成されている。撮像装置14a~14dがマスクマーク38a~38dを同時計測する。制御部70は、各マスクマーク38a~38dの中心位置4点の位置関係からマスク6のX方向移動量、Y方向移動量、回転量などを算出することにより、マスク6の位置情報を取得できる。
【0053】
図6(c)は、マスクマーク38および基板マーク37の4つの組の中の1組を、撮像装置14によって計測した際の、撮像画像の視野44を模式的に示した図である。この例
では、撮像装置14の視野44内において、基板マーク37とマスクマーク38が同時に計測されているので、マーク中心同士の相対的な位置を測定することが可能である。なお、マスクマーク38および基板マーク37の形状は図示例に限られないが、中心位置を算出しやすく対称性を有する形状が好ましい。
【0054】
精度の高いアライメントが求められる場合、撮像装置14として数μmのオーダーの高解像度を有する高倍率CCDカメラが用いられる。このような高倍率CCDカメラは、視野の径が数mmと狭いため、基板キャリア9をキャリア受け爪に載置した際の位置ズレが大きいと、基板マーク37が視野から外れてしまい、計測不可能となる。そこで、撮像装置14として、高倍率CCDカメラと併せて広い視野をもつ低倍率CCDカメラを併設するのが好ましい。その場合、二段階アライメントを行ってもよい。すなわち、マスクマーク38と基板マーク37が同時に高倍率CCDカメラの視野に収まるよう、低倍率CCDカメラを用いて大まかなアライメント(ラフアライメント)を行った後、高倍率CCDカメラを用いてマスクマーク38と基板マーク37の位置計測を行い、高精度なアライメント(ファインアライメント)を行う。
【0055】
撮像装置14によって取得したマスクフレーム6aの位置情報および基板5の位置情報から、マスクフレーム6aと基板5との相対位置情報を取得することができる。この相対位置情報を、アライメント装置の制御部70にフィードバックし、昇降スライダ10、面内移動手段11、キャリア支持部8など、それぞれの駆動部の駆動量を制御する。
【0056】
かかる撮像装置14の撮像画像を用いて、アライメント装置1は、基板キャリア9上の基板5とマスク6とをアライメントし、基板キャリア9(基板5)をマスク6上に載置する。その際まず、チャンバ4内に基板キャリア9が搬入され、キャリア支持部8の両側のキャリア受け爪上に載置される。
【0057】
続いて、基板キャリア9を下降させ、アライメント高さまで移動させる。そして撮像装置14が撮像を行い、基板マーク37とマスクマーク38の位置情報を取得する。制御部70は、基板マーク37とマスクマーク38が所定の位置関係の範囲内に接近するまで、基板キャリア9の面内移動と、撮像とを繰り返す。制御部70は、アライメントマークの撮像画像に基づき、基板5とマスク6の位置ずれ量が所定の閾値以下となった場合に、アライメント完了と判断する。そして、制御部は、基板キャリア9をマスク6に載置する。
【0058】
(基板キャリアとマスクの位置ずれ)
ここで、基板キャリア9(基板5)とマスク6の組み合わせがアライメント精度に与える影響を説明する。図7(a)~図7(c)は、アライメント装置1の内部において、マスク6の上に基板キャリア9(基板5)を載置する様子を示す模式図である。便宜上、図面を簡略化するために、キャリア支持部8や、基板キャリア9のチャック部材32や支持体33などは省略している。
【0059】
図7(a)は、基板キャリア9により保持された基板5をマスク6と位置合わせするときの断面図であり、制御部70が、キャリア支持部8により基板キャリア9をZ方向におけるアライメント高さに移動させた状態を示す。制御部70は、面内移動手段11により基板キャリア9を移動させて、撮像装置14の視野44において基板マーク37とマスクマーク38を所定の位置関係とすることで、図7(b)の平面図に示すように基板5をマスク6に位置合わせする。
【0060】
続いて制御部70は、Z昇降スライダ10を制御して基板キャリア9を下降させて、マスク6に載置する。しかしこの例においては、図7(c)に示すように、載置のときに基板キャリア9とマスク6の位置ずれが発生し、基板キャリア9が矢印Aの方向にずれてし
まう。この位置ずれが許容範囲を超えた場合、基板キャリア9を再度上昇させてから面内移動手段11による面内移動を行う必要があり、成膜に要する時間が長くなってしまう。あるいは、位置ずれの結果としてアライメント精度が低下し、成膜の品質が低下するおそれがある。
【0061】
このような位置ずれは、主として基板キャリア9とマスク6それぞれの加工精度の限界に由来する個体差が原因となって発生する。したがって、位置ずれ量は、基板キャリア9とマスク6の組み合わせごとに変化する。しかし従来の成膜方法によれば、ある基板5の成膜に利用される基板キャリア9とマスク6の組み合わせは一定ではなかったため、基板5ごとにランダムな位置ずれが発生していた。そこで以下に、本願発明者らの検討にかかる、基板キャリア9とマスク6を合体するときの、上記個体差に起因する位置ずれを低減する方法を説明する。
【0062】
(マスク保管と運搬)
図8は、本実施例の成膜装置300が備えるチャンバの一つであるマスク搬送室116に配置される、マスク保管装置310の構成を示す断面図である。
【0063】
マスク保管装置310は概略、筐体311の内部にマスクストッカ312(カセットとも呼ぶ)が配置されて構成される。駆動機構314および直動機構315は、マスクストッカ312の昇降機構(昇降手段)である。すなわちマスクストッカ312は、制御部70の指示に従って駆動機構314が動作することにより、ボールねじ等を備える直動機構315に沿って上下方向に移動する。図示例のマスクストッカ312は、複数組の搬送保持機構313により、複数のマスク6を上下方向に並べた状態で保持できる。マスクストッカ312がマスク6を保持する位置をスロットとも呼び、図示例のマスクストッカ312は、上下方向にスロットを複数有する(この例では8個)。マスクストッカ312のスロットは、保管中のマスクを支持するマスク支持部とも呼べる。
【0064】
マスク分離室113において基板キャリア9から分離されたマスク6が、搬送ローラ15によりマスク搬送室116に搬送されてくると、制御部70は、マスク6が保持されていない空きスロットを調べる。制御部70が空きスロットを調べる方法として例えば、予め全ての基板キャリア9の位置を常時記録しておき、それを参照してもよい。あるいは、スロットごとに重量センサや光学センサ、接触センサ等のセンサを設けてもよい。そして制御部70は、空きスロットの高さが搬送ローラ15によるマスク6の搬送高さに一致するように、駆動機構314を制御してマスクストッカ312の高さを変える。これにより、マスク6が、搬送ローラ15から空きスロットの搬送保持機構313に受け渡される。
【0065】
マスク保管装置310が保管するマスク6の一つを次の成膜工程で用いる場合、マスク搬送室116からマスク搬入室90にマスク6を受け渡す。この場合、制御部70が、マスクストッカ312に保持される複数のマスク6の中からマスク6を選択する。そして、選択されたマスク6が保持されているスロットをマスク搬入室90の搬送ローラ15の高さに合わせるように、駆動機構314を制御する。そして搬送保持機構313が選択されたマスク6を搬出する。
【0066】
このように、マスク搬送室116に複数のマスク6を保持可能なマスク保管装置310を配置することにより、インライン式の成膜装置においてマスク6を一時的に保管することが可能になる。その結果、マスク6の循環が停滞することを防止できる。さらに、複数のマスク6の中から任意のマスク6を選択的に搬出することが可能になる。したがって、基板キャリア9に応じたマスクの利用が可能になる。なお、マスク6の保持や受け渡しに用いる機構は、図示例に限定されない。例えばマスク6を保持するスロットの配列方向は上下方向(鉛直方向)でなくてもよいし、マスク6の受け渡しにロボットハンド等の移動
手段を用いてもよい。
【0067】
(組み合わせの例)
マスク保管装置310を用いた基板キャリア9とマスク6の組み合わせ制御例について説明する。図9は、縦軸に示す各々の基板搬入タイミングでの、成膜装置300の各チャンバにおける基板キャリア9、基板5およびマスク6の組み合わせを示す。図中、基板5は、成膜装置300に搬入される順に(S1,S2,S3…)と示す。また、搬送経路内を循環する基板キャリア9は、(C1,C2,C3…)と符号を付して区別する。また、同様に搬送経路内を循環するマスク6は、(M1,M2,M3…)と符号を付して区別する。
【0068】
1枚目の基板S1が搬入されると、基板搬入室117において1つ目の基板キャリアC1に保持される(丸数字1)。その後、マスク搬入室90において1つ目のマスクM1に取り付けられる(丸数字2)。その後、アライメントと成膜を経て、マスク分離室113にてマスクM1が分離され、マスク搬送室116内のマスク保管装置310に保持される(丸数字3)。一方、基板キャリアC1は基板分離室114で基板S1を分離したのち、再び基板搬入室117に移動し、11枚目の基板S11を保持する(丸数字5)。
【0069】
上述したように、本実施例では基板キャリア9とマスク6を特定の組み合わせとする。そこで、基板キャリアC1にマスクM1を組み合わせるために、基板キャリアC1がマスク搬入室90に入るタイミング(丸数字6)に合わせて、制御部70がマスク搬送室116からマスク搬入室90にマスクM1を移動させる。ここで、基板S11に組み合わされる基板キャリアとマスクの組み合わせは、前回の成膜完了後にマスクが取り外される前の組み合わせと同一である。このとき、マスク搬送室116にはマスクM2~M5が保管された状態となる(丸数字7)。他の基板搬入時にも同様の処理を行うことで、特定の基板キャリア9と特定のマスク6の組み合わせが実現される。
【0070】
(組み合わせに応じた位置合わせ)
基板キャリア9とマスク6の組み合わせに応じた制御をするために、制御部70は予め、載置時の位置ずれ量(位置ずれの方向と距離)を計測し、メモリ(例えば記録部71)に記録しておく。その際、後述する基板キャリア識別情報や、マスク識別情報と紐付けて位置ずれ量を記録するとよい。また、基板キャリア9とマスク6の組み合わせごとに、基板キャリア識別情報とマスク識別情報を位置ずれ量に紐付けて記録してもよい。なお、位置ずれを打ち消すようなオフセット量を算出してメモリに保存しておいてもよい。例えば、アライメント時の基板マーク37とマスクマーク38の位置関係が、図7(b)に示すように所定の基準範囲内であり、載置後の位置関係が、図7(d)に示すように基準範囲外であった場合、マークの位置関係の変化に基づいて位置ずれ量を算出する。このような位置ずれの計測は、成膜装置300の設置時や定期検査時などのメンテナンスモードにおいて行ってもよい。
【0071】
そして制御部70は、実際の成膜時のアライメントにおいて、基板キャリア9を載置するよりも前のタイミングで、基板キャリア9とマスク6の組み合わせに応じた位置ずれの量をメモリから取得する。そして、面内移動手段11を用いて、位置ずれを打ち消すようなオフセット量の分だけ基板キャリア9を移動させておく。これにより合体時の位置ずれを補正できるため、アライメントに要する時間を短縮することができる。
【0072】
制御部70は、基板キャリア9を識別するための固有ID(基板キャリア識別情報)と、マスク6を識別するための固有ID(マスク識別情報)をメモリに保存して管理している。制御部70は、各基板キャリア9および各マスク6の初期位置と、搬送手段を用いた各基板キャリア9およびマスク6の移動情報に基づき、成膜装置内における基板キャリア
9やマスク6の位置を特定することができる。これにより、上述したような特定の基板キャリア9とマスク6の組み合わせ制御を実現できる。ただし位置特定方法はこれに限られず、例えば基板キャリア9やマスク6に無線タグを配置してもよいし、画像認識処理を行ってもよい。
【0073】
制御部70は、特定の基板キャリア9とマスク6の組み合わせについて、位置ずれ量を記録部71に記録しておくことが好ましい。その場合、制御部70は、アライメント室100における基板キャリア9とマスク6の組み合わせが、記録部71に位置ずれ量が記録されている組み合わせとなるように、マスク搬送室116からマスク6を搬出することができる。これにより、基板キャリア9とマスク6の組み合わせに応じて適切なオフセット量を設定できる。制御部70は、マスク分離室113で互いに離間された一組の基板キャリア9とマスク6とが、同一の組み合わせで、アライメント室100において再び積層または載置されるように、マスク搬送室116からマスク6を搬出することも好ましい。
【0074】
なお、制御部70は、マスク6と基板キャリア9の少なくとも一方の搬送を制御して、基板キャリア9とマスク6の組み合わせを制御してもよい。したがって制御部70は、装置内におけるマスク6の循環を一定とし、基板キャリア9の側の搬送をマスク6に合わせて制御してもよい。
【0075】
上述のように、本実施例では、マスク保管装置310を設けることによりマスク6の保管と運搬を管理し、基板キャリア9に取り付けるタイミングを調整することができる。その結果、特定の基板キャリア9とマスク6を組み合わせることができるため、アライメント時の位置ずれを考慮したオフセット処理が可能になり、処理時間の短縮やアライメント精度の向上が実現できる。
【0076】
[実施例2]
続いて、実施例2について説明する。実施例1と同じ部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0077】
図10は本実施例のインライン式の成膜装置300の模式的な構成図である。実施例1では、マスク保管装置310は、マスク6をマスク分離室113からマスク搬入室90に向かう経路上にあるマスク搬送室116の内部に配置されていた。一方、本実施例のマスク保管装置310は、マスクを搬送する経路に沿って、マスク搬送室116と互いに行き来可能に配置されている。かかる構成によれば、マスク搬送室116のチャンバの物理的構成や内部空間のサイズにとらわれず、多数のマスク6を保管できるようになる。
【0078】
[実施例3]
続いて、実施例3について説明する。実施例1および実施例2と同じ部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0079】
図11は本実施例のインライン式の成膜装置300の模式的な構成図である。マスク保管装置310は、実施例1では、マスク分離室113からマスク搬入室90に向かう経路上に配され、実施例2では、マスクを搬送する経路に沿って配されていた。一方、本実施例のマスク保管装置310は、マスク搬入室90に接続され、マスク搬入室90との間でマスク6を搬出入できる位置に配されている。かかる構成によれば、マスク搬送室116のチャンバの物理的構成や内部空間のサイズにとらわれず、多数のマスク6を保管できる。さらに、マスク保管装置310がマスク搬入室90に直結されているため、搬出入に要する時間を短縮できる。
【0080】
<電子デバイスの製造方法>
上記の基板処理装置を用いて、電子デバイスを製造する方法について説明する。ここでは、電子デバイスの一例として、有機EL表示装置のようなディスプレイ装置などに用いられる有機EL素子の場合を例にして説明する。なお、本発明に係る電子デバイスはこれに限定はされず、薄膜太陽電池や有機CMOSイメージセンサであってもよい。本実施例においては、上記の成膜方法を用いて、基板5上に有機膜を形成する工程を有する。また、基板5上に有機膜を形成させた後に、金属膜または金属酸化物膜を形成する工程を有する。このような工程により得られる有機EL表示装置600の構造について、以下に説明する。
【0081】
図12(a)は有機EL表示装置600の全体図、図12(b)は一つの画素の断面構造を表している。図12(a)に示すように、有機EL表示装置600の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本図の有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。また、各発光素子は複数の発光層が積層されて構成されていてもよい。
【0082】
また、画素62を同じ発光を示す複数の発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように複数の異なる色変換素子がパターン状に配置されたカラーフィルタを用いて、1つの画素が表示領域61において所望の色の表示を可能としてもよい。例えば、画素62を少なくとも3つの白色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、青色の各色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。あるいは、画素62を少なくとも3つの青色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、無色の各色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。後者の場合には、カラーフィルタを構成する材料として量子ドット(Quantum Dot:QD)材料を用いた量子ドットカラーフィルタ(QD-CF)を用いることで、量子ドットカラーフィルタを用いない通常の有機EL表示装置よりも表示色域を広くすることができる。
【0083】
図12(b)は、図12(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板5上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。なお、上述のようにカラーフィルタまたは量子ドットカラーフィルタを用いる場合には、各発光層の光出射側、すなわち、図12(b)の上部または下部にカラーフィルタまたは量子ドットカラーフィルタが配置されるが、図示は省略する。
【0084】
発光層66R,66G,66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R,62G,62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護
するための保護層Pが設けられている。
【0085】
次に、電子デバイスとしての有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板5を準備する。
【0086】
次に、第1電極64が形成された基板5の上にアクリル樹脂やポリイミド等の樹脂層をスピンコートで形成し、樹脂層をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0087】
次に、絶縁層69がパターニングされた基板5を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。ここで、本ステップでの成膜や、以下の各レイヤーの成膜において用いられる成膜装置は、上記各実施例のいずれかに記載された成膜装置である。
【0088】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板5を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板5の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0089】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。発光層66R、66G、66Bのそれぞれは単層であってもよいし、複数の異なる層が積層された層であってもよい。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。本実施例では、電子輸送層67、発光層66R、66G、66Bは真空蒸着により成膜される。
【0090】
続いて、電子輸送層67の上に第2電極68を成膜する。第2電極は真空蒸着によって形成してもよいし、スパッタリングによって形成してもよい。その後、第2電極68が形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層Pを成膜して(封止工程)、有機EL表示装置600が完成する。なお、ここでは保護層PをCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0091】
絶縁層69がパターニングされた基板5を成膜装置に搬入してから保護層Pの成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0092】
6:マスク、9:基板キャリア、90:マスク搬入室、100:アライメント室、110:成膜室、113:マスク分離室、300:成膜装置、310:マスク保管装置
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